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令和3(ネ)10088等特許権侵害差止等請求控訴事件,附帯控訴事件

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裁判所 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年6月20日
事件種別 民事
対象物 情報通信ユニット
法令 特許権
特許法102条2項17回
特許法102条2回
キーワード 実施26回
侵害21回
特許権19回
新規性15回
無効14回
進歩性12回
差止7回
許諾4回
損害賠償3回
主文 1 本件控訴について
2 本件附帯控訴について
3 訴訟費用は第1、2審を通じこれを100分し、その85を
4 この判決は、1項 アに限り、仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に 同じ。) 本件は、発明の名称を「情報通信ユニット」とする特許(本件特許)に係る 特許権者である被控訴人が、原判決別紙被告物件目録記載の各製品(各被告製 品)は本件各発明の全部(被告製品2及び3)又は一部(被告製品1につき本15 件発明1、被告製品4につき本件発明1及び2)の技術的範囲に属し、その製 造、輸入、販売及び販売の申出は本件特許権を侵害するとして、これらを製造 等する控訴人に対し、本件特許権に基づき、上記各行為の差止及び各被告製品 の廃棄を求めるとともに、本件特許権侵害の不法行為(民法709条、特許法

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判決文

令和4年6月20日判決言渡
令和3年(ネ)第10088号特許権侵害差止等請求控訴事件、令和4年(ネ)第
10014号附帯控訴事件(原審・大阪地方裁判所令和元年(ワ)第9113号)
口頭弁論終結日 令和4年3月16日
5 判 決
控訴人・附帯被控訴人(一審被告。以下「控訴人」という。)
F X C 株 式 会 社
10 同訴訟代理人弁護士 湊 信 明
同 野 村 奈 津 子
同 横 田 将 宏
同訴訟代理人弁理士 工 藤 一 郎
15 被控訴人・附帯控訴人(一審原告。以下「被控訴人」という。)
因幡電機産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 小 池 眞 一
同 補 佐 人 弁 理 士 宮 地 正 浩
20 主 文
1 本件控訴について
原判決主文1項及び2項に係る本件控訴を棄却する。
原判決主文3項及び4項を次のとおり変更する。
ア 控訴人は、被控訴人に対し、1億9493万5883円
25 及びこのうち以下の各項記載の金員に対する同記載の日か
ら各支払済みまで、①ないし⑤については年5%の割合に
よる金員を、⑥ないし⑧については年3%の割合による金
員をそれぞれ支払え。
①12万6087円に対する平成29年1月1日から
②670万8625円に対する平成30年1月1日から
5 ③3770万8862円に対する平成31年1月1日から
④7877万8668円に対する令和2年1月1日から
⑤2212万8469円に対する令和2年4月1日から
⑥3260万9523円に対する令和2年11月1日から
⑦717万8746円に対する令和3年1月1日から
10 ⑧969万6903円に対する令和3年3月1日から
イ 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 本件附帯控訴について
被控訴人の附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審を通じこれを100分し、その85を
15 控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、1項 アに限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
20 ⑴ 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
⑵ 前記取消しに係る部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
2 附帯控訴の趣旨
原判決主文3項及び4項を次のとおり変更する。
「3 控訴人は、被控訴人に対し、2億3123万1290円及びこのうち
25 以下の各項記載の金員に対する同記載の日から各支払済みまで、⑴ない
し⑸については年5%の割合による金員を、⑹ないし⑻については年
3%の割合による金員をそれぞれ支払え。
⑴ 17万1138円に対する平成29年1月1日から
⑵ 813万4913円に対する平成30年1月1日から
⑶ 4413万3963円に対する平成31年1月1日から
5 ⑷ 9338万6718円に対する令和2年1月1日から
⑸ 2664万7472円に対する令和2年4月1日から
⑹ 3888万0288円に対する令和2年11月1日から
⑺ 846万8675円に対する令和3年1月1日から
⑻ 1140万8123円に対する令和3年3月1日から」
10 第2 事案の概要等
1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に
同じ。)
本件は、発明の名称を「情報通信ユニット」とする特許(本件特許)に係る
特許権者である被控訴人が、原判決別紙被告物件目録記載の各製品(各被告製
15 品)は本件各発明の全部(被告製品2及び3)又は一部(被告製品1につき本
件発明1、被告製品4につき本件発明1及び2)の技術的範囲に属し、その製
造、輸入、販売及び販売の申出は本件特許権を侵害するとして、これらを製造
等する控訴人に対し、本件特許権に基づき、上記各行為の差止及び各被告製品
の廃棄を求めるとともに、本件特許権侵害の不法行為(民法709条、特許法
20 102条2項ないし3項)に基づき前記第1の2(附帯控訴の趣旨)記載の損
害賠償金及び遅延損害金( ないし については改正前の民法所定の年5%の
割合により、 ないし については民法所定の年3%の割合による。 の支払を

求める事案である。
原判決は、各被告製品は本件発明1の、被告製品2ないし4は本件発明2の、
25 被告製品2及び3は本件発明3の、各技術的範囲に属するとし、上記差止請求
及び廃棄請求を認容し、損害賠償請求については、2億1966万9722円
及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容したので、その敗訴部
分を不服として、控訴人が控訴を、被控訴人が附帯控訴をそれぞれ提起した。
2 「前提事実」、「争点」及び「当事者の主張」は、後記3及び4のとおり、
当審における当事者の補充主張及び追加主張をそれぞれ加えるほか、原判決の
5 「事実及び理由」欄の第2の2及び3並びに第3に記載するとおりであるから、
これを引用する。
3 当審における補充主張
⑴ 控訴人の主張
ア 争点1(本件各発明の技術的範囲への属否)について
10 被控訴人は、本件発明1の構成要件D―1の「沿う」の語について、
「一定の距離を離して配置されている」状態を含まないとの主張をして
いる(後記4⑵ア )ところ、各被告製品においては、短い壁面側に配
置される一方のアンテナは、壁面から離間させて配置されているし、長
い壁面側に配置される他のアンテナも壁面付近に配置されたアンテナ
15 固定枠に遊嵌(余裕となる隙間をもって挿入)されて配置されているの
であり、筐体を振るとアンテナは揺れるように配置されているのである
から、構成要件D-1を充足しないことになる。
特許発明の技術的範囲への属否は、発明の効果を奏するか否かを参酌
して判断すべきであり、本件各発明が解決しようとする課題の解釈は、
20 本件各発明の奏する効果を定める原因となる。本件各発明の作用・効果
は、コンセント部からの制限(コンセントカバーの窓の大きさや形状)
を受けるケーシング部分が実際に内挿される内挿部に生じるものであ
る。そうすると、コンセント部の外部に露出したケーシング内にアンテ
ナを配置した各被告製品は、本件発明の技術的範囲に属さない。
25 イ 争点2(本件各発明に係る無効理由の有無)について
原判決が乙13発明と本件各発明の相違点の認定を誤っていること
原判決は、相違点1として、乙13発明ではアンテナが蓋に配置され
ている点、相違点2として乙13発明ではアンテナが線状である点、相
違点3として乙13発明では2つのアンテナは底面に沿って離間して配
置されている点を挙げている。
5 しかし、相違点1についてみると、乙13文献の図26を見れば、蓋
の少なくとも一部は無線拡張部と同じ幅であるので、その部分は「表示
面部の外縁から後方に延出」していることから「内挿部」に当たる。し
たがって、アンテナは内挿部に配置されているということができる。
また、相違点2についてみると、乙13発明におけるアンテナは断面
10 矩形の棒状であり、これは板状体ということができるから、この点も本
件発明との相違点とならない。
さらに、相違点3に関しては、乙13発明においてアンテナが内壁面
に沿っているか否かを判断すべきであり、底面に沿っているか否かは本
件発明と乙13発明を比較する上では不要であるから、原判決の判断は
15 誤りである。
技術常識が踏まえられていないこと
複数のアンテナを送受信に使う場合には、その間隔をできるだけ離し
た方が良好な特性が得られるという技術常識(乙23、24)を踏まえ
れば、本件各発明が無効と判断されることは当然である。
20 ウ 争点3(損害発生の有無及び損害額)について
特許法102条2項に基づく損害について
a 損害が発生していないこと
特許法102条2項の適用についても、少なくとも損害の発生は必
要である。
25 各被告製品の製造販売が開始されたのは平成28年末であるが、平
成29年度から令和2年度までの被控訴人における原告製品の売上げ
をみると、売上げを落としたのは●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●他の年ではむしろ売上げを伸ばしてい
る。したがって、各被告製品の製造販売によって原告製品の売上げが
減少したという関係にはない。各被告製品の販売期間で原告製品の売
5 上げが減少している取引先に関しては、控訴人は取引をしておらず、
各被告製品の販売と原告製品の売上減少との間に因果関係はない。
b 売上げ・利益の額
⒜ 返品分
各被告製品が本件特許権を侵害するとされたことから、●●●●
10 ●●●●●●●は、控訴人が納入した各被告製品●●●●●●●●
●●●●●●●●●を返品し、また、●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●を返品した。
これらの返品分に係る売上げは、損害計算から控除されるべきで
ある。
15 ⒝ 被控訴人の販売形態と競合しない製品の売上げ
被告製品4は、電話やLANの挿入口がないタイプで、スマート
フォンとタブレットのユーザーに特化し、コストを圧縮するもので
あるところ、被控訴人はこのタイプの製品は販売していないから、
競合関係にない。したがって、この関係の売上げ●●●●●●●●
20 円は、損害算定の基礎となる売上げから控除されるべきである。
また、控訴人は、40個1単位のバルク販売もしており、被控訴
人は、このような形態の販売を行っていないから、競合関係にない。
したがって、この関係の売上●●●●●●●●●●●円は、損害算
定の基礎となる売上げから控除されるべきである。
25 ⒞ 消費税
仮に、特許法102条2項の「利益」に消費税相当額を算入する
としても、「資産の譲渡等」としての実質を有するもの、すなわち、
権利者の特許権の使用の対価と評価できる部分、具体的には実施料
相当額に対する消費税相当額に限るべきである。
⒟ 為替差益
5 仮に、限界利益の算出において為替差益は全て原価として考慮さ
れるべきでないという控訴人の主張が認められないとしても、少な
くとも、平成28年から令和2年にかけての為替予約取引に係る為
替差益(計算鑑定書(甲58)において原価調整項目として計上さ
れている額の●●●●%)については、これを売上原価に含める扱
10 いをする合理的根拠を欠くものである。
⒠ その他の事情
被控訴人は、控訴人と係争中の令和2年1月、大阪のビジネスホ
テルに納入するため、被告製品を購入したことがあり(乙52の1・
2、この件で、控訴人は、被控訴人に対し、被告製品3(AE10
15 51)を計●●●●●●●●円で売り渡したが、被控訴人が上記被
告製品を購入したことは、少なくともその時点で自らに製品供給能
力がないことを意味するから、仮に、このとき上記被告製品が販売
されていなかったとしても、その分被控訴人が原告製品を販売でき
たとはいえず、上記被告製品3の販売にかかる控訴人の利益額は、
20 特許法102条2項の損害から差し引かれるべきである。
c 推定の覆滅について
⒜ 本件各発明の顧客誘引力がないか、乏しいこと
原判決は、本件各発明において①ケーシングをコンセント部に埋
設状態で設置でき、設置面からの表示面部の突出量が極力小さくな
25 ることによる美観の向上及び歩行の妨げとなることの防止という
効果(効果①)、②複数のアンテナ素子間の送受信波の相互干渉の
抑制という効果(効果②)について顧客吸引力を認めている。
しかし、効果①については、既に被控訴人が先行して販売してい
た製品又は既に公開された特許公報(特許第5406950号。乙
26)といった公知技術によって奏することが可能であったもので
5 あり、本件各発明の顧客吸引力を示すものではない。
また、効果②についても、通信速度等の数値に差ができたとして
も体感できるレベルのものではなく、後記⒟の控訴人の営業努力や
後記⒠の各被告製品の性質、機能の方が販売に影響するものである。
⒝ 市場の同一性がないこと
10 被控訴人は、大企業の一部門としてほとんど壁埋込型無線アクセ
スポイントのみを扱い、元々取引のある建設関係の既存固定客又は
その紹介客等を中心に取引しているのに対し、控訴人は、販売パー
トナー(販売代理店)を介しての販売を中心とし、通信関係ネット
ワークの展示会にも積極的に出品しており、直接の取引先に関し、
15 各被告製品と原告製品は基本的に競合していない。
各被告製品は、販売パートナーを介して、多様な現場に導入され
るが、この中で控訴人が被控訴人と競合するのは、主にはインター
ネットサービスプロバイダを介しての最終的な導入先であるマン
ションのみであるから、各被告製品と原告製品は、エンドユーザー
20 においてもほとんど競合していない。
⒞ 市場における競合品の存在
エレコムは、甲56製品のほかにも、原告製品と類似した埋込型
アクセスポイントを販売している。
また、平成31年には、中国企業であり、アリババ等の著名企業
25 を取引先とする会社の日本法人であるRuijie Netwo
rks Japan株式会社(以下「Ruijie社」という)が、
埋込型無線LANルーターの分野に進出している。Ruijie社
は令和2年には1.7億円の売上げを上げている。
これらの事情に鑑みれば、本件対象期間において控訴人による各
被告製品の販売がなかったとしても、これに代わってエレコムやR
5 uijie社が控訴人の売却先に販売をしていた可能性が相当程
度ある。
⒟ 控訴人の営業努力
控訴人は、個別仕様カスタマイズ集中管理ソフトの開発及び製品
に付随するソフトウェア自体を含む製品のカスタマイズという顧
10 客の個別的な要望に応えて信頼を得た。また、控訴人は、大口ユー
ザー向けの計画生産を原則としつつも、需要予測が明確でない販売
パートナー向けに見込み生産もしていて、ほぼ●●●●台以上は在
庫を確保していた。さらに、控訴人は、保守サービスの内容をウェ
ブサイトの分かりやすい場所に明示している。
15 なお、被控訴人が大阪地裁に申し立てた令和2年(ヨ)第200
09号特許権侵害差止仮処分命令申立事件につき申立てを認める
決定が令和3年2月8日になされた(以下「本件仮処分」という。)
ところ、控訴人がその後に、本件特許権を侵害しない製品(以下「侵
害回避品」という。)の販売を開始すると、取引を再開した企業が
20 複数あることも、取引先との上記のような信頼関係によって控訴人
の取引が成り立っていることを裏付ける。
⒠ 各被告製品の性能、品質
控訴人は、ネットワーク機器集中管理ソフトウェア「FSW-C
ONFIG2」を自社で開発し、訴求力を得ていた。
25 また、各被告製品には、ルーターモード(他にルーターが不要で
インターネットに接続できる。 、WPS(Wi-Fi
) Prote
cted Setup。WPSがあると、ボタン押印で簡単に親機
(無線アクセスポイントや無線ルーター)を子機(PC等の端末)
に接続でき、ホテル等において、日ごとに不特定の子機を接続する
際、子機に一々設定を入力する手間なく自動で接続することが可能
5 となる。 、電源/WPS/リセットボタンの誤作動防止のための有

効無効切替スイッチ、LED常時消灯機能(就寝のため完全に消灯
したいとき等に有用。甲53添付資料B) 電波強度を向上させるビ

ームフォーミング機能や当該強度を調整する機能(不必要に自室を
超えて電波が出ないようにするもの。乙58の3枚目)といった原
10 告製品にない機能が備えられている。
⒡ その他の事情
原告製品が販売されたことのない取引先については、各被告製品
が販売されなかったとしても原告製品が販売された可能性は低い。
また、従前は被控訴人が原告製品を販売していた●●●●●●●
15 ●●●(以下「●●●●●●」という。)については、平成30年以
降は、控訴人が各被告製品を納品する運びとなり、その後被控訴人
との取引関係は解消したが、その原因は、平成29年10月から平
成30年4月に納入された原告製品の不具合にある。
競合品の存在を理由として特許法102条2項の推定の覆滅がされた
20 部分についての同項と同条3項の重畳適用について
被控訴人は、後記⑵ウ のとおり、競合品の存在を理由として特許法
102条2項の推定の覆滅がされた部分について、同項と同条3項の重
畳適用がされるべき旨主張する。
しかし、同条2項は特許権者に生じた損害額、つまり特許権侵害行為
25 がなかった場合に特許権者が得られたであろう逸失利益額を推定するも
のであり、当該推定の覆滅が認められるということは、その部分につい
ては、特許権侵害行為と特許権者に生じた損害との間に因果関係がなく、
特許権者に生じた損害と認められないことを意味するのであるから、被
控訴人の主張は失当である。
⑵ 被控訴人の主張
5 ア 争点1(本件各発明の技術的範囲への属否)について
控訴人は、前記⑴ア のとおり、被控訴人が、本件発明1の構成要件
D-1の「沿う」の語について、「一定の距離を離して配置されている」
状態を含まないとの主張をしている旨主張するが、これは被控訴人の主
張を曲解するものである。
10 被控訴人は、控訴人が引用する発明のいずれもケーシングの内壁面を
利用する構成ではないことから、本件発明1の「内壁面に沿う」形状で
はないことを指摘しているのであり、内壁面に接するか否かを基準とし
て相違点を主張してはいない。
なお、控訴人は、令和2年1月28日の原審第1回弁論準備手続期日
15 において、構成要件D-1の充足について特に争う趣旨ではないとの認
否をし、その後、被控訴人は、自白を援用しているところ、控訴人は、
自白が真実に反し、錯誤に基づくものであることについて主張立証しな
い。
控訴人は、前記⑴ア のとおり、各被告製品が本件各発明の効果を奏
20 しない旨主張するが、同主張は、本件特許の特許請求の範囲に記載のな
い「壁」を基準にその技術的範囲の属否を判断すべきとし、また、本件
明細書に記載のない構成を想定して、各被告製品が本件各発明の作用効
果を奏しないと議論しているにすぎない。
イ 争点2(本件各発明に関する無効理由の有無)について
25 乙13発明と本件各発明の相違点について
控訴人は、前記⑴イ のとおり、各相違点について主張するが、相違
点1に関しては、「蓋」のいずれの部分も「コンセント部に内挿される」
部位ではないから、失当である。
次に、相違点2に関しては、乙13文献に、アンテナの断面が矩形状
であると認めるべき図示はないから、失当である。
5 さらに、相違点3に関しては、アンテナが「底面に沿って」離間して
配置される構成は、アンテナが「内壁面に沿って」いる構成であるとは
いえないのであるから、失当である。
控訴人は、前記 イ のとおり、複数のアンテナの間隔をできるだけ
離した方がよい旨の技術常識を踏まえれば、本件各発明は無効と判断さ
10 れる旨主張するが、
「アンテナ間距離を離す」旨の技術常識はあっても、
これを空間的な制約のある「ケーシング内で、最大限に離れた位置」に
分配配置するという技術的事項を記載した文献はないのであって、失当
である。
ウ 争点3(損害発生の有無及び損害額)について
15 特許法102条2項に基づく損害について
a 損害が発生していないとする点について
控訴人は、前記⑴ウ aのとおり、各被告製品の製造販売が開始さ
れて以降、本件各発明の実施品の売上げが減少していないから、被控
訴人に損害がない旨主張するが、被控訴人の販売活動と並行した時期
20 に控訴人によりなされた違法な特許権侵害により、被控訴人の販売実
績に追加して得られたはずである損害の発生が議論の対象であり、被
控訴人の販売実績は、要証事実と何らの関連性もない。
b 売上げ・利益の額について
⒜ 返品分
25 控訴人は、前記⑴ウ b⒜のとおり、各被告製品を販売した後、
控訴人が、新製品を用意して交換したから売上高の基礎から控除す
べきである旨主張する。
しかし、各被告製品を販売した時点で、被控訴人の損害は発生し
ているのであって、控訴人の主張は失当である。
⒝ 販売形態が競合しない製品の売上げ
5 控訴人は、前記⑴ウ b⒝のとおり、被告製品4には電話やLA
Nケーブルの挿入ポートがないとか、各被告製品の中でバルク販売
されたものがあるとして、被控訴人と控訴人では販売形態が異なる
と主張するが、そのような事情で競合が否定されるものではない。
⒞ 消費税
10 控訴人は、前記⑴ウ b⒞のとおり、仮に、特許法102条2項
の「利益」に消費税相当額を算入するとしても、実施料相当額に対
する消費税相当額に限るべきであると主張するが、そのような課税
実務は存在しない。
⒟ 為替差益
15 平成28年から令和2年までの為替差益(甲58)のうち、総額
で●●●●%が為替予約によるものであったこと、この数値を原価
から控除することについては争わない。
⒠ その他の事情
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
20 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●同ホテルにおける過電流という、原告製品とは関わりのない
問題により、原告製品の納入が拒絶されたことに基づくものである。
c 推定の覆滅について
⒜ 本件各発明に顧客吸引力がないか、乏しいとする点
25 控訴人は、前記⑴ウ c⒜のとおり、本件各発明に顧客吸引力が
ないか、乏しいと主張するが、本件各発明における、市販のコンセ
ント部に埋設状態で設置可能なケーシング内に複数の板状に形成
されたアンテナ素子を収容して、製品の美観を維持しつつ、無線L
AN用のアンテナとしてこれを合理的に配置したという技術的特
徴は、デュアルバンド対応やMIMO技術といった無線LAN規格
5 への対応を情報コンセントの技術分野で可能としたものである。
⒝ 市場の同一性がないとする点
控訴人は、前記⑴ウ c⒝のとおり、直接の取引先に関し、各被
告製品と原告製品は基本的に競合していないと主張するが、各被告
製品の販売数の約9割が、被控訴人の情報コンセントに係る取引先
10 との取引である。
また、控訴人は、エンドユーザーにおいて、控訴人が被控訴人と
競合するのは、主にインターネットサービスプロバイダを介しての
最終的な導入先であるマンションのみであるとも主張するが、上記
のとおり、直接の取引先において各被告製品と原告製品は重なって
15 いる上、いずれもエンドユーザーの各家庭、各部屋、各事務所で標
準化されているコンセント部に使用される商品であるという点か
らも、上記主張は失当である。
⒞ 市場における競合品の存在
控訴人は、前記⑴ウ c⒞のとおり、エレコムやRuijie社
20 の製品が原告製品の競合品である旨主張するが、これらの製品は、
いずれも本件各発明を実施する製品ではなく、基本スペックを被控
訴人の対応製品と同等に確保することは、技術的に困難である。
したがって、控訴人主張の競合品の存在を推定覆滅事情として考
慮すべきではなく、仮に考慮するとしても、原審と同様、最大5%
25 の推定を覆滅する事情として考慮する以上の評価はできない。
⒟ 控訴人の営業努力
控訴人は、⑴ウ c⒟のとおり、被控訴人よりサービス体制が充
実していた旨主張するが、各被告製品の販売が本件発明の実施と無
関係に得られたものであることの立証にはなっていない。
⒠ 控訴人製品の性能、品質
5 控訴人の1ウ c⒠における主張のうち、各被告製品に一審原告
の対応製品の一部に存在しない機能があることは認めるが、いずれ
も製品の基本的性能にとって付加的な機能にすぎない。
⒡ その他の事情
控訴人は、⑴ウ c⒡のとおり主張するが、いずれも、控訴人に
10 よる侵害品の販売により、被控訴人が販売機会を喪失したとの推定
を覆すものではない。
競合品の存在を理由として特許法102条2項の推定の覆滅がされた
部分についての同項と同条3項の重畳適用について
原判決は、競合品の存在を理由とする推定覆滅については、特許法1
15 02条2項と3項の重畳適用は否定されると判示するが、令和元年法律
第3号による改正の際、同条1項と同条3項の重畳適用を認める改正の
趣旨は、同条2項と同条3項の関係にも準用されるというのが立案担当
者の考えであった(甲65)。そして、控訴人の営業努力や侵害品の性
能と関わりなく、競合品の存在をもって、控訴人の譲渡数量に対応すべ
20 き控訴人の利益に対する推定覆滅を肯定するのであれば、控訴人によっ
て販売された推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対してこそ、被控
訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべきであることは、同条
1項の趣旨からも明らかである。
4 当審における控訴人の追加主張及び被控訴人の反論
25 ⑴ 控訴人の追加主張(無効の抗弁)
ア 特開2006-129365号公報(乙34。以下「乙34文献」とい
う。)に基づく本件発明1の新規性欠如
以下のとおり、乙34文献には本件発明1に係る構成が全て開示されて
おり、本件発明1は新規性を欠如する。
乙34文献の【0009】には無線LAN用やBluetooth用
5 のアンテナが記載されており、これは本件発明1の構成要件Aに該当す
る。
乙34文献の【0008】には、装置本体をセンターコンソールの内
部に搭載(埋設)し、モニタ2を車室内(外部)に露出するように構成する
ことが記載されており、これは本件発明1の構成要件Bに相当する。
10 乙34文献の【0008】には、装置本体3に支持されているモニタ
2が、例えばセンターコンソールの表面パネルを背後として車室内の中
央を向くように設置することが記載されており、これは本件発明1の構
成要件C-1に相当する。
乙34文献において表示装置のコンソールに埋め込まれている部分
15 は、本件発明1の構成要件C-2に相当する。
乙34文献の【0010】、図1、図2、図10等には、内挿部の内
壁面に沿った板状のアンテナが開示されており、これは本件発明1の構
成要件D-1に相当する。
乙34文献の【0009】や図1には、LCDパネル等が画像表示を
20 行う領域の周辺各辺にアンテナを配置することが開示されており、これ
は本件発明1の構成要件D-2に相当する。
乙34文献は、カーナビゲーションとオーディオ一体機の表示装置に
関するものであり、これは本件発明1の構成要件Eに相当する。
イ 米国特許出願公開US2012/0002655A1(乙35。 「乙
以下
25 35文献」という。)に基づく本件発明1の新規性欠如
以下のとおり、乙35文献には、本件発明1に係る構成が全て開示され
ており、本件発明1は新規性を欠如する。
乙35文献はWi-Fiアクセスポイントデバイス及びシステムに関
するものであり、[0024]等には1つ以上のアンテナとの記載もあ
ることから、これは本件発明1の構成要件Aに相当する。
5 乙35文献の[0012]、[0013]等には、前記デバイス及び
システムはアウトレットボックス(本件発明1のコンセント部)に対し
て取り付けられ、又はその中に設置(埋設)可能な構成となっており、こ
れは本件発明1の構成要件Bに相当する。
乙35文献の図4、図5、別実施形態の図8a、図8bは外部に露出
10 する表示面を示しており、これは本件発明1の構成要件C-1に相当す
る。
乙35文献の図5には、ハウジングがワークステーションギャングボ
ックスの開口部と略同一のサイズで描かれており、コンセント部へ内挿
されるものと認められ、別実施形態である図8a、図8bによれば、ア
15 クセスポイントがフェイスプレートの開口部から見えており、表示面部
外縁から開口部に内接して後方に延出する内挿部を有するといえ、これ
は本件発明1の構成要件C-2に相当する。
乙35文献の図5にはアンテナが2か所図示され、図6にはフェイス
プレートの左右側面の内壁面に沿って2つの板状アンテナが図示されて
20 おり、これは本件発明1の構成要件D-1に相当する。
乙35文献の図5、図6では、ハウジング又はフェイスプレートの表
示面後方の内部空間を挟んで離間する位置に分配してアンテナが2個平
行に配置されている様子が図示されており、これは本件発明1の構成要
件D-2に相当する。
25 乙35文献は、Wi-Fiアクセスポイントデバイス及びシステムに
関する発明であり、これは本件発明1の構成要件Eに相当する。
ウ 特開2005-79977号公報(乙36。 「乙36文献」
以下 という。)
に記載された発明(以下「乙36発明」という。)と乙34文献に記載され
た発明(以下「乙34発明」という。)との組み合わせ又は乙36発明と乙
35文献に記載された発明(以下「乙35発明」という。)との組み合わせ
5 による本件発明 1 の進歩性欠如
以下のとおり、本件発明1は、乙36発明と乙34発明の組み合わせ、
又は乙36発明と乙35発明の組み合わせにより容易に想到するもので
あり、進歩性を欠如している。
乙36文献の図7、図8には、実施形態3の無線LANアダプターがサ
10 ポートの略長方形の開口を通して取り付けられている様子が示されてお
り、図6、図7にはアンテナ43が2か所示されている。
乙36発明は、本件発明1の内挿部と表示面部に相当する構成を持つ。
そのため、乙36発明のコンセント埋め込み型の無線LANアダプターへ、
同様の技術分野のWi-Fiアクセスポイントデバイスである乙35発
15 明を適用しようと当業者が発想することは容易である。乙36発明は電源
コンセント部を併設内蔵するが、無線LANアダプターとしての機能、効
果が発明の目的であるため、電源コンセント部を有しない本件発明1の情
報通信ユニットに相当する。
以上によれば、乙36発明のコンセント埋め込み型の無線LANアダプ
20 ターへ、乙36文献に記載のない乙34発明又は乙35発明のアンテナ配
置(構成要件D-1、D-2)を適用することで、当業者が容易に本件発
明1を想到することができる。
エ 本件発明2の進歩性欠如
上記アないしウに論じたところのほか、本件発明2の構成要件F-1、
25 F-2については乙26文献に、構成要件F-3については乙34文献、
乙35文献に、構成要件Gについては乙17文献に開示されているから、
乙36発明にこれらを適用することにより、本件発明2の進歩性は否定さ
れる。
オ 本件発明3の進歩性欠如
上記アないしエに論じたところのほか、本件発明3の構成要件H-1、
5 H-2については乙26文献に開示されているから、乙36発明にこれら
を適用することにより、本件発明3の進歩性は否定される。
⑵ 被控訴人の主張
ア 乙34文献に基づく本件発明1の新規性欠如について
本件発明1は、乙34発明とは以下のような相違点があり、乙34文献
10 に基づいて新規性を否定することはできない。
構成要件B
乙34発明は、「設置面に設けられたコンセント部」に相当する構成
を有していない。
構成要件C-1
15 乙34発明は、内挿される部位である「ケーシング」を有していない。
構成要件C-2
乙34文献の図1及び図7-1をみても、「モニタ2」の筐体の外縁
と「装置本体3」の筐体の外縁部は、明らかな段差があり、乙34発明
は、本件発明1の構成要件C-2の「表示面部の外縁部から後方に延出
20 し前記コンセント部に内挿される内挿部」を有していない。
構成要件D-1
乙34発明の「アンテナ4」は、乙34文献の図2より明らかなとお
り、各内壁面と距離をおいてL字の各面が位置しており、本件発明1の
「アンテナ素子」のように「前記ケーシングの内壁面に沿う板状に形成
25 されている」ものではない。
構成要件D-2
乙34発明の「外枠6」は、本件発明1の「外部に露出される表示面
部」「の外縁部から後方に延出」する内挿部ではないため、構成要件D
-2の「前記内挿部の互いに異なる内壁面」が存在していない。
イ 乙35文献に基づく本件発明1の新規性欠如について
5 控訴人主張の乙35発明は、乙35文献の複数の実施形態を断片的につ
なぎ合わせたもので、本件発明1との対比の対象として不適切である。
そこで、乙35文献に記載の発明を「ハウジング12、ハウジング11
2、ハウジング212を有して各ボックスに外付けされているアクセスポ
イント10、110、220に係る発明」
(以下「乙35発明1」という。)
10 と、「周囲にハウジングを有さず、フェイスプレート及び壁カバー864
内に、保護部材を介して埋め込まれてボックスに外付けされるアクセスポ
イント回路構成324、又は保護部材を介さずに直接埋め込まれてボック
スに外付けされるアクセス回路構成824に基づくアクセスポイント3
10、410、510、610、710に係る発明」(以下「乙35発明
15 2」という。)とに分けて検討する。
乙35発明1に基づく新規性欠如の有無について
本件発明1は、乙35発明1とは以下のような相違点がある。
a 構成要件B
乙35発明1では、本件発明1の「ケーシング」に相当する「ハウ
20 ジング」は、埋設状態で設置可能に構成されていない。
b 構成要件C-1
乙35発明1に本件発明1の構成要件Bの「設置面に設けられたコ
ンセント部に埋設状態で埋設可能に構成された」「ケーシング」の部
位が存在しない以上、これと対比される構成要件C-1の「ケーシン
25 グ」が有する「外部に露出される表示面部」の部位も存在しない。
c 構成要件C-2
乙35発明1のハウジングは、ボックスの開口部を覆うものであり、
ボックス内部に内挿されるものではない。
d 構成要件D-1
乙35発明1のアンテナ228は、FIG5、FIG6に図示され
5 るように、ハウジング238の内壁面と距離をおいて平行な姿勢を保
つように配置されており、ハウジング238の内壁面がアンテナ22
8の配置に一切利用されておらず、内壁面に沿って配置される構成で
ない。
e 構成要件D-2
10 前記bないしdのとおり、乙35発明1の「ハウジング」には、本
件発明1の「表示面部」に相当する構成も「内挿部」に相当する構成
もなく、また、乙35発明1は、「アンテナ」の配置について「ハウ
ジング」の内壁面を利用する構成ではない。
乙35発明2に基づく新規性欠如について
15 本件発明1は、乙35発明2とは以下のような相違点がある。
a 構成要件A
乙35発明2に本件発明1の「複数のアンテナの夫々のアンテナ素
子」の開示はない。また、乙35発明2では、アクセスポイント回路
構成324の保護として「保護部材356」を介し、「フェイスプレ
20 ート338」を被せるものであり、本件発明1の「ケーシング」に相
当する構成はない。
b 構成要件B、C-1、C-2
乙35発明2が本件発明1の「ケーシング」を有しない以上、構成
要件B、C-1、C-2も有しない。
25 c 構成要件D-1、D-2
乙35発明2に本件発明1の「複数のアンテナの夫々のアンテナ素
子」の開示はないので、構成要件D-1、D-2も有しない。
ウ 乙36発明と乙34発明との組み合わせ又は乙36発明と乙35発明と
の組み合わせによる本件発明1の進歩性欠如について
乙36文献においては、その図1、図2、図5に「アンテナ部12c」
5 が2つ記載され、図6、図7に「アンテナ部43」が2つ記載されてい
るが、これらの図示部分が独立した「アンテナ素子」であるのか、ケー
ス内部で一体化されているのかを把握することはできず、また、「ケー
ス凸部33b」の表面に露出しているとの記載からは、本件発明1の「ケ
ーシングに内蔵し、」との発明特定事項に対応した構成を把握すること
10 はできない。
乙34発明と乙36発明は、それぞれカーナビゲーションと情報コン
セントであって技術分野が相違しており、課題の共通性もなく、その適
用を示唆するところもなければ、作用機能の共通性もない。
また、乙34発明は、前記ア 及び のとおり、本件発明1の構成要
15 件D-1及び構成要件D-2を有していない。
前記イ d、e、及び cのとおり、乙35発明1及び乙35発明2
には、本件発明1の構成要件D-1及びD-2に相当する構成が存在し
ない。
仮に、乙35発明1の「2つのアンテナ228」を乙36発明に適用
20 しようとすると、サイズも形状も異なる「ケース凸部33b」の構成を
大幅に変更する必要が生じ、かつ、「ケース凸部33b」の内部空間に
おける具体的な配置を導く根拠がない以上、適用に関する技術的事項の
開示も、動機付けの根拠もない。
エ 本件発明2及び同3の進歩性欠如について
25 前記アないしウのとおり、本件発明1の無効理由が成立しない以上、こ
れを引用して特定される本件発明2及び本件発明3に控訴人の主張する
無効理由も成立しない。
第3 当裁判所の判断
1 「本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)について」、「乙13文献に
基づく無効理由の有無(争点2-1)について」 「乙14文献等に基づく新規

5 性欠如の有無(争点2-2)について」 「差止請求及び廃棄請求について」及

び「損害発生の有無及び損害額(争点3)について」に関する当裁判所の判断
は、原判決を以下のとおり改め、後記2及び4のとおり当審における当事者の
補充主張に対する判断を加えるほか、原判決の第4の1ないし5に記載のとお
りであるから、これを引用する。
10 原判決37頁の脚注を削除する。
原判決49頁3行目の「証拠」から4行目末尾までを次のとおり改める。
「計算鑑定書(甲58)には、各被告製品の販売による控訴人の利益の額
が以下のとおり記載されており、当該認定に係る額は基本的に合理的なもの
として採用することができる。」
15 原判決49頁15行目の「しかし、」から16行目末尾までを削る。
原判決50頁20行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。
「ただし、為替差益のうち、為替予約取引に基づくものの比率に相応する
額を原価から控除すること、及びその比率が●●●●%であることについて
は当事者間に争いがないから、前記計算鑑定書(甲58)の10頁及び別紙
20 の「原価調整項目」欄に記載された額(平成28年12月が●●●●●●円、
平成29年が●●●●●●●円、平成30年が●●●●●●●円、平成31
年1月ないし令和元年12月が●●●●●●●●円、令和2年1月ないし3
月が●●●●●●●円、同年4月ないし10月が●●●●●●●●円、同年
11月及び12月が●●●●●●円。なお、令和3年1月及び2月について
25 は●円となっている。)について、●●●●%分を控除した額(平成28年1
2月が●●●●●●円、平成29年が●●●●●●●円、平成30年が●●
●●●●●円、平成31年1月ないし令和元年12月が●●●●●●●●円、
令和2年1月ないし3月が●●●●●●●円、同年4月ないし10月が●●
●●●●●●円、同年11月及び12月が●●●●●●円。令和3年1月及
び2月は前記のとおり●円となる。)を控訴人の利益の計算に当たって算入
5 するのが相当であり、以上を前提にして、同計算鑑定書別紙の「合計欄」の
数式に従い再計算すると(別紙4参照) 各被告製品の販売による控訴人の利

益の額(税込)は、以下のとおりとなる。
平成28年12月 ●●●●●●●円
平成29年1月ないし12月 ●●●●●●●●円
10 平成30年1月ないし12月 ●●●●●●●●●円
平成31年1月ないし令和元年12月 ●●●●●●●●●円
令和2年1月ないし3月 ●●●●●●●●●円
令和2年4月ないし10月 ●●●●●●●●●円
令和2年11月及び12月 ●●●●●●●●円
15 令和3年1月及び2月 ●●●●●●●●●円」
原判決50頁23行目末尾に改行して次のとおり加える。
「 その他
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
20 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
25 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●特許法102条
2項が想定する事態とは類型的に異なるものというべきであるから、
上記取引による限界利益は同項の利益には含めないことが相当であ
る。
前記 の認定によれば令和2年1月ないし3月の各被告製品の販
売による控訴人の利益は●●●●●●●●●円であり、前記計算鑑定
5 書(甲58)別紙によれば、この間の各被告製品の販売額は●●●●
●●●●●円であるから、限界利益率は●●%である。
●●●●●(円)÷●●●●●(円)=●%
そうすると、本件ホテル取引の売上げに係る限界利益は●●●●●
●●円である。
10 ●●●●(円)×●(%)= ●●●(円)
これを令和2年1月ないし3月の各被告製品の販売による控訴人の
上記利益●●●●●●●●●円から差し引くと、同期間の利益は●●
●●●●●●●円となる。」
原判決53頁17行目の「また、 から24行目末尾までを次のとおり改め

15 る。
「その他、エレコムやRuijie社が、原告製品と競合し得る壁埋込式
情報コンセント型無線LANアクセスポイントを販売し、エレコムは、知名
度と安価さを兼ね備えた長期の販売実績を有し、Ruijie社は、日本市
場への本格参入は令和2年以降であるが、相当の販売実績を有している。具
20 体的には、エレコムは、甲56製品以外にも、原告製品と競合し得るJIS
規格対応の壁埋込式情報コンセント型無線LANアクセスポイントを3種類
販売し、知名度を有し、原告製品に比べ価格競争力を有することが認められ
る(甲78、乙60の2ないし4、乙61)。また、Ruijie社は、原告
製品と競合し得る壁埋込式情報コンセント型無線LANアクセスポイントを
25 販売し、令和2年の販売実績が1.7億円、令和3年1月から11月までの
販売実績が5.79億円であることが認められる(甲78、乙61ないし6
6)。
一方、原告製品の売上げは、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
5 ●●●●●●●
このような事情に鑑みると、本件において、競合品の存在を理由として特
許法102条2項の推定は覆滅され、その割合は15%と認めるのが相当で
ある。」
原判決54頁8行目冒頭から17行目末尾までを次のとおり改める。
10 「以上によると、特許法102条2項により推定される被控訴人の損害額
は、以下のとおり、●●●●●●●●●●●円となる(前記イ 及び にお
いて認定した利益額について、競合品の存在を理由として15%の覆滅をし
た額)。
平成28年12月 ●●●●●●●円
15 平成29年1月ないし12月 ●●●●●●●●円
平成30年1月ないし12月 ●●●●●●●●●円
平成31年1月ないし令和元年12月 ●●●●●●●●●円
令和2年1月ないし3月 ●●●●●●●●●円
令和2年4月ないし10月 ●●●●●●●●●円
20 令和2年11月及び12月 ●●●●●●●●円
令和3年1月及び2月 ●●●●●●●●円」
原判決54頁26行目の「被告による」から55頁2行目末尾までを次の
とおり改める。
「競合品が販売された蓋然性があることにより推定が覆滅される部分に
25 ついては、そもそも特許権者である被控訴人が控訴人に対して許諾をすると
いう関係に立たず、同条3項に基づく実施料相当額を受ける余地はないから、
重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被控訴人の主張は採用できない。」
原判決55頁16行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「そうすると、弁護士費用等相当損害額は、以下のとおり、合計●●●●
●●●●●円となる。
5 平成28年12月 ●●●●●●円
平成29年1月ないし12月 ●●●●●●●円
平成30年1月ないし12月 ●●●●●●●●円
平成31年1月ないし令和元年12月 ●●●●●●●●円
令和2年1月ないし3月 ●●●●●●●●円
10 令和2年4月ないし10月 ●●●●●●●●円
令和2年11月及び12月 ●●●●●●●円
令和3年1月及び2月 ●●●●●●●円」
原判決56頁1行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。
「そうすると、被控訴人の損害額は、以下のとおり、合計●●●●●●●
15 ●●●●円と認められる。
平成28年12月 ●●●●●●●円
平成29年1月ないし12月 ●●●●●●●●円
平成30年1月ないし12月 ●●●●●●●●●円
平成31年1月ないし令和元年12月 ●●●●●●●●●円
20 令和2年1月ないし3月 ●●●●●●●●●円
令和2年4月ないし10月 ●●●●●●●●●円
令和2年11月及び12月 ●●●●●●●●円
令和3年1月及び2月 ●●●●●●●●円」
原判決56頁12行目から13行目にかけての「2億1966万9722
25 円」を「1億9493万5883円」に改める。
原判決56頁18行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「12万6087円に対する平成29年1月1日から
670万8625円に対する平成30年1月1日から
3770万8862円に対する平成31年1月1日から
7877万8668円に対する令和2年1月1日から
5 2212万8469円に対する令和2年4月1日から
3260万9523円に対する令和2年11月1日から
717万8746円に対する令和3年1月1日から
969万6903円に対する令和3年3月1日から」
2 当審における控訴人の補充主張(損害に係る主張を除く)に対する判断
10 争点1(本件各発明の技術的範囲への属否)について
ア 控訴人は、前記第2の3⑴ア のとおり、被控訴人が本件発明1の構成
要件D―1の「沿う」の語について「一定の距離を離して配置されている」
状態を含まないとの主張をしているとした上で、各被告製品においては
「一定の距離を離して配置されている」状態にあるのであるから、構成要
15 件D-1を充足しない旨主張する。
しかし、控訴人は、令和2年1月28日の原審第1回弁論準備手続期日
において、構成要件D-1の充足について特に争う趣旨ではないとの認否
をし、被控訴人は、令和3年6月21日の原審第2回弁論準備手続期日に
おいて陳述された令和2年3月2日付け準備書面において同自白を援用
20 しているところ、控訴人は、自白が真実に反し、錯誤に基づくものである
ことについて主張立証しない。
なお、仮に、控訴人の主張が構成要件D-1の「内壁面に沿って」の解
釈に関するもので自白の撤回に当たらないと解したとしても、各被告製品
が構成要件D-1を充足することに変わりはない。すなわち、広辞苑第6
25 版(乙91)には、「沿う」の意味について、「線条的なもの、または線条
的に移動するものに、近い距離を保って離れずにいる意」とある。本件明
細書には、
「更に、コンセント部に対して埋設状態で設置可能なことで大き
さ等に制限が生じるケーシング内において、複数のアンテナ素子を配置す
るにあたり、それら複数のアンテナ素子が、ケーシングの内壁面に沿う板
状に形成され、更には、内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空
5 間を挟んで離間する位置に分配配置されている。このことで、夫々のアン
テナ素子間の離間距離を十分に大きくとって、当該夫々のアンテナ素子に
おける送受信波の相互干渉を良好に抑制することができる。 (
」 【0009】)
との記載があり、構成要件D-1における「内壁面に沿って」は、
「夫々の
アンテナ素子間の離間距離を十分に大きくと」るために、アンテナ素子を
10 内壁面に近づけた位置に配置することに意義があり、内壁面に密着するこ
とまでが要件となっていないことは明らかである。そして、各被告製品に
おけるアンテナ素子は、内壁面と近い距離を保って離れずにあり、アンテ
ナ素子同士の離間距離を十分にとっている(乙9、92)。したがって、各
被告製品は、アンテナ素子が内壁面に沿って形成されているというべきで
15 あり、この点からも控訴人の主張は失当である。
イ 控訴人は、第2の3⑴ア のとおり、本件各発明の作用効果が享受され
るのは、ケーシングのうち、コンセントに埋設された内挿部の部分である
から、本件各発明の作用効果を享受しないコンセント部の外部に露出した
部分にアンテナを配置した各被告製品は本件各発明の技術的範囲に属さ
20 ない旨主張する。
しかし、本件各発明は複数のアンテナ素子をケーシングに内蔵している
ところ、引用に係る原判決の第4の1⑵イ における説示のとおり、その
アンテナ素子は「内挿部」の内壁面に配置されているものであり、かつ、
「内挿部」の断面の大きさは取付け窓4の大きさに制約されるから、アン
25 テナ素子を配置できる空間もコンセントカバー3の取付け窓4の大きさ
に制約されるものであり、ケーシングのうちコンセント部の外部(室内側
に露出した部分)に配置されたアンテナ素子も、コンセント部に内挿され
る内挿部の「内壁面」に配置されていることにより空間的制約を受け、本
件各発明の作用効果を享受することになるものと解される。
そして、各被告製品の通信ユニットのケーシングは、本件各発明と同様
5 に、室内側に露出した表示面部の外縁部から後方に延出してコンセント部
に内挿される内挿部を有しており、内挿部のうち室内側に露出した部分で
あっても、その断面の大きさはコンセント部の大きさに制約されているこ
とは明らかである。
そうすると、技術的範囲の属否について作用効果を考慮すべきであると
10 しても、各被告製品は本件発明1の、被告製品2ないし4は本件発明2の、
被告製品2及び3は本件発明3の、構成要件を充足していることに加え、
作用効果も享受しているものである。
ウ 小括
以上のとおりであって、本件各発明の技術的範囲への属否についての原
15 判決の判断に誤りはない。
争点2(本件各発明に係る無効理由の有無)について
ア 原判決が乙13発明と本件各発明の相違点の認定を誤っているとする点
について
控訴人は、前記第2の3⑴イ のとおり、原判決の相違点の認定の誤り
20 を指摘する。
しかし、相違点1については、控訴人は、乙13文献の図26を見れば、
アンテナは内挿部に配置されているから、原判決が乙13発明ではアンテ
ナが蓋に配置されている点を認めたのは誤りである旨主張するところ、乙
13文献においては、「第11実施形態の無線ユニット1Kは、・・・図2
25 6に示すように無線拡張部11iおよび蓋12aをそれぞれ備えている。」
として、無線拡張部11iと蓋12aが別個のものとされており、また、
図26を見ると、蓋12aはベース部10e及び無線拡張部11iの同高
さのいずれよりも大きいものであるため、蓋12aの側面部はコンセント
部に内挿されるものではないから、控訴人の上記主張は採用できない。
次に、相違点2については、控訴人は、乙13文献におけるアンテナは
5 断面矩形の棒状であり、これは板状体ということができる旨主張するとこ
ろ、乙13文献の図26には、そもそも断面矩形の棒状であることを示す
断面図は記載されていないし、また、「板」とは、「①材木を薄く平たくひ
き割ったもの。②金属や石などを薄く平たくしたもの。 を意味することは

公知の事実であり(広辞苑第7版) 平たい要素を有しない棒状物を板状体

10 ということはできないから、控訴人の上記主張は採用できない。
さらに、相違点3については、控訴人は、乙13発明においてアンテナ
が内壁面に沿っているか否かを判断すべきである旨主張するところ、乙1
3発明は内挿部を有しないのであり、したがって、内挿部の内壁面も有し
ないことになるから、そもそも「内壁面に沿っているか否か」を判断する
15 ことはできず、控訴人の上記主張は採用できない。
イ 技術常識が踏まえられていないとする点について
控訴人は、前記第2の3⑴イ のとおり、複数のアンテナを送受信に使
う場合には、その間隔をできるだけ離した方が良好な特性が得られるとい
う技術常識(乙23、24)を踏まえれば、本件各発明に無効理由がある
20 と判断されるべきことは当然である旨主張する。
しかしながら、控訴人が主張するような技術常識はあくまで一般論にす
ぎないというべきであり、これが認められたとしても、それだけをもって、
コンセント部に埋設状態で設置される情報通信ユニットのケーシングの
内挿部の異なる内壁面に複数の板状のアンテナを配置するという具体的
25 な構成要件(構成要件B、C-2、D-1、D-2)を容易に想到できる
とはいえないから、控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであって、乙13文献等に基づく本件特許の無効を認めな
かった原判決の判断に誤りはなく、控訴人の主張は採用できない。
3 新たな追加主張(無効の抗弁)について
5 ⑴ 乙34文献に基づく新規性欠如について
ア 乙34発明について
乙34文献には別紙1の記載がある。
控訴人の主張は、乙34文献の実施の形態1に係る記載によれば、本
件発明1に係る構成が全て開示されているというものであるところ、前
10 記 に記載されたところから、以下の乙34発明を認めることができる。
なお、本件発明1と対比するため分説をした(以下、各引用発明につき
同じ。 。

A’’’ 無線LAN用の複数のアンテナ4を、装置本体3の前面に配置さ
れたモニタ2に内蔵し、
15 B’’’ 前記装置本体3は、車室内のセンターコンソールの内部に搭載さ
れ、一方、前記モニタ2は、センターコンソールの表面パネルを背後
として車室内の中央を向くように設置されている、カーナビゲーショ
ンとオーディオ一体機の表示装置1であって、
C’’’-1 前記モニタ2は、外部に露出される表示面5と、
20 C’’’-2 前記表示面5の周縁部を前方側から保持する外枠6と前記外
枠6が取り付けられる筐体とを有するものであって、前記筐体は表
示面5の外縁部から後方に延出する部分を有し、
D’’’-1 前記複数のアンテナ4が、板金アンテナからなり、
D’’’-2 前記表示面5の周縁部の各辺に分配配置され、前記モニタ2
25 の筐体前面ならびに表示面5より前方に位置するように固定され前
記外枠6の内側に形成された空洞部分に収納される、
E’’’ カーナビゲーションとオーディオ一体機の表示装置1。
イ 本件発明1と乙34発明の対比
前記アによれば、乙34発明は、カーナビゲーションとオーディオ一体
機の表示装置1であり、その装置本体3が車室内のセンターコンソールに
5 搭載されるものであって、住居等の電源コンセント部に埋設されるもので
はない。また、乙34発明の「モニタ2」は、複数のアンテナ4が取り付
けられている点において、本件発明1の「ケーシング」に対応するが、セ
ンターコンソールの表面パネルを背後として車室内の中央を向くように
設置されるものであって、装置本体3とは異なりセンターコンソール内に
10 埋設されるものではないから、乙34発明のモニタ2の筐体が有する「表
示面5の外縁部から後方に延出する部分」もコンソール内に内挿されるも
のではない。したがって、乙34発明は、本件発明1の「ケーシングが、
設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されてい
る」構成(構成要件B)、ケーシングが「表示面部の外縁部から後方に延出
15 し前記コンセント部に内挿される内挿部とを有」する構成(構成要件C-
2)を有しない。
また、乙34発明の複数のアンテナ4は、表示面5より前方に位置する
ように固定されるものであるから、本件発明1のアンテナ素子が「内挿部
の互いに異なる内壁面において前記表示面部の後方側内部空間を挟んで
20 離間する位置に分配配置されている」 (構成要件D-2)
構成 を有しない。
これらの相違点がある以上、本件発明1は、乙34発明により新規性を
欠如するものではない。
⑵ 乙35文献に基づく新規性欠如について
ア 乙35発明について
25 乙35文献には別紙2の記載がある。
によれば、乙35文献において、[0062]ないし[0063]、
及び図4ないし図6に記載の実施形態と、 0064]
[ ないし[0066]、
図7及び図8aないし図8dに記載の実施形態とでは、その形状や構造
が大きく異なるため、それぞれ別に乙35発明1、乙35発明2として
認定するのが相当である。そうすると、前記 の記載によれば、乙35
5 発明1及び同2は、それぞれ以下の構成を有するものと認めるのが相当
である。
a 乙35発明1
A’’’’ Wi-Fiアクセス用の複数のアンテナ28(図5、図6では
228)をハウジング212に内蔵し、
10 B”” 前記ハウジング212が、壁の中に設置されたギャングボック
ス220に接続されるアクセスポイント210であって、
C”’’-1 前記ハウジング212が、外部に露出される表示面部と、
C””-2 前記表示面部の外縁部から後方に延出する部位を有し、
D””-1 前記複数のアンテナ28が、前記ハウジング212の内壁
15 面に沿う板状に形成されていると共に、
D””-2 前記ハウジング212の異なる内壁面において前記表示面
部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている
E”” アクセスポイント210。
b 乙35発明2
20 A””’ Wi-Fiアクセス用の少なくとも1つのアンテナ328を内
蔵し、
B””’ 壁の中に設置されたギャングボックス320、420、520、
620、720に取り付けられるアクセスポイント310(図7に
は番号の記載なし)、410、510、610、710であって、
25 C””’-1 前記アクセスポイント310、410、510、610、
710は、外部に露出される表示面部を有し、
D””’-1 前記アンテナ328が、前記ギャングボックス320の内
壁面に沿う板状に形成されている、
E””’ アクセスポイント310、410、510、610、710。
イ 本件発明1と乙35発明1、乙35発明2の対比
5 乙35発明1
乙35発明1は、Wi-Fiアクセス用の複数のアンテナを備えるア
クセスポイント210であって、そのギャングボックス220が壁の中
に設置されるものであるが、図4ないし図6に示される形状からして、
住宅等の電源コンセント部に埋設されるものとは解されない。
10 また、図5を参照すると、乙35発明1の「ハウジング212」は、壁
の中に設置されたギャングボックスに接続されるものの、ハウジング2
12の表示面部の外縁部から後方に延出する部位に壁の中に埋設される
部位があるものとは認められない。したがって、乙35発明1は、本件
発明1の「ケーシングが、設置面に設けられたコンセント部に埋設状態
15 で設置可能に構成されている」構成(構成要件B)、ケーシングが「表示
面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿される内挿部と
を有」する構成(構成要件C-2)を有しない。
これらの相違点がある以上、本件発明1は、乙35発明1により新規
性を欠如するものではない。
20 乙35発明2
乙35発明2のアクセスポイント310は、[0064] [0065]

の記載及び図7を参照すると、アンテナ328が搭載されたWi-Fi
アクセスポイント回路構成324と保護部材356と開口354を有す
るフェイスプレート338とから構成されるものであって、表示面部と
25 表示面部の外縁部から後方に延出しコンセント部に内挿される内挿部と
を有するケーシングに相当する部材を有するものではない。
さらに、乙35発明2のアンテナ328は、図7を参照すると、1つ
のアンテナであって複数のアンテナが設けられているものとは認められ
ない。
よって、乙35発明2は、本件発明1における、「複数のアンテナの
5 夫々のアンテナ素子をケーシングに内蔵し」
(構成要件A)、
「前記ケーシ
ングが、設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成
され」構成要件B) 前記ケーシングが、
( 、
「 外部に露出される表示面部と、」
(構成要件C-1) 「当該表示面部の外縁部から後方に延出し前記コン

セント部に内挿される内挿部とを有し」(構成要件C-2)、アンテナ素
10 子が「ケーシングの内壁面に沿」って形成され(構成要件D-1) 「前

記内挿部の互いに異なる内壁面において前記表示面部の後方側内部空間
を挟んで離間する位置に分配配置されている」構成(構成要件D-2)
をいずれも有しない。
これらの相違点がある以上、本件発明1は、乙35発明2により新規
15 性を欠如するものではない。
⑶ 乙36発明と乙34発明又は乙35発明に基づく本件発明1の進歩性欠
如について
ア 乙36発明について
乙36文献には別紙3の記載がある。
20 控訴人の主張は、乙36文献の第3の実施形態に係る記載を基にする
ものであるところ、前記 の記載によれば、第3の実施形態における乙
36発明は、以下の構成を有するものと認めるのが相当である。
A””” 無線LAN用のアンテナ43を本体ケース33aに内蔵し、
B””” 前記本体ケース33aが、設置面に設けられたコンセント部に
25 埋設状態で設置可能に構成され、前記埋め込み型配線装置31は、
サポート32と、無線LANアダプター33と、化粧カバー34と
を備えている埋め込み型配線装置31であって、
C”””-1 前記本体ケース33aは、この本体ケース33aの正面か
ら突出されて前記サポート32の他方の開口に通され外部に露出
する表面を有するケース凸部33bと、
5 C”””-2 前記ケース凸部33bの前記表面の外縁部から後方に延
出し前記コンセント部に内挿される内挿部とを有し、
D”””-1 前記本体ケース33aにはアンテナ部43が設けられ、こ
のアンテナ部43はケース凸部33bの前記表面に露出している、
E””” 埋め込み型配線装置31。
10 イ 本件発明1と乙36発明の対比
乙36発明は、コンセント部に埋設状態で設置される情報通信ユニット
である点で本件発明1と共通するものであって、乙36発明の第3の実施
形態におけるケース凸部33bの「外部に露出する表面」 「ケース凸部3

3bの前記表面の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿され
15 る内挿部」は、それぞれ本件発明1の「表示面部」 「表示面部の外縁部か

ら後方に延出し前記コンセント部に内挿される内挿部」に対応する。
一方、乙36発明のアンテナ部43はケース凸部33bの表面に露出し
ているところ、図6、図7を参照すると、確かにアンテナ部43がケース
凸部33bの表面の2か所で露出しているが、乙36文献には、アンテナ
20 部43を複数備えるとは記載されていないから、結局のところ、上記図6、
図7に示される上記2か所の露出しているアンテナ部43が、2つの別々
のアンテナ部を示しているのか、あるいは、1つのアンテナ部43が2か
所で露出しているのか明らかではない。
仮に、乙36発明のアンテナ部43が2つ存在するとしても、上記図6、
25 図7を参照する限り、それぞれのアンテナ部43が内挿部の内壁面に沿っ
て板状に形成されるものではなく、内挿部の互いに異なる内壁面において
表面の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されるものでも
ないことは明らかであるから、乙36発明は、少なくとも本件発明1の構
成要件D-1、及び構成D-2を備えていない点で本件発明1と相違する。
ウ 相違点の容易想到性について
5 控訴人は、乙36発明と乙34発明との組み合わせ又は乙36発明と乙
35発明の組合せにより、相違点に係る本件発明1の構成を容易に想到す
ることができる旨主張するが、以下のとおり、いずれも採用できない。
乙34発明について
乙34発明は自動車のコンソール部に埋設されるカーナビゲーション
10 システムであって、コンセント部に埋設される埋め込み型配線装置であ
る乙36発明とは、その技術分野、装置の形状、装置の設置形態におい
て大きく異なるものであるから、乙36発明と乙34発明とを組み合わ
せる動機付けを認めることはできない。
また、乙34発明は、前記⑴イのとおり、本件発明1の構成要件D-
15 2を有するものではない。そうすると、乙36発明と乙34発明とは、
いずれも本件発明1の構成要件D-2を有するものではないから、仮に、
乙36発明と乙34発明とを組み合わせたとしても、本件発明1の構成
要件D-2を有する構成に至らないことは明らかである。
乙35発明について
20 a 乙35発明1について
乙35発明1は、コンセント部に埋設されるものではないことは明
らかであって、その形状についても、コンセント部に埋設される埋め
込み型配線装置である乙36発明とは大きく異なるものであるから、
乙36発明と乙35発明1とを組み合わせる動機付けを認めることは
25 できない。
b 乙35発明2について
乙35発明2が、本件各発明の構成要件D-1(アンテナ素子が「ケ
ーシングの内壁面に沿」って形成されている)、構成要件D-2(夫々
のアンテナ素子が、内挿部の互いに異なる内壁面において表示面部の
後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている)を有す
5 るものではないことは前記 イ のとおり明らかである。
そうすると、乙36発明と乙35発明2とは、いずれも本件発明1
の構成要件D-1、D-2を有するものではないから、仮に、乙36
発明と乙35発明2とを組み合わせたとしても、本件各発明1の構成
要件D-1、D-2を有する構成に至らないことは明らかである。
10 ⑷ 乙36発明と乙34発明又は乙35発明の組合せによる本件発明2及び同
3の進歩性欠如について
本件発明2及び同3は本件発明1の構成を含むものであるところ、乙36
発明と乙34発明又は乙35発明の組合せによる本件発明1の進歩性欠如が
前記⑶のとおり認められない以上、乙36発明と乙34発明又は乙35発明
15 の組合せによる本件発明2及び同3の進歩性欠如もまた認められない。
⑸ 小括
以上のとおりであって、控訴人の当審における無効主張はいずれも理由が
ない。
4 当審における当事者の補充主張(損害発生の有無及び損害額(争点3))に対
20 する判断
⑴ 控訴人の補充主張に対する判断
ア 被控訴人に損害が発生していないとする点について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ aのとおり、各被告製品の販売開始後で
ある平成29年度から令和2年度までの原告製品の売上げが落ちていない
25 から、被控訴人に損害が生じておらず、特許法102条2項適用の前提を
欠く旨主張する。しかし、同項は、侵害品の販売により権利者が取引機会
を喪失したものとして、侵害者の得た利益を権利者の損害と推定する規定
であるから、権利者製品の販売総額が減少していないからといって損害が
生じていないことにはならず、控訴人の主張は採用できない。
イ 売上げ・利益の額について
5 返品分について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ b⒜のとおり、侵害品であることから
返品された売上げについて、損害算定の基礎となる売上げから控除され
るべきであると主張するが、仮に返品の事実が存在したとしても、一旦
納品されて、売上げが生じ、相応の時間が経過している以上は、その後、
10 侵害品であるとして返品されたとしても、損害の発生後の事情にすぎな
いというべきある。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
被控訴人の販売形態と競合しない製品の売上げについて
控訴人は、前記第2の3⑴ウ b⒝のとおり、被告製品4には電話や
LANケーブルの挿入ポートがないとか、各被告製品の中でバルク販売
15 されたものがあるとして、被控訴人と販売形態が異なると主張するが、
控訴人主張の事情が存在したとしても、そのことをもって競合関係を否
定することはできない。したがって、これらを推定覆滅事情ということ
はできない。
消費税について
20 控訴人は、前記第2の3⑴ウ b⒞のとおり、仮に、特許法102条
2項の「利益」に消費税相当額を算入するとしても、実施料相当額に対
する消費税相当額に限るべきであると主張するが、消費税基本通達5-
2-5は課税対象を実施料相当額に限定していないから、上記主張は採
用できない。
25 為替差益について
控訴人が前記第2の3⑴ウ b⒟で主張するとおり、計算鑑定書(甲
58)で認定された為替差益のうち、為替予約取引に基づくものの比率
に対応する部分について原価から控除するのが相当である(甲58の7
頁第4⑴2もこれを前提としており、ただ、その作成時点では長期為替
予約契約が認定できなかったことから考慮していないものである。 。そ

5 うすると、証拠(乙43、93)によれば、平成28年から令和2年ま
で為替予約取引が行われ、同取引による為替差益の比率は為替差益全体
の●●●●%であり、これを控除する指標とすることは被控訴人も争っ
ていない。以上に基づき、前記1 のとおり、原判決に所要の補正を行
ったところである。
10 その他の事情について
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
15 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●特許法102条2項が想定する事態とは
20 類型的に異なるものというべきであるから、これによる利益は同項の利
益には含めないことが相当である。被控訴人は、同ホテルにおける過電
流という、原告製品とはかかわりのない問題により、原告製品の納入が
拒絶されたことに基づくものである旨主張するが、そのような事情は上
記結論を左右するものではない。以上に基づき、前記1 のとおり、原
25 判決に所要の補正を行ったところである。
ウ 推定の覆滅について
本件各発明の顧客吸引力がないか、乏しいとする点について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ c⒜のとおり、原判決が顧客吸引力を
認めた本件各発明の効果①及び②は、本件各発明の顧客吸引力を高める
ものではない旨主張する。
5 しかし、本件各発明は、上記効果①と効果②が相まって、コンパクト
さと通信速度という一体として評価すべき顧客誘引力を有するといえ、
現に、控訴人の営業担当者による週報(乙54)によれば、控訴人の開
発過程では、控訴人が各被告製品の前に販売していた製品が、被控訴人
製品に比べ「コンパクトさ」と「通信速度」で劣っていたため競り負け
10 た事例があることが認められるのであるから、控訴人の主張は採用でき
ない。
市場の同一性がないとする点について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ c⒝のとおり、各被告製品と原告製品
は、直接の取引先に関し基本的に競合せず、エンドユーザーにおいても
15 ほとんど競合しない旨主張する。しかし、原告製品と各被告製品は、J
IS規格のコンセントプレートに対応した壁埋込型の情報コンセント型
無線LANアクセスポイントとして互換性が高いばかりでなく、平成2
8年から令和3年の控訴人の販売個数●●●●●●●個のうち,●●●
●●●個が被控訴人の販売先に対するものであったことが認められるか
20 ら(乙48、甲78)、市場の同一性がないとの主張は採用できない。
競合品の存在について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ c⒞のとおり、甲56製品以外にも、
原告製品の競合品は存在する旨主張する。
確かに、証拠(甲78、乙60の2ないし4、乙61)によれば、エ
25 レコムは、甲56製品以外にも、原告製品と競合し得るJIS規格対応
の壁埋込式情報コンセント型無線LANアクセスポイントを3種類販売
し、知名度を有し、原告製品に比べ価格競争力を有することが認められ
る。
また、証拠(甲78、乙61ないし66)によれば、Ruijie社
が、原告製品と競合し得る壁埋込式情報コンセント型無線LANアクセ
5 スポイントを令和2年以降販売し、令和2年の販売実績は1.7億円、
令和3年1月から11月までの販売実績が5.79億円であることが認
められる。
一方、原告製品の売上げは、●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
10 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●
上記の競合品(甲56製品を含む。 の販売状況と原告製品の売上げを

総合すれば、これらの競合品の存在をもって特許法102条2項に基づ
く損害額の推定の覆滅事由として考慮すべきであり、その割合としては
15 15%を相当と認める。なお、被控訴人は、この点につき、前記第2の
3 ウ c⒞のとおり、これらの競合品の存在を推定覆滅事情として考
慮すべきではなく、仮に考慮するとしても、原審と同様、最大5%にと
どめるべきである旨主張するが、上記認定のとおり、上記競合品は、い
ずれも原告製品と十分に競合し得る製品と認めるのが相当であるから、
20 被控訴人の上記主張は採用できない。
以上に基づき、前記1 及び のとおり、原判決に所要の補正を行っ
たところである。
控訴人の営業努力について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ c⒟のとおり、ソフトウェアの開発等
25 で顧客の個別的な要望に応えたこと、在庫を確保していたこと、保守サ
ービスの内容をウェブサイトの分かりやすい場所に明示していたこと等
の営業努力を主張するが、これらは、特許法102条2項の推定を覆す
だけの格別な営業努力とは認められない。
また、控訴人は、本件仮処分後に侵害回避品を販売したところ取引が
回復した企業が複数社あるとも主張するが、そのような事情が、上記推
5 定を覆すに足りる特段の営業努力の存在を裏付けるものと認めることは
できない。
各被告製品の性能、品質について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ c⒠のとおり、ネットワーク機器集中
管理ソフトウェアを自社で開発し、訴求力を得ていたと主張するが、こ
10 れはオプションにすぎないから(乙51、58)、特許法102条2項の
推定を覆すだけの事由とはいえない。
また、証拠(甲53、乙59、71、72)によれば、各被告製品に
は、原告製品にはない機能が備わっていることが認められるものの、本
件各発明と独立して顧客誘引力を有するだけのものと認めるには足りな
15 い。
その他の事情について
控訴人は、前記第2の3⑴ウ c⒡のとおり、原告製品が販売された
ことのない取引先については、各被告製品が販売されなかったとしても
原告製品が販売された可能性は低く、また、●●●●●●から控訴人が
20 受注し、被控訴人が受注できなかった原因は、平成29年10月から平
成30年4月に同社に納入された原告製品の不具合にある旨主張する。
しかし、本件特許権に基づき各被告製品が市場から排除されていれば
原告製品に販売機会があったというべきであり、過去に取引実績がなか
ったとか、原告製品の不具合があったとしても、この点が直ちに覆るも
25 のではないから、控訴人の主張は採用できない。
また、●●●●●●との取引についても、原告製品の不具合に対する
不満が各被告製品への切り替えの一因となったことはうかがわれるもの
の(乙22、55)、競合品である各被告製品の存在が切り替えに結びつ
いたことは否定し難いというべきであり、特許法102条2項の推定を
覆すだけの格別な事情というには足りない。
5 被控訴人の補充主張に対する判断
被控訴人は、前記第2の3⑵ウ のとおり、競合品の存在を理由とする特
許法102条2項の推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対して、同条3
項を重畳適用して、被控訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべき
である旨主張する。
10 しかし、競合品の存在を理由とする同項の推定の覆滅は、侵害品が販売さ
れなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された蓋然性
があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があるこ
とにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴
人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施
15 料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被
控訴人の主張は採用できない。
第4 結論
以上によれば、被控訴人の控訴人に対する請求中、各被告製品の製造等の差
止及び廃棄を求める部分は理由があり、損害賠償請求は1億9493万588
20 3円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容すべ
きであり、その余は理由がないから棄却すべきであるから、差止及び廃棄請求
に係る本件控訴を棄却し、損害賠償請求については上記と異なる原判決を主文
1 のとおり変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないから棄却することとし
て、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅 野 雅 之
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岡 山 忠 広
(別紙1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示手段と無線送受信手段とを有する表示装置において、
5 前記表示手段の表示面の周縁部に、当該表示面より浮かせて且つ指向特性中心軸
が表示面に対して鉛直方向となるように配設したアンテナ手段を備えたことを特徴
とする表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
10 【0001】
この発明は、例えば、カーナビゲーション機能とオーディオ再生機能とを兼ね備
え、さらに車内において携帯電話機との無線通信によりハンドフリー通話を行う機
能などを備えているカーナビゲーションとオーディオ一体機の表示装置に関するも
のである。
15 【0002】
従来、ノート型パソコンなど携帯型情報機器では、高周波アンテナはモニタの上
部端面に配置し、モニタを閉じていても開いていても表示側にも背面側にも同等の
特性が得られるように工夫されている。また、モニタ面からアンテナ部が突出しな
いように設置し、デザイン的な配慮がなされている。
20 しかし、カーナビゲーションとオーディオ一体機のモニタの場合、ノート型パソ
コンのようにモニタ部の空きスペースが十分でないため、アンテナを狭い空きスペ
ースに配置し、尚且つアンテナ特性を満足することは困難であった。特に、カーナ
ビゲーションとオーディオ一体機はセンターコンソールに据え付けて設置され、デ
ィスク取出しなどのためにモニタ部が開閉するのが一般的であり、ノート型パソコ
25 ンとは大きく異なる点である(例えば、特許文献1、2参照)。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の表示装置は以上のように構成されているので、アンテナ部は、障害物がな
く、受信し易い位置に配置する必要がある。特に高周波アンテナは、周辺の板金部
品などの干渉を受けやすいため、十分な空きスペースを確保する必要があるという
5 課題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、アンテナ設置に
関する制約条件を確保し、狭い取り付けスペースにアンテナを備えた場合でも良好
な送受信特性が得られる表示装置を得ることを目的とする。
10 【発明の実施の形態】
【0008】
図1は、この発明の実施の形態1による表示装置の外観を示す斜視図である。図
例の表示装置1は、モニタ(表示手段)2と装置本体3とから成り、カーナビゲー
ション機能とオーディオ再生機能の他に、例えば車内において携帯電話機との無線
15 通信によりハンドフリー通話を行う機能などを備えたカーナビゲーションオーディ
オ一体装置である。この表示装置1は、装置本体3を車室内の例えばセンターコン
ソールの内部に搭載し、装置本体3に支持されているモニタ2が、例えばセンター
コンソールの表面パネルを背後として車室内の中央を向くように設置する。
【0009】
20 図1に例示した表示装置1は、装置本体3の前面にモニタ2が配置され、このモ
ニタ2は装置本体3の前面を開閉するように支持されている。例えば、後述するよ
うにモニタ2を転回させながら前方へ移動させて装置本体3の前面をオープン状態
とし、この前面に備えられた図示されない挿入部へマップデータ等を記憶したディ
スクやカードなどを挿入するように構成されている。モニタ2には、高周波の無線
25 信号を送受信するアンテナ4が備えられ、例えば表示面5の周縁部に1個ないし複
数配置される。図1に例示したものは、表示面5の周縁部の各辺に対応させてモニ
タ2の前面となる筐体の縁の部位に、それぞれ一個ずつアンテナ4を備えている。
このように複数設置されるアンテナ4として、無線LAN用やBluetooth
用など送受信周波数帯域の異なるものを備えてもよい。
【0010】
5 図2は、実施の形態1による表示装置のアンテナ取付け部の構成を示す説明図で
ある。この図は、モニタ2の周縁部の概略構成を示したもので、図1と同一部分に
同じ符号を使用し、その説明を省略する。この図は、モニタ2を上方からみたとき
の各部材の配置を示すものである。モニタ2には、画像等を表示する例えば液晶表
示部(以下、LCDと記載する)7と、LCD7の表示面側にユーザに操作させる
10 タッチパネル8が備えられる。LCD7及びタッチパネル8は、モニタ2の筐体の
前面に設けられた開口部に埋め込まれるように設置固定され、さらに外枠6によっ
てその前方側から保持される。外枠6は、図2に示したように中空に形成されたも
ので、LCD7及びタッチパネル8の縁端部にわずかに掛かるコの字状の形状をし
ている。アンテナ4は、例えば板金アンテナ等から成るもので、モニタ2の筐体前
15 面の縁端部近傍に取り付け板金9を介してビス止め、あるいは接着テープなどによ
り固定される。また、モニタ2の筐体に外枠6を取り付けたとき、外枠6の内側に
形成された空洞部分に収納される。外枠6は、アンテナ4などを覆って突起した形
状の部材の露出を防ぎ、例えば車両事故などが起きたときモニタ2と接触したユー
ザの怪我を防ぐものである。
20 【0011】
アンテナ4は、例えば形状がL字状の取り付け板金9によって図示したようにモ
ニタ2の筐体に取り付けられ、モニタ2の筐体前面ならびに表示面5よりも前方に
位置するように固定される。取り付け板金9は、L字状の一辺を例えばモニタ2の
筐体とLCD7との間において、即ちLCD7の側方において当該モニタ2の筐体
25 へビス止め等により固定される。アンテナ4は、取り付け板金9に対してビス止め、
あるいは接着テープなどで固定される。この場合、絶縁部材10を介在させて固定
してもよい。また、アンテナ4は、表示面5に対して放線方向へ向けて、即ちアン
テナ4の指向特性の中心軸を表示面5に対して鉛直方向となるように配設される。
図2に示したようにタッチパネル8の表面、即ち表示面5などよりもアンテナ4を
前方へ配置すると、アンテナ4の後方となる表示面5やモニタ2の筐体の前面など
5 が、図中斜線で示した仮想のGNDプレーン20と見ることができる。このGND
プレーン20は、アンテナ4より背面側に存在するため、アンテナ4から前方へ放
射される送信電波や、アンテナ4が電波を受信できる範囲が広範囲に拡張され、送
受信範囲21が広くなる。なお、送受信範囲21は、アンテナ4を中心として概ね
同心円状に拡散し、図2に示した範囲よりも広範囲に広がるものである。
【図1】
【図2】

【図10】
(別紙2)
[0003] 本開示は、Wi-Fiアクセスを提供するための有利なデバイス及び
システム、より詳細には、その環境に容易に統合可能なデバイス及びシステムを対
象とする。
5 [0010] 既存の802.11アクセスポイントは、様々な制限及び/又は欠点
を有する。例えば、現行のWi-Fiアクセスポイントは一般にかさ高く、パッチ
コードを介して接続する必要があり、また外部電源コードを必要とすることが多い。
更に、従来のWi-Fiアクセスポートは、所望の環境に組み込むことが困難であ
り、上記所望の環境において望ましくない、及び/又は許容できない物理的存在と
10 なることが頻繁にある。
[0011] 従って、Wi-Fiアクセスを提供し、以上の制限及び/又は欠点を
克服する、改良されたデバイスが必要である。
[0012] 本開示は、Wi-Fiアクセスを提供し、所望の環境に容易に組み込
むことができる、1つ以上のアクセスポイントデバイス及び1つ以上のシステムを
15 対象とする。開示されるアクセスポイントデバイス/システムは有利には、例えば、
標準的なスイッチ及びアウトレットボックス並びに/又は標準的なウォールプレー
トを用いて、Wi-Fiアクセスポイントの複数の動作態様を壁の中に統合するの
によく適している。更に、開示されるアクセスポイントデバイス/システムの例示
的な実施形態は有利には、有線ネットワークへの接続における使用に好適な例えば
20 110ブロック等といった配線構造を組み込むように、構成及び寸法設定される。
更に、本開示のアクセスポイントデバイス/システムは有益なことに、例えばデー
タ、音声、ビデオ、CATV若しくは他の同様の接続及び/又は通信タイプを含む
相補的なデータ通信接続の、アクセスポイント内での及び/又はこれらの一部とし
ての統合を可能とする及び/又は容易にすることができる。
25 [0013] 本開示のアクセスポイントデバイス及びシステムによって提供される
有益な特徴は、アクセスポイントデバイス/システムが、例えば既存のワークステ
ーションに追加導入することによって、並びに/又は壁、天井、若しくは床のいず
れの高さにある標準的なスイッチ及び/若しくはアウトレットボックスの中に若し
くはこれらに対して、アクセスポイントを設置することによって、統合しやすいと
いう点において認められる。本開示のアクセスポイントデバイス/システムによっ
5 て提供される設置に利点は一般に、個別的であり、外観が魅力的であり、そして少
なくとも実質的に耐タンパー性であるアクセスポイントであると説明される。
[0016] 本開示のある有利な態様によると、アクセスポイントデバイス/シス
テムは有利には、例えば、電気コンセント及びWi-Fiアクセスポイントの両方
を含むトリプルギャングフェイスプレート、並びに/又はスイッチ及びWi-Fi
10 アクセスポイントの両方を含むデュアル/マルチギャングフェイスプレートを作成
することによって、他の配線デバイスに容易かつ確実に統合されるよう構成及び寸
法設定される。本開示のアクセスポイントデバイス/システムのサイズ/寸法は、
従来の住宅用/商業用フェイスプレート(例えばデコレータフェイスプレート等)
のサイズ/寸法に対応するように、容易に選択される。
15 [0024] ・・・更に、上記Wi-Fiアクセスポイント回路構成は、1つ以上
のアンテナを含んでよく、上記アンテナはダイバーシティアンテナを含んでよ
い。・・・上記電気部品は、上記Wi-Fiアクセスポイント回路構成に連結され
た1つ以上のケーブル、 つ以上のアンテナ、
1 及び 1 つ以上のプリント回路基板(P
CB)を含んでよい。・・・
20 [0062] 図4に移ると、本開示による別の例示的なアクセスポイント(AP)
が全体として参照符号210で示されている。アクセスポイント(AP)210は、
図1~3に関して上述したアクセスポイント(AP)10、110に関連するもの
と同様の特徴部分及び要素を含み、従って、適切な範囲で、同様の要素を示すため
に、同様の参照符号の先頭に数字「2」を加えたものを用いる。図示されているよ
25 うに、アクセスポイント(AP)210は好ましくは、大幅に低い全体外形を有す
る、いずれのアクセス可能な通信ポート又はジャックを含まないハウジング212
を含む。図5に示されているように、ハウジング212は、所定のワークステーシ
ョンギャングボックス220、及びWi-Fiアクセスポイント回路構成224と
協働して、本開示によるWi-Fiアクセスを提供するのに好適なアクセスポイン
トデバイス/システムの設置をもたらす。Wi-Fiアクセスポイント回路構成2
5 24は好ましくは、有線ネットワーク及び無線ネットワークと動作可能に相互作用
するのに好適である。Wi-Fiアクセスポイント回路構成224は好ましくは、
ハウジング212によって収容され、このハウジングは、所望に応じてボックス2
20に動作可能に接続可能である。
[0063] ボックス220は、ボックス20と同様に、Wi-Fiアクセスポイ
10 ント回路構成224と専用ネットワークサービスとの間の通信を可能とする少なく
とも1つのケーブル226を備える。Wi-Fiアクセスポイント回路構成224
は、基板230に対して取り付けられ、無線デバイス(図示せず)と通信するのに
好適な、1つ以上のアンテナ28を含む。様々な他の電子部品のうちのいずれを、
基板230に対して同様に取り付けてよい。図示されているように、Wi-Fiア
15 クセスポイント回路構成224は、データ通信回線の交差接続において使用するた
めの単一の110ブロック236を含む。あるいは、図6に示されているように、
Wi-Fiアクセスポイント回路構成224は、IDCパンチダウン接続を提供す
るのに好適なジャック217と協働する。ジャック217は、少なくともWi-F
iアクセスポイント回路構成224を有線ネットワークに動作可能に接続できるよ
20 うにするという点において、110ブロック236と同様に動作するように、Wi
-Fiアクセスポイント回路構成24に動作可能に接続される。
[0064] 図7を参照すると、本開示によるWi-Fiアクセスを提供するため
の、更に別の例示的なアクセスポイントデバイス/システムの設置が概略的に示さ
れている。アクセスポイントデバイス/システムの設置は、これまでに説明したア
25 クセスポイント(AP)10、110及び210に関連するものと同様の特徴部分
及び要素を含み、従って、適切な範囲で、同様の要素を示すために、同様の参照符
号の先頭に数字「3」を加えたものを用いる。図示されているように、アクセスポ
イント(AP)310は、シングルギャングボックス320に対する協働/取り付
けのために構成及び寸法設定される。アクセスポイント(AP)310は、少なく
とも1つのアンテナ328、及び直接的な110ブロック336タイプの接続を含
5 む。電力は、例えばイーサネットを介して電力を供給するケーブル326によって、
アクセスポイント(AP)310に供給でき、これによって、アクセスポイント(A
P)310に連結されたWi-Fiアクセスポイント回路構成324の動作のため
の電力を、ネットワークソースから引くことができる。
[0065] 少なくとも1つの開口354が画定された標準的なフェイスプレート
10 338を、標準的なカバーとして採用できる。フェイスプレート338は、当該技
術分野で公知であるように、装飾的特徴を含んでよい。Wi-Fiアクセスポイン
ト回路構成324を保護するのに好適な保護部材356、及び/又はアクセスポイ
ント(AP)310に連結された他の構造/特徴部分も、好ましくはフェイスプレ
ート338とWi-Fiアクセスポイント回路構成324との間に設けてよい。図
15 示されているように、保護部材356は好ましくは、開口354の寸法を超えるよ
うに寸法設定される。
[0066] 図8a~8dを参照すると、本開示の例示的態様による、一連の例示
的な実装例が概略的に示されている。図8aは、シングルギャングボックス420
に対して取り付けられるアクセスポイント(AP)410を図示している。次に、
20 図8bは、シングルギャングボックス520に対して協働可能に取り付けられる、
アクセスポイント(AP)510及びケーブル(CATV)526を図示している。
図8cは、デュアルギャングボックス620に対して協働可能に取り付けられる、
アクセスポイント(AP)610及び電気コンセント660を図示している。最後
に、図8dは、トリプルギャングボックス720に対して協働可能に取り付けられ
25 る、アクセスポイント(AP)710、ケーブル(CATV)726、電気コンセ
ント760、及び音声/データジャック762を図示している。
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
5 【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
(別紙3)
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LAN(Local Area Network)を構築するの
5 に有用な無線LANアダプター及び埋め込み型配線装置に関する。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般住宅での無線LANの構築においては、前記アクセスポイントで
の通信性能が充分に大きければ、アクセスポイントは1台で済むと考えられている。
10 しかし、隣接する部屋相互間を仕切る壁、天井及び床、扉等の仕切りが、金属を含
んでいたり、かなり厚い等の場合には、電波が大きく減衰し易いので、燐りの部屋
に設置されたワイヤレス機器との無線通信を行うことが困難になることがある。加
えて、アクセスポイントが部屋の隅に配置される場合にも、燐の部屋内のワイヤレ
ス機器との無線通信に支障をきたし易くなることがある。こうしたことから、無線
15 通信の信頼性を確保するには、各部屋ごとにアクセスポイントを配置することが望
ましい。
【0007】
前記ルータ等の従来のアクセスポイントは、それ自体を動作させるのに電源を供
給する必要がある。このために、通常部屋内でのLAN環境上好適な位置となるよ
20 うに部屋の壁から離れて配置されることが多いアクセスポイントと、部屋の壁に取
付けられたコンセントとは、配線コードを用いて接続される。更に、電話網やイン
ターネット等の屋外の公衆網にアクセスポイントを接続するために、この公衆網と
アクセスポイントとはLANケーブルを用いて接続される。LANケーブルの接続
において、LANケーブルは、壁に取付けられた情報コンセントのモジュラージャ
25 ック、又は公衆網に接続されて壁側に配置されるモジュラージャック付きのコネク
タに接続される。
【0008】
このように無線LANが構築された状態でも、壁付けのコンセント等からアクセ
スポイントの設置場所にわたる長い配線コード及びLANケーブル等の電線が必要
であるので、これらの電線を使用しないで済ませるようにするか、使用するとして
5 も、その使用量を極力少なくすることが望まれている。特に、一般住宅では、電線
を床下などに配線することができないので、なお更である。そして、各部屋ごとに
アクセスポイントを配置する場合には、以上のように長い電線が部屋内毎に配線さ
れて邪魔になり易いので、その改善が、各部屋ごとにアクセスポイントを配置して
無線通信の信頼性を確保する上で望まれている。
10 【0009】
本発明の目的は、電源を供給する配線コードを要することなく使用できるととも
に、設置状態で邪魔になりずらく、無線LANの構築に好適な無線LANアダプタ
ー及び埋め込み型配線装置を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
15 【0053】
図6~図8は本発明の第3の実施形態を示している。
【0054】
図6中符号31は例えば一般住宅の壁に埋め込んで装着された埋め込み型配線
装置を示している。この配線装置31は、サポート32と、無線LANアダプター
20 (以下アダプターと略称する。)33と、化粧カバー34とを備えている。
【0055】
図7及び図8に示すサポート32は、亜鉛クロマイトメッキが施された鉄(SP
CC)等の金属製であり、複数の取付け孔32aを有している。このサポート32
は、一般家屋の壁等の造営材に埋め込まれている配線ボックス(図示しない)に、
25 各取付け孔32aを通ってねじ込まれる図示しないねじを介して固定される。サポ
ート32は、その幅方向に並ぶ一対の略長方形状の開口(図示しない)を有してい
る。
【0057】
アダプター33はサポート32に取付けられている。アダプター33は、サポー
ト32と略同じ幅でこのサポート32の裏面に取付け配置される本体ケース33a
5 と、この本体ケース33aの正面から突出されてサポート32の前記図示しない他
方の開口に通されたケース凸部33bとを有している。図8に示すようにアダプタ
ー33の裏面の幅方向中央部には上下方向に延びる電気絶縁性の仕切り壁36が突
設されている。
【0059】
10 本体ケース33aにはLAN信号を処理する信号処理部33c(図6参照)が内
蔵されている。この信号処理部33cでの信号処理により、アダプター33は部屋
内に設置されたワイヤレス対応機器に対する無線LANのアクセスポイントとして
機能でき、無線LAN信号を授受できる。
【0061】
15 本体ケース33aには、その上部に位置する電話用のモジュラージャック41と、
下部に位置するインターネット用のモジュラージャック42と、これら両ジャック
41、42間に位置するアンテナ部43とが夫々設けられている。これらはいずれ
もケース凸部33bの表面に露出されている。電話用のモジュラージャック41に
は、図示しない電話機に接続された電話用モジュラーコード(図示しない)のモジ
20 ュラープラグが挿脱自在に差込み接続される。インターネット用のモジュラージャ
ック42には、LANケーブル(図示しない)を介して図示しない有線対応機器が
接続される。このモジュラージャック42は信号処理部33cを経由することなく
公衆網接続端子39に接続されている。モジュラージャック42は省略することも
可能であるが、このジャック42を備えることにより、既述のように有線対応のL
25 AN環境の構築にも配線装置31を適合させることができる点で優れている。
【0064】
このため、部屋の壁面に対する配線装置31の突出が殆どないとともに、壁面に
化粧カバー34が沿って設けられる。これにより、アダプター33を使用するため
の電線を全く要することなく、部屋内を移動する人間等にとって邪魔にならない取
り付け状態で配線装置31を使用できる。こうした事情から、ワイヤレス対応機器
5 18が設置されている部屋の夫々にアダプター33を備える配線装置31を壁内に
設けることを促進し易く、各部屋毎に1台のアダプター33付きの配線装置31を
壁内に設けることにより、無線LAN環境を構築して、その信号授受の信頼性を向
上できる。
【図6】
【図7】
【図8】
(別紙4)

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