平成30(ワ)1391特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
認容 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
令和4年9月15日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告ファミリーイナダ株式会社 被告株式会社フジ医療器
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対象物 |
マッサージ機 |
法令 |
特許権
特許法102条3項4回 特許法100条1項1回
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キーワード |
実施44回 進歩性24回 特許権11回 無効9回 侵害8回 差止7回 損害賠償2回 分割2回 許諾2回 ライセンス2回 審決1回
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主文 |
1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を製造、販売し、又は販売の申
2 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、4862万9824円並びにうち781万円に対する
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担
6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。10 |
事件の概要 |
本件は、発明の名称を「マッサージ機」とする特許(以下「本件特許」という。)
に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本件特許の
特許請求の範囲請求項1から7記載の各発明の技術的範囲に属する別紙「被告製品20
目録」1記載の製品並びに同請求項1から4及び7記載の各発明の技術的範囲に属
する同目録2記載の製品(以下、項順に「被告製品1」などといい、これらを「被
告製品」と総称する。)を製造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると
主張して、被告に対し、特許法100条1項に基づき、被告製品の製造、販売等の
差止めを、同条2項に基づき、被告製品の廃棄を求めるとともに、不法行為(民法25
709条)に基づく損害賠償●(省略)●並びにうち●(省略)●に対する訴状送
達の日の翌日である平成30年2月27日から支払済みまで平成29年法律第44
号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定年5分の割合による遅
延損害金及びうち●(省略)●に対する請求の趣旨拡張の申立書送達の日の翌日で
ある令和3年2月25日から支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。5 |
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判決文
令和4年9月15日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成30年(ワ)第1391号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和4年4月28日
判 決
原 告 ファミリーイナダ株式会社
同 代 表 者 代 表 取 締 役
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 三 山 峻 司
同 矢 倉 雄 太
10 同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 北 村 修 一 郎
同 森 俊 也
同訴訟復代理人弁護士 西 川 侑 之 介
被 告 株 式 会 社 フ ジ 医 療 器
15 同 代 表 者 代 表 取 締 役
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 重 冨 貴 光
同 古 庄 俊 哉
同 石 津 真 二
同 手 代 木 啓
20 同 杉 野 文 香
同 辻? 本 希 世 士
同 辻? 本 良 和
同 松 田 さ と み
同 補 佐 人 弁 理 士 丸 山 英 之
25 主 文
1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を製造、販売し、又は販売の申
出をしてはならない。
2 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、4862万9824円並びにうち781万円に対する
平成30年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち4081
5 万9824円に対する令和3年2月25日から支払済みまで年3分の割合による金
員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担
とする。
10 6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は、原告に対し、●(省略)●並びにうち●(省略)●に対する平成3
15 0年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち●(省略)●に
対する令和3年2月25日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、発明の名称を「マッサージ機」とする特許(以下「本件特許」という。)
に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本件特許の
20 特許請求の範囲請求項1から7記載の各発明の技術的範囲に属する別紙「被告製品
目録」1記載の製品並びに同請求項1から4及び7記載の各発明の技術的範囲に属
する同目録2記載の製品(以下、項順に「被告製品1」などといい、これらを「被
告製品」と総称する。)を製造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると
主張して、被告に対し、特許法100条1項に基づき、被告製品の製造、販売等の
25 差止めを、同条2項に基づき、被告製品の廃棄を求めるとともに、不法行為(民法
709条)に基づく損害賠償●(省略)●並びにうち●(省略)●に対する訴状送
達の日の翌日である平成30年2月27日から支払済みまで平成29年法律第44
号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定年5分の割合による遅
延損害金及びうち●(省略)●に対する請求の趣旨拡張の申立書送達の日の翌日で
ある令和3年2月25日から支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金
5 の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は争いのない事実又は弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実である。)
(1) 当事者
原告は、電気マッサージ器、美容体育機器、家庭用電気用品等の製造販売等を目
10 的とする株式会社である。
被告は、医療機器、健康機器、家庭用電気機械器具等の製造販売等を目的とする
株式会社である。
(2) 本件特許権
原告は、次の本件特許権を有している。
15 ア 登録番号 特許第6253829号
イ 出願日 平成29年5月12日
ウ 分割の表示 特願2012-124882の分割
エ 原出願日 平成24年5月31日
オ 公開日 平成29年8月3日
20 カ 登録日 平成29年12月8日
キ 発明の名称 マッサージ機
なお、本件特許の特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、明細書及び図面を「本
件明細書」という。)の記載は、別紙「特許公報」のとおりである(甲4)。
(3) 構成要件
25 本件特許の特許請求の範囲請求項1~7に係る発明(以下、項順に「本件発明1」
などといい、これらを「本件各発明」と総称する。)の構成要件は、次のとおり分
説される。
ア 請求項1(本件発明1)
A 使用者が凭れる背凭れ部と、
B 使用者が着座する座部と、
5 C を有するマッサージ機において、
D 前記背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側壁と前記座部に設けられた
使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対をなす第二側壁とを一体的
に形成された側壁を有し、
E 前記側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサージ部
10 と使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧可能である対の第二マッサージ部が設
けられ、
F 前記第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御部を有する
G ことを特徴としたマッサージ機。
イ 請求項2(本件発明2)
15 H1 前記背凭れ部及び前記座部は一体的に形成されていることを特徴とする
H2 請求項1に記載のマッサージ機。
ウ 請求項3(本件発明3)
I1 前記制御部は、前記第一マッサージ部と前記第二マッサージ部を同時又は順
番に動作させることを特徴する
20 I2 請求項1又は2に記載のマッサージ機。
エ 請求項4(本件発明4)
J1 前記第一マッサージ部及び前記第二マッサージ部はエアセルであることを特
徴とする
J2 請求項1~3のいずれかに記載のマッサージ機。
25 オ 請求項5(本件発明5)
K1 使用者の臀部又は大腿部の背面を押圧可能な第三マッサージ部を有すること
を特徴とする
K2 請求項1~4のいずれかに記載のマッサージ機。
カ 請求項6(本件発明6)
L1 前記第三マッサージ部はエアセルであることを特徴とする
5 L2 請求項5に記載のマッサージ機。
キ 請求項7(本件発明7)
M1 前記背凭れ部には使用者の背中をマッサージする機械式のマッサージユニッ
トを有することを特徴とする
M2 請求項1~6のいずれかに記載のマッサージ機。
10 (4) 被告製品の構成
被告製品1と被告製品2との構成上の相違点は、被告製品2が本件特許に係る特
許請求の範囲請求項5の「使用者の臀部又は大腿部の背面を押圧可能な第三マッサ
ージ部を有する」構成(K1)を備えていない点である。
被告製品の構成については当事者間に争いがあるが、被告製品1が、構成要件 A
15 ~D、G、H1、I1、J1、K1、L1 及び M1 を充足することは当事者間に争いがなく、被告
製品2が、構成要件 A~D、G、H1、I1、J1 及び M1 を充足することは当事者間に争い
がない。
(5) 被告の行為
被告は、平成28年12月10日から被告製品1を製造販売し、同年10月1日
20 から被告製品2を製造販売している。
2 争点
(1) 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)
(2) 無効理由の有無(争点2)
ア 公開特許公報(特開 2009-254408。平成21年11月5日公開。乙6。以下
25 「乙6公報」という。)記載の発明(以下「乙6発明」という。)に基づく本件各
発明の進歩性欠如の有無(争点2-1)
イ 公開特許公報(特開 2005-205234。平成17年8月4日公開。乙7。以下「乙
7公報」という。)記載の発明(以下「乙7発明」という。)に基づく本件各発明
の進歩性欠如の有無(争点2-2)
(3) 損害の発生及びその額等(争点3)
5 (4) 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点4)
第3 争点についての当事者の主張
1 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)
(原告の主張)
(1) 被告製品の構成
10 被告製品の構成は、別紙「被告製品1説明書(原告)」及び「被告製品2説明書
(原告)」(以下、これらを総称して「被告製品説明書(原告)」ということがあ
る。)記載のとおりである。
(2) 被告製品の「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサー
ジ部」(構成要件 E)の充足性
15 ア 「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサージ部」との文
言は、押圧の位置及び押圧の方向、すなわち、腰部に対して左右方向に押圧すると
いう態様を明らかにしたものであり、それ自体明確であるから、その字義どおり解
釈すべきである。
これに対し、被告は、構成要件 E の前記文言からは押圧の態様が不明であるとし
20 た上で、本件明細書の記載を参酌し、従来技術の課題は、対のマッサージ部により
使用者の身体を両側から保持したり、左右方向に移動させたりすることができない
ことにあったことを指摘し、構成要件 E の前記文言は、使用者の腰部を左右両側か
ら保持するように押圧可能であり、かつ、使用者の腰部を左右に移動させるように
押圧可能である対のマッサージ部と限定して解すべきであると主張する。
25 しかし、被告が指摘する従来技術の課題は、側壁を有さず、身体の背面側に設け
られた膨張袋により身体の背面側から上下方向に身体を押し上げるという、本件発
明1とは明らかに構成に差異がある特許文献1記載の発明を受けて記載されたもの
であって、単に膨縮袋の押圧態様だけにとどまらないマッサージ機全体の構成を対
象として記述されている。本件明細書の記載や出願時の技術水準に照らすと、背凭
れ部から座部に至る側壁において、腰部、臀部乃至大腿部を左右方向から押圧可能
5 なマッサージ機を提供することが本件各発明の課題である。この課題に対して、本
件発明1は、構成要件 D において「前記背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一
側壁と前記座部に設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対
をなす第二側壁とを一体的に形成された側壁を有し、」という構成を採用し、構成
要件 E において「前記側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マ
10 ッサージ部と使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧可能である対の第二マッサ
ージ部が設けられ、」という構成を採用することにより、側壁に設けられた第一マ
ッサージ部及び第二マッサージ部によって、それぞれ使用者の腰部を左右方向に押
圧し、使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧可能との効果を得ることを可能と
した。そうすると、「前記側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第
15 一マッサージ部」とは、使用者の腰部を左右両側から保持するように押圧可能であ
る構成か、あるいは、使用者の身体を左右方向に移動させるように押圧する構成で
あればよく、被告主張のように過剰に限定解釈すべき理由はない。
イ 被告製品では、被告製品説明書(原告)の各図1のとおり、一対の側壁の夫々
の内側に左右一対のエアセルが側壁に沿って配置されており、被施療者の腰部を左
20 右方向に押圧可能な第一マッサージ部を備えている。
これに対し、被告は、被告製品の対のエアセル①(別紙「被告製品1説明書(被
告)」及び「被告製品2説明書(被告)」(以下、これらを総称して「被告製品説
明書(被告)」ということがある。)の各図3)は使用者の腰部を左右後方から斜
め前方に向かって押圧することから、対のエアセル①を膨張させた場合、使用者の
25 腰部は前方に押し出され左右両側から保持されない旨、対のエアセル①の給排気は
左右両側同時に行うことしかできないから、対のエアセル①は使用者の腰部を左右
に移動させるように押圧することはできない旨、被告製品1のエアセル①は、 状
「L
マット」に押さえつけられており、左右横側から膨張することはない旨を指摘して、
被告製品の対のエアセル①は、構成要件 E の「使用者の腰部を左右方向に押圧可能
である対の第一マッサージ部」を充足しないと主張する。
5 しかし、エアセル①は使用者の側面側に設けられ、押圧面が左右内方を向くよう
な構成であり、エアセル①の後方(奥)側はパイプで繋がっており、前方側はフリ
ーの膨張袋として袋状になっているので、給気により、エアセル①は内側に向けて
押圧するから、使用者の腰部が斜め前方に押し出されることはない。また、後記(3)
のとおり、第一マッサージ部の対のエアセル①が左右両側同時に給排気する構成も
10 「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサージ部」に該当する。
また、「L 状マット」は、表生地(厚さ1mm 程度)と裏生地(厚さ1mm 程度)があ
り、その間に5mm 程度のウレタンを挟んだ布カバー(ポリエステル)であって、エ
アセル①の膨縮によるマッサージを阻害するようなことはない。
したがって、被告製品は、「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一
15 マッサージ部」(構成要件 E)を充足する。
(3) 被告製品の「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ部が設け
られ」(構成要件 E)の充足性
ア 「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ部が設けられ」とは、
一つになって分けらない状態である第一側壁と第二側壁からなる側壁全体に第一マ
20 ッサージ部が設けられていることを意味する。
これに対し、被告は、本件明細書の記載や出願経過から、少なくとも、第一マッ
サージ部は、第一側壁と第二側壁にわたって設けられていることを意味し、第一マ
ッサージ部が第一側壁に設けられた構成は「前記側壁に…第一マッサージ部と…第
二マッサージ部が設けられ」には含まれないと解すべきであると主張する。
25 確かに、本件明細書には、腰部を押圧する第一マッサージ部が第一側壁及び第二
側壁に跨って配置されている実施形態が開示されているが、これは、本件各発明の
実施例として記載されているものである。第一マッサージ部が、「第一側壁」と「第
二側壁」が「一体的に形成された側壁」において腰部に対応する位置に設けられて
いれば、身体を保持することができ、使用者の腰部に対して、良好かつ多様なマッ
サージ作用を与えることができるから、構成要件 E を実施例に限定し、第一マッサ
5 ージ部が第一側壁及び第二側壁に跨って配置されていると限定解釈することは誤り
である。また、本件特許の出願経過において原告が行った補正は、第一マッサージ
部に関し、腰部を左右方向に押圧可能な位置に設けることを明確にして当初の明細
書等の記載に対応させるために行ったものであり、「第一側壁に第一マッサージ部
が設けられる」構成を除外するために行ったものではない。
10 イ 被告製品のエアセル①は、使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右
で対をなす側壁(第二側壁に対応)と使用者の上腕部の外側面に対向する左右で対
をなす側壁(第一側壁に対応)が「一体的に形成された側壁」において、腰部に位
置して設けられている。
仮に、被告の主張を前提としたとしても、「わたって」とはある程度の範囲に及
15 んでいることを意味し、使用者の腰部は背凭れ部に対応する側壁と臀部ないし大腿
部に対応する側壁にわたる部分に位置するところ、エアセル①は腰部に位置するか
ら、これらの側壁にわたって設けられており、被告製品は、第一マッサージ部が第
一側壁と第二側壁とにわたって設けられているといえる。
したがって、被告製品は、「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ
20 部が設けられ」(構成要件 E)を充足する。
(4) 被告製品の「前記第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する
制御部」(構成要件 F)の充足性
ア 「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御部」という文
言から、「制御する制御部」は、「第一マッサージ部」と「第二マッサージ部」の
25 各動作を制御の対象としているが、「制御」の態様については特別の限定を付して
いないところ、本件発明1(請求項1)の従属項である本件発明3(請求項3)で
は、この「制御」について、「前記制御部は、前記第一マッサージ部と前記第二マ
ッサージ部を同時又は順番に動作させることを特徴とする請求項1又は2に記載の
マッサージ機。」とし、制御の態様をより明らかに特定している。したがって、本
件発明3(請求項3)の上位項であり包括項である本件発明1(請求項1)におい
5 て、対のマッサージ部の制御には、同時に給排気するものも左右独立して給排気す
るものも含まれると解され、「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御
する制御部」とは、対のマッサージ部のエアセルを左右独立して駆動する場合を含
むが、それに限定されるものではなく、対のマッサージ部を同時に駆動させて膨張・
収縮させる場合をも含む。
10 これに対し、被告は、構成要件 F の記載から、制御の具体的態様は明らかでなく、
本件明細書や本件特許の出願経過に照らすと、構成要件 F の「第一マッサージ部と
第二マッサージ部の動作を制御する制御部」とは、対のマッサージ部を左右独立し
て駆動することができるように制御可能である制御部を意味すると解すべきである
と主張する。
15 しかし、構成要件 F は、制御の態様について特別の限定を付していないことは前
記したとおりである。また、被告が指摘する本件明細書の記載は、本件各発明の一
実施例に係るマッサージ機 1 を対象として「独立してエアを給排気可能」と説明し
ているにすぎず、対のエアセルを同時に給排気する構成を排除しているものではな
い。本件明細書の他の部分には同時に給排気する押圧態様を前提とした記載がある
20 ほか、本件明細書全体をみても、対のエアセルが独立してエアを給排気しなければ
ならないことを明示や示唆する記載はない。出願経過についてみても、被告が指摘
する本件明細書の記載は、「給排気可能」とされており、左右同時の給排気を排除
するものではない。そもそも、使用者の腰部を左右方向から押圧可能である構成で
対の第一マッサージ部のエアセルを左右同時に給排気する押圧態様は、本件各発明
25 の目的や作用効果に沿うものであり、同時の給排気の態様も発明の範囲内の構成で
あるといえる。
イ 被告製品は、リモコン操作により、対のエアセル①が左右同時に膨張・収縮
して、使用者の腰部を左右両側から保持するような押圧ができることは自明である。
したがって、被告製品は「前記第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制
御する制御部」(構成要件 F)を充足する。
5 (被告の主張)
(1) 被告製品の構成
被告製品の構成は、別紙「被告製品1説明書(被告)」及び「被告製品2説明書
(被告)」記載のとおりである。
(2) 被告製品の「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサー
10 ジ部」(構成要件 E)の非充足性
ア 構成要件 E の記載からすると、「第一マッサージ部」とは、「使用者の腰部
を左右方向に押圧可能」なものであることは理解できるものの、いかなる押圧の態
様を意味するのかについては一義的に明らかでない。
本件明細書記載の本件特許に係る発明の背景事情、解決しようとする課題や目的
15 等を参酌すると、「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサージ
部」は、対のマッサージ部により使用者の身体を両側から保持したり、左右方向に
移動させたりすることができないという従来技術の課題を解決する構成であり、使
用者の腰部を保持する機能、及び、使用者の身体を左右方向に移動させる機能を備
えたものである。すなわち、対のマッサージ部により使用者の腰部を押し出してし
20 まい、使用者の腰部を保持できない押圧態様、及び、使用者の腰部を左右に移動さ
せることができない押圧態様は、本件各発明の従来技術として位置づけられるもの
であって、「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサージ部」に
含まれないことになる。
そうすると、構成要件 E の「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一
25 マッサージ部」とは、使用者の腰部を左右両側から保持するように押圧可能であり、
かつ、使用者の腰部を左右に移動させるように押圧可能である対のマッサージ部で
あると解すべきである。
イ 被告製品説明書(被告)の各図1及び図3のとおり、被告製品において、対
のエアセル①が配設されている側壁①は、背凭れ部に対して略逆ハの字型に形成さ
れており、対のエアセル①は、着座した使用者の腰部の真横ではなく、左右後方寄
5 りに位置している。対のエアセル①は、使用者の腰部を側壁①側から斜め前方に向
かって、すなわち、左右後方から斜め前方に向かって押圧することから、対のエア
セル①を膨張させた場合、使用者の腰部は前方に押し出され左右両側から保持され
ない(別紙「被告製品1説明書(被告)」の図6参照)。
また、被告製品において、対のエアセル①の給排気は左右両側同時に行うことし
10 かできず、対のエアセル①の左右の一方のみを膨張させるという動作をさせること
自体がそもそも不可能である。よって、対のエアセル①は使用者の腰部を左右に移
動させるように押圧することはできない。
さらに、被告製品1のエアセル①は、「L 状マット」に押さえつけられており、左
右横側から膨張することはない。
15 したがって、被告製品の対のエアセル①は、「使用者の腰部を左右方向に押圧可
能である対の第一マッサージ部」(構成要件 E)を充足しない。
(3) 被告製品の「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ部が設け
られ」(構成要件 E)の非充足性
ア 「前記側壁」とは、構成要件 D の「前記背凭れ部に設けられた左右で対をな
20 す第一側壁と前記座部に設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左
右で対をなす第二側壁とを一体的に形成された側壁」を指すから、構成要件 E は、
かかる「第一側壁と…第二側壁とを一体的に形成された側壁」のいずれかの箇所に
第一マッサージ部と第二マッサージ部とが設けられていればよいのではなく、少な
くとも第一マッサージ部は、第一側壁と第二側壁にわたって設けられていることを
25 規定していると解される。
すなわち、本件明細書には、第一マッサージ部(エアセル 11)の配置につき、「側
壁 3a の内側面と側壁 4a の内側面とに亘って、腰部をマッサージするマッサージ部
としてのエアセル 11 が設けられている」ことが記載されており、第一マッサージ部
(エアセル 11)は、第一側壁(側壁 4a)でも第二側壁(側壁 3a)でもなく、第一側
壁及び第二側壁に跨って配置されている実施形態が開示され、これに沿う図面が記
5 載されている。また、本件特許の出願経過において、原告は、第一側壁に第一マッ
サージ部、第二側壁に第二マッサージ部を配置することを規定する特許請求の範囲
の補正を行ったところ、「第一側壁に第一マッサージ部が設けられる」点は、新規
事項の追加にあたるとの特許庁の拒絶理由通知を受け、「第一側壁と…第二側壁と
を一体的に形成された側壁」を特許請求の範囲に追加し、かかる「第一側壁と…第
10 二側壁とを一体的に形成された側壁」に第一マッサージ部と第二マッサージ部を配
置する旨の特許請求の範囲の補正を行った。このような本件明細書の記載や出願経
過に照らすと、第一側壁に第一マッサージ部を設ける構成は構成要件 E から意識的
に除外されたといえるのであり、原告が、本件訴訟において、構成要件 E に、第一
側壁に第一マッサージ部を設けるという構成が含まれると主張することは包袋禁反
15 言に該当し許されない。以上から、「前記側壁に…対の第一マッサージ部…が設け
られ」とは、少なくとも、第一マッサージ部は、第一側壁と第二側壁にわたって設
けられていることを意味し、第一マッサージ部が第一側壁に設けられた構成は「前
記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ部が設けられ」には含まれないと
解すべきである。
20 イ 被告製品において「第一マッサージ部」と対比すべき部材であるエアセル①
は、本件発明1の「第一側壁」に相当する側壁①を構成するパーツに取り付けられ
ており、側壁①と側壁②(「第二側壁」に相当する。)にわたって取り付けられて
いるものではない。これに対し、原告は、被告製品のエアセル①は側壁①と側壁②
にわたって配設されている旨を主張するが、原告が第一側壁と第二側壁の境界とす
25 る、座部の後端部から鉛直方向に引いた線が両者の境界となる根拠はない。
したがって、被告製品は、「前記側壁に…対の第一マッサージ部…が設けられ」
(構成要件 E)を充足しない。
(4) 被告製品の「前記第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する
制御部」(構成要件 F)の非充足性
ア 構成要件 F の記載から、「制御部」とは、第一マッサージ部と第二マッサー
5 ジ部の動作を「制御」するものであるが、かかる「制御」が具体的にいかなる態様
でマッサージ部を動作させるものであるのかは明らかでない。
従来、膨縮袋が使用者の身体を押し上げる方向(上下方向)に膨張するものであ
り、使用者の身体を両側から保持したり、左右方向に移動させたりすることはでき
なかったこと、左右の膨縮袋を独立して駆動させて身体を左右方向に移動させるこ
10 とができず、マッサージ箇所が不変であったことという課題があったことに対し、
本件各発明は、「身体を保持することができ、使用者の腰や臀部又は大腿部に対し
て、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができる」ことを目的、効果とす
るものである。後者の課題の原因は、左右の膨縮袋 4a を独立して駆動させることが
できないことにあるから、本件各発明は、かかる課題を解決するため、左右の膨縮
15 袋を独立して駆動可能とする構成を発明の前提としていることは明らかである。現
に、本件明細書には、本件各発明の目的、効果を実現した発明の具体的な実施形態
として、「エアセル 10 は、左側のエアセル 10L と右側のエアセル 10R に対して独立
してエアを給排気可能とされており、エアセル 11 も同様に、左側のエアセル 11L と
右側のエアセル 11R に対して独立してエアを給排気可能とされる」構成が開示され
20 ており、図面も同様に、第一マッサージ部に相当するエアセル 11L とエアセル 11R、
第二マッサージ部に相当するエアセル 10L とエアセル 10R がそれぞれ独立して接続
された構成が示されている。
また、原告は、本件特許の出願経過において、本件明細書のうち、対のマッサー
ジ部を左右独立して駆動することができることを開示した前記記載部分を根拠とし
25 て補正を行い、「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御部」
とした。
以上から、構成要件 F の「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御す
る制御部」とは、対のマッサージ部を左右独立して駆動することができるように制
御可能である制御部を意味すると解すべきである。
イ 被告製品には各エアセルにエアの給排気を行うポンプと電磁弁ユニットの各
5 電磁弁を制御する基板が設けられており、基板からの信号により、ポンプの駆動及
び各電磁弁の開閉が制御されるところ(別紙「被告製品1説明書(被告)」図7参
照)、基板からの信号によってポンプが駆動し、電磁弁①の開閉が制御されること
により、対のエアセル①の給排気が左右同時に行われ、同様に、電磁弁②の開閉が
制御されることにより、対のエアセル②の給排気が左右同時に行われることから、
10 対のエアセル①及び②の左右を独立して膨縮させることはできない。
したがって、被告製品は、「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御
する制御部」(構成要件 F)を充足しない。
2 乙6公報記載の乙6発明に基づく本件各発明の進歩性欠如の有無(争点2-
1)
15 (被告の主張)
(1) 乙6発明の構成
乙6公報(【0017】、【0023】、【0026】、【0037】、【図1】、【図5】。な
お、被告は最終的に本件特許に関する審決取消訴訟(知財高裁平成31年(行ケ)
第10054号(以下「別件訴訟」という。)の判決で認定された構成を乙6発明
20 とする前提で主張するところ、同判決は、ほかに、【0001】、【0021】、【0024】、
【0025】、【0027】、【0028】、【0039】、【0040】、【0042】、【0047】~【0051】、
【図3】、【図7】等も発明認定の根拠として挙げている(甲39)。)は、被施
療者の上半身を後方から支持する背凭れ部 3 と(a-1)、被施療者が着座する座部 2
と(b-1)、を有する椅子型マッサージ機 1 において(c-1)、前記座部 2 及び前記
25 背凭れ部 3 の左右の側方に、前記背凭れ部 3 の側方位置から前記座部 2 に沿って前
方へ延設されるようにして配設されているアームレスト 4 を有し(d-1)、前記座部
2 の両側部の上方に前記被施療者の臀部又は腰部の側部から大腿部の前側部に至る
一連の部位を左右方向に押圧可能である後側のエアセル 7b 及び前側のエアセル 7b
が設けられ(e-1)、前記エアセル 7b の動作を制御する制御部 50 を有する(f-1)
椅子型マッサージ機 1(g-1)という乙6発明を開示している。
5 (2) 進歩性欠如
ア 本件発明1と乙6発明の相違点
(ア) 相違点1-1
本件発明1では、背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側壁と座部に設けら
れた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対をなす第二側壁とを一体
10 的に形成された側壁を有するのに対し、乙6発明では、座部及び背凭れ部の左右の
側方に、前記背凭れ部の側方位置から前記座部に沿って前方へ延設されるようにし
て配設されているアームレストを有する点
(イ) 相違点1-2
本件発明1では、側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッ
15 サージ部と使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧可能である対の第二マッサー
ジ部が設けられているのに対し、乙6発明では、座部の両側部の上方に被施療者の
臀部又は腰部の側部から大腿部の前側部に至る一連の部位を左右方向に押圧可能で
ある後側のエアセル 7b 及び前側のエアセル 7b が設けられている点
イ 容易想到性
20 (ア) 相違点1-1について
本件特許の出願時において、椅子型マッサージ機の側壁が背凭れ部や座部と一体
に形成されている公知例(乙7、13~18)が多数存在したことから、かかる構
成は、当業者が当然に採用する周知ないし慣用技術であった。
本件各発明と乙6発明は、いずれも身体の保持や腰部、臀部、大腿部へのマッサ
25 ージを行うことを課題としているところ、同課題とは無関係であるアームレストの
取り付け方を検討するにあたり、乙6発明に触れた当業者が、前記周知ないし慣用
技術を踏まえ、アームレストを背凭れ部や座部に直接設けることは容易に想到し得
たといえる。また、側壁と背凭れ部や座部を一体的に設ける構成が周知ないし慣用
技術であったことからすれば、当業者がかかる構成を採用することは、当業者とし
て当然に行う創作能力の発揮であって、前記課題を実現するための均等物による置
5 換ないし技術の具体的適用に伴う単なる設計事項にすぎない。
原告は、乙6発明におけるリクライニング機能の存在を殊更に強調するが、本件
各発明はリクライニングする構成に限定するものではなく、リクライニングするも
のもしないものも含まれるから、リクライニングの有無を論じることに意味はない。
また、乙6発明においてリクライニングしなくても、本件各発明との共通の課題は
10 実現されるから、乙6発明に周知ないし慣用技術を適用することによって乙6発明
の目的が阻害されるという論理も成り立たない。
(イ) 相違点1-2について
本件特許の出願時において、椅子型マッサージ機のマッサージ部を直接側壁に設
ける公知例(甲18、乙7、19、20)が多数存在したことから、かかる構成は、
15 当業者が当然に採用する周知ないし慣用技術であった。
乙6発明に触れた当業者は、前記周知ないし慣用技術を適用することにより、マ
ッサージ部を側壁に直接設ける構成を容易に想到し得たといえる。また、マッサー
ジ部を側壁に直接設ける構成が周知ないし慣用技術であったことからすれば、当業
者がかかる構成を採用することは、当業者として当然に行う創作能力の発揮である
20 から、設計事項として容易に想到し得た。
また、本件各発明の課題は、「身体を保持することができ、使用者の腰や臀部又
は大腿部に対して、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができるマッサー
ジ機を提供すること」にあるところ、第一マッサージ部と第二マッサージ部によっ
て、使用者の腰や臀部又は大腿部を押圧すれば、かかる課題を実現できる。したが
25 って、二つのマッサージ部によって使用者の腰や臀部又は大腿部を押圧するに際し、
どちらのマッサージ部で使用者の身体のどの部位までをマッサージするように構成
するかは、本件各発明の課題を解決する上では有意な相違ではなく、当該技術を特
定の椅子型マッサージ機に具体的に適用するに際し、適宜、当業者において選択す
る事項にすぎない。また、乙第19号証及び乙第20号証には、使用者の腰部や大
腿部をマッサージすることができる椅子式マッサージ機が開示されるところ、二つ
5 ずつ存在する左右のエアバッグのうち1つにより腰と臀部の双方をマッサージする
ことは特に意識されず、左右のエアバッグのうち後側に位置するものは使用者の腰
部をマッサージする構成が開示されていると解され、甲第15号証には、臀部用エ
アバッグとは明確に区別される腰部用エアバッグを備える構成が開示されている。
このような公知例(甲15、乙19、20)を踏まえると、二つのマッサージ部で
10 腰や臀部又は大腿部をマッサージするに際し、一方のマッサージ部で腰部のみを対
象とし、臀部は対象としないように構成することは容易に想到し得たということが
できる。
(ウ) 原告は、本件発明2の背凭れ部及び座部は一体的に形成されているのに対
し、乙6発明の背凭れ部は座部に対して回動可能に形成されている点(相違点1-
15 3)は、本件発明2と乙6発明の相違点である旨主張する。
しかし、本件特許の出願時において、椅子型マッサージ機の背凭れ部と座部が一
体的に形成されている公知例(甲17、乙13~18、21、22)が多数存在し
たことから、かかる構成は、当業者が当然に採用する周知ないし慣用技術であった。
乙6発明に触れた当業者は、前記周知ないし慣用技術を適用することにより、背
20 凭れ部と座部を一体的に形成する構成を容易に想到し得たといえる。また、背凭れ
部と座部を一体的に形成する構成が周知ないし慣用技術であったことからすれば、
当業者がかかる構成を採用することは、当業者として当然に行う創作能力の発揮で
あるから、設計事項として容易に想到し得た。
(3) 以上から、本件発明1及び2は、いずれも進歩性を欠如する。また、本件発
25 明3~7の発明特定事項は、すべて乙6発明との一致点であるか、乙6発明から容
易想到な相違点のいずれかに該当するから、本件発明3~7は、いずれも進歩性を
欠如する。
なお、原告は、令和3年11月22日付け準備書面16における被告の無効主張
が時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張するが、裁判所の
指示に基づき無効理由の整理をしたにすぎないから、民訴法157条1項の各要件
5 に該当しないことは明らかである。
(原告の主張)
(1) 進歩性があること
ア 相違点について
乙6公報には、背凭れ部 3 が起伏動可能に構成され、背凭れ部 3 が座部 2 に対し
10 て回動可能に構成される発明が開示されている。したがって、被告の主張する本件
発明1と乙6発明の相違点1-1及び1-2に加え、次のとおり、本件発明2と乙
6発明の相違点がある。
相違点1-3
本件発明2の背凭れ部及び座部は一体的に形成されているのに対し、乙6発明の
15 背凭れ部は座部に対して回動可能に形成されている点
イ 容易想到性がないこと
(ア) 相違点1-1に関し容易想到でないこと
乙6発明に乙7記載の発明を適用しても、相違点1-1に係る本件発明1の構成
に至らないし、乙6発明に背凭れ部や座部が一体的に設けられた周知慣用技術(乙
20 13~18)を適用すると、乙6発明が有するリクライニング機構が機能しなくな
ることから、乙6発明に周知慣用技術を適用するには阻害要因があり、背凭れ部 3
がリクライニング機能を有することを前提とした乙6発明から、単なる設計事項に
より、リクライニングする機能を無くして側壁と背凭れ部や座部を一体的に設ける
構成を想到できるものではない。
25 また、乙6公報に記載された椅子型マッサージ機 1 においては、座部 2 に対して
リクライニングする背凭れ部 3 と、座部 2 と背凭れ部 3 とは異なる動きをするアー
ムレスト 4 と、座部 2 に対して位置決められたエアセル 7b、7b は、有機的に結び付
いた不可分な構成であるから、当業者が乙6公報や被告が主張する周知慣用技術に
接しても、その周知慣用技術を乙6発明に適用する動機付けがない。
(イ) 相違点1-2に関し容易想到でないこと
5 被告が主張する公知例(甲18、乙7、19、20)をみても、本件発明1に係
る構成要件 D の背凭れ部に設けられた第一側壁と座部に設けられた第二側壁とを一
体的に形成して構成された側壁が開示されておらず、「マッサージ部を直接側壁に
設ける構成」は開示されていない。したがって、「マッサージ部を直接側壁に設け
る構成」は周知ないし慣用技術ではない。
10 本件発明1は、側壁と背凭れ部と座部が一体化されて座部に対して背凭れ部がリ
クライニングしない構成を前提にしている一方、被告が主張する公知例はいずれも
背凭れ部をリクライニングしたときに座部の両側にある側壁(エアセル、空気袋を
配置する部位)が、座部に対して相対移動しない構造である。一方、乙6発明のア
ームレスト 4 に直接エアセル 7b、 を設けると、
7b 背凭れ部のリクライニングによっ
15 て、座部 2 に対してアームレスト 4 が相対移動し、被施療者の臀部や大腿部に対し
てエアセルの位置がずれてしまうことから、乙6発明に被告が主張する周知慣用技
術を適用する動機付けが存在せず、当業者が乙6発明に当該周知慣用技術を適用す
るとの発想には至らない。加えて、本件各発明は、前側の第二マッサージ部が、施
療対象部分を「臀部乃至大腿部」として「臀部から大腿部にかけての部位」を押圧
20 するものであり、臀部を施療対象部位に含んでいる。臀部を施療対象部位に含む前
側の第二マッサージ部とは別に、腰を施療対象とする本件各発明の後側の第一マッ
サージ部が、第二マッサージ部より後側に配設されている。椅子式マッサージ機に
着座した使用者の臀部と腰部の相対位置関係は、腰部は臀部に対して前後方向では
後方で、上下方向では上方に位置する。本件各発明は、背凭れ部に設けられた第一
25 側壁と座部に設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する第二側壁とを
一体的に形成された側壁としているので、第一マッサージ部と第二マッサージ部の
配設の自由度が高く、第二マッサージ部の施療範囲を大腿部からさらに臀部を含む
ようにしながら、さらに、臀部に対して位置の異なる腰を施療対象範囲とする第一
マッサージ部を配設することができる。一方、乙6発明は、座部の両側に位置する
側壁が前後方向で概ね座部の前後長さに対応する長さである場合は、大腿部から腰
5 の範囲に前後にエアセル 7b、7b を並べると、前側のエアセル 7b を臀部までを施療
範囲に含める位置に配置することはできず、大腿部のみを施療範囲とする位置に配
置することしかできない。したがって、一体的に形成された側壁(相違点1-1)
と、エアセル押圧箇所(相違点1-2)とはそれぞれ独立した構成ではなく、それ
ぞれ独立に公知技術や周知技術の適用を論じる被告の主張は失当である。
10 さらに、被告が摘示する公知例(甲15、乙19、20)は、いずれも「座部の
左右の側方」で「臀部」をマッサージするエアバックを有する椅子型マッサージ機
は全く開示されていないから、乙6発明に公知例を適用しても、本件発明1を想到
することはできない。
(2) 以上から、本件発明1は進歩性を有している。本件発明2~7は、本件発明
15 1に従属した発明であるところ、本件発明1が進歩性を有している以上、本件発明
2~7も進歩性を有している。
(3) 時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきこと
被告は、令和3年11月22日付け準備書面16において、本件特許が無効であ
ると主張するが、時機に後れた攻撃防御方法にあたるから、却下されるべきである。
20 3 乙7公報記載の乙7発明に基づく本件各発明の進歩性欠如の有無(争点2-
2)
(被告の主張)
(1) 乙7発明の構成
乙7公報(【0029】、【0032】、【0033】、【0037】、【0038】、【0040】、【0041】、
25 【0043】~【0046】、【0051】、【0053】、【0056】、【図7】~【図9】。なお、
被告は最終的に別件訴訟の判決で認定された構成を乙7発明とする前提で主張する
ところ、同判決は、ほかに、【0050】、【0054】、【0055】等も発明認定の根拠と
して挙げている(甲39)。)は、被施療者の上半身を支持する背凭れ部 13 と(a-
2)、使用者が着座する座部 12 と(b-2)、を有するマッサージ機 10 において(c-
2)、前記背凭れ部 13 に設けられた左右で対をなす壁部(背凭れ部 13 のうち、クッ
5 ション部 13e が設けられている部分。以下「壁部 13w」という。)と前記座部 12 に
設けられた被施療者の腰部、臀部、大腿部に対向して左右で対をなす壁部(座部 12
のうちクッション部 12a 及び基台 12b からなる部分。以下「壁部 12w」という。)
とを有し(d-2)、前記壁部 12w に被施療者の臀部及び腰部を左右方向に押圧可能で
ある対の空気袋 B26、B27 と被施療者の大腿部を左右方向に押圧可能である対の空
10 気袋 B23、B24 が設けられ(e-2)、前記空気袋 B26、B27、B23、B24 の動作を制御す
る制御部 7 を有する(f-2)、マッサージ機(g-2)という乙7発明を開示している。
(2) 進歩性欠如
ア 本件発明1と乙7発明の相違点
(ア) 相違点2-1
15 本件発明1は、第一側壁と第二側壁とを一体的に形成された側壁を有するのに対
し、乙7発明では、そのような側壁を有するか明らかでない点
(イ) 相違点2-2
本件発明1では、側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッ
サージ部と使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧可能である対の第二マッサー
20 ジ部が設けられているのに対し、乙7発明では、壁部 12w に被施療者の臀部及び腰
部を左右方向に押圧可能である対の空気袋 B26、B27 と被施療者の大腿部を左右方
向に押圧可能である対の空気袋 B23、B24 が設けられている点
イ 容易想到であること
(ア) 相違点2-1について
25 本件各発明の出願時において、椅子型マッサージ機の背凭れ部から座部の側方に
かけて側壁が別部材なしに一体に形成されている公知例(乙6、13~18)が多
数存在したことから、かかる構成は、本件各発明の出願時、当業者が当然に採用す
る周知ないし慣用技術であった。
本件各発明と乙7発明は、いずれも身体の保持や腰部、臀部、大腿部へのマッサ
ージを行うことを課題としているところ、同課題とは無関係である背凭れ部に設け
5 られた側壁と座部に設けられた側壁を一体化するかを検討するにあたり、乙7発明
に触れた当業者が、前記周知ないし慣用技術を踏まえ、背凭れ部に設けられた側壁
と座部に設けられた側壁を一体化することは容易に想到し得たといえる。また、側
壁と背凭れ部や座部を一体的に設ける構成が周知ないし慣用技術であったことから
すれば、当業者がかかる構成を採用することは、当業者として当然に行う創作能力
10 の発揮であるから、設計事項として容易に想到し得た。
原告は、乙7発明におけるリクライニング機能の存在を殊更に強調するが、本件
各発明はリクライニングする構成に限定するものではなく、リクライニングするも
のもしないものも含まれるから、リクライニングの有無を論じることに意味はない。
(イ) 相違点2-2について
15 乙6発明と同様に、乙7発明は、二つのマッサージ部により使用者の腰から大腿
部を施療する技術を開示するところ、前記2(被告の主張)(2)イ(イ)のとおり、第
一マッサージ部と第二マッサージ部による施療箇所の厳密な区別は、当業者として
当然に行う創作能力の発揮であるから、設計事項として容易に想到し得た。また、
前記2(被告の主張)(2)イ(イ)の公知例からすると、当業者は、臀部をマッサージ
20 するマッサージ部と腰部をマッサージするマッサージ部を区別することも容易に想
到し得た。
原告は、本件各発明について、第一マッサージ部で腰部のみ、第二マッサージ部
で臀部及び大腿部の双方のみを施療対象とすることを前提にして、乙7発明に公知
例を適用しても、本件発明1を容易に想到することはできない旨を主張する。しか
25 し、本件発明1に係る構成要件 E において、第一マッサージ部の施療対象に腰部が
含まれることは特定されているものの、第一マッサージ部の施療対象から臀部を除
外することなど一切特定されていないから、構成要件 E は、第一マッサージ部の施
療対象に腰部が含まれ、第二マッサージ部の施療対象に臀部又は大腿部が含まれる
ことを意味するものである。
(ウ) 原告は、本件発明2は、背凭れ部及び座部が一体的に形成されているのに対
5 し、乙7発明は、背凭れ部は座部に対して回動可能に構成されている点(相違点2
-3)は、本件発明2と乙7発明の相違点である旨主張する。
しかし、前記2(被告の主張)(2)イ(ウ)のとおり、背凭れ部と座部が一体的に形
成される構成は、公知例から導かれる周知ないし慣用技術であるから、乙7発明に
触れた当業者は、これらの周知ないし慣用技術を適用することにより、背凭れ部と
10 座部を一体的に形成する構成を容易に想到し得た。また、背凭れ部と座部を一体的
に形成する構成が周知ないし慣用技術であったことからすれば、当業者がかかる構
成を採用することは、当業者として当然に行う創作能力の発揮であるから、設計事
項として容易に想到し得たということもできる。
(3) 以上から、本件発明1及び2は、いずれも進歩性を欠如する。また、本件発
15 明3~7の発明特定事項は、すべて乙7発明との一致点であるか、乙7発明から容
易想到な相違点のいずれかに該当するから、本件発明3~7は、いずれも進歩性を
欠如する。
なお、原告は、令和3年11月22日付け準備書面16における被告の無効主張
が時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張するが、裁判所の
20 指示に基づき無効理由の整理をしたにすぎないから、民訴法157条1項の各要件
に該当しないことは明らかである。
(原告の主張)
(1) 進歩性があること
ア 相違点について
25 乙7公報には、背凭れ部 13 が座部 12 に対して回動自在に枢着されており、リク
ライニング可能に構成される発明が開示されている。したがって、被告の主張する
本件発明1と乙7発明の相違点2-1及び2-2に加え、次のとおり、本件発明2
と乙7発明の相違点がある。
相違点2-3
本件発明2は、背凭れ部及び座部が一体的に形成されているのに対し、乙7発明
5 は、背凭れ部は座部に対して回動可能に構成されている点
イ 容易想到性がないこと
(ア) 相違点2-1に関し容易想到でないこと
乙7発明に背凭れ部や座部が一体的に設けられる周知慣用技術を適用すると、乙
7発明が有するリクライニング機構が機能しなくなることから、当業者が、乙7発
10 明及び周知慣用技術に接しても、その周知慣用技術を乙7発明に適用する動機付け
がないので、乙7発明に周知慣用技術を適用しようとする発想が生じ得ない。
背凭れ部 3 がリクライニングする機能を有する乙7発明から、リクライニングす
る機能を無くして第一側壁(クッション部 13e)と第二側壁(クッション部 12a)を
一体的に形成する構成には単なる設計事項で想到できるものではない。
15 (イ) 相違点2-2に関し容易想到でないこと
前記2(原告の主張)(1)イ(イ)のとおり、被告が主張する公知例をみても、マッ
サージ部を直接側壁に設ける構成や、背凭れ部に設けられた第一側壁と座部に設け
られた第二側壁とを一体的に形成して構成された側壁は開示されていないから、こ
れによって「マッサージ部を直接側壁に設ける構成」は開示されていないので、「マ
20 ッサージ部を直接側壁に設ける構成」は周知ないし慣用技術ではなく、公知例によ
りかかる構成を設計事項として容易に想到することはできない。
本件発明1は、前側の第二マッサージ部が、施療対象部分を「臀部乃至大腿部」
として「臀部から大腿部にかけての部位」を押圧するものであり、臀部を施療対象
部位に含んでいるところ、本件各発明は、背凭れ部に設けられた第一側壁と座部に
25 設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する第二側壁とを一体的に形成
された側壁としているので、第一マッサージ部と第二マッサージ部の配設の自由度
が高く、第二マッサージ部の施療範囲を大腿部からさらに臀部を含むようにしなが
ら、さらに、臀部に対して位置の異なる腰を施療対象範囲とする第一マッサージ部
を配設することができる。一方、乙7発明は、座部の両側に位置する側壁が前後方
向で概ね座部の前後長さに対応する長さである場合は、大腿部から腰の範囲に前後
5 に空気袋 B23、B24、B26、B27 を並べると、前側の空気袋 B23、B24 を臀部までを施
療範囲に含める位置に配置することはできず、本件各発明の第一マッサージ部に相
当する腰部を左右方向に押圧する空気袋を適切な位置に配設することが難しい。 し
たがって、一体的に形成された側壁(相違点2-1)と、空気袋の押圧箇所(相違
点2-2)とはそれぞれ独立した構成ではなく、それぞれ独立に公知技術や周知技
10 術の適用を論じる被告の主張は失当である。
被告が主張する公知例は、いずれも「座部の左右の側方」で「臀部」をマッサー
ジするエアバックを有する椅子型マッサージ機は全く開示されていないから、乙7
発明に公知例を適用しても、本件発明1を容易に想到することはできない。
(2) 以上から、本件発明1は進歩性を有する。また、本件発明2~7は、本件発
15 明1に従属した発明であるところ、本件発明1が進歩性を有している以上、本件発
明2~7も進歩性を有している。
(3) 時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきこと
被告は、令和3年11月22日付け準備書面16において、本件特許が無効であ
ると主張するが、時機に後れた攻撃防御方法にあたるから、却下されるべきである。
20 4 損害の発生及びその額等(争点3)
(原告の主張)
(1) 売上げ
ア 平成29年12月1日から令和2年3月31日までの被告製品の●(省略)
●である。
25 イ ●(省略)●しかし、特許法102条3項の「実施料相当額」を算出する上
で基準となる売上げは、経費性のあるものを控除した「後」の金額ではなく、単に
販売単価と販売数量から算出される販売合計額であるから、売上げを算出するには、
●(省略)●によるべきである。
(2) 実施料率
ア 実施料の相場等
5 株式会社帝国データバンクが作成した「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の
活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料
率に関する実態把握~(平成22年3月)」(以下「研究報告書」という。)には、
国内企業のロイヤルティ料率に関するアンケート結果として、産業分野を「一般機
械」とする特許のロイヤルティは4.2%、日本の司法決定(1997~2008
10 年累計)において、産業分野を「機械」とするものは、平均値が4.4%、中央値
が5.0%、最高値が10.0%とされている。また、マッサージ機は医療機器で
あるところ、ロイヤルティ料率データハンドブック(以下「料率ハンドブック」と
いう。)によれば、技術分類を「医療機器」とするものは、平均値が5.0%、最
大値が14.5%とされている。
15 以上から、被告製品の実施料率の相場は、平均が5.5%であり、最大値は14.
5%である。
イ 特許発明の技術内容や重要性及び代替技術の不存在等
本件各発明は、①使用者が凭れる背凭れ部と、着座する座部と、を有するマッサ
ージ機において、前記背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側壁と前記座部に
20 設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対をなす第二側壁と
を一体的に形成された側壁を有すること、②前記側壁に使用者の腰部を左右方向に
押圧可能である対の第一マッサージ部と使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧
可能である対の第二マッサージ部が設けられ、前記二つのマッサージ部の動作を制
御する制御部を有することを特徴とする。本件発明1は、身体を保持し、使用者の
25 腰や臀部又は大腿部に対し、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができる
という作用効果がある。前記①及び②に加え、本件発明2は、背凭れ部と座部を一
体的に形成することで第一側壁の内側面と第二側壁の内側面とにわたって、マッサ
ージ部を設けることができ、本件発明3は、第一マッサージ部と第二マッサージ部
とを同時又は順番に動作させることを特徴とし、腰や臀部又は大腿部に対して良好
かつ多様なマッサージ作用を与えることができ、本件発明4は、腰や臀部又は大腿
5 部に対してエアセルによる押圧マッサージを行うことができ、本件発明5は、臀部
又は大腿部の背面に対して押圧マッサージを行うことができ、本件発明6は、臀部
又は大腿部の背面に対してエアセルによる押圧マッサージを行うことができ、本 件
発明7は、使用者の背中に対してマッサージをすることができる。
これらの本件各発明の特徴的部分のうち、特に①及び②は、マッサージチェア全
10 体に関するものであって、マッサージチェアとしてのデザインにまでも影響を及ぼ
すものであることに加え、これらを代替する技術は現状見当たらないことに照らす
と、本件特許は、マッサージチェアにおいては、いわば「基本特許」ともいうべき
ものであり、その重要性は高い。
ウ 本件各発明の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様
15 被告製品1は、本件各発明の技術的範囲に属するものであり、マッサージチェア
としての外観的特徴に基づくデザイン性やマッサージ部について、前記イの本件各
発明の特徴を備えるもので、マッサージ機としての商品価値や顧客吸引力が強く認
められる。被告は、これらについて、パンフレットにおいて大々的に広告をしてい
る。したがって、前記特徴的部分は、被告製品1の特徴的部分に等しいと評価でき
20 るような基本的な構成であり、本件各発明が被告製品の売上げや利益に貢献してい
る度合いは極めて大きい。
被告製品2は、本件発明1~4及び7の技術的範囲に属し、マッサージチェアと
しての外観的特徴に基づくデザイン性やマッサージ部について、前記イの本件発明
1~4及び7の特徴を備えるもので、マッサージ機として商品価値や顧客吸引力が
25 強く認められる。被告は、これらについて、パンフレットにおいて大々的に広告し
ている。したがって、前記特徴的部分は、被告製品2の特徴的部分に等しいと評価
できるような基本的構成であり、本件発明1~4及び7が被告製品2の売上げや利
益に貢献している度合いは極めて大きい。
エ 特許権者と侵害者との競業関係などの諸事情
原告と被告とは、マッサージ機に関する市場において、明らかな競業関係にあり、
5 同市場におけるシェアを奪い合う関係にある。
オ 以上の事情を総合すると、ライセンス料率は10.0%を下らない。
(3) 消費税相当額
特許法102条3項の「実施料相当額」には消費税額相当分が含まれるから、そ
の認定に当たっては、被告製品の実施料相当額と認定される損害額に対し、別途1
10 0%の消費税相当額が加算されるべきである。
(4) 訴訟代理人費用
本件訴えの提起及び対応により、原告は、代理人弁護士及び弁理士への費用支払
を余儀なくされており、少なくとも実施料相当の損害額の1割程度が原告が被った
損害である。
15 (被告の主張)
(1) 売上げ
ア 原告が主張する被告製品の値引前の販売金額は認める。
イ ●(省略)●
20 (2) 実施料率
ア 実施料の相場等
原告は、研究報告書を基に、実施料率の相場は「一般機械」では4.2%である
などと主張するが、あまりにも対象が広範囲に過ぎ、椅子式マッサージ機に関する
データとして参照するに値しないし、研究報告書は、極めて多岐にわたる技術分野
25 を一括りにして数値を示していることから、参照すると不正確な判断に至る可能性
が極めて高い。
また、原告が根拠とする料率ハンドブックは、業界における現実の実施料に関す
るデータを集計・分析したものではなく、企業がアンケートにおいて回答したもの
の集計にすぎず、現実の相場より高く設定して回答されている可能性が高いから、
業界における実施料の相場等を示したものではない。これに基づく原告の主張は失
5 当である。
原告の主張は、単に「一般機械」「機械分野」あるいは「医療機器」という形式
的な分類を前提としているところ、「機械」や「医療機器」といってもその内容や
ライセンスにおける実態は様々であるから、実態に即した実質的な検討が求められ
ることは当然である。本件特許はマッサージ機に関する発明であり、何らかの疾病
10 を診断したり治療したりするため医療機関等において専門的に使用されるものでは
なく、一般家庭において心地良さを求めて老人から子供まで幅広く使用される民生
品に関するものである。そうすると、マッサージ機の実施料率は、医療機器の分類
中においても最小値(例えば0. 付近に存するものと捉えるのが合理的である。
5)
イ 特許発明の技術内容や重要性及び代替技術の存在等
15 本件特許の作用効果は、本件特許の出願時において既に周知になっていたもので
あり、本件各発明は、他の発明の構成によって代替可能であるなど、マッサージチ
ェア業界において一般的に用いられている陳腐化した技術である。このように、本
件特許と同様の作用効果を奏する代替技術が一般的に用いられていることからする
と、本件特許の奏する作用効果は、マッサージチェアにおいてごくありふれたもの
20 で、マッサージチェアを差別化する要素となることはないから、本件特許は、特段
の顧客吸引力を有するようなものでなく、その重要性は低い。
ウ 本件各発明の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様
被告製品と本件特許との関係に照らしても、被告製品において本件特許の作用効
果に関連する構成はエアセル①とエアセル②に限られており、現に、被告製品の製
25 品カタログにおいても、本件特許の作用効果は何ら訴求ポイントとして紹介されて
いない。むしろ、機能性とデザイン性の融合を実現したことや被告独自のメカ機構
である「ダブルソリューション機構」により、「肩首メカ」と「背腰ローリングメ
カ」という二つのメカで上半身を心地良くマッサージする仕組みを実現したこと等
が被告製品の訴求ポイントとなっている。
被告製品の売上げにおいて、本件特許が何らかの寄与ないし貢献をしているとい
5 う事実は認められない。
エ 特許権者と侵害者との競業関係などの諸事情
被告製品は、家電量販店のみならず、JA、商社、百貨店、通信販売及び特定企業
向けに販売される製品やアウトレット品、自社販売される製品がある。これに対し、
原告製造販売に係るマッサージチェアは、主として家電量販店において販売されて
10 いるから、被告製品との間で競合して販売されることはない。
被告は、マッサージチェアの業界においてパイオニア的メーカーとして認知され
ており、マッサージチェアの上位60機種の大半をパナソニック製のものと分け合
うなど、同業界のトップのシェアを占め続けている。これに対し、原告のシェアは、
被告と比べて低いものになっている。
15 これらのことから、原告と被告が実際の市場において競業する関係にないことは
明らかである。
オ 小括
前記各種の事情を総合的に考慮すれば、実施に対し受ける料率としては、仮に高
く見積もったとしても、前記アの最小値である0.5%に満たないものと捉えるの
20 が、本件に関する実情に沿った合理的なものである。
5 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点4)
(原告の主張)
被告は、被告製品を製造販売しているから、被告製品の製造販売及び販売の申出
の差止めをし、被告製品の廃棄を求める必要性がある。
25 (被告の主張)
争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件明細書の記載
本件明細書には次の記載がある。
(1) 技術分野
5 「本発明はマッサージ機に関する。より詳しくは、使用者の臀部又は大腿部に対
して、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができるマッサージ機に関する。」
【0001】
(2) 背景技術
「従来、使用者の大腿部、臀部、及び腰部を支持する人体支持部材 2a を備え、人
10 体支持部材 2a に設けられたマッサージ機構 3a により、臀部及び大腿部をマッサー
ジすることができるマッサージ機 1a が知られている。そして、このマッサージ機構
3a は、マッサージ当接部材 311a を動作させて、揉みや叩きを行うことができる。
また、人体支持部材 2a の左右位置には膨縮袋 4a が設けられており、マッサージ当
接部材 311a の移動に同期させて膨縮袋 4a を膨張保持又は収縮保持することにより、
15 マッサージ当接部材 311a のマッサージ力を加減することができる(例えば、特許文
献1の【図9】及び【図10】参照)。」【0002】
(3) 発明が解決しようとする課題
「しかし、上記特許文献1のマッサージ機 1a は、膨縮袋 4a が使用者の身体を押
し上げる方向(上下方向)に膨張するものであるため、使用者の身体を両側から保
20 持したり、左右方向に移動させたりすることはできない。従って、マッサージ当接
部材 311a の動作中に、左右両側の膨縮袋 4a を膨張保持させたとしても、身体がぶ
れてしまい臀部に対して良好なマッサージを行うことができない。また、左右の膨
縮袋 4a を独立して駆動することはできないため、身体を左右方向に移動させるこ
とはできず、マッサージ当接部材 311a による臀部及び大腿部へのマッサージ箇所
25 は不変である。このように、上記特許文献のマッサージ機 1a においては、臀部又は
大腿部に良好なマッサージを行うことができず、そのマッサージも単調であるとい
う問題があった。」【0004】
「そこで本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、身体を
保持することができ、使用者の腰や臀部又は大腿部に対して、良好かつ多様なマッ
サージ作用を与えることができるマッサージ機を提供することを目的とする。 」
5 【0005】
(4) 課題を解決するための手段
「本発明は、使用者が凭れる背凭れ部と、使用者が着座する座部と、を有するマ
ッサージ機において、前記背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側壁と前記座
部に設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対をなす第二側
10 壁とを一体的に形成された側壁を有し、前記側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧
可能である対の第一マッサージ部と使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧可能
である対の第二マッサージ部が設けられ、前記第一マッサージ部と第二マッサージ
部の動作を制御する制御部を有することを特徴とする。」【0006】
「また、前記背凭れ部及び前記座部は一体的に形成されていることが好ましい。」
15 【0007】
「また、前記制御部は、前記第一マッサージ部と前記第二マッサージ部を同時又
は順番に動作させることが好ましい。
また、前記第一マッサージ部及び前記第二マッサージ部はエアセルであることが
好ましい。」【0008】
20 「また、使用者の臀部又は大腿部の背面を押圧可能な第三マッサージ部を有する
ことが好ましい。
また、前記第三マッサージ部はエアセルであることが好ましい。」【0009】
「また、前記背凭れ部には使用者の背中をマッサージする機械式のマッサージユ
ニットを有することが好ましい。」【0010】
25 「また、前記背凭れ部及び前記座部の下方にベース部を有し、ベース部に対して
前記背凭れ部及び/又は前記座部を前後に揺動可能に構成されていることが好まし
い。」【0011】
(5) 発明の効果
「本発明によれば、身体を保持することができ、使用者の腰や臀部又は大腿部に
対して、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができる。」【0012】
5 (6) 発明を実施するための形態
「[ 座部及び背凭れ部の構成]図1に示すとおり、座部 3 及び背凭れ部 4 は一体
的に形成されており、第1身体支持部 20 を構成している。第1身体支持部 20 は、
座部 3 から背凭れ部 4 にかけて連続して前方に開口する開口部 21a を有する樹脂製
の第1身体支持部本体 21 と、第1身体支持部本体 21 の前方に配設され伸縮性を有
10 するパッド部 17(図21~図23参照)と、を有している。第1身体支持部 20 に
は、後述するマッサージユニット 9 を身長方向に移動可能に支持するガイド部材 22
を取り付けるべく、使用者側に取付面を有する取付部 21c が設けられている。取付
部 21c 及びガイド部材 22 は、左右で対をなしているとともに、座部 3 の前端部か
ら背凭れ部 4 の上端部まで身長方向に延設されている。」(【0016】)
15 「座部 3 は、使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対をなす側壁 3a、
3a を有し、側壁 3a の内側面には、臀部乃至大腿部をマッサージするマッサージ部
としてのエアセル 10 が設けられている。背凭れ部 4 は、使用者の上腕部の外側面に
対向する左右で対をなす側壁 4a、4a を有し、側壁 3a の内側面と側壁 4a の内側面
とに亘って、腰部をマッサージするマッサージ部としてのエアセル 11 が設けられ
20 ている。これらエアセル 10、11 は、身体の側面を押圧可能とすべく、その押圧面が
左右内方を向くように設けられている。また、エアセル 10 は、左側のエアセル 10L
と右側のエアセル 10R に対して独立してエアを給排気可能とされており、エアセル
11 も同様に、左側のエアセル 11L と右側のエアセル 11R に対して独立してエアを給
排気可能とされている。」(【0018】)
25 「マッサージユニット 9 は、主として、ガイド部材 22 に昇降可能に支持されたベ
ースフレーム 60 と、ベースフレーム 60 に対して使用者側に進退可能に設けられた
移動フレーム 61 と、移動フレーム 61 に設けられ使用者の身体をマッサージするマ
ッサージ手段 62 と、移動フレーム 61 を任意の昇降位置において使用者が意図する
進退位置に変位させる進退用エアセル 63 と、により構成されている。」 【0026】
( )
「[第1マッサージ動作]第1マッサージ動作は、臀部又は大腿部の背面に指圧
5 作用を与えるマッサージ動作である。まず、制御部 13 は、昇降用モータ M1 を駆動
してマッサージユニット 9 を座部 3 に移動させる。続いて、図21(a)に示す通り、
左右両側のエアセル 11L、11R を膨張させて、使用者の腰部を両側から保持する(第
1動作状態1)。続いて、図21(b)に示す通り、エアセル 11L、11R の膨張を維持
した状態で進退用エアセル 63 を膨張させて、マッサージユニット 9 を突出位置と
10 する(第1動作状態2) 。そして、エアセル 11L、11R の膨張を維持した状態で、
進退用エアセル 63 の膨張収縮を所定時間繰り返す。」(【0065】)
「このように、左右両側のエアセル 11L、11R により腰部を保持した状態でマッサ
ージユニット 9 を進退させるため、身体が座部から浮き上がらず、臀部又は大腿部
に対して施療子 62b により指圧作用を効果的に与えることができる。また、第1マ
15 ッサージ動作において、進退用エアセル 63 の膨張収縮に代えて又は加えて、マッサ
ージ用モータ M2 を駆動して、臀部又は大腿部に対してマッサージユニット 9 に揉
み及び/又は叩きを行わせることも可能である。この場合、身体が左右方向にぶれ
ず、臀部又は大腿部に対して施療子 62b により良好な揉みや叩き作用を与えること
ができる。更に、叩きによる振動が腰部を押圧するエアセル 11L、11R に伝達され、
20 腰部にも叩きを行っているような感覚を与えることができる。」(【0066】)
2 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)について
(1) 被告製品の構成
被告製品1の形状等は、別紙「被告製品1説明書(原告)」記載の図1及び別紙
「被告製品1説明書(被告) 記載の図1のとおりであり、被告製品2の形状等は、
」
25 別紙「被告製品2説明書(原告) 記載の図1及び別紙
」 「被告製品2説明書(被告)」
記載の図1のとおりである。
被告製品1が、本件各発明の構成要件 A~D、G、H1、I1、J1、K1、L1 及び M1 を充
足することは当事者間に争いがなく、被告製品2が、本件各発明の構成要件 A~D、
G、H1、I1、J1 及び M1 を充足することは当事者間に争いがない。争いがある同構成
要件 E 及び F の充足性について検討する。
5 (2) 被告製品の「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサー
ジ部」(構成要件 E)の充足性について
ア(ア) 構成要件 D は「前記背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側壁と前
記座部に設けられた…左右で対をなす第二側壁とを一体的に形成された側壁」と規
定し、構成要件 E は「前記側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第
10 一マッサージ部…が設けられ」と規定していることから、第一マッサージ部は、左
右で対をなす側壁に設けられ、使用者の腰部に対し、左右の側壁から左右方向、す
なわち、左右の側壁から内側(使用者の身体の中心側)に向けて押圧することが可
能であるものと解するのが相当である。
(イ) 本件明細書の記載によれば、従来、使用者の大腿部、臀部及び腰部を支持す
15 る人体支持部材 2a を備え、人体支持部材 2a の左右位置には膨縮袋 4a が設けられ
ており、マッサージ当接部材 311a の移動に同期させて膨縮袋 4a を膨張保持又は収
縮保持することにより、マッサージ当接部材 311a のマッサージ力を加減すること
ができるというマッサージ機(以下「従来機」という。別紙「従来機の図」参照)
が存在した(【0002】)。しかし、従来機は、膨縮袋 4a が使用者の身体を押し上げ
20 る方向(上下方向)に膨張するものであるため、使用者の身体を両側から保持した
り、左右方向に移動させたりすることはできず、マッサージ当接部材 311a の動作中
に、左右両側の膨縮袋 4a を膨張保持させたとしても、身体がぶれてしまい臀部に対
して良好なマッサージを行うことができなかった。また、左右の膨縮袋 4a を独立し
て駆動させ身体を左右方向に移動させることはできず、マッサージ当接部材 311a に
25 よる臀部及び大腿部へのマッサージ箇所は不変であった。このように、従来機にお
いては、臀部又は大腿部に良好なマッサージを行うことができず、そのマッサージ
も単調であるという問題があった(【0004】)。本件各発明は、これらの問題を解
決するために、身体を保持することができ、使用者の腰や臀部又は大腿部に対して、
良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができるマッサージ機を提供すること
を目的とし、使用者が凭れる背凭れ部と、使用者が着座する座部とを有するマッサ
5 ージ機において、前記背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側壁と前記座部に
設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対をなす第二側壁と
を一体的に形成された側壁を有し、前記側壁に使用者の腰部を左右方向に押圧可能
である対の第一マッサージ部と使用者の臀部乃至大腿部を左右方向に押圧可能であ
る対の第二マッサージ部が設けられ、前記第一マッサージ部と第二マッサージ部の
10 動作を制御する制御部を有するという構成を採用することで、身体を保持すること
ができ、使用者の腰や臀部又は大腿部に対して、良好かつ多様なマッサージ作用を
与えることができるとの効果を奏するものである(【0005】、【0006】、【0012】)。
このような本件明細書の記載によれば、従来機が使用者の背面に設置された膨縮
袋 4a が使用者の身体を押し上げる上下方向に膨張するものであったことに対し、
15 本件各発明は、前記構成によって、従来の課題を解決するものであり、第一マッサ
ージ部に求められる構成及び機能は、背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側
壁と座部に設けられた第二側壁とを一体的に形成された側壁に設けられるとの構成、
及び、使用者の腰部を左右方向、すなわち、左右の側壁から中央側(使用者の身体
の中心側)に押圧する機能であって、当該構成及び機能を有していれば前記効果を
20 奏することは明らかである。
(ウ) 以上から、構成要件 E の「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第
一マッサージ部」とは、第一マッサージ部が、左右の側壁から中央側に向けて使用
者の腰部を押圧する機能を備えたものと解するのが相当である。
(エ) 被告は、構成要件 E の文言からは押圧の態様が不明であるとして、本件明細
25 書の記載を参酌し、従来技術の課題は、対のマッサージ部により使用者の身体を両
側から保持したり、左右方向に移動させたりすることはできないことにあったこと
を指摘し、構成要件 E の文言は、使用者の腰部を左右両側から保持するように押圧
可能であり、かつ、使用者の腰部を左右に移動させるように押圧可能である対のマ
ッサージ部と限定して解すべきであると主張する。
しかし、前記(ア)のとおり、構成要件 E の文言から、第一マッサージ部は、使用者
5 の腰部に対し、左右の側壁から内側(使用者の身体の中心側)に向けて押圧するこ
とが可能であるものと理解され、不明確であるとはいえない。また、前記(イ)のとお
り、本件各発明は、使用者の身体を保持し、使用者の腰や臀部又は大腿部に対して、
良好かつ多様なマッサージ作用を与えることを目的とするものであり、本件明細書
をみても、多様なマッサージ作用を与えるために第一マッサージ部が備えるべき機
10 能として、使用者の腰部を左右両側から保持するように押圧可能であり、かつ、使
用者の腰部を左右に移動させるように押圧可能である対のマッサージ部と限定すべ
き記載はうかがえず、その他、これを認めるに足りる事情はない。
したがって、被告の前記主張は採用できない。
イ(ア) 前記(1)のとおり、被告製品は、背凭れ部に設けられた左右で対をなす第
15 一側壁と座部に設けられた左右で対をなす第二側壁とを一体的に形成された側壁を
備えるところ、証拠(甲5~8、10、20の1~3、乙25)及び弁論の全趣旨
によれば、被告製品のエアセル①は、左右の側壁から中央側に向けて使用者の腰部
を押圧する機能を備えているものと認められる。
(イ) 被告は、被告製品の対のエアセル①は使用者の腰部を左右後方から斜め前
20 方に向かって押圧することから、対のエアセル①を膨張させた場合、使用者の腰部
は前方に押し出され左右両側から保持されず、また、被告製品1のエアセル①は、
「L 状マット」に押さえつけられており、左右横側から膨張することはない旨を主
張する。
しかし、証拠(甲6、19)及び弁論の全趣旨によれば、「L 状マット」は、ウレ
25 タン(5mm)をポリエステルの布カバー(表生地1mm、裏生地1mm)で挟んだ構造
をしていることが認められ、エアセルの膨縮動作を阻害するものとは認められない。
また、証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、L 状マットを取り外した被告製
品1の右側のエアセル①は、その後端が背凭れ部に固定されており、側壁から中央
に向かって膨張していることが認められる。そうすると、被告製品1のエアセル①
は、L 状マットに覆われた通常の使用態様であっても側壁から中央に向かって膨張
5 するものと推認され、これを覆すに足りる事情はない。
したがって、被告の前記主張は採用できない。
ウ 以上から、被告製品は、「使用者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第
一マッサージ部」(構成要件 E)の構成を有する。
(3) 被告製品の「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ部が設け
10 られ」(構成要件 E)の充足性について
ア 構成要件 D は「前記背凭れ部に設けられた左右で対をなす第一側壁と前記座
部に設けられた使用者の臀部乃至大腿部の外側面に対向する左右で対をなす第二側
壁とを一体的に形成された側壁」と規定している。「一体的」の字義が、「複数の
ものが一つに、または不可分になっているさま。一体となっている様子」等(甲9、
15 乙1の1・2)であることに照らすと、「第一側壁と…第二側壁とを一体的に形成
された側壁」とは、第一側壁と第二側壁とが一つの部材で形成されているか、又は、
別の部材であっても接合されるなどして不可分に形成されていることをいうものと
解される。また、構成要件 D によれば、第一側壁は背凭れ部の左右に設けられた部
分であり、第二側壁は座部の左右に設けられ使用者の臀部乃至大腿部に対向する部
20 分である。その他、本件各発明に係る特許請求の範囲において、側壁と第一マッサ
ージ部の設置箇所との関係について限定する記載はない。
そうすると「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ部が設けられ」
とは、第一マッサージ部が、一つの部材で形成されるか、又は、別の部材であって
も接合されるなどして不可分に形成された、第一側壁と第二側壁に設けられている
25 ことを意味すると解するのが相当である。
イ 被告は、本件明細書の記載や出願経過から、少なくとも、第一マッサージ部
は、第一側壁と第二側壁にわたって設けられていることを意味し、第一マッサージ
部が第一側壁に設けられた構成は「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサ
ージ部が設けられ」には含まれないと解すべきであると主張する。
確かに、本件明細書には、「背凭れ部 4 は、使用者の上腕部の外側面に対向する
5 左右で対をなす側壁 4a、4a を有し、側壁 3a の内側面と側壁 4a の内側面とに亘っ
て、腰部をマッサージするマッサージ部としてのエアセル 11 が設けられている。」
(【0018】)との記載があり、腰部をマッサージするエアセル 11 が、側壁 3a と側
壁 4a にわたって設けられていることが明示されているが、これは、発明を実施する
ための一形態として記載されたものである。そうであるところ、前記アのとおり、
10 本件各発明に係る特許請求の範囲請求項の記載上、側壁に対する第一マッサージ部
の設置位置を限定するものはなく、本件明細書のその他の記載をみても、側壁に対
する第一マッサージ部の設置位置を限定するものはない。また、前記(2)ア(イ)のと
おり、本件各発明は、身体を保持することができ、使用者の腰や臀部又は大腿部に
対して、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることを目的、効果とするものであ
15 るところ、かかる目的や効果を実現するためには、必ずしも第一マッサージ部が第
一側壁及び第二側壁にわたって設けられることを要するものではない。したがって、
「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサージ部が設けられ」
(構成要件 E)
を実施例に限定して解する理由はない。
また、証拠(乙2、9、10)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件特許の
20 出願経過において、第一側壁に第一マッサージ部、第二側壁に第二マッサージ部を
配置することを規定する特許請求の範囲の補正を行ったところ、拒絶理由通知書に
おいて、審査官から当初の明細書には第一側壁に第一マッサージ部が設けられてい
る点が記載されていない旨を指摘されたことを受けて、「側壁」を第一側壁と第二
側壁とを一体的に形成することに限定した上で、かかる側壁に第一マッサージ部が
25 設けられるとの補正をし、特許査定となったことが認められる。そうすると、原告
は、出願経過において、「側壁」を第一側壁と第二側壁とを一体的に形成すること
に限定したにすぎないのであって、第一マッサージ部が第一側壁に設けられている
構成を構成要件 E から意識的に除外したとはいえないから、同経過が第一マッサー
ジ部が第一側壁と第二側壁とにわたって設けられていると限定解釈する根拠となる
ものではない。
5 したがって、被告の前記主張は採用できない。
ウ 被告製品の第一側壁と第二側壁が一体的に形成されたものであることは当事
者間に争いがないものと解されるところ(前記(1))、証拠(甲5~8、10、乙2
5)及び弁論の全趣旨によれば、エアセル①は一体的に形成された側壁に設けられ
ていることが認められる。
10 エ 以上から、被告製品は、「前記側壁に…第一マッサージ部と…第二マッサー
ジ部が設けられ」(構成要件 E)の構成を有する。
(4) 被告製品の「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御
部」(構成要件 F)の充足性について
ア 構成要件 F は「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御
15 部」と規定しており、制御の態様については限定していないところ、その従属項で
ある請求項3(構成要件 I1)は「前記制御部は、前記第一マッサージ部と前記第二
マッサージ部を同時又は順番に動作させることを特徴とする請求項1又は2に記載
のマッサージ機」と規定し、制御の態様について限定をしていることから、構成要
件 F は、第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御部を備えてい
20 れば足り、制御の態様まで限定をするものではないと解される。
したがって、「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御部」
とは、その字義どおり、第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制
御部を意味すると解するのが相当である。
イ 被告は、従来、左右の膨縮袋を独立して駆動させて身体を左右方向に移動さ
25 せることができず、マッサージ箇所が不変であったという課題があったことに対し、
本件各発明は、「身体を保持することができ、使用者の腰や臀部又は大腿部に対し
て、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができること」を目的、効果とす
るものであるから、本件各発明は、左右の膨縮袋を独立して駆動可能とする構成を
発明の前提としていることは明らかである旨、本件明細書には、左右の膨縮袋が独
立してエアを給排気可能とされる構成が開示されている旨、原告は、本件特許の出
5 願経過において、本件明細書のうち、対のマッサージ部を左右独立して駆動するこ
とができることを開示した前記記載部分を根拠として補正を行っている旨を指摘し
て、構成要件 F の「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御部」
とは、対のマッサージ部を左右独立して駆動することができるように制御可能であ
る制御部を意味すると解すべきであると主張する。
10 しかし、前記アのとおり、本件各発明に係る特許請求の範囲によれば、構成要件
F は、第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制御する制御部を備えていれ
ば足り、制御の態様まで限定をするものではない。確かに、本件明細書には、「…
エアセル 10 は、左側のエアセル 10L と右側のエアセル 10R に対して独立してエア
を給排気可能とされており、エアセル 11 も同様に、左側のエアセル 11L と右側のエ
15 アセル 11R に対してエアを給排気可能とされている。 【0018】
」 との記載があるが、
これは発明を実施するための一形態にすぎないことに加え、「給排気可能」とされ
ており、左右のエアセルを同時に給排気する構成を排除するものではない。本件明
細書のその他の記載をみても、本件各発明が左右の膨縮袋を独立して駆動可能とす
る構成を発明の前提としていることをうかがわせる記載はない。 また、前記(2)ア
20 (イ)のとおり、本件各発明は、身体を保持することができ、使用者の腰や臀部又は大
腿部に対して、良好かつ多様なマッサージ作用を与えることができることを目的、
効果とするものであるが、かかる目的や効果を実現するために左右の膨縮袋を独立
して駆動可能とすることを要するとまでは認められない。さらに、証拠(乙9~1
1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件特許の出願経過において、本件明細
25 書の記載(【0018】)を根拠として補正をしたことが認められるが、同記載部分は、
実施例であることに加え、左右のエアセルを同時に給排気する構成を排除するもの
ではないことは前述したとおりであって、前記認定を左右するものではない。
したがって、被告の前記主張は採用できない。
ウ 証拠(甲5~8)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の基板は、対のエア
セル①を膨縮させ、対のエアセル②を膨縮させる制御を行うことが認められる。
5 エ 以上から、被告製品は、「第一マッサージ部と第二マッサージ部の動作を制
御する制御部」(構成要件 F)の構成を有する。
(5) よって、被告製品は、構成要件 E 及び F を充足し、被告製品1は、本件各発
明の技術的範囲に属し、被告製品2は、本件発明1~4及び7の技術的範囲に属す
る。
10 3 乙6公報記載の乙6発明に基づく本件各発明の進歩性欠如の有無(争点2-
1)について
(1) 乙6公報は、発明の名称を「マッサージ機構」とする公開特許公報であると
ころ、発明の詳細な説明には次の記載がある。
ア 技術分野
15 「本発明は、被施療者の上半身の背面を支持する背凭れ部内に搭載されるマッサ
ージ機構に関し、特に、被施療者の上半身のうち左半身や右半身に対して、個別に
揉み、叩き、指圧といったマッサージを施すことができるマッサージ機構に関する。」
(【0001】)
イ 発明を実施するための最良の形態
20 「以下、本発明の実施の形態に係る椅子型マッサージ機について、図面を参照し
ながら具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る椅子型マッサージ機
の全体構成を示す斜視図である。…図1に示すように、椅子型マッサージ機 1 は、
被施療者が着座する座部 2 と、被施療者の上半身を後方から支持する背凭れ部 3 と、
被施療者の腕部を支持するアームレスト 4 と、被施療者の脚部を支持するフットレ
25 スト 5 とから主として構成されている。…」(【0017】)
「また、座部 2 及び背凭れ部 3 の左右の側方には、座部 2 に着座した被施療者の
腕部を支持するアームレスト 4 が、背凭れ部 3 の側方位置から座部 2 に沿って前方
へ延設されるようにして配設されている。このアームレスト 4 は、上部の肘置き部
20 とその下部のサイドカバー21 とから構成されている。肘置き部 20 は略円筒状を
成し、起立した状態の背凭れ部 3 における上下方向の中央部分より若干上方位置で
5 あって、背凭れ部 3 に上半身を支持された被施療者の肩の側方に対応する位置から、
下方且つ前方へと向かって座部 2 の前端近傍に至るまで延設されている。また、肘
置き部 20 の後端から前後方向の中央位置近傍に至る内側部分には、被施療者の腕
部を肘置き部 20 内へ挿脱可能な開口 20a が形成されている。従って、この開口 20a
を通じて肘置き部 20 の内部へ挿入された被施療者の腕部を、手先については略全
10 周囲から、手首近傍から肘を経由して上腕及び肩に至る部分については下方、外側
方、及び上方から、それぞれ支持可能になっている。」(【0023】)
「このような構成の椅子型マッサージ機 1 により、座部 2 に着座した被施療者は、
その全身が背面及び左右の側面から包み込まれるようにして支持される。そして、
この椅子型マッサージ機 1 には、被施療者を施療するための様々の動作手段が設け
15 られている。即ち、椅子型マッサージ機 1 の適宜箇所には複数のエアセル 7 及びバ
イブ 8 が設けられ、膨縮することによって被施療者を押圧可能になっている。また、
背凭れ部 3 には機械式のマッサージ機構 9 が設けられ、被施療者の上半身の背部を
押圧可能になっている。更に、座部 2 は左右へ揺動可能であり、背凭れ部 3 起伏動
可能であり、フットレスト 5 昇降動及び伸縮動が可能になっている。以下、椅子型
20 マッサージ機 1 おけるこれらの動作手段について説明する。」(【0024】)
「座部 2 の両側部の上方には、前後に並設されたエアセル 7b、7b が設けられてい
る。後側のエアセル 7b は、3枚の合成樹脂製のセルが重畳されて成り、前側のエア
セル 7b は、3枚の合成樹脂製のセルが重畳されて更にその表面側に1枚の布製の
セルが重畳されて構成されており、給気により何れも左右方向の中心側へ向かって
25 膨張する。このようなエアセル 7b は、膨縮することによって、座部 2 に着座した被
施療者の臀部(又は腰部)の側部から大腿部の前側部に至る一連の部位を外側方か
ら内側へ向かって押圧可能であり、左右のエアセル 7b を同時に膨張することによ
って臀部(又は腰部)を左右から挟持するようにして保持可能になっている。 」
(【0026】)
「図5は、椅子型マッサージ機 1 の構成を示すブロック図である。この図5に示
5 すように、上述した各エアセル 7a~7s は、可撓性中空のエアチューブを介してポン
プ及びバルブ等から成る給排気装置 51 に接続されている。この給排気装置 51 は座
部 2 の下方に収容されており、同じく座部 2 の下方に収容された制御部 50 からの
指示に従って駆動し、各エアセル 7a~7s への給排気を互いに独立して行うことが
できるようになっている。そして、制御部 50 からの指示により給排気装置 51 が駆
10 動し、エアセル 7a~7s が膨縮することにより、被施療者の全身のいたるところを押
圧施療可能であり、肩部(枕 7r による保持)、腕部、臀部(又は腰部)、下腿部、
及び足にいたってはこれを保持することも可能になっている。」(【0037】)
「[背凭れ部及びフットレストの傾倒機構]図7は、背凭れ部 3 の起伏動作とフ
ットレスト 5 の昇降動及び伸縮動との様子を示す側面図であり、(a)は、背凭れ部 3
15 が立ち上がり且つ収縮したフットレスト 5 が下降した状態を示し、(b)は、背凭れ部
3 が後傾し且つ伸長したフットレスト 5 が上昇した状態を示している。(
」【0047】)
「図7(a)に示すように、背凭れ部 3 内の背フレーム 29 は、その下端部より若干
上方の位置で、左右方向の枢軸 36 を介して座フレーム 13 の後部に支持されている。
また、背フレーム 29 の下端部には、エアシリンダ等から成る直動式のアクチュエー
20 タ 37 の一端が枢支されており、該アクチュエータ 37 の他端は座フレーム 13 の前
部にて枢支されている。従って、アクチュエータ 37 が伸長動作及び収縮動作する
と、背フレーム 29 と共に背凭れ部 3 は、枢軸 36 を中心としてその上部が前後方向
へ回動するようにして起立( 図7(a)参照)及び後傾(図7(b))参照) が可能に
なっている。」(【0048】)
25 「なお、このアクチュエータ 37 は駆動部 52 を介して制御部 50 に接続されてお
り(図5参照) 、制御部 50 からの指示により駆動部 52 から電気信号が入力される
ことによって伸縮動作するようになっている。そして、背凭れ部 3 を最も後傾させ
た場合、座部 2 の上面と背凭れ部 3 の上面(起立時の前面)との成す角は約170
度となり、座部 2 及び背凭れ部 3 に支持された被施療者は、ほぼ仰向けで横たわっ
た状態となる。」(【0049】)
5 「一方、座部 2 の前方に設けられたフットレスト 5 は、左右方向へ軸芯が向けら
れた枢軸 38 によってその上端部が座フレーム 13 の前部にて支持されている。そし
て、エアシリンダ等から成る直動式のアクチュエータ 39(図5参照)の伸縮動作に
より、枢軸 38 を中心として下部が前後方向(上下方向)へ回動するように昇降動可
能となっている。即ち、アクチュエータ 39 の収縮によってフットレスト 5 は下降
10 し、上側フットレスト 14 に対して下側フットレスト 15 が下方に位置する状態(図
7(a)参照) となり、アクチュエータ 39 の伸長によってフットレスト 5 は上昇し、
上側フットレスト 14 に対して下側フットレスト 15 は前方に位置する状態(図7(b)
参照)となる。」(【0050】)
(2) 乙6公報記載の発明の詳細な説明や図(別紙「乙6公報の図(抜粋) 参照)
」
15 から、乙6公報は、乙6発明を開示しているものと認められるところ、少なくとも、
乙6発明と本件発明1の相違点が相違点1-1及び1-2であることについて当事
者間に争いがない。
そこで、相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。なお、
原告は、令和3年11月22日付け準備書面16における被告の無効主張が、時機
20 に後れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張するが、被告の前記主張
は、時機に後れたものでも訴訟の完結を遅延させるものでもないから、採用できな
い。
(3) 相違点1-1に係る構成の容易想到性について
ア 被告は、本件特許の出願時において、椅子型マッサージ機の側壁が背凭れ部
25 や座部と一体に形成されている公知例(乙7、13~18)が多数存在し、かかる
構成は、当業者が当然に採用する周知ないし慣用技術であったところ、本件各発明
と乙6発明の共通の課題とは無関係であるアームレストの取り付け方を検討するに
あたり、乙6発明に触れた当業者が、前記周知ないし慣用技術を踏まえ、アームレ
ストを背凭れ部や座部に直接設けることは容易に想到し得た旨、また、当業者がか
かる構成を採用することは、当業者として当然に行う創作能力の発揮であって、前
5 記課題を実現するための均等物による置換ないし技術の具体的適用に伴う単なる設
計事項にすぎない旨を主張する。
イ 乙6発明は、「前記座部 2 及び前記背凭れ部 3 の左右の側方に、前記背凭れ
部 3 の側方位置から前記座部 2 に沿って前方へ延設されるようにして配設されてい
るアームレスト 4 を有し(d-1)」、「前記座部 2 の両側部の上方に被施療者の臀部
10 又は腰部の側部から大腿部の前側部に至る一連の部位を左右要綱に押圧可能である
後側のエアセル 7b 及び前側のエアセル 7b が設けられ(e-1)」との構成を有するこ
とは当事者間に争いがない。また、乙6公報の発明の詳細な説明の段落【0017】以
下において、発明を実施するための最良の形態が示されるところ、被告が乙6発明
の内容を開示するものとして指摘する段落【0017】及び【0023】には、【図1】が
15 発明の実施の形態に係る椅子型マッサージ機の全体構成を示すこと、【図1】に示
されるように、椅子型マッサージ機1は、主に、座部 2 と、背凭れ部 3 と、アーム
レスト 4 と、フットレスト 5 から構成されること、アームレスト 4 が上部の肘置き
部 20 とその下部のサイドカバー21 とから構成され、肘置き部 20 は略円筒状を成
し、起立した状態の背凭れ部 3 における上下方向の中央部分より若干上方位置であ
20 って、背凭れ部 3 に上半身を支持された被施療者の肩の側方に対応する位置から、
下方且つ前方へと向かって座部 2 の前端近傍に至るまで延設されていることが記載
されている。さらに、段落【0024】には、「このような構成の椅子型マッサージ機
1により、座部 2 に着座した被施療者は、その全身が背面及び左右の側面から包み
込まれるようにして支持される。そして、この椅子型マッサージ機1には、被施療
25 者を施療するための様々の動作手段が設けられている。…背凭れ部 3 には機械式の
マッサージ機構 9 が設けられ、被施療者の上半身の背部を押圧可能になっている。
更に、座部 2 は左右へ揺動可能であり、背凭れ部 3 は起伏動可能であり、フットレ
スト 5 は昇降動及び伸縮動が可能になっている。」との記載がある。なお、乙6公
報には、段落【0024】、【0047】ないし【0049】、【図7】のように背凭れ部 3 が
起伏動することを前提とした記載はあるが、背凭れ部 3 を起伏動しないものとする
5 構成を示す記載はない。以上の事情を総合すると、乙6発明は、背凭れ部 3 が座部
2 に対して起伏動(リクライニング)する構成を有するものと解すべきである。そ
うであれば、乙6公報の【図7】(a)の起立状態から同(b)の後傾状態に変化する際
に、背凭れ部 3 の座部 2 に対する移動と、アームレスト 4 の座部 2 に対する移動は、
連動しつつも異なる移動であることが認められるから、アームレスト 4 は、背凭れ
10 部 3 及び座部 2 に設けられたものとはいえず、「第一側壁と…第二側壁とを一体的
に形成された側壁」に当たらないし、アームレスト 4 を背凭れ部 3 及び座部 2 に対
して移動しないように固定すれば、リクライニングの動作を阻害することは明らか
である。
一方、証拠(乙13~18)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許の出願時、特
15 許公報等において、側壁が背凭れ部及び座部と一体的に形成された椅子型マッサー
ジ機が複数開示されていたことが認められ、かかる技術は周知ないし慣用技術であ
ったものと認められる。もっとも、これらの椅子型マッサージ機は、いずれもリク
ライニング機能を有さず、背凭れ部が座部に対して固定されたものであった(別紙
「乙13~18の図」参照)。そうすると、リクライニング機能を備える乙6発明
20 に、リクライニング機能を有さず、背凭れ部が座部に対して固定されたマッサージ
機を前提とする前記周知ないし慣用技術を適用することは、乙6発明のリクライニ
ング機能を阻害するものであって、かかる適用に動機付けがあったとはいえない。
次に、乙7公報についてみると、乙7公報には「背凭れ部 13 は、座部 12 の後部
に設けられている。この背凭れ部 13 は、例えばその下端部が基台 12b に前後に回動
25 自在に枢着されており、これによってリクライニング可能とされている。 (
…」【0050】)
との記載があるように、乙7発明では、背凭れ部 13 が座部 12 に対して回動自在に
枢着され、リクライニング可能に構成されている。壁部 13w と壁部 12w は、それぞ
れ背凭れ部 13 及び座部 12 の一部であるから、背凭れ部 13 がリクライニングする
と壁部 13w も移動し、壁部 12w に対して壁部 13w が相対移動すると解するのが自然
である。その他、乙7公報には、壁部 13w と壁部 12w が一体的であることを示唆す
5 る記載はないから、壁部 13w と壁部 12w は「第一側壁と…第二側壁とを一体的に形
成された側壁」ということはできない。したがって、乙7公報には、背凭れ部の左
右に設けられた側壁と座部の左右に設けられた側壁とが一体的に形成された側壁は
開示されておらず、乙7公報に記載された技術を乙6発明に適用しても、相違点1
-1に係る本件発明1の構成に至らない。
10 ウ よって、相違点1-1に関し、本件発明1は、乙6発明と乙7及び乙13~
18に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到可能であったとはいえない。
(4) なお念のため、相違点1-2に係る構成の容易想到性についても検討する。
ア 被告は、本件特許の出願時において、椅子型マッサージ機のマッサージ部を
直接側壁に設ける公知例(甲18、乙7、19、20)が多数存在し、乙6発明に
15 触れた当業者は、このような周知ないし慣用技術を適用することにより、マッサー
ジ部を側壁に直接設ける構成を容易に想到し得たといえ、設計事項であるといえる
こと、また、本件各発明は、第一マッサージ部で腰部、第二マッサージ部で臀部又
は大腿部を施療する構成であるところ、公知例(甲15、乙19、20)から、第
一マッサージ部と第二マッサージ部の二つのマッサージ部で腰や臀部又は大腿部を
20 マッサージするに際し、一方のマッサージ部で腰部のみを対象とし、臀部は対象と
しないように構成することは容易に想到し得た旨を主張する。
イ(ア) しかし、前記2(2)ア(イ)のとおり、本件各発明は、側壁に使用者の腰部を
左右方向に押圧可能である対の第一マッサージ部と使用者の臀部乃至大腿部を左右
方向に押圧可能である対の第二マッサージ部が設けられることにより、身体を保持
25 することができ、使用者の腰部や臀部又は大腿部に対して、良好かつ多様なマッサ
ージ作用を与えることができるという技術的特徴を有するものであるから、腰部を
押圧可能であるマッサージ部と、臀部乃至大腿部を押圧可能であるマッサージ部は、
明確に区別されることが、特許請求の範囲及び明細書の記載から特定されているも
のと認められる。
そうであるところ、被告が指摘する公知例(甲18、乙7、19、20)は、左
5 右方向に押圧可能である、二つの対のマッサージ部相互の位置関係として、座面に
近接した位置で水平方向に並べたものは記載されているものの、腰部を押圧可能で
あるマッサージ部と、臀部乃至大腿部を押圧可能であるマッサージ部を、明確に区
別して配置しているものは記載されておらず(少なくとも腰部を押圧可能であるマ
ッサージ部と臀部を押圧可能であるマッサージ部が区別されているとはいえない。 、
)
10 相違点1-2に係る構成が記載されているとはいえない。また、甲第15号証に記
載されたエアバッグは、臀部用及び(大)腿部用が座部の正面側に配置されている
ものであって、左右方向に押圧可能なマッサージ部を開示するものではない。
(イ) また、左右方向に押圧可能な対のマッサージ部の二組の配置関係として、座
面上に近接した位置で、水平方向に配置されているものと、腰部と、臀部乃至大腿
15 部とを区別して押圧可能に配置する関係に変更したものとでは、押圧位置が異なっ
ており、使用者が感ずる施療感が異なることは明らかである。
したがって、前者に代えて、後者の構成を採用することが、設計変更であったと
もいえない。
ウ よって、相違点1-2に関し、本件発明1は、乙6発明と公知例(甲15、
20 18、乙7、19、20)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到可能
であったとはいえない。
(5) 以上から、乙6発明との関係において、本件発明1には進歩性が認められ、
本件発明1の従属項である本件発明2~7についても、その余の相違点について判
断するまでもなく、進歩性が認められる。
25 4 乙7公報記載の乙7発明に基づく本件各発明の進歩性欠如の有無(争点2-
2)について
(1) 乙7公報は、発明の名称を「椅子型マッサージ機」とする公開特許公報であ
るところ、発明の詳細な説明には次の記載がある。
ア 技術分野
「本発明は、座部に着座した被施療者の身体を施療する椅子型マッサージ機に関
5 し、特に、被施療者の臀部及び大腿部等を施療することが可能な椅子型マッサージ
機に関する。」(【0001】)
イ 発明を実施するための最良の形態
「更に座部 2 の後部には、背凭れ部 3 が設けられている。背凭れ部 3 は、被施療
者の上半身を支持すべく、平均的な体格の成人がマッサージ機 1 に着座した際に、
10 該成人の身体の一部がその外部にはみ出ない程度の大きさとされており、前面視略
長方形をなしている。背凭れ部 3 の下端部は、座部 2 の後部に横方向の枢軸によっ
て枢支されている。従って、この枢軸を中心に背凭れ部 3 が回動することにより、
マッサージ機 1 は、前後にリクライニングが可能とされている。」(【0016】)
「また、図1に示すように、座部 2 の後部上面の中央部には、空気袋(第4空気
15 袋)B5 が配置され、左右の肘掛部 4 の後部対向面には、夫々空気袋(第3空気袋)
B6、B7 が配置されている。」(【0019】)
「これらの空気袋 B1~B7 の取り付け位置は、成人の平均的な体格を基準とし、座
部 2 に着座した被施療者の身体の所定部位に対応する位置と若干余裕をもって略一
致するようになっている。即ち、空気袋 B1、B2 は、座部 2 に着座した被施療者の大
20 腿部の背面部に対応する座部 2 の位置に配置されている。空気袋 B3、B4 は、前記被
施療者の大腿部の外側部に対応する肘掛部 4 の位置に配置されている。空気袋 B5
は、前記被施療者の肛門部に対応する座部 2 の位置に配置されている。また、空気
袋 B6、 は、
B7 前記被施療者の臀部及び腰部の側部に対応する肘掛部 4 の位置に配置
されている。」(【0020】)
25 「また、図1において、左右の肘掛部 4 の後部対向面に配置されている空気袋 B6、
B7 についても、開放部 P4 を夫々上向きにして配置することにより、空気袋 B6 及び
座部 2 の間、空気袋 B7 及び座部 2 の間で、被施療者の臀部及び腰部を挟み揉みす
ることができる。更に、フットレスト 5 に配置された空気袋 B8~B11 について、空
気袋 B8 を空気袋 B1 と同様に配置し、空気袋 B9 を空気袋 B3 と同様に配置し、空気
袋 B10 を空気袋 B2 と同様に配置し、空気袋 B11 を空気袋 B4 と同様に配置すること
5 により、被施療者の下腿部を前記空気袋 B8~B11 によって挟み揉みすることができ
る。」(【0028】)
「図7は、本実施の形態に係るマッサージ機 1 の構成を示すブロック図である。
マッサージ機 1 の背凭れ部 3 の下部には、制御部 6 が内蔵されている。該制御部 7
は、図7に示すように CPU70、ROM71、RAM72、入出力インタフェース 73、タイマ 74、
10 及びカウンタ 75 から主に構成されている。」(【0029】)
「(実施の形態2)次ぎに、本発明に係るマッサージ機の他の構成について説明
する。図9は、本実施の形態に係るマッサージ機 10 の構成を示す斜視図である。図
9に示すように、マッサージ機 10 は、椅子型をなしており、被施療者が着座するた
めの座部 12 と、被施療者の上半身を支持するための背凭れ部 13 と、被施療者の足
15 置きとして用いられるフットレスト 14 とから主として構成されている。 【0043】
(
」 )
「座部 12 は、基台 12b の上部に、クッション部 12a が配されて構成されている。
基台 12b は、比較的高い硬度を有する合成樹脂製であり、その内側が凹状に窪んだ
形状とされている。クッション部 12a は、ウレタンフォーム、スポンジ、又は発泡
スチロール製の内装材(図示せず)が基台 12b の内面に載置されており、更にこれ
20 をポリエステル製の起毛トリコット、合成皮革、又は天然皮革等からなる外装材に
て覆って構成されている。従って、座部 12 は、被施療者が着座したときに、被施療
者の腰部及び大腿部を背面部から側部に亘って覆うような形状となっている。 」
(【0044】)
「図9に示すように、該座部 12 のクッション部 12a 上には複数の空気袋が配置さ
25 れている。即ち、被施療者が該座部 12 に着座した場合に、被施療者の大腿部の背面
部に対応する部分には空気袋(第1大腿施療部)B21、B22 が配置され、大腿部の外
側部に対応する部分には空気袋(第2大腿施療部)B23、B24 が配置されている。ま
た、被施療者の肛門部に対応する部分には空気袋 B25 が配置され、臀部及び腰部の
側部に対応する部分には空気袋(臀部施療部)B26、 が配置されている。 【0045】
B27 」
( )
「なお、これらの空気袋 B21~B27 は、実施の形態1の図1にて説明した空気袋 B1
5 ~B7 による被施療者への施療と同様の施療を行えるように配置されている。即ち、
空気袋 B21、B22 は、内側部近傍から背面部に至る大腿部の部分を押圧可能であり、
空気袋 B23、B24 は、正面部近傍から側部に至る大腿部の部分を押圧可能である。そ
して、空気袋 B21~B24 を膨張・収縮することにより、左右の大腿部を挟み揉みする
ことができる。また、空気袋 B25 は、被施療者の肛門部を押圧可能であり、空気袋
10 B26、 は、
B27 被施療者の臀部及び腰部を押圧・挟み揉みすることができる。 【0046】
」
( )
「背凭れ部 13 は、座部 12 の後部に設けられている。この背凭れ部 13 は、例えば
その下端部が基台 12b に前後に回動自在に枢着されており、これによってリクライ
ニング可能とされている。なお、背凭れ部 13 を傾倒させるに伴って、背凭れ部 13
の下部を座部 12 の内側に潜り込ませるように背凭れ部 13 を移動させる構成として
15 もよい。」(【0050】)
「また、背凭れ部 13 は、被施療者の胴体を支持するための部分と、被施療者の頭
部を支持するための部分とから主として構成されている。背凭れ部 13 の全体は、内
側が凹状に窪んだ形状をなすカバー部 13a によって一体的に構成されており、この
カバー部 13a の内側に、被施療者の胴体を支持するためのクッション部 13b と、被
20 施療者の頭部を支持するためのクッション部 13c とが上下に並べられた状態で設け
られている。カバー部 13a は、基台 12b と同じ材料によって、丸みを帯びた略舟形
状に形成されており、クッション部 13b、13c は、前述したクッション部 12a と同じ
内装材及び外装材によって構成されている。」(【0051】)
「また、カバー部 13a は、クッション部 13c より前方に延設された部分を有して
25 おり、この部分の内側にも、クッション部 13e が設けられている。このクッション
部 13e は、被施療者が着座したときに、被施療者の上腕部及び肩の側部を覆うよう
な位置に設けられており、その内部には複数の空気袋が設けられている。 【0053】
(
」 )
「上述したような構成をなすマッサージ機 10 の動作は、実施の形態1にて説明し
たマッサージ機 1 の動作と同様に、座部 12 に着座した被施療者の大腿部、臀部、
及び腰部を挟み揉みすることができる。なお、マッサージ機 10 が備える空気袋 B21
5 ~31 の動作の制御は、実施の形態1に示したマッサージ機 1 と同様であるため、こ
こではその説明は省略する。」(【0056】)
(2) 乙7公報記載の発明の詳細な説明や図(別紙「乙7公報の図(抜粋) 参照)
」
から、乙7公報は、乙7発明を開示しているものと認められるところ、少なくとも、
乙7発明と本件発明1の相違点が相違点2-1及び2-2であることについて当事
10 者間に争いがない。
そこで、相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。なお、
原告は、令和3年11月22日付け準備書面16における被告の無効主張が、時機
に後れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張するが、被告前記主張は、
時機に後れたものでも訴訟の完結を遅延させるものでもないから、採用できない。
15 (3) 相違点2-1に係る構成の容易想到性について
被告は、本件発明1と乙7発明は、身体の保持や腰部、臀部、大腿部へのマッサ
ージを行うことを課題とするところ、同課題とは無関係の、背凭れ部に設けられた
側壁と座部に設けられた側壁を一体化するかを検討するに当たり、乙7発明に触れ
た当業者が周知、慣用技術(乙6、13~18)を踏まえ、これらを一体化するこ
20 とは容易想到であると主張する。
しかし、乙7公報をみると、いずれの実施例も背凭れ部が回動し、座部に対して
リクライニング可能な構成とされており(【0012】、【0016】、【0043】、【0050】、
【図1】、【図9】)、背凭れ部がリクライニング可能でない構成を示す記載はな
い。そうすると、乙7発明は背凭れ部 13 が回動し、座部 12 に対してリクライニン
25 グ可能な構成を有すると解すべきであり(被告は乙7公報の【図9】を乙7発明の
内容を示すものとして指摘するところ、【図9】の背凭れ部 13 は、例えばその下端
部が基台 12b に前後に回動自在に枢着され、これによってリクライニング可能とさ
れている旨が説明されている(【0050】)。)、背凭れ部 13 がリクライニングする
と壁部 13w も移動し、壁部 12w に対して壁部 13w が相対移動すると考えられるから、
乙7発明は背凭れ部に設けられた側壁と座部に設けられた側壁が一体化された構成
5 を有するとはいえないし、これらを一体化すれば背凭れ部のリクライニング動作を
阻害することは明らかである。
一方、乙13~18に記載されたマッサージ機は、背凭れ部に設けられた側壁と
座部に設けられた側壁が一体的に形成されていることが示されているが、これらの
マッサージ機はいずれもリクライニング機能を有するものではない。そうすると、
10 乙7発明に、乙13~18に記載された技術を適用する動機付けがあるとはいえず、
むしろ阻害要因があるというべきである。
また、前記3(3)イのとおり、乙6発明のアームレスト 4 は、背凭れ部 3 及び座部
2 に設けられたものとはいえず、「第一側壁と…第二側壁とを一体的に形成された
側壁」に当たらないし、乙6公報全体をみても、かかる構成が開示されているとは
15 いえない。したがって、乙7発明に、乙6に記載された技術を適用しても、相違点
2-1にかかる本件発明1の構成に至らない。
ウ よって、相違点2-1に関し、本件発明1は、乙7発明と乙6及び乙13~
18に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到可能であったとはいえない。
(4) なお念のため、相違点2-2に係る構成の容易想到性についても検討する。
20 ア 被告は、本件発明1に係る構成要件 E は、第一マッサージ部の施療対象に腰
部が含まれ、第二マッサージ部の施療対象に臀部又は大腿部が含まれることを意味
することを前提として、乙7発明は、二つのマッサージ部により使用者の腰から大
腿部を施療する技術を開示するところ、第一マッサージ部と第二マッサージ部によ
る施療箇所の厳密な区別は、当業者として当然に行う創作能力の発揮であるから、
25 設計事項として容易に想到し得た旨、公知例(甲15、乙19、20)からすると、
当業者は、臀部をマッサージするマッサージ部と腰部をマッサージするマッサージ
部を区別することも容易に想到し得た旨を主張する。
イ しかし、前記3(4)イのとおり、相違点2-2に係る本件発明1の構成は、腰
部を押圧可能であるマッサージ部と、臀部乃至大腿部を押圧可能であるマッサージ
部が、明確に区別されることが特定されているものと認められる。そうであるとこ
5 ろ、被告が指摘する公知例(乙19、20)は、左右方向に押圧可能である、二つ
の対のマッサージ部相互の位置関係として、座面に近接した位置で水平方向に並べ
たものは記載されているものの、腰部を押圧可能であるマッサージ部と、臀部乃至
大腿部を押圧可能であるマッサージ部を明確に区別して配置しているものは記載さ
れておらず、相違点2-2に係る構成が記載されているとはいえない(なお、その
10 余の公知例(甲15)は、座部の正面側に配置されたエアバッグであって、そもそ
も、臀部及び大腿部を左右方向に押圧可能なエアバッグですらないから、相違点2
-2に係る構成を開示するものでない。)。
ウ よって、相違点2-2に関し、本件発明1は、乙7発明と公知例(甲15、
乙19、20)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到可能であったと
15 はいえない。
(5) 以上から、その余の相違点について判断するまでもなく、乙7発明との関係
において、本件発明1には進歩性が認められ、本件発明1の従属項である本件発明
2~7についても進歩性が認められる。
5 損害の発生及びその額等(争点3)について
20 (1) 被告製品の売上げ
●(省略)●
(2) 実施料率
原告が本件特許権の実施を許諾した例があることを認めるに足りる証拠はなく、
椅子型マッサージ機に関する特許発明の実施許諾料に関する業界相場は明らかでな
25 い。もっとも、証拠(甲44、45)及び弁論の全趣旨によれば、「研究報告書」
では、産業分野を「一般機械」とする特許のロイヤルティにつき、国内企業に対す
るアンケート結果は3.4%、先行文献に基づく国内データは4.2%であり、日
本の司法決定において、産業分野を「機械」とするものは、平均値が4.4%、中
央値が5.0%、最高値が10.0%とされていること、料率ハンドブックでは、
技術分類を「医療機器」とするものは、平均値が5.0%、標準偏差が3.1%、
5 最大値が14.5%、最小値が0.5%とされていることが認められる。そうする
と、これらの産業分野におけるロイヤルティ料率の平均値は、おおよそ3.4%~
5.0%であることがうかがえる。
また、前記2(2)ア(イ)のとおり、本件各発明は、背凭れ部に設けられた左右で対
をなす第一側壁と座部に設けられた第二側壁とを一体的に形成された側壁に、使用
10 者の腰部を左右方向に押圧可能である対の第一マッサージ部と使用者の臀部乃至大
腿部を左右方向に押圧可能である対の第二マッサージ部を設け、第一マッサージ部
と第二マッサージ部の動作を制御する構成によって、使用者の身体を保持し、使用
者の腰や臀部又は大腿部に対して、良好かつ多様なマッサージ作用を与えるという
効果を奏するものである。これらの作用は、マッサージ機としての基本的かつ本質
15 的な要素であるマッサージの部位及び態様にかかわるものであるから、需要者に対
して相応の顧客訴求力を生じさせるものといえる。証拠(甲5、7、20の1~2
0の3)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告製品のパンフレットにおいて、
「ダブルソリューション機構」として肩や背中、腰回りのマッサージ機能について
広告するのと同程度の紙面を使用して、
「骨盤回りエアーマッサージ」などとして、
20 腰横、もも横、尻、もも裏の骨盤周りのマッサージ機能について広告していること
が認められる。一方、従来から、腰部、臀部及び大腿部を左右方向から身体の中心
側に向かって押圧する態様の椅子型マッサージ機は存在していたこと(乙6~8)
に加え、その販売開始時期は明らかでないものの、令和2年6月頃時点で、骨盤や
大腿部をマッサージする製品が市場に流通していたこと(乙30~44の2)に照
25 らすと、本件各発明に係る技術に代替する技術が存在しないとまではいいきれない。
以上の諸事情に加え、原告と被告は同一市場においてシェアを分かち合う競業関
係にあること(甲42の1・2、46、47、乙29、47)、本件各発明の前記
作用効果は、本件発明1により奏するものであり、被告製品1と2の実施料率を別
異とする合理的な理由はないことを考慮すると、被告製品1及び2における本件特
許の実施料率はいずれも7%であると認めるのが相当である。
5 (3) 消費税
特許法102条3項は、特許権の侵害者に対し、「その特許発明の実施に対し受
けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を
請求することができる」と定めているから、特許発明の実施に対し受けるべき金銭
が資産の譲渡等(資産の貸付け)の対価に該当し、消費税が課されることになる以
10 上、消費税額相当分を同項の損害額の一部として請求することができると解するの
が相当である。
前記(1)のとおり、平成29年12月1日から令和2年3月31日までにおいて、
●(省略)●本件の全証拠によっても、消費税率が変更された令和元年10月1日
前後の売上げの内訳は明らかでない。そこで、前記期間のうち同日前後の日数の割
15 合(前669日:後183日)によって売上げを割り付けると、同日前の消費税率
が8%であった期間の売上げが●(省略)●、同日後の消費税率が10%である期
間の売上げが●(省略)●となる。
したがって、特許法102条3項による損害は、消費税相当額を考慮すると、●
(省略)●となる。
20 (4) 訴訟代理人費用相当額
本件と相当因果関係のある訴訟代理人費用は、●(省略)●をもって相当と認め
る。
(5) 小括
よって、被告は、原告に対し、4862万9824円並びにうち781万円に対
25 する本訴状送達の日の翌日である平成30年2月27日から支払済みまで改正前民
法所定年5分の割合による遅延損害金及びうち4081万9824円に対する請求
の趣旨拡張申立書送達の日の翌日である令和3年2月25日から支払済みまで民法
所定年3分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
6 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点4)について
前記2及び3のとおり、被告製品は本件特許権を侵害するものであるところ、被
5 告は、本件において、本件各発明の技術的範囲への属否や本件特許の有効性につい
て争っていること、現時点において、被告が被告製品を保有していないことをうか
がわせる事情はないことを踏まえると、被告には、被告製品を製造、販売し、販売
の申出をするおそれが認められる。
したがって、被告が被告製品を製造、販売し、又は販売の申出をすることを差し
10 止めるとともに、被告製品を廃棄する必要性が認められる。
7 結論
以上によれば、原告の請求は、被告による被告製品の製造、販売及び販売の申出
の差止め、被告製品の廃棄並びに損害賠償金4862万9824円及びうち781
万円に対する平成30年2月27日から支払済みまで改正前民法所定年5分の割合
15 による遅延損害金、うち4081万9824円に対する令和3年2月25日から支
払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ
るから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決す
る。なお、主文第2項については、仮執行宣言を付するのは相当でないから、これ
を付さないこととする。
大阪地方裁判所第21民事部
25 裁判長裁判官
武 宮 英 子
5 裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
峯 健 一 郎
(別紙)
被 告 製 品 目 録
1 製品名 ロースタイルマッサージチェア(LOW-STYLE MASSAGE CHAIR)H
5 品番 AS-LS1
2 製品名 ロースタイルマッサージチェア(LOW-STYLE MASSAGE CHAIR)
品番 LSC-1
以上
【図7】被告製品1の給排気制御の模式図
【図8】被告製品1の電磁弁と配管の構成
配管②
電磁弁ユニット 配管①
【図9】被告製品1の配管
配管①
エアセル①
エアセル②
配管②
以上
【図7】被告製品2の給排気制御の模式図
【図8】被告製品2の電磁弁と配管の構成
配管②
電磁弁ユニット 配管①
【図9】被告製品1の配管
配管①
エアセル①
エアセル②
配管②
以上
※P62については記載省略による行数減少のため省略されています。
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