令和3(行ケ)10074審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年9月7日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告高砂工業株式会社 被告株式会社IHI
株式会社IHI機械システム
|
対象物 |
真空洗浄装置および真空5洗浄方法 |
法令 |
特許権
特許法39条2項2回
|
キーワード |
実施109回 審決56回 進歩性14回 無効13回 新規性10回 無効審判2回 優先権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 |
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判決文
令和4年9月7日判決言渡
令和3年(行ケ)第10074号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年6月22日
判 決
原 告 高 砂 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 小 野 寺 良 文
同 佐 々 木 奏
10 同 平 田 憲 人
同 對 馬 陸
同訴訟代理人弁理士 木 村 秀 二
被 告 株 式 会 社 I H I
被 告 株式会社IHI機械システム
上記両名訴訟代理人弁護士 牧 野 知 彦
20 同 加 治 梓 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
25 第1 請求
特許庁が無効2020-800066号事件について令和3年5月7日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
5 ⑴ 被告らは、平成28年7月26日、その名称を「真空洗浄装置および真空
洗浄方法」とする発明について特許出願(特願2016-146784号。
平成24年11月20日〔優先権主張 平成23年11月25日〕を国際出
願日とする特願2013-545937号の一部を平成27年2月6日に新
たな特許出願とした特願2016-142767号の一部を新たに特許出願
10 として行われたもの。以下「本件出願」という。)をし、平成28年11月1
8日、その設定登録(特許第6043888号、請求項の数5)を受けた(以
下、この登録に係る特許を「本件特許」という。 。
)
⑵ 原告は、令和2年7月3日、本件特許の請求項1ないし5に係る発明につ
いて特許無効審判請求(無効2020-800066号)をした。
15 特許庁は、令和3年5月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との
審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月13日、原告に送
達された。
⑶ 原告は、令和3年6月10日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起
した。
20 2 特許請求の範囲の記載
本件特許の請求項1ないし5発明(以下、項番号順に「本件発明1」のよう
にいい、本件発明1ないし5を併せて「本件発明」という。)に係る特許請求の
範囲の記載は、次のとおりである(構成要件の番号は本件審決が付したもの。 。
)
⑴ 本件発明1
25 A 真空ポンプと、
B 石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
C 前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生
成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
D 前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室
と、
5 E 前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
F 前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開
閉バルブと、を備え、
G 前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブ
によって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮
10 室と連通させてワークを乾燥させる
H ことを特徴とする真空洗浄装置。
⑵ 本件発明2
I 前記温度保持手段は、
前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持することを特徴
15 とする請求項1記載の真空洗浄装置。
⑶ 本件発明3
J 前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮
室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備えることを特徴とす
る請求項2記載の真空洗浄装置。
20 ⑷ 本件発明4
K 前記洗浄室に接続され、前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油
系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備えることを特徴とする請
求項1~3のいずれかに記載の真空洗浄装置。
⑸ 本件発明5
25 L 真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該
洗浄室を減圧する工程と、
M 石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給
して前記ワークを洗浄する工程と、
N 減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
O 前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁するこ
5 とにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮
室と連通させてワークを乾燥させる工程と、
P を含む真空洗浄方法。
3 本件審決の理由の要旨(本件訴訟に関連する部分に限る。無効理由2,5及
び7に係る判断については取消事由とされていない。)
10 本件審決は、①本件発明1ないし5は、甲第1号証「特開2000-160
378号公報」(以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発
明」といい、以下の各文献に記載された発明についても同様に表記する。)と、
甲第2号証「特開平6-220672号公報」
(以下「甲2文献」という。 、甲
)
第3号証「特開平3-26383号公報」
(以下「甲3文献」という。 、甲第4
)
15 号証「特開2000-51802号公報」
(以下「甲4文献」という。 、甲第5
)
号証「仏国特許出願公開第2698558号明細書」以下
( 「甲5文献」という。 、
)
甲第6号証「欧州特許出願公開第1249263号明細書」(以下「甲6文献」
という。、
) 甲第7号証「特開2000-334402号公報」
(以下「甲7文献」
という。 若しくは甲第8号証
) 「米国特許第5045117号明細書」
(以下「甲
20 8文献」という。 に各記載された発明又は周知技術とを組み合わせて当業者が
)
容易に発明することができたものとはいえない(無効理由1について)、②ⅰ)
本件発明1ないし3は、
「HWBV-3N」型真空脱脂洗浄機(以下「実施品1」
という。)として公然実施された発明(以下「実施品1発明」という。)ではな
い、ⅱ)本件発明1ないし3、5は、実施品1発明に基づいて当業者が容易に
25 発明することができたものとはいえない、ⅲ)本件発明4は、実施品1発明及
び周知技術との組み合わせにより当業者が容易に発明することができたとはい
えない(無効理由3について) ③本件発明1ないし5は、
、 「HWBV-3VS」
型真空脱脂洗浄機(以下「実施品2」という。)として公然実施された発明(以
下「実施品2発明」という。)ではない、ⅱ)本件発明1ないし5は、実施品2
発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない(無効理
5 由4について) ④本件発明1ないし5は、
、 特許第5976858号の請求項1
ないし5の発明(以下、請求項の番号に従って「甲21発明1」 「甲21発明
、
2」のようにいい、甲21発明1ないし甲21発明5を併せて「甲21発明」
という。)と同一の発明ではないから、先願の要件(特許法39条2項)に違反
するものではない(無効理由6について)旨判断した。
10 それぞれの論点に関する本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。
⑴ 本件発明について
ア 特許請求の範囲の記載によると、①本件発明1における凝縮室に対して、
「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態が保持され」
(構成要
件D) 「前記洗浄室よりも低い温度に保持」
、 (構成要件E)され、「前記開
15 閉バルブによって前記洗浄室」「と連通させてワークを乾燥させる」(構成
要件G)ことが、この順で処理が行われるものと解され、②本件発明5に
おける凝縮室に対して、凝縮室を減圧する工程(構成要件L)、減圧下にあ
る前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程(構成要件N)、
前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通
20 させてワークを乾燥させる工程(構成要件O)の順に実行されるものと解
される。
イ 特許請求の範囲の記載や本件発明に係る明細書及び図面(以下「本件明
細書」という。)の記載(【0005】【0006】【0023】ないし【0
、 、
031】)を考慮すると、本件発明1及び5は、ワークの乾燥に要する時間
25 を短縮して全体の処理能力を向上するために、減圧の状態に保持され、洗
浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と、洗浄室とを、開閉バルブによ
って連通させることにより、洗浄室から凝縮室に蒸気を移動させ、凝縮室
内で蒸気を凝縮させてワークを乾燥させるという技術思想(以下「凝縮に
より乾燥させる技術思想」という。)に基づくものといえる。
⑵ 引用発明の認定について
5 ア 甲1発明
甲1文献から、次のとおりの物の発明(以下「甲1発明1」という。)と
方法の発明(以下「甲1発明2」という。)が認められる。
甲1発明1の認定
バキュームポンプ14と、
10 洗浄液7を蒸気化する蒸気発生部4と、
前記蒸気発生部4との連通状態で、前記バキュームポンプ14が作動
して減圧され、この減圧によって前記洗浄液7の沸点が低下して前記蒸
気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し、被洗浄物5と接触して凝縮す
る事により減圧蒸気洗浄が行われる蒸気洗浄部3と、
15 前記減圧蒸気洗浄が行われる際、前記蒸気発生部4と前記蒸気洗浄部
3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、また、乾燥処
理を行う際、前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14に
より減圧され、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し、
凝縮液化する凝縮器15と、
20 冷却水が流通するとともに、前記凝縮器15の内部に挿通され、前記
凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にする冷却パイプ9と、
前記凝縮器15と前記蒸気洗浄部3との間に介在する第1電磁弁17
と、を備え、
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗
25 浄した後、前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁
して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5
に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3
内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器
15に移動し、凝縮液化する
洗浄装置。
5 甲1発明2の認定
蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を
作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1
電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程と、
洗浄液7を蒸気化し、洗浄蒸気が減圧の状態の前記蒸気洗浄部3に流
10 動して前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程と、
凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工
程と、
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗
浄した後、前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁
15 して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5
に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3
内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器
15に移動し、凝縮液化する工程と、
を含む洗浄方法。
20 イ 実施品1発明
実施品1から、次のとおりの物の発明(以下「実施品1発明1」という。)
と方法の発明(以下「実施品1発明2」という。)が認められる。
実施品1発明1の認定
真空ポンプと、
25 石油系溶剤の溶剤蒸気を発生させる蒸気発生槽と、
前記真空ポンプによって減圧した後、洗浄室とアフタークーラの間に
介在する洗浄室メイン真空弁を閉弁し、ダンパーを開弁して前記蒸気発
生槽で発生した前記溶剤蒸気を内部に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充
満してワークの蒸気洗浄を行う洗浄室と、
前記洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空
5 ポンプによって常時減圧される前記アフタークーラと、
前記溶剤蒸気が凝縮される前記アフタークーラに内蔵され、水を媒体
とする熱交換器と、
前記洗浄室と前記アフタークーラの間に介在され、開弁し、または閉
弁する前記洗浄室メイン真空弁と、を備え、
10 蒸気洗浄が終了した後、前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗
浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これに
より前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、
前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶
剤蒸気が凝縮される、
15 真空脱脂洗浄機。
実施品1発明2の認定
真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが
搬送された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄
室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、蒸気洗浄中において前記
20 洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される前記真空ポ
ンプにより前記アフタークーラを常時減圧する工程と、
石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引
し、内部に前記溶剤蒸気が充満して前記ワークの蒸気洗浄を行う工程と、
常時減圧される前記アフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱
25 交換器の温度を、前記アフタークーラによって前記溶剤蒸気を凝縮可能
なものとする工程と、
前記洗浄室において前記ワークの蒸気洗浄が終了した後、前記洗浄室
メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポン
プに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着
した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前
5 記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される工程と、
を含む真空脱脂洗浄方法。
ウ 実施品2発明
実施品2から、次のとおりの物の発明(以下「実施品2発明1」という。)
と方法の発明(以下「実施品2発明2」という。)が認められる。
10 実施品2発明1の認定
真空ポンプと、
石油系溶剤の溶剤蒸気を発生させる蒸気発生室と、
前記真空ポンプによって減圧した後、洗浄室とアフタークーラの間に
介在する洗浄室メイン真空弁を閉弁し、次に前記蒸気発生室で発生した
15 前記溶剤蒸気を内部に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満してワークの
蒸気洗浄を行い、蒸気洗浄後に浸漬洗浄を行う洗浄室と、
前記洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空
ポンプによって常時減圧される前記アフタークーラと、
前記溶剤蒸気が凝縮される前記アフタークーラに内蔵され、水を媒体
20 とする熱交換器と、
前記洗浄室と前記アフタークーラの間に介在され、開弁し、または閉
弁する前記洗浄室メイン真空弁と、を備え、
蒸気洗浄後の浸漬洗浄が終了した後、前記洗浄室メイン真空弁を開弁
して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出
25 され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気とな
って排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラに
よって、前記溶剤蒸気が凝縮される、
真空脱脂洗浄機。
実施品2発明2の認定
真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが
5 搬入された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄
室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、浸漬室から前記洗浄室へ
前記ワークの移動中において前記洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その
間継続的に運転される前記真空ポンプにより前記アフタークーラを常時
減圧する工程と、
10 石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引
し、内部に前記溶剤蒸気が充満して前記ワークの蒸気洗浄を行う工程と、
常時減圧される前記アフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱
交換器の温度を、前記アフタークーラによって前記溶剤蒸気を凝縮可能
なものとする工程と、
15 前記洗浄室において前記ワークの蒸気洗浄後に浸漬室での浸漬洗浄が
終了した後、前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記
溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄
室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワーク
が乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝
20 縮される工程と、
を含む真空脱脂洗浄方法。
⑶ 甲1発明に基づく進歩性欠如(無効理由1)の有無について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1との相違点
25 a 相違点1-1
溶剤について、本件発明1は「石油系溶剤」であるのに対し、甲1
発明1の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。
b 相違点1-2
ワークの乾燥について、本件発明1は、
「当該減圧の状態が保持され
る」凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通
5 させて」乾燥させているのに対し、甲1発明1は、バキュームポンプ
14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄
液7を乾燥させており、第1電磁弁17によって蒸気洗浄部3を当該
減圧の状態が保持された凝縮器15と連通させて乾燥させているとは
いえない点。
10 相違点1-2の容易想到性について
a 甲3発明の洗浄槽2、密閉容器26、開閉弁28、蒸留器12の構
成は、洗浄作業後に、汚れを吹き飛ばし、その後、洗浄槽内から有機
溶剤蒸気の排出を迅速に行なうための構成であり、 凝縮により乾燥さ
「
せる技術思想」については何ら開示されていない。また、甲3発明の
15 密閉容器26は、有機溶剤蒸気を導入して内部で凝縮液化させ、その
結果、内部の圧力を低下させるもので、真空ポンプによって減圧され、
当該減圧の状態が保持されるものではない。
そうすると、甲1発明1に甲3発明を適用しても、相違点1-2に
係る構成にはならない。
20 b 甲4文献には、真空ポンプ10を用いなくても乾燥処理が行えるこ
とは記載されておらず、甲4発明において、乾燥処理における溶剤蒸
気の移動(排気)又は減圧タンク1と冷却タンク6との間の差圧関係
の維持は、真空ポンプ10による減圧効果を必須とするものといえ、
減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気Bを差圧吸引するとの条件下にお
25 いて、加熱コイル13に加熱オイルを流通させ、減圧タンク1内のワ
ークを乾燥処理するものであるから、 凝縮により乾燥させる技術思想」
「
については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲4発明を適用しても、相違点1-2に
係る構成にはならない。
c 甲5発明の凝縮器4での凝縮が、チャンバー1からの溶剤の排出に
5 一部寄与しているとはいえるものの、甲5発明は、真空ポンプを用い
てチャンバー1から溶剤を排出することを前提としているから、 凝縮
「
により乾燥させる技術思想」については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲5発明を適用しても、相違点1-2に
係る構成にはならない。
10 d 甲6発明の凝縮器8、弁15、真空ポンプ18、圧縮機20等の構
成は、洗浄ステップの終了後、溶剤の一部を再び蓄え容器28に供給
するための構成であり、また、甲6発明では、弁15が開放されて一
部の溶剤蒸気の凝縮を行った後、第2の真空ポンプ18及び圧縮機2
0を用いて、まだ作業チャンバ4内に存在している残りの溶剤蒸気を
15 吸引し、完全に凝縮させており、弁15の開放により溶剤蒸気の回収
が完了するわけではないから、
「凝縮により乾燥させる技術思想」につ
いては、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲6発明を適用しても、相違点1-2に
係る構成にはならない。
20 e 甲7発明においては、真空ポンプ6を作動させ、蒸気洗浄槽真空引
きバルブ18を開いて、真空乾燥を行い、凝縮器4で溶剤蒸気の凝縮
回収を行うものであり、 凝縮により乾燥させる技術思想」
「 については、
何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲7発明を適用しても、相違点1-2に
25 係る構成にはならない。
f 甲8発明においては、バルブ33及び35が開かれ、真空ポンプ1
6により処理チャンバから空気が再度吸い出され、これにより、溶剤
が蒸発して処理室12から排出され、ラック72上の配線アセンブリ
に溶剤物質が存在しなくなり、その過程において、コールドトラップ
20において溶剤が凝縮するものであり、 凝縮により乾燥させる技術
「
5 思想」については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲8発明を適用しても、相違点1-2に
係る構成にはならない。
g 前記aないしfのとおり、甲3文献ないし甲8文献には「凝縮によ
り乾燥させる技術思想」は開示されていないし、実施品1及び実施品
10 2も、洗浄室内の溶剤蒸気が真空ポンプに吸引され、排出され、これ
により洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワ
ークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって溶剤蒸気が凝縮さ
れるのであるから、
「凝縮により乾燥させる技術思想」は開示されてお
らず、またその点は周知技術とはいえない。
15 そうすると、甲1発明1に、これらに代表されるとする原告主張の
周知技術(以下「本件周知技術」という。)を適用しても相違点1-2
に係る構成にはならない。
以上から、本件発明1は、甲1発明1に基づいて当業者が容易に発明
することができたとはいえない。
20 イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであ
るから、少なくとも相違点1-2において本件発明2ないし4と甲1発明
1とは相違するところ、相違点1-2に係る発明特定事項とすることが容
易に想到できるものではない以上、本件発明2ないし4もまた当業者であ
25 っても容易に発明できるものではない。
ウ 本件発明5について
本件発明5と甲1発明2との相違点
a 相違点1-3
溶剤について、本件発明5は「石油系溶剤」であるのに対し、甲1
発明2の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。
5 b 相違点1-4
ワークの乾燥について、本件発明5は、
「減圧下にある」凝縮室を洗
浄室よりも低い温度に保持する工程とを備え、開閉バルブを開弁する
「
ことにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているの
に対し、甲1発明2は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁
10 17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させており、第
1電磁弁17を開弁することにより蒸気洗浄部3を減圧下にある凝縮
器15と連通させて乾燥させているとはいえない点。
相違点1-4の容易想到性について
前記ア のとおり、甲3文献ないし甲8文献には「凝縮により乾燥さ
15 せる技術思想」は開示されておらず、またその点は周知技術ともいえな
いから、甲1発明2に甲3発明ないし甲8発明のいずれかを適用し、又
は本件周知技術を適用しても、相違点1-4に係る構成にはならない。
小括
以上から、本件発明5は、甲1発明2に基づいて当業者が容易に発明
20 することができたとはいえない。
⑷ 実施品1発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如(無効理由3)の有無につ
いて
ア 本件発明1について
本件発明1と実施品1発明1との相違点
25 (相違点3-1)
ワークの乾燥について、本件発明1は、開閉バルブによって洗浄室を
「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、実施品1発明1
は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプ
に吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が
蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラに
5 よって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、洗浄室メイン真空弁を開弁
することにより洗浄室をアフタークーラと連通させて乾燥させていると
はいえない点。
相違点3-1について
実施品1発明1は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空
10 弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出さ
れ、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出さ
れ、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が
凝縮されるのであって、
「凝縮により乾燥させる技術思想」に基づくもの
ではない。
15 そうすると、相違点3-1は本件発明1と実施品1発明1との実質的
な相違点であり、本件発明1は実施品1発明1ではない。
そして、本件発明1の相違点3-1に係る発明特定事項について、前
記⑶ア のとおり、甲3文献ないし甲8文献には「凝縮により乾燥させ
る技術思想」は開示されておらず、またその点は周知技術ともいえない
20 から、相違点3-1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できる
ものではない。
小括
以上から、本件発明1は、実施品1発明1ではなく、また、実施品1
発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
25 イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであ
るところ、少なくとも相違点3-1において本件発明2ないし4と実施品
1発明1とは相違するから、本件特許発明2及び3は、実施品1発明1で
はない。そして、相違点3-1に係る発明特定事項とすることを容易に想
到できるものではない以上、本件発明2ないし4もまた当業者であっても
5 容易に想到できるものではない。
ウ 本件発明5について
本件発明5と実施品1発明2との相違点
(相違点3-2)
ワークの乾燥について、本件発明5は、
「開閉バルブを開弁すること
10 により」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対
し、実施品1発明2は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の
溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内の
ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、そ
の過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、
15 洗浄室メイン真空弁を開弁することにより洗浄室をアフタークーラと
連通させて乾燥させているとはいえない点。
相違点3-2について
実施品1発明2は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空
弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出さ
20 れ、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出さ
れ、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が
凝縮されるのであって、
「凝縮により乾燥させる技術思想」に基づくもの
ではない。
そうすると、相違点3-2は、本件発明5と実施品1発明2との実質
25 的な相違点である。そして、本件発明5の相違点3-2に係る発明特定
事項について、前記⑶ア のとおり、甲3文献ないし甲8文献には「凝
縮により乾燥させる技術思想」が開示されておらず、またその点は周知
技術ともいえないから、相違点3-2係る発明特定事項とすることを容
易に想到できるものではない。
小括
5 以上から、本件発明5は、実施品1発明2に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものではない。
⑸ 実施品2発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如(無効理由4)の有無につ
いて
ア 本件発明1について
10 本件発明1と実施品2発明2との相違点
(相違点4-1)
ワークの乾燥について、本件発明1は、開閉バルブによって洗浄室を
「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、実施品2発明1
は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプ
15 に吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が
蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラに
よって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、洗浄室メイン真空弁を開弁
することにより洗浄室をアフタークーラと連通させて乾燥させていると
はいえない点。
20 相違点4-1について
実施品2発明1は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空
弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出さ
れ、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出さ
れ、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が
25 凝縮されるのであって、
「凝縮により乾燥させる技術思想」に基づくもの
ではない。
そうすると、相違点4-1は本件発明1と実施品2発明1との実質的
な相違点であり、本件発明1は、実施品2発明1ではない。
そして、本件発明1の相違点4-1に係る発明特定事項について、前
記⑶ア のとおり、甲3文献ないし甲8文献には「凝縮により乾燥させ
5 る技術思想」が開示されておらず、またその点は周知技術ともいえない
から、相違点4-1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できる
ものではない。
イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであ
10 るところ、少なくとも相違点4-1において本件発明2ないし4と実施品
2発明1とは相違するから、本件発明2ないし4は、実施品2発明1では
ない。そして、相違点4-1に係る発明特定事項とすることを容易に想到
できるものではない以上、本件発明2ないし4もまた当業者であっても容
易に想到できるものではない。
15 ウ 本件発明5について
本件発明5と実施品2発明2との相違点
相違点4-2
ワークの乾燥について、本件発明5は、
「開閉バルブを開弁することに
より」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、
20 実施品2発明2は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸
気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに
付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でア
フタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、洗浄室メイ
ン真空弁を開弁することにより洗浄室をアフタークーラと連通させて乾
25 燥させているとはいえない点。
相違点4-2について
実施品2発明2は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空
弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出さ
れ、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出さ
れ、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が
5 凝縮されるのであって、
「凝縮により乾燥させる技術思想」に基づくもの
ではない。
そうすると、少なくとも相違点4-2は、本件発明5と実施品2発明
2との実質的な相違点である。そして、本件発明5の相違点4-2に係
る発明特定事項について、前記⑶ア のとおり、甲3文献ないし甲8文
10 献には「凝縮により乾燥させる技術思想」が開示されておらず、またそ
の点は周知技術ともいえないから、相違点4-2に係る発明特定事項と
することを容易に想到できるものではない。
小括
以上から、本件発明5は、実施品2発明2ではなく、また、実施品2
15 発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
⑹ 先願の要件違反(無効理由6)の有無について
ア 本件発明1ないし4について
本件発明1ないし4と甲21発明1ないし4との相違点
(相違点6-1)
20 真空ポンプによって減圧の状態が保持される凝縮室について、本件発
明1は、洗浄室との関係が特定されていないのに対し、甲21発明1は、
「前記洗浄室とは独立して減圧され」ることが特定されている点。
相違点6-1について
甲21発明1においては、凝縮室が洗浄室とは独立して減圧される構
25 成により、凝縮室の減圧がより効率良く行えることは明らかであり、当
該構成は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえないから、
相違点6-1は実質的な相違点であり、本件発明1と甲21発明1とが、
実質的に同一の発明であるとすることはできない。
イ 本件発明5について
本件発明5と甲21発明5との相違点
5 a 相違点6-2
凝縮室について、本件発明5は、洗浄室との配置関係が特定されて
いないのに対し、甲21発明5は、
「洗浄室に隣接した」ものであるこ
とが特定されている点。
b 相違点6-3
10 真空ポンプを用いることにより洗浄室および減圧室を減圧する工程
について、本件発明5は、洗浄室と減圧室との関係が特定されていな
いのに対し、甲21発明5は、
「独立して減圧する」ことが特定されて
いる点。
相違点6-2について
15 洗浄室と凝縮室とが隣接していることにより、配管による損失が小さ
くなり、全体の処理能力を向上することができることは明らかであるか
ら、相違点6-2は、課題解決のための具体化手段における微差とはい
えず、実質的な相違点である。
相違点6-3について
20 凝縮室及び減圧室の減圧が、各々独立して行われる構成により、凝縮
室の減圧がより効率良く行えることは明らかであるから、相違点6-3
は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえず、実質的な相
違点である。
小括
25 以上から、本件発明5と甲21発明5とが、実質的に同一の発明であ
るとすることはできない。
4 取消事由
⑴ 甲1発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由1)
⑵ 実施品1発明に基づく新規性・進歩性判断の誤り(取消事由2)
⑶ 実施品2発明に基づく新規性・進歩性判断の誤り(取消事由3)
5 ⑷ 先願の要件違反に関する判断の誤り(取消事由4)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
ア 本件発明の認定の誤り(取消事由1ないし3について共通)
10 以下のとおり、構成要件Gの「連通させてワークを乾燥させる」に関す
る本件審決の解釈は誤っている。
本件審決は、構成要件Gの「連通させてワークを乾燥させる」を、
「ワ
ークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するために、
減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と、
15 洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることにより、洗浄室から凝
縮室に蒸気を移動させ、凝縮室内で蒸気を凝縮させてワークを乾燥させ
るという技術思想」
(「凝縮により乾燥させる技術思想」 と限定している
)
が、その内容は不明確であり、そのように限定した根拠は不明であり、
そのように限定的に解釈する理由もない。
20 構成要件Gは、「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した
後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に
保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」と規定すると
ころ、
「連通させてワークを乾燥させる」とは、ワークの乾燥が、開閉バ
ルブの開弁によって凝縮室の内部空間と洗浄室の内部空間とが連結され
25 た状態で行われることであり、この理解の範囲で意味内容も明確である
から、その文言のとおりの意義に解されるべきであり、それ以上に限定
的に解釈する必要はない。
本件審決は、サポート要件に対する判断の中で、本件発明にはワーク
の乾燥において真空ポンプを併用する態様を含むとしているが、 連通さ
「
せてワークを乾燥させる」の技術的意義の特定としては不明確なままで
5 ある。
本件審決は、乾燥と溶剤蒸気の回収を区別しているが、誤りである。
密閉された洗浄室(乾燥室)から溶剤蒸気を排気することでワークの
乾燥が行われるところ、溶剤蒸気の回収もまた、密閉された洗浄室から
溶剤蒸気を排気し、かつ、外部に溶剤蒸気を漏らさないように収集する
10 ことにより行われる。すなわち、溶剤蒸気を洗浄室から排気し、回収す
れば、ワークの乾燥が必ず生じる。回収はするが乾燥はしないというこ
とはあり得ないから、回収と乾燥を区別する意味はなく、溶剤蒸気の回
収がワークの乾燥を兼ねていることは明らかである。
イ 相違点1-2の容易想到性判断の誤り
15 甲3発明について
a 本件審決は、甲3発明は凝縮により乾燥させる技術思想を開示する
ものではない旨判断した。
しかしながら、甲3発明は、
「凝縮室」である密閉容器26を事前に
減圧してその減圧の状態を保持しておき、その後、
「開閉バルブ」であ
20 る第一の開閉弁28を開くことで、洗浄槽2と密閉容器26との圧力
差によって溶剤蒸気が密閉容器26へ移動し、しかも、密閉容器26
に移動した溶剤蒸気は凝縮されるので密閉容器26の圧力を上昇させ
ず、溶剤蒸気の移動が継続するとしており(甲3文献4頁右上欄16
行目ないし5頁左上欄6行目) 甲3発明の密閉容器26は、
、 洗浄糟2
25 とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室であり、
第一の開閉弁28によって洗浄槽2を密閉容器26と連通させて乾燥
させているから、真空ポンプを必須とせずに、凝縮室での溶剤蒸気の
凝縮を利用して洗浄室を排気し、ワークを乾燥させるとの「凝縮によ
り乾燥させる技術思想」を開示している。
なお、甲3文献には、
「即ち、本発明の洗浄装置に於いて、洗浄後に
5 洗浄槽2内に残留する有機溶剤蒸気を排出する場合には、 (4頁左下
」
欄7行目ないし右下欄10行目)との記載の後に、
「この洗浄槽2内に
収納された被洗浄物に付着した有機溶剤の液滴が突沸し、この被洗浄
物の表面に付着した汚れを吹き飛ばし」4頁右下欄11ないし18行
(
目)と記載されているから、
「突沸」とは洗浄後に行われている被洗浄
10 物の乾燥作用に他ならない。被告らが指摘する箇所にある「続いて行
なわれる洗浄作業による洗浄効果を向上させる。 (4頁右下欄11な
」
いし18行目)との記載は、急激な乾燥現象に付随する副次的な洗浄
効果を説明したものにすぎない。
b 本件審決は、甲3発明の密閉容器26は真空ポンプによって減圧さ
15 れ、当該減圧の状態が保持されるものではない旨判断した。
しかしながら、相違点1-2は、「ワークの乾燥について、本件発
明1は『前記洗浄室とは独立して』減圧され、『当該減圧の状態が保
持される』凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を『前記凝縮室
と連通させて』乾燥させている」としているものであり、この中に
20 は、凝縮室の減圧の状態を保持する手段が真空ポンプであることは含
まれていない。
それを措くとしても、甲3発明は、密閉容器26をあらかじめ減圧
しておき、乾燥時に洗浄槽2内の溶剤蒸気を密閉容器26に吸い込み、
かつ、冷却して次々と凝縮液化することで、この吸引を継続させる乾
25 燥方式であるところ(3頁左下欄5行目ないし右下欄14行目) 密閉
、
容器26の減圧手段として、周知技術である真空ポンプを用いた減圧
を採用するか、溶剤蒸気の凝縮を利用した減圧を採用するかは、当業
者が適宜選択可能な設計事項にすぎない。
さらに、甲3文献には、洗浄に関する構成及び機能については1頁
右欄17行目ないし2頁左下欄12行目及び第3図に開示された従来
5 技術と同様であることが記載されており(4頁右上欄16行目ないし
左下欄6行目)、その第3図には、第1図の真空ポンプ13、洗浄槽2
に対応する構成として同じ符号が付された真空ポンプ13、洗浄槽2
が図示されており、その上で、
「被洗浄物17の洗浄を行なう場合、蓋
1を開いてこの被洗浄物17を洗浄槽2の内部に収納した後、上記蓋
10 1を閉じてから真空ポンプ13を運転し、排気管15を通じて、この
洗浄槽2内の空気を排出する。 (1頁右欄17行目ないし2頁左下欄
」
12行目)との記載があるから、甲3文献には、洗浄槽2が真空ポン
プ13によって減圧されることが開示されている。
甲4発明について
15 a 本件審決は、甲4発明は「凝縮により乾燥させる技術思想」を開示
するものではない旨判断した。
しかしながら、甲4発明の冷却タンク6は、減圧タンク1とは独立
して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室であり、バルブ2
9によって減圧タンク1と冷却タンク6とを連通させて乾燥させてい
20 るから、甲4発明は相違点1-2に係る構成を開示しており、甲1発
明1に甲4発明を適用すれば本件発明1の相違点1-2に係る構成と
なる。
b 本件審決は、甲4発明について、真空ポンプ10を用いていること
から、
「凝縮により乾燥させる技術思想」が開示されていない旨判断し
25 た。
一方で、本件審決は、本件発明1がワークの乾燥において真空ポン
プによる真空引きが行われてもよいと判断しているから(118頁)、
凝縮室の凝縮作用だけでワークの乾燥を完了しなければならないもの
ではない。
c 甲4文献の【0029】には、
「このような条件下において減圧タン
5 ク1内のワークを乾燥処理する。 とあるから、
」 減圧タンク1から冷却
タンク6に溶剤蒸気Bを差圧吸引する工程は、加熱コイル13により
ワークを加熱する間も継続されており、ワークの乾燥工程を構成して
いるということができる。また、減圧タンク1から溶剤蒸気Bを排気
しなければ、ワークを乾燥することはできないのであり、甲4発明に
10 おけるワークの乾燥は、減圧タンク1から溶剤蒸気Bを排気すること
が主であり、加熱コイル13による加熱は、ワークや減圧タンク1の
内壁面における溶剤の気化によって熱が奪われてワークや減圧タンク
1自体の温度が低下することを抑制するものにすぎない【0010】 。
( )
甲5発明について
15 a 本件審決は、甲5発明は「凝縮により乾燥させる技術思想」を開示
するものではない旨判断した。
しかしながら、甲5発明の凝縮器4は、チャンバー1とは独立して
減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室であり、バルブ3によ
って凝縮器4とチャンバー1とを連通させて乾燥させているから、バ
20 ルブ3の閉鎖によって、凝縮器5を処理チャンバー1と独立に減圧す
ることができる構造であり、甲5発明は相違点1-2を開示してお
り、甲1発明1に甲5発明を適用すれば、相違点1-2に係る構成に
なる。
b 前記 bと同旨。
25 甲6発明について
a 本件審決は、甲6発明は「凝縮により乾燥させる技術思想」を開示
するものではない旨判断した。
しかしながら、甲6発明の凝縮器8aは、作業チャンバ4とは独立
して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室であり、弁15に
よって凝縮器8aと作業チャンバ4とを連通させて乾燥させているか
5 ら、甲6発明は相違点1-2を開示しており、甲1発明1に甲6発明
を適用すれば、相違点1-2に係る構成になる。凝縮器8aと凝縮器
8bを分離できないとするならば、凝縮器8a及び凝縮器8bの双方
を甲1発明に適用すれば本件発明1に到達する。甲6文献には、
「前述
した実施例では、凝縮器8が2つの部分から形成されている。しかし
10 ながら、凝縮器は、それぞれ異なる凝縮段階中のそれぞれ異なる圧力
状況を保証するための相応の対策が講じられる場合には、一体形に形
成されていてもよい。 (
」 [0021])と記載されているから、凝縮器
8a及び凝縮器8bが必ず二つの部分になっている必要はない。また、
凝縮器8a及び凝縮器8bのうち凝縮器8aは、凝縮器8bに接続さ
15 れた第二の真空ポンプ18とは異なる真空ポンプ10により、洗浄運
転前に減圧され([0013] 、洗浄終了時に弁15の開放によって、
)
作業チャンバ4との圧力差によって溶剤蒸気を吸引し([0017] 、
)
凝縮器8aのこの作用に、凝縮器8bや凝縮器8bに接続された第二
の真空ポンプ18は一切関与しないから、当業者であれば、凝縮器8
20 aを凝縮器8bとは独立した作業チャンバ4内の乾燥手段と認識する
ことができ、凝縮器8aのみを取り出して甲1発明に適用することは
容易になし得る。
b 本件審決は、甲6発明を、凝縮された溶剤蒸気の蓄え容器28への
供給、すなわち溶剤蒸気の回収の構成であると認定の上、甲6発明に
25 ついて、弁15の開放により溶剤蒸気の回収が完了するわけではない
ことから、
「凝縮により乾燥させる技術思想」を開示するものではない
旨判断した。
しかしながら、甲6[0003]には、
「洗浄プログラムの終了後、乾
燥プロセスが開始される。この乾燥プロセスでは、ブロワが溶剤蒸気
を処理チャンバから凝縮器に圧送する。 と記載されており、
」 この回収
5 はワークの乾燥を兼ねたものであるから、その認定には誤りがある。
そして、本件審決のいう「凝縮により乾燥させる技術思想」は、ワー
クの乾燥において真空ポンプによる真空引きが行われてもよいもので
あり(審決118頁) 凝縮室だけでワークの乾燥を完了しなければな
、
らないものではない。
10 甲7発明について
a 本件審決は、甲7発明は「凝縮により乾燥させる技術思想」を開示
するものではない旨判断した。
しかしながら、甲7発明の凝縮器4は、蒸気洗浄槽1とは独立して
減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室であり、蒸気洗浄槽真
15 空引きバルブ18によって凝縮器4と蒸気洗浄槽1とを連通させて乾
燥させているから、甲7は相違点1-2を開示しており、甲1発明1
に甲7発明を適用すれば、相違点1-2に係る構成になる。
b 本件審決は、甲7発明において、真空乾燥を行っているから「凝縮
により乾燥させる技術思想」を開示するものではない旨判断した。
20 しかしながら、真空乾燥とは洗浄室内を減圧してワークに付着した
溶剤を気化させ乾燥させることであり、「凝縮により乾燥させる技術
思想」も真空乾燥の一種であり、審決の認定は誤っている。
甲8発明について
a 本件審決は、甲8発明は「凝縮により乾燥させる技術思想」を開示
25 するものではない旨判断した。
しかしながら、甲8発明のコールドトラップ20は、真空ポンプ1
6により減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室であり、バル
ブ35によってコールドトラップ20と処理チャンバ12とを連通さ
せて乾燥させているから、甲8発明は相違点1-2の構成を示唆して
いる。そして、甲8文献には、コールドトラップ20と処理チャンバ
5 12との連通を遮断した状態で凝縮室の減圧を行うことは明示されて
いないものの、コールドトラップ20の減圧の状態の保持は、その両
側のバルブ33及び35を閉じることで維持されており、コールドト
ラップ20と処理チャンバ12との間のバルブ35を閉じた状態でコ
ールドトラップ20を減圧することにより、コールドトラップ20を
10 独立して減圧可能であるから、コールドトラップ20を独立して減圧
する構成は開示されている。さらに、凝縮室を独立して減圧する構成
は甲3文献ないし甲7文献に開示されているように周知技術である。
そうすると、甲1発明1に甲8発明を適用すれば、相違点1-2に
係る構成になる。
15 b 前記 bと同旨
周知技術について
本件審決は、甲3文献ないし甲8文献並びに実施品1及び実施品2に
おいて「凝縮により乾燥させる技術思想」が開示されていないから、
「凝
縮により乾燥させる技術思想」は周知技術とはいえない旨判断した。
20 しかしながら、前記 ないし のとおり、相違点1-2は、甲3文献
ないし甲8文献に開示されている。そして、実施品1及び2において、
アフタークーラは、洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保
持される凝縮室であり、洗浄室メイン真空弁によってアフタークーラと
洗浄室とを連通させて乾燥させているから、実施品1及び2も相違点1
25 -2の構成を開示している。
したがって、本件審決は周知技術の認定を誤っている。
ウ 相違点1-4の容易想到性判断の誤り
前記イと同旨。
⑵ 被告ら
ア 本件発明の認定の誤り(取消事由1ないし3について共通)の有無につ
5 いて
本件審決の認定に誤りはない。従来技術の乾燥は、真空ポンプの吸引力
による減圧によって、洗浄室の圧力を下げて洗浄液を気化し、発生した蒸
気を真空ポンプの吸引力によって吸い込む技術であった。これに対し、本
件発明は、洗浄室と凝縮室の温度差・圧力差を利用し、両者を「連通」さ
10 せ、蒸気を凝縮室で凝縮させることで、ワークを乾燥させる技術であり、
これにより急速な乾燥を実現したものである。
イ 相違点1-2の容易想到性判断の誤りの有無について
甲3発明について
a 甲3発明で用いる有機溶剤は、大気圧の環境で自然乾燥するものの、
15 有害物質として外部に漏らさないよう回収する必要があるところ、甲
3発明の密閉容器26における凝縮は、この回収のための工程として
されているものであって、被洗浄物の乾燥のための工程としてされて
いるものではない。
b 甲3発明において、洗浄層2の有機溶剤蒸気を密閉容器26内に吸
20 引する工程は、有機溶剤を突沸させて被洗浄物の表面に付着した汚れ
を吹き飛ばすという洗浄作業の一環であるとする記載があり(4頁右
下欄11ないし18行目)、この工程は乾燥に係る工程ではない。
c 甲3発明では、密閉容器26に充満させた蒸気を凝縮させることで
密閉容器26を減圧しており、減圧に真空ポンプを使用していない。
25 構造上も、真空ポンプ13の吐出口は密閉容器26内に設けられてお
り、真空ポンプを用いて密閉容器26を減圧することはできない。し
たがって、甲3発明は、相違点1-2に係る構成を有していないし、
また、甲1発明において、真空ポンプに代えて甲3発明の密閉容器2
6を採用しながら、密閉容器26を減圧する方法として、いったん廃
した真空ポンプを採用することが容易でないことが明らかである。甲
5 3発明は、真空ポンプを用いて洗浄室から溶剤を回収していた従来技
術に関し、真空ポンプの大型化・コスト高の課題があることから、真
空ポンプではなく、蒸留器12内と密閉容器26の組み合わせを用い
て洗浄槽からの溶剤回収を行うことにした技術であるから、密閉容器
26の減圧に真空ポンプを用いることは、甲3発明の目的に反すると
10 いえ、容易想到ではない。
甲4発明について
甲4発明では、ワークの蒸気洗浄終了後、減圧タンク1内の加熱され
た溶剤Aを、該タンク1外へ導出して、この溶剤Aをサブタンク7内に
一時貯溜し、次に、バルブ23、36を閉弁した後に真空ポンプ10を
15 駆動して冷却タンク6内を予め真空状態にして、その後、バルブ29を
開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気Bを冷却タンク6に差圧吸引
している(【0027】【0028】 。
)
甲4発明は、洗浄槽内に溶剤が存在する従来技術では乾燥工程におい
て溶剤が気化して乾燥を妨げることから、乾燥工程に先立って溶剤を別
20 の場所に移動させることを目的とする発明であり、その構成が請求項1
に記載されている。そして、請求項2では、
【0029】に記載された乾
燥工程における加熱コイルについて述べており、甲4文献には乾燥工程
において当該加熱コイル13を用いる構成の記載しかない。
このような甲4発明において、凝縮による乾燥を前提とした相違点1
25 -2の構成が開示されていないことは明白である。
甲5発明について
甲5発明は、真空ポンプによる吸引を行う技術であり、甲5文献の図
1からも明らかなとおり、真空ポンプ(PV)、凝縮器4及び処理チャン
バー1は直列に繋がっており、凝縮器4及び処理チャンバー1とを独立
に減圧することはできない構造になっているから、構成要件1-2の構
5 成が開示されているとはいえない。
甲6発明について
a 甲6発明は、-40℃ないし-60℃という非常に低い温度で作動
する冷凍ユニットからなる凝縮器を要する溶剤の回収工程において、
このような低温にすることを要しない空冷式又は水冷式の凝縮器を使
10 用できるようにしたことを本質とする発明であり、溶剤の回収工程で
は、最初に、弁の開放により作業チャンバ4から凝縮器8への蒸気の
流れが生じるが [0017] 、
( ) 空冷ないし水冷の凝縮器8の凝縮力で
は溶剤の回収は完了しないため、その後に第2の真空ポンプ18によ
る残存する蒸気の吸引を行うことが不可欠となっている [0018] 。
( )
15 この真空ポンプ18による吸引こそが甲6発明の特徴的な構成であっ
て、真空ポンプ18で吸引した蒸気を圧縮機20に送り、圧縮機20
において蒸気を空冷又は水冷の凝縮器でも凝縮することができるよう
に圧力を高めて凝縮器8に送る方法([0018] 、あるいは、圧縮機
)
20に代えて、吐出し側で可能な圧力に達したときに初めて開く圧力
20 制御式の遮蔽弁又はオーバーフロー弁を設けることで、真空ポンプ1
8で吸引した蒸気を、空冷又は水冷により容易に凝縮可能であるよう
な圧力にして凝縮器8に送る方法によって [0019] 、
( ) -40℃~
ないし-60℃という非常に低い温度で作動する冷凍ユニットからな
る凝縮器を、空冷又は水冷の凝縮器で代替しているのである 。
25 以上のとおり、甲6発明の溶剤回収工程では、作業チャンバ4から
凝縮器8への蒸気の導入と、真空ポンプ18による蒸気の吸引の、両
方が必須であるから、甲6発明に接した当業者が、作業チャンバ4か
ら凝縮器8への蒸気の導入のみを取り出して、他の発明に組み合わせ
るとは考え難い。
したがって、甲6発明には、相違点1-2の構成が開示されている
5 とはいえない。
b また、甲6発明はフロン等の溶剤の回収に関する技術であり、乾燥
に関する技術ではない(【0008】 。減圧に関する記載は、
) 【001
3】及び【0014】のみであるが、
【0013】には、洗浄工程の前
に行われる洗浄液の蒸留工程の前に真空ポンプを用いてシステム内の
10 空気を除去することが記載されているのであって、洗浄工程や乾燥工
程についての記載はなく、
【0014】には、洗浄工程前に、作業チャ
ンバ4が1mbar以下に減圧されることの記載はあるが、洗浄工程終了
後にされる溶剤の回収工程の前の凝縮器8の圧力状態についての記載
はなく、その詳細は不明であり、相違点1-2の構成が開示されてい
15 るとはいえない。
甲7発明について
甲7文献【0037】には、「所定の時間、減圧蒸気洗浄を行った後、
溶剤供給バルブ10を閉じ、その後蒸気洗浄槽排液バルブ15を閉じ、
真空ポンプ6を作動させ、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開いて、真
20 空乾燥を行う。この過程でも、被洗浄物、洗浄バスケット2、蒸気洗浄
槽1、蒸発器用熱交換器3に付着している溶剤が気化し溶剤蒸気が発生
するので、凝縮器4で凝縮回収を行う。」と記載されているとおり、甲7
発明は真空ポンプ用いた従来からの乾燥方法であり、乾燥工程を開始す
る段階で真空ポンプ6を作動させているから、洗浄終了前に凝縮器4を
25 減圧・保持する相違点1-2の構成は開示されていない。
甲8発明について
a 甲8発明は、真空ポンプ16、コールドトラップ20及び処理チャ
ンバ12が直列に接続されて独立に減圧できない構造になっており、
チャンバ12内の溶剤の排出工程については、
「その後、バルブ33及
び35が再び開かれると、バルブ53、45及び47が閉じられる。
5 このように、チャンバ12内で1mm水銀に近い部分真空が再度達成
されたと真空計64により検出されるまで、真空ポンプ16により処
理チャンバから空気が再度吸い出される。これにより、溶剤が蒸発し
て処理室12から排出され、ラック72上の配線アセンブリに溶剤物
質が存在しなくなる。 (第5欄51ないし59行目)とあるとおり、
」
10 甲8発明は真空ポンプを使用した従来技術である。
b また、甲8発明は、溶剤の排出工程前においてコールドトラップ2
0が減圧されているか否かについては記載がないから(処理チャンバ
12の真空引きの後、バルブ33、35が閉弁された後における真空
ポンプの稼働の有無についての記載がないので、詳細は不明である。 、
)
15 相違点1-2にかかる構成の開示があるとはいえない。
周知技術について
前記⑴イ の原告の主張は、争う。
2 取消事由2(実施品1発明に基づく新規性・進歩性判断の誤り)の有無につ
いて
20 ⑴ 原告
ア 相違点3-1の認定誤りについて
本件審決は、実施品1発明1が「蒸気洗浄が終了した後、前記洗浄室メ
イン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに
吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶
25 剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタ
ークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される」ものと認定し、実施品1
発明1には、
「凝縮により乾燥させる技術思想」について開示されていない
として、相違点3-1を認定した。
相違点3-1は、
「ワークの乾燥について、本件発明1は、開閉バルブに
よって洗浄室を『前記凝縮室と連通させて』乾燥させている」としており、
5 構成要件Gに係るものであるが、構成要件Gには、その文言で特定された
以上に「凝縮により乾燥させる技術思想」なるものは含まれていない。
そして、実施品1発明1は、洗浄室内でのワークの蒸気洗浄後、アフタ
ークーラを介して真空ポンプにより洗浄室内の溶剤蒸気を吸引排出し、ワ
ークの乾燥が行われるものであるが、ワークの乾燥は洗浄室メイン真空弁
10 によって洗浄室とアフタークーラとを連通させることにより行われてお
り、この開弁前の段階で真空ポンプが作動しているから、アフタークーラ
は事前に減圧され減圧の状態が保持されている。
すなわち、実施品1発明1は、相違点3-1を含む構成要件Gの「前記
蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによっ
15 て前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連
通させてワークを乾燥させる」を全て開示している。
以上のとおり、本件審決は、本件発明1と実施品1発明1との相違点の
認定を誤ったものである。
イ 相違点3-2の認定誤りについて
20 前記アと同旨。
⑵ 被告ら
ア 相違点3-1の認定誤りの有無について
実施品1発明1は、洗浄室の蒸気を真空ポンプによって吸引し乾燥させ
るという従来技術そのものであり、凝縮により乾燥させるという技術では
25 ない。実施品1発明1のアフタークーラは、単に、真空ポンプを保護する
ために、真空ポンプで吸引された蒸気の一部を凝縮しているにすぎず、こ
れによって乾燥させているわけではないから、実施品1発明1は洗浄室と
凝縮室を「連通させて乾燥させる」との構成を有しない。
イ 相違点3-2の認定誤りの有無について
前記アと同旨。
5 3 取消事由3(実施品2発明に基づく新規性・進歩性判断の誤り)の有無につ
いて
⑴ 原告
ア 相違点4-1の認定誤りについて
本件審決は、実施品2発明1が、「蒸気洗浄後の浸漬洗浄が終了した後、
10 前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記
真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワーク
に付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程
で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される」ものと認定
し、実施品2発明1は、
「凝縮により乾燥させる技術思想」を開示するもの
15 ではないとして、相違点4-1を認定した。
相違点4-1は、
「ワークの乾燥について、本件発明1は、開閉バルブに
よって洗浄室を『前記凝縮室と連通させて』乾燥させている」としている
ところ、前記2 アと同様の理由により、実施品2発明1は、相違点4-
1を含む構成要件Gを全て開示している。
20 以上のとおり、本件審決は、本件発明1と実施品2発明1との相違点の
認定を誤ったものである。
イ 相違点4-2の認定誤りについて
前記アと同旨。
⑵ 被告ら
25 ア 相違点4-1の認定誤りの有無について
実施品1発明1と同様、実施品2発明1は従来技術であり、洗浄室と凝
縮室を「連通させて乾燥させる」
(構成要件G、O)との構成を有しない。
イ 相違点4-2の認定誤りの有無について
前記アと同旨。
4 取消事由4(先願の要件違反に関する判断の誤り)の有無について
5 ⑴ 原告
ア 本件発明1ないし4(相違点6-1)について
本件審決は、凝縮室が洗浄室とは独立して減圧される構成により、凝縮
室の減圧がより効率良く行えるとして、相違点6-1が実質的な相違点で
ある旨判断したが、その根拠は不明である。また、凝縮室と洗浄室とが独
10 立して減圧される構成と、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処
理能力を向上するという課題との関係も不明である。凝縮室と洗浄室とが
独立して減圧される構成においては、両者を別々のタイミングで減圧でき
るという作用があるが、これは周知技術において達せられている効果であ
って、新たな効果を奏するものではなく、課題解決のための具体化手段に
15 おける微差である。
以上から、本件発明1ないし4と甲21発明1ないし4とは実質的に同
一である。
イ 本件発明5について
相違点6-2について
20 本件審決は、洗浄室と凝縮室との隣接によって配管による損失が小さ
くなるので相違点6-2は実質的な相違点である旨判断したが、本件発
明5は配管について何ら規定していない発明であり、また、洗浄室と凝
縮室とが隣接してさえいれば配管による損失が小さくなるという事実も
なく、相違点6-2の構成によって何ら新たな効果を生じるものではな
25 いから、相違点6-2は、課題解決のための具体化手段における微差に
すぎない。
相違点6-3について
前記アと同旨
⑵ 被告ら
ア 本件発明1ないし4(相違点6-1)について
5 相違点6-1の構成は、凝縮室を、洗浄室と一緒に減圧するのではなく、
別のタイミングで減圧可能とするものであり、より効率的に凝縮による急
速乾燥を実現し得る好適な構成であるから、作用効果と密接に関連した独
自の意味がある。
イ 本件発明5について
10 相違点6-2について
甲21発明5において、ワークの乾燥時間を短縮し、全体の処理能力
を向上させるという課題を解決するために、洗浄室と凝縮室が隣接して
いることにより配管による損失が小さくなり、より全体の処理能力を向
上させることができることは明らかである。
15 相違点6-3について
前記アと同旨。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明について
⑴ 本件明細書(甲22)には、別紙1「本件明細書の記載事項(抜粋)」の
20 とおりの記載があり、この記載によると、本件発明について、次のような開
示があると認められる。
ア 技術分野
本件発明は、減圧下にある洗浄室に石油系溶剤の蒸気を供給してワーク
を洗浄する真空洗浄装置及び真空洗浄方法に関する(【0001】 。
)
25 イ 背景技術
従来の真空洗浄装置によれば、まず、ワークが搬入された蒸気洗浄・乾
燥室を真空ポンプによって減圧する減圧工程がなされ、その後、石油系溶
剤の蒸気を蒸気洗浄・乾燥室に供給して、ワークを洗浄する蒸気洗浄工程
がなされ、ワークの洗浄が完了すると、蒸気洗浄・乾燥室をさらに減圧し
て、ワーク表面に付着した溶剤を蒸発させる乾燥工程がなされる 【000
(
5 2】 【0003】 。
、 )
ウ 発明が解決しようとする課題
このような従来の真空洗浄装置では、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾
燥室を真空ポンプで真空引きして減圧しているが、気化した気体を真空ポ
ンプで排気乾燥するのは容易ではなく、この従来の乾燥方法による乾燥工
10 程には長時間を要するという問題が生じていた(【0005】 。
)
本件発明の目的は、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能
力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するこ
とである(【0006】 。
)
エ 課題を解決するための手段
15 本件発明において、真空洗浄装置は、真空ポンプと、石油系溶剤の蒸気
を生成する蒸気生成手段と、前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧
の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを
洗浄する洗浄室と、前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧
され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、前記凝縮室を前記洗浄室よ
20 りも低い温度に保持する温度保持手段と、前記凝縮室と前記洗浄室とを連
通させ、又は、その連通を遮断する開閉バルブと、を備えており、ワーク
を洗浄した後、前記開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗
浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥
させるものである(【0007】 【0011】 。
、 )
25 オ 発明の効果
本件発明によれば、石油系溶剤の蒸気によりワークを洗浄した後、開閉
バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に
保持された前記凝縮室と連通させると、洗浄室内に充満している蒸気は、
凝縮室に移動して凝縮し、これにより、洗浄室が減圧されることから、ワ
ークに付着している石油系溶剤及び洗浄室内の石油系溶剤が全て気化し
5 て凝縮室に移動し、その結果、従来に比べて極めて短時間で洗浄室(ワー
ク)を乾燥させることが可能となり、ワークの乾燥に要する時間を短縮し
て全体の処理能力を向上するとの効果を奏するものである(【0012】、
【0030】 。
)
⑵ 前記⑴の開示事項からみて、本件発明の技術的意義は、次のとおりのもの
10 と認められる。
石油系溶剤の蒸気によりワークを洗浄した後の乾燥工程において、真空ポ
ンプにより減圧され洗浄室よりも低い温度に保持される凝縮室を洗浄室と連
通させることにより、洗浄工程後に洗浄室内に充満していた石油系溶剤の蒸
気を凝縮室に移動及び凝縮させ、それによって、洗浄室が減圧される結果、
15 ワークに付着している石油系溶剤及び洗浄室の石油系溶剤が全て気化し、凝
縮室に移動することを可能とし、従来に比べて極めて短時間でワークを乾燥
させ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するとの
効果を奏するもの。
⑶ 以上を踏まえて、構成要件Gの「連通させてワークを乾燥させる」の技術
20 的意義を検討すると、以下のとおりである。
構成要件Gは、乾燥工程において真空ポンプによる真空引きにより蒸気を
排気乾燥していた従来の構成に換えて、効率を向上させるために採用された
構成である。また、構成要件Gは、
「前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度
に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」というものであ
25 り、ここでいう「前記凝縮室」とは構成要件Dの「真空ポンプによって減圧
され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」であるから、
「連通させてワーク
を乾燥させる」とは、凝縮室が減圧の状態に保持されることにより生じた差
圧によって、洗浄室の蒸気が凝縮室に移動し、凝縮室において凝縮温度以下
に温度が低下して凝縮し、その結果、凝縮室の圧力が低下し、洗浄室からの
蒸気の移動が継続する作用を利用することで、洗浄室を減圧し、ワークを乾
5 燥させるための構成であると解するのが相当である。したがって、構成要件
Gが「前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」としているのも、
「連通
させ」ることにより「乾燥させる」と解するのが相当であるし、自然でもあ
る。
本件明細書においても、
「開閉バルブ20を開弁すると、洗浄室2内に充満
10 している蒸気は、凝縮室21に移動して凝縮する。これにより、洗浄室2が
減圧されることから、ワークWに付着している石油系溶剤および洗浄室2内
の石油系溶剤が、全て気化して、凝縮室21に移動する。その結果、従来に
比ベて極めて短時間で、洗浄室2(ワークW)を乾燥させることが可能とな
る。 (
」 【0030】 、
) 「上記のように、洗浄室2およびワークWの乾燥が完了
15 したら、開閉バルブ20を閉弁して、洗浄室2と凝縮室21とを遮断する。
そして、切換バルブV3を開弁して洗浄室2を大気開放し、洗浄室2が大気
圧まで復圧したときに、開閉扉4を開放して開口3aからワークWを搬出す
る。こうして、ワークWに対する全工程が、終了する。 (
」 【0031】)とし
て、洗浄室と凝縮室を連通することによってワークの乾燥が完了するとして
20 いる。また、
「従来の真空洗浄装置は、乾燥工程において洗浄室2を減圧する
際に、蒸気対応の特殊真空ポンプで真空引きする。この点のみが、第1実施
形態の真空洗浄装置1と異なり、その他の構成は全て同じである。 【003
」
(
2】 として、
) 本件発明の真空洗浄装置と従来の真空洗浄装置との構成の相違
は、乾燥工程において真空ポンプによる真空引きをしないことであるとして
25 いる。そして、この構成によって、短時間で洗浄精度をより向上させること
も可能であるとしている(【0033】ないし【0038】、図3ないし6)。
加えて、この構成には、
「従来の真空洗浄装置においては、減圧工程と乾燥工
程との双方で、洗浄室を真空ポンプによって真空引きする。この場合、乾燥
工程では、洗浄室から多量の蒸気が吸引されるため、特殊仕様の真空ポンプ
を採用しなければならない。そのため、こうした特殊な部品を設けることが、
5 装置全体のコストアップの大きな要因となっている。これに対して、第1実
施形態の真空洗浄装置1によれば、洗浄室2に蒸気がない減圧工程でのみ、
真空ポンプを用いる。そのため、特殊仕様ではない一般的な真空ポンプを採
用することが可能となり、装置全体のコストを低減することができる。 【0
」
(
040】)との利点も有するとしている。
10 以上からすると、構成要件Gの「連通させてワークを乾燥させる」とは、
ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するために、減
圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と、洗浄室
とを、開閉バルブによって連通させることにより、洗浄室から凝縮室に蒸気
を移動させ、凝縮室内で蒸気を凝縮させてワークを乾燥させるという乾燥手
15 段を特定するものと理解できる。本件審決が認定する、
「凝縮により乾燥させ
る技術思想」も同旨の理解によるものと認められる。
⑷ 原告の主張について
ア 原告は、前記第3の1⑴ア のとおり、構成要件Gの「連通させてワー
クを乾燥させる」とは、乾燥工程中に凝縮室と洗浄室とが連通されている
20 状態であることを規定しているにすぎない旨を主張するが、前記⑶のとお
り、
「連通させてワークを乾燥させる」とは、連通させることによりワーク
を乾燥させるというワーク乾燥のための技術手段を規定するものと理解
すべきであるから、その主張を採用することはできない。
イ 他方、原告は、前記第3の1⑴ア のとおり、上記アのように解釈でき
25 ないならば「連通させてワークを乾燥させる」とは、凝縮室における凝縮
作用のみで乾燥を完結させることを規定しているものと理解すべきであ
り、そうでなければ、本件発明と真空ポンプで蒸気を排気する従来技術と
の区別がつかない旨主張する。
しかし、原告が主張するとおり、連通させてワークを乾燥させる」
「 とは、
凝縮室における凝縮作用のみで乾燥を完結させることを規定しているも
5 のと理解したとしても、そのことによって、原告が主張する取消事由に結
びつくものとはいえないから、原告のこの点に関する主張は当を得ないも
のというほかない。
ウ また、原告は、前記第3の1⑴ア のとおり、蒸気の回収と乾燥とが区
別できない旨主張するところ、洗浄室からの蒸気の回収と洗浄室における
10 ワークの乾燥とは、微視的に見れば、物理的に同一の作用を観点を変えて
観察しているにすぎないが、蒸気の回収を目的とするか、ワークの乾燥を
目的とするかによって、凝縮室の仕様、洗浄室、凝縮室及び真空ポンプ等
の機器の配置や各種条件等がその目的に適するように創作されるもので
あるから、技術的思想としては異なるものになるのであり、この点におい
15 ても、本件発明は、真空ポンプによる排気作用により蒸気を洗浄室から移
動させている従来技術と区別されるものである。
エ 以上のとおりであるから、原告の上記主張は、いずれも、採用すること
ができない。
2 取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について
20 ⑴ 相違点1-2の容易想到性について
ア 相違点1-2について
甲1文献には、別紙2「甲1文献の記載事項(抜粋)」のとおりの記載が
あり、これによると、本件審決が認定するとおりの甲1発明1及び甲1発
明2が認められる。また、本件発明1と甲1発明1とを対比すると、本件
25 審決が認定する相違点1-2が認められ、この点は、当事者間にも争いが
ない。
そして、相違点1-2に係る本件発明1の構成は、構成要件Gの「連通
させてワークを乾燥させる」に係る構成を含むものであり、その構成は、
前記1⑶のとおり、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力
を向上するために、減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持
5 された凝縮室と、洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることにより、
洗浄室から凝縮室に蒸気を移動させ、凝縮室内で蒸気を凝縮させてワーク
を乾燥させるという乾燥手段を特定するものと理解されるものである。
イ 甲3発明について
甲3文献の開示事項
10 甲3文献には、別紙3「甲3文献の記載事項(抜粋)」のとおりの記載
があり、これによると、甲3発明について、次のとおりの開示があると
認められる。
a 甲3発明は、フロン等の有機溶剤を用いて各種物品の表面に付着し
た油等の汚れを落とす洗浄装置に関するものである(1頁右欄12な
15 いし16行目)。
b 従来、洗浄槽2内に存在する空気、あるいは有機溶剤蒸気を、真空
ポンプ13により排出しているところ、空気、あるいは有機溶剤蒸気
の排出速度と到達可能な真空度とは、真空ポンプの能力により決定さ
れ、洗浄効果を上げる為に、被洗浄物に付着した液滴を突沸させる為
20 には、気体の排出速度を速くする必要があり、また、洗浄作業終了後、
蓋を開いた場合に、周囲に拡散する有機溶剤蒸気の量を少なくするた
めには、到達可能な真空度を高める必要があるが、これらに対処する
ためには、真空ポンプとして、大型のもの、あるいは高性能のものを
使用する必要があり、設置スペースやコストの問題がある(2頁右下
25 欄18行目ないし3頁右上欄6行目)。
c 前記bの問題を解決するために、甲3発明は、洗浄槽と再生回収手
段との間に、内部に冷却手段を有する密閉容器を設けたものである(3
頁右上欄7行目ないし左下欄4行目)。
d 被洗浄物を洗浄する場合の作用自体は、前記bの先発明の洗浄装置
と同様で、洗浄槽内からの気体の排出を迅速に行ない、洗浄槽内の真
5 空度を高めることができる(3頁右上欄7行目ないし左下欄4行目)。
e 実施例の洗浄装置は、洗浄槽2内に残留する有機溶剤蒸気を排出す
る場合には、先ず、洗浄槽2と密閉容器26との連通を断った状態の
まま、再生回収手段である蒸留器12内に存在する有機溶剤蒸気を、
密閉容器26内に導入し、この様にして、密閉容器26内に有機溶剤
10 蒸気を導入したならば、密閉容器26内に設けた、冷却手段を用いて
密閉容器26内の有機溶剤蒸気を凝縮液化し、その結果、密閉容器2
6内の圧力が低下し、そこで、洗浄槽2内に残留していた有機溶剤蒸
気を密閉容器26内に吸引すると、洗浄槽2内の圧力が急激に低下し、
この洗浄槽2内に収納された被洗浄物に付着した有機溶剤の液滴が突
15 沸し、この被洗浄物の表面に付着した汚れを吹き飛ばして、続いて行
なわれる洗浄作業による洗浄効果を向上させるものであって、密閉容
器26内に吸引された有機溶剤蒸気は、この密閉容器26内に設けら
れた冷却パイプ27により冷却されて、次々に凝縮液化されるため、
洗浄槽2から密閉容器26に有機溶剤蒸気が吸引されても、密閉容器
20 26内の圧力はほとんど上昇せず、洗浄槽2から密閉容器26への有
機溶剤の吸引は、その後も継続して行なわれ、洗浄槽2内の圧力が低
下する(3頁右下欄18行目ないし5頁右上欄8行目)。
甲3発明の技術的事項
前記 によると、甲3発明の密閉容器による洗浄槽からの溶剤の排出
25 は、洗浄作業による洗浄効果を向上させるものであって、ワークを洗浄
した後の乾燥工程のものではない。そうすると、甲3発明は、構成要件
G を開示するものではない。
原告の主張について
原告は、前記第3の1⑴イ aのとおり、甲3文献の突沸洗浄に係る
記載は、ワークの乾燥工程のものであり、洗浄効果について触れている
5 のは急激な乾燥現象に付随する副次的な効果を説明したものにすぎない
と主張する。
甲3文献には、原告が指摘するとおり、
「即ち、本発明の洗浄装置に於
いて、洗浄後に洗浄槽2内に残留する有機溶剤蒸気を排出する場合には、」
(4頁左下欄7行目ないし右下欄10行目)との記載の後に、
「この洗浄
10 槽2内に収納された被洗浄物に付着した有機溶剤の液滴が突沸し、この
被洗浄物の表面に付着した汚れを吹き飛ばし」4頁右下欄14ないし1
(
6行目)との記載があるが、他方、これら記載の更に前に「洗浄効果を
上げる為には、被洗浄物17に付着した液滴を突沸させる事で、被洗浄
物17の表面に付着した汚れを吹き飛ばす事が効果があるが、この様に
15 液滴を突沸させる為には、洗浄槽2からの気体の排出速度を速くする必
要がある。 3頁左上欄10ないし14行目)
(
」 と記載されているとおり、
甲3発明においては、突沸は洗浄作業の一部と位置付けられているので
あり、原告が指摘する部分も、洗浄槽2において従来技術による洗浄作
業を終えた後に、密閉容器26を利用して液滴を突沸させることで、洗
20 浄効果を上げることができる旨の意味合いと解される。そして、そもそ
も別紙3の記載内容にはワークの乾燥に係る概念は一切存在しない。し
たがって、原告の上記主張を採用することはできない。
まとめ
以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
25 るまでもなく、甲3発明は構成要件Gの構成を含まないといえ、甲1発
明1に甲3発明を組み合わせても本件発明1には至らない。
ウ 甲4発明について
甲4文献の開示事項
甲4文献には、別紙4「甲4文献の記載事項(抜粋)」のとおりの記載
があり、これによると、甲4発明について、次のとおりの開示があると
5 認められる。
a 甲4発明は、HC(ハイドロカーボン、炭化水素系溶剤の一つ)等
の蒸気によりワークを減圧ないし真空状態下において蒸気洗浄及び乾
燥処理する蒸気洗浄装置に関するものである(【0001】 。
)
b 従来の、洗浄槽内の溶剤をヒータにより加熱気化させた気化蒸気に
10 より被洗浄物(ワーク)を脱脂洗浄する蒸気洗浄器において、洗浄槽
内部の圧力を下げると、溶剤を低温条件下にて気化させることができ、
ヒータによる消費電力を低減できる利点がある反面、蒸気洗浄の後に、
ワークを乾燥させる場合、洗浄槽内の溶剤貯溜部に存在する溶剤の一
部が気化して、ワークの乾燥が阻害されるとの問題点があった 【00
(
15 02】 【0003】 。
、 )
c 前記bの問題を解決するために、甲4発明は、蒸気洗浄後にタンク
内の溶剤をタンク外へ導出させることで、ワークの乾燥時においてタ
ンク内の溶剤が気化してワークの乾燥が妨げられることがなく、良好
なワーク乾燥を実行することができる蒸気洗浄装置、また、タンクの
20 少なくとも溶剤蒸気槽に配置した加熱管内によりタンク内部を加熱す
ることで、ワークの乾燥効率をさらに向上させることができる蒸気洗
浄装置を提供するものである 【0004】
( 、
【0005】、
【0008】、
【0010】 。
)
d 実施例の蒸気洗浄装置は、ワークを減圧ないし真空状態下にて蒸気
25 洗浄する減圧タンク1と、冷却タンク6と、蒸気洗浄後に減圧タンク
1内の溶剤Aを一時貯溜するサブタンク7と、溶剤Aを貯留するプー
ルタンク8、9と、真空ポンプ10とを備え(【0011】 、減圧タン
)
ク1の溶剤蒸気槽に加熱コイル13を配し 【0012】 、
( ) 減圧タンク
の溶剤貯留部1aの液中に加熱コイル15を配する(【0013】)も
のであって、まず、真空ポンプ10を駆動して減圧タンク1内の溶剤
5 Aを真空状態下にて加熱して、溶剤蒸気Bを発生させ、その後、真空
ポンプ10の駆動を停止し、減圧タンク1内の真空状態を保持して上
述の溶剤蒸気Bによりワークを蒸気洗浄し、ワークの蒸気洗浄終了後
において、減圧タンク1内の加熱された溶剤Aを、タンク1外へ導出
して、この溶剤Aをサブタンク7内に一時貯溜し、次に真空ポンプ1
10 0を駆動して冷却タンク6内を予め真空状態に成し、減圧タンク1内
に残存する溶剤蒸気Bを冷却タンク6に差圧吸引し、吸引された溶剤
蒸気Bは凝縮され、溶剤蒸気Bが真空ポンプ10側に直接吸込まれる
のを防止し、このような条件下において加熱コイル13により減圧タ
ンク1内およびワークを加熱して、該ワークを乾燥させるものである
15 (【0025】ないし【0029】 。
)
甲4発明の技術的事項
前記 のとおり、甲4発明は、減圧下での蒸気洗浄による乾燥効率低
下という弊害を解決し、乾燥効率を向上するために、蒸気洗浄後にタン
ク内溶剤をタンク外へ導出する導出手段及びタンク内部の加熱手段を採
20 用したものである。一方、甲4発明において、ワーク乾燥処理に係る排
気手段については、
「真空ポンプ10を駆動すると共に、バルブ49を開
弁して冷却タンク6内を予め真空状態に成し、その後、バルブ29を開
いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気Bを、ライン30を介して冷却
タンク6に差圧吸引する。この場合、ライン30からのインレットポー
25 ト3を介して冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気Bは冷却コイル2によ
り凝縮されると共に、仕切板5による区画構成により、溶剤蒸気Bがア
ウトレットポート4からライン50および真空ポンプ10側に直接吸込
まれるのを防止することができる。 (
」 【0028】)と記載されていると
おり、冷却タンクは、あくまで真空ポンプ保護のために真空ポンプの前
に配置されて溶剤蒸気の回収をするための構成とされているのであるか
5 ら、当該構成は、乾燥効率の向上という上記課題解決に関するものでは
なく、凝縮室と洗浄室とを開閉バルブによって連通させることにより、
洗浄室から凝縮室に蒸気を移動させ、凝縮室内で蒸気を凝縮させてワー
クを乾燥させるという構成要件Gに係るものでもない。
そうすると、甲4発明は、構成要件 G を開示するものではない。
10 原告の主張について
原告は、前記第3の1⑴イ a及びbのとおり、甲4発明において、
減圧タンク1と冷却タンク6とを連通させて乾燥させているし、真空ポ
ンプを用いたからといって「凝縮により乾燥させる技術思想」でなくな
るわけではない旨主張するが、前記 のとおり、甲4発明における該当
15 部分の構成は、真空ポンプ保護のために真空ポンプの前に冷却タンク(凝
縮室)を配置して溶剤蒸気の回収をするためのものであり、結果的には
冷却タンク(凝縮器)の凝縮作用が蒸気の移動に何らかの影響を及ぼす
としても、凝縮により乾燥させる技術思想」
「 に係るものではない。なお、
前記 によれば、甲4発明においては、真空ポンプ10は必須の役割を
20 果たすものと理解されるから、この点からも、甲4発明は、
「凝縮により
乾燥させる技術思想」に基づく発明とは認め難い。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
まとめ
以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
25 るまでもなく、甲4発明は構成要件Gの構成を含まないといえ、甲1発
明1に甲4発明を組み合わせても本件発明1には至らない。
エ 甲5発明について
甲5文献の開示事項
甲5文献には、別紙5「甲5文献の記載事項(訳文・抜粋)」のとおり
の記載があり、これによると、甲5発明について、次のとおりの開示が
5 あると認められる。
a 甲5発明は、塩素系溶剤を用いる機械部品のクリーニング機械に関
するものである(1頁9ないし16行目)。
b 従来、溶剤の消費と汚染とを低減するため、洗浄チャンバーが密封
されるように閉鎖され、乾燥は負圧状態で実行され、さらに、洗浄チ
10 ャンバーの下流の真空低温凝縮器の下流に前記凝縮器を負圧にするた
めの真空ポンプを有する機械が提案されており、溶剤蒸気が真空低温
凝縮器内に吸い込まれるときに、この凝縮器の低温により溶剤蒸気は
瞬時に凝縮されるので、この機械により洗浄チャンバーの排出アイド
ルタイムを著しく低減することが可能となり、比較的小さなポンプを
15 用いることができるが、反面、機械の実際の熱量吸収に対して大きす
ぎる冷凍コンプレッサの使用が必要となるという欠点がある(1頁1
7ないし34行目、2頁18ないし30行目、2頁31行目ないし3
頁9行目)。
c 前記bの問題を解決するために、甲5発明は、凝縮すべき気体状流
20 体と接触する面を有する熱交換壁を包含し、熱交換壁はその反対側で
大きなボリュームの冷気蓄積を画定する流体低温凝縮器を備える機械
部品のクリーニング機械としたものである(3頁22ないし33行目)。
d 実施例のクリーニング機械は、チャンバー1は、溶剤の凍結温度を
下回る温度(パークロロエチレンの場合-25℃)で冷凍コンプレッ
25 サにより冷却される凝縮器4と連通し(4頁19ないし27行目) 凝
、
縮器4を真空ポンプPVに連通し(4頁28ないし33行目) 真空ポ
、
ンプPVを使って中間ボリュームVを真空に維持し(5頁13ないし
18行目) 凝縮器4内のタンク20内に含まれる流体質量は冷気蓄積
、
ボリュームを構成することで、冷凍コンプレッサの出力を低減し(6
頁3ないし10行目、6頁11ないし26行目) 洗浄チャンバー1か
、
5 ら来る溶剤蒸気は、真空空間V内に吸い込まれ、タンク20の冷たい
壁と接触して凝縮するものであり(6頁27行目ないし7頁1行目)、
また、主要コンテナ4と同軸に配置される中央タンク20の間に真空
の中間ボリュームを配置し、これが「デュワー瓶」として働くことに
より外側へのあらゆる熱損失が制限されることを特徴とする(7頁1
10 7ないし23行目)。
甲5発明の技術的事項
甲5発明は、従来のクリーニング機械(洗浄チャンバーの下流の真空
低温凝縮器の下流に同凝縮器を負圧にするための真空ポンプを有するも
の)における同凝縮器のための冷凍コンプレッサの容量を小さくするた
15 めに、凝縮器のタンク20に 「デュワー瓶」(魔法瓶)として機能する
真空の中間ボリュームを配置し、この中間ボリュームの真空を保つため
に真空ポンプPVを使用するものである。
したがって、甲5発明は、結果的には凝縮器の凝縮作用が蒸気の移動
に何らかの影響を及ぼすとしても、
「凝縮により乾燥させる技術思想」に
20 係るものではないから、構成要件 G を開示するものではなく、これが開
示されているとする原告の主張を採用することはできない。
まとめ
以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
るまでもなく、甲5発明は構成要件Gの構成を含まないといえ、甲1発
25 明1に甲5発明を組み合わせても本件発明1には至らない。
オ 甲6発明について
甲6文献の開示事項
甲6文献には、別紙6「甲6文献の記載事項(訳文・抜粋)」のとお
りの記載があり、これによると、甲6発明について、次のとおりの開示
があると認められる。
5 a 甲6発明は、溶剤として、通常、炭化水素、塩素化炭化水素および
アルコールが使用される洗浄設備を運転するための方法に関するもの
である([0001] [0002] 。
、 )
b 洗浄プログラムの終了後に開始される乾燥プロセスでは、ブロワが
溶剤蒸気を処理チャンバから、使用される溶剤に応じて-40℃ない
10 し-60℃の極低温で作動する冷凍ユニットから成る凝縮器に圧送す
るものであるが、この洗浄設備における装置上の手間は、特に冷凍ユ
ニットとして形成された凝縮器が極低温で作動するにもかかわらず、
乾燥プロセス時に処理チャンバ内に導入された溶剤含有の空気から、
この空気の吸引後に溶剤を完全に除去することが不可能であるという
15 問題があり([0003] [0004] 、洗浄工程後に真空ポンプに
、 )
よって再生のために凝縮器内に到達させ、発生させられた溶剤凝縮物
を蓄え容器に供給し、作業チャンバにおいて通気を行って、洗浄物を
取り出す洗浄法がすでに公知であるところ、甲6発明は、凝縮器とし
て空冷式又は水冷式の凝縮器を使用することができるような方法を提
20 供することを課題とする([0005] [0006] 。
、 )
c 前記bの課題を解決するために実施例の洗浄設備は、作業チャンバ
4から、弁15を備えた第1の分岐管路14が凝縮器8aに通じると
ともに、作業チャンバ4には、第2の分岐管路16が接続されて、弁
17を介して第2の真空ポンプ18に通じ、この第2の真空ポンプ1
25 8の出口は、別の弁19を介して圧縮機20の入口に接続され、この
圧縮機20の出口は、凝縮器8bに接続されており([0010] 、洗
)
浄ステップの終了時には、弁15が開放され、これによって、空冷式
又は水冷式の凝縮器8の凝縮圧に近似の圧力が達成されるまで、飽和
蒸気が作業チャンバ4から凝縮器8aに流れ、そこで、液化され([0
017] 、
) その後、作業チャンバ4と凝縮器8aとの間で圧力補償(圧
5 力均等化)が生じると、弁15が閉鎖、弁17が開放され、第2の真
空ポンプ18を介して、まだ作業チャンバ4内に存在している残りの
溶剤蒸気が吸引され、圧縮機20によって圧縮されて圧力が増加され、
溶剤蒸気が、空冷又は水冷により容易に凝縮可能となる程度に温めら
れ、こうして、残りの溶剤蒸気を空冷又は水冷によって完全に凝縮さ
10 せることができるものである([0018] 。
)
甲6発明の技術事項
甲6発明は、作業チャンバ4と凝縮器8aとが連通した後に、圧力補
償が生じるのであるから、凝縮器8aにおける圧力の低下状態の維持が
されていない。そして、圧力補償の後に第2の真空ポンプ18による吸
15 引と圧縮機20による圧縮と凝縮器8bでの凝縮をしている構成をとる
ということは、作業チャンバ4における溶剤蒸気の吸引は凝縮器8aだ
けでは完結できないということが理解できる。そうすると、作業チャン
バ(洗浄室)から凝縮器8a(凝縮室)に蒸気を移動させ、凝縮室内で
蒸気を凝縮させてワークを乾燥させるという技術思想は顕れていないか
20 ら、構成要件Gを開示するものではない。
原告の主張について
原告は、前記第3の1⑴イ a及びbのとおり、凝縮器8aと凝縮器
8bとは独立した作業チャンバ4内の乾燥手段と認識することができ、
凝縮器8aのみを取り出せば相違点1-2に係る構成となるし、また、
25 凝縮器8aだけでワークの乾燥を完了させる必要はない旨主張する。
しかしながら、凝縮器8aと凝縮器8bは二つ一組となって極低温で
作動する冷凍ユニットから成る凝縮器と同等の作用を奏するための代替
手段として採用されているものであるから、その一つのみを取り出すこ
とは甲6発明の目的に反し、容易なこととはいえない。また、仮に、凝
縮器8aのみを取り出すことが動機付けられたとしても、甲6発明の洗
5 浄設備は、作業チャンバ4から凝縮器8aへの蒸気の流れが止まった時
点では作業チャンバ4内には蒸気がいまだ残存し、これを真空ポンプ1
8で吸引するとの構成であるから、結局、真空ポンプによる吸引で乾燥
を完了させているのと変わらず、それ以前の作業チャンバ4と凝縮器8
aの連通のみをとらえて、作業チャンバ4から凝縮器8aに蒸気を移動
10 させ凝縮器8a内でこれを凝縮させてワークを乾燥させるという技術思
想に係るものということはできない。したがって、いずれにしても甲6
発明は構成要件Gを開示しているものとは認められず、原告の上記主張
を採用することはできない。
まとめ
15 以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
るまでもなく、甲6発明は構成要件Gの構成を含まないといえ、甲1発
明1に甲6発明を組み合わせても本件発明1には至らない。
カ 甲7発明について
甲7文献の開示事項
20 甲7文献には、別紙7「甲7文献の記載事項(抜粋)」のとおりの記
載があり、これによると、甲7発明について、次のとおりの開示がある
と認められる。
a 甲7発明は、電子部品等の被洗浄物を、炭化水素系溶剤、アルコー
ル溶剤等の可燃性溶剤を用いる減圧蒸気洗浄装置に関するものである
25 (【0001】 。
)
b 甲7発明は、小型で廉価に製造でき、溶剤保有量が少なく、しかも、
効率的な蒸気発生を行うことのできる蒸気発生機構を備えた減圧蒸気
洗浄装置を提案することを課題とするものである(【0010】 。
)
c 実施例の蒸気洗浄槽1は、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と凝縮器
4を介して、真空ポンプ6に接続されており、これで真空引きされる
5 もので( 【0029】 、減圧蒸気洗浄を行った後、真空ポンプ6を作
「 )
動させ、真空乾燥を行い、この過程で、被洗浄物等に付着している溶
剤が気化した溶剤蒸気を凝縮器4で凝縮回収を行うものである(【0
037】 。
)
甲7発明の技術的事項
10 前記 によると、甲7発明は、減圧蒸気洗浄を行った後、真空ポンプ
6を作動させ、真空乾燥を行い、この過程で、被洗浄物等に付着してい
る溶剤が気化した溶剤蒸気を凝縮器4で凝縮回収を行うものであって、
「凝縮により乾燥させる技術思想」に係るものではないから、構成要件
Gを開示するものではない。これが開示されているとする原告の主張を
15 採用することはできない。
まとめ
以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
るまでもなく、甲7発明は構成要件Gの構成を含まないといえ、甲1発
明1に甲7発明を組み合わせても本件発明1には至らない。
20 キ 甲8発明について
甲8文献の開示事項
甲8文献には、別紙8「甲8文献の記載事項(訳文・抜粋)」のとお
りの記載があり、これによると、甲8発明について、次のとおりの開示
があると認められる。
25 a 甲8発明は、プリント配線アセンブリからロジンフラックス残渣を
洗浄するシステムに関するものである(第1欄6ないし9行目)。
b 実施例の洗浄するシステムは、処理チャンバ12、真空ポンプ16
と、真空保持タンク18と、コールドトラップ20と、一対の液相ポ
ンプ22及び24とを備え、真空ポンプ16は、真空保持タンク18
及びコールドトラップ20を介して処理チャンバ12に接続され(第
5 2欄49行目ないし第3欄2行目) コールドトラップ20は、
、 溶剤を
凝縮するように動作可能な非常に低い温度に維持され、真空保持タン
ク18は、真空ポンプ16に対する負荷を均等化し、かつ、処理チャ
ンバ12内の減圧を加速するように、実質的な蓄圧器を提供するのに
十分なサイズを有するものであって(第3欄48ないし58行目) 処
、
10 理チャンバに流れ込んだ溶剤は、処理チャンバ内で流動して、有効な
洗浄作用を提供した後、処理チャンバから吸い出され(第5欄24な
いし50行目) その後、
、 真空ポンプ16により処理チャンバから空気
が吸い出され、これにより、溶剤が蒸発して処理室12から排出され
るものである(第5欄51ないし59行)。
15 甲8発明の技術的事項
前記 によると、甲8発明は、真空ポンプ16により処理チャンバ1
2から空気が吸い出され、これにより、溶剤が蒸発して同処理チャンバ
から排出されるものであって、真空保持タンク18及びコールドトラッ
プ20により、同処理チャンバ内の減圧を加速するように構成されるも
20 のであって、処理チャンバ(洗浄室)から凝縮室に空気を移動させ、凝
縮室内でこれを凝縮させてワークを乾燥させるという技術思想に係るも
のではないから、構成要件Gを開示するものではない。これが開示され
ているとする原告の主張を採用することはできない。
まとめ
25 以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
るまでもなく、甲8発明は構成要件Gの構成を含まないといえ、甲1発
明1に甲8発明を組み合わせても本件発明1には至らない。
ク 実施品1発明について
発明の認定
証拠(甲9ないし13、19、43)によると、本件特許の優先日前
5 に公然実施された、本件審決が認定するとおりの実施品1発明1及び実
施品1発明2が認められる。
原告は、前記第3の2⑴アにおいて、前記第3の1⑴ア のとおり、
構成要件Gの「連通させてワークを乾燥させる」とは、乾燥工程中に凝
縮室と洗浄室とが連通されている状態であることを規定しているにすぎ
10 ないことを前提にした主張するが、前記1⑶のとおり、「連通させてワ
ークを乾燥させる」とは、連通させることによりワークを乾燥させると
いうワーク乾燥のための技術手段を規定するものと理解すべきであるか
ら、原告の主張はその前提を誤るものであり、採用できないことは明ら
かである。
15 実施品1発明1の技術的事項
実施品1発明1は、洗浄室と真空ポンプとの間に凝縮器(アフターク
ーラ)から成る構成を有し、真空ポンプの排気作用によって蒸気を移動
させているものであり、「凝縮により乾燥させる技術思想」に基づくも
のではないから、構成要件Gを開示するものではなく、これが開示され
20 ているとする原告の主張を採用することはできない。
まとめ
以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
るまでもなく、実施品1発明1は構成要件Gの構成を含まないといえ、
甲1発明1に実施品1発明1を組み合わせても本件発明1には至らない。
25 ケ 実施品2発明について
発明の認定
証拠(甲14ないし17、19、43)によると、本件特許の優先日
前に公然実施された、本件審決が認定するとおりの実施品2発明1及び
実施品2発明2が認められる。
この点、原告は、前記第3の3⑴アにおいて、同2⑴アと同様の主張
5 をするが、この主張が採用できないことは前記ク において判示したと
おりである。
実施品2発明1の技術的事項
実施品2発明1は、洗浄室と真空ポンプとの間に凝縮器(アフターク
ーラ)から成る構成を有し、真空ポンプの排気作用によって蒸気を移動
10 させているものであり、「凝縮により乾燥させる技術思想」に基づくも
のではないから、構成要件Gを開示するものではなく、これが開示され
ているとする原告の主張を採用することはできない。
まとめ
以上のとおりであるから、原告の主張するその他の点について判断す
15 るまでもなく、実施品2発明1は構成要件Gの構成を含まないといえ、
甲1発明1に実施品2発明1を組み合わせても本件発明1には至らな
い。
コ 本件発明1の容易想到性について
前記イないしケにおける認定によれば、甲1発明1といずれの発明とを
20 組み合わせても本件発明1には至らず、また、本件周知技術にも構成要件
G が開示されていないのであるから、甲1発明1に本件周知技術を適用し
て本件発明1に至るとの主張も前提を欠く。
したがって、その他の点について検討するまでもなく、相違点1-2は
容易に想到できないというべきであり、本件発明1は容易に発明できない
25 ものというべきである。
サ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであ
るから、少なくとも相違点1-2において本件発明2ないし4と甲1発明
1とは相違するところ、相違点1-2に係る発明特定事項とすることが容
易に想到できるものではない以上、本件発明2ないし4もまた当業者であ
5 っても容易に発明できるものではない。
⑵ 相違点1-4の容易想到性について
本件発明5と甲1発明2とを対比すると、本件審決が認定する相違点1-
4が認められ、この点は、当事者間にも争いがない。
そして、相違点1-4に係る本件発明5の構成は、構成要件Oの「連通さ
10 せてワークを乾燥させる」に係る構成を含むものであり、構成要件Oは構成
要件Gと同一であるところ、構成要件Gの意義については、前記1⑶のとお
りである。
そして、相違点1-4は、相違点1-2と同じであるから、前記⑴におい
て説示するように、甲1発明2といずれの発明とを組み合わせても本件発明
15 5には至らず、また、本件周知技術にも構成要件Oが開示されていないので
あるから、甲1発明2に本件周知技術を適用して本件発明5に至るとの主張
も前提を欠く。
したがって、その他の点について検討するまでもなく、相違点1-4は容
易に想到できないというべきであり、本件発明5は容易に発明できないもの
20 というべきである。
⑶ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5を甲1発明に基づいて容易
に発明できるものではないとした本件審決の判断には誤りはなく、取消事由
1は理由がない。
25 3 取消事由2(実施品1発明に基づく新規性・進歩性判断の誤り)の有無につ
いて
⑴ 相違点3-1の認定誤りの主張について
実施品1発明1が本件審決が認定するとおりに認定できることは、前記2
⑴クにおいて説示するとおりであり、構成要件Gの意義については、前記1
⑶のとおりであるから、本件発明1と実施品1発明1とを対比すると、本件
5 審決が認定するとおり、相違点3-1を認定することができる。
⑵ 相違点3-2の認定誤りの主張について
実施品1発明2が本件審決が認定するとおりに認定できることは、前記2
⑴ケにて説示するとおりであり、相違点3-2に係る本件発明5の構成は、
構成要件Oの「連通させてワークを乾燥させる」に係る構成を含むものであ
10 り、構成要件Oは構成要件Gと同一であるところ、構成要件Gの意義につい
ては、前記1⑶のとおりであるから、本件発明5と実施品1発明2とを対比
すると、本件審決が認定するとおり、相違点3-2を認定することができる。
⑶ 小括
以上のとおりであるから、本件審決に相違点の認定について誤りがあると
15 はいえず、また、原告は他に実施品1発明に基づく新規性・進歩性判断の誤
りを主張するものではないから、取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(実施品2発明に基づく新規性・進歩性判断の誤り)の有無につ
いて
⑴ 相違点4-1の認定誤りの主張について
20 実施品2発明1が本件審決が認定するとおりに認定できることは、前記2
⑴クにおいて説示するとおりであり、構成要件Gの意義については、前記1
⑶のとおりであるから、本件発明1と実施品2発明1とを対比すると、本件
審決が認定するとおり、相違点4-1を認定することができる。
⑵ 相違点4-2の認定誤りの主張について
25 実施品発明2が本件審決が認定するとおりに認定できることは、前記2⑴
クにおいて説示するとおりであり、相違点4-2に係る本件発明5の構成は、
構成要件Oの「連通させてワークを乾燥させる」に係る構成を含むものであ
り、構成要件Oは構成要件Gと同一であるところ、構成要件Gの意義につい
ては、前記1⑶のとおりであるから、本件発明5と実施品2発明2とを対比
すると、本件審決が認定するとおり、相違点4-2を認定することができる。
5 ⑶ 小括
以上のとおりであるから、本件審決に相違点の認定について誤りがあると
はいえず、また、原告は他に実施品2発明に基づく新規性・進歩性判断の誤
りを主張するものではないから、取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(先願の要件違反に関する判断の誤り)の有無について
10 ⑴ 本件発明1ないし4の実質同一について
本件発明1ないし4と甲21発明1ないし4とをそれぞれ対比すると、本
件審決が認定するとおり、「真空ポンプによって減圧の状態が保持される凝
縮室について、甲21発明1ないし4は「前記洗浄室とは独立して減圧され」
ることが特定されているのに対し、本件発明1ないし4は洗浄室との関係が
15 特定されていない点」(相違点6-1)で相違する。
そして、凝縮室が洗浄室とは独立して減圧されるならば、凝縮室の減圧の
動作は洗浄室の減圧の動作と異ならせることができるから、凝縮室を減圧す
るのに好適な時機を選択できることになって、全体の乾燥時間を短縮させる
効果をもたらすとともに、それぞれを独立に減圧するためには、洗浄室、凝
20 縮室及び真空ポンプの配置並びにこれらのための開閉弁、配管等の配置等が
相違する構成となるから、課題解決のための具体化手段における微差とはい
えない差を生じる。
原告は、相違点6-1の構成により新たな効果を奏するものではなく、課
題解決のための具体化手段における微差である旨主張するが、上記のとおり、
25 その主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4について同日に同一の発明
について特許出願あったことにより特許を受けることができないもの(特許
法39条2項)であるとはいえない。
⑵ 本件発明5と甲21発明5とを対比すると、本件審決が認定するとおり、
「凝縮室について甲21発明5は、
「洗浄室に隣接した」ものであることが特
5 定されているのに対し、本件発明5は、洗浄室との配置関係が特定されてい
ない点」
(相違点6-2)及び「真空ポンプを用いることにより洗浄室および
減圧室を減圧する工程について、甲21発明5は、「各々独立して減圧する」
ことが特定されているのに対し、本件発明5は、洗浄室と減圧室との関係が
特定されていない点。 (相違点6-3)との点で異なる。
」
10 そして、相違点6-3は、相違点6-1と同一であるから、上記⑴につい
て説示したものと同旨の理由により、全体の乾燥時間を短縮させる効果をも
たらすとともに、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない差
を生じるから、その他の点について判断するまでもなく本件発明5と甲21
発明5とが実質同一とはいえず、そして、これに反する原告の主張を採用す
15 ることができないのも、上記⑴に説示したとおりである。
以上のとおりであるから、その他の点について判断するまでもなく、本件
発明5も特許を受けることができないものに該当することはない。
⑶ 以上のとおりであるから、取消事由4も理由がない。
6 結論
20 よって、取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求を棄却することと
して、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅 野 雅 之
5 裁判官
本 吉 弘 行
10 裁判官
中 村 恭
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