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令和2(ネ)10005発信者情報開示請求控訴事件

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裁判所 一部認容 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年2月21日
事件種別 民事
当事者 被控訴人クラウドフレアインク
法令 著作権
キーワード 侵害8回
損害賠償5回
主文 1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,別紙発信者情報目録2記載の情報のう
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを4分し,その1を被控訴人
5 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
事件の概要 1 事案の概要 (1) 控訴人は,漫画である本件著作物の著作権者である。

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判決文

令和4年2月21日判決言渡
令和2年(ネ)第10005号 発信者情報開示請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成30年(ワ)第11982号)
口頭弁論終結日 令和4年1月24日
判 決
控訴人(一審原告) X
同訴訟代理人弁護士 中 島 博 之
被控訴人(一審被告) クラウドフレア インク
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,別紙発信者情報目録2記載の情報のう
ち「1 氏名又は名称」及び「2 住所」を開示せよ。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを4分し,その1を被控訴人
の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
5 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
用語の略称及び略称の意味は,原判決に従うものとする。また,原判決の引用部
分中,「被告サービス」を「被控訴人サービス」と読み替える。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,別紙発信者情報目録1及び2記載の各情報を開
示せよ。
3 訴訟費用は,第1審,第2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1) 控訴人は,漫画である本件著作物の著作権者である。
被控訴人は,アメリカ合衆国カリフォルニア州の法律に準拠して設立された会社
であり,利用者に対し,利用者のインターネットサイト(元サイト)上のデータを,
全世界に分散して存在する被控訴人のサーバーを用いてキャッシュとして保存し配
信するというコンテンツデリバリーネットワークサービス(被控訴人サービス)を
提供している。
(2) 本件は,控訴人が,被控訴人サービスの利用者が開設していた「漫画村」と
いう名称のウェブサイト(本件サイト)上に,本件著作物のアップロード(本件各
投稿)がされたことで,控訴人の著作権(公衆送信権及び送信可能化権)が侵害さ
れたとして,被控訴人に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づき,別紙
発信者情報目録1記載の情報(本件発信者情報1)及び同目録2記載の情報(本件
発信者情報2)の開示を請求する事案である。
(3) 原審は,本件発信者情報1については被控訴人が保有していると認められず,
また,本件発信者情報2について,電子メールアドレス,IPアドレス及びタイム
スタンプは被控訴人から控訴人に任意開示されており,そのことを含めて証拠上認
められる事情を踏まえると,控訴人は本件各投稿を行った者(本件発信者)を既に
特定して損害賠償請求等をすることが可能な状態にあるから,控訴人には本件発信
者情報2のいずれについてもその開示を受けるべき正当な理由がないとして,控訴
人の請求をいずれも棄却した。
原判決を不服として,控訴人が控訴を提起した。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり改め,後
記3のとおり当審における控訴人の補充主張を加えるほかは,原判決の「事実及び
理由」中の「第2 事案の概要」の2及び3並びに「第3 当事者の主張」に記載
するとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁3行目の「本件発信者は」から4行目末尾までを「本件各投稿が
された当時,被控訴人サービスを利用して,広く閲覧者において漫画を閲覧し得る
ウェブサイトとして公開されていた。(弁論の全趣旨)」と改め,その次に,改行
して次のとおり加える。
「(4) 被控訴人による任意開示
控訴人は,被控訴人に対し,平成30年4月16日,本件各発信者情報の開示を
求め,東京地方裁判所に本件訴えを提起した。
これを受けて,被控訴人は,控訴人に対し,同年8月7日付けで,本件サイトは
既に閉鎖されていることから本件発信者情報1は保有していない旨を連絡するとと
もに,本件発信者情報2の開示請求に対するものとして,電子メールアドレス,同
年7月25日までのIPアドレス及びこれに係るタイムスタンプ(以下,併せて「本
件ログ」という。)を開示した。(乙4,5)」
(2) 原判決3頁23行目の「接続されている」を「接続されていた」に改める。
3 当審における控訴人の補充主張
(1) 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)について
ア 本件各投稿は,平成30年2月21日及び同月25日にされたものであると
ころ,原判決が引用する証拠(乙9~17)から本件サイト上での著作権法違反の
罪で逮捕・起訴されたことが分かる4名(以下,併せて「本件関係者ら」という。)
は,平成29年5月11日頃に漫画「キングダム」の,同月29日頃に漫画「ワン
ピース」の画像ファイルを本件サイトのサーバーに保存・投稿したことについて逮
捕等されたもので,本件関係者らがそれ以降も本件サイトの運営に関わっていたの
か等は不明であり,この点は,その後の刑事裁判でも明らかとなっていない。
イ 本件サイト上の大規模な著作権侵害には10名以上の人物が関わっていると
されており,その全容は解明されていない(乙10)。本件サイトに関し,誰が被
控訴人サービスにログインしていたかも不明である。
ウ 原判決は,控訴人代理人が本件サイトの運営者と思われる男性を特定したと
発言している旨を認定するが,控訴人代理人が過去にした発言は,時期は不明であ
るものの本件サイトの運営に関与していた可能性がある人物が分かったという趣旨
のものにすぎず,本件発信者を特定したという趣旨のものではない。
すなわち,控訴人は,被控訴人から,本件ログの開示(ただし,電子メールは本
件ログ中に事実上記載されていたもので,被控訴人サービスにアカウント登録され
ているものの情報として開示されたわけではなかった。)を受けたが,本件ログ中
に氏名や住所の記載はなく,開示されたIPアドレスは海外の通信に偽装されたも
ので,電子メールアドレスも海外ドメインのものであったため,それらから直ちに
本件発信者を特定することができなかった。ただ,控訴人代理人において,当該電
子メールアドレスをヒントに,公開されている海外のビッグデータ等の調査を行っ
たところ,たまたま,別のインターネットサイトのドメイン登録者の数年前に登録
されていた情報に記載されていた電話番号を発見し,そこから独自調査を行って,
本件関係者らのうち1名の名前にたどり着くことができた。その後,平成30年1
0月9日頃,別の弁護士がアメリカで手続を行ったところ本件サイトの運営者の氏
名や住所が分かった旨が発表されるなどし,上記の事情を秘匿しておく意味がなく
なったことを受けて,控訴人代理人は,本件サイトの運営に上記の1名が関わって
いるのではないかとの調査結果を発表し,それが本件サイトの運営者と思われる人
物の「特定」として報道されたにすぎない。控訴人代理人は,時期は不明であるが,
上記の1名が本件サイトの運営に関わっていた可能性がある程度のことしかメディ
アには伝えておらず,その者が本件各投稿の時点まで運営に関わっていたのかも不
明であり,控訴人代理人において本件発信者を特定したわけではなく,ましてや,
本件ログから本件発信者は何ら特定されていない。
エ 控訴人代理人は,福岡県警察の捜査本部に本件ログや調査結果を提出し,や
り取りをしていたところ,平成31年2月8日,福岡県警察本部サイバー犯罪対策
課から,告訴状を提出してほしい旨の要請を受けたが,告訴状文案中には,被告訴
人については「氏名不詳者」で記載されたい旨の記載があった。そこで,控訴人代
理人が問い合わせたところ,海外の通信や複数の海外サーバーを使った事案である
こと,本件ログの直近のIPアドレスも海外通信であるため,控訴人の著作権を侵
害した者は特定できていないとのことであったことから,控訴人は,氏名不詳者に
対し告訴を行った。このように,専門的な捜査機関が解析を行っても,本件ログや
控訴人の調査結果から本件発信者の特定を行うことはできなかったものである。
オ 以上のとおりであって,本件発信者が本件関係者らに含まれるのか,それ以
外の者であるのか等は全く不明である。
本件発信者が特定されていない以上,控訴人においては,被控訴人から,氏名及
び住所の開示を受ける正当性がある。
また,本件ログから本件発信者が特定されていない以上,控訴人においては,被
控訴人から,平成30年7月26日以降のIPアドレス,タイムスタンプ及び電子
メールアドレスの開示を受ける正当性がある。この点,侵害行為後のログインIP
アドレスについては,「権利の侵害に係る発信者情報」として開示が認められると
いうべきである。
(2) 被控訴人が本件発信者情報1を保有しているか(争点4)について
控訴人は,被控訴人に対し,平成30年5月9日付けで,本件各投稿に係るログ
の保全を要請しており,被控訴人は,大手通信会社として,利用者の広範なデータ
を保有していると思われる。
被害者である控訴人において,被控訴人が実際に情報を保有しているかどうかを
確認することはできず,原判決のように,被控訴人が保有していない旨を主張した
だけで発信者情報の開示が認められないとすることは,被害者の権利の回復という
プロバイダ責任制限法の趣旨を没却することとなり,許されない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求は,本件発信者情報2のうち氏名又は名称及び住所の
開示を請求する限度で理由があるものと判断する。その理由は,前記第2の3の当
審における控訴人の補充主張に対する判断を含め,次のとおりである。
1 争点1(国際裁判管轄の有無等)について
原判決8頁10行目の「元サイト」を「元サイトの内容」に,18行目の「利用
している」を「利用していた」に,同頁20行目の「可能であり」を「可能であっ
たもので」に,同頁21行目の「保存されている」を「保存されていた」に,同頁
24行目~25行目の「該当し」を「該当するとともに」に,同頁26行目の「利
用する」を「利用した」にそれぞれ改めるほかは,原判決の「事実及び理由」中の
「第4 当裁判所の判断」の1に記載するとおりであるから,これを引用する。
2 争点2(権利侵害の明白性)について
訂正して引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(2)及
び(3)の事実並びに証拠(甲5,6)によると,本件発信者は,本件著作物のデジタ
ル版の発売後すぐに,正当な理由なくして,本件各投稿をし,第三者が自由に本件
著作物を閲覧できる状態に置いたものと認められるから,本件発信者が控訴人の公
衆送信権及び送信可能化権を侵害したことは明白であるといえる。
3 争点4(被控訴人が本件発信者情報1を保有しているか)について
(1) 本件全証拠をもってしても,被控訴人が本件発信者情報1を保有していると
は認められない。訂正して引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の
概要」の2(4)(当審での追加部分)のとおり,被控訴人が平成30年8月7日付け
で本件発信者情報1については保有していない旨を控訴人に伝える一方で,本件ロ
グ(なお,弁論の全趣旨によると,本件ログは相応の量に上るものであったことが
認められる。)を任意で控訴人に開示したこと,そのとき以降,本件サイトの閉鎖
ゆえに本件発信者情報1は保有していないという旨の被控訴人の主張は一貫してい
ることのほか,被控訴人サービスの性質を考慮すると,上記理由により本件発信者
情報1を保有していないという被控訴人の主張が直ちに不合理なものであるとはい
えない。
これに対し,控訴人は,被控訴人に対し,平成30年5月9日付けで,本件各投
稿に係るログの保全を要請したことを主張するが,そのような事情があったとして
も,そのことから上記認定判断が直ちに左右されるものとはいえない。
(2) したがって,控訴人の請求のうち,本件発信者情報1の開示を求める部分は,
その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
4 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(1) 前記2の認定判断のほか,証拠(甲11,甲12の1・2,甲13,乙4,
5)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人サービスのアカウントを有して本件サイ
トを運営していた者が本件発信者であると推認することができ,この推認を覆すに
足りる事情は認められないことからすると,控訴人には,被控訴人に対し,本件発
信者に対する損害賠償請求等の権利行使のために,本件発信者情報2の開示を受け
るべき正当な理由があると認められる。
もっとも,訂正して引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」
の2(4)(当審での追加部分)並びに証拠(乙4,5)及び弁論の全趣旨によると,
本件ログは,別紙発信者情報目録2の3~5項の情報であると認められ,既に控訴
人に開示されているから,それらについては,控訴人から被控訴人に対して重ねて
開示を請求する正当な理由があるとはいえない。他方で,本件ログの開示によって
本件発信者が特定されたとは認められず,同開示は,控訴人に同目録2の1及び2
項の情報(氏名又は名称及び住所)の開示を受けるべき正当な理由があるとの判断
に影響を及ぼすものではない。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,同目録2の1及び2項の情報の限度で,
開示を請求する正当な理由を有するものというべきである。
(2) 被控訴人は,控訴人においては既に損害賠償請求等を行う相手方を特定して
いると主張する。
しかし,まず,前記のとおり,本件ログの開示によって控訴人が本件発信者を特
定したとの事情は認められない。むしろ,弁論の全趣旨によると,本件ログからは,
専門的な捜査機関によっても,本件発信者の特定には至らなかったことがうかがわ
れる。
この点,本件関係者らが逮捕され起訴されるなどしているといった事情(乙9~
17)については,本件サイトの運営者に関する一般的な事情又は本件各投稿とは
異なる行為による著作権法違反の事情に係るものにすぎず,本件発信者が本件関係
者らに含まれていることを具体的に基礎付けるものではない。
そして,控訴人代理人の発言に係る証拠(乙7,8)も,控訴人において本件発
信者を特定したという事実を認めるに足りるものではない。
また,そもそも,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報
の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令は,その1~8号にお
いて,プロバイダ責任制限法4条1項に規定する侵害情報の発信者の特定に資する
情報を列挙して定めているところ,上記各号に定める情報は,プロバイダ責任制限
法4条1項に定める他の要件が満たされる限り,類型的かつ一般的に,開示をする
ことが相当なものであるとして定められているものというべきであって,同項にい
う関係役務提供者において上記各号に定める情報のうち一部の情報を任意に選別し
て開示することにより,その余の情報の開示の必要性が直ちに失われるものとは解
されない(なお,プロバイダ責任制限法にも,上記省令にも,関係役務提供者にお
いて,上記各号に定める情報を必要な範囲で開示すれば足りるといった定めはもと
より存しない。)。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 控訴人は,本件ログから本件発信者が特定されていない以上,控訴人におい
ては,被控訴人から,平成30年7月26日以降にされたログインの際のIPアド
レスについても開示を受ける正当性があると主張するが,本件発信者情報目録2の
3~5項の情報である本件ログを被控訴人が既に控訴人に開示したにもかかわらず,
再度,控訴人が被控訴人に対し,本件各投稿から更に日時の経過した同日以降にさ
れたログインの際のIPアドレス等の情報の開示を請求する正当な理由があるもの
とはいえない。
5 争点5(開示関係役務提供者該当性)について
訂正して引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(2)及
び(3)の事実並びに前記2及び4(1)の認定判断からすると,被控訴人は,プロバイ
ダ責任制限法4条1項にいう開示関係役務提供者に当たるとみるのが相当である。
第4 結論
よって,控訴人の本訴請求は,被控訴人に対し,本件発信者情報2のうち氏名又
は名称及び住所の開示を求める限度で理由があり,その余は理由がないところ,こ
れと異なり,控訴人の本訴請求を全部棄却した原判決は失当であるから,上記の限
度で原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
中 島 朋 宏
裁判官
勝 又 来 未 子
別紙
発 信 者 情 報 目 録 1
別紙投稿記事目録記載の各投稿記事の投稿日時において,同目録記載の接続用
URL に接続し通信を行っていた電気通信設備を管理する者の下記情報

1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
4 IPアドレス
別紙
発 信 者 情 報 目 録 2
発信者情報目録
別紙投稿記事目録記載の各投稿記事に係る発信者の使用するアカウントに関す
る情報のうち次の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
4 上記アカウントにログインした際のIPアドレスのうち被控訴人が保有す
るものすべて
5 前項のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から被控訴人の用いる
特定電気通信設備に上記各投稿情報が送信された年月日及び時刻(日本標準
時)
別紙 投稿記事目録
接続用URL http://以下省略
1 投稿日時 2018/02/21 13:54:05
接続用URL http://以下省略
2 投稿日時 2018/02/21 13:54:05
接続用URL http://以下省略
3 投稿日時 2018/02/25 09:06:29

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