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令和4(ネ)10002特許権侵害差止請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年6月30日
事件種別 民事
対象物 イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤
法令 特許権
特許法134条の22回
特許法36条4項1回
特許法100条1項1回
キーワード 侵害182回
実施17回
無効13回
特許権7回
無効審判4回
差止2回
進歩性1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人第一三共エスファ株式会社(以下「被控訴人第一三共エスファ」と
3 被控訴人第一三共株式会社(以下「被控訴人第一三共」という。)は、原判
4 被控訴人らは、原判決別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。
1 事案の概要15
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張5
4行目、原判決別紙「延長登録目録」(原判決52頁ないし58頁)、同「原告
6日である。」
3 当審における補充主張
63の各文献に中枢性感作を抑制するケタミンが線維筋痛症患者に効果
130の文献は、神経の炎症による神経障害性疼痛である反射交感神経
1 訂正前各発明及び本件各発明の内容
2 争点1-1(無効理由1(実施可能要件違反の有無))について
1.侵害受容器と求心性線維
2.疼痛抑制系
3.関連痛 referred pain
4.三叉神経痛
5.帯状疱疹後神経痛 post-herpetic neuralgia10
6.神経根痛 radicular pain
7.視床痛 thalamic pain
8.カウザルジア causalgia
9.心因性疼痛 psychogenic pain
10.治療20
6)年公表))には、次の記載がある。
2時間後と3.5時間後に、カラゲニン処置および対側の未処置の後10
92(平成4)年公表))20
6)によっても、本件出願日当時、カラゲニン試験が専ら中枢性感作を10
52ないし55、70等)の記載によれば、本件出願日当時、ケタミン
62、甲163及び甲166の各文献によれば、線維筋痛症の痛みが中25
129及び乙4の各文献の記載によれば、神経の損傷により炎症を生じ
5の文献にもこれを否定する内容は記載されていないこと、甲47及び
3 争点1-2(無効理由2(サポート要件違反の有無))について
4 争点2-1(無効理由の解消の有無)及び争点2-2(訂正要件の具備の有5
9項において準用する同法126条5項)ところ、「明細書、特許請求の
4条の2第3項の規定に反するものであり、許されないというべきであ
5 争点3-1(構成要件3B及び3C並びに4B及び4Cの充足性)について
3Bの「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」に該当す25
4の技術的範囲は、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛及び術後疼痛の痛
6 争点3-2(均等侵害の成否)について
242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。
7 まとめ
8 結論
事件の概要 1 事案の概要15 ⑴ 本件は、発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する 鎮痛剤」とする発明に係る特許権(特許第3693258号。請求項の数4。 以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る特許を「本件特許」という。) を有する控訴人が、被控訴人第一三共エスファにおいて原判決別紙物件目録 記載の医薬品(以下「被告医薬品」という。)の製造、販売及び販売の申出を20 し、被控訴人第一三共において被告医薬品の販売及び販売の申出をすること が本件特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人らに対し、特許法100 条1項及び2項に基づき、被告医薬品の販売等の差止め及び廃棄を求める事 案である。

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判決文

令和4年6月30日判決言渡

令和4年(ネ)第10002号 特許権侵害差止請求控訴事件(原審・東京地方裁

判所令和2年(ワ)第22283号)

口頭弁論終結日 令和4年4月19日

判 決

控 訴 人 ワーナー-ランバート カン

パニー リミテッド ライア

ビリティー カンパニー

同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋

同 柳 下 彰 彦

同 永 島 太 郎

同 森 下 梓

被 控 訴 人 第一三共エスファ株式会社

被 控 訴 人 第 一 三 共 株 式 会 社

上記両名訴訟代理人弁護士 吉 澤 敬 夫

同 川 田 篤

上記両名訴訟代理人弁理士 紺 野 昭 男

同 井 波 実

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め

る。

5 事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人第一三共エスファ株式会社(以下「被控訴人第一三共エスファ」と

いう。)は、原判決別紙物件目録記載の医薬品を製造し、販売し、販売の申出

をしてはならない。

3 被控訴人第一三共株式会社(以下「被控訴人第一三共」という。)は、原判

決別紙物件目録記載の医薬品を販売し、販売の申出をしてはならない。

4 被控訴人らは、原判決別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。

第2 事案の概要等

1 事案の概要

⑴ 本件は、発明の名称を「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する

鎮痛剤」とする発明に係る特許権(特許第3693258号。請求項の数4。

以下「本件特許権」といい、本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)

を有する控訴人が、被控訴人第一三共エスファにおいて原判決別紙物件目録

記載の医薬品(以下「被告医薬品」という。)の製造、販売及び販売の申出を

し、被控訴人第一三共において被告医薬品の販売及び販売の申出をすること

が本件特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人らに対し、特許法100

条1項及び2項に基づき、被告医薬品の販売等の差止め及び廃棄を求める事

案である。

⑵ 原審は、訂正前の請求項1及び2に係る各発明に係る特許については、実

施可能要件及びサポート要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にさ

れるべきものであると認められるところ、訂正の再抗弁は認められないとし

て、また、被告医薬品は、訂正後の請求項3及び4に係る各発明の技術的範

囲に属しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。これを不服として、

控訴人は、本件控訴を提起した。

5 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張

前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、以下のとおり原判決を補

正し、後記3のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実

及び理由」の第2の1及び2並びに第3(原判決2頁21行目ないし10頁1

4行目、原判決別紙「延長登録目録」(原判決52頁ないし58頁)、同「原告

の主張」(原判決59頁ないし87頁)及び同「被告らの主張」(原判決88頁

ないし111頁))に記載のとおりであるから、これを引用する。

⑴ 原判決3頁10行目の「平成9年7月16日(」の後に「以下「本件出願

日」という。」を加える。

⑵ 原判決3頁16行目の「登録を受けた。」の後に次のとおり加える。

「延長の期間は、同目録記載のとおり5年間(帯状疱疹後神経痛について

は4年9月14日間)であり、延長登録後の特許満了日は、令和4年7月1

6日である。」

⑶ 原判決8頁9行目の「15名が、」の後に「審判請求人側参加人として」を

加える。

⑷ 原判決8頁17行目ないし18行目の「(甲3)」の後に「及び同年8月7

日付け手続補正書(方式)(甲4)」を加える。

⑸ 原判決8頁20行目末尾に次のとおり加える。

「本件訂正において、控訴人は、請求項1を引用する請求項2ないし4に

つき、訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正

することを求めた。(甲4)」

⑹ 原判決8頁22行目の「請求項1及び2に係る訂正を認めず、 を次のとお

」

り改める。

「請求項2に係る訂正を認めず、また、請求項2と共に一群の請求項を構

成する請求項1に係る訂正も一体的に認めないとした上で、」

⑺ 原判決9頁3行目末尾に次のとおり加える。

5 「同訴訟について、知的財産高等裁判所は、令和4年3月7日、控訴人の

請求を棄却する旨の判決を言い渡した。その後、控訴人が同判決に対する上

告及び上告受理申立てをしたことから、同判決は確定していない。

(当裁判所

に顕著な事実)」

⑻ 原判決73頁25行目の「、1C」を削除する。

⑼ 原判決74頁20行目の「、2C」を削除する。

3 当審における補充主張

⑴ 争点1-1及び争点1-2(訂正前発明1及び2の実施可能要件違反の有

無及びサポート要件違反の有無)並びに争点2-1及び争点2-2(本件発

明1及び2の無効理由の解消の有無及び訂正要件の具備の有無)について

〔控訴人の主張〕

ア 痛みの分類、治療方法の相違等について

(ア) 甲78ないし甲81、甲84、甲88、甲90及び甲91の各文献に

は、炎症性疼痛や術後疼痛が侵害受容性疼痛に該当するとは記載されて

いない上、原因にかかわらず、痛覚過敏や接触異痛の機序が共通するこ

とを一切否定していない。それどころか、これらの文献は、ホルマリン

試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験において本件化合物が効果を有

することが確かめられた神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の

痛みが、侵害受容性疼痛ではなく神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通す

る痛みであることを裏付けるものといえる。

(イ) 上記(ア)で挙げた各文献の記載からは、本件優先日当時、一部の神経障

害性疼痛については、侵害受容性疼痛において有効とされていたモルヒ

ネ等の麻薬性鎮痛剤では効果が不十分であるという技術常識が存在し

たことが認定されるにすぎず、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛及び心

因性疼痛の治療方法がそれぞれ異なるとの技術常識を認定することは

できない。

5 イ 痛覚過敏や接触異痛は全て神経細胞の感作によって生じること

(ア) 甲41の文献は、ヒトのマスタードオイル試験において生じる接触異

痛の原因について、神経障害性疼痛におけるものと同様に中枢性感作で

あると結論付けているものであり、種々の痛覚過敏や接触異痛が神経細

胞の感作によって生じることを否定するものではない。

(イ) 甲162及び甲166の各文献に線維筋痛症の痛覚過敏や接触異痛は

中枢性感作によるものである旨が記載されていること、甲26及び甲1

63の各文献に中枢性感作を抑制するケタミンが線維筋痛症患者に効果

を有する旨が記載されていることからすれば、線維筋痛症の痛みが中枢

性感作によるものであることは技術常識であった。また、甲60の文献

には、線維筋痛症の痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じ

ることを否定するような記載はない。

ウ 痛みを区別することはできないこと

(ア) 乙4の文献が、組織損傷や炎症による痛みと末梢神経の損傷に伴う痛

みとに分けて論じているのは、痛みの原因に応じて神経細胞の感作を生

じるまでの過程における病態が異なり得ることを論じるためにすぎず、

原因にかかわらず、神経細胞の感作によって痛覚過敏や接触異痛を生じ

ることは否定されていない。

(イ) 甲129及び乙4の各文献の記載によれば、神経障害性疼痛において、

神経の損傷により炎症を生じて神経細胞の感作を生じる機序は、炎症性

疼痛の機序と同一であり、要するに、神経の損傷や病変によって炎症を

生じ、炎症が神経細胞の感作を引き起こして痛覚過敏や接触異痛を生じ

るものであるから、痛みを原因によって区別することはできない。

(ウ) 甲128の文献は、ヒトの腰痛において、組織及び神経の両方で炎症

を生じ、これによって中枢性感作を生じることを述べている。また、甲

130の文献は、神経の炎症による神経障害性疼痛である反射交感神経

5 ジストロフィーの痛みが、組織損傷や炎症による痛み、更にはホルマリ

ン試験の後期相と同じ機序であることを述べている。これらの文献は、

原因によって痛みを明確に区別することができないこと を裏付けてい

る。

(エ) 糖尿病性神経障害や複合性局所疼痛症候群の例は、痛みを原因ではな

く痛覚過敏や接触異痛といった症状で捉える必要があることを示すも

のである。例えば、複合性局所疼痛症候群は、神経の損傷がみられず、

組織損傷からカウザルギーと同様の痛覚過敏や接触異痛を生じる反射

交感神経ジストロフィーの痛みを含むものであるから、痛みを原因で区

別することを前提とすると、この痛みは神経障害性疼痛であるものの、

ホルマリン試験や術後疼痛試験等によって効果が確かめられるべきと

いうことになるはずである。

エ ホルマリン試験の後期相について

(ア) 本件明細書等のホルマリン試験においては、本件化合物が侵害受容性

疼痛を反映する初期相には影響しないことが確認されているから、当業

者が同試験を侵害受容性疼痛の試験であると考えることはあり得ない。

(イ) 甲42、甲161、甲164及び甲168の各文献の記載によれば、

本件優先日当時、当業者が、組織損傷や神経の損傷といった痛みの原因

の相違にかかわらず、ホルマリン試験の後期相と神経障害性疼痛とを同

視し、ホルマリン試験を中枢性感作による慢性疼痛のモデルとして利用

していたことは明らかであり、ホルマリン試験の後期相が中枢性感作を

反映するものであることは、仮説ではなく技術常識であった。

(ウ) 甲27の文献には、ホルマリン試験の後期相が痛覚過敏のメカニズム

を反映したものであることが記載されており、甲45の文献にも、ホル

マリン試験の後期相が中枢性感作(脊髄後角の機能的変化)を反映した

ものであることが述べられている。また、乙4の文献には、ホルマリン

5 試験に代表される炎症や組織損傷による痛覚過敏が中枢性感作によっ

て生じることが示されている。

(エ) 甲47及び甲49の各文献は、ホルマリン試験の後期相が中枢性感作

を反映することを述べるにとどまらず、その詳細な機序までをも明らか

にしているから、これらの文献の記載を基に、中枢性感作が仮説である

などということはできない。

(オ) 甲46、甲161及び甲164の各文献によれば、ホルマリン試験に

おいては、ケタミン、MK-801、アミトリプチリンといった神経障

害性疼痛治療薬の研究が行われている。

オ カラゲニン試験について

(ア) 甲146の文献は、痛覚過敏は神経障害性疼痛と同じ薬理学的機序を

有するから、カラゲニン試験は、神経障害性疼痛の治療薬の探索に利用

可能な動物モデルであるとしている。

(イ) 甲57の文献においては、痛覚過敏や接触異痛の原因となるNMDA

レセプター介在性の中枢性感作に対する髄腔内オピエイトの効果を確

認するために、カラゲニン試験を用いたことが記載されている。また、

甲72の文献で引用されている参考文献26及び27(いずれも本件優

先日以前の文献)においては、カラゲニン試験が末梢及び中枢の神経細

胞の感作を反映したものである旨が記載されている。このように、本件

優先日以前に、カラゲニン試験が神経細胞の感作を反映したものである

ことが知られていたものである。そのため、甲146の文献においても、

カラゲニン試験が神経障害性疼痛の治療薬の探索に利用され、カラゲニ

ン試験で効果を奏したアミトリプチリン投与が神経障害性疼痛治療の

候補として提案されている。

このように、カラゲニン試験は、神経細胞の感作を反映するものであ

る。

5 カ 術後疼痛試験について

(ア) 本件明細書等の術後疼痛試験においては、手術と対側後肢について熱

痛覚過敏を試験し、侵害受容性疼痛の遮断作用がないことが確認されて

いるから、当業者が、本件明細書等の術後疼痛試験を侵害受容性疼痛の

試験であると考えることはあり得ない。

(イ) 甲133の文献には、術後疼痛における痛覚過敏や接触異痛が中枢性

感作によるものであることが明示されており、このように術後疼痛が中

枢性感作を反映したものであることが本件優先日当時の技術常識であ

ったからこそ、甲15の1の文献において、術後疼痛試験が神経細胞の

感作の動物モデルとして提案されているのである。

キ 本件化合物が抗てんかん薬であることについて

(ア) てんかんが中枢神経の異常興奮による病態であることは一般常識で

あるところ、本件明細書等には、本件化合物が抗てんかん薬として既知

であり、更に抗痛覚過敏作用を有すると記載されているから、当業者は、

本件化合物が中枢性感作を抑制し、痛覚過敏や接触異痛を鎮痛できるこ

とを期待するものである。

(イ) 本件明細書等においては、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後

疼痛試験において、既知の抗てんかん薬であるギャバペンチンを比較例

として用い、本件化合物がギャバペンチンと同様に用量依存性で中枢性

感作の抑制効果を示すことを確認しているから、当業者は、本件化合物

が、ギャバペンチンと同様に、神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏

することを十分に理解する。

ク ケタミンに関する知見について

(ア) 本件化合物及びケタミンは、いずれも中枢神経に作用し、神経の異常

興奮を抑制する薬剤である。そして、中枢神経に作用し、原因にかかわ

らず痛覚過敏や接触異痛を鎮痛することができる薬剤はケタミンのみ

5 ではなく、アミトリプチリンが、ホルマリン試験、カラゲニン試験、各

種の神経損傷(坐骨神経結紮、末梢遮断、神経根遮断)の動物モデル及

び糖尿病性神経障害の動物モデルに加え、ヒトにおける慢性疼痛、帯状

疱疹後神経痛及び糖尿病性神経障害に効果を示すことが 知られていた

(甲146、甲164)。

(イ) したがって、当業者は、本件明細書等において、本件化合物がホルマ

リン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験に効果を奏したことから、

ケタミンと同様に、神経障害性疼痛や線維筋痛症においても効果を奏す

ることを理解する。

ケ 本件明細書等における比較例について

(ア) 本件明細書等には、モルヒネについて、侵害受容性疼痛に対して効果

を有する一方で、神経障害性疼痛に対しては効果が不十分であることが

明示されている。そうすると、本件明細書等の記載からは、モルヒネで

は効果が不十分な一部の神経障害性疼痛における痛覚過敏や接触異痛

に対する本件化合物の効果を確認するために、更にはモルヒネが有効な

侵害受容性疼痛(ホルマリン試験の初期相、術後疼痛試験の対側後肢P

WL)に対して本件化合物が作用しないことを確認するために、モルヒ

ネを比較例として利用したことは明らかである。

(イ) 本件明細書等において比較例として用いられているギャバペンチン

は、抗てんかん薬であり、反射性交感神経性ジストロフィーを含む神経

障害性疼痛の患者及び神経障害の動物モデルに対し、中枢性感作を抑制

することで痛覚過敏や接触異痛に効果を示すものである(甲136)。ま

た、ギャバペンチンが、抗てんかん薬であり、神経障害性疼痛に対して

効果を奏することは周知であった。そうすると、当業者は、本件化合物

の神経障害性疼痛に対する効果を示すためにギャバペンチンが比較例

として用いられていることを容易に理解することができる。

5 (ウ) 本件明細書等のホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験は、

いずれも神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の試験であり、当業

者が侵害受容性疼痛に対して効果を示すものと理解することはあり得な

い。また、本件明細書等において、本件化合物が、モルヒネとは異なり、

術後疼痛試験の痛覚過敏や接触異痛に優れた効果を有することが示され

ているから、当業者は、本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症の痛

覚過敏や接触異痛に効果を奏することを十分に理解することができる。

さらに、本件化合物が神経障害性疼痛に効果のあるギャバペンチンと同

様に用量依存性で効果を示していることからすれば、当業者は、ギャバ

ペンチンとの比較によっても、本件化合物が神経障害性疼痛に効果を奏

することを理解することができる。

〔被控訴人らの主張〕

ア 〔控訴人の主張〕アに対し

(ア) 控訴人が指摘する各文献の記載をみても、本件明細書等のホルマリン

試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験が神経障害性疼痛や線維筋痛症

等の慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛のための試験であるという

ことはできない。

(イ) 控訴人が指摘する各文献においては、炎症性疼痛及び術後疼痛は、侵

害受容性疼痛に分類されており、侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛の

定義に関する控訴人の主張は、独自の定義を主張するものにすぎない。

イ 〔控訴人の主張〕イに対し

(ア) 甲41の文献においては、本件明細書等のカラゲニン試験や術後疼痛

試験と同様に、侵害受容性疼痛によって生じる痛覚過敏について測定し

ているだけであり、神経障害性疼痛によって生じる痛覚過敏を測定して

いるわけではない。

(イ) 控訴人が指摘する各文献をみても、線維筋痛症と中枢性感作との関係

5 は読み取れず、仮に、これらの文献に何らかの示唆があるとしても、本

件化合物が中枢性感作を抑制することで線維筋痛症を抑制することの裏

付けにはならない。

ウ 〔控訴人の主張〕ウに対し

(ア) 乙4の文献には、控訴人が主張するようなことは記載されていない。

(イ) 控訴人が主張するように、痛みを原因によって区別することはできな

いとすると、モルヒネが一部の神経障害性疼痛に対して有効ではないこ

とや、NSAIDsが神経障害性疼痛に対して有効でないことの説明が

つかない。

(ウ) 甲128の文献が炎症について記載している部分において言及してい

る「組織」とは「神経組織」のことであり、この部分は神経障害性疼痛

について述べているにすぎない。

(エ) 控訴人が主張するように、あらゆる痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の

感作によって生じるのであれば、ケタミンは、複合性局所疼痛症候群に

対しても有効であるはずであるが、有効ではないとする文献が存する。

また、本件明細書等には、糖尿病性神経障害に関し、本件化合物の効果

について何の記載もなく、薬理試験等も一切行われていない。

エ 〔控訴人の主張〕エに対し

(ア) 本件明細書等のホルマリン試験は、注射後60分間という短時間の侵

害受容性(炎症)疼痛試験である上、閾値測定を実施しないものである

ため、痛覚過敏及び接触異痛についての鎮痛効果を測定することができ

ないものである。

(イ) 控訴人が指摘する各文献の記載内容によれば、ホルマリン試験の後期

相が中枢性感作を反映するものであることが技術常識であったとは考

えられない。また、控訴人が指摘する各文献の記載をもって、ホルマリ

ン試験の後期相が中枢性感作と関係していると考えたとしても、ホルマ

5 リン試験は、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛の試験にすぎず、本件化

合物が神経障害性疼痛に有効であることを裏付けるものではない。

オ 〔控訴人の主張〕オに対し

(ア) 本件明細書等のカラゲニン試験については、本件明細書等に「炎症性

疼痛の処置に有効」と記載されている上、炎症性疼痛が侵害受容性疼痛

の典型例であることからすれば、侵害受容性疼痛の処置に有効であるこ

とが明確に示されているものであり、控訴人の主張は、本件明細書等の

記載に基づかないものである。

(イ) 甲57及び甲72の各文献においては、カラゲニン試験が侵害受容性

疼痛に属する炎症性疼痛の試験であることが示されており、甲146の

文献においては、中枢性感作を抑えたのみでは痛覚過敏をなくすことは

できないことが示されているから、カラゲニン試験が神経障害性疼痛の

治療薬の研究に用いられてきたものとはいえない。

カ 〔控訴人の主張〕カに対し

(ア) 本件明細書等に「熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれの侵害

受容反応も・・・」と記載されているとおり、本件明細書等の術後疼痛

試験は、侵害受容性疼痛としての熱痛覚過敏及び接触異痛への作用を示

していることは明らかである。また、本件優先日当時、術後疼痛は、侵

害受容性疼痛の典型例とされていた。したがって、控訴人の主張は、本

件明細書等の記載及び当時の技術常識に反する主張である。

(イ) 甲133の文献は、

「・・・と関連し得る」とするのみであり、同文献

に記載された知見が技術常識に至っていないことは明らかである。また、

甲15の1の文献についても同様である。

キ 〔控訴人の主張〕キに対し

(ア) 抗てんかん薬であれば神経障害性疼痛や線維筋痛症に鎮痛効果を有す

ると主張することは、本件特許が用途発明であることを否定し、又はそ

5 の進歩性を否定するものである。

(イ) 本件明細書等の各試験は、いずれも侵害受容性疼痛の試験であること

しか記載されていないから、たとえ神経障害性疼痛に対して効果を奏す

るギャバペンチンを比較例としても、その結果は侵害受容性疼痛の試験

でしかなく、神経障害性疼痛に対する効果を確認することはできない。

ク 〔控訴人の主張〕クに対し

(ア) ケタミンは、本件明細書等には全く記載されていない物質であり、本

件化合物とは構造も全く異なるものであるから、ケタミンを基に本件化

合物の効果について論じるのは誤りである。また、ケタミンは、中枢神

経に作用することが知られているにもかかわらず、神経障害性疼痛に対

する有効性については今日では認められていないことからすれば、中枢

神経に作用しさえすれば、原因にかかわらず痛みを抑制することができ

るという控訴人の主張は誤りである。

(イ) アミトリプチリンについて述べた甲146の文献には、中枢性感作を

抑えたのみでは、痛覚過敏をなくすことができないことが示されている。

ケ 〔控訴人の主張〕ケに対し

本件明細書等の各試験は、いずれも侵害受容性疼痛の試験であることし

か記載されていないから、モルヒネを比較例としても、侵害受容性疼痛に

対する効果を比べているだけであって、侵害受容性疼痛以外の痛みに効果

を奏することは記載されていない。また、神経障害性疼痛に対して効果を

奏するギャバペンチンを比較例としても、その結果は侵害受容性疼痛の試

験でしかなく、神経障害性疼痛に対する効果を確認することはできない。

⑵ 争点3-1及び争点3-2(被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲

に属するか)について

〔控訴人の主張〕

ア クレーム解釈について

5 (ア) 本件発明3及び4は、あくまでも本件明細書等のカラゲニン試験及び

術後疼痛試験で確かめられた、炎症や手術を原因として神経細胞の感作

により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みをクレームしたものであり、そ

の技術的範囲もカラゲニン試験や術後疼痛試験で確かめられた痛みと

して特定されるべきである。

(イ) したがって、本件発明3及び4の技術的範囲は、炎症(手術)を原因

として神経細胞の感作により生じた痛覚過敏(又は接触異痛)の痛みと

認定されるべきであり、炎症性疼痛や術後疼痛とは別の疼痛分類である

侵害受容性疼痛という用語を持ち出して技術的範囲を更に限定するのは

誤りである。

イ 被告医薬品について

(ア) 炎症や手術といった原因にかかわらず、神経細胞の感作という神経の

機能異常で生じた痛覚過敏や接触異痛は、神経障害性疼痛や線維筋痛症

に共通する痛みである。また、神経障害性疼痛は、

「神経の機能異常に基

づく疼痛」と定義され、線維筋痛症も、

「痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群」

と定義されていたものであり、本件優先日当時から、炎症や手術が神経

障害性疼痛や線維筋痛症に関与することも知られていた。そうすると、

「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」を適応症とする被告医薬品

の用途が、炎症や手術を原因とした神経細胞の感作という神経の機能異

常により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みを含むことは明らかである。

(イ) 被告医薬品は、純粋な神経疾患のみにより神経細胞の感作を生じてい

る神経障害性疼痛や、心因性の原因のみから感作を生じている線維筋痛

症に限定して適応症を取得しているわけではない。そのため、被告医薬

品は、炎症や手術の組織損傷から神経細胞の感作を生じた場合、神経損

傷や神経疾患で炎症を生じたことにより神経細胞の感作を生じた場合、

手術により炎症、組織損傷、神経損傷又は神経疾患等を生じたことによ

5 り神経細胞の感作を生じた場合など、本件発明3及び4の技術的範囲に

含まれる様々な神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛を用途とするも

のである。

ウ クレーム解釈に係る予備的主張

(ア) 仮に、本件発明3及び4の痛みが侵害受容性疼痛に該当すると認定さ

れた場合には、侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛のいずれにおいても、

共通して神経細胞の感作という神経の機能異常により痛覚過敏や接触

異痛を生じるということになる。このような場合、炎症や手術を原因と

して混合性疼痛を生じている患者において、神経細胞の感作で痛覚過敏

や接触異痛を生じているとしても、機序が同一であることから、これを

侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とに区別することはできない。

このような前提に立てば、本件発明3及び4の痛みが侵害受容性疼痛

に限定されるとしても、それは炎症や手術を原因として生じた神経障害

性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛と区別することができない痛みなのであ

るから、被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に含まれることは

明らかである。

(イ) また、神経障害性疼痛は、それ自体が侵害受容性疼痛とオーバーラッ

プする痛み(混合性疼痛)として定義されているものであり、線維筋痛

症も、侵害受容性疼痛との併存が前提とされているものであるから、被

告医薬品が効能効果を「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」とす

ることは、それ自体、侵害受容性疼痛との混合性疼痛を処置用途とする

ことを添付文書において自認するものである。

エ 均等侵害について

原判決は、本件発明3及び4の本質的部分が侵害受容性疼痛に限定され

ると判断した。しかしながら、本件明細書等には、本件発明3及び4の本

質的部分が侵害受容性疼痛であるという記載は一切存在しない。かえって、

5 本件明細書等の記載によれば、本件発明3及び4の本質的部分は、従来技

術であるモルヒネ等の麻薬性鎮痛剤では処置の不十分な慢性疼痛のうち、

炎症や手術を原因とする痛みに対し、本件化合物の鎮痛作用又は抗痛覚過

敏作用を利用して、これを鎮痛剤として用いる点に存するものであるから、

原判決の認定は、本件明細書等の明示の記載と矛盾するものである。

〔被控訴人らの主張〕

ア 〔控訴人の主張〕アに対し

(ア) 本件明細書等においては、カラゲニン試験及び術後疼痛試験において、

痛覚過敏や接触異痛に対する効果が確認されているのみであり、これら

の痛みが神経細胞の感作によるものか否かや、神経障害性疼痛や線維筋

痛症と共通するか否かについての言及は一切されていない。また、炎症

性疼痛や術後疼痛が侵害受容性疼痛に該当するとの原判決の認定に誤り

はない。

(イ) 痛みは、その原因ごとに異なる種類の痛みに分類されるものである。

仮に、混合性疼痛のようなものがあるとしても、複数の痛みの原因がた

またま併存するにすぎないのであって、痛みが原因によって区別されて

いることに変わりはない。

イ 〔控訴人の主張〕イに対し

(ア) 痛みの伝達経路における神経細胞の感作は、正常な神経細胞の機能で

あり、神経の機能異常ではない。また、侵害受容性疼痛に係る痛覚過敏

や接触異痛について、仮に神経細胞の感作が関与していたとしても、そ

の原因は侵害受容器への刺激にあるのであって、神経障害性疼痛や線維

筋痛症に伴う疼痛とは原因を異にする。

(イ) したがって、

「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」を用途とする

被告医薬品が、これらの用途とは原因を異にする本件発明3及び4の技

術的範囲に含まれる余地はない。

5 ウ 〔控訴人の主張〕ウに対し

本件発明3及び4の用途は、侵害受容性疼痛に係るものであり、本件特

許権の存続期間の延長登録の理由となった処分の対象に係るものではな

い。そうすると、仮に、侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛が原因として

併存する混合性疼痛のようなものがあるとしても、

「神経障害性疼痛、線維

筋痛症に伴う疼痛」を用途とする被告医薬品が、本件発明3及び4に係る

特許権を侵害する余地はない。

エ 〔控訴人の主張〕エに対し

本件発明3及び4は、本件訂正によって用途が限定されたものであるか

ら、本件明細書等における広範な痛みの処置を用途とする記載に基づいて、

本件発明3及び4の本質的部分を認定することはできない。

第3 当裁判所の判断

当裁判所も、原審と同様に、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。

1 訂正前各発明及び本件各発明の内容

⑴ 本件明細書等の記載は、原判決10頁17行目ないし25頁4行目のとお

りであるから、これを引用する。

⑵ 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書等の記載によれば、訂正前各発

明及び本件各発明は、本件出願日当時に市場にある鎮痛剤、例えば麻薬性鎮痛剤又は非ステロイド性抗炎症薬ではその効果が不十分であり、又は副作用からの限界により痛みの処置が不完全であるとの課題を解決するため、てんかん等の中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用であるとされていた既知の薬物である本件化合物が、各請求項に記載された痛みの治療において、鎮痛、抗痛覚過敏作用を発揮することを新たに見出したことにより、本件化合物を包含する鎮痛剤の提供を可能にした医薬用途発明であると認められる。

2 争点1-1(無効理由1(実施可能要件違反の有無))について

5 ⑴ 判断基準

ア 平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項は、発明の詳細な説明について、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない」と定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明については、その物の使用等をする行為をいうのであるから(特許法2条3項1号) 物の発明について実施可能要件を満たすためには、、 明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識(本件優先日当時ではなく、本件出願日当時の技術常識に基づいて判断するのが相当である。他の争点についても同じ。)に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を使用することができる程度のものでなければならない。イ そして、前記1⑵のとおり、訂正前発明1及び2は医薬用途発明であるところ、医薬用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されるのみではその有用性を予測することは困難である上、医薬の有効量、投与方法等が記載されていても、それのみでは当該医薬が当該用途において実際に使用することができるかを予測することは困難であるから、医薬用途発明が実施可能要件を満たすというためには、当該医薬の効果に関する薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項が明細書に記載され、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、当該医薬が当該用途において使用することができるものであると理解できるものといえなければならないと解するのが相当である。

⑵ 本件明細書等の記載

ア 訂正前発明1の構成要件1B’及び1Cは、「痛みの処置における鎮痛剤」であり、訂正前発明2は訂正前発明1に係る請求項を引用するものであるところ、これらの発明に係る請求項には、構成要件1B’の「痛み」の種

5 類や原因を限定する記載はない。

そして、本件明細書等には、本件化合物を含む鎮痛剤が使用される痛みについて、「本発明は、・・・痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。 、」「痛みにはとくに炎症性疼痛、神経障害の痛み、癌の痛み、術後疼痛、および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが、末梢神経の外傷、ヘルペスウイルス感染、糖尿病、カウザルギー、神経叢捻除、神経腫、四肢切断、および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた、慢性アルコール症、ヒト免疫不全ウイルス感染、甲状腺機能低下症、尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには、神経傷害によって起こる痛みに限らず、たとえば糖尿病による痛みも包含される。」との記載がある。これらの記載によれば、構成要件1B’の「痛み」には、本件明細書等に記載された様々な痛みが全て包含されるものと解される。イ また、本件明細書等には、本件化合物であるCI-1008((S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸)及び3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸等を用いたラットホルマリン足蹠試験(以下「本件ホルマリン試験」という。 、CI-1008を用いたカラゲニン痛覚過敏)に対する試験(以下「本件カラゲニン試験」という。 、S-(+)-3-)イソブチルギャバ(先発医薬品の名称や化学構造(甲5)に照らし、CI

5 -1008と同一であると認められる。)を用いたラット術後疼痛モデル

における熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験(以下「本件術後疼痛試験」という。 を実施した結果が記載されているところ、) これらはいずれも本件化合物の効果に関する薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項であるといえる。他方で、本件明細書等には、神経障害の動物モデルであるベネットモデル及びチャングモデルに言及している部分があるが、本件化合物について、これらの動物モデルを用いた試験を実施した旨の記載は存しないから、上記言及をもって、本件化合物の効果に関する薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項が記載されているとみることはできない。このほか、本件明細書等において、他の試験の結果等、本件化合物の効果に関する薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項といえるような記載は見当たらない。以上によれば、本件明細書等において、本件化合物の効果に関する薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項として記載されているのは、本件ホルマリン試験、本件カラゲニン試験及び本件術後疼痛試験(以下、これらを併せて「本件3試験」と総称する。)に係る結果のみであると認められる。

⑶ 本件出願日当時の技術常識

ア 痛みの分類等について(ア) 甲79の文献(「病態生理よりみた内科学(改訂3版) (平成8年公」表)。以下、文献については著者名、該当頁数、出版社又は雑誌社の名称及び号数の記載は省略する。)には、次の記載がある。「1.痛みとはほとんどの痛みは、病的ではない。組織損傷またはその可能性がある場合に経験される急性疼痛は、個体の生存、日常生活を円滑に行うため

5 に必要な警告信号であり、生理的な痛みといえる。

・・・しかしある患者では、痛みはそれ自体が病的経過をあらわすことがある。このような病的な痛みは、しばしば慢性疼痛となる。これらの慢性疼痛は極めて多彩な特徴を持ち、その基礎となる病態生理に著しい差異があることを示す。こ れ ら を 大 別 す る と 、 侵 害 受 容 性 ( nociceptive ) 神 経 障 害 性、

(neuropathic)、心因性(psycogenic)の3つの異なった疼痛機序が考

えられる(図6-27)。侵害受容性疼痛は、侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による痛みであり、その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられる。これには体性と内臓性の痛みがあり、これまで経験した痛みの質(通常は患者がよく知っている痛みで、体性であればチクチクする、脈打つような、あるいは差し込むような痛みであり、内臓性なら鈍いあるいは絞るような痛み)によって、あるいはこれらの疼痛が生じる状況によって識別される。一般的な例として、癌の痛みや関節炎の痛みなどがある。鎮痛薬としてのモルヒネは有効である。神経障害性(神経因性)疼痛は、3つの亜型に分けられる。中枢性ニューロンの活動に一次的に関連するのも(判決注:「関連するもの」の誤記と認める。 、交感神経系の遠心性機能に依存するもの(いわゆる交感)神経依存性疼痛 sympathetic-maintained pain)、および末梢性機能に関連したものである。これらの痛みはすべて、神経損傷により急激に現れ、臨床的には、異常感覚(dysesthesia)、感覚異常(paresthesia)、あるいは神経学的障害または局在性自律神経障害のような特徴を合併する。末梢性神経障害性疼痛は発生機序により、さらにより細分される。・・・他の神経障害性疼痛は、図6-27に示したように分けられる。交感神経依存性疼痛と求心路遮断性疼痛は、・・・この種の疼痛にはモルヒネ

5 は無効で、・・・

第3の機序による疼痛は心因性のもので、特発性疼痛ともよばれる。

この痛みは、器質性病変を伴うものと伴わないものとがある。この種の痛みを特徴付けるのは困難で、診断には器質的要因と心理的要因とがどの程度疼痛経験に寄与しているかを識別する必要があり、問題はしばしば複雑となる。」(イ) 甲80の文献(「最新脳神経外科学」(平成8年公表))には、次の記載がある。「5.11 疼痛とその発生機序生 理 的 な 感 覚 と し て の 痛 み は 、 生 体 に と っ て 有 害 刺 激 ( noxiousstimuli) により痛覚求心系が興奮し、痛みとして認知される原始的で、かつ生体にとって警告的な感覚である。感覚としての痛みと比較して、病的な痛みは現象的にみて、不快、不安、苦悩、恐怖などの情動変動が激しい点で異なっている。しかし、病的な痛みのうちには、感覚としての痛みの認知と同様の機序によって発生するものがある。痛覚レセプターへの病的刺激量の増大による侵害受容性疼痛(noxious pain)と痛覚求心神経を病変によって刺激する神経性疼痛(neurogenic pain)とがある。これらを一括して病変による刺激過剰による病的痛みで、過剰刺激性疼痛(excess pain)と言われるものである。そのほかに、病的痛みとして重要なものは、末梢神経から大脳知覚領野までの生理的痛覚認知経路を遮断した後で発生するもので、痛覚障害を認める部位に対応して激しい痛みが発生することがある。除神経性疼痛 (deafferentation pain)といわれ、脳神経外科領域で対処すべき痛みのなかで最も一般的なものである。・・・b.病的痛みの発生機序

5 病的な痛みを発生機序よりみると、炎症や組織損傷による感覚レセプ

ターを異常に刺激することにより、痛覚求心系を激しく興奮させる侵害受容性疼痛(nociceptive pain)、神経痛などに認められる痛覚求心系、とくに末梢神経での圧迫や絞扼によって発生する神経性疼痛(neurogenic pain)がある。さらにそのほかに痛覚求心系が末梢神経で遮 断 さ れ た 後 に 発 生 す る 末 梢 神 経 除 神 経 性 疼 痛 ( peripheraldeafferentation pain)と痛覚求心系が中枢神経内で遮断される中枢神経除神経性疼痛(central deafferentation pain)に分類される。

(1) 侵害受容性疼痛

組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛みが侵害受容性疼痛である。この侵害レセプターの過剰な興奮が、痛覚求心系を興奮させて、情動反応を伴う痛みとなる。したがって、刺激となる組織障害に対処し、抗炎症療法を施行し、それらが効果をみる前には、モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能である。

(2) 神経性疼痛

神経性疼痛は、末梢神経に対する圧迫や絞扼によって発生するもので、脱髄や虚血のために異常知覚が発生したり、細系線維と太系線維との間でエファプス伝達(ephatic transmission)が発生したり、細経線維に過剰興奮を惹起させたりして、脊髄後角へ有害刺激の信号を大量に送り込み、脊髄視床路を介して、激しい痛みとして確認されるわけである。その代表的な疾患は特発性三叉神経痛(tic douloureux)、椎間板ヘルニアによる疼痛などがあげられる。三叉神経や脊髄後根が中枢神経系へ入る部分では、髄鞘がミエリン鞘から、グリア細胞性の鞘に移行する部分にあたり、この部分での絞扼や圧迫は簡単に脱髄に陥り、線維間の短路伝達(ephatic conduction)を誘発し、触刺激などの非侵害性刺激に

5 よっても、Aδ・C線維が興奮し、中枢神経内での生理的痛覚系を異常

興奮させて、激しい痛みとして感じられることになる。

(3) 除神経性疼痛

末梢神経から大脳皮質知覚野までの新脊髄視床路-視床皮質路が病変や障害によって遮断されると、その遮断された神経経路に一致する末梢部での痛覚障害が発生する。遮断発生後一定の期間を経ると、その痛覚障害部を中心に激しい痛みが発生する。それを除神経性疼痛といい、その遮断部が末梢神経にあるとき、末梢性除神経性疼痛といい、中枢神経内で遮断されている場合、中枢性除神経性疼痛という。」(ウ) 甲81の文献(「The Massachusetts General Hospital Handbook ofPain Management」(1996(平成8)年公表) には、) 次の記載がある。「痛みのタイプ(定義)侵害受容性-侵害受容器の活性化によって発生する痛み。侵害受容器は、中枢神経系を除く全ての組織に存在する。痛みは、皮膚や内臓の求心性神経線維の化学的、熱的又は機械的な活性化の程度と臨床的に比例し、急性又は慢性である(体性痛、癌性疼痛、術後疼痛)。神経障害性-末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み。進行中の疾病がなくても痛みが持続する(例えば、糖尿病性神経障害)。カウザルギー、反射交感神経ジストロフィー又は交感神経依存性疼痛-末梢神経損傷に起因し、アロディニア、痛覚過敏、灼熱感及び血管運動性変化、そして発汗を含む交感神経系の機能亢進の証拠をしばしば伴う。求心路遮断性-中枢神経系の痛みの経路(末梢又は中枢の)に対する求心性入力が喪失する結果生じる慢性疼痛(例えば、神経捻除や脊髄損傷)。神経痛-神経分布における神経障害や刺激に伴う電撃痛(例えば、三

5 叉神経痛)。

神経根障害-神経根の圧迫や分断により生じる痛み(例えば、椎間板疾患)。中枢性-通常、脊髄視床皮質経路を含む中枢神経系での障害により生じる痛み(例えば、視床梗塞)。心因性-神経系の解剖学的分布と一致しない痛み。しばしば、十分な検索を行っても、痛みを説明する器質的障害を認めない。」(エ) 甲78の文献(「最新医学大辞典(第2版) (平成9年公表)」 )には、次の記載がある。a 「カウザルギー causalgia《灼熱痛、疼痛性熱感;burning pain、thermalgia》主として外傷性の末梢神経の損傷後にみられる、自律神経症状を伴った灼熱性の疼痛を訴える疾患である。損傷を受けた神経の支配領域を中心に焼けつくような痛みと同部の血管拡張または血管収縮を示し、発汗過多や減少を呈することもある。また同部の皮膚は痛覚過敏や鈍麻などの知覚異常もみられる。原因としては、損傷部位において遠心性の交感神経線維と求心性の知覚線維の間に“artifitial Synaps”が形成され、血管運動神経と知覚神経が正のフィードバックをもつためと考えられている。治療は交感神経節切除または交感神経節のブロックが有効である。」b 「三叉神経痛 trigeminal neuralgia《顔面痛、疼痛〔性〕チック、フォザーギル神経痛;prosopalgia、 Ftic douloureux、 Fothergill*neuralgia》John F.(1712-1780、医師、英)。顔面に激痛を起こす神経痛。特発性(真性)のものと症候性のものがある。特発性三叉神経痛は、神経痛の代表であり、発作的な激痛が数~数十秒続き、緩解時は無症状である。痛みの性質は電気が走るような激痛である。」c 「術後疼痛 postoperative pain 切開創の痛み、あるいは内臓痛や

5 術中体位の影響による関節・筋・腰痛などが総合されてその原因とな

る。術後1~2日まで特に痛みが激しいが、抜糸まで続くものである。術後疼痛は、創部の乏血により治癒を遅らせ、痛みによる呼吸の抑制で肺合併症をきたしやすい。治療は、一般に麻薬性鎮痛薬、ペンタゾシンやブプレノルフィンなど非麻薬性鎮痛薬、解熱性鎮痛薬が投与される。トランキライザーの併用も有効である。硬膜外ブロックや硬膜外モルヒネ投与は極めて有効な疼痛処置である。」d 「心因性疼痛 psychogenic pain 精密検査を行っても、原因となるような器質的病変ないし病態生理的機序が見出されないにもかかわらず訴えられる疼痛、またある程度関連する器質的病変が存在する場合でも、その身体的所見から期待されるものを上回る強さで訴えられる疼痛などで、背景に心理的要因が関与していると考えられるものをいう。」e 「ヘルペス後神経痛 postherpetic neuralgia 帯状疱疹を起こす水痘・帯状疱疹ウイルスが脊髄後根神経節やそれに対応する神経節を侵し、疱疹が治癒した後も数ヵ月また何年にもわたって起こる疼痛。好発部位は三叉神経第 1 枝の領域で、そのほか肋間神経にも起こる。疼痛は痒いような、刺すような、焼けつくようななどと表現される。比較的年齢の高い人に多く、種々の治療も奏効しないことが多い。」(オ) 甲84の文献(「神経内科 Quick Reference(第2版) (平成7年公」表))には、次の記載がある。「0.種々の疼痛(頭痛以外の疼痛)・・・1.侵害受容器と求心性線維・・・2.疼痛抑制系

5 ・・・

3.関連痛 referred pain・・・4.三叉神経痛・・・5.帯状疱疹後神経痛 post-herpetic neuralgia・・・6.神経根痛 radicular pain・・・7.視床痛 thalamic pain・・・8.カウザルジア causalgia・・・9.心因性疼痛 psychogenic pain・・・10.治療上述の各項目毎に治療についても簡単に触れたが、以下疼痛の対症療法についてまとめる。A.末梢において痛みを減らすものa.プロスタグランジンなどの化学物質の抑制アスピリン、インドメサシン、ステロイド剤、その他の非ステロイド性抗炎症薬b.侵害受容器を活性化する伝達物質に拮抗するものセロトニン拮抗薬:ergotamine、methysergideβアドレナリン遮断薬、抗ヒスタミン薬B.侵害刺激の伝達を末梢にて抑制するもの

5 a.神経ブロック(プロカイン、アルコール、フェノール)、b.経

皮的電気刺激、c.針治療、d.抗てんかん薬、e.神経切断C.エンドルフィン受容器を直接刺激するものモルフィン、meperidineD.中枢における痛覚路の遮断cordotomy、commissural myelotomy、thalamotomyE.その他精 神 安 定 薬 、 抗 う つ 薬 、 下 垂 体 破 壊 、 frontal lobotomy 、cingulotomy」(カ) 上記(ア)ないし(オ)の各文献の記載内容によれば、本件出願日当時、慢性疼痛とも呼ばれる病的な痛みについては、発生機序に応じて様々な分類がされていたものであり、これらの痛みの態様や程度、治療方法等は、それぞれ異なるものであると考えるのが技術常識であったといえる。また、発生機序に応じた痛みの分類の仕方は様々であるものの、少なくとも、炎症や組織損傷による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛み(侵害受容性疼痛)と、神経に対する圧迫や絞扼等の神経の障害を発生機序とする痛み(神経障害性疼痛)及び心因性疼痛と呼ばれる痛み等とを区別するのが技術常識であったと認められる。イ ホルマリン試験について(ア) 甲45の文献(「The formalin test: an evaluation of the method」(1992(平成4)年公表))には、次の記載がある。a 「主にラットとマウスで使用されている侵害受容のホルマリン試験は、傷害を受けた組織によって発生する中程度の継続的な痛みを伴う。このように、それは閾値強度の短い刺激に頼るほとんどの伝統的な侵害受容の試験とは異なる。本稿では、刺激の特性や侵害受容行動の変化をどのように測定し解釈するかを含め、ホルマリン試験の主な特徴

5 について説明する。ホルマリンへの応答は、初期相と後期相を示す。

初期相は、主に末梢刺激によるC-線維活性化によって引き起こされるように思われるが、後期相は、末梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組合せに依存するように思われる。」b 「結論として、ホルマリン試験は、侵害受容を研究するために利用可能な一連の方法への価値ある追加である。」c 「ホルマリン試験は、・・・いくつかの研究分野において、他の試験に比べてかなりの利点を有しており、よって侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。」(イ) 甲43の文献(「THE FORMALIN TEST: A QUANTITATIVE STUDY OF THEANALGESIC EFFECTS OF MORPHINE, MEPERIDINE, AND BRAIN STEMSTIMULATION IN RATS AND CATS」(1977(昭和52)年公表))には、次の記載がある。a 「ラットおよび猫の疼痛および鎮痛を評価する方法が説明される。その手順は、希薄ホルマリンの前肢への皮下注射を含み、その後客観的行動基準に従って動物の反応が評価される。」b 「要するに、ホルマリンテストは・・・疼痛の閾値を測定するものではないけれども、むしろ比較的長く続く疼痛刺激に対する行動的反応を定量化するものである。したがって、これは実際の病的な状態において見られるような痛みに類似している。このテストは、それ故に、疼痛を評価するために現在利用可能な方法への価値ある追加である。」( ウ ) 甲 4 6 の 文 献 ( Evidence for spinal N-methyl-D-aspartate「receptor involvement in prolonged chemical nociception in the rat」(1990(平成2)年公表))には、次の記載がある。a 「ホルマリンによって生成される求心性集中砲火・・・比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発さ

5 れた活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の

一つの基礎となっている可能性があると思われる。」b 「ホルマリンの皮下注射は、短時間持続する一過性の活性(・・・)を生み出すことが示されてきており、侵害受容の長引く持続期がこの後に発生し、これは様々な種における行動学的研究によって評価されており・ ・、・ 持続した侵害刺激の有用なモデルであると考えられる。」(エ) 甲47の文献(「The Contribution of Excitatory Amino Acids toCentral Sensitization and Persistent Nociception after Formalin-induced Tissue Injury」(1992(平成4)年公表))には、次の記載がある。a 「ラットにおける組織損傷に反応した中枢の感作と持続性侵害受容の発生への興奮性アミノ酸(EAAs)の寄与が、後肢へのホルマリンの皮下注射後に調べられた。」b 「我々は、以前(・・・)、損傷に誘導される中枢性感作の行動モデルとして、ホルマリン試験を用いた。」c 「リドカイン(・・・)又は μ-オピオイドDAMGO(・・・)のいずれかのくも膜下腔投与が、ホルマリン試験の第一相の直後ではなく、前に投与されれば、皮下ホルマリンに対する行動反応及び後角ニューロン反応を阻害することが証明された。これは、ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち、中枢性感作)を引き起こし、それが次いで後期相の間の処理に影響すること、をもたらし得ることを示唆する。」(オ) 甲48の文献(「Formalin induces biphasic activity in C-fibersin the rat」(1996(平成8)年公表))には、次の記載がある。a 「ホルマリン誘発性の行動の第一相は、ホルマリン誘発性のC線維の一次求心性侵害受容器の活性化を反映しており、第二相は、第一相

5 の間の一次求心性インプットの初期の集中砲火により後角ニューロン

が感作(中枢性感作)した結果か、炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か、又はその両方の組合せ[・・・]であるとの仮説が立てられてきた[・・・]。ホルマリンに対する行動反応の第二相への末梢性侵害受容作用の寄与については、議論が引き起こされている。」b 「総合すれば、これらのデータは、一次求心性作用が、第二相の侵害受容行動の発現に必要とされること、および中枢性感作が第二相の単独の根拠ではないことを示唆している。」(カ) 甲49の文献(「The Role of NMDA Receptor-operated CalciumChannels in Persistent Nociception after Formalin-induced TissueInjury」(1992(平成4)年公表))には、次の記載がある。a 「ラットにおける組織損傷に対する応答である中枢性感作および持続性侵害受容への細胞内カルシウムの貢献が、後肢へのホルマリンの皮下注射の後に調べられた。」b 「この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は、主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。」( キ ) 甲 5 1 の 文 献 ( Intracellular Messengers Contributing to「Persistent Nociception and Hyperalgesia Induced by L-Glutamateand Substance P in the Rat Formalin Pain Model」(1994(平成6)年公表))には、次の記載がある。「この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容、およびL-グルタミン酸およびサブスタンスPにより引き起こされたホルマリン試験における痛覚過敏は、細胞内

5 メッセンジャーである一酸化窒素、アラキドン酸およびプロテインカイ

ネースCに依存することを示す。」(ク) 上記(ア)ないし(ウ)の各文献の記載によると、本件出願日当時、ホルマリン試験は、ラット等にホルマリンを皮下注射することにより、炎症による持続した侵害刺激を生じさせ、これによって生じた痛みに対する薬剤の効果を確認するための有用な動物モデルであると考えられていたものと認められる。そして、上記の炎症による持続した侵害刺激によって生じた痛みは、炎症による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛みである侵害受容性疼痛に当たるものというべきである。他方で、ホルマリン試験の後期相については、上記(エ)の文献のように、専ら中枢性感作を反映し得るものであると指摘する知見もあったものの、上記(ア)及び(オ)ないし(キ)の文献のように、多くの文献においては、炎症性疼痛及び中枢性感作の組合せを反映し得るとされるにとどまっていたものと認められる。以上によれば、本件出願日当時、ホルマリン試験は、後期相が中枢性感作を反映し得るものであることが指摘されてはいたものの、侵害受容性疼痛に対する薬剤の効果を確認するための動物モデルであると考えられていたものというべきである。ウ カラゲニン試験について(ア) 甲44の文献( new and sensitive method for measuring thermal「Anociception in cutaneous hyperalgesia」(1988(平成元)年公表) は、) 「皮膚の痛覚過敏における熱侵害受容を測定するための新たな精度の高い方法」とのタイトルの文献であり、次の記載がある。a 「拘束されていない動物における熱刺激に対する皮膚痛覚過敏を測定する方法が記載されている。・・・カラゲニンに誘発された炎症は、食塩水で処置した足と比較して有意に短い足回避潜時をもたらし、そ

5 してこれらの潜時変化は熱侵害受容閾値の低下に対応した。」

b 「鎮痛薬によるカラゲニン誘発痛覚過敏の遮断を検出する熱的および機械的方法の能力が、硫酸モルヒネ・ ・またはインドメタシン・ ・・ ・で前処置したラットにおいて評価され、比較された。・・・熱的および機械的刺激に対する行動反応は、ベースライン時および最初の注射の2時間後と3.5時間後に、カラゲニン処置および対側の未処置の後肢の両方について測定された。」(イ) 甲56の文献(「Spinal opioid analgesic effects are enhanced ina model of unilateral inflammation/hyperalgesia: possibleinvolvement of noradrenergic mechanisms」(1991(平成3)年公表))には、次の記載がある。a 「カラゲニン誘導炎症は、1962年 Winter 等によって説明された。そして、非ステロイド抗炎症薬のスクリーニングのために広く使われるようになっている・・・。最近、皮膚の痛覚過敏のモデルとして適合されている。」b 「データは、炎症状態中のオピオイドの鎮痛作用が脊髄のノルアドレナリン作動性の経路との相互作用に依存する可能性があることを示す。」c 「末梢性炎症を有する動物に全身投与されたオピオイドの鎮痛効果の増強は、最近、炎症組織内の受容体での薬理作用に基づくものとされた(・・・)。本研究は、片側性のカラゲニン誘発炎症/痛覚過敏が脊髄レベルでのオピオイドアゴニストの鎮痛効果の増加とも関連していることを示す。」d 「我々は、片側性カラゲニン誘発の炎症モデルにおけるオピオイドアゴニストの脊髄媒介性の抗侵害受容効果を調べた。」(ウ) 甲57の文献(「Alterations in neuronal excitability and the

5 potency of spinal mu, delta and kappa opioids after carrageenan-

induced inflammation」(1992(平成4)年公表))には、次の記載がある。a 「これらの結果は、末梢の炎症に続いて、脊髄の伝達及び調節システムの両方で機能的変化が発達することを実証した。μアゴニストであるモルヒネで、オピオイドアゴニストの抗侵害受容性の変動が生じ、大きな変化を示した。」b 「おそらく、炎症の発達は、脊髄ニューロンの過興奮における閾下での変化に随伴し、これにより観察された変化が生ずる。遅いEPSPの合計が、これらの細胞のワインドアップの基礎となることが示されている(・・・)。EPSPの構築といったイベントと、十中八九IPSPとが、末梢の炎症に続いて、脊髄での伝達及び調節におけるこれらの変化を生ずるもっともな説明となる。」(エ) 上記(ア)及び(イ)の各文献の記載によると、本件出願日当時、カラゲニン試験は、ラット等にカラゲニンを皮下注射することにより、炎症による痛覚過敏を生じさせ、これに対する薬剤の効果を確認するための動物モデルとして広く利用されていたものと認められる。そして、上記の炎症による痛覚過敏の痛みは、炎症による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛みである侵害受容性疼痛に当たるものというべきである。他方で、カラゲニン試験については、上記(ウ)の文献のように、炎症の発達及び脊髄ニューロンの過剰興奮を反映するものである可能性を指摘する知見もあったものといえる。以上によれば、本件出願日当時、カラゲニン試験は、炎症の発達及び脊髄ニューロンの過剰興奮を反映し得るものであることが指摘されてはいたものの、侵害受容性疼痛に対する薬剤の効果を確認するための動物モデルであると考えられていたものというべきである。

5 エ 術後疼痛試験について

術後疼痛試験については、ホルマリン試験及びカラゲニン試験とは異なり、本件出願日当時における一般的な試験内容を認定するに足りる証拠は存しない。

⑷ 検討

ア 検討すべき内容上記⑴及び⑵によれば、訂正前発明1及び2が実施可能要件を満たすというためは、当業者が、本件明細書等における本件3試験に係る結果の記載及び上記⑶のとおりの本件出願日当時の技術常識に基づいて、本件化合物が本件明細書等に記載された様々な痛みの全てに対して使用することができるものであると理解できるものといえなければならない。イ 本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験について(ア) 本件明細書等には、本件ホルマリン試験の結果として、本件化合物は初期相においては特段の効果を奏さなかったが、後期相においては効果を奏した旨が、本件カラゲニン試験の結果として、本件化合物が機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏のいずれに対しても効果を奏した旨が、それぞれ記載されている。(イ) そして、本件明細書等の記載及び上記⑶イ及びウによれば、本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験は、いずれも本件出願日当時における一般的なホルマリン試験及びカラゲニン試験と同様の試験内容であったといえるところ、上記⑶イ及びウで検討したとおり、本件出願日当時、ホルマリン試験は、侵害受容性疼痛である炎症による持続的な侵害刺激によって生じた痛みに対する薬剤の効果を、カラゲニン試験は、侵害受容性疼痛である炎症による痛覚過敏の痛みに対する薬剤の効果を、それぞれ確認するための動物モデルであると考えられていたものと認められる。

5 (ウ) 以上によれば、当業者は、本件ホルマリン試験によって、侵害受容性

疼痛である炎症による持続的な侵害刺激によって生じた痛みに対する本件化合物の効果が、本件カラゲニン試験によって、侵害受容性疼痛である炎症による痛覚過敏の痛みに対する本件化合物の効果が、それぞれ確認されていると認識するものというべきである。ウ 本件術後疼痛試験について(ア) 本件明細書等には、本件術後疼痛試験の手術について、右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備して、踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に皮膚及び筋膜を通して1‐cm縦に切開し、また、足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げて縦に切開した上で、傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02の針を用いて2個所で閉じたこと、熱痛覚過敏については、上方に傾斜したガラステーブルの下に可動性放射熱源を置き、ラットの後肢足蹠に焦点を合わせ、足蹠回避潜時(PWL)を記録したこと、接触異痛については、動物の後肢の足蹠表面に、順次力を増大させてフライの毛で触れ、後肢の回避が誘発されるまで試験し、反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録したことが、それぞれ記載されている。また、本件明細書等には、本件術後疼痛試験の結果として、本件化合物が熱痛覚過敏及び接触異痛のいずれに対しても効果を奏した旨が記載されている。(イ) 甲15の1の文献 「Characterization of a rat model of incisional(pain」 (1996(平成8)年公表))には、次の記載がある。a 「要約 本研究で我々は、切開痛のラットモデルを開発した。ハロタン麻酔ラットの皮膚、筋膜、および足蹠の足底側面の筋肉を1-cm 縦に切開した。手術前及び手術に続く6日間、創傷周辺のさまざまな領域でフォン・フライの毛を使用して、回避反応を測定した。動物の体

5 重負荷行動に基づく累積疼痛スコアも利用した。

回避反応試験及び体重負荷に基づくスコアの結果は、ラット足の外科的切開が、術後数日間続く信頼性のある定量可能な機械的痛覚過敏を引き起こすことを示唆している。足の皮膚と筋膜のみを含み、筋肉を含まない切開は、最初の術後期間中にそれほど重度の痛覚過敏を引き起こさなかった。本モデルにより、手術による感作のメカニズムを理解し、ヒトの術後疼痛の新しい治療法を調査できるであろう。」b 「術後疼痛は、急性痛の一般的な形態である。」c 「本研究において、切開からおよそ10mm離れた位置の調査は、逃避反射の閾値減少を示した(図4)。切開から10mmの一次求心性の感作は起こらないだろうことから、この離隔した敏感さが示唆するのは、外科的切開が我々の動物において二次痛覚過敏を生ずるだろうということである。人間における切開後の二次痛覚過敏は、・・・著者らは、傷の上10cmの位置での疼痛閾値の減少を検出し、これが中枢性感作による二次痛覚過敏であったことを示した。」(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、本件術後疼痛試験は、ラットの後肢の足蹠面の皮膚、筋膜及び筋肉を切開する手術の創傷により、痛覚過敏及び接触異痛を誘発し、痛覚過敏及び接触異痛を生じた同側足蹠に対する薬剤の効果を確認するというものであり、甲15の1の文献に記載されたモデルを基にしたものであるといえるものの、同文献に記載されているように、創傷周辺の様々な領域で回避反応を測定したものではないことからすれば、当業者は、本件術後疼痛試験につき、隔離した敏感さに示唆される二次痛覚過敏の痛みでなく、術後疼痛の一般的な形態である急性痛に対する薬剤の効果を確認する試験であると理解するものと認められる。

5 そうすると、上記の手術の創傷によって生じた痛覚過敏及び接触異痛

の痛みは、組織損傷による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛みである侵害受容性疼痛に当たるものというべきである。(エ) 以上によれば、当業者は、本件術後疼痛試験によって、侵害受容性疼痛である手術の創傷によって生じた痛覚過敏及び接触異痛の痛みに対する本件化合物の効果が確認されていると認識するものというべきである。エ ベネットモデル及びチャングモデルについて(ア) 前記⑵イのとおり、本件明細書等には、ベネットモデル及びチャングモデルに言及している部分があるが、本件化合物について、両モデルを用いた試験を実施した旨の記載は存しないところ、本件明細書等の記載及び次の各文献の記載によれば、本件出願日当時、両モデルは、いずれも神経障害のモデルとして広く知られていたものといえる。a 甲85の文献 「An experimental model for peripheral neuropathy(produced by segmental spinal nerve ligation in the rat」(1992(平成4)年公表))「最近、ラットを用いてカウザルギーについての2つの実験動物モデルが開発された。Bennett and Xie 1988)( によるものと、Seltzeret al.(Seltzer and Shir 1988;…1990)によるものである。前者のモデルは、坐骨神経の周囲に4つの緩い結紮を施すことにより作成され、・・・。これらのモデルはいずれも、痛覚過敏とアロディニアの急速な発生というカウザルギーの主要な臨床症状を模倣する。さらに、動物らは自発痛を発症し、また交感神経系が関与していることを示唆する証拠がある。我々は、ラットの片側のL 5 あるいはL 5 及びL 6 の双方の脊髄神経を完全に結紮することを含む、3番目のモデルを開発した。」

5 b 甲86の文献(「Interventional Pain Management」(1996(平

成8)年公表))

(a) 「表3-3.脊髄修飾システム:ラットにおける髄腔内注射の効

果」

(b) 「実験的疼痛状態(動物モデル)

アロディニア(髄腔内ストリキニーネ、Chung モデル)神経損傷-痛覚過敏(Bennett モデル)」(イ) そうすると、本件明細書等に接した当業者は、本件化合物の効果を確認するための試験として、神経障害のモデルとして広く知られていたベネットモデル及びチャングモデルではなく、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験が選択されているものと認識するものといえる。これに上記イ及びウで検討したところを併せ考慮すれば、本件明細書等に接した当業者は、本件化合物について、炎症や組織損傷による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛み(侵害受容性疼痛)とは区別される神経の障害を発生機序とする痛み(神経障害性疼痛)に対する効果は確認されていないと認識するものというべきである。オ その他の事情(ア) 本件明細書等には、本件化合物が本件3試験において効果を奏する場合に、さらなる薬理試験等を要することなく、本件明細書等に記載された様々な痛みの全てについて効果を有すると予測されることを明示又は示唆する技術常識は何ら記載されていない。(イ) また、前記⑶アのとおり、本件出願日当時、慢性疼痛とも呼ばれる病的な痛みについては、発生機序に応じて様々な分類がされていたものであり、これらの痛みの態様や程度、治療方法等は、それぞれ異なるものであると考えるのが技術常識であったといえる一方で、痛みの種類を問

5 わず、痛覚過敏又は接触異痛等の痛みの発症原因や機序が同一であり、

いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば、他の種類の痛みに対しても有効であるとの技術常識があったと認めるに足りる証拠は存しない。カ 小括以上検討したところによれば、本件明細書等の記載に接した本件出願日当時の当業者は、本件化合物について、いずれも侵害受容性疼痛である、炎症による持続的な侵害刺激によって生じた痛み、炎症による痛覚過敏の痛み並びに手術の創傷によって生じた熱痛覚過敏及び接触異痛の痛みに対して使用することができるものであると認識するといえるものの、本件化合物が、これらの痛みに限らず、神経の障害を発生機序とする痛み(神経障害性疼痛)を含む、本件明細書等に記載された様々な痛みの全てに対して使用することができるものであると理解できるものとは認められない。したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、当業者において、その記載及び本件出願日当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、訂正前発明1及び2に係る物を使用することができる程度のものであるとはいえないから、訂正前発明1及び2は、実施可能要件を満たさないというべきである。

⑸ 原審における控訴人の主張(原判決別紙「

(原告の主張)

」)に対する判断ア 「

(原告の主張)

」第1の1⑴イについて(ア) 控訴人は、本件出願日当時、慢性疼痛は、それが侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても、末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したので、当業者は、本件明細書等の記載及び同明細書等に記載された薬理試験の結果から、本件化合物が

5 本件明細書等に記載された各種の痛みに有用であると認識することが

できた旨主張し、その理由として、本件出願日当時、ホルマリン試験等を用いた研究により、組織損傷や炎症の後に、興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られており、カラゲニンの炎症や術後疼痛における感作もこれと同様の機序であると理解されていた上、神経損傷の後にも、同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていたことなどを主張する。(イ) そこで検討するに、控訴人が指摘する文献には、組織損傷や炎症後の痛覚過敏について、次の記載がある。a 甲 3 9 の 文 献 ( The induction and maintenance of central「sensitization is dependent on N-methyl-D-aspartic acid receptoractivation; implications for the treatment of post-injury painhypersensitivity states」(1991(平成3)年公表))

(a) 「中枢感作はヒトにおける損傷後疼痛過敏状態の原因となる可能

性がある」

(b) 「末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏は、損傷付近の一次求

心性侵害受容器の感受性の増大(末梢性感作)・・・および、脊髄におけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じる」b 甲 4 6 の 文 献 ( Evidence for spinal N-methyl-D-aspartate「receptor involvement in prolonged chemical nociception in therat」(1990(平成2)年公表))「ホルマリンによって生成される求心性集中砲火・・・比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発された活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性がある」

5 c 甲49の文献(「The Role of NMDA Receptor-operated Calcium

Channels in Persistent Nociception after Formalin-inducedTissue Injury」(1992(平成4)年公表))「この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は、主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。」(ウ) また、控訴人が指摘する文献には、術後疼痛について、次の記載がある。a 甲 1 5 の 1 の 文 献 ( Characterization of a rat model of「incisional pain」(1996(平成8)年公表))「著者らは、傷の上10cmの位置での疼痛閾値の減少を検出し、これが中枢性感作による二次痛覚過敏であったことを示した。」b 甲50の文献 「Spinal nitric oxide synthesis inhibition blocks(NMDA-induced thermal hyperalgesia and produces antinociceptionin the formalin test in rats」(1993(平成5)年公表))

(a) 「この痛覚過敏要素は、脊髄のNMDA受容体の活性化によって

開始され、それはNO生成を介して求心性インプットの実際の増大処理および続く疼痛行動の関連する痛覚過敏要素に導く。」

(b) 「これらの観察が示唆しているのは、ヒトの術後疼痛状態は、 ・

・ ・長引く求心性の活動や脊髄のNMDAレセプターを用いた動物モデルやシステムと少なからず類似しているだろうということである。」(エ) さらに、控訴人が指摘する文献には、神経障害性疼痛について、次の記載がある。a 甲42の文献(「Response of chronic neuropathic pain syndromes

5 to ketamine: a preliminary study」(1994(平成6)年公表))

「動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように・・・、痛覚過敏はNMDA受容体によって介在される『ワインドアップ現象』の提示である可能性がある。これに関して神経障害性疼痛症候群における痛覚過敏はホルマリン誘発性の痛みの第二相・・・に類似する。これらはすべて、NMDA受容体介在性の中枢性促通による脊髄レベルでのワインドアップ現象によって生じると思われる。」b 甲 4 6 の 文 献 ( Evidence for spinal N-methyl-D-aspartate「receptor involvement in prolonged chemical nociception in therat」(1990(平成2)年公表))「持続したあるいは慢性的な痛みに関連する多くの問題の一つは、長く持続する痛みのある種の形態を緩和する難しさにあり、これは特に、神経損傷に関連する形態についてである。・・ ・動物についての様々な研究は、末梢の侵害受容繊維の感作が発生し得ること・・・を明らかに示し、さらに最近では、マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの反応を顕著に促進する、急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している。このようなメカニズムは、痛みを増幅し、持続する痛みの状態の問題に貢献する可能性がある。」(オ) 上記(イ)ないし(エ)の各記載によれば、本件出願日当時、末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏の痛みが末梢性感作及び中枢性感作の結果として生じている可能性を指摘する知見があったとはいえる。しかしながら、これらの文献には、発症の原因を異にする痛覚過敏の痛みの全てについて、末梢又は中枢の神経細胞にいかなる共通の変化等が生じ、これに対して薬剤がいかなる共通の作用を及ぼし得るのかなどに関する具体的な記載はみられないことからすれば、本件出願日当時、発症の原因を異にするあらゆる痛覚過敏の痛みが、その原因にかかわらず、共通

5 して末梢又は中枢の神経細胞の感作によって引き起こされる神経の機

能異常により生じるものと考えられていたものとは認められない。そうすると、本件出願日当時、あらゆる慢性疼痛が、末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したものと認めることはできず、当業者が、本件3試験の結果の記載のみから、本件化合物が本件明細書等に記載された様々な痛みの全てに対して使用することができるものであると理解できるものともいえない。(カ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。イ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴ウについて(ア) 控訴人は、組織損傷や炎症により神経を損傷し、逆に神経損傷により炎症を生じるなどして、神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから、痛みを組織損傷、炎症、神経損傷、心因性の要因などの原因では明確に区別することはできず、炎症性疼痛及び術後疼痛と神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とは相互に重複する痛みであると理解されていた旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑶アのとおり、本件出願日当時、慢性疼痛とも呼ばれる病的な痛みについては、発生機序に応じて様々な分類がされていたものであり、これらの痛みの態様や程度、治療方法等は、それぞれ異なるものであると考えるのが技術常識であったと認められる。また、上記アで検討したとおり、本件出願日当時、あらゆる慢性疼痛が、末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したものと認めることはできない。さらに、上記アで挙げた控訴人が指摘する文献においても、痛みをその原因に応じて区別することができない旨の記載は存しない。そうすると、各種の疼痛に共通して痛覚過敏や接触異痛の症状がみら

5 れるとしても、そのことから、痛みを組織損傷、炎症、神経損傷、心因

性の要因などの原因では明確に区別することができず、炎症性疼痛及び術後疼痛と神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とが相互に重複する痛みであると理解されていたものとは認められない。(ウ) 上記主張に関して控訴人は、痛みを原因では明確に区別することはできず、各種の疼痛が相互に重複する痛みであると理解されていた例として、神経障害性疼痛を生ずる椎間板ヘルニアや神経障害性疼痛を生ずる複合性局所疼痛症候群において、炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られ(甲128、130) 神経損傷の後にも神経細胞の感作を生、ずることが知られていたことを挙げる。しかしながら、甲128の文献(及びその訳文の追加である甲170の3)には、髄核ヘルニアの痛みについて、神経根及び神経終末の炎症及び刺激が関連すること、末梢組織の疼痛の状況が後角における体性感覚ニューロンを感作させて慢性疼痛状態に寄与し得ることが記載されているものの、神経の炎症及び刺激と体性感覚ニューロンの感作との関係についての記載は存しない。また、甲130の文献には、RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)が反射神経の炎症の形態であることを示す旨が記載されているものの、これはRSDにおいて炎症状態にある神経が痛みを生じることが記載されているにすぎないといえる。そうすると、これらの文献の記載をもって、本件出願日当時、痛みを原因では明確に区別できず、各種の疼痛が相互に重複する痛みであると理解されていたものとはいえない。また、控訴人は、糖尿病性神経障害においては神経損傷により直ちに疼痛を生じるわけではなく、また、複合性局所疼痛症候群は神経損傷だけではなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生じる疾患とされていたなどと指摘する。

5 しかしながら、糖尿病性神経障害は、神経線維の損傷や線維の再生成

等と関連し(甲131) また、、 太い神経線維や自律神経の混乱とも関連する(甲132)ことが知られており、その病態生理は主として細い神経線維の軸索変性と分節的な脱髄であるとされていること(甲81)などからすれば、糖尿病性神経障害による痛みは、神経の障害を発生機序とする痛みであるというべきである。また、複合性局所疼痛症候群は、Ⅰ型が反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)と、Ⅱ型がカウザルギーと呼ばれていたものであるところ(甲141) RSDは、、 上記のとおり炎症状態にある神経が痛みを生じるものであり、カウザルギーの痛みは、外傷性の末梢神経の損傷後にみられるものである(甲78)ことからすれば、複合性局所疼痛症候群の痛みは、炎症状態にある神経又は神経の損傷という神経の障害を発生機序とする痛みであるというべきである。そうすると、これらの痛みの病態をもって、本件出願日当時、痛みを原因では明確に区別できず、各種の疼痛が相互に重複する痛みであると理解されていたものとはいえない。(エ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ウ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴キについて(ア) 控訴人は、本件明細書等に記載された「炎症性疼痛」は、神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛による痛みであり、侵害受容性疼痛を意味しないとした上で、ホルマリン試験は、後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られ ていたため、神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていたものであり、本件明細書等においても、本件化合物が、ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず、痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に効果を奏することが確認されている旨主張する。

5 (イ) しかしながら、前記⑶イで検討したとおり、本件出願日当時、ホルマ

リン試験の後期相については、侵害受容性疼痛である炎症による持続的な侵害刺激によって生じた痛みに対する薬剤の効果を確認するための動物モデルであると考えられていたものというべきであり、控訴人が指摘する文献(甲45ないし51、64、86)によっても、本件出願日当時、ホルマリン試験の後期相が専ら中枢性感作を反映したものであると当業者から理解されていたものとはいえない。また、前記⑶イのとおり、ホルマリン試験の後期相については、中枢性感作を反映し得るものであることが指摘されてはいたものの、上記アで検討したとおり、本件出願日当時、あらゆる慢性疼痛が、末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したものと認めることはできないことからすれば、ホルマリン試験の後期相が中枢性感作を反映し得るものであったとしても、このことをもって、本件出願日当時、ホルマリン試験において痛みに対する効果が確認された薬剤が、原因を異にするあらゆる痛覚過敏や接触異痛の痛みに対して効果を有するものであると考えられていたものとはいえない。さらに、上記の諸点を考慮すれば、本件ホルマリン試験によって、本件化合物が、痛覚過敏や接触異痛の直接の原因であると控訴人が主張する神経細胞の感作に効果を奏することが確認されているともいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。エ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴クについて(ア) 控訴人は、当業者にカラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはないとした上で、同試験は、神経細胞の感作を反映したものとして知られ、神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられており、本件明細書等においても、神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化

5 合物の効果が確認されている旨主張する。

(イ) しかしながら、前記⑶ウで検討したとおり、本件出願日当時、カラゲニン試験は、侵害受容性疼痛である炎症による痛覚過敏の痛みに対する薬剤の効果を確認するための動物モデルであると考えられていたものというべきであり、控訴人が指摘する文献(甲56、57、72、146)によっても、本件出願日当時、カラゲニン試験が専ら中枢性感作を反映したものであると当業者から理解されていたものとはいえない。また、前記⑶ウのとおり、カラゲニン試験については、脊髄ニューロンの過剰興奮を反映するものである可能性を指摘する知見もあったものの、上記アで検討したとおり、本件出願日当時、あらゆる慢性疼痛が、末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したものと認めることはできないことからすれば、カラゲニン試験が脊髄ニューロンの過剰興奮を反映し得るものであったとしても、このことをもって、本件出願日当時、カラゲニン試験において痛みに対する効果が確認された薬剤が、原因を異にするあらゆる痛覚過敏や接触異痛の痛みに対して効果を有するものであると考えられていたものとはいえない。さらに、上記の諸点を考慮すれば、本件カラゲニン試験によって、本件化合物が、痛覚過敏や接触異痛の直接の原因であると控訴人が主張する神経細胞の感作に効果を奏することが確認されているともいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。オ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴エ及びケについて(ア) 控訴人は、術後疼痛試験は、神経細胞の感作を反映したものであることが知られており、本件明細書等においても、術後疼痛試験により、切開創の治癒後も持続する、神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されている旨主張する。

5 (イ) しかしながら、前記⑷ウのとおり、当業者は、本件術後疼痛試験は、

侵害受容性疼痛である手術の創傷によって生じた痛覚過敏及び接触異痛の痛みに対する薬剤の効果を確認するためのものであると認識するものというべきである。また、上記ア(ウ)の各文献の記載によれば、術後疼痛試験については、中枢性感作に関連する手術の感作を反映するものであると指摘する知見も存在したものといえるものの、上記アで検討したとおり、本件出願日当時、あらゆる慢性疼痛が、末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したものと認めることはできないことからすれば、術後疼痛試験が中枢性感作に関連する手術の感作を反映し得るものであったとしても、このことをもって、本件出願日当時、術後疼痛試験において痛みに対する効果が確認された薬剤が、原因を異にするあらゆる痛覚過敏や接触異痛の痛みに対して効果を有するものであると考えられていたものとはいえない。さらに、上記の諸点を考慮すれば、本件術後疼痛試験によって、本件化合物が、痛覚過敏や接触異痛の直接の原因であると控訴人が主張する神経細胞の感作に効果を奏することが確認されているともいえない。(ウ) 上記主張に関して控訴人は、カプサイシン試験やマスタードオイル試験について記載された文献(甲41等)も根拠とするが、これらの試験は本件明細書等に記載された試験ではないことからすれば、前記の結論を左右するものではないというべきである。(エ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。カ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴カについて(ア) 控訴人は、本件化合物は、本件明細書等において中枢神経疾患である「てんかん」に対して効果を有する既知の化合物であることが記載され、

5 更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し、抗痛覚

過敏作用を有することにより効果を奏することが明示されていた旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑵で検討したとおり、本件明細書等の記載において、薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項に当たるといえるのは、本件3試験の結果の記載のみであるから、控訴人が指摘する「本発明は、痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としての・・・使用である。、」「本発明の化合物は、てんかん・・・のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。」などの本件明細書等の記載から、当業者が、本件化合物があらゆる慢性疼痛に対して鎮痛効果を有するものであると理解できるものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。キ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴イについて(ア) 控訴人は、ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが、広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏することも知られていた旨主張する。(イ) そこで検討するに、控訴人が指摘する各文献(甲26、42、46、52ないし55、70等)の記載によれば、本件出願日当時、ケタミンが神経障害性疼痛や線維筋痛症等の様々な痛みの処置において効果を奏するものであることや、その機序について、ケタミンによってNMDAが遮断され、NMDA受容体を介在する中枢性活性の痛みが軽減されることがあり得るとの知見が存在したものと認められる。しかしながら、上記の各文献によっても、上記の「NMDA受容体を介在する中枢性活性」が、発症の原因を異にするあらゆる痛みの共通の原因であるとまで認めることはできず、当業者が、ホルマリン試験の後

5 期相に効果を有した薬剤であれば、あらゆる慢性疼痛に効果を奏すると

認識し得たものとはいえない。なお、上記の「NMDA受容体を介在する中枢性活性」が、NMDA受容体との関連が明らかでない本件化合物のような薬剤の作用に関連するものであると認めるに足りる証拠は存しない。以上によれば、当業者が、上記のようなケタミンに関する知見を基に、本件化合物が広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏すると理解できたものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ク 「

(原告の主張)

」第1の1⑴コについて(ア) 控訴人は、本件明細書等において、組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果のあるモルヒネを比較例としていることから、当業者は、本件化合物が、組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではなく、神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏すると理解する旨主張する。(イ) しかしながら、本件カラゲニン試験及び本件術後疼痛試験において確認されているのは、比較例であるモルヒネが効果を奏しないことではなく、モルヒネも一定の効果を奏するものの、本件化合物の方がより有利な効果を奏するということである。そうすると、このような結果をもって、当業者が、本件化合物について、組織損傷や炎症による侵害受容器への刺激によって生じる痛みではなく、控訴人が主張する神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏するものであると理解するものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ケ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴サについて(ア) 控訴人は、本件明細書等において、慢性疼痛である神経障害性疼痛に

5 有効なギャバペンチンを比較例とし、本件化合物がより優れた効果を有

することも確認されているから、当業者は、本件化合物が神経障害性疼痛にも効果があると認識する旨主張する。(イ) しかしながら、控訴人の上記主張は、本件出願日当時、ギャバペンチンが神経障害性疼痛に効果を奏することが技術常識であったことを前提とするものであり、その根拠として提出されている本件出願日以前の文献は甲136の文献のみであるところ、同文献のみによっては、上記の技術常識が存在したものとは認められない。そうすると、本件3試験において、ギャバペンチンが比較例として用いられているからといって、当業者が、本件化合物が神経障害性疼痛にも効果があると認識するものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。コ 「

(原告の主張)

」第1の1⑴シについて(ア) 控訴人は、本件明細書等において、当時まだ一般的に用いられていなかった動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており、当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能であった旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑵イのとおり、本件明細書等には、動物モデルであるベネットモデル及びチャングモデルに言及している部分があるが、本件化合物について、両モデルを用いた試験を実施した旨の記載は存しないから、上記言及をもって、本件化合物の効果に関する薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項が記載されている ものとみることはできない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

⑹ 当審における控訴人の補充主張に対する判断

ア 〔控訴人の主張〕アについて

5 (ア) 控訴人は、甲78ないし甲81、甲84、甲88、甲90及び甲91

の各文献に関して、痛覚過敏や接触異痛の機序が共通することは一切否定されておらず、かえって、神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の痛みが神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する痛みであることを裏付けるものであり、また、一部の神経障害性疼痛には侵害受容性疼痛において有効とされていたモルヒネ等の麻薬性鎮痛剤では効果が不十分であるという技術常識が存在したことが示されているにすぎず、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛及び心因性疼痛の治療方法がそれぞれ異なるとの技術常識を読み取ることはできない旨主張する。(イ) しかしながら、控訴人が指摘する各文献において、痛覚過敏や接触異痛の機序が共通することが否定されていないからといって、これらの痛みが神経細胞の感作によって生じるものであることや、神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する痛みであることが裏付けられるものではない。そして、前記⑶アで検討したとおり、甲78ないし81及び甲84の各文献において、痛みがその発生機序に基づいて分類されている上、分類に応じた治療方法等にも言及されていることは明らかである。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。イ 〔控訴人の主張〕イについて(ア) 控訴人は、甲41の文献は種々の痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じることを否定しているわけではないこと、甲26、甲162、甲163及び甲166の各文献によれば、線維筋痛症の痛みが中枢性感作によるものであることは技術常識であったといえ、甲60の文献には線維筋痛症の痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じることを否定するような記載はないことを理由に、痛覚過敏や接触異痛は神経細胞の感作によって生じるものである旨主張する。(イ) しかしながら、甲41及び甲60の各文献に痛覚過敏や接触異痛が神

5 経細胞の感作によって生じることを否定する記載がないからといって、

これらの痛みが神経細胞の感作によって生じるものであることが裏付けられるものではない。また、線維筋痛症については、本件出願日当時における各文献において、「痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群と定義されている」(甲26) 「心、因性の線維筋痛症」 「痛覚中枢の機能的異常により痛みが増幅されて感、じられる疾患」(甲88)、「侵害受容ニューロンの中枢性感作を導く中枢の侵害受容系の変化」(甲162)、「末梢の一次求心性メカニズムの応答変化と、CNSプロセスの変化とが、FSの病態生理に重要な役割を果たしていると推測せざるを得ない」甲166)( などと説明されている上、甲163の文献も、線維筋痛症と外傷後神経障害性疼痛を伴う一患者についての知見を記載しているものにすぎないことからすれば、本件出願日当時、線維筋痛症の発生機序は解明されていたものとはいえず、線維筋痛症の痛みが中枢性感作によるものであることが技術常識であったとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ウ 〔控訴人の主張〕ウについて(ア) 控訴人は、乙4の文献において、原因にかかわらず、神経細胞の感作によって痛覚過敏や接触異痛を生じることは否定されていないこと、甲129及び乙4の各文献の記載によれば、神経の損傷により炎症を生じて神経細胞の感作を生じる機序は炎症性疼痛の機序と同一であること、甲128及び甲130の各文献は、原因によって痛みを明確に区別することができないことを裏付けていることなどを理由に、痛みを原因によって区別することはできない旨主張する。(イ) しかしながら、これまで検討したところによれば、本件出願日当時、中枢性感作が痛覚過敏や接触異痛の原因であることを指摘する知見は

5 存在したものの、慢性疼痛とも呼ばれる病的な痛みについては、発生機

序に応じて様々な分類がされていたものであり、これらの痛みの態様や程度、治療方法等は、それぞれ異なるものであると考えるのが技術常識であったというべきであるから、控訴人が指摘する各文献の記載をもって、痛みを原因によって区別することができないとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。エ 〔控訴人の主張〕エについて(ア) 控訴人は、本件ホルマリン試験において本件化合物が侵害受容性疼痛を反映する初期相には影響しないことが確認されていること、ホルマリン試験の後期相につき、甲42、甲161、甲164及び甲168の各文献の記載によれば、本件出願日当時、中枢性感作による慢性疼痛のモデルとして利用されていたことは明らかであり、また、甲27及び甲45の文献にもこれを否定する内容は記載されていないこと、甲47及び甲49の各文献においては、中枢性感作にNMDAレセプターが関与するなどして中枢性感作が生じる詳細な機序まで明らかに されていることを理由に、当業者は本件ホルマリン試験の後期相は神経細胞の感作を反映するものであると認識する旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑶イで検討したとおり、控訴人が指摘する各文献の記載を前提としても、本件出願日当時、ホルマリン試験については、後期相について中枢性感作を反映し得るものであると指摘する知見もあったものの、侵害受容性疼痛である炎症による持続的な侵害刺激によって生じた痛みに対する薬剤の効果を確認するための動物モデルであると考えられていたものというべきである。また、甲47及び甲49の各文献において、中枢性感作が生じる機序がある程度具体的に記載されているからといって、本件出願日当時、ホルマリン試験が中枢性感作による慢性疼痛のモデルとして利用されていたことは明らかであるとい

5 うことはできない。

(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。オ 〔控訴人の主張〕オについて(ア) 控訴人は、甲57の文献、甲72の文献において引用されている参考文献及び甲146の文献の記載によれば、カラゲニン試験が神経障害性疼痛の治療薬の探索に利用可能な動物モデルであることが裏付けられている旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑶ウで検討したとおり、控訴人が指摘する文献の記載を前提としても、本件出願日当時、カラゲニン試験については、脊髄ニューロンの過剰興奮を反映し得るものであることが指摘されてはいたものの、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛に対する薬剤の効果を確認するための動物モデルであると考えられていたものというべきである。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。カ 〔控訴人の主張〕カについて(ア) 控訴人は、本件術後疼痛試験において侵害受容性疼痛の遮断作用がないことが確認されており、また、術後疼痛試験につき、甲133の文献に術後疼痛における痛覚過敏や接触異痛が中枢性感作によるものであることが明示されているように、術後疼痛が中枢性感作を反映したものであることが本件出願日当時の技術常識であったからこそ、甲15の1の文献において、術後疼痛試験が神経細胞の感作の動物モデルとして提案されているものである旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑷ウで検討したとおり、当業者は、本件術後疼痛試験につき、隔離した敏感さに示唆される二次痛覚過敏の痛みでなく、術後疼痛の一般的な形態である急性痛に対する薬剤の効果を確認する試験であり、侵害受容性疼痛である手術の創傷によって生じた痛覚過敏

5 及び接触異痛の痛みに対する本件化合物の効果が確認されていると認

識するものというべきである。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。キ 〔控訴人の主張〕キについて(ア) 控訴人は、本件明細書等には、本件化合物が抗てんかん薬として既知であり、抗痛覚過敏作用を有すると記載されていることから、当業者は本件化合物が中枢性感作を抑制し、痛覚過敏や接触異痛を鎮痛できることを期待するものであり、また、本件3試験において既知の抗てんかん薬であるギャバペンチンが比較例として用いられていることから、当業者は本件化合物がギャバペンチンと同様に神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏することを十分に理解する旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑸カ及びケで検討したところに照らせば、本件化合物が抗てんかん薬として既知であり、また、ギャバペンチンが比較例として用いられているからといって、当業者が、本件化合物が中枢性感作を抑制し、痛覚過敏や接触異痛を鎮痛できることを期待したり、本件化合物がギャバペンチンと同様に神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏することを理解したりするものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ク 〔控訴人の主張〕クについて(ア) 控訴人は、甲146及び甲164の各文献に示されているとおり、ケタミンのほかにもアミトリプチリンが、中枢神経に作用し、原因にかかわらず痛覚過敏や接触異痛を鎮痛することができる物質として知られていたことからすれば、当業者は、本件3試験の結果から、本件化合物がケタミンと同様に神経障害性疼痛や線維筋痛症においても効果を奏するものと理解する旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑸キで検討したとおり、当業者が、ケタミンに関

5 する知見を基に、本件化合物が広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む

慢性疼痛に効果を奏すると理解できたものとはいえない。また、アミトリプチリンがホルマリン試験やカラゲニン試験において用いられることがあるからといって、当業者が、本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験の結果から、直ちに本件化合物が広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏すると理解するものではないというべきである。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ケ 〔控訴人の主張〕ケについて控訴人は、本件明細書等における比較例であるモルヒネ及びギャバペンチンについて縷々主張するが、前記⑸ク及びケで検討したところに照らせば、いずれも採用することはできない。コ このほか、控訴人は、訂正前発明1及び2の実施可能要件に関して縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではないというべきである。

⑺ 小括

以上によれば、訂正前発明1及び2は、実施可能要件を満たさないものとして、特許無効審判により無効にされるべきものであると認められる。

3 争点1-2(無効理由2(サポート要件違反の有無))について

⑴ 判断基準

特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検

5 討して判断するのが相当である。

⑵ 検討

本件明細書等の記載によれば、訂正前発明1及び2は、本件化合物を本件明細書等に記載された様々な痛みに対する鎮痛剤として提供することを課題とする発明であるといえるところ、前記2において検討したところに照らすと、当業者が、本件出願日当時の技術常識に照らして本件明細書等の記載から認識することができるのは、本件化合物が、本件ホルマリン試験において確認された炎症による持続した侵害刺激によって生じた痛み、本件カラゲニン試験において確認された炎症による痛覚過敏の痛み並びに本件術後疼痛試験において確認された手術の創傷によって生じた痛覚過敏及び接触異痛の痛み(前記のとおり、これらの痛みは、いずれも侵害受容性疼痛に当たる。)に対して使用することができるものであるということのみであり、これを超えて、本件化合物が本件明細書等に記載された上記の様々な痛みに対して使用することができるものであると認識することはできないと認められる。そうすると、訂正前発明1及び2は、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないから、サポート要件を満たさないというべきである。

⑶ 控訴人の主張に対する判断

控訴人は、争点1-2につき、争点1-1において主張したところと同旨の主張をするが、前記2で検討したとおり、控訴人の主張はいずれも採用することができない。

⑷ 小括

以上によれば、訂正前発明1及び2は、サポート要件を満たさないものとして、特許無効審判により無効にされるべきものであると認められる。

5 4 争点2-1(無効理由の解消の有無)及び争点2-2(訂正要件の具備の有

無)について

⑴ 訂正前発明2について

事案に鑑み、争点2-2-2(本件発明2の訂正要件の具備の有無)から判断する。ア 検討(ア) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、その記載した事項の範囲内においてしなければならない(特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項)ところ、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることをいうものと解するのが相当である。(イ) 前記1⑵のとおり、訂正前発明2は、既知の抗てんかん薬である本件化合物について新たに鎮痛剤としての医薬用途を見出したとする医薬用途発明であるところ、本件訂正は、訂正前発明2につき、「・・・である請求項1記載の鎮痛剤」とあるのを「・・・を含有する、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」に訂正しようとするものであり、鎮痛剤としての用途を具体的に特定することを求めるものである。そして、「痛みの処置における鎮痛剤」が医薬用途発明たり得るためには、当該鎮痛剤が当該痛みの処置において有効であることが当然に求められるのであるから、訂正前発明2に係る本件訂正が新規事項の追加に当たらないというためには、本件化合物が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏及び接触異痛の痛み」の処置における鎮痛剤として効果を奏することが、当業者によって、本件出願日当時の技術常識も考慮し

5 て、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事

項として存在しなければならないというべきである。(ウ) そこで検討するに、本件明細書等には、発明の概要として、本件化合物が使用される疼痛性障害の中に神経障害及び線維筋痛症が含まれる旨の記載や、発明の詳述として、本件化合物が鎮痛剤として使用される対象の痛みに神経障害の痛みが含まれる旨の記載があるものの、これらの記載をもって、本件化合物が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏及び接触異痛の痛み」の処置において効果を奏すると解することはできず、このほか、本件化合物が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏及び接触異痛の痛み」の処置において効果を奏する旨の明示的な記載は存しない。(エ) また、前記2で検討したところに照らすと、本件明細書等には、本件化合物が、本件ホルマリン試験において確認された炎症による持続した侵害刺激によって生じた痛み、本件カラゲニン試験において確認された炎症による痛覚過敏の痛み並びに本件術後疼痛試験において確認された手術の創傷によって生じた痛覚過敏及び接触異痛の痛み(前記のとおり、これらによる痛みは、いずれも侵害受容性疼痛に当たる。)の処置において効果を奏することは記載されているといえるものの、本件出願日当時の技術常識を考慮すると、当業者が、本件化合物がこれら以外の痛みの処置において効果を奏するということを認識することはできないというべきである。そして、本件明細書等においては、「神経障害」による「痛覚過敏や接触異痛」の痛みを、「末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる」もの、他の神経障害によって起こるもの及び糖尿病によって起こるものと定義しているところ、これは、炎症や組織損傷による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛み(侵害受容性疼痛)とは区別される神経の障害

5 を発生機序とする痛み(神経障害性疼痛)に当たるものといえる。そう

すると、「神経障害」による「痛覚過敏や接触異痛」の痛みは、上記のとおり本件化合物がその処置において効果を奏するものとして本件明細書等に記載されている痛みには該当しない。また、本件明細書等においては、「線維筋痛症」について何ら説明されていないところ、前記2⑹イのとおり、本件出願日当時、線維筋痛症の発生機序は解明されていたものとはいえないものの、本件各証拠によっても、炎症や組織損傷による侵害受容器への刺激が線維筋痛症の発生機序であるとする知見は見当たらない。そうすると、本件出願日当時、線維筋痛症を侵害受容性疼痛に分類する知見があったものとはいえないから、「線維筋痛症」による「痛覚過敏又は接触異痛」の痛みは、上記のとおり本件化合物がその処置において効果を奏するものとして本件明細書等に記載されている痛みには該当しない。(オ) 以上検討したところによれば、本件化合物が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置において効果を奏することは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとは認められない。イ 原審における控訴人の主張(原判決別紙「

(原告の主張)

」)に対する判断(ア) 「

(原告の主張)

」第1の2⑵ア(エ)についてa 控訴人は、本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に有用であり、あるいは効果を奏することが本件明細書等から理解できるかどうかは、実施可能要件又はサポート要件の問題である旨主張する。b しかしながら、上記アで検討したとおり、訂正前発明2に係る本件訂正の内容は、鎮痛剤としての用途を具体的に特定することを求めるものであるところ、訂正前発明2は、既知の抗てんかん薬である本件化合物について新たに鎮痛剤としての用途を見出したとする医薬用途

5 発明であり、当該用途に有効であることが発明の内容に含まれるので

あるから、上記訂正の内容が新規事項の追加に当たらないというためには、本件化合物が訂正に係る用途に効果を奏することが、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に当たらなければならない。c したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。(イ) このほか、控訴人は、訂正前発明2の訂正要件の具備につき縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではない。ウ 小括以上によれば、訂正前発明2に係る本件訂正は、当業者によって、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、許されないというべきである。したがって、その余の点について判断するまでもなく、訂正前発明2に係る訂正の再抗弁は、理由がない。

⑵ 訂正前発明1について

ア 検討(ア) 前提事実のとおり、本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用しており、これらは一群の請求項を構成するところ、請求項2に係る本件訂正は、請求項2についての訂正が認められる場合には、請求項1とは別途訂正することを求めるものである。(イ) しかしながら、前記⑴のとおり、請求項2に係る本件訂正は許されないから、請求項1及び請求項2は、依然として一群の請求項を構成していることとなる。そうすると、請求項1に係る本件訂正は、特許法134条の2第3項の規定に反するものであり、許されないというべきである。

5 イ 小括

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、訂正前発明1に係る訂正の再抗弁は、理由がない。

5 争点3-1(構成要件3B及び3C並びに4B及び4Cの充足性)について

⑴ 構成要件3Bの充足性について

ア 「炎症を原因とする痛み」の解釈について(ア) 「炎症を原因とする痛み」とは、その文言から、炎症を直接的な原因として生じた痛みであると理解される。(イ) また、前記2で検討したところに照らすと、本件明細書等においては、本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験の結果により、本件化合物が、侵害受容性疼痛である炎症による持続的な侵害刺激によって生じた痛み及び侵害受容性疼痛である炎症による痛覚過敏の痛みに対して使用することができるものであることが示されているものといえる。(ウ) 以上のとおりの特許請求の範囲及び明細書の記載内容によれば、構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み」とは、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛を意味するものと認められる。イ 「手術を原因とする痛み」の解釈について(ア) 「手術を原因とする痛み」とは、その文言から、手術を直接的な原因として生じた痛みであると理解される。(イ) また、前記2で検討したところに照らすと、本件明細書等においては、本件術後疼痛試験の結果により、本件化合物が侵害受容性疼痛である手術の創傷によって生じた痛覚過敏及び接触異痛の痛みに有効であることが示されているものといえる。(ウ) 以上のとおりの特許請求の範囲及び明細書の記載内容によれば、構成要件3Bの「手術を原因とする痛み」とは、侵害受容性疼痛である術後疼痛を意味するものと認められる。

5 ウ 被告医薬品が構成要件3Bを充足するか否かについて

(ア) 上記ア及びイのとおり、構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み」及び「手術を原因とする痛み」は、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛及び侵害受容性疼痛である術後疼痛を意味するものと認められる。そして、被告医薬品の効果又は効能は、「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症に伴う疼痛」であるところ、これまで検討したところに照らせば、神経障害性疼痛及び線維筋痛症は、いずれも侵害受容性疼痛には該当しない。(イ) したがって、被告医薬品は、構成要件3Bを充足するものとは認められない。

⑵ 構成要件4Bの充足性について

ア 「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」の解釈について(ア) 「炎症性疼痛」は、その文言から、炎症を直接的な原因として生じる痛みであると理解される。また、「痛覚過敏」は、発生機序に基づく痛みの分類を表すものではなく、生じている症状を表すものである。(イ) また、上記⑴ア(イ)のとおり、本件明細書等においては、本件ホルマリン試験及び本件カラゲニン試験の結果により、本件化合物が、侵害受容性疼痛である炎症による持続的な侵害刺激によって生じた痛み及び侵害受容性疼痛である炎症による痛覚過敏の痛みに対して使用することができるものであることが示されているものといえる。(ウ) 以上のとおりの特許請求の範囲及び明細書の記載内容によれば、構成要件4Bの「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」とは、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛における痛覚過敏の痛みを意味するものと解釈される。イ 「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」の解釈について(ア) 「術後疼痛」は、その文言から、手術を直接的な原因として生じた痛みであると理解される。また、「痛覚過敏」及び「接触異痛」は、いずれ

5 も発生機序に基づく痛みの分類を表すものではなく、生じている症状を

表すものである。(イ) また、上記⑴イ(イ)のとおり、本件明細書等においては、本件術後疼痛試験の結果により、本件化合物が侵害受容性疼痛である手術の創傷によって生じた痛覚過敏及び接触異痛の痛みに有効であることが示されているものといえる。(ウ) 以上のとおりの特許請求の範囲及び明細書の記載内容によれば、構成要件4Bの「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」とは、侵害受容性疼痛である術後疼痛における痛覚過敏又は接触異痛の痛みを意味するものと認められる。ウ 被告医薬品が構成要件4Bを充足するか否かについて(ア) 上記ア及びイのとおり、構成要件4Bの「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」及び「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛における痛覚過敏の痛み及び侵害受容性疼痛である術後疼痛における痛覚過敏又は接触異痛の痛みを意味するものと認められる。そして、被告医薬品の効果又は効能は、「神経障害性疼痛」及び「線維筋痛症に伴う疼痛」であるところ、これまで検討したところに照らせば、神経障害性疼痛及び線維筋痛症は、いずれも侵害受容性疼痛には該当しない。(イ) したがって、被告医薬品は、構成要件4Bを充足するものとは認められない。

⑶ 原審における控訴人の主張(原判決別紙「

(原告の主張)

」)に対する判断ア 「

(原告の主張)

」第2の1⑴ア(ア)aないしh及びイ(ア)について(ア) 控訴人は、慢性疼痛は、原因にかかわらず、神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られていたことや、痛みを原因で区別することはできず、炎症性疼痛や術後疼痛と、神経障害性疼痛や線維筋痛

5 症とは、相互に重複することが理解されていたことなどを根拠として、

構成要件3Bにつき、炎症や手術によって生じる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる旨主張し、構成要件4Bについても同様の主張をする。(イ) しかしながら、特許請求の範囲は、出願当時の技術常識に基づいて解釈すべきであるところ、前記2⑶アで検討したとおり、本件出願日当時、慢性疼痛とも呼ばれる病的な痛みについては、発生機序に応じて様々な分類がされていたものであり、これらの痛みの態様や程度、治療方法等は、それぞれ異なるものであると考えるのが技術常識であったといえる。また、発生機序に応じた痛みの分類の仕方は様々であるものの、少なくとも、炎症や組織損傷による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛み(侵害受容性疼痛)と、神経に対する圧迫や絞扼等の神経の障害を発生機序とする痛み(神経障害性疼痛)及び心因性疼痛と呼ばれる痛み等とを区別するのが技術常識であったといえる。そして、前記2⑸アで検討したとおり、あらゆる慢性疼痛が、末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したものと認めることはできない。以上によれば、控訴人が主張する技術常識が存在したものとは認められないから、控訴人の上記主張は、前提を欠くものといわざるを得ない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。イ 「

(原告の主張)

」第2の1⑴ア(ア)ⅰないしm及びイ(イ)について(ア) 控訴人は、炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ、痛覚過敏や接触異痛を生ずることなどを理由に、神経障害性疼痛を効能、効果とする被告医薬品は、炎症を原因とする痛み又は手術を原因とする痛みを用途とするものであると主張する。(イ) しかしながら、これまで検討したとおり、神経障害性疼痛は、侵害受容性疼痛には該当しないから、被告医薬品の用途は、侵害受容性疼痛で

5 ある炎症性疼痛又は侵害受容性疼痛である術後疼痛を意味する構成要

件3Bの「炎症を原因とする痛み」又は「手術を原因とする痛み」には当たらない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ウ 「

(原告の主張)

」第2の1⑴ア(イ)について(ア) 控訴人は、痛みは患者の主観的心理状態であるから、混合性疼痛において、侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛は同一の患者において生ずる一つの痛みであり、両者を区別することはできないなどとして、被告医薬品の効果又は効能のうち「神経障害性疼痛」は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」に該当する旨主張する。(イ) しかしながら、これまで検討したとおり、神経障害性疼痛は、侵害受容性疼痛とは区別される痛みである。そして、被告医薬品は、効果又は効能を「神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛」と特定して製造及び販売の承認を受けた医薬品であるから、その用途もこれに限られるものというべきである。そうすると、侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛が同時に生じている患者がおり、当該患者に対して被告医薬品が処方されるということがあったとしても、被告医薬品の効果又は効能である「神経障害性疼痛」に対して処方されたものとみるほかないというべきであり、このことをもって、被告医薬品の効果又は効能である「神経障害性疼痛」が構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」に該当するものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。エ 「

(原告の主張)

」第2の1⑴ア(ウ)について(ア) 控訴人は、本件発明3の技術的範囲には炎症や手術によって生じる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれるものであり、線維筋痛症は炎症又は

5 手術を原因として神経細胞の感作を生じ、痛覚過敏や接触異痛を生じる

ものであるから、被告医薬品の効果又は効能のうち「線維筋痛症に伴う疼痛」は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」に該当する旨主張する。(イ) しかしながら、上記アで検討したとおり、本件発明3の技術的範囲に、炎症や手術によって生じる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれるものとはいえない。また、これまで検討したとおり、線維筋痛症の痛みは、侵害受容性疼痛とは区別される痛みである。そうすると、被告医薬品の効果又は効能のうち「線維筋痛症に伴う疼痛」が、構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」に該当するものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。オ 「

(原告の主張)

」第2の1⑴ア(エ)について(ア) 控訴人は、線維筋痛症につき、炎症性疾患や手術により生じ、更に炎症を生じる疾患であり、これに伴う疼痛は侵害受容性疼痛との混合性疼痛であることからすれば、被告医薬品の用途には混合性疼痛の処置が含まれるから、本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず、また、侵害受容性疼痛の定義とは無関係に、被告医薬品の効果又は効能のうち「線維筋痛症に伴う疼痛」は、本件発明3の「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」に該当する旨主張する。(イ) しかしながら、上記ウ及びエで検討したところに照らせば、控訴人の上記主張は採用することができない。カ このほか、控訴人は、被告医薬品が構成要件3B又は4Bを充足するとして縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではない。

⑷ 当審における控訴人の補充主張に対する判断

5 ア 〔控訴人の主張〕アについて

(ア) 控訴人は、本件発明3及び4の技術的範囲に関して、あくまでも本件カラゲニン試験及び本件術後疼痛試験において確認された、炎症や手術を原因として神経細胞の感作により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みをクレームしたものであるから、炎症性疼痛や術後疼痛とは別の疼痛分類である侵害受容性疼痛という用語を持ち出して、クレームの技術的範囲を更に限定するのは誤りである旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑴及び⑵で検討したとおり、本件出願日当時の技術常識を基に本件明細書等の記載について検討すると、本件発明3及び4の技術的範囲は、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛及び術後疼痛の痛みを超えるものではないというべきである。そして、前記2⑶アで検討したとおり、本件出願日当時、慢性疼痛とも呼ばれる病的な痛みについては、発生機序に応じて様々な分類がされていたものであり、少なくとも、炎症や組織損傷による侵害受容器への刺激を発生機序とする痛み(侵害受容性疼痛)と、神経に対する圧迫や絞扼等の神経の障害を発生機序とする痛み(神経障害性疼痛)及び心因性疼痛と呼ばれる痛み等とを区別するのが技術常識であったことからすれば、上記のように本件発明3及び4の技術的範囲を解釈したからといって、不当に技術的範囲を限定したことにはならない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。イ 〔控訴人の主張〕イについて(ア) 控訴人は、被告医薬品の用途に関して、炎症や手術を原因として、神経細胞の感作という神経の機能異常により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みを含むことは明らかである上、純粋な神経疾患のみにより神経細胞の感作を生じている神経障害性疼痛や心因性の原因のみから感作を生じている線維筋痛症に限定されているわけではないから、被告医薬品

5 は本件発明3及び4の技術的範囲に含まれる様々な神経障害性疼痛や

線維筋痛症に伴う疼痛を用途とするものである旨主張する。(イ) しかしながら、これまで検討したとおり、被告医薬品の効果又は効能である神経障害性疼痛及び線維筋痛症の痛みは、いずれも侵害受容性疼痛には該当しないから、被告医薬品は、本件発明3及び4の技術的範囲に含まれるものとはいえない。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。ウ 〔控訴人の主張〕ウについて(ア) 控訴人は、本件発明3及び4の技術的範囲に関する予備的主張として、仮に、本件発明3及び4における痛みが侵害受容性疼痛に該当すると認定されたとしても、炎症や手術を原因として混合性疼痛を生じている患者においては、神経細胞の感作によって痛覚過敏や接触異痛を生じているとしてもその機序は同一であるから、これを侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とに区別することはできず、被告医薬品は本件発明3及び4の技術的範囲に含まれる旨主張する。(イ) しかしながら、前記⑶ウで検討したとおり、侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛が同時に生じている患者がおり、当該患者に対して被告医薬品が処方されるということがあったとしても、被告医薬品の効果又は効能である「神経障害性疼痛」に対して処方されたものとみるほかないというべきである。(ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

⑸ 小括

以上によれば、被告医薬品は、構成要件3B及び4Bをいずれも充足しない。

6 争点3-2(均等侵害の成否)について

⑴ 均等侵害の判断基準

5 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用

いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決 民集71巻3号359頁参照)・ 。そして、上記①の要件(以下「第1要件」という。)における特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。

⑵ 検討

以上を前提として検討するに、前記5で検討したところによれば、本件発明3及び4と被告医薬品とは、治療に使用することができる痛み、すなわち医薬品としての用途において相違するものと認められる。

5 そして、本件明細書等の記載によれば、本件発明3及び4は、てんかん等

の中枢神経性疾患に対する抗発作療法に有用であるとされていた既知の薬物である本件化合物が、痛みの治療に有効であることを新たに見出した医薬用途発明であるから、この新たに見出した用途に係る部分が発明の本質的部分に当たることは明らかである。そうすると、上記の本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分が発明の本質的部分ではないということはできないから、第1要件を満たすものとはいえない。

⑶ 控訴人の主張(〔控訴人の主張〕エ)に対する判断

ア 控訴人は、本件明細書等の記載によれば、本件発明3及び4の本質的部分は、従来技術であるモルヒネ等の麻薬性鎮痛剤では処置の不十分な慢性疼痛のうち、炎症や手術を原因とする痛みに対し、本件化合物の鎮痛作用又は抗痛覚過敏作用を利用して、これを鎮痛剤として用いる点に存するものであり、侵害受容性疼痛に限定されるものではない旨主張する。イ しかしながら、上記⑵で検討したとおり、本件発明3及び4と被告医薬品とは、医薬品としての用途において相違するものであるところ、本件発明3及び4が医薬用途発明である以上、このような相違が本質的部分に係る相違であることは明らかである。ウ したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

⑷ 小括

以上によれば、被告医薬品は、本件発明3及び4と均等なものであるとはいえないから、均等侵害は成立しない。

7 まとめ

以上検討したところによれば、訂正前発明1及び2については、実施可能要件及びサポート要件を満たさず、特許無効審判により無効とされるべきものであると認められるところ、訂正の再抗弁は認められないから、訂正前発明1及

5 び2に基づく控訴人の請求はいずれも理由がない。

また、被告医薬品は、本件発明3及び4の技術的範囲に含まれるものとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明3及び4に基づく控訴人の請求はいずれも理由がない。

8 結論

以上によれば、控訴人の請求はいずれも棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官東 海 林 保裁判官中 平 健裁判官都 野 道 紀

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