令和2(ワ)29604特許権侵害損害賠償請求事件
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裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和4年4月27日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社DAPリアライズ 被告ソフトバンク株式会社
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対象物 |
携帯情報通信装置及び携帯情報通信装置を使用したパーソナルコンピュータシステム |
法令 |
特許権
特許法102条3項6回 民法703条3回 特許法36条6項1号2回 特許法126条5項2回 特許法70条1回 特許法126条1項1回 特許法134条1回 特許法134条の21回 特許法36条4項1号1回 特許法36条6項2号1回 民事訴訟法248条1回
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キーワード |
実施108回 ライセンス45回 損害賠償22回 侵害19回 特許権16回 無効15回 許諾13回 進歩性13回 新規性7回 訂正審判3回 審決2回 分割1回
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主文 |
1 被告は、原告に対し、705万7771円及びこれに対する令和2年1
2月5日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加により生じた費用を含む。)は、これを9分し、そ
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
1 本件は、その発明の名称を「携帯情報通信装置及び携帯情報通信装置を使用
したパーソナルコンピュータシステム」とする特許権(以下「本件特許権」と
いう。)を有する原告が、被告に対し、被告の販売する別紙物件目録記載の各
スマートフォンは、本件特許権に係る特許(以下「本件特許」という。)の特25
許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範
囲に属するとして、不法行為又は不当利得に基づき、損害賠償又は不当利得の
一部である3000万円及び訴状送達日の翌日である令和2年12月5日から
民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和4年4月27日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第29604号 特許権侵害損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和4年2月25日
判 決
5 原 告 株式会社DAPリアライ ズ
被 告 ソフトバンク株式会社
同 補 助 参 加 人 シ ャ ー プ 株 式 会 社
上記両名訴訟代理人弁護士 生 田 哲 郎
佐 野 辰 巳
10 主 文
1 被告は、原告に対し、705万7771円及びこれに対する令和2年1
2月5日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加により生じた費用を含む。)は、これを9分し、そ
15 の7を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
被告は、原告に対し、3000万円及びこれに対する令和2年12月5日か
20 ら支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、その発明の名称を「携帯情報通信装置及び携帯情報通信装置を使用
したパーソナルコンピュータシステム」とする特許権(以下「本件特許権」と
いう。)を有する原告が、被告に対し、被告の販売する別紙物件目録記載の各
25 スマートフォンは、本件特許権に係る特許(以下「本件特許」という。)の特
許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範
囲に属するとして、不法行為又は不当利得に基づき、損害賠償又は不当利得の
一部である3000万円及び訴状送達日の翌日である令和2年12月5日から
民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨
5 により認定できる事実をいう。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、
特に記載がない限り、枝番を含むものとする。)
⑴ 当事者等
ア 原告は、各種情報処理・通信システムの考案・開発等を目的とする株式
会社である。
10 イ 被告は、電気通信事業者であり、携帯情報通信装置の企画・販売及び同
装置に係るサービスの提供等をする株式会社である。
ウ 被告補助参加人は、別紙物件目録記載の各スマートフォンを製造し、被
告に販売した株式会社である。
⑵ 本件特許及び本件発明
15 ア 原告は、以下の本件特許権を保有している(以下、本件特許の願書に添
付された明細書及び図面を「本件明細書等」という。甲1、2)。
登録番号 第4555901号
発明の名称 携帯情報通信装置及び携帯情報通信装置を使用したパー
ソナルコンピュータシステム
20 優 先 日 平成16年12月24日及び平成17年7月28日
原出願日 平成17年12月21日
出 願 日 平成20年6月23日
登 録 日 平成22年7月30日
イ 本件特許については、平成30年4月9日付け訂正審判による訂正(以
25 下「本件当初訂正」という。)がされているが、その訂正後の本件発明の
特許請求の範囲(請求項1)の記載は、以下のとおりである。(甲3)
「ユーザーがマニュアル操作によってデータを入力し、該入力データを
後記中央演算回路へ送信する入力手段と;
無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、後記中央演算回路に送信す
るとともに、後記中央演算回路から受信したデジタル信号を無線信号に変
5 換して送信する無線通信手段と;
後記中央演算回路を動作させるプログラムと後記中央演算回路で処理可能
なデータファイルとを格納する記憶手段と;
前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格納されたプログラム
とに基づき、前記無線通信手段から受信したデジタル信号に必要な処理を
10 行い、リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか、又は、自らが処理
可能なデータファイルとして前記記憶手段に一旦格納し、その後読み出し
た上で処理する中央演算回路と、該中央演算回路の処理結果に基づき、単
一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い、
「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成
15 し、該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段又は後記インターフ
ェース手段に送信するグラフィックコントローラと、から構成されるデー
タ処理手段と;
画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示するディス
プレイパネルと、前記グラフィックコントローラから受信したデジタル表
20 示信号に基づき前記ディスプレイパネルの各々の画素を駆動するディスプ
レイ制御手段とから構成されるディスプレイ手段と;
外部ディスプレイ手段を備えるか、又は、外部ディスプレイ手段を接続す
るかする周辺装置を接続し、該周辺装置に対して、前記グラフィックコン
トローラから受信したデジタル表示信号に基づき、外部表示信号を送信す
25 るインターフェース手段と;
を備える携帯情報通信装置において、
前記グラフィックコントローラは、前記携帯情報通信装置が「本来解像度
がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理して画
像を表示する場合に、前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネル
の画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出
5 し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を
生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能
と、前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より
大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み
出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デ
10 ジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と、を実現し、
前記インターフェース手段は、前記グラフィックコントローラから受信し
た「ビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を、デジタルRG
B、TMDS、LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのいずれかの
伝送方式で伝送されるデジタル外部表示信号に変換して、該デジタル外部
15 表示信号を前記周辺装置に送信する機能を有する、
ことにより、
前記外部ディスプレイ手段に、「前記ディスプレイパネルの画面解像度よ
り大きい解像度を有する画像」を表示できるようにした、
ことを特徴とする携帯情報通信装置。」
20 ウ 本件発明の特許請求の範囲の記載は、以下の構成要件AないしKに分説
することができる。
A ユーザーがマニュアル操作によってデータを入力し、該入力データを
後記中央演算回路へ送信する入力手段と;
B 無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、後記中央演算回路に送
25 信するとともに、後記中央演算回路から受信したデジタル信号を無線信
号に変換して送信する無線通信手段と;
C 後記中央演算回路を動作させるプログラムと後記中央演算回路で処理
可能なデータファイルとを格納する記憶手段と;
D 前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格納されたプログ
ラムとに基づき、前記無線通信手段から受信したデジタル信号に必要な
5 処理を行い、リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか、又は、自
らが処理可能なデータファイルとして前記記憶手段に一旦格納し、その
後読み出した上で処理する中央演算回路と、該中央演算回路の処理結果
に基づき、単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読
み出しを行い、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル
10 表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段
又は後記インターフェース手段に送信するグラフィックコントローラと、
から構成されるデータ処理手段と;
E 画面を構成する各々の画素が駆動されることにより画像を表示するデ
ィスプレイパネルと、前記グラフィックコントローラから受信したデジ
15 タル表示信号に基づき前記ディスプレイパネルの各々の画素を駆動する
ディスプレイ制御手段とから構成されるディスプレイ手段と;
F 外部ディスプレイ手段を備えるか、又は、外部ディスプレイ手段を接
続するかする周辺装置を接続し、該周辺装置に対して、前記グラフィッ
クコントローラから受信したデジタル表示信号に基づき、外部表示信号
20 を送信するインターフェース手段と;
G を備える携帯情報通信装置において、
H 前記グラフィックコントローラは、前記携帯情報通信装置が「本来解
像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処理
して画像を表示する場合に、前記単一のVRAMから「前記ディスプレ
25 イパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」
を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表
示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に
送信する機能と、前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの
画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読
み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信
5 号」を生成し、該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信
する機能と、を実現し、
I 前記インターフェース手段は、前記グラフィックコントローラから受
信した「ビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を、デジタ
ルRGB、TMDS、LVDS(又はLDI)及びGVIFのうちのい
10 ずれかの伝送方式で伝送されるデジタル外部表示信号に変換して、該デ
ジタル外部表示信号を前記周辺装置に送信する機能を有する、
J ことにより、前記外部ディスプレイ手段に、「前記ディスプレイパネ
ルの画面解像度より大きい解像度を有する画像」を表示できるようにし
た、
15 K ことを特徴とする携帯情報通信装置。
⑶ 本件発明に係る訂正の請求
ア 被告補助参加人は、令和2年3月31日付けで、特許庁長官に対し、原
告を被請求人として、本件特許を無効とする審判(無効2020-800
032)を請求した。(乙7)
20 イ 原告は、上記アの審判事件において、令和3年3月22日付けで、本件
発明に係る請求項の記載の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)を
した。同訂正による本件発明(以下「本件訂正発明」という。)の特許請
求の範囲は、構成要件G及びHに相当する部分を以下の構成要件G’及び
H’の記載(ただし、下線部は、当該訂正による修正部分である)とする
25 ほかは、本件発明と異なるところはない。(甲15、16)
G’を備え、前記無線通信手段が「本来解像度が前記ディスプレイパネル
の画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信してデ
ジタル信号に変換の上、前記中央演算回路に送信し、前記中央演算回路
が該デジタル信号を受信して、該デジタル信号が伝達する画像データを
処理し、前記グラフィックコントローラが、該中央演算回路の処理結果
5 に基づき、前記単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み
/読み出しを行い、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジ
タル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御
手段又は前記インターフェース手段に送信して、前記ディスプレイ手段
又は前記外部ディスプレイ手段に画像を表示する機能(以下、「高解像
10 度画像受信・処理・表示機能」と略記する)を有する、携帯情報通信装
置において、
H’前記グラフィックコントローラは、前記携帯情報通信装置が前記高解
像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、前記単一のVRAM
から「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像
15 のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデー
タを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記
ディスプレイ制御手段に送信する機能と、前記単一のVRAMから「前
記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビ
ットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを
20 伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記イン
ターフェース手段に送信する機能と、を実現し、
ウ 特許庁は、原告及び被告補助参加人に対し、令和3年10月12日付け
で、前記イの訂正の請求を認めるとともに、前記アの審判の請求は成り立
たない旨の審決(未確定)をした。(甲28)
25 ⑷ 被告の行為
ア 被告は、平成23年頃から平成25年頃まで、被告補助参加人から別紙
物件目録記載のイ号ないしト号製品(以下「被告製品1」という。)並び
にチ号及びリ号製品(以下「被告製品2」という。)を購入し、これらの
製品(以下「被告製品」という。)を業として販売していた。
イ 原告が主張する被告製品の構成は、それぞれ別紙被告製品説明書に記載
5 のとおりであり、本件発明及び本件訂正発明の構成要件充足性との関係で
は、被告製品1に含まれる各製品相互間及び被告製品2に含まれる各製品
相互間において、その構成を区別する必要はない。
⑸ 関連訴訟
ア 原告は、平成24年1月9日頃、被告及び被告補助参加人ほか2名を相
10 手方とし、被告製品1ほかの製品が、原告の保有する特許第387250
2号(乙4)に係る発明の技術的範囲に属するなどと主張し、特許権侵害
損害賠償請求事件(当庁平成24年(ワ)第237号)を提起したが、東
京地方裁判所は、平成25年8月2日、原告の請求をいずれも棄却する旨
の判決を言い渡した。(乙2、3、甲4・114頁)
15 イ 原告は、平成30年12月4日頃、被告補助参加人に対する特許権侵害
損害賠償請求事件(当庁平成30年(ワ)第36690号)を提起したと
ころ、東京地方裁判所は、令和3年1月15日、被告補助参加人が製造販
売する被告製品1を含むスマートフォンが、本件発明の技術的範囲に属す
るなどとして、被告補助参加人に対し、実施料相当額980万1770円
20 の不当利得金の返還などを命じる判決(未確定)をした。(甲4)
ウ 原告は、令和元年11月29日頃、被告補助参加人を相手方とし、被告
補助参加人が製造販売する被告製品2を含むスマートフォンが、本件発明
の技術的範囲に属するなどと主張して、損害賠償金又は不当利得金の一部
である3000万円及び遅延損害金の支払を求める特許権侵害損害賠償請
25 求事件(当庁令和元年(ワ)第32239号)を提起し、当該訴訟は、東
京地方裁判所民事第47部に係属中である。(甲5)
⑹ 先行文献
ア 本件発明の優先日前(平成12年3月3日)に、特開2000-666
49号公報(以下「乙1公報」という。)が存在した(以下、同公報に記
載された発明を「乙1発明」という。)。(乙1)
5 イ 本件発明の優先日前(平成16年7月29日)に、特開2004-21
4766号公報(以下「乙5公報」という。)が存在した(以下、同公報
に記載された発明を「乙5発明」という。)。(乙5)
ウ 本件発明の優先日前(平成9年4月4日)に、特開平9-90919号
公報(以下「乙6公報」という。)が存在した(以下、同公報に記載され
10 た発明を「乙6発明」という。)。(乙6)
3 争点
⑴ 充足論
ア 被告製品のモバイルプロセッサが、構成要件Dの「処理」をするものに
当たるか。(争点1-1)
15 イ 被告製品の画像データを保持するメモリが、構成要件D及びHの「単一
のVRAM」に当たるか(争点1-2)
ウ 被告製品2が、構成要件Dの「中央演算回路」及び「グラフィックコン
トローラ」を共に備えているか。(争点1-3)
エ 被告製品2における画像の処理方法が、構成要件Hに規定されるものと
20 一致するか。(争点1-4)
⑵ 無効論
ア 乙1発明による新規性又は進歩性の欠如(争点2-1)
イ 乙5発明による進歩性の欠如(争点2-2)
ウ 本件当初訂正の訂正要件違反(争点2-3)
25 エ 明確性要件違反(争点2-4)
オ サポート要件違反(争点2-5)
⑶ 損害論
ア 原告に生じた損害又は損失(争点3-1)
イ 消滅時効の抗弁(争点3-2)
第3 争点に関する当事者の主張(なお、本判決を通じ、被告と被告補助参加人の
5 主張を区別せず、「被告の主張」などという。)
1 争点1-1(被告製品のモバイルプロセッサが、構成要件Dの「処理」をす
るものに当たるか。)について
(原告の主張)
⑴ 構成要件Dの「中央演算回路」が、そこで行うとされる「処理」は、無線
10 通信手段から受信したデジタル信号又は記憶手段から読み出したデータファ
イルから、ビットマップデータ等のデジタル画像データに直接対応した信号
又はデジタル画像データの生成を命令する描画命令のデジタル信号を含むデ
ジタル表示信号を生成することを意味すると解すべきである。
⑵ そして、被告製品のモバイルプロセッサ(中央演算回路)は、メインアン
15 テナ及び無線送受信用IC(無線通信手段)から受信したデジタル信号から
リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか、又は、microSDカー
ド(記憶手段)に格納していたデータファイルを読み出し、同様に処理する
のであるから、これを「処理」しているといえる。
⑶ これに対し、被告は、グラフィックコントローラが、構成要件Hの段階に
20 おいて、被告のいう「本来解像度」の外部表示信号を送信するものであると
いう理解を前提に、構成要件Dの段階で行われる「処理」は、本件明細書等
の段落【0032】の「適切に処理する」であり、具体的には、画素を間引
いたり、補間したりしないものでなければならないなどと主張する。
しかし、構成要件Hは、被告主張のような構成ではない。例えば、800
25 0×480画素のディスプレイパネルを有する携帯情報通信装置が、「本来
解像度」が1920×1080画素の画像を読み込み、中央演算回路が、こ
れを1280×720画素に間引いた「処理」をしたとして、グラフィック
コントローラが、構成要件Hの「前記ディスプレイパネルの画面解像度より
大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出すなどする機能
は妨げられるところがない。したがって、構成要件Dの「処理」は、前記の
5 とおりに認定されるべきであり、被告の前記主張は失当である。
(被告の主張)
⑴ 構成要件Dには、「中央演算回路の処理結果に基づき、単一のVRAMに
対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い」とあるから、そこ
にいう「処理結果」は、構成要件Hのグラフィックコントローラが、「単一
10 のVRAM」に対して前記「書き込み/読み出し」を行うに足りるものでな
ければならない。そして、構成要件Hは、グラフィックコントローラが「本
来解像度」の外部表示信号を送信するものと理解されるから、当該「処理結
果」は、その送信を行うのに足りるものでなければならない。
そして、本件明細書等には、そのような「処理」の内容として、段落【0
15 032】の「適切に処理する」しか記載されていない。したがって、構成要
件Dの「処理する」とは、「適切に処理する」を意味し、具体的には、画素
を間引いたり、補間したりしない処理を意味すると解釈すべきである。この
ように解釈することによって、「高解像度外部ディスプレイ手段においては、
その本来の解像度のままの全体画像として表示できるようになる」(【00
20 78】)という本件発明の作用効果を奏することができる。
⑵ 他方、被告製品のモバイルプロセッサは、ウェブサーバからダウンロード
した画像データファイルの画素数(本来画像度)に応じ、これがHD解像度
未満なのであれば、画素を補間する処理をし、これがHD解像度を超えてい
るのであれば、画素を間引く処理をすることによって、一律にHD解像度の
25 表示信号を生成しているのであり、前記のように「適切に処理する」をする
ものではない。したがって、被告製品のモバイルプロセッサは、構成要件D
の「処理」をする「中央演算回路」に当たらない。
2 争点1-2(被告製品の画像データを保持するメモリが、構成要件D及びH
の「単一のVRAM」に当たるか)について
(原告の主張)
5 ⑴ 構成要件D及びHの「単一」とは、VRAMが、ハードウェア(部品)と
して、1つであることを意味すると解すべきである。
本件明細書等の【図1】は、「本発明の第1の実施形態に係る携帯情報通
信装置、携帯情報通信装置用接続ユニット、及び両者を接続した上で該接続
ユニットに外部ディスプレイ装置及び外部入力装置を接続することによって
10 構成した情報通信システムの構成及び機能を説明するためのブロック図であ
る」(【図面の簡単な説明】、【0111】)とされており、本件発明におけ
るVRAMの数的な「構成」を説明した図面であると十分に了解し得るもの
であり、前記の解釈の根拠となるものである。
⑵ そして、被告製品1は、液晶コントローラ内に前記の意味における単一の
15 VRAMを内蔵するのであるから、前記の構成を備える。
また、被告製品2のVRAMは、複数のSDRAMからなるマルチチッ
プ・パッケージのメモリであるが(甲6、7)、これを複数のSDRAMに
再分離しようとすれば、もはやハードウェア(部品)として機能しなくなる
ものであるから、同様に「単一のVRAM」に該当する。
20 (被告の主張)
⑴ 本件明細書等の記載によれば、本件発明は、VRAMのメモリ領域にデー
タサイズの大きい仮想画面のビットマップデータを書き込み、そのビットマ
ップデータから内蔵用ディスプレイ用ビットマップデータや外部ディスプレ
イ用ビットマップデータを切り出すというものである(【0115】、【0
25 117】、【0127】)。そうすると、構成要件D及びHの「単一のVR
AM」とは、前記の各ディスプレイに画像を表示するための必要なデータを
保持するメモリのことであり、前記のビットマップデータが切り出されるメ
モリ領域が「単一」であることを意味すると理解すべきである。
なお、本件明細書等の段落【0115】には、VRAMが、中央演算回路
やグラフィックコントローラ、LCDドライバといった物理的に把握可能な
5 ハードウェアとともに記載されているが、これは作用機序を説明した記載に
すぎず、原告の主張のように、「単一」が物理的に把握可能なハードウェア
としての意味であると理解する根拠とはならない。また、【図1】のVRA
Mに付された符号は1個のみであるが、同様に1個の符号を付されたマイク
ロホン、CCD及びフラッシュメモリなども物理的に1個であると理解する
10 のは不自然であるから、この点も原告主張の根拠とならない。
⑵ 他方、被告製品は、ダウンロードした画像データファイルからHD解像度
のビットマップデータを生成し上、VRAM(又はSDRAM)の第1のグ
ラフィックメモリ領域に液晶ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度
のビットマップデータ(又は内蔵用表示データ)を書き込む一方、この領域
15 とは異なるメモリアドレスで定義される第2のグラフィックメモリ領域にH
Dの解像度のビットマップデータ(又は外部表示用データ)を書き込むもの
であり、これらのメモリ領域は共用されない。したがって、被告製品は、構
成要件D及びHの「単一のVRAM」を備えない。
仮に、原告が主張するように、「単一のVRAM」とは、複数の部品から
20 構成されていないことを意味すると解釈したとしても、少なくとも、被告製
品2のSDRAMは、2個のSDRAMからなるマルチチップ・パッケージ
のメモリであるから、これに当たらない。マルチチップ・パッケージは、複
数の部品を樹脂で固めたものであり、物理的に分離した異なる半導体基板上
にRAMの本体部分である回路が構成されているからである。
25 3 争点1-3(被告製品2が、構成要件Dの「中央演算回路」及び「グラフィ
ックコントローラ」を共に備えているか。)について
(原告の主張)
⑴ 被告製品2に内蔵されるモバイルプロセッサは、CPU及びGPUから構
成されており(甲9)、CPU機能を実行する回路とGPU機能を実行する
回路とは区別されている(甲11、12)。
5 そして、GPUは、コンピュータが画面に表示する映像を描画するための
処理に特化して開発されており、「現在の高機能GPUは高速のビデオメモ
リ(VRAM)と接続され」ているのであるから、被告製品2のモバイルプ
ロセッサように、CPU回路とは別個にGPU回路を有しているモバイルプ
ロセッサにおいては、GPU回路が内蔵用表示データと外部用表示データの
10 双方について「書き込み/読み出し」を行うことは明らかである。
そうすると、前記CPUは、構成要件Dの「中央演算回路」に相当し、前
記GPUは、「グラフィックコントローラ」に相当し、被告製品2が、これ
らの構成を備えることは明らかであるというべきである。
⑵ なお、争点1-2の「単一のVRAM」と異なり、特許請求の範囲の記載
15 に特段の限定はないから、被告製品2におけるCPUとGPUが「単一」で
あるか否かは、この点の判断を左右しないというべきである。
(被告の主張)
⑴ 被告製品2は、「中央演算回路」と「グラフィックコントローラ」を別個
に設けず、1個のモバイルプロセッサによって、CPU機能とGPU機能と
20 を実現している。そして、当該モバイルプロセッサ上でCPU機能に係る回
路とGPU機能に係る回路が区別され、かつ、それぞれが本件発明の構成要
件を充足するように信号の授受等をしている旨の立証はされていない。した
がって、被告製品2が構成要件Dの構成を備えているとはいえない
⑵ なお、仮に、争点1-2において、「単一のVRAM」を物理的に分離し
25 た部品であることを意味すると理解するとすれば、その根拠は、本件明細書
等の【図1】において、VRAMが、「VRAM1_10C」などと1個の
符号で表されることに求めざるを得ないが、そうであれば、中央演算回路と
グラフィックコントローラには、別個の符号が付されている以上、これは物
理的に分離した異なる部品であると解釈すべきことになる。
4 争点1-4(被告製品2における画像の処理方法が、構成要件Hに規定され
5 るものと一致するか。)について
(原告の主張)
⑴ 被告製品2は、モバイルプロセッサに内蔵されたGPU(グラフィックコ
ントローラ)が、外部SDRAM(単一のVRAM)から、内蔵ディスプレ
イパネルの画面解像度と同じ解像度の内蔵用表示データを読み出し、これを
10 液晶ドライバ(ディスプレイ制御手段)に送信する(甲6)。
そうすると、被告製品2は、構成要件Hの「ディスプレイパネルの画面解
像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を「読み出し」、デ
ジタル表示信号を生成した上、「ディスプレイ制御手段に送信する機能」を
有するものであるということができる。
15 ⑵ また、被告製品2は、前記GPUが、前記外部SDRAMから、内蔵ディ
スプレイパネルの画面解像度と同じ解像度の内蔵用表示データを補間処理し
て生成した外部用表示データを読み出し、これをHMLトランスミッタ(イ
ンターフェース手段)に送信する(甲6)。
そして、画像処理の分野における補間処理(甲13)とは、画像全体を通
20 して新規ピクセルを追加し、その解像度を増加させるものである以上、前記
の外部用表示データの解像度が、前記の内蔵ディスプレイパネルの画面解像
度よりも大きいものであることは明らかである。
そうすると、被告製品2は、構成要件Hの「ディスプレイパネルの画面解
像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を「読み出し」、
25 デジタル表示信号を生成した上、「インターフェース手段に送信する機能」
も有するものであるということができる。
⑶ したがって、被告製品2の画像の処理方法は、構成要件Hと一致し、これ
を充足するというべきである。
これに対し、被告は、被告製品2が、以上の処理に当たり、画素を間引い
たり、補間したりすることを指摘する。しかし、構成要件Hは、その文言上
5 も、画素を間引いたり、補間したりしないことは特定しないのであるから、
その充足性を左右する事情ではない。
(被告の主張)
⑴ 本件発明の構成要件Hは、「単一のVRAM」から「画像のビットマップ
データ」を「読み出し」、内蔵ディスプレイや外部ディスプレイに表示させ
10 るものであるが、その際、間引き処理や補間処理をしない「読み出し」(争
点1-1に主張した「処理」)がされる。
⑵ 他方、被告製品2は、元の画像を間引き処理し、HD解像度の内部ディス
プレイ用の表示画像を生成した上、これを補間処理し、外部ディスプレイ用
の表示画像を生成する。したがって、被告製品2の画像の処理方法は、構成
15 要件Hの規定するものと異なる。
5 争点2-1(乙1発明による新規性又は進歩性の欠如)について
(被告の主張)
⑴ 乙1発明の内容及び本件発明との相違点
ア 乙1公報には、以下の内容の乙1発明が開示されている。
20 「携帯機器2は、CPU10、ROM14、入力装置16、表示メモリ
18、表示コントローラ20、及び内部表示装置22を有して構成されて
おり、
携帯機器2は、表示コントローラ20を介して、外部表示装置24を接続
して表示させることができ、
25 CPU10は、ROM14に格納されたプログラム、例えば表示制御に関
係するOS、表示描画プログラム、デバイスドライバ等に従って各種の制
御を実行し、
ROM14は、プログラム等の本体の記憶領域として使用され、
入力装置16は、画面の座標位置等入力するペン(タブレット)やマウス
等のポインティングデバイス、文字等を入力するキーボードなどにより構
5 成され、
表示メモリ18は、内部表示装置22及び外部表示装置24において表示
させる表示データの記憶領域として使用され、
表示コントローラ20は、内部表示装置22及び外部表示装置24におけ
る表示を制御するもので、
10 内部表示装置22は、携帯機器2に予め内蔵されたLCD等によって構成
される表示デバイスであり、
外部表示装置24は、携帯機器2にケーブル等を介して任意に接続される
CRT等によって構成される表示デバイスであり、
表示コントローラ20には、メモリコントローラ20a、レジスタ20b、
15 内部表示用回路20c、外部表示用回路20dを含んで構成されており、
メモリコントローラ20aは、CPU10からの指示に応じて表示制御を
行なうもので、表示データのリード/ライトが指示された場合には、この
指示に応じて表示メモリ18に対して表示データをリード/ライトし、ま
たレジスタ20bに設定されたアドレスをもとに表示メモリ18から表示
20 データをリードし、内部表示用回路20cを介して内部表示装置22へ、
また外部表示用回路20dを介して外部表示装置24へ出力し、
CPU10は、システム定常状態という、キーボードやペン等の入力装置
16からの入力待ち状態となり、
アプリケーションプログラム35の実行により提供される機能によって、
25 ユーザーからの指示を入力装置16から指定させ、
アプリケーション35によって出力方法の指定が入力されると、OS38
の制御のもとで、内部表示用と外部表示用のそれぞれの描画プログラムに
従って、表示コントローラ20に対してユーザーからの指定の設定、すな
わち内部表示と外部表示に用いる表示データ(描画イメージ)を示すアド
レスを表示コントローラ20内のレジスタ20bに設定し、
5 一方、アプリケーションプログラム35は、内部表示装置22と外部表示
装置24において描画されるイメージ、すなわち内部表示イメージと外部
表示イメージの2種類を、それぞれの表示装置の解像度に合わせて、表示
メモリ18上にライトし、
表示コントローラ20は、アプリケーションプログラム35によってライ
10 トされた内部表示イメージと外部表示イメージに応じて、内部表示装置2
2と外部表示装置24に対して、それぞれに応じた描画イメージを表示さ
せ、
内部表示装置22が640×240の解像度、外部表示装置24が640
×480の解像度を持ち、内部と外部でメモリの一部を共有するといった
15 環境の装置において、外部表示エリアに内部・外部共有表示エリアの表示
データをコピーすることによって、外部表示装置24において参照したい
画面を一時的に表示させ、
表示内容に関しては、内部表示及び外部表示の何れについても上位のアプ
リケーションによって指定され、
20 通信媒体を介してプログラムを受信する、
携帯機器2。」
イ 乙1発明と本件発明とは、以下の相違点1ないし6で相違するが、その
余は一致する。
(相違点1)
25 本件発明は、「無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、後記中央
演算回路に送信するとともに、後記中央演算回路から受信したデジタル信
号を無線信号に変換して送信する無線通信手段」を備えているのに対し、
乙1発明には「無線通信手段」について特定されていない点
(相違点2)
本件発明の「中央演算回路」は、「無線通信手段」から「デジタル信号」
5 を受信しているが、乙1発明の「CPU10」は「表示データ」をどこか
ら受信したかについて、特定されていない点
(相違点3)
本件発明は「携帯情報通信装置」についての発明であるが、乙1発明は
「携帯機器」であって、「情報通信」を行う点について、特定されていな
10 い点
(相違点4)
本件発明の「携帯情報通信装置」が、「画像を表示する場合」に「「本
来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処
理」しているのに対し、乙1発明の「携帯装置」には、「画像データを処
15 理」して「画像を表示する」ことについて、特定されていない点
(相違点5)
本件発明の「グラフィックコントローラ」は、「本来解像度がディスプ
レイパネルの画面解像度より大きい画像データ」の処理を行っているが、
乙1発明には「表示コントローラ20」が「画像データ」を取り扱うこと
20 について、特定されていない点
(相違点6)
本件発明の「インターフェース手段」は、「デジタル外部表示信号」を
送信する際に、「デジタルRGB、TMDS、LVDS(又はLDI)及
びGVIFのうちのいずれかの伝送方式」に変換するのに対し、乙1発明
25 では「伝送方式」について特定されていない点
ウ これに対し、原告は、本件発明において、画像の「解像度」、画像デー
タの「本来解像度」、ディスプレイの「画面解像度」という用語の使い分
けがあることを前提に、相違点5’や相違点13の存在を主張する。
しかし、本件明細書等の段落【0032】には、「本来画像」の解像度
を「本来解像度」という旨の記載があり、原告の前記主張とは異なる定義
5 をする。また、段落【0008】や【0010】には、ディスプレイにつ
いても「解像度」の用語を用いており、原告主張のような使い分けはされ
ていない。したがって、原告の前記前提は根拠がない。
他方、表示デバイスの画面解像度と異なる解像度の画像を表示させるに
は特別な工夫が必要であるが、乙1公報の段落【0037】には、「内部
10 表示イメージと外部表示イメージの2種類を、それぞれの表示装置の解像
度に合わせて、表示メモリ18上にライトする」とあるのみであり、その
ような特別な工夫は記載されていない。
そうすると、当業者は、乙1公報における「内部表示イメージ」の解像
度は内部表示装置の画面解像度と同じ640×240であり、「外部表示
15 イメージ」の解像度は外部表示装置の画面解像度と同じ640×480で
あると容易に理解するはずである。そのため、乙1発明と本件発明の相違
点は、このような理解を前提に認定されるべきである。
したがって、乙1公報に記載された「640×240」、「640×4
80」の解像度が、表示イメージの解像度を表していないことを前提とし
20 て、相違点5’や相違点13の存在を主張する原告の主張は、失当である。
⑵ 相違点の検討
ア 実質的な相違点の欠如
相違点1ないし6は、乙1公報では形式的に「特定されていない」だけ
であり、実質面で相違しているわけではない。したがって、本件発明と乙
25 1発明は同一であり、本件発明は新規性が欠如している。
イ 相違点1の容易想到性
乙1発明には「無線通信手段」に係る特定がない。しかし、乙1公報に
は、「通信媒体」の存在が予定されており(【0103】)、携帯情報端
末としての携帯性を考慮すれば、当業者が無線通信を選択することは必然
である。そして、無線通信の信号が無線信号であり、中央演算回路に送信
5 する信号がデジタル信号であることは、技術常識である。したがって、相
違点1が、実質的な相違点であったとしても、当業者の通常の創作能力に
より容易に想到できたものであるというべきである。
また、乙5公報には、「制御部10は、送受信部11を介して指定サー
バから所望のWebコンテンツ情報を取得して画像出力部17に送出し、
10 該情報を外部出力するように要求する」(【0020】)とある。乙1発
明と乙5発明とは、携帯端末の出力装置として外部表示機器を接続すると
いう点で課題が共通していることから、乙1発明のCPU10に対する入
力手段として、前記の「Webコンテンツ情報」の取得という手段を適用
することは、当業者が容易に想到できたということもできる。
15 これに対し、原告は、乙1発明におけるCPU10が、「入力装置16
によって入力されるデータ」のみを受信するものであることを前提に、無
線通信手段からデータを受信するように変更する動機付けがないなどと主
張する。しかし、相違点2及び4で論じるとおり、原告の主張は、その前
提が誤りである。また、原告は、無線通信手段を付加すると装置の大型化
20 を招来するなどと主張するが、これは別の技術で解決すれば足りるのであ
るから、この点も阻害要因となるものではない。
ウ 相違点2の容易想到性
乙1発明は、CPU10において受信する表示データの送信元を特定し
ていない。しかし、CPU10は「表示描画プログラム…等に従って各種
25 の制御を実行する」ものであり(乙1公報【0013】)、当該表示描画
プログラムの「表示内容に関しては、…上位のアプリケーションによって
指定され」るから(同【0083】)、表示データをCPU10の外から
受信することも当然に想定されている。そして、相違点1で述べたとおり、
無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、中央演算回路に送信するこ
とは当業者が容易に想到できたことであるから、CPU10が受信する表
5 示データの送信元を無線通信手段とすることは、当業者の通常の創作能力
により容易に想到できたものであるというべきである。
エ 相違点3の容易想到性
乙1発明は、「情報通信」を行う点を特定していない。しかし、相違点
1で述べたとおり、乙1発明の「CPU10」への入力手段として、乙5
10 発明の「送受信部11を介して指定サーバから所望のWebコンテンツ情
報を取得して」という手段を適用してみることは、当業者の通常の創作能
力で容易に想到でき、これは「情報通信」を行うことに他ならないから、
相違点3は、当業者が容易に想到できたものであるというべきである。
オ 相違点4の容易想到性
15 乙1発明は、「画像を表示する」ことを特定していない。しかし、乙1
発明は「表示内容に関しては、内部表示及び外部表示の何れについても上
位のアプリケーションによって指定され」るものであり(乙1公報【00
83】)、当時、ワープロやブラウザなど画像を表示させるアプリケーシ
ョンは広く知られていたから(周知技術)、「上位のアプリケーション」
20 としてブラウザなどの画像を表示させるアプリケーションを用いて画像を
表示させることは当業者が容易に想到できた。したがって、相違点4は、
当業者が容易に想到できたものであるというべきである。
カ 相違点5の容易想到性
乙1発明は、「表示コントローラ20」が「画像データ」を取り扱うこ
25 とを特定していない。しかし、相違点4で述べたとおり、上位のアプリケ
ーションとしてワープロやブラウザなど画像を表示させるアプリケーショ
ンを用いることにより「表示コントローラ20」が「画像データ」を取り
扱うようにすることは、当業者が容易に想到できたことである。したがっ
て、相違点5は、当業者が容易に想到できたものであるというべきである。
キ 相違点6の容易想到性について
5 乙1発明は伝送方式を特定していない。しかし、本件発明が特定する伝
送方式は、当時、当業者に周知であったものを列挙したものにすぎない。
したがって、乙1発明に、そのような周知の伝送方式を適用し、相違点6
に至ることは、当業者が容易に想到できたものであるというべきである。
⑶ 訂正の再抗弁の当否
10 ア 本件訂正請求の適法性
本件訂正発明の構成要件G’は、構成要件Bの「無線通信手段」を示
す「前記無線通信手段」によって、「高解像度画像受信」という機能が
実現することを規定するものであるが、この「無線通信手段」とは、送
受信双方の機能を有する通信手段と考えるべきである。
15 しかるに、本件訂正請求の根拠とされる本件発明の願書に添付された
明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に
は、「高解像度画像受信」について、「テレビ受信用アンテナ112A」及
び「テレビチューナ112B」という無線通信を受信する手段によるものし
か記載されていない。これらの手段は、段落【0117】の「通信用ア
20 ンテナ111A」や「RF送受信部111B」とは異なり、受送信双方の機能を
備える「無線通信手段」ではない。すなわち、当初明細書には、「無線
通信手段」を「高解像度画像受信」の手段とする「高解像度画像受信・
処理・表示機能」を有する発明は記載されていないことになる。
したがって、本件発明は、この点において、当初明細書等に記載した
25 事項の範囲内ではない発明であり、特許法134条の2第9項、同法1
26条5項の訂正要件を充たさない不適法なものである。この理は、
「前記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合」なる構成を
有する構成要件H’との関係でも同様である。よって、原告の訂正の再
抗弁は、これらの点からして失当である。
また、構成要件G’は、「前記ディスプレイ手段」(付属ディスプレ
5 イ)と「前記外部ディスプレイ手段」のいずれか一方に、「本来解像度
が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を表示
する機能を有していればよいことを規定するものである。
しかるに、本件発明の当初明細書等には、テレビ番組の画像を「LC
Dパネル15A」(前記ディスプレイ手段)に表示する場合に、「解像度
10 の低い画像の全体画像」を表示させることしか記載されておらず(【0
118】)、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より
大きい画像データ」を表示することは記載されていない。すなわち、当
初明細書等には、構成要件G’のうち「本来解像度が前記ディスプレイ
パネルの画面解像度より大きい画像データを……前記ディスプレイ手段
15 に画像を表示させる機能」が記載されていないことになる。
これに対し、原告は、構成要件G’は、表示される画像の解像度を何
ら規定していないと主張する。これが被告の主張に対する反論になって
いるかはともかく、原告の当該主張によれば、構成要件G’は、本件訂
正発明の効果を奏さない発明を含むものであるということになる。なぜ
20 なら、本件訂正発明は、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面
解像度より大きい画像データを伝達する無線信号を受信」するものであ
り、構成要件G’で表示される画像の解像度の如何を問わず、その効果
を奏するものであるとは考えられないからである。
したがって、いずれにせよ、本件発明は、この点においても、当初明
25 細書等に記載した事項の範囲内ではない発明であり、特許法134条の
2第9項、同法126条5項の訂正要件を充たさない不適法なものであ
り、原告の訂正の再抗弁は失当である。
イ 被告製品の本件訂正発明の充足性
本件訂正請求に係る訂正請求書(甲15)によれば、構成要件G’及び
H’の「高解像度画像受信・処理・表示機能」とは、本件発明の当初明細
5 書等の段落【0118】、【0124】及び【0126】ないし【012
9】に記載された「テレビ放送を視聴している場合」に実現される機能で
あると理解すべきである。
しかるに、原告は、被告製品がテレビ放送番組を視聴でき、それが構成
要件G’の「高解像度画像受信機能」を実現することを主張立証しない。
10 実際、被告製品は、内蔵ディスプレイの画面解像度以下のワンセグ放送以
外にはテレビ放送番組を視聴する手段を備えない。したがって、被告製品
は、構成要件G’及びH’を充足しない。
ウ 本件訂正発明に係る相違点の検討
仮に、原告が主張するように、本件訂正発明の「高解像画像受信」に係
15 る機能が、テレビ放送番組を視聴する場合に限らず、インターネットのブ
ラウジングをする場合を含むとすれば、結局、本件訂正発明と乙1発明の
相違点については、本件発明と乙1発明の相違点4の検討で論じたところ
が妥当する。すなわち、当業者において、「上位のアプリケーション」と
して、ブラウザなどの画像を表示させるアプリケーションを採用し(周知
20 技術)、その画像を表示させることは容易に想到し得たのであるから、イ
ンターネットに無線接続し、Webサーバから内部ディスプレイパネルの
解像度より大きい解像度の画像をダウンロードすることも、容易に想到し
得たというべきある。したがって、本件訂正請求によって、乙1発明によ
る新規性及び進歩性欠如の無効理由が解消しないことは明らかであり、原
25 告による訂正の再抗弁は、この点からも失当である。
(原告の主張)
⑴ 乙1発明の内容及び本件発明との相違点
ア 本件発明の特許請求の範囲の記載は、画像に対する「解像度」、画像デ
ータに対する「本来解像度」、ディスプレイに対する「画面解像度」を使
い分けているのに対し、乙1公報は、「解像度」という言葉を前記の「画
5 面解像度」の意味にのみ使用するものである。したがって、乙1発明の構
成は、そのような用語法を前提に認定されるべきである。
イ そのため、被告の一致点及び相違点の認定には誤りがあり、相違点5に
代え、以下の相違点5’が認定されるべきであり、また、追加して、相違
点13が認定されるべきである。
10 (相違点5’)
本件発明のグラフィックコントローラは、前記携帯情報通信装置が「本
来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を処
理して画像を表示する場合に、前記「単一のVRAM」から「前記ディス
プレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデー
15 タ」と「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する
画像のビットマップデータ」を読み出す機能を実現するが、乙1発明の
「表示コントローラ20」は、「内部表示装置22の画面解像度と同じ解
像度を有する画面のビットマップデータ」と「内部表示装置22の画面解
像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出す機
20 能が特定されていない点
(相違点13)
本件発明の携帯情報通信装置は、前記外部ディスプレイ手段に、「前記
ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像」を表示
できるようにしたが、乙1発明の外部表示装置24には、「内部表示装置
25 22の画面解像度より大きい解像度を有する画像」が表示できることが特
定されていない点
⑵ 相違点の検討
ア 相違点1について
乙1発明は、無線受信手段の機能を含まないから、当業者が相違点1に
係る構成に想到するためには、「何らかの無線受信手段を付加した乙1発
5 明」に対して、①「受信した無線信号をデジタル信号に変換の上、CPU
10に送信する」という信号変換・内部送信機能を付加し、②何らかの無
線受信手段に対して、「CPU10から受信したデジタル信号を無線信号
に変換して送信する」という外部送信機能を付加する必要がある。
しかし、乙1発明は、入力装置16からのデータにのみ基づき、表示や
10 描画をしており、外部データを入力する機能を有しないのであるから、当
業者が、前記①及び②をする動機付けがない。むしろ、乙1発明に無線受
信手段を付加すれば、機器の大型化を招来し、消費電力の増加により、バ
ッテリも大型化もするから、「小型化」(乙1公報【0002】)という
乙1発明の大前提に反する点で、阻害要因があるというべきである。
15 イ 相違点2及び4について
この点に関する被告の主張は、乙1発明においては、「上位のアプリケ
ーション」(段落【0083】)が、表示データを外部から受信し、これ
を処理して画像を処理することを前提とする。しかし、乙1公報の記載に
よれば、「上位のアプリケーション」とは、段落【0087】ないし【0
20 090】における「アプリケーション」と同義であり、それらの段落にい
う「表示描画プログラム」に対し、指定や要求を行う「上位」のプログラ
ムをいうと解すべきところ、これらは【図6】の「アプリケーションプロ
グラム35」及び「描画プログラム36」に相当する。そして、その【図
6】によれば、「アプリケーションプログラム35」に対する入力として
25 は、ユーザーからの描画指定があることが記載されるのみであるが、これ
は「入力装置16によって入力されるデータ」に相当する。すなわち、被
告が指摘する「上位のアプリケーション」も、「入力装置16によって入
力されるデータ」にのみ基づいて表示をするプログラムにすぎず、前記の
前提は成立しない。したがって、相違点2及び4が、乙1公報に記載され
ている事項であるとも、これに等しい事項であるともいえない。
5 ウ 相違点5’について
被告は、当業者において、乙1発明に乙5発明を適用すれば、相違点5
を容易に想到し得たと主張する。しかし、被告による相違点5の認定が誤
りであり、原告主張の相違点5’を認定すべきことは、既に指摘したとお
りである。そして、乙5発明は、相違点11(争点2-2)に認定される
10 とおり、「グラフィックコントローラ」や「単一のVRAM」が特定され
ないのであるから、仮に、乙1発明に乙5発明を適用したとして、相違点
5’を想到することはできない。
エ 相違点13について
本件発明と乙1発明との間には、被告指摘の相違点に加え、相違点13
15 があることは、既に指摘したとおりである。そして、本件発明と乙1発明
との間の相違点13は、本件発明と乙5発明との間の相違点14(争点2
-2)と同様の内容であるから、仮に、乙1発明に乙5発明を適用したと
しても、当然、相違点13に至ることはできない。
⑶ 訂正の再抗弁の成否
20 ア 本件訂正請求の適法性
本件訂正請求は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、「特許出願
の際に独立して特許を受けることができるもの」であって、「実質上特
許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」には該当せず、「願書に添
付した明細書、特許請求の範囲又は図面」に「記載した事項の範囲内の
25 訂正」であるから、適法な請求である。
これに対し、被告は、構成要件G’の「無線通信手段」に該当するの
は「テレビ受信用アンテナ112A」と「テレビチューナ112B」だけである
ことを前提に、本件発明の当初明細書等には、構成要件BとG’の双方
を充足する無線通信手段は記載されていないから、本件訂正請求が、当初
明細書等の範囲内の訂正に当たらないと主張するようである。
5 しかし、当初明細書等の段落【0118】、【0124】及び【01
26】ないし【0129】は、第1の実施形態において、特に構成要件
G’の「高解像度画像受信・処理・表示機能」を担う無線通信手段とし
て、「テレビ受信用アンテナ112A」、「テレビチューナ112B」及び「A
D/DA変換部1_112C」を記載しているにすぎない。
10 他方、被告も認めるように、構成要件BとG’の「無線通信手段」は
一致するのであるから、当初明細書等の段落【0113】ないし【01
17】の「通信用アンテナ111A、RF送受信部、ベースバンドプロセッ
サ11」も、構成要件G’の「無線通信手段」であり、構成要件Bの「無
線通信手段」でもあると考えることに何の支障もない。
15 以上のとおり、当初明細書等の第1の実施形態においては、「無線通
信手段」は、「通信用アンテナ111A、RF送受信部、ベースバンドプロ
セッサ11」と「テレビ受信用アンテナ112A、テレビチューナ112B、AD
/DA変換部1_112C」を合わせたものであり、この「無線通信手段」
は構成要件Bと構成要件G’の双方を充足する。したがって、被告の前
20 記主張は、前提を欠いて失当である。
また、被告は、構成要件G’が、無線信号が伝達する画像データの本
来解像度と同じ解像度の画像を「前記ディスプレイ手段」に表示させる
ものであるという理解を前提に、当初明細書等には「解像度の低い画像
の全体画像」を表示させるとの記載しかないから、本件訂正請求は、当
25 初明細書等の範囲内の訂正に当たらないと主張する。
しかし、構成要件G’は、「前記ディスプレイ手段」に表示される画像
の解像度については、何らの規定もしていないのであるから、被告の前
記理解は曲解というべきものである。したがって、この点に関する被告
の主張も、構成要件G’に対する誤った解釈に基づいて導かれたもので
あって、前提を欠いて失当である。
5 イ 被告製品の本件訂正発明の充足性
被告製品が、本件訂正発明の構成要件のうち、本件訂正請求に関係し
ない部分を充足することは、既に論じたとおりである。そして、被告製
品が、構成要件G’及びH’のうち、本件訂正請求で訂正された部分を
充足することは、別紙被告製品説明書から明らかである。
10 これに対し、被告は、構成要件G’及びH’の「高解像度画像受信・
処理・表示機能」が、テレビ放送番組を視聴する場合に限定されるもの
であるという理解を前提に、被告製品が、構成要件G’及びH’を充足
していないと主張する。
しかし、構成要件G’に係る特許請求の範囲が定義する「高解像度画
15 像受信・処理・表示機能」の記載は、これをテレビ放送番組の視聴に何
ら限定していないのであるから、被告の前記の理解は、特許法70条の
規定に反する明らかに失当な解釈である。
また、当初明細書等の記載をみても、本件訂正発明の「無線通信手段」
について、テレビ受信用アンテナやテレビチューナを不可欠の要素とす
20 るような記載はない。そのため、被告の理解は、特許請求の範囲を実施
例の記載に限定するものと理解されるものであり、これを採用する余地
がない。
ウ 本件訂正発明に係る相違点の検討
本件訂正発明と乙1発明の相違点
25 (相違点G1)
本件訂正発明の無線通信手段は、「本来解像度が前記ディスプレイパ
ネル の画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信
してデジタル信号に変換の上、前記中央演算回路に送信し、また、本件
訂正発明の中央演算回路は、該デジタル信号を受信して、該デジタル信
号が伝達する画像データを処理するのに対して、乙1発明の携帯機器に
5 おいては、無線通信手段が特定されておらず、また、乙1発明のCPU
10(中央演算回路)は、「画像データを処理」して「画像を表示する」
ことについて、特定されていない点
(相違点H1)
本件訂正発明のグラフィックコントローラは、携帯情報通信装置が前
10 記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、前記単一のV
RAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有す
る画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマッ
プデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号
を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能及び前記単一のVRAMか
15 ら「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画
像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデ
ータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前
記インターフェース手段に送信する機能を実現するのに対して、乙1発
明の表示コントローラ20には、そもそも乙1発明の携帯機器が高解像
20 度画像受信・処理・表示機能を実現することが特定されておらず、高解
像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合にいかなる機能を実現す
るかは特定されていない点
相違点G1の容易想到性
相違点G1のうち、「通信手段」の有無は、周知技術から容易に想到
25 し得るものであるとしても、それによって、本来解像度が内部表示装置
22(ディスプレイパネル)の画面解像度より大きい画像データを伝達
する信号を受信してデジタル信号に変換の上、CPU10に送信し、C
PU10において、当該デジタル信号を受信して、これが伝達する「画
像データを処理する」という構成に到達することはできない。
仮に、前記「画像データ」を扱うことまでは当業者の設計事項である
5 としても、通信手段からデジタル信号を受信し、 当該デジタル信号
が伝達する「画像データを処理する」という構成にまで至ることはで
きない。まして、乙1発明の通信手段が、本来解像度が内部表示装置2
2の画面解像度より大きい画像データを伝達する無線信号を受信してデ
ジタル信号に変換の上、CPU10に送信するように構成することまで
10 が、当業者の設計的事項などということはできない。
そして、前記「画像データを処理する」について、「上位のアプリケ
ーション」として、ワープロやブラウザを想定する被告の主張が失当で
あることは、相違点2及び4に関して論じたとおりである。仮に、「上
位のアプリケーション」としてブラウザを適用し得たとしても、そのブ
15 ラウザを用いてインターネットに無線接続してWebサーバから内部デ
ィスプレイパネルの解像度より大きい解像度の画像をダウンロードする
という構成までが容易想到とはならない。まして、乙1発明の通信手段
が、本来解像度が内部表示装置22の画面解像度より大きい画像データ
を伝達する無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、CPU10に
20 送信するように構成することまで容易想到とはなることはない。
相違点H1の容易想到性
上記のとおり、乙1発明から相違点G1に係る構成には至ることはで
きないのであるから、同様に、乙1発明から相違点H1に係る構成に至
ることもできないことは明らかである。
25 6 争点2-2(乙5発明による進歩性の欠如)について
(被告の主張)
⑴ 乙5発明の内容及び本件発明との相違点
ア 乙5公報には、以下の内容の乙5発明が開示されている。
「携帯電話機1は、制御部10と、送受信部11と、表示部12と、操
作部14と、記憶部16と、画像出力部17と、を有して成り、
5 制御部10はCPU等から成り、装置全体の動作を制御し、
送受信部11は、送信回路と受信回路を有して成り、アンテナ11aを介
して電波を送受信することで、基地局との双方向通信を行い、
表示部12は、液晶ディスプレイ等から成る情報表示手段であり、
操作部14は、ダイヤルキーやブラウザ操作キー等を備えた入力デバイス
10 であり、
記憶部16は、ROMやRAMから成る情報格納手段であり、
画像出力部17は、入力された情報(静止画や動画、文字など)を外部表
示装置2で読取可能な画像信号形式(例えば、ビデオ信号形式)に変換し
て出力するインターフェース部であり、
15 記憶部16の格納情報を外部表示装置2に出力する場合、
制御部10は、記憶部16から所望の情報を読み出して画像出力部17に
送出し、該情報を外部出力するように要求し、
該要求を受けた画像出力部17は、制御部10からの入力情報に所定の信
号処理を施して外部表示装置2に出力し、
20 制御部10は、送受信部11を介して指定サーバから所望のWebコンテ
ンツ情報を取得して画像出力部17に送出し、該情報を外部出力するよう
に要求する。該要求を受けた画像出力部17は、制御部10からの入力情
報に所定の信号処理を施して外部表示装置2に出力し、
外部表示装置2には、閲覧中のWebコンテンツ情報が表示され、
25 外部表示装置2として表示部12より大型のモニタ装置を用い、
携帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツについても、表
示部12のサイズや解像度に依存することなく正常に表示することが可能
となる、
携帯電話機1。」
イ 乙5発明と本件発明とは、以下の相違点7ないし12で相違するが、そ
5 の余は一致する。
(相違点7)
本件発明の「中央演算回路」は、「前記無線通信手段から受信したデジ
タル信号」に対して、「前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段
に格納されたプログラムに基づき」、「リアルタイムでデジタル表示信号
10 を生成するか、又は、自らが処理可能なデータファイルとして前記記憶手
段に一旦格納し、その後読み出」すという手順で処理するのに対し、乙5
発明では「制御部10」は、受信した信号に対する具体的な処理手段につ
いて記載されていない点
(相違点8)
15 本件発明の「データ処理手段」は、「該中央演算回路の処理結果に基づ
き、単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを
行い、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」
を生成し、該デジタル表示信号を後記ディスプレイ制御手段又は後記イン
ターフェース手段に送信するグラフィックコントローラ」を備えるのに対
20 し、乙5発明には「グラフィックコントローラ」及び「単一のVRAM」
が特定されていない点
(相違点9)
本件発明の「ディスプレイ手段」は、「グラフィックコントローラから
受信したデジタル表示信号に基づき」動作するのに対し、乙5発明の「表
25 示部12」は、「デジタル表示信号」が「グラフィックコントローラから
受信した」ものである点が特定されていない点
(相違点10)
本件発明の「インターフェース手段」は、「グラフィックコントローラ
から受信したデジタル表示信号に基づき」動作するのに対し、乙5発明の
「画像出力部17」は「グラフィックコントーラから受信したデジタル表
5 示信号に基づき」動作することについて特定されていない点
(相違点11)
本件発明の「グラフィックコントローラ」は、「前記携帯情報通信装置
が『本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ』
を処理して画像を表示する場合に、前記単一のVRAMから『前記ディス
10 プレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデー
タ』を読み出し、『該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル
表示信号』を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に
送信する機能と、前記単一のVRAMから『前記ディスプレイパネルの画
面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ』を読み出
15 し、『該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号』を
生成し、該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能」
を実現しているのに対し、乙5発明には「グラフィックコントローラ」及
び「単一のVRAM」が特定されていない点
(相違点12)
20 本件発明では「ビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」が変
換される伝送方式が列挙されているのに対し、乙5発明では「デジタル表
示信号」はどの「伝送方式」に変換されるのか特定されていない点
ウ これに対し、原告は、本件発明において、「解像度」、「本来解像度」
及び「画面解像度」の用語の使い分けがあることを前提に、相違点14の
25 存在を主張する。しかし、原告の当該主張は、前提において誤りがあるこ
とは、争点2-1で主張したとおりであり、乙5発明と本件発明の相違点
は、前記イのとおり認定されるべきである。
⑵ 相違点の検討
ア 相違点7の容易想到性
乙5公報の段落【0020】には、制御部10が、送受信部11(無
5 線通信手段)を介し、指定サーバからWebコンテンツ情報を取得する
旨の記載がある。そうすると、相違点7のうち、「「前記無線通信手段
から受信した信号」に対して」の部分は、乙5発明と本件発明との実質
的な相違点ではないと解すべきである。
また、ユーザーが実行したい処理を入力手段によって入力することや
10 中央演算回路で処理するプログラムをROMやRAMなどに記憶させる
ことは、当業者が通常に行うことであり、相違点7のち、「前記入力手
段から受信したデータと前記記憶手段に格納されたプログラムとに基づ
き」処理することは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、乙5発明が、受信した信号を画像出力部17に送出する「処
15 理」としては、相違点7の「リアルタイムでデジタル表示信号を生成す
るか、又、自らが処理可能なデータファイルとして前記記録手段に一旦
格納し、その後読み出す」ことが必然であるから、当該部分も実質的な
相違点とはいえず、又は当業者が容易に想到できたことである。
イ 相違点8ないし11の容易想到性①
20 乙1発明との組み合わせ
乙5発明の「制御部10」を乙1発明の「CPU10」及び「表示コ
ントローラ20」(グラフィックコントローラ)に置き換えてみること
は、当業者が容易に想到し得た。そして、この適用を前提にすれば、次
の ないし に説明するとおり、当業者は、相違点8ないし11を容易
25 に想到し得たということができる。
これに対し、原告は、乙1発明を乙5発明に適用すると、乙5発明の
携帯電話に係る機能が失われるから、その適用に阻害事由があると主張
する。しかし、その適用に当たり、課題解決に関係しない範囲で携帯電
話機の機能を残すことは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないの
であるから、原告が指摘する点は、その適用を否定する理由とならない。
5 相違点8について
乙1発明を乙5発明に適用することによって、相違点8のうち、「グ
ラフィックコントローラ」の有無の点は解消される。また、相違点8の
うち、「単一のVRAM」に関しても、乙1公報の図2には、「表示メ
モリ」(VRAM)が1つしか描かれていないことからすれば、当業者
10 が容易に想到できた点であるということができる。
相違点9について
乙5発明は、「表示部12」が「デジタル表示信号」を「グラフィッ
クコントローラから受信した」ことを特定しない。しかし、乙1発明の
内部表示装置22(表示部12)は、「表示信号」を表示コントローラ
15 20(グラフィックコントローラ)から受信している(乙1公報【00
20】)。そして、「表示信号」をデジタル信号とすることは、当業者
が通常に行うことである。したがって、乙1発明を適用した乙5発明に
よって、相違点9は、当業者が容易に想到し得たというべきである。
相違点10について
20 乙5発明では、「画像出力部17」は「グラフィックコントローラか
ら受信したデジタル表示信号に基づき」動作することが特定されていな
い。しかし、乙1発明の表示コントローラ20(グラフィックコントロ
ーラ)は、ケーブル等を介し、「外部表示装置24」に表示信号が送信
されているから(乙1公報【0018】)、両者の間にインターフェー
25 ス部があることは明らかであって、その表示コントローラ20からイン
ターフェース部(画像出力部17)に「デジタル表示信号」を送信して
いるといえる。したがって、乙1発明を適用した乙5発明によって、相
違点9は容易に想到し得たというべきである。
相違点11について
乙5発明は、本件発明の「グラフィックコントローラ」に係る機能を
5 特定していない。しかし、乙1公報には、表示コントローラ20(グラ
フィックコントローラが、「外部表示装置24」に表示させる表示デー
タを取り扱うこと、当該外部表示装置用の表示データの解像度(640
×480)は「内部表示装置22」の解像度(640×240)より大
きいことが記載されているのであるから、乙1発明の表示コントローラ
10 20は、「内部表示装置22」の「解像度」より大きい解像度を「本来
解像度」とする「表示データ」を取り扱うことができるものと解される。
そして、相違点11のうち、「単一のVRAM」の有無については、相
違点8において論じたのと同様であるから、乙1発明を適用した乙5発
明によって、相違点11は当業者が容易に想到し得たというべきである。
15 ウ 相違点8ないし11の容易想到性②
乙6発明との組み合わせ
乙5発明の「制御部10」を乙6発明の「CPU10」、「LCD表
示制御部23」(グラフィックコントローラ)、「内部RAMDAC2
4」及び「CRT表示制御部25」に置き換えてみることも、当業者が
20 容易に想到できたことである。そして、この適用を前提にすれば、次の
ないし に説明するとおり、当業者は、相違点8ないし11を容易に
想到し得たということができる。
これに対し、原告は、乙6発明を乙5発明に適用することに阻害事由
があると主張する。しかし、その主張は、要するに、機械的な置換えが
25 できないというものにすぎず、当業者の通常の創作能力を否定した主張
であって失当である。また、原告は、乙6公報に記載されたPC用のC
PUが大型であることを理由に、携帯電話機である乙5発明の制御部1
0を乙6発明のCPU10に置き換えることに阻害事由があるとも主張
する。しかし、本件発明は、携帯情報通信機器用のCPUが容易に入手
できることを前提としたものであり、その前提に基づけば、乙6公報の
5 実施態様のCPU10がPC用であるからといって、乙6発明を乙5発
明に適用することの阻害事由があるとはいえない。
相違点8について
乙6発明を乙5発明に適用することによって、相違点8のうち、「グ
ラフィックコントローラ」の有無の点は解消される。また、相違点8の
10 うち、「単一のVRAM」に関しても、乙1公報の図2には、「表示メ
モリ」(VRAM)が1つしか描かれていないことからすれば、当業者
が容易に想到できた点であるということができる。
相違点9について
乙5発明は、「表示部12」が「デジタル表示信号」を「グラフィッ
15 クコントローラから受信した」ことを特定していない。しかし、乙6発
明においては、LCD表示制御部23からLCD52(ディスプレイ手
段)に「ビデオ信号」が供給されており(乙6公報【0034】)、そ
の「ビデオ信号」を「デジタル表示信号」とすることも、当業者が通常
の創作能力の範囲内にある。したがって、相違点9は、乙5発明に乙6
20 発明を適用することにより当業者が容易に想到できたといえる。
相違点10について
乙5発明の「制御部10」を乙6発明の「CPU10」、「LCD表
示制御部23」、「内部RAMDAC24」及び「CRT表示制御部2
5」に置き換えてみることも、当業者が容易に想到できたことである。
25 そして、乙6発明においては、「CRT表示制御部25」(本件発明の
「グラフィックコントローラ」)から「CRTディスプレイ53」に表
示信号を送信しているから、乙6発明を乙5発明に適用することによっ
て、相違点10は、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
相違点11について
乙5発明は、本件発明の「グラフィックコントローラ」に係る機能を
5 特定していない。しかし、乙6公報の段落【0006】には、グラフィ
ックコントローラが「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像
データ」を処理することを示唆している。そして、相違点11のうち、
「単一のVRAM」の有無については、相違点8において論じたのと同
様であるから、乙6発明を適用した乙5発明によって、相違点11は容
10 易に想到し得たというべきである。
エ 相違点12の容易想到性
乙5発明は伝送方式を特定していない。しかし、本件発明で特定されて
いる伝送方式は、周知の伝送方式を単に列挙しただけであり、乙5発明に
周知の伝送方式を適用してみることは、当業者が容易に想到できたことで
15 ある。
⑶ 訂正の再抗弁の当否
ア 本件訂正請求が不適法なものであり、被告製品が本件訂正請求に係る構
成要件G’及びH’を充足しないことは、争点2-1で論じたとおりであ
り、原告の訂正の再抗弁は失当である。
20 イ 本件訂正発明によって、乙5発明による進歩性欠如の無効理由は解消し
ない。したがって、原告の主張は、本件発明の進歩性欠如に係る主張を繰
り返しているものにすぎず、この点からも訂正の再抗弁は失当である。
(原告の主張)
⑴ 乙5発明の内容及び本件発明との相違点
25 ア 本件発明の特許請求の範囲の記載は、画像に対する「解像度」、画像デ
ータに対する「本来解像度」、ディスプレイに対する「画面解像度」を使
い分けているのに対し、乙5公報は、「解像度」という言葉を前記の「画
面解像度」の意味にのみ使用するものである。したがって、乙5発明の構
成は、そのような用語法を前提に認定されるべきである。
イ そのため、被告の一致点の認定には誤りがあり、相違点7ないし12に
5 追加し、相違点14が認定されるべきである。
(相違点14)
本件発明の携帯情報通信装置は、前記外部ディスプレイ手段に、「前記
ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像」を表示
できるようにしたが、乙5発明の外部表示装置2には、「表示部12の画
10 面解像度より大きい解像度を有する画像」が表示できることが特定されて
いない点
⑵ 相違点の検討
ア 相違点8ないし11について
乙1発明との組み合わせ
15 被告は、乙5発明の「制御部10」を乙1発明の「CPU10」及び
「表示コントローラ20」に置き換えることを主張する。しかし、乙1
発明は携帯電話機ではないから、乙1発明の「CPU10」は、もとも
と乙5発明の「制御部10」が担っていた「送受信部11」や「音声部
13」、「撮像部15」(乙5公報【図2】)に係る機能を実現するこ
20 とができない。すなわち、乙1発明を適用することによって、乙5発明
の携帯電話機が有していた多くの機能が失われてしまうから、このよう
な適用には阻害要因があるというべきである。
なお、乙5発明と乙1発明との組み合わせ方法として、前記の置換え
において、制御部10のうちのCPUは残し、その余の機能を乙1発明
25 で置き換えることも考え得る。しかし、乙5公報には、制御部10のう
ちのCPUが単独で果たす機能の記載はないのであるから、当業者によ
って、乙5発明のCPUに係る機能と乙1発明で置き換えられた機能と
の間で、どのように機能分担するのか不明であって、いずれにせよ阻害
要因があるというべきである。これが設計事項であるとする被告の主張
は、当業者の通常の創作能力を過大に評価するものである。
5 乙6発明との組み合わせ
また、被告は、乙5発明の「制御部10」を乙6発明の「CPU1
0」、「LCD表示制御部23」、「内部RAMDAC24」及び「C
RT表示制御部25」に置き換えることを主張する。しかし、乙6発明
は、「PC100」の周辺機器である「ビデオ・アダプタ20」に係る
10 発明であると理解すべきものであるから、被告の主張は、乙6発明であ
る「ビデオ・アダプタ20」には含まれない「PC100」から「CP
U10」を抜き出し、乙1発明に適用しようというものであり、阻害要
因があるというべきである。
しかも、PC用のCPUは、本件発明の優先日当時、携帯電話用のC
15 PUに比し大型で発熱量も大きかったため、携帯電話機に採用すること
には物理的な困難があった。そうすると、「本体の携帯性を損なうこと
なく、表示内容の視認性や臨場感を向上させることが可能な携帯電話機
の提供を第1の目的」(乙5公報【0007】)とする乙5発明に、乙
6発明を適用することには、阻害要因があったというべきである。
20 なお、そもそも、乙5発明は、本件発明の「グラフィックコントロー
ラ」及び「単一のVRAM」を備えていないのに対し、被告の主張する
乙6発明の乙5発明に対する適用は、この点の相違を埋めるものではな
い。すなわち、乙6発明のうち、「グラフィックコントローラ」及び
「単一のVRAM」に相当するものは、「フレーム・バッファ制御部2
25 2」及び「フレーム・バッファ40」であるから、被告の主張を前提と
しても、前記の置き換えに当たり、乙6発明の「フレーム・バッファ制
御部22」及び「フレーム・バッファ40」も挿入される必要がある。
そして、被告主張の要素に加え、「フレーム・バッファ制御部22」
及び「フレーム・バッファ40」も挿入しなければならないということ
は、乙5発明に、乙6発明である「ビデオ・アダプタ20」の大部分の
5 構成要素(インターフェース部21の全部又は一部を除く部分)を挿入
しなければならないことを意味する。このような乙5発明と乙6発明の
組み合わせには、阻害要因があるというべきである。
イ 相違点14について
本件発明と乙1発明との間には、被告指摘の相違点に加え、相違点14
10 があることは、既に指摘したとおりである。そして、本件発明と乙1発明
との間の相違点13(争点2-1)は、本件発明と乙5発明との間の相違
点14と同様の内容なのであるから、仮に、乙5発明に乙1発明を適用し
たとしても、当然、相違点14に至ることはできない。
⑶ 訂正の再抗弁の成否
15 ア 本件訂正請求の適法性及び被告製品の充足性
争点2-1に関して論じたとおり、本件訂正請求は適法であり、被告製
品は、本件訂正発明の構成要件を充足する。
イ 本件訂正発明に係る相違点の検討
本件訂正発明と乙5発明の相違点
20 (相違点G5)
本件訂正発明の携帯情報通信装置は、「高解像度画像受信・処理・表
示機能」を有するのに対し、乙5発明では、送受信部11(無線通信手
段)が、「本来解像度が表示部12(ディスプレイパネル)の画面解像
度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信してデジタル信号
25 に変換の上、CPU(中央演算回路)に送信すること、CPUが、該デ
ジタル信号を受信して、該デジタル信号が伝達する画像データを処理す
ること、携帯電話機が、グラフィックコントローラ及び「単一のVRA
M」を備えることが特定されていない点
(相違点H5)
本件訂正発明のグラフィックコントローラは、携帯情報通信装置が前
5 記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、前記単一のV
RAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有す
る画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマッ
プデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号
を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能及び前記単一のVRAMか
10 ら「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画
像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデ
ータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前
記インターフェース手段に送信する機能と実現するのに対し、乙5発明
の携帯電話機においては、グラフィックコントローラ及び「単一のVR
15 AM」が特定されていない点
乙5発明と乙1発明の組み合わせ
そもそも、本件訂正発明と乙1発明との間には相違点G1が存在して
いるのであるから、乙5発明に乙1発明を適用したとしても、相違点G
5のうち、乙5発明の送受信部11が、本来解像度が表示部12の画面
20 解像度より大きい画像データを伝達する無線信号を受信してデジタル信
号に変換の上、CPU10又はCPUに送信するという構成、乙5発明
のCPUが、該デジタル信号を受信して、該デジタル信号が伝達する画
像データを処理する構成に至ることはできない。
そして、乙5発明に乙1発明を適用しても、相違点G5に至ることが
25 できない以上、相違点H5に至ることもできない。
乙5発明と乙6発明の組み合わせ
乙6発明は、どのように特定しようとも、「無線通信手段」を特定す
るものではない。したがって、どのように乙5発明に乙6発明を適用し
ても、相違点G5のうち、乙5発明の送受信部11は、本来解像度が表
示部12の画面解像度より大きい画像データを伝達する無線信号を受信
5 してデジタル信号に変換の上、CPU10に送信するという構成に到達
することはできない。
また、乙5発明のCPUを乙6発明のCPU10と置き換えたとして、
乙6発明において、CPU10が、外部から受信した信号が伝達する画
像データを処理するという構成は特定されない。したがって、どのよう
10 に乙5発明に乙6発明を適用しても、相違点G5のうち、乙5発明のC
PUは、該デジタル信号を受信して、該デジタル信号が伝達する画像デ
ータを処理するという構成に到達することはできない。
そして、乙5発明に乙6発明を適用しても、相違点G5に至ることが
できない以上、相違点H5に至ることもできない。
15 7 争点2-3(本件当初訂正の訂正要件違反)について
(被告の主張)
⑴ 本件当初訂正に係る訂正事項4及び7は、本件発明である本件特許の特許
請求の範囲の請求項1について、「前記単一のVRAM」という語句を追加
する部分を含む訂正である(甲3)。
20 ⑵ しかし、当該訂正の根拠とされる当初明細書等の段落【0115】、【0
117】、【0127】及び【図1】などの記載をみても、そこに記載され
たVRAMが1個に限定されたりするような記載はない。
⑶ また、当初明細書等には、「VRAM」が「単一」であることの積極的な
意義や作用効果の記載もない。そのため、当初明細書等の記載から、「単一
25 のVRAM」にするという技術的事項を導き出すこともできない。
⑷ したがって、訂正事項4及び7は、願書に最初に添付された明細書、特許
請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正に当たらないから、特
許法126条5項に違反しており、本件発明の無効理由となる。
(原告の主張)
⑴ 特許請求の範囲の記載において、装置の部品や要素に「単一」という語が
5 使用される場合、特段の積極な意味を込められておらず、数が複数ではなく
単数であるという意味にすぎない。したがって、本件明細書等において、V
RAMが「単一」であることの積極的な意義が記載されていなければならな
いとする被告の主張は、失当である。
⑵ また、争点2-5において主張するとおり、本件明細書等の記載によれば、
10 本件発明において、VRAMが「単一」であることから生じる作用効果は明
らかであるから、その記載がないとする被告の主張も、前提を欠いて失当で
ある。
8 争点2-4(明確性要件違反)について
(被告の主張)
15 構成要件D及びHの「単一のVRAM」という語句は、「機能面からみて単
一のVRAM」であるとする意義解釈と「物理的に分離したVRAM」とする
意義解釈との2通りを考え得る。しかるに、本件明細書等には、その意義を解
釈するための基準が全く示されておらず、この点に関する技術常識も存在しな
い。したがって、本件特許は、本件発明の「単一のVRAM」の語句の意義が
20 不明確である点において、特許法36条6項2号の明確性要件に違反するもの
であり、無効理由があるというべきである。
(原告の主張)
構成要件D及びHの「単一のVRAM 」とう語句は、「単一」の一般的な
用法や特許明細書の特許請求の範囲の記載に用いられる場合の一般的な用法に
25 照らしても、本件明細書等の記載を考慮しても、原告が主張するように、「V
RAM」が物体として分離している複数の部品から構成されていないことをい
うものとして明確であり、被告が主張するような「機能面からみて単一のVR
AM」をいうとする解釈は成立する余地はない。したがって、この点に明確性
要件違反があるとする被告の主張は、失当である。
9 争点2-5(サポート要件違反)について
5 (被告の主張)
⑴ 本件明細書等には、本件発明の構成を「単一のVRAM」とすることによ
る作用効果が記載されていない。そのため、本件明細書等の発明の詳細な説
明の欄は、「単一のVRAM」を構成要素とする本件発明の作用効果を理解
し得るように記載していないといえる。したがって、本件特許には、この点
10 において、特許法第36条6項1号のサポート要件に違反する無効理由があ
るというべきである。
⑵ 本件発明の構成要件Dには、「必要な処理を行い」又は「処理する」との
要件が含まれる。しかし、本件明細書等には、段落【0032】の「適切に
処理する」以外の処理に関する記載はない。仮に、構成要件Dの「処理」が
15 前記「適切に処理する」以外の処理を含むとすれば、本件発明は、発明の詳
細な説明に記載された発明の範囲を超えることになるから、本件発明は、こ
の点でもサポート要件に違反する無効理由があるというべきである。
(原告の主張)
⑴ 被告は、本件明細書等には、「単一のVRAM」に係る作用効果が記載さ
20 れていないと主張する。しかし、以下のとおり、この点について、サポート
要件違反があるということはできない。
ア 平成6年法律第116号による改正後の特許法36条4項1号において
は、明細書に発明の効果を記載することは必須の記載要件とされないので
あるから、被告の主張は条文解釈として誤りである。
25 イ また、仮に、本件発明のVRAMが単一でなかったとすれば、構成要件
Hの「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像の
ビットマップデータ」の読み出し元と「前記ディスプレイパネルの画面解
像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」の読み出し元
とに、別々のVRAMが割り当てられるのが自然である。しかし、その場
合、本件明細書等の段落【0031】に記載された高解像外部ディスプレ
5 イ手段向けの専用の表示データ生成手段を別個に使用しないという課題を
解決することができない。したがって、本件明細書等には、「単一のVR
AM」を使用することの作用効果が記載されているといえる。
⑵ 被告は、本件明細書等には「適切な処理」に係る記載はあるが、構成要件
Dの「処理」に係る記載はないと主張する。
10 しかし、本件明細書等には、構成要件Dの「中央演算回路」が、「適切な
処理」以外の「処理」をする旨の多数の記載があるのであるから、この点を
理由にサポート要件違反をいう被告の主張も、失当である。
10 争点3-1(原告に生じた損害又は損失)について
(原告の主張)
15 ⑴ 被告製品の売上高
ア 特許法102条3項の原告が受けるべき利益の額の算定の基礎となる被
告製品の売上高は、製品自体の販売代金収入のみならず、当該製品に係る
通信料収入をも含めた算定をすべきである。なぜなら、被告を始めとする
電気通信事業者は、被告製品を販売していた当時、いわゆる「SIMロッ
20 ク」や「2年縛り」となどの商慣行によって、携帯電話機の購入者から少
なくとも2年程度の通信料収入を得る一方、製品自体の小売価格を低額に
抑えていたからである(甲24、25)。
イ なお、被告が主張する被告製品の売上高は、被告補助参加人が被告に被
告製品を販売した段階のものであるから、製品自体の販売代金収入として
25 も失当である。原告は、被告による被告製品の販売行為を問題としている
のであるから、製品自体の販売代金収入は、被告が一般消費者に被告製品
を販売した段階の売上高によるべきであることは当然である。
⑵ 本件発明(本件訂正発明)の相当実施料率
以下の事情を総合考慮すれば、特許法102条3項による損害の算定の基
礎となる相当実施料率は、前記売上高の1%を下らない。
5 ア 業界における実施料の相場等
本件特許は実施許諾の実績がないが、「知的財産の価値評価を踏まえ
た特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書」(甲26)は、国内
アンケート調査における実施料率について、「器械」の技術分野が平均
1.9%(最大:9.5%、最小:0.5%)、「電気」の技術分野が
10 平均2.9%(最大:9.5%、最小:0.5%)、「コンピュータテ
クノロジー」の技術分野が平均3.1%(最大:7.5%、最小:0.
5%)であり、司法データの実施料率について、「電気」の技術分野が
平均3.0%(最大:7.0%、最小:1.0%)であるとする。
なお、前記報告書には、「電気」の技術分野においては、パテントプ
15 ールによる実施許諾、クロスライセンスによる実施許諾、ノウハウを含
めた実施許諾があるため、前記平均値が妥当しない場合がある旨の記載
がある。しかし、本件特許は、パテントプールに含まれず、原告は、ク
ロスライセンスによる実施許諾やノウハウを含めた実施許諾をするとい
う営業方針を採用していないから、前記の場合に該当せず、本件訴訟に
20 おける本件特許の相当実施料率を算定するに当たっては、前記の数値を
採用することができるというべきである。
他方、被告は、被告補助参加人における特許1件当たりのライセンス
料率は、●(省略)●%になるなどと指摘する。
しかし、被告補助参加人のライセンス契約は、「C社」を除き一時金
25 方式であり(乙14)、ランニング方式よりもディスカウトされる傾向
のあるものである(甲27)。これに対し、原告は、一時金方式のライ
センスはしないという営業方針を採用しているのであるから、被告補助
参加人の前記ライセンス実績を考慮することは許されない。
また、「C社」との契約にしても、クロスライセンス契約であり、互
いのライセンス料が差引計算され、本来のライセンス料率よりも低額に
5 なっているはずであるから、その実施料率を参考にするのは不適当であ
る。仮に、これを考慮するにしても、特許件数で除する前の●(省略)
●%という数字が参考にされるべきである。
さらにいえば、被告の前記主張は、特許侵害者と利害を共有する者が
締結したライセンス契約の実績に基づいたものである上、その計算にお
10 いても、複数一括ライセンス契約の実施料率を個々の特許の実施料率と
同視している点、一時金方式のライセンス契約における対象製品の売上
高が過大に見積もられている点で不当である。
イ 特許発明の技術内容や重要性等
本件発明は、高解像度画像の外部表示を不合理な二重投資や非効率な
15 資源利用を行うことなく実現することを作用効果とするものである。そ
して、これは携帯電話機に必須の機能である(甲29)。
そして、被告製品は、国内携帯電話市場がスマートフォンに移行しつ
つある時期であり、また、被告がアンドロイド端末の取扱いを強化しよ
うという時期に発売されたものであるが、他方で、それ以前に、アンド
20 ロイド端末やアイフォン端末において、高解像度画像を外部表示する機
能を有するものは発売されていなかった。そうすると、被告製品におい
て、本件発明の作用効果を実現することは、被告の戦略上も極めて重要
であり、本件発明の重要性は高いというべきである。
また、被告は、被告製品の販売時期において、被告製品以外に、高解
25 像度画像を外部表示する機能を搭載したアンドロイド製品を販売してい
ない。このことは、それ以外の選択肢がなかったことを意味する。しか
も、被告製品の販売期間が3年以上にわたることなどからすれば、前記
の機能を実現する上で、本件発明の構成を採用することが、技術的、経
済的に合理的であったといえる。そうすると、被告には、本件発明の構
成を採用する以外の方法はなかったというべきである。
5 これに対し、被告は、被告補助参加人が製造した携帯電話機に、本件
発明の構成を採用しないものがあると主張するが、仮に、被告の指摘す
る携帯電話機が、本件発明の構成を採用していないとしても、それらの
携帯電話機は、いずれもフィーチャーフォンである。前記のとおり、被
告製品が販売されたのは、被告が、スマートフォンの取扱いを強化しよ
10 うという時期であったのであるから、フィーチャーフォンにおける代替
技術の有無は、実施料率算定の上で重要な事情ではない。
ウ 売上げ及び利益への貢献や侵害の態様
本件発明によらずに高解像度画像の外部表示の機能を実現しようとす
れば、合理的と考えられる被告製品の構成に何らかの改造を行う必要が
15 あるが、このような改造には余分のコストを要する。すなわち、その余
分のコストが、本件発明の構成を被告製品に用いたことの利益に貢献し
た程度を示すことになる。そして、仮に、そのような改造を加えようと
すれば、当該機能を実現するための部品を追加する必要があるが、例え
ば、被告製品の発売の約2年前において、同時に2画面に表示するため
20 のモバイル機器向け液晶コントロールIC「LR388G9」の価格は
2400円と設定されていた。そうすると、本件発明の被告製品の利益
への貢献は、被告製品1台当たり1000円を下回らないというべきで
あり、これは被告製品の平均単価の2.5%に相当する。
これに対し、被告は、外部表示機能を採用したことは販売価格に影響
25 しなかったと主張する。しかし、当該主張は、売上げへの貢献を問題と
するものであり、本件発明の実施料率を算定する上では意味がない。そ
もそも、スマートフォンの販売価格は、電気通信事業者の販売戦略に大
きく左右されるのであり、当該主張は、当然の事実を指摘するにすぎな
い。
エ 競業関係や特許権者の営業方針等
5 原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社であ
り、その製造販売には携わっていない。そのため、原告は、自社の特許発
明に係る実施権を他社に許諾し、これに対する実施料を得ることを営業方
針としており、自ら製造販売するためのクロスライセンスをすることはな
い。また、原告は、他の事業から運営資金を確保しているため、その実施
10 許諾に当たり、ランニング方式よりも低額となる傾向のある一時金方式に
よって、自らの運営資金を確保する必要性も有していない。
⑶ 原告に生じた損害(損害賠償請求)
前記⑴及び⑵によれば、本件発明の実施料相当額は、以下の合計である●
(省略)●を下らず、原告は、同額の損害を被った。
15 ① 別紙被告製品目録記載のイ号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料率1%
② 別紙被告製品目録記載のロ号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料1%
③ 別紙被告製品目録記載のハ号製品 ●(省略)●
20 ●(省略)●、実施料1%
④ 別紙被告製品目録記載のニ号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料1%
⑤ 別紙被告製品目録記載のホ号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料1%
25 ⑥ 別紙被告製品目録記載のヘ号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料1%
⑦ 別紙被告製品目録記載のト号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料1%
⑧ 別紙被告製品目録記載のチ号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料1%
5 ⑨ 別紙被告製品目録記載のリ号製品 ●(省略)●
●(省略)●、実施料1%
⑷ 被告に存する利益(不当利得返還請求)
ア 被告は、原告から実施許諾を得ないまま、被告製品を販売した。その結
果、被告は、前記実施料相当額の支払を免れ、●(省略)●を下らない利
10 益を不当に受け、原告は、これに相当する損失を受けたから、原告は、被
告に対し、同額の不当利得返還請求権を有する。
イ これに対し、被告は、被告と被告補助参加人との取引条件を定めた契約
の存在を理由に、被告に現存利益がないなどと主張する。
しかし、被告が指摘する当該契約の条項は、「製造のために必要な特許
15 ライセンス」や「製造するためのライセンス」に係る規定にすぎない。他
方、原告は、被告が、被告製品を販売した行為に係る不当利得を問題とし
ているのであるから、当該規定の存在は無関係である。
ウ また、被告は、原告が計算する実施料相当額は、民法703条の「現存
利益」に当たらないなどとも主張する。
20 しかし、仮に、特許法102条3項の規定が、民法703条の「現存利
益」の認定に適用されないとしても、被告が、実施料相当額の利得を不当
に得ており、原告が、同額の損失を被ったのであるから、これを原告に返
還すべきことに議論の余地はない。
(被告の主張)
25 ⑴ 被告製品の売上高
被告補助参加人による被告製品の販売数量及び売上高は、以下のとおりで
ある(乙13)。なお、被告は被告補助参加人以外から被告製品を購入して
おらず、被告補助参加人は被告以外に被告製品を販売していない。
被告製品 販売台数 売上高
イ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ロ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ハ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ニ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ホ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ヘ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ト号製品 ●(省略)● ●(省略)●
チ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
リ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
合計 ●(省略)●
⑵ 本件発明(本件訂正発明)の相当実施料率
ア 本件発明の価値
5 本件発明は、外部出力機能(HDMI/MHL出力機能)を実現する
ために不可欠ではないから、被告製品に特に高い付加価値を付与するも
のではない。実際、被告補助参加人は、平成23年頃においても、本件
発明の構成を備えない携帯電話機であるSH-01C、002SH、S
H-05C、SH-09C、SH-10C及びSH-03Dといった製
10 品を製造しており、本件発明を実施しなくとも、HDMI/MHL出力
機能を実現し得たことは明らかである。
また、外部表示機能の貢献が、販売価格に影響した事実を見いだすこ
とはできず、仮に、影響があったとしても軽微なものにとどまる。もっ
とも、外部表示機能の有無のみが異なる製品は存在しなかったため、そ
15 の販売価格への影響の有無を直接的に示す資料はないが、平成23年頃
の携帯電話機において、その販売価格に影響を与えた主な要因は、CP
Uの性能・価格、電池容量、内蔵カメラの性能・個数の3点であると考
えられ、外部表示機能の有無・性能の影響は見られなかった(乙16)。
被告補助参加人が保有する過去のデータを精査したが、外部表示機能
5 の貢献による販売数量への影響は見られず、仮にあったとしても、その
影響は軽微としかいえないものであった。すなわち、販売数量への影響
は通信キャリアの販売戦略の影響が大きく、外部表示機能の有無・性能
が販売数量に与えた影響はみられなかった。実際、平成22年から平成
24年までの間で1、2番目に多くの台数を販売した2機種は、HDM
10 I出力機能を備えていなかった。(乙16)
被告製品は、多数の特許発明を実施している。また、本件特許は、携
帯電話事業分野における標準規格を実施するために不可欠ではない発明
に係る特許(以下「アプリ特許」という)である。そして、前記のとお
り、本件発明が携帯電話に特に高い付加価値を付与するものではないこ
15 とからすれば、本件特許の寄与割合は、他のアプリ特許の寄与割合と同
程度と推定できる。したがって、本件発明の実施料率は、被告製品のア
プリ特許1件当たりの実施料率と同じと考えるべきである。
イ アプリ特許1件あたりの実施料率
被告補助参加人は、被告製品を製造販売するため、各社とアプリ特許
20 等のライセンス契約を締結した。そのうち、破産申立てという切迫した
事情のあった「H社」を除いたライセンス契約につき、①複数の特許が
対象になっている場合は、パテントファミリーごとに1件の特許とカウ
ントし、②対象特許が特定されていない場合は、交渉過程で合意された
特許や契約書に明示された限りの特許をカウントし、③実施料が一時金
25 方式である場合は、原則、対象製品の8年間の売上高に対する料率を算
定し、④ライセンス料率が●(省略)●とする計算をすることとし、ア
プリ特許1件当たりのライセンス料率は、●(省略)●%と計算される。
(乙14)
また、前記 において、特殊な規定のあった「C社」とのライセンス
契約を除き、さらに、画像処理関連発明に限定すると、その平均ライセ
5 ンス料率は、●(省略)●%となる。そして、「C社」とのライセンス
契約にしても、画像処理関連発明に限り、年度ごとに1件当たりのライ
センス料率を計算し、その8年間の平均を計算する方法を採用すると、
1件当たりのライセンス料率は、●(省略)●%である。(乙16)
さらに、前記 の計算は、標準必須特許を除いたものであるが、標準
10 必須特許の1件当たりのライセンス料は、製品1台につき、0.001
米ドル以下であり(乙16)、仮に製品1台当たりの平均売上高を5万
円と仮定すると、その平均ライセンス料率は0.0002%以下である
から、標準必須特許を含めた全特許に係る平均ライセンス料を計算する
とすれば、前記 の計算額より低額になる。
15 なお、「C社」、「D社」及び「I社」とのライセンス契約は、クロ
スライセンスであったが、「C社」及び「I社」は、携帯電話関連事業
を行っておらず、クロスライセンスされた特許を実施した形跡もないこ
と、「D社」については、クロスライセンスされた特許が2件(残存期
間2年以下)にすぎなかったことから、前記 の計算において、クロス
20 ライセンスであることは考慮しなかった。(乙15)
⑶ 原告に生じた損害(損害賠償請求)
以上によれば、仮に、原告の被告に対する損害賠償請求権が時効消滅して
いなかったとしても、その金額は、前記⑴の●(省略)●を上回ることはな
いというべきである。
25 ⑷ 被告に存する利益(不当利得返還請求)
ア 被告は、製造業者である被告補助参加人から被告製品などの携帯電話機
を購入し、それを販売している電気通信事業者にすぎず、被告補助参加人
が携帯電話機を製造販売し、これを被告が販売するためのライセンスにつ
いては、被告補助参加人に取得させ、被告と被告補助参加人の売買契約に
おいて、仮に、特許権侵害があったような場合には、その費用を被告補助
5 参加人が負担することを合意している。(乙12)
すなわち、仮に、被告製品を製造するため、本件特許に係るライセンス
を受ける必要があったとしても、そのライセンス料は被告補助参加人が負
担することになるのであって、被告製品の販売に当たり、本件特許のライ
センス料の支払を免れていたとして、被告が利益を受けるという関係には
10 ない。したがって、被告には、民法703条の現存利益が存在しないとい
うことができ、原告の不当利得返還請求は理由がない。
イ これに対し、原告は、特許法102条3項に基づき、被告の利益の額を
計算する。しかし、同条項を原告に生じた損失の算定に類推適用し得たと
しても、これを原告の現存利益の算定に使用し得る根拠はない。なお、民
15 事訴訟法248条の規定にしても、損害額を認定する規定であり、民法7
03条の現存利益を認定するための規定ではない。
11 争点3-2(消滅時効の抗弁)について
(被告の主張)
原告は、東京地方裁判所平成24年(ワ)第237号として、被告及び被告
20 補助参加人外1名を被告とし、被告製品1外の製品が、本件特許の関連特許を
侵害することを理由とする特許権侵害損害賠償請求事件を提起していたが、そ
の判決は、平成25年8月2日に言い渡されている。(乙2、3)
そうすると、原告は、遅くとも前記判決の言渡日までには、被告が被告製品
1を販売していること、被告製品1が本件発明に対応する構成を備えているこ
25 と、被告製品1の販売による損害が発生していることを知っていたはずである。
また、被告製品2も、同日以前から販売されていた製品であるから、原告は、
その頃、その事実を知っていたと推認される。そして、これらの被告製品は、
平成26年内には販売を終了しているから、原告は、その頃までには、被告製
品について、損賠賠償請求訴訟を提起し得る程度には損害発生の事実を認識し
ていたということができる。
5 したがって、原告の請求に係る損害賠償請求権については、本件訴訟の提起
された令和2年11月24日までは、3年の消滅時効が完成しているから、被
告は、当該消滅時効を援用する。なお、原告は、本件発明の訂正審判に係る事
情を主張するが、それは消滅時効の中断事由ではない。
(原告の主張)
10 ⑴ 原告は、平成26年10月20日、本件特許が実際上は行使し得ないもの
であると判断し(甲17)、特許庁に対し、訂正審判を請求し、平成30年
8月13日、その訂正登録を得た。そうすると、原告が、その訂正登録の前
に、被告製品が、本件特許を侵害すると認識することは不可能であったとい
うべきである。したがって、本件訴訟の訴訟提起日である令和2年11月2
15 4日までに、被告製品による本件特許の侵害に対する損害賠償請求権の消滅
時効が完成していないことは明らかである。
⑵ また、原告が、平成25年8月2日頃、被告製品2の販売の事実を知って
いたことは認める。しかし、原告が、その頃、これが本件発明の技術的範囲
に属することを認識していた旨の主張立証はない。そして、原告が、損害賠
20 償請求を提起できる程度の損害を認識したのは、前記前提事実⑸イに係る訴
訟を提起した令和元年11月29日の直前である。したがって、被告製品2
については、この点からしても、本件特許の侵害に対する損害賠償請求権の
消滅時効は完成していないということができる。
第4 当裁判所の判断
25 1 本件発明の内容
⑴ 本件明細書等(甲2)には、次のとおりの記載があることが認められる。
ア 技術分野
「本発明は、携帯電話機などの携帯情報通信装置、携帯情報通信装置と
ともに用いる接続ユニット、及び携帯情報通信装置とともに用いる外部入
出力ユニットに関する。」(【0001】)
5 イ 背景技術
「最近の電子・情報技術及び通信技術の進歩によって、無線通信によっ
てデータ を送受信 す る機能を 有する、 P HS( Personal Handyphone
System)を含む携帯電話用端末装置(以下、「PHSを含む携帯電話用端
末装置」を「携帯電話機」と略記する)やPDA(Personal Digital
10 Assistants)をはじめとする携帯情報通信装置は多機能化し、電子メール
の送受信機能はもちろん、インターネットに接続したウェブサーバからH
T M L ( Hyper Text Markup Language ) 、 X M L ( eXtensible Markup
Language)又はそれらをベースとするマークアップ言語で記述された文書
ファイル(以下、マークアップ文書ファイルと略記する)及びそのリンク
15 ファイルを取得し、適切にレイアウトした上で、通常は液晶ディスプレイ
である付属ディスプレイに文字や画像を表示することによってウェブペー
ジを閲覧するブラウザ機能を標準的に有するようになってきている。」
(【0002】)
「また、ウェブサーバからゲームプログラムをダウンロードしてフラッ
20 シュメモリ等の記憶手段に格納した上で、付属するキー操作部を操作する
ことによって該プログラムを作動させるとともに必要なデータをマニュア
ル入力することにより、付属ディスプレイに表示される画像の変化を楽し
むゲーム機能についても、多くの携帯電話機が保有するようになってきて
いる。さらに、一部の携帯電話機については、テレビジョン放送の電波信
25 号(以下、テレビ放送信号と略記する)を受信し、テレビ番組の映像を付
属ディスプレイに表示するためのテレビチューナ機能をも有するようにな
っている。特に、テレビチューナ機能については、携帯情報通信装置向け
の地上デジタル放送の開始が予定されており、このデジタルテレビチュー
ナ機能と上述のブラウザ機能を携帯電話機上で結合することにより、携帯
電話機ユーザーに対して、一斉性のある電波放送と、パーソナル性、イン
5 タラクティブ性を持つインターネット通信の双方の特性を活かしたサービ
スを提供することが可能になると期待されている。」(【0003】)
「このような事情により、携帯電話機を中心とする携帯情報通信装置に
おいて、文字や映像を含む画像の表示機能は、今後、ますます重要性を増
していくものと考えられる。ところが、携帯電話機をはじめとする携帯情
10 報通信装置においては、その携帯性が重視されるため大きいサイズのディ
スプレイを付属させることができない。このため、携帯電話機の場合、画
面サイズは最大でも2.5インチ程度であり、また、画面解像度は最大でも
QVGA(Quarter Video Graphics Array)サイズ(携帯電話機において
は、通常、縦長画面であるため、水平画素数×垂直画素数=240×320画素)
15 となっている。」(【0004】)
「このような画面上の制約のため、携帯情報通信装置で電子メールを受
信した場合、それが長文である場合には、文章が表示画面内におさまらず、
何行にもわたって表示されるため、垂直スクロールを何度も繰り返さなけ
ればならず、結果として、その内容を円滑に理解できないことが起こる。
20 一方、電子メールの発信者は、たとえ自分自身が十分な大きさの表示画面
を有するデスクトップタイプやノートブックタイプのパーソナルコンピュ
ータシステム(以下、「デスクトップタイプやノートブックタイプのパー
ソナルコンピュータシステム」を「パソコン」と略記する)を用いており、
したがって、長文を画面に表示するのに支障がない場合であっても、その
25 ような受信者側の制約を考慮すれば、携帯情報通信装置向けには自ずと短
いメールとせざるを得ない。」(【0005】)
「さらに、携帯情報通信装置でウェブページを閲覧する際の制約は、電
子メールの読解する場合よりも大きい。通常、パソコンで閲覧されること
を想定して作成されるウェブページ(以下、パソコン向けウェブページと
略記する)は、HTMLで記述された文書ファイル(以下、HTMLファ
5 イルと略記する)及びそのリンクファイルで構成される。ところが、多く
の携帯電話機では、付属ディスプレイの画面サイズ・画面解像度が小さい
ことを理由の一つとして、フルスペックのHTMLで記述されたウェブペ
ージを適切に閲覧することはできず、閲覧できるのはパソコン向けウェブ
サイトとは別個に構築されたいわゆる「ケータイ向けサイト」のウェブペ
10 ージであって、CHTML(CompactHTML)、HDML(Handheld
Device Markup Language)又はWML(Wireless Markup Language)等の
携帯情報通信装置向けに特化したマークアップ言語で記述されたウェブペ
ージだけとなっている。このため、特に解像度の大きい画像ファイルにリ
ンクしたHTMLファイルで記述されたウェブページは、ほとんどの場合
15 正しく表示できず、また、画面を複数のフレームに分割し、各フレームに
異なるURL(Uniform Resource Locator)を有するファイルを割り当て
るフレーム表示のウェブページを含むウェブサイトなどでは、そもそも管
理者側が携帯電話機からのアクセス自体を拒否することもある。」(【0
006】)
20 「最近は、パソコン向けウェブページを閲覧できる「フルブラウザ機能」
又は「PC(Personal Computer)サイトビュー機能」を有する携帯電話
機が発売されているが、多くの場合、画像を付属ディスプレイの画面水平
解像度(縦長QVGAの場合、240画素)に合わせて縮小したり、テキス
ト部分を画面幅で改行したり、フレーム表示のウェブページについてはフ
25 レーム単位での画面イメージを表示したりするなど特殊なレンダリングモ
ードを採用しており、ウェブページの作成者が本来意図したはずの、パソ
コンの画面イメージとして実現されるレイアウトで表示されるわけではな
い。
また、携帯電話機によっては、パソコンでの画面イメージに近いレイア
ウトで表示するレンダリングモードを有する場合もあるが、通常、パソコ
5 ン向けウェブページは、最低でもVGA(Video Graphics Array)サイズ
(水平画素数×垂直画素数=640×480画素)の画面で閲覧されることを想
定して作成するため、このレンダリングモードでは、水平スクロールを何
度も繰り返さなければウェブページの全体を閲覧することができず、した
がって、ウェブページの全容を理解することに支障が生じる。」(【00
10 07】)
「一方、携帯情報通信装置でゲームを楽しむ場合でも、そのゲームはグ
ラフィックスがサイズの小さな付属ディスプレイに表示できる程度の比較
的単純なゲームに限定される。このため、「ケータイ向けサイト」からダ
ウンロードされる、いわゆる「ケータイアプリ」のゲームは、ゲーム専用
15 機向けやパソコン向けのゲームの世界では一世代から数世代前のゲームが
大半であり、結果として、短時間の暇つぶしに楽しまれるケースがほとん
どである。
また、付属ディスプレイの画面解像度が最大でもQVGAである携帯電
話機でテレビ番組を視聴する場合、できる限り大きな画面で視聴するため
20 に横置き(水平画素数×垂直画素数=320×240画素)とすることが通常で
あるが、その場合でも、テレビ放送が前提とする有効走査線の数(=垂直
画素数。アナログテレビ放送の場合、480本)は付属ディスプレイの画面
垂直解像度(240画素)より大きいため、画素を間引いて表示する必要が
ある。特に、デジタルテレビ放送においては、有効走査線数(垂直画素数)
25 に加えて、有効水平画素数も規定されているが、最も解像度の小さい480i
方式の場合でも水平画素数×垂直画素数=720×480画素、いわゆる「フル
ハイビジョン方式」である1080i方式においては1920×1080画素であって、
いずれにせよ、付属ディスプレイの画面解像度が最大でもQVGAである
携帯電話機では、十分なテレビチューナ機能及び表示機能を有するテレビ
ジョン受像機(以下、テレビ受像機と略記する)によってテレビ放送信号
5 を適切に処理した場合に表示される本来の解像度を有する画像(以下、テ
レビ放送における本来画像と略記する)を全画面表示することはできず、
それより解像度の低い画質の劣った画像しか表示できない。」(【000
8】)
「このような事情から、携帯情報通信装置のユーザーは、携帯情報通信
10 装置とともにパソコンを所有することも多い。そのような場合には、長い
メールを送受信したり、パソコン向けウェブページを閲覧したり、あるい
はグラフィックスが大きなサイズの画面でなければ表示できないような複
雑なゲームを楽しんだりする際にはパソコンを利用し、携帯情報通信装置
は、短いメールを送受信したり、「ケータイ向けサイト」にアクセスして
15 ウェブページを閲覧したりするためだけに携帯情報通信装置を利用すると
いう使い分けが行われる。あるいはまた、パソコンと携帯情報通信装置を
接続し、ネットワークへの接続のためだけに携帯情報通信装置の無線通信
手段を使用し、該無線通信手段によって取得されたデータの処理は、もっ
ぱらパソコンによって行うというような使い方がなされる。
20 また、最近では、テレビチューナを内蔵しディスプレイでテレビ番組が
視聴できる機能を有する、いわゆる「AV(Audio Visual)パソコン」が
販売されるようになってきているが、このようなパソコンとテレビチュー
ナ付き携帯電話機を併用する場合、外出時や移動時にはテレビチューナ付
き携帯電話機でテレビ番組を視聴し、自宅や自室では「AVパソコン」で
25 視聴するという使い分けが行われる。」(【0009】)
「ところが、このような方法において使用されるパソコンは、通常は、
携帯情報通信装置で行われる電子メールの送受信やウェブページの閲覧等
に限定されない汎用的な用途に使用できるように設計されているため、携
帯情報通信装置自体のデータ処理手段よりも高機能であるCPU
(Central Processing Unit)等のプロセッサを有している。その上、ハ
5 ードウェアを起動させるためには、別途、OS(Operating System)等の
ソフトウェアも準備しなければならないため、パソコンを所有するために
要するコストは、携帯電話機をはじめとする携帯情報通信装置自体を所有
するために要するコストより、通常は大きい。
このため、データ通信やデータ処理のニーズが電子メールの送受信やウ
10 ェブページの閲覧等に限られるような多数のユーザーにとって、上記のよ
うに、長文の電子メールを読んだり、パソコン向けウェブページを閲覧し
たりする際の、付属ディスプレイの画面サイズ・解像度が小さいことに起
因する不便さを解消するためだけに別途パソコンを所有することは、経済
的に不合理である。
15 一方、携帯情報通信装置のデータ処理手段は、汎用的な用途には必ずし
も向いていないとは言え、付属ディスプレイに画像を表示するための表示
データ処理機能については、表示画面が小さいということを除けば、パソ
コンにおけるCPU等のプロセッサの機能に匹敵する。それにもかかわら
ず、上記のようなパソコンと携帯情報通信装置との使い分けを行うとすれ
20 ば、同種のものに二重投資を行うことになり、結果として少なくとも一方
の稼働率の低下をもたらすため、資源の効率的な利用の観点からも好まし
くない。」(【0010】)
「同様の「不合理な二重投資」と「非効率的な資源利用」という問題は、
携帯情報通信装置がテレビチューナ機能を有する場合についても生じる。
25 すなわち、テレビ番組の映像や音声を楽しむためには、テレビ放送信号を
受信し、テレビ番組の映像をディスプレイやテレビモニタに表示するため
のテレビチューナ回路を必要とする。一方、通常の携帯情報通信装置のユ
ーザーは、携帯情報通信装置の付属ディスプレイの画面サイズが小さく表
示される画質も劣るため、該携帯情報通信装置とは別に画面の大きいテレ
ビ受像機又は「AVパソコン」を有するのが通常である。このため、ユー
5 ザーは、携帯情報通信装置におけるテレビチューナ回路とテレビ受像機又
は「AVパソコン」におけるテレビチューナ回路の双方を所有することを
強いられ、結果として少なくとも一方のテレビチューナ回路の稼働率は低
下せざるを得ない。」(【0011】)
「地上デジタル放送においては、一つのチャンネルを構成する13セグメ
10 ントのうち、12セグメント(ハイビジョン放送)又は4セグメント(通常
画質の放送)が通常のテレビ受像機向けの放送に割り当てられるのに対し、
携帯情報通信装置向けには1セグメントのみが割り当てられる予定であり、
この場合、テレビ受像機におけるテレビチューナと携帯情報通信装置にお
けるテレビチューナは異なる仕様となるため、単純な二重投資は発生しな
15 いと考えられる。しかし、電子・情報技術の進歩の結果、携帯情報通信装
置の内部に、通常のテレビ受像機が受信すると想定されている12セグメン
ト又は4セグメント放送を受信できるテレビチューナが納められるように
可能性も大きく、そのような場合には、現状の技術の延長上では、高価な
デジタルテレビチューナに対して、同様の「不合理な二重投資」と「非効
20 率的な資源利用」の問題が生じる。」(【0012】)
「このような事情から、携帯情報通信装置の携帯性を損なわないために
付属ディスプレイのサイズを現状通りに維持したままで、しかもパソコン
を併用することなく、長文の電子メールやパソコン向けウェブページ、娯
楽性の高いゲーム、さらにはテレビ番組の映像などを大きな画面で表示す
25 ること、特に、長文の電子メールについては、垂直スクロールを繰り返す
ことなく読めること、パソコン向けウェブページについては、パソコンで
の画面イメージに近いレイアウトで表示し、しかも水平スクロールを繰り
返すことなく閲覧できること、テレビ番組については、テレビ放送におけ
る本来画像を全画面表示することが課題とされている。」(【0013】)
「このような課題を解決するため、携帯情報通信装置に、該携帯情報通
5 信装置の付属ディスプレイよりも画面が大きい外部ディスプレイ装置(以
下、大画面外部ディスプレイ装置と略称する)を接続することにより、大
画面外部ディスプレイ装置で画像を表示する技術がいくつか開示されてお
り、そして、それらの技術は、以下の3つのタイプに分類される。
第一種:携帯情報通信装置と大画面外部ディスプレイ装置を何らかの接
10 続ユニットを介して接続するタイプ
第二種:携帯情報通信装置と大画面外部ディスプレイ装置は直接的に接
続されるが、その代わり、大画面外部ディスプレイ装置としては、携帯情
報通信装置から受信した表示データに各種の処理を施す機能を有する画像
表示装置が使用されるタイプ
15 第三種:携帯情報通信装置と大画面外部ディスプレイ装置は直接的に接
続され、しかも、大画面外部ディスプレイ装置としては、携帯情報通信装
置との間での何らかのインターフェース手段は備えていることを除けば、
テレビモニタ等の汎用的なディスプレイが用いられるタイプ」(【001
4】)
20 「このうち、第一種の技術は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許
文献3及び特許文献4において開示されている。…」(【0015】)
「しかしながら、この場合においても、画像や文字を表示するための表
示データ処理機能に限って考えれば、携帯情報通信装置側と接続ユニット
側で、表示する画面のサイズが異なるということを除けばほぼ同等の機能
25 を有する表示データ処理手段を二重に保有することになる。このため、多
かれ少なかれ、パソコンを併用する場合と同様の「不合理な二重投資」と
「非効率的な資源利用」の問題は生じることになる。また、現実的には、
接続ユニットの購入費は、接続ユニットの販売台数がパソコンの販売台数
よりも著しく少ない場合には、パソコンと同程度かそれよりも高くなる可
能性がある。」(【0016】)
5 「一方、第二種の技術は、例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献
7、特許文献8及び特許文献9において開示されている。…」(【001
7】)
「さて、上記で説明した通り、第二種の技術においても、携帯情報通信
装置側と大画面外部ディスプレイ装置側でほぼ同等の機能を有する表示デ
10 ータ処理手段を二重に有することになり、結果的に「不合理な二重投資」
や「非効率な資源利用」の問題が生じる。また、このような表示データ処
理手段を備えた画像表示装置の購入費は、汎用的なCRT(Cathode Ray
Tube)ディスプレイ装置や液晶ディスプレイ装置と比較して確実に高くな
るため、この追加コストを考慮すれば、パソコンとの併用や第一種の技術
15 の場合に生じるのと同様の、本来であれば回避すべき不合理な経済的負担
が生じる。」(【0018】)
「それに対して、第三種の技術は、接続ユニットや特殊な画像処理装置
を使用せず、携帯情報通信装置と汎用的な大画面外部ディスプレイ装置だ
けで構成される。このため、一般的にいって、「不合理な二重投資」や
20 「非効率な資源利用」の問題が、少なくとも第一種の技術や第二種の技術
よりは少ないと考えられる。」(【0019】)
「この第三種の技術として既に実用化されているものに、いわゆる「テ
レビ(TV)出力機能」又は「AV出力機能」を有する携帯電話機がある。
このような携帯電話機においては、携帯電話機とテレビモニタを、携帯電
25 話機側は携帯電話機に固有の接続端子とし、テレビモニタ側はビデオ端子
とするケーブルで接続することにより、該携帯電話機に付属するデジタル
カメラ機能を用いて撮影した静止画や動画、あるいは一部のゲームを、携
帯電話機の付属ディスプレイよりも大画面であるテレビモニタに表示する
ことができる。しかし、その場合にテレビモニタに表示される画像の解像
度は、付属ディスプレイの画面解像度(最大でもQVGA)と同じである
5 ため、該画像は、テレビモニタの中央部に小さく表示されるか、画質の粗
い拡大画像が全画面に表示されるかのいずれかである。」(【0020】)
「現在のところ、「TV出力機能」又は「AV出力機能」によってテレ
ビモニタに表示されるのは、撮影した静止画や動画、又は一部のゲームに
限られているが、仮に、これらの携帯電話機が「フルブラウザ機能」又は
10 「PCサイトビュー機能」を有し、閲覧したパソコン向けウェブページを
テレビモニタで閲覧できるようになったとしても、それはあくまでも付属
ディスプレイに表示される画面イメージを拡大表示するだけであって、画
面イメージの解像度が増えるわけではない。したがって、ウェブページの
作成者が本来意図したはずの、パソコンの画面イメージとして実現される
15 レイアウトでの表示が、テレビモニタにおいて実現できるわけではない。
また、仮に、これらの携帯電話機がテレビチューナ機能を有し、受信した
映像をテレビモニタに出力できたとしても、テレビ放送における本来画像
がテレビモニタに表示されるわけではない。」(【0021】)
「したがって、上記の課題を解決するためには、「TV出力機能」又は
20 「AV出力機能」を有する携帯電話機のように、ただ単に付属ディスプレ
イに表示される画像を大画面外部ディスプレイ装置に拡大表示するという
機能を有するに留まらず、付属ディスプレイの画面解像度よりも解像度が
大きい画像を大画面外部ディスプレイ装置に表示する機能を有する携帯情
報通信装置を提供することが必要である。
25 これにより、付属ディスプレイでは自らの画面解像度に相当する部分だ
けを切り出した部分画像しか表示できなかったり、画素を間引くことによ
って画質を落とした全体画像しか表示できなかったりした画像を、大画面
外部ディスプレイにおいては、その本来の解像度のままの全体画像として
表示できるようになる。また、特に、水平方向の画素数が付属ディスプレ
イの画面水平解像度より大きい画像を大画面外部ディスプレイ装置に表示
5 する機能を有する場合には、一行あたりに表示できる文字数を増やすこと
ができ、その結果、長文の電子メールであっても、何行にもわたって表示
され、垂直スクロールを何度も繰り返さなければならないということはな
くなる。また、それらの効果が総合されることにより、パソコン向けウェ
ブページも、大画面外部ディスプレイ装置において、パソコンの画面イメ
10 ージとして実現されるレイアウトで閲覧できるようになる。」(【002
2】)
ウ 発明が解決しようとする課題
「本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とす
るところは、携帯電話機やPDAをはじめとする携帯情報通信装置に大画
15 面外部ディスプレイ装置を接続することにより、より一般的には、携帯情
報通信装置に大画面ディスプレイ手段を含む周辺装置、及び/又は、大画
面ディスプレイ手段が接続される周辺装置を接続することにより、該大画
面外部ディスプレイ手段において、付属ディスプレイの画面解像度よりも
解像度が大きい画像を表示すること、特に、長文の電子メールについては、
20 垂直スクロールを繰り返すことなく読めること、パソコン向けウェブペー
ジについては、パソコンでの画面イメージに近いレイアウトで表示し、し
かも水平スクロールを繰り返すことなく閲覧できること、テレビ番組につ
いては、テレビ放送における本来画像を表示することを、該大画面外部デ
ィスプレイ手段向けの専用の表示データ生成手段を、付属ディスプレイに
25 画像を表示するためにもともと必要である表示データ生成手段(以下、付
属表示データ生成手段と略記する)とは別個に使用することなく、大画面
ディスプレイ手段を含む周辺装置、及び/又は、大画面ディスプレイ手段
が接続される周辺装置と間のインターフェース手段の追加と、付属表示デ
ータ生成手段への若干の機能追加だけで実現する携帯情報通信装置を提供
する点にある。また、携帯情報通信装置及び大画面外部ディスプレイ装置
5 とともに用いられ、該大画面外部ディスプレイ装置の画面に、付属ディス
プレイの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示するための接続ユニ
ットを提供する点にある。さらに、携帯情報通信装置とともに用いられ、
自らに付属する大画面外部ディスプレイパネルに、該携帯情報通信装置の
付属ディスプレイの画面解像度よりも解像度が大きい画像を表示する外部
10 入出力ユニットを提供する点にある。」(【0031】)
エ 課題を解決するための手段
「上記目的を達成するために、携帯情報通信装置に係る第1の発明は、
ユーザーがマニュアル操作によって入力したデータを後記データ処理手段
に送信する入力手段と、無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、後
15 記データ処理手段に送信するとともに、後記データ処理手段から受信した
デジタル信号を無線信号に変換して送信する無線通信手段と、後記データ
処理手段を動作させるプログラムと後記データ処理手段で処理可能なデー
タファイルとを格納する記憶手段と、前記入力手段から送信されたデータ
及び前記記憶手段に格納されたプログラムに基づき、前記無線通信手段か
20 ら受信したデジタル信号及び/又は前記記憶手段から読み出したデータに
必要な処理を行って、デジタル表示信号及びその他のデジタル信号を生成
して送信するデータ処理手段と、画面を構成する各々の画素が駆動される
ことにより画像を表示するディスプレイパネルAと、前記データ処理手段
から受信したデジタル表示信号に基づき前記ディスプレイパネルAの各々
25 の画素を駆動するディスプレイ制御手段Aとから構成されるディスプレイ
手段とを備える携帯情報通信装置であって、外部ディスプレイ手段を含む
周辺装置、又は、外部ディスプレイ手段が接続される周辺装置を接続し、
該周辺装置に対して、前記データ処理手段から受信したデジタル表示信号
に基づき、外部表示信号を送信するインターフェース手段A1と、前記デ
ータ処理手段で生成されたデジタル表示信号の送信先として、前記ディス
5 プレイ制御手段Aと前記インターフェース手段A1の少なくともいずれか
一方を選択して指定する送信先指定手段とを備えるとともに、前記データ
処理手段と前記インターフェース手段A1とが相俟って、前記送信先指定
手段がデジタル表示信号の送信先として前記インターフェース手段A1を
指定した場合には、該インターフェース手段A1から、高解像度外部表示
10 信号を送信する機能を実現するようにしたものである。 なお、本「明細
書」及び「特許請求の範囲」でいう「デジタル表示信号」には、後で詳述
する「ビットマップデータ」等のデジタル画像データに直接対応した信号
だけでなく、デジタル画像データの生成(描画)を命令する描画命令のデ
ジタル信号も含む。
15 また、本「明細書」及び「特許請求の範囲」でいう「外部表示信号」と
は、周辺装置における外部ディスプレイ手段がそれを受信して適切に処理
することにより画像を表示することが可能であるような信号を意味する。
そして、表示信号、画像データファイル又は動画信号(以下、表示信号等
と略記する)を「適切に処理する」とは、ディスプレイ手段、又は、デー
20 タ処理手段及びディスプレイ手段が、表示信号等に含まれている画素ごと
の論理的な色情報を、ディスプレイ手段の画面を構成する物理的な画素の
色表示として過不足なく現実化することを意味しており、より具体的には、
物理的な現実化にあたって画素を間引いて表示画像の解像度を小さくした
り、画素を補間して表示画像の解像度を大きくしたりしないことを意味し
25 ている。
さらに、本「明細書」及び「特許請求の範囲」でいう「高解像度」とは、
表示信号等の本来解像度が前記ディスプレイパネルAの画面解像度(水平
画素数×垂直画素数)より大きいことを意味し、特に、「高解像度外部表
示信号」とは、本来解像度が前記ディスプレイパネルAの画面解像度より
大きい外部表示信号を意味する。また、表示信号等の「本来画像」とは、
5 十分な大きさの画面解像度を有するディスプレイ手段、又は、データ処理
手段と十分な大きさの画面解像度を有するディスプレイ手段とが、該表示
信号等を受信して適切に処理することにより表示される本来の画像を意味
し、「本来解像度」とは「本来画像」の解像度を意味する。
さらに、本「明細書」及び「特許請求の範囲」においては、「周辺装置
10 における~手段」という表記によって、「周辺装置に含まれた~手段又は
周辺装置に接続された~手段」を意味する。」(【0032】)
オ 発明の効果
「第1乃至第15の発明の携帯情報通信装置においては、携帯情報通信
装置のインターフェース手段A1に高解像度外部ディスプレイ手段を含む
15 周辺装置、及び/又は、外部ディスプレイ手段が接続される周辺装置を接
続して高解像度外部表示信号を送信することにより、該高解像度外部ディ
スプレイ手段の画面において、携帯情報通信装置に付属するディスプレイ
パネルの画面解像度より大きい解像度を有する高解像度画像を表示するこ
とができる。これにより、付属ディスプレイパネルにおいては、その画面
20 解像度に相当する部分だけを切り出した部分画像しか表示できなかったり、
画素を間引くことによって画質を落とした全体画像しか表示できなかった
りしたような画像を、高解像度外部ディスプレイ手段においては、その本
来の解像度のままの全体画像として表示できるようになる。特に、水平方
向の本来の画素数がディスプレイパネルの画面水平解像度より大きい高水
25 平解像度外部表示信号を送信する機能が実現されることにより、該高解像
度外部ディスプレイ手段の画面における一行あたりの表示文字数を、付属
ディスプレイパネルにおける表示文字数よりも増やすことができる。これ
により、例えば、長文の電子メールを読むような場合でも、付属ディスプ
レイパネルにおけるように何行にもわたって表示され、垂直スクロールを
何度も繰り返さなければならないため、理解に困難が伴うというようなこ
5 とはなくなる。
しかも、そのような高解像度外部表示信号の送信は、付属ディスプレイ
パネルにおいて画像を表示するためにもともと必要であるデータ処理手段
と、外部ディスプレイ手段を含む周辺装置、及び/又は、外部ディスプレ
イ手段が接続される周辺装置を接続するために不可欠のインターフェース
10 手段だけによって実現されている。このため、従来の技術のように、携帯
情報通信装置に備えられた表示データ処理手段とは別に、外部ディスプレ
イ手段を含む周辺装置向けの専用の表示データ生成手段を設ける必要はな
く、「不合理な二重投資」や「非効率な資源利用」の問題は回避できる。」
(【0078】)
15 カ 発明を実施するための最良の形態
「(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る携帯情報通信装置、携帯情報通
信装置用接続ユニット、及び両者を接続した上で該接続ユニットに外部デ
ィスプレイ装置及び外部入力装置を接続することによって構成した情報通
20 信システムの構成及び機能を説明するためのブロック図であり、特に、該
携帯情報通信装置が携帯電話機である場合について説明している。」
(【0111】)
【図1】
「この実施形態においては、携帯電話機1は、それ単独として、音声通
話用、携帯テレビ電話でのコミュニケーション用、データ通信・処理用、
テレビ放送番組の視聴用、被写体の撮影用、又は、画像データ及び/又は
5 音声データの保存・再生用として使用することができ、音声通話以外の用
途で使用する場合には、各種の画像が、付属ディスプレイパネルであるL
CD(Liquid Crystal Display)パネル15Aに表示される。
以下では、LCDパネル15AはQVGAサイズの画面解像度を有し、通
常は縦長画面(水平画素数×垂直画素数=240×320画素)で使用するもの
10 として説明するが、それ以外の解像度であってもよい。」(【0112】)
「次に、携帯電話機1が携帯テレビ電話でのコミュニケーション用に使
用される場合には、上で説明した音声データのやり取りに加えて、以下の
ような画像(動画)データのやり取りが加わる。
すなわち、通常は携帯電話機1のユーザー自身である被写体から反射又
は放射される光信号は、光学レンズ等で構成される光学系部12Aを経由し
てCCD12Bに入射し、CCD12Bにおいて画素ごとの電気信号に変換され
た上で、AD/DA変換部2_12Cでデジタル動画信号に変換され、バス19
を経由して中央演算回路1_10A1に送信される。該デジタル動画信号は中
5 央演算回路1_10A1において必要な処理を施され、上記の音声データと同
じく、ベースバンドプロセッサ11及びRF送受信部111Bを経由し、通信用
アンテナ111Aから電波信号として公衆ネットワークに送信される。
なお、以下では、CCD12Bの解像度はSXGAサイズ(水平画素数×
垂直画素数=1280×1024画素)であるものとして説明するが、それ以外の
10 解像度であってもよい。」(【0114】)
「一方、コミュニケーションの相手先から電波信号(無線動画信号)と
して公衆ネットワークに送信された画像(動画)データは通信用アンテナ
111Aで受信され、RF送受信部111B及びベースバンドプロセッサ11を経由
することによりデジタル信号に変換された上で、中央演算回路1_10A1に
15 送信される。中央演算回路1_10A1では、フラッシュメモリ14Aに格納され
たプログラムに基づいて必要な処理を行い、該デジタル信号に対応した描
画命令をグラフィックコントローラ1_10Bに送信する。
グラフィックコントローラ1_10Bは、該描画命令に基づき、あらかじめ
十分な大きさ(以下では、QUXGAWide(Quad Ultra XGA Wide)サイ
20 ズ(水平画素数×垂直画素数=3840×2400画素)として説明する)の論理
解像度を有するように設定された仮想画面におけるビットマップデータを
生成し、必要に応じてVRAM(VideoRAM)1_10Cへの書き込み/読
み出しを行いつつ、該ビットマップデータをLCDドライバ15Bに送信す
る。なお、VRAM1_10Cは、[特許請求の範囲]でいうところのビット
25 マップメモリ1にあたる。
LCDドライバ15Bは、該ビットマップデータに基づいて、ソース・ド
ライバ部とゲート・ドライバ部とを作動させることによりLCDパネル
15Aの画面を構成する各々の画素を駆動し、最終的にコミュニケーション
の相手からの無線動画信号に対応した画像がLCDパネル15Aに表示され
る。
5 この際、携帯テレビ電話において送受信される無線動画信号の本来画像
の解像度は、通常、LCDパネル15Aの画面解像度を上回らないため、L
CDパネル15Aには、該本来画像が全画面表示されるか、本来画像がLC
Dパネル15Aの画面の一部に表示されるか、又は本来画像の解像度はその
ままで全画面に拡大表示される。…」(【0115】)
10 「次に、携帯電話機1がデータ通信・処理用に使用される場合、通常は
20個前後の小型のキーからなるキー操作部16Aを操作することによって入
力され、キー入力コントローラ16Bでデジタル信号に変換されたデータ、
及び/又は、インターネットプロトコルに準拠した電波信号を公衆ネット
ワークから通信用アンテナ111Aで受信し、RF送受信部111B及びベースバ
15 ンドプロセッサ11を経由することによりデジタル信号に変換されたデータ
が、バス19を経由して中央演算回路1_10A1に転送される。中央演算回路
1_10A1では、フラッシュメモリ14Aに格納されたプログラムに基づいて必
要な処理を行い、処理されたデータは、バス19を経由して、フラッシュメ
モリ14A及びRAM(Random Access Memory)14Bや、グラフィックコント
20 ローラ1_10Bや、ベースバンドプロセッサ11に転送される。そして、最終
的には、LCDパネル15Aに画像が表示されたり、スピーカ18Bから音声が
出力されたり、通信用アンテナ111Aから電波信号が送信されたり、フラッ
シュメモリ14Aにデータが保存されたりする。
なお、インターネットプロトコルに準拠した電波信号の送受信は、音声
25 通信の場合と同様に、各種の通信方式によって実現できる。その際、通信
用アンテナ111A、RF送受信部111B及びベースバンドプロセッサ11を複数
帯域の電波信号に対応できるようにすることによって、例えば、屋内等の
無線LANの基地局・アクセスポイントに近い箇所では高速の無線LAN
方式で通信を行い、それ以外の箇所ではCDMA方式等の第3世代移動体
通信(セルラーシステム)で通信を行うようなことが実現できる。」
5 (【0116】)
「特に、携帯電話機1が、インターネットに接続したウェブサイトにア
クセスし、該ウェブサイトを構成するウェブページを閲覧している場合に
は、中央演算回路1_10A1は、フラッシュメモリ14Aに格納されたブラウザ
プログラムに従って、通信用アンテナ111A、RF送受信部111B、ベースバ
10 ンドプロセッサ11及びバス19を経由して、ウェブページを構成するマーク
アップ文書ファイル及びそのリンクファイルを取得し、ウェブページのレ
イアウト形式に応じて以下のように描画命令を生成・送信する。すなわち、
ウェブページがリキッドレイアウト、又はLCDパネル15Aの画面水平解
像度(240画素)よりも狭い固定幅レイアウトを採用していれば、LCD
15 パネル15Aの画面水平解像度と同じ水平画素数を有するページ画像の描画
命令を、ウェブページがLCDパネル15Aの画面水平解像度よりも広い固
定幅レイアウトを採用していれば、該固定幅と同じ水平画素数を有するペ
ージ画像の描画命令を、それぞれ生成し、該描画命令をグラフィックコン
トローラ1_10Bに送信する。 グラフィックコントローラ1_10Bは、該描
20 画命令に基づき仮想画面におけるビットマップデータを生成しVRAM1
_10Cに書き込むとともに、LCDパネル15Aに表示され、LCDパネル15A
の画面解像度と同じ解像度を有する画像を記述するビットマップデータを
VRAM1_10Cから切り出してLCDドライバ15Bに送信する。LCDド
ライバ15Bは、該ビットマップデータに基づいてLCDパネル15Aの画面を
25 構成する各々の画素を駆動し、最終的に前記ウェブページに対応したペー
ジ画像の全部又は一部に、必要に応じて画面の上部・下部に表示されるメ
ニュー表示等を組み合わせた全画面画像がLCDパネル15Aに表示される。
この際、ページ画像の解像度がLCDパネル15Aの画面解像度より大き
い場合には、キー操作部16Aにおいて画面スクロール機能を担うキーを操
作することによって入力されるデータに応じて、中央演算回路1_10A1が
5 描画命令を変更することにより、VRAM1_10Cから切り出されるビット
マップデータは仮想画面上を徐々に遷移し、その結果として、LCDパネ
ル15Aにおいてページ画像がスクロール表示される。」(【0117】)
「また、携帯電話機1がテレビ番組の視聴用に使用される場合、テレビ
受信用アンテナ112Aで受信したテレビ放送信号は、テレビチューナ112B及
10 びAD/DA変換部1_112Cでデジタル動画信号及びデジタル音声信号に
変換され、バス19を経由して中央演算回路1_10A1に送信される。 携帯
電話機1においては、テレビ番組の画像を、LCDパネル15Aを縦置きに
して表示する(→縦長画面(水平画素数×垂直画素数=240×320画素))
か、横置きにして表示する(→横長画面(水平画素数×垂直画素数=
15 320×240画素))かを、キー操作部16Aを操作することによって選択する
ことができ、中央演算回路1_10A1は、この選択に対応した入力信号及び
前記デジタル動画信号に基づき、LCDパネル15Aに表示される画面イメ
ージ(ただし、縦長画面の場合、上部及び/又は下部に非表示領域が生じ
た画面イメージ)のビットマップデータを作成する描画命令を生成し、該
20 描画命令をグラフィックコントローラ1_10Bに送信する。この際、テレビ
放送における本来画像の水平・垂直画素数は、縦長画面、横長画面のいず
れの場合でも、LCDパネル15Aの水平・垂直画素数よりも大きいため、
描画命令の生成にあたっては、AD/DA変換部1_112Cから送信される
デジタル動画信号を一部間引くことによって、解像度の低い画像の全体画
25 像の描画命令を生成する。
グラフィックコントローラ1_10B、VRAM1_10C及びLCDドライバ
15Bの動作は、キー操作部16Aの操作に従った画像のスクロールがないこと
を除けば、ウェブページのページ画像を表示する場合と同様であり、結果
として、LCDパネル15Aにテレビ放送の動画がリアルタイムで表示され
る。 …」(【0118】)
5 「また、携帯電話機1が被写体の撮影用に使用される場合、被写体から
反射又は放射される光信号は、携帯テレビ電話でのコミュニケーションの
場合と同じ経路でデジタル動画信号に変換され中央演算回路1_10A1に送
信される。また、中央演算回路1_10A1、グラフィックコントローラ1
_10B、VRAM1_10C及びLCDドライバ15Bは、テレビ放送番組を視聴
10 する場合と同様に動作し、結果として、LCDパネル15Aに被写体の映像
(動画)がリアルタイムで表示される。
この際、CCD12Bによって撮像される本来画像の水平・垂直画素数は、
縦長画面、横長画面のいずれの場合でも、LCDパネル15Aの水平・垂直
画素数よりも大きいため、中央演算回路1_10A1が描画命令を生成する際
15 には、AD/DA変換部2_12Cから送信されるデジタル動画信号を一部間
引くことによって、解像度の低い画像の全体画像の描画命令を生成する。」
(【0119】)
「以上が携帯電話機1をそれ単独として使用する場合の機能の概略であ
るが、携帯電話機1は、接続ユニット3と接続するための外部接続端子部A
20 _13Dを備えており、外部接続端子部A_13Dと、接続ユニット3に備えられ
たインターフェース部B_33を構成する外部接続端子B_33Dとを接続ケー
ブル2を介して接続することにより、携帯電話機1と接続ユニット3を一体
的な情報通信システムとして動作させることができるようになる。」
(【0121】)
25 「一方、接続ユニット3は、周辺装置と接続するためのインターフェー
ス部C1_35とインターフェース部C2_36を備えており、インターフェー
ス部C1_35には、LCDである外部ディスプレイ装置5が、インターフェ
ース部C2_36には、フルキーボードである外部キーボード61とマウス62
が、それぞれ接続されている。…以下では、原則として、外部ディスプレ
イ装置5(LCD)の画面解像度は、VGAサイズ(水平画素数×垂直画
5 素数=640×480画素)であるものとして説明するが、それ以上の解像度で
あってもよい。」(【0122】)
「さて、…作動中の携帯電話機1を接続ユニット3に接続し、接続ユニッ
ト3を起動させた場合、あるいは携帯電話機1を作動中の接続ユニット3に
接続し、携帯電話機1を起動させた場合に、携帯電話機1の中央演算回路1
10 _10A1は、接続ユニット3から、接続ユニット3が接続していることを検知
する信号(以下、接続検知信号と略記)、及び接続ユニット3のインター
フェース部C1_35に接続された外部ディスプレイ装置5の画面解像度デー
タを、外部接続端子部B_33D、接続ケーブル2、外部接続端子部A_13D及
びバス19を経由して受信する。
15 そして、携帯電話機1の中央演算回路1_10A1が前記接続検知信号を受信
した場合、中央演算回路1_10A1は、LCDパネル15Aの画面水平解像度又
は画面解像度に対応した画像の描画命令に替えて、以下で説明するように、
LCDパネル15Aの画面解像度より大きな解像度を有する画像の描画命令
を生成し、グラフィックコントローラ1_10Bに対して送信する。また、中
20 央演算回路1_10A1は、上記の描画命令とともに、VRAM1_10Cから切
り出したビットマップデータを、LCDドライバ15Bに送信する替わりに、
TMDSトランスミッタ13Aに送信するように命令する送信命令を生成し、
該送信命令をグラフィックコントローラ1_10Bに送信する。」(【012
3】)
25 「まず、インターネットに接続したウェブサイトにアクセスし、該ウェ
ブサイトを構成するウェブページを閲覧している場合には、中央演算回路
1_10A1は、フラッシュメモリ14Aに格納されたブラウザプログラムに従い、
ウェブページのレイアウト形式に応じて以下のように描画命令を生成・送
信する。すなわち、ウェブページがリキッドレイアウト、又は外部ディス
プレイ装置5の画面水平解像度(640画素)よりも狭い固定幅レイアウトを
5 採用していれば、外部ディスプレイ装置5の画面水平解像度と同じ水平画
素数を有するページ画像の描画命令を生成・送信し、ウェブページが外部
ディスプレイ装置5の画面水平解像度よりも広い固定幅レイアウトを採用
していれば、該固定幅と同じ水平画素数を有するページ画像の描画命令を
生成・送信する。
10 一方、テレビ放送を視聴している場合及び被写体を撮影している場合に
は、それぞれAD/DA変換部1_112C及びAD/DA変換部2_12Cから
送信されるデジタル動画信号における本来画像の解像度は、外部ディスプ
レイ装置5における画面解像度より依然として大きいため、中央演算回路
1_10A1は、該デジタル動画信号を一部間引くことによって、解像度を外
15 部ディスプレイ装置5の画面解像度に合わせた低画質の全体画像の描画命
令が生成・送信される。」(【0124】)
「なお、携帯テレビ電話でのコミュニケーションを行っている場合には、
携帯テレビ電話における無線動画信号の本来画像の解像度は、LCDパネ
ル15Aの画面解像度を上回らないため、携帯電話機1を接続ユニット3と接
20 続した場合でも、中央演算回路1_10A1からの描画命令が描画を命令する
画像の解像度は変わらない。ただし、フラッシュメモリ14Aが画像の補間
プログラムを格納しており、中央演算回路1_10A1がそれに従って作動す
る場合には、外部ディスプレイ装置5の画面解像度(無線動画信号の本来
画像の解像度より大きい)と同じ解像度を有する画像の描画命令を生成・
25 送信することができる。」(【0125】)
「ところで、外部ディスプレイ装置5として、画面解像度がVGAサイ
ズであるようなものに替えて、フルハイビジョンテレビモニタ(水平画素
数×垂直画素数=1920×1080画素)のように、画面解像度が十分に大きい
(ただし、あらかじめ設定された仮想画面の論理解像度(3840×2400画素)
よりも小さい)ものを使用する場合には、中央演算回路1_10A1が生成・
5 送信する描画命令は、以下のように変わる。
まず、ウェブページを閲覧している場合には、ほとんどのウェブページ
は、仮に固定幅レイアウトを採用している場合でも該固定幅が外部ディス
プレイ装置5の画面水平解像度を超えることはないため、中央演算回路1
_10A1においては、外部ディスプレイ装置5の画面水平解像度と同じ水平画
10 素数を有するページ画像の描画命令が生成・送信される。
次に、テレビ放送を視聴している場合、又は被写体を撮影している場合
にも、デジタル動画信号における本来画像の解像度は、外部ディスプレイ
装置5の画面解像度を超えることはないため、中央演算回路1_10A1におい
ては、デジタル動画信号における本来画像の描画命令が生成・送信される。
15 その際、視聴しているテレビ放送がアナログテレビ放送である場合や、
この説明で想定しているようにCCD12Bの解像度(1280×1024画素)が
フルハイビジョンサイズ(1920×1080画素)より小さい場合には、描画命
令が生成される本来画像の解像度は外部ディスプレイ装置5の画面解像度
より小さくなるが、フラッシュメモリ14Aが画像の補間プログラムを格納
20 しており、中央演算回路1_10A1がそれに従って作動する場合には、外部
ディスプレイ装置5の画面解像度(デジタル動画信号の本来画像の解像度
より大きい)と同じ解像度を有する画像の描画命令を生成することができ
る。」(【0126】)
「グラフィックコントローラ1_10Bは、中央演算回路1_10A1から受信
25 した描画命令に基づき、あらかじめ設定された仮想画面上においてビット
マップデータを生成し、VRAM1_10Cに書き込む。さらに、グラフィッ
クコントローラ1_10Bは、中央演算回路1_10A1から入手した外部ディス
プレイ装置5の画面解像度データに基づき、外部ディスプレイ装置5の画面
解像度と同じ解像度を有し、外部ディスプレイ装置5の画面に表示される
画像を記述するビットマップデータをVRAM1_10Cから切り出す。その
5 上で、中央演算回路1_10A1から受信した送信命令に基づき、該ビットマ
ップデータをTMDSトランスミッタ13Aに送信し、TMDSトランスミ
ッタ13Aは、該ビットマップデータを、外部接続端子部A_13Dを経由して
接続ユニット3のインターフェース部B_33にTMDS伝送方式で送信す
る。」(【0127】)
10 「接続ユニット3においては、インターフェース部B_33で受信・転送さ
れたビットマップデータを、TMDSレシーバ機能を有するインターフェ
ース部C1_35で受け入れて、必要な処理を行った上で外部ディスプレイ
装置5に送信し、結果として、外部ディスプレイ装置5の画面において、そ
の画面解像度に対応した解像度を有する画像が表示される。その際、リキ
15 ッドレイアウト、又は外部ディスプレイ装置5の画面水平解像度よりも狭
い固定幅レイアウトを採用しているウェブページを閲覧している場合には、
ページ画像の水平方向の全体が表示され、水平方向のスクロールを行う必
要はないが、外部ディスプレイ装置5の画面水平解像度よりも広い固定幅
レイアウトを採用しているウェブページを閲覧している場合には、外部デ
20 ィスプレイ装置5の画面には、ページ画像は水平方向の一部だけが表示さ
れることになり、水平スクロールを行うことによってページ画像の全体が
閲覧できる。一方、テレビ放送を視聴している場合、又は被写体を撮影し
ている場合には、デジタル動画信号の本来画像よりも解像度の低い画像が
全画面表示される。」(【0128】)
25 「ただし、外部ディスプレイ装置5として、上記のようにフルハイビジ
ョンテレビモニタのような高解像度ディスプレイ装置を採用している場合
には、外部ディスプレイ装置5に表示される画像は、以下のように変わる。
まず、ウェブページを閲覧している場合には、上記の理由により、ほと
んどのウェブページのページ画像はその水平方向の全体が表示され、水平
スクロールすることなく閲覧できる。
5 次に、テレビ放送を視聴している場合、被写体を撮影している場合には、
又は携帯テレビ電話でのコミュニケーションを行っている場合には、上記
のように、通常のケースでは、中央演算回路1_10A1においてデジタル動
画信号における本来画像の描画命令が生成・送信されることに対応して、
外部ディスプレイ装置5の画面には本来画像が表示される。その際、外部
10 ディスプレイ装置5又は接続ユニット3におけるインターフェース部C1
_35がアップスキャンコンバート機能を有する場合には、該本来画像が外
部ディスプレイ装置5の画面全体にわたって表示され、そうでない場合に
は、画面の中央部分、又は四隅のいずれかに偏った部分だけが表示領域と
なって、それ以外の部分は非表示領域となるような形態で表示される(た
15 だし、ハイビジョンテレビ放送を視聴し、外部ディスプレイ装置5がフル
ハイビジョンモニタである場合には、インターフェース部C1_35がアッ
プスキャンコンバート機能を有しない場合でも、本来画像が外部ディスプ
レイ装置5の画面全体に表示される)。いずれの場合も外部ディスプレイ
装置5の画面に表示される画像の解像度は本来解像度のままで変わらない。
20 一方、フラッシュメモリ14Aが画像の補間プログラムを格納しており、
中央演算回路1_10A1がそれに従って作動しているケースでは、外部ディ
スプレイ装置5の画面解像度と同じ解像度を有する画像の描画命令を生
成・送信する場合には、本来解像度よりも解像度の大きい画像が、外部デ
ィスプレイ装置5の画面全体にわたって表示される。」(【0129】)
25 「なお、画像データを外部ディスプレイ装置5の画面で再生する場合に
も、中央演算回路1_10A1、グラフィックコントローラ1_10B及びTMD
Sトランスミッタ13A等の機能は、基本的には他の用途における機能と同
じである。 画像データの本来画像の解像度と外部ディスプレイ装置5の
解像度の大小関係、補間プログラムの有無、さらには外部ディスプレイ装
置5又は接続ユニット3がマルチスキャン機能を有しているか否かと等に応
5 じて、本来画像、本来画像から画素が間引かれることによって低解像度と
なった画像、又は本来画像に画素が補間されることによって高解像度とな
った画像が、外部ディスプレイ装置5の画面全体にわたって表示されたり、
画面の中央部分、又は四隅のいずれかに偏った部分の表示領域に表示され
たりする。」(【0130】)
10 「なお、グラフィックコントローラ1_10Bで生成されたビットマップデ
ータの送信先の指定(切り替え)や、中央演算回路1_10A1に対するデー
タの入力元の指定(切り替え)は、上記のように、受信した接続検知信号
に基づいて自動的に行われるだけでなく、例えば、携帯電話機1のキー操
作部16Aのマニュアル操作によって行うような構成とすることも可能であ
15 る。また、外部ディスプレイ装置5に出力されるビットマップデータが記
述する画像の解像度の指定は、上記のように、受信した外部ディスプレイ
装置5の画面解像度データに基づいて自動的に行われるだけでなく、例え
ば、LCDパネル15A又は外部ディスプレイ装置5の画面に解像度の選択肢
を示す画像を表示し、外部キーボード61又はマウス62によって外部ディス
20 プレイ装置5の画面解像度に適合した解像度を選択する仕方で行うような
構成とすることもできる。あるいは、そのような選択手段は設けず、外部
ディスプレイ装置5に出力されるビットマップデータが記述する画像の解
像度を、例えばVGAサイズに固定することも可能である。」(【013
3】)
25 ⑵ 本件発明の技術的特徴
ア 本件明細書等の上記記載によれば、従来技術における携帯電話機等は、
今後画像表示機能の重要性が増すことになるのに、携帯性が重視されるた
め、大画面のディスプレイを付属させることができず、そのために別途パ
ソコンを用意すると、「不合理な二重投資」と「非効率的な資源利用」が
生じ、従来技術のように大画面の外部ディスプレイを接続しても、携帯電
5 話機等の有するものと同等の表示データ処理手段を二重に備える「不合理
な二重投資」と「非効率的な資源利用」が生ずることになり、他方、これ
を避ける従来技術は、携帯電話等の付属ディスプレイの画面解像度と同じ
解像度の画像を外部ディスプレイに表示するものにすぎず、大画面の外部
ディスプレイには、パソコンの画面で実現されるレイアウトなどを表示さ
10 せることができないという課題があったことが認められる。
イ 本件発明は、前記アの課題を解決するために、構成要件AないしIの構
成を採用し、携帯電話等の付属ディスプレイに画像を表示させるために必
要な表示データ生成手段とは別個に、専用の表示データ生成手段を二重に
備えることなく、携帯電話等に接続される外部ディスプレイに対し、前記
15 付属ディスプレイの画面解像度よりも大きい解像度を有する画像データを
表示させるためのデジタル信号を送信する機能を実現するという作用効果
を奏するものであるということができる。
2 争点1-1(被告製品のモバイルプロセッサが、構成要件Dの「処理」をす
るものに当たるか。)について
20 ⑴ 構成要件Dの「処理」の意義
ア 本件発明の特許請求の範囲によれば、構成要件Dにおいて、「中央演算
回路」は、「無線通信手段から受信したデジタル信号」に対し、リアルタ
イム又は非リアルタイムによる「処理」をし、「デジタル表示信号」を生
成するものであり、「グラフィックコントローラ」は、その「処理結果」
25 に基づき、「VRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出し」
をし、「ディスプレイ制御手段」又は「インターフェース手段」に送信す
るものであることが記載されている。
イ そして、本件明細書等の記載によれば、「デジタル表示信号」とは、
「「ビットマップデータ」等のデジタル画像データに直接対応した信号だ
けでなく、デジタル画像データの生成(描画)を命令する描画命令のデジ
5 タル信号」を含むものであり(【0032】)、「グラフィックコントロ
ーラ」は、「中央演算回路」から送信された「描画命令」から十分な大き
さの「仮想画面におけるビットマップデータを生成し」、VRAMに「書
き込み/読み出し」をすることが記載されている(【0115】)。
ウ 上記の各記載によれば、構成要件Dの「処理」とは、「無線通信手段か
10 ら受信したデジタル信号」から「ビットマップデータ」等のデジタル画像
データに直接対応したデジタル信号又はデジタル画像データの描画命令に
係るデジタル信号を生成し、そのような「処理」の「結果」に基づき、デ
ジタル信号の送信を受けた「グラフィックコントローラ」が、「VRAM
に対してビットマップデータの書き込み/読み出し」を可能とするもので
15 あると解するのが相当である。
⑵ 被告の主張について
ア 被告は、「グラフィックコントローラ」が、構成要件Hにおいて、「本
来解像度」の外部表示信号を送信するための「書き込み/読み出し」をす
るためには、「グラフィックコントローラ」を受信する構成要件Dの「処
20 理」の結果は、画素を間引いたり、補間したりしたものであってはならず、
当該「処理」は、本件明細書等の段落【0032】にいう「適切に処理す
る」という意味に限定される旨主張する。
しかし、構成要件Dの記載によれば、「適切に処理する」という文言は
採用されておらず、かえって、本件明細書等の記載(段落【0124】、
25 【0126】)によれば、外部ディスプレイにも収まらない画素数を有す
る画像を取り扱う場合について、画素を間引いたり、補間したりする処理
をすることが記載されている。しかも、被告の主張を前提とすれば、「適
切に処理する」場合には、グラフィックコントローラは「本来解像度」の
ビットマップデータを読み出すことになるのに、構成要件Hには、「前記
ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビット
5 マップデータ」を読み出すと記載されており、「本来解像度」のビットマ
ップデータを読み出すものとは記載されていない。
そうすると、被告の主張は、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書
等の各記載に整合するものとはいえない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
10 イ 被告は、画素を間引いたり、補間したりしていない「処理」であるから
こそ、本件明細書等の段落【0078】に記載された「高解像度外部ディ
スプレイ手段においては、その本来の解像度のままの全体画像として表示
できるようになる」という本件発明の作用効果が奏されると主張する。
しかし、当該記載は、全ての場合において、本来の解像度の画像を表示
15 すべきことをいうものと理解することはできず、むしろ、本件明細書等の
記載(【0124】、【0126】)には、外部ディスプレイにも収まら
ない画素数を有する画像を取り扱う場合について、画素を間引いたり、補
間したりする処理をすることが記載されていることは、上記において説示
したとおりである。そうすると、本件明細書等の前記作用効果に係る記載
20 も、被告の主張を裏付けるものとはいえない。
のみならず、そもそも被告が指摘する本件明細書等の段落【0032】
の「適切に処理する」に係る記載は、本件発明の「外部表示信号」が、
外部ディスプレイ手段において、画素を間引いたり、補間したりせず、
「適切に処理する」ことで「物理的な画素の色表示として過不足なく現
25 実化」し、画像として表示し得るものであることを説明した部分である。
そうすると、当該記載は、外部ディスプレイ手段において、専用の表示
データ生成手段を備えることを要しないという本件発明の作用効果(前記
1⑵イ)に関わるものであると解するのが相当であり、これが中央演算装
置における「処理」を説明する記載であると認めることはできない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
5 ⑶ 被告製品の充足性
被告製品のモバイルプロセッサ(中央演算装置)が、「無線通信手段から
受信したデジタル信号」からデジタル画像データに直接対応したデジタル信
号又はデジタル画像データの描画命令のデジタル信号を生成し、当該デジタ
ル信号に基づき、被告製品の液晶コントローラIC又はモバイルプロセッサ
10 のGPU機能(グラフィックコントローラ)が、「VRAMに対してビット
マップデータの書き込み/読み込み」をしていることについては、当事者間
において格別争いがなく又は弁論の全趣旨から認めることができる。そうす
ると、被告製品のモバイルプロセッサは、構成要件Dの「処理」をするもの
に該当するというべきである(ただし、被告製品のモバイルプロセッサのG
15 PU機能が、「グラフィックコントローラ」に当たるか否かは、争点1-3
で検討する。)。
3 争点1-2(被告製品の画像データを保持するメモリが、構成要件D及びH
の「単一のVRAM」に当たるか)について
⑴ 本件発明の「単一のVRAM」の意義
20 ア 本件発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明の「単一のVRA
M」とは、「グラフィックコントローラ」が、「中央演算回路」から得た
「処理結果」に基づき、「ビットマップデータの書き込み/読み出し」を
するものであり(構成要件D)、「ディスプレイ制御手段」に送信するデ
ジタル信号を生成する「ビットマップデータ」及び「インターフェース手
25 段」に送信するデジタル信号を生成する「ビットマップデータ」を読み出
すことができるものであると認めることができる(構成要件H)。
イ そして、本件明細書等には、「VRAM」が「単一」であることに係る
直接的な記載はないものの、【図1】によれば、「中央演算回路1」から、
「グラフィックコントローラ1」、「VRAM1」の順に通信がされ、
「グラフィックコントローラ1」が「VRAM1」から読みだしたデータ
5 が、①「LCDドライバ」を経由し、「LCDパネル15A」に至る場合
に加え、②「接続ケーブル」等を経由し、「外部ディスプレイ装置(LC
D)」に至る場合があることが認められる。
ウ 他方、本件明細書等には、本件発明の課題は、「大画面ディスプレイ手
段」(外部ディスプレイ装置(LCD))の「専用の表示データ生成手段」
10 について、「付属ディスプレイ」(LCDパネル15A)に「もともと必
要である表示データ生成手段」とは「別個」に使用せず、「大画面ディス
プレイ手段が接続される周辺装置と間のインターフェース手段の追加」と
「もともと必要である表示データ生成手段」に「若干の機能追加」だけで、
これを実現することにある旨の記載がある(【0031】)。
15 エ 上記認定事実及び本件明細書の記載のほか、「VRAM」は、ディスプ
レイに表示する画像データを一時的に蓄積するためのメモリというハード
ウェアに係る用語である上(甲14)、その他の「VRAM」に関する技
術常識を踏まえると、構成要件D及びHの「単一のVRAM」とは、付属
ディスプレイに係る「ディスプレイ制御手段」(構成要件E)のためのメ
20 モリとは物理的に別個の部品として、外部ディスプレイに係る「インター
フェース手段」(構成要件F)のためのメモリを備えないことをもって、
両者が「単一」であると解するものと認めるのが相当である。
⑵ 被告の主張について
ア これに対し、被告は、本件発明の「単一のVRAM」とは、「グラフィ
25 ックコントローラ」が、「ディスプレイ制御手段」に送信するデジタル信
号を生成する「ビットマップデータ」と「インターフェース手段」に送信
するデジタル信号を生成する「ビットマップデータ」とが、共通のメモリ
領域から「切り出される」ことをいうと主張する。
しかし、上記技術常識等を踏まえると、ディスプレイに表示する画像デ
ータを一時的に蓄積するために用意されたメモリ空間のうち、一定の「ビ
5 ットマップデータ」等が記憶された領域を「VRAM」と称し、そのよう
なメモリ領域ごとに複数の「VRAM」が存在し得るように表現すること
が、「VRAM」という用語の一般的な用法であることを認めるに足りる
証拠はない。実質的にも、被告の主張は、単一の記憶領域の中の複数の部
分領域をそれぞれ独立した記憶領域とみなすものにすぎず、被告の主張を
10 前提としても、物理的に別個の部品といえないことは明らかであり、被告
の主張は、上記判断を左右するに至らない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
イ 被告は、本件明細書等の実施例の記載を根拠に、本件発明は、VRAM
上に大きい「仮想画面」のビットマップデータを書き込み、そのビットマ
15 ップデータから付属ディスプレイ用のビットマップデータや外部ディスプ
レイ用のビットマップデータを「切り出す」ものであるから、その「仮想
画面に係るメモリ領域を「単一」とするものであると主張する。
しかし、本件明細書等の段落【0123】には、外部ディスプレイが接
続された場合、「中央演算回路」は、「LCDパネル15A」(付属ディス
20 プレイ)の「画面水平解像度又は画面解像度に対応した画像の描画命令に
替えて」、「LCDパネル15Aの画面解像度より大きな解像度を有する画
像の描画命令を生成し」、「グラフィックコントローラ」に送信すること
が記載されているにとどまるから、本件発明の前記実施例が、当然に、
「単一」の「仮想画面」に係るビットマップデータを付属ディスプレイ及
25 び外部ディスプレイのために共用するものと認めることはできず、前記実
施例は、被告の主張の理由となるものとはいえない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
⑶ 被告製品の充足性
ア 被告製品が、付属ディスプレイに表示する画像データを保持するVRA
Mとして、液晶コントローラIC内のVRAM又はモバイルプロセッサの
5 外部SDRAMを備え、これらが外部ディスプレイに表示する画像データ
を保持するものであるから、これとは物理的に別個の部品からなるVRA
Mを備えないことは、当事者間に格別争いはない。したがって、被告製品
の「VRAM」は、構成要件D及びHの「単一のVRAM」を備えるとい
うべきである。
10 イ これに対し、被告は、被告製品においては、付属ディスプレイに表示す
る画像データと外部ディスプレイに表示する画像データとで別個のメモリ
領域を使用し、これを共用していないと主張する。しかし、既に説示した
「単一のVRAM」の意義によれば、被告の当該主張は、「単一のVRA
M」の内で別個のメモリ領域を使用しているというにすぎず、物理的に別
15 個の部品とまでいうことはできないから、前記アの充足性に係る判断を左
右するものとはならない。
ウ また、被告は、被告製品2の外部SDRAMは、マルチチップ・パッケ
ージあり、複数の部品から構成されていると主張するが、これは、複数の
SDRAMを樹脂で固め、単一の部品として機能するようにしたものであ
20 るから、物理的に別個の部品ということはできず、また、付属ディスプレ
イのためのVRAMと外部ディスプレイのためのVRAMを物理的に別個
に備えるものでもないから、前記アの充足性に係る判断を左右するものと
はいえない。
4 争点1-3(被告製品2が、構成要件Dの「中央演算回路」及び「グラフィ
25 ックコントローラ」を共に備えているか。)について
⑴ 証拠(甲9、11、12)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2のモバ
イルプロセッサは、「中央演算回路」に相当するCPU回路に加え、これと
区別され、「グラフィックコントローラ」の機能を実現するGPU回路を有
することが認められる。このような場合には、画像データや描画命令は、C
PU回路からGPU回路に渡され、GPU回路は、画像データをVRAMに
5 蓄積し、付属ディスプレイ等に信号を送信する等の役割を果たすことが通常
であって、これを覆すに足りる立証はない。そうすると、被告製品2は、そ
のモバイルプロセッサ内に構成要件Dの「中央演算回路」及び「グラフィッ
クコントローラ」を共に備えていると認めるのが相当である。
⑵ これに対し、被告は、被告製品2は「中央演算回路」と「グラフィックコ
10 ントローラ」とが物理的に分離した部品となっていないから、これらを共に
備えないと主張する。しかし、本件特許発明の範囲の記載において、両者が
物理的に別個の部品であることを特定するような部分はない。そして、本件
明細書等の【図1】には、「中央演算回路」と「グラフィックコントローラ」
とに別個の符号が付されているものの、これは実施例を説明したものにすぎ
15 ず、本件明細書等においても、両者が物理的に別個の部品であることを必須
とするような記載はない。そうすると、両方が1個の部品を構成しているこ
とは、前記⑴の判断を左右するものではない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
5 争点1-4(被告製品2における画像の処理方法が、構成要件Hに規定され
20 るものと一致するか。)について
⑴ 証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2は、無線通信手段か
ら得た画像データを外部SDRAM(VRAM)に1280×720画素の
画像データをとして蓄積し、①これを付属ディスプレイ(1280×720
画素)に表示する場合は、当該画像データ(1280×720画素)に係る
25 信号を付属ディスプレイ側に送信し、②例えば、これを1920×1080
画素の外部ディスプレイに表示する場合は、これを1920×1080画素
に補間処理した画像データに係る信号を外部ディスプレイ側に送信するもの
であると認めることができる(甲6・14頁、別紙2)。
そうすると、被告製品2は、①「前記ディスプレイパネル」(付属ディス
プレイ)の「画面解像度と同じ解像度」(1280×720画素)を有する
5 画像のビットマップデータを「ディスプレイ制御手段」(付属ディスプレイ
側)に送信する機能と、②「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大き
い解像度」(1920×1080画素)を有する画像のビットマップデータ
を「インターフェース手段」(外部ディスプレイ側)に送信する機能を有す
るものであると認めることができる。したがって、被告製品2は、構成要件
10 Hを充足するというべきである。
⑵ これに対し、被告は、本件発明が、構成要件HにおけるVRAMからのビ
ットマップデータの「読み出し」においても、画素を間引いたり、補間した
りするものであってはならないことを前提に、被告製品が、画素を補間する
処理している以上、構成要件Hを充足しないと主張する。
15 しかし、構成要件Hは、「読み出し」に当たり、画素を間引いたり、補間
したりしないことを規定するものではなく、本件発明が、画素を間引いたり、
補間したりする構成を必ずしも排除しないことは、争点1-1において説示
したとおりである。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
20 6 争点2-1(乙1発明による新規性又は進歩性の欠如)について
⑴ 乙1公報の記載事項
ア 乙1公報には、次のとおりの記載があることが認められる。
特許請求の範囲
「内蔵された内部表示装置における表示以外に、外部表示装置を接続
25 して表示させることが可能な携帯情報処理装置において、
前記内部表示装置と、前記内部表示装置よりも高解像度の前記外部表示
装置に表示させる表示データを格納する表示メモリと、
前記内部表示装置による内部表示と、前記外部表示装置による外部表示
とをそれぞれ制御して、前記表示メモリに格納された表示データに応じ
た画面を表示させる表示コントローラと、
5 前記内部表示装置による内部表示の内容を選択的に前記外部表示装置に
表示させる表示制御手段とを具備したことを特徴とする携帯情報処理装
置。」(【請求項1】)
従来の技術
「一般に、携帯情報処理装置は、携帯性を確保するために装置の小型
10 化が要求され、それに伴って出力装置として内蔵した表示デバイスの表
示サイズも小さくなってしまうため、例えば特開平8-115063号
に開示されているように、大きな表示サイズでの表示を可能とするため
に外部表示機器であるCRTを接続可能な機能が設けられている。」
(【0002】)
15 「携帯情報処理装置は、外部表示機器を接続した場合、内蔵した表示
デバイスにおいて表示する描画イメージと同じ描画イメージを外部表示
機器において表示させる。」(【0003】)
発明が解決しようとする課題
「従って、外部表示機器を用いた場合には、画面の物理的な表示サイ
20 ズが大きくなるだけであって、外部表示機器の解像度が内蔵した表示デ
バイスの解像度よりも高く、より多くの情報を表示可能であったとして
も、同じ情報を提供するだけとなっていた。」(【0005】)
「つまり、従来の携帯情報処理装置では、内蔵した表示デバイスの解
像度よりも高解像度の外部表示機器を利用することで生じる、より広い
25 画面表示サイズを有効に利用することができなかった。」(【000
6】)
「本発明は前記のような事情を考慮してなされたもので、外部表示機
器における表示を有効に活用することが可能な携帯情報処理装置及び外
部表示出力の制御方法を提供することを目的とする。」(【0007】)
課題を解決するための手段
5 「本発明は、内蔵された内部表示装置における表示以外に、外部表示
装置を接続して表示させることが可能な携帯情報処理装置において、内
部表示装置における内部表示用の表示データを格納するための領域と、
内部表示装置よりも高解像度の外部表示装置における外部表示用の表示
データを格納するための領域を表示メモリに確保し、内部表示用の表示
10 データを選択的に外部表示用の領域に格納することで、解像度の違いに
よる外部表示装置における表示領域を有効に利用できるようにしてい
る。」(【0008】)
発明の実施の形態
「図1は、本実施形態における携帯機器2を用いたシステムの概略を
15 示す図である。…」(【0010】)
「図2は、図1に示す携帯機器2のシステム構成を示すブロック図で
ある。…」(【0011】)
【図1】 【図2】
「…本実施形態における携帯機器2は、CPU10、システムメモリ
(DRAM)12、ROM14、入力装置16、表示メモリ18、表示
20 コントローラ20、及び内部表示装置22を有して構成されている。ま
た、携帯機器2は、表示コントローラ20を介して、外部表示装置24
(図1中に示す外部表示デバイス4)を接続して表示させることができ
る。」(【0012】)
「CPU10は、システム全体の制御を司るもので、システムメモリ
5 12やROM14に格納されたプログラム、例えば表示制御に関係する
OS(オペレーティングシステム)、表示描画プログラム、デバイスド
ライバ等に従って各種の制御を実行する。」(【0013】)
「システムメモリ12は、プログラムやデータ等の一時使用の記憶領
域として使用される。ROM14は、プログラム等の本体の記憶領域と
10 して使用される。」(【0014】)
「入力装置16は、画面の座標位置等入力するペン(タブレット)や
マウス等のポインティングデバイス、文字等を入力するキーボードなど
により構成される。表示メモリ18は、内部表示装置22及び外部表示
装置24において表示させる表示データの記憶領域として使用される。
15 表示メモリ18の記憶領域の制御については後述する。」(【001
5】)
「表示コントローラ20は、内部表示装置22及び外部表示装置24
における表示を制御するもので、表示メモリ18に格納された表示デー
タに応じて、内部表示装置22と外部表示装置24に対して異なる画面
20 を表示させることができる。」(【0016】)
「内部表示装置22は、携帯機器2に予め内蔵されたLCD等によっ
て構成される表示デバイスであり、携帯機器2の筐体のサイズに応じて
比較的、表示サイズが小さい表示装置である。…」(【0017】)
「外部表示装置24は、携帯機器2にケーブル等(無線等による接続
25 も可能)を介して任意に接続されるCRT等によって構成される表示デ
バイスであり、本実施形態では内部表示装置22よりも表示サイズが大
きく、かつ高解像度であるものが用いられるものとする。」(【001
8】)
「図3は、図1に示す表示コントロー
ラ20の概略構成を示すブロック図であ
5 る。図3に示すように、表示コントロー
ラ20には、メモリコントローラ20
a、レジスタ20b、内部表示用回路2
0c、外部表示用回路20dを含んで構 【図3】
成されている。」(【0019】)
10 「メモリコントローラ20aは、CPUI/F(インタフェース)を
経由して入力されるCPU10からの指示に応じて表示制御を行なうも
ので、表示データのリード/ライトが指示された場合には、この指示に
応じて表示メモリ18に対して表示データをリード/ライトし、またレ
ジスタ20bに設定されたアドレスをもとに表示メモリ18から表示デ
15 ータをリードし、内部表示用回路20cを介して内部表示装置22へ、
また外部表示用回路20dを介して外部表示装置24へ出力する。なお、
メモリコントローラ20aによる表示データの表示メモリ18からのリ
ード、及び出力の処理は一定間隔で繰り返して実行されているので、プ
ログラム(CPU10)が表示メモリ18の表示データ(描画イメージ)
20 を変更すると出力画面にただちに反映される。」(【0020】)
「次に、内部表示装置22及
び外部表示装置24における描
画の動作について説明する。図
6は、内部表示装置22及び外
5 部表示装置24で描画を行なう
ための簡単な流れの仕組みを示
す図である。」(【003
3】) 【図6】
「ここでは、システムは定常状態であり、通常の表示、すなわち内部
10 表示装置22における内部表示が行われているものとし、さらに外部表
示装置24による外部表示を行わせる。」(【0034】)
「まず、外部表示装置24において外部表示させるために、ユーザに
よって外部表示装置24への表示データ(描画イメージ)の出力方法を
指定させる。この出力方法の指定は、例えばアプリケーションプログラ
15 ム35の実行により提供される機能によって、ユーザからの指示を入力
装置16から指定させる。出力方法の指定の内容としては、例えば「内
部表示と同じ描画イメージを表示する」、「内部表示と異なった描画イ
メージを表示する」といった指定があるものとする。」(【0035】)
「アプリケーション35によって出力方法の指定が入力されると、O
20 S38の制御のもとで、内部表示用と外部表示用のそれぞれの描画プロ
グラム(以下、内部表示ドライバ36、外部表示ドライバ37)に従っ
て、表示コントローラ20に対してユーザからの指定の設定、すなわち
内部表示と外部表示に用いる表示データ(描画イメージ)を示すアドレ
スを表示コントローラ20内のレジスタ20bに設定する。」(【00
25 36】)
「一方、アプリケーションプログラム35は、内部表示装置22と外
部表示装置24において描画させるイメージ、すなわち内部表示イメー
ジと外部表示イメージの2種類を、それぞれの表示装置の解像度に合わ
せて、表示メモリ18上にライトする。」(【0037】)
「表示コントローラ20は、アプリケーションプログラム35によっ
5 てライトされた内部表示イメージと外部表示イメージに応じて、内部表
示装置22と外部表示装置24に対して、それぞれに応じた描画イメー
ジを表示させる。」(【0038】)
【図7】
「図7は、前述のようにして内部表示イメージと外部表示イメージが
ライトされる、表示メモリ18の使用方式の一例を示す図である。図7
10 (a)に示す例は、解像度の異なる内部表示装置22(低解像度)と外
部表示装置24(高解像度)に対して、表示メモリ18の表示エリアの
一部を共有させることを示している。」(【0039】)
「次に、前述した基本構成をもとにして実行される、本発明における
第1~第5の特徴的な機能について説明する。
15 (第1機能:外部表示エリアへ表示データをコピーするコピー機能)
コピー機能では、前述した図1~5までの基本構成で、例えば内部表示
デバイス(内部表示装置22)が640×240の解像度、外部表示デ
バイス(外部表示装置24)が640×480の解像度を持ち、内部と
外部でメモリの一部を共有するといった環境の装置(図7(a)参照)
において、外部表示エリアに内部・外部共有表示エリアの表示データを
コピーすることによって、外部表示装置24において参照したい画面を
5 一時的に表示させることができるようにする。」(【0045】)
【図4】 【図8】
「以下、外部表示エリアへ表示データをコピーするコピー機能の処理
の流れについて、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
スタート時点は、図4で説明したシステム定常状態である。ここで、キ
ーボードやペン等の入力装置16の入力を受け付け、指定のキー(コピ
10 ー実行キー)が打鍵されたか否かを判断する。」(【0046】)
「例えばキーボードのキーが打鍵された場合、OSに対して割込みが
発生して、キーボード制御プログラムの制御によって、打鍵されたキー
を読込む。この読込まれたキーがコピー実行キーであるか否か、すなわ
ち内部表示装置22に表示されているイメージを外部表示装置24に待
15 避させる指示が入力されたかを判断する(ステップB1)。コピー実行
キーで無い場合は、キー入力待ちになる。」(【0047】)
「一方、コピー実行キーであればコピ
ー実行プログラムを起動する。コピー実
行プログラムは、表示コントローラ20
を通じて、レジスタ20bに設定された
5 アドレスをもとに、図9に示すようにし
て、表示メモリ18の内部・外部共有表 【図9】
示エリアをリードして、外部表示エリアへライト(コピー)する(ステ
ップB2)。」(【0048】)
「以下、表示ルーチンを実行することで、外部表示装置24には、外
10 部表示エリアにコピーされた表示データ、すなわちコピー実行キーが打
鍵されたときに内部表示装置22に表示されていた画面が、例えば画面
の下半分の領域において表示される(図7(a)参照)(ステップB
3)。」(【0049】)
「このようにして、任意のタイミングでコピー実行キーを打鍵するこ
15 とで、内部表示装置22に表示されていた画面を外部表示装置24にお
いて表示させることができるので、外部表示装置24において表示され
た画面を参照しながら、内部表示装置22の表示画面を用いて処理を実
行することができる。」(【0050】)
「…(第4機能:表示メモリ18のイメージ描画用に使用する領域を
20 動的に確保する方法)内部表示装置22と外部表示装置24の両方にお
いて異なる画面を表示する際に、内部表示用と外部表示用の両方の表示
データを格納するための領域を表示メモリ18に確保する必要があるが、
外部表示を行わない場合には、表示メモリ18の描画に利用されていな
い領域をプログラムの一時使用領域として使用することで、表示メモリ
25 18を有効に活用できるようにする。…」(【0071】)
「(2)外部表示がOFF→ONに変更された場合。
まず、表示描画プログラムは、内部表示エリアと内部表示用ワークエリ
アに記憶されていたデータを一時的にシステムメモリ12へ待避させ、
その後、表示メモリ18の内部表示エリアと内部表示用ワークエリアを
解放する(ステップE11)。」(【0080】)
5 「次に、表示描画プログラムは、新たに表示メモリ18において、内
部表示用の領域(内部表示エリアと内部表示用ワークエリア)を、外部
表示がある場合のサイズで確保し(ステップE12)、また外部表示用
の領域(外部表示エリアと外部表示用ワークエリア)を確保する(ステ
ップE13)(図15(a))。」(【0081】)
【図15】
10 「表示描画プログラムは、システムメモリ12に待避させていた内部
表示用のデータを、表示メモリ18に確保した領域、すなわち内部表示
エリアと内部表示用ワークエリアのそれぞれに書き戻す(ステップE1
4)。なお、コピー先の開始アドレスは、元と同じアドレスとする。」
(【0082】)
15 「表示描画プログラムは、外部表示用の領域に関する情報(例えば開
始アドレス、メモリサイズなど)をシステムメモリ12へ記憶すること
でOSへ渡す。また、表示コントローラ20に表示を開始するアドレス
を設定して表示を行う(ステップE15)。なお、表示内容に関しては、
内部表示及び外部表示の何れについても上位のアプリケーションによっ
て指定される。」(【0083】)
「なお、上述した実施形態において記載した手法は、コンピュータに
実行させることのできるプログラムとして、例えば磁気ディスク(フロ
5 ッピーディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、D
VD等)、半導体メモリなどの記録媒体に書き込んで各種装置に提供す
ることができる。また、通信媒体により伝送して各種装置に提供するこ
とも可能である。本装置を実現するコンピュータは、記録媒体に記録さ
れたプログラムを読み込み、または通信媒体を介してプログラムを受信
10 し、このプログラムによって動作が制御されることにより、上述した処
理を実行する。」(【0103】)
発明の効果
「以上詳述したように本発明によれば、内部表示装置における内部表
示用の表示データを格納するための領域と、内部表示装置よりも高解像
15 度の外部表示装置における外部表示用の表示データを格納するための領
域を表示メモリに確保し、内部表示用の表示データを選択的に外部表示
用の領域に格納することで、解像度の違いによる外部表示装置における
表示領域を有効に利用することが可能となる。」(【0104】)
イ 上記の記載によれば、乙1発明は、CPU10、システムメモリ12R
20 OM14、入力装置16、表示メモリ18、表示コントローラ20及び内
部表示装置22を有し、表示コントローラ20を介し、外部表示装置24
を接続して表示させることができる携帯機器2であって、表示コントロー
ラ20は、内部表示装置22及び外部表示装置24における表示をCPU
10からの指示に応じて表示制御し、表示メモリ18は、内部表示装置2
25 2及び外部表示装置24に係る表示データの記憶領域として使用され、内
部表示用の表示データは、表示コントローラ20を通じ、選択的に外部表
示用の表示データの記憶領域に格納され、表示コントローラ20は、表示
データのリード/ライトが指示された場合には、この指示に応じて表示メ
モリ18に対して表示データをリード/ライトし、表示メモリ18からリ
ードされた表示データは、内部表示用回路20cを介して内部表示装置2
5 2に、外部表示用回路20dを介して外部表示装置24に出力され、もっ
て、携帯機器2において、高解像度の外部表示装置における表示領域を有
効活用することを可能にするものであることが認められる。
⑵ 本件訂正請求の検討
被告は、本件発明について、乙1発明による新規性及び進歩性欠如の無効
10 理由があると主張するのに対し、原告は、本件訂正請求による訂正の再抗弁
を主張している。そして、本件訂正請求については、これを認める審決(甲
28)がされている経緯に鑑み、以下、訂正の再抗弁から検討する。
ア 本件訂正請求の適法性
被告は、本件訂正発明の構成要件G’が、無線通信を送受信する手段
15 である「無線通信手段」によって、「高解像度画像受信」という機能を
実現することを規定しているのに対し、当初明細書等には、「高解像度
画像受信」の機能について、無線通信を受信する手段にすぎない「テレ
ビ受信用アンテナ112A」と「テレビチューナ112B」を利用し、「テレビ
放送信号」を受信する場合の例しか記載されていないと主張する。
20 しかし、本件発明の当初明細書等(その発明の詳細な説明及び図面の
記載は本件明細書等と異ならないものと認められる。以下同じ。)の段
落【0118】に記載された「テレビ受信用アンテナ112A」、「テレビ
チューナ112B」及び「AD/DA変換部1_112C」は、無線信号を受信
し、これを処理するのであるから、それ自体、「無線通信手段」である
25 と認められるものである。他方、段落【0117】には、インターネッ
ト通信に利用される「通信用アンテナ111A」、「RF送受信部111B」及
び「ベースバンドプロセッサ11」の例が記載されているが、これは無線
信号を送受信する「無線通信手段」である。そして、【図1】には、
「テレビ受信用アンテナ112A」、「テレビチューナ112B」及び「AD/
DA変換部1_112C」と「通信用アンテナ111A」、「RF送受信部111B」
5 及び「ベースバンドプロセッサ11」とを備えた実施例の記載があること
からすれば、当該実施例においては、これらが「無線通信手段」を構成
するものと認めることができる。そうすると、本件発明の当初明細書等
には、「無線通信手段」であって、構成要件Bに特定される送信及び受
信の機能を有し、かつ、構成要件G’の「高解像度画像受信」機能を実
10 現する構成が記載されているということができる。
また、本件明細書等の段落【0056】においては、「前記無線通信
手段は、アナログテレビ放送信号、デジタルテレビ放送信号、携帯テレ
ビ電話信号、インターネットプロトコルに準拠した無線ストリーミング
信号のうちの少なくとも1つの無線信号」を受信する発明が記載されて
15 おり、【図1】と同様に、インターネットプロトコルによる無線通信と
テレビ放送信号に係る無線通信とを併用することが想定されているのみ
ならず、「テレビ放送信号」と並列のものとして、「インターネットプ
ロトコルに準拠した無線ストリーミング信号」も記載されているのであ
るから、本件発明の当初明細書等が「高解像度画像受信」について、
20 「テレビ受信用アンテナ112A」と「テレビチューナ112B」を利用し、高
解像度の「テレビ放送信号」を受信する場合の例しか記載されていない
ということはできない。
したがって、被告の主張は、前提を欠くものであり、採用することが
できない。
25 また、被告は、構成要件G’の「高解像度画像受信」は、「前記ディ
スプレイ手段」(付属ディスプレイ)に「本来解像度が前記ディスプレ
イパネルの画面解像度より大きい画像データ」を表示する場合を含むと
解されるのに対し、当初明細書等には、「LCDパネル15A」(付属デ
ィスプレイ)に、「解像度の低い画像の全体画像」(【0018】)を
表示させることしか記載されていないと主張する。
5 しかし、本件訂正発明の特許請求の範囲に相当する記載によれば、構
成要件G’の「高解像度画像受信」の機能は、構成要件H’で具体化さ
れていると理解すべきである。そして、構成要件H’は、「前記ディス
プレイ手段」に「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度よ
り大きい画像データ」を表示させる場合、「前記ディスプレイパネルの
10 画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出
すと特定するのであるから、構成要件G’に規定された「高解像度画像
受信」は、当初明細書等の前記記載の範囲内の訂正に当たるというべき
である。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
15 そうすると、被告の主張を考慮しても、本件訂正請求は、特許請求の
範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するも
のには該当せず、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」
に記載した事項の範囲内の訂正であり、適法な訂正請求に当たると認め
るのが相当である。
20 イ 本件訂正発明の充足性
被告は、構成要件G’の「高解像度画像受信機能」が、「テレビ放送
を視聴している場合」に限られることを前提に、被告製品が、高解像度
のテレビ放送を視聴するための手段を有しない以上、構成要件G’の
「高解像度画像受信機能」を備えないと主張する。
25 しかし、構成要件G’の「高解像度画像受信機能」が、「テレビ受信
用アンテナ112A」や「テレビチューナ112B」を利用したものに限られな
いことは、前記ア に説示したとおりである。そして、本件発明の当初
明細書等の段落【0018】は、付属ディスプレイの解像度を超える画
像を受信する場合の説明として、テレビ放送を視聴する例を挙げている
と理解される一方、段落【0017】には、インターネットのウェブサ
5 イトの固定幅レイアウトが、付属ディスプレイの解像度を超える場合の
記載があり、段落【0126】には、これらを外部ディスプレイに表示
する場合の記載があるのであるから、当初明細書等との関係を踏まえて
も、構成要件G’の「高解像度画像受信機能」は、インターネット通信
等の「無線通信手段」で取得した画像データを対象とする場合を含むも
10 のと解釈するのが相当である。
そうすると、被告製品が、このような機能を実現するための無線通信
手段を有していることは明らかである以上、構成要件G’の「高解像度
画像受信機能」を備えるというべきである。
そして、本件訂正発明のその余の構成要件は、前記 に関わる部分の
15 ほか、本件発明と実質的に同一であるか又はその充足性に格別争いのな
いものであるから、被告製品は、本件訂正発明を充足するものと認めら
れる。
⑶ 本件訂正発明と乙1発明の相違点
ア 本件訂正発明と乙1発明とは、少なくとも、以下の相違点①ないし④で
20 相違する。
(相違点①)
本件訂正発明は、「無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、後記
中央演算回路に送信するとともに、後記中央演算回路から受信したデジタ
ル信号を無線信号に変換して送信する無線通信手段」(構成要件B)を備
25 えているのに対し、乙1発明には「無線通信手段」について特定されてい
ない点(被告の主張する相違点1)
(相違点②)
本件訂正発明は「携帯情報通信装置」(構成要件K)についての発明で
あり、「無線通信手段」から「デジタル信号」を受信しているが(構成要
件D)、乙1発明は「携帯機器」であって、「情報通信」を行う点が特定
5 されず、CPU10」が、どこから「表示データ」を受信するかについて
が特定されていない点(被告の主張する相違点2及び3)
(相違点③)
本件訂正発明の「インターフェース手段」は、「ビットマップデータを
伝達する外部表示信号」を「デジタルRGB、TMDS、LVDS(又は
10 LDI)及びGVIFのうちのいずれかの伝送方式」(構成要件I)に変
換するが、乙1発明では、「伝送方式」について特定されていない点(被
告の主張する相違点6)
(相違点④)
本件訂正発明は、「高解像度画像受信・処理・表示機能」を実現する場
15 合に、「無線通信手段」が、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画
面解像度より大きい画像データ」無線信号を受信してデジタル信号に変換
し、「中央演算回路」が、当該画像データを処理し、「グラフィックコン
トローラ」が、単一のVRAMから「ディスプレイパネルの画面解像度と
同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、デジタル表
20 示信号を「ディスプレイ制御手段」に送信し、また、前記単一のVRAM
から「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像の
ビットマップデータ」を読み出し、デジタル表示信号を「インターフェー
ス手段」に送信するのに対し、乙1発明は、CPU10が、画像データを
処理することが特定されておらず、また、「高解像度画像受信・処理・表
25 示機能」に係る機能が特定されていない点(被告の主張する相違点4及び
5並びに原告の主張する相違点5’、13、G1及びH1)
イ 本件事案に鑑み、まず相違点④を検討するに、被告は、本件発明の優先
日当時において、ブラウザなど画像を表示させるアプリケーションが広く
知られていたことからすると(周知技術)、当業者が、乙1発明における
内部表示装置と外部表示装置の表示内容に関する指定する「上位のアプリ
5 ケーション」にブラウザを採用し、インターネットに無線接続し、Web
サーバから付属ディスプレイパネルの解像度より大きい解像度の画像をダ
ウンロードし、これを表示させることは、容易に想到し得たと主張する。
しかし、乙1発明は、内部表示装置よりも高解像度の外部表示装置にお
ける表示領域を有効活用するため(【0006】、【0007】)、内部
10 表示用の表示データを「選択的」に外部表示用の表示メモリの領域に格納
するというものにとどまり(【0104】)、内部表示装置に内部表示装
置の「画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を表
示し、外部表示装置に内部表示装置の「画面解像度より大きい解像度を有
する画像のビットマップデータ」を表示することを特定するものではなく、
15 内部表示装置で表示した内容について、外部表示装置でより高解像度で表
示することを開示するものではない。
実際、乙1公報には、内部表示装置が640×240画素の解像度を有
し、外部表示装置が640×480画素の解像度を有する場合において
(【0045】)、「コピー実行キー」が打鍵されたときは(【004
20 7】)、外部表示装置の下半分に、内部表示装置の表示内容を表示させる
という実施例が記載されており(【0048】)、本件訂正発明のような
「高解像度画像」を受信し、これを内部表示装置と外部表示装置に異なる
解像度で表示するような機能は開示されていない。
そうすると、乙1発明において、内部表示装置及び外部表示装置の表示
25 内容を指示する「上位のアプリケーション」として、インターネット・ブ
ラウザを採用し、Webサーバからダウンロードした画像を取り扱わせる
ことが周知技術であったとしても、当業者が、乙1発明及び当該周知技術
に基づき、相違点④を容易に想到し得たといえない。
したがって、その余の点を検討するまでもなく、乙1発明に基づき、本
件訂正発明に進歩性が欠如するとはいえず、そうである以上、新規性が欠
5 如するということもできない。
⑷ 小括
以上によれば、乙5発明に基づく進歩性欠如を理由とする無効理由につい
ては、少なくとも、本件訂正請求に基づく原告の訂正の再抗弁を採用するこ
とができるから、被告の無効の抗弁は理由がない。
10 7 争点2-2(乙5発明による進歩性の欠如)について
⑴ 乙5公報の記載事項
ア 乙5公報には、次のとおりの記載があることが認められる。
発明の属する技術分野
「本発明は、携帯電話機(通信機能搭載のパームトップPCやPDA
15 [PersonalDigital/Data Assistant]などの携帯電子機器を含む)に関
するものである。」(【0001】)
従来の技術
「従来より、携帯電話機の多くは、各種情報(静止画や動画、文字な
ど)を表示する手段として、数インチの表示部(液晶ディスプレイなど)
20 を有して成る。」(【0002】)
発明が解決しようとする課題
「しかしながら、上記構成から成る携帯電話機では、本体の携帯性を
考慮して表示部の設置面積を大きくとれないため、表示内容の視認性や
臨場感が乏しい上、ユーザの視力低下を招くおそれがあった。また、携
25 帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツについては、正
常に表示することすらできなかった。」(【0005】)
「本発明は、上記の問題点に鑑み、本体の携帯性を損なうことなく、
表示内容の視認性や臨場感を向上させることが可能な携帯電話機の提供
を第1の目的と…とする。」(【0007】)
課題を解決するための手段
5 「上記目的を達成するために、本発明に係る携帯電話機は、入力され
た情報を外部表示装置で読取可能な画像信号形式に変換して出力する画
像出力部を有して成り、前記外部表示装置への情報出力を行う構成とし
ている。このような構成とすることにより、本体の携帯性を損なうこと
なく、表示内容の視認性や臨場感を向上させることが可能となる。」
10 (【0008】)
「また、上記構成から成る携帯電話機において、前記外部表示装置に
出力される情報は、サーバから取得されたWebコンテンツ情報とすれ
ばよい。このような構成とすることにより、外部表示装置には、閲覧中
のWebコンテンツ情報が表示されることになるので、携帯電話機本体
15 の携帯性を損なうことなく、表示内容の視認性を向上させることが可能
となる上、携帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツに
ついても、正常に表示することが可能となる。また、ユーザは、外部表
示装置を通してWebコンテンツ情報を閲覧しながら、携帯電話機本体
で良好な音声通話を行うことが可能となる。」(【0012】)
発明の実施の形態
「図1は本発明に係る携帯電話機
の要部構成を示すブロック図であ
る。本図に示すように、本発明に係
5 る携帯電話機1は、制御部10と、
送受信部11と、表示部12と、音
声部13と、操作部14と、撮像部
15と、記憶部16と、画像出力部
17と、を有して成る。」(【00 【図1】
10 15】)
「制御部10は、CPU[Central Processing Unit]等から成り、
上記各部11~17を含む装置全体の動作を制御する。送受信部11は、
送信回路と受信回路を有して成り、アンテナ11aを介して電波を送受
信することで、基地局(不図示)との双方向通信を行う。なお、アンテ
15 ナ11aとしては、携帯性や格納性に優れたロッドアンテナを用いると
よい。表示部12は、液晶ディスプレイ等から成る情報表示手段である。
音声部13は、マイク13aやスピーカ13bを制御する音声入出力手
段である。操作部14は、ダイヤルキーやブラウザ操作キー等を備えた
入力デバイスである。撮像部15は、CCDカメラやCMOSカメラか
20 ら成る画像撮影手段である。記憶部16は、ROMやRAMから成る情
報格納手段である。本発明の特徴部分である画像出力部17は、入力さ
れた情報(静止画や動画、文字など)を外部表示装置2で読取可能な画
像信号形式(例えば、ビデオ信号形式)に変換して出力するインターフ
ェイス部である。」(【0016】)
25 「次に、上記構成から成る携帯電話機1の特徴動作(外部表示装置2
への画像出力動作)について、具体例を挙げながら詳細に説明する。」
(【0017】)
「第1の具体例は、記憶部16の格納情報(アドレス帳や電子メール
の内容等)を外部表示装置2に出力する場合である。この場合、制御部
10は、記憶部16から所望の情報を読み出して画像出力部17に送出
5 し、該情報を外部出力するように要求する。該要求を受けた画像出力部
17は、制御部10からの入力情報に所定の信号処理を施して外部表示
装置2に出力する。このような動作により、外部表示装置2には、携帯
電話機1の記憶部16から読み出された情報が表示されることになる。
従って、外部表示装置2として表示部12より大型のモニタ装置を用い
10 れば、携帯電話機1本体の携帯性を損なうことなく、表示内容の視認性
を向上させることが可能となる。」(【0018】)
「第3の具体例は、閲覧中のWebコンテンツ情報を外部表示装置2
に出力する場合である。この場合、制御部10は、送受信部11を介し
て指定サーバから所望のWebコンテンツ情報を取得して画像出力部1
15 7に送出し、該情報を外部出力するように要求する。該要求を受けた画
像出力部17は、制御部10からの入力情報に所定の信号処理を施して
外部表示装置2に出力する。このような動作により、外部表示装置2に
は、閲覧中のWebコンテンツ情報が表示されることになる。従って、
外部表示装置2として表示部12より大型のモニタ装置を用いれば、携
20 帯電話機1本体の携帯性を損なうことなく、表示内容の視認性を向上さ
せることが可能となる。また、携帯電話機での閲覧が意図されていない
Webコンテンツについても、表示部12のサイズや解像度に依存する
ことなく正常に表示することが可能となる。」(【0020】)
イ 上記の記載によれば、乙5発明は、制御部10、送受信部11、表示部
25 12、操作部14、記憶部16、画像出力部17などから構成され、その
うち、制御部10は、CPUなどを含み、装置全体の動作を制御し、送受
信部11は、送信回路と受信回路を有し、アンテナ11aを介して電波を
送受信することで、基地局との双方向通信を行い、表示部12は、液晶デ
ィスプレイ等から成る情報表示手段であり、操作部14は、入力デバイス
であり、記憶部16は、ROMやRAMから成る情報格納手段であり、画
5 像出力部17は、入力された静止画や動画、文字などを外部表示装置2で
読取可能な画像信号形式に変換して出力するインターフェース部である携
帯電話機1であって、制御部10が、送受信部11を介して指定サーバか
ら所望のWebコンテンツ情報を取得して画像出力部17に送出し、画像
出力部17が、制御部10からの入力情報に所定の信号処理を施して外部
10 表示装置2に出力することにより、表示部12より大型のモニタ装置であ
る外部表示装置2において、閲覧中のWebコンテンツ情報が表示され、
携帯電話機での閲覧が意図されていないWebコンテンツを表示部12の
サイズや解像度に依存することなく正常に表示することを可能とするもの
であるということができる。
15 ⑵ 乙6公報の記載事項
ア 乙6公報には、次のとおりの記載があることが認められる(ただし、明
らかな誤記は訂正している。)。
発明の属する技術分野
「本発明は、パーソナル・コンピュータを始めとする各種情報処理装
20 置に用いられる表示装置(例えば液晶表示ディスプレイ、CRTディス
プレイ)の画面表示を制御するための画面表示制御方法及び装置に係り、
特に、解像度が異なる複数の表示装置間で表示信号の出力先を切り換え
たときに画面表示を好適に制御するための画面表示制御方法及び装置に
関する。更に詳しくは、本発明は、いかなる解像度の表示装置に対して
25 も情報処理装置が好適に画面表示を行うための画面表示制御方法及び装
置に関する。」(【0001】
発明が解決しようとする課題
「最近のPCは、1つの表示装置を標準装備する以外に、他の複数の
タイプの表示装置も増設できるようになっている。現在市販されている
ノートブック型PCの中には、LCDを標準装備しつつ、CRTディス
5 プレイを増設するための出力端子も備え、適宜出力先を切り換えられる
ようになっているものもある…」(【0005】)
「PCが表示信号の出力先を切り換えるときの問題点の1つは、表示
装置間での解像度の相違である。…」(【0006】)
「表示画面の解像度の制御は、一般には、「ビデオ・アダプタ」と呼
10 ばれる周辺装置が、システム起動前に予め定められている設定内容に基
づいて行うようになっている。…もし、ユーザが、LCDからCRTデ
ィスプレイへ、あるいはCRTディスプレイからLCDへと、表示出力
先を切り換えるに伴って解像度まで変更したい場合には、一旦ユーティ
リティ・プログラムを起動してCMOS RAM内の情報を書き換えた
15 後、システムをリブートさせなければならない。すなわち手間のかかる
作業であった。」(【0007】)
「解像度が所与の設定値に固定されたまま、出力先だけを動的に切り
換えると、以下のような問題が発生していた。
(1)高解像度の表示装置から低解像度の表示装置に切り換えるとき:
20 LCD、CRTディスプレイそれぞれの表示を制御するLCD表示制御
回路及びCRT表示制御回路は、表示タイミングをとるための同期信号
を発生するようになっている。ここで、出力先がCRTディスプレイで、
且つ解像度を1024×768という高レベルに設定してあるときに、
出力先を比較的低解像度(800×600)のLCDに切り換えようと
25 しても、LCD表示制御回路は解像度のギャップを相殺するようにタイ
ミングをとることはできない。LCDはデジタル表示なので、LCD表
示制御回路は、画面バッファ中に書き込まれたデジタル画像情報に対応
したデジタル表示信号をそのままLCDに送り出すしかないからである。
LCD表示制御回路の他に専用のハードウェアを付加しない限りは、デ
ジタル形式の画像情報から走査線を間引いたり画素データを補間したり
5 といった操作を行うことはできない。すなわち、デジタル画像の解像度
をソフトウェア的に操作することはできないのである。もしLCDの物
理的な表示能力を越えた高解像度のまま表示信号を出力したならば、最
悪の場合、ハードウェアを破壊しかねない。…要するに、高解像度の表
示装置から低解像度の表示装置に動的に遷移させることはできないので
10 ある。
(2)低解像度の表示装置から高解像度の表示装置に切り換えるとき:
LCDからCRTディスプレイに出力先を切り換えること自体は可能で
ある。なぜなら、CRTディスプレイはアナログ表示形式なので画素デ
ータの補間は比較的容易であり、また、CRT表示制御回路が表示タイ
15 ミングを調整することによって、画面上に最高解像度を下回る解像度の
画面内容を拡大表示させればよいだけだからである。ただし、CRTデ
ィスプレイ上の表示画面は、所与の低解像度のままのものが画面いっぱ
いに拡大されているに過ぎず、解像度を動的に変更することはできない。
なぜなら、前述したように、ビデオ・アダプタに設定された最高解像度
20 は、CMOS RAMの内容を書き換え且つ再起動させない限りは、固
定されたままだからである。すなわち、表示画面が低解像度から高解像
度に動的に遷移することはないのである。…」(【0008】)
「本発明は、このような技術的課題に着眼したものであり、その目的
は、パーソナル・コンピュータなどの情報処理装置に用いられる表示装
25 置(例えば液晶表示ディスプレイ、CRTディスプレイ)の画面表示を
制御するための、優れた画面表示制御方法及び装置を提供することにあ
る。」(【0009】)
「また、本発明の更なる目的は、解像度が異なる複数の表示装置間で
表示信号の出力先を切り換えたときに画面表示を好適に制御することが
できる画面表示制御方法及び装置を提供することにある。」(【001
5 0】)
「また、本発明の更なる目的は、いかなる解像度の表示装置に対して
も情報処理装置が好適に画面表示を行うことができる画面表示制御方法
及び装置を提供することにある。」(【0011】)
「また、本発明の更なる目的は、表示画面の解像度を動的に切り換え
10 ることが可能な画面表示制御方法及び装置を提供することにある。」
(【0012】)
発明の実施の形態
「A.パーソナル・コンピュ
ータ(PC)100のハードウ
15 ェア構成
図1は、本発明の実施に供さ
れるPC(以下、「システム」
ともいう)100のハードウェ
ア構成を概略的に示したブロッ
20 ク図である。以下、各部につい
て簡単に説明する。」(【00 【図1】
27】)
「図1において、メイン・コントローラであるCPU10は、オペレ
ーティング・システム(OS)の制御下で、各種プログラムを実行する
25 ようになっている。CPU10は、画面表示のためのコンピュータ信号
も出力する。また、CPU10は、データ信号線、アドレス信号線、コ
ントロール信号線などを含む共通信号線路(「バス」ともいう)11に
よって他の周辺機器類と連絡している。…」(【0028】)
「ROM13は、製造時に書き込みデータが決められてしまう不揮発
性メモリであり、所定のコードを恒久的に格納するために用いられる。
5 ROM13に格納されるコードには、例えば、始動時のテスト・プログ
ラム(POST:Power On Self Test)や、各ハードウェア(後述のビ
デオ・アダプタ20を含む)を操作するための基本動作命令を集めたプ
ログラム(BIOS:Basic Input/Output System)などが含まれる。」
(【0030】)
10 「ビデオ・アダプタ20は、コンピュータ信号をビデオ信号に変換し
て表示装置(例えばLCD52、あるいはTVモニタ51やCRTモニ
タ53など)に出力するための周辺機器である。より具体的には、ビデ
オ・アダプタ20は、CPU10から受け取った描画命令を処理してフ
レーム・バッファ(VRAM)40に一旦書き込むとともに、表示装置
15 の走査タイミングに同期させてフレーム・バッファ40中から画像情報
を順次読み出して、ビデオ信号に変換して表示装置(例えば標準装備さ
れたLCD52)に供給するようになっている。また、ビデオ・アダプ
タ20は、画面の解像度や発色数、表示速度などをコントロールするよ
うにもなっている。」(【0034】)
20 「フレーム・バッファ40は、WindowsやOS/2、あるいは
DOSなどの起動中のソフトウェアが表示する画面を一時書き込むため
の記憶媒体である。フレーム・バッファ40は、各ドットの持つデータ
数に応じた枚数(R、G、B、…)だけプレーン数で構成され、1プレ
ーンのドット・サイズは、ビデオ・アダプタ20が許容する最高解像度
25 に応じた充分な大きさであり、例えば最高解像度のCRTディスプレイ
53に対応した1280×1024ドット・サイズである。実際にフレ
ーム・バッファ40に書き込まれる画面サイズは、起動中のソフトウェ
アにも依存し、例えばWindowsやOS/2が表示可能な最高解像
度(すなわちウィンドウ画面)は1024×768である。フレーム・
バッファ40中に書き込まれたソフトウェア画面は、表示装置51、5
5 2、53(後述)上の現実に映し出された画面ではないことから、「仮
想スクリーン」とも呼ばれる。」(【0035】)
「TVモニタ51、LCD52、及びCRTディスプレイ53は、シ
ステム100に装着可能な、あるいは標準装備された表示装置である。
一般には、ノートブック型PCはLCDを、デスクトップ型PCはCR
10 Tディスプレイを、それぞれ標準装備しているが、いずれを装備するか
ということ自体は設計的事項に過ぎない。TVモニタ51やLCD52
は、時としてフレーム・バッファ40の仮想スクリーンよりも解像度が
低いこともあるが、このような場合にはビデオ・アダプタ20が仮想ス
クリーンから適切なサイズだけを切り出して表示するようになっている。
15 表示装置51、52、53上に現実に映し出された画面は、「実スク
リーン」とも呼ばれる。」(【00
36】)
「B.ビデオ・アダプタ20のハ
ードウェア構成
20 図2は、PC100のハードウェア
構成要素のうち、ビデオ・アダプタ
20、及びその周辺をさらに詳しく
示したブロック図である。同図にお
いて、ビデオ・アダプタ20は、イ
25 ンターフェース部21と、フレー 【図2】
ム・バッファ制御部22と、LCD表示制御部23と、内部RAMDA
C24と、CRT表示制御部25とを含んでいる。また、ビデオ・アダ
プタ20は、TVモニタ51、LCD52、CRTディスプレイ53の
各々にビデオ信号を出力するための出力端子を有している。」(【00
38】)
5 「インターフェース部21は、CPU10との間でデータ交換を可能
にするためのものであり、バス11と電気的に接続している。CPU1
1からのコマンドやデータの授受はインターフェース部21を介して行
われる。CPU10(より具体的にはビデオ・アダプタ20をハードウ
ェア操作するBIOS)は、インターフェース部21内のレジスタ(図
10 示しない)にアクセスすることによって、画面の解像度や発色数、表示
速度などを設定できるようになっている。」(【0039】)
「フレーム・バッファ制御部22は、フレーム・バッファ40へのア
クセス(リード及びライト)を制御するためのものである。より具体的
には、フレーム・バッファ制御部22は、仮想スクリーンをフレーム・
15 バッファ40に書き込むとともに、仮想スクリーンから実スクリーンを
切り出すようになっている。」(【0040】)
「LCD表示制御部23は、フレーム・バッファ40から読み出され
た画像情報を並列-直列変換して直列のビデオ信号を発生し、表示タイ
ミングをとりながらLCD52に供給するためのものである。本実施例
20 のLCD表示制御部23は、設定された解像度に従って、1画面のサイ
ズが640×400、640×480、800×600、1024×7
68のいずれかとなるタイミングで駆動する。」(【0041】)
「LCD表示制御部23が出力するビデオ信号は、TVモニタ51や
LCD52に供給される。TVモニタ51は、NTSC/PAL方式で
25 ありPC100とはデータ・フォーマットが異なるため、TVエンコー
ダ27によって復号化したビデオ信号が供給されるようになっている。
本実施例のTVモニタ51は、最高で640×4080ドット・サイズ
の画面を表示することができる(但しNTSC方式の場合。PAL方式
なら800×600)。また、LCD52の最大表示画面サイズは、6
40×480ドット、800×600ドット、1024×768ドット
5 のいずれかである。」(【0042】)
「内部RAMDAC24は、フレーム・バッファ40から読み出され
たデジタル形式のままの画像情報をアナログ形式のビデオ信号に変換し
てから、CRTディスプレイ53に供給するようになっている。RAM
DAC24は、カラー・パレットを持ち、これに基づいてアナログ信号
10 に高速変換することが可能である。」(【0043】)
「CRT表示制御部25は、表示タイミングをとるための駆動制御信
号(例えば水平同期信号hsyncや垂直同期信号vsync)をCR
Tディスプレイ53に供給するためのものである。本実施例のCRT表
示制御部25は、設定された解像度に従って、1画面のサイズが102
15 4×768、又は1280×1024のいずれかとなるタイミングで駆
動する。」(【0044】)
「内部RAMDAC24及びCRT表示制御部25が出力するビデオ
信号及び駆動制御信号は、CRTディスプレイ53に供給される。本実
施例のCRTディスプレイ53の最高解像度は、1024×768、又
20 は1280×1024のいずれかである。」(【0045】)
「表示画面の解像度の制御は、ビデオ・アダプタ20が所与の設定値
に基づいて行う(前述)。システム起動時には、ビデオ・アダプタ20
の解像度(すなわちLCD表示制御部23やCRT表示制御部25が駆
動する解像度)は、CMOSRAM55の書き込みデータに従って設定
25 される。そして、LCD表示制御部23やCRT表示制御部25は、設
定された解像度に応じて各表示装置51、52、53を駆動制御するよ
うになっている。本実施例では、D項で後述するように、BIOSの中
に特別なインターフェースが用意されており、該インターフェースによ
ってビデオ・アダプタ20に設定された解像度を動的に切り換えること
ができるようになっている。」(【0046】)
5 イ 上記の記載によれば、乙6発明は、CPU10と、VRAM40(フレ
ームバッファ40)に接続され、フレーム・バッファ制御部22、LCD
表示制御部23、内部RAMDAC24及びCRT表示制御部25などか
ら構成され、LCD52及びLCD52より高解像度のCRTモニタ53
にビデオ信号を出力することができるビデオ・アダプタ20を少なくとも
10 備えるパーソナル・コンピュータであり、ビデオ・アダプタ20に設定さ
れた解像度は、BIOS中の特別なインターフェースによって、動的に切
り換えられるが、ビデオ・アダプタ20は、フレーム・バッファ40に書
き込まれた仮想スクリーンから適切なサイズだけを切り出して表示するこ
とにされているものであるということができる。
15 ⑶ 本件訂正発明と乙5発明の相違点
ア 本件訂正請求が適法であり、被告製品が本件訂正発明を充足することは
争点2-1に説示したとおりであるが、本件訂正発明と乙5発明とは、少
なくとも、以下の相違点⑤ないし⑧で相違する。
(相違点⑤)
20 本件訂正発明の「中央演算回路」は、無線通信手段から受信したデジタ
ル信号に対し、「前記入力手段から受信したデータと前記記憶手段に格納
されたプログラムに基づき」、「リアルタイムでデジタル表示信号を生成
するか」、「前記記憶手段に一旦格納」(構成要件D)するのに対し、乙
5発明では「制御部10」は、受信した信号に対する具体的な処理手段に
25 ついて記載されていない点(被告の主張する相違点7)
(相違点⑥)
本件訂正発明の「ディスプレイ手段」及び「インターフェース手段」に
おいては、「グラフィックコントローラから受信したデジタル表示信号に
基づき」、動作するとされているのに対し(構成要件E及びF)、乙5発
明の「表示部12」及び「画像出力部17」については、「グラフィック
5 コントーラから受信したデジタル表示信号に基づき」、動作することが特
定されていない点(被告の主張する相違点9及び10)
(相違点⑦)
本件訂正発明「インターフェース手段」は、「ビットマップデータを伝
達する外部表示信号」を「デジタルRGB、TMDS、LVDS(又はL
10 DI)及びGVIFのうちのいずれかの伝送方式」(構成要件I)に変換
するが、乙1発明では、「伝送方式」について特定されていない点(被告
の主張する相違点12)
(相違点⑧)
本件訂正発明は、「高解像度画像受信・処理・表示機能」を実現する場
15 合に、「無線通信手段」が、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画
面解像度より大きい画像データ」の無線信号を受信してデジタル信号に変
換し、「中央演算回路」が、当該画像データを処理し、「グラフィックコ
ントローラ」が、単一のVRAMから「ディスプレイパネルの画面解像度
と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、デジタル
20 表示信号を「ディスプレイ制御手段」に送信し、また、前記単一のVRA
Mから「ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像
のビットマップデータ」を読み出し、デジタル表示信号を「インターフェ
ース手段」に送信するのに対し、乙5発明には、このような「高解像度画
像受信・処理・表示機能」に係る「中央演算回路」、「グラフィックコン
25 トローラ」及び「単一のVRAM」が特定されていない点(被告の主張す
る相違点8及び11並びに原告の主張する相違点G5及びH5)
イ そこで検討するに、被告は、乙5発明に乙1発明を適用すれば、当業者
は、乙5発明の「制御部10」を乙1発明の「CPU10」及び「表示コ
ントローラ20」に置き換えるなどした上、本件発明との相違点を容易に
想到することができるのであって、このことは、本件訂正発明との相違点
5 との関係においても同様であるなどと主張する。
しかしながら、争点2-1で認定したとおり、本件訂正発明と乙1発
明との間には、本件訂正発明と乙5発明との相違点⑧に対応する相違点
④が認められるのであるから、仮に、乙5発明に乙1発明を適用し得た
としても、少なくとも相違点⑧に至るといえないことは明らかである。
10 のみならず、乙5発明は、前記乙5公報の記載によれば、携帯電話機
において、「制御部10」が「表示部12」に表示するための画像信号
を出力するとともに、「画像出力部17」が、「制御部10」からの要
求に基づき入力された情報から画像信号を生成し、画像信号から「外部
表示装置2」で読み取り可能な画像信号形式に変換して出力することに
15 よって、「外部表示装置2」において、携帯電話機での閲覧が意図され
ていないWebコンテンツを正常に表示するものであることが認められ
る。
これに対し、乙1発明は、前記乙1公報の記載によれば、内部表示装
置22を備える携帯機器において、高解像度の外部表示装置24の表示
20 領域を有効活用するため、「CPU10」の指示を受ける「表示コント
ローラ20」で「表示メモリ」を用いて、内部表示装置22に係る表示
データを選択的に外部表示装置24に係る表示データの記憶領域に格納
することによって、「内部表示装置」及び「外部表示装置」のそれぞれ
に表示するための表示データを生成し出力するものであり、乙1公報に
25 おいては、「CPU10」及び「表示コントローラ20」が、携帯電話
機での閲覧が意図されていないようないWebコンテンツを外部表示装
置24に表示するための処理をすることについての記載も示唆もない。
そうすると、乙5発明の「表示部12」と「外部表示装置2」とに表
示をするための構成と、乙1発明の「内部表示装置」と「外部表示装置」
とに表示をするための構成とは、それぞれを構成する構成要素の機能が
5 大きく異なっており、乙5発明の「制御部10」を乙1発明の「CPU
10」及び「表示メモリ」に置き換え、更に「表示コントローラー20」
によって「表示部12」と「外部表示装置2」との両方の画像信号を生
成することとし、入力された情報から画像信号を生成して画像信号から
外部表示装置で読み取り可能な画像信号形式に変換するという「画像出
10 力部17」における処理を、入力された情報から画像信号の生成に係る
処理を除き、画像信号から外部表示装置で読み取り可能な画像信号形式
への変換のみを行うように組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
また、乙5文献の【0005】及び【0025】によれば、乙5発明
では、携帯電話機での閲覧が意図されていない情報である「本来解像度
15 がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を、表示部
12において正常に表示することを意図しているとはいえないのである
から、上記置き換えをする際に、「表示コントローラー20」において、
「本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」
を処理して、「外部表示装置2」のための画像信号と「表示部12」の
20 ための画像信号とを生成するようにすることが、容易であるともいえな
い。そうすると、本件発明の構成に至るように、乙5発明に乙1発明を
組み合わせる動機付けを欠くというべきである。
したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。
ウ また、被告は、乙5発明に乙1発明を適用すれば、当業者は、乙5発明
25 の「制御部10」を、「CPU10」、「LCD表示制御部23」、「内
部RAMDAC24」及び「CRT表示制御部25」に置き換えるなどし
た上、本件発明との相違点を容易に想到することができるのであって、こ
のことは、本件訂正発明との相違点との関係においても同様であるなどと
主張する。
しかし、仮に、当業者において、上記の置き換えを容易に想到し得たと
5 しても、乙6発明は「無線通信手段」を特定するものではないから、当該
置き換え後の乙5発明において、相違点⑧のうち、送受信部11が、本来
解像度が表示部12の画面解像度より大きい画像データを伝達する無線信
号を受信してデジタル信号に変換するという構成に至ることはできない。
そうすると、当業者が、乙5発明に乙1発明を適用することによって、
10 相違点⑧を容易に想到し得たということはできない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
⑷ 小括
以上によれば、乙5発明に基づく進歩性欠如を理由とする無効理由につい
ては、少なくとも、本件訂正請求に基づく原告の訂正の再抗弁を採用するこ
15 とができることからすると、被告の無効の抗弁は理由がない。
8 争点2-3(本件当初訂正の訂正要件違反)について
原告は、本件発明の当初明細書等に、VRAMが単一であることを示す記載
はなく、「前記単一のVRAM」という語句を追加する本件当初訂正は、新規
事項の追加であると主張する。
20 しかし、本件発明の「単一のVRAM」とは、「ディスプレイ制御手段」の
ためのメモリとは物理的に別個の部品として「インターフェース手段」のため
のメモリを備えないものと解されることは、争点1-2に説示したとおりであ
る。そして、本件発明の当初明細書等の段落【0115】、【0117】、
【0127】のほか、【図1】における「VRAM」に係る記載は、このよう
25 な意味における「単一」のVRAMが存在することをいうものとして理解し得
るものであり、他方、当初明細書等において、それとは物理的に別個のVRA
Mが存在することを示すような記載はない。
そうすると、特許請求の範囲の記載に「前記単一のVRAM」という語句を
追加した本件当初訂正は、当該明細書等に「記載した事項の範囲内」(特許法
126条5項)でされたものであるというべきである。
5 これに対し、被告は、当初明細書等には、「VRAM」を「単一」とするこ
との積極的意義や作用効果の記載がないとも主張するが、これらの記載がある
事項しか訂正できない理由はなく、当初明細書等によれば、当初明細書等の記
載によれば、「単一」のVRAMが存在すると理解できるのであるから、被告
の主張を踏まえても、上記判断を左右するものとはいえない。
10 したがって、被告の主張は、採用することができない。
9 争点2-4(明確性要件違反)について
原告は、構成要件D及びHの「単一のVRAM」という語句は、「機能面か
らみて単一のVRAM」であるとも、「物理的に分離したVRAM」であると
も、いずれにも解釈し得るのに、本件明細書等には、その意義を解釈するため
15 の基準が何ら示されていないとして、本件発明が、明確性要件に違反すると主
張する。
しかし、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書等の記載によれば、構成
要件D及びHの「単一のVRAM」が、「ディスプレイ制御手段」のためのメ
モリとは物理的に別個の部品として「インターフェース手段」のためのメモリ
20 を備えないものと解されることは、争点1-2において説示したとおりである。
そうすると、構成要件D及びHの「単一のVRAM」の意義は明確であるとい
うべきである。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
10 争点2-5(サポート要件違反)について
25 ⑴ 原告は、本件明細書等が「単一のVRAM」に係る作用効果を理解し得る
ように記載されていないから、サポート要件に違反すると主張する。
しかし、本件明細書等の段落【0014】ないし【0022】には、本件
発明の背景技術について、付属ディスプレイよりも画面が大きい外部ディス
プレイに画像を表示する従来技術が、「不合理な二重投資」や「非効率な資
源利用」をするものであると記載され、段落【0031】には、本件発明が
5 解決しようとする課題として、「大画面ディスプレイ手段向けの専用の表示
データ生成手段を、付属ディスプレイにもともと必要である表示データ生成
手段」とは「別個に使用することなく、大画面ディスプレイ手段が接続され
る周辺装置と間のインターフェース手段の追加」と「表示データ生成手段へ
の若干の機能追加だけで実現する」ことが記載されている。
10 これらの記載によれば、当業者は、構成要件D及びHにおいて、グラフィ
ックコントローラが、ディスプレイ制御手段(付属ディスプレイ)やインタ
ーフェース手段(外部ディスプレイ)にデジタル表示信号を送信するに当た
り、ビットマップデータの書き込み及び読み出しをする対象を「単一のVR
AM」とする構成が採用されることによって、上記の課題が解決されること
15 を認識し得たことは明らかである。そうすると、構成要件D及びHの「単一
のVRAM」という構成は、本件発明の詳細な説明の記載により、当業者に
おいて、その課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
⑵ 被告は、構成要件Dの「処理」が、本件明細書等の段落【0032】に記
20 載された「適切に処理する」以外の処理を含むとすれば、本件発明は、本件
明細書等の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えることになり、
サポート要件に違反すると主張する。
そこで検討するに、本件明細書等の段落【0032】にいう「適切に処理
する」は、構成要件Dの「中央演算回路」における「処理」とは異なるもの
25 であることは、争点1-1で説示したとおりである。そして、当該「処理」
については、本件明細書等の段落【0118】に、「中央演算回路」は、
「前記デジタル動画信号」に基づき、「ビットマップデータを作成する描画
命令を生成する」が、「描画命令の生成にあたって」、「デジタル動画信号
を一部間引くことによって、解像度の低い画像の全体画像の描画命令」を生
成する旨の記載があり、その段落【0126】には、「中央演算回路」が、
5 フラッシュメモリに格納された「画像の補間プログラム」に「従って作動す
る場合」には、デジタル動画信号の本来画像の解像度より大きい「外部ディ
スプレイ装置の画面解像度」と「同じ解像度を有する画像の描画命令」を生
成する旨の記載がある。
これらの記載によれば、本件明細書等には、上記にいう「適切な処理」以
10 外の様々な処理をすることが記載されていることからすると、本件明細書等
に「適切な処理」しか記載されていないことを前提とする被告の主張は、そ
の前提を欠く。そうすると、本件発明が、構成要件Dの「処理」について、
本件明細書等の「発明の詳細な説明に記載したもの」(特許法36条6項1
号)の範囲を超えるものであるということはできない。
15 したがって、被告の主張は、採用することができない。
⑶ 以上によれば、本件発明が、特許法36条6項1号のサポート要件に違反
する無効理由があるということもできない。
11 争点3-1(原告に生じた損害又は損失)について
⑴ 原告に生じた損害及び損失の計算方法
20 ア 被告製品は、被告補助参加人が製造し、被告に販売していたものである
が、被告補助参加人が、前記前提事実⑸イ及びウの訴訟における請求にか
かわらず、原告に対し、被告製品の製造販売に対し、本件発明の実施に係
る実施料を支払っていないことは、当事者間に争いがない。
そうすると、被告による被告製品の販売行為は、本件発明に係る原告の
25 特許権を侵害する不法行為に当たるから、原告には、当該不法行為につい
て、被告製品の販売による本件発明の実施に係る実施料相当額の損害が生
じたということできる(特許法102条3項)。
イ また、被告は、被告製品を販売することにより、本件発明を実施したの
に、特許権者である原告に実施料率を支払っていないことになるから、不
当利得として、前記実施料相当額の利益を得ており、原告は、これと同額
5 の損失を被ったものと認めるのが相当である。
これに対し、被告は、被告と被告補助参加人との被告製品の販売契約に
おいて、被告製品に特許権侵害があった場合、これによる費用を被告補助
参加人が負担することになっていたから、被告には民法703条の現存利
益がないなどと主張する。しかし、前記アの不当利得は、被告が、原告に
10 対し、支払うべき実施料の支払を免れたことから生じるものであり、被告
と被告補助参加人との間において、被告補助参加人が当該実施料を負担す
ると合意されていたとしても、その利益の発生又は利益の現存に係る認定
が直ちに左右されるものではない。
また、被告は、特許法102条3項の規定は、民法703条の現存利得
15 の算定の場合には適用し得ないなどと主張する。しかし、前記⑵アのとお
り、被告は、被告製品を販売したことによる実施料を支払っていないこと
から利益を得ているのであって、その後その利益の全部又は一部が消滅し
たことに関する立証がないという事情を踏まえると、被告は、上記の計算
方法により算定された利得金を得たものと推認するのが相当である。
20 したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。
⑵ 実施料相当額の計算方法
ア 被告製品の販売に係る本件発明の実施料相当額は、被告製品の売上高に
相当な実施料率を乗じて算定するのが相当である。
そして、証拠(乙12ないし16)及び弁論の全趣旨によれば、被告と
25 被告補助参加人は、端末設備等購入基本契約書に係る契約(以下「本件契
約」という。)を締結し、本件契約に基づき、被告補助参加人は、被告製
品を製造し、被告に販売していたこと、本件契約によれば、被告補助参加
人は、被告製品の製造販売のために必要な特許ライセンスを取得しており、
被告が第三者からその権利を侵害するものとして訴えが提起された場合に
は、被告補助参加人の責任と費用で第三者との紛争を解決することとされ
5 ていたこと、そのため、被告製品に使用される特許については、被告補助
参加人の製造販売の段階で実施料が負担され、被告の販売の段階で実施料
が支払われることは想定されていなかったこと、もとより、被告補助参加
人が、原告に上記相当額を支払っていれば、原告が、被告から実施料率を
得ることはできなかったこと、以上の事実を認めることができる。
10 上記認定事実によれば、被告製品の実施料に関する取引の実情を踏まえ
ると、被告製品の販売に係る本件発明の実施料相当額は、被告補助参加人
による被告製品の売上高(乙13)に相当な実施料率を乗じて算定したも
のと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。
イ これに対し、原告は、独自に被告の一般消費者に対する販売台数及び
15 売上高の数字を主張するものの、これを認めるに足りる証拠はない。ま
た、原告は、被告による被告製品の小売価格が、いわゆる「SIMロッ
ク」や「2年縛り」などと引き換えに低額に抑えられている実態がある
として、被告における通信料収入をも売上高に含めるべきである旨主張
する。しかし、本来実施料率に係る合意後に発生する個別具体的な通信
20 料収入についてまで、売上高に含めて実施料率を算定するのは、取引の
実情一般に照らし、相当であると認めることはできず、原告主張に係る
算定方法が適切であるとする的確な証拠もない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
⑶ 被告製品の相当実施料率
25 ア 特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては、①当該
特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない
場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明
自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可
能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献
や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等
5 訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。
イ そこで検討するに、本件発明に関しては、前記①ないし④に係る事情と
して、次のとおりのものが認められる。
「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査
研究報告書」には、以下のような実施料率を報告するが、同時に、関係
10 特許が多数に上り、クロスライセンスが主流であるデバイスの特許の分
野では、その相場は1%以下であるとも記載されている。(甲26)
ソース 技術分野 平均値 最大値 最小値
国内アンケート調査 器械 3.5% 9.5% 0.5%
コンピュータテクノロジ 3.1% 7.5% 0.5%
電気
ー 2.9% 9.5% 0.5%
司法決定 電気 3.0% 7.0% 1.0%
実際、被告補助参加人は、被告製品の製造販売のため、11社とライ
センス契約を締結したが、破産直前という特殊事情のある1社を除くと、
アプリ特許等に係るパテントファミリー1件当たりのライセンス料率は、
15 平均●(省略)●%であると計算された。(乙14)
また、前記 の10社とのライセンス契約のうち、ライセンス料率が
初年度の●(省略)●%から逓減する特殊な規定となっていた1社を除
き、画像処理に関連する発明に限定したとすると、1件当たりのライセ
ンス料率は、平均●(省略)●%と計算された。(乙16)
20 平成20年5月発行の雑誌「日経エレクトロニクス」には、「携帯電
話の画面サイズには限界がある。」、「HDTV対応によって、大画面
テレビなど周囲のAV機器を接続し、コンテンツをやりとりする機能が
携帯電話機に必須となる。」との記載がある。(甲29・43頁)
他方、前記雑誌には、「スマートフォンのような両手の操作を前提と
する端末であれば、比較的大きな4~5型程度のディスプレイを搭載す
5 る可能性はある。このような端末ならば、「液晶パネルの画素数を高精
細化してHDTV対応にできる」」との記載もある。(甲29・59頁)
原告は、情報処理・通信システムの考案及び開発を目的とする会社で
あり、自ら実施品の製造販売をすることはせず、その発明を他社に許諾
し、これに対する実施料収入を得るという営業方針をとっているが、本
10 件発明については、実施許諾をした例はない。(弁論の全趣旨)
ウ これらの事情によれば、①本件発明の技術分野においては、ライセンス
料率を0.5%ないし9.5%程度とする例はあるが、スマートフォンの
ように多数の特許が関連する分野では、クロスライセンスによる場合に限
らず、特許1件当たりで計算した実施料率が、0.01%を下回ることも
15 通常であること、②本件発明で実現される高解像度画像を外部出力する機
能は、携帯電話において早くから望まれていたものではあるが、被告製品
のようなスマートフォンにおいては、当然に必須の機能であるとはいえず、
その顧客に対する顧客吸引力は明らかとはいえないこと、③原告は、その
保有する発明を他社に許諾し、その実施料収入を得るという営業方針をと
20 っているものの、本件発明を実施するため、原告とライセンス契約を締結
した者はいないこと、以上の事情を認めることができる。
これらの事情を考慮すると、被告補助参加人の売上高に乗じる相当実施
料率は、侵害があったことを前提に通常の実施料率よりも自ずと高くなる
ことをも十分考慮しても、0.01%の限度で認めるのが相当である。
25 エ これに対し、原告は、被告補助参加人におけるライセンス例は、大部分
が一時金方式であり、ランニング方式よりも割安となっていることなど
種々の事情を指摘し、これを相当実施料率の認定の参考にすることを争う
ものの、原告の指摘を踏まえても、業界における実施料の相場等として、
当該ライセンス例を上記の限度で参酌することまで妨げられるべきもので
はなく、上記認定を左右するに至らない。
5 また、原告は、本件発明には代替技術がなかったと主張するが、これを
認めるに足りる証拠はないほか、原告は、本件発明を代替するには、24
00円程度の部品(甲31)を追加する必要があったとも主張するが、当
該部品は、本件発明に係る機能のみを実現するものとは認められず、その
2400円というのも「サンプル価格」にすぎず、いずれも、上記の結論
10 を左右するものとはいえない。
原告に生じた損害及び損失
以上によれば、原告に生じた損害及び損失の額は、被告製品のそれぞれに
ついて、被告補助参加人における売上高と認められる下表の「売上高」欄の
金額に、それぞれ前記相当実施料率0.01%を乗じた「損害又は損失」欄
15 記載の額と計算され、その合計は705万7771円となる。
被告製品 売上高 損害又は損失
イ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ロ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ハ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ニ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ホ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ヘ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
ト号製品 ●(省略)● ●(省略)●
チ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
リ号製品 ●(省略)● ●(省略)●
合計 705万7771円
12 争点3-2(消滅時効の抗弁)について
⑴ 被告製品1について
前記前提事実⑸アのとおり、原告は、平成24年1月9日頃、被告製品1
などが原告の保有する別の特許に係る発明の技術的範囲に属するとする訴訟
5 を提起し、当該訴訟の第一審判決は、平成25年8月2日に言い渡されてい
るところ、証拠(乙2ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、当該
訴訟の審理を通じるなどし、遅くとも前記判決の言渡日までには、被告製品
1の具体的な構成について、本件訴訟の訴状で記載した程度には認識してお
り、被告が、被告製品1を販売していることを認識していたことも認めるこ
10 とができる。そして、証拠(乙12、13)及び弁論の全趣旨によれば、被
告製品1は、平成26年頃までに、その販売を終了していたことを認めるこ
とができるのであるから、被告による被告製品1の販売に係る不法行為に対
する損害賠償請求権について、原告は、遅くとも同年頃までに、その損害及
び加害者を知ったということできる。したがって、本件訴訟が提起されたも
15 のと認められる令和2年11月24日までに、当該損害賠償請求権に係る3
年の消滅時効が完成していたことは明らかである。
これに対し、原告は、被告製品1が、本件特許を侵害すると認識すること
が可能となったのは、本件当初訂正の訂正登録日である平成30年8月13
日であると主張する。しかし、証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、本
20 件当初訂正は、いずれも、特許請求の範囲の減縮(特許法126条1項ただ
し書1号)又は「明瞭でない記載の釈明」(同3号)を目的としてなされた
ものであると認められ、原告は、前記の事実関係の下、本件当初訂正に係る
訂正登録がされる前から、被告製品1が、本件当初訂正による訂正前の本件
発明の技術的範囲に属することを認識していたというべきである。
25 したがって、被告による被告製品1の販売に係る不法行為に対する損害賠
償請求権については、その消滅時効が完成しているから、被告による消滅時
効の援用によって、当該損害賠償請求権は消滅している。
⑵ 被告製品2について
原告が、平成25年8月2日頃、被告製品2が販売されている事実を知っ
ていたことは、当事者間において争いがない。しかし、本件発明は、スマー
5 トフォンなどの携帯情報通信装置に係るものであって、これが備える中央演
算回路やグラフィックコントローラによるデータ処理手段や画像表示機能な
どを特定するものであるから、原告が、その頃において、当然に被告製品2
の構成を知っていたと認めることはできず、これが本件発明の技術的範囲に
属することを知っていたことを認めるべき証拠もない。そして、原告が、原
10 告自身が認める令和元年11月29日頃以前に、被告製品2が、本件発明の
技術的範囲に属することを知っていた旨の主張立証もない。
したがって、被告による被告製品2の販売に係る不法行為に対する損害賠
償請求権について、本件訴訟が提起された令和2年11月24日までに、そ
の消滅時効が完成していたものと認めることはできない。
15 ⑶ 小括
したがって、被告の消滅時効の抗弁は、被告製品1に係る部分の限度で成
立し、原告の損害賠償請求権は、前記11⑸の表のとおり、チ号製品に係る
●(省略)●円及びリ号製品に係る●(省略)●円との合計178万399
9円の限度で認めることができる。
20 13 小括
被告は、先行訴訟の結果に基づき、被告補助参加人が被告製品に係る賠償金
又は利得金を支払った場合には、本件における賠償金又は利得金が消滅すると
主張するものの、上記の支払を認めるに足りる証拠はない。
その他に、原告及び被告が提出する準備書面及び書証を改めて検討しても、
25 以上の判断を左右するに至らない。したがって、上記判断と異なる原告及び被
告の主張は、いずれも採用することができない。
なお、争点3-1で認定したとおり、原告に生じた不法行為にいう損害の額
と不当利得にいう損失の額は、別紙被告製品目録記載のイ号製品ないしリ号製
品ごとに同額であり、その遅延損害金も、不法行為については不法行為の後で
ある訴状送達の日の翌日から、不当利得については訴状による催告の翌日であ
5 る同日から、それぞれ支払を求めるものとして、いずれも同額となる。そして、
不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得に基づく利得金返還請求は選択的に
併合されているところ、被告製品1に係る損害賠償請求は理由がなく、その不
当利得返還請求の一部は理由があるため、その限度で認容し、被告製品2に係
る不当利得返還請求の一部は理由があり、その余の請求部分及びこれと選択的
10 に併合された損害賠償請求に係る部分は理由がないから、いずれも棄却するこ
ととする。
第5 結論
よって、原告の請求は、主文記載の限度で理由があるから、これを認容し、
その余をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
15 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
裁判官
小 田 誉 太 郎
裁判官?野俊太郎は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官
5 中 島 基 至
(別紙)
物 件 目 録
1 イ号物件
スマートフォン「GALAPAGOS SoftBank 003SH」
5 2 ロ号物件
スマートフォン「DM009SH」
3 ハ号物件
スマートフォン「GALAPAGOS SoftBank 005SH」
4 ニ号物件
10 スマートフォン「AQUOS PHONE SoftBank 006SH」
5 ホ号物件
スマートフォン「AQUOS PHONE THE HYBRID SoftBank 007SH」
6 ヘ号物件
スマートフォン「AQUOS PHONE THE HYBRID SoftBank 007SH J」
15 7 ト号物件
スマートフォン「SoftBank 007SH KT」
8 チ号物件
スマートフォン「AQUOS PHONE Xx 106SH」
9 リ号物件
20 スマートフォン「AQUOS PHONE Xx SoftBank 203SH」
(別紙)
被 告 製 品 説 明 書
第1 イ号物件
イ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 モバイルプロセッサ(Qualcomm 製 Snapdragon MSM8255)及び「単一
のVRAMを内蔵する液晶コントローラIC」
5 画面解像度が 800×480 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバI
C
6 HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
また、イ号物件の上記の各構成要素は、次の参考図1の通りに接続されてい
る。
【参考図1】
無線通信用
メインアンテナ
無線送受信用 タッチパネル
IC
液晶
液晶
液晶 ドライバ
モバイル ディスプレイパネル
コントローラ IC
内部メモリ プロセッサ
IC
microSD VRAM HDMI micro
カード 送信IC HDMI端子
さらに、イ号物件の上記の各構成要素は、以下の機能を有している。
① タッチパネルは、ユーザーがマニュアル操作によって入力したデータをモバ
イルプロセッサに送信する。
② 無線通信手段は、無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、モバイルプロセ
ッサに送信するとともに、モバイルプロセッサから受信したデジタル信号を無線
信号に変換して送信する。
③ -1 内部メモリは、モバイルプロセッサを動作させるプログラムを格納す
る。
③ -2 microSDカードは、モバイルプロセッサで処理可能なデータファイルを
格納する。
④ -1 モバイルプロセッサは、タッチパネルから受信したデータと内部メモリに
格納されたプログラムとに基づき、無線通信手段から受信したデジタル信号に必
要な処理を行い、リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか、又は、自ら
が処理可能なデータファイルとしてmicroSDカードに一旦格納し、その後読み
出した上で処理する。
④ -2 液晶コントローラICは、モバイルプロセッサの処理結果に基づき、内
蔵するVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い、
「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成
し、該デジタル表示信号を、液晶ドライバIC又はHDMI送信ICに送信
する。また、液晶コントローラICは、イ号製品が「本来解像度が 1280×
720 画素である画像データ」を処理して画像を表示する場合に、内蔵するVR
AMから「800×480 画素である画像のビットマップデータ」を読み出し、
「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成
し、該デジタル表示信号を液晶ドライバICに送信する機能と、内蔵するVR
AMから「1280×720 画素である画像のビットマップデータ」を読み出し、
「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成
し、該デジタル表示信号をHDMI送信ICに送信する機能を実現する。
⑤ -1 液晶ディスプレイパネルは、画面を構成する各々の画素が駆動されること
により画像を表示する。
⑤ -2 液晶ドライバICは、液晶コントローラICから受信したデジタル表示信
号に基づき液晶ディスプレイパネルの各々の画素を駆動する。
⑥ -1 microHDMI端子は、外部ディスプレイ手段を備える周辺装置を接続す
ることができる。
⑥ -2 HDMI送信ICは、液晶コントローラICから受信したデジタル表示信
号に基づき、外部表示信号をmicroHDMI端子を介して周辺装置に送信す
る。また、HDMI送信ICは、液晶コントローラICから受信した「ビッ
トマップデータを伝達するデジタル表示信号」をHDMI信号に変換し、該H
DMI信号をHDMI端子を介して周辺装置に送信する機能を有する。
上記の構成により、イ号物件は、
⑦ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1280×720 画素である画
像」を表示できる。
第2 ロ号物件
ロ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 モバイルプロセッサ(Qualcomm 製 Snapdragon MSM8255)及び「単一
のVRAMを内蔵する液晶コントローラIC」
5 画面解像度が 800×480 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバI
C
6 HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
また、ロ号物件の各要素は、イ号物件の各要素と同様に接続され、同じ機能を
有している。
上記の構成により、ロ号物件は、
⑦ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1280×720 画素である画
像」を表示できる。
第3 ハ号物件
ハ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 モバイルプロセッサ(Qualcomm 製 Snapdragon MSM8255)及び「単一
のVRAMを内蔵する液晶コントローラIC」
5 画面解像度が 800×480 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバI
C
6 HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
また、ハ号物件の各要素は、イ号物件の各要素と同様に接続され、同じ機能を有
している。
上記の構成により、ハ号物件は、
⑦ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1280×720 画素である画
像」を表示できる。
第4 ニ号物件
ニ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 モバイルプロセッサ(Qualcomm 製 Snapdragon MSM8255)及び「単一
のVRAMを内蔵する液晶コントローラIC」
5 画面解像度が 960×540 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバI
C
6 HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
また、ニ号物件の各要素は、「800×480 画素」が「960×540 画素」となるこ
とを除き、イ号物件の各要素と同様に接続され、同じ機能を有している。
上記の構成により、ニ号物件は、
⑦ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1280×720 画素である画
像」を表示できる。
第5 ホ号物件
ホ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 モバイルプロセッサ(Qualcomm 製 Snapdragon MSM8255)及び「単一
のVRAMを内蔵する液晶コントローラIC」
5 画面解像度が 854×480 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバI
C
6 HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
また、ホ号物件の各要素は、「800×480 画素」が「854×480 画素」となるこ
とを除き、イ号物件の各要素と同様に接続され、同じ機能を有している。
上記の構成により、ホ号物件は、
⑦ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1280×720 画素である画
像」を表示できる。
第6 ヘ号物件
ヘ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 モバイルプロセッサ(Qualcomm 製 Snapdragon MSM8255)及び「単一
のVRAMを内蔵する液晶コントローラIC」
5 画面解像度が 854×480 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバI
C
6 HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
また、ヘ号物件の各要素は、「800×480 画素」が「854×480 画素」となるこ
とを除き、イ号物件の各要素と同様に接続され、同じ機能を有している。
上記の構成により、ヘ号物件は、
⑦ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1280×720 画素である画
像」を表示できる。
第7 ト号物件
ト号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 モバイルプロセッサ(Qualcomm 製 Snapdragon MSM8255)及び「単一
のVRAMを内蔵する液晶コントローラIC」
5 画面解像度が 854×480 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライバI
C
6 HDMI送信IC及びmicroHDMI端子
また、ト号物件の各要素は、「800×480 画素」が「854×480 画素」となるこ
とを除き、イ号物件の各要素と同様に接続され、同じ機能を有している。
上記の構成により、ト号物件は、
⑦ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1280×720 画素である画
像」を表示できる。
第8 チ号物件
チ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 C P U 及 び G P U か ら 構 成 さ れ る モ バ イ ル プ ロ セ ッ サ ( Qualcomm 製
SnapdragonMSM8260A)
5 SDRAM
6 画面解像度が 1280×720 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライ
バ
7 MHLトランスミッタ及びmicroUSB端子
また、チ号物件の上記の各構成要素は、次の参考図1の通りに接続されてい
る。
【参考図1】
無線通信用
メインアンテナ
無線送受信用 タッチパネル
IC
液晶 液晶
内部メモリ CPU GPU ドライバ ディスプレイパネル
microSD MHL micro
カード トランスミッタ USBI端子
モバイルプロセッサ
外部SDRAM
さらに、チ号物件の上記の各構成要素は、以下の機能を有している。
④ タッチパネルは、ユーザーがマニュアル操作によって入力したデータをモバ
イルプロセッサに内蔵されるCPUに送信する。
⑤ 無線通信手段は、無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、CPUに送信
するとともに、CPUから受信したデジタル信号を無線信号に変換して送信す
る。
⑥ -1 内部メモリは、CPUを動作させるプログラムを格納する。
⑤ -2 microSDカードは、CPUで処理可能なデータファイルを格納する。
⑥ -1 CPUは、タッチパネルから受信したデータと内部メモリに格納されたプロ
グラムとに基づき、無線通信手段から受信したデジタル信号に必要な処理を行
い、リアルタイムでデジタル表示信号を生成するか、又は、自らが処理可能な
データファイルとしてmicroSDカードに一旦格納し、その後読み出した上で処
理する。
⑥ -2 モバイルプロセッサに内蔵されるGPUは、CPUの処理結果に基づき、S
DRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い、「該読み
出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジ
タル表示信号を、液晶ドライバ又はMHLトランスミッタに送信する。また、
GPUは、イ号製品が「本来解像度が 1920×1080 画素である画像データ」を
処理して画像を表示する場合に、SDRAMから「1280×720 画素である画像
のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを
伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を液晶ドライバ
に送信する機能と、SDRAMから「1920×1080 画素である画像のビットマ
ップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデ
ジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号をMHLトランスミッタに送
信する機能を実現する。
⑦ -1 液晶ディスプレイパネルは、画面を構成する各々の画素が駆動されること
により画像を表示する。
⑦ -2 液晶ドライバは、GPUから受信したデジタル表示信号に基づき液晶ディス
プレイパネルの各々の画素を駆動する。
⑧ -1 microUSB端子は、外部ディスプレイ手段を備える周辺装置を接続する
ことができる。
⑦ -2 MH Lトランスミッタは、GPU から受信したデジタル表示信号に基づ
き、外部表示信号をmicroUSB端子を介して周辺装置に送信する。また、M
HLトランスミッタは、SDRAMから受信した「ビットマップデータを伝達
するデジタル表示信号」をMHL信号に変換し、該MHL信号をmicroUSB端
子を介して周辺装置に送信する機能を有する。
上記の構成により、チ号物件は、
⑧ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1920×1080 画素である
画像」を表示できる。
第9 リ号物件
リ号物件はスマートフォンであって、以下の構成を備えている。
1 タッチパネル
2 無線通信手段(無線通信用メインアンテナ及び無線送受信用IC)
3 内部メモリ及びmicroSDカード
4 C P U 及 び G P U か ら 構 成 さ れ る モ バ イ ル プ ロ セ ッ サ ( Qualcomm 製
SnapdragonAPQ8064)
5 SDRAM
6 画面解像度が 1280×720 画素である液晶ディスプレイパネル及び液晶ドライ
バ
7 MHLトランスミッタ及びmicroUSB端子
また、リ号物件の各要素は、「MSM8260A」が「APQ8064」となることを
除き、チ号物件の各要素と同様に接続され、同じ機能を有している。
上記の構成により、リ号物件は、
⑧ 周辺装置に備えられる外部ディスプレイ手段に、「1920×1080 画素である
画像」を表示できる。
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