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令和4(ネ)10026特許権侵害差止請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年7月11日
事件種別 民事
対象物 イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤
法令 特許権
キーワード 侵害30回
実施10回
特許権4回
無効3回
差止3回
無効審判2回
主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
事件の概要 1 控訴人(原審第1事件及び第2事件原告)は、発明の名称を「イソブチルG ABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする特許(以下「本件特許」とい う。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する者であり、被控訴人 らは、いずれも医薬品の販売ないし売買等を業とする会社である。本件は、控訴人 が、被控訴人らが原判決別紙物件目録記載の医薬品(以下「被告医薬品」という。) を販売するなどすることは控訴人の本件特許権を侵害すると主張し、特許法(以下 「法」という。)100条1項及び同条2項に基づいて、被控訴人武田テバ(原審 第1事件被告)に対し、被告医薬品の製造、販売等の差止めを求め、被控訴人武田 薬品(原審第2事件被告)に対し、被告医薬品の販売等の差止めを求め、被控訴人 両名に対し、被告医薬品の廃棄を求める事案である。

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判決文

令和4年7月11日判決言渡
令和4年(ネ)第10026号 特許権侵害差止請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第22290号(第1事件)、同第267
70号(第2事件))
口頭弁論終結日 令和4年5月11日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人武田テバは、原判決別紙物件目録記載の医薬品を製造し、販売し、
又は販売の申出をしてはならない。
3 被控訴人武田テバは、原判決別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。
4 被控訴人武田薬品は、原判決別紙物件目録記載の医薬品を販売し、又は販売
の申出をしてはならない。
5 被控訴人武田薬品は、原判決別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。
6 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
7 2項ないし5項についての仮執行宣言
第2 事案の概要
1 控訴人(原審第1事件及び第2事件原告)は、発明の名称を「イソブチルG
ABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする特許(以下「本件特許」とい
う。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する者であり、被控訴人
らは、いずれも医薬品の販売ないし売買等を業とする会社である。本件は、控訴人
が、被控訴人らが原判決別紙物件目録記載の医薬品(以下「被告医薬品」という。)
を販売するなどすることは控訴人の本件特許権を侵害すると主張し、特許法(以下
「法」という。)100条1項及び同条2項に基づいて、被控訴人武田テバ(原審
第1事件被告)に対し、被告医薬品の製造、販売等の差止めを求め、被控訴人武田
薬品(原審第2事件被告)に対し、被告医薬品の販売等の差止めを求め、被控訴人
両名に対し、被告医薬品の廃棄を求める事案である。
原審は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人は、これを不服として本件
各控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3並びに
第3(5頁14行目から51頁7行目まで)に摘示のとおりであるから、これを引
用する。
(1) 原判決6頁5行目から6行目にかけての「本件出願の願書に添付した」を
「下記ウの令和元年7月1日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、同請
求に係る訂正を「本件訂正」という。)前の本件特許に係る」と改める。
(2) 原判決6頁9行目の「本件特許」から10行目の「発明」までを「本件特
許の全部」と改める。
(3) 原判決6頁16行目の「訂正請求」から17行目末尾までを「本件訂正請
求をした(甲3、4、9)。」と改める。
(4) 原判決6頁19行目から20行目にかけての「特許」を「本件特許」と改
める。
(5) 原判決6頁25行目の「弁論の全趣旨」を「乙A21」と改める。
(6) 原判決7頁3行目(なお、行数は、原判決左余白欄の付記による。以下同
じ。)の「本件出願の願書に添付した」を「本件訂正前の本件特許に係る」と改め
る。
(7) 原判決8頁8行目の「甲3,4」を「甲2ないし4」と改める。
(8) 原判決9頁16行目の「後記イにおいても同じ」を「以下同じ」と改める。
(9) 原判決10頁25行目の「構成要件1A」から11頁1行目末尾までを
「本件訂正前の請求項1及び2に記載の化合物をそれぞれ「本件化合物1」及び
「本件化合物2」といい、本件化合物1及び2を併せて「本件化合物」といい、本
件訂正後の請求項3及び4に記載の化合物をそれぞれ「本件化合物3」及び「本件
化合物4」という。)。」と改める。
(10) 原判決12頁22行目の「甲12」の次に「、13」を加える。
(11) 原判決20頁20行目の「本件明細書に記載された各痛み」を「痛み」と
改める。
(12) 原判決21頁1行目の「平成14年法律第24号による改正前の法36条
4項」を「法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同
じ。)」と改める。
(13) 原判決28頁1行目の「本件発明1及び2について」の次に「、本件明細
書の発明の詳細な説明の記載が」を加える。
(14) 原判決28頁7行目の「本件明細書等」から8行目の「痛み」までを「痛
み」と改める。
(15) 原判決28頁13行目の「サポート要件」から14行目末尾までを「本件
発明1及び2について、特許請求の範囲の記載は、サポート要件(法36条6項1
号(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。))に違反する。」
と改める。
(16) 原判決28頁16行目の「発明」を「特許請求の範囲の記載」と改める。
(17) 原判決28頁21行目から22行目にかけての「理解できるから,」の次
に「本件発明1及び2について、特許請求の範囲の記載が」を加える。
(18) 原判決29頁16行目の「本件化合物」を「本件化合物1」と改める。
(19) 原判決30頁11行目及び12行目の各「本件化合物」をいずれも「本件
化合物2」と改める。
(20) 原判決30頁22行目の「伴うものではない」を「伴うものではないし、
鎮痛剤の処置対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接
触異痛の痛みの処置における」と特定する部分は、上記のとおり、本件明細書の記
載に基づいて導き出される事項である」と改める。
(21) 原判決31頁9行目、16行目から17行目にかけて及び19行目の各
「本件化合物」をいずれも「本件化合物2」と改める。
(22) 原判決32頁2行目の「本件明細書では」を「 本件明細書では」と改め
る。
(23) 原判決32頁25行目及び26行目の各「本件化合物」をいずれも「本件
化合物1」と改める。
(24) 原判決33頁2行目の「本件訂正発明1は」を「本件訂正発明1について、
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、」と改める。
(25) 原判決33頁4行目の「本件化合物」を「本件化合物1」と改める。
(26) 原判決33頁5行目の「本件訂正発明1は」を「本件訂正発明1について、
特許請求の範囲の記載は、」と改める。
(27) 原判決33頁9行目、20行目、22行目及び26行目の各「本件化合物」
をいずれも「本件化合物2」と改める。
(28) 原判決33頁24行目の「本件訂正発明2は」を「本件訂正発明2につい
て、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、」と改める。
(29) 原判決34頁2行目の「本件訂正発明2は」を「本件訂正発明2について、
特許請求の範囲の記載は、」と改める。
(30) 原判決34頁7行目から8行目にかけての「本件訂正発明1が実施可能要
件及びサポート要件を」を「本件訂正発明1について、本件明細書の発明の詳細な
説明の記載が実施可能要件を、特許請求の範囲の記載がサポート要件を、それぞれ」
と改める。
(31) 原判決34頁18行目及び22行目から23行目にかけての各「本件化合
物」をいずれも「本件化合物2」と改める。
(32) 原判決34頁24行目から25行目にかけての「本件訂正発明2は」を
「本件訂正発明2について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、」と改める。
(33) 原判決35頁7行目の「対する」の次に「本件化合物2の」を加える。
(34) 原判決35頁12行目の「本件訂正発明2は」を「本件訂正発明2につい
て、特許請求の範囲の記載は、」と改める。
(35) 原判決35頁19行目の「構成要件2A」を「構成要件2A’」と改める。
(36) 原判決37頁5行目から6行目にかけての「被告医薬品」の次に「の分量」
を加える。
(37) 原判決37頁7行目の「除き」の次に「、両者の分量は」を加える。
(38) 原判決38頁12行目の「被告医薬品」の次に「の製造等」を加える。
(39) 原判決39頁3行目の「被告医薬品の添加物」を「被告医薬品におけるイ
ソマルトの使用」と改める。
(40) 原判決42頁23行目の「疼痛治療剤」を「治療剤」と改める。
(41) 原判決43頁6行目から7行目にかけて、8行目、10行目及び12行目
の各「本件化合物」をいずれも「本件化合物3及び4」と改める。
(42) 原判決44頁8行目から9行目にかけての「「炎症性疼痛」又は「術後疼
痛」」を「「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」又は「術後疼痛による痛覚過敏若
しくは接触異痛の痛み」」と改める。
(43) 原判決44頁20行目の「疼痛治療剤」を「治療剤」と改める。
(44) 原判決45頁16行目の「本件化合物」を「本件化合物3及び4」と改め
る。
(45) 原判決45頁19行目の「本件訂正と」を「本件訂正に係る訂正請求書と」
と改める。
(46) 原判決46頁2行目、6行目から7行目にかけて及び8行目から9行目に
かけての各「神経障害の痛み」をいずれも「神経障害による痛み」と改める。
(47) 原判決46頁14行目の「技術的範囲は」を「技術的範囲には」と改める。
(48) 原判決47頁6行目の「本件訂正」の次に「に係る訂正請求書」を加える。
(49) 原判決48頁5行目、10行目から11行目にかけて及び12行目から1
3行目にかけての各「神経障害の痛み」をいずれも「神経障害による痛み」と改め
る。
(50) 原判決48頁25行目及び49頁9行目の各「本件化合物」をいずれも
「本件化合物3」と改める。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は全部理由がないものと判断する。その理由は、
次のとおり改め、当審における控訴人の主張に鑑み後記2を付加するほかは、原判
決の「事実及び理由」欄の第4(51頁8行目から114頁7行目まで)に説示の
とおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決59頁26行目から60頁1行目にかけての「処置における」を
「処置において」と改める。
(2) 原判決60頁14行目から21行目までを以下のとおり改める。
「 法36条4項は、明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分
野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十
分に記載しなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の
発明については、その物の使用等をする行為をいうのであるから(法2条3項1
号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説
明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の
試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を使用することができる程度のもの
でなければならない。
そして、医薬用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されること
のみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、
医薬の有効量、投与方法等が記載されていても、それだけでは、当業者において当
該医薬が実際にその用途において使用できるかを予測することは困難であるから、
当業者が過度の試行錯誤を要することなく当該発明に係る物を使用することができ
る程度の記載があるというためには、明細書において、当該物質が当該用途に使用
できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、
出願時の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを
当業者が理解できるようにする必要があると解するのが相当である。」
(3) 原判決61頁1行目の「本件発明1及び2」から3行目の「記載されてい
るところ」までを「これを本件についてみると、本件発明1及び2に係る特許請求
の範囲においては、本件化合物が「痛みの処置における」(構成要件1B)及び
「鎮痛剤」(構成要件1C)並びに「請求項1記載の」(構成要件2A)及び「鎮
痛剤」(構成要件2C)として作用することが記載されているところ」と改める。
(4) 原判決61頁4行目の「しかし」を「そして」と改める。
(5) 原判決61頁11行目の「(前記1(1)イ)」の次に「、「神経障害性の痛
みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これは以下に限定されるもの
ではないが、末梢神経の外傷、ヘルペスウイルス感染、糖尿病、カウザルギー、神
経叢捻除、神経腫、四肢切断、および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性
の痛みはまた、慢性アルコール症、ヒト免疫不全ウイルス感染、甲状腺機能低下症、
尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みに
は、神経傷害によって起こる痛みに限らず、たとえば糖尿病による痛みも包含され
る。」(前記1(1)ウ)」を加える。
(6) 原判決61頁12行目の「本件発明1及び2」から13行目末尾までを
「本件発明1及び2が対象とする「痛み」には、あらゆる「痛み」が含まれるもの
というべきである。」と改める。
(7) 原判決61頁14行目から18行目までを以下のとおり改める。
「 したがって、本件発明1及び2について、本件明細書の発明の詳細な説明の
記載が実施可能要件を満たすというためには、本件明細書において、本件化合物が
あらゆる「痛み」の処置における鎮痛剤の用途に使用できることにつき薬理データ
又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、本件出願当時の技術常識に
照らして、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解でき
るようにする必要がある。
そこでまず、上記の点に関する本件出願当時の技術常識の内容(痛みの分類及び
機序、本件明細書に記載されたホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験
がどのような痛みについて鎮痛効果を有することを示すものといえるかなど)につ
いて検討する。」
(8) 原判決76頁1行目の「求心性集中砲火(barrage)」の次に「が」を加え
る。
(9) 原判決78頁24行目の「心因性疼痛」の次に「(特発性疼痛)」を加え
る。
(10) 原判決79頁8行目及び21行目の各「痛覚過敏及び接触異痛」をいずれ
も「あらゆる種類の痛覚過敏及び接触異痛」と改める。
(11) 原判決79頁18行目から19行目にかけての「指摘したにすぎず」から
20行目末尾までを「指摘したにすぎないし、また、これらの記載によっても、N
MDA受容体によって介在されるワインドアップ現象があらゆる種類の痛みの共通
の原因であるとまで認めることはできないから、これらの記載をもって、控訴人が
上記のとおり主張する事項が本件出願当時の技術常識であったと認めることはでき
ない。」と改める。
(12) 原判決80頁12行目の「上記文献の記載内容」を「控訴人が上記のとお
り主張する事項」と改める。
(13) 原判決80頁15行目の「他方で」の次に「、同文献においては」を加え
る。
(14) 原判決80頁26行目の「ホルマリン試験」から81頁1行目の「試験で
あるから」までを「ホルマリン試験は、侵害応答に対する薬剤の鎮痛効果を確かめ
る動物モデル試験であり、本件出願当時の当業者において、ホルマリン試験の後期
相が専ら神経細胞の感作を反映するものと認識したと認めることはできないから」
と改める。
(15) 原判決81頁19行目の「国際疼痛学会」の次に「(甲77)」を加える。
(16) 原判決82頁7行目の「証拠はない」の次に「(なお、控訴人は、甲40
(JOURNAL OF NEUROPHYSIOLOGY, vol. 72(1), p169-179 (1994))に「痛みの過敏
性…は、侵害刺激への応答の増大(痛覚過敏)及び非侵害刺激が痛みを引き起こし
始めるような閾値の低下(接触異痛)によって特徴付けられる。これらの感受性の
変化は、後角ニューロンの興奮性の増大、すなわち、中枢性感作の現象によっても
たらされる。」との記載があるとも主張するが、上記記載は、発症の原因を異にす
るあらゆる種類の痛覚過敏及び接触異痛が「中枢性感作の現象」によって生じるこ
とを示すものではない。また、上記文献には、「脊髄での抑制回路の有効性低下が、
Aβ入力が痛みを生み始める疼痛過敏状態で生じる触誘発性アロディニアに寄与す
るかもしれないことを示す。」との記載もあり、中枢性感作の現象以外にも接触異
痛の原因となり得るものがあることが示されている。そうすると、上記文献をもっ
て、神経障害及び線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛は神経細胞の感作によって
生じるものであるとの控訴人が主張する技術常識を認めることはできない。)」を
加える。
(17) 原判決86頁10行目から11行目にかけての「時間的経過」を「時間経
過」と改める。
(18) 原判決88頁15行目から89頁10行目までを以下のとおり改める。
「(イ) 前記(ア)の各文献の記載及び本件明細書の記載(前記1(1)エ)による
と、本件出願当時、ホルマリンを皮下注射することによって2相の侵害応答が引き
起こされ、そのうちの後期相は、炎症を反映した持続する疼痛に係るものであると
ころ、ホルマリン試験は、侵害応答に対する薬剤の鎮痛効果を確かめる動物モデル
試験であることが知られていたと認められる。
そして、本件明細書に、「CI-1008」((S)-3-(アミノメチル)-
5-メチルヘキサン酸であり(甲2)、構成要件1A及び2A’を充足する本件化
合物の一種である。)や「3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸」(構成要
件1A及び2A’を充足する本件化合物の一種である。)がホルマリン試験の後期
相において有効であったとの記載があること(前記1(1)エ)や、本件出願当時の
技術常識として、痛みは、その機序により大きく分けると、侵害受容性疼痛、神経
障害性疼痛及び心因性疼痛(特発性疼痛)に分類することができ、分類された痛み
の中にも様々なものがあり、それぞれの痛みにつきその機序、症状及び治療方法が
異なると理解されていたこと(前記(1)イ(イ))に照らすと、本件明細書のホルマ
リン試験の結果に接した本件出願当時の当業者において、本件化合物が神経障害性
疼痛や心因性疼痛(特発性疼痛)に対して有効であると理解することは困難であっ
たと認めるのが相当である。」
(19) 原判決89頁16行目の「(前記(ア)a)」の次に「、「一般的には、こ
れらの問題(判決注:持続する痛み又は慢性的な痛みに関連する問題)は傷害によ
る他の結果に加えて、末梢および中枢神経の過敏によって生じ得る。…さらに最近
では、マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの反応を顕著に促進する、
急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している」(同b)」を加える。
(20) 原判決89頁19行目の「(同c)」の次に「、「後期相は末梢組織にお
ける炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組み合わせに依存するように思われる」
(同d)」を加える。
(21) 原判決89頁22行目の「(同e)」の次に「、「ホルマリン損傷により
誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は、主にNMDA受容体
作動性…カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す」(同
g)」を加える。
(22) 原判決90頁2行目末尾に「そうすると、前記(ア)の各文献のこれらの記
載によれば、本件出願当時、ホルマリン試験の後期相が中枢の神経細胞の感作(中
枢性感作)を反映するものであると捉える知見が存在したことがうかがわれるもの
の、ホルマリン試験の後期相は、それにとどまらず、前記(イ)のとおり、炎症を反
映した持続する疼痛に係る動物モデル試験として知られていたとも認められるから、
前記(ア)の各文献にこれらの記載があったとしても、本件出願当時の当業者におい
て、本件明細書に記載されたホルマリン試験の後期相が専ら中枢性感作を反映する
ものであると認識したとは認められず、また、ホルマリン試験があらゆる種類の慢
性疼痛に有用であると認識したとは認められない。」を加える。
(23) 原判決92頁22行目の「治療の」を「治療に対する」と改める。
(24) 原判決92頁24行目の「記載」の次に「及び本件明細書の記載(前記1
(1)オ)」を加える。
(25) 原判決93頁6行目から9行目までを以下のとおり改める。
「 以上に加え、前記イ(イ)のとおり本件出願当時に理解されていた痛みの分類
等にも照らすと、本件明細書のカラゲニン試験の結果に接した本件出願当時の当業
者において、本件化合物が神経障害性疼痛や心因性疼痛(特発性疼痛)に対して有
効であると理解することは困難であったと認めるのが相当である。」
(26) 原判決94頁3行目から4行目にかけての「依存するという」を「依存し
て痛覚過敏を生ずるという」と改める。
(27) 原判決94頁6行目の「認められないし」の次に「、当業者において」を
加える。
(28) 原判決94頁12行目の「上記各意見書」を「上記意見書」と改める。
(29) 原判決94頁15行目の「いずれも」を削る。
(30) 原判決94頁19行目の「術後疼痛試験」を「術後疼痛試験等」と改める。
(31) 原判決95頁21行目の「前記(ア)の各文献の記載によれば」を「前記
(ア)aの文献の記載及び本件明細書の記載(前記1(1)キ)によると」と改める。
(32) 原判決95頁24行目の「,技術常識であった」を「知られていた」と改
める。
(33) 原判決95頁26行目の「構成要件3A」を「構成要件1A及び2A’」
と改める。
(34) 原判決96頁10行目から13行目までを以下のとおり改める。
「 以上に加え、前記イ(イ)のとおり本件出願当時に理解されていた痛みの分類
等にも照らすと、本件明細書の術後疼痛試験の結果に接した本件出願当時の当業者
において、本件化合物が侵害受容性疼痛に分類されると理解されていた術後疼痛に
対して有効であると理解した一方、本件化合物が神経障害性疼痛や心因性疼痛(特
発性疼痛)に対して有効であると理解することは困難であったと認めるのが相当で
ある。」
(35) 原判決96頁26行目の「むしろ」から97頁4行目末尾までを削る。
(36) 原判決97頁8行目の「原告は」を「a 控訴人は」と改める。
(37) 原判決97頁14行目から98頁3行目までを以下のとおり改める。
「b この点に関し、本件出願当時に存在した次の各文献には、次の各記載があ
る(なお、前出の記載を再掲するものがある。)。
(a) Scand J Rheumatol, vol. 24, p360-365 (1995)(甲26)
「疼痛の強度、筋力、静的筋持久力、圧痛閾値及び圧痛点と対照点での疼痛耐性
を、線維筋痛症(FM)を有する患者31例において、モルヒネ(9例)、リドカ
イン(11例)及びケタミン(11例)の静脈内投与の前後で評価した。…ケタミ
ン試験では、試験期間中に疼痛強度の有意な低下が示された。圧痛点の圧痛は軽減
し、持久力は有意に上昇したが、筋力に変化はなかった。これらの結果は、NMD
A受容体が線維筋痛症の疼痛機構に関与するという仮説を支持する。これらの知見
から、FMに中枢性感作があること及び圧痛点が二次痛覚過敏を示すことも示唆さ
れる。…非競合的アンタゴニストであるケタミンを使用して、N-メチル-D-ア
スパラギン酸(NMDA)受容体系の遮断の効果の研究を開始することは論理的で
あった。NMDA受容体の活性化は、後角における侵害受容ニューロンの中枢性感
作をもたらすと考えられる。…局所麻酔による硬膜外ブロックが完全にFMの患者
における痛みと圧痛点での圧痛を封じたという事実は、FMの中枢性感作と二次痛
覚過敏が一次求心性神経のインパルスに依存しているという仮説を支持するだろ
う。」
(b) Pain, vol. 56, p51-57 (1994)(甲42)
「ケタミンは、ヒトの医療に広く用いられるNMDA遮断薬である。ケタミン…
を慢性神経障害性疼痛症候群の管理のため、…6例の患者に投与した。末梢神経系
(PNS)疾患に関連する疼痛を有する患者全3例と、中枢痛及び異常感覚症候群
を有する患者3例のうち2例が、継続する疼痛の評価で一時的な軽減を示した。患
者5例にみられた接触異痛、痛覚過敏及び残感覚は、ケタミンの投与後改善した。
PNSに関連する神経障害性疼痛を有する患者2例での用量反応評価で、ケタミン
は、用量依存的に効果を示すことが明らかになった。…動物の神経障害性疼痛モデ
ルにおいて示唆されるように…、痛覚過敏はNMDA受容体によって介在される
「ワインドアップ現象」の提示である可能性がある。これに関して、神経障害性疼
痛症候群における痛覚過敏は、ホルマリン誘発性の痛みの第2相…と局所貧血の間
の痛覚過敏…に類似する。これらは、全てNMDA受容体介在性の中枢性促進によ
る脊髄レベルでのワインドアップ現象によって生じると思われる。」
(c) Brain Research, vol. 518, p218-226 (1990)(甲46)
「後角深層の多種感覚受容(収束)の侵害受容ニューロンである後肢末梢受容野
へのホルマリンの皮下注射は、この細胞の持続的活性化(1時間)のため使用され
た。この化学的侵害刺激は、発火の最初のピークを生み出し、これは、10分間持
続して、その後に長く続く活性の第2のピークが発生し、これは、50分間観測さ
れた。…非競合的なNMDA受容体チャネル阻害剤であるケタミンとMK801は、
発火の第2相中に静脈内投与された。ケタミン(1~8mg/kg)は、ホルマリ
ンへのニューロン反応に短期間ではあるが顕著で投与量依存的な阻害を生み出した
…。…ホルマリンによって生成される求心性集中砲火(barrage)は、比較的短い
タイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発された活性が長期
間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能
性があると思われる。…NMDAチャネルブロッカーであるケタミンもまた、ワイ
ンドアップを阻害し、明らかにホルマリン応答の第2相の間のこれらのニューロン
の活性を減少させた。…ケタミンとMK801が麻酔領域以下の量でホルマリン応
答の第2相を阻害する能力は、この反応におけるNMDAレセプターのシステムの
関与を示しており、そのレセプターアンタゴニストであるAP5により得られた結
果を確認している。」
(d) Pain, vol. 36, p37-41 (1989)(甲52)
「ケタミン及びペチジンの鎮痛効果を実験的虚血性疼痛及び口腔手術後の術後疼
痛において比較した。…ケタミン0.3mg/kg及びペチジン0.7mg/kg
は、ともに、検討した2種の疼痛に対する鎮痛薬として効果を示した。ナロキソン
は、ペチジンの鎮痛作用を妨げたが、ケタミンの鎮痛作用への影響はなかった。こ
の結果は、ケタミンの鎮痛作用が非オピオイド機構によって仲介され、おそらくは
PCP受容体により仲介されるNMDA受容体作動性イオンチャネルの遮断が関与
するとの仮説と一致する。…ケタミン鎮痛の薬理学的機序は不明である。」
(e) CANADIAN JOURNAL OF ANAESTHESIA, vol. 37(3), p385-386 (1990)(甲5
3)
「低用量ケタミンの皮下投与は、多くの癌患者(18例中13例)において、有
効な鎮痛をもたらした。脊髄神経領域で疼痛を緩和したケタミンの用量は、三叉神
経痛及び舌咽神経の領域でも鎮痛作用を示した。」
(f) Pain, vol. 54, p227-230 (1993)(甲54)
「ケタミン塩酸塩で幻肢痛の治療が成功した3例について述べる。…ケタミン塩
酸塩は、容易に利用可能なNMDAレセプターサイトの非競合アンタゴニストであ
り…、この薬剤の鎮痛効果は、NMDAレセプターで媒介されるであろう…。また、
特に末梢の神経損傷に続いて、鎮痛効果がこの場所で媒介されることを示す証拠も
ある…。これは、幻肢痛への明らかな有益作用の観察を裏付けるだろう。また、痛
みのある術前実験の中枢に現れる神経構造の長期変化を減少させる試みにおいて、
手術前に用いる論理的薬物のように思われる。…この薬物が鎮痛を引き起こす機序
は証明されていない。薬物の鎮痛効果がナロキソンによって部分的に拮抗されると
いう観察は、オピオイド受容体との相互作用がその鎮痛活性の一部を説明すること
を示唆する。」
(g) Pain, vol. 61, p221-228 (1995)(甲55)
「神経損傷性疼痛へのケタミンの連続皮下(s.c.)投与の効果を、帯状疱疹
後神経痛を有する患者で検討した。ケタミンの急性静脈内注射後に疼痛の緩和を報
告した5例の患者をこの非盲検前向き研究の対象とした。…全ての患者がケタミン
による持続痛の強度の低下と自発痛発作の強度と回数の低下を報告した。…接触異
痛は、…59~100%の最大の軽減を示し、ワインドアップ様疼痛は、…60~
100%の最大の軽減を示した。…興奮性アミノ酸(EAA)は、神経系における
侵害受容情報の伝達に関与する。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受
容体は、EAAグルタミン酸の受容体サブタイプの一つであり、神経傷害性疼痛の
発症において重要な役割を果たすと考えられている…。中枢性NMDA受容体の遮
断は、神経傷害によって引き起こされる侵害受容挙動を低減し…、一次求心性C線
維の刺激の延長によって引き起こされる侵害受容細胞における過剰興奮性を減少さ
せる…。最近、NMDA遮断剤が神経傷害によって引き起こされる疼痛を低減させ
るという臨床的証拠が蓄積されてきた。…非競合的NMDA受容体遮断剤であるケ
タミンは、末梢又は中枢神経系(CNS)の傷害を有する患者における連続的疼痛
及び誘発性疼痛を低減させ…、幻肢痛…又は慢性口腔顔面痛…を有する患者におけ
る疼痛を低減させた。我々は、…ケタミンの急性静脈内(i.v.)注射が異痛及
びワインドアップ様疼痛を含む疼痛を低減させることを見いだした…。…幾つかの
証拠が、NMDA受容体の遮断が一次求心性C線維における活性増加の延長によっ
て引き起こされる侵害受容ニューロンの過剰興奮性を低減し得ることを示している
…。…NMDA受容体の遮断が、中枢性感作が起こった後に確立された侵害受容ニ
ューロンの過剰興奮性を逆転させることができることを示唆する実験データが提示
されている…。」
(h) Brain Research, vol. 715, p51-62 (1996)(甲70)
「末梢の神経障害のラットモデルにおいて、全身のケタミンが侵害受容行動を減
衰させた。…ケタミン、非競合NMDAレセプターチャネルブロッカーの効果を、
L5及びL6脊髄神経をきつく結紮した神経障害ラットにおける侵害受容行動の軽
減で評価した。」
c 上記bの各文献の記載によると、本件出願当時、ケタミンが神経障害性疼痛、
線維筋痛症等による様々な痛みの処置において効果を奏すること及びその機序がケ
タミンによりNMDA受容体を遮断し、これによりNMDA受容体を介在する中枢
性活性の痛みが軽減されることがあり得るとの知見が存在したと認めることができ
る。しかしながら、これらの文献によっても、「NMDA受容体を介在する中枢性
活性」が発症の原因を異にするあらゆる痛みの共通の原因であるとまで認めること
はできず、その他、そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。そうする
と、ケタミンによるNMDA受容体の遮断をもって、これが控訴人の主張する中枢
性感作の阻害であると認めることもできない。また、上記bの各文献によっても、
ケタミンが原因にかかわらずあらゆる疼痛に対して効果を奏するとまで認めること
はできず(かえって、上記甲52には「ケタミン鎮痛の薬理学的機序は不明である」
との記載があり、上記甲54には、「この薬物が鎮痛を引き起こす機序は証明され
ていない」との記載がある。なお、本件出願後の文献である乙A22にも、「糖尿
病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、異痛症、痛覚過敏又はピンプリック感覚
鈍麻を伴う術後/外傷後神経障害性疼痛92人の患者を4つのクリーム(プラセボ、
2%アミトリプチリン、1%ケタミン又は2%アミトリプチリンと1%ケタミンの
併用)のいずれかを投与するようにランダムに割り当てた。」、「グループ間に差
はみられなかった。」との記載がある。)、その他、そのような事実を認めるに足
りる証拠はない(なお、「NMDA受容体を介在する中枢性活性」が、NMDA受
容体との関連が明らかでない本件化合物のような薬剤の作用に関連すると認めるに
足りる証拠はない。)。
以上のとおりであるから、ケタミンが中枢性感作を阻害する物質であり、本件出
願当時、原因にかかわらず疼痛に対して効果を奏することが知られていたというこ
とはできない。」
(38) 原判決98頁13行目の「侵害受容性疼痛である炎症性疼痛や術後疼痛」
を「侵害受容性疼痛に分類されると理解されていた炎症性疼痛及び術後疼痛(前記
イ(ア)aないしc)」と改める。
(39) 原判決99頁4行目の「侵害受容性疼痛」から5行目の「理解されていた
こと」までを「あらゆる痛覚過敏や接触異痛の痛みに対する鎮痛効果を確認するた
めの試験であるとまで理解されていたとは認められないこと」と改める。
(40) 原判決100頁2行目の「これらのモデル」を「ベネットモデル及びチャ
ングモデル」と改める。
(41) 原判決100頁5行目から17行目までを以下のとおり改める。
「キ 実施可能要件違反の有無
前記1(1)エ、オ及びキのとおり、本件明細書には、薬理データ又はこれと同視
し得る程度の事項として、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後
疼痛試験において効果を奏した旨の記載がある。しかしながら、本件明細書のカラ
ゲニン試験の結果及び術後疼痛試験の結果に接した本件出願当時の当業者において、
本件化合物が神経障害性疼痛や心因性疼痛(特発性疼痛)に対して有効であると理
解することは困難であったところ(前記エ(イ)及びオ(イ))、前記イ(ウ)において
説示したとおり、本件出願当時、控訴人が主張する技術常識(痛覚過敏及び接触異
痛が末梢性感作や中枢性感作による神経の機能異常により生じる痛みであるとの技
術常識)が存在していたとは認められないから、本件化合物がホルマリン試験、カ
ラゲニン試験及び術後疼痛試験において引き起こされた各痛みの処置において効果
を奏した旨の記載があるからといって、そのことをもって、当業者において、本件
化合物が原因を異にするあらゆる「痛み」の処置においても効果を奏すると理解し
たとは到底いえない。したがって、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛
試験の結果に係る上記記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明において、本
件化合物が「あらゆる痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき
薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願当時の当業者に
おいて、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できたと認める
ことはできない。
その他、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件化合物が「あらゆる痛みの処置
における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同視し得
る程度の事項が記載され、本件出願当時の当業者において、本件化合物が当該用途
の医薬として使用できることを理解できたと認めるに足りる的確な証拠はない。
以上のとおり、本件明細書については、本件化合物があらゆる「痛み」の処置に
おける鎮痛剤の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同視すること
ができる程度の事項が記載され、本件出願当時の技術常識に照らして、本件化合物
が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できたとはいえないから、
本件発明1及び2に係る本件特許は、実施可能要件に係る法36条4項に違反する
ものとして、特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。」
(42) 原判決100頁19行目の「明細書の」を削る。
(43) 原判決100頁26行目から101頁25行目までを以下のとおり改める。
「イ 特許請求の範囲の記載(前記第2の2(3)ア)及び本件明細書の記載(前
記1(1)アないしウ)によると、本件発明1及び2は、本件化合物を「痛みの処置
における鎮痛剤」として提供することを課題とするものであると認められる。
そして、前記(1)において説示したところに照らすと、本件発明1及び2は、本
件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識で
きる範囲のものであるとはいえず、かつ、当業者が本件出願当時の技術常識に照ら
し上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
そうすると、本件発明1及び2について、特許請求の範囲の記載は、サポート要
件を満たさないというべきである。」
(44) 原判決101頁26行目の「原告は,」及び102頁6行目の「有するも
のであるから,」の各次にいずれも「特許請求の範囲の記載が」を加える。
(45) 原判決102頁13行目の「本件発明1及び2」から14行目の「生じる」
までを「上記イのとおりの課題を解決できる」と改める。
(46) 原判決102頁18行目から103頁6行目までを以下のとおり改める。
「(ア) 特許無効審判における訂正の請求は、「願書に添付した明細書、特許請
求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」しなければならず(法134
条の2第9項において準用する法126条5項)、同事項とは、当業者によって、
明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術
的事項であり、訂正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新
たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は、いわゆる新規事項の
追加とならず、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内におい
て」するものということができる(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号同
20年5月30日特別部判決・判タ1290号224頁参照)。
しかるところ、本件発明2は、公知の物質である本件化合物2について鎮痛剤と
しての医薬用途を見いだしたとするいわゆる医薬用途発明であるところ、請求項2
に係る本件訂正は、「請求項1記載の(鎮痛剤)」とあるのを「神経障害又は線維
筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における(鎮痛剤)」に訂正す
るというものであり、鎮痛剤としての用途を具体的に特定することを求めるもので
ある。そして、「痛みの処置における鎮痛剤」が医薬用途発明たり得るためには、
当該鎮痛剤が当該痛みの処置において有効であることが当然に求められるのである
から、請求項2に係る本件訂正が新規事項の追加に当たらないというためには、本
件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に
おける鎮痛剤として「効果を奏すること」が、当業者によって、本件出願当時の技
術常識も考慮して、本件明細書(本件訂正前の特許請求の範囲を含む。以下同じ。)
の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項として存在しなければなら
ないことになる。
この点に関し、控訴人は、新規事項の追加に当たるか否かの判断においては、訂
正事項が当業者によって明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれ
る技術的事項であるか否かが検討されれば足りると主張するところ、上記のとおり
の本件発明2の内容及び請求項2に係る本件訂正の内容に照らせば、本件化合物2
が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に「効果を奏
すること」が本件明細書の記載から導かれなければ、請求項2に係る本件訂正につ
き、これが当業者によって本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる
技術的事項であるとはいえない。したがって、控訴人の上記主張を前提にしても、
請求項2に係る本件訂正が新規事項の追加に当たらないというためには、本件化合
物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における
鎮痛剤として「効果を奏すること」が本件明細書に記載されているか、記載されて
いるに等しいと当業者が理解するといえなければならないというべきである。
(イ) 前記(ア)を前提に請求項2に係る本件訂正について検討する。
a 前記(ア)のとおり、請求項2に係る本件訂正は、「請求項1記載の鎮痛剤」
(「痛みの処置における鎮痛剤」)とあるのを「神経障害又は線維筋痛症による、
痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」と訂正することにより、本件
発明2の処置の対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は
接触異痛の痛み」に特定するものである。
b 本件化合物2が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の
痛み」の処置において効果を奏することにつき本件明細書に明示の記載があるかに
ついて
前記1(1)イのとおり、本件明細書には、発明の概要として、本件化合物2が使
用される疼痛性障害の中に神経障害及び線維筋痛症が含まれる旨の記載があるが、
この部分には、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異
痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。
前記1(1)ウのとおり、本件明細書には、発明の詳述として、本件化合物2が鎮
痛剤として使用される対象の痛みに神経障害の痛みが含まれる旨の記載があるが、
この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異
痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。
前記1(1)エのとおり、本件明細書には、ホルマリン試験に関し、本件化合物2
がホルマリン試験の後期相において効果を奏し、初期相においては影響がなかった
旨の記載があるが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による
痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。
前記1(1)オのとおり、本件明細書には、カラゲニン試験に関し、本件化合物2
が機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏の痛みに対して効果を奏した旨の記載があるが、
この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異
痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない(かえって、本件明細書の当
該部分には、本件化合物2が「炎症性疼痛」の処置に有効であることを示す旨の記
載がある。)。
前記1(1)キのとおり、本件明細書には、術後疼痛試験に関し、本件化合物2が
熱痛覚過敏及び接触異痛の痛みに対して効果を奏した旨の記載があるが、この部分
にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛み
の処置において効果を奏する旨の記載はない。
その他、本件明細書には、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過
敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載がないから、本件明細
書には、その旨の明示の記載がないと認めるのが相当である。
c 本件化合物2が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の
痛み」の処置において効果を奏することが本件明細書に記載されているに等しいと
本件出願当時の当業者が理解したといえるかについて
控訴人は、痛覚過敏や接触異痛の痛みはその原因にかかわらず全て末梢や中枢の
神経細胞の感作という神経の機能異常により生じることが本件出願当時の技術常識
であったと主張するが、本件出願当時にそのような技術常識が存在していたと認め
られないことは、前記(1)イ(ウ)において説示したとおりである。
また、控訴人は、本件出願当時、神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う痛覚過敏
や接触異痛の痛みはいずれも神経細胞の感作により生じるものであるとの技術常識
が存在したから、本件明細書には本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛
覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に効果を奏する旨の開示があるに等しいとの趣旨
の主張をするが、前記(1)イ(エ)において説示したとおり、控訴人が主張する上記
技術常識が存在したとは認められない。
そうすると、本件出願当時の当業者において、本件化合物2が「神経障害又は線
維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置に効果を奏することが本件
明細書に記載されているに等しいと理解したとは認められず、その他、本件出願当
時の当業者がそのように理解し得たものと認めるに足りる的確な証拠はない。
d 以上によると、請求項2に係る本件訂正に関する技術的事項は、本件明細書
の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな
技術的事項を導入するものというほかない。したがって、請求項2に係る本件訂正
は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂
正であるということができず、法134条の2第9項において準用する法126条
5項に違反し、許されない。」
(47) 原判決103頁17行目の「実施可能要件違反及びサポート要件違反が認
められるから」を「本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び特許請求の範囲の記
載は、それぞれ実施可能要件及びサポート要件に違反するものと認められるから」
と改める。
(48) 原判決103頁20行目の「延長登録」から21行目の「及ぶか否かにか
かわらず」までを「その余の点について判断するまでもなく」と改める。
(49) 原判決103頁26行目から109頁4行目までを以下のとおり改める。
「ア 被告医薬品の構成bが構成要件3Bを充足するかについて
(ア) 構成要件3Bのうち「炎症を原因とする痛み」の意義について
a 本件明細書の記載
本件明細書には、「炎症を原因とする痛み」について説明した記載はない。
b 本件訂正の経緯
前記第2の2(2)ウのとおり、控訴人は、特許庁に対し、令和元年7月1日付け
で本件訂正に係る訂正請求書を提出したところ、証拠(甲4)によると、控訴人は、
特許庁に対し、同年8月7日付けで上記訂正請求に係る手続補正書(方式)を提出
し、上記補正後の訂正請求書(甲4の17~19頁)において、請求項3に係る本
件訂正につき、「「炎症を原因とする痛み…の処置における」との記載により、訂
正後の請求項3に係る発明における鎮痛剤の処置対象となる痛みをより具体的に特
定し、更に限定するものである。」、「明細書のカラゲニン試験…では、炎症性物
質であるカラゲニンを用いて、炎症を原因とする痛みを引き起こし、この痛みの処
置に式Ⅰの化合物を用いている。」などと主張していたものと認められる。
c カラゲニン試験について
カラゲニン試験がカラゲニンにより炎症を誘発し、痛覚過敏の状態を引き起こし
て、これに対する薬剤の効果を確かめる試験であり、本件明細書に記載されたカラ
ゲニン試験が本件化合物3の炎症性疼痛に対する鎮痛効果を確認するための試験で
あることは、前記1(1)オ及び2(1)エ(イ)において認定・説示したとおりである。
カラゲニン試験の上記内容及び前記2(1)イ(イ)の技術常識に照らすと、カラゲニ
ン試験は、「末梢神経又は中枢神経が圧迫されたり、絞扼されたり、遮断されたり
することにより生じる痛み」である神経障害性疼痛や、「直接末梢からの侵害刺激
がないにもかかわらず存在し、心因性の痛み」である心因性疼痛(特発性疼痛)に
分類される線維筋痛症に伴う痛み(前記2(1)イ(イ))に対する鎮痛効果を裏付け
るものではないというべきである。
d 以上によると、本件発明3の構成要件3Bのうち「炎症を原因とする痛み」
とは、本件明細書に記載されたカラゲニン試験によって本件化合物3の鎮痛効果が
確かめられた「炎症を原因とする痛み」を指すものの、カラゲニン試験の内容に照
らすと、これは、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないと解するの
が相当である。
(イ) 構成要件3Bのうち「手術を原因とする痛み」の意義について
a 本件明細書の記載
本件明細書には、「手術を原因とする痛み」について説明した記載はない。
b 本件訂正の経緯
前記第2の2(2)ウのとおり、控訴人は、特許庁に対し、令和元年7月1日付け
で本件訂正に係る訂正請求書を提出したところ、証拠(甲4)によると、控訴人は、
特許庁に対し、同年8月7日付けで上記訂正請求に係る手続補正書(方式)を提出
し、上記補正後の訂正請求書(甲4の17、19頁)において、請求項3に係る本
件訂正につき、「「…手術を原因とする痛みの処置における」との記載により、訂
正後の請求項3に係る発明における鎮痛剤の処置対象となる痛みをより具体的に特
定し、更に限定するものである。」、「明細書の術後疼痛試験…では、手術を原因
とする痛みを引き起こし、この痛みの処置に式Ⅰの化合物を用いている。」などと
主張していたものと認められる。
c 術後疼痛試験について
術後疼痛試験がラットの皮膚、筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することに
より、痛覚過敏を引き起こし、これに対する薬剤の効果を確かめる試験であること
は、前記2(1)オ(イ)において説示したとおりである。術後疼痛試験の上記内容及
び前記2(1)イ(イ)の技術常識に照らすと、術後疼痛試験は、「末梢神経又は中枢
神経が圧迫されたり、絞扼されたり、遮断されたりすることにより生じる痛み」で
ある神経障害性疼痛や、「直接末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在し、
心因性の痛み」である心因性疼痛(特発性疼痛)に分類される線維筋痛症に伴う痛
み(前記2(1)イ(イ))に対する鎮痛効果を裏付けるものではないというべきであ
る。
d 以上によると、本件発明3の構成要件3Bのうち「手術を原因とする痛み」
とは、本件明細書に記載された術後疼痛試験によって本件化合物3の鎮痛効果が確
かめられた「手術を原因とする痛み」を指すものの、術後疼痛試験の内容に照らす
と、これは、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないと解するのが相
当である。
(ウ) 被告医薬品の構成について
前記第2の2(5)アのとおり、被告医薬品の構成(被告医薬品の用途に係る部分)
は、「効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする、」(構成b)
である。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、被告医薬品の構成bは、本件発明3の構成要件3Bを
充足しない。したがって、被告医薬品は、本件発明3の技術的範囲に属しない。」
(50) 原判決109頁5行目の「(エ)」を「(オ)」と改める。
(51) 原判決109頁16行目の「本件化合物」から17行目から18行目にか
けての「確かめられたものであって」までを「本件化合物3について、炎症性疼痛
及び術後疼痛に対する鎮痛効果が確かめられたものであって」と改める。
(52) 原判決110頁3行目から4行目にかけての「侵害受容性疼痛である」を
「侵害受容性疼痛に分類されると理解されていた」と改める。
(53) 原判決110頁7行目から8行目にかけて及び10行目の各「侵害受容性
疼痛」の次にいずれも「に分類されると理解されていた痛み」を加える。
(54) 原判決110頁12行目の「前記(ウ)」から15行目の「これらが」まで
を「前記(ア)及び(イ)のとおり、「炎症を原因とする痛み」及び「手術を原因とす
る痛み」が」と改める。
(55) 原判決110頁19行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「イ 被告医薬品の構成bが構成要件4Bを充足するかについて
(ア) 本件明細書には、本件発明4の構成要件4Bにいう「炎症性疼痛」又は
「術後疼痛」について説明した記載はないところ、前記第2の2(3)ア(エ)及びイ
(エ)のとおり、請求項4に係る本件訂正(本件訂正前発明4及び本件発明4の用途
に係る部分)は、「痛みが…神経障害による痛み、…または線維筋痛症である」と
あるのを「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しく
は接触異痛の痛み」と訂正するものであり、これは、本件訂正前発明4の用途から
「神経障害による痛み」及び「線維筋痛症」を明示的に除外するものである。
そうすると、本件発明4にいう「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」は、いずれも神
経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないものと解するのが相当である。
したがって、被告医薬品の構成b(前記第2の2(5)ア)は、本件発明4の構成
要件4Bを充足せず、被告医薬品は、本件発明4の技術的範囲に属しない。」
(56) 原判決110頁20行目の「c」を「(イ)」と改める。
(57) 原判決110頁20行目の「① 」を削る。
(58) 原判決110頁21行目の「本件化合物」を「本件化合物4」と改める。
(59) 原判決110頁22行目の「主張してきたものであり」から26行目末尾
までを「主張してきたものであると主張する。」と改める。
(60) 原判決111頁1行目の「,上記①について」を削る。
(61) 原判決111頁2行目の「本件化合物」を「本件化合物4」と改める。
(62) 原判決111頁5行目の「前記前提事実(3)」を「前記第2の2(3)」と改
める。
(63) 原判決111頁6行目、14行目、15行目及び18行目の各「請求項3
及び4」をいずれも「請求項4」と改める。
(64) 原判決111頁8行目から9行目にかけての「前記(イ)のとおり」を「証
拠(甲3、4、18、21、乙A1)によると」と改める。
(65) 原判決111頁16行目から17行目にかけて及び19行目から20行目
にかけての各「「炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)」及び「手術を原因とする
痛み(術後疼痛)」」をいずれも「「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」及び「術
後疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛み」」と改める。
(66) 原判決111頁18行目の「説明した」を「説明したと認められる」と改
める。
(67) 原判決111頁22行目から25行目までを削る。
(68) 原判決111頁26行目を次のとおり改める。
「 したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。」
(69) 原判決112頁1行目から13行目までを削る。
(70) 原判決112頁14行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「ア 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用い
る方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①
上記部分が特許発明の本質的部分ではなく、②上記部分を対象製品等におけるもの
と置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するも
のであって、③そのように置き換えることに、当業者が対象製品等の製造等の時点
において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特
許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考で
きたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請
求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、当
該対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明
の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第10
83号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。」
(71) 原判決112頁15行目の「ア」を「イ」と改める。
(72) 原判決112頁18行目及び25行目の各「本件化合物」をいずれも「本
件化合物3」と改める。
(73) 原判決112頁23行目の「本件特許に係る発明」を「本件発明3」と改
める。
(74) 原判決112頁24行目の「中枢性神経系疾患」を「中枢神経系疾患」と
改める。
(75) 原判決113頁2行目の「機序」の次に「及び治療方法」を加える。
(76) 原判決113頁10行目から16行目までを削る。
(77) 原判決113頁17行目の「(ウ)」を「(イ)」と改める。
(78) 原判決113頁19行目の「イ」を「ウ」と改める。
(79) 原判決113頁20行目の「ア」を「イ」と改める。
(80) 原判決113頁22行目の「また」の次に「、前記(1)イ(ア)のとおり」
を加える。
2 当審における控訴人の主張について
(1) 控訴人は、本件出願当時、原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過
敏の痛みや接触異痛が生じることから、当業者はホルマリン試験、カラゲニン試験
及び術後疼痛試験を神経細胞の感作の試験として用いていたと主張する。
しかしながら、控訴人の上記主張は、カラゲニン試験のデータが炎症性疼痛の処
置における本件化合物の有効性を示すとの本件明細書の記載(補正して引用する原
判決第4の1(1)オ)と符合しないものであるし、また、本件出願当時、原因にか
かわらず神経細胞の感作により痛覚過敏の痛みや接触異痛が生じるとの技術常識が
存在していたと認められないことは、補正して引用する原判決第4の2(1)イ(ウ)
において説示したとおりであるから、控訴人の上記主張は、前提を誤るものとして
失当である。
(2) 控訴人は、本件出願当時、ケタミンに限らず、アミトリプチリン及びギャ
バペンチンのような中枢神経に作用する薬剤により、原因にかかわらず神経細胞の
感作による痛覚過敏の痛みや接触異痛を鎮痛できるとの技術常識が存在したと主張
する。
しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として挙げる甲136(Society for
Neuroscience, vol. 21(2), p897 (1995))、甲146(Anesthesiology, vol. 83,
p1046-1054 (1995))及び甲164(EXPERIMENTAL NEUROLOGY, vol. 117, p94-96
(1992))には、いずれも控訴人が主張する上記技術常識が存在したものと認めるに
足りる的確な記載はみられず、その他、控訴人が主張する上記技術常識が存在した
ものと認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。
3 結論
よって、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれ
も理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
浅 井 憲
裁判官
中 島 朋 宏
(別紙)
当 事 者 目 録
控 訴 人 ワーナー-ランバート カン
パニー リミテッド ライア
ビリティー カンパニー
同訴訟代理人弁護士 飯 村 敏 明
磯 田 直 也
永 島 太 郎
森 下 梓
同訴訟代理人弁理士 泉 谷 玲 子
被 控 訴 人 武田テバファーマ株式会 社
(以下「被控訴人武田テバ」という。)
同訴訟代理人弁護士 長 沢 幸 男
笹 本 摂
向 多 美 子
同補佐人弁理士 実 広 信 哉
被 控 訴 人 武田薬品工業株式会社
(以下「被控訴人武田薬品」という。)
同訴訟代理人弁護士 重 冨 貴 光
長 谷 部 陽 平
鷲 見 健 人
以 上

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