令和3(ワ)2736特許使用料請求事件
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裁判所 |
大阪地方裁判所大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
令和4年8月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告新宅工業株式会社 被告有限会社サンワールド川村
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対象物 |
食品の保存方法およびその装置 |
法令 |
特許権
民法545条2項1回
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キーワード |
許諾28回 特許権16回 実施1回
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主文 |
1 被告は、原告に対し、1080万円及びうち756万円に対する平成30年15
3月29日から、うち324万円に対する同年7月30日から各支払済みまで、年
6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨
255号の特許及び発明の名称を「食品の保存方法」とする特許第6095149
2018-53695)を加えた本件特許権等について前記(4)の特許使用許諾契約25
2 争点20
1 非開示特約の有無(争点1)
2 背信行為の有無(争点2)
1 非開示特約の有無(争点1)について15
2 以上によれば、争点2について判断するまでもなく、被告の債務不履行によ |
事件の概要 |
原告は、「食品の保存方法およびその装置」等と題する発明について2件の特許
権を有し、当時、別途特許を出願中(以下、前記2件の特許権及び特許出願中の発25
明を含め、「本件特許権等」という。)であった被告との間で、本件特許権等の使
用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)を締結し、その使用料を支払っ
たが、被告の債務不履行を理由に本件使用許諾契約を解除したと主張し、被告に対
し、解除に伴う原状回復請求として支払済みの特許使用料の返還を求めるとともに、
これに対する同使用料の受領の日(平成30年3月29日及び同年7月30日)か
らの商事法定利率年6分(平成29年法律第45号による改正前のもの。以下「旧5
商法」という。)の割合による利息の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和4年8月25日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和3年(ワ)第2736号 特許使用料請求事件
口頭弁論終結日 令和4年7月12日
判 決
原 告 新 宅 工 業 株 式 会 社
同 代 表 者 代 表 取 締 役
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 小 堀 秀 行
同 太 田 圭 一
被 告 有限会社サンワールド川村
同 代 表 者 取 締 役
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 西 晃
主 文
15 1 被告は、原告に対し、1080万円及びうち756万円に対する平成30年
3月29日から、うち324万円に対する同年7月30日から各支払済みまで、年
6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要等
原告は、「食品の保存方法およびその装置」等と題する発明について2件の特許
25 権を有し、当時、別途特許を出願中(以下、前記2件の特許権及び特許出願中の発
明を含め、「本件特許権等」という。)であった被告との間で、本件特許権等の使
用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)を締結し、その使用料を支払っ
たが、被告の債務不履行を理由に本件使用許諾契約を解除したと主張し、被告に対
し、解除に伴う原状回復請求として支払済みの特許使用料の返還を求めるとともに、
これに対する同使用料の受領の日(平成30年3月29日及び同年7月30日)か
5 らの商事法定利率年6分(平成29年法律第45号による改正前のもの。以下「旧
商法」という。)の割合による利息の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1) 当事者
10 ア 原告は、食品関連機械及び機器の製造、販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、冷凍冷蔵庫の斡旋販売等を目的とする特例有限会社である。
(2) 被告の特許権
被告は、発明の名称を「食品の保存方法およびその装置」とする特許第4932
255号の特許及び発明の名称を「食品の保存方法」とする特許第6095149
15 号の特許に係る各特許権(以下「本件各特許権」という。)を有している。
(3) 業務提携基本契約の締結
原告と被告は、平成30年2月1日、本件各特許権を用いて、被告の抗酸化特殊
冷凍機新「NICE-01」シリーズ(以下「本件機械」という。)の適応用途を
拡大し販売することを目的として、業務提携基本契約を締結した(甲3)。
20 (4) 特許使用許諾契約の締結
原告、被告及び被告の業務委託先であるK&M GBP株式会社(以下「丙」と
いう。)は、平成30年3月1日、本件各特許権について、被告を特許権使用許諾
者、原告を特許権使用者として、次のとおり、特許使用許諾契約を締結した(甲4)。
ア 特許使用料(第3条)
25 特許使用期間中の特許使用料1000万円(消費税別)
イ 支払期限(第3条)
平成30年3月30日までに700万円(消費税別)
平成30年7月31日までに300万円(消費税別)
ウ 技術情報の開示(第8条)
本契約の業務遂行を円滑に進めることを目的として、被告及び丙は、原告の要求
5 があった場合は技術情報を開示しなければならない。
(ア) 原告が、本件各特許権を用いて、機器を製造するための特許技術・電子制御
技術・通電貯蔵タンク・通電ボックス・通電トンネルに関する技術等
(イ) 原告が、本件各特許権を用いて、機器を製造する場合、電子制御部分・機器
製造を委託している企業と直接の技術情報収集を要求した場合、被告及び丙は技術
10 情報収集の場を1カ月以内に設定するものとする。
エ 契約の解除(第10条)
(ア) 原告、被告及び丙は、相手方に重大な過失又は背信行為があった場合、何ら
催告を要せず直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
(イ) 原告、被告及び丙は、相手方に本契約上の義務の不履行があり、相当期間を
15 定めて催告したにもかかわらず是正されない場合は、本契約の全部又は一部を解除
することができる。
オ 契約の有効期間(第15条)
平成30年3月1日から令和3年9月30日まで
(5) 特許使用料の支払
20 原告は、被告に対し、前記(4)の特許使用許諾契約に基づく特許使用料として、平
成30年3月29日に756万円を支払い、同年7月30日に324万円を支払っ
た。
(6) 本件使用許諾契約の締結
原告、被告及び丙は、本件各特許権に被告が出願中であった特許(出願番号特願
25 2018-53695)を加えた本件特許権等について前記(4)の特許使用許諾契約
の対象とすることとし、平成30年12月27日、特許使用許諾書(甲5)により、
再度、特許使用許諾契約(本件使用許諾契約)を締結した。なお、本件使用許諾契
約の有効期間は、前記出願中の特許の特許確定日より3年6か月とされた(甲5)。
(7) 催告
原告は、令和2年12月28日及び令和3年1月28日、被告に対し、本件使用
5 許諾契約に基づき、①電子制御盤の電気回路図、電子制御盤製作及び利用の注意点、
システム回路図等、原告が電子制御盤を製造するために必要な技術情報(以下「本
件技術情報」という。)の開示、②原告が、直接、被告が電子制御機器の製造を委
託している企業から技術情報を収集する場を設定することを求めたが、被告はこれ
らに応じない。
10 (8) 解除の意思表示
ア 原告は、被告に対し、令和3年3月31日に被告に送達された本訴状をもっ
て、本件使用許諾契約を解除する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。
イ 原告は、令和4年7月12日の第1回弁論準備手続期日において、被告に対
し、被告に重大な背信行為があったことを理由に、本件使用許諾契約を解除する旨
15 の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。
(9) 被告の元代表取締役の死亡
被告の代表取締役であったP1氏は、令和3年6月28日、死亡した。
被告のもう一名の代表取締役は同年7月1日に辞任し、唯一の取締役が現代表者
である。
20 2 争点
(1) 非開示特約の有無(争点1)
(2) 背信行為の有無(争点2)
第3 争点についての当事者の主張
1 非開示特約の有無(争点1)
25 (被告の主張)
被告は、土佐電子工業株式会社(以下「土佐電子」という。)との間で、本件特
許権等を含む被告保有の特許技術について、業務委託契約を締結したところ、被告
の代表取締役であったP1氏は、本件使用許諾契約を締結する際、原告の会長であっ
たP2氏との間で、被告と土佐電子との間の秘密保持契約に基づく情報秘匿義務が
あることから、製造技術に関するCоre部分に関しては、本件使用許諾契約に係
5 る原告への技術情報開示の対象に含めない旨の口頭での合意をした(以下「非開示
特約」という。)。
本件使用許諾契約において、当初は、本件機械を土佐電子が製造する旨の文言が
あったが、内容調整の段階で、P2氏(原告会長)から、当該文言を削除してほし
いとの依頼があり、P1氏がこれに応じたという経緯があった。
10 本件使用許諾契約締結後、関係者間において協議が行われ、被告は、原告に対し、
被告の保有している技術情報を開示していたが、ある段階から、原告は、被告に対
し、原告が本件機械を開発することを前提として、本件機械を実用化し、製造する
ための本件技術情報の開示を求めるようになった。しかし、本件技術情報は、非開
示特約のCоre部分に該当する情報を含むものである。
15 したがって、仮に、被告において開示していない技術情報があったとしても、そ
れには正当な事由が存在するから、被告の行為は債務不履行には該当しない。
(原告の主張)
P2氏は、P1氏から、非開示特約に関する話は一切聞いておらず、そのような
口頭合意は存在しない。
20 原告は、原告自身が業者に委託するなどして制御盤を製造することも考えていた
ことから、被告から製造技術に関するCоre部分というものがあり、それは土佐
電子との関係で秘匿義務があるから開示の対象とならないとの説明を受けていれば、
被告との間で本件使用許諾契約を締結することはあり得ない。
また、本件使用許諾契約に係る契約書を作成したのは被告側であるところ、同契
25 約書の技術情報開示条項に、「Cоre部分の開示は除く」等の開示情報に関する
例外規定がない以上、非開示特約の存在は認められない。
2 背信行為の有無(争点2)
(原告の主張)
仮に、技術情報不開示を理由とする原告からの債務不履行解除が認められないと
しても、被告が、土佐電子との間で業務委託契約を締結し、土佐電子に対し、被告
5 保有の全ての特許技術の利用に関する権限を与えたことは、原告に対する背信行為
に該当する。
(被告の主張)
被告が、土佐電子との間で業務委託契約を締結したのは、P1氏亡きあと、何と
か被告の経営を再建して、会社倒産による損害を防ぐためにとった防衛措置である。
10 また、被告保有の特許技術の利用に関する権限を土佐電子に与えたとしても、原
告に対する専用実施権が消滅するわけではなく、本件使用許諾契約は存続している
から、原告はいつでも本件機械をビジネス化することが可能である。
したがって、被告の行為は原告に対する背信行為には該当しない。
第4 当裁判所の判断
15 1 非開示特約の有無(争点1)について
被告は、本件使用許諾契約を締結する際、P1氏とP2氏との間で、非開示特約
を口頭で締結した旨を主張する。
しかし、非開示特約を直接裏付ける証拠はない。前提事実(4)及び(6)のとおり、
本件使用許諾契約は、書面(甲5)によりなされており、原告の要求があった場合、
20 被告及び丙において、原告が本件機械を製造するために必要な技術情報を開示する
義務が生じる旨の技術情報開示に関する条項(第8条)が存在するところ、仮に、
被告と土佐電子との間で秘密保持契約に基づく情報秘匿義務が存在したのであれば、
その旨を本件使用許諾契約の契約書上明記しておくのが通常であると考えられ、全
証拠を精査しても、これを阻害するような事情があったとは認められない。そうで
25 あるにもかかわらず、非開示特約については口頭で合意をしたということ自体が不
自然である。また、前提事実(7)のとおり、原告は、被告に対し、本件技術情報の開
示等を求めたが、被告は、本訴訟に至るまでの間において、原告に対し、非開示特
約の存在について言及等したことはうかがえない。さらに、そもそも、被告と土佐
電子間の業務委託契約や秘密保持契約の存在を裏付ける客観的証拠は提出されてお
らず、また、技術情報のCore部分の内容自体が判然とせず不明確であるといわ
5 ざるを得ない。
以上の諸事情に照らすと、非開示特約があったとは認めるに足りない。
2 以上によれば、争点2について判断するまでもなく、被告の債務不履行によ
り本件使用許諾契約が解除されたとして支払済みの特許使用料の返還を求める原告
の請求は理由があり、この場合、被告は、民法545条2項により、特許使用料の
10 受領の時からの利息を付さなければならず、本件使用許諾契約は株式会社が令和2
年4月1日以前に締結したものであるから、その利率は旧商法所定年6分の割合と
なる。
よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。
15 大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
20 武 宮 英 子
裁判官
25 杉 浦 一 輝
裁判官
峯 健 一 郎
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