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平成24(行ケ)10088審決取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成24年11月19日
事件種別 民事
当事者 被告青山ケンネルインターナショナル株式会社
原告青山ケンネル株式会社清永敬文
法令 商標権
商標法50条1回
キーワード 審決11回
商標権1回
主文 特許庁が取消2011-300253号事件について平成24年2月1日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 本件は,被告の請求に基づき原告の商標登録を取り消した審決の取消訴訟である。

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判決文

平成24年11月19日判決言渡
平成24年(行ケ)第10088号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年9月26日
判 決
原 告 青山ケンネル株式会社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 矢 田 次 男
清 永 敬 文
番 匠 史 人
弁 理 士 原 島 典 孝
谷 﨑 政 剛
被 告 青山ケンネルインターナショナル株式会社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 阿 部 鋼
松 田 達 志
中 島 真 希 子
古 家 和 典
弁 理 士 岩 田 敏
主 文
特許庁が取消2011-300253号事件について平成24年2月1日にし
た審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた判決
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被告の請求に基づき原告の商標登録を取り消した審決の取消訴訟である。
争点は,原告が,本件商標を,指定役務である「愛玩動物の美容及び看護の教授,
愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営」について,審判請求の登
録前3年以内に使用していたかである(商標法50条)。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,本件商標権者である。
【本件商標】
・登録第4147558号
・指定役務
第41類:愛玩動物の美容及び看護の教授,愛玩動物の調教,愛玩動物の
美容及び看護に関するセミナーの企画・運営又は開催,研究用教材に関す
る情報の提供及びその仲介
・出願日 平成8年3月29日
・登録日 平成10年5月22日
・存続期間の更新登録 平成19年12月18日
被告は,本件商標の指定役務中,第41類「愛玩動物の美容及び看護の教授,愛
玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」についての登録を
取り消す旨の商標登録取消審判請求をし(取消2011-300253号) 平成2

3年3月23日にその旨の登録がされた(指定役務中「愛玩動物の調教」「研究用

教材に関する情報の提供及びその仲介」は請求の対象ではない。。

特許庁は,平成24年2月1日,被告の請求を認容する旨の審決をし,その謄本
は同年2月9日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
「青山ケンネルスクール」の表示の下で,原告(当時の商号は「青山ケンネル販
売株式会社」平成21年9月に現在の商号に商号変更) 平成20年6月29日,
, が,
同年10月26日,平成21年8月30日,同年10月25日及び平成22年3月
7日に,
「愛犬の手作りごはん 教室」
(使用役務)ほか,飼い主向けの幾つかの教室
を開催していたことが推認できる。「愛犬の手作りごはん 教室」については「飼い
主に向けての愛犬への手作りごはんの作り方を教授する」ことを内容とする役務で
あるといえる。
取消請求に係る指定役務中の「愛玩動物の美容の教授」及び「愛玩動物の美容に
関するセミナーの企画・運営・管理」でいう「美容」とは,
「適度の睡眠・食事・便
通等により常に健康な素肌を保つこと。[狭義では,女性が髪型を整えたり,肌の若
さを保つために手入れをしたりすることを指す。]」などを意味する語であって,特
許庁商標課編「商品及び役務の区分解説」によれば,第44類の「美容」の解釈と
して,「パーマネント・・・化粧等の方法により,容姿を美しくする役務である。」
旨記載されている。
「動物の美容」に関しても,上記と同様に解釈されるものであっ
て,
「犬に対する被毛の手入れ」等を意味する「グルーミングやトリミング」といわ
れる「動物に対して行われる美容」と解される。そうとすると,取消請求に係る指
定役務中の「愛玩動物の美容の教授」及び「愛玩動物の美容に関するセミナーの企
画・運営・管理」は,
「愛玩動物に対する被毛の手入れ」などに関する教授やセミナ
ーの企画・運営・管理を内容とする役務といえる。
また,取消請求に係る指定役務中の「愛玩動物の看護の教授」及び「愛玩動物の
看護に関するセミナーの企画・運営・管理」は,
「愛玩動物に対する看護」に関する
教授やセミナーの企画・運営・管理を内容とする役務といえる。
したがって,上記「飼い主に向けての愛犬への手作りごはんの作り方を教授する」
ことを内容とする使用役務は,取消請求に係る指定役務の「愛玩動物の美容及び看
護の教授,愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該
当するものではない。
なお,原告は,(食事により)毛艶をよくする」等の「愛犬の美容」と「愛犬の

食事」の密接な関係および病気になった愛犬の食事療法に関するサイトの存在等の
「愛犬の看護」と「愛犬の食事」の密接な関係にあることを理由に,使用役務は取
消請求に係る役務に含まれる旨主張する。
しかしながら,使用役務で学んで作った食事を通して愛犬の毛艶がよくなった等
あったとしても,それはあくまでも結果であって,使用役務の対象あるいは内容は
「愛犬のためのごはんの作り方」であり,取消請求に係る役務の対象あるいは内容
(「愛犬のための美容・看護」)と異なるものであるから,原告の主張は採用できな
い。
(なお,審決中に「介護」と表記されているのは,「看護」の誤記である。)
第3 原告主張の審決取消事由
審決は,原告の使用に係る役務が,本件取消請求に係る役務である「愛玩動物の
美容及び看護の教授,愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営又は
開催」に該当しないと認定したが,かかる判断は誤りである。
1 原告の歴史
原告は,原告代表者の実父が昭和31年(1956年)に創業した「青山ケンネ
ル」にそのルーツを有し,昭和42年(1967年)には,原告の前身である「青
山ケンネル恵比寿店」が開店し,トリミングやグルーミングなどの犬の美容を中心
に事業を展開した。原告は,昭和59年(1984年)に,商号を「青山ケンネル
販売株式会社」に変更するとともに,犬の美容技術の進歩及び普及を目的として,
「青山ケンネルカレッジ」を開校した。その後,原告は,ペット業界全体を担う人
材の育成を目指して「学校法人シモゾノ学園」の設立に尽力し,同学園は「国際動
物専門学校」や「大宮国際動物専門学校」「千葉国際動物専門学校」を開校して現

在に至っている。その間,原告は,一時,店舗名を「VERONIQUE」に変更
して営業していたが,平成21年(2009年)に子会社を統合するとともに現在
の「青山ケンネル株式会社」に商号変更し,同時に店舗名も「青山ケンネル」に改
称した。
本件商標「青山ケンネルスクール」を冠した役務は,平成19年(2007年)
10月の開講以来,飼い主と愛犬向けの様々な教室(講座)を提供するものであっ
て,現在まで継続して開催されており,その中に「愛犬の手作りごはん」と題した
講座がある。各回の講座は,「愛犬用手作りお料理教室」と称したり,「愛犬用手作
りごはん教室」であったりするが,愛犬の健康のために食事の作り方を教授すると
いう基本方針の下で,様々な料理の調理法等を教えている。
2 「愛玩動物の美容」について
審決は,
「美容」の解釈につき,一般的な意味である「適度の睡眠・食事・便通等
により常に健康な素肌を保つこと。ではなく,
」 狭義の美容(女性が髪型を整えたり,
肌の若さを保つために手入れしたりすること)を採用した。すなわち,特許庁が自
ら作成した「商品及び役務の区分解説」において,人間を対象とする役務である「美
容」が「パーマネント・・・化粧等の方法により,容姿を美しくする役務である」
と記載されていることを根拠に,同じく第44類の役務である「動物の美容」につ
いても,人間に対する「美容」と同様な意味合いに解すべきとしたものである。
しかし,「商品及び役務の区分解説」には「動物の美容」についての説明がなく,
同じ「美容」という言葉を用いているからといって,人間に対する「美容」と同じ
意味合いに解すべき根拠はない。そもそも,対象が人間と動物で異なるのであるか
ら,全く同じ意味合いに解釈できないことは明らかであって,現に審決も,
「被毛の
手入れ」という人間に対する美容では存在しない行為を持ち出している。
「動物の美
容」について何ら公権的な解釈がない以上,そこにおける「美容」の言葉は一般的
な意味合い,すなわち,
「適度の睡眠・食事・便通等により常に健康な素肌を保つこ
と。」に従って解すべきである。
しかも,本件で争点となっている役務は,第44類に属する「動物の美容」では
なく,第41類の「愛玩動物の美容の教授」である。
「美容の教授」という場合の「美
容」が,人間を対象とする「美容」
(第44類の役務である美容)と同じ意味合いに
解釈されるべきであるなどとする根拠は,何もない。人間を対象とする「美容」が
「パーマネント・・・化粧等の方法により,容姿を美しくする役務」であるとして
も,
「美容の教授」は,パーマネントや化粧等の具体的な技術の教授に限られるわけ
ではなく,より根本的な美容に関する一般的な知識の教授をも含むものである。事
実,美容専門学校の老舗といわれる「ハリウッドビューティ専門学校」は,ヘアや
メイクなどの「美容技術」に加えて「美容理論」を必修科目としており,
「美容理論」
の中には「美容文化論」や「美容運営管理論」と並んで「美容健康食」に関する科
目が存在している。このことからしても,第41類における役務である「美容の教
授」は,美容に役立つ食事など,幅広い内容の知識や技芸に関する教授が含まれる
と見るべきである。ましてや,健康状態と毛艶等が直結している愛玩動物にとって
みれば,美容と食事とは切り離せない関係にあり,
「愛玩動物の美容の教授」に,愛
玩動物用の食事の作り方についての知識や技芸の教授が含まれることは多言を要し
ない。
原告が本件商標の下に,
「愛犬の手作りごはん教室」などの講座名で,愛玩動物用
の食事に関する知識や技芸を教授してきていることは上記のとおりであるが,この
講座は,単に愛犬が喜んで食べる料理を教授するのではなく,
「健康で役立つご飯作
り」を標榜し,
「犬や猫に手作りご飯を与えることが最近見直されてきているようで
す。手作りご飯にしてから毛艶が良くなった!」
(甲1の2)「愛犬の肥満対策,肥

満予防をお考えの飼い主さんにお勧め。(甲5)「肥満対策!栄養を考えたダイエ
」 ,
ットご飯」
(甲7)など,健康と美容に直結した料理を教えているのであるから,原
告が本件商標を「愛玩動物の美容の教授」に使用していることは明らかである。ま
た,原告が上記講座を企画・運営・管理することは,
「愛玩動物の美容に関するセミ
ナーの企画・運営又は開催」に該当するから,本件商標はこの指定役務についても
使用されている。
3 「愛玩動物の看護」について
「看護」の一般的な意味合いは「けが人や病人の手当,世話をすること。看病」
であって,本件役務における「看護」もこれと同様に解すべきである。そして,
「け
が人や病人の世話をすること。看病」の中には,その大きな部分として,栄養等を
考慮した,けが人・病人に与える食事の問題があることは明らかである。このこと
は,
「けがをしたり病気を患っている愛玩動物の世話」についても当てはまるが,指
定役務である「愛玩動物の看護の教授」に関していえば,上記の「美容の教授」の
場合と同様に,けがや病気の手当に関する教授といった狭い意味に解すべき理由は
皆無であって,食事の問題を含め,広く「けがをしたり病気を患っている愛玩動物
の世話に関する知識等の教授」と解すべきである。
原告が本件商標を用いて提供している講座の中には,このような意味での愛玩動
物の看護をテーマにしたものがある。例えば,「手作りご飯にしてから,・・・皮膚
病が改善された。お腹の調子が良くなった。
・・・また食物アレルギーの子が最近増
えていますが,アレルギーの元になる食材を使わないこともできます。」
(甲3),
「老
犬やお腹の弱い子のための手作りご飯」
(甲6),
「疾病に負けない身体を作る手作り
ご飯」,
「人間がかかる病気,ガン,糖尿病などにかかるワンちゃんが増えています。
症状を正しく知り,症状をサポートしてくれる食材を使って,手作りご飯を作って
みましょう。(甲8)などの講座は,まさに病気を患っている愛犬のためにどのよ

うな食事を作るべきかを教えるものであって,病気を患っている愛犬の世話に関す
る知識等の教授であるから,「愛玩動物の看護の教授」にほかならない。
したがって,原告は,本件商標を取消請求に係る役務「愛玩動物の看護の教授」
に使用している。
また,原告が上記講座を企画・運営・管理することは,
「愛玩動物の看護に関する
セミナーの企画・運営又は開催」に該当するから,本件商標はこの指定役務につい
ても使用されている。
4 被告の主張に対する反論
「愛犬手づくりごはん」教室用のチラシ(甲3~8)やこの教室を紹介した雑誌
及び新聞の記事(乙11,12),上記教室の講師の著書(乙13)には,「VER
ONIQUE」の表記や「ヴェロニカ」「ドッグサロン
, ヴェロニカ」で上記教室
が行われている旨の記載があるが,これは,当時,原告が用いていた店舗の名称が
「VERONIQUE」であったことから,開催場所を示すために標章「VERO
NIQUE」や「ドッグサロン ヴェロニカ」が使用されたものである。原告は,
講座の運営主体を示すものとしては商標「青山ケンネルスクール」を使用している。
第4 被告の主張
1 原告が本件商標を使用していたことが認められないこと
原告は,本件商標は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,原
告により継続して使用されている旨主張する。しかし,甲1及び甲29は,
「青山ケ
ンネルスクール」を紹介しているウェブサイトであるが,これをもって,実際に「青
山ケンネルスクール」の名で「愛犬の手作りごはん料理教室」
(多少名称が異なるも
のを含む。)が開催されていたことが証明されているとはいえない。
原告が当該講座を広く告知するために作成したというチラシ(甲3~8)には,
どこにも「青山ケンネルスクール」の商標が付されておらず(同チラシにおける同
講座の商標は「犬の絵」と「VERONIQUE」を結合したものと思われる。,

かえって,原告は当該講座を「VERONIQUE」との名称で開催していたこと
が読み取れる。また,原告のウェブサイト(http://aoyamakennel.com/)の「メディ
ア情報」には,当該講座が雑誌「クロワッサンPremium 2009年2月号」
の「愛犬が心地よく長生きするために。」のコーナー(乙11)及び「日本経済新聞
夕刊 2008年11月1日」の「アーバンBiz」のコーナー(乙12)で取り
上げられている旨の記載があるところ,上記雑誌及び新聞においては,当該講座の
主催者として「ヴェロニカ」又は「ドッグサロン ヴェロニカ」の表記があり,ど
こにも「青山ケンネルスクール」の名称は記載されていない。さらに,当該講座の
講師であるペット栄養管理士A氏の著書「愛犬元気!手づくりごはん」の著書プロ
フィールにも,ごはん教室を「ドッグサロン ヴェロニカ」にて行っているなどの
記載はあるが,「青山ケンネルスクール」の名称は記載されていない(乙13)。
このことからすると,仮に原告が当該講座を開催していたとしても,
「青山ケンネ
ルスクール」の名(商標)で開催されていたとみるべきではない。仮に原告のホー
ムページに「青山ケンネルスクール」の表示(商標)があったとしても(甲1等),
それは当該講座との関係では形式的な使用にすぎず,実質的に本件商標「青山ケン
ネルスクール」を使用していたということはできない。
2 「愛玩動物の美容」について
原告は,「美容」について,新明解国語辞典(甲11)を引用し,「適度の睡眠・
食事・便通等により常に健康な素肌を保つこと」としているが,同辞書にはその他
に狭義の意味として「女性が髪型を整えたり,肌の若さを保つために手入れをした
りすることを指す」とある。また,美容の定義として,広辞苑では「①美しい容貌。
②容貌・容姿・髪型を美しくすること。美粧。,大辞林では「顔や体つきを美しく

すること。,旺文社国語辞典では「①容姿を美しくととのえること。②美しい顔か

たち」とあり,上記狭義の意味と一致する。特許庁による美容の定義は,広辞苑等
の解釈及び新明解国語辞書の狭義の定義と同一であり,新明解国語辞書を引用する
のであれば,この狭義の意味を引用すべきであり,原告の主張は恣意的である。健
康と美容が密接に関連しているとしても,これらを同一視して「美容」を原告主張
のような趣旨ととらえることは適切でない。
そうすると,商標法における「動物の美容」
(第44類)もこれに基づいて「愛玩
動物に対して被毛の手入れをして容姿・髪型等を美しくすること」であるというべ
きである。その証左として,特許電子図書館(IPDL)の「商品・役務名リスト」
検索(乙2)や商品・サービス国際分類表(日本語訳)
(乙3)によると,動物の美
容を英語で表記すると「Animal grooming(毛繕い)」や「Groo
ming(Animal-)」等となっており,被告の主張と一致する。なお,「G
rooming(グルーミング)」とは,日本の公的なケネルクラブ(畜犬団体)で
ある社団法人ジャパンケネルクラブによれば「犬に対する被毛の手入れのすべて」
をいうとされる。また,同じくアメリカの公的なケネルクラブである「AMERI
CAN KENNEL CLUB」が原著者である事典によれば「犬の被毛を美し
く保つため,ブラシや櫛で手入れをしたり,トリミングをしたりすること」とあり,
被告の主張が合理的であることを裏付けるものである。
そして,本件指定役務のうち「愛玩動物の美容の教授」は,この「愛玩動物に対
する被毛の手入れを教えること」であるというべきであるところ,当該講座は,あ
くまでも愛犬のためのご飯作りを教えるものであって,商標法の「愛玩動物の美容
の教授」に該当するものではない。同教室で学んだご飯を愛犬が食べたことで,毛
艶が良くなったり,皮膚病が改善されたとしても,それはその結果にすぎない。む
しろ,チラシ(甲3ないし8)から読み取れる原告が提供する「手作りごはん料理
教室」は,商標登録第4841484号に係る「(第44類)動物の食事に関する栄
養の指導」
(乙6),同第4879641号に係る「(第44類)愛玩動物に関する栄
養の指導」
(乙7),同第4675939号に係る「(第44類)愛玩動物の栄養の指
導」(乙8),同第4936226号に係る「(第44類)愛玩動物の栄養指導」(乙
9) 同第4824321号に係る (第44類)
, 「 動物に関する栄養の指導」
(乙10)
又は同第5311267号に係る「(第44類)愛玩動物の健康・治療・飼育・美容
に関する情報の提供,愛玩動物の病気の予防に関する情報の提供」
(乙17)などに
該当するものというべきである。
原告は,「愛犬の美容」と「愛犬の食事」が密接な関係にあるとして,「手作りご
はん料理教室」も「愛玩動物の美容の教授」に含まれるサービスであると主張する
が,当該講座の主目的は飼い主に対し愛犬のためのご飯作りの手技を指導するもの
であって,
「ご飯作り」と「美容」はまったく異なる概念であるから,原告の主張は
失当である。同様に,
「手作りごはん料理教室」が「愛玩動物の美容に関するセミナ
ーの企画・運営又は開催」に含まれるサービスであるという原告の主張も失当であ
る。
3 「愛玩動物の看護」につき
前記のとおり,原告が開催している講座はあくまでも「愛犬のためのご飯作り」
を教えるものであって,ご飯作りの手技と看護はまったく異なるものであるから,
当該講座で教授したご飯により愛犬の皮膚病が改善されたとしても,それはあくま
で結果にすぎないと考えるのが妥当である。当該講座が「愛玩動物の看護の教授」
に含まれるサービスであるとの原告の主張は失当であり,「手作りごはん料理教室」
が「愛玩動物の看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」に含まれるサービス
であるという原告の主張も失当である。
第5 当裁判所の判断
1 基本的事実関係
証拠(各項目の末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めること
ができる。
(1) 原告は,愛玩動物の販売,犬具・フードの販売,愛玩動物の美容・ホテル
業等を目的とする株式会社である。(甲23)
(2) 原告は,平成21年(2009年)4月20日,「青山ケンネルスクール
Aoyama Kennel School」との表題部における表示のもと,下記の日に,「愛犬の手づ
くりごはん」の名称で,犬の飼い主向けの教室を開催することをインターネットの
ウェブサイト上に掲載していた(甲29の1・2)。同様の掲載は,平成19年10
月ころから平成23年4月8日までの間もなされていたと認められるところ(甲1
の1~12,2,乙30,弁論の全趣旨),かかる事実からすれば,原告が,「青山
ケンネルスクール」の商標を使用して,下記の日に,
「愛犬の手づくりごはん」の名
称で,犬の飼い主向けの教室を開催していたと認めることができる。
平成20年(2008年)3月30日,4月27日,5月25日,6月29
日,7月27日,8月3日,9月28日,10月26日,11月30日,12
月21日,
平成21年(2009年)1月25日,3月1日,3月7日,5月30日,
6月28日,7月26日,8月30日,9月20日,10月25日,12月1
3日,
平成22年(2010年)2月11日,3月7日,5月30日,6月27日,
7月25日,8月29日,9月23日,10月30日,11月28日,12月
12日
(3) 上記ウェブサイトには,「愛犬の手づくりごはん 料理教室」の紹介とし
て,
「愛犬のための,健康で役立つご飯作りを楽しく学びましょう」「犬や猫に手作

りご飯を与えることが最近見直されてきているようです。手づくりご飯にしてから
毛艶がよくなった! 皮膚病が改善された! お腹の調子が良くなった!などの声
も聞きます。,
」「また,食物アレルギーの犬猫のためには,アレルギーの元になる食
材を使わないことも出来ます。,
」「この講習会では,これから手作りを始めたい方の
為に,ご飯作りのポイントや注意点,給与量の目安などをご説明いたします。」とい
った記載がある。(甲1,2)
(4) 「愛犬の手づくりごはん」教室の授業内容は大きく分けて2種類あり,初
めて受講する者のためのものと,肥満対策,老犬用,疾病改善・予防,夏バテ対策
などの個々のテーマを設定したものとがある。講師は,受講者が記入した調査票に
基づいて事前に個々の受講者向けに資料を作成し,初めて受講する者向けの教室で
は,犬にとって必要な栄養や与えてはいけない食材などの全般的な話をした後,上
記資料に基づき各犬に合わせた食餌の内容を教授しながら受講者全員でご飯を作っ
ていき,テーマを設定した教室では,そのテーマに関する全般的な話をした後,上
記資料を参酌しながら受講者全員でご飯を作るという形で授業を進行させている。
例えば,疾病改善がテーマの場合,糖尿病,アレルギー,癌,腎臓病などの疾病に
応じて,好ましい食材や栄養素,調理方法を教授するなどしている。
(甲39~41)
2 原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室が,「愛玩動物の美容の教授」,
「愛玩動物の美容に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当するかについて
(1) 「美容」とは,「適度の睡眠・食事・便通や洗顔・入浴・運動により常に
健康な素肌を保つことや,女性が髪型を整えたり,肌の若さを保つために手入れを
したりすること」
(新明解国語辞典第5版,甲12)「美しい容貌。容貌・容姿・髪

型を美しくすること」
(広辞苑第4版,乙14),
「顔や体つきを美しくすること」
(大
辞林,乙15)「容姿を美しく整えること。美しい顔かたち」
, (旺文社国語辞典第1
0版,乙16)をいう。
また,美容専門学校であるハリウッドビューティ専門学校が,美容技術(ヘア,
メイクアップ,ネイルケア,エステティック等)とともに美容健康食を含む美容理
論を美容科の必修科目としていること(甲36)や,インターネット上には食事と
美容を結びつけた多数のウェブサイトが存在すること(甲14)に照らすと,美容
を獲得し維持する手段として食事が挙げられることは広く社会一般に受け入れられ
ていると認められる。上記辞書に定義される「美容」の手段にも制限はなく,食事
が挙げられることもある。
そして,人間と犬などの愛玩動物との間で「美容」の意義を異なるものと考え,
愛玩動物の「美容」をグルーミングやトリミングといった被毛の手入れに限定し,
食事を介した美容の概念を排除しなければならない理由はない。また,特許庁商標
課編「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕(乙33)には,第44

類の「人又は動物に関する衛生及び美容」のうち人間に対する「美容」の解説とし
て,
「パーマネントウェーブ,結髪,化粧等の方法により,容姿を美しくするサービ
スです。」旨記載され,「動物の美容」の解説として「このサービスには,トリミン
グやグルーミングといわれる動物に対して行われる美容に関するサービスが含まれ
ます。」と記載されているが,これらの記載から愛玩動物の「美容」をグルーミング
やトリミングといった被毛の手入れに限定しなければならないということもできな
い。したがって,本件商標の指定役務である「愛玩動物の美容の教授」「愛玩動物

の美容に関するセミナーの企画・運営又は開催」から,愛玩動物の被毛の手入れの
みならず,食事(食餌)を介して愛玩動物の美容の獲得・維持する方法の教授,セ
ミナーの開催等が排除されるものではなく,これらも含まれるというべきである。
かかる見地から見るに,前記1の認定事実によれば,原告が開催している「愛犬
手づくりごはん」教室は,犬の飼い主に対し,飼い犬のための健康で役立つ食餌の
作り方を教授するものであるところ,
「手作りご飯にしてから毛艶が良くなった」と
の声があることを教室の紹介の一環として挙げている。毛艶がよくなることは犬の
容貌が良くなることであるから,この点において食餌を通した飼い犬の美容の獲得
を教室の目的及び効果としているということができる。また,愛犬手づくりごはん」

教室では肥満対策をテーマとしたものが開催されているところ,肥満は,愛玩動物
の健康を害するのみならず,美容の点からも好ましくないと一般に考えられている
ことからすれば,肥満対策をテーマとした犬の食餌の作り方の教授も,食餌を介し
た飼い犬の美容の獲得・維持をその内容の一つとしているということができる。
(2) そうすると,原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室は,「愛玩動物
の美容の教授」「愛玩動物の美容に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当

するというべきである。
3 原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室が,「愛玩動物の看護の教授」,
「愛玩動物の看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当するかについて
(1) 「看護」とは,「けが人や病人の手当て・世話をすること。看病。看護の
ための理論と実技を研究する学問」をいうところ(新明解国語辞典第5版,甲15),
けが人や病人の世話をする際,その傷病の内容に応じて食事の内容や提供の仕方に
健康な人とは異なる配慮が必要なことは一般常識である。
かかる見地からみるに,前記1の認定事実によれば,
「愛犬手づくりごはん」教室
では,糖尿病,アレルギー,癌,腎臓病などの疾病に応じて,好ましい食材や栄養
素,調理方法を教授するなどしていることが認められるから,疾患を有する飼い犬
の世話の一環としての食餌の作り方を教授しているということができる。
(2) したがって,原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室は,「愛玩動物
の看護の教授」「愛玩動物の看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当

するというべきである。
4 「ドックサロン ヴェロニカ」との教室名について
被告は,原告が「愛犬手づくりごはん」教室を開催しているとしても,それは「ド
ッグサロン ヴェロニカ」にて行っているのであって,
「青山ケンネルスクール」の
名(商標)で開催されていたとみるべきではないと主張する。
たしかに,
「愛犬手づくりごはん」教室用のチラシ(甲3~8)やこの教室を紹介
した雑誌及び新聞の記事(乙11,12),上記教室の講師の著書(乙13)に「青
山ケンネルスクール」の表記や記載がなく,
「VERONIQUE」の表記や「ヴェ
ロニカ」 ドッグサロン

「 ヴェロニカ」で上記教室が行われている旨の記載がある。
しかし,
「VERONIQUE」や「ドッグサロン ヴェロニカ」は教室の開催場所
とみることなども可能であるし,原告が別の役務標章を使っていたとしても,この
ことは,原告が「青山ケンネルスクール」の表示のもと,「愛犬の手づくりごはん」
の名称で,犬の飼い主向けの教室を開催することをインターネットのウェブサイト
上に掲載し,
「青山ケンネルスクール」の商標を使用して,
「愛犬の手づくりごはん」
の名称で,犬の飼い主向けの教室を開催していたとの前記認定事実と矛盾するもの
ではない。被告の上記主張は,採用することができない。
5 商品及び役務の区分について
被告は,原告が提供する「手作りごはん料理教室」は,第44類に区分すべき「愛
玩動物の栄養の指導」などに該当するから,上記教室が「愛玩動物の美容及び看護
の教授,愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営」に該当しない旨
を主張する。
この点,証拠(乙6~10,17)によれば,
「愛玩動物の栄養の指導」「動物の

食事に関する栄養の指導」「愛玩動物に関する栄養の指導」「愛玩動物の健康・治
, ,
療・飼育・美容に関する情報の提供」を第44類に区分した上,指定役務とした商
標が存在することが認められる。しかし,原告が開催する「手作りごはん料理教室」
が「愛玩動物の栄養の指導」の側面を有していたとしても,このことは,
「手作りご
はん料理教室」が「愛玩動物の美容及び看護の教授,愛玩動物の美容及び看護に関
するセミナーの企画・運営」に該当することと矛盾するものではない。被告の上記
主張は採用することができない。
6 小括
以上のとおりであって,原告は,本件審判請求の登録(平成23年3月23日)
前3年以内に日本国内において本件商標を使用して「愛犬手づくりごはん」教室を
開催していたものであるが,
「愛犬手づくりごはん」教室の開催は,本件商標の使用
役務である「愛玩動物の美容及び看護の教授」,及び「愛玩動物の美容及び看護に関
するセミナーの企画・運営又は開催」を含むものであるから,原告は,本件商標を
取消請求の対象となっている役務に使用していたと認めることができる。したがっ
て,原告による「愛犬手づくりごはん」教室の開催は,
「愛玩動物の美容及び看護の
教授」,及び「愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」に
該当しないから,原告が本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件商
標を上記指定役務に使用していたと証明できていないとして,本件商標の登録中,
上記指定役務についてその登録を取り消すとした審決には誤りがある。
第6 結論
以上より,原告の請求は理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩 月 秀 平
裁判官
真 辺 朋 子
裁判官
田 邉 実

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