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令和3(行ケ)10111審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年6月22日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社東京精密
被告浜松ホトニクス株式会社
対象物 レーザ加工装置
法令 特許権
特許法134条の21回
キーワード 審決70回
実施26回
分割25回
進歩性19回
無効9回
特許権2回
刊行物2回
無効審判1回
訂正審判1回
優先権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。25
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)5 ⑴ 被告は、平成12年9月13日(以下「本件優先日」という。)にした特許 出願(特願2000-278306号)に基づいて優先権を主張して平成1 3年9月13日にした特許出願(特願2001-278707号)の一部を 分割して、平成18年3月14日、発明の名称を「レーザ加工装置」とする発 明について新たな特許出願(特願2006-69918号。以下「本件出願」10 という。)をし、平成19年3月30日、特許権の設定登録を受けた(特許第 3935188号。請求項の数2。以下、この特許を「本件特許」といい、こ れに基づく特許権を「本件特許権」という。)。 被告は、平成30年4月24日、特許請求の範囲について訂正審判(訂正2 018-390074号)を請求し、特許庁は、同年7月3日訂正を認める15 審決をした。

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判決文

令和4年6月22日判決言渡
令和3年(行ケ)第10111号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年4月25日
判 決
原 告 株 式 会 社 東 京 精 密
同訴訟代理人弁護士 服 部 誠
同 中 村 閑
10 同 柿 本 祐 依
同訴訟代理人弁理士 新 井 剛
同 山 下 崇
被 告 浜松ホトニクス株式会社
同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
同 深 沢 正 志
同 松 本 直 樹
同 大 澤 恒 夫
20 同訴訟復代理人弁護士 河 合 哲 志
同訴訟代理人弁理士 柴 田 昌 聰
同 小 曳 満 昭
主 文
1 原告の請求を棄却する。
25 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2019-800068号事件について令和3年7月28日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
5 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
⑴ 被告は、平成12年9月13日(以下「本件優先日」という。)にした特許
出願(特願2000-278306号)に基づいて優先権を主張して平成1
3年9月13日にした特許出願(特願2001-278707号)の一部を
分割して、平成18年3月14日、発明の名称を「レーザ加工装置」とする発
10 明について新たな特許出願(特願2006-69918号。以下「本件出願」
という。)をし、平成19年3月30日、特許権の設定登録を受けた(特許第
3935188号。請求項の数2。以下、この特許を「本件特許」といい、こ
れに基づく特許権を「本件特許権」という。)。
被告は、平成30年4月24日、特許請求の範囲について訂正審判(訂正2
15 018-390074号)を請求し、特許庁は、同年7月3日訂正を認める
審決をした。
⑵ 原告は、令和元年9月17日、本件特許について特許無効審判を請求した。
特許庁は、上記請求を無効2019-800068号事件として審理を行
った。
20 被告は、令和3年4月7日付けで、本件特許の特許請求の範囲につき訂正
(以下「本件訂正」という。)の請求をした。
特許庁は、令和3年7月28日、本件訂正を認めた上で、「本件審判の請求
は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本
は、同年8月10日、原告に送達された。
25 ⑶ 原告は、令和3年9月8日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正前の本件特許の請求項1の発明(以下「本件発明1」という。)及び
請求項2の発明(以下「本件発明2」という。なお、本件発明1と本件発明2を
併せて「本件発明」という場合がある。)並びに本件訂正後の本件特許の請求項
5 1の発明(以下「本件訂正発明1」という。)及び請求項2の発明(以下「本件
訂正発明2」という。なお、本件訂正発明1と本件訂正発明2を併せて「本件訂
正発明」という場合がある。本件訂正発明中、下線部が本件訂正によって加えら
れた部分である。)に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
⑴ 本件発明
10 ア 本件発明1
ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する
レーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
15 前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から
出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射に
より、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集
光用レンズと、
隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象
20 物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって
前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象
物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパル
スレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿
ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、
25 を備え、
前記加工対象物はシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装
置。
イ 本件発明2
前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレー
ザ光の集光点の移動速度との少なくとも一方を調節することで、前記改質
5 スポット間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レン
ズの少なくとも1つの移動を制御することを特徴とする請求項1記載のレ
ーザ加工装置。
⑵ 本件訂正発明
ア 本件訂正発明1
10 ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する
レーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から
15 出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射に
より、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集
光用レンズと、
隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象
物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって
20 前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象
物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパル
スレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿
ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、
を備え、
25 前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿
った溝が形成されていないシリコンウェハであることを特徴とするレーザ
加工装置。
イ 本件訂正発明2
前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレー
ザ光の集光点の移動速度との少なくとも一方を調節することで、前記改質
5 スポット間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レン
ズの少なくとも1つの移動を制御することを特徴とする請求項1記載のレ
ーザ加工装置。
3 本件審決の要旨
⑴ 本件の争点に関連する本件審決の理由の要旨は、①本件訂正の内容は、特
10 許請求の範囲の請求項1に「前記加工対象物はシリコンウェハである」と記
載されているのを、「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断
予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」に訂正す
る(以下「訂正事項1」という。請求項1の記載を引用する請求項2も同様に
訂正する。 ものであるが、
) 特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、
15 本件出願の際の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」といい、特許請
求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)に記載した事項との関
係において新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範
囲を拡張し又は変更するものでもないから、訂正要件違反はない、②本件訂
正発明は、特開平11-177137号公報(甲11。以下「甲11文献」と
20 いう。)に記載された発明(以下「甲11発明」という。)に、特開平11-
138896号公報(甲6。以下「甲6文献」という。)、国際公開第00/
32349号公報及び抄訳文(甲7。以下「甲7文献」という。)に記載され
た技術事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができた
とはいえない、③本件訂正発明は、特開平11-163403号公報(甲1。
25 以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)
に特開平4-111800号公報(甲5。以下「甲5文献」という。)に記載
された事項及び周知慣用技術を適用することにより、当業者が容易に発明を
することができたとはいえない、④本件訂正発明は、特開昭50-1314
58号公報(甲2。以下「甲2文献」という。)に記載された発明(以下「甲
2発明」という。)に甲1文献、甲5文献及び甲7文献に記載の事項並びに周
5 知慣用技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができた
とはいえない、⑤本件訂正発明は、甲5文献に記載された発明(以下「甲5発
明」という。)及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすること
ができたとはいえないというものである。
⑵ 本件審決が認定した甲11発明、本件訂正発明1と甲11発明の一致点及
10 び相違点、相違点についての容易想到性の判断の要旨は、次のとおりである。
ア 甲11発明
基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒
化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201の内部
に、加工変質部を形成するレーザー加工機であって、
15 前記基板201が載置されるステージと、
YAGレーザー照射装置と、
前記ステージに載置された前記基板201の内部に、YAGレーザー照
射装置から発振されたレーザー光線を集光し、そのレーザー光線の焦点の
位置で微視的なマイクロ・クラックの集合を形成させるレーザーの光学系
20 と、
前記基板201上の溝部203の内部側にあるブレイク・ライン204
に沿って形成された前記微視的なマイクロ・クラックの集合である前記加
工変質部を形成するために、YAGレーザー照射装置から発振されたレー
ザー光線の焦点を前記基板201の内部に位置させた状態で、前記ブレイ
25 ク・ライン204に沿ってYAGレーザー照射装置から発振されたレーザ
ー光線の焦点を直線的に移動させる制御部と、を備えるレーザー加工機。
イ 本件訂正発明1と甲11発明の一致点及び相違点
一致点
ウェハ状の加工対象物の内部に、改質領域を形成するレーザ加工装置
であって、
5 前記加工対象物が載置される載置台と、
レーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源か
ら出射されたレーザ光を集光させる集光用レンズと、
前記改質領域を形成するために、レーザ光の集光点を前記加工対象物
10 の内部に位置させた状態で、前記切断予定ラインに沿ってレーザ光の集
光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備える
レーザ加工装置。
相違点
a 相違点1
15 本件訂正発明1は、改質領域が切断の起点となるのに対し、甲11
発明は、改質領域に相当する加工変質部が「基板201上の溝部203
の内部側」に形成されており、当該加工変質部が切断の起点となるもの
かは明らかでない点。
b 相違点2
20 本件訂正発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切
断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、
レーザ光源が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射する」も
のであり、「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレー
ザ光の集光点の位置で改質スポット」が形成され、改質領域が、「隣り
25 合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物
の切断予定ラインに沿って形成された複数の改質スポット」によって
形成されているのに対し、甲11発明は、加工対象物が一方の表面に溝
部203が形成された基板201であるとともに、YAGレーザー照
射装置がパルスレーザ光を出射するものかどうかは不明であり、YA
Gレーザー照射装置から照射されたレーザー光線の焦点の位置で微視
5 的なマイクロ・クラックの集合が形成され、改質領域に相当する加工変
質部が、基板201上の溝部203の内部側にあるブレイク・ライン2
04に沿って形成された微視的なマイクロ・クラックの集合によって
形成されている点。
c 相違点3
10 本件訂正発明1は、「制御部」により、「パルスレーザ光の繰り返し
周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして」レー
ザ光の集光点を移動させているのに対し、甲11発明は、制御部によ
り、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の
移動速度を略一定にするかどうか不明な点。
15 ウ 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨
相違点2について、甲11発明は、改質領域に相当する加工変質部が、基
板201上の溝部203の内部側にあるブレイクライン(切断予定ライン)
204に沿って形成されるものであり、甲11発明に接した当業者が、基
板201から溝部203を捨象することは想定できず、表面に溝が形成さ
20 れていない基板201の内部側に形成された加工変質部を形成するよう改
変を行う動機は存在せず、このような改変にはむしろ阻害事由がある。
相違点2について、甲11発明並びに甲6文献及び甲7文献記載の技術
的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、他の
相違点について検討するまでもなく、当審無効理由通知及び審決予告で通
25 知した無効理由によって本件訂正発明1に係る特許を無効とすることはで
きない。
⑶ 本件審決が認定した甲1発明、本件訂正発明1と甲1発明の一致点及び相
違点、相違点についての容易想到性の判断の要旨は、次のとおりである。
ア 甲1発明
基板201の表面上に窒化物半導体層205、溝部204及び溝部20
5 4の底面にスクライブ・ライン207が形成された半導体ウエハーの内部
に、微視的なマイクロ・クラックの集合である加工変質層206のスクラ
イブ・ラインを形成するレーザー加工機であって、
前記半導体ウエハーが載置されるステージと、
レーザーを照射するレーザー照射部と、
10 前記ステージに載置された前記半導体ウエハーの内部に、前記レーザー
照射部から照射されたレーザーの焦点が結ばれるように調整し、そのレー
ザーの集光点の位置で加工変質層206を形成するレンズなどのレーザー
光学系と、
切断予定ラインに沿って形成された前記微視的なマイクロ・クラックの
15 集合である加工変質層206を形成するために、レーザーの集光点を前記
半導体ウエハーの内部に位置させた状態で、切断予定ラインに沿ってレー
ザーの集光点を直線的に移動させて加工変質層206を形成し、レーザー
光学系を調整し直して溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形
成する制御部と、を備える、
20 レーザー加工機。
イ 本件訂正発明1と甲1発明の一致点及び相違点
一致点
ウェハ状の加工対象物の内部に、改質領域を形成するレーザ加工装置
であって、
25 前記加工対象物が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源か
ら出射されたレーザ光を集光させる集光用レンズと、
前記改質領域を形成するために、レーザ光の集光点を前記加工対象物
の内部に位置させた状態で、切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点
5 を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備える
レーザ加工装置。
相違点
a 相違点1
本件訂正発明1は、改質領域が「切断の起点」となるのに対し、甲1
10 発明は、改質領域に相当する加工変質層206が切断の起点となるの
かは明らかでない点。
b 相違点2
本件訂正発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切
断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、
15 レーザ光源が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射する」も
のであり、「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレー
ザ光の集光点の位置で改質スポット」が形成され、改質領域が、「隣り
合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物
の切断予定ラインに沿って形成された複数の改質スポット」によって
20 形成されているのに対し、甲1発明は、加工対象物が溝部204及び溝
部204の底面にスクライブ・ライン207が形成された半導体ウエ
ハーであり、レーザ光源であるレーザー照射部が、パルスレーザ光を照
射するものであるか不明であり、レーザー照射部から照射されたレー
ザーの焦点の位置で微視的なマイクロ・クラックの集合が形成され、改
25 質領域に相当する加工変質層206が、半導体ウエハーの内部に切断
予定ラインに沿って形成された微視的なマイクロ・クラックの集合に
よって形成されている点。
c 相違点3
本件訂正発明1は、「制御部」により「パルスレーザ光の繰り返し周
波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして」レーザ
5 光の集光点を移動させているのに対し、甲1発明は、制御部により、パ
ルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速
度を略一定にするかどうか不明な点。
ウ 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨
甲1発明において、加工変質層206のスクライブ・ラインが切断の
10 起点になるとはいえない。甲5文献及びその他の証拠を参照しても、甲
1発明における切断の起点が、溝部204の底面に形成されたスクライ
ブ・ライン207ではなく、半導体ウエハー内部の加工変質層206(ス
クライブ・ライン)であることを認めるに足りる記載や示唆はない。
また、甲1発明において、溝部204及びスクライブ・ライン207を
15 捨象することはできないから、甲1発明に対して、当該溝部204及び
スクライブ・ライン207を設けずに、加工変質層206を切断の起点
にするという技術的事項を適用する動機があるとはいえない。
よって、相違点1が甲1発明、甲5文献に記載された事項及び周知慣用
技術に基づいて、当業者が容易に想到できた事項であるとはいえない。
20 甲1発明の半導体ウエハーにおいて、溝部204及びスクライブ・ラ
イン207を捨象することはできないものであり、加工対象物として、
切断予定ラインに沿った溝が形成されていない半導体ウエハーを採用す
ることには阻害事由があるから、相違点2に関し、甲1発明から、本件訂
正発明1に至ることはない。
25 相違点1及び2について以上のとおりであるから、相違点3について
判断するまでもなく、原告の主張する理由により本件訂正発明1を無効
とすることはできない。
⑷ 本件審決が認定した甲2発明、本件訂正発明1と甲2発明の一致点及び相
違点、相違点についての容易想到性の判断の要旨は、次のとおりである。
ア 甲2発明
5 半導体結晶ウェーハの裏面に、ペレットに分割するための起点となるス
クライブ溝を形成するレーザ加工装置であって、
前記半導体結晶ウェーハが載置される載置台と、
レーザー光を出射するYAGレーザーと、
前記載置台に載置された前記加工対象物の裏面近傍に、前記YAGレー
10 ザーから出射されたレーザー光が焦点を結び、その焦点の位置でスクライ
ブ溝を形成させる光学レンズ51と、
前記レーザー光の出力および前記半導体結晶ウェーハの移動速度を一定
として、スクライブ溝を入れる制御部と、を備える、
レーザ加工装置。
15 イ 本件訂正発明1と甲2発明の一致点及び相違点
一致点
ウェハ状の加工対象物に、切断の起点となる加工領域を形成するレー
ザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
20 レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射
されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で加工領域を形
成させる集光用レンズと、
レーザ光の集光点の移動速度を略一定にする機能を有する制御部と、
25 を備えるレーザ加工装置。
相違点
a 相違点1
本件訂正発明1は、加工対象物の「内部」の「改質領域」を切断の起
点とするのに対して、甲2発明は、半導体結晶ウェーハの裏面のスクラ
イブ溝が切断の起点である点。
5 b 相違点2
本件訂正発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記
切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であ
り、レーザ光源が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」を出射し、
集光用レンズが「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルス
10 レーザ光の集光点の位置」で改質スポットを形成するものであるのに
対し、甲2発明は、加工対象物が半導体結晶ウェーハではあるが、シリ
コンウェハではなく、レーザ光が、「パルス幅が1μs以下のパルスレ
ーザ光」であるのか不明である上に、光学レンズ51が「1パルスのパ
ルスレーザ光の照射により」そのパルスレーザ光の集光点の位置でス
15 クライブ溝を形成するのか不明である点。
c 相違点3
レーザ加工装置の「制御部」が、本件訂正発明1は、「隣り合う前記
改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予
定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改
20 質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物
の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパ
ルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ライ
ンに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有す
る」のに対し、甲2発明の制御部は、レーザー光の出力および半導体結
25 晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れる制御を行
っている点。
ウ 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨
甲2発明の目的は、半導体結晶ウェーハの内部ではなく、裏面にスクラ
イブ溝を形成することであるから、甲2発明のウェーハ裏面のスクライブ
溝に替えて、ウェーハ内部に改質領域を設けようと試みる動機はない。
5 甲2発明の切断の起点は、ウェーハの裏面に設けるスクライブ溝であっ
て、内部に設けた改質領域ではない。
甲2発明の「半導体結晶ウェーハの裏面」の「スクライブ溝」に替えて、
「ウェハ状の加工対象物の内部」に「改質領域」を設けるように構成し、当
該内部の改質領域を切断の起点とすることは、甲1文献、甲5文献、甲7文
10 献及びその他の証拠を参酌しても、動機付けられるものとはいえない。
甲2発明は、ウェーハの表面方向から、裏面を加工することを目的とす
る発明であり、裏面を加工すること自体に技術的意義を有するのに対して、
ウェーハの内部に切断の起点となる加工変質部を設けることは、甲2発明
の技術的意義を損なうものである。
15 したがって、相違点1について、甲2発明、甲1文献、甲5文献、甲7文
献に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たも
のとはいえない。
相違点1について以上のとおりであるから、他の相違点について検討す
るまでもなく、原告の主張する理由により本件訂正発明1を無効とするこ
20 とはできない。
⑸ 本件審決が認定した甲5発明、本件訂正発明1と甲5発明の一致点及び相
違点、相違点についての容易想到性の判断の要旨は、次のとおりである。
ア 甲5発明
厚板の合成石英ガラスに、連続的に微細なクラックを形成するエキシマ
25 レーザビームで切断加工する装置であって、
前記厚板の合成石英ガラスが載置される載置台と、
くり返し周波数が150Hzであるエキシマレーザビームを照射するエ
キシマレーザと、
前記載置台に載置された前記厚板の合成石英ガラスに、前記エキシマレ
ーザから照射されたエキシマレーザビームの焦点を合わせて、多光子吸収
5 により、その焦点の位置で微細なクラックを形成させるレンズと、
エキシマレーザビームのくり返し周波数及び焦点の移動速度を略一定に
して、エキシマレーザビームの焦点を前記厚板の合成石英ガラスの底面か
ら上方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させる制御部と、を備え
る、
10 エキシマレーザビームで切断加工する装置。
イ 本件訂正発明1と甲5発明の一致点及び相違点
一致点
加工対象物に、改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
15 パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射
されたパルスレーザ光を集光し、そのパルスレーザ光の集光点の位置で
改質された箇所を形成させる集光用レンズと、
パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動
20 速度を略一定にして、切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点
を移動させる機能を有する制御部と、を備えるレーザ加工装置。
相違点
a 相違点1
本件訂正発明1は、加工対象物の「内部」の改質領域を「切断の起点」
25 とするのに対して、甲5発明は、厚板の合成石英ガラスを、円筒形の切
断予定ラインに沿って連続的に微細なクラックを形成して切断するた
めに、エキシマレーザビームの焦点を厚板の石英ガラスの底面から上
方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させて切断するものであ
り、その切断の起点が不明である点。
b 相違点2
5 本件訂正発明1は、加工対象物が「ウェハ状の加工対象物」であって
「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成さ
れていないシリコンウェハ」であり、レーザ光源が「パルス幅が1μs
以下の」パルスレーザ光を出射し、集光用レンズが「1パルスのパルス
レーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質ス
10 ポットを形成」するものであるのに対し、甲5発明は、加工対象物が厚
板の合成石英ガラスであって、シリコンウェハではないとともに、エキ
シマレーザビームのパルスを「パルス幅を1μs以下」として、レンズ
が「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集
光点の位置で改質スポットを形成」するかどうか不明な点。
15 c 相違点3
「制御部」が、本件訂正発明1は、「隣り合う前記改質スポット間の
距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って
形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成する
ために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させ
20 た状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集
光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルス
レーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する」のに対し、甲5
発明は、厚板の合成石英ガラスを、円筒形の切断予定ラインに沿って連
続的に微細なクラックを形成して切断するために、エキシマレーザビ
25 ームの繰り返し周波数及び焦点の移動速度を略一定にして、エキシマ
レーザビームの焦点を前記厚板の石英ガラスの底面から上方向に円筒
形の切断予定ラインに沿って移動させるものである点。
ウ 相違点の容易想到性についての判断理由の要旨
甲5発明は、石英ガラス等の透明な材料から厚板を複雑な形状に切断加
工することを目的とするものであるのに対して、シリコンウェハは非常に
5 薄く、複雑な切断加工を要するものではないから、甲5発明の加工対象物
をシリコンウェハとする動機があるとはいえず、甲5文献にはそのような
動機付けとなり得る記載はなく、その他動機付けとなり得る事情も認めら
れない。
したがって、相違点2について、甲5発明及び周知慣用技術に基づいて、
10 当業者が容易になし得たものとはいえないから、他の相違点について検討
するまでもなく、原告の主張する理由により本件訂正発明1を無効とする
ことはできない。
4 取消事由
⑴ 訂正要件についての判断の誤り(取消事由1)
15 ⑵ 甲11発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り(取消事
由2-1)
⑶ 甲1発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り(取消事由
3-1)
⑷ 甲2発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り(取消事由
20 4-1)
⑸ 甲5発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り(取消事由
5-1)
前記 ないし を前提にした本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り(取消
事由2-2、3-2、4-2、5-2)
25 第3 当事者の主張
1 取消事由1(訂正要件についての判断の誤り)
⑴ 原告の主張
ア 訂正の目的について
本件審決は、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものと
判断し、また、被告は、後記⑵アのとおり、訂正事項1により、シリコン
5 単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されているシリコン
ウェハを切断し得る性能を有するが、シリコン単結晶構造部分に切断予
定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハを切断し得る性
能を有するとは限らないレーザ加工装置(以下「溝必須装置」という。)
が特許請求の範囲から除外されたものであると主張する。
10 しかし、訂正事項1における「シリコン単結晶構造部分に前記切断予
定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」については、
加工対象物がシリコン単結晶構造の場合において、「シリコン単結晶構
造部分」がどのような位置にあり、切断予定ラインに沿ってどのような
位置の溝をいうのか、どのような溝が形成されていないシリコンウェハ
15 をいうのか、不明確であり、本件訂正によって、どのようなシリコンウェ
ハが加工対象物になるのかを理解することができず、訂正後の特許請求
の範囲が明確とはいえないから、特許請求の範囲の減縮を目的とすると
は認められない。
また、物の発明においては、原則として、物の構成をもってその内容を
20 把握すべきであり、構成要件の中に、物の客観的な構成の他に、特定の用
途や使用方法に用いることが記載されていたとしても、その用途や使用
方法に用いるために物の構成が特定の構成に限られることがなければ、
それらの用途や使用方法の記載は、発明の構成を更に限定するものでは
ない。訂正事項1において、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラ
25 インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」を切断することが
その用途又は使用方法であったとしても、レーザ加工装置の構成がそれ
に限られることがない以上、その用途又は使用法の記載は、発明の構成
を限定するものではない。
さらに、サブコンビネーション発明のクレーム解釈を参照すると、本
件訂正の有無にかかわらず、特許請求の範囲によって定められる技術的
5 範囲の広狭はない。
よって、本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると
いう本件審決の判断は誤りである。
イ 新規事項の追加の有無について
本件明細書等には、シリコンウェハに溝を形成するか形成しないか、
10 形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載
はないし、その示唆もない。
本件明細書の【0025】には、「加工対象物がシリコン単結晶構造」
との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定
ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はない。
15 図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」であるとして
も、どこが「シリコン単結晶構造部分」に当たるのか不明であり、「シリ
コン単結晶構造部分」が切断予定ライン5に沿って存在するのかも不明
である。また、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った
溝が形成されていないシリコンウェハ」の存在が当業者にとって自明で
20 あるともいえない。
よって、訂正事項1は新規事項の追加となるから、本件審決の判断は
誤りである。
ウ 小括
以上によれば、本件訂正には訂正要件違反があり、これを認めなかった
25 本件審決には誤りがある。
⑵ 被告の主張
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1は、その文言上、シリコン単結晶構造部分に切断予定
ラインに沿った溝が形成されているシリコンウェハを切断し得る性能を有
するが、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成され
5 ていないシリコンウェハを切断し得る性能を有するとは限らないレーザ加
工装置(溝必須装置)を含むと解される余地があったのに対し、訂正事項1
により、当該溝必須装置が特許請求の範囲から除外されたのであり、訂正
事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
イ 新規事項の追加の有無について
10 図1ないし4に「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿っ
た溝が形成されていない」シリコンウェハが記載されていることは事実で
あり、当該シリコンウェハの大部分が単結晶構造であることは当業者に自
明なことであるから、「シリコン単結晶構造部分」が切断予定ライン5に沿
って存在することも当業者には自明なことである。したがって、新規事項
15 の追加があるとする前記⑴イ の原告の主張は失当である。
ウ 小括
以上によれば、本件訂正に訂正要件違反がないとした本件審決の判断に
誤りはない。
2 取消事由2-1(甲11発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断
20 の誤り)
⑴ 原告の主張
ア 甲11発明の認定に誤りがあることについて
甲11発明が加工対象物に溝部を形成しない発明として認定すること
ができることについて
25 a 甲11文献の【0020】から【0022】前段にかけては、ダイサ
ーにより基板に予め溝部を形成しておくと、切断面の形状に関係する
内部応力を生じさせることになり、ダイヤモンドスクライバーでは正
確にウエハーを分離できなくなることから、ダイサーにより生じた内
部応力に依存することなく、レーザースクライバーによる(基板の)
分割に寄与する局所的な応力を発生することによって、切断端面が綺
5 麗であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造できることが記載され
ている。甲11文献の【0022】の前段と後段との間が、「また」と
いう接続詞によって接続されているところ、前段においても、「端面
が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造すること
ができる」と記載されており、溝を設けない構成であっても1つの発
10 明として完成している旨が記載されていることになる。
そして、シリコンウエハーは、一般に非常に薄く、複雑な切断加工を
要するものではないから、当業者は、【0022】後段の規定する溝部
を形成せずに、同段落前半が規定する溝部を設けない方法によって、端
面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造できると
15 理解できる。このことからも、当業者は、甲11発明において溝部を形
成することは必須でないと理解する。
b 本件審決は、甲11文献におけるブレイク・ラインに沿ってローラ
ーにより荷重をかけて基板を切断分離する旨の記載を、甲11発明に
おいて基板に溝部を設けることを必須の構成と解する根拠とするが、
20 甲11文献において、基板に溝を設けることの問題点が指摘されてい
ること(【0027】)からすれば、甲11発明において、基板に溝部
を設けることが必須の構成と捉えるべきことにはならない。
c また、甲11文献の【0028】に「溝部の深さは半導体ウエハーの
厚みにもよるが量産性や分離のし易さから3.7μm以上が好ましく」
25 との記載が、【0032】に「発光ダイオード用の窒化物半導体ウエハ
ーとする場合・ ・pn接合を持つ窒化物半導体層で数μmから数十μ

mの厚みがある」との記載があることや、甲11発明の分割出願の意見
書(甲17)において「基板に溝部を形成せずに、基板上に形成された
窒化物半導体のみに溝部を形成することは、上記のような出願当初の
明細書叉は図面の開示事項から、当業者にとって自明な事項である」と
5 言及していることからすると、甲11発明は、半導体層に溝を形成し、
基板に溝を形成しない発明を含むものである。
d 加えて、甲11文献の【0007】に記載されている特開平8-27
4371号公報(甲54。以下「甲54文献」という。 の
) 【0017】
等の記載を参酌すると、甲11発明は、高温においても駆動可能な発光
10 ダイオードやレーザーダイオード等の発光素子を想定したものであり
(甲54文献の【0001】)、発光に伴う熱を逃がすために基板の板
厚を大きくする必要がある一方で、サファイアや窒化物半導体等の硬
い物質を含む基板の割断を容易にするために基板に溝部を設け、溝部
により薄くなった部分に切断の起点となる加工変質部を設けて基板を
15 切断するものであることが分かる。したがって、そのような熱の影響が
なければ、基板の板厚をあえて大きくしておく必要はないし、基板に溝
部を設けておく必要もないと当業者は理解する。そして、甲11文献は
基板の種類を限定しておらず、厚みがあってもさほど硬くなく、溝を形
成せずに切断できるものを含み得る。甲11文献自体に基板の厚みを
20 研磨により薄くする旨の記載があり(【0032】)、本件出願時にお
いて、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向があっ
た。
以上によれば、甲11発明は、以下のように認定されるべきである。
基板201の一方の表面に溝部は形成されておらず、他方の表面に島
25 状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201
の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機であって、
前記基板201が載置されるステージと、
YAGレーザー照射装置と、
前記ステージに載置された前記基板201の内部に、YAGレーザー
照射装置から発振されたレーザー光線を集光し、そのレーザー光線の焦
5 点の位置で微視的なマイクロ・クラックの集合を形成させるレーザーの
光学系と、
前記基板201の内部側にあるブレイク・ライン204に沿って形成
された前記微視的なマイクロ・クラックの集合である前記加工変質部を
形成するために、YAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光線
10 の焦点を前記基板201の内部に位置させた状態で、前記ブレイク・ラ
イン204に沿ってYAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光
線の焦点を直線的に移動させる制御部と、を備えるレーザー加工機。
イ 相違点の認定に誤りがあることについて
相違点1について
15 アで主張したところによれば、甲11発明の加工対象物として、「溝
部がない基板」を認定することができる。したがって、相違点1は、以
下のとおり認定されるべきである。ただし、甲11発明はブレイク・ラ
インに沿って形成される加工変質部が切断の起点と考えるべきであり
(甲11文献【0048】)、相違点1は実質的な相違点とはいえず、本
20 件審決の判断は誤りである。
<相違点1>
本件訂正発明1は、改質領域が切断の起点となるのに対し、甲11発明
は、改質領域に相当する加工変質部が「基板201の内部側」に形成され
ており、当該加工変質部が切断の起点となるものかは明らかでない点。
25 相違点2について
アで主張したところによれば、甲11発明の加工対象物として、「溝部
がない基板」を認定することができる。
したがって、相違点2は、以下のように認定されるべきである。
<相違点2>
本件訂正発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切
5 断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、
レーザ光源が「パルス幅がlμs以下のパルスレーザ光を出射する」も
のであり、「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ
光の集光点の位置で改質スポット」が形成され、改質領域が、「隣り合う
前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断
10 予定ラインに沿って形成された複数の改質スポット」によって形成され
ているのに対し、甲11発明は、加工対象物が一方の表面に溝部が形成
されていない基板201であるとともに、YAGレーザー照射装置がパ
ルスレーザ光を出射するものかどうかは不明であり、YAGレーザー照
射装置から照射されたレーザー光線の焦点の位置で微視的なマイクロ・
15 クラックの集合が形成され、改質領域に相当する加工変質部が、基板2
01の内部側にあるブレイク・ライン204に沿って形成された微視的
なマイクロ・クラックの集合によって形成されている点。
ウ 相違点2の容易想到性の判断に誤りがあることについて
イ のとおり正しく認定された相違点2を前提とした場合、甲11発
20 明における加工対象物として、シリコンウェハを採用することは当業者
にとっての選択的事項の範疇であるから、相違点2を克服することは容
易である。
仮に、相違点2について、本件審決の認定によるとしても、レーザ光線
を用いて半導体基板をスクライブする技術は、シリコン基板を含め、広
25 く適用されていたのであるから、甲11文献に接した当業者は、これを
シリコンウェハに適用することを自然に想到する。
また、前記のとおり、甲11文献自体に基板の厚みを研磨により薄くす
る旨の記載があるところ、シリコンウェハについては全体を薄くするこ
とが行われており、また、シリコンのように、へき開性を有し、硬度が低
い加工対象物を切断する場合、コストアップにつながる溝形成プロセス
5 を避け、溝を設けないでレーザ照射をしようと試みるといえるから、当
業者は、溝を形成しないシリコンウェハを加工対象物とすることを容易
に想到するということができる。
エ 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲11発明に基づいて当業者が容易に
10 発明をすることができたものであり、本件審決の判断には誤りがある。
⑵ 被告の主張
ア 甲11発明の認定に誤りがあるとの主張について
a 原告は、前記⑴ア aのとおり、甲11文献には、加工対象物に溝部
を設けない構成も記載されている旨主張する。
15 しかし、甲11文献の【0020】ないし【0022】の記載は、「ダ
イヤモンドスクライバーで溝部にスクライブ・ライン504を形成す
る代りに、レーザ照射により溝部にブレイク・ラインを形成するように
した。 という課題解決手段を採用した甲11発明の実施の形態を説明

した記載であるから、上記課題解決手段から外れた発明を説明するも
20 のでないことは明らかである。
また、甲11文献の【0022】前段の「本発明はダイサーにより生
じた内部応力に依存することなくレーザースクライバーにより分割に
寄与する局所的な応力を発生させる。 との記載は、
」 溝部が形成される
ことを前提に、【0021】に記載された従来技術の問題が、甲11発
25 明により改善されることを表す記載にすぎない。
b 原告は、前記⑴ア bのとおり、甲11文献の【0027】において、
基板に溝を設けることの問題点が指摘されていることからすれば、甲
11発明において、基板に溝部を設けることが必須の構成と捉えるべ
きことにはならない旨主張するが、同記載は、溝を形成することを前提
に、その溝の形成にダイサーではなくレーザーを使用する場合の問題
5 を述べたもので、溝を形成することは前提であり、不可欠であることを
示す記載といえる。
イ 相違点の認定に誤りがあるとの主張について
原告は、前記⑴イのとおり相違点の認定の誤りを主張するが、まず、甲
11発明の加工対象物として「溝部がない基板」を認定できることを前提
10 とするものについては、その前提が失当であることは、前記アのとおりで
ある。
また、甲11発明はブレイク・ラインに沿って形成される加工変質部が
切断の起点と考えるべきであり、相違点1は実質的な相違点とはいえない
とするものについては、甲11文献には、加工変質部204が切断の起点
15 となる旨の記載は一切ないから、いずれにしても本件審決の判断に誤りは
ない。
ウ 相違点の容易想到性の判断に誤りがあるとの主張について
原告は、前記⑴ウ のとおり、原告主張に係る相違点2の克服が容易
である旨主張するが、原告主張に係る相違点2が誤っていることは前記
20 イのとおりである。
また、原告は、前記⑴ウ のとおり、相違点2を本件審決のとおり認定
したとしても、当業者は、甲11発明をシリコンウェハに適用すること
を自然に思い付き、それを前提に、甲11発明において加工対象物を溝
が形成されていないものとすることが容易想到である旨主張する。
25 しかし、甲11発明の加工対象物を、「ダイヤモンドスクライバーのみ
で切断することは困難で、ダイサーのみで切断しようとすると、その切
断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗に切断できない」とい
う甲11発明の課題を有しないシリコンに置換するということは、甲1
1発明の課題解決手段を機能しないものとすることを意味し、阻害事由
がある。
5 また、シリコンを窒化物半導体の基板としたものを甲11発明の加工
対象物とすることにより得られる発明は、「シリコン基板の一方の表面
に溝部が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体が形成された半導体
ウエハーの基板の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機」の発
明であって、相違点2に係る本件訂正発明1の構成を備えた発明ではな
10 い。
エ 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲11発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものではなく、本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3-1(甲1発明を主引用例とする本件訂正発明1の進歩性の判断
15 の誤り)
⑴ 原告の主張
ア 相違点1の認定及び判断に誤りがあることについて
甲1文献の【0040】、【0046】及び【0047】の記載に照らせ
ば、甲1文献において、「溝部(スクライブ・ライン)に沿ってローラーに
20 よって荷重をかけ」るとは、溝部204の上から下にローラーで荷重をか
けることで、窒化物半導体ウエハーを切断分離するものである。
また、応力シミュレーション解析(甲45)によっても、甲1発明におい
て、基板201の内部に形成された加工変質層206が切断の起点となる
こと(並びに溝部204及びスクライブ・ライン207が切断の起点では
25 ないこと)が確認できた。
よって、本件審決の相違点1についての認定及び判断は誤りである。
イ 相違点2の認定及び判断に誤りがあることついて
加工対象物について
a 甲1文献において、基板に溝を設けることの問題点が指摘されてい
ること(【0027】)からすれば、ブレイク・ラインに沿ってローラ
5 ーにより荷重をかけて基板を切断分離する旨の記載があるからといっ
て、甲1発明において、基板に溝部を設けることが必須の構成と捉える
べきことにはならない。
b 甲1文献では、甲11文献同様、【0008】で従来技術として甲5
4文献を引用しており、熱の影響がなければ、基板の板厚をあえて大き
10 くしておく必要はないし、基板に溝部を設けておく必要もなく、基板を
薄くすれば足りると当業者であれば理解することは、甲11文献につ
いて、前記2⑴ア dにおいて主張したのと同様である。
本件優先日における技術水準に照らし、甲1発明において、ウェハ
状の加工対象物(基板)の材料を「シリコン」とすることは、当業者に
15 とっての選択的事項の範疇である。
よって、甲1発明において、加工対象物を、「シリコン単結晶構造部
分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェ
ハ」とすることは、当業者が容易に想到できたものである。
レーザー光について
20 シリコンやガラス等の切断等の処理に用いるYAGレーザーが「パル
ス幅が1μs以下のパルスレーザ光」であることは、本件優先日におい
て周知であった。
したがって、甲1発明において、「レーザ光源」として、「パルス幅が
1μs以下のパルスレーザ光を出射するもの」を用いることは当業者が
25 容易に想到できたことであり、甲1発明の加工対象物である基板をシリ
コン基板とした場合に、パルス幅の数値の最適化を行い、切断分離が円
滑になされるようにパルス幅の数値やパルス間隔を調整することは設計
事項である。
ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は甲1発明及び周知技術に基づいて当業
5 者が容易に発明をすることができたものといえないとした本件審決の判断
は、誤りである。
⑵ 被告の主張
ア 相違点1の認定及び判断に誤りがあるとする点について
原告は、前記⑴アのとおり、甲1発明において、加工変質層206が切断
10 の起点であると主張する。
しかし、甲1文献には、溝部204の上から下にローラーで荷重をかけ
る旨の記載はなく、甲1文献において切断の起点となるのは、溝部204
の底面に露出したスクライブ・ライン207であると考えるのが自然であ
る。
15 イ 相違点2の判断について
加工対象物について
a 原告は、前記⑴イ aのとおり、甲1文献の【0027】の記載を理
由にして、甲1発明において基板に溝部を設けることが必須の構成と
捉えるべきことにはならない旨主張するが、当該記載は、甲11文献の
20 【0027】と同様であるから、前記2 ア bのとおり失当である。
b 前記⑴イ bの原告の主張については、前記2 ウ 同旨。
レーザー光について
原告は、前記⑴イ のとおり、甲1発明において用いられる「レーザ光
源」や加工対象物に応じたパルス幅の数値やパルス間隔の調整は当業者
25 が容易に想到できたことであり、設計事項である旨主張する。
原告の主張が、甲1発明の構成をそのままに、レーザ光源(レーザー照
射部) 「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するもの」
を とす
ることが容易想到という趣旨であるとすれば、原告提出の文献(甲4、7、
46、47、48)の中には、「基板201の表面上に窒化物半導体層2
05、溝部204及び溝部204の底面にスクライブ・ライン207が
5 形成された半導体ウエハーの内部に、微視的なマイクロ・クラックの集
合である加工変質層206のスクライブ・ラインを形成するレーザ加工
機」において「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するもの」
を採用した例はないから、失当である。
また、甲1発明の構成を「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラ
10 インに沿った溝が形成されていないシリコンウェハの内部に切断の起点
となる改質領域を形成するレーザ加工装置」という構成に変えた上で、
レーザ光源として「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射する
もの」を採用することが容易想到であるという趣旨だとすると、甲1発
明の構成を上記のように変更すること自体が容易ではない上、いわゆる
15 「容易の容易」の論理になっている。
ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は甲1発明及び周知技術に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものといえないとした本件審決の判断
に、誤りはない。
20 4 取消事由4-1(甲2発明を主引用例とする本件訂正発明1の進歩性の判断
の誤り)
⑴ 原告の主張
ア 相違点1の認定・判断に誤りがあることについて
甲2文献には、発明の目的として、「本発明の目的は半導体結晶の表面
25 ・電極パターンに従い裏面を加工する方法を提供するものである。 との

開示があるが、これは、加工対象物が「裏面全体に金属電極を付加した半
導体結晶ウェーハ」である場合の発明の目的であり、甲2発明の加工対
象物は、「半導体結晶ウェーハ」であって、「裏面全体に金属電極を付加
した半導体結晶ウェーハ」に限定されない。
甲2文献には、発明の目的として、簡単でかつ信頼度の高い半導体結晶
5 ウェーハのレーザー加工法を提供することと、レーザースクライブにお
けるペレット分割の歩留まりを向上させることも記載されており、甲2
発明の技術的意義は、「レーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止
帯幅が大きい半導体結晶ではレーザー光がほとんど吸収されずに裏面に
到達することを用い、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近
10 傍に結ぶ」という手段を採用したことにあるのであって、半導体結晶ウ
ェーハの裏面を加工すること自体にあるのではない。
したがって、本件審決の相違点1の認定は誤りである。
甲2発明においても、加工対象物である半導体結晶ウェーハの裏面に
レーザでスクライブ溝を形成する際に、飛散物が発生したり、溶融物が
15 裏面に残る等の周知の課題(甲42、49、50及び51)が依然として
残ったままである。また、甲11文献、甲1文献にみられるとおり、本件
特許の優先日前において、
「ウェハ状の加工対象物の内部」 「改質領域」

を設けるように構成し、当該内部の改質領域を切断の起点とすることは、
周知の技術であり、レーザ光を用いて半導体基板を分割する技術という
20 点において甲2発明と上記の周知技術の技術分野は共通する。さらに、
甲2発明の一つの目的は、レーザースクライブにおけるペレット分割の
歩留まりを向上させることであり、上記の周知技術は、歩留まりを向上
させる作用機能を有するから、この点において甲2発明の目的(課題)等
と共通する。
25 そうすると、甲2文献に接した当業者は、甲2文献に記載された「レー
ザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅が大きい半導体結晶では
レーザー光がほとんど吸収されずに裏面に到達することを用い、レーザ
ー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶ」という手段に技術
的意義を有する発明を実施するに際し、上記の公知の課題を解決するた
めに、上記の周知技術を考慮し、甲2発明における「切断の起点となる領
5 域」を「半導体基板の内部」に位置する「改質領域」とし、相違点1に係
る構成とすることを、容易に想到したといえる。
したがって、本件審決の判断は誤りである。
イ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発
10 明をすることができたものといえないとした本件審決の判断は、誤りであ
る。
⑵ 被告の主張
ア 相違点の認定及び判断に誤りがあるとの主張について
原告は、前記⑴ア のとおり、甲2発明の技術的意義は、半導体結晶ウ
15 ェーハの裏面を加工すること自体にあるのではない旨主張するが、原告
主張の理由をもっては、裏面を加工することが甲2発明の技術的意義で
なくなるわけではない。
原告は、前記⑴ア のとおり、甲2発明における周知の課題を解決す
るために周知の技術(甲11文献、甲1文献)を考慮して、当業者は、甲
20 2発明における「切断の起点となる領域」を「半導体基板の内部」に位置
する「改質領域」とし、相違点1に係る構成とすることを、容易に想到し
た旨主張する。
しかし、仮に、原告主張の各文献(甲42、49、50及び51)に記
載される上記課題が甲2発明にも当てはまるとしても、それによって動
25 機付けられるのは、甲2発明に上記各文献において開示されている課題
解決手段を採用することであって、「加工対象物の内部に切断の起点と
なる改質領域を形成する」という構成ではない。
また、甲11発明も甲1発明も、「ダイヤモンドスクライバーで切断す
ることは困難で、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、
チッピングが発生しやすく綺麗に切断できない、基板から窒化物半導体
5 層が部分的に剥離する」等の課題を有しない加工対象物に適用されるこ
とは全く想定されていない。さらに、甲11発明は、ブレイク・ラインを
溝部の底面に形成することを必須とした発明であり、甲1発明は、加工
対象物の内部に形成するスクライブ・ライン206に加えて溝部204
の底面に露出したスクライブ・ライン207を形成することを必須とし
10 た発明である。そうすると、原告主張の周知技術を考慮して、相違点1に
係る構成とすることを容易に想到したとはいえない。
したがって、原告の主張は失当である。
イ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発
15 明をすることができたものといえないとした本件審決の判断に誤りはない。
5 取消事由5-1(甲5発明を主引用例とする本件訂正発明1の進歩性の判断
の誤り)
⑴ 原告の主張
ア 甲5発明の認定に誤りがあることについて
20 加工対象物について
甲5文献には加工対象物が厚板の合成石英ガラスに限定されるとする
記載はなく、甲5発明において、シリコンウェハのような薄いものも加
工対象物となる。
よって、甲5発明における加工対象物は「透明材料」と認定されるべき
25 であり、これを「厚板の合成石英ガラス」と認定した本件審決の判断は誤
りである。
加工用レーザについて
甲5文献には、加工用レーザとして、エキシマレーザに限らず、YAG
レーザ等を用いることを開示しており、透明材料の高エネルギービーム
に対する吸収特性に応じて、適切な高エネルギービームを選択する動機
5 付けについても開示する。
よって、甲5発明において、加工用レーザについて「くり返し周波数が
150Hz であるエキシマレーザビームを照射するエキシマレーザ」と限
定した本件審決の認定は誤りであり、正しくは、「高エネルギービームを
出射するレーザ光源」と認定されるべきである。
10 レーザビームの焦点の移動(加工対象物の移動)について
甲5文献には、「ワーク内部での焦点位置の水平方向の移動は、ワーク
自体を水平方向に移動させることによっておこなった」とあり、これは、
レーザの焦点(集光点)が所望したとおりに直線的に移動することを意
味するから、本件訂正発明1のように「切断予定ラインに沿ってパルス
15 レーザ光の集光点を直線的に移動させる」ことが実質的に記載されてい
るといえる。
よって、甲5発明において、レーザビームの焦点の移動について、「前
記厚板の合成石英ガラスの底面から上方向に円筒形の切断予定ラインに
沿って移動させる」と限定した本件審決の認定は誤りであり、正しくは、
20 「前記透明材料の切断予定ラインに沿って移動させる」と認定されるべ
きである。
イ 相違点2の認定及び容易想到性の判断に誤りがあることについて
相違点2の認定について
前記アのとおり認定した甲5発明を踏まえると、相違点2は、以下の
25 とおり認定されるべきである。
<相違点2>
本件訂正発明1は、加工対象物が「ウェハ状の加工対象物」であって
「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成され
ていないシリコンウェハ」であるのに対し、甲5発明は、加工対象物が
「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成され
5 ていないシリコンウェハ」であるとの特定がなされていない点。
相違点2の判断について
a 前記ア のとおり、甲5発明において、加工対象物は厚板の合成石
英ガラスに限定されず、また、前記ア のとおり、加工用レーザもエキ
シマレーザに限定されない。
10 加工対象物をシリコンウェハとする場合は、シリコンウェハの吸収
特性に応じて、適切なレーザ(例えばYAGレーザ)を選択すればよい。
そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。
b 仮に、相違点2を本件審決のように理解するとしても、相違点2に
係る本件訂正発明の構成は、本件優先日における周知技術に基づき当
15 業者が容易に想到することができたものであった。
すなわち、本件優先日において、レーザ割断技術をガラスやシリコ
ン基板などの脆性材料に適用することは当業者にとって周知技術であ
り、これを踏まえると、当業者は、甲5文献に記載されたYAGレーザ
等のレーザを用いて加工対象物を割断する発明を、石英ガラスのよう
20 な透明材料だけでなく、同じ脆性材料であるシリコン基板にも適用し
ようと動機付けられる。
ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は甲5発明に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものといえないとした本件審決の判断は、誤りであ
25 る。
⑵ 被告の主張
ア 甲5発明の認定に誤りがあるとする点について
原告は、前記⑴アのとおり、甲5発明における、①加工対象物、②加工用
レーザ、③レーザビームの焦点の移動について、甲5発明の認定に誤りが
ある旨主張する。
5 しかし、そもそも、本件審決の認定は、原告が審判請求書(乙7)で主張
した甲5発明(甲5文献の実施例1)に基づくものであり、これを否定する
原告の主張は信義則に反するし、原告の主張する構成は、刊行物に記載さ
れた技術的思想ないし技術的構成を、刊行物の具体的な記載から離れて、
抽象化、一般化ないし上位概念化するものである。
10 イ 相違点2の認定・判断に誤りがあるとする点について
原告は、前記⑴イ aのとおり、本件審決が誤りである根拠として、甲
5発明において、加工対象物は厚板の合成石英ガラスに限定されず、ま
た、加工用レーザもエキシマレーザに限定されないことを挙げるが、本
件審決は、「・・・甲5発明を適用する加工対象物として、透明で厚板な
15 材料や、複雑な形状を切断加工するような材料を選択することはあると
しても、・・・」として、甲5発明の加工対象物が「厚板の合成石英ガラ
ス」には限定されないことを踏まえた判断をしているし、甲5文献に開
示のあるレーザ光源についても、それが「エキシマレーザ」に限定されて
いるとは判断しておらず、甲5発明(甲5文献の実施例1)の構成のまま
20 ではシリコンウェハの内部を加工できないという事実に基づく判断を示
しているにすぎないから、原告の主張は前提を欠く。
また、原告は、加工対象物をシリコンウェハとする場合は、シリコンウ
ェハの吸収特性に応じて、適切なレーザを選択すればよい旨主張するが、
加工対象物をシリコンウェハとすること自体が容易想到ではない。
25 加えて、原告は、前記⑴イ bのとおり、本件優先日において、レーザ
割断技術をガラスやシリコン基板などの脆性材料に適用することは当業
者にとって周知技術であると主張するが、それらの周知技術は、甲5発
明のように「石英ガラスなどの透明材料からなる被加工物の厚味に影響
を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能」とするものではない
し、甲5発明のように「連続的なクラックにより切断を行うようにした
5 もの」でもないから、甲5発明の加工対象物をシリコンウェハに置換す
ることを何ら想起させるものではない。
ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は甲5発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものといえないとした本件審決の判断に誤りはない。
10 6 取消事由2-2、3-2、4-2、5-2(前記2ないし5を前提にした本件
訂正発明2の進歩性の判断の誤り)
⑴ 原告の主張
本件訂正発明2は、本件訂正発明1の構成を含んでさらに限定したもので
あるから、本件審決における甲11発明、甲1発明、甲2発明及び甲5発明を
15 それぞれ主引用例とする本件訂正発明1の進歩性の判断に、前記2ないし5
の各 のとおり誤りがある以上、本件審決における甲11発明、甲1発明、甲
2発明及び甲5発明をそれぞれ主引用例とする本件訂正発明2の進歩性の判
断にも誤りがある。
⑵ 被告の主張
20 本件審決における甲11発明、甲1発明、甲2発明及び甲5発明をそれぞ
れ主引用例とする本件訂正発明1の進歩性の判断に誤りはないから、本件審
決における甲11発明、甲1発明、甲2発明及び甲5発明をそれぞれ主引用
例とする本件訂正発明2の進歩性の判断にも誤りはない。
第4 当裁判所の判断
25 1 本件発明について
⑴ 本件明細書等には、本件発明について、別紙1の記載がある。
⑵ 前記⑴の記載事項によれば、本件明細書等には、本件発明に関し、次のよう
な開示があることが認められる。
ア 本件発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象
物の切断に使用されるレーザ加工装置に関する(【0001】)。
5 イ レーザを切断に用いる場合、半導体ウェハ等の加工対象物の切断する箇
所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収に
より切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を
進行させるが、加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶
融されるため、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に
10 形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置するものが溶融する恐
れがあるという問題があった(【0002】)。
この溶融を防止する方法として、加工対象物の切断する箇所をレーザ光
により加熱し、加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する
箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する方法があるが、加工対象
15 物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから
外れるなど不必要な割れが発生することがあるため精密切断をすることが
できず、特に、加工対象物が半導体ウェハの場合、この不必要な割れにより
半導体チップが損傷することがあり、また、これらの切断方法では平均入
力エネルギーが大きいので、半導体チップ等に与える熱的ダメージも大き
20 いという問題があった(【0003】、【0004】)。
本件発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させること
なくかつその表面が溶融しないレーザ加工装置を提供することである 【0

005】)。
ウ 本件発明に係るレーザ加工装置においては、ウェハ状の加工対象物の内
25 部に集光点を合わせてパルスレーザ光を照射することにより、切断予定ラ
インに沿って加工対象物の内部に改質領域を形成しており、改質領域を起
点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対
象物を切断することができ、比較的小さな力で加工対象物を切断すること
ができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割
れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となり、また、加工対象
5 物の内部に局所的に改質領域を形成しているので、加工対象物の表面が溶
融することはない(【0007】、【0008】)。
エ 本件発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の表面に溶融や切
断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断するこ
とができ、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導
10 体チップ等)の歩留まりや生産性を向上させることができるという効果を
奏する(【0010】)。
2 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について
⑴ 訂正の目的について
ア 訂正前の請求項1の記載は、「加工対象物」である「シリコンウェハ」に
15 ついて、その文言上、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿
った溝が形成されているシリコンウェハ」を概念的には含むものであった
のに対し、訂正事項1により、そのようなシリコンウェハを除く形で限定
されるものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とす
るものといえる。
20 別の観点からいえば、訂正前の請求項1の記載は、その文言上、「レーザ
加工装置」の構成として、切断予定ラインに沿った溝が存在するシリコン
ウェハを切断し得る性能を有するが、そのような溝が存在しないシリコン
ウェハを切断し得る性能を有するとは限らない「レーザ加工装置」(溝必須
装置)を概念的には含むものであったのに対し、訂正事項1により、そのよ
25 うな装置を除く形で請求項1に係る発明のレーザ加工装置を特定したので
あるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものともい
える。
イ 原告は、前記第3の1⑴ア のとおり、訂正事項1における「シリコン単
結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコ
ンウェハ」については、加工対象物がシリコン単結晶構造の場合において、
5 「シリコン単結晶構造部分」や溝の位置、どのような溝が形成されていな
いのかが特定されておらず不明確であるから、訂正後の特許請求の範囲が
不明確であると主張するが、そのような具体的な事項まで特定されなけれ
ば、訂正事項1が減縮か否かを判断できないほどに不明確であるとは考え
られない。
10 また、原告は、前記第3の1⑴ア のとおり、訂正事項1によって、請求
項1の装置について、溝が形成されていないシリコンウェハを切断するこ
とが用途になるとしても、レーザ加工装置の構成がそのような特定の構成
に限られるものではないから、発明の構成を限定するものではないとか、
いわゆるサブコンビネーション発明の理論によれば訂正の前後で発明の要
15 旨の認定は変わらない旨主張する。しかし、アに説示したとおり、訂正事項
1により概念上請求項1に係る発明が限定されることは明らかであり、特
許法134条の2第1項の「特許請求の範囲の減縮」への該当性を判断す
るに当たっては、これで足りると解するのが相当である。また、本件発明を
サブコンビネーション発明と解するかはさて措くとして、本件における上
20 記該当性を判断するに当たって、サブコンビネーション発明のクレーム解
釈や特許要件の考え方を直接参考にする必要性があるとは認め難いし、い
ずれにしても本件においては、訂正事項1に係る事項は、加工対象物のみ
を特定する事項にとどまらず、レーザ加工装置自体についてもその構造、
機能を特定する意味を有するものと解するべきであるから(本件訂正前は、
25 溝必須装置のように溝が形成されているシリコンウェハを切断する構造を
有すれば、これをもって特許要件を満たし得たのに対し、本件訂正後はこ
のような構造を有するのでは足りず、溝が形成されていないシリコンウェ
ハを切断する構造を有することが必要とされることになる。 、
) 原告の主張
するところは、本件訂正が、特許請求の範囲の減縮であることを否定する
に足りるものではない。
5 ⑵ 新規事項の追加の有無について
ア 前記⑴アのとおり、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明か
ら、概念的に包含されていた「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラ
インに沿った溝が形成されているシリコンウェハ」ないし溝必須装置を除
くにすぎないから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項1により、
10 請求項1に係る発明の「レーザ加工装置」に新たな技術的事項が追加され
ることはない。
本件明細書の記載に照らしてみても、「加工対象物がシリコン単結晶構
造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。」(【002
5】 として、
) シリコン単結晶構造のシリコンウェハを加工対象物とする場
15 合が記載されているし、本件明細書等の図1及び図3は、加工対象物1上
の切断予定ラインが図示された平面図であるが、図1のII-II線に沿
った断面図である図2、図3のIV-IV線に沿った断面図である図4の
いずれにおいても、溝は形成されていないことが看取される。そして、本件
明細書の【0031】の「なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点と
20 して断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表
面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの
表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象
物に力が印加されることにより成長する場合もある。」との記載に鑑みれ
ば、本件明細書のレーザ加工装置は、切断予定部分の溝の有無に依存せず
25 に、改質領域を起点として切断できるものである。
したがって、本件明細書等には、シリコン単結晶構造部分に前記切断予
定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハないしこれを切断
することができるレーザ加工装置が記載されているといえるから、この点
からしても、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項との関係におい
て新たな技術的事項を導入するものではない。
5 イ 原告は、前記第3の1⑴イ のとおり、本件明細書等には、溝の形成等に
関する具体的な記載や示唆はなく、「シリコン単結晶構造部分に前記切断
予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の存在が当業
者にとって自明であるともいえないから、訂正事項1は新規事項を導入す
るものである旨主張する。
10 しかし、図1ないし4によれば、「切断予定ライン」は記載されている一
方で、「溝」は記載されていないところ、訂正前の本件発明において「溝」
が存在することが前提となっているのであれば、「切断予定ライン」を記載
しながら「溝」をあえて記載しないことは不自然というほかない。
また、【0002】の「例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対
15 象物の切断する箇所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、
レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に
向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。しかし、この方法で
は加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よ
って、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成され
20 た半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れ
がある。」との記載は、「半導体ウェハ」本体の表面に「半導体素子」を形
成することを前提とするものであることが明らかであるから、切断の対象
となる「半導体ウェハ」が「シリコンウェハ」の場合にも、「単結晶シリコ
ンからなるウェハ」本体の表面に半導体素子を構成する構造を有するもの
25 であって、「シリコン単結晶構造部分」がこの「単結晶シリコンからなるウ
ェハ本体」を指すことは、当業者に自明の事項というべきであり、これは図
1ないし4についても同様である。
したがって、原告の主張は、前記アの認定を左右するに足りるものでは
ない。
⑶ 訂正が実質上特許請求の範囲を変更し、又は拡張するかについて
5 前記のとおり、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明に、概念的
に包含されていた、
「切断予定ラインに沿った溝が存在するシリコンウェハ」
ないし溝必須装置を除くにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、
又は変更するものではない。
⑷ 小括
10 以上のとおりであって、本件訂正は訂正要件を満たすものであり、本件審
決の判断に誤りはないから、取消事由1は理由がない。
3 取消事由2-1(甲11発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断
の誤り)について
⑴ 甲11発明について
15 ア 甲11文献には、別紙2の記載がある。
イ アによれば、甲11文献には、次のような開示があり、本件審決が認定す
るとおりの甲11発明を認めることができる。
甲11発明は、基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから
窒化物半導体素子を分割する製造方法に関する(【0001】)。
20 結晶性の良い窒化物半導体の単結晶膜を得るため、サファイアやスピ
ネル基板など上にバッファーを介して形成させることが行われているが、
サファイアや窒化物半導体とも非常に硬い物質であり、ダイヤモンドス
クライバーのみで切断することは困難であった。また、ダイサーでフル
カットすると、その切断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗
25 に切断できないという問題があった 【0004】
( ないし【0006】 。

ダイサーで溝部を形成し、溝部にダイヤモンドスクライバーでスクラ
イブ・ラインを形成することで上記問題を解決する従来発明では、ダイ
ヤモンドスクライバーの刃先が溝部の底に到達するため、溝部の幅を広
くするか、溝部を浅くしなければならず、前者を採用すると半導体素子
の取り数が減少し、後者を採用すると切断が困難となるという問題があ
5 った(【0007】ないし【0010】)。
そこで、甲11発明は、レーザー照射により溝部にブレイク・ラインを
形成することとした(請求項1、【0019】)。
ウ 甲11発明の認定に誤りがあるとの主張について
原告は、甲11発明が加工対象物に溝部を形成しない発明として認定す
10 ることができるとして種々主張するが、以下のとおり、いずれも採用でき
ない。
原告は、前記第3の2⑴ア aのとおり、甲11文献の【0022】前
段の記載によれば、溝を設けない構成であっても1つの発明として完成
しているから、甲11発明において溝部を形成することを必須のものと
15 した本件審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし、甲11文献の【0020】は、「本発明の方法による分離端面
がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部
形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレ
イクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。」と記
20 載しており、特定の実施例ではなく、甲11文献に記載される全ての発
明に関して、分離端面が平坦に形成される理由について、溝部形成に伴
う内部応力と、レーザー照射により形成されるブレイクラインの双方が
関与していることを示しており、他に前記課題の解決の機序となるもの
の存在をうかがわせる記載はない。
25 そして、甲11文献の【0020】ないし【0022】の記載は一連の
ものとなっており、上記【0020】のとおり、溝部の形成により生じた
内部応力も割断に作用することを前提とした上で、ダイサーやダイヤモ
ンドスクライバー等により溝部を形成し、溝部の底面に沿ってダイヤモ
ンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する場合に、溝部形
成により生じ、半導体ウエハー内に保持された応力により所望通りの端
5 面が形成されないという問題点(【0021】)について、【0022】
前段で、ダイサーによる溝部形成のために生じた内部応力のみに依存す
るのでなく、レーザースクライバーにより発生した局所的な応力と相ま
って、端面が綺麗(平坦)で量産性のよい窒化物半導体素子を製造するこ
とが記載されていると理解できる。
10 そうすると、甲11文献の【0022】前段も、溝部を形成し、溝部に
スクライブ・ラインを形成する発明を前提としてその改善を図るものに
すぎないことは明らかであり、甲11発明において溝部を形成しないこ
とも想定されているとはいえない。
原告は、前記第3の2⑴ア bのとおり、甲11文献の【0027】の
15 記載によれば、甲11発明において、基板に溝部を設けることが必須の
構成と捉えるべきことにはならない旨主張するが、同記載は、「基板の厚
さとしてはレーザー加工機の加工精度や出力により種々選択することが
できるがレーザーにより大きい溝(深い溝)を形成させる場合はダイヤ
モンドスクライバーやダイサーに比べて時間が掛かること及び長時間の
20 加熱による部分的な破壊などの観点からレーザー加工による溝などを大
きくさせすぎないことが好ましい。 としており、
」 溝の形成そのものにつ
いての問題は何ら指摘されておらず、溝を形成することを前提に、その
溝の形成にダイサーではなくレーザーを使用する場合の問題を述べたも
のであることは明らかであるから、上記主張は採用できない。
25 原告は、前記第3の2⑴ア cのとおり、甲11文献の【0028】の
溝部の深さの記載、【0032】の窒化物半導体層の厚さの記載、甲11
文献の分割出願の意見書(甲17)の記載をもって、甲11文献では基板
に溝が形成されない場合があると主張するが、これらは、直接、甲11発
明において、基板に溝が形成されるか否かを記載しているものではなく、
甲11発明では基板に溝が形成されない場合があることを裏付けるには
5 足りない。
原告は、前記前記第3の2⑴ア dのとおり、甲11文献の記載ぶり
を踏まえれば、当業者は、熱の影響がなければ、基板の板厚をあえて大き
くしておく必要はないし、基板に溝部を設けておく必要もないことを理
解するところ、甲11文献自体に厚みを薄くすることが記載されている
10 こと、本件出願時にシリコンウエハが薄くなる傾向があったことから、
溝部の形成が必要ないと理解する旨主張する。
しかし、前記 のとおり、甲11発明は、課題の解決の機序として、
「溝
部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生じること」を前提としているも
のであり、溝部形成に伴って生じる内部応力が、半導体ウエハーを薄く
15 することだけで得られることを示す記載は甲11文献にはない(甲11
文献の「レーザーによる加工を行いやすくするために基板の厚みを研磨
により薄くすることができる。」(【0032】)との記載も、基板の厚
みを薄くすることが、溝部形成に代わる意味があるものであることを示
しているものとはいえない。 から、
) 甲11文献に接した当業者において、
20 溝部の形成が必要ないと理解するとはいえず、原告の主張は採用できな
い。
以上のとおりであって、本件審決が、甲11発明が加工対象物につい
て溝部を形成するものであると認定したのは相当であり、本件審決の甲
11発明の認定に誤りはない。
25 ⑵ 相違点の認定、判断について
事案に鑑み、相違点2の認定、判断についてまず検討する。
ア 相違点2の認定について
原告は、前記第3の2⑴イ のとおり、本件審決の相違点2の認定に誤り
がある旨主張するが、これは、甲11発明の加工対象物が溝部を形成しない
ものであることを前提とするものであるところ、同主張が採用できないこと
5 は前記⑴ウのとおり明らかであり、本件審決の相違点2の認定に誤りはない。
イ 相違点2の判断について
前記⑴ウにおいて説示したところによれば、甲11文献に接した当業
者が、基板201から、半導体ウエハーの切断に利用される内部応力を
もたらす溝部203を捨象することは想定し得ず、加工対象物として、
10 ブレイクラインに沿った溝が形成されていない基板201を採用し、表
面に溝が形成されていない基板201の内部側に形成された加工変質部
を形成するよう改変を行う動機付けは存在しないのみならず、このよう
な改変にはむしろ阻害事由があるというべきであるから、甲11発明か
ら、相違点2に係る本件発明1の構成に至ることはないというべきであ
15 り、相違点2の判断に関する原告の主張中、甲11発明において溝部の
形成を必須のものとしないことを前提とする部分は、理由がないことは
明らかである。
原告は、前記第3の2⑴ウ のとおり、相違点2について本件審決の
認定によるとしても、レーザ光線を用いて対象物をスクライブする技術
20 は、シリコン基板を含め、広く適用されていたから、甲11発明に接した
当業者は、これをシリコンウェハに適用することを自然に思い付く旨主
張する。
しかし、レーザ光線の焦点を当てたシリコンウェハの内部の部分を起
点として切断することが広く知られていたという証拠はないし、シリコ
25 ンウェハは、甲11発明が想定する加工対象物のように「ダイヤモンド
スクライバーのみで切断することは困難」であるという課題を有するわ
けでもないから、原告の主張は採用できない。
⑶ 小括
以上のとおりであって、本件審決における本件訂正発明1と甲11発明の
相違点2の認定及びその容易想到性の判断に誤りはないから、その他の点に
5 ついて判断するまでもなく、本件訂正発明1は、甲11発明を主引用例とし
て、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審
決の判断に誤りはない。
したがって、原告主張の取消事由2-1は理由がない。
4 取消事由3-1(甲1発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性の判断の
10 誤り)について
⑴ 甲1発明について
ア 甲1文献には、別紙3の記載がある。
イ アによれば、甲1文献から、本件審決が認定したとおりの甲1発明を認
定することができる。
15 ⑵ 相違点の認定・判断に誤りがあるとの主張について
事案に鑑み、相違点2の判断の誤りの有無についてまず検討する。
ア 本件訂正発明1の加工対象物は、「シリコン単結晶構造部分に前記切断
予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対
し、甲1発明の加工対象物は、「溝部204及び溝部204の底面にスクラ
20 イブ・ライン207が形成された半導体ウエハー」である。
そして、甲5文献その他の証拠を参酌しても、甲1発明の半導体ウエハ
ーから溝部204及びスクライブ・ライン207を捨象して、加工対象物
を、切断予定ラインに沿った溝が形成されていないものとした場合におい
ても、半導体ウエハーの内部側に形成された加工変質部(スクライブ・ライ
25 ン206)のみによって基板が切断(分離)できると理解できるような事情
は見いだせない。したがって、当業者が、甲1発明における加工対象物を
「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されて
いないシリコンウェハ」に置換する動機付けがあるとも認められない。
イ 原告は、前記第3の3⑴イ aのとおり、甲1文献の【0027】の記
載によれば、甲1発明において、基板に溝部を設けることが必須の構成
5 と捉えるべきことにはならない旨主張する。しかし、甲1文献の【002
7】の記載は、甲11文献の【0027】と同旨のものであり、溝の形成
そのものについての問題は何ら指摘されておらず、溝を形成することを
前提に、その溝の形成にダイサーではなくレーザーを使用する場合の問
題を述べたものであり、むしろ、溝の形成が当然の前提となっているこ
10 とを示すものであるから、上記主張は採用できない。
原告は、前記第3の3⑴イ bのとおり、甲1文献に接した当業者は、
甲11文献の場合と同様、熱の影響がなければ、基板の板厚をあえて大
きくしておく必要はないし、基板に溝部を設けておく必要もないと理解
し、甲1発明において、ウェハ状の加工対象物(基板)の材料を「シリコ
15 ン」とすることは、当業者にとっての選択的事項の範疇であるから、甲1
発明において、加工対象物を、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定
ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」とすることは、
当業者が容易に想到できた旨主張する。
しかし、甲1文献においても、基板の板厚が小さくなれば溝は必要が
20 ないものであるとは直ちに理解できず、前記3⑵イ と同様の理由によ
り、原告の主張が採用できないことは明らかである。
⑶ 小括
以上のとおりであって、本件審決における本件訂正発明1と甲1発明の相
違点2の認定及びその容易想到性の判断に誤りはないから、その他の点につ
25 いて判断するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明を主引用例として、当
業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判
断に誤りはない。
したがって、原告主張の取消事由3-1は理由がない。
5 取消事由4-1(甲2発明を主引用例とする本件訂正発明1の進歩性の判断
の誤り)について
5 ⑴ 甲2発明について
ア 甲2文献には、別紙4の記載がある。
イ アによれば、甲2文献から、本件審決が認定したとおりの甲2発明を認
定することができる。
⑵ 相違点の認定・判断に誤りがあるとの主張について
10 事案に鑑み、相違点1の認定、判断の誤りの有無について検討する。
ア 相違点1の認定について
原告は、前記第3の4⑴ア のとおり、甲2発明の加工対象物は、「半導
体結晶ウェーハ」であって、「裏面全体に金属電極を付加した半導体結晶ウ
ェーハ」に限定されないと主張する。
15 しかし、甲2発明は、加工対象物の内部に切断の起点となる改質領域を
形成するものではなく、加工対象物たる半導体結晶ウェーハの裏面に、ペ
レットに分割するための起点となるスクライブ溝を形成するものであるか
ら(原告は、甲2発明についての本件審決の認定を争っていない。)、本件
訂正発明1と甲2発明との間に本件審決が認定したとおりの相違点1が存
20 在することは明らかである。
イ 相違点1の判断について
甲2文献の1頁右欄19行目ないし2頁左欄1行目に、「本発明の目
的は半導体結晶の表面・電極パターンに従い裏面を加工する方法を提供
するものである」と記載されているように、甲2発明の目的は、半導体結
25 晶ウェーハの裏面を表面方向からのレーザー光の照射によって加工する
こと、すなわち半導体結晶ウェーハの内部ではなく、裏面にスクライブ
溝を形成することであるから、甲2文献の記載に接した当業者が、切断
の起点として、甲2発明の半導体結晶ウェーハの裏面のスクライブ溝に
代えて、本件発明1のように、ウェハ状の加工対象物の内部に改質領域
を設けようと試みることは動機付けられず、本件審決の判断に誤りはな
5 い。
原告は、前記第3の4⑴ア のとおり、甲2文献には、発明の目的とし
て、上記のほかにも、簡単でかつ信頼度の高い半導体結晶ウェーハのレ
ーザー加工法を提供することと、レーザースクライブにおけるペレット
分割の歩留まりを向上させることが記載されていること、甲2発明の技
10 術的意義は、「レーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅が大
きい半導体結晶ではレーザー光がほとんど吸収されずに裏面に到達する
ことを用い、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶ」
という手段を採用したことにあることが記載されていることを指摘する
が、これらの記載をもって、半導体結晶ウェーハの裏面を加工すること
15 が、甲2発明の目的ではないとか、技術的意義ではないということはで
きないし、切断の起点として、甲2発明の半導体結晶ウェーハの裏面の
スクライブ溝に代えて、本件発明1のように、ウェハ状の加工対象物の
内部に改質領域を設けようと試みることの動機付けになるともいえない。
原告は、前記第3の4⑴ア のとおり、甲2発明における周知の課題
20 を解決するために周知の技術(甲11文献、甲1文献)を考慮して、当業
者は、甲2発明における「切断の起点となる領域」 「半導体基板の内部」

に位置する「改質領域」とし、相違点1に係る構成とすることを、容易に
想到した旨主張する。
しかし、原告主張の文献(甲42、49、50及び51)に記載の課題
25 が甲2発明に当てはまるとしても、それによって動機付けられるのは、
これらの文献に記載された課題解決手段を採用することにすぎない。
また、甲11文献や甲1文献は、基板に溝を設けることを必須とした上
で、「ウェハ状の加工対象物の内部」に「改質領域」を設けるものである
ことは前記3及び4において説示したとおりであるから、これら各文献
を根拠に、「ウェハ状の加工対象物の内部に改質領域を設けるように構
5 成し、当該内部の改質領域を切断の起点とすること」という上位概念の
周知技術が存在していたとはいえない。
⑶ 小括
以上のとおりであって、本件審決における本件訂正発明1と甲2発明の相
違点1の認定及びその容易想到性の判断に誤りはないから、その他の点につ
10 いて判断するまでもなく、本件訂正発明 1 は、甲2発明を主引用例として、
当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の
判断に誤りはない。
したがって、原告主張の取消事由4-1は理由がない。
6 取消事由5-1(甲5発明を主引用例とする本件訂正発明1の進歩性の判断
15 の誤り)について
⑴ 甲5発明について
ア 甲5文献には、別紙5の記載がある。
イ アによれば、甲5文献から、本件審決が認定したとおりの甲5発明を認
定することができる。
20 ⑵ 甲5発明の認定、相違点2の認定及び判断に誤りがあるとの主張について
ア 甲5発明の認定について
原告は、前記第3の5⑴ア のとおり、甲5文献には加工対象物が厚板
の合成石英ガラスに限定されるとする記載はなく、甲5発明において、シ
リコンウェハのような薄いものも加工対象物となると主張する。
25 しかし、甲5発明は、従来の切断加工機械や円形の加工機械では複雑な
加工ができず、炭酸ガスレーザを利用したレーザ切断機では、溶断する厚
さに対し限度があり、現状では10mm程度が限界であるという課題があ
ることから、石英ガラス等の透明材料を複雑な形状に切断加工すること、被
加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とす
ることを目的とするものであり(1頁右欄11行ないし2頁左上欄5行)、
5 透明材料の内部に焦点をあわせ、透明材料に対し吸収の無い高エネルギー
ビームを照射し、微細なクラックを透明材料の内部に発生させ、これを連
続させることによって透明材料を複雑な形状に切断加工でき、ワークの厚
味に影響を受けず、自由な形状に加工できるという効果を奏するとされる
ものであるから(3頁右上欄17行ないし左下欄4行)、甲5発明が厚みの
10 ないものも対象とするとの原告の主張が失当であることは明らかである。
したがって、本件審決の甲5発明の認定に誤りはない。
イ 相違点2の認定及び判断に誤りがあるとの点について
原告は、前記第3の5⑴イ のとおり、甲5発明において、加工対象物は
厚板の合成石英ガラスに限定されず、複雑な切断加工でない直線的な加工
15 も記載されているから、石英ガラスのような透明材料だけでなく、同じ脆
性材料であるシリコン基板にも適用しようと動機付けられる旨主張する。
しかし、甲5発明が、前記アのとおり、厚みのあるものを対象とするもの
であるのに対し、シリコンウェハは、一般的に非常に薄く、その切断も直線
的な切断加工で足りるものであるから、当業者において甲5発明を適用す
20 る加工対象物としてシリコンウェハが想起されないことは明らかである。
したがって、本件審決の相違点2の認定及び判断に誤りはない。
⑶ 小括
以上のとおりであって、本件審決における甲5発明の認定並びに本件訂正
発明1と甲5発明の相違点2の認定及びその容易想到性の判断に誤りはない
25 から、その他の点について判断するまでもなく、本件訂正発明 1 は、甲5発
明を主引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえ
ないとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって、原告主張の取消事由5-1は理由がない。
7 取消事由2-2、3-2、4-2、5-2(前記第3の2ないし5 を前提に
した本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について
5 本件訂正発明2は、本件訂正発明1の構成を含んで更に限定したものに相当
するため、前記3ないし6と同様の理由により、甲11発明、甲1発明、甲2発
明又は甲5発明を主引用例として当業者が容易に本件訂正発明2を発明できた
ものであるとはいえない。
したがって、これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから、原告主張の取
10 消事由2-2、3-2、4-2、5-2はいずれも理由がない。
8 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決を取り
消すべき違法が認められないことは明らかであるから、原告の請求を棄却する
こととし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
20 菅 野 雅 之
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岡 山 忠 広
(別紙1)
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断に
5 使用されるレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の通りである。
例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に、加工対象
10 物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所におい
て加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。
しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融
される。よって、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成され
た半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。
15 【0003】
加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、例えば、下記の特許文献1や特
許文献2に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの文献に開示された切
断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象
物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対
20 象物を切断する。
【特許文献1】特開2000-219528号公報
【特許文献2】特開2000-15467号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
25 しかし、これらの文献に開示された切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が
大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射して
いない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって、これ
らの切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウェ
ハ、液晶表示装置が形成されたガラス基板、電極パターンが形成されたガラス基板
の場合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置、電極パターンが損傷
5 することがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半
導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。
【0005】
本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつそ
の表面が溶融しないレーザ加工装置を提供することである。
10 【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ加工装置は、ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点と
なる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、加工対象物が載置される載置台
と、パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、載置台に載
15 置された加工対象物の内部に、レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、
1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改
質スポットを形成させる集光用レンズと、隣り合う改質スポット間の距離が略一定
となるように加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の改質スポット
によって改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を加工対象物の内部
20 に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光
点の移動速度を略一定にして、切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を
直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るレーザ加工装置においては、ウェハ状の加工対象物の内部に集光点
25 を合わせてパルスレーザ光を照射することにより、切断予定ラインに沿って加工対
象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点
があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に
係るレーザ加工装置によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工
対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小
さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラ
5 インから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。
【0008】
また、本発明に係るレーザ加工装置においては、加工対象物の内部に局所的に改
質領域を形成している。よって、加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収さ
れないので、加工対象物の表面が溶融することはない。
10 【0009】
なお、制御部は、載置台及び集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御するこ
とが好ましい。これにより、切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直
線的に移動させることが可能となる。
【発明の効果】
15 【0010】
本発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ライ
ンから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、
加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバ
イスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。
20 【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態に係
るレーザ加工方法は、多光子吸収により改質領域を形成している。多光子吸収はレ
ーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収に
25 ついて簡単に説明する。
【0012】
材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的
に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>EGである。しかし、光学
的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2、
3、4、・・・である)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パル
5 ス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm 2)
で決まり、例えばピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件で多光子
吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりの
エネルギー) (レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)
÷ により求められる。
また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm 2)
10 で決まる。
【0013】
このような多光子吸収を利用する本実施形態に係るレーザ加工の原理について図
1~図6を用いて説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1の平面図であり、
図2は図1に示す加工対象物1の II-II 線に沿った断面図であり、図3はレーザ加
15 工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1の IV-IV 線に
沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1の V-V 線に沿った断面図であ
り、図6は切断された加工対象物1の平面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。
20 切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工は、
多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを
加工対象物1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集
光した箇所のことである。
【0015】
25 レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的
に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これ
により、図3~図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象
物1の内部にのみ形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1
がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて改質領域7を形成す
るのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子
5 吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、加工対象物1の表面3では
レーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することは
ない。
【0016】
加工対象物1の切断において、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその
10 起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断する
ことができる。よって、加工対象物1の表面3に不必要な割れを発生させることな
く加工対象物1の切断が可能となる。
【0017】
なお、改質領域を起点とした加工対象物の切断は、次の二通りが考えられる。一つ
15 は、改質領域形成後、加工対象物に人為的な力が印加されることにより、改質領域を
起点として加工対象物が割れ、加工対象物が切断される場合である。これは、例えば
加工対象物の厚みが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは、例え
ば、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物に曲げ応力やせん断応力を加
えたり、加工対象物に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることで
20 ある。他の一つは、改質領域を形成することにより、改質領域を起点として加工対象
物の断面方向(厚さ方向)に向かって自然に割れ、結果的に加工対象物が切断される
場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが小さい場合、厚さ方向に改質領域が
1つでも可能であり、加工対象物の厚みが大きい場合、厚さ方向に複数の改質領域
を形成することで可能となる。なお、この自然に割れる場合も、切断する箇所の表面
25 上において、改質領域が形成されていない部分まで割れが先走ることがなく、改質
部を形成した部分のみを割断することができるので、割断を制御よくすることがで
きる。近年、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあるので、こ
のような制御性のよい割断方法は大変有効である。
【0025】
(2)改質領域が溶融処理領域の場合
5 レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を
合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅
が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によっ
て局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成さ
れる。溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融か
10 ら再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。また、溶融
処理領域は一旦溶融後再固化した領域であり、相変化した領域や結晶構造が変化し
た領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結
晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、
例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に
15 変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領
域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非
晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W
/cm2)である。パルス幅は例えば1ns~200nsが好ましい。
【0026】
20 本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験によ
り確認した。実験条件は次ぎの通りである。
【0027】
(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)
(B)レーザ
25 光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10-8cm2
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
5 出力:20μJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
倍率:50倍
10 NA:0.55
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
【0031】
なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを
15 発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的
に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する
場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。なお、
溶融処理領域からシリコンウェハの表面と裏面に割れが自然に成長するのは、一旦
溶融後再固化した状態となった領域から割れが成長する場合、溶融状態の領域から
20 割れが成長する場合及び溶融から再固化する状態の領域から割れが成長する場合の
うち少なくともいずれか一つである。いずれの場合も切断後の切断面は図12に示
すように内部にのみ溶融処理領域が形成される。加工対象物の内部に溶融処理領域
を形成する場合、割断時、切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくいの
で、割断制御が容易となる。
25 【0043】
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。図17はこのレーザ
加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生
するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ
光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しか
つレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー
5 103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用
レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対
象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるための
X軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させる
ためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方
10 向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら三つのステージ109、11
1、113の移動を制御するステージ制御部115と、を備える。
【0047】
レーザ加工中、加工対象物1をX軸方向やY軸方向に移動させることにより、切
断予定ラインに沿って改質領域を形成する。よって、例えば、X軸方向に改質領域を
15 形成する場合、X軸ステージ109の移動速度を調節することにより、パルスレー
ザ光の集光点の相対的移動の速度を調節することができる。また、Y軸方向に改質
領域を形成する場合、Y軸ステージ111の移動速度を調節することにより、パル
スレーザ光の集光点の相対的移動の速度を調節することができる。これらのステー
ジの移動速度の調節はステージ制御部115により制御される。ステージ制御部1
20 15は速度調節手段の一例となる。速度の調節は、レーザ加工装置の操作者が後で
説明する全体制御部127にキーボード等を用いて速度の大きさを入力することに
よりなされる。なお、集光点Pを移動可能とし、その移動速度を調節することによ
り、パルスレーザ光の集光点の相対的移動の速度を調節することもできる。
【0049】
25 集光用レンズ105は集光手段の一例である。Z軸ステージ113はレーザ光の
集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例である。集光用レンズ105をZ
軸方向に移動させることによっても、レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わ
せることができる。
【図1】 【図2】

【図3】 【図4】
【図5】
【図6】

【図17】

(別紙2)
【特許請求の範囲】
【請求項1】基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハ
ー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子の製造方法
5 であって、
前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し少なくとも該第1の主
面側及び/又は第2の主面側の基板(101)に溝部(103)を形成する工程と、
該溝部(103)にブレイク・ライン(104)をレーザー照射により形成する工程
と、
10 前記ブレイク・ライン(104)に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有する
ことを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオード
15 やレーザーダイオード、さらには高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製
造方法に係わり、特に、基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから窒化
物半導体素子を分割する製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】今日、高エネルギーバンドギャップを有する窒化物半導体(InXGa
20 YAl1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を利用した半導体素子が種々開発され
つつある。・・・
【0003】通常、
・・・GaAs、GaPやInGaAlAsなどの半導体材料が
積層された半導体ウエハーの場合は、半導体ウエハーからダイサーやダイヤモンド
スクライバーによりチップ状に切り出され形成される。ダイサーとは刃先をダイヤ
25 モンドとする円盤の回転運動により半導体ウエハーをフルカットするか、又は刃先
巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット)、外力によりカットする装置で
ある。一方、ダイヤモンドスクライバーとは同じく先端をダイヤモンドとする針に
より半導体ウエハーに極めて細い線(スクライブ・ライン)を例えば碁盤目状に引い
た後、外力によってカットする装置である。GaPやGaAs等のせん亜鉛構造の
結晶は、へき開性が「110」方向にある。そのため、この性質を利用してGaAs、
5 GaAlAs、GaPなどの半導体ウエハーを比較的簡単に所望形状に分離するこ
とができる。
【0004】しかしながら、窒化物半導体を利用した半導体素子は、GaP、GaA
lAsやGaAs半導体基板上に形成させたGaAsP、GaPやInGaAlA
sなどの半導体素子とは異なり単結晶を形成させることが難しい。結晶性の良い窒
10 化物半導体の単結晶膜を得るためには、MOCVD法やHDVPE法などを用いサ
ファイアやスピネル基板など上にバッファーを介して形成させることが行われてい
る。そのため、サファイア基板などの上に形成された窒化物半導体層ごと所望の大
きさに切断分離することによりLEDチップなど半導体素子を形成させなければな
らない。
15 【0005】サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構
造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きく熱膨張率
も異なる。また、サファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており、その性質
上へき開性を有していない。さらに、サファイア、窒化物半導体ともモース硬度がほ
ぼ9と非常に硬い物質である。
20 【0006】したがって、ダイヤモンドスクライバーのみで切断することは困難で
あった。また、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、チッピングが
発生しやすく綺麗に切断できなかった。また、場合によっては基板から窒化物半導
体層が部分的に剥離する場合があった。
【0007】そのため窒化物半導体ウエハーは所望のチップごとに分割する方法と
25 して特開平8-274371号などに記載されているようにダイヤモンドスクライ
バーやダイサーを組み合わせて使用する方法が考えられている。具体的一例として、
図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子を製造する工程を示す。図5(A)は、
サファイア基板501上に窒化物半導体502が形成された半導体ウエハー500
を示す。図5(B)はサファイア基板501の下面側から窒化物半導体502に達し
ない深さでダイサー(不示図)による溝部503を形成する工程を示す。図5(C)
5 は、溝部にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成する工程
を示す。図5(D)は、スクライブ工程の後、半導体ウエハー500をチップ状51
0に分離する分離工程を示してある。これにより、切断面のクラック、チッピングが
発生することなく比較的綺麗に切断することができるとされている。
【0008】
10 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、あらかじめダイサーなどで半導体
ウエハー500の厚みを部分的に薄くさせた溝部503を形成し、溝部503にダ
イヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成させる場合、ダイヤモ
ンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触しなければならない。
【0009】即ち、通常ダイサーの円盤幅よりもダイヤモンドスクライバーの刃先
15 の方が大きい。そのため図6の如く、ダイヤモンドスクライバーの刃先601が半
導体ウエハー500に形成された溝部503の底面に届かない場合がある。この状
態でスクライバーを駆動させると半導体ウエハーの平面では図7の如き、所望のス
クライブ・ライン703が形成されず歪んだスクライブ・ライン704が形成され
る傾向にある。これらを防止する目的でダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部5
20 03の底に接触するためにはダイサーで形成した溝部503の幅を広くする必要が
ある。溝部503が広くなると半導体ウエハーからの半導体素子の採り数が減少す
る。
【0010】他方、溝の幅を狭くした場合は刃先が溝の底に接触させるために溝部
503の深さを浅くする必要がある。溝部503を浅くすると半導体ウエハーの分
25 離部の厚みが厚くなり半導体ウエハーを正確に分離することが困難になる傾向があ
る。したがって、何れも正確により小さい窒化物半導体素子を形成することができ
ないという問題があった。
【0011】より小さい窒化物半導体素子を正確に量産性よく形成させることが望
まれる今日においては上記切断方法においては十分ではなく、優れた窒化物半導体
素子の製造方法が求められている。窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導
5 体ウエハーを正確にチップ状に分離することができれば、半導体素子の電気特性等
を向上させることができる。しかも、1枚の半導体ウエハーから多くの半導体素子
を得ることができるため生産性をも向上させられる。
【0012】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをより小さいチップ状に
分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒
10 化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離さ
れた窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供すること
を目的とする。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明者らは種々実験の結果、窒化物半導体素子を製造する
15 場合において半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体
特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができる
ことを見いだし本発明を成すに到った。
【0020】本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成さ
れる理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及び
20 その内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。
【0021】即ち、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削り
とられた溝部は、その溝部形成時に内部応力が生ずる。特に、溝部の底面に沿ってダ
イヤモンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する工程においてはスク
ライバーの刃先にかかる加重で溝部底以外にも広く歪みが増幅される。そのため、
25 溝部形成後にダイヤモンドスクライバーで分離させると半導体ウエハー内に保持さ
れた応力によって所望通りの端面が形成されず、より正確に窒化物半導体ウエハー
が分離できないと考えられる。
【0022】本発明はダイサーにより生じた内部応力に依存することなくレーザー
スクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させる。これにより端面が
綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができると考え
5 られる。また、窒化物半導体素子を分離されるためには半導体ウエハーの厚みが部
分的に薄い溝部を形成させる。その溝部よりも狭いブレイク・ラインをレーザー照
射により形成することで、極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成
することができ量産性の良い窒化物半導体素子を分離できるものである。以下、本
発明の製造方法例について説明する。
10 【0023】半導体ウエハーとして、LD(laser diode)となる構成の
窒化物半導体層をスピネル基板上に形成させた。
・・・この半導体ウエハーのスピネ
ル基板側をウエットエッチングにより半導体ウエハー表面に溝部を縦横に形成させ
る。CO2 レーザーを溝部の底面に照射してスピネル基板内部に加工変質部としてブ
レイク・ラインを溝部に沿って縦横に形成させた。ブレイク・ラインに沿ってローラ
15 ーによる加圧により窒化物半導体素子として分離させる。分離された窒化物半導体
素子は何れも端面が綺麗に形成されている。以下、本発明の工程に用いられる装置
などについて詳述する。
【0024】
(窒化物半導体ウエハー)窒化物半導体ウエハーとしては、基板上に窒
化物半導体層が形成されたものである。窒化物半導体の基板としては、サファイア、
20 スピネル、炭化珪素、酸化亜鉛や窒化ガリウム単結晶など種々のものが挙げられる
が量産性よく結晶性の良い窒化物半導体層を形成させるためにはサファイア基板、
スピネル基板などが好適に用いられる。サファイア基板などは劈開性がなく極めて
硬いため本発明が特に有効に働くこととなる。
【0026】窒化物半導体はバンドギャップが比較的大きく熱に強いことから紫外
25 から赤色系まで発光可能な発光ダイオード、DVDなどに利用可能な短波長レーザ
ーなどの発光素子、光センサーや比較的高起電力を有する太陽電池などの受光素子、
耐熱性を持つトランジスターなど種々の半導体素子として利用することができる。
【0027】基板の厚さとしてはレーザー加工機の加工精度や出力により種々選択
することができるがレーザーにより大きい溝(深い溝)を形成させる場合はダイサ
ーに比べて時間が掛かること及び長時間の加熱による部分的な破壊などの観点から
5 レーザー加工による溝部などを大きく形成させすぎないことが好ましい。
【0028】また、ダイサーなどにより半導体ウエハーに形成される溝部としては、
歩留りよく所望の形、サイズに量産性良く形成する観点から溝部の幅が35μm以
下が好ましく30μm以下がより好ましい。
・・・また、溝部の深さは半導体ウエハ
ーの厚みにもよるが量産性や分離のし易さから3.7μm以上が好ましく、より好
10 ましくは4.5μm以上である。
・・・上限値は特に制限はないが量産性を考慮して
100μm以下であることが望ましい。同様に、溝部が幅35μm以下深さ5.2μ
m以上、より好ましくは幅30μm以下深さ4.5μm、更に好ましくは幅25μm
以下深さ3.7μm以上の範囲においてはダイヤモンドスクライバーでは溝部に図
6の如く半導体ウエハーの分割に寄与するスクライブ・ラインを形成することがで
15 きないため本発明の効果が特に大きい。
【0029】なお、窒化物半導体ウエハーに単に溝を形成する方法としては、ウエッ
トエッチング、ドライエッチング、ダイサー、ダイヤモンドスクライバーやレーザー
の加工さらにはこれらの組合せにより形成することができる。しかしながら、ある
程度の幅を持ち効率よく半導体ウエハーの厚みを部分的に薄くさせるためにはダイ
20 サーを用いることが好ましい。特に、ダイサーを用いて溝部を形成させた場合は、チ
ップ状に分割した時の端面の綺麗さ(平滑性)の差が顕著に出る傾向にある。即ち、
ダイサーを用いて溝部を形成させた後にレーザーを用いて半導体ウエハーを分離し
たものと、ダイサーを用いて溝部を形成させた後にダイヤモンドスクライバーによ
り分離させたものとをそれぞれ比較するとレーザーにより凹部を形成させたものの
25 方が分離端面が綺麗に形成される傾向にある。このような平滑性は、透光性絶縁層
であるサファイア基板を利用した光学設計をする場合には顕著な違いとなる場合が
ある。
【0030】窒化物半導体が積層されたサファイア基板を分離させる場合、切断端
面を量産性良く切断させるために窒化物半導体ウエハーの最も薄い分離部の厚みは
100μm以下が好ましい。100μm以下だとチッピングなどが少なく比較的容
5 易に分離することができる。また、基板の厚さの下限は特に問わないが、あまり薄く
すると半導体ウエハー自体が割れやすく量産性が悪くなるため30μm以上である
ことが好ましい。
【0031】窒化物半導体層が単一量子井戸構造や多重量子井戸構造などの薄膜を
含む場合、レーザー照射による半導体接合や半導体層の損傷を防ぐ目的で予めレー
10 ザーが照射される窒化物半導体層をエッチングなどにより予め除去することもでき
る。
【0032】発光ダイオード用の窒化物半導体ウエハーとする場合、基板で通常2
00から500μmの厚みがあり、pn接合を持つ窒化物半導体層で数μmから数
十μmの厚みがある。したがって、半導体ウエハーのほとんどが基板の厚みで占め
15 られることとなる。レーザーによる加工を行いやすくするために基板の厚みを研磨
により薄くすることができる。このような研磨は、窒化物半導体を形成させてから
薄くしても良いし薄く研磨した基板上に窒化物半導体を形成させることもできる。
【0033】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる
照射部が選択的に飛翔する或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変
20 質部になると考えられる。また、本発明のブレイク・ラインは半導体ウエハーの溝部
表面を除去しても良いし基板の溝部よりも内部側に加工変質部を形成させても良い。
さらに、本発明は溝部近傍に形成されたレーザー加工によるブレイク・ラインに加
えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。
【0037】
25 【実施例】
(実施例1)厚さ200μmであり洗浄されたサファイアを基板101と
してMOCVD法を利用して窒化物半導体を積層させ窒化物半導体ウエハーを形成
させた。
・・・
【0042】半導体ウエハーに、RIE(Reactive Ion Etchin
g)によって窒化物半導体表面側から溝部が形成されるサファイア基板との境界面
が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層が形成された半導体ウエ
5 ハーを用いる。なお、エッチング時にpn各半導体が露出するようマスクを形成さ
せエッチング後除去させてある。また、pn各半導体層には、電極120がスパッタ
リング法により形成されている(図1(A)。

【0043】こうして形成された窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板1
01を100μmまで研磨した後、半導体ウエハー100のサファイア基板面11
10 1が上になるように水平方向に自由駆動可能なテーブル上に真空チャックを用いて
固定させた。ブレード回転数30、000rpm、切断速度3mm/secでステー
ジを移動させることによりサファイア基板101の底面に幅約30μm、深さ約1
5μmの溝を縦横に形成し溝部103とさせる。溝部103は、窒化物半導体ウエ
ハー100のサファイア基板露出面側111から見るとエッチング面130と略平
15 行に形成されておりそれぞれがその後に窒化物半導体素子となる300μm角の大
きさに形成させてある(図1(B)。

【0044】次に、ダイサーの刃先など駆動部のみレーザー(356nm)が照射可
能なYAGレーザー照射装置と入れ替えた(不示図)。窒化物半導体ウエハー100
の固定は維持したままレーザーの焦点を窒化物半導体ウエハーの溝部103底面に
20 結ばれるようレーザーの光学系を調節させる。調節したレーザー光線を16J/c
m2 で照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿って
深さ約3μmの更なる溝としての凹部104をブレイク・ラインとして形成する(図
1(C)。

【0045】ブレイク・ラインに沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ、窒
25 化物半導体ウエハー100を切断分離することができる。分離された窒化物半導体
素子110の端面はいずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子を形成
することができる(図1(D)。

【0046】こうして形成された窒化物半導体素子であるLEDチップに電力を供
給したところいずれも発光可能であると共に切断端面にはクラックやチッピングが
生じているものはほとんどなかった。また、発生していたチッピングも極めて小さ
5 いものであり、歩留りは98%以上であった。
【0047】これにより、ブレイク・ラインの形成をレーザーで行うため、ダイヤモ
ンドスクライバーを利用したものと異なりカッターの消耗、劣化による加工精度の
バラツキ、刃先交換のために発生するコストを低減することができる。製造歩留り
を高め、形状のバラツキが低減できる。特に、切り代を小さくし、半導体素子の採り
10 数を向上させることが可能となる。
【0048】
(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザー
の光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを
形成させた。形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に
凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図
15 2(C)。

【0049】ブレイク・ラインの形成を溝部203底面でなく基板201内面に形
成させても実施例1のLEDチップとほぼ同様の歩留りを形成することができる。
【0064】
【発明の効果】本発明は半導体ウエハーの基板に達する溝部を形成し、その溝部に
20 レーザー照射によるブレイク・ラインを形成する。これにより刃先消耗等による加
工精度の劣化を引き起こすことなく、より幅が狭くかつ深い溝部に、加工バラツキ
のない高精度のブレイク・ライン形成を可能にし、容易にかつ正確にブレイク・ライ
ンに沿って窒化物半導体素子を分割することが可能となる。そのため、形状の揃っ
た製品供給、及び製品歩留りの向上が可能となる。
【図1】

【図2】
(別紙3)
【請求項1】基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハ
ー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子(110)
の製造方法であって、
5 前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し該第1の主面(111)
側及び/又は第2の主面(121)側からレーザーを前記半導体ウエハー(100)
を介して照射し少なくとも前記基板(101)の第2の主面(121)側及び/又は
前記基板(101)の第1の主面(111)側に形成された焦点にスクライブ・ライ
ン(103)を形成する工程と、
10 前記スクライブ・ラインに沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有することを
特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオード
やレーザーダイオード、更には高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造
15 方法に係わり、特に、基板上に形成された窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】今日、高エネルギーバンドギャップを有する窒化物半導体(InXGa
YAl1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を利用した半導体素子が開発されつつ
ある。
・・・
20 【0003】通常、GaAs、GaPやInGaAlAsなどの半導体材料が積層さ
れた半導体ウエハーは、チップ状に切り出され赤色、橙色、黄色などが発光可能なL
EDチップなどの半導体素子として利用される。半導体ウエハーからチップ状に切
り出す方法としては、ダイサー、やダイヤモンドスクライバーが用いられる。ダイサ
ーとは刃先をダイヤモンドとする円盤の回転運動によりウエハーをフルカットする
25 か、又は刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット)、外力によりカッ
トする装置である。一方、ダイヤモンドスクライバーとは同じく先端をダイヤモン
ドとする針などにより半導体ウエハーに極めて細い線(スクライブ・ライン)を例え
ば碁盤目状に引いた後、外力によってカットする装置である。GaPやGaAs等
のせん亜鉛構造の結晶は、へき開性が「110」方向にある。そのため、この性質を
利用してGaAs、GaAlAs、GaPなどの半導体ウエハーを比較的簡単に所
5 望形状に分離することができる。
【0004】しかしながら、窒化物半導体を利用した半導体素子は、GaP、GaA
lAsやGaAs半導体基板上に形成させたGaAsP、GaPやInGaAlA
sなどの半導体素子とは異なり単結晶を形成させることが難しい。結晶性の良い窒
化物半導体の単結晶膜を得るためには、MOCVD法やHDVPE法などを用いサ
10 ファイアやスピネル基板など上にバッファー層を介して形成させることが行われて
いる。サファイア基板などの上に形成された窒化物半導体層を所望の大きさに切断
分離することによりLEDチップなど半導体素子を形成させなければならない。
【0005】サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構
造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きい。また、サ
15 ファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており、その性質上へき開性を有し
ていない。さらに、サファイア、窒化物半導体ともモース硬度がほぼ9と非常に硬い
物質である。
【0006】したがって、ダイヤモンドスクライバーで切断することは困難であっ
た。また、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、チッピングが発生
20 しやすく綺麗に切断できなかった。また、場合によっては基板から窒化物半導体層
が部分的に剥離する場合があった。
【0007】窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正確にチ
ップ状に分離することができれば、半導体素子の電気特性や効率を向上させること
ができる。しかも、1枚の半導体ウエハーから多くの半導体チップを得ることがで
25 きるため生産性をも向上させられる。
【0008】そのため窒化物半導体ウエハーはダイヤモンドスクライバーやダイサ
ーを組み合わせて所望のチップごとに分離することが行われている。チップごとの
分離方法として特開平8-274371号などに記載されている。具体的一例とし
て、図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子の製造方法を示す。サファイア基
板(501)上に窒化物半導体層(502)が形成された半導体ウエハー(500)
5 を図5(A)に示している。サファイア基板下面側から窒化物半導体層に達しない深
さでダイサー(不示図)による溝部(509)を形成する工程を図5(B)に示して
いる。溝部(509)にスクライブ・ライン(507)を形成する工程を図5(C)
に示してある。スクライブ工程の後半導体ウエハー(500)をチップ状の半導体発
光素子(510)に分離する分離工程を図5(D)に示してある。これにより、切断
10 面のクラック、チッピングが発生することなく比較的綺麗に切断することができる
とされている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、半導体ウエハーの一方のみにスク
ライブ・ラインなどを形成させると分離時に他方の切断面にクラック、チッピング
15 が発生しやすい傾向にある。分離された窒化物半導体素子の一表面形状は揃えるこ
とが可能であるが、窒化物半導体素子の他方の表面形状ではバラツキが発生し、半
導体ウエハーにクラックやチッピングが生じやすい。したがって、半導体ウエハー
を分離するときに、スクライブ・ライン形成面側から形成されていない半導体ウエ
ハー面側への割れかたを制御し完全に窒化物半導体素子の形状を揃えて切断するこ
20 とは極めて難しいという問題を有する。
【0010】他方、半導体ウエハーの両面にスクライブ・ラインを形成させ窒化物半
導体ウエハーの割れ方を制御することは可能である。しかし、窒化物半導体ウエハ
ーの両主面にスクライブ・ラインを形成するには半導体ウエハーをゴミの付着など
を防止しつつ、ひっくり返し再度固定する工程が必要となり極めて量産性が悪くな
25 る。また、サファイア基板上に形成された窒化物半導体の半導体ウエハー硬度は極
めて高くダイヤモンドスクライバーのカッター刃先などの消耗、劣化が多くなり加
工精度のバラツキ、刃先交換の為の製造コストが発生する。さらには、ダイヤモンド
スクライバーでスクライブ・ラインを形成させると刃先の磨耗に応じてダイヤモン
ドスクライバーの加重を変えなければならない。また、ダイヤモンドスクライバー
によりスクライブ・ラインを形成させるためにはそのダイヤモンドの刃先ごとに適
5 した角度で接触させなければならず極めて量産性が悪いという問題を有する。
【0011】より小さい窒化物半導体素子を正確に量産性よく形成させることが望
まれる今日においては上記切断方法においては十分ではなく、より優れた窒化物半
導体素子の製造方法が求められている。
【0012】特に、窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正
10 確にチップ状に分離することができれば、半導体素子の電気特性や効率を向上させ
ることができる。しかも、1枚のウエハーから多くの窒化物半導体素子を得ること
ができるため生産性をも向上させられる。
【0013】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをチップ状に分離するに
際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒化物半導体
15 の結晶性を損なうことなく、かつ歩留まりよく所望の形、サイズに分離された窒化
物半導体素子を量産性良く形成する製造方法を提供することを目的とするものであ
る。
【0021】
・・・
【発明の実施の形態】本発明者らは種々実験の結果、窒化物半導体素子を製造する
20 場合において半導体ウエハーの特定箇所に特定方向からレーザーを照射することに
より、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造する
ことができることを見いだし本発明を成すに到った。
【0022】即ち、本発明の方法により窒化物半導体素子の分離ガイドとなるスク
ライブ・ラインを窒化物半導体層を損傷することなく窒化物半導体ウエハーを透過
25 してレーザー照射面側以外の任意の点に形成することができる。特に、同一面側か
ら窒化物半導体素子に悪影響を引き起こすことなく半導体ウエハーの両面を比較的
簡単に加工することができる。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0023】半導体ウエハーとして、LD(laser diode)となる構成の
窒化物半導体層をスピネル基板上に形成させた。
・・・この半導体ウエハーのスピネ
ル基板側からCO2 レーザーを照射して窒化物半導体層とスピネル基板の界面に加
5 工変質層をスクライブ・ラインとして形成させた。スクライブ・ラインと略平行にダ
イサーによりスピネル基板上に溝を形成させる。ローラーにより溝に沿って加圧す
ることで窒化物半導体素子を形成させた。分離された窒化物半導体素子は何れも端
面が綺麗に形成されている。以下、本発明の工程に用いられる装置などについて詳
述する。
10 【0024】
(窒化物半導体ウエハー100、200、300、400)窒化物半導
体ウエハー100、200、300、400としては、基板101上に窒化物半導体
102が形成されたものである。窒化物半導体102の基板101としては、サフ
ァイア、スピネル、炭化珪素、酸化亜鉛や窒化ガリウム単結晶など種々のものが挙げ
られるが量産性よく結晶性の良い窒化物半導体層を形成させるためにはサファイア
15 基板、スピネル基板などが好適に用いられる。サファイア基板などは劈開性がなく
極めて硬いため本発明が特に有効に働くこととなる。窒化物半導体は基板の一方に
形成させても良いし両面に形成させることもできる。
【0026】窒化物半導体はバンドギャップが比較的大きく熱に強いことから紫外
から赤色系まで発光可能な発光ダイオード、DVDなどに利用可能な短波長レーザ
20 ーなどの発光素子、光センサーや比較的高起電力を有する太陽電池などの受光素子、
耐熱性を持つトランジスターなど種々の半導体素子として利用することができる。
【0027】基板の厚さとしてはレーザー加工機の加工精度や出力により種々選択
することができるがレーザーにより大きい溝(深い溝)を形成させる場合はダイヤ
モンドスクライバーやダイサーに比べて時間が掛かること及び長時間の加熱による
25 部分的な破壊などの観点からレーザー加工による溝などを大きくさせすぎないこと
が好ましい。したがって、半導体ウエハーに形成される溝部104はレーザーによ
る他、量産性等を考慮してダイサーやダイヤモンドスクライバーにより種々選択す
ることができる。或いはそれらの組み合わせにより形成させることができる。
【0028】窒化物半導体が積層されたサファイア基板を分離させる場合、切断端
面を量産性良く切断させるために窒化物半導体ウエハーの最も薄い分離部の厚みは
5 100μm以下が好ましい。100μm以下だとチッピングやクラックなどが少な
く比較的容易に分離することができる。基板の厚さの下限値は特に問わないが、あ
まり薄くすると半導体ウエハー自体が割れやすく量産性が悪くなるため30μm以
上が好ましい。また、窒化物半導体層が単一量子井戸構造や多重量子井戸構造など
の薄膜を含む場合、レーザー照射による半導体接合や半導体層の損傷を防ぐ目的で
10 予めレーザーが照射される窒化物半導体層をエッチングなどにより予め除去するこ
ともできる。エッチングは種々のドライエッチング法やウエットエッチング法を用
いることができる。
【0029】発光ダイオード用の窒化物半導体ウエハーとする場合、基板で通常3
00μmから500μmの厚みがあり、pn接合を持つ窒化物半導体層で数μmか
15 ら数十μmの厚みがある。したがって、半導体ウエハーのほとんどが基板の厚みで
占められることとなる。レーザーによる加工を行いやすくするために基板の厚みを
研磨により薄くすることができる。このような研磨は、窒化物半導体を形成させて
から薄くしても良いし薄く研磨した基板上に窒化物半導体を形成させることもでき
る。
20 【0030】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる
照射部が選択的に飛翔した凹部103、403或いは微視的なマイクロ・クロック
の集合である加工変質層206、308になると考えられる。また、第1の主面側、
第2の主面側とは加工分離される半導体ウエハーの総膜厚を基準として、総膜厚の
半分からその第1の主面或いは第2の主面に向けての任意の位置を言う。したがっ
25 て、半導体ウエハーの表面でも良いし内部でも良い。さらに、本発明は第1の主面側
及び/又は第2の主面側のレーザー加工に加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心を
レーザー加工させても良い。
【0040】スクライブ・ライン103に沿って、不示図のローラーにより荷重を作
用させ、窒化物半導体ウエハーを切断分離することができる。分離された端面はい
ずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子110を形成することができ
5 る(図1(D)。

【0044】
(実施例2)実施例1と同様にして形成させた半導体ウエハーに、RI
E(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側か
ら溝が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の
島状窒化物半導体層205が形成された半導体ウエハーを用いる。なお、エッチン
10 グ時にpn各半導体が露出するようマスクを形成させエッチング後除去させてある。
また、pn各半導体層には、電極220がスパッタリング法により形成されている
(図2(A)。

【0045】この半導体ウエハー200を実施例1と同様のレーザー加工機に固定
配置させた。実施例2においてもレーザー加工機からのレーザーを窒化物半導体ウ
15 エハーの窒化物半導体205側から照射し、焦点がサファイア基板201の底面か
ら20μm のサファイア基板内部に結ばれるようにレーザー光学系を調整する。調
整したレーザー光線を16J/cm2 で照射させながらステージを移動させること
によりサファイア基板の底面付近の基板内部に加工変質層206となるスクライブ
・ラインを形成する(図2(B)。

20 【0046】次に、レーザー光学系(不示図)を調整し直し、焦点がエッチングによ
り露出されたサファイア基板201の上面(窒化物半導体の形成面側)に結ばれる
ように調整した。調整したレーザーを照射させながらステージを移動させることに
より、半導体ウエハーに窒化物半導体層側の上面からサファイア基板に達する溝部
を形成する。形成された溝部204は、加工変質層206とサファイア基板201
25 を介して略平行に形成させてある。なお、レーザー照射により形成されたサファイ
ア基板201上の溝部204は、溝部の底面とサファイア基板の底面との間隔が、
約100μmで、ほぼ均一になるように調整してある。さらに、レーザー光学系を調
節し直し、焦点がサファイア基板201に設けられた溝部底面に結ばれるよう調節
した。調節したレーザーを14J/cm2 で照射させながらステージを移動させるこ
とにより、窒化物半導体が形成されたサファイア基板の露出面に設けられた溝部2
5 04の底面に深さ約3μmのスクライブ・ライン207を形成する(図2(C)。

【0047】続いて、溝部(スクライブ・ライン)に沿ってローラーによって荷重を
かけ半導体ウエハーを切断し、LEDチップ210を分離させた(図2(D)。

【0048】こうして形成されたLEDチップに電力を供給したところいずれも発
光可能であると共に切断端面にはチッピングが生じているものはほとんどなかった。
10 歩留まりは98%以上であった。
【0049】実施例2では半導体ウエハーの片面側からレーザーにより基板表裏両
面にスクライブ・ラインを形成することで、厚みがある窒化物半導体ウエハーでも
スクライブ・ラインに沿って簡単に窒化物半導体素子を分割するることが可能とな
る。また、溝の形成される部分が、サファイア基板までエッチングされているため、
15 溝形成による窒化物半導体への損傷がより少なく分離させた後の窒化物半導体素子
の信頼性を向上させることが可能である。特に、スクライブ・ラインが形成されると
き、レーザーの焦点がサファイア基板内部で結ばれていることから、半導体ウエハ
ーを固定している、テーブル若しくは粘着性シートを損傷することなく加工が実現
できる。また、レーザー照射による加工くずの発生もない。なお、全てをレーザー加
20 工でなく溝の形成をダイサーで行っても本発明と同様に量産性良く窒化物半導体素
子を形成することができる。
【0050】レーザーによって溝部、スクライブ・ラインを窒化物半導体ウエハーに
対して非接触で加工できる。そのため、ブレード及びカッターの消耗、劣化による加
工精度のバラツキ、刃先の交換のために発生するコストを低減できる。また、半導体
25 ウエハーの片側からだけの加工で、半導体ウエハー両面から加工したのと同様の効
果を得られ、形状の揃った半導体チップを製造することが可能となる。製造歩留ま
りを高め形状のバラツキが低減できる分切り代を小さくし、窒化物半導体ウエハー
からの半導体素子の採り数を向上させることが可能となる。
【0051】さらに、半導体層面からの溝部をもレーザーにより形成することで、よ
り幅の狭い溝を形成することが可能となる。このため窒化物半導体ウエハーからの
5 チップの採り数をさらに向上させることが可能となる。
【図2】

(別紙4)
本発明は半導体結晶ウェーハの加工法に関し、特にレーザー光のエネルギーより
もエネルギー禁止帯幅の大きな半導体結晶ウェーハのレーザー加工法に関する。
レーザー光による半導体結晶ウェーハの加工例としてスクライブがある。レーザ
5 ースクライブはダイシング法に比べ切りしろが小さくできることやダイアモンドポ
イントスクライブ法より信頼度が大きいことなどの利点があり、最近広く用いられ
つつある。従来半導体結晶ウェーハのレーザースクライブはウェーハ表面近傍にレ
ーザー光の焦点を結び、表面からスクライブ溝を入れる方法で行なわれている。
前記の方法でP-N接合の形成された半導体結晶ウェーハのP-N接合部を切断
10 すると漏洩電流が著しく増大することの欠点がある。又裏面全体に金属電極を付加
した半導体結晶ウェーハをペレットに分割する場合、表面からの加工法によるスク
ライブでは裏面電極が切断されないため、半導体結晶は分離できても電極が連なっ
た複合ペレットが多く発生する欠点がある。又素子によっては半導体結晶ウェーハ
の表面よりも裏面からスクライブ溝を入れペレットに分割した方が好ましい場合が
15 あるが、この場合裏面から表面電極パターンに従って加工位置を設定することは困
難である。
本発明は上記の欠点を除き、簡単でかつ信頼度の高い半導体結晶ウェーハのレー
ザー加工法を提供するものである。本発明の目的は半導体結晶の表面・電極パター
ンに従い裏面を加工する方法を提供するものである。本発明の他の目的はレーザー
20 スクライブにおけるペレット分割の歩留りを向上させることにある。
(1頁左下欄12行ないし2頁左上欄3行)
本発明の方法はレーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅が大きい半導
体結晶ではレーザー光がほとんど吸収されずに裏面に到達することを用い、レーザ
ー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶことにより半導体結晶ウェーハ
25 の裏面を表面からのレーザー光照射で加工することである。
(2頁左上欄4行ないし10行)
本発明の実施例に用いられた半導体結晶はGaPであり、レーザー光はYAGレー
ザーである。GaPのエネルギー禁止帯幅は3.1eVであり、YAGレーザーの発
振波長1.06μに相当するエネルギー約1.2eVよりも充分大きく、従ってレー
ザー光はほとんど吸収されずGap結晶を透過する。
5 (2頁左上欄13行ないし18行)
(111)面GaP単結晶基板11上にN型層12およびP型層13を形成した
P-N接合をもったGaP結晶ウェーハに電極として表面に150μφの金、亜鉛、
ニッケルから成るオーム性電極14を0.4mmの間隔で付加し、裏面には金とシ
リコン(2%)から成るオーム性電極15 3000Åを付加し、その上に金16を
10 約1μ付加してある。
(2頁左上欄20行ないし右上欄6行)
第2図に光学レンズ51によって焦点を結ぶときの半導体結晶ウェーハ52とレ
ーザー光焦点53の位置が示されている。第2図(a)は従来通常行なわれている表
面からの加工における焦点位置であり、焦点は半導体結晶表面の近傍にある。第2
15 図(b)は本発明の方法におけるレーザー光焦点53の位置であり、GaPの屈折率
3.3を考慮し、半導体結晶ウェーハを約400μレンズに近づけて設定した。・・

(2頁右上欄8行ないし16行)
20 第2図
(別紙5)
[産業上の利用分野]
本発明は、石英ガラスなどの種々の透明材料を切断加工する方法に関する。
[従来の技術]
5 従来、石英ガラスなどの種々の透明材料を切断加工する方法として、バンドソー
や内周刃などの直線的な切断機や、コアドリル、円筒研削機などの円形の加工機械
が使用され直線状または、円筒状の加工がおこなわれている。
また、不定形の切断加工には炭酸ガスレーザを使用したレーザ加工機等が使用さ
れている。
10 [発明が解決しようとする課題]
従来の切断加工機械のバンドソーや、内周刃などでは直線的な切断加工のみであ
り、また、コアドリル、円筒研削機などの円形の加工機械は、円筒形の切断のみで
あり、複雑な加工には使用できなかった。炭酸ガスレーザを利用したレーザ切断機
では、炭酸ガスレーザビームの波長はガラスを透過しないため、材料表面部に集光
15 し表面より溶断して行くが、この場合溶断表面より内部へ進行するに従って、溶断
面のピットによりレーザビームがさえぎられるので、溶断する厚さに対し限度があ
り、現状では10mm程度が限界である。
本発明は、石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的と
し、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とする
20 ことを目的としている。
[課題を解決するための手段]
そこで、本発明は、石英ガラスなどの透明材料に吸収されない高エネルギービー
ムを透明材料内部に焦点を結ばせて照射し、透明材料内部に微小なクラックを発生
させることによって透明材料を切断加工しようとするものである。
25 透明材料としては、例えば、光学ガラス、石英ガラスなどの無機ガラス、アクリ
ル樹脂などの透明樹脂等が挙げられる。
高エネルギービームとしては、XeF(351nm)、XeC1(308nm)、
KrF(248nm)、ArF(193nm)等のエキシマレーザーや、YAGレ
ーザ及びその高調波等が挙げられる。
透明材料の高エネルギービームに対する吸収特性に応じて、適切な高エネルギー
5 ビームを選択する必要がある。
(1頁左下欄下から2行ないし2頁右上欄2行)
[作用]
透明材料に吸収されない高エネルギービームを、レンズやミラーから構成される
光学系を介して透明材料の内部に焦点を合せ、高エネルギービームを透明材料内部
10 に照射する。すると、高エネルギービームの照射された個所に数十ミクロン以下の
微小なクラックが発生する。高エネルギービームの照射位置を移動させて、透明材
料に連続的なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工する。
(2頁右上欄16行ないし左下欄5行)
[実施例]
15 次に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。
実施例1
透明材料として150×150×150mmの合成石英ガラス(OH 1300
ppm含有)を使用し、高エネルギービームとしては、不安定共振器を用いたエキ
シマレーザ(KrF 248nmエネルギー密度50mJ/cm2・パルス、くり
20 返し周波数150Hz)を使用し、焦点距離500mmのレンズで集光し、ミラー
で反射させ、上面を予め研磨したワークである厚板の合成石英ガラスの内部にエキ
シマレーザビームの焦点を合せエキシマレーザをワークの上面から照射し、ワーク
を3r.p.mの回転数で回転させながら、焦点の位置を3mm/minの速さで
ワーク底面より引き上げることにより、直径30mmの円筒形の孔を開けた。
25 このとき、ワーク内部におけるエキシマレーザのビームの垂直方向の焦点位置は、
レンズの位置を移動させることによって変化させた。
また、ワーク内部での焦点位置の水平方向の移動は、ワーク自体を水平方向に移
動させることによっておこなった。
切断に当っては、焦点位置は、ワークの底面から上方向に移動させた。
[効果]
5 以上、述べてきたように、透明材料の内部に焦点をあわせ、透明材料に対し吸収
の無い高エネルギービーム、例えば、石英ガラスに対しエキシマレーザを照射する
と、微細なクラックが透明材料の内部に発生する。これを連続させることによって
透明材料を複雑な形状に切断加工できる。
焦点をワークの内部に結ばせているのでワークの厚味に影響を受けず、自由な形
10 状に加工できる。
・・・
(3頁左上欄10行ないし左下欄4行)
第1図

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