令和1(ワ)15345共同著作権に基づく利得配分等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年2月17日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告X 被告Y
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法令 |
著作権
民法656条2回
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キーワード |
損害賠償5回 侵害4回 実施1回 分割1回
|
主文 |
1 被告は、原告に対し、10万9046円及びこれに対する令和元年6月21日
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを100分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
1 被告は、原告に対し、1243万4118円及びこれに対する令和元年6月2
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
1 事案の概要
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(明記しない限り枝番号含む。)
3 争点に対する当事者の主張
85万2670円を請求する。
7万2000円を請求する。
12月から平成29年までの同人誌即売会用のポスターのデザインを有償で10
516万1119円20
38万0000円
336万9900円
83万6580円
27万5000円
58万6849円
2000円、ただし、原告が梱包及び発送作業も行う場合には3000円とする
1 争点1(本件同人誌販売に係る分配金)について
2010年の夏コミ、私のサークルにYさんが訪れて、言いました。
50円を支払った。その後、「V」の第2版の発行が決まったところ、原
21部が販売されたことについては、争いがない。原告は、33部であ10
3部が販売されたことについては、争いがない。原告は、合計販売部数
3日のコミックマーケットについて、ポストカードを割付けの基礎となる総10
00円程度であると認められ、同人誌に比べて安価であり、同人誌に付随す
0万9046円になる。
2 争点2(未刊の同人誌販売に係る分配金)について
20の1)
24年の年賀状には「今年も「L」、出来れば「M」を頑張って出しましょ
5月にゲスト作家それぞれと原告、被告の3名で打ち合わせを行った。原告
3 争点3(業務委託料等)について
5年12月から平成29年までの同人誌即売会用のポスターのデザインにつ15 |
事件の概要 |
1 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、①原告が被告と共同で製作した別紙作品目録(既
刊)の同人誌の売上げについて、被告が原告に分配金を支払わないとして、不当
利得又は共同著作権に対する侵害行為としての不法行為に基づく損害賠償とし
て、85万2670円、②別紙作品目録(未刊)の同人誌について、共同製作の
合意が成立していたにもかかわらず、被告の一方的な都合で販売に至らなかった5
ことによる債務不履行に基づく損害賠償として、97万2000円、③原告が、
同人誌製作のための執筆、編集等の作業を行ったこと、書店委託手続きを行った
こと、通信販売サイトの開設、運営作業を行ったこと、同人誌即売会で手伝いを
したこと、被告の個人的な依頼に基づきパソコンの初期設定等やインターネット
オークションへ代理入札をしたことなどに係る、契約に基づく作業対価又は不当10
利得として、1060万9448円の合計1243万4118円及び令和元年6
月21日(訴状送達の日の翌日)から、平成29年法律第44号による改正前の
民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息を請求する事案である。 |
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判決文
令和4年2月17日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和元年(ワ)第15345号 共同著作権に基づく利得分配等請求事件
口頭弁論終結日 令和3年12月9日
判 決
原 告 X
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 太 田 真 也
被 告 Y
10 同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 岡 本 直 己
同 松 井 亮
同 吉 良 一 真
主 文
1 被告は、原告に対し、10万9046円及びこれに対する令和元年6月21日
15 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを100分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担
とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、1243万4118円及びこれに対する令和元年6月2
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
25 第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、①原告が被告と共同で製作した別紙作品目録(既
刊)の同人誌の売上げについて、被告が原告に分配金を支払わないとして、不当
利得又は共同著作権に対する侵害行為としての不法行為に基づく損害賠償とし
て、85万2670円、②別紙作品目録(未刊)の同人誌について、共同製作の
5 合意が成立していたにもかかわらず、被告の一方的な都合で販売に至らなかった
ことによる債務不履行に基づく損害賠償として、97万2000円、③原告が、
同人誌製作のための執筆、編集等の作業を行ったこと、書店委託手続きを行った
こと、通信販売サイトの開設、運営作業を行ったこと、同人誌即売会で手伝いを
したこと、被告の個人的な依頼に基づきパソコンの初期設定等やインターネット
10 オークションへ代理入札をしたことなどに係る、契約に基づく作業対価又は不当
利得として、1060万9448円の合計1243万4118円及び令和元年6
月21日(訴状送達の日の翌日)から、平成29年法律第44号による改正前の
民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(明記しない限り枝番号含む。)
15 及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
ア 被告は、漫画家(商業作家)であり、出版社から商業的に発売された漫画
本(コミックス)は9作品ある。被告は、趣味として、同人誌での活動を行
うことがあった。(被告本人、弁論の全趣旨)
イ 原告は、大学卒業後に文化通信社に入社して音楽担当記者を経験し、現在
20 は、銀行の正社員として、配信メール、プレスリリース等を担当している。
被告と以下のとおり同人誌を製作するまでに、被告とは別の漫画家と共に同
人誌を1作品製作し、小説を担当したことがある。(原告本人、弁論の全趣
旨)
被告は、平成22年の夏のコミックマーケットで原告のサークルを訪れ、原
25 告に対して共同で同人誌を製作することを持ち掛けた。原告はこれを了承し、
以後、被告が主に同人誌の漫画部分、原告が同人誌の小説や二人の対談部分、
同人誌の編集等を担当して、平成23年12月から平成28年3月までに別紙
作品目録(既刊)記載の11作品の同人誌(以下、同11作品の同人誌を総称
して「本件同人誌」という。)を製作し、販売した(ただし、本件同人誌の中に
は、原告及び被告以外の作家も執筆に参加したものもある。。
)(甲1、弁論の全
5 趣旨)
3 争点に対する当事者の主張
本件同人誌販売に係る分配金(争点1)
(原告の主張)
ア 原告と被告は、別紙作品目録(既刊)記載の各同人誌について被告が主に
10 同人誌の漫画部分、原告が小説や二人の対談部分、同人誌の表紙のデザイン、
編集等のいずれかまたはそのうちの複数を担当して共同で本件同人誌を製
作した。各同人誌の販売額は、別紙原告請求額(既刊)の「販売額」欄記載
のとおりである。
イ 各販売額を各作品における原告の貢献度に応じて割り付けると、別紙原告
15 請求額(既刊)の「原告取得額」欄記載のとおりになる。本件同人誌の売上
げは全額被告が取得しているから、同欄記載の額について被告に利得が、原
告に損失が生じている。よって、原告は、不当利得に基づき、合計額のうち
85万2670円を請求する。
また、本件同人誌の製作には原告も関与しており、本件同人誌はいずれも
20 被告と原告の共同著作物になっているといえ、その持分割合は、別紙原告請
求額(既刊)の「原告取得割合」欄記載のとおりである。被告が同欄記載の
額を原告に支払わないことは、原告の共同著作権を侵害するものであるから
不法行為に基づきその合計額のうち同額を請求する。
ウ 被告が経費として計上すべきと主張しているもののうち、宅配費について
25 は、①宅配での搬入、搬出なしに各イベントに参加することが可能であるこ
と、②毎回搬入、搬出があったわけではないこと、③宅配物の一部ないし全
部が被告の私物である可能性があるから、全額を費用として計上するのは不
当である。イベント参加費についても、被告は社交のために参加していた側
面もあるので、全額を経費として計上すべきではない。また、赤字になって
いるイベント参加は、全て「U」シリーズの続刊や「P」を新刊として初売
5 りするために参加が決定され、その後、後記のとおりこれらの同人誌が完成
に至らなかったためにイベントに間に合わせるために製作された作品(いず
れもコスト低下を見込むことができない商材であった。)が販売されること
になったという経緯がある。このような経緯に照らせば、これらのイベント
参加費を経費に算入して実質的に原告に負担させるのは相当ではない。算入
10 するにしても、少なくとも50%減額されるべきである。
エ 各同人誌即売会の経費(イベント参加費、宅配費、通信費)を算入するに
しても当該経費の各作品への割付方法については、本件同人誌の販売部数が
当該即売会で販売された同人誌等の全販売数に占める割合に応じて割り付
けるべきである。
15 (被告の主張)
ア 原告の主張は争う。原告は、いずれの作品についても、その売上金を被告
に請求しないという前提で本件同人誌の執筆等に関与しており、その旨の
合意が成立していたのであるから、原告は被告に対して本件同人誌の売上
げについて何ら請求権を有していない。
20 イ 原告が本件同人誌につき、小説等を担当したことは認めるが、そのうち、
「H」及び「V」を除く同人誌については、商業作家として人気及び知名度
のある被告が製作する同人誌に、商業誌での活動経験のない、いわば無名の
原告が原稿を提供したにすぎないこと、被告が同人誌を発行する際に用いて
きたサークル名称「Q」名義で発行されていること、作品の顔に当たる表紙
25 が被告のイラストで構成されていること、同人誌における需要のほとんどを
漫画やイラストが占めていることなどからすると、原告は付随的、従属的な
役割を果たしたのみであるといえ、その経済的な貢献度はないに等しいので、
原告に分配金を請求する権利はない。「H」及び「V」についても、上記の
事情に鑑みれば、原告が提供した創作物の占める割合等を考慮しても原告の
貢献度は30%を超えることはない。
5 ウ 同人誌の実際の販売数は、別紙販売部数一覧表(被告主張)記載のとおり
である。即売会での売上げは基本的に被告が取得していたが、通信販売サイ
トによる売上げについては、原告が原告から被告への送金の事実を具体的に
立証しないために被告が受領したとの原告の主張は、全額について否認する。
エ また、被告は、同人誌の販売につき別紙作品別費用一覧表(被告主張)の
10 「印刷費」欄記載の額及び別紙イベント別費用一覧表(被告主張)記載のと
おりの経費を支出している。仮に原告が分配金の請求をできるとしても、そ
の算定に当たっては、これらの金額が控除されるべきである。個別のイベン
ト等に関する経費については、複数の作品を出品している場合にはその割付
け方法が問題になるが、画一的な基準をもって費用を割り付けなければなら
15 ないことからすると、同じイベントにおいて複数の作品を出品している場合
には、重複を避けるために発売の最も早い作品に全額計上するのが合理的で
ある。この方法によって各作品別の経費を計算すると別紙作品別費用一覧表
(被告主張)の「作品別合計」欄記載のとおりとなる。
仮に原告が主張するように作品の売上部数に応じて費用を按分する方法
20 を採用するにしても、各イベントにおける需要の大部分が当該イベントの時
点での新刊を含む本件作品が占めているのであるから、イベント参加に当た
って生じた費用の全額を本件作品の必要経費として取り扱うのが当事者の
意思に合致しており自然かつ合理的であるから、本訴において利益分配の対
象になっていない同人誌についてまで総売上部数に含めて計算するのは不
25 合理である。
オ さらに、少なくとも「H」「V」については、分配金についての和解契約
、
に基づく解決金として、
「V」については、販売前に原告が独自に算定した売
上予測に基づく請求額の全額である合計9万1830円を、「H」について
は、売上金全額である1万7400円を原告に弁済しており、これらの同人
誌についての請求権は消滅した。また、
「A」については、原告は、利益分配
5 に代えて完成した同人誌30冊の交付を要望し、被告はこれに応じて同同人
誌を交付したから、同同人誌についての請求権も消滅した。
カ 仮に上記和解契約についての主張が認められないとしても、原告は「H」
については売上金全額を取得しており、被告の取分は1万2180円を下ら
ないため同額について過払いになっており、「V」についても原告の取分は
10 最大6万8220円にすぎないところ、被告は9万1830円を支払ってい
るから、2万3610円については過払いになっている。被告は、これらの
過払金に係る不当利得返還請求権と原告の同人誌製作についての不当利得
返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権とを対当額で相殺する。
未刊の同人誌販売に係る分配金
15 (原告の主張)
別紙作品目録(未刊)記載の同人誌は、続編の製作が予定され、原告と被告
との間で続編について共同製作合意が成立した。そして、原告は必要な作業を
概ね完了させていたにもかかわらず、被告の一方的な都合により続編を販売で
きなくなった。仮に続編の販売に至っていれば、別紙原告請求額(未刊) 「売
の
20 上予測」欄記載のとおりの売上げが得られ、原告が同目録「原告取得割合」欄
記載の持分を取得し、同「原告取得額」欄記載の分配金を取得したはずであっ
た。よって、債務不履行に基づく損害賠償として、同分配金の合計額である9
7万2000円を請求する。
(被告の主張)
25 原告の主張は争う。
未刊行の作品については、被告が製作販売をしなければならないとの合意は
ない。被告は、単に原告の製作提案に応じなかったにすぎず、原告に何らかの
請求権が発生することはない。
業務委託料等
(原告の主張)
5 原告と被告は、平成23年頃から、①本件同人誌の製作に関して、被告が原
告に執筆・編集等を有償で依頼する契約や、②原告が関与していない同人誌も
含めた書店委託手続きの代行、③本件同人誌等を販売するための通信販売サイ
トの開設・運営、④平成22年8月から平成29年10月までの同人誌即売会
における手伝い等、⑤平成24年8月の同人誌即売会用のうちわ、平成25年
10 12月から平成29年までの同人誌即売会用のポスターのデザインを有償で
行う契約を締結した。また、⑥被告が行った平成27年2月22日の歴史講演
資料の作成、チラシのデザイン、封入作業、⑦平成26年9月から10月にか
けて被告の私物パソコンの初期設定及びその後の維持管理、⑧原告の平成27
年1月のヤフーオークションへの代理入札など、様々な被告の事務を原告に有
15 償で委託する契約を締結した。同契約に基づき、原告は、上記事務作業を実行
した。
これら作業による報酬は次のとおりであり、合計1060万9448円にな
る。
ア 同人誌製作に関する執筆・編集等の作業等(上記①、⑤、⑥)
20 516万1119円
イ 同人誌に関する書店委託手続き代行作業(上記②)
38万0000円
ウ 通信販売サイトの開設・運営作業(上記③)
336万9900円
25 エ 同人誌即売会における手伝い(上記④)
83万6580円
オ パソコンの初期設定・維持管理(上記⑦)
27万5000円
カ ヤフーオークションへの代理入札(上記⑧)
58万6849円
5 (被告の主張)
原告の主張は争う。原告が主張する作業は、いずれも原告が自ら進んで無償で
行うことを引き受けたにすぎないものである。また、原告が主張する額の算定根
拠は不明である。
②について、書店委託の手続きの代行をしていたこと、その中には原告がかか
10 わっていない被告の作品が含まれていたことは認める。報酬支払義務については
争う。
③について、原告が通信販売サイトを開設、運営していたことは認める。しか
し、原告と被告と間では、これを無償とする合意が成立していた。
④について、平成29年8月の同人誌即売会を除いて、原告が同人誌即売会に
15 参加していたことは認めるが、被告が原告に対して同人誌即売会に参加するよう
に要請した事実はない。参加時の作業も原告が進んで行ったものである。
⑤について、原告が主張する期間に開催された同人誌即売会の一部において、
原告が主張する作業をしたことは認める。しかし、被告がこれらの作業を依頼し
たことはなく、また、同人誌等の商品の売上げについては、原告と被告との間で、
20 商品の製作及び販売の経費を負担した者が取得するとの合意が成立しており、費
用を負担した被告が同合意に基づいて売上金を取得したのであり、原告に対して
作業対価を支払う義務はない。
⑥について、被告が平成27年2月22日に歴史講演会で講演したことは認め
るが、原告がこれに用いる資料を作成したことは否認する。被告が、原告に対し
25 て被告が作成した資料の送付を依頼したところ、原告が被告に無断で修正した資
料を主催者に送付したのであり、被告が対価を払う理由はない。原告が被告と共
にポケットティッシュにチラシの封入作業を行ったことは認める。しかし、被告
は、これに対する謝礼として1万円を支払っており、これ以上の報酬支払義務は
ない。
⑦について、原告がパソコンの初期設定を行ったことは認める。しかし、被告
5 は原告に単にパソコンの使用方法を相談したところ、原告は、被告が依頼してい
ないにもかかわらずパソコンを持ち帰ってセットアップを行ったのであり、対価
を支払う義務はない。原告が、被告の自宅を訪れたときにパソコンのデフラグや
ウイルスチェックを何度か行ったことは認めるが、報酬の支払義務はない。
⑧について、原告が被告に代わってヤフーオークションにおける入札の代行を
10 行ったことは認める。しかし、被告と原告の間で、これについて無償とする合意
が成立していた。このことは、同時期に原告が被告の依頼に基づき行っていたヤ
フーオークションでの売却について、原告と被告で手数料について合意し(原則
2000円、ただし、原告が梱包及び発送作業も行う場合には3000円とする
等)、これに基づいて原告が毎月売上報告書を作成して売却手数料を控除した金
15 額のみを被告に送金していたのに対し、本件で原告が報酬を請求する入札につい
ては何ら協議が行われず、本訴に至るまで報酬の請求がなかったことからも明ら
かである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件同人誌販売に係る分配金)について
20 本件同人誌の分配金の支払に係る合意について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、前記前提事実に加えて、次の事実が認め
られる。
被告は、原告のブログに掲載されていた「R」という小説(第三者が執
筆した小説)のレビューを見て、このレビューを被告の同人誌に掲載して
25 もらおうと考えた。被告は、平成22年の夏のコミックマーケットで原告
の下を訪れて、「R」に関する同人誌を製作予定であることを話して、共
同で同人誌を製作することを提案した。原告は、被告が原告の学生時代に
あこがれていた作家であったことなどから、この申出を光栄に思い、被告
と共同で同人誌を製作することとした。原告と被告が同人誌製作を進め
る中で、原告は、同人誌に、レビューではなく、小説を寄稿することにな
5 った。(原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
本件同人誌のうち、最初に製作された「A」の本文の冒頭には、次の記
載がある。(甲1の1)
「 はじめに
introduction...
10 時代小説「R」(原作/S)の同人誌をお届けします。
・・・・・・・・・・・・・・・・
この度、戦国期中国地方史熱が再燃し、思い切ってふたたび同人誌での
刊行です。メンバーにXさんという萌え&筆力の半端ない小説書きの方
と、T先生も加わりY至福の合同誌となりました。
15 ・・・・・・・・・・・
Y
2010年の夏コミ、私のサークルにYさんが訪れて、言いました。
・・・・・・・・・・・・
そんな素敵本のパロをこれまた昔から大ファンのYさんと一緒に作る
20 だなんて。これは夢?
最高の作家と最高の作品の最高のファン・フィクションを作る。それ
がこの本の私的コンセプト。俺得以外の何物でもありません。もちろん
こんな恵まれた環境、俺得だけで終わらすわけにはいかないっっ!みな
さんにおすそわけしなくてはっ!てなわけで我武者羅に死ぬ気で作り
25 ました。
・・・・・・・・・・・・
X」
その後も原告と被告は、被告が漫画及びイラスト、原告が小説、編集等
を担当して本件同人誌を共同で製作し(両当事者の本件同人誌に対する
関与等の詳細は後記 のとおりである。 、被告のサークルで被告のサー
)
5 クルの名義で発売した。原告は、同人誌即売会等で本件同人誌等の販売を
手伝うなどした。また、原告は、本件同人誌の書店販売の委託、通信販売
の管理なども行った。
当時、被告は、商業誌での仕事で生計を立てており、同人誌での活動は、
商業誌で掲載することができなかった作品等を掲載すること等を目的と
10 して、趣味として行っていた。原告は、会社の正社員として定職に就いて
いて、その空き時間で同人誌の活動を行っていた。
(原告本人、被告本人)
本件同人誌の印刷代等の基本的な経費は被告が負担していた。本件同人
誌の売上げは、少なくとも、いったんは被告が全額受領することとなって
おり、原告の口座等に入金があったものについても、定期的に送金、手渡
15 し等の方法で被告に交付されていた(ただし、後記 のとおり「H」の売
上げは除く)(原告本人、被告本人)
。
本件同人誌のうち、
「H」については、他の同人誌と異なり、原告が印刷
等の製本作業も行い、印刷費の負担等もした。「H」も、被告のサークル
で販売されたが、その売上げは、全額(87冊分、1万7400円)が被
20 告から原告に交付され、その際、これを後日、清算するなどの話は出なか
った。(原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)
「V」の製作に当たり、被告の希望により「V」の表紙にプロのイラス
トレーターを起用することになった。原告は、それまでは本件同人誌の売
上げの分配に言及することはなかったが、被告からそのイラストレータ
25 ーに対価を支払うという話が出たのに対し、そのような対価を支払うの
であれば、自分に対しても金銭を支払うべきであると言って、本件同人誌
の売上げの分配に言及した。原告は、その後、「V」の発売前に、被告に
対し、原告が推計した「V」の今後の売上予測及び被告が支出したと原告
が推計した経費等から純利益の見込みを計算した表を被告に示し、その
半額である3万9950円を原告に支払うように求めた。被告は、これに
5 応じ、「V」の発売前である平成28年3月13日、原告に対し3万99
50円を支払った。その後、「V」の第2版の発行が決まったところ、原
告は、被告に対し、「V」の第2版の純利益について原告が独自に予測し
た表を提示しつつ、その半額である5万1880円を支払うように求め
た。被告は、同年5月21日、原告に対し5万1880円を支払った。
(原
10 告本人、被告本人、乙1、5)
イ 本件同人誌の売上げ、収益の取扱いについて
本件同人誌について、原告は、小説を寄稿するなど相当の関与をしたとこ
ろ、本件同人誌の売上げは、被告が受領している(「H」を除く。。
)
原告は、原告が本件同人誌に貢献していることを理由として、その売上げ、
15 収益の分配について少なくとも被告がこれを取得する旨の当事者間の合意
がないことを前提として、被告に利得が生じ、原告に損失が生じていること
などを主張する。
これに対し、被告は、原告と被告との間で、原告は本件同人誌について経
費を負担した者が売上げについても取得することにつき合意が成立してお
20 り、基本的に被告が経費を負担していたのであるから、原告は売上金を被告
に請求できないと主張し、また、
「A」「H」及び「V」について被告が本又
、
は金銭を交付したことをもって、原告が被告に対してこれ以上の請求をしな
い旨の合意が成立していたと主張する。
原告と被告との間で、本件同人誌の売上金、収益の分配について明示の合
25 意がされたことを認めるに足りる証拠はない。
ここで、原告は、本件同人誌のほとんど(詳細は後記 記載のとおり。)に
おいて小説又は原告と被告の対談をまとめたもの等を継続的に寄稿してお
り、その分量も少なくなく、これらの同人誌に対する原告の内容面での関与
はゲスト作家の域を超えるものであったといえる。また、原告は、本件同人
誌のデザイン等を担当し、同人誌を形にする場面においても大きく貢献した
5 といえる。さらに、原告は、本件同人誌の販売活動においても、即売会での
販売、書店委託、通信販売等において継続的に貢献していた。これらを考慮
すると、原告は、被告の同人誌のゲスト作家あるいは被告の単なる補助とし
て被告の同人活動に参加していたとはいえず、原告と被告は、共同で同人誌
販売事業を行っていたと評価することができるものであった(なお、後記
10 のとおり、当裁判所が認定する原告の各同人誌への貢献度の割合は、5割を
超えるものがあり、また、4割のものと3割のものがそれぞれ複数ある。。
)
また、被告は、出版社から商業的に発売された漫画本が複数あり、知名度を
有することがうかがえるところ、本件同人誌は、そのような被告が自身のサ
ークルの名義で販売するものであるから、収益が上がることが不透明な無名
15 の作家による同人誌とは異なり、発売前から一定の売上げを見込むことがで
き、経費を管理すればある程度の利益をあげられる可能性が高かったといっ
た事情がある。
「V」について、原告はその発売前に被告に対し予測した収益
の半額の支払を求めたのに対し、被告は、2度にわたりその支払をしたが、
その際、収益の分配等について合意が存在する旨に言及したことを認めるに
20 足りない。
これらの本件における事情を考慮すると、本件同人誌の売上げ、収益の分
配について明示の合意をしたことを裏付ける証拠のない本件において、原告
は被告に売上金を請求しない旨の被告主張の合意は成立していなかったと
いうべきであり、また、他に各同人誌に共通の特段の合意もなかったと認め
25 られる。当事者間の公平の見地から、本件同人誌について、別に個別の合意
がある場合を除き、売上げから経費を控除した収益を、原告と被告の貢献度
に応じて分配することが公平であり、原告は、被告に対し、被告が各同人誌
について、収益を貢献度以上に取得していた場合には、不当利得として、そ
の返還を求めることができるというべきである。
この点について、被告は、同人誌業界においては、経費を負担する者が利
5 益も損失も負担することが前提になっていたことなどを挙げて、被告主張の
合意の存在を述べる。仮に同業界においてそのような前提で処理がされる場
合があるとしても、本件では、上記に述べたような事情がある。被告の主張
するように売上げが全て被告に帰属すると、本件では当事者間の公平を損な
うといえる。被告指摘事実は前記認定判断を左右しない。
10 以下、事案に鑑みて、不当利得返還請求権について、個別の同人誌につい
て、何らかの合意があったか否かについて検討する。
ウ 「A」について
被告は、
「A」について、原告への分配金の支払いに代えて30冊の「A」
を原告に交付したと主張し、これに沿う供述をする。しかし、原告はその交
15 付を否認し、同人誌の交付を裏付ける客観的な証拠はなく、交付に至る具体
的な経緯、話し合いの内容等も明らかではない。これらによれば、原告と被
告との間で、
「A」について、分配金の支払に代えてこれを交付したことや、
「A」の収益を原告に分配しない合意が成立していたことを認めるに足りな
い。
20 エ 「H」について
アで認定した事実関係によれば、
「H」については、それまでと異なり、被
告がその売上げを全額原告に交付していることが認められ、
「H」について、
原告が、被告に対し、さらに金員を請求し得る立場にあるとは認められない。
本件において、被告が主位的に「H」の収益の清算の和解契約の成立を主張
25 していることからすると、これを認めて、その収益については被告がさらに
支払う必要がないとの合意がされたとして、本件同人誌についての収益計算
から除外するのが相当である。
オ 「V」について
アで認定した事実関係によれば、原告は、
「H」の初版及び第2版の発売前
の段階で、独自に収益を予測し、被告に対してその半額を支払うように求め
5 た。これらの際に、原告の予測以上に売れた場合に追加で分配金を支払うこ
とを請求できるか否か、原告が後日50%を超える貢献割合を主張して追加
の分配金を請求することができるか否かについて原告と被告との間で明示
の合意があったことを認めるに足りる証拠はない。しかし、原告の請求が、
飽くまで売上げの予想しかできず、被告のみが経費を負担し、これを全く回
10 収できていない時点で請求されたものであり、その額も手付等の趣旨ともと
れる極めて低い額にとどめるのではなく、予想収益の半額であることを考慮
すると、原告の初版、第2版に係る各請求は、その後の現実の販売額等に左
右されることなく、原告の取り分を清算することを申し出る趣旨であったと
認めるのが相当である(本件で、仮に売上げが予測よりも少なかった場合に
15 原告が受領した金銭を一部返還することが予定されていたことは認められ
ない。。被告も、原告の要求額をそのまま支払ったのであるから、売上げの
)
多寡、実際の貢献度にかかわらず、原告の「H」の取り分について原告と被
告を同額とすることを認めたというべきである。そうすると、原告と被告と
の間では、
「V」について、少なくとも、その初版、第2版について(なお、
20 第3版以降の版が販売されたことをうかがわせる事情はない。、今後、利益
)
の分配の計算対象にないことについて合意が成立したというべきである。
カ よって、本件同人誌のうち、
「H」及び「V」については、さらにその収益
を原告と被告との間で分配すべきであるとはいえないが、それらを除く同人
誌については、その収益について原告と被告との間で分配すべきであるとい
25 え、被告に利得があり、原告に損失があれば、これを不当利得として原告に
返還すべきであるといえる。
同人誌の売上げについて
ア 本件同人誌のうち「H」及び「V」を除く同人誌(以下「本件分配対象同
人誌」という。)の販売部数は、別紙販売部数一覧表記載のとおりであるこ
とが認められる。同一覧表の各記載についての補足説明は次のとおりである。
5 通信販売サイトでの販売について
証拠(甲130~132、139、原告本人)及び弁論の全趣旨から認め
られる。なお、Fのうちの1部については、原告が自身の過誤によって発送
したものであるが、売上げとして計上された(原告本人)。
FのK-BOOKS販売分
10 21部が販売されたことについては、争いがない。原告は、33部であ
ったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
Fのコミコミスタジオ販売分
3部が販売されたことについては、争いがない。原告は、合計販売部数
が26部であったと主張し、その根拠として、30部納品したF(甲82
15 の10)が平成27年1月の時点で残数が7部となっていたため(乙11
の1)、前記3部の前に23部が販売されたはずであると主張する。本件
において、同同人誌が30部納品されたことは認められるものの、これが
平成27年1月までにどのような経緯で7部まで減ったのかについての
証拠はない。被告が本人尋問において、同人誌即売会での販売用の在庫が
20 不足する場合に委託先から一部返本を求めることがある旨の供述をして
いることなどを考慮すると、同23部について、コミコミスタジオにおい
て販売されたことを認めるに足りる証拠はないというべきである。
その余の即売会、とらのあな、K-BOOKS、まんだらけ、コミコミ
スタジオ、タコシェにおける売上部数については争いがない。原告は、印
25 刷部数全額が販売されたはずであると主張するが、被告は、印刷部数との
差について、関係者に無料配布したなどと説明しており、別紙販売部数一
覧表記載の販売部数を超えるものについては、これを認めるに足りる証拠
はない。
イ 本件分配対象同人誌(ただし、電子書籍を除く。 の販売単価については、
)
別紙販売部数一覧表の「価格」欄記載のとおりとすることについて当事者間
5 に争いがない。アで認定した販売数を基礎に、売上額を計算すると、同「売
上げ(本)」欄記載のとおりとなる。また、甲125の11によれば、ディー
エルサイトコムにおいて別紙販売部数一覧表の「売上げ(電子) 欄記載の額
」
の売上げがあったことが認められる。そうすると、本件分配対象同人誌の売
上げの合計は、別紙販売部数一覧表の「売上げ(合計)」欄記載のとおりとな
10 る。
ウ 原告は、上記売上げにつき全額被告が受領したと主張しているところ、被
告はこれを争っている。前記 ア で認定したとおり本件同人誌の売上げは、
少なくともいったんは被告が受領する前提になっていたことが認められる。
通信販売の売上げ等についても、原告の口座に振り込まれる等していたこと
15 が認められるが、いったん原告が受領した金員についても被告の交付するこ
ととなっていたことになっており、原告は、少なくとも一部の期間において
は、原告が被告の口座に定期的に送金していたことを証する証拠を提出して
いる(甲85、144)。原告が送金額を偽ったことをうかがわせる事情は
認められず、原告と被告との間でその送金額の多寡でトラブルになった形跡
20 がない。これらの事情からすると、前記売上げについて、その全部について
被告が受領したことが推認できる。
同人誌の経費について
ア 各即売会のためにかかった経費の各作品への割付方法について
本件分配対象同人誌は、同人誌即売会等のイベントにおいても販売されて
25 おり、各イベントでは複数の種類の同人誌を販売しているため、各イベント
に係る経費を各同人誌に割り付ける必要がある。
この割付けの方法について、原告は、各イベントに係る経費を、各同人誌
の販売部数が当該イベントで販売された総部数に占める割合に応じて割り
付けるべきであると主張し、被告は、本件同人誌のうち、販売開始が最も早
いものに全て割り付けるべきであると主張する(当事者双方は、第2回口頭
5 弁論期日において、本訴における各即売会に係る経費の割付方法について、
両当事者が主張する方法のうち、いずれかより合理的な方を裁判所が採用す
ることとする旨の合意をした。。
)
ここで、各イベントで販売できた同人誌等は、本件同人誌であるか本件同
人誌以外のものであるかを問わず、いずれも当該イベントで販売することに
10 よって換金することが可能になったのであるから、イベントの参加に関する
費用について、販売できた一部の物のみに割り付けるのは合理性を欠くとい
える。そうすると、販売物のうちの一つに全額割り付ける被告の方法よりも、
販売数に着目して、これに応じて各販売物に割り付けるという原告の方法の
方が、より合理的であるといえる。よって、各同人誌固有の経費については、
15 各同人誌の販売部数が当該即売会で販売された総販売数に占める割合に応
じて割り付けて計算することとする。
イ 各即売会の参加費が別紙イベント経費一覧表の「参加料」欄記載のとおり
であったことについて、当事者間に争いはない。
宅配料について、証拠(乙19、被告本人)によれば、被告が、各即売会
20 につき、自宅に保管していた本件同人誌の会場への送付と、即売会での売れ
残り等の自宅への送付に少なくとも1箱ずつ宅配便を用いていたこと、その
額が別紙イベント経費一覧表の「宅配料(自宅から)」と「宅配料(会場か
ら)」欄の額を下らないことが認められる(領収書が提出されていないもの
については、領収書があるもののうちの最低金額である930円であると認
25 定した。。原告は、特に会場からの宅配便では、被告の私物の運搬等にも用
)
いられていたのであるから、全額は算入すべきではない旨主張するが、私物
を運搬したか否かにかかわらず、少なくとも上記認定額が必要であると認め
られるのであり、全額経費として計上すべきであるといえる。
通信費については各イベントにつき500円を下らないことについては
当事者間に争いがない。
5 ウ 続いてイの経費の各作品への割付けを検討すると、 (乙2)
証拠 によれば、
基準とすべき各即売会の総販売数及び本件分配対象同人誌の販売部数は、別
紙イベント経費割付表1及び同2の「総部数」欄のとおりであり、各同人誌
の販売部数は、各同人誌の「部数」欄記載のとおりであると認められる。こ
のうち、平成27年10月18日のJ.GARDEN及び平成29年8月1
10 3日のコミックマーケットについて、ポストカードを割付けの基礎となる総
販売部数に算入してこれらについても経費を割り付けるべきであるか否か
について争いがあるが、弁論の全趣旨によれば、それらの販売価格は1枚1
00円程度であると認められ、同人誌に比べて安価であり、同人誌に付随す
るおまけとしての性質を有するというべきであるから、これを総販売部数に
15 算入するのは相当ではない。
以上を前提に本件分配対象同人誌の販売部数が総販売数に占める割合を
基礎に各イベントに係る経費をこれに応じて割り付けると、別紙イベント経
費割付表1及び同2の各「割付」欄記載のとおりとなる。その合計は、 「割
各
付」欄末尾の「経費合計」欄記載のとおりとなる。
20 エ 各同人誌に係る印刷費が別紙総経費計算表の「印刷費」欄記載の額を下ら
ないことについて争いがないため、各作品の経費の合計額は、 「経費合計」
同
欄記載のとおりとなる。
両当事者の関与及び分配額
証拠(甲1、27、28、29、30、67)及び弁論の全趣旨によれば、
25 本件分配対象同人誌に対する原告及び被告の個別の関与の内容は別紙両当事
者の各作品への個別の関与内容記載のとおりである。
また、弁論の全趣旨によれば、上記の他に、本件分配対象同人誌の販売につ
いて、原告が書店販売の委託、管理の大部分を担当したこと(なお、コミコミ
スタジオへの委託契約については被告が行い、その後の作業は主として原告が
行った。、本件販売対象同人誌の販売も行われた通信販売サイトの開設、運営
)
5 をしたことが認められる(これらの販売活動による販売部数については別紙販
売部数一覧表のとおり。。なお、原告の書店販売の委託管理、通信販売サイト
)
の開設、運営、その他本件分配対象同人誌の販売に関してこれまでに認定した
もの以外に一定の経費が発生して原告が負担し、一部未精算のものが存在する
こともうかがえ(甲3等参照)、これについても最終的な貢献度の中で一定程
10 度考慮要素として取り扱うこととする。
他方で、被告は、本件分配対象同人誌につき、前記 ア 、 のとおり、販
売イベント参加を主導し、印刷費、イベント参加費等の経費の一次的な負担等
も行った上で、漫画家として実績のある被告のサークル名義で販売することに
よって、売上げに関与したことが認められる。
15 上記各事情を総合的に考慮すると、両者の本件同人誌販売に関する貢献度は、
別紙分配金計算表の「原告貢献度」欄記載の割合とするのが相当である。
そうすると、原告の各同人誌についての分配額(マイナス表記の作品につい
ては負担額)は、同「原告取得額」欄記載のとおりになり、その合計額は、1
0万9046円になる。
20 よって、被告は、本件分配対象同人誌に係る分配金として10万9046円
の利得があり、原告は同額につき損失を被ったといえる。よって、原告の不当
利得に基づく請求については同額を請求する限度で理由がある。
また、原告は選択的に共同著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求し
ているが、仮に何らかの権利侵害が認められたとしても、その損害額は、同額
25 を超えるものではない。
2 争点2(未刊の同人誌販売に係る分配金)について
これまでに認定した事実に加えて、証拠及び弁論の全趣旨によれば次の事実
が認められる。
ア 被告は、平成22年8月10日のコミックマーケットにおいて原告と被告
が共同で「R」を基にした同人誌を製作することとなった。その後、同同人
5 誌のタイトルを「U」とすることなった。(争いなし)
イ 原告は、平成23年10月9日、原告が「U」において担当する小説原稿
を被告に交付した。同原稿は、 (8頁) b
a 、 (4頁) c
、 (2頁) d
、 (4頁)、
e(5頁)、f(3頁)、g(2頁)、h(9頁)、i(7頁)、j(3頁)、k
(5頁)、l(9頁)、m(8頁)、n(2頁)
、o(3頁)、p(6頁)
、q(6頁)、
10 r(3頁)、s(6頁)、t(11頁)
、u(10頁)によって構成されており(合
計116頁)、このうち、b、i、l が後に「A」に掲載された。(甲1の1、
20の1)
ウ 平成23年11月11日、被告の自宅で、原告と被告の対談が行われた。
その後、原告は、この時の対談について、
「A」に対談として掲載された部分
15 (5頁分)のほかに、10頁分の対談をまとめた(甲1の1、21、22。
ただし、後者については時期不明。)
エ 平成23年12月に「A」が発売された。被告から原告へ送付された平成
24年の年賀状には「今年も「L」、出来れば「M」を頑張って出しましょ
う!!「A」に負けない勢いで。 などと記載されていた。
」 (甲1の1、23)
20 オ 原告と被告は、平成24年1月、
「L」にゲスト作家の原稿を掲載すること
とし、2名に打診したところ、いずれからも了承を得た。その後、同年4月、
5月にゲスト作家それぞれと原告、被告の3名で打ち合わせを行った。原告
は、同年5月30日に、ゲスト作家1名から初稿を受領し、これを被告に転
送した。(争いなし)
25 カ 原告は、平成24年9月25日、同ゲスト作家から決定稿を受領し、入稿
可能な状態にして被告に送付した(甲24)。
キ 平成24年12月頃、原告は、ゲスト作家両名に「L」の発売が平成25
年夏に延期になることを伝えた。(弁論の全趣旨)
ク 原告は、平成25年3月21日、2人目のゲスト作家から決定稿を受領し
たため、被告にこれを送付した。その後、原告から被告に「L」の進行につ
5 いて相談しても、具体的な進捗はなかった。(甲25、弁論の全趣旨)
ケ 被告は、平成30年5月29日、
「U」関係の資料、原告の完成原稿などを
原告に返却した。(甲26、弁論の全趣旨)
原告と被告との間で、
「U」の続刊の発行に関して、時期、分量その他の契約
内容の詳細が書面はもちろんのこと口頭であっても確認されたことはうかが
10 われない。
「A」について、そのタイトルに「壱」と続刊を前提としている数字が付さ
れていること、被告が原告に送付した年賀状の前記文面等からすると、原告と
被告との間では、遅くとも「A」の発売時には、続巻を製作することが想定さ
れていたと認められ、続刊でも被告は漫画部分を担当することが想定されてい
15 たと認められる。
もっとも、そもそも被告の担当は創作活動にかかわるものであるほか、これ
に関与する者はいずれも同好の趣味に関するものとして上記の同人誌を製作
することを想定していたといえる。その発行に関して、時期、分量その他の具
体的な内容の詳細が確認されたこともない。これらを考慮すれば、原告やゲス
20 ト作家1名が一定の原稿を作成していたことを考慮しても、原告と被告との間
で、
「U」の続巻について、何らかの義務を生じさせるような合意が成立してい
たとは認められない。
よって、原告と被告との間で、
「U」の続刊について、被告が漫画を描き下ろ
して共に同人誌を販売するという契約が締結されたとは認められない。
25 Pについて、証拠(甲76、77)及び弁論の全趣旨によれば、このような
同人誌を作ることについて原告と被告との間で話題に上ったこと、原告が、小
説(v(4頁)、w(4頁)、x(4頁)を製作し、被告が1頁の漫画を製作し
たことは認められるものの、契約内容について、何らかの内容を具体的に合意
したことをうかがわせる事実はなく、その準備についても、少なくとも前記「A」
の続刊の段階にすら及ばなかったことが認められるから、原告と被告との間で、
5 同人誌製作契約が締結されたとは認められない。
「V」については、続編について原告と被告との間で話題になったことを被
告は否認し、その続編に関する事実を認めるに足りる証拠もなく、原告と被告
との間で、同人誌製作契約が締結されたとは認められない。
3 争点3(業務委託料等)について
10 本件同人誌の製作、販売に関するものについて
原告が主張する業務のうち、①本件同人誌の製作に関する、原告の執筆・編
集等、②原告が関与していない同人誌も含めた書店委託手続き代行、③通信販
売サイトの開設・運営、④平成22年8月から平成29年10月までの同人誌
即売会における手伝い、⑤平成24年8月の同人誌即売会用のうちわ、平成2
15 5年12月から平成29年までの同人誌即売会用のポスターのデザインにつ
いていずれも原告が実施したことについて争いはない。
しかし、前記1 イで認定したとおり、原告と被告との間では、本件同人誌
についていずれも共同で同人誌を製作、販売し、その貢献度に応じて収益を分
配し、損失を分担する前提で同人誌の製作が行われていたというべきである。
20 これらの業務のうち、本件同人誌に係るものは、その製作、販売そのもの、又
はそれに付随する業務であり、これらの業務による関与は売上げの分配時に貢
献度に応じて清算されるべきものといえる。これらの業務につき、損益にかか
わらず個別に対価を発生させる旨の別段の合意が成立していたことをうかが
わせる事情もない。そして、同人誌製作に係る収益の分配の結果は、前記1で
25 認定したとおりであるから、当該分配金を超えて原告に契約に基づく請求権も、
不当利得返還請求権も発生するとはいえない。
なお、原告が主張する業務の中には、被告が単独で製作した同人誌について
のものがあり、これは本件同人誌の製作、販売に直接結びつかないものであり、
この部分は、準委任契約(民法656条)に基づくものであるといえる。しか
し、その報酬は特約がなければ報酬を請求できないものとされているところ
5 (民法656条、648条1項) 明示の合意があったとは認められず、
、 これら
の業務が本件同人誌の製作、販売と共に行われていたことや、前記1 アで認
定した原告と被告の関係性からすると、黙示の合意があったと認めることもで
きない。よって、この部分についても、原告に契約に基づく請求権は認められ
ない。同様に、被告の利得に法律上の原因がなかったとは認められないから不
10 当利得返還請求権も発生するともいえない。
歴史講演会関係の業務について
原告が主張する業務のうち、⑥被告が行った平成27年2月22日の歴史講
演資料作成、チラシのデザイン、封入作業について、原告が講演資料を手直し
して被告に交付したこと、被告の依頼に基づいてチラシのデザイン、封入作業
15 を行ったことについて争いはない。しかし、被告は、講演資料の手直しは原告
が勝手に行ったものであり、送付されてきた資料も利用しなかったと供述して
おり、講演資料の手直しは被告の依頼に基づくものであると認めるに足りる証
拠はない。上記のその他の業務についても準委任契約であるといえるところ、
報酬を支払うことについて明示の合意があったことを認めるに足りる証拠は
20 ない。前記1 アで認定した原告と被告の関係性からすると、原告の行為に基
づいてこれらの業務が行われたとしても不自然であるとは言えず、黙示の合意
があったと認めることもできない。かえって、その後本訴に至るまで本件につ
いて何ら原告からの請求がなかったこと(弁論の全趣旨)などは、報酬につい
て合意がなかったことを裏付けるといえる。
25 よって、歴史講演会関係の業務について、原告に契約に基づく請求権は認め
られない。同様に、被告の利得に法律上の原因がなかったとは認められないか
ら、不当利得返還請求権も発生するともいえない。
パソコンの設定、管理について
原告が主張する⑦平成26年9月から10月にかけてのパソコンの初期設
定及びその後の維持管理について、証拠(原告本人、被告本人)及び弁論の全
5 趣旨によれば、原告が、被告の依頼に基づいて被告の亡父が残したパソコンか
ら、必要なデータを選別し、その後、再設定、ソフトウェアの更新等の作業を
行ったこと、その後も少なくとも数か月に1回程度の頻度で、同パソコンのデ
フラグやウイルスチェックなどを行っていたことが認められる。これらの業務
は準委任契約に基づくものであるといえるが、報酬について明示の合意があっ
10 たことは認められない。また、前記1 アで認定した原告と被告の関係性、本
訴に至るまで報酬について何ら請求がなかったこと(弁論の全趣旨)からする
と、報酬の支払について黙示の合意があったと認めることもできない。
よって、パソコンの設定、管理について、原告に契約に基づく請求権は認め
られない。同様に、被告の利得に法律上の原因がなかったとは認められないか
15 ら不当利得返還請求権も発生するともいえない。
ヤフーオークションへの代理入札について
原告が主張する⑧原告の平成27年1月のヤフーオークションへの代理入
札について、証拠(甲3の6)及び弁論の全趣旨によれば、原告が平成27
年1月から平成28年1月までにかけて、被告の依頼に基づいてヤフーオー
20 クションで50件以上、総額290万円以上の物品を落札したことが認めら
れる。これらの業務は準委任契約に基づくものであるといえるが、報酬につ
いて明示の合意があったことは認められない。また、前記1 アで認定した
原告と被告の関係性、本訴に至るまで報酬について何ら請求がなかったこと
(弁論の全趣旨)などからすると、黙示の合意があったと認めることもでき
25 ない。かえって、同時期に原告が被告の依頼に基づいて行っていたヤフーオ
ークションでの売却については、原告への手数料について合意し、その結果
について明細書まで作成して報告して手数料を取得していた(乙4)にもか
かわらず、落札についてはこのようなやり取りがされていなかったことは、
落札については無報酬とする合意が成立していたことを裏付けるといえる。
よって、ヤフーオークションでの入札について、原告に契約に基づく請求
5 権は認められない。同様に、被告の利得に法律上の原因がなかったとは認め
られないから、不当利得返還請求権も発生するともいえない。
第4 結論
以上のとおりであって、原告の不当利得に基づく本件同人誌に係る分配金の請
求については、10万9046円及び本訴に係る訴状送達の日の翌日からの利息
10 を請求する限度で理由があるからこれを認容し、原告のその余の請求については
いずれも理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 佐 伯 良 子
20 裁判官 仲 田 憲 史
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