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令和1(ワ)31378等損害賠償等請求事件、売買代金返還請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和4年7月20日
事件種別 民事
当事者 原告バイオ乾燥機株式会社 株式会社山口新建木材センター
被告バイオ乾燥機株式会社 株式会社山口新建木材センター
法令 不正競争
民法709条1回
キーワード 損害賠償1回
侵害1回
主文 1 原告は、被告に対し、621万円及びこれに対する令和2年1月14日から
2 原告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。15
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の要旨25 (1) 第1事件 第1事件は、原告が、被告に対し、次のア及びイの請求に係る合計181 5万円並びにこれに対する令和2年2月21日(第1事件の訴状送達の日の 翌日)から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商法514 条所定の利率(以下「商事法定利率」という。)年6分の割合による遅延損害 金の支払を求める事案である。5 ア 「バイオ乾燥機」と称される木材用乾燥機(以下、単に「バイオ乾燥機」 という。)に関する原告の営業秘密である別紙目録の各書面に記載されてい る情報(以下、番号に従って「本件情報1」、「本件情報2」などといい、 これらを総称して「本件情報」ということがある。)を被告が取得又は使用 した行為が、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号又は10 7号の不正競争行為及び不法行為(民法709条)に該当することを理由 とする、損害金1650万円の請求 イ 令和元年8月19日付け売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)

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判決文

令和4年7月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和元年(ワ)第31378号 損害賠償等請求事件(第1事件)

令和2年(ワ)第13188号 売買代金返還請求事件(第2事件)

口頭弁論終結日 令和4年5月16日

判 決

第1事件原告・第2事件被告 バ イ オ 乾 燥 機 株 式 会 社

(以下、単に「原告」という。)

第1事件被告・第2事件原告 株式会社山口新建木材センター

(以下、単に「被告」という。)

同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 大 川 正 二 郎

主 文

1 原告は、被告に対し、621万円及びこれに対する令和2年1月14日から

支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2 原告の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 第1事件被告は、原告に対し、1815万円及びこれに対する令和2年2月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。2 第2事件主文同旨

第2 事案の概要等

1 事案の要旨

(1) 第1事件

第1事件は、原告が、被告に対し、次のア及びイの請求に係る合計181

5万円並びにこれに対する令和2年2月21日(第1事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商法514条所定の利率(以下「商事法定利率」という。)年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。ア 「バイオ乾燥機」と称される木材用乾燥機(以下、単に「バイオ乾燥機」という。)に関する原告の営業秘密である別紙目録の各書面に記載されている情報(以下、番号に従って「本件情報1」 「本件情報2」などといい、、これらを総称して「本件情報」ということがある。)を被告が取得又は使用した行為が、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号又は7号の不正競争行為及び不法行為(民法709条)に該当することを理由とする、損害金1650万円の請求イ 令和元年8月19日付け売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)に係る売買契約(以下「本件売買契約」という。)に基づく、原告が被告に納品した特殊加工内装板の未払代金165万円の請求

(2) 第2事件

第2事件は、バイオ乾燥機の購入を希望した被告が、原告との間で、平成

31年3月25日付け基本合意書(以下「本件基本合意書」という。)に係る基本合意(以下「本件基本合意」という。)をし、これに基づいてバイオ乾燥機の売買代金の内金として243万円を支払い、その後、本件売買契約を締結し、これに基づいてバイオ乾燥機の代金の内金として更に540万円を支払ったが、本件基本合意については、令和元年8月23日に合意解約がされ、本件売買契約については、納品済みの特殊加工内装板に係る部分を除き、原告の履行遅滞により被告が令和元年11月18日に債務不履行解除したと主張し、不当利得返還請求として、本件基本合意に基づいて支払った内金に相当する不当利得金243万円及び本件売買契約に基づいて支払った内金540万円から納品済みの特殊加工内装板の代金相当額162万円を控除した額に相当する不当利得金378万円の合計621万円並びにこれに対する令和2年1月14日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者ア 原告は、木材用乾燥機の研究開発、製造、販売等を目的とする株式会社である。イ 被告は、住宅建築資材の販売、建築設計等を目的とする株式会社である。

(2) 本件基本合意(甲5)原告と被告は、平成31年3月25日頃、本件基本合意書により、次の約定で、原告が被告にバイオ乾燥機1基を導入する旨の本件基本合意をした。金額 900万円及び消費税支払方法 本件基本合意締結日の翌日 243万円(税込)完成引渡後 243万円秘密保持契約の締結 原告及び被告は、秘密保持契約書を締結するものとする。

(3) 本件基本合意に基づく内金の支払被告は、平成31年3月29日、原告に対し、本件基本合意に基づく内金として243万円を支払った(甲5、乙2)。

(4) 本件売買契約(甲17)原告と被告は、令和元年8月19日頃、本件売買契約書により、原告を売主、被告を買主とし、次の約定でバイオ乾燥機1式の売買に係る本件売買契約を締結した。代金 1620万円(税込)納期 令和元年10月末支払方法 本件売買契約締結時 540万円(税込)目的物納品後 540万円(税込)目的物検収後 540万円(税込)被告の解除権 原告が機械の引渡しを遅延し、被告が相当の期間を定めて催告しても引渡しがされないときは、被告は、本件売買契約を解除できる。また、本件売買契約の目的物の内訳には、バイオ乾燥機に係る特殊加工内装板(以下「本件内装板」という。)1式が含まれており、上記代金1620万円は、本件内装板1式の価格162万円(税抜150万円)を含むものであった。

(5) 本件売買契約に基づく本件内装板の納品令和元年8月27日頃、被告に対し、本件内装板1式が納品された(乙39)。

(6) 本件売買契約に基づく内金の支払被告は、令和元年8月29日、原告に対し、本件売買契約に係る代金の内金として540万円を支払った(甲17、乙26)。

(7) 被告による本件売買契約解除の意思表示被告は、原告に対し、令和元年11月12日到達の書面により、同書面到達後5日以内に、本件内装板以外の目的物を本件売買契約に基づいて納品するよう催告し、期限までに納品されない場合には、本件売買契約のうち本件内装板を除く部分を解除する旨の意思表示をした(乙34、35)。原告は、令和元年11月17日が経過しても、本件内装板1式以外の目的物を納品しなかった。

(8) 被告による乾燥機の製造被告は、遅くとも令和2年2月までに、「木透湿ハイブリット乾燥機」と称する乾燥機1台(以下「本件被告乾燥機」という。)を製造した(乙41)。3 争点

(1) 本件情報が不競法2条6項所定の営業秘密に当たるか(争点1)

(2) 被告による不正競争行為の成否(争点2)ア 被告による不競法2条1項4号所定の不正競争行為の成否(争点2-1)イ 被告による不競法2条1項7号所定の不正競争行為の成否(争点2-2)

(3) 被告による不法行為の成否(争点3)

(4) 被告の不正競争行為及び不法行為による原告の損害の有無並びにその額(争点4)

(5) 本件内装板代金の支払の有無(争点5)

(6) 本件基本合意についての合意解約の有無(争点6)

(7) 本件売買契約についての債務不履行解除の成否(争点7)4 争点に関する当事者の主張

(1) 争点1(本件情報が不競法2条6項所定の営業秘密に当たるか)について(原告の主張)本件情報は、いずれも不競法2条6項所定の秘密管理性、有用性及び非公知性の要件を満たす営業秘密である。以下、本件情報1ないし13について、補足して説明する。ア 本件情報1原告の新技術に基づくバイオ乾燥機は、木の細胞の中の水を移動させて木を乾燥させることを目的とした特殊な乾燥機であり、そのようなバイオ乾燥機のために作られる部材リストには、多くの営業秘密が含まれる。イ 本件情報2及び3競合する木材用乾燥機が、減圧、加圧あるいは高温を必要とし、木の細胞を破壊することで薬剤を注入して、防腐、防虫、不燃化をするのに対し、原告のバイオ乾燥機は、細胞を一切破壊しないドブ漬け工法と細胞学の応用で薬液を注入する。原告は、営業活動において、顧客にバイオ乾燥機が優位性を持っていることを伝えるために、秘密資料であることを伝えた上で、営業秘密を開示している。ウ 本件情報4この情報だけでバイオ乾燥機を製造、完成させることは困難であるものの、新技術により高付加価値化木材となり輸出が可能になることを示すものであるから、これは営業秘密である。エ 本件情報5原告のバイオ乾燥機の平均寿命は50年以上である。しかし、リース期間を7年間とすることで、原告は、リース期間が終わり顧客から返却されたバイオ乾燥機を、別の顧客にほぼ同じ料金で更に7年間リースすることができる。このように、原告は、最低20年間は顧客からリース料金を得ることができ、しかも1台の乾燥機から約2倍の利益を得ることができる。また、バイオ乾燥機の耐用年数が50年間であることも営業秘密である。今日の世界の機械市場において、耐用年数50年を掲げる機械は皆無であり、原告は、これを掲げたことで、木材用乾燥機に対する広い信頼を得た。オ 本件情報6バイオ乾燥機を使用した賃乾燥(時間貸しで第三者の木材を乾燥すること)がいかに高付加価値ビジネスとなるかは営業秘密である。カ 本件情報7原告の協力会社であるウッドセル株式会社(以下「ウッドセル」という。)が、被告からの注文に基づいて、被告に本件内装板を送付した時の請求書である。本件内装板は、バイオ乾燥機の乾燥性能を左右し、かつ、バイオ乾燥機の製造に不可欠な部材であるから、バイオ乾燥機の最も重要な営業秘密である。キ 本件情報8及び9原告は、木材用乾燥機市場を拡大するため、ファブレス方式を採用し、バイオ乾燥機の製造コスト低減を確立した。この新技術は、原告の営業秘密である。ク 本件情報10及び11(ア) 本件情報10が示しているのは、大型バイオ乾燥機について、ファブレス方式で見積もったことにより、通常の販売価格が2000万円であるところを1500万円に減額できたということである。この500万円もの減額ができたことは、ファブレス方式という新技術、すなわち営業秘密をベースにしている。また、バイオ乾燥機の床に設置する自動化搬入システムを入れることで、作業のための人件費を月額約100万円節約できる。このシステムの有無により、購入するか否かという顧客の判断が変わるのだから、これは営業秘密である。(イ) 本件情報11についても同様である。ケ 本件情報12原告のバイオ乾燥機の他のユーザーが導入したバイオ乾燥機の外観と内部の完成写真である。木で木を乾燥させるという世界初のCO 2排出がほぼゼロの新技術であることから、営業秘密が多々ある。コ 本件情報13前記ク(ア)記載のバイオ乾燥機の床に設置する自動化搬入システムと乾燥機内部である。このシステムを導入することで、1名分の人件費で稼働できるため、極めて高い営業秘密である。(被告の主張)以下のアないしカのとおり、本件情報は、いずれも不競法2条6項所定の営業秘密に当たらない。ア 本件情報1について木の細胞の中の水を移動させて木を乾燥させる技術に直接関わるものではないし、部材リストのみでバイオ乾燥機を組み立てることもできないから、少なくとも有用性を欠く。イ 本件情報2ないし4、6及び11ないし13についていずれも「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(以下「本件補助金」という。)申請に関する資料である。原告は、これらを本件補助金に係る事務局に提出することを認めていたから、少なくとも秘密管理性を欠く。ウ 本件情報5についてバイオ乾燥機を売り込むための資料であり、少なくとも秘密管理性を欠く。エ 本件情報7及び10について請求書及び見積書であり、少なくとも秘密管理性を欠く。オ 本件情報8及び9契約締結前の基本合意書案の説明文書であり、少なくとも秘密管理性を欠く。カ 本件情報14ないし22についてバイオ乾燥機の全体的な大きさと形状を示しているほか、ところどころに部材の寸法を記入しただけのものであり、これだけで直ちにバイオ乾燥機を組み立てることはできないから、有用性を欠く。

(2) 争点2-1(被告による不競法2条1項4号所定の不正競争行為の成否)について(原告の主張)被告は、本件基本合意において秘密保持契約を締結することが定められているにもかかわらず、これを拒み、その間に、原告から本件情報の開示を受けた。これは、窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得したことに当たる。また、被告は、原告から開示を受けた本件情報に基づいて本件被告乾燥機1台を製造しており、これは、取得した営業秘密を使用したことに当たる。(被告の主張)ア 本件情報の取得について(ア) 本件情報1、11及び14ないし22について被告は、原告から、これらの情報を開示されていない。(イ) 本件情報2ないし10、12及び13について被告が、原告から、これらの情報を開示されたことは認める。しかし、これらは、原告が、被告に対し、本件補助金に関する資料や本件売買契約に係る請求書として送付したり、被告を含む多数の業者にバイオ乾燥機を売り込むための資料として送付したりしたものである。したがって、被告は、不正の手段によりこれらの情報を取得したのではない。イ 本件情報の使用について被告は、本件被告乾燥機を製造するに当たり、本件情報を使用していない。

(3) 争点2-2(被告による不競法2条1項7号所定の不正競争行為の成否)について(原告の主張)仮に、被告が不正の手段により営業秘密を取得したといえないとしても、被告は、原告が開示した本件情報に基づいて本件被告乾燥機を製造した上、同様の乾燥機の販売広告もしている。すなわち、被告は、原告のバイオ乾燥機を、商品名を変えて多数製造販売することを計画している。これは、営業秘密を保有する事業者から示された営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で使用したことに当たる。(被告の主張)ア 前記(2)(被告の主張)アのとおり、原告が被告に開示したのは本件情報2ないし10、12及び13のみであり、被告は、原告から、本件情報1、11及び14ないし22を開示されていない。イ また、前記(2)(被告の主張)イのとおり、被告は、本件被告乾燥機を製造するに当たり、本件情報を使用していない。被告が本件被告乾燥機を製造したのは、原告が本件売買契約において定められていた乾燥機製造債務を履行しなかったため、やむを得ず自ら製造したにすぎない。そして、被告が、今後、同様の乾燥機を製造することはない。したがって、被告において、不正の利益を得る目的も、その営業秘密保有者に損害を加える目的もない。

(4) 争点3(被告による不法行為の成否)について(原告の主張)前記(2)及び(3)(原告の主張)においてそれぞれ摘示した被告の行為は、不法行為を構成する。(被告の主張)争う。

(5) 争点4(被告の不正競争行為及び不法行為による原告の損害の有無並びにその額)について(原告の主張)被告が、原告から取得した営業秘密を使用して製品を製造したとすると、被告は当該製品1台だけでも1650万円の売上を得ることができる。したがって、原告は、被告の不正競争行為及び不法行為により、1650万円の損害を被った。(被告の主張)争う。

(6) 争点5(本件内装板に係る代金の支払の有無)について(被告の主張)本件内装板1式は本件売買契約の目的物であり、相当する代金も含めて本件売買契約の代金額が決定されている。そして、前提事実(6)のとおり、被告は、原告に対し、本件売買契約に基づく内金として、本件内装板1式の代金相当額を超える540万円を支払ったから、本件内装板1式に係る代金は支払済みである。(原告の主張)否認する。

(7) 争点6(本件基本合意についての合意解約の有無)について(被告の主張)原告と被告は、令和元年8月23日、改めて本件売買契約が締結されたことから、本件基本合意を合意解約し、本件売買契約に基づいて初回の支払がされた場合には、その翌日に、原告が被告に対し本件基本合意に基づいて支払われた243万円を返還することを合意した。(原告の主張)原告と被告との間で、本件基本合意を解約する旨の合意はしていない。

(8) 争点7(本件売買契約についての債務不履行解除の成否)について(被告の主張)ア 原告は、本件売買契約に基づき、令和元年10月末までにバイオ乾燥機を被告に納品すべき債務を負っていた。しかし、原告は、目的物の一部である本件内装板1式しか納品せず、その余の目的物の納品をしなかった。そこで、被告は、原告に対し、同年11月12日到達の書面により、同書面到達後5日以内にその余の目的物を納品するよう催告したが、原告は、期限である同月17日までに上記目的物を納品しなかった。イ 原告は、本件売買契約につき、原告と被告との間で秘密保持契約が締結されなかったことを根拠として、前記アの目的物を納品しなくとも債務不履行にならないと主張する。しかし、秘密保持契約の締結については、本件基本合意において定められていたところ、前記(7)(被告の主張)のとおり、本件基本合意は本件売買契約の締結に伴って合意解約されている。また、本件売買契約において、秘密保持契約に関する定めはなく、その締結がバイオ乾燥機を納品する条件ともされていない。ウ したがって、本件売買契約は、既に納品された本件内装板1式に係る部分を除き、原告の債務不履行により解除された。(原告の主張)本件売買契約においては、原告が被告に目的物を納品するに当たり、被告が原告との間で本件基本合意により定められた秘密保持契約を締結することが条件とされていた。しかし、被告は、上記秘密保持契約の締結を何度も拒否し続けた。したがって、原告が、本件売買契約が定める期限までに目的物を納品しなくとも、債務不履行にはならない。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(本件情報が不競法2条6項所定の営業秘密に当たるか)について

(1) 不競法2条6項所定の営業秘密に当たるというためには、本件情報につい

て、①「秘密として管理されている」こと、②「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」であること、及び③「公然と知られていないもの」であること、の各要件を満たす必要がある。そして、上記①の「秘密として管理されている」とは、客観的にみて、情報にアクセスした者において当該情報が秘密情報であることを認識し得る程度に管理されていることと解される。これを本件についてみると、証拠(甲30、31〔枝番含む〕)によれば、別紙目録記載3の書面には、不動文字で「極秘資料」である旨の記載が、別紙目録記載1ないし6、8、10、11及び14の各書面には、手書きで「秘密情報」である旨の記載が、それぞれされていることが認められる。しかし、これらの記載がされた具体的な時期を認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって、原告から被告に送付された同様の書面には、「極秘資料」「秘、密情報」等の記載が存在しない(乙42ないし48)。そうすると、原告が被告に上記各書面に記載された情報を開示したと主張する時点において、上記各書面に「極秘資料」又は「秘密情報」の記載がされていたと認めることはできない。また、別紙目録記載のその余の各書面には、当該各書面の記載内容が秘密であることをうかがわせるような表示等はされておらず(甲30、31〔枝番含む〕 、他に別紙目録記載の各書面及び本件情報の具体的な管理方法を認)めるに足りる証拠はない。以上によれば、本件情報が、客観的にみて、これにアクセスした者において当該情報が秘密情報であることを認識し得る程度に管理されていたと認めることはできず、よって、原告において、秘密として管理されていたということはできない。

(2) そうすると、その余の点について認定、判断するまでもなく、本件情報が不

競法2条6項所定の営業秘密に当たるということはできないから、原告の不競法4条に基づく請求は理由がない。

2 争点3(被告による不法行為の成否)について

原告は、被告による不競法2条1項4号及び同項7号所定の不正競争行為が不法行為を構成すると主張している。しかし、前記1において説示したとおり、本件情報が同条6項所定の営業秘密に当たるということはできないし、このほかに被告の行為によって原告の権利又は法律上保護される利益が侵害されたと認めるに足りる証拠もないから、結局のところ、被告による不法行為があったとはいえない。以上によれば、その余の点について認定、判断するまでもなく、原告の不法行為に基づく請求は理由がない。

3 争点5(本件内装板代金の支払の有無)について

(1) 前提事実(4)ないし(6)のとおり、本件売買契約において、バイオ乾燥機1

式の代金は1620万円(税込)と定められるとともに、目的物の内訳としてバイオ乾燥機に係る本件内装板1式(価格162万円(税込))が計上されていたところ、被告は、令和元年8月27日頃に本件内装板1式の納品を受け、同月29日、原告に対し、本件売買契約に係る代金内金として、本件内装板1式の価格を超える540万円を支払ったことが認められる。そして、原告が、被告に対し、本件売買契約に基づいて、本件内装板1式以外の目的物を納品したと認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告が原告に上記の代金内金を支払ったことにより、本件内装板1式に係る代金分は支払済みであると認めるのが相当である。

(2) 以上によれば、原告の本件売買契約に基づく本件内装板の未払代金の支払

請求は理由がない。

4 争点6(本件基本合意についての合意解約の有無)について

(1) 前提事実及び証拠(甲17、乙27〔9ないし11頁〕)によれば、以下の

事実が認められる。ア 原告は、令和元年8月22日、被告に対し、基本合意書を売買契約書に取り換えるのであればこれに応じる、売買契約書に双方が調印し、被告の

第1回目の支払が実行されれば、翌日に基本合意書を解約し、基本合意書

に基づく第1回目の支払分(243万円)を返金する旨のメールを送信した。イ 被告は、令和元年8月22日、原告に対し、売買契約書と第1回目の内金540万円の請求書の送付を依頼するとともに、内壁板が納品された日の翌日に送金するので、同時に基本合意書を返却するよう求める旨のメールを送信した。ウ 原告と被告は、遅くとも令和元年8月23日までに、本件売買契約書に押印した。エ 被告は、令和元年8月27日に本件内装板1式が納品されたのを受け、同月29日、原告に対し、本件売買契約が定める第1回目の支払として、代金内金540万円を支払った(前提事実(4)及び(6))。

(2) 前記(1)の認定事実に照らせば、原告と被告との間で、遅くとも令和元年8

月23日までに、売買契約書への双方の調印及びこれに基づく被告の第1回目の支払が実行されることを条件に、本件基本合意を解約し、原告から被告に対し、本件基本合意書を返却するとともに、被告が本件基本合意に基づいて原告に支払った内金全額を返還する旨の合意が成立したというべきである。そして、上記解約合意に沿って、原告と被告は、本件売買契約書に押印した上、被告は、原告に対し、本件売買契約が定める第1回目の支払として代金内金540万円を支払ったから、その支払日の翌日である令和元年8月30日には解約の効力が生ずることとなり、本件基本合意は合意解約されたというべきである。

(3) これに対し、原告は、本件基本合意を解約する旨の合意をしていないと主

張する。しかし、前記(1)において認定したとおり、原告が被告に送付したメールには、所定の手続がされれば本件基本合意を解約する趣旨が明確に記載されていたとともに、被告が原告に送付したメールにも、上記所定の手続をするので、基本合意書を返却してほしい旨の記載がされていたことから、本件基本契約を解約することについて意思の合致があったといえる。また、その後の原告と被告の行動も、上記各メール記載の手続に沿うものである。これらの事実関係に照らせば、原告と被告との間において本件基本合意を解約する合意が成立したことを優に認めることができる一方で、これを覆すに足りる的確な証拠はない。したがって、この点についての

(原告の主張)

は採用できない。

5 争点7(本件売買契約についての債務不履行解除の成否)について

(1) 前提事実(4)ないし(7)のとおり、①本件売買契約において、バイオ乾燥機

の納期は令和元年10月末とされ、原告が機械の引渡しを遅延し、被告が相当の期間を定めて催告しても引渡しがされないときは、被告は契約を解除できる旨の定めがあったこと、②被告は、同年8月29日、原告に対し、本件売買契約が定める第1回目の支払として代金内金540万円を支払ったこと(なお、前提事実(4)のとおり、残代金の支払期日は、いずれも目的物の納品後及び検収後である。 、③被告は、原告に対し、同年11月12日到達の書)面により、同書面到達後5日以内に、本件内装板以外の目的物を本件売買契約に基づいて納品するよう催告し、期限までに納品されない場合は、本件売買契約のうち本件内装板を除く部分を解除する旨の意思表示をしたこと、④原告は、同月17日が経過しても、本件売買契約の目的物のうち本件内装板1式以外の部分を納品しなかったこと、がそれぞれ認められる。

(2) これに対し、原告は、本件売買契約においては、原告から被告に目的物を

納品する前提として、被告が原告との間で秘密保持契約を締結することが条件とされていた、すなわち原告と被告との間で秘密保持契約を締結することを先履行とする旨の合意があったとの趣旨の主張をする。しかし、本件売買契約書において、目的物の納品に関し、原告と被告との間で秘密保持契約を締結することを先履行とする旨の記載は見当たらない。確かに、本件基本合意において、原告と被告は秘密保持契約を締結するものとするとの定めがされていたことが認められるものの(前提事実(2))、前記4において説示したとおり、本件基本合意は令和元年8月30日に合意解約されているから、本件基本合意の定めを原告が主張する合意の根拠とすることはできない。このほか、原告と被告との間で、本件売買契約に係る目的物の納品について、秘密保持契約の締結を先履行とする旨の合意がされていたと認めるに足りる証拠はない。したがって、この点についての

(原告の主張)

を採用することはできない。

(3) 以上によれば、本件売買契約のうち本件内装板1式を除く部分は、原告の

債務不履行により解除されたというべきである。

6 小括

(1) 前記4(2)において認定したとおり、本件基本合意を合意解約するに当たり、

原告から被告に対し、本件基本合意書を返却するとか、被告が本件基本合意に基づいて原告に支払った内金全額を返還するとの合意がされていることに鑑みれば、この解約合意は、本件基本合意に基づく効果を遡及的に消滅させる趣旨でされたものと認めるのが相当である。そうすると、本件基本合意が合意解約されたことにより、本件基本合意に基づく被告の原告に対する金員支払義務も遡及的に消滅したというべきである。したがって、原告は、被告から本件基本合意に基づく内金として支払を受けた243万円について、法律上の原因なく被告の財産によって利益を受け、そのために、被告に同額の損失を及ぼしていることになるから、被告は、原告に対し、不当利得返還請求権に基づき、243万円及びこれに対する令和2年1月14日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

(2) また、本件売買契約のうち本件内装板1式を除く部分が債務不履行解除さ

れたことにより、被告の原告に対する本件内装板1式を除く部分に係る代金支払債務も遡及的に消滅したというべきである。したがって、原告は、被告から本件売買契約に係る代金内金として支払を受けた540万円から本件内装板1式の代金相当額である162万円を控除した378万円について、法律上の原因なく被告の財産によって利益を受け、そのために、被告に同額の損失を及ぼしていることになるから、被告は、原告に対し、不当利得返還請求権に基づき、378万円及びこれに対する令和2年1月14日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

第4 結論

以上によれば、その余の点について認定、判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、被告の請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官國 分 隆 文裁判官間 明 宏 充裁判官バ ヒ ス バ ラ ン 薫別紙目 録

1 「山口新建木材センター、バイオ乾燥機部材リスト」と題する書面(甲30

のA3)

2 「新技術による高付加価値製品化」と題する書面(甲30のA4)

3 「極秘資料 新技術による高付加価値製品化」と題する書面(甲30のA5)

4 「高付加価値化木材の高度産業化と輸出事業計画」と題する書面(甲30の

A6)

5 「バイオ乾燥機株式会社(2019年3月6日)」と題する書面(甲30のA

7)

6 「バイオ乾燥機の賃乾燥と高付加価値ビジネス」と題する書面(甲30のA

8)

7 「御請求書」と題する書面(甲30のA9)

8 「ファブレス方式とは」と題する書面(甲30のA10)

9 「5) ファブレス化の多くは、」から始まる書面(甲30のA11)

10 「御見積書」と題する書面(甲31のB1)

11 「バイオ乾燥機のレール式・搬入出」と題する書面(甲31のB2)

12 「バイオ乾燥機4x4x15」と題する書面(甲31のB3)

13 「自動化搬入システム(乾燥材を手押しだけで自由自在に動かす)」と題する

書面(甲31のB4)

14 「極秘資料(2019-8-17)山口新建木材センター ①バイオ乾燥機

平面図」と題する書面(甲31のB5)

15 「②山口新建木材センター 平面図(2)」と題する書面(甲31のB6)

16 「山口新建木材センター ③バイオ乾燥機 正面図(1)」と題する書面(甲

31のB7)

17 「山口新建木材センター ④バイオ乾燥機 正面図(2)」と題する書面(甲

31のB8)

18 「山口新建木材センタ ⑤バイオ乾燥機 正面図(3)」と題する書面(甲3

1のB9)

19 「⑥山口新建木材センター バイオ乾燥機 側面図(両面)」と題する書面

(甲31のB10)

20 「⑦山口新建木材センター バイオ乾燥機 背面図1」と題する書面(甲3

1のB11)

21 「⑧山口新建木材センター バイオ乾燥機 背面図2」と題する書面(甲3

1のB12)

22 「⑨山口新建木材センター バイオ乾燥機 天井図(パネル)」と題する書面

(甲31のB13)以上

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