令和1(ワ)10829意匠権侵害差止等請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
認容 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年2月10日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社満天社 被告オーサム株式会社
|
法令 |
意匠権
特許法104条の31回 民法709条1回 民法704条1回 民法703条1回
|
キーワード |
実施60回 意匠権59回 侵害44回 損害賠償33回 許諾7回 無効7回 差止5回 ライセンス3回 無効審判2回 新規性1回 商標権1回 特許権1回
|
主文 |
1 被告は、別紙物件目録記載1及び2の物件を製造し、販売し、輸入し、又は
2 被告は、前項記載の物件を廃棄し、その製造に必要な金型を除去せよ。
3 被告は、原告に対し、703万9732円並びにうち22万1446円20
3%の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。25
5 訴訟費用は、これを15分し、その4を原告の負担とし、その余は被告の負
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
1 本件は、意匠に係る物品をそれぞれ「頭部マッサージ具」及び「指マッサー
ジ器」とする各意匠権(以下、前者を「本件意匠権1」、後者を「本件意匠権2」
といい、両者を併せて「本件各意匠権」という。また、本件各意匠権に係る意匠を
それぞれ「本件意匠1」などといい、両者を併せて「本件各意匠」という。)を有15
する原告が、被告の製造、販売、輸入等に係る別紙物件目録記載の各製品(以下、
同別紙記載1及び2の各製品をそれぞれ「被告製品1」などといい、両者を併せて
「被告各製品」という。)の意匠は本件各意匠にそれぞれ類似するなどとして、被
告に対し、以下の請求をする事案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 意匠権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
令和4年2月10日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官
令和元年(ワ)第10829号 意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 令和3年11月12日
判 決
原告 株式会社満天社
同訴訟代理人弁護士 辻?本 希世士
同 辻?本 良知
同 松田 さとみ
10 同補佐人弁理士 丸山 英之
被告 オーサム株式会社
同訴訟代理人弁護士 古庄 俊哉
同 杉野 文香
15 同 岩﨑 翔太
主 文
1 被告は、別紙物件目録記載1及び2の物件を製造し、販売し、輸入し、又は
販売の申出をしてはならない。
2 被告は、前項記載の物件を廃棄し、その製造に必要な金型を除去せよ。
20 3 被告は、原告に対し、703万9732円並びにうち22万1446円
に対する平成28年12月3日から支払済みまで年5%の割合による金員 、う
ち 5 4 4 万 7 4 7 5 円 に 対 す る 令 和 2 年 4 月 1 日 か ら 支 払 済 み ま で 年 5 % の割
合 に よ る 金 員 、 及 び う ち 1 3 7 万 0 8 1 1 円 に 対 す る 令 和 3 年 4 月 1 日 か ら年
3 % の 割合による金員を支払え。
25 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを15分し、その4を原告の負担とし、その余は被告の負
担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
5 1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は、原告に対し、1519万8564円並びにうち67万1916
円に対する平成28年12月3日から支払済みまで年5%の割合による金員、
う ち 1 0 5 8 万 2 3 1 5 円 に 対 す る 令 和 2 年 4 月 1 日 か ら 支 払 済 み ま で 年 5%
の 割 合 に よ る 金 員 、 及 び う ち 3 9 4 万 4 3 3 3 円 に 対 す る 令 和 3 年 4 月 1 日か
10 ら 支 払 済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、意匠に係る物品をそれぞれ「頭部マッサージ具」及び「指マッサー
ジ器」とする各意匠権(以下、前者を「本件意匠権1」、後者を「本件意匠権2」
といい、両者を併せて「本件各意匠権」という。また、本件各意匠権に係る意匠を
15 それぞれ「本件意匠1」などといい、両者を併せて「本件各意匠」という。)を有
する原告が、被告の製造、販売、輸入等に係る別紙物件目録記載の各製品(以下、
同別紙記載1及び2の各製品をそれぞれ「被告製品1」などといい、両者を併せて
「被告各製品」という。)の意匠は本件各意匠にそれぞれ類似するなどとして、被
告に対し、以下の請求をする事案である。
20 (1) 差止及び廃棄請求
本件各意匠権に基づ く被告各製品の製造、販売、輸入等の差止(意匠法 (以下
「法」という。)37条1項)並びに被告各製品の廃棄及びその製造に必要な金型
の除去(同条2項)
(2) 損害賠償請求
25 被告の各行為のうち、平成28年12月3日以降のものにつき、本件各意匠権侵
害の不法行為(民法709条)に基づく●(省略)●の損害賠償及びこれに対する
不法行為後の日である令 和 2 年 4 月 1 日 から支払済みまで平成29年法律第44
号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5%の割合による
遅延損害金及並びに●(省略)●の損害賠償及び令 和 3 年 4 月 1 日 か ら 支 払 済 み
ま で民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払
5 (3) 不当利得返還請求
被告の各行為のうち、平成27年10月~平成28年12月2日の間のものにつ
き、本件意匠権1に係る不当利得(民法703条、704条)に基づく返還請求及
びこれに対する利得後の日である平成28年12月3日から支払済みまで改正前民
法所定の年5%の割合による遅延利息の支払
10 2 前提事実(争いのない事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定で
きる事実。なお、枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含
む。)
(1) 当事者
原告は、美容製品の製造販売等を業とする株式会社である。
15 被告は、生活雑貨品の製造輸入販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件各意匠権
原告は、以下の各意匠権(本件各意匠権)を有する。
ア 本件意匠権1
登録番号 意匠登録第 1341897 号
20 出願日 平成20年3月6日(以下「本件出願日1」という。)
登録日 平成20年9月12日
意匠に係る物品 頭部マッサージ具
図面 別紙意匠公報(上記登録番号のもの)記載の図面(以下「本
件図面1」という。)のとおり(本件図面1中、紫色で示された部分以外の部分が
25 部分意匠として登録を受けた部分である。)
イ 本件意匠権2
登録番号 意匠登録第 1313704 号
出願日 平成19年2月2日(以下「本件出願日2」という。)
登録日 平成19年9月28日
意匠に係る物品 指マッサージ器
5 図面 別紙意匠公報(上記登録番号のもの)記載の図面(以下「本
件図面2」という。)のとおり(本件図面2中、実線で表した部分が部分意匠とし
て意匠登録を受けた部分である。)
(3) 被告の行為等
ア 被告は、遅くとも、被告製品1については平成27年10月以降、被告製品
10 2については令和元年8月以降、それぞれ製造、輸入、販売している(ただし、後
記のとおり、被告各製品の販売の終期については当事者間に争いがある。)。
イ 被告各製品の形態は、それぞれ、別紙「被告製品1の構成」及び「被告製品
2の構成」のとおりである(以下、被告各製品の意匠をそれぞれ「被告意匠1」な
どといい、両者を併せて「被告各意匠」という。)。
15 ウ 被告製品1は本件意匠1に係る物品である「頭部マッサージ具」に、被告製
品2は本件意匠2に係る物品である「指マッサージ器」に、それぞれ相当する。す
なわち、被告各製品の意匠(被告各意匠)に係る物品と本件各意匠に係る物品は、
それぞれ同一である(弁論の全趣旨)。
3 争点
20 (1) 本件意匠権1について
ア 本件意匠1と被告意匠1の類否(争点1)
イ 無効理由の有無(争点2)
(2) 本件意匠権2について
本件意匠2と被告意匠2の類否(争点3)
25 (3) 原告の損害額ないし損失額(争点4)
第3 当事者の主張
1 本件意匠1と被告意匠1の類否(争点1)
〔原告の主張〕
(1) 本件意匠1の構成態様
本件意匠1の構成態様は、別紙「本件意匠1の構成態様」の「原告の主張」欄記
5 載のとおりである。
(2) 被告意匠1の構成態様
被告意匠1の構成態様は、別紙「被告意匠1の構成態様」の「原告の主張」欄記
載のとおりである。
(3) 本件意匠1と被告意匠1の対比
10 本件意匠1と被告意匠1とを対比すると、基本的構成態様 A1 と a1、具体的構成
態様 C1 及び D1 と c1 及び d1 の全てにおいて共通する。
(4) 本件意匠1の要部
ア 本件意匠1の需要者は頭部をマッサージする者であるところ、頭部に対する
マッサージは、本件意匠1が部分意匠として特定された箇所によって施される。こ
15 のことに鑑みれば、本件意匠1の要部は、当該箇所から感得される全体を大掴みし
た形状を中心に特定されるべきである。
また、本件意匠1の需要者は、頭部マッサージ具において、腕に余計な力を入れ
ずとも地肌に力が届き、爪が長くても頭皮を傷つけることなく程よい力加減でマッ
サージでき、あたかも人の手でマッサージされているような感覚であることなどに
20 着目しているところ、このような作用効果は、本件意匠1の基本的構成態様 A1、
具体的構成態様 C1 及び D1 の配置ないし組合せにより実現することが企図されて
いる。したがって、頭部マッサージ具の需要者は、これらの各部材ないし形状等の
配置ないし組合せに特に注意を惹かれるといえる。すなわち、本件意匠1では、人
の手と同じように熊手状に分岐させつつ緩やかに湾曲させた5本の枝部により、腕
25 に余計な力を入れなくても地肌に程良い力を届け、人の手でマッサージされている
ような感覚を実現しつつ、同枝部の先端に形成された各涙滴状部により使用者の頭
皮を傷つけることなく頭部を程よく刺激できるように形成されており、このような
形状を備えることにより、中央の枝部を中心にシンメトリックに配置された5本の
枝部が基端から先端に至るまで緩やかな曲線により形成されることで柔らかく軽や
かで優美な印象(美感)を看者に与える。
5 したがって、本件意匠1においては、基本的構成態様 A1、具体的構成態様 C1 及
び D1 の配置ないし組合せが要部とされるべきである。
イ 被告指摘に係る公知意匠について
被告指摘に係る登録実用新案第 3041384 号公報(乙2。以下「乙2文献」とい
う。)記載の意匠(以下「乙2意匠」という。)及び米国特許公報(US6,994,680
10 B1。乙3。以下「乙3文献」という。)記載の意匠(以下「乙3意匠」という。
また、これと乙2意匠を併せて「本件公知意匠1」という。)は、いずれも背中な
ど手の届かない身体の箇所を掻くために用いられる孫の手であり、本件意匠1とは
物品において同一ではなく、類似もしていない。同一でも類似でもない物品の形状
から意匠の要部を認定することは認められないから、本件公知意匠1は、本件意匠
15 1の要部を認定する上で参酌されるべきではない。そうすると、本件意匠1の出願
前にはその要部を特定する上で参酌されるべき公知意匠は存在しなかったことにな
るから、その要部を殊更に限定して特定すべきではない。
仮に本件公知意匠1の構成態様を踏まえたとしても、乙2意匠は基端から伸びる
5本の枝部が板状であって柄の長手方向に沿って同じように湾曲しながら伸びて先
20 端にて丸まった形状をしている。また、乙3意匠は人間の指を模した5本の枝部が
基端から伸びる形状をしているに過ぎない。このため、本件公知意匠1は、本件意
匠1のような美感を想起させることもない。
ウ 被告指摘に係る後願意匠について
本件意匠1の要部の認定が出願後の意匠により影響されることはない。
25 また、被告指摘に係る意匠登録第 1516211 号公報(乙4。以下「乙4文献」と
いう。)記載の意匠(以下「乙4意匠」という。)は、先端に金属球を備える点に
大きな特徴があり、枝部の先端において涙滴状に膨らんで形成されているとは評価
できないし、先端に金属球を備えるという別の構成によって登録が認められたと解
される。
意匠登録第 1551631 号公報(乙5 。以下「乙5文献」という。 )記載の意匠
5 (以下「乙5意匠」という。また、これと乙4意匠を併せて「本件後願意匠」とい
う。)は、人体の手を模したものであり、枝部の基端から先端まで熊手状になって
いるとは評価できないし、枝部の先端において涙滴状に膨らんで形成されている態
様も見られない。したがって、仮に本件意匠1の要部の認定に際して本件後願意匠
を参酌するとしても、基本的構成態様 A1、具体的構成態様 C1 及び D1 の態様が本
10 件意匠1の要部と特定されることに変わりはない。
エ 被告のその余の主張について
本件意匠1の実施品である原告の製品(以下「原告製品1」という。)を需要者
が実際の店舗等で見かけた場合、本件図面1の斜視図(1)等のような斜め方向から
見た立体的な形状を認識し、一の側面から注視することはおよそないところ、被告
15 指摘に係る具体的構成態様 C1-2 及び E1-2 は、需要者が斜め方向からみた立体的形
状において認識できないものであるため、需要者の注目の程度は低く、また、当業
者が長時間注視してようやく認識できる程度の形態である。数百円から1000円
前後で販売される日用品である頭部マッサージ具の需要者が、それほどまでに詳細
な形状に注目することはあり得ない。
20 (5) 本件意匠1と被告意匠1の類否
前記(3)のとおり、被告意匠1は、基本的構成態様及び具体的構成の全てにおい
て本件意匠1と共通することから、要部において共通し、本件意匠1と類似する。
仮に本件意匠1と被告意匠1の構成態様において被告指摘に係る差異点があると
しても、当該差異点は、いずれも頭部マッサージ具の作用効果等と関連性を有しな
25 い形状に関するものである。また、需要者は、本件意匠1及び被告意匠1に係る物
品を斜め上方向から見た立体的な形状として認識するところ、当該差異点は、需要
者には斜め方向から見た立体的な形状において捉えづらい態様である。このため 、
当該差異点は、いずれも需要者が特に注意を払うものではなく、本件意匠1と被告
意匠1の共通性の中に埋もれる程度の微差であって、全体的な美感に影響を及ぼす
ものではない。
5 〔被告の主張〕
(1) 本件意匠1の構成態様
本件意匠1の構成態様は、別紙「本件意匠1の構成態様」の「被告の主張」欄記
載のとおりである。
本件意匠1に係る物品は「頭部マッサージ具」であることから、需要者は、頭部
10 へのマッサージ効果に影響をもたらす枝部の形状に注目するといえる。また、涙滴
状部を含む枝部の形状は一見して明らかである。したがって、本件意匠1を大掴み
に把握すると、構成態様 A1-2 及び B1-2 をもって基本的構成態様として特定される
べきである。
さらに、枝部の湾曲の程度が枝部によって異なることは本件図面1の平面図から
15 一見して明らかであり、その結果、各涙滴状部が全体として弧を描くように配置さ
れていることも、左右各側面図から容易に理解できる。また、正面図からは、枝部
が外側に広がるように湾曲しているだけでなく、各涙滴状部が等間隔に並んでいる
こと、その距離が涙滴状部約2個分であることが把握される。したがって、構成態
様 C1-2~E1-2 をもって具体的構成態様として特定すべきである。
20 (2) 被告意匠1の構成態様
被告意匠1の構成態様は、別紙「被告意匠1の構成態様」の「被告の主張」欄記
載のとおりである。
(3) 本件意匠1と被告意匠1の対比
本件意匠1と被告意匠1は、基本的構成態様においてはいずれも共通しているが、
25 具体的構成態様に共通点はなく、以下の差異点のみが存在する。
ア 差異点1-1
本件意匠1は、中央の枝部を中心として外側になるにつれてより熊手状に湾曲す
るように形成されている。すなわち、本件意匠1は、平面視において、中央の枝部
からひとつ外側にある2つの枝部が中央の枝部に比して僅かに熊手状に湾曲し、最
も外側にある2つの枝部が中央部のひとつ外側にある枝部に比してさらにきつく熊
5 手状に湾曲し、その結果、各側面視において、各枝部の先端にある各涙滴状部が全
体として弧を描くように配置されている。
これに対し、被告意匠1における各枝部は、揃って熊手状に湾曲し、その湾曲の
程度に差がない。その結果、各側面視において、各枝部の先端にある各涙滴状部は
全体として直線状に配置されている。
10 イ 差異点1-2
正面視において、本件意匠1の中心の枝部はほぼ直線状にまっすぐ延び、その各
隣の枝部は外側に広がるように湾曲しており、一番外側の各枝部はさらにきつく外
側に広がるように湾曲している。
これに対し、被告意匠1の中心の枝部はほぼ直線状にまっすぐ延びているものの、
15 その各隣の枝部は外側に広がるように僅かに湾曲し、一番外側の各枝部はきつく外
側に湾曲している。また、一番外側の各枝部は、先端から3分の1のところで大き
く湾曲し、内側に入り込んでいる。
ウ 差異点1-3
正面視において、本件意匠1の各涙滴状部は涙滴状部約2個分離れているのに対
20 し、被告意匠1は涙滴状部約1個分離れているにとどまる。
(4) 本件意匠1の要部
ア 需要者が注意を惹かれる部分
本件意匠1に係る物品は頭部マッサージ具であり、その需要者としては、頭部を
マッサージするために頭部マッサージ具を購入する顧客が想定される。頭部マッサ
25 ージ具の用途や使用態様からすると、需要者は、本件意匠1のうち頭部に触れる部
分である枝部や涙滴状部の形状、中でも、頭部へのフィット感を左右する要素であ
る枝部の湾曲具合や涙滴状部の配置に注目する。本件意匠1の実施品である原告製
品1つき、原告は、そのパッケージの記載や原告の運営するウェブサイト(以下
「原告サイト」という。)での表示において、ヘッドラインに沿ったマッサージが
できる形状として、湾曲された枝部の先端に形成された涙滴状部が弧を描くように
5 配置されていることをアピールしている。需要者も、原告製品1のこのような形状
を評価している。
高価ではない日用品の需要者にとっても、製品のデザインは重視されており、製
品デザインを詳細に観察することは十分に想定し得る。
イ 公知意匠等
10 孫の手は、一般的には背中等の手の届かないところを掻くために用いる器具であ
るものの、頭皮等をマッサージする器具としても使用できる。
乙2文献の図1及び図2に示される孫の手の形状(乙2意匠)は、先端が5本に
分かれ櫛状となっており、基端から先端までが熊手状に湾曲し、先端部は丸みを帯
びている。また、乙3文献の図1に示される孫の手の形状(乙3意匠)は、人間の
15 右手を象った装置を棒に取り付けた構成であり、基端から5本に分岐した指に見立
てた棒がついている。
これらの本件公知意匠1は、いずれも本件意匠1の意匠登録出願前に公知になっ
た意匠であるところ、本件意匠1のうち、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部を
有する形状と5本に分岐した枝部を基端から先端まで熊手状に湾曲させる形状は 、
20 これらの本件公知意匠1により公知な形状である。元来、マッサージは人の手によ
ってなされていたところ、頭部を掻く等のマッサージを施す場合には、丸棒状で5
本に分岐した手指を熊手状に曲げることが多い。本件公知意匠1の形状は、このよ
うな人間の手指に合わせて創作されたものといえ、ありふれた形状に過ぎず、需要
者の関心を強く惹く部分ではないから、この形状は本件意匠1の要部ではない。
25 このことは、本件後願意匠が、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部について基
端から先端まで熊手状に湾曲させる形状において共通するにもかかわらず意匠登録
されたことからもうかがわれる。なお、乙4意匠について、金属球に特徴があるこ
とと上記形状がありふれた形状であることとは矛盾しない。
ウ 本件意匠1の要部
以上より、本件意匠1の要部は、基本的構成態様 B1-2 及び具体的構成態様 C1-2
5 ~E1-2 である。
(5) 本件意匠1と被告意匠1の類否
ア 共通点について
本件意匠1と被告意匠1の共通点のうち、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部
を基端から先端まで熊手状に湾曲させて形成されている点(基本的構成態様 A1-2
10 と a1-2)は、本件公知意匠1にも見られるありふれた形状であり、本件意匠1の
要部ではない。
また、枝部の先端に「涙滴」状に膨らんだ涙滴状部が形成されている点(基本的
構成態様 B1-2 と b1-2)についても、身体に触れる部分につき丸みを帯びた形状を
採用した公知意匠は存在し(乙2意匠)、涙滴状部を設けて先端に丸みを持たせた
15 こと自体珍しいことではない。さらに、本件意匠1において、涙滴状部の幅は枝部
の幅とほとんど同じであるため、涙滴状部が目立つことはなく、需要者の関心を強
く惹くこともない。
イ 差異点について
(ア) 差異点1-1
20 差異点1-1は、本件意匠1の要部である具体的構成態様 C1-2 に関するもので
あり、本件意匠1と被告意匠1は、枝部の熊手状の湾曲の程度が大きく相違する。
需要者は、頭部に触れる部分である枝部及び涙滴状部の形状に注目するところ、
各枝部の湾曲具合が異なる場合と揃っている場合とでは、頭部に触れる箇所や施術
範囲が変わってくるため、そのような形状の差異は需要者に対し異なった印象を与
25 える。また、各涙滴状部の配置態様について、弧を描くように配置する場合と直線
状に配置する場合とでは各涙滴状部の描く図形が異なるため、需要者に与える美感
は全く異なる。
(イ) 差異点1-2
差異点1-2は、本件意匠1の要部である具体的構成態様 D1-2 に関するもので
ある。正面視にて、本件意匠1における中央の枝部の外側の各枝部は大きく外側に
5 広がるように湾曲しているのに対し、被告意匠1においては、中央の枝部の1つ外
側の各枝部は僅かしか湾曲せず、一番外側の各枝部は、きつく外側に湾曲するもの
の、先端から3分の1のところで大きく湾曲し内側に入り込んでいる。被告意匠1
のこの一番外側の各枝部の形状は非常に独特のものであり、本件意匠1に比して横
幅が狭く纏まった印象を与えることから、需要者にとって美感が大きく異なる。
10 (ウ) 差異点1-3
差異点1-3は、本件意匠の要部である具体的構成態様 E1-2 に関するものであ
るところ、これにより、被告意匠1は本件意匠1よりも横幅が狭く纏まった印象を
与え、正面視においても横幅が異なることから、両意匠の美感は全く異なる。
(エ) 本件意匠1と被告意匠1の形状の違いは、頭部にマッサージ効果を与える方
15 法が本件意匠1に係る物品(原告製品1)と被告製品1とで異なることに由来する。
すなわち、原告製品1は、柄の部分を手で持ち、本件意匠1に係る部分を頭部のラ
インに沿って動かすことで、頭部の広い範囲をマッサージすることを想定し、頭部
のラインに沿うように涙滴状部を弧型に配置し、その間隔も広くとっている。他方、
被告製品1は、電源を入れることで枝部が振動する構造になっており、頭部の特定
20 の箇所に当てて振動させることでピンポントにマッサージをすることを想定し、頭
部のラインに沿わせることをそもそも想定しておらず、振動を均一に伝えるという
観点から枝部の湾曲具合や涙滴状部の配置を揃えている。
ウ 小括
以上のとおり、本件意匠1と被告意匠1は、基本的構成態様において共通するも
25 のの、具体的構成態様において差異点が複数存在し、それらは全て需要者の注意を
強く惹く要部に関するものであり、それぞれ需要者に全く異なる印象を与える。両
意匠の共通点である基本的構成態様は、要部ではないか、少なくとも需要者の関心
を強く惹くものではなく、差異点から受ける印象を凌駕するものではない。
したがって、被告意匠1は本件意匠1と類似しない。
2 無効理由の有無(争点2)
5 〔被告の主張〕
本件意匠1の実施品である原告製品1は、EC サイト(Amazon.co.jp。以下「本
件サイト」という。)において 取扱い開始日が「2007/12/10」と表示されている
(以下「本件表示」という。)とおり、本件出願日1(平成20年3月6日)より
も前の平成19年12月10日より本件サイトでの取扱いが開始されている。この
10 ため、本件意匠1は、意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠(法3
条1項1号)として新規性を喪失している。
したがって、本件意匠権1に係る意匠登録は、法3条1項1号に違反してされた
ものとして無効審判により無効にされるべきものであるから(法48条1項1号)、
原告は、被告に対し、本件意匠権1を行使することができない(法41条、特許法
15 104条の3第1項)。
〔原告の主張〕
(1) 原告製品1の初回販売日
原告製品1は、本件出願日1より前の平成19年12月10日に販売されたもの
ではない。
20 原告製品1は、平成19年10月26日にデザインの原案が創作され、平成20
年3月4日にこれに用いられる樹脂原料が決定し、また、同月頃に金型が完成する
と共に、パッケージ台紙用の木型が発注され、本件出願日1より後の平成20年3
月27日に初回分が販売されたものである。
(2) 本件サイトの表示について
25 原告製品1は、本件サイトにおいて多数の出品者を通じて販売されているところ、
本件サイトの「取り扱い開始日」は、出品者が商品登録画面の「販売開始日」欄に
任意に入力した日付が表示されるため、真実の販売開始日が表示されるとは限らな
い。入力の誤りや入力する業者側の事情等により「取り扱い開始日」欄に真実の販
売開始日が表示されないことは十分にあり得る。
3 本件意匠2と被告意匠2の類否(争点3)
5 〔原告の主張〕
(1) 本件意匠2の構成態様
本件意匠2の構成態様は、別紙「本件意匠2の構成態様」の「原告の主張」欄記
載のとおりである。
(2) 被告意匠2の構成態様
10 被告意匠2の構成態様は、別紙「被告意匠2の構成態様」の「原告の主張」欄記
載のとおりである。
(3) 本件意匠2と被告意匠2の対比
本件意匠2と被告意匠2とを対比すると、基本的構成態様 A2 と a2、具体的構成
態様 E2 及び K2 と e2 及び k2 の全てにおいて共通する。
15 (4) 本件意匠2の要部
ア 要部
本件意匠2の需要者は指部をマッサージする者である。需要者は、柄を把持し、
略棒状で一対の支持部を設けた箇所の先端に設けられた車輪状の部材等によってマ
ッサージを行う。このことに鑑みれば、本件意匠2の要部は、本件図面2のうち破
20 線で示された箇所を除く部分から感得される全体を大掴みした形状を中心に特定さ
れるべきである。
また、本件意匠2の需要者は、指マッサージ器における指の挟みやすさ、柄のつ
まみやすさ、柄をつまんだ力の指への伝わりやすさ、力加減のしやすさ及び人の手
でマッサージされるのとは全く異なる心地良さなどの作用効果に注目し、無意識的
25 にこのような作用効果に関連する構成態様へと意識を向ける。このような作用効果
は、基本的構成態様 A2、具体的構成態様 E2 及び K2 を組み合わせた総合的な構造
等により実現することが企図されている。したがって、需要者は、これらの各部材
ないし形状等の総合的な構成態様等に特に注意を惹かれるといえる。
したがって、基本的構成態様 A2 と具体的構成態様 E2 及び K2 を組み合わせた総
合的な構造等が本件意匠2の要部である。
5 イ 公知意匠について
被告指摘に係る意匠登録第 1291048 号公報(乙10。以下「乙10文献」とい
う。)記載の意匠(以下「乙10意匠」という。)及び意匠登録第 1286474 号公
報(乙11。以下「乙11文献」という。)記載の意匠(以下「乙11意匠」とい
う。また、これと乙10意匠を併せて「本件公知意匠2」という。)は、それぞれ
10 顔や首をマッサージするために用いられる美容用ローラーであり、本件意匠2に係
る物品である指マッサージ器とは用途・機能・効能が異なるから、物品において同
一でもなく類似もしない。また、本件公知意匠2は、その性質上、指マッサージ器
より大きく、需要者が指マッサージ器と見比べるものでもない。これらの事情から、
本件公知意匠2は、本件意匠2の要部を認定する上で参酌されるべきではない。そ
15 うすると、本件意匠2の出願前には本件意匠2の要部を特定する上で参酌されるべ
き公知意匠は存在しなかったことになるから、その要部を殊更に限定して特定すべ
きではない。
仮に本件公知意匠2の各構成態様を踏まえたとしても、乙10意匠は、角が丸い
平板状の柄の一端から、先端にてローラーを挟持する棒状の支持部2本が一対とし
20 て緩やかに対称に湾曲しながら伸びている態様をしており、乙11意匠は、棒状で
U 字状に形成された柄の一端から、先端にてローラーを支持する棒状の支持部2本
が一対として緩やかに対称に湾曲しながら伸びている態様をしているに過ぎない 。
このため、本件意匠2の基本的構成態様 A2 並びに具体的構成態様 E2 及び K2 は、
本件公知意匠2には見られず、また、本件意匠2に係る美感を想起させることもな
25 い。したがって、仮に本件意匠2の要部の認定に当たり本件公知意匠2を参酌する
としても、需要者は、これらの態様に注意が惹かれ、強く印象に残る。
ウ 後願意匠について
本件意匠2の要部の認定が出願後の意匠により影響されることはない。
また、被告指摘に係る意匠登録第 1396724 号公報(乙23。以下「乙23文献」
という。)記載の意匠(以下「乙23意匠」という。)は、吊下げ紐等を挿通する
5 透孔を形成した柄の形状に特徴があるとされているところ、本件意匠2にそのよう
な透孔は存在しないことから、このような透孔の存在により意匠登録を受けたもの
である。加えて、柄と支持部の形状も、本件意匠2とは異なる。このように、乙2
3意匠は本件意匠2の構成態様とは異なる。
エ その余の被告の主張について
10 本件意匠2は図面としてその形態を表しているため、被告指摘に係る支持部の内
側部分の略 V 字状のくぼみ及びそれに関連する稜線や傾斜面が現物以上に強調され
て視認される。しかし、本件意匠2の実施品(以下「原告製品2」という。また、
これと原告製品1を併せて「原告各製品」という。)を実際の店舗等で見たとき、
需要者は、斜め方向から見た立体的な形状として認識するところ、その場合、それ
15 らの態様は視認しにくくなる。
また、被告が要部と主張する各構成態様は、全て柄や支持部の極めて微細な形状
に着目するものであり、いずれも指マッサージ器の需要者が特に注目している作用
効果と何ら関連性を有するものではなく、また、当業者が長時間注視してようやく
認識できる程度の形態であり、数百円から1000円前後で販売される日用品であ
20 る指マッサージ器の需要者がそれほどまでに詳細な形状に着目することはあり得な
い。
(5) 本件意匠2と被告意匠2の類否
前記(3)のとおり、被告意匠2は、基本的構成態様及び具体的構成の全てにおい
て本件意匠2と共通することから、要部において共通する。さらに、本件意匠2の
25 支持部の柄が先端側において二股に分岐して並走する態様(基本的構成態様 A2)
は、本件公知意匠2と比較しても本件意匠2及び被告意匠2にしか見られない特有
の形状であり、被告も、その運営管理する通販サイト(以下「被告サイト」とい
う。)において、被告製品2のうち、柄より先端側において平面視にて二股に分岐
し並走する略棒状で一対の支持部を、積極的に需要者に視認されやすいように手前
側に配置しており、そのような支持部が需要者の注意を強く惹いている。
5 以上のとおり、本件意匠2と被告意匠2は、その共通点が指マッサージ器の要部
であり、また、略 U 字状の板状の柄のそれぞれの先端側において、略棒状の支持部
が二股に分岐してやや大きく外側に膨らんで湾曲し対をなして形成されることで機
能的で洗練されながらも穏やかで優しい印象を看者に与え、需要者に共通の美感を
想起させるものである。このため、仮に被告指摘に係る差異点があるとしても、そ
10 の差異点は両意匠の共通性の中に埋もれる程度の微差であり、全体的な美感に影響
を及ぼすものではない。
したがって、被告意匠2は、本件意匠2と類似する。
〔被告の主張〕
(1) 本件意匠2の構成態様
15 本件意匠2の構成態様は、別紙「本件意匠2の構成態様」の「被告の主張」欄記
載のとおりである。
平面視における支持部の形状は、手持ち部側から先端に向かうにつれて細くなっ
ており、単なる略棒状ではない。また、平面視において支持部に大きなくぼみが設
けられており、本件意匠2の全体的な骨格として、くぼみが基本的構成態様として
20 特定されるべきである。
さらに、平面視にて把持部に略 V 字状の同くぼみが存在することは一見して明ら
かであること、支持部内縁の空洞が需要者にとって美感に影響を与える構成である
ことから、これらの形状も具体的構成態様として特定されるべきである。
(2) 被告意匠2の構成態様
25 被告意匠2の構成態様は、別紙「被告意匠2の構成態様」の「被告の主張」欄記
載のとおりである。
平面図における支持部の内縁が略 U 字状であること及び略棒状の一対の支持部の
太さが略一定であることは、基本的構成態様として特定されるべきである。また、
原告主張に係る具体的構成態様は、被告意匠2を正面視にて観察したときの外縁を
特定しているに過ぎず、極めて不十分であり、特に、支持部内縁側の空洞は一見し
5 て明らかであり、被告意匠2全体に占める比率が大きいことから、具体的構成態様
として特定されるべきものである。
(3) 本件意匠2と被告意匠2の対比
ア 共通点
本件意匠2と被告意匠2は、基本的構成態様につき、A2-2 及び B2-2 と a2-2 及
10 び b2-2 が共通すると共に、C2-2 と c2-2 のうち、把持部に、二股に分岐した略棒状
の一対の支持部を有する点が共通する。
また、具体的構成態様につき、D2-2 及び E2-2 と d2-2 及び e2-2 のうち、手持ち
部の板状の形状は、平面図において、把持部側が最も太く中間部にかけて緩やかに
幅が狭くなり、正面図において、把持部側から緩やかに内側に向かって湾曲してい
15 る点と、G2-2 と g2-2 のうち、支持部の外縁は、平面図において、手持ち部側から
把持部の中間部にかけて緩やかに外側に広がった後、中間部から支持部の先端にか
けて緩やかに内側に湾曲している点が共通する。
イ 差異点
本件意匠2と被告意匠2には、以下の差異点がある。このうち、差異点2-1及
20 び2-2は基本的構成態様に関するもの、その余は具体的構成態様に関するもので
ある。
(ア) 差異点2-1
本件意匠2は、支持部の内側部分に、略 V 字状のくぼみを備えているのに対し、
被告意匠2は、支持部の内側部分にそのようなくぼみが設けられていない(C2-2
25 の一部)。
(イ) 差異点2-2
本件意匠2の略棒状の支持部は手持ち部から先端に向かうにつれて細くなるのに
対し、被告意匠2は略一定の太さである(C2-2 と c2-2 の一部)。
(ウ) 差異点2-3
本件意匠2の手持ち部の板状の形状は、平面図において、中間部から末端にかけ
5 て極めて緩やかに幅が広くなっており、正面図において、末端が略半円状に形成さ
れている。これに対し、被告意匠2の手持ち部の板状の形状は、平面図において、
中間部から末端に至るまで幅が一定であり、正面図において、末端が略「コ」字状
に形成されている(D2-2 及び E2-2 と d2-2 及び e2-2 の各一部)。
(エ) 差異点2-4
10 正面図から見た略 U 字状の手持ち部の厚さにつき、本件意匠2は概ね平面図から
見た板状の手持ち部の幅の3分の1から2分の1程度であるのに対し、被告意匠2
は、5分の1から4分の1程度である(F2-2 と f2-2)。
(オ) 差異点2-5
本件意匠2の支持部の内縁は、平面図において、先端から手持ち部側に向かうに
15 つれて大きく窄まり、略 V 字状であるのに対し、被告意匠2の支持部の内縁は、平
面図において、手持ち部側部分において緩やかに窄まり、略 U 字状である(G2-2
と g2-2 の一部)。
(カ) 差異点2-6
本件意匠2の支持部の内側部分に略 V 字状に形成されたくぼみは、先端部から手
20 持ち部側にかけて徐々に幅が広くなるよう形成されているのに対し、被告意匠2の
支持部の内側部分には、くぼみは存在しない(H2-2 と h2-2)。
(キ) 差異点2-7
支持部の断面図につき、本件意匠2は角丸四角形からくぼみ部分が欠けた形状と
なっているのに対し、被告意匠2は、やや縦が長く角が少し丸みを帯びた長方形状
25 になっている(I2-2 と i2-2)。
(ク) 差異点2-8
平面図における一対の支持部の間につき、本件意匠2は、全体の長手方向の長さ
の約7分の2にわたる空洞となっているのに対し、被告意匠2は、約2分の1にわ
たる空洞となっている(J2-2 と j2-2)。
(4) 本件意匠2の要部
5 ア 需要者が注意を惹かれる部分
本件意匠2に係る物品は指マッサージ器であるから、その需要者は指マッサージ
器の使用者である。片手で指マッサージ器を持ち、もう片方の手の指をローラーに
挟む方法でマッサージするという指マッサージ器の通常の使用態様に鑑みれば、需
要者は、同器具につき、指を挟むローラーの把持部の平面図側及び斜視図側から常
10 に視認することとなる。そうすると、需要者は、平面図において支持部の内側部分
に大きく V 字状のくぼみを設けたユニークなデザインに目を奪われることになる。
また、上記使用態様からは、マッサージしている指に適切な力を加えることができ
るかという観点やつかみやすさの観点から、平面図や斜視図における全体的なバラ
ンスや厚みに目を奪われるといえる。現に、原告も、需要者に対し、斜め平面視か
15 ら胴長の実施品の全体を示すと共に、くぼみが存在する把持部部分の形状を強調す
る態様で宣伝広告をしており、また、通販サイトや原告製品2等の使用者の商品紹
介ブログにおいても同様の表示がされている。
他方、本件意匠2の平面図において一対の支持部がローラーを両端から挟むよう
な形状をしている点は、指マッサージ器のローラーを回転させるという機能上必要
20 な形態であって、公知意匠にも見られるありふれた形態であり、特に需要者の注意
を強く惹くものとはいえない。
指マッサージ器のような高価でない日用品の需要者にとっても製品のデザインは
重視されており、製品デザインを詳細に観察することは十分に想定し得る。
イ 公知意匠等
25 乙10意匠に係る物品は素肌マッサージ用美容ローラー、乙11意匠に係る物品
は顔用マッサージローラーであって、本件公知意匠2の用途はいずれもマッサージ
である。また、その使用態様は、片手でマッサージ器を持ち、顔をローラーで挟む
というものであって、本件意匠2とは、ローラーで挟む対象が指か顔かという点に
違いがあるのみである。したがって、本件公知意匠2に係る物品は、本件意匠2に
係る物品である指マッサージ器と類似する。
5 乙10意匠においては、ローラーは2つ備えられ、各々が一対の支持部によりそ
の両端を把持されている。また、支持部の外縁は、平面図において、手持ち部側か
ら中間部にかけて外側に広がっており、支持部の内縁が、先端から手持ち部側に向
かうにつれて大きく窄まっている。
乙11意匠は、全体がローラーを把持する本体であって、実際に手で掴む「手持
10 ち部」とローラーを把持する「把持部」とからなる。このうち手持ち部は、正面図
において、略 U 字状にくびれを加えた形状をしている。
以上によれば、全体がローラーを把持する本体であって、実際に手で掴む「手持
ち部」とローラーを把持する「把持部」とからなる形状は公知な形状であるから、
このような形状は、本件意匠2の要部とは評価できない。また、ローラーを2つ備
15 え、各々の両端を略棒状の一対の支持部により把持する形状も公知な形状であるか
ら、本件意匠2の要部とはいえない。さらに、正面図において、略 U 字状の形状は
ありふれた形状であるし、手持ち部がくびれた形状自体もありふれたものであるか
ら、正面図において、手持ち部が略 U 字状となっていることも、本件意匠2の要部
ではない。
20 ウ 後願意匠
乙23意匠は、本件意匠2と比較した場合、平面視(乙23意匠における正面図
側)において支持部の内側部分にくぼみが存在しない点が大きく相違し、これによ
り両意匠は美感を異にしている。このような乙23意匠を参酌すれば、少なくとも、
平面視において支持部の内側部分にくぼみが存在するか否かは指マッサージ器の意
25 匠の美感に大きな影響を与える要素であると評価すべきである。
エ 本件意匠2の要部
以上によれば、本件意匠2の要部は、基本的構成態様のうち、二股に分岐した略
棒状の一対の支持部が手持ち部側から先端に向かうにつれて細くなり、支持部の内
側部分に略 V 字状のくぼみを備えている点(C2-2)と、具体的構成態様のうち、
くぼみの幅が先端部から手持ち部側にかけて徐々に広くなっている点( H2-2)、
5 支持部の断面図が角丸四角形からくぼみが欠けたような形状となっている点( I2-
2)、平面図において、支持部内縁側が本件意匠2の全体の長手方向の長さの約7
分の2にわたる空洞となっている点(J2-2)、及び正面図から見た略 U 字状の手持
ち部の厚さが、概ね平面図から見た板状の手持ち部の幅の3分の1から2分の1程
度である点(F2-2)である。
10 (5) 本件意匠2と被告意匠2の類否
ア 共通点について
本件意匠2と被告意匠2の共通点は、いずれも、本件公知意匠2に属し需要者の
注意を惹かないありふれた形状ないし機能との関係で指マッサージ器の構造上必要
な形状のものであるか、その変化が極めて小さく、需要者の注意を惹くとはいえな
15 いものであるため、本件意匠2の要部における共通点とはいえない。
したがって、これらの共通点をもって、本件意匠2と被告意匠2とが美感を共通
にするとはいえない。
イ 差異点について
(ア) 差異点2-1及び2-2
20 需要者である指マッサージ器の使用者は、平面側ないし斜面側から本件意匠2を
観察することとなり、支持部の内側に大きくくぼみを設けたユニークなデザインや、
平面図や斜視図における全体的なバランスや厚みに目を奪われる。本件意匠2は、
全体的に厚みがあり、重厚感のあるデザインであるところ、支持部内側部分にこの
ようなくぼみを設けると共に、略棒状の支持部を手持ち部側から先端に向かうにつ
25 れて細くすることで、把持部にシャープな印象を加え、デザインを引き締める役割
を果たしている。とりわけ、指を挟むローラーの把持部は指マッサージ器の使用者
にとって重要であり注意を最も惹きやすい部分であるため、このようなシャープさ
は需要者に強烈な印象を与える。
他方、被告意匠2には、本件意匠2のようなくぼみは設けられておらず、略棒状
の支持部の太さも略一定であることから、使用者に本件意匠2のようなシャープな
5 印象を与えない。
このように、両意匠のくぼみの有無、略棒状の支持部の形状という基本的構成態
様の差異点2-1及び2-2は、需要者に対し、全く異なった美感を生じさせる。
(イ) 差異点2-3
平面図及び正面図における手持ち部の板状の形状に関する差異点2-3により、
10 手持ち部において、本件意匠2は柔らかそうな印象を与えるのに対して、被告意匠
2は角張った印象を与える。これにより、両意匠は、需要者に全く異なった美感を
与える。
(ウ) 差異点2-4
正面図における手持ち部の厚さに関する差異点2-4により、手持ち部につき、
15 本件意匠2はその厚さが全体として分厚い印象を与えるのに対して、被告意匠2は
全体として薄い印象を与える。需要者は、指マッサージ器を手で持つため、その分
厚さについても注意を惹かれるところ、このような厚さの違いは、需要者に全く異
なった美感を与える。
(エ) 差異点2-5
20 平面図における支持部の内縁の形状に関する差異点2-5により、同形状につき、
本件意匠2は引き締まった印象を与えるのに対し、被告意匠2は緩やかな印象を与
える。需要者は、指を挟んだ際にどこまで自分の指が見える形状かにも注意を惹か
れるところ、このようなローラーと二股の分岐の間の空間の広さの違いは、需要者
に全く異なった美感を与える。
25 (オ) 差異点2-6
くぼみの形状に関する差異点2-6により、本件意匠2はシャープな印象を与え
る。このため、本件意匠2とそもそもそのようなくぼみが形成されていない被告意
匠2とは、需要者に全く異なった美感を与える。
(カ) 差異点2-7
支持部の断面図の形状に関する差異点2-7により、本件意匠2は、角丸四角形
5 からくぼみ部分が欠けた形状により外側から見れば柔らかな印象を与え、内側から
見ればシャープな印象を与えるという両面性のあるデザインであるのに対し、少し
丸みを帯びた四角状の被告意匠2は角張った印象を与える。このような形状の違い
は、需要者に全く異なった美感を与える。
(キ) 差異点2-8
10 一対の支持部の間の空洞の全体に占める割合に関する差異点2-8により、本件
意匠2は胴長な印象を与えるのに対し、被告意匠2は脚長な印象を与える。このよ
うに、差異点2-8は、需要者に全く異なった美感を与える。
ウ 小括
以上のとおり、本件意匠2と被告意匠2は、基本的構成態様において大きな差異
15 がある上、具体的構成態様においても、需要者の注意を強く惹く要部において数多
くの差異点を有する。これらの差異点により、本件意匠2は、全体的に厚み、重厚
感がありながら把持部がシャープで引き締まっており、かつ、胴長な印象を与える
のに対し、被告意匠2は、全体的に薄く、把持部は緩やかであり、かつ、脚長な印
象を与えるため、両意匠が与える美感の差異は大きい。両意匠にはいくつかの共通
20 点があるものの、差異点が共通点による美感の同一性を上回っており、全体として
は、本件意匠2と被告意匠2が与える美感は全く異なる。
したがって、本件意匠2と被告意匠2とは類似しない。
4 原告の損害額ないし損失額(争点4)
〔原告の主張〕
25 (1) 被告製品1
ア 売上額
(ア) 販売数量
被告は、平成26年5月27日~平成31年3月18日の間、被告製品1を少な
くとも●(省略)●個輸入し、平成27年10月~令和3年3月の間にこれを販売
した。その間の月別販売数量は、別紙「被告各製品売上表(原告主張)」の「被告
5 製品1(不当利得期間)」及び「被告製品 1(損害賠償期間)」の各「販売数量
(個)」欄記載のとおりである。
(イ) 単価
被告製品1の単価は390円(税抜)であり、令和元年9月までは421円(税
込)、同年10月以降は429円(同前)で販売された。なお、原告の損害額ない
10 し損失額の算定に当たっては、消費税相当額も加算される(以下同じ。)。
イ 不当利得返還請求
(ア) 売上額
被告製品1の平成27年10月~平成28年12月2日の間の売上額の合計は、
別紙「被告各製品売上表(原告主張)」の「被告製品1(不当利得期間)」の「総
15 計(円)」欄記載のとおり、合計●(省略)●円である。
(イ) 実施料率
被告による被告製品1の販売に対して原告が受けるべき実施料相当額すなわち実
施料率は、業界における実施料の相場等に加え、以下の事情を総合的に考慮すると、
少なくとも15%を下回ることはない。
20 すなわち、本件意匠1に係る物品においては、本件意匠1の要部を構成する構成
態様によりその作用効果が実現されており、このような作用効果は、需要者に対し
て無意識的に構成態様を取捨選択させ、その作用効果に関連する構成態様へと意識
を向けさせる影響が大きい。また、被告製品1のような器具においては、デザイン
から導かれる作用効果をもって機能が実現されることが多く、機能自体よりもデザ
25 イン性自体が製品の魅力に直結することも多い。このため、本件意匠1は、意匠自
体の価値が高く実施品の売上・利益に大きく貢献している。
さらに、ヘルスケアのためのプラスチック製品の製造販売を業とする点で、原告
と被告の事業は完全に競合するところ、原告は、品質やデザイン性により顧客を誘
引する事業戦略を採用し、模倣品が日本国内に流通することを避けるべく、可能な
限りの権利行使を継続し、安価な外国製の侵害品に対しては極めて厳しい対応を取
5 る方針である。
(ウ) 原告の損失額及び被告の利得額
したがって、被告は、原告に対し、上記期間の販売について 、●(省略)●円
(=●(省略)●*15%)の不当利得を返還する義務を負う。
ウ 損害賠償請求
10 (ア) 売上額
被告製品1の平成28年12月3日~令和3年3月の間の売上額の合計は、別紙
「被告各製品売上表(原告主張) 」の「被告製品1(損害賠償期間)」の「総計
(円)」欄記載のとおり、合計●(省略)●円である。
(イ) 経費
15 a 仕入原価
被告は、被告製品1を1個当たり US$●(省略)●で輸入した。対象期間に対応
する輸入につき、発注月における為替レートにより日本円に換算すると、被告製品
1の仕入に要する費用は合計●(省略)●円となる。
b 物流費等
20 製品の販売に際して物流等に経費を要するとしても、当該経費は、売上高に対し
て平均4.7%であることから、その限度でこれを認める。したがって、被告製品
1の販売に際して必要となる物流費等は、●(省略)●円(=●(省略)●*4.7%)
を上回ることはない。
(ウ) 利益
25 以上より、被告が対象期間に被告製品1を販売することにより得た利益は 、●
(省略)●円(=●(省略)●)であり、これをもって原告が受けた損害の額と推
定される(法39条2項)。
(2) 被告製品2
ア 売上額
(ア) 販売数量
5 被告は、現在に至るまでの間、被告製品2を、少なくとも●(省略)●個輸入し、
令和元年8月~令和3年3月の間にこれを販売した。その間の月別販売数量は、別
紙「被告各製品売上表(原告主張)」の「被告製品2(損害賠償期間のみ)」の各
「販売数量(個)」欄記載のとおりである。
(イ) 単価
10 被告製品2の単価は290円(税抜)であり、令和元年9月までは313円(税
込)、同年10月以降は319円(同前)で販売された。
(ウ) 売上額
上記期間の売上額の合計は、別紙「被告各製品売上表(原告主張)」の「被告製
品2(損害賠償期間のみ)」の「総計(円)」欄記載のとおり、合計●(省略)●
15 円である。
イ 経費
(ア) 仕入原価
被告は、被告製品2を1個当たり US$●(省略)●で輸入した。対象期間に対応
する輸入につき、発注した令和元年5月における為替レートにより日本円に換算す
20 ると、被告製品2の仕入に要する費用は、合計●(省略)●円となる。
(イ) 物流費等
被告製品1の場合と同じく、被告製品1の販売に際して必要となる物流費等につ
き、売上高に対する4.7%の範囲で経費とすることを認める。したがって、物流
費等は、●(省略)●円(=●(省略)●*4.7%)を上回ることはない。
25 ウ 利益
以上より、被告が対象期間に被告製品2を販売することにより得た利益は 、●
(省略)●円(=●(省略)●)であり、これをもって原告が受けた損害額と推定
される。
(3) 損害賠償額について
ア 弁護士費用
5 原告は、被告の本件各意匠権に対する侵害行為により、弁護士に委任して訴訟を
提起することを余儀なくされた。これに要した費用は、原告の損害額合計●(省略)
●円の10%である●(省略)●円を下らない。
イ 小括
以上より、被告が被告各製品を製造、輸入及び販売したことにより原告が受けた
10 損害額は、合計●(省略)●円である。
(4) 遅延損害金等
ア 不当利得返還請求について
被告は、原告から、平成27年9月24日付け書面にて本件意匠権1と被告製品
1との関係を指摘されていたことから、被告が被告製品1の販売により得た利益は、
15 被告の悪意によるものである。
したがって、被告は、原告に対し、不当利得額●(省略)●円の返還について、
年5%の割合による遅延利息の支払義務を負う。
イ 損害賠償請求について
被告は、被告各製品の販売について、令和2年3月までの販売分については年5
20 %、同年4月以降の販売分については年3%の割合により、遅延損害金の支払義務
を負う。
そのため、上記各期間の損害賠償額につき、別紙「遅延損害金(原告主張)」記
載のとおり、令和2年3月までの損害額合計に対しては同年4月1日を起算日とし
て年5%の、同年4月以降の損害額合計に対しては令和3年4月1日を起算日とし
25 て年3%の割合による遅延損害金を請求する。
(5) 重畳適用
仮に、法39条2項に基づく推定が一部覆滅される場合、覆滅される部分につい
ては、同条3項が適用される。
この場合、被告による被告各製品の販売金額に対して、原告が受けるべき料率を
乗じた金銭が損害額とされるところ、この実施料率は、本件意匠1については、前
5 記((1)イ(イ))のとおり、15%を下回ることはない。本件意匠2に係る実施料率
についても、本件意匠1と同様に、15%を下回ることはない。
(6) 被告の主張について
ア 在庫品及びロスについて
被告が主張する在庫数量は、被告の販売管理システム(以下「被告販管システム」
10 という。)の記録から抽出したというものであるところ、同システムの信用性が客
観的に担保されていない。
万引きや不良品等によるロスの数量については、客観的な裏付けがなく、また、
被告の説明が合理的説明なく変遷している上、販売態様に特段差異がないはずの被
告各製品のロス率が約●(省略)●%~約●(省略)●%の幅に及んでおり、不合
15 理であるし、消費期限のない雑貨品を数年にわたって1年あたり●(省略)●%以
上もロスすることは現実的にあり得ない。万引きや不良品等を理由に生じるロスは、
仮に存在したとしても販売数量の1%にも満たないから、考慮するに値しない。
イ 被告製品2のデザイン費用
被告製品2に係るデザイン及び金型を外注した根拠とされる請求書には、「デー
20 タ作成」や「意匠権調査」と記載されているから、デザイン等の外注を裏付けるも
のとはいえない。仮にこれらを外注していたとしても、デザイン及び金型は、被告
製品2の製造を開始するために必要であるにとどまり、被告製品2の販売数量が追
加されるに伴って追加的に発生するものではない。
ウ その余の経費について
25 被告が経費として主張する輸入経費、検品費用、倉庫保管料及び配送費用につい
ては、被告製品1ないし2に係るものであることの客観的な裏付けがないか、他の
製品分との按分方法の正確性・客観性が担保されていない。もっとも、被告各製品
の輸入に際し一定の物流費等が発生すること自体は否定し得ないことから 、前記
((1)ウ(イ)b、(2)イ(イ))のとおり、売上高の4.7%の限度でそれらの経費とする
ことは認める。
5 エ 推定覆滅について
(ア) 業務態様等の相違について
被告の実店舗は、様々な店舗が出店する大型ショッピングモール内に設けられて
いるものが多く、ショッピングモールによっては、原告の製品を取り扱う店舗も数
多く出店しており、原告と被告の製品を取り扱う実店舗が隣接して出店している例
10 もある。また、ショッピングモールを訪れた需要者がモール内の各店舗を回って様
々な商品の購入を比較検討することは経験則上明らかである。
他方、被告が専門の EC サイト(被告サイト)のみで被告の製品を取り扱ってい
るとしても、インターネット上で製品を検索等して購入するサイトであり、原告の
製品が出品されている EC サイトも、同じくインターネット上で製品を検索等して
15 購入するサイトである。何らかの製品を探している需要者がインターネット上で当
該製品に関連するキーワード等を入力して検索することで、様々なサイトで紹介さ
れている商品等を比較検討することは経験則上明らかである。現に、原告製品1と
被告製品1が競合的に紹介されているウェブサイトも存在する。
さらに、原告各製品及び被告各製品は、市場においていずれも安価な生活雑貨品
20 として位置付けられており、その価格差をもって市場が異なるとはいえず、むしろ
市場において完全に競合している。そもそも、他社の意匠権の侵害品が比較的安価
に販売し得ることは、開発コストの要否等に照らせば当然であり、侵害品が正規品
と比較して安価であることを理由に市場の同一性が否定されることは相当でない。
(イ) 競合品の存在について
25 需要者が市場において購入動機を形成するにあたっては、当該製品の具体的な機
能が第一次的に重要である。原告各製品及び被告各製品は、いずれも、需要者が自
らの身体に用いて作用効果を体感するものであり、その商品選択にあたっても、こ
の体感が重要なポイントとなる。
原告製品1の需要者は、爪が長くても頭皮を傷つけることなく程よい力加減でマ
ッサージでき、人の手でマッサージされているような感覚であることなどに着目し
5 ていることから、そのような体感を奏し得る頭部マッサージ具をもって原告製品1
及び被告製品1の競合品とすべきところ、被告が競合品として列挙するものはいず
れも人の手の形状とは明らかに異なるものであり、競合品とはいえない。
また、原告製品2の需要者は、指マッサージ器における指の挟みやすさ、柄のつ
まみやすさ、柄をつまんだ力の指への伝わりやすさ、力加減のしやすさ、人の手で
10 マッサージされるのとは全く異なる心地良さなどに着目する。このため、そのよう
な体感を奏し得る指マッサージ器をもって原告製品2及び被告製品2の競合品とす
べきである。しかるに、被告が競合品として列挙するものは、柄の部分の形状が、
保持する指が痛くなるように感じられる形状のものや、指の挟みやすさ等の点で難
点が感じられる形状のもの、本件意匠2の類似範囲に含まれ侵害品と評価されるも
15 のであり、競合品とはいえない。
(ウ) 被告の営業努力について
被告は、平成26年4月に1号店をオープンしたものであって、社会全体に広く
認知されるにはあまりにも期間が短く、店舗数も特筆すべき数には及んでいない。
現に、雑貨業界の売上ランキング等においても、被告の企業名ないしブランド名は
20 特に掲載されていない。加えて、原告も、人気媒体において商品が紹介されており、
むしろブランド力としては被告よりも原告の方が上位にある。被告の製品が被告の
運営する特定のチャンネルでしか入手することができないとしても 、前記(ア)のと
おり、結果的に被告の商品を購入した需要者であっても、他社の商品との比較検討
の上で商品を選択しているのであって、被告の商品しか考慮に入れなかったわけで
25 はないから、被告各製品の売上が被告のブランド力や営業努力に負うところ大であ
ることの根拠とはならない。
(エ) 侵害品の性能について
本件各意匠と被告各意匠の要部に係る各形状が共通しているところ、被告の運営
するサイトに掲載された被告製品1の写真にも当該形状が表現されており、また、
被告の取扱商品を紹介するインターネット上の記事においても被告各製品のデザイ
5 ン性に言及するものが多いことなどから、本件各意匠及び被告各意匠の形状等が顧
客誘引力として寄与していないとはいえない。
また、被告製品2において、需要者が着目する作用効果は、本件意匠2の要部を
構成する各形状の組合せに大きく左右される。このため、需要者は、このような各
部材の形状等の総合的な構成態様等に特に注意を惹かれる。そもそも、指マッサー
10 ジ器の機能は、単にローラー部の形状や硬さのみならず、全体的な形状や柄の部分、
ローラーへと繋がる支持部の形状や態様等にも左右されることから、本件意匠2の
要部に係る形状等と類似した形状等を採用する被告製品2において、このような形
状等は売上に大きく貢献している。
(7) まとめ
15 以上より、原告は、被告に対し、●(省略)●円の不当利得返還請求権及び不法
行為に基づく●(省略)●円の損害賠償請求権(合計●(省略)●円)を有すると
共に、不当利得●(省略)●円に対する平成28年12月3日から支払済みまで年
5%の割合による遅延利息と、損害賠償のうち●(省略)●円に対する令和2年4
月1日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金及びうち
20 ●(省略)●円に対する令和3年4月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割
合による遅延損害金の各支払請求権を有する。
〔被告の主張〕
(1) 被告製品1の売上額及び経費
ア 売上額
25 (ア) 被告製品1の単価が390円(税抜)であること、1個当たりの輸入価格が
US$●(省略)●であることは認め、その余は否認ないし争う。
(イ) 販売数量について
被告による被告製品1の輸入数量は、平成28年12月2日以前が●(省略)●
個、同月3日以降が●(省略)●個の合計●(省略)●個である。このうち、令和
3年5月6日時点で●(省略)●個の在庫が残っている。
5 また、被告製品1の販売に当たっては、万引きや不良品等により販売に至らない
商品(ロス)が存在する。令和元年7月1日~令和2年12月7日の間のデータに
基づきロス率を算定すると、被告製品1のうち白色のもの(「被告製品1(白)」
という。)は約●(省略)●%、黒色のもの(以下「被告製品1(黒)」という。)
は約●(省略)●%である。
10 したがって、被告製品1の販売数量の算定に当たっては、上記の在庫数とロス品
分を控除するべきである。
原告は、毎月同一数量が販売されている旨主張するが、被告は、少なくとも令和
2年12月7日以降被告製品1を販売していないこと、被告の取扱商品は販売開始
当初の時期が最もよく売れることから、原告の主張は実態に反し、あり得ない。
15 (ウ) 消費税について
商品を販売する際に課せられる消費税は、商品の購入者が負担し、商品を販売し
た事業者が国に納付するものであるため、損害賠償金に掛かる消費税とは異なり、
被告の利益となるものではない。したがって、損害賠償又は不当利得を算定するに
際して考慮すべき性質のものではない。
20 イ 経費
被告は、国外で製造された被告製品1を国内に輸入して販売しているところ、そ
の販売に直接関連して追加的に必要になった以下の経費は売上高から控除されるべ
きである。
(ア) 製造・仕入原価 ●(省略)●円
25 被告製品1の1個あたりの製造・仕入原価 US$●(省略)●に輸入数量を乗じた
上、送金時の為替レートで日本円に換算したもの。
(イ) 輸入経費 ●(省略)●円
被告製品1の輸入に際して運送会社に支払った海上運賃、通関料等。
なお、支払った輸入経費に被告製品1に係るものと他の被告製品に係るものが含
まれる場合、当該輸入経費を被告製品1と他の被告製品の製造原価比で按分し、被
5 告製品1に係る輸入経費を算出した。
(ウ) 検品費用 ●(省略)●円
被告製品1の仕入に当たり実施した検品につき、被告が検品会社に支払ったもの
で、請求書記載の金額を当時の為替レートで日本円に換算したもの。
(エ) 倉庫保管料 ●(省略)●円
10 輸入した被告製品1につき、被告が倉庫業者に対して支払ったもの。被告と倉庫
業者との取決めにより保管物の坪数に月額の保管料が支払われるところ、輸入時の
積載量等をもとに算定すると、坪単価月額●(省略)●円となる。
(オ) 配送費用 ●(省略)●円
輸入した被告製品1の倉庫への搬入時及び倉庫から各店舗への配送時に、配送担
15 当業者に対して支払う●(省略)●である。
このうち、●(省略)●
(2) 被告製品2の売上額及び経費
ア 売上額
被告が被告製品2を●(省略)●個輸入したこと、被告製品2の単価が290円
20 (税抜)であること、1個あたりの輸入価格が US$●(省略)●であることは認め、
その余は否認ないし争う。
被告製品2は、令和3年5月6日時点で●(省略)●個の在庫が残っている。ま
た、そのロス率は約●(省略)●%である。
被告が少なくとも令和2年12月7日以降被告製品2を販売していないこと及び
25 被告の取扱商品は販売開始当初の時期が最もよく売れることから、原告の主張は実
態に反し、あり得ないこと、損害賠償を算定するに際して消費税を考慮すべきでな
いことは、被告製品1と同様である。
イ 経費
被告製品1と同様に、以下の経費は売上高から控除されるべきである。各項目の
内容及び算定方法は、特に示さない限り被告製品1と同様である。
5 (ア) 製造・仕入原価 ●(省略)●円
(イ) 輸入経費 ●(省略)●円
(ウ) 検品費用 ●(省略)●円
被告製品2については、他の被告製品と合わせて検品費用が請求されていたこと
から、被告製品2と他の被告の製品の製造原価費で按分して被告製品2に係る検品
10 費用を算出した。
(エ) 倉庫保管料 ●(省略)●円
(オ) 配送費用 ●(省略)●円
被告製品2の●(省略)●
●(省略)●については被告製品1と同様である。
15 (カ) デザイン・金型費用等 ●(省略)●円
被告は、被告製品2の開発にあたり、デザイン及び金型等を外注し、その費用を
支払った。これに関する請求書記載の項目のうち、●(省略)●に係る金額は、他
の製品に係るものと被告製品2に係るものとを合わせた金額であり、このうち被告
製品2に係るもののみを計上した。●(省略)●は被告製品2に係る費用である。
20 (3) 推定覆滅事由
ア 被告製品1
(ア) 業務態様等の相違
a 業務態様、流通経路・販売チャンネルの相違
被告は、低価格の生活雑貨ブランド「AWESOME STORE」(以下「被告ブラン
25 ド」という。)を主力ブランドとして、生活雑貨店を運営する小売業者である。ま
た、被告は、被告製品1を、被告が運営する被告ブランド等の実店舗(以下「被告
店舗」という。)及び専用通販サイト(被告サイト。以下、これと被告店舗を併せ
て「被告店舗等」という。)のみで販売し、その他の小売店や EC サイトでは販売
していない。すなわち、被告の業務態様は小売業であり、被告独自のブランドを自
ら運営する店舗等の限定された販売チャンネルで消費者向けに販売するというもの
5 である。
他方、原告は、自らオンラインショップも開設しているものの、基本的には卸問
屋や量販店向けに製品を製造・販売等する製造・卸売業者であり、原告の製品は、
量販店や一般的な EC サイトなど一般小売店で取り扱われている。
また、被告店舗では5000点近くの生活雑貨品が取り扱われており、被告製品
10 1はそのうちの1つに過ぎず、主力商品として販売されていたわけではない。この
ため、ほとんどの需要者は、被告店舗で頭部マッサージ具が購入できるとは認識し
ていない。そうすると、被告店舗で被告製品1を購入した需要者には、当初から頭
部マッサージ具に対する購買意欲を有していた者よりも、被告店舗で被告製品1に
惹かれて初めて購買意欲を生じ、衝動買いをした者の方が圧倒的に多いと考えられ
15 る。被告製品1が被告店舗等でしか購入できないという事情の下では、被告製品1
の販売行為等がない場合、被告製品1を衝動買いした需要者の需要はそもそも生じ
なかったといえ、被告製品1に向けられた需要が原告製品1に向かうとは考えられ
ない。
しかも、被告製品1は、インターネット上では被告サイトでしか販売されておら
20 ず、商品名(Head Wave Bar)で検索しない限り、検索結果として表示されない。
このため、被告サイトにおいて被告製品1を購入する者は、インターネット検索に
おける一般的な方法で頭部マッサージ具を探した者ではなく、当初より被告製品1
を購入する予定であった者と考えられる。
以上のような原告製品1と被告製品1の流通経路・販売チャンネル等の差異等に
25 鑑みると、被告製品1の販売行為等がなかった場合に、被告製品1に対する需要全
てが原告製品1に吸収されるとは考え難い。
b 販売価格の差異
被告製品1の販売価格は390円(税抜)であるのに対し、原告製品1は100
0円(同前)であり、いずれも日用品雑貨に属するものであるとはいえ、低価格の
日用品雑貨はプチプラ市場という一市場を築いていることから、被告製品1と原告
5 製品1とでは市場が異なる。被告製品1を購入する需要者は、その価格に注目して
いると考えられることから、そのような需要者が、被告製品1の販売行為等がなか
った場合に、これに比して価格が高いと評価されるような原告製品1を購入すると
は考えられない。
(イ) 競合品の存在
10 被告製品1は頭部をマッサージする器具、より具体的には、頭部の数か所を刺激
することで頭部にマッサージ効果をもたらすものであり、そのような機能を持つ製
品は全て被告製品1及び原告製品1の競合品である。
このうち、被告製品1と同じ価格帯で頭部をマッサージする器具は多数存在する
ことから、被告製品1の販売行為等がなかったとしても、被告製品1に向けられた
15 需要はこれらの競合品に向かうといえ、原告製品1に需要が向くとは考えられない。
仮に販売価格の差異をもって被告製品1と原告製品1の市場が相違するといえな
いとしても、原告製品1と同じ価格帯で頭部をマッサージする器具も多数存在する。
したがって、仮に需要者が価格に関係なく商品を選択したとしても、被告製品1に
向けられた需要が全て原告製品1に向かうとは考えられず、競合品にも向かう。
20 このため、被告製品1の販売行為等と原告の損害との間に相当因果関係はない。
(ウ) 被告の営業努力等
被告店舗は、平成26年4月に1号店を開店し、現在全国に62店舗を構え、低
価格であるにもかかわらず、デザイン性及び機能性を備えたプチプラ雑貨を販売す
る店舗として需要者に広く認知されるようになった。また、被告の商品は、被告店
25 舗等という特定のチャンネルによってのみ入手することのできるデザイン性や機能
性の高いプチプラ雑貨としての価値を有する。
このため、被告製品1が存在しない場合に、同種商品であるからといって、需要
者が被告ブランド以外の商品を購入することにはならない。このように、被告の営
業努力及びブランド力は被告製品1の売上に多大な貢献をしている。
(エ) 侵害品の性能
5 被告製品1は、ヘッド部分が振動する構造になっており、頭部のマッサージ効果
はこの振動によりもたらされる点に特徴がある。被告による商品紹介においてもこ
の点を訴求しており、需要者の口コミも、この点に関する言及がされているのに対
し、本件意匠1に関するコメントはされていない。
このように、被告製品1の顧客誘引力は振動の点にあり、本件意匠1は何ら寄与
10 していない。
(オ) 小括
以上の事情に鑑みれば、被告が被告製品1を販売したことにより得た利益は、原
告の受けた損害との間に相当因果関係はなく、法39条2項に基づく推定は、少な
くとも95%覆滅される。
15 イ 被告製品2
(ア) 被告製品2についても、法39条2項に基づく推定を覆滅すべき事情は、お
おむね被告製品1と同様である。なお、被告製品2の販売価格は290円(税抜)
であるのに対し、原告製品2は900円(同前)である。また、原告製品2及び被
告製品2は、指のマッサージ効果を得るという用途のために、片方の手で指マッサ
20 ージ器を持ち、もう片方の手の指をローラーに挟む方法で使用する製品であるから、
これらと同種の用途や使用方法を採る指マッサージ器は全て原告製品2及び被告製
品2の競合品となる。
(イ) また、本件意匠2は、ローラーとそれを把持する本体とを有する指マッサー
ジ器の本体(柄)の部分のみを対象とする部分意匠である。被告製品2のような指
25 マッサージ器を購入するに当たり、需要者は、所望のマッサージ効果を得ることが
できるか否か、どの程度の効果を得ることができるかといった指マッサージ器の性
能に着目する。被告製品2においては、ローラー部が指に与えるマッサージ感、2
個のローラー部に指を挟む際の挟み具合・力加減の調節のしやすさがマッサージ性
能に影響を与えることから、需要者は、これらに直接的に影響するローラー部の形
状、材質、硬さ、挟み具合・力加減の調節に影響する柄の材質に注目する。本件意
5 匠2は、これらの要素をその範囲内に含まず、又はこれと無関係であるから、被告
製品2に本件意匠2の実施部分があるとしても、当該実施部分には顧客誘引力は全
くないか、著しく低い。
(ウ) 小括
以上の事情に鑑みれば、被告が被告製品2を販売したことにより得た利益は、原
10 告の受けた損害との間に相当因果関係はなく、法39条2項に基づく推定は、少な
くとも95%覆滅される。
(4) 重畳適用について
法39条3項を適用するためには侵害者による登録意匠又はこれに類似する意匠
の実施行為が観念できる必要がある。しかし、同条2項は、侵害者が侵害行為によ
15 って得た「利益の額」を損害と推定すると規定しており、2項の適用によって算出
された「利益の額」をもって侵害行為に対する損害評価は尽きている。したがって、
覆滅対象とされた「利益の額」については、もはや、侵害者の実施行為を観念する
ことはできない。
この点を措くとしても、それは、ライセンス機会の喪失に係る部分に限定される
20 べきである。本件における推定覆滅事由との関係でみると、少なくとも、被告製品
1の侵害品の性能(機能、性能等意匠以外の特徴)が顧客誘引に寄与している部分
については、本件意匠1は寄与していない以上、権利者によるライセンス付与を想
定することはできない。また、被告製品2の登録意匠が実施されている部分の侵害
品中における位置付けを理由に覆滅が認められる部分については、本件意匠権2の
25 権利範囲外の部分であり、これにライセンス付与をすることは想定し得ないことか
ら、同条3項の併用は否定されるべきである。
(5) 実施料率
本件各意匠権の実施料率の相場に係る適切な資料はない。また、被告各製品は、
本件各意匠権の権利範囲外の部分に顧客誘引力を有し、本件各意匠は価値が高いと
はいえず、被告各製品の売上及び利益に与える影響は著しく低い。加えて、原告と
5 被告は、その業態等の相違から競業関係になく、模倣品対策に注力するという原告
の営業方針も実施料率に影響を与えるとは考えられない。
このような事情を踏まえると、仮に、侵害者に対して事後的に定められるべき実
施に対し受けるべき料率が通常の実施料率に比べて自ずと高額になることを考慮し
たとしても、その実施料率は、高くても2%を上回らない。
10 第4 当裁判所の判断
1 本件意匠1と被告意匠1の類否(争点1)
(1) 登録意匠とそれ以外の意匠の類否の判断は、需要者の視覚を通じて起こさせ
る美感に基づいて行う(法24条2項)。この判断に当たっては、両意匠の基本的
構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察するとともに、意匠に係る物品の用途
15 や使用態様、公知意匠等を参酌して、需要者の最も注意を惹きやすい部分、すなわ
ち要部を把握し、要部において両意匠の構成態様が共通するか否か、差異がある場
合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否かを重視して、両意匠が全
体として美感を共通するか否かによって判断するのが相当である。
(2) 本件意匠1の構成態様
20 ア 本件図面1によれば、本件意匠1の基本的構成態様及び具体的構成態様は、
別紙「本件意匠1の構成態様」の「裁判所の認定」欄記載のとおりと認められる。
イ 原告の主張について
基本的構成態様 A1-3 及び B1-3 について、本件図面1によれば、枝部が5本に分
岐していること、その形状が丸棒状であること、その先端に涙滴状に膨らんだ涙滴
25 状部が形成されていることは、本件意匠1の構成を大掴みに把握するという観点か
らも、一見して看取できるものといえる。
また、具体的構成態様 C1-3 については、平面視において、枝部の先端に形成さ
れ配置された各涙滴状部がなす形状も、本件意匠1において需要者の視覚を通じて
美感を生じさせるものといえるから、具体的構成態様の認定にあたっては、これを
も考慮するのが相当である。
5 さらに、具体的構成態様 E1-3 については、本件図面1の正面図、背面図及び左
右各側面図によれば、各涙滴状部は等間隔に配置され、その相互間の距離は、いず
れの視点から見ても、涙滴状部それ自体の1個分の大きさより広く、3個分の大き
さより狭いことが明らかにうかがわれる。そこで、本件意匠1の具体的構成態様と
して、各涙滴状部間の距離が涙滴状部約2個分である旨を認定するのが相当である。
10 以上のとおり、この点に関する原告の主張は採用できない。
(3) 被告意匠1の構成態様
別紙「被告製品1の構成」によれば、被告意匠1の基本的構成態様及び具体的構
成態様は、それぞれ、別紙「被告意匠1の構成態様」の「裁判所の認定」欄記載の
とおりと認められる。
15 このうち、基本的構成態様 a1-3 及び b1-3 については、本件意匠1の基本的構成
態様 A1-3 及び B1-3 と同様の理由による。具体的構成態様 c1-3 についても、平面
視において枝部の先端に形成され配置された各涙滴状部がなす形状が需要者の視覚
を通じて美感を生じさせるという点では、本件意匠1の具体的構成態様 C1-3 と同
様である。
20 具体的構成態様 d1-3 については、別紙「被告製品1の構成」によれば、正面視
において、他の枝部に比して外側にきつく広がるよう湾曲した一番外側の2つの枝
部が、その先端から約3分の1のところで、基端からの湾曲の程度に比してきつく
湾曲して内側に入り込んでいることが容易に看取される。そこで、被告意匠1の具
体的構成態様の認定にあたっては、これをも考慮するのが相当である。
25 具体的構成態様 e1-3 については、別紙「被告製品1の構成」の正面図、背面
図及び左右各側面図によれば、各涙滴状部は等間隔に配置され、その相互間の距離
は、いずれの視点から見ても、涙滴状部それ自体の1個分とほぼ異ならないことが
明らかにうかがわれる。そこで、被告意匠1の具体的構成態様として、各涙滴状部
間の距離が涙滴状部約1個分である旨を認定するのが相当である。
以上に反する原告及び被告の主張は、いずれも採用できない。
5 (4) 本件意匠1と被告意匠1との共通点及び差異点
本件意匠1及び被告意匠1の各構成態様を対比すると、本件意匠1と被告意匠1
とは、まず、基本的構成態様 A1-3 及び B1-3 と a1-3 及び b1-3 において共通する
(以下「共通点 A」という。)。また、具体的構成態様は、正面視にて、中央の枝
部はほぼ直線状に延び、その一つ外側の枝部は外側に広がるよう湾曲しており、一
10 番外側の 2 つの枝部は更にきつく外側に広がるよう湾曲している点(具体的構成態
様 D1-3 と d1-3 の各一部。以下「共通点 B」という。)及び各涙滴状部が等間隔に
配置されている点(具体的構成態様 E1-3 と e1-3 の各一部。以下「共通点 C」とい
う。)において共通する。
他方、本件意匠1と被告意匠1は、まず、具体的構成態様 C1-3 と c1-3 において
15 差異がある(以下「差異点 A」という。)。また、被告意匠1においては、正面視
にて、他の枝部に比してさらにきつく外側に広がるよう湾曲した一番外側の2つの
枝部が、先端から約3分の1のところで大きく内側に入り込んでいる(具体的構成
態様 d1-3 の一部)のに対し、本件意匠1においては、そのような構成が見られな
い(以下「差異点 B」という。)。さらに、等間隔に配置された各涙滴状部間の距
20 離が、本件意匠1では涙滴状部約2個分である(具体的構成態様 E1-3 の一部)の
に対し、被告意匠1においては約1個分である(具体的構成態様 e1-3 の一部。以
下「差異点 C」という。)。
(5) 本件意匠1の要部
ア 本件意匠1に係る物品の需要者、用途及び使用態様等
25 (ア) 本件意匠1に係る物品である頭部マッサージ具の需要者が頭部マッサージ具
の購入者・使用者であることは、当事者間に争いがない。
(イ) 本件意匠1の実施品である原告製品1は、使用者がその柄を握り、枝部の先
端の涙滴状部を頭部(頭皮)に当てた状態で、枝部から涙滴状部にかけて力を加え
て動かしながら、頭部をマッサージするものである。
(ウ) このような頭部マッサージ具の購入に当たり、需要者は、通常、店舗であれ
5 ば店頭に置かれた商品そのものないし商品パッケージに付された商品画像等を、イ
ンターネット上であれば EC サイト等に掲載された商品画像等を視認する。
原告製品1のパッケージ(以下「本件パッケージ1」という。)は、台紙上に製
品を正面側から視認できる状態で設置し、これを透明なプラスチックケースで覆う
ものである。台紙の表面(商品側)には、「頭のラインに沿って/頭皮をかき上げ
10 /キュっと引き締め」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)という説明文と、
使用者が原告製品1の柄を持ち、その涙滴状部を頭皮に当てている画像(以下「本
件画像1-1」という。)及び人物の頭部を他者が両手の手指を広げてマッサージ
するイメージ画像と、涙滴状部を頭皮に当て枝部の先端方向に動かしてマッサージ
することをうかがわせるイラスト(以下「本件イラスト1」という。)等が掲載さ
15 れている。本件画像1-1及び本件イラスト1に掲載された原告製品1の画像等は、
いずれも、正面側を斜め上方向から見たものである。また、台紙の裏側には、「使
用方法」として「突起部分をヘッドラインに沿って頭皮に当て、押しながらかき上
げてください。」との説明文(以下「本件説明文1」という。)や、本件画像1-
1と同様のイラスト及び本件イラスト1が掲載されている。(乙1)
20 他方、原告サイトの原告製品1の紹介ページ(乙12)には、上部に商品画像と
して本件パッケージ1の画像及び以下の画像から説明文や矢印等を除いた商品自体
のみの画像の2つの画像のうち1画像が拡大表示可能とされているほか、「ヘッド
ラインタイプ/頭のラインに沿って/頭皮をかき上げてキュッ」という説明文、本
件画像1-1と同様の画像に人物の頭部に使用方向を示す矢印が三本描かれている
25 画像、本件イラスト1及び本件説明文1が掲載されているほか、次の画像(以下
「本件画像1-2」という。)が掲載されている。
(エ) 需要者が注意を惹かれる部分
上記各事情に照らせば、需要者は、原告製品1の使用に当たり、頭部マッサージ
の効果に直截的に影響を与える部分である枝部の本数、頭皮に直接当たる部分であ
5 る枝部の先端の形状、柄から涙滴状部に力を伝える部分である枝部の形状に主に注
目すると考えられる。他方、各涙滴状部間の距離については、さほど注意を惹かれ
ないと思われる。
また、性質上頭部マッサージを現に実施している間に原告製品1を直接視認する
ことは困難と思われるものの、事前ないし事後の時点では、これを正面側ないし正
10 面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多いものと考
えられる。他方、原告製品1の購入に当たっては、需要者は、これを正面側ないし
正面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多く、左右
各側面側、平面側及び背面側から視認する機会は乏しいと考えられる。
イ 本件公知意匠1について
15 (ア) 証 拠( 乙 2 、 3 ) によ れ ば 、 本 件公 知 意匠 1 は 、 い ずれ も 本件 出 願日 1
(平成20年3月6日)前に公知となった意匠と認められる。
(イ) 乙2意匠
証拠(甲17、乙2、15、24)及び弁論の全趣旨によれば、乙2意匠は、次
のとおりのものと認められる。
乙2意匠は、いわゆる「孫の手」であり、背中を掻いたり、身体を叩いたりする
目的で使用される物品に係る意匠である。この種の商品は、頭部を掻いたり叩いた
りする方法で頭部に刺激を与える目的で使用される場合もある。そのため、乙2意
匠は、本件意匠1の属する分野と同一の分野に属しないものとはいえない。
5 もっとも、乙2意匠は、正面視において、柄の先端に接続された板状の部材が、
接続部側と先端側との間の中央付近で湾曲し、湾曲した先の先端側部分が平行な5
本の枝部に枝分かれしているものである。乙2意匠における「基端」を柄の先端と
の接続部と捉えるならば、枝部は、熊手状に湾曲させて形成されてはいるものの、
基端からは分岐しておらず、また、各枝部は丸棒状ではなく板状に形成されている。
10 他方、板状の部材の接続部側と先端側との間の中央付近の湾曲部付近を「基端」と
捉えるならば、乙2意匠の枝部は、基端から5本に分岐し、熊手状に湾曲させて形
成されたものとはいえるものの、各枝部が丸棒状ではなく板状に形成されているこ
とは、同様である。
さらに、「基端」をいずれと捉えるかにかかわらず、各枝部の先端部は、丸みの
15 ある形状とされてはいるものの厚みに変化はなく、涙滴状部に相当するものはない。
各枝部間の距離も、各枝部の先端部の幅に比してかなり狭い。
(ウ) 乙3意匠
証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、乙3意匠は次のとおりのものであると
認められる。
20 乙3意匠は、人やペット等の背中や腹部を掻いたり、マッサージするためなどに
使用される物品に係る意匠である。これも、乙2意匠と同様に、本件意匠1の属す
る分野と同一の分野に属しないものとはいえない。
乙3意匠は、人の手をそのまま模した形状であり、その指部をもって「基端から
5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることは、一応可能である。もっとも、乙3
25 文献を見る限り、指部(枝部)は、基端から先端まで熊手状に湾曲しているとはい
えず、また、その先端に涙滴状部が形成されていない。さらに、乙3意匠が本件意
匠1の具体的構成要件 C1-3~E1-3 に相当する構成を有するとも認められない。
(エ) 以上のとおり、本件公知意匠1のうち、乙2意匠は、5本に分岐した枝部が
形成されている点及び枝部が熊手状に湾曲させて形成されている点で、また、乙3
意匠は、「基端から5本に分岐した丸棒状の枝部」と捉えることが可能な部分があ
5 る点で、それぞれ本件意匠1と共通する部分があるといえるにとどまる。もっとも、
その共通するといえる部分の具体的形状は、本件意匠1とは大きく異なる。
そうである以上、本件公知意匠1は、本件意匠1の基本的構成態様及び具体的構
成態様いずれとの関係でも、本件意匠1に先行する公知意匠ということはできない。
その他本件意匠1の要部を判断するにあたり参考とすべき公知意匠は、証拠上見当
10 たらない。
ウ 本件後願意匠
登録意匠の要部認定に当たっては、先行する公知意匠を考慮すべきではあっても、
登録意匠の出願に後れる後願意匠を考慮することは、原則として相当でない。また、
この点を措くとしても、証拠(乙4)によれば、乙4意匠は、涙滴状部に金属球を
15 有する点で本件意匠1の形状と明確に異なること、証拠(乙5)によれば、乙5意
匠は、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部が全体として人の手指の指部を想起さ
せる形状となっており、その先端に涙滴状部がない点で本件意匠1の形状と明確に
異なることなどから、本件後願意匠は、翻って本件意匠1の要部を判断するものと
して参考となり得るものではない。
20 エ 小括
以上の事情を総合的に考慮すれば、本件意匠1の要部は、基本的構成態様 A1-3
及び B1-3 並びに具体的構成態様 D1-3 であると見るのが相当である。
オ 被告の主張について
被告は、本件意匠1の基本的構成態様 B1-2(B1-3 に相当)及び具体的構成態様
25 C1-2~E1-2(おおむね C1-3~E1-3 に相当)をもって、本件意匠1の要部である旨
主張する。
このうち、基本的構成態様 B1-3 及び具体的構成態様 D1-3 が要部にあたると見ら
れることはそのとおりである。
他方、基本的構成態様 A1-3 につき、本件意匠1の骨格的部分の形状であるにも
かかわらず、先行する意匠にはこれと同一ないし類似するといえるものが見当たら
5 ないことに鑑みると、これを本件意匠1の要部に含まれないとすることは相当でな
い。また、具体的構成態様 C1-3 については、本件画像1-1及び1-2、本件イ
ラスト1及び本件説明文1から、使用に際し、本件意匠1に係る物品である頭部マ
ッサージ具の枝部の先端が頭部のラインに沿って配置されることがうかがわれる。
もっとも、それが枝部の先端の涙滴状部の配置によって直ちに実現されるものか、
10 枝部の素材の弾力性等他の要因によって実現されるものかは必ずしも明らかでな い。
このことと、需要者が視認する機会の乏しい部分に関するものであることとを併せ
考えると、具体的構成態様 C1-3 を本件意匠1の要部に含めるのは相当でない。こ
のことは、原告製品1が、標準小売価格1000円(税抜。乙12)と比較的低価
格な生活雑貨品といえる範疇のものであり、購入に際し需要者が機能及びデザイン
15 性を考慮するとしても、通常、その形状の細部まで子細に検討する場合が多いとは
いえないと見られることを踏まえると、尚更である。
具体的構成態様 E1-3 については、涙滴状部間の距離が涙滴状部約2個分である
ことに需要者がさしたる注意を払うとも思われない。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
20 できない。
(6) 本件意匠1と被告意匠1の対比
ア 共通点について
本件意匠1と被告意匠1の共通点のうち、共通点 A は、基本的構成態様に関する
ものである上、本件意匠1の要部に含まれるものである。このため、この共通点が
25 意匠全体の印象に与える影響は非常に強く、本件意匠1と被告意匠1とに接した需
要者は、両意匠から共通する印象を強く感じるといえる。
また、共通点 B 及び C は、いずれも具体的構成態様に関するものであるところ、
共通点 B は本件意匠1の要部に含まれるものであるし、いずれの共通点も、需要者
が目にする機会の多い正面側から容易に認識できるものである。したがって、これ
らの共通点は、本件意匠1と被告意匠1の印象の共通性を一層高めるものといえる。
5 イ 差異点について
(ア) 差異点 A について
差異点 A は、平面視における枝部の湾曲の程度と、これによる左右各側面視にお
ける涙滴状部の配置に係るものである。需要者が原告製品1及び被告製品1を平面
側及び左右の側面側から視認する機会が乏しいこと等を踏まえれば、差異点 A は、
10 本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。
(イ) 差異点 B 及び C について
差異点 B は、正面視における一番外側の枝部の湾曲の形状に係るもの、差異点 C
は、等間隔に配置された涙滴状部間の距離に係るものである。
これらの差異点は、いずれも、原告製品1及び被告製品1を正面側から視認する
15 ことにより認識し得るものであり、需要者はこれを目にする機会が多いといえる。
もっとも、上記各差異点は、中央の枝部がほぼ直線状に伸び、外側にいくにつれて
枝部の湾曲の程度が大きくなるという共通点 B や、枝部の先端の涙滴状部が等間隔
に配置されているという共通点 C がある中で、一番外側の枝部の先端近くの形状や、
涙滴状部間の距離がいささか異なるというにとどまり、顕著に特徴的なものとまで
20 はいえず、本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異で
はない。
ウ 小括
以上の事情を総合的に考慮すると、本件意匠1と被告意匠1は、その骨格的な構
成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み合わ
25 せたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の共通
性を凌駕するほどのものということはできない。
したがって、本件意匠1と被告意匠1とは、全体として需要者の視覚を通じて起
こさせる美感が共通しており、類似するというべきである。これに反する被告の主
張はいずれも採用できない。
2 無効理由の有無(争点2)
5 (1) 本件表示について
証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年2月22日時点で、原告製品
1を販売するサイトの一つである本件サイトにおいて、「Amazon.co.jp での取り
扱い開始日:2007/12/10」との表示(本件表示)があることが認められる。
本件サイトにおける「Amazon.co.jp での取り扱い開始日」欄の記載は、原告製
10 品1の出品にあたり、これを販売する業者が原告製品1の商品情報として登録する
多数の情報のうち、任意に入力し得るものであり、必須の入力項目ではない。また
その入力は、個別の手入力のほか、過去に登録済みの商品に係るデータファイルを
コピーし、必要な箇所を修正し、修正後のファイルをアップロードする方法による
ことも可能である。(甲11~14、25~33、40、乙18、弁論の全趣旨)
15 (2) 原告製品1の製造、販売に係る資料等
ア 平成19年10月26日付けデザイン画(甲9)には、「スカルプケア
Goods-G」との記載と共に、本件意匠1の正面図及び平面図に相当する方向から見
た製品のデザインが描かれている(ただし、柄の末端付近に穴が形成されている。
以下「本件デザイン画」という。)。
20 本件デザイン画には、人の頭部に製品を接触させているイメージで製品のデザイ
ンが描かれると共に、「先端部5点の球体で頭皮を撫でることで程よい快感を与え、
優しく刺激する。」などといった説明が付記されている。製品のデザインそれ自体
に加え、上記イメージ及び説明等に鑑みると、本件デザイン画に示された製品のデ
ザインは、本件意匠1に係る製品である原告製品1のデザインとおおむね一致する
25 といってよい。
イ 平成20年2月28日付け書面(3種の樹脂のサンプル写真が示されたもの。
甲24)には、「色名」、「使用樹脂」、「着色剤添加量」等の欄に活字による記
載が上部にあるほか、下部には、「下限」等の記載及びこれに対応する樹脂のサン
プル写真3種があると共に、柄部と5本に分岐した枝部からなるイメージ図、「ヘ
ッドスパハンドプロシリーズ」、「スピットタイプ用(仮名)」、「決定3/4」
5 といった手書きの記載がある。このうち、「決定3/4」との記載は、サンプル写
真に対応する「下限」との記載に付した丸印の直上に置かれている。
なお、「ヘッドスパハンドプロ」とは、原告の製品のうち、原告製品1が含まれ
る商品シリーズの名称と一致する。
(以上につき、甲24、62、乙1、12、弁論の全趣旨)
10 ウ 平成20年4月頃作成に係る原告宛て「請求書」(甲23)には、同年3月
25日の欄の商品名欄に「ヘッドスパハンドプロ(ヘッドラインタイプ)台紙」、
同「製版代」、同「木型代」等の記載がある。
なお、「ヘッドスパハンドプロ(ヘッドラインタイプ)」は、原告製品1の商品
名と一致する(乙1、12)。
15 エ 原告において製品の販売在庫管理を行うシステム上、原告商品1の最も早い
取引日付は、平成20年3月27日である(甲18~22)。
なお、原告製品1について、同日付け売上伝票(甲8)も存在する。
(3) 検討
上記(1)認定のとおり、本件サイトに商品情報を登録するにあたり 、本件表示に
20 係る項目は、任意の入力項目とされ、出品者が自ら入力を行うものである。しかも、
商品情報の登録に際し入力すべき項目は多数に及ぶこと、その入力は、個別の手入
力のほか、過去に登録済みの商品に係るデータファイルをいわば流用することも可
能であることなどに鑑みると、本件表示が誤りである可能性は、無視し得ない程度
に存在すると思われる。
25 また、前記(2)認定に係る各種取引書類及びシステムの検索結果の信用性につき
疑義を抱くべき具体的な事情は見当たらないところ、これらの記載等を総合的に考
慮すれば、原告製品1は、平成20年3月27日頃にその販売が開始された蓋然性
が高いと見られる。
そうすると、本件表示のとおり、本件出願日1(平成20年3月6日)より前で
ある平成19年12月10日から本件サイトで原告製品1の取扱いが開始されたこ
5 とを認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。すなわち、本件意匠1に
つき、意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠(法3条1項1号)と
認めることはできない。
したがって、本件意匠権1について、意匠登録無効審判請求により無効にされる
べき理由(法48条1項1号)があるとは認められない。これに反する被告の主張
10 は採用できない。
(4) 小括
以上により、被告による被告製品1の製造、輸入、販売等の行為は、本件意匠権
1を侵害するものといえる。そうである以上、原告は、被告に対し、本件意匠権1
に基づき、被告製品1の製造、販売等の差止請求権並びに被告製品1及びその製造
15 に必要な金型の廃棄請求権を有する。
3 本件意匠2と被告意匠2の類否(争点3)
(1) 本件意匠2の構成態様
ア 本件図面2及び証拠(乙7)によれば、本件意匠2の基本的構成態様及び具
体的構成態様は、別紙「本件意匠2の構成態様」の「裁判所の認定」欄記載のとお
20 りと認められる。
なお、「柄」と「把持部」の境は、以下の図の縦の黒線を目安とする(以下では、
同図中の「手持ち部」をもって「柄」と呼称する。)。
イ 原告の主張について
原告は、本件意匠2の構成態様につき、基本的構成態様 A2 並びに具体的構成態
様 E2 及び K2 を主張するにとどまる。このうち、基本的構成態様 A2 は、当裁判所
5 の認定した基本的構成態様 A2-3~C2-3 と実質的に異ならない。他方、具体的構成
態様 E2 及び K2 のみによっては、本件意匠2の具体的構成態様の特定として十分
といえない。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 被告の主張について
10 被告は、把持部に設けられた支持部の内側部分のくぼみの形状をもって基本的構
成態様とすべき旨(基本的構成態様 C2-2)、支持部の内縁の形状が、先端から柄
側に向かうにつれて大きく窄まり、略 V 字状である旨(具体的構成態様 G2-2)、
及び支持部の内側部分に形成されたくぼみが略 V 字状である旨(具体的構成態様
H2-2)を主張する。
15 しかし、把持部が略棒状の一対の支持部を有することは本件意匠2の構成態様と
して骨格的なものと位置付けるべきであるものの、支持部の内側部分の厚み方向に
おける形状は、支持部の具体的な形状であるにとどまり、具体的構成態様と位置付
けるのが相当である。また、支持部の内縁の形状については、先端から柄側に向か
うにつれて緩やかに湾曲し、平面図上下方向の中間付近で接続していることから、
20 全体としては略「V」字状といってよいものの、緩やかな湾曲及び接続部が円弧状
をなすことも、具体的構成態様として特定するのが相当である。このことは、支持
部の内側部分に形成されたくぼみの形状についても同様である。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(2) 被告意匠2の構成態様
ア 証拠(甲7、乙8)及び別紙「被告製品2の構成」によれば、被告意匠2の
5 基本的構成態様及び具体的構成態様は、別紙「被告意匠2の構成態様」の「裁判所
の認定」欄記載のとおりと認められる。
イ 原告の主張について
原告は、被告意匠2の構成態様につき、基本的構成態様 a2 並びに具体的構成態
様 e2 及び k2 を主張するにとどまる。このうち、基本的構成態様 a2 は、当裁判所
10 の認定した基本的構成態様 a2-3~c2-3 と実質的に異ならない。他方、具体的構成
態様 e2 及び k2 のみによっては、被告意匠2の構成態様の特定として十分といえな
い。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 被告の主張について
15 被告は、把持部に設けられた支持部の内側の形状をもって基本的構成態様とす
べき旨(基本的構成態様 c2-2)を主張する。
しかし、把持部が略棒状の一対の支持部を有することは被告意匠2の構成態様と
して骨格的なものと位置付けるべきであるものの、支持部の内側部分の厚み方向に
おける形状は、支持部の具体的な形状であるにとどまり、具体的構成態様と位置付
20 けるのが相当である。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(3) 本件意匠2と被告意匠2の共通点及び差異点
本件意匠2及び被告意匠2の各構成態様を対比すると、以下のとおりである。
ア 共通点
25 (ア) 共通点a
本件意匠2と被告意匠2とは、基本的構成態様 A2-3~C2-3 と a2-3~c2-3 におい
て共通する(以下「共通点a」という。)。
(イ) 共通点b
平面視にて、柄の幅につき、把持部側から中間部にかけて緩やかに幅が狭くなっ
ている(D2-3 と d2-3 の各一部。以下「共通点b」という。)。
5 (ウ) 共通点c
正面視にて、柄が、把持部側から中間部にかけて上下対称に緩やかに内側に向か
って湾曲し、その後、末端にかけて極めて緩やかに幅が広くなり、末端において略
半円状に形成されている(E2-3 と e2-3。以下「共通点c」という。)。
(エ) 共通点d
10 平面視にて、上下対称の支持部の外縁が、柄側から把持部の中間部にかけて緩や
かに外側に広がった後、中間部から支持部の先端にかけて緩やかに内側に湾曲して
いる(G2-3 と g2-3 の各一部。以下「共通点d」という。)。
(オ) 共通点e
支持部が、正面視にて上下対称に柄側から先端に向かって柄よりもやや太く外側
15 に膨らむよう形成されている(K2-3 と k2-3。以下「共通点e」という。)。
イ 差異点
本件意匠2と被告意匠2とは、いずれも具体的構成態様において、以下の差異が
ある。
(ア) 差異点a
20 平面視における柄の幅につき、中間部から末端にかけて、本件意匠2では極めて
緩やかに幅が広くなっているのに対し、被告意匠2では、その幅の広さにほとんど
変化はない(D2-3 と d2-3 の各一部。以下「差異点a」という。)
(イ) 差異点b
正面視による略 U 字状の柄の厚さが、本件意匠2では、おおむね平面視による板
25 状の柄の幅の3分の1から2分の1程度であるのに対し、被告意匠2では、5分の
1から4分の1程度である(F2-3 と f2-3。以下「差異点b」という。)。
(ウ) 差異点c
平面視にて、一対の支持部の内縁が、本件意匠2では、いずれも先端から柄側に
向かうにつれて緩やかに湾曲し、平面図上下方向の中間付近で円弧状に接続し、略
V 字状を形成しているのに対し、被告意匠2では、柄との境付近で窄まり円弧状を
5 成す略 U 字状を形成している(G2-3 と g2-3 の各一部。以下「差異点c」という。)
(エ) 差異点d
把持部には、本件意匠2では、平面視にて、先端から柄との境にかけて、支持部
の内縁から把持部の表面に向けて傾斜したくぼみが形成されており、このくぼみの
傾斜面は、先端部から柄側にかけて徐々に幅が広くなるよう形成されているのに対
10 し、被告意匠2では、先端から柄との境にかけて、支持部の内側部分に傾斜部が形
成されていない(H2-3 と h2-3。以下「差異点d」という。)。
(オ) 差異点e
支持部の断面図は、本件意匠2では、角丸四角形からくぼみ部分が欠けた形状と
なっているのに対し、被告意匠2では、やや縦が長く角が少し丸みを帯びた長方形
15 状になっている(I2-3 と i2-3。以下「差異点e」という。)。
(カ) 差異点f
平面視における一対の支持部の間が、本件意匠2では、全体の長手方向の長さの
約7分の2にわたる空洞となっているのに対し、被告意匠2は、約2分の1にわた
る空洞となっている(J2-3 と j2-3。以下「差異点f」という。)
20 (4) 本件意匠2の要部
ア 本件意匠2に係る物品の需要者、用途及び使用態様等
(ア) 本件意匠2に係る物品である指マッサージ器の需要者が指マッサージ器の購
入者・使用者であることは、当事者間に争いがない。
(イ) 用途及び使用態様等
25 本件意匠2の実施品である原告製品2は、使用者が片方の手で柄を握り、もう片
方の手の指等を支持部の先端において支持されるローラーで挟み、指の指先側と根
元側との間を適宜行き来させるなど、柄をローラーの回転可能な方向に前後させる
ことにより指等をマッサージするものである。マッサージの対象となる指の部分や
向きに特に限定はないと見られる。
(ウ) このような指マッサージ器の購入にあたり、需要者は、店舗であれば店舗に
5 置かれた商品それ自体ないし商品パッケージに付された商品画像等を、インターネ
ット上であれば EC サイトに掲載された商品画像等を視認する。
原告製品2のパッケージ(以下「本件パッケージ2」という。)は、台紙上に製
品を正面側から視認できる状態で設置し、これを透明なプラスチックケースで覆う
ものである。台紙の表面(商品側)には、ローラーに挟んだ手指の側の斜め上方か
10 ら見た原告製品2の使用イメージを示すイラスト(以下「本件イラスト2-1」と
いう。)が掲載されているところ、これによれば、原告製品2の正面、平面及び側
面側の形状を視認し得る。また、台紙の裏側には、本件イラスト2-1のほか、原
告製品2の平面図(同台紙では「正面」とされる。)及び正面図(同「側面」とさ
れる。)の各イラスト(これらを併せて「本件イラスト2-2」という。)が掲載
15 されているほか、ローラーに挟んだ人差し指と親指の間の部分をマッサージする原
告製品2のイラスト(以下「本件イラスト2-3」といい、本件イラスト2-1、
2-2と併せて「本件各イラスト2」という。)が掲載されているところ、これら
によれば、原告製品の平面側の形状を視認し得る。(乙9)
他方、原告サイトの原告製品2の紹介ページ(乙20)には、上部に商品画像と
20 して本件パッケージ2の画像及び本件イラスト2-1と同じアングルから見た原告
製品2全体の画像(以下「本件画像2-1」という。)が拡大表示可能とされてい
るほか、本件イラスト2-2及びこれに含まれる各イラストのローラーに指を挟ん
だ状態の拡大図が掲載されると共に、「使い方」として、本件各イラスト2-1及
び2-3とほぼ同様の角度及び構図の画像(以下、これらの2つの画像及び本件画
25 像2-1を併せて「本件各画像2」という。)が掲載されている。
また、Amazon.co.jp の原告製品2取扱いページ(乙21)では、商品画像とし
て本件各画像2及び本件パッケージ2の画像が掲載されている。
イ 需要者が注目する部分
上記各事情に照らせば、需要者は、原告製品2の使用に当たり、手指等のマッサ
ージに直截的に影響を与える部分であるローラーの形状に注目することはもちろん、
5 それと同時に、これを支持し、回転させる把持部、とりわけ支持部の形状にも同程
度に注目すると考えられる。視認する方向については、正面、平面いずれも同程度
にあり得ると共に、これらを斜め上方向から視認することも多いと見られる。
他方、柄の部分については、原告製品2を使用するにあたりこれを手にする際に
視認するとはいえ、これに注目する程度は把持部ほどではないと考えられる。また、
10 原告製品2を左右各側面から視認する機会は乏しいというべきである。
さらに、支持部に関する構成のうち、平面視における一対の支持部の間に形成さ
れる空洞が本件意匠2の全体の長手方向の長さに占める割合(具体的構成態様 J2-
3)については、マッサージ中のマッサージ部位の状態の確認等に関わる点で、需
要者は、そのような空洞の存在そのものには着目すると思われる。もっとも、それ
15 がマッサージ具全体の長手方向の長さに占める割合の多寡についてまで強く注意を
惹かれると見るべき事情はうかがわれない。
ウ 本件公知意匠2について
(ア) 証拠(乙10、11)によれば、本件公知意匠2は、いずれも本件出願日2
(平成19年2月2日)前に公知となった意匠と認められる。
20 (イ) 乙10意匠
証拠(乙10)によれば、乙10意匠の意匠に係る物品は素肌マッサージ用美容
ローラーであり、ローラー間に頬、顎、首等を挟み、上下に転がすことでマッサー
ジ効果を得るものと説明されていることから、本件意匠2の属する分野と同一ない
し類似の分野に属しないものとはいえない。
25 乙10意匠は、柄と先端側においてローラーを支持する一対の支持部とからなる
が、正面視にて、トング状ではなく、柄は平板状に形成され、このような柄から、
先端にてローラーを挟持する棒状の一対の支持部が緩やかに対称に湾曲しながら伸
びている態様のものである。また、平面視にて、柄は板状に形成され、把持部は、
柄との境部分から先端に向けて、柄と同程度の厚さから徐々に厚さを減じつつ先端
に向かい、ローラーの手前で二股に分岐して支持部を形成している。
5 (ウ) 乙11意匠
証拠(乙11)によれば、乙11意匠の意匠に係る物品は顔用マッサージローラ
ーであり、4つの大きなローラーで顔(両頬)を横方向にマッサージするマッサー
ジローラーと説明されていることから、本件意匠2の属する分野と同一ないし類似
の分野に属しないものとはいえない。
10 乙11意匠は、柄とそれより先端側においてローラーを支持する一対の支持部と
からなり、正面視において、柄の末端が半円状で、柄の上下が柄と支持部との境付
近で最接近するように相互に内側に緩やかに湾曲した後、先端に向かって支持部が
互いに離れるように緩やかに湾曲しており、全体としてはトング状の形状といい得
る。他方、一対の支持部は、それぞれ、2つのローラーの間に位置してこれらを支
15 持するように配置されている。
(エ) 以上のとおり、本件公知意匠2のうち、乙10意匠は、先端にてローラーを
挟持する棒状の一対の支持部が緩やかに対称に湾曲しながら伸びている態様である
という点で、また、乙11意匠は、柄及び支持部が全体としてはトング状の形状と
いい得る点で、それぞれ本件意匠2と共通する部分があるといえるにとどまる。し
20 かも、これらの共通部分についても、そもそも指マッサージ器を意匠に係る物品と
する本件意匠2と、いずれも頬や顎、首等のマッサージ器を意匠に係る物品とする
本件公知意匠2とでは、その大きさが大きく異なる。その点を措くとしても、本件
意匠2と本件公知意匠2とでは、柄及び支持部の具体的な構成には明確な違いがあ
る。そのため、本件意匠2と本件公知意匠2との上記共通部分にかかわらず、当該
25 共通部分に係る本件意匠2の構成をもって、ありふれたものであり需要者の注目を
惹かないと見るのは相当でない。
エ 乙23意匠について
登録意匠の要部認定に当たり後願意匠を考慮することが原則として相当でないこ
とは、前記1(5)ウのとおりである。乙23意匠は、本件出願日2に後れた日(平
成21年10月29日)に出願されたものであるから、本件意匠2の後願意匠に当
5 たる。
また、この点を措くとしても、証拠(乙23)によれば、乙23意匠は、本件意
匠2に比して柄の部分の全体に占める割合が大幅に低い上、正面図(乙23文献の
平面図)において、本件意匠2と異なり、柄の末端部と支持部との境側部分との間
に透孔が形成されていることなどから、乙23意匠は、翻って本件意匠2の要部を
10 認定するに当たり参考となり得るものではない。
オ 小括
以上の事情を総合的に考慮すれば、本件意匠2の要部は、基本的構成態様 A2-3
~C2-3 及び把持部ないし支持部に係る具体的構成態様 G2-3、H2-3 及び K2-3 であ
ると認めるのが相当である。
15 カ 被告の主張について
被告は、本件意匠2の基本的構成態様 C2-2(C2-3 に相当)及び具体的構成態様
H2-2(H2-3 に相当)、I2-2(I2-3 に相当)、J2-2(J2-3 に相当)及び F2-2(F2-
3 に相当)が要部と認定されるべき旨を主張する。
このうち、各構成態様の認定については前記(1)のとおりである。
20 また、具体的構成態様 I2-3 は、左右各側面図の方向から見た支持部の断面の形
状に関するものであることから、需要者が視認する機会は乏しく、これをもって要
部とするのは相当でない。他方、具体的構成態様 J2-3 については、前記イのとお
り、需要者は、空洞が本件意匠2の全体の長手方向の長さに占める割合の多寡にま
では着目しないと考えられるから、これも要部とするのは相当でない。このことは、
25 原告製品2が、標準小売価格900円(税抜。乙20)と比較的低価格な生活雑貨
品といえる範疇のものであり、購入に際し需要者が機能及びデザイン性を考慮する
としても、通常、その形状の細部まで子細に検討する場合が多いとはいえないと見
られることを踏まえると、尚更である。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
できない。
5 (5) 本件意匠2と被告意匠2の対比
ア 共通点について
本件意匠2と被告意匠2の共通点のうち、共通点aは、基本的構成態様に関する
ものである上、本件意匠2の要部に含まれるものである。このため、この共通点が
意匠全体の印象に与える影響は非常に強く、本件意匠2と被告意匠2とに接した需
10 要者は、両意匠から共通する印象を強く感じるといえる。
また、共通点b~eは、いずれも具体的構成態様に関するものであるところ、こ
のうち共通点d及びeは本件意匠2の要部に含まれるものであるし、共通点b及び
cも含め、いずれも需要者が目にする機会の多い正面及び平面側から容易に認識し
得るものである。したがって、これらの共通点は、本件意匠2と被告意匠2の印象
15 の共通性を一層高めるものといえる。
イ 差異点について
(ア) 差異点aについて
差異点aは、平面視における柄の幅の中間部から末端にかけての変化に関するも
のであるところ、要部に関する差異点ではない上、本件意匠2の柄の幅が変化して
20 いるとはいえ、極めて緩やかに幅が広くなっているというにとどまることを踏まえ
れば、本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはい
えない。
(イ) 差異点bについて
差異点bは、正面視における略 U 字状の柄の厚さに関するものであるところ、要
25 部に関する差異点ではない上、需要者が正面視による柄の厚さと平面視による板状
の柄の幅の比率に関心を持つと見るべき事情はうかがわれないことを踏まえれば 、
本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。
(ウ) 差異点c及びdについて
差異点cは、平面視における一対の支持部の内縁の形状に関するもの、差異点d
は、同支持部の内側部分に形成されたくぼみの有無等に関するものである。これら
5 は、いずれも本件意匠2の要部に係る差異点である。
もっとも、前記(4)イのとおり、支持部に関する構成のうち、平面視における一
対の支持部の間に形成される空洞については、マッサージ中のマッサージ部位の状
態の確認等に関わる点で、需要者は、そのような空洞の存在そのものには着目する
と思われるが、差異点c及びdは、いずれも、そのような空洞の周囲に存在する構
10 成に係るものにすぎず、視覚を通じて需要者に美感を起こさせるにあたっての影響
の程度は、本件意匠2及び被告意匠2の各基本的構成態様に比してやや低いと見る
のが相当である。また、差異点cに関しては、一対の支持部の内縁が、本件意匠2
においてはいずれも先端から柄側に向かうにつれて緩やかに湾曲し、平面図上下方
向の中間付近で円弧状に接続して略 V 字状を形成している(G2-3)のに対し、被
15 告意匠2においては、柄との境付近で窄まり円弧状をなす略 U 字状を形成している
(g2-3)というにとどまり、両意匠につき異なる印象を需要者に与えるというほど
のものとはいえない。
したがって、差異点c及びdについては、いずれも、それ自体として、また、こ
れらを併せても、本件意匠2と被告意匠2との各共通点によって需要者に生じる美
20 感の共通性を凌駕するほどのものとまではいえないと見るのが相当である。
(エ) 差異点eについて
差異点eは、支持部の断面の形状に関するものであるところ 、前記(4)イのとお
り、これを需要者が視認する機会は乏しく、本件意匠2の要部には含まれないこと
に鑑みると、本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異
25 とはいえない。
(オ) 差異点fについて
差異点fは、平面視における一対の支持部の間に形成される空洞が本件意匠2及
び被告意匠2の全体の長手方向の長さに占める割合に関するものであるところ、前
記(4)イのとおり、需要者がこの点に強く注意を惹かれるとは考え難いことを踏ま
えると、本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とは
5 いえない。
ウ 以上の事情を総合的に考慮すると、本件意匠2と被告意匠2は、その骨格的
な構成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み
合わせたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の
共通性を凌駕するほどのものということはできない。
10 したがって、本件意匠2と被告意匠2とは、全体として需要者の視覚を通じて起
こさせる美感が共通しており、類似するというべきである。これに反する被告の主
張はいずれも採用できない。
(6) 小括
以上により、被告による被告製品2の製造、輸入、販売等の行為は、本件意匠権
15 2を侵害するものといえる。そうである以上、原告は、被告に対し、本件意匠権2
に基づき、被告製品2の製造、販売等の差止請求権並びに被告製品2及びその製造
に必要な金型の廃棄請求権を有する。
4 原告の損害額ないし損失額(争点4)
(1) 本件意匠権1関係
20 (内訳等の詳細は、別紙「損害額等一覧表(裁判所の認定)」の「本件意匠権
1」の各欄及び別紙「被告各製品売上表(裁判所の認定)」の「被告製品1」の各
欄参照)
ア 売上額について
(ア) 仕入数量
25 被告製品1の仕入数量については、注文数量が記載された「PURCHASE ORD
ER」(乙33)ではなく、現にこれを輸入するにあたり作成される「PACKING
LIST」(乙38) に基づく輸入数量を もって把握するのが 適当である。もっと
も、平成26年5月27日付け注文に係る「 PURCHASE ORDER」(乙33の
1)に対応する「PACKING LIST」は証拠上見当たらない。したがって、同注文
分については、「PURCHASE ORDER」(乙33の1)記載の数量をもって仕入
5 数量と認める。
そうすると、被告製品1の仕入数量は、合計●(省略)●個と認められる。
(上記のほか、乙63、弁論の全趣旨)
(イ) 在庫数量
証拠(乙32の1、32の2、63)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年5月
10 6日時点における被告製品1の在庫数量は、●(省略)●個と認められる。
なお、この在庫数量は被告販管システムに基づき計上されたものとされるとこ
ろ、その信用性に疑義を抱くべき具体的な事情はうかがわれない。
(ウ) ロス率
a 被告のように、多種多様な大量の生活雑貨品を店舗等を通じて消費者に販売
15 する業態において、取扱商品の紛失、不良、破損、サンプル品としての使用等によ
り、仕入数量の全てを販売することはできず、販売不能となる商品(ロス)が一定
量発生することは、経験則上明らかである。
b 証拠(乙32の1、32の2、38の4、42の1、63、68)及び弁論
の全趣旨によれば、次のとおり認められる。
20 すなわち、被告は、被告販管システムにおいて、商品の紛失、破損、サンプルと
しての使用、閉店した店舗における実際の在庫数とシステム上の在庫数との差等を
ロス数として管理しているところ、これによれば、令和元年7月1日~令和2年1
2月7日の526日間における被告製品1(黒)のロス数は●(省略)●個とされ
る。また、被告製品1(黒)は、平成31年3月14日に輸入され、同年4月5日
25 ~令和2年12月17日(623日。なお、同期間の仕入数量は●(省略)●個で
ある。また、販売終期については、後記(カ)のとおり。)まで販売された。これに
よれば、同製品のロス率は、●(省略)●%となる(小数点以下切り捨て。以下同
じ)。
●(省略)●%
他方、被告製品1(白)について同様の計算によれば(ただし、ロス数算出の対
5 象期間を令和元年7月1日~令和2年12月7日の17か月、同製品の販売期間を
平成26年8月15日~令和2年12月7日の76か月として計算した場合。その
期間中の仕入数量は●(省略)●個、ロス数は●(省略)●個である。)、そのロ
ス率は約●(省略)●%となる。
●(省略)●%
10 c 上記算出に係るロス率は、被告製品1(白)と被告製品1(黒)とで大きく
異なるところ、少なくとも両製品の販売が重複する期間において、これらの販売の
場所、方法、態様等が異なっていたことをうかがわせる事情はない。もっとも、被
告製品1(白)の販売期間は被告製品1(黒)に比して長期間であり、後者の販売
開始前の段階では販売態様等が異なっていた可能性は少なくなく、これがロス率の
15 差に反映されたと考えることもできる。また、平成26年11月6日付け記事(甲
108)によれば、広く小売業一般に関するものではあるものの、日本における小
売業のロス率が0.97%とされていることをも踏まえると、●(省略)●%とい
うロス率が著しく高いというべきことはもちろん、●(省略)●%であってもなお
高率と見られる。
20 これらの事情を総合的に考慮すると、被告製品1については、両製品を通じて、
●(省略)●%のロス率を認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主
張はいずれも採用できない。
(エ) 販売数量
以上を踏まえると、被告による被告製品1の販売数量は、合計●(省略)●個と
25 認められる。
●(省略)●個
(オ) 単価
被告製品1の単価が390円(税抜)であることは、当事者間に争いがない。
また、消費税法基本通達5-2-5に鑑みると、法39条2項の「利益の額」は、
消費税込の売上額をもとに算定すべきであり、不当利得における利得額も同様に考
5 えられる。そうすると、被告製品1の税込単価は、令和元年9月30日までは42
1円、同年10月1日以降は429円となる。これに反する被告の主張は採用でき
ない。
(カ) 販売期間及び各月の販売数量等
証拠(甲102、104)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告製品1を遅
10 くとも平成27年10月1日から令和2年12月17日頃までの間販売したことが
認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
また、被告製品1の各月の販売数量を直接示す証拠は見当たらず、また、販売開
始当初に顧客向けに積極的に宣伝広告したことなど、その販売期間内における各月
の販売数量の大きな変動をうかがわせる証拠も見当たらない。そこで、販売期間中
15 の各月の販売数量については、概ね均等に販売されたものと見て、被告製品1の販
売数量(●(省略)●個)及び販売期間(平成27年10月1日~令和2年12月
17日。62か月17日)に基づき、1か月あたり●(省略)●個(1日当たり●
(省略)●個)とし、令和2年12月は17日間で●(省略)●個販売されたもの
と認めるのが相当である。
20 ●(省略)●個/月
●(省略)●個
(キ) 売上額
以上によれば、各期間における販売数量及び売上額は、以下のとおりとなる。
・平成27年10月~平成28年12月2日(不当利得返還請求の対象期間。以
25 下「期間①」という。)
販売個数 ●(省略)●個(=●(省略)●)
売上額 ●(省略)●円(=●(省略)●個*¥421)
・平成28年12月3日~令和元年9月30日(損害賠償請求 の対象期間のう
ち、消費税率8%の期間。以下「期間②-1」という。)
販売個数 ●(省略)●個(=●(省略)●)
5 売上額 ●(省略)●円(=●(省略)●個*¥421)
・令和元年10月1日~令和2年12月17日( 損害賠償請求の対象期間のう
ち、消費税率10%の期間。以下「期間②―2」といい、これと期間②-1を併せ
て「期間②」という。)
販売個数 ●(省略)●個(=●(省略)●)
10 売上額 ●(省略)●円(=●(省略)●個*¥429)
・期間②の売上額 合計●(省略)●円
イ 控除すべき経費の額
(ア) 侵害行為により侵害者が受けた利益の額(法39条2項)とは、侵害者の侵
害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造、販売することによりその製造、
15 販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額である。
(イ) 仕入原価
被告が被告製品1を1個あたり US$●(省略)●で輸入したことは、当事者間に
争いがない。また、後掲の証拠によれば、被告は、この被告製品1の輸入分の仕向
送金決済として、以下のとおり支払ったこと(手数料を除く。)が認められる。
20 ・ 平成26年5月27日頃 ●(省略)●円(甲79、乙33の1、弁論の全
趣旨。なお、算定に当たっては仕向送金決済時の為替レートに基づき円換算す
るのが本来相当であるが、同日発注分の決済時期は不明であることから、発注
時の為替レートによることとする。)
●(省略)●
25 ・ 平成27年2月16日 ●(省略)●円(乙33の2、60の1)
・ 平成27年12月2日 ●(省略)●円(乙33の3、60の2)
・ 平成30年9月19日 ●(省略)●円(乙33の4、60の3)
●(省略)●
・ 平成31年3月20日 ●(省略)●円(乙33の5、乙60の4)
以上の合計額は●(省略)●円であるところ、被告主張に係る製造・仕入原価は
5 ●(省略)●円であることにも鑑み、●(省略)●円をもって仕入原価として認め
る。
(上記のほか、乙63)
(ウ) 輸入経費
証拠(乙33の2~33の5、34の2~34の5、63)及び弁論の全趣旨に
10 よれば、被告は、被告製品1の輸入に伴う海上運賃及び通関料等として、合計●
(省略)●円を支払ったことが認められる。
これに加え、被告は、平成26年8月25日付の請求書(乙34の1の1)に係
る被告製品1と他の製品(乙34の1の2はその PURCHASE ORDER)との海上
運賃等についても、両製品の製造原価比で按分した分を被告製品1に係るものとし
15 て控除すべき旨を主張する。しかし、製造原価比で按分することの合理性を示す具
体的な事情は見当たらないことなどから、当該海上運賃等をもって被告製品1の販
売等に直接関連して追加的に必要となったものとはいえない。この点に関する被告
の主張は採用できない。
(エ) 検品費用
20 証拠(後掲のもの及び乙63)によれば、被告は、被告製品1の輸入に伴う検品
費用として、以下のとおり、合計●(省略)●円を支払ったことが認められる(な
お、為替レートについては、支払時期に最も近い時期の為替レートを採用した。)
・ 平成26年8月11日 ●(省略)●円(乙33の1、35の1、61
の1) ●(省略)●
25 ・ 平成27年3月4日 ●(省略)●円(乙33の2、35の2、61の
2) ●(省略)●
・ 同年12月14日 ●(省略)●円(乙33の3、35の3、61の
3) ●(省略)●
・ 平成30年9月30日頃 ●(省略)●円(乙33の4、35の4、60の
3。なお、この決済当時の為替レートは証拠上不明であることから、同一製品の仕
5 入代金に係る仕向送金決済時のものによる。)
●(省略)●
・ 平成31年4月4日 ●(省略)●円(乙33の5、35の5、61の
4) ●(省略)●
(オ) 倉庫保管料
10 被告は、輸入した被告製品1を倉庫で保管し、倉庫業者に対し坪数に応じた保管
料を月額で支払っているとして、輸入の際の積載量等から算出した金額を経費とし
て主張する。しかし、被告製品1の出入庫が随時行われていること(乙37の1、
37の2)などを踏まえると、被告主張に係る計算方法により被告製品1に係る倉
庫保管料を正確に算出し得ると考えることは必ずしもできないから、これをもって
15 被告製品1の販売等に直接関連して追加的に必要となったものとはいえない。この
点に関する被告の主張は採用できない。
(カ) 配送費用
証拠(乙36、37の1、37の2、39の1の1、39の2、63)によれ
ば、被告製品1に係る●(省略)●は●(省略)●円、配送料は●(省略)●円
20 (合計●(省略)●円)であることが認められる。
また、証拠(乙34の1の1、34の1の2、34の2~34の5、36、40
の1、63)によれば、●(省略)●について、輸入ごとに●(省略)●円、合計
●(省略)●円であることが認められる。
被告は、さらに、コンテナ内に被告製品1以外の製品が積まれていた場合につい
25 て、被告製品1と他の製品との容積比で按分した分を被告製品1に係るものとして
控除すべき主張する。しかし、他の製品が同一コンテナ内に積まれていた以上、そ
の分の●(省略)●をもって被告製品1の販売等に直接関連して追加的に必要とな
ったものとはいえない。また、●(省略)●との記載があることに鑑みると、当該
コンテナに被告製品1のみが積まれていたか否か は不明であるため、この分の●
(省略)●についても、被告製品1の販売等に直接関連して追加的に必要となった
5 ものとは認められない。
ウ 限界利益の額
以上によれば、被告製品1を製造、販売等するに当たり直接関連して追加的に必
要となった費用としては、合計●(省略)●円が認められる。
このうち、損害賠償請求の対象期間に販売された被告製品1に係る分は、総販売
10 数量●(省略)●個のうち、不当利得返還請求の対象期間に販売された被告製品1
の数●(省略)●個を除いた数量である●(省略)●個に係るものといえる。した
がって、売上額から控除すべき費用の額は、合計●(省略)●円と認められる。
●(省略)●
これを損害賠償請求の対象である期間②の売上額(●(省略)●円)から控除し
15 た額である●(省略)●円が、被告製品1の限界利益となる。これに反する原告及
び被告の主張はいずれも採用できない。
エ 推定覆滅事由の有無等
(ア) 法39条2項により、原則として侵害者が得た利益全額につき意匠権者の損
害額として推定が及ぶものの、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部に
20 ついて、意匠権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合
には、その限度で上記推定は覆滅されるものと解される。推定を覆滅させる事情と
しては、侵害者が得た利益と意匠権者が受けた損害との間との相当因果関係を阻害
する事情、例えば、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同一性)、市
場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の
25 性能(機能その他意匠以外の特徴)等が挙げられる。
(イ) 業務態様等の相違
a 証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告は、被告各製品を含む商品を、被告ブランドを付した生活雑貨品
を販売する被告店舗等において販売している。被告店舗は、令和3年5月時点で全
国に62店舗存在し、路面店もあるものの、ショッピングモール等商業施設のテナ
5 ントとして開設されている店舗が多い。被告各製品は、被告店舗等以外の小売店や
EC サイトでは販売されていない。(甲41、81、109、乙43、50、57
~59、弁論の全趣旨)
他方、原告は、原告各製品を、商業施設等に開設された小売店、ドラッグストア
及び量販店等を通じて、また、原告サイトのほか一般的な EC サイトの販売業者を
10 通じて販売している。(甲42、48、51、52、56~58)
被告店舗が開設されている商業施設内において、原告の製品の取扱い実績がある
店舗が開設されている例は、少なくとも140例ある(甲42。ただし、ここでい
う取扱い実績のある 原告の製品に原告各製品が含まれるかは不明である。)。ま
た、「アウトバスヘアグッズのプチプラコスメ人気おすすめランキング」と題する
15 ウェブサイト(甲45)では、人気のプチプラアウトバスヘアグッズとして、原告
製品1と被告製品1がいずれも取り上げられている。
販売価格は、被告製品1は390円(税抜)、原告製品1は1000円(税抜)
である(甲3、4、乙6、12)。
b 検討
20 被告製品1と原告製品1は、共に頭部マッサージ具である。原告製品1は枝部の
先端に形成された涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げる
といった使用方法が想定されている(乙1)のに対し、被告製品1は、枝部の先端
に形成された涙滴状部を頭皮に押し当て、微細な振動を与えるといった使用方法が
想定されている(甲3、4、乙29)。このように、両製品は、具体的な使用方法
25 は異にするものの、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭皮等のマッサージ対象部
位に押し当ててマッサージを行うものである点で 、その基本的な用途を同じくす
る。両製品の販売価格には2倍以上の差があるものの、具体的な価格差は610円
(税抜)であり、「プチプラ」のもともとの意義はともかく、市場において「プチ
プラ」と呼ばれる廉価な生活雑貨品のカテゴリーにいずれも分類されることがある
以上、両製品は、その価格差を踏まえても、市場において競合するものといえる。
5 また、被告は、被告各製品を被告店舗等のみで販売しているものの、被告店舗の
出店先の商業施設に原告の製品を取り扱う店舗も出店している例が多数ある。こう
した商業施設では、需要者は、商業施設内の各店舗を巡って目的に適う同種製品を
比較検討して購入することが可能であり、実際上も、このような行動はしばしば見
受けられる。さらに、被告製品1が販売されている EC サイトは被告サイトのみで
10 あるとしても、被告店舗等で被告製品1に触れた需要者が、他の EC サイトで頭部
マッサージ具を検索することは容易であり、これもしばしば見受けられる行動とい
えるのであって、その結果、複数の EC サイトにおいて販売されている原告製品1
が検索結果として表示されることも容易に推察される。
このような事情を踏まえれば、業務態様ないし販売チャンネルのあり方における
15 原告と被告との違いや被告製品1と原告製品1との価格差は、損害額の推定を覆滅
すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。
これに対し、被告は、被告店舗での取扱商品の多様さや、商品ラインナップにお
ける被告製品1の位置付けなどから、需要者は、被告店舗を訪れて被告製品1に触
れた際に始めて被告製品1の存在を知り、そのまま衝動的に購入する場合が多く、
20 被告製品1が存在しなければそもそも頭部マッサージ具の需要が発生しないか、需
要者が当初より被告製品1を購入する意思をもって被告サイトで被告製品1を購入
しているため、被告製品1が販売されなくともその分の需要が原告製品1に吸収さ
れるとはいえないなどと主張する。しかし、そのような需要者の購買行動等があり
得るとしても、被告製品1の需要者の全てないし多くがそのように行動すると考え
25 るべき根拠はない。被告製品1が廉価なことを踏まえても、価格のみならずその機
能やデザイン等を含む総合的な評価に基づいて、同種製品と比較検討の上で購入に
至る需要者も一定数存在すると考えるのが、むしろ経験則に合致する。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
できない。
(ウ) 競合品の存在
5 本件意匠1及び被告意匠1の各構成態様並びに原告製品1及び被告製品1の具体
的な使用態様等を踏まえると、乙28の各ウェブサイト掲載商品に係る別紙「被告
主張の競合品一覧(本件意匠1)」のうち、少なくとも①、②、④~⑥、⑨、⑩、
⑮、⑳、㉑は、原告製品1及び被告製品1の競合品と認められる。
そうすると、被告製品1が市場に存在しない場合、被告製品1に係る需要の全て
10 が原告製品1に吸収されるとは限らないから、これらの競合品の存在は、被告が得
た利益と原告が受けた損害との間との相当因果関係を阻害するものとして、損害額
の推定を一定程度覆滅させる事情として考慮すべきである。
(エ) 被告の営業努力等
証拠(甲41、乙45~49)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、約6年の間
15 に全国的に被告店舗を多数展開し(令和3年5月時点で62店舗)、複数のウェブ
サイトで人気の生活雑貨店として取り上げられていることが認められることなどを
踏まえると、被告ブランドは一定程度需要者に認知されているとうかがわれる。
もっとも、被告自身、被告製品1につき被告の主力商品として販売されていたも
のではないと主張していることに加え、被告製品1に特化した宣伝広告等がされた
20 ことを認めるに足りる証拠もないこと、廉価な生活雑貨品という被告製品1の性格
等を踏まえると、被告製品1を購入する需要者にとって、被告ブランドの取扱商品
であることが主な購入の理由ないし動機となっているとは考え難い。
その他被告の格別な営業努力が被告製品1の売上増加に貢献していると見るべき
具体的な事情はない。
25 したがって、被告の営業努力等は、損害額の推定を覆滅すべき事情とはいえない
か、いえるとしてもその程度は限られる。
(オ) 侵害品の性能
前記((イ)b)のとおり、被告製品1は、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭
皮に押し当て、微細な振動を与えることにより頭皮をマッサージする効果を奏する
商品であり、涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げるとい
5 った使用方法が想定されている原告製品1とは、その具体的な使用方法において異
なる。この使用方法の相違は、実用品である頭部マッサージ具の機能に関わるもの
である。実用品である以上、商品の機能性は、デザインと同等かそれ以上に需要者
の商品選択において重要な要因として位置付けられる。このことは、被告が商品デ
ザインを重視した商品開発を行い、需要者に対してこれを訴求していることがうか
10 がわれること(甲81~83)などを考慮しても異ならない。
したがって、原告製品1と被告製品1の具体的な使用方法の相違すなわち機能面
の相違は、損害額の推定を相当程度覆滅すべき事情といえる。
(カ) 覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すると、本件では、被告製品1に係る原告の損害額の
15 推定につき、4割の限度で覆滅されるとするのが相当である。これに反する原告及
び被告の各主張はいずれも採用できない。
そうすると、被告の本件意匠権1侵害による原告の損害 額は、●(省略)●円
(=¥●(省略)●*(1-0.4))となる。
オ 法39条2項及び3項の重畳適用、実施料率
20 (ア) 法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく
推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分
に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同
条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張
は採用できない。
25 (イ) 実施に対し受けるべき金銭の額
「意匠の実施に対し受けるべき金銭の額」(法39条3項)すなわち意匠の実施
に対し受けるべき料率は、当該意匠の実際の実施許諾契約における実施料率や、そ
れが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、当該意
匠自体の価値、当該意匠を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の
態様、意匠権者と侵害者との競業関係や意匠権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情
5 を総合的に考慮して、合理的な料率を定めるべきである。また、その際、必ずしも
当該意匠権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必
然性はなく、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受
けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと
を考慮すべきである。
10 また、不当利得返還請求に関し、当該「受けるべき金銭の額に相当する額」は、
本来、意匠権者がその登録意匠の実施に当たり意匠権者に対して支払うべきであっ
た実施料相当額であるから、侵害者がこれを支払うことなく登録意匠を実施した場
合は、その実施により、侵害者は同額の利得を得、意匠権者は同額の損失を受けた
ものと評価することができる。したがって、法39条3項の「受けるべき金銭の額
15 に相当する額」が不当利得における受益者の利得の額に相当し、かつ、権利者の損
失の額に相当すると認めるのが相当である。
(ウ) まず、本件意匠権1に係る実施許諾契約が締結されたことを認めるに足りる
証拠はなく、その他原告が本件意匠権1に係る実施許諾契約を締結する場合に定め
る実施料率をうかがわせる事情はない。
20 また、「実施料率〔第5版〕技術契約のためのデータブック」(甲59)によれ
ば、「プラスチック製品」の技術分野(その対象には、「プラスチック板・棒・管
・継手・異形押出製品製造技術、…その他のプラスチック製品製造技術」であり、
「その他のプラスチック製品」とは「プラスチック製台所用品・浴室用品等」であ
るが、「プラスチック製の家具(29)・ブラシ(31)・履物(27)等」は含まれ
25 ない。)における外国技術導入契約の実施料(許諾製品の出来高にリンクした料率
表示であったもの)につき、平成4年度~平成10年度の外国技術導入契約(イニ
シャルロイヤリティがないもの。63件)の場合、平均値は3.9%、中央値は3
%であった(なお、甲59には、このほかに技術分野を「ゴム製品」とする項も存
するが、その対象は、タイヤ・チューブ製造技術、ゴム製・プラスチック製履物・
同付属品製造技術等であり、被告製品1の分野と類似するものがないから、これを
5 参考とするのは相当でない。)。また、「ロイヤルティ料率データハンドブック~
特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ~」(甲60)によれば、「個
人用品または家庭用品」の技術分類における実施料率(13件)は、平均が3.5
%、標準偏差1.6%、最大値7.5%、最小値0.5%であり、「健康;人命救
助;娯楽」の技術分類(54件)では、平均5.3%、標準偏差3.2%、最大値
10 14.5%、最小値0.5%である。
さらに、前記(エ(イ)b、エ(オ))のとおり、被告製品1の需要者は、製品の機能
を中心に、デザイン及び価格性を総合的に考慮した上で商品選択を行うものと見ら
れることから、本件意匠1ないしこれに類似する被告意匠1を用いた場合の売上及
び利益への貢献の程度の評価にあたっても、これを踏まえる必要がある。
15 加えて、原告製品1と被告製品1は いずれも頭部マッサージ具であることに加
え、原告と被告は、取扱い商品や販売店舗の出店先が相当程度に重複していること
から、高い程度で競合関係にあるといえる。このため、仮に原告が被告に対し本件
意匠権1に係る実施許諾契約を締結するならば、その実施料は高めに設定されるの
が通常であると考えられる。しかも、証拠(甲64~69)及び弁論の全趣旨によ
20 れば、原告は、自己の保有する登録意匠に係る侵害品の防止に積極的に努めている
ことがうかがわれる。
以上の事情に加え、意匠権侵害に基づく損害賠償請求の場面での仮想実施料率の
考察であることを総合的に考慮すると、本件意匠権1を侵害した者に対して事後的
に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は 5%を下らないというべきであ
25 る。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
そうすると、法39条3項により認められる損害賠償請求の額は、●(省略)●
円(≒¥●(省略)●*0.4*0.05)となる。
カ 弁護士費用相当額
原告は、本件訴訟の提起及び追行につき弁護士に委任したところ、被告の本件意
匠権1侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、法39条2項及
5 び同項3項による損害賠償請求の合計額●(省略)●円の10%である●(省略)
●円と認めるのが相当である。
キ 小括
以上によれば、本件意匠権1につき、原告が被告に対して請求し得る損害賠償額
及び不当利得返還請求額は、次のとおりである。
10 (ア) 不当利得返還請求額 ●(省略)●円
¥●(省略)●(期間①の売上額)*0.05(実施料率)=¥●(省略)●
(イ) 損害賠償請求額 合計●(省略)●円
¥●(省略)●(法 39 条 2 項及び 3 項)+¥●(省略)●(弁護士費用相当
額)
15 =¥●(省略)●
(ウ) 遅延利息・遅延損害金
a 遅延利息
原告は、被告に対し、平成27年9月24日付け書面(乙26)により、被告製
品1が本件意匠権1の侵害と考えられる旨等を通知し、同書面は、その頃、被告に
20 到達した。したがって、被告は、遅くとも平成28年12月 3 日以前の時点で、原
告に対して実施料を支払わないことにより同額分の利益を受けていることについて
悪意であったといえる。したがって、原告の被告に対する不当利得返還請求につい
ては、平成28年12月3日以降の改正前民法所定の5%の割合による遅延利息の
請求が認められる(民法704条)。
25 b 遅延損害金
原告は、令和2年3月までの被告製品1の販売分については不法行為後である同
年4月1日以降の改正前民法所定の5%の割合による遅延損害金の、同年4月以降
の販売分については不法行為後の令和3年4月1日以降の民法所定の3%の割合に
よる遅延損害金の支払を求めているところ、損害賠償請求の合計額●(省略)●円
を対応する期間の販売数量により按分すると、令和2年3月まで(販売数量●(省
5 略)●個)が●(省略)●円、同年4月以降(販売数量●(省略)●個)が●(省
略)●円となる。したがって、それぞれにつき、原告は、被告に対し、上記各割合
による遅延損害金請求権を有する。
(2) 本件意匠権2関係
(内訳等の詳細は、別紙「損害額等一覧表(裁判所の認定)」の「本件意匠権
10 2」の各欄及び別紙「被告各製品売上表(裁判所の認定)」の「被告製品2」の各
欄参照)
ア 売上額について
(ア) 仕入数量
被告が被告製品2を●(省略)●個輸入したことは、当事者間に争いがない。
15 (イ) 在庫数量
証拠(乙32の3、63)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年5月6日時点に
おける被告製品2の在庫数量は、●(省略)●個と認められる。
(ウ) ロス率
被告製品2が遅くとも令和元年8月1日から販売されたことは、当事者間に争い
20 がない。他方、販売期間の終期については、証拠(甲100、101、103、1
05~107)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2は、少なくとも令和2年1
2月17日頃まで販売されたことが認められる。
また、証拠(乙32の3、63、68)によれば、被告販管システム上、令和元
年7月1日~令和2年12月7日の間における被告製品2のロス数は、●(省略)
25 ●個とされていることが認められる。ロス数計上の対象期間と上記認定に係る被告
製品2の販売期間と概ね一致することなどから、被告製品2のロス率については、
●(省略)●%と認めるのが相当である。
●(省略)●%
(エ) 販売数量
以上より、被告による被告製品2の販売数量は、合計●(省略)●個と認められ
5 る。
●(省略)●個
(オ) 単価
被告製品2の単価が290円(税抜)であることは、当事者間に争いがない。
法39条2項の「利益の額」の算定にあたり消費税込の売上額をもとに算定すべ
10 きことは、前記((1)ア(オ))のとおりである。
そうすると、被告製品2の税込単価は、令和元年9月30日までは313円、同
年10月1日以降は319円となる。
(カ) 売上額
被告製品1の場合と同様に、被告製品2についても、各月の販売数量を直接示す
15 証拠は見当たらず、また、その販売期間内における各月の販売数量の大きな変動を
うかがわせる証拠も見当たらない。そこで、被告製品2に関しても、各月に概ね均
等に販売されたものと見て、販売数量(●(省略)●個)及び販売期間(令和元年
8月1日~令和2年12月17日 。16か月17日)に基づき、1か月あたり●
(省略)●個(1日あたり●(省略)●個)とし、令和2年12月は17日間で●
20 (省略)●個販売されたものと認めるのが相当である。
●(省略)●個/月
●(省略)●個
そうすると、各期間における販売個数及び売上額は、以下のとおり、合計●(省
略)●円となる。
25 ・令和元年8月及び同年9月
販売個数 ●(省略)●個(=●(省略)●個*2)
売上額 ●(省略)●円(=●(省略)●個*¥313/個)
・同年10月1日~令和2年12月17日
販売個数 ●(省略)●個(●(省略)●個*14 月+●(省略)●個)
売上額 ●(省略)●円(=●(省略)●個*¥319/個)=¥●(省略)●
5 イ 控除すべき経費の額
(ア) 仕入原価
被告が被告製品2を1個当たり US$●(省略)●で輸入したことは、当事者間に
争いがない。また、証拠(乙33の6、38の5、60の5)及び弁論の全趣旨に
よれば、被告は、被告製品2の仕向送金決済として、●(省略)●円を支払ったこ
10 とが認められる。
●(省略)●
(イ) 輸入経費及び検品費用
証拠(乙33の6、34の6、63)によれば、被告製品2は、他の製品と同梱
されて輸入されたことが認められる。このため、被告が被告製品2の輸入に伴う海
15 上運賃及び通関料等として支払った金額を具体的に特定することはできないから 、
これを控除すべき経費とすることはできない。この点につき、被告は、被告製品2
と他の被告製品と製造原価比で按分した分を被告製品2に係るものとして控除すべ
き旨を主張するところ、これをもって被告製品2の販売に直接関連して追加的に必
要となったものとはいえないことは、前記(1)イ(ウ)と同様である。
20 検品費用についても、証拠(乙33の6、35の6、61の5)によれば、被告
が被告製品2の検品費用として支払った金額を具体的に特定することはできないか
ら、上記と同様に、これを控除すべき経費とすることはできない。
(ウ) 倉庫保管料
被告主張に係る倉庫保管料については、被告製品1の場合(前記(1)イ(オ))と同
25 様に、これを控除すべき経費とすることはできない。
(エ) 配送費用
証拠(乙36、37の3、39の3の1、63)によれば、被告製品2に係る●
(省略)●、合計●(省略)●円であることが認められる。
他方、●(省略)●というのであり、被告製品2のためのものとして支払った金
額を具体的に特定することができない。したがって、これらは、いずれも控除すべ
5 き経費とすることはできない。この点につき、被告は、●(省略)●をもって被告
製品2の出荷の際に要したものとして控除すべき旨を主張する。しかし、その割合
を具体的に裏付ける証拠もないことなどから、この点に関する被告の主張は採用で
きない。
●(省略)●については、被告製品2は●(省略)●というのであるから、被告
10 製品1の場合(前記(1)イ(カ))と同様に、これをもって被告製品2の販売等に直接
関連して追加的に必要となったものとはいえない。
(オ) デザイン・金型費用等
被告は、被告製品2の開発にあたり外注先に支払ったデザイン・金型費用等につ
き、控除すべき経費である旨主張する。
15 しかし、その裏付け資料とされる平成30年7月31日付け「御請求書」(乙4
1)によれば、「商品名」欄には、●(省略)●との記載があるものの、これらの
記載と被告製品2(なお、商品名は「フィンガーリフレッシャー」である。甲7
等)との関連性は証拠上明らかでない。また、被告の主張を前提としても、上記請
求書の「商品名」欄記載の項目のうち前2者については被告製品2以外の製品に係
20 る費用が含まれているところ、上記各項目につき、被告の主張額が被告製品2に係
る費用であることを的確に裏付ける証拠もない。
したがって、上記費用等につき、被告製品2の販売に直接関連して追加的に必要
となったものとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 限界利益の額
25 以上によれば、被告製品2を製造、販売等するに当たり直接関連して追加的に必
要となった経費としては、合計●(省略)●円が認められる。
そうすると、被告製品2に係る限界利益の額は、売上額合計●(省略)●円から
経費合計●(省略)●円を控除した●(省略)●円と認められる。
エ 推定覆滅事由の有無等
(ア) 業務態様等の相違
5 業務態様等の相違に関しては、概ね被告製品1の場合(前記(1)エ(イ))と同様で
ある。
販売価格につき、被告製品2が290円(税抜)であり、原告製品2が900円
(税抜)であるところ(甲7、乙21)、約3倍の価格差とはいえ、具体的には6
10円であること、より販売価格の高い被告製品1と原告製品1とが「プチプラ」
10 と呼ばれる廉価な生活雑貨品のカテゴリーに分類される以上、被告製品2と原告製
品2も同様に分類されると考えられることに鑑みれば 、被告製品2と原告製品2
は、その価格差を踏まえても、市場において競合するものといえる。
(イ) 競合品の存在
本件意匠2及び被告意匠2の各構成態様並びに原告製品2と被告製品2の具体的
15 な使用態様等を踏まえると、乙31の各ウェブサイト掲載商品に係る別紙「被告主
張の競合品一覧(本件意匠2)」の①~⑪は、いずれも原告製品2及び被告製品2
の競合品であると認められる。
そうすると、被告製品2が市場に存在しない場合、被告製品2に係る需要の全て
が原告製品2に吸収されるとは限らないから、これらの競合品の存在は、被告が得
20 た利益と原告が受けた損害との間との相当因果関係を阻害するものとして、損害額
の推定を一定程度覆滅させる事情として考慮すべきである。
(ウ) 被告の営業努力等
被告製品1の場合(前記(1)エ(エ))と同様に、被告の営業努力等は、損害額の推
定を覆滅すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。
25 (エ) 被告製品2における本件意匠2の位置付け等
本件意匠2は、本件図面2のとおり、指マッサージ器の構成のうち、ローラー及
びこれを直接支持する先端部分を除いた支持部を含む把持部と柄からなる部分意匠
である。
被告製品2及び原告製品2の指マッサージ器は、いずれも、2つのローラーの間
に施術対象である手指等を挟み、その状態でローラーを往復させることにより所望
5 のマッサージ効果を得るものである。このように、両製品はいずれも実用品である
以上、商品の機能性は、デザインと同等かそれ以上に需要者の商品選択において重
要な要因として位置付けられる。しかも、上記マッサージ効果は、直接的には手指
等を挟むローラーによって実現されるものであるから、機能性及びデザイン性のい
ずれの観点からも、需要者は、指に直接当たり、マッサージ効果や使い心地に直結
10 するローラー自体の形状、材質、硬さ等に最も注目するといえる。他方、それ以外
の把持部及び柄については、持ちやすさや操作性(挟みやすさ、力加減の調整のし
やすさ等)に影響することから、需要者にとって、機能性の観点から相応の注目を
引くものの、ローラー部分と比較すると二次的なものにとどまると思われる。さら
に、これらの部分のデザイン性は、機能性の観点から需要者の注目を引く程度を少
15 なくとも超えるものではないと考えられる。このことは、前記(1)エ(オ)のとおり、
被告が商品デザインを重視した商品開発を行い、需要者に対してこれを訴求してい
るとうかがわれることなどを考慮しても異ならない。
したがって、本件意匠2は指マッサージ器のローラー部分を含まない部分意匠で
あることは、被告製品2の販売等により被告が得た利益と原告が受けた損害との相
20 当因果関係を阻害する事情として、相当程度考慮すべきである。
(オ) 覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すると、本件では、被告製品2に係る原告の損害額の
推定につき、6割の限度で覆滅されるとするのが相当である。これに反する原告及
び被告の主張はいずれも採用できない。
25 そうすると、被告の本件意匠権2の侵害による原告の損害額は、●(省略)●円
(=¥●(省略)●*(1-0.6))となる。
オ 法39条2項及び3項の重畳適用、実施料率
被告製品2に係る「実施に対し受けるべき金銭の額」については、概ね被告製品
1の場合(前記(1)オ)と同様に考えられる。もっとも、被告製品2は、指マッサ
ージ器において需要者の注意を最も惹く部分であるローラー部分を除いた部分意匠
5 である本件意匠2を実施したものであることを踏まえると、頭部マッサージにあた
り直接頭皮に触れる部分の意匠である本件意匠1を実施した被告製品1の場合に比
して、より控えめに考えるのが相当である。
したがって、本件意匠権2を侵害した者に対して事後的に定められるべき、実施
に対し受けるべき料率は3%を下らないというべきである。これに反する原告及び
10 被告の主張はいずれも採用できない。
そうすると、法39条3項により認められる損害賠償請求の額は、●(省略)●
円(=¥●(省略)●*0.6*0.03)となる。
カ 弁護士費用相当額
原告は、本件訴訟の提起及び追行につき弁護士に委任したところ、被告の本件意
15 匠権2侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、法39条2項及
び同項3項による損害賠償請求の合計額●(省略)●円の10%である●(省略)
●円と認めるのが相当である。
キ 小括
以上によれば、本件意匠権2につき、原告が被告に対して請求し得る損害賠償額
20 は、次のとおりである。
(ア) 損害賠償請求 合計●(省略)●円
¥●(省略)●(法39条2項及び3項)+¥●(省略)●(弁護士費用相当
額)
=¥●(省略)●
25 (イ) 遅延損害金
原告は、令和2年3月までの被告製品2の販売分については不法行為後の同年4
月1日以降の改正前民法所定の5%の割合により、同年4月以降の販売分について
は不法行為後の令和3年4月1日以降の民法所定の3%の割合による遅延損害金の
支払を求めているところ、損害賠償請求の合計額●(省略)●円を対応する期間の
販売数量により按分すると、令和2年3月まで(販売数量●(省略)●個)が●
5 (省略)●円、同年4月以降(販売数量 ●(省略)●個)が●(省略)●円とな
る。したがって、それぞれにつき、原告は、被告に対し、上記各所定の割合による
遅延損害金請求権を有する。
(3) まとめ
以上より、原告は、被告に対し、以下の請求権を有する。
10 ア 本件意匠権1について
・●(省略)●円の不当利得返還請求権及びこれに対する平成28年12月3日
から支払済みまで年5%の割合による遅延利息支払請求権
・不法行為に基づく●(省略)●円の損害賠償請求権、並びにうち●(省略)●
円に対する令和2年4月1日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合によ
15 る遅延損害金請求権、及びうち●(省略)●円に対する令和3年4月1日から支払
済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権
イ 本件意匠権2について
不法行為に基づく●(省略)●円の損害賠償請求権、並びにうち●(省略)●円
に対する令和2年4月1日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による
20 遅延損害金請求権、及びうち●(省略)●円に対する令和3年4月1日から支払済
みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権
第5 結論
よって、原告の請求は、主文の限度で理由があるから、その限度で認容し、その
余の請求は理由がないから、これらをいずれも棄却することとする。なお、主文第
25 1項及び第2項については、仮執行の宣言を付すのは相当でないから、これを付さ
ないこととする。
大阪地方裁判所第26民事部
5 裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
布 目 真 利 子
別紙意匠公報省略
別紙被告主張の競合品一覧省略
最新の判決一覧に戻る