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令和3(行ケ)10068審決取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年4月14日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社高尾
被告特許庁長官
対象物 弾球遊技機
法令 特許権
特許法36条6項2号1回
キーワード 審決14回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 特許庁が不服2020-2334号事件について令和3年4月13日
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は、平成29年9月4日、発明の名称を「弾球遊技機」とする発明に ついて、特許出願(特願2017−169837号。以下「本願」という。) をした(甲3)。 ⑵ 原告は、令和元年12月4日付けの拒絶査定(甲9)を受けたため、令和 2年2月20日、拒絶査定不服審判(不服2020−2334号事件。甲10) を請求するとともに、特許請求の範囲及び明細書について手続補正((以下 「本件補正」という。甲5)をした。

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判決文

令和4年4月14日判決言渡
令和3年(行ケ)第10068号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年12月6日
判 決
原 告 株 式 会 社 高 尾
同訴訟代理人弁理士 林 崇 朗
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 藏 野 い づ み
長 崎 洋 一
千 本 潤 介
小 島 寛 史
冨 澤 美 加
主 文
1 特許庁が不服2020-2334号事件について令和3年4月13日
にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、平成29年9月4日、発明の名称を「弾球遊技機」とする発明に
ついて、特許出願(特願2017−169837号。以下「本願」という。)
をした(甲3)。
⑵ 原告は、令和元年12月4日付けの拒絶査定(甲9)を受けたため、令和
2年2月20日、拒絶査定不服審判(不服2020−2334号事件。甲10)
を請求するとともに、特許請求の範囲及び明細書について手続補正((以下
「本件補正」という。甲5)をした。
特許庁は、同年12月9日付けで拒絶理由通知(以下「本件拒絶理由通知」
という。甲2)をした後、令和3年4月13日、
「本件審判の請求は、成り立
たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年5
月11日、原告に送達された。
⑶ 原告は、令和3年5月25日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、単に「請求項1」という。)
の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」とい
う。下線部は本件補正による補正箇所である。甲5)。
【請求項1】
遊技者が操作可能な第1操作手段及び第2操作手段と、
遊技盤に配置され、所定の可動範囲内にて作動する可動体と、
所定の始動口に遊技球が入球したことに起因して数値データを抽出する数
値データ抽出手段と、
抽出された前記数値データに基づいて、当りか否かの当否判定、及び当選時
に当りの種類の決定を行う当否判定手段と、
前記当否判定手段によって当りと判定されたことを起因に大当り遊技を実
行する大当り遊技実行手段と、
前記当否判定に応じて、図柄を変動表示せしめ、後に前記図柄を確定表示せ
しめて前記当否判定の結果を報知せしめる変動演出の制御を行う演出制御手
段と、
前記当否判定手段により決定された当りの種類に応じて、大当り遊技終了後
に、遊技状態を通常遊技状態から当りの当選に有利な特典遊技状態へ移行可能
とする特典遊技状態移行手段と、を備え、
前記演出制御手段は、所定の前記変動演出の実行中に、前記第1操作手段又
は前記第2操作手段が操作されることを起因に前記可動体を所定の可動態様
で作動せしめる可動体演出を行い、
該可動体演出は、前記当否判定の結果が当りでない場合には、前記可動体を
作動させず、前記当否判定の結果が大当りである場合には、前記可動体を少な
くとも前記所定の可動態様で作動可能であり、
前記演出制御手段は、前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大
当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には前記第2
操作手段の選択率が高く、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の
終了後に前記特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の選択率が
高いことを特徴とする弾球遊技機。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は、①請求項1の「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊
技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高
く」との記載は、「特典遊技状態となる場合」の「前記第2操作手段の選択率」
が、何と比較して「高」いのか比較の対象が不明確であり(特典遊技状態とな
らない場合の第2操作手段の選択率よりも高いのか、特典遊技状態となる場合
の第1操作手段の選択率よりも高いのか、比較の対象がこれ以外であるのか。 、

上記記載がどのような構成を特定しようとしているのか明確に把握できない、
②請求項1の「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前
記特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記
載は、
「特典遊技状態とならない場合」の「前記第1操作手段の選択率」が、何
と比較して「高い」のか比較の対象が不明確であり(特典遊技状態となる場合
の第1操作手段の選択率よりも高いのか、特典遊技状態とならない場合の第2
操作手段の選択率よりも高いのか、比較の対象がこれ以外であるのか。 、上記

記載がどのような構成を特定しようとしているのか明確に把握できない、③し
たがって、本件発明は、明確でないから、特許法36条6項2号の要件(以下
「明確性要件」という。)を満たしておらず、本願は、拒絶すべきものであると
いうものである。
4 取消事由
明確性要件の判断の誤り
第3 当事者の主張
1 原告の主張
⑴ 本件発明が明確性要件に適合すること
ア 請求項1には、
「演出制御手段」に関する記載として「前記演出制御手段
は、所定の前記変動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作
手段が操作されることを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せし
める可動体演出を行い」との記載があり、この記載から、可動体演出を作
動させる起因となる操作手段として第1操作手段又は第2操作手段が選
択されることを理解できる。
上記記載の解釈を踏まえると、請求項1の「前記演出制御手段は、前記
可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技
の終了後に前記特典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率
が高く、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記
特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との
記載(以下「記載J」という場合がある。)のうち、「前記当否判定の結果
が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には
前記第2操作手段の選択率が高く」との記載(以下「記載j1」という場
合がある。)からは、「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の
終了後に前記特典遊技状態となる場合には、第1操作手段よりも第2操作
手段が選択される割合が高い」との構成を理解でき、また、同様に、記載
Jのうち、
「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前
記特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」と
の記載(以下「記載j2」という場合がある。)からは、「前記当否判定の
結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態とならない
場合には、第2操作手段よりも第1操作手段が選択される割合が高い」と
の構成を理解できる。
イ 次に、本件補正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細
な説明には、
「演出制御手段は、大当り時(大当り遊技の終了後に前記特典
遊技状態となる場合を除く)には、第2操作手段よりも第1操作手段が選
択されやすい構成が望ましい。 (
」【0012】 、
) 「この発明によれば、第1
操作手段又は第2操作手段の操作により演出用の可動体が作動するか否
か、即ち、大当りか否かで遊技者の期待感を高めることができる。更に、
可動体が作動した場合は特典遊技状態となる大当りか否かで遊技者の期
待感を高めることができる。その上、例えば、大当り時に選択されやすい
第1操作手段の操作に応じて、可動体が所定の可動態様で作動する構成で
あれば、大当りとなる可能性があり、遊技者の期待度が高まる。一方、大
当り時に選択されにくい第2操作手段の操作に応じて、可動体が所定の可
動態様で作動する構成であれば、第1操作手段の操作に比べて大当りの期
待度は低いが、大当りだったら特典遊技状態となるのでより遊技者の期待
感が高まる。 (
」 【0013】)との記載がある。これらの記載からすると、
請求項1の「演出制御手段」は、大当り遊技の終了後に特典遊技状態とな
る場合を除く大当り時には、第2操作手段よりも第1操作手段が選択され
やすくなり、大当り遊技の終了後に特典遊技状態となる大当り時には、第
1操作手段よりも第2操作手段が選択されやすくなる構成であることを
理解できる。
そして、本件明細書の上記記載を参酌すると、前記アと同様に、記載j
1からは、
「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前
記特典遊技状態となる場合には、第1操作手段よりも第2操作手段が選択
される割合が高い」との構成を理解でき、また、記載j2からは、
「前記当
否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態と
ならない場合には、第2操作手段よりも第1操作手段が選択される割合が
高い」との構成を理解できる。
ウ 以上の請求項1の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の参酌によれ
ば、請求項1の記載j1及びj2の記載内容は、いずれも明確であるとい
えるから、本件発明は明確性要件に適合する。
したがって、これと異なる本件審決の判断は誤りである。
⑵ 小括
以上のとおり、本件審決における明確性要件の判断に誤りがあるから、本
件審決は違法として取り消されるべきである。
2 被告の主張
⑴ 本件発明が明確性要件に適合するとの主張に対し
ア 請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変動演出の実行中に、前
記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されることを起因に前記可
動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」との記載から、
第1操作手段又は第2操作手段が操作されることを起因に可動体を所定
の可動態様で作動せしめる可動体演出を行うことを理解できるが、第1操
作手段と第2操作手段の両方が操作される場合や、その他の操作手段が操
作される場合が排除されていないため、上記記載は、
「第1操作手段又は第
2操作手段が二者択一で選択される構成」を特定しているとはいえない。
仮に上記記載から「第1操作手段又は第2操作手段が二者択一で選択さ
れる構成」を読み取れるとしても、そのことから直ちに、記載j1の「前
記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状
態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く」との記載における「前
記第2操作手段の選択率」の比較対象が、(特典遊技状態となる場合の)

第1操作手段の選択率」であると一義的に導かれるわけではなく、例えば、
「(特典遊技状態とならない場合の)第2操作手段の選択率」が比較対象で
あるとの解釈が排除されるわけではない。同様に、記載j2の「前記当否
判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態とな
らない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載における「前
記第1操作手段の選択率」の比較対象が、(特典遊技状態とならない場合

の)第2操作手段の選択率」であると一義的に導かれるわけではなく、例
えば、 (特典遊技状態となる場合の)第1操作手段の選択率」が比較対象

であるとの解釈が排除されるわけではない。
そして、記載j1の「前記第2操作手段の選択率」及び記載j2の「前
記第1操作手段の選択率」の比較対象が、それぞれ「(特典遊技状態となる
場合の)第1操作手段の選択率」及び「(特典遊技状態とならない場合の)
第2操作手段の選択率」であるとの解釈(以下「解釈1」という。)に基づ
く構成であっても、上記比較対象が、それぞれ「(特典遊技状態とならない
場合の)第2操作手段の選択率」及び「(特典遊技状態となる場合の)第1
操作手段の選択率」との解釈(以下「解釈2」という。)に基づく構成であ
っても、第2操作手段が選択されると、大当たりになった場合に特典遊技
状態になりやすくなることに変わりはないから、いずれの解釈であっても、
本件明細書の【0005】記載の「操作手段の操作に応じて作動可能な可
動体の可動態様を豊富に備え、当否判定の結果及びこれ以外の情報を報知
することができ、操作手段を用いた演出を効果的に活用し、遊技者の期待
感を向上する演出を行う弾球遊技機を提供する」との課題を解決できるも
のであり、また、
「可動体演出の起因となる手段として第1操作手段及び第
2操作手段のどちらが選択されるかに応じて、大当りの可能性に加えて特
典遊技状態の可能性を報知することができる。その結果、本件発明によれ
ば、可動体演出に対する遊技者の期待感を向上させることができる。 との

作用効果を奏するものである。
以上のとおり、本件発明の技術的意義(課題、解決手段及び作用効果)
を考慮しても、記載Jについて解釈1と解釈2のいずれが妥当であるかを
判断することはできず、少なくとも二通りの解釈が可能であるから、記載
Jは不明確である。
したがって、記載Jを含む本件発明は、明確であるとはいえないから、
明確性要件に適合しない。
イ 原告は、本件明細書の【0012】及び【0013】を参酌すると、記
載j1からは、
「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後
に前記特典遊技状態となる場合には、第1操作手段よりも第2操作手段が
選択される割合が高い」との構成を理解でき、また、記載j2からは、
「前
記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状
態とならない場合には、第2操作手段よりも第1操作手段が選択される割
合が高い」との構成を理解できるから、記載Jは、明確である旨主張する。
しかしながら、本件明細書の【0012】には、
「大当り遊技の終了後に
前記特典遊技状態となる場合」について何ら述べていないため、
「大当り遊
技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」について、上記記載を根拠と
して、
「第1操作手段よりも第2操作手段が選択されやすい」という反対解
釈のみを行うことが当然に許容されるものではないから、請求項1の記載
Jと対応するものではなく、本件発明の解釈の根拠とはならない。
また、本件明細書の【0013】の記載は、
【0011】記載の「請求項
1に記載の発明」(本件発明)とは対応するものではなく、【0013】に
は、請求項1の記載Jに対応する記載は存在しないから、本件発明の解釈
の根拠とはならない。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
⑵ 小括
以上のとおり、記載Jを含む本件発明は、明確でないから、本件発明が明
確性要件に適合しないとした本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明の明確性要件の適合性について
⑴ 請求項1の記載は、
「 遊技者が操作可能な第1操作手段及び第2操作手段と、
遊技盤に配置され、所定の可動範囲内にて作動する可動体と、
所定の始動口に遊技球が入球したことに起因して数値データを抽出す
る数値データ抽出手段と、
抽出された前記数値データに基づいて、当りか否かの当否判定、及び当
選時に当りの種類の決定を行う当否判定手段と、
前記当否判定手段によって当りと判定されたことを起因に大当り遊技
を実行する大当り遊技実行手段と、
前記当否判定に応じて、図柄を変動表示せしめ、後に前記図柄を確定表
示せしめて前記当否判定の結果を報知せしめる変動演出の制御を行う演
出制御手段と、
前記当否判定手段により決定された当りの種類に応じて、大当り遊技終
了後に、遊技状態を通常遊技状態から当りの当選に有利な特典遊技状態へ
移行可能とする特典遊技状態移行手段と、を備え、
前記演出制御手段は、所定の前記変動演出の実行中に、前記第1操作手
段又は前記第2操作手段が操作されることを起因に前記可動体を所定の
可動態様で作動せしめる可動体演出を行い、
該可動体演出は、前記当否判定の結果が当りでない場合には、前記可動
体を作動させず、前記当否判定の結果が大当りである場合には、前記可動
体を少なくとも前記所定の可動態様で作動可能であり、
前記演出制御手段は、前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果
が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には
前記第2操作手段の選択率が高く、前記当否判定の結果が大当りで、且つ
大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態とならない場合には前記第1操
作手段の選択率が高いことを特徴とする弾球遊技機。」
というものである。
上記記載から、本件発明の弾球遊技機は、
「遊技者が操作可能な第1操作
手段及び第2操作手段」と、
「遊技盤に配置され、所定の可動範囲内にて作
動する可動体」 「所定の始動口に遊技球が入球したことに起因して数値
と、
データを抽出する数値データ抽出手段」 「抽出された前記数値データに
と、
基づいて、当りか否かの当否判定、及び当選時に当りの種類の決定を行う
当否判定手段」 「前記当否判定手段によって当りと判定されたことを起
と、
因に大当り遊技を実行する大当り遊技実行手段」 「前記当否判定に応じ
と、
て、図柄を変動表示せしめ、後に前記図柄を確定表示せしめて前記当否判
定の結果を報知せしめる変動演出の制御を行う演出制御手段」 「前記当
と、
否判定手段により決定された当りの種類に応じて、大当り遊技終了後に、
遊技状態を通常遊技状態から当りの当選に有利な特典遊技状態へ移行可
能とする特典遊技状態移行手段」とを備えることを理解できる。
また、上記記載は、本件発明の「演出制御手段」は、当否判定の結果が
大当りである場合、当該当否判定に応じた変動演出の実行中、遊技者によ
って第1操作手段又は第2操作手段のいずれかが操作されることを起因
に可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行う制御を行う
ことを規定したものと解されるから、本件発明の「演出制御手段」は、当
否判定の結果が大当りである場合、変動演出の実行中、第1操作手段が操
作されることを起因に可動体演出を行うか、又は第2操作手段が操作され
ることを起因に可動体演出を行うかを選択するものと理解できる。
以上を総合すると、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出
を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に
前記特典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記
当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態
とならない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、
「前記
演出制御手段」が、
「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大
当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」には、
前記第1操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をす
るより、前記第2操作手段が操作されることを起因に可動体演出を行う選
択をする割合が高く、
「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の
終了後に前記特典遊技状態とならない場合」には、前記第2操作手段が操
作されることを起因に可動体演出を行う選択をするより、前記第1操作手
段が操作されることを起因に可動体演出を行う選択をする割合が高いこ
とを規定したものと理解できる。
したがって、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出を行う
際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特
典遊技状態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記当否判
定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となら
ない場合には前記第1操作手段の選択率が高い」との記載は、その記載内
容が明確である。
⑵ これに対し、被告は、①請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変
動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ
とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」
との記載から、第1操作手段又は第2操作手段が操作されることを起因に可
動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行うことを理解できるが、
第1操作手段と第2操作手段の両方が操作される場合や、その他の操作手段
が操作される場合が排除されていないため、上記記載は、
「第1操作手段又は
第2操作手段が二者択一で選択される構成」を特定しているとはいえないし、
仮に「第1操作手段又は第2操作手段が二者択一で選択される構成」を読み
取れるとしても、そのことから直ちに、記載j1の「前記当否判定の結果が
大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合には前記
第2操作手段の選択率が高く」との記載における「前記第2操作手段の選択
率」の比較対象や、記載j2の「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当
り遊技の終了後に前記特典遊技状態とならない場合には前記第1操作手段の
選択率が高い」との記載における「前記第1操作手段の選択率」の比較対象
が一義的に導かれるわけではない、②本件明細書の【0012】及び【00
13】の記載は、請求項1の記載Jに対応しておらず、本件発明の解釈の根
拠とはならないから、記載Jを含む本件発明は、明確性要件に適合しない旨
主張する。
しかし、①については、請求項1の「前記演出制御手段は、所定の前記変
動演出の実行中に、前記第1操作手段又は前記第2操作手段が操作されるこ
とを起因に前記可動体を所定の可動態様で作動せしめる可動体演出を行い」
との記載が、
「演出制御手段」が、第1操作手段と第2操作手段の両方が操作
される場合や、その他の操作手段が操作される場合について可動体演出を行
うことを規定しているものと読み取ることはできないし、請求項1の記載全
体をみても同請求項がそのように規定しているものと読み取ることはできな
い。
また、前記⑴のとおり、本件発明の「演出制御手段」は、当否判定の結果
が大当りである場合、変動演出の実行中、第1操作手段が操作されることを
起因に可動体演出を行うか、又は第2操作手段が操作されることを起因に可
動体演出を行うかを選択するものと理解できることからすると、記載j1は、
「前記可動体演出を行う際に、前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り
遊技の終了後に前記特典遊技状態となる場合」について、
「前記第2操作手段
の選択率」が「前記第1操作手段の選択率」よりも高いことを規定するもの
と、記載j2は、
「前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後
に前記特典遊技状態とならない場合」について、 前記第1操作手段の選択率」

が「前記第2操作手段の選択率」よりも高いことを規定するものとそれぞれ
理解できるから、記載j1及びj2のいずれの記載についてもその比較対象
は明確である。
②については、前記⑴のとおり、記載Jの記載内容が明確であることは、
本件明細書の【0012】及び【0013】を根拠とするものではないから、
被告の主張は前提を欠くものである。
以上によれば、被告の上記主張は理由がない。
⑶ 小括
よって、本件発明の「前記演出制御手段は、前記可動体演出を行う際に、
前記当否判定の結果が大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状
態となる場合には前記第2操作手段の選択率が高く、前記当否判定の結果が
大当りで、且つ大当り遊技の終了後に前記特典遊技状態とならない場合には
前記第1操作手段の選択率が高い」との記載(記載J)は、その記載内容が
明確であるといえるから、上記記載が明確でなく、本件発明が明確性要件に
適合しないとした本件審決の判断には誤りがある。
2 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由は理由があるから、本件審決は取り消さ
れるべきである。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 小 川 卓 逸
裁判官小林康彦は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎

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