令和3(ワ)21405著作権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和4年7月13日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告A 被告ススメル株式会社
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法令 |
著作権
著作権法114条3項4回 著作権法6条3号1回 著作権法21条1回 著作権法2条1項1号1回 著作権法112条1項1回
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キーワード |
侵害24回 許諾20回 ライセンス18回 損害賠償6回 差止4回
|
主文 |
1 被告は、原告に対し、15万円及びこれに対する平成29年11月4日10
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。15
5 原告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定め |
事件の概要 |
本件は、原告が、被告がその管理運営するウェブサイトに別紙著作物目録記25
載の写真(以下「本件写真」という。)を基にして作成した画像(別紙被告写
真目録記載の画像。以下「本件画像」という。)をアップロードしたことが、
原告の本件写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び氏名表示権を侵害
し、又は公衆による複製権侵害を幇助したと主張して、被告に対し、著作権に
基づき、本件写真の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止めを求めるとと
もに、不法行為に基づく損害賠償として、合計33万9734円(ライセンス5
料相当額23万9734円、著作者人格権侵害による慰謝料5万円及び弁護士
費用相当額5万円)及びこれに対する不法行為の日である平成29年11月4
日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和4年7月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第21405号 著作権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和4年5月12日
判 決
原 告 A
同訴訟代理人弁護士 山 本 隆 司
被 告 ス ス メ ル 株 式 会 社
主 文
10 1 被告は、原告に対し、15万円及びこれに対する平成29年11月4日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の
負担とする。
15 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
5 原告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定め
る。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
20 1 被告は、別紙著作物目録記載の写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可
能化してはならない。
2 被告は、原告に対し、33万9734円及びこれに対する平成29年11月
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
25 本件は、原告が、被告がその管理運営するウェブサイトに別紙著作物目録記
載の写真(以下「本件写真」という。)を基にして作成した画像(別紙被告写
真目録記載の画像。以下「本件画像」という。)をアップロードしたことが、
原告の本件写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び氏名表示権を侵害
し、又は公衆による複製権侵害を幇助したと主張して、被告に対し、著作権に
基づき、本件写真の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止めを求めるとと
5 もに、不法行為に基づく損害賠償として、合計33万9734円(ライセンス
料相当額23万9734円、著作者人格権侵害による慰謝料5万円及び弁護士
費用相当額5万円)及びこれに対する不法行為の日である平成29年11月4
日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
10 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特
記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ア 原告は、肩書住所地に居住する一般私人である。
イ 被告は、古物営業法に基づく古物の売買等を目的とする株式会社である。
⑵ 本件写真は、黄色、茶色、橙色等の花が全体的に描かれた薄黄緑色の浴衣
15 の上に無地の深い青紫色の帯を重ねて撮影したものであり、被写体の選択、
レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピー
ド・絞りの選択、ライティング、構図・トリミング等により、原告の「思想
又は感情を創作的に表現」(著作権法2条1項1号)しており、写真の著作
物に該当する。原告は、本件写真の著作者であり、著作権者である(甲6)。
20 なお、我が国及びBは、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条
約に加盟しているため、本件写真は、同条約3条(2)及び著作権法6条3
号の規定により、我が国の著作権法による保護を受ける。
⑶ 原告は、「Flickr」(以下「本件写真共有サイト」という。)にて本件写
真を投稿し、公開するとともに、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
25 (作品を公開する著作者が条件付きで作品の再使用を許可するに当たって容
易にその意思を表示できるようにクリエイティブ・コモンズが策定した条件
付使用許諾の類型。以下「CCライセンス」という。)を付与し、著作者の
表示等を条件に本件写真の複製等による使用を許諾している(甲1、4)。
⑷ 本件画像は、被告が管理運営するウェブサイト「C」(https://以下省略、
以下「本件被告サイト」という。)において、平成29年11月4日から令
5 和3年1月7日までの間、掲載されたが、本件被告サイトにおいて、本件写
真の著作者が原告である旨の表示はされなかった(甲3)。
⑸ 被告は、令和3年1月8日、原告から、本件画像を直ちに削除すること等
を求める内容の同月7日付「警告書」を受領し、同日頃、本件画像を削除し
た(甲5)。
10 2 争点及びこれに関する当事者の主張
⑴ 被告による著作権及び著作者人格権の侵害行為の有無(争点1)
(原告の主張)
被告は、平成29年11月頃、本件写真の画像データをダウンロードし、
別紙URL目録記載①のURLによりアクセスできるように、本件写真のデ
15 ッドコピーである本件画像を、本件被告サイトに係るサーバーに複製(デー
タ蓄積)して公衆送信し、また、本件被告サイト内における同目録記載②の
URLによりアクセスできるページに上記サーバーに保存された本件画像デ
ータへのリンクを張って本件画像を公衆送信し、その結果、公衆に本件画像
を複製させた。上記行為により、被告は、原告の本件写真に係る複製権(著
20 作権法21条)及び公衆送信権(同法23条)を侵害し、又は公衆による複
製権侵害を幇助した。また、被告は本件画像を掲載する際、原告のペンネー
ムである「D」(以下「原告ペンネーム」という。)を著作者として表示し
なかったものであり、原告の本件写真に係る氏名表示権(同法19条)を侵
害した。
25 被告は、本件被告サイトは被告の外注会社が作成したなどと主張して、自
己が著作権侵害を行ったことを否認するものと思われるが、被告が委託した
外注会社は、被告の手足としてその業務の履行に当たる者であるから、その
行為は被告の行為と同視される。したがって、本件被告サイト内に本件画像
を掲載してこれを複製・公衆送信したのは被告である。
また、原告は、本件写真共有サイト上にて、CCライセンスを付与してい
5 るが、本件写真に原告ペンネームを表示すること及び本件写真共有サイト上
の本件写真を掲載するページへのリンクを掲載することをその条件としてい
る。それにもかかわらず、被告は、本件写真の使用に当たって、原告ペンネ
ームの表示も本件写真共有サイトへのリンクの掲載も行っていない。したが
って、被告は、本件写真を無償使用できるライセンス条件を満たしていない
10 ので、被告による本件画像の投稿は、前述したとおり、原告の著作権及び著
作者人格権を侵害する。
(被告の主張)
被告は、外注会社に対し、「着物浴衣メディアの制作を依頼したい。」など
と述べてウェブサイトの作成を依頼したにすぎず、ウェブサイトの構成や使
15 用する写真等について特段指示はしていない。また、被告は、ウェブサイト
が納品された際に本件被告サイトを確認したものではなく、ウェブサイトが
完成し、アップロードされた後に、その内容を見たにすぎない。したがって、
被告が本件被告サイトを制作したということも、本件画像をアップロードし
たということもない。
20 ⑵ 被告の故意又は過失の有無(争点2)
(原告の主張)
被告には、他人の著作物の使用に当たり、他人の著作権を侵害しないよう
注意すべき義務がある。仮に、本件画像を掲載したのが被告の外注会社であ
ったとしても、被告は外注会社が作成したコンテンツを自己のサイトに掲載
25 する場合には当該掲載によって著作権侵害が生じないように注意すべき義務
を負う。
そこで、被告が上記注意義務に違反したかどうかを検討すると、被告が本
件写真の画像データをダウンロードしたウェブサイト(https://以下省略
(以下、このサイトを「ビジュアルハント」という。))には、原告が主張
するとおり、「DOWNLOAD FOR FREE」のボタンがあるが、そのすぐ下には「Co
5 py and paste this code under photo or at the bottom of your post」(写
真の下又は掲載下部にこのコードを複製し貼り付けよ)との指示があり、貼り
付けるべきものとして、原告ペンネームである「D」等が掲載されている上、
さらにその下には「License: Attribution-ShareAlike License」(使用許
諾:表示-継承使用許諾)との表示がされており、同表示をクリックすると
10 CCライセンス証が表示され、そこには、本件写真は著作権により保護され
ており、著作者の表示等を条件としてのみ使用許諾される旨の表示がされて
いる。
したがって、被告は、本件写真を無償で使用するにはCCライセンスの条
件の履行が必要であることを認識し又は認識し得たのに、この履行をしなか
15 ったといえ、少なくとも他人の著作権を侵害しないよう注意すべき義務に違
反した過失がある。
(被告の主張)
本件写真の転載元であるビジュアルハントには、「DOWNLOAD FOR FREE」と
の記載があり、誰が見ても自由に使用できる写真だと誤認する状態にあった。
20 使用許諾の条件は、英文で書かれており、非常に分かりにくく、どこに表記
されているかも分からないから、被告がCCライセンスの条件を履行せずに
本件写真を使用したことに過失はない。
⑶ 損害の発生の有無及び額(争点3)
(原告の主張)
25 原告が被った損害の額は、原告が本件写真の著作権の行使につき受けるべ
き金銭の額(著作権法114条3項)により算定されるべきであり、同金額
の算定に当たっては、欧米で広く利用されている fotoQuote ソフトの料金表
又は文化庁から著作権等管理団体に指定され、著作権使用料について文化庁
の審査を経ている協同組合日本写真家ユニオンの使用料規程が参考にされる
べきである。
5 被告による本件写真の使用態様は、fotoQuote の料金表の、国内市場向け宣
伝用ウェブサイト(Website.Promotional.National Market)の区分に該当し、
その使用期間は平成29年11月4日から令和3年1月7日まで3年以上5
年以内であり、本件写真の大きさは画面の4分の1を超えることからすると、
その使用料額は2180米ドルである。令和4年5月28日の為替レートは
10 1ドル109.97円であるから、当該レートで円換算すると、ライセンス
料額は23万9734円となる。
また、被告による本件写真の使用は協同組合日本写真家ユニオンの使用料
規程の「商用広告目的」の「HPセカンダリーページ」の区分に該当し、使
用期間は平成29年11月4日から令和3年1月7日までの4年弱であるか
15 ら、その使用料額は11万円となる。
したがって、本件写真の使用料相当額は、少なくとも11万円とするのが
相当である。
さらに、原告は、被告による氏名表示権の侵害により、5万円相当の精神
的損害を被った。
20 そして、原告は、本件訴訟を提起するに当たり弁護士に依頼せざるを得な
かったのであり、弁護士費用相当損害金の額は5万円が相当である。
(被告の主張)
原告に損害が発生したとの事実及びその額についてはいずれも否認する。
本件被告サイトの制作目的は、被告が運用する着物・浴衣買取サイトへの
25 送客にあるところ、本件被告サイトの閲覧者数は207であり、同送客達成
値を表すコンバージョンも0であり、被告は本件画像の掲載により何らの利
益も得ていない。
また、本件画像の使用期間について、原告は被告が平成29年11月4日
に本件被告サイトをアップロードしたと主張する。本件被告サイトを制作し
たのは確かにこの頃であるが、そのアップロードの正確な日付は不明である。
5 さらに、本件写真の使用に関して本件写真共有サイトに分かりやすい表記
をしなかったことは原告の落ち度である。また、原告の氏名の記載が重要な
のであれば本件写真に原告の名前を記載しておけばよく、それをしなかった
のは原告の落ち度であり、むしろ、損害賠償請求をするために故意にそうし
たものであると考えられる。このような事情も考慮して損害賠償請求権の有
10 無及び損害額が決定されるべきである。
⑷ 本件写真の使用許諾の有無(争点4)
(被告の主張)
被告が原告から直接許諾を得ずに本件写真を使用したことは認めるが、ビ
ジュアルハント上には、本件写真はフリー素材である旨が記載されており、
15 本件写真は原告の許諾を得ずに無料で使用することができるものである。
(原告の主張)
被告は、本件写真がビジュアルハントにフリー素材として掲載されており、
これを使用したにすぎない旨主張するが、原告はビジュアルハントにおいて
第三者への使用許諾権を付与したことはない。そして、前記⑵の原告の主張
20 のとおり、被告が根拠とするビジュアルハントの本件写真掲載ページにも、
「License: Attribution-ShareAlike License」(使用許諾:表示-継承使用
許諾)との表示がされており、同表示をクリックするとCCライセンス証が
表示され、そこには、本件写真は著作権により保護されており、著作者の表
示等を条件としてのみ使用許諾される旨の表示がされている。したがって、
25 ビジュアルハント上においても、無条件で本件写真の使用許諾がされていた
ものではなく、被告が故意に条件を遵守せず、又は過失により条件の表示を
見過ごしたことにより本件写真を利用したにすぎない。
⑸ 差止めの必要性(争点5)
(原告の主張)
原告は、被告に対し、本件画像の掲載を中止し、損害賠償金を支払うよう
5 求めたところ、被告は、本件画像の掲載を中止したものの、著作権侵害の事
実を認めておらず、著作権侵害行為を再開するおそれがあるから、被告によ
る本件写真の複製、自動公衆送信及び送信可能化を差し止める必要がある。
(被告の主張)
争う。
10 第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告による著作権及び著作者人格権の侵害行為の有無)について
⑴ 前記前提事実、証拠(甲3、4)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、自
社が運営する着物及び浴衣買取ウェブサイトへの送客のため、着物及び浴衣
に関するウェブサイトを作成することとし、遅くとも平成29年11月4日
15 までに、外注会社に本件被告サイトの制作を依頼し、同外注会社をしてビジ
ュアルハントから本件写真の画像データをダウンロードし、別紙URL目録
記載①のURLによってアクセスできるように、上記の画像データから作成
した本件画像の画像データをサーバーに保存して、本件写真を有形的に再製
するとともに、本件被告サイト内の同目録記載②のURLによりアクセスで
20 きるページに、上記サーバーに保存された本件画像データへのリンクを張っ
たことが認められる。
上記認定事実によれば、被告は、本件被告サイトにおいて、本件画像をサ
ーバー内に保存することにより、本件写真を複製し、送信可能化したと評価
することができる。そして、前記前提事実⑷のとおり、本件被告サイト内に
25 おいて、本件写真の著作者が原告であることは表示されていない。
したがって、被告は、前記前提事実⑶の原告が付与した使用許諾条件に違
反して本件写真を複製及び送信可能化し、かつ、原告の実名又は変名を著作
者として表示することなく本件写真を公衆に提供又は提示したといえ、原告
の本件写真に係る複製権及び自動公衆送信権並びに氏名表示権を侵害したと
いえる。
5 ⑵ これに対し、被告は本件画像の選択や配置を考えてサーバー内にこれを蔵
置したのは外注会社であり、しかも、被告は同社がサーバー内に本件被告サ
イトに係るデータや素材等を蔵置する前に本件被告サイトの内容を確認して
もいないから、原告の著作権及び著作者人格権の侵害主体ではない旨を主張
する。
10 しかし、ウェブサイトの制作の依頼を受けた業者が、依頼者に何らの確認
をとることなく、完成したウェブサイトに係るデータや素材等をサーバー内
に蔵置して納品することは通常考え難いというべきであり、本件全証拠によ
っても被告の主張するような経緯を認めることはできない。仮に被告の主張
する経緯が認められるとしても、被告は、本件被告サイトが開設されて以降、
15 同サイトを管理運営していたこと、前記(1)のとおり、同サイトは被告が運営
する着物及び浴衣買取ウェブサイトへの送客のために作成されたものであっ
て、本件写真を使用することによる最終的な利益帰属主体は被告であること
からすると、被告自らが本件画像をアップロードしたと同視できる。したが
って、被告の上記主張は採用することができない。
20 2 争点2(被告の故意又は過失の有無)について
証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、被告が指摘するとおり、ビジュア
ルハント上の本件写真が掲載されているページには、「DOWNLOAD FOR FREE」と
の表示がされていることが認められるが、他方で、同表示のすぐ下には「Copy
and paste this code under photo or at the bottom of your post」(写真の
25 下又は掲載下部にこのコードを複製し貼り付けよ)との表示が、更にその下には
「Check license」(ライセンスを確認せよ)との表示が、それぞれされている
こと、更にその下部には「License: Attribution-ShareAlike License」(使用
許諾:表示-継承使用許諾)と記載されたリンクが表示され、同リンクをクリ
ックすると、CCライセンス証(甲4)に係るページが表示されることが認め
られる。そして、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、上記のCCライセ
5 ンス証には、本件写真は著作者を表示する等の条件に従う限り自由に複製等の
使用をすることができる旨の記載がされていることが認められる。
そうすると、上記ページを見た者は、通常、本件写真が著作権及び著作者人
格権により保護されており、一定の条件に従わない限り使用することができな
いことを認識し、又は認識することができるといえるから、本件被告サイトに
10 著作者を表示せずに本件画像を掲載したことについて、被告には少なくとも過
失があったと認められる。
被告は、上記表示が英文で記載されており非常に分かりにくいなどと主張す
るが、上記英文は、インターネット上で検索又は翻訳機能を使用することによ
りその意味を調査することは可能であるといえるから、被告の主張は理由がな
15 い。
3 争点3(損害の発生の有無及び額)について
⑴ 使用料相当額について
ア 原告は、著作権法114条3項に基づいて、本件写真の使用料相当額を
損害額として請求していることから、本件写真の使用料相当額を検討する。
20 証拠(甲6、7)によれば、原告は、通常、fotoQuote のライセンス表に
従って写真のライセンスを付与していることが認められるが、同ライセン
ス表が我が国の市場におけるライセンス額の算定基準として相当なものと
いえるかどうかは明らかではなく、同ライセンス表のみに依拠して使用料
相当額を検討することは相当ではない。
25 他方、証拠(甲10)によれば、協同組合日本写真家ユニオン作成の使
用料規程(以下「本件規程」という。)は、同組合が管理の委託を受けた
写真の著作物の使用に係る使用料を定めるものであると認められるところ、
本件規程は日本国内において実際に適用されているとうかがわれること、
他に本件規程を本件写真の使用料に適用することが不相当な事情や、本件
規程に定められた使用料自体が過大であるといった事情がうかがわれない
5 ことからすると、原告が本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の
額に相当する額(著作権法114条3項)の算定に当たっては、本件規程
の内容を参酌するのが相当である。
そして、本件規程によれば、商用広告目的でウェブページの最初のペー
ジより後のページ(以下「セカンダリーページ」という。)に写真を掲載
10 する場合の使用料は、12か月以内で5万円、1年を超える場合の次年度
以降は1年毎に2万円とされていることが認められる。
本件において、被告は本件被告サイトを被告の運営する着物及び浴衣買
取サイトへの送客目的で制作したものであるから、本件写真の使用目的は
商用広告目的であると認められる。また、本件写真はセカンダリーページ
15 において掲載され、その使用期間は前記前提事実⑷のとおり約3年以上4
年未満であることから、本件規程に基づくと、原告が本件写真の著作権の
行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、11万円と認められる
(5万円+3×2万円=11万円)。
イ 被告は、①本件被告サイトにより何ら収益を上げておらず、②原告に損
20 害が発生したとしても、それは、原告自身が使用許諾条件について分かり
やすい表示をしなかったことや、写真自体に自己の氏名等を記載しなかっ
たことに起因するものであるから、これらの事情を損害額の算定に反映す
べきである旨主張する。
しかし、①の主張に関しては、著作権法114条3項の損害額の算定に
25 おいて、被告が利益を受けたか否かは無関係の事実であり、同事情を考慮
することはできない。
また、②の主張に関しては、前記2のとおり、本件写真のダウンロード
元であるビジュアルハントの該当ページを見れば、通常、本件写真は、著
作権により保護されており、一定の条件に従わない限り使用することがで
きないことを認識し、又は認識することができ、一方、原告において自己
5 の氏名等を本件写真自体に記載しなかったことは、何ら責められるべき事
情ではないから、被告の主張は、その前提を欠くものであって、採用する
ことができない。
⑵ 慰謝料について
前記前提事実⑷のとおり、本件被告サイト上に本件画像が掲載された期間
10 は、約3年2か月間と長期間にわたっていること、他方で、証拠(乙2)に
よれば、上記期間における本件被告サイトのPV(ページビュー)は207
にとどまり、本件写真の公衆への提供又は提示の回数自体は多いとはいえな
いこと等に鑑みると、原告の本件写真に係る氏名表示権侵害による慰謝料額
としては3万円が相当であると認められる。
15 ⑶ 弁護士費用について
本件の事案の性質及び内容、訴訟経過等に鑑みると、被告による本件写真
に係る原告の著作権及び著作者人格権侵害と相当因果関係の認められる弁護
士費用の額は1万円と認めるのが相当である。
⑷ 合計額
20 以上によれば、被告の不法行為により原告が被った損害の額は、合計15
万円(11万円+3万円+1万円=15万円)と認められる。
4 争点4(本件写真の使用許諾の有無)について
被告は、ビジュアルハント上では本件写真が無償で使用できる素材であった
などと主張するが、本件において、原告がビジュアルハントにおいて無条件に
25 本件写真の使用を許諾したと認めるに足りる証拠はなく、被告の主張は採用で
きない。
5 争点5(差止めの必要性)について
原告は、被告に対し、本件画像の掲載を中止し、損害賠償金を支払うよう求
めたところ、被告は、本件画像の掲載を中止したものの、著作権侵害の事実は
認めておらず、著作権侵害行為を再開するおそれがあるから、被告による本件
5 写真の複製、自動公衆送信又は送信可能化を差し止める必要があるなどと主張
する。
しかし、被告が、令和3年1月8日に原告からの本件画像の掲載の中止及び
損害賠償金の支払を求める内容の警告書(甲5の1)を受領した後、同画像の
掲載を中止したこと(前記前提事実⑸)や、被告は第2回口頭弁論期日におい
10 て、被告としては違法なことを行うつもりはなく、本件訴えの提起をきっかけ
に今後は法令を踏まえた対応をしたいと考えており、今後本件画像を使用する
予定もない旨述べていることからすると、本件訴訟において被告が原告の主張
を争っていることなどの事情を考慮してもなお、現時点において、被告が本件
写真に係る原告の著作権を「侵害するおそれ」(著作権法112条1項)を認
15 めることはできないというべきであり、原告の主張は理由がない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は、主文の限度で理由があり、その余は理由がな
いからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
25 國 分 隆 文
裁判官
5 間 明 宏 充
裁判官
10 バ ヒ ス バ ラ ン 薫
(別紙 著作物目録及び被告写真目録は省略)
(別紙)
URL 目録
① https://以下省略
② https://以下省略
以上
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