令和4(ネ)574損害賠償請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 大阪高等裁判所大阪高等裁判所
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裁判年月日 |
令和4年9月30日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
不正競争
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キーワード |
損害賠償2回 侵害2回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。20
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
以下で使用する略称は、「被告ゴトウ」を「被控訴人会社」と読み替えるほ
かは、特に断らない限り、原判決の例による。5 |
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判決文
令和4年9月30日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和4年(ネ)第574号 損害賠償請求控訴事件(原審 大阪地方裁判所令和2年
(ワ)第3481号)
口頭弁論終結日 令和4年7月6日
5 判 決
控訴人(一審原告) 株 式 会 社 山 成 建 設
同訴訟代理人弁護士 大 塚 辰 幸
被控訴人(一審被告) 株 式 会 社 ゴ ト ウ
(以下「被控訴人会社」という。)
15 被控訴人(一審被告) P 1
(以下「被控訴人 P1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 岡 崎 晃
同 平 山 純 輝
主 文
20 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
25 2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、1964万3112円及びこれに
対する令和2年5月13日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
以下で使用する略称は、「被告ゴトウ」を「被控訴人会社」と読み替えるほ
5 かは、特に断らない限り、原判決の例による。
1 本件は、建築工事等を業とする控訴人が、西脇支社で勤務していた控訴人の
元従業員である被控訴人 P1 及び同人が代表取締役を務める被控訴人会社に対し、
控訴人の顧客情報(本件顧客情報)や見積金額(本件価格情報)が不正競争防
止法(以下「法」という。)2条6項の営業秘密に該当することを前提に、(1)被
10 控訴人 P1 が、控訴人の上記営業秘密を不正の手段により取得した行為が法2条
1項4号の不正競争行為に、被控訴人会社が被控訴人 P1 の上記行為が介在した
ことにつき悪意若しくは重過失により知らないで上記営業秘密を使用した行為
が同項5号の不正競争にそれぞれ当たり、又は、(2)被控訴人 P1 が取得した上
記営業秘密を図利加害目的で使用若しくは被控訴人会社に開示した行為が同項
15 7号の不正競争行為に、被控訴人会社が被控訴人 P1 の上記行為が介在したこと
につき悪意若しくは重過失により知らないで上記営業秘密を使用した行為が同
項8号の不正競争にそれぞれ当たると主張して、法4条に基づき、連帯して1
964万3112円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令
和2年5月13日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求
20 める事案である。
原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は、これを不服とし
て、控訴を提起した。
2 前提事実
次のとおり補正するほか、原判決第2の2(原判決2頁10行目から3頁1
25 9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁14行目の「置いていた(甲13)。」を「置き、主として施
主から建物の建築工事を請け負う元請業者又はその下請業者(以下、併せて
「元請業者」という。)から下請けする業態で型枠工事を行っていた(甲1
3)。」に改める。
5 (2) 原判決2頁15行目の「勤務していたが」を「勤務しており、同支社にお
ける事務及び営業を担当していたが」に改める。
(3) 原判決2頁17行目冒頭から同頁19行目末尾までを「被控訴人会社は、
平成22年1月26日、被控訴人 P1 の父親が「P3」の屋号で車の配送業、車
の販売のほか建設業を営んでいた個人事業を法人成りして設立した会社であ
10 り、被控訴人 P1 は、「P3」当時からその事業に関与し、被控訴人会社設立時
から代表取締役を務めている(甲2、被控訴人 P1)。」に改める。
(4) 原判決2頁20行目の「本件見積書」の前に「型枠工事に係る」を加える。
(5) 原判決3頁19行目末尾に改行して次のとおり加える。
「(3) 本件見積書に係る受注の有無等
15 ア 対象工事1ないし5は、専ら西脇支社の営業エリアに属する工事であ
ったところ、控訴人は、本件見積書の各名宛人の元請業者からの依頼で
本件見積書をそれぞれ作成し、依頼があった各元請業者に提出した。こ
のうち本件見積書1ないし3の提出先の元請業者は、いずれも各対象工
事を落札できず、これを含めて控訴人は、対象工事1ないし5を本件見
20 積書を提出した元請業者からいずれも受注しなかった。
イ 他方、被控訴人会社は、対象工事1ないし3、5を、本件見積書1な
いし3、5の提出先とは別の元請業者から受注した。
ウ 元請業者が入札に参加するに当たり、下請けとなる型枠業者に予め見
積書を作成提出させることがあるが、当該元請業者が落札できたとして
25 も、入札前に依頼されて見積書を作成提出した型枠業者が、当該請負工
事の下請けとして必ず発注を受けるわけではない(控訴人代表者、弁論
の全趣旨)。」
3 争点
原判決第2の3(原判決3頁20行目から同頁26行目まで)に記載のとお
5 りであるから、これを引用する。
4 争点に関する当事者の主張
原判決10頁11行目の「被告ゴトウは」の前に、「対象工事5については、
ヨネダ担当者から、単価を提示してその単価で施工可能かを聞かれ、図面・内
訳を提示されたものであり、」を加えるとともに、後記5のとおり当審におけ
10 る控訴人の補足主張を加えるほかは、原判決第2の4(原判決4頁1行目から
12頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
5 当審における控訴人の補足主張
(1) 営業秘密該当性について
本件見積書のデータが保管されていた西脇支社のコンピューターにはパス
15 ワードが設定されており、西脇支社でそのパスワードを使ってデータファイ
ルにアクセスする者は被控訴人 P1 のみであったから、データファイルへのア
クセス制限を絶対視すべきでない。また、控訴人には、営業機密保持を定め
た就業規則が存在し、被控訴人 P1 は、控訴人に対し、入社時にこれを遵守す
る旨の誓約書を提出している。加えて、被控訴人 P1 は、競業会社である被控
20 訴人会社の代表者であって、本件見積書に記載された本件顧客情報及び本件
価格情報が控訴人からすれば他社に知られてはならない秘密であることは同
業者として十分に知っていたから、それだけで営業秘密であることが客観的
に認識可能であったといえるのであり、上記各情報は控訴人の営業秘密に該
当する。
25 (2) 法2条1項7号及び8号の不正競争該当性について
ア 本件顧客情報について
被控訴人 P1 は、本件顧客情報及び本件価格情報を不正利用することによ
って、控訴人がどの工事についていくらの見積価格を設定し、どの元請業
者に見積書を提出したかを知っていたから、被控訴人らは、被控訴人会社
に見積依頼をした業者に対して、控訴人作成に係る本件見積書を明示的に
5 開示しなくとも、本件見積書に係る工事と同じ工事について、控訴人より
廉価な見積価格を設定した見積書を作成し、控訴人より廉価であることを
暗黙に示して元請業者に対して被控訴人会社への受注を勧誘することによ
って、本件顧客情報を使用又は開示したということができる。
イ 本件価格情報について
10 本件において、被控訴人会社が作成した見積書の形式は、いずれも控訴
人作成に係る本件見積書の形式と酷似しており、異なるのはほぼ見積価格
が廉価である点のみであって、被控訴人会社の見積書が本件見積書と無関
係に作成されることはあり得ない。特に、本件価格情報4について、控訴
人と全く同一の名宛人に対する同一内容の被控訴人会社の見積書が作成さ
15 れていることは、被控訴人会社が、本件顧客情報及び本件価格情報に基づ
いて被控訴人会社の見積書を作成していたことの動かぬ証拠というべきで
ある。そうすると、本件価格情報4に係る対象工事4については、被控訴
人会社が受注した証拠がないとしても、被控訴人会社が工事を受注した対
象工事1ないし3、5に係る本件価格情報1ないし3、5については、同
20 様の行為がされていたものと推認して被控訴人らの不正競争行為が認めら
れるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないと判断するものであり、そ
の理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の補足主張
25 に対する判断等を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第3の1ないし3
(原判決12頁10行目から19頁7行目まで)に記載のとおりであるから、
これを引用する。
(1) 原判決12頁11行目の「甲3~10」の次に「、13」を加える。
(2) 原判決12頁11行目から同頁12行目にかけての「18~22」の次に
5 「、26」を加える。
(3) 原判決13頁3行目の「本件見積書5」の前に「その場合も、西脇支社の
営業エリア内の工事の場合は、西脇支社の参考にするため、控訴人代表者又
は事務員は、西脇支社に見積書データをメール送信又はファックス送信する
ことがあった。」を加える。
10 (4) 原判決13頁26行目の「また」から14頁3行目末尾までを、次のとお
り改める。
「控訴人において、上記コンピューターにログインできる従業員を被控訴人P1
のみに限るとの規制はなく、上記ログインパスワードは、西脇支社の従業員
には周知のものであり、被控訴人P1を除く西脇支社の従業員もこれを知って
15 いた。」
(5) 原判決14頁5行目冒頭から同頁11行目末尾までを、次のとおり改め
る。
「 控訴人の就業規則第31条(12)(甲16)には、控訴人の「内外を問わず、
在職中または退職後においても、」控訴人、「取引先等の機密、機密性のあ
20 る情報、企画案、ノウハウ、データ、ID、パスワード、および会社の不利
益となる事項を他に開示、漏洩、提供しないこと、またコピー等をして社外
に持ち出さないこと。」と規定する服務心得があり、控訴人は、被控訴人P1
の入社時に同被控訴人から誓約書(甲17)を徴求しているものの、その内
容は上記就業規則を遵守する旨の内容にとどまるものである。そして、控訴
25 人において、被控訴人P1に対し、見積書記載の本件顧客情報及び本件価格情
報が、上記規定の対象になることはもとより、これら情報を含む見積書記載
の情報が営業秘密であることに関する注意喚起がされたことはなく、また取
引案件ごとに作成される見積書の取扱いに関する研修等の教育措置が行われ
たこともない。」
(6) 原判決14頁17行目末尾に「控訴人本社が直接発注業者に見積書を送付
5 する場合は、西脇支社に見積書がファックスで参考送信されることもあった
が、そうした見積書の紙媒体の取扱いについては、控訴人において保管場所
や廃棄方法が定められていたとの事実はない。」を加える。
(7) 原判決14頁21行目の「管理の意思」を「秘密としての管理の意思」に
改める。
10 (8) 原判決14頁25行目の「施されていなかった。」の後に、次のとおり加
える。
「控訴人本社から本件見積書のデータが送信され、保存される西脇支社のコン
ピューターにはログインパスワードが設定されていたが、控訴人において、
上記コンピューターにログインできる従業員を被控訴人P1のみに限るとの規
15 制はなく、被控訴人P1を除く西脇支社の従業員も上記ログインパスワードを
知っていた。」
(9) 原判決14頁25行目から同頁26行目にかけての「業務上の秘密保持に
関する就業規則の規定はなく」を「本件顧客情報及び本件価格情報の秘密保
持に関する明確な就業規則上の規定はなく」に改める。
20 (10) 原判決15頁5行目の「指示しなかった。」を「指示しておらず、紙媒体
の見積書の保管場所や廃棄方法も定められていなかった。」に改める。
(11) 原判決15頁8行目の「特別な費用」から同頁9行目の「おらず、」まで
を削除する。
(12) 原判決17頁8行目末尾に改行して次のとおり加える。
25 「 また、上記のとおり、被控訴人会社が上記各見積書を作成したのは、そも
そも対象工事1に係る建物建築工事を和以貴建設が落札した後である上、同
各見積書と控訴人作成に係る本件見積書1との見積価格の差額が290万0
200円であるのに対し、控訴人が本件見積書1を提出した平尾工務店と和
以貴建設との入札価格の差額が4480万円もあったこと(甲3、乙1、1
6、18)に照らすと、被控訴人会社が型枠工事について上記各見積書を和
5 以貴建設に提出したことによって、平尾工務店ではなく和以貴建設が落札で
きたという関係があるとは認められず、また、和以貴建設落札後、被控訴人
会社が上記各見積書を和以貴建設に提出したことにより控訴人が本来受注で
きていたはずの受注機会を失わされたとは認められない。」
(13) 原判決17頁13行目の「垣本建設工業」の前に「上記共同企業体の下請
10 業者である」を加える。
(14) 原判決17頁23行目の「ものである蓋然性が相当程度あるものと見られ
る。」を「ものであると認められるのであって、被控訴人らが本件価格情報
2を使用又は開示したとは認められない。」に改める。
(15) 原判決18頁1行目の「乙22」の次に「。見積金額602万2494
15 円。」を加え、同頁6行目の「本件見積書3の見積金額」の次に「632万
2320円」を加える。
(16) 原判決18頁8行目末尾に改行して次のとおり加える。
「 また、上記のとおり、対象工事3に係る建物建築工事についてはそもそも
入札が成立せず、その後随意契約によって和以貴建設が受注したのであるか
20 ら、その型枠工事について、控訴人が上山建設に提出した本件見積書3より
見積金額が約30万円低い見積書を被控訴人会社が和以貴建設に提出したこ
とによって和以貴建設が上記工事を受注できたという関係があるとは認めら
れず、また、和以貴建設受注後、被控訴人会社が本件見積書3の提出先とは
異なる和以貴建設に同工事に係る見積書を提出したことにより、控訴人が本
25 来受注できていたはずの受注機会を失わされたとは認められない。」
(17) 原判決18頁17行目の「本件見積書5」の後に「(見積金額610万2
000円)」を加える。
(18) 原判決18頁24行目の「もっとも」から同頁25行目末尾までを削除し、
同頁24行目末尾に改行して次のとおり加える。
「 もっとも、仮にそうであったとしても、ヨネダが被控訴人会社に対象工事
5 5を発注したのは、下請業者であるオオイシを介さずに型枠工事業者に直接
発注することにより、発注金額から、オオイシの取得する予定の利益相当額
を減額することを意図したものと推認され、被控訴人会社において、控訴人
がオオイシに提出した本件見積書5より見積金額が最大で27万円ほど低い
見積書をヨネダに提出したことが影響したと認めるには足りない。また、被
10 控訴人P1が、対象工事5の施工単価については、ヨネダから提示があった旨
陳述する(乙26)ように、オオイシからオオイシとしての見積書の提出を
受けているはずのヨネダとしては、そこに記載されている型枠工事代金を基
礎にオオイシが介在して得られるであろう利益相当額を想定し、これを控除
した上で、より安価な額での受注を被控訴人会社に求めたとも考えられ、被
15 控訴人会社が上記見積書をヨネダに提出したことをもって、被控訴人らが本
件価格情報5を使用又は開示したとは推認できず、また、それによって控訴
人が本来受注できていたはずの受注機会を失わされたとも認められない。」
(19) 原判決19頁1行目の「できない。」の次に「また、被控訴人らが不正競
争を行って控訴人の営業上の利益を侵害したとも認められない。」を加える。
20 (20) 原判決19頁4行目の「いえない。」を「いえず、法4条にいう「不正競
争を行って他人の営業上の利益を侵害した」場合に該当するものともいえな
い。」に改める。
2 控訴人の当審における補足主張に対する判断等
(1) 営業秘密該当性について
25 本件顧客情報及び本件価格情報が、控訴人において、秘密であることが客観
的に認識可能な状態で秘密として管理されていたと認められないことは、前記
1で原判決を補正した上で認定、説示したとおりである。
なお、控訴人は、被控訴人 P1 は、競業会社である被控訴人会社の代表者で
あって、本件見積書に記載された本件顧客情報及び本件価格情報が控訴人から
すれば他社に知られてはならない秘密であることは同業者として十分に知って
5 いたから、それだけで営業秘密であることが客観的に認識可能であったとも主
張する。
しかし、例として対象工事1、3についてみると、これらに関しては、控訴
人が本件見積書1、3を提出した元請業者が建物建築工事を受注できないこと
が確定し、控訴人も同各見積書に基づいては型枠工事を受注できないことが確
10 定した後に、被控訴人会社が同型枠工事に係る見積書を作成したことが問題と
されているところ、本件見積書1、3は、競争入札に参加予定の元請業者が入
札額を算出するに当たり参考にするために下請業者に作成提出させたものにす
ぎず、必ずしも被控訴人会社の受注に直結するものではない(補正の上引用し
た原判決第2の2(3)ウ)。そして、具体的工事を対象として作成される見積書
15 は、その性質上、契約締結に至らなかった場合、そのままでは他に流用できな
いものであるから、これらの点も併せ考えると、控訴人においては、契約締結
に至るか否かを問わず、見積書全般につき、その見積書に記載されている顧客
情報及び価格情報について、一律に、営業秘密に該当することが従業員である
被控訴人 P1 において客観的に認識可能であったとは認められない。
20 (2) 法2条1項7号及び8号の不正競争該当性について
ア 本件顧客情報について
控訴人は、本件見積書に係る工事と同じ工事について、被控訴人会社が
控訴人より廉価な見積価格を設定した見積書を作成し、被控訴人らにおい
て、控訴人より廉価であることを暗黙に示して元請業者に対して被控訴人
25 会社への受注を勧誘することによって、本件顧客情報を使用又は開示した
といえる旨主張するが、被控訴人会社は、控訴人が本件見積書を提出した
各元請業者とは異なる元請業者に対して見積書を作成、提出しているので
あるから、その見積価格が本件見積書より低額であったことをもって、被
控訴人らが本件見積書記載の本件顧客情報を使用又は開示したとは認めら
れない。
5 イ 本件価格情報について
控訴人は、特に被控訴人会社が工事を受注した対象工事1ないし3、5
に係る本件価格情報1ないし3、5については、被控訴人らの不正競争行
為が認められるべきである旨主張する。
しかし、被控訴人会社は、型枠工事である対象工事1ないし3について、
10 いずれも控訴人が本件見積書を提出した各元請業者とは異なる元請業者に
対して見積書を作成、提出しているのであるが、これらの元請業者は、控
訴人が同じ対象工事につき他の元請業者に作成提出した本件見積書(本件
価格情報)を参照しているわけではなく、被控訴人会社と競業する関係に
ある他の下請業者に作成提出させた見積書を参照して、被控訴人会社が作
15 成提出する見積書と比較検討し、被控訴人会社により安価な受注を求めて
いたと考えられ、そうであれば、そこでは本件価格情報1ないし3それ自
体が有用ではなく、また使用されることもないから、この関係で被控訴人
らに不正競争行為があったとは推認できない。
また、対象工事5についての被控訴人会社の受注は、前記1で原判決を
20 補正して認定説示したとおり、ヨネダが自社の利益を最大化するため下請
業者を省略して孫請業者となるべき型枠業者を直接の下請業者にしようと
考えて被控訴人会社に発注した結果であると考えられる。そして、ヨネダ
は、もともと本件価格情報5を算出根拠の一部に含む見積書をオオイシに
作成提出させることにより、本件価格情報5の近似金額を推定できていた
25 はずであり、被控訴人会社は、その金額の受注を求められる関係にあると
いえるから、被控訴人会社が本件価格情報5を開示又は使用したとは認め
られず、したがって、この関係で被控訴人らに不正競争行為は認められな
い。
(3) 控訴人の損害主張について
控訴人の本件における損害主張は、要するに、被控訴人 P1 は控訴人の従
5 業員であったのだから、営業機会があったなら、被控訴人代表者として営
業するのではなく控訴人従業員として営業すべきであって、現に被控訴人
会社として受注できている以上、被控訴人 P1 が控訴人会社の従業員として
営業すれば控訴人として受注できていたはずであり、被控訴人会社による
奪取がもたらした控訴人の取引機会の逸失が損害であると主張していると
10 理解でき、また控訴人代表者も代表者尋問においてその点を強調する供述
をしている。
しかし、その主張及び供述自体、控訴人の取引機会の逸失が本件価格情
報の不正使用等と関係なく生じたことを示しているし、またここで主張さ
れている問題は、控訴人と被控訴人 P1 との間の雇用契約上の問題であって
15 (そもそも営業担当をする会社従業員が競業会社の代表者であるというこ
と自体が理解し難い。)、本件価格情報の不正開示又は使用による不正競
争の問題とは内容を全く異にしているというべきである。
第4 結論
そうすると、控訴人の請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判
20 決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。よ
って、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官
森 崎 英 二
裁判官
10 植 田 智 彦
裁判官
渡 部 佳 寿 子
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