ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和3(ワ)13905 特許権侵害差止請求権等不存在確認請求事件
| 裁判所 | 却下 東京地方裁判所東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和4年8月30日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
特許権 特許法100条1項1回 |
| キーワード | 特許権91回 差止40回 損害賠償30回 侵害30回 無効2回 抵触2回 実施2回 無効審判1回 |
| 主文 | 1 本件各訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。25 |
| 事件の概要 | 本件は,原告が、原告は原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承 認の申請を行ったところ、 ①主位的に、ⓐ原告は、現在、原告医薬品の製造、譲渡、譲渡の申出をする可 能性があり、本件各特許権の侵害又はそのおそれを理由とする被告エーザイR Dの原告に対する本件各特許権による差止請求権が発生し得、また、原告は、 製造販売についての承認を受けた場合に原告医薬品の製造、譲渡、譲渡の申出5 が可能になるから、被告エーザイRDの原告に対する厚生労働大臣の承認を停 止条件とする本件各特許権による差止請求権が発生し得ると主張して、被告エ ーザイRDとの間で、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差 止請求権(特許法100条1項)の不存在確認を求め(前記第1の1⑴ア)、 ⓑ被告らの原告に対する損害賠償請求権が発生し得ると主張して、被告らとの10 間で、被告らの原告に対する本件各特許権等の侵害を理由とする不法行為によ る損害賠償請求権の不存在確認を求め(同イ)、 ②予備的に、ⓐ原告は、原告医薬品が「使用薬剤の薬価(薬価基準)」(平成 20年厚生労働省告示第60号、以下「薬価基準」という。)に収載された場 |
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令和4年8月30日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令 和 3 年(ワ)第13905号 特許権侵害差止請求権及び損害賠償請求権不存
在確認請求事件
口頭弁論終結日 令和4年5月26日
判 決
原 告 ニ プ ロ 株 式 会 社
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 牧 野 知 彦
古 城 春 実
被 告 エ ー ザ イ 株 式 会 社
(以下「被告エーザイ」という。)
被 告
エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(以下「被告エーザイRD」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 北 原 潤 一
梶 並 彰 一 郎
同 訴 訟代 理 人 弁 理士 日 野 真 美
主 文
1 本件各訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求等
1 請求
⑴ 主位的請求ア 被告エーザイRDが、原告に対し、原告による別紙物件目録記載の医薬
5 品(以下「原告医薬品」という。)の生産、譲渡、譲渡の申出について、特許第6466339号及び特許第6678783号の各特許権(以下、順に「本件特許権1」、「本件特許権2」といい、併せて「本件各特許権」という。)による差止請求権を有しないことを確認する。イ 被告らが、原告に対し、原告による原告医薬品の生産、譲渡、譲渡の申出について、本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことを確認する。
⑵ 予備的請求1ア 被告エーザイRDが、原告に対し、原告医薬品が薬価基準に収載された場合に、原告による原告医薬品の生産、譲渡、譲渡の申出について、本件各特許権による差止請求権を有しないことを確認する。イ 被告らが、原告に対し、原告医薬品が薬価基準に収載された場合に、原告による原告医薬品の生産、譲渡、譲渡の申出について、本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことを確認する。
⑶ 予備的請求2原告と被告らとの間において、原告医薬品が本件各特許権に係る各特許(以下「本件各特許」という。)の特許請求の範囲の各請求項に係る各発明(以下「本件各発明」という。)の技術的範囲に属しないことを確認する。2 答弁(本案前の主張)主文1項同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が、原告は原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認の申請を行ったところ、
①主位的に、ⓐ原告は、現在、原告医薬品の製造、譲渡、譲渡の申出をする可能性があり、本件各特許権の侵害又はそのおそれを理由とする被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権が発生し得、また、原告は、
5 製造販売についての承認を受けた場合に原告医薬品の製造、譲渡、譲渡の申出が可能になるから、被告エーザイRDの原告に対する厚生労働大臣の承認を停止条件とする本件各特許権による差止請求権が発生し得ると主張して、被告エーザイRDとの間で、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権(特許法100条1項)の不存在確認を求め(前記第1の1⑴ア)、
ⓑ被告らの原告に対する損害賠償請求権が発生し得ると主張して、被告らとの間で、被告らの原告に対する本件各特許権等の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権の不存在確認を求め(同イ)、
②予備的に、ⓐ原告は、原告医薬品が「使用薬剤の薬価(薬価基準)」(平成20年厚生労働省告示第60号、以下「薬価基準」という。)に収載された場合に原告医薬品の製造、譲渡、譲渡の申出が可能になるから、同時点において、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権が発生し得ると主張して、被告エーザイRDとの間で、原告医薬品が薬価基準に収載された時点における被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権の不存在確認を求め(前記第1の1⑵ア)、ⓑ同時点において被告らの原告に対する損害賠償請求権が発生し得ると主張して、被告らとの間で、同時点における被告らの原告に対する本件各特許権等の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権の不存在確認を求め(同イ)、
③更に予備的に、原告医薬品は、本件各発明の技術的範囲に属しないと主張して、被告らとの間で、原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認を求める(前記第1の1⑶)事案である。被告らは、本案前の主張として、本件訴えには訴えの利益がないと主張した。1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお,書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
⑴ 当事者
5 原告は、医薬品等の製造、販売及び輸出入業等を目的とする株式会社である。被告エーザイは、医薬品の研究開発、製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。被告エーザイRDは、医薬品に関する研究開発のマネジメント、知的財産権の取得、管理、運用等を目的とする株式会社である。(本項につき弁論の全趣旨)
⑵ 本件各特許権被告エーザイRDは、以下の本件各特許権を有する。(甲2、3)ア 本件特許権1特許番号 特許第6466339号優先日 平成24年12月4日出願日 平成25年12月4日登録日 平成31年1月18日発明の名称 乳がんの処置におけるエリブリンの使用イ 本件特許権2特許番号 特許第6678783号優先日 平成24年12月4日出願日 平成31年1月9日登録日 令和2年3月19日発明の名称 乳がんの処置におけるエリブリンの使用
⑶ 特許請求の範囲の記載本件各特許(以下、本件各特許権の番号に応じて「本件特許1」、「本件特許2」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。ア 本件特許1【請求項1】(ⅰ)HER2陰性乳がん、(ⅱ)エストロゲン受容体
5 (ER)陰性乳がんまたは(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)乳がんを有するとして選択された対象の乳がんの処置のためのエリブリンまたはその薬学的に許容される塩を含み、対象が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである、医薬組成物。【請求項2】乳がんが局所進行性乳がんである、請求項1に記載の医薬組成物。【請求項3】乳がんが転移性乳がんである、請求項1に記載の医薬組成物。【請求項4】対象が以前の乳がん処置レジメンを受けたことがない、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項5】対象が以前の乳がん処置レジメンを1種受けたことがある、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項6】以前の乳がん処置レジメンが化学治療または生物学的治療を含む、請求項5に記載の医薬組成物。【請求項7】対象が抗体、ホルモン剤、カペシタビン、アントラサイクリンおよびタキサンのうち1種または複数の投与を要する以前の乳がん処置レジメンを受けたことがある、請求項5または6に記載の医薬組成物。【請求項8】アントラサイクリンがドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシンおよびイダルビシンからなる群から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。【請求項9】タキサンがパクリタキセルおよびドセタキセルからなる群から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
5 【請求項10】抗体がトラスツズマブである、請求項7に記載の医薬組成物。【請求項11】対象が以前にアントラサイクリンでもタキサンでも処置されたことがない、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項12】対象がHER2陰性乳がんである、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項13】対象がER陰性乳がんである、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項14】対象がHER2陰性、ER陰性およびPR陰性(三種陰性)乳がんである、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項15】エリブリンの薬学的に許容される塩がエリブリンメシラートである、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項16】対象由来の乳がん試料のER、PR、および/またはHER2ステータスを試験することにより患者が選択される、請求項1から15のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項17】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩が、21日サイクルの1日目および8日目に、任意選択的に1.4mg/㎡の用量で、2~5分間静脈内に投与される、請求項1から16のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項18】対象がヒトである、請求項1から17のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項19】前記対象の乳がんが(ⅰ)HER2陰性、(ⅱ)エスト
5 ロゲン受容体(ER)陰性、または(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)であるという検出に基づいて、前記対象を処置するために、カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択される、請求項1から18のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項20】前記対象の乳がんが(ⅰ)HER2陰性、(ⅱ)エストロゲン受容体(ER)陰性、または(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)であるという検出に基づいて、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩で前記対象を処置することにより、カペシタビンと比較して、1年生存率が増加する、請求項1から18のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項21】乳がん患者をエリブリンまたはその薬学的に許容される塩で処置するための候補として同定する方法であって、患者の乳がんのHER2、ERおよび/またはPRステータスを評価するステップを含み、患者が(ⅰ)HER2陰性、(ⅱ)ER陰性または(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびPR陰性(三種陰性)であるとの判定は、患者をエリブリンまたはその薬学的に許容される塩で処置するための候補として同定する、方法であって、患者が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである、方法。【請求項22】乳がん患者の処置を選択する方法であって、患者の乳がんのHER2、ERおよび/またはPRステータスを評
5 価するステップを含み、患者が(ⅰ)HER2陰性、(ⅱ)ER陰性または(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびPR陰性(三種陰性)であるとの判定は、患者の処置にエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択されることを示す、方法であって、患者が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである、方法。【請求項23】患者から得た乳がん組織試料を分析するステップをさらに含む、請求項21または22に記載の方法。【請求項24】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩はエリブリンメシラートである、請求項23に記載の方法。【請求項25】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に対する乳がん患者の対象の適性を評価するin vitro方法であって、患者から採取した試料におけるHER2、ERおよび/またはPRステータスを測定し、試料が(ⅰ)HER2陰性、(ⅱ)ER陰性または(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびPR陰性(三種陰性)であるとの判定は、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に好適な対象であることを示すことを特徴とする、invitro方法であって、患者が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである、方法。【請求項26】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に対する乳がん患者の適性を確証するための、前記患者の対象から採取した試料におけるHER2、ERおよび/またはPRステータスを評価するin vitro方法であって、
5 試料が(ⅰ)HER2陰性、(ⅱ)ER陰性または(ⅲ)HER2陰性、ER陰性およびPR陰性(三種陰性)であるとの判定は、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に好適な対象であることを示し、患者が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである、方法。イ 本件特許2【請求項1】(ⅰ)HER2陰性乳がんまたは(ⅱ)エストロゲン受容体(ER)陰性乳がんを有するとして選択された対象の乳がんの処置のためのエリブリンまたはその薬学的に許容される塩を含む、医薬組成物。【請求項2】乳がんが局所進行性乳がんである、請求項1に記載の医薬組成物。【請求項3】乳がんが転移性乳がんである、請求項1に記載の医薬組成物。【請求項4】対象が以前の乳がん処置レジメンを2種以上受けたことがある、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項5】以前の乳がん処置レジメンが化学治療または生物学的治療を含む、請求項3または4に記載の医薬組成物。【請求項6】対象が抗体、ホルモン剤、カペシタビン、アントラサイクリンおよびタキサンのうち1種または複数の投与を要する以前の乳がん処置レジメンを受けたことがある、請求項3から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項7】アントラサイクリンがドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシンおよびイダルビシンからなる群から選択さ
5 れる、請求項6に記載の医薬組成物。【請求項8】タキサンがパクリタキセルおよびドセタキセルからなる群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。【請求項9】抗体がトラスツズマブである、請求項6に記載の医薬組成物。【請求項10】対象が以前にアントラサイクリンでもタキサンでも処置されたことがない、請求項1から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項11】対象がHER2陰性乳がんである、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項12】対象がER陰性乳がんである、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項13】エリブリンの薬学的に許容される塩がエリブリンメシラートである、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項14】対象由来の乳がん試料のERおよび/またはHER2ステータスを試験することにより患者が選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項15】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩が、21日サイクルの1日目および8日目に、任意選択的に1.4mg/㎡の用量で、2~5分間静脈内に投与される、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項16】対象がヒトである、請求項1から15のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項17】前記対象の乳がんが(ⅰ)HER2陰性または(ⅱ)エストロゲン受容体(ER)陰性であるという検出に基づ
5 いて、前記対象を処置するために、カペシタビンではなく、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択される、請求項1から16のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項18】前記対象の乳がんが(ⅰ)HER2陰性または(ⅱ)エストロゲン受容体(ER)陰性であるという検出に基づいて、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩で前記対象を処置することにより、カペシタビンと比較して、1年生存率が増加する、請求項1から16のいずれか一項に記載の医薬組成物。【請求項19】乳がん患者をエリブリンまたはその薬学的に許容される塩で処置するための候補として同定する方法であって、患者の乳がんのHER2および/またはERステータスを評価するステップを含み、患者が(ⅰ)HER2陰性または(ⅱ)ER陰性であるとの判定が、患者をエリブリンまたはその薬学的に許容される塩で処置するための候補として同定する、方法。【請求項20】乳がん患者の処置を選択する方法であって、患者の乳がんのHER2および/またはERステータスを評価するステップを含み、患者が(ⅰ)HER2陰性または(ⅱ)ER陰性であるとの判定が、患者の処置にエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択されることを示す、方法。【請求項21】患者から得た乳がん組織試料を分析するステップをさらに含む、請求項19または20に記載の方法。【請求項22】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩はエリブリ
5 ンメシラートである、請求項21に記載の方法。【請求項23】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に対する乳がん患者の対象の適性を評価するin vitro方法であって、患者から採取した試料におけるHER2および/またはERステータスを測定し、試料が(ⅰ)HER2陰性または(ⅱ)ER陰性であるとの判定が、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に好適な対象であることを示すことを特徴とする、in vitro方法。【請求項24】エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に対する乳がん患者の適性を確証するための、前記患者の対象から採取した試料におけるHER2またはERステータスを評価するin vitro方法であって、試料が(ⅰ)HER2陰性または(ⅱ)ER陰性であるとの判定が、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩での処置に好適な対象であることを示す、in vitro方法。
⑷ 関係法令等の定め等ア 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器等法」という。)等は、医薬品の製造販売をしようとする者は、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならないこと、①申請者が医薬品製造販売業許可等を受けていないとき、②申請に係る医薬品等を製造する製造所が医薬品等の製造業の許可等を受けていないとき、③申請に係る医薬品等の名称、成分、分量、用法、用量、効能、効果、副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項の審査の結果、申請に係る医薬品等が、㋑その申請に係る効能又は効果を有すると認められないとき、㋺その効能又は効果に比して著しく有害な作用を有することにより、医薬品等として使用
5 価値がないと認められるとき、㋩このほか、医薬品等として不適当なもの、すなわち、性状又は品質が保健衛生上著しく不適当な場合等に該当するときのいずれかに該当すると認められるとき、④申請に係る医薬品等の製造所における製造管理又は品質管理の方法が、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(以下「GMP省令」という(GMP;Good Manufacturing Practice)。)で定める基準に適合していると認められないときには、承認は与えないことを定める(同法14条1項、2項、同法施行令20条、同法施行規則39条)。GMP省令は、医薬品等の製造販売業者は、同令に基づき、医薬品等に係る製品の製造業者に製造所における製造管理及び品質管理を行わせなければならず、医薬品等に係る製品の製造業者等は、同令に基づき、製造所における製造管理及び品質管理を行わなければならないことなどを定め、医薬品医療機器等法等は、製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けようとする者等は、その商品に係る医薬品等の製造所における製造管理又は品質管理の方法が、GMP省令で定める基準に適合しているかどうかについて、当該承認を受けようとするとき等に、厚生労働大臣の書面による調査又は実地の調査(以下「GMP適合性調査」という。)を受けなければならないことを定める(同法14条7項、同法施行令20条)。イ 保険医療機関及び保険医療用担当規則等は、保険医は、薬価基準の別表に収載されている医薬品等以外の薬物を患者に施用し、又は処方してはならないこと、保険薬剤師は、薬価基準の別表に収載されている医薬品等以外の医薬品を使用して調剤してはならないことを定める(保険医療機関及び保険医療用担当規則19条1項、高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付等の取扱い及び担当に関する基準19条1項、31条、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則9条、療担規則及び薬担規則並びに
5 療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等第6、第14)。ウ 平成6年10月4日薬審第762号各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局審査課長通知「承認審査に係る医薬品特許情報の取扱いについて」は、医薬品の承認審査段階における特許情報の考慮について、医薬品の安定供給を確保する観点から先発品と後発品との特許抵触の有無について確認するため、①当面、既承認の医療用医薬品の有効成分に係る物質特許(ただし、特許期間が満了しているものを除く。)についての情報を収集すること、②特許権者(特許出願人)又は当該特許に係る成分を有効成分として医薬品の承認を取得している者は、再審査の調査期間終了前に、医薬品特許情報報告票に必要事項を記入して同課に提出すること、③新有効成分含有医薬品の再審査の調査期間終了後に同一有効成分の医療用医薬品の製造(輸入)承認申請を行う者は、当該有効成分に係る物質特許の有無及び物質特許がある場合には承認後速やかに製造又は輸入販売できることを示す資料を添付することとすることにより、医療用医薬品に係る特許情報の収集等を行うこととしたとする。(甲13)エ 平成21年6月5日医政経発第0605001号、薬食審査発第0605014号各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局経済課長及び厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて」(以下「二課長通知」という。)は、医療用後発医薬品の承認審査に係る特許情報について、医薬品の安定供給を図る観点から、承認審査の中で、先発医薬品と後発医薬品との特許抵触の有無について確認を行っているところ、
①後発医薬品の承認審査に当たっては、㋐先発医薬品の有効成分に特許が存在することによって、当該有効成分の製造そのものができない場合には、後発医薬品を承認しないこと、㋑先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量(以下、効能・効果、用法・用量について、「効能・効果等」という
5 ことがある。)に特許が存在し、その他の効能・効果等を標ぼうする医薬品の製造が可能である場合については、後発医薬品を承認できることとするが、特許が存在する効能・効果等については承認しない方針であるので、後発医薬品の申請者は事前に十分確認を行うこと等とすること、②後発医薬品の薬価基準収載に当たり、特許に関する懸念がある品目については、従来、平成21年1月15日付け医政経発第0115001号により、事前に当事者間で調整を行い、安定供給が可能と思われる品目についてのみ収載手続をとるよう求めているとおりとすることとしたとする。(甲10)オ 令和3年2月16日医政経発0216第4号日本製薬団体連合会会長あて厚生労働省医政局経済課長通知「後発医薬品の薬価基準への収載等について」は、後発医薬品の薬価基準への収載については、「特許係争は後発医薬品の安定供給を図る上で問題となることが予想されることから、特許係争のおそれがあると思われる品目の収載を希望する場合は、事前に特許権者である先発医薬品製造販売業者と調整を行い、将来も含めて医薬品の安定供給が可能と思われる品目についてのみ収載手続をとること。また、既収載品について特許係争により、安定供給に支障が生じるおそれがあると思われる品目がある場合は、医政局経済課宛てに報告すること。なお、必要に応じて安定供給が可能であることを客観的に証明できる資料[特許権者(先発医薬品製造販売業者)の同意書等]の提出を求めることがあること。」等の方針等の留意事項について一層の指導の徹底を図ることとして、実施するとした。(甲12)カ 医薬品の製造販売に至る一般的な流れ一般に、医薬品の製造販売をしようとする者は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency;PMDA)を経由して承認の申請を行い(医薬品医療機器等法14条17項)、GMP適合性調査などを受けて、製造販売についての厚生労働大臣の承認
5 を受け、承認を受けた医薬品が薬価基準に収載された後、当該医薬品の製造販売に至る。(甲12、30、弁論の全趣旨)
⑸ 原告の行為等ア 被告エーザイは、平成23年7月19日、効能・効果を「手術不能又は再発乳癌」とする「抗悪性腫瘍剤ハラヴェン静注1mg<エリブリンメシル酸塩製剤>」(以下「被告医薬品」という。)の製造、販売を開始し、その後、平成28年2月、被告医薬品の効能・効果に「悪性軟部腫瘍」を追加した。(甲4、5)イ 原告は、令和3年5月7日頃、被告らに対し、原告は、原告医薬品の製造販売についての承認の申請の準備を進めているが、原告医薬品の製造販売は本件各特許権を侵害するものではないから、2週間以内に被告らにおいて原告に対し原告医薬品の製造販売について本件各特許権を行使しないことの確認をするよう求める旨の通知をした。これに対し、被告らは、令和3年5月21日、原告に対し、被告らは原告による原告医薬品の製造販売について本件各特許権を行使する可能性がある旨回答した(以下「本件回答」という。)。(本項につき甲8)ウ 原告は、令和4年2月25日、厚生労働大臣に対し、被告医薬品の後発医薬品として、原告医薬品の製造販売についての承認の申請をし、現在、原告医薬品の製造販売を予定して開発を進めており、製造販売についての承認の申請及びGMP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造を行っている。(甲7、30、36、弁論の全趣旨)2 争点及び争点に関する当事者の主張本件の本案前の争点は次のとおりである。
①被告エーザイRDに対する現在の差止請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。
5 ②被告らに対する現在の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。
③被告エーザイRDに対する将来の差止請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。
④被告らに対する将来の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。
⑤被告らに対する原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認請求に訴えの利益があるか。
⑴ 争点①(被告エーザイRDに対する現在の差止請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について(原告の主張)原告が現在行っている原告医薬品の製造行為は、承認、薬価基準収載後の製造販売行為と一連一体のものであって、また、原告は近い将来において原告医薬品を製造販売する可能性があり、現在において、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権、又は、承認を条件とする本件各特許権による差止請求権が発生し得るから、被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権による差止請求権の不存在確認請求には訴えの利益がある。二課長通知に基づく運用は、法的に根拠を有するものではないものの行政庁における事実上の規範であって、実際にはこれ以外の取扱いは認められておらず、この運用によれば被告医薬品の後発医薬品である原告医薬品の製造販売は承認されることはない。しかし、この運用は特許権すなわち差止請求権や損害賠償請求権の存在を理由とするものであるから、原告は、本件各特許権の存在により原告医薬品について承認、薬価基準収載されない危険を被っていることになる。また、被告らは、原告医薬品が承認され製造販売された場合には権利行使をする旨の意思を明らかにしている。したがって、被告エーザイRDに発生し得る差止請求権の存在が原告の法的利益を害している、
5 すなわち被告エーザイRDは二課長通知に基づく運用を利用して原告に対して差止請求権を行使しているに等しいから、原告の権利又は法律的地位に危険又は不安が存在しているといえる。そもそも厚生労働大臣の承認の過程で特許の範囲や有効性などについては問題とされないから、本件各発明は被告医薬品の製造販売によって特許出願前に公然実施をされたものであり本件各特許権の行使は認められないものであるにもかかわらず、また、被告医薬品の後発医薬品である原告医薬品が本件各特許権を侵害することはあり得ないにもかかわらず、原告医薬品は本件各特許権の存在のために承認されないことになる。原告は、現在の制度の下では、本件各特許について無効審判請求をすることしかできないが時間がかかる上に迂遠であるから、結局、被告らに対し差止請求権等の不存在確認請求をすることが最も直接的かつ効果的な手段であって、その必要性も高い。先発医薬品の製薬会社は、二課長通知に基づく運用の下、後発医薬品の参入を阻止するために、数多くの特許出願をして保護期間の実質的延長を図っている。被告エーザイRDは、二課長通知の存在を利用して原告医薬品の製造販売を阻止しているのであるから、原告の請求について確認の利益がないと主張することは信義則上許されない。(被告エーザイRDの主張)被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権による差止請求権の不存在確認請求は、即時確定の利益がなく、訴えの利益が認められない。現在において被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権が存在しないことについて当事者間に争いは生じていない。原告は、現在、原告医薬品の製造販売をしておらず、そもそも製造販売に必要な承認がされていない。したがって、本件各特許権は侵害されていないし、侵害のおそれもない。被告エーザイRDは、現時点において原告医薬品の製造販売について本件各特許権に基づく主張を一切していないし(本件回答は、原告が
5 原告医薬品の市場における販売を開始した場合に関するものである。)、原告による承認及びGMP適合性調査の申請のための原告医薬品の製造についても、本件各特許権に基づく主張を一切しておらず、今後するつもりもないから、原告医薬品の製造販売について被告エーザイRDによる本件各特許権行使の現実的危険があることを基礎づける被告エーザイRDの行為がないことは明らかである。
⑵ 争点②(被告らに対する現在の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について(原告の主張)原告が現在行っている原告医薬品の製造行為は、承認、薬価基準収載後の製造販売行為と一連一体のものであって、また、原告は近い将来において原告医薬品を製造販売する可能性があり、現在において、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権、又は、承認を条件とする損害賠償請求権が発生し得るから、被告エーザイRDに対する本件各特許権の侵害を理由とする現在の損害賠償請求権の不存在確認請求には訴えの利益がある。(被告らの主張)被告らに対する本件各特許権の侵害を理由とする現在の損害賠償請求権の不存在確認請求は、即時確定の利益がなく、訴えの利益が認められない。現在において被告らの原告に対する本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことについて当事者間に争いは生じていない。原告は、現在、原告医薬品の製造販売をしておらず、本件各特許権は侵害されていないから、被告らに損害は生じていない。原告医薬品の製造販売について被告らによる本件各特許権の行使の現実的危険があるといえるほどの被告らの行為がないことは明らかである。
⑶ 争点③(被告エーザイRDに対する将来の差止請求権の不存在確認請求に
5 訴えの利益があるか。)について(原告の主張)将来の権利又は法律関係の確認を求める場合であっても、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が現実化することが確実である場合には、訴えの利益が認められるところ、本件において、二課長通知に基づく運用の下、被告エーザイRDが本件各特許権を有することによって、原告は原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けられないという危険が現実化することは確実であるから、原告の被告エーザイRDに対する原告医薬品が薬価基準に収載された場合における将来の本件各特許権による差止請求権の不存在確認請求には訴えの利益がある。(被告エーザイRDの主張)被告エーザイRDに対する将来の本件各特許権による差止請求権の不存在確認請求は、訴えの利益が認められない。すなわち、被告エーザイRDに対する将来の本件各特許権による差止請求権の不存在確認請求は、将来の権利又は法律関係を確認の対象とするものであるから、確認の訴えの適格性を欠く。仮にこの点を措くとしても、被告エーザイRDは、将来の特定の時点において原告医薬品の製造販売について本件各特許権を行使することを表明していないから、将来の原告医薬品の製造販売について被告エーザイRDによる本件各特許権行使の現実的危険があることを基礎づける被告エーザイRDの行為がないことは明らかであり、被告エーザイRDに対する将来の本件各特許権による差止請求権の不存在確認請求は、即時確定の利益がない。なお、厚生労働大臣の承認に係る運用は、被告エーザイRDによる将来の本件各特許権行使の現実的危険の存否とは何ら関係がなく、原告が原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けられないことは、原告と被告エーザイRDとの間の権利又は法律関係の存否とは何ら関係がない。そ
5 もそも、原告は二課長通知に基づく運用によれば原告医薬品の製造販売についての承認はされることがないと主張しており、原告の主張によれば原告医薬品が薬価基準に収載されるという事態は生じないことになる。
⑷ 争点④(被告らに対する将来の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について(原告の主張)本件において、二課長通知に基づく運用の下、被告エーザイRDが本件各特許権を有することによって、原告は原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けられないという危険が現実化することは確実であるから、原告の被告らに対する原告医薬品が薬価基準に収載された場合における本件各特許権の侵害を理由とする将来の損害賠償請求権の不存在確認請求には訴えの利益がある。(被告らの主張)被告らに対する本件各特許権の侵害を理由とする将来の損害賠償請求権の不存在確認請求は、将来の権利又は法律関係を確認の対象とするものであって確認の訴えの適格性を欠き、さらに即時確定の利益もないから、訴えの利益が認められない。
⑸ 争点⑤(被告らに対する原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認請求に訴えの利益があるか。)について(原告の主張)被告らに対する原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認請求には訴えの利益がある。ある製品が特許発明の技術的範囲に属するか否かは単なる事実の存否の問題ではなく、むしろ特許発明の技術的範囲の解釈を介して行われる純然たる法律判断である。特許権の侵害訴訟において特許の無効の判断も行われているという現在の実務を前提にすれば、ある製品が特許発明の技術的範囲に属
5 することの確認訴訟が許されない理由はない。(被告らの主張)被告らに対する原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの不存在確認請求は、確認の訴えの適格性を欠き、訴えの利益がない。ある製品が特許発明の技術的範囲に属するか否かは、事実上の判断であり、判断の対象は権利又は法律関係ではないから、債務不存在確認訴訟の対象となるものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点①(被告エーザイRDに対する現在の差止請求権の不存在確認請求に訴
えの利益があるか。)、及び、争点②(被告らに対する現在の損害賠償請求権の不存在確認請求に訴えの利益があるか。)について
⑴ 確認の利益は、即時確定の利益がある場合、すなわち、判決をもって法律
関係等の存否を確定することが、その法律関係等に関する法律上の紛争を解決し、現に、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される(最高裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁、最判昭和47年11月9日民集26巻9号1513頁参照)。
⑵ 本件において、原告は、効能・効果を「手術不能又は再発乳癌」等とする
「抗悪性腫瘍剤ハラヴェン静注1mg<エリブリンメシル酸塩製剤>」である被告医薬品の後発医薬品として、効能・効果を「手術不能又は再発乳癌」とする「エリブリンメシル酸塩静注1mg「ニプロ」」という販売名の原告医薬品(別紙物件目録)の製造販売についての承認の申請をし、現在、原告医薬品の製造販売を予定して、製造販売についての承認の申請及びGMP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造を行っている(前記第2の1⑸ア、ウ)。もっとも、二課長通知等は、後発医薬品(既に製造販売についての承
5 認を与えられている医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が
同一性を有すると認められる医薬品)の製造販売について、先発医薬品の有効成分に特許が存在する場合や先発医薬品の一部の効能・効果等に特許が存在する場合に、厚生労働大臣の承認はしない方針であるとし(前記第2の2
⑷ウ)、また、後発医薬品の薬価基準への収載についても、特許係争のおそ
れがあると思われる品目の収載を希望する場合は、事前に特許権者である先発医薬品製造販売業者と調整を行い、将来も含めて医薬品の安定供給が可能と思われる品目についてのみ収載手続をとる方針であるとしている(同エ)。また、被告エーザイRDが特許権者である本件各特許が存在する。本件各特許権を有する。原告は、これらによれば、本件において、被告医薬品の後発医薬品である原告医薬品の製造販売について厚生労働大臣の承認がされることはないと主張する(前記第2の2⑴
(原告の主張)
)。これらの状況と本件各証拠によっては、近い将来において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ、更に原告医薬品の薬価基準への収載がされる蓋然性が高いことを認めるには足りない。原告が、医薬品医療機器等法等の定め等(同1⑴、⑷ア、イ、カ)を前提として医薬品等の製造、販売等を目的とする会社であり、上記法規等の定めに則った事業活動をすると推認されることなどを考慮すると、近い将来において、原告が、製造販売についての承認の申請及びGMP適合性検査の申請のための原告医薬品の製造を除き、原告医薬品を製造販売する蓋然性が高いとは認められない。
⑶ 被告らは、原告が現に行っている製造販売についての承認の申請及びGM
P適合性検査の申請のための原告医薬品の製造については、本件各特許権に基づく主張をしておらず、今後、本件各特許権に基づく主張をする意思もないとし、現在、本件各特許権は侵害されていないから、被告らに損害は生じていないと主張する(前記第2の2⑴(被告エーザイRDの主張)、同⑵(被告らの主張))。
5 したがって、承認の申請等のための原告医薬品の製造に関して、被告エー
ザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権及び被告らの原告に対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権が存在しないことについて、現に、当事者間に紛争が存在し、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。
⑷ 被告らは、原告が、現在、承認の申請等のための製造(前記⑶)を除き原
告医薬品の製造販売をしておらず、そもそも製造販売に必要な厚生労働大臣の承認を受けていないことから、本件各特許権の侵害もそのおそれもないとして、現在、原告に対し本件各特許権に基づく主張をしていない(前記第2の2⑴(被告エーザイRDの主張)、同⑶(被告らの主張))。被告らは、令和3年5月に、原告から原告医薬品の製造販売について本件各特許権を行使しないことの確認をするよう求める旨の通知を受け、原告に対し本件各特許権を行使する可能性がある旨の本件回答をした(前記第2の1⑸ア)。もっとも、原告と被告らの間にはそれ以前に何らのやり取りもなく、被告らにおいて、原告が原告医薬品の製造販売をした場合に本件各特許権に基づく権利行使をしないと直ちに確約することはできなかったことから、上記のような回答をしたものと認められ(乙3)、本件回答をもって、被告らが、現在の本件各特許権による差止請求権や不法行為による損害賠償請求権の不存在を争っているとは認められない。また、原告は、現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認を条件とする本件各特許権による差止請求権等が発生し得るから、被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権による差止請求権等の不存在確認請求には訴えの利益がある旨も主張する。しかし、原告医薬品の将来における製造販売について、被告エーザイRDの現在の本件各特許権による差止請求権は、本件各特許権の侵害又は侵害のおそれを理由として発生し得るものであり、被告らの本件各特許権の侵害を理由とする現在の不法行為によ
5 る損害賠償請求権は、本件各特許権の侵害及び損害の発生等を理由として発
生し得るものである。そして、上記に記載した本件における状況に照らせば、現在において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされれば上記差止請求権等の権利を取得し得るという地位を被告らが有していると認めるに足りず、上記差止請求権等は、原告が原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けることを条件として発生しているものとは解されない。これらのことを考慮すると、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権及び被告らの原告に対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権が存在しないことについて、現に、当事者間に紛争が存在し、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。なお、仮に、二課長通知等によれば本件各特許が存在するために原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされることがないとしても、そのことによって、原告と被告らとの間に前記各請求権の存否に係る法律上の紛争が存在することになるものとは解されない。
⑸ 以上によれば、原告の被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権によ
る差止請求権の不存在確認請求及び被告らに対する本件各特許権の侵害を理由とする現在の損害賠償請求権の不存在確認請求について、現に、原告の法律的地位に危険又は不安が存在するとは認められず、これらの各訴えに、即時確定の利益があるとは認められない。したがって、原告の被告エーザイRDに対する現在の本件各特許権による差止請求権の不存在確認の訴え及び被告らに対する本件各特許権の侵害を理由とする現在の損害賠償請求権の不存在確認の訴えは、確認の利益を欠くものというべきである。
3 争点③(被告エーザイRDに対する将来の差止請求権の不存在確認請求に訴
5 えの利益があるか。)及び争点④(被告らに対する将来の損害賠償請求権の不
存在確認請求に訴えの利益があるか。)について将来の法律関係は、法律関係としては現存せずしたがってこれに関して法律上の争訟はあり得ないのであって、仮にある法律関係が将来成立するか否かについて現に法律上疑問があり将来争訟の起こり得る可能性があるような場合においても、このような争訟の発生は常に必ずしも確実ではなく、しかも争訟発生前あらかじめこれに備えて未発生の法律関係に関して抽象的に法律問題を解決するというがごとき意味で確認の訴えを認容すべきいわれはなく、むしろ現実に争訟の発生するのを待って現在の法律関係の存否につき確認の訴えを提起し得るものとすれば足りる(最高裁昭和30年(オ)第95号同31年10月4日第一小法廷判決・民集10巻10号1229頁参照)。本件において、近い将来において、原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされ、原告医薬品の薬価基準への収載がされる蓋然性が高いとは認められず、ひいては、原告が原告医薬品を製造販売する蓋然性が高いとは認められない(前記2)。近い将来において、原告と被告らとの間に、被告エーザイRDの原告に対する本件各特許権による差止請求権及び被告らの原告に対する本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権が存在しないことについて法律上の紛争が発生することは何ら確実ではなく、現時点において、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在しているとは認めるに足りない。したがって、原告の被告らに対する、将来において原告医薬品が薬価基準に収載された場合に、被告エーザイRDが原告に対し本件各特許権による差止請求権を有しないこと、被告らが原告に対し本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求権を有しないことの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものというべきである。
4 争点⑤(被告らに対する原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないこ
5 との確認請求に訴えの利益があるか。)について
原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないか否かの判断は事実上の判断であって、権利又は法律関係の確認を目的としないものであり、原告と被告らとの間に生じ得る法律上の紛争を解決するためには、本件各特許権による差止請求等訴訟、本件各特許権の侵害を理由とする不法行為による損害賠償請求訴訟、不当利得返還訴訟、即時確定の利益がある場合にこれらに係る請求権の不存在確認の訴えを提起する必要があるのであり、かつ、それで足りる。原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないか否かを確定することは、原告と被告らとの間に生じ得る法律上の紛争の解決のために適切有効とはいい難く、原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認の訴えを認めることはできない。仮に、二課長通知等によれば本件各特許が存在するために原告医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認がされることがないとしても、そのことによって原告と被告らとの間に法律上の紛争が存在したり、原告と被告らとの間の法律上の紛争を解決するために上記の確認の訴えが適切有効になったりするものとは解されない。したがって、原告の被告らに対する原告医薬品が本件各発明の技術的範囲に属しないことの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものというべきである。
第4 結論
以上によれば、本件各訴えはいずれも訴えの利益を欠くものであるからこれらを却下すべきである。よって、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 柴 田 義 明裁判官 佐 伯 良 子裁判官 仲 田 憲 史別紙物件目録医薬品販 売 名 エリブリンメシル酸塩静注1mg「ニプロ」
5 効能・効果 手術不能又は再発乳癌
用法・用量 通常、成人には、エリブリンメシル酸塩として、1日1回1.4mg/㎡(体表面積)を2~5分間かけて、週1回、静脈内投与する。これを2週連続で行い、3週目は休薬する。これを1サイクルとして、投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。以 上
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