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令和3(行ケ)10132審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年9月7日
事件種別 民事
当事者 原告トヨタ紡織株式会社
被告株式会社三井ハイテック
対象物 回転子積層鉄心の製造方法
法令 特許権
特許法44条2項3回
特許法36条4項1号2回
特許法36条6項1号1回
キーワード 実施71回
審決47回
分割16回
無効5回
無効審判2回
新規性2回
刊行物1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は、分割 要件、実施可能要件及びサポート要件についての各判断の誤りの有無である。

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判決文

令和4年9月7日判決言渡

令和3年(行ケ)第10132号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和4年7月13日

判 決

原 告 ト ヨ タ 紡 織 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二

吉 村 誠

同訴訟代理人弁理士 平 田 忠 雄

中 村 恵 子

被 告 株式会社三井ハイテック

同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋

栁 下 彰 彦

杉 尾 雄 一

同訴訟復代理人弁理士 山 口 高 志

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が無効2020-800095号事件について令和3年9月22日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は、特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は、分割要件、実施可能要件及びサポート要件についての各判断の誤りの有無である。1 特許庁における手続の経緯

(1) 被告は、平成23年7月4日、発明の名称を「回転子積層鉄心の製造方法」とする発明について特許出願(特願2011-148498号。同出願は、平成1年1月12日にされた特許出願(特願2005-5426号。甲3。以下「最初の親出願」という。 の一部を新たな特許分割出願として平成22年12月27日に)された特許出願(特願2010-290481号。甲4。以下「原出願」という。)の一部を新たな特許分割出願としたものである。)をし、平成25年9月6日、その設定登録を受けた(特許第5357217号。請求項の数1。以下「本件特許」といい、本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。。)(甲36。また、以下、上記各出願に係る特定の時点における明細書、特許請求の範囲及び図面を併せて「明細書等」ということがある。)

(2) 原告は、令和2年10月8日、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許の無効審判の請求をし(無効2020-800095号事件。甲37。以下「本件審判請求」という。、特許庁は、令和3年9月22日、本件審)判請求について、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同年10月4日に原告に送達された。2 本件特許に係る発明の要旨本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下「本件発明」という。。)(甲36)【請求項1】複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔にのみ注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記永久磁石の樹脂封止を行うことを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。3 本件審決の理由の要旨

(1) 分割要件についてア 最初の親出願の出願時の技術常識について(ア) 甲20(特開2002-34187号公報。本件審決における「乙4」)について最初の親出願の出願前に公開された甲20の記載(段落【0013】及び【00】)からみて、甲20には、穴部1a、2aに永久磁石6が嵌挿される積層鉄心が板状磁性部材を積層し、抜きかしめ等で固着一体化することが記載されている。(イ) 甲21の1(実開昭59-053679号公報。本件審決における「乙5の」 及び甲21の2) (実願昭57-146329号(実開昭59-053679号)のマイクロフィルム。本件審決における「乙5の2」)について最初の親出願の出願前に公開された甲21の1・2(以下、併せて単に「甲21」ということがある。 の記載) (甲21の2の1頁下から3行目~2頁7行目及び3頁下から3行目~4頁1行目)からみて、甲21には、スロット4aに永久磁石5が挿入される回転子鉄心4については記載されているが、この回転子鉄心4が積層鉄心であることや回転子鉄心を積層するときの積層鉄心の固定手段については特段記載されていない。(ウ) 甲22(特開2000-134836号公報。本件審決における「乙6」)について最初の親出願の出願前に公開された甲22の記載(段落【0005】、【0016】、【0027】及び【0028】)からみて、甲22には、貫通孔7に永久磁石8が挿入される回転子鉄心6が積層鋼板からなることについて記載され、さらには、回転子鉄心6の積層鋼板をエポキシ樹脂等の樹脂で強固に固着することが記載されている。(エ) 甲23(特開2002-118994号公報。本件審決における「乙7」)について最初の親出願の出願前に公開された甲23の記載(段落【0004】【0023】、及び【0024】)からみて、甲23には、永久磁石が内部に埋め込まれた回転子が積層されたものであることについては記載されているが、積層された回転子の固定手段については特段記載されていない。(オ) 甲24(特開2002-359942号公報。本件審決における「乙8」)について最初の親出願の出願前に公開された甲24の記載(段落【0016】~【001】)からみて、甲24には、収容孔4に永久磁石5が挿入されるロータコア3が積層鋼板により形成されることについては記載されているが、積層鋼板を積層するときの固定手段については特段記載されていない。(カ) 甲25(特開平07-312837号公報。本件審決における「乙9」)について最初の親出願の出願前に公開された甲25の記載(段落【0019】及び【00】)からみて、甲25には、断面楔状の溝2aに永久磁石3が装着される回転子鉄心2が硅素鋼板の積層により形成されることについては記載されているが、硅素鋼板を積層するときの固定手段については特段記載されていない。(キ) 甲26(特開平09-224338号公報。本件審決における「乙10」)について最初の親出願の出願前に公開された甲26の記載(段落【0020】)からみて、甲26には、永久磁石7が埋設されたヨーク6が珪素鋼板の積層体よりなることについては記載されているが、珪素鋼板を積層するときの固定手段については特段記載されていない。(ク) 甲27(特開2002-345189号公報。本件審決における「乙11」)について最初の親出願の出願前に公開された甲27の記載(段落【0025】【0066】、~【0068】)からみて、甲27には、磁石挿入孔4aに永久磁石6が埋め込まれるロータコア4が電磁鋼板の積層により構成され、電磁鋼板を溶接部15での溶接により固定することが記載されている。(ケ) 甲28(特開2003-304670号公報。本件審決における「乙12」)について最初の親出願の出願前に公開された甲28の記載(段落【0017】及び【00】)からみて、甲28には、磁石スロット28に磁石34が埋設されるロータコア22が電磁鋼板24を複数枚積層することにより構成され、電磁鋼板を溶接あるいは接着など用途に応じて選択した手段により密着固定することが記載されている。(コ) 甲21及び23~26には回転子積層鉄心の積層板の固定手段について示されていないが、それらに示される技術が回転子積層鉄心を構成する積層板の固定手段についての技術でも同固定手段と技術的に関連するような技術でもないことから、回転子積層鉄心の積層板の固定手段については、特段の事項を示さなかったものと解される。甲21及び23~26に接した当業者は、それらに記載された技術を実施するに当たって、回転子積層鉄心の積層板の固定手段は、かしめ等の特定の手段に限られるものではなく、当時知られていた固定手段を任意に使用できると認識するといえる。そうすると、甲21及び23~26から、複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層は、当然に、かしめを用いるとはいえず、当時知られていた固定手段から任意の手段が用いられていたといえる。そして、この当時知られていた回転子積層鉄心の積層の固定手段に関し、甲20、、27及び28の記載からみて、最初の親出願の出願時に、回転子積層鉄心の積層板をかしめで固定することだけでなく、溶接や接着で固定することも知られていたことが分かり、技術常識であったといえ、また、甲21及び23~26から、複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層の固着が、当然にかしめを用いるものではないことがわかる。したがって、「複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層は、かしめを用いるものに限られない」ことは、最初の親出願時の技術常識であったといえる(以下、この技術常識を「本件技術常識」ということがある。。)イ 最初の親出願の明細書等(甲3)に記載された発明について(ア) 最初の親出願の明細書等には、「回転子積層鉄心の外側部分に設けられた複数の磁石挿入孔に永久磁石を挿入し、更に、この永久磁石を樹脂によって封止固定する」「方法」が記載(段落【0001】)されており、「磁石埋め込み型回転子においては、磁石挿入孔に挿入される永久磁石を、磁石挿入孔内に樹脂を封入して固定する」(同【0002】)方法として、「磁石挿入孔の半径方向内側位置に更に樹脂注入孔部を設けると共に、磁石挿入孔と樹脂注入孔部とを連通溝部で連通させておき、回転子積層鉄心を上下から上型及び下型で押圧した後、前記樹脂注入孔部から樹脂を所定の圧力によって注入し、磁石挿入孔内の永久磁石を固定する」(同【000】)ことが記載されている。これらの記載から、「上型」と「下型」は、磁石挿入孔の半径方向内側位置に設けられた樹脂注入孔内に樹脂を注入できるものであることが理解できる。また、ここで記載された回転子積層鉄心は、複数の板を積層した積層鉄心であり、積層した板の固定手段を特定の手段に限定するものではないことは明らかである。そして、前記アのように、複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層した板の固定手段は、かしめを用いるものに限られず、溶接や接着を用いることが技術常識であったことから、最初の親出願の明細書等に記載された上記の回転子積層鉄心には、かしめにより積層板を固定した鉄心に限られず、溶接や接着などのかしめ以外の手段により固定されたものも含まれているといえる。(イ) 最初の親出願の明細書等には、「しかしながら、この特許文献1記載の技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」(同【0004】)と記載されている。この記載から、最初の親出願の明細書等には、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層され、鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまうことが示されているといえる。また、この記載から、各鉄心片がかしめ積層されていないもの(すなわち、溶接や接着などにより固定されているもの)やかしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0.5mm以下でないものは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出するとはいえないことも理解できる。そして、最初の親出願の明細書等には、「回転子積層鉄心の外側部分に設けられた複数の磁石挿入孔に永久磁石を挿入し、更に、この永久磁石を樹脂によって封止固定する装置及び方法に関する」(同【0001】)発明が記載されており、ここでいう回転子積層鉄心は、鉄心片の板厚が0.5mm以下のものをかしめ積層したものに限定されていないから、最初の親出願の明細書等には、「回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いもので」(同【0004】、)「かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」(同【0004】)ものと、「かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」(同【0004】)ことがないものの両者を含む、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に関する発明も記載されていると理解できる。(ウ) 最初の親出願の明細書等には、「上板部材15(具体的には上押圧プレート1)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができるので、回転子積層鉄心22に形成された磁石挿入孔30を確実に上板部材15及び下板部材16が閉塞できて樹脂漏れを防止でき」(同【0015】)ることが示されている。これは、最初の親出願の明細書等に記載された発明は、(上型プレート18及び上押圧プレート19に形成された)樹「脂ポット29内の樹脂を樹脂溝35を介して磁石挿入孔30内に注入する」 【0(同】)ものであるが、このとき、上板部材15(上押圧プレート19)と下板部材16(下押圧プレート21)が回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接しているため、上板部材15(上押圧プレート19)及び下板部材16(下押圧プレート)と回転子積層鉄心22との間からの樹脂漏れが防止されていることを示したものと理解できる。ここで示されるものは、「上押圧プレート19の底面で、かしめ部40、41が突出する位置に逃げ空間43、44を形成し、突出したかしめ部40、41を上押圧プレート19が押さえつけないようにしている」(同【0015】)ものであり、「回転子積層鉄心22は・・・複数枚の鉄心片39がかしめ積層されて形成されているが、鉄心片39の形成時にかしめ部(この実施の形態ではV字状かしめ)40、4が形成されている」(同【0014】)ことから、「上板部材15(具体的には上押圧プレート19)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させる」(同【0015】)ときに回転子積層鉄心2の上面及び下面にかしめ部がなければ、上板部材15と下板部材16を押圧させることで密接させることができるが、回転子積層鉄心22の上面又は下面にかしめ部があると、「回転子積層鉄心22の上面を押圧する上板部材15の一部である上押圧プレート19の下面が完全平面である場合、鉄心片39aから突出するかしめ部40、41を押圧することになるので、この上押圧プレート19の底面で、かしめ部40、41が突出する位置に逃げ空間43、44を形成し、突出したかしめ部、41を上押圧プレート19が押さえつけないように」(同【0015】)する必要があることを示したものと理解できる。そして、このような対処が必要なものを実施例として示し、鉄心片39aから突出するかしめ部40、41がないものについては、「回転子積層鉄心22の上面を押圧する上板部材15の一部である上押圧プレート19の下面が完全平面で」(同【0015】)あっても、上板部材15と下板部材16を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができることは、明らかであるから、「鉄心片39の形成時にかしめ部(この実施の形態ではV字状かしめ)40、41が形成されている」ものに最初の親出願の明細書等に記載された発明が限定されたものではないと理解できる。そうすると、最初の親出願の明細書等には、回転子積層鉄心22を上板部材15と下板部材16とで上下から押圧して、磁石挿入口30内に樹脂を注入することで、上板部材15及び下板部材16と回転子積層鉄心22との間からの樹脂漏れが防止されることが示され、さらに、回転子積層鉄心22が、複数枚の鉄心片39をかしめ積層して形成したものでは、かしめ部40、41が形成されるので、この場合には、かしめ部40、41が突出する位置に逃げ空間43、44を形成した上板部材と下板部材16を用いて、回転子積層鉄心22を押圧することが示されているといえる。したがって、最初の親出願の明細書等には、回転子積層鉄心22を上板部材15と下板部材16とで上下から押圧して、磁石挿入口30内に樹脂を注入することで、上板部材15及び下板部材16と回転子積層鉄心22との間からの樹脂漏れが防止されることが記載されているといえる。(エ) 最初の親出願の明細書等には、「前記回転子積層鉄心の上下に前記磁石挿入孔を実質的に閉塞する上板部材及び下板部材を備えると共に、前記上板部材及び前記下板部材のいずれか一方に前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する樹脂ポットを備え」【請求項1】( )ることが記載され、「プランジャ32を押し下げ、樹脂ポット2内の樹脂を樹脂溝35を介して磁石挿入孔30内に注入する。 段落(」 【0017】)ことも記載されている。これらのことから、最初の親出願の明細書等には、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数の樹脂ポットを備えた上板部材及び下板部材を配置することも記載されているといえる。(オ) 以上のことから、最初の親出願の明細書等には、回転子積層鉄心22を上板部材15と下板部材16とで上下から押圧して、磁石挿入口30内に樹脂を注入する発明が記載されており、また、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置することも記載されているから、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載されていたと認められる。ウ 原出願の明細書等(甲4)に記載された発明について原出願の出願当初の明細書等の記載(そのうち明細書の発明の詳細な説明には、最初の親出願の明細書の発明の詳細な説明に記載された事項と同じ事項が記載されている。)並びに本件特許の実際の出願日である平成23年7月4日時点での原出願の特許請求の範囲の記載(同日付け補正による補正前のもの)及び明細書の発明の詳細な説明の記載(一部補正されたが、段落【0004】【0005】及び【0、】~【0019】の記載は、最初の親出願の明細書の記載と同様である。)からすると、原出願の出願当初の明細書等及び本件特許の出願時の明細書等には、前記イの最初の親出願の明細書等に記載された発明と同様の発明が記載されていたといえる。したがって、本件発明は、原出願の出願当初の明細書等及び原出願の出願時の明細書等に記載されていたといえる。エ まとめ前記イ及びウのように、本件発明は、最初の親出願の明細書等及び原出願の明細書等に記載されていたものであって、新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、本件特許の出願は、特許法44条2項の規定により、最初の親出願の出願日である平成17年1月12日にしたものとみなされる。そうすると、本件発明は、平成18年7月27日に公開された甲1(最初の親出願に係る特開2006-197693号公報。本件審決における「甲1」)から新規性がないものとすることはできない。

(2) 実施可能要件についてア 本件明細書の発明の詳細な説明における記載(段落【0001】~【000】及び【0011】~【0017】)及び図1から、本件明細書の発明の詳細な説明には、回転子積層鉄心22を上板部材15と下板部材16とで上下から押圧して、磁石挿入口30内に樹脂を注入することで、上板部材15及び下板部材16と回転子積層鉄心22との間からの樹脂漏れが防止されることが示され、さらに、回転子積層鉄心22が、複数枚の鉄心片39をかしめ積層して形成したものでは、かしめ部40、41が突出する位置に逃げ空間43、44を形成した上板部材15と下板部材16を用いて、回転子積層鉄心22を押圧することが示されているといえる。そして、本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者は、鉄心片39aから突出するかしめ部40、41がないものについては、「回転子積層鉄心22の上面を押圧する上板部材15の一部である上押圧プレート19の下面が完全平面で」 【00(同】 あっても、) 上板部材15と下板部材16を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができ、回転子積層鉄心22の上面及び下面にかしめ部があるものについては、「回転子積層鉄心22の上面を押圧する上板部材15の一部である上押圧プレート19の下面が完全平面である場合、鉄心片39aから突出するかしめ部40、41を押圧することになるので、この上押圧プレート19の底面で、かしめ部40、41が突出する位置に逃げ空間43、44を形成し、突出したかしめ部40、41を上押圧プレート19が押さえつけないように」(同【0015】)することで、上板部材15と下板部材16を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させ、樹脂を漏れることなく磁石挿入口にのみに注入できると理解する。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件明細書の段落【0】に記載された「樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造方法を提供する」という課題を解決する発明がその実施をすることができる程度に記載されているといえる。また、他に、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が当業者が出願時の技術常識を考慮しても本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえないとする事項もない。イ よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであって、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしている。

(3) サポート要件についてア 本件明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0001】~【0005】及び【0011】~【0017】)及び図1を踏まえると、「上板部材15(具体的には上押圧プレート19)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができるので、回転子積層鉄心2に形成された磁石挿入孔30を確実に上板部材15及び下板部材16が閉塞できて樹脂漏れを防止でき」(段落【0015】)ることが示されているから、発明が解決する課題の一つとして、樹脂を磁石挿入孔30内に注入するときの樹脂漏れを防止することが示されているといえる。そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、樹脂を磁石挿入孔30内に注入するときの樹脂漏れを防止するために、回転子積層鉄心22の上下に、いずれか一方には磁石挿入孔30に樹脂を注入する複数の樹脂ポット29と該樹脂ポット29にそれぞれ対応するプランジャ32とを備えた上板部材15及び下板部材16を配置するとともに、回転子積層鉄心22を上板部材15と下板部材16とで上下から押圧して、磁石挿入口30内に樹脂を注入することで上記課題を解決するものが示されている(前記(1)イ参照。。)イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「樹脂を前記磁石挿入孔にのみ注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって」「前記回転子積層鉄心の上、下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記永久磁石の樹脂封止を行う」ことが記載されている。ウ そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。

第3 原告主張の取消事由

1 取消事由1(分割要件に関する判断の誤り)

最初の親出願の明細書等には、①回転子積層鉄心がかしめで積層されていることから生じる特有の課題を解決するために、②「上板部材又は下板部材」がかしめ部の逃げ空間を備える構成(以下、上記①を要素とする構成を「かしめ部あり構成」、上記②を要素とする構成を「逃げ空間あり構成」 上記①及び②の双方を要素とする、構成を「かしめ部・逃げ空間あり構成」とそれぞれいうことがある。)に係る技術的事項のみが開示されていたにもかかわらず、本件発明は、少なくとも、回転子積層鉄心がかしめで積層されていない構成(以下「かしめ部なし構成」ということがある。)を含み、「上板部材及び下板部材」がかしめ部の逃げ空間を備えない構成(以下「逃げ空間なし構成」ということがある。また、かしめ部なし構成及び逃げ空間なし構成の双方を備える構成を「かしめ部・逃げ空間なし構成」ということがある。)を含むもので、新たな技術的事項を追加するものである。したがって、本件特許の出願について、特許法44条2項により最初の親出願の出願日である平成17年1月12日にしたものとみなされると判断した本件審決には誤りがある。具体的には、次のとおりである。

(1) 最初の親出願の明細書等から導かれる技術的事項がかしめ部・逃げ空間あり

構成を備えることのみであることア 最初の親出願の明細書等の記載から導かれる技術的事項最初の親出願の明細書等の記載に係る次の点からすると、当該記載から導かれる技術的事項は、「従来技術の回転子積層鉄心は、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から突出してしまうことから、突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こす原因となることから、押圧時に非常に大きな荷重をかけて押し潰す必要があったこと、しかし、この突出したかしめ部を押し潰すための荷重をかけることにより、かしめ部の強度が不安定になったり、設備が大型化するという問題があることから、かしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、突出するかしめ部の位置に逃げ空間を設けることで、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能であり、かしめ部が常時安定したかしめ強度を有することを目的とする」というものである。(ア) 「発明が解決しようとする課題」として、「特許文献1記載の技術においては・・・、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」こと、「これを上型又は下型で押圧しながら磁石挿入孔を閉塞しようとすると、前記の突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こす原因となる」こと、その「ため、押圧時に非常に大きな荷重をかけて押し潰す必要があった」こと、「しかし、この突出したかしめ部を押し潰すための荷重をかけることにより、かしめ部の強度が不安定になったり、設備が大型化すること等の」課題があったことが記載され(段落【0004】、そして、最初の親出願の明細書等に記載の発明は、) 「かかる事情に鑑みてなされた」ことが明記された上で、「各鉄心片がかしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする」ことが開示されている(同【0005】。)そして、突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こすという上記の課題を解決するために、「課題を解決するための手段」として、「複数の鉄心片がかしめ部を介してかしめ積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造装置」について、「回転子積層鉄心の表面から突出する前記かしめ部が当接する側に位置する前記上板部材又は前記下板部材には、前記かしめ部の逃げ空間が設けられている」という構成が第の発明として開示されている(請求項1及び段落【0006】。課題を解決する)ための手段として段落【0007】に開示されている構成も、「第1の発明に係る回転子積層鉄心」についての発明であるから、第1の発明の上記の構成が前提となっている(請求項2)。また、第2の発明として、「複数の鉄心片がかしめ部を介してかしめ積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、熱硬化性樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法」について、「回転子積層鉄心の前記かしめ部が突出する側に位置する前記上板部材又は前記下板部材には、前記かしめ部の逃げ空間を形成して、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して樹脂封止する際に、封止される前記熱硬化性樹脂の漏洩を防止」する構成が開示されている(請求項3及び段落【0008】。)このように、最初の親出願の明細書等においては、かしめ部を介してかしめ積層された回転子積層鉄心において、突出するかしめ部が当接する側に位置する上板部材又は下板部材に、かしめ部の逃げ空間を備える必要があることが開示されている。(イ) 「発明の効果」として、回転子積層鉄心の表面から突出するかしめ部が当接する側に位置する上板部材又は下板部材には、かしめ部の逃げ空間が設けられているので、表面から突出したかしめ部が逃げ空間内に入りこみ、これによって上板部材及び下板部材によって回転子積層鉄心を押圧する力を最小にすることができること、また、これによって設備を小型化することができること、さらに、突出したかしめ部に大きな荷重がかからないので、かしめ部が常時安定したかしめ強度を有することが開示されている(同【0009】。)(ウ) 発明の実施形態についても、段落【0011】【0013】~【0015】、及び【0017】の記載並びに図1~3からすると、実施例の構成として、かしめ部40及び41のかしめ突起が突出する方向に位置する、上板部材15(具体的には上押圧プレート19)又は下板部材16(具体的には下押圧プレート21)のいずれか一方に逃げ空間43及び44を形成することで、かしめ突起が突出していない側(上記の実施例では下押圧プレート21)が回転子積層鉄心22に密着するのみならず(同【0013】、かしめ突起が突出している側(上記の実施例では上押)圧プレート19)においても、突出するかしめ部40及び41が、逃げ空間43及び44内にすっぽり入り込み、回転子積層鉄心22に密着することが可能となることが開示されている(同【0015】及び【0017】。)イ かしめ部・逃げ空間なし構成が新たな技術的事項を含むこと(ア) 最初の親出願の明細書等に、かしめ部なし構成は記載されておらず、しかも、段落【0018】には、最初の親出願の明細書等に記載の発明の実施の形態がかしめ部を有することを前提とした上で、「逃げ空間43、44は、回転子積層鉄心22の表面から突出したかしめ部が嵌入できるものであればその形状によって本発明が限定されるものではない」と記載されている。当該記載は、少なくとも突出したかしめ部が対向する上板部材又は下板部材の面には逃げ空間を形成することを必須とする旨の記載であるから、最初の親出願の明細書等には、上板部材又は下板部材の逃げ空間を必須の構成とする発明が記載されているというべきである。(イ) そうすると、かしめ部・逃げ空間なし構成が、最初の親出願の明細書等に記載されていない新たな技術的事項であることは明らかであり、かしめ部・逃げ空間なし構成は、最初の親出願の明細書等に記載された発明の課題を解決することができない。そのため、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載された発明の課題を解決できない構成を含むものであるから、新たな技術的事項を含むものである。

(2) 技術常識に基づいて最初の親出願の明細書等の記載がかしめを使用しない積

層を含むとは理解できないことア 本件技術常識の認定の誤り等次の点からして、本件審決における甲20~28を根拠とする最初の親出願の出願時の本件技術常識の認定には誤りがある。当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固定手段としては、むしろ、かしめが技術常識となっていた。(ア) 甲21及び23~26についてa 甲21及び23~26には、回転子積層鉄心の積層板の固定手段について何ら記載されておらず、回転子積層鉄心の積層板の固定手段として、当時知られていた固定手段を任意に使用できることについての記載も示唆も一切ない。b また、本件審決は、「当時知られていた回転子積層鉄心の積層の固定手段に関」するものとして、甲20、22、27及び28の記載を指摘するが、甲21に係る出願日である昭和57年9月29日当時、甲20(公開日は平成14年1月3日)、甲22(公開日は平成12年5月12日)、甲27(公開日は平成14年1月29日)及び甲28(公開日は平成15年10月24日)は、いずれも公開されていない。そのため、当業者はもとより、甲21に係る出願人においてすら、甲に記載の複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層のための固定手段として、甲20、22、27及び28に記載の技術を、当時知られていた任意の固定手段であると認識する余地はない。同様に、甲25に係る出願日である平成6年4月20日及び甲26に係る出願日である平成8年2月16日においても、甲20、22、27及び28はいずれも公開されていないから、当業者はいうまでもなく、甲25及び甲26に係る出願人においてすら、複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層のための固定手段として、甲20、22、27及び28に記載の技術を、当時知られていた任意の固定手段であると認識する余地はない。また、甲23に係る出願日である平成12年10月12日及び甲24に係る出願日である平成13年5月31日において公開されているのは甲22のみであるが、後記(ウ)のとおり、甲22に開示されている回転子積層鉄心の固定手段は本件発明には適用できないから、甲22が公開されていることによっても、当業者のみならず、甲23及び24に係る出願人においてすら甲20、22、27及び28に記載の技術を、当時知られていた任意の固定手段であると認識する余地はない。上記各証拠には、それぞれの公開当時の技術内容が記載されているのであって、上記各証拠に記載された内容に公開後の内容が後から盛り込まれるということはあり得ない。c これに対し、被告は、回転子積層鉄心の固定に関する古い文献として、乙1(特公昭60-51350号公報) 乙2、 (実開昭49-26009号公報及び実願昭47-068023号の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム)及び甲31(井本明著「実用プレス順送り型便覧」(平成7年発行)の頁~516頁)を挙げる。しかし、乙1には、そもそも回転子積層鉄心の「積層」についての固定方法の記載はなく、「複数の磁石挿入孔」の開示もない。なお、乙1が引用する甲62(特開昭46-3170号公報)に開示されているのも、積層鉄心ではなく、回転子磁極である(2欄6行目~7行目、第1図)。また、乙2には、かしめによる固定方法が開示されているにすぎず、本件技術常識は開示されていない。被告が指摘する乙2の4頁1行目~3行目の記載も、積層鉄心の積層された鉄心片の固定方法を示しているのか否か不明である。甲31には、固定方式について、「その製品の形態によって」 「カシメ締着の方、式」「スポット溶接で締着する方式」及び「テープなどで巻き付け締着させる方式、、などが行われていた」と記載されているが、回転子積層鉄心においてどの方式を用いることが可能なのかは不明である。この点、スポット溶接及びテープなどで巻き付け固定する方法は、回転子積層鉄心の固定方法に適さない。また、甲31には「自動カシメ複合機が普及しているとの記載があること(514頁6行目~7行目)からすると、当該加工方式を用いるのが技術常識であるといえる。したがって、乙1及び2並びに甲32にも、本件技術常識は記載されていない。d 甲21及び23~26について、他の証拠を根拠として、「複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層は、かしめを用いるものに限られない」ことが理解されると認定した上で、「複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入され「る回転子積層鉄心の積層は、かしめを用いるものに限られない」ことが技術常識である」と認定することは、証拠を二重評価するものであって不当である。(イ) 甲20についてa 甲20には、積層鉄心3が板状磁性部材を積層し、抜きかしめ等で固着一体化することが記載されているにすぎず、かしめ以外の固定手段は一切記載されていない。b 甲20の段落【0015】等における「抜きかしめ等」という記載は、「かしめ」以外の固定方法を含むという趣旨ではなく、「抜きかしめ」以外の「かしめ」による固定方法を含むという趣旨である。もし、「かしめ」以外の固定方法を含むという趣旨であれば、「抜きかしめ等」ではなく、単に「かしめ等」と記載すればよい。この点、最初の親出願の出願当時、かしめによる固定方法として、切り起こしかしめ、リベットやピンによるかしめが存在していた。そして、「抜きかしめ」(そもそも「抜きかしめ」が具体的にどのような「かしめ」を意味するのか、甲20の記載からは不明である上、その点に係る技術常識も存在しなかったが、「半抜きかしめ」というかしめ方法は知られており、「抜きかしめ」は、この「半抜きかしめ」のことと推測される。)が、「かしめ」の一態様であり、その他のかしめが周知であったことは、明らかである(甲55(特開2004-173375号公報)の段落【0】【0019】及び【0020】、 、甲56(日本塑性加工学会編「接合」(平成2年11月30日発行))の110頁、乙2の4頁1行目~3行目、乙6(特開2-364541号公報)の段落【0031】。)さらに、甲20には、溶接や接着による固定方法が適用できることも記載されていない。したがって、甲20における「抜きかしめ等」という記載は、「かしめ以外」を含むものではない。「抜きかしめ」以外の「かしめ」を含むものとして、また、「抜きかしめ」という用語が不明確であることから、上記記載となっているといえる。(ウ) 甲22についてa 甲22の段落【0027】には、「図6において、20は例えばエポキシ樹脂等の樹脂21を収納した容器で、この容器20内に永久磁石片が挿入された回転子鉄心6からなる回転子3を浸漬することにより貫通孔と永久磁石片の固着を行うとともに積層鋼板からなる回転子鉄心6も強固に固着する」と記載されている。かかる記載から明らかなとおり、甲22においては、樹脂21を収納した容器20内に永久磁石片が挿入された回転子鉄心6からなる回転子3を浸漬することで、永久磁石片を貫通孔に固着するのと同時に積層鋼板からなる回転子鉄心の固着を行っている。これに対し、最初の親出願の明細書等においては、かしめ積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石について、樹脂を前記磁石挿入孔に注入して上板部材及び下板部材で押圧することで固定する方法が開示されている(請求項1及び3並びに段落【0005】【0006】及び【0008】参照)、 。すなわち、最初の親出願の明細書等に記載されている発明は、あらかじめ回転子積層鉄心をかしめ積層して固定した後に、磁石挿入孔の樹脂注入時に、上板部材及び下板部材で押圧することで磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂で固定するのである。そのため、甲22に開示されている、容器内に回転子を浸漬することで、永久磁石片を貫通孔に固着するのと同時に積層鋼板からなる回転子鉄心の固着を行うという技術を、最初の親出願の明細書等に記載されている発明に適用することはできない。したがって、甲22に開示されている積層鉄心の固定手段が知られているとしても、当該固定手段は、最初の親出願の明細書等に適用もできないし、さらに、最初の親出願の明細書等に記載された発明において、当該固定手段を用いることが自明であるとも理解できない。b 被告は、甲22の第3実施例を指摘するが、第3実施例には、樹脂により、貫通孔と永久磁石片を固定することが開示されているにすぎず、積層鋼板を固定することは記載されていない。(エ) 甲27及び28についてa 甲20及び22については前記(イ)及び(ウ)のとおりであるところ、それらを除いた甲27及び28の記載のみをもって、最初の親出願の出願時に、回転子積層鉄心の積層板をかしめで固定することだけでなく、溶接や接着で固定することが技術常識であったと認定することもできない。甲27及び28という2件の特許文献のみで、そのような技術常識を認定するのは明らかに誤りである。b また、甲27は、永久磁石を磁石片に分割した上で、磁石片をロータ内周に向かって凸となるU字型又はV字型に配置するという特定の構成において、溶接をするという技術が開示するものであって(請求項6並びに段落【0006】~【0】【0015】及び【0067】、分割をしない永久磁石における一般的な、 )積層方法の技術常識を示すものではない。しかも、最初の親出願の明細書等に記載された発明は、永久磁石を分割して対の磁石片にする構成でもなく、また、磁石片をロータ内周に向かって凸となるU字型又はV字型に配置する構成でもないため、当業者は、甲27に開示された技術が、最初の親出願の明細書等に記載されているに等しいと理解することはない。c しかも、最初の親出願の明細書等に記載された発明は、回転子積層鉄心を押圧して磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂封止する技術であるところ、甲27及び28は、回転子積層鉄心を押圧して磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂封止する技術に関するものではない。d したがって、甲27及び28によっても、かしめ以外で積層された回転子積層鉄心を押圧して磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂封止することが技術常識であったとはいえない。なお、万が一、甲28を根拠とするとしても、せいぜい認定できるのは、最初の親出願の出願時に、甲28に、回転子積層鉄心の積層板を接着で固定する技術が記載されていたという程度である。ただし、最初の親出願の明細書等に記載された発明は、回転子積層鉄心を押圧して磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂封止する技術であるので、甲28が回転子積層鉄心を押圧して磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂封止する技術に関するものではない以上、甲28に記載されている回転子積層鉄心の積層板を接着で固定するという技術は、最初の親出願の明細書等に記載された発明を把握するに当たって、何ら関係のない技術である。(オ) 回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固定手段として、かしめが技術常識となっていたこと次の点からすると、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固定手段としては、かしめが技術常識となっていたといえる。a 甲64(特開平11-234972号公報)の段落【0002】~【000】には、積層鉄心の固定について、溶接による固定も接着剤による固定もいずれも問題があるため、かしめ方式が一般的であることが明記されている(なお、甲6に記載の「液体接着剤」を鉄心片と鉄心片の間に流し込み接着するという技術を、仮に、最初の親出願の明細書等に記載の発明に適用した場合、磁石挿入孔にも接着剤が流し込まれ、磁石の挿入に支障をきたすことが明らかであり、また、当業者においては、積層鉄心の表面に残存した接着剤により、樹脂封止時に型と積層鉄心の間に隙間が形成され、樹脂漏れの問題が発生することも当然に認識するから、上記技術の適用はできない。。)b 最初の親出願の出願当時、積層鉄心を溶接すると、溶接部で短絡することで渦電流が発生し、効率が低下することが技術常識であった(甲65(特開平11-号公報)の段落【0004】、甲66(特開2002-291209号公報)の段落【0008】 甲67、 (特開2002-136002号公報)の段落【0】~【0004】、甲68(開道力外「モータ積層鉄心の性能に及ぼす層間短絡の影響」電学論A123巻9号(平成15年発行)の857頁以下)。)また、甲69(特開2001-25218号公報)の段落【0004】に記載されているように、積層鉄心の固定方法として、接着剤による方法は、実際には実施されていなかった。したがって、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固定手段として、溶接や接着は、多数の問題点があるため実用化されていなかった。(カ) かしめ以外の固定方法に係る

(被告の主張)

について被告は、溶接、接着その他様々な回転子積層鉄心の固定方法が知られていたと主張し、乙3(特開2000-152570号公報)、乙4(特開2002-3694号公報)、乙5(特開平7-264785号公報)及び乙6の記載を指摘する。しかし、前記(オ)のとおり、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固定手段としては、かしめが技術常識となっていたから、乙3~6に「接着」や「溶接」と記載されているとしても、当業者が、最初の親出願の明細書等において、積層鉄心の固定手段として「接着」や「溶接」を行うと理解することはない。また、いずれの証拠にも、回転子積層鉄心の磁石挿入孔に永久磁石を挿入し、回転子積層鉄心を押圧して、磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂封止することについては記載されておらず、それらは最初の親出願の明細書等に記載された発明に適用される積層鉄心の固定方法の技術常識を示すものではない。この点、乙3(請求項1及び4)には、回転子積層鉄心の固定と永久磁石への樹脂の注入を同時に行うことが明記されている(なお、乙3の段落【0002】の記載からは、以前は、積層鉄心の固定手段としてピンかしめや溶接があったが、型内自動結束法(抜きかしめ)が一般的である旨が理解される。。また、乙4(段落【0015】) )及び乙6(段落【0030】及び【0031】並びに図3(b))には、永久磁石を積層鉄心に挿入した後に、溶接して積層鉄心を固定することが開示されている。そして、乙5については、具体的にどのように溶接するのか不明である。イ 「複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層は、かしめを用いるものに限られない」ことが最初の親出願の明細書等に記載されていないこと等次の点からして、「複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層は、かしめを用いるものに限られない」ことは、最初の親出願の明細書等に記載されておらず、また、最初の親出願の明細書等の記載から自明ともいえない。(ア) 本件審決の認定判断の誤りa 最初の親出願の明細書の段落【0001】及び【0002】に係る本件審決の認定判断の誤り

(a) 最初の親出願の明細書の段落【0001】は「技術分野」に関する記載であ

り、一般的で概括的な記載であるから、当該記載を根拠として明細書に記載された技術的事項を捉えるのは誤りである。

(b) 同【0002】も、背景技術についての記載であって、そこにおける記載か

ら最初の親出願の明細書等に記載の発明を把握することはできない。また、同段落には、「特許文献1においては」と記載されているところ、「特許文献1」である甲には、積層鉄心3が板状磁性部材を積層し、抜きかしめ等で固着一体化することが記載されているにすぎず、かしめ以外の固定手段は一切記載されていない(前記ア(イ))から、最初の親出願の明細書等に記載された回転子積層鉄心が、積層した板の固定手段を特定の手段に限定するものではないことは明らかであるなどとはいえない。

(c) 本件審決は、本件技術常識について指摘するが、それが存在しないことは前

記アのとおりである。加えて、仮に、特定の技術常識が存在していたとしても、当業者にとって、それに係る事項が最初の親出願の明細書等や原出願の明細書等の記載から自明である事項であるといえるか否かは異なる問題であり、当該明細書等の記載から当該技術常識に係る技術的事項を導くことができないことも当然にあり得る。この点、本件審決は、本件技術常識が存在することのみをもって、最初の親出願の明細書等の記載に本件技術常識に係る事項が含まれていると判断しており、誤っている。前記(1)のとおり、最初の親出願の明細書等の請求項1~3、段落【0004】~【0009】、【0013】~【0015】【0017】及び【0018】並びに図1~3等の記、載から総合的に導かれる技術的事項は、かしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、突出するかしめ部の位置に逃げ空間を設けることで、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能であり、かしめ部が常時安定したかしめ強度を有することにある。そうすると、仮に、本件技術常識があったとしても、「複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層した板の固定手段」として、かしめ以外の固定手段を用いることは、新たな技術的事項を導入することに他ならない。さらに、仮に、本件技術常識があったとしても、最初の親出願の明細書の段落【0】に記載の背景技術に照らすと、かしめ以外の固定手段である溶接や接着などの固定手段を用いた回転子積層鉄心に、同【0004】のような課題が存在しないことは明らかであり、最初の親出願の明細書等の記載から、そのような回転子積層鉄心における磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止における樹脂漏れの課題を認識することもできないので、そのような回転子積層鉄心に係る発明が最初の親出願に記載されているはずもないことは明らかである。したがって、最初の親出願の明細書等に記載された回転子積層鉄心に、かしめにより積層板を固定した鉄心に限られず、溶接や接着などのかしめ以外の手段により固定されたものも含まれているとの本件審決の判断は誤りである。b 最初の親出願の明細書の段落【0004】に係る本件審決の認定判断の誤り

(a) 複数の磁石挿入孔に永久磁石が挿入される回転子積層鉄心の積層した板の

固定手段として溶接や接着を用いることが技術常識であったといえないことに加え、仮に、そのような技術常識があっても、前記a(c)の点からして、最初の親出願の明細書等において、「各鉄心片がかしめ積層されていないもの(すなわち、溶接や接着などにより固定されているもの)」が開示されていると理解されることはなく、それについて、「かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出するとはいえない」と理解されることもあり得ない。

(b) また、

「かしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0.5mm以下でないもの」(鉄心片の板厚が0.5mm超のもの)について、当業者は通常想定しない。すなわち、最初の親出願の出願時において、モータ(回転機)の高効率化には、積層鉄心を構成する鉄心片の板厚を薄いものにすると効果があるということが技術常識であった(甲45(特開2001-16832号公報)の段落【0002】、甲(特開2000-160303号公報)の段落【0001】、甲47(特開平1-92891号公報)の段落【0001】 甲48、 (特公平8-14016号公報)の2欄4行目~3欄15行目、甲52(モータ技術実用ハンドブック編集委員会編「モータ技術実用ハンドブック」(平成23年3月23日頒布)691頁)、甲53(日経ものづくりのウェブサイト https://以下省略、1999年7月1日公開)。)そして、甲45の段落【0002】、甲46の段落【0002】、甲47の段落【0】及び甲48の2欄12行目~14行目の各記載に加え、甲49(特開平1-201151号公報)の段落【0003】及び甲50(特開2002-141号公報)の段落【0022】~【0023】の各記載のほか、甲52の22頁・488頁、甲57(特開2002-238190号公報)の段落【0033】、甲58(祖田直也「ベクトル磁気特性による有限要素磁界解析」(大分大学大学院工学研究科博士後期課程博士論文)、平成11年頒布)及び甲59(祖田直也外「ベクトル磁気特性による有限要素磁界解析」(日本AEM学会誌Vol.7、 No.3 (1999)2頁、平成11年頒布)の各記載から明らかなように、最初の親出願の出願時には、積層鉄心においては、絶縁処理した電磁鋼板が薄いほど、渦電流損が減り、効率が向上することが技術常識であり、積層鉄心は板厚が0.5mm以下のものが技術常識となっていた。これは、A教授の鑑定意見書(甲60)及びB教授の鑑定意見書(甲61)によっても裏付けられている。そのため、当業者は、「かしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が.5mm以下でないもの」(鉄心片の板厚が0.5mm超のもの)については通常想定しない。したがって、各鉄心片がかしめ積層されていないもの(すなわち、溶接や接着などにより固定されているもの)やかしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0.5mm以下でないものは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出するとはいえないことも理解できるという本件審決の判断は誤りである。上記に関し、被告は、乙5、乙7(特開昭63-161854号公報)、乙8(特公平4-25346号公報) 乙9、 (特開平7-236239号公報)及び乙10(特開平9-233740号公報)の記載を指摘するが、それらはいずれも1980年代~1990年代の文献である。また、乙10については、多相巻線を装着した回転子構造であって、電磁鋼板に特殊な加工を施した技術であるため、一般的に用いられる技術ではない。最初の親出願の出願の時点では、板厚の標準仕様が0.5mmであり、さらなる「薄板化」が進んでいた。

(c) 本件審決は、最初の親出願の明細書の段落【0001】を指摘するが、前記

a(a)のとおり、同段落の記載を根拠に明細書に記載された技術的事項を捉えるのは誤りであるから、同段落の記載を根拠として、同【0004】の記載の技術的事項を判断するのは誤りである。むしろ、本件審決が引用しなかった部分を含む同【0004】の記載からすると、突出したかしめ部により生じる問題が、最初の親出願の明細書等の解決するべき課題であることは当然に理解できるから、同【0004】に基づいて、最初の親出願の明細書等に記載された技術的事項について、「かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」ことがないものを含む、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心に関する発明も記載されていると理解することはあり得ない。さらに、同【0004】に続く同【0005】~【0009】の記載からしても、上記のような理解はできない。また、前記(b)の技術常識はおいて、仮に、鉄心片の板厚が0.5mmを超え「かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」ことがない回転子積層鉄心が存在することが理解できるとしても、そのような積層鉄心に同【0004】のような課題が存在しないことは明らかであり、最初の親出願の明細書等からそのような積層鉄心についての課題を認識することもできないので、そのような積層鉄心に係る発明が最初の親出願の明細書等に記載されているはずがないことは明らかである。

(d) 以上のとおり、最初の親出願の明細書等の「技術分野」に関する段落【00

】と、「発明が解決しようとする課題」に関する同【0004】及び【0005】のうち同【0004】の一部(第1文)の記載のみを引用して最初の親出願の明細書等に記載された技術的事項を認定した本件審決には誤りがある。c 最初の親出願の明細書の段落【0015】に係る本件審決の認定判断の誤り最初の親出願の明細書の段落【0015】の記載からは、上板部材又は下板部材に、かしめ部が突出する位置に逃げ空間を形成し、突出したかしめ部を押さえつけないようにすることで、上板部材と下板部材を回転子積層鉄心の上面及び下面に密接させることができ、上板部材及び下板部材と回転子積層鉄心との間からの樹脂漏れが防止されることを示したものと理解できる。また、最初の親出願の明細書等の実施の形態には、回転子積層鉄心22の上面又は下面のいずれか一方に必ずかしめ部が突出していることが記載されているのであり(同【0014】及び【0015】、回転子積層鉄心22の上面及び下面のいず)れにもかしめ部が存在しないものは一切記載されていない。したがって、「鉄心片39の形成時にかしめ部(この実施の形態ではV字状かしめ)40、41が形成されている」ものに最初の親出願の明細書等に記載された発明が限定されたものではないという理解は誤りであり、当該理解を前提とした本件審決の判断には誤りがある。(イ) 最初の親出願の明細書等に記載された発明について、当業者が鉄心片の固定手段として溶接等を用いることはできないと理解することa 甲70(特開平10-313556号公報)の段落【0002】~【000】及び図6~9には、溶接で鉄心片を固定した場合、鉄心片間に隙間が生じ、スロットからアルミニウムが漏れることが記載されている。また、甲71(特開平1-308821号公報)の段落【0005】、甲72(特開平5-64408号公報)の段落【0006】並びに甲73(特開平10-244650号公報)の段落【0001】~【0003】及び【0007】にも、積層鉄心の鉄心片等に隙間が生じることが開示されている。したがって、積層鉄心については、積層される鉄心片間に隙間が生じること、その結果、スロットから導体等の漏れが生じることは技術常識であった(漏れが生じることについて、甲50の段落【0006】も参照)。そして、最初の親出願の明細書等に記載された発明について、積層した鉄心片を溶接により固定した場合、その後、磁石挿入孔への樹脂の注入時に、上板部材及び下板部材で鉄心を押圧し、磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂で固定しようとしても、鉄心片間に形成されている溶接ビードにより、鉄心片間の隙間は存在したままとなる。なお、例えば、乙4の段落【0009】及び【0013】~【001】並びに図2には、鉄心の外周面において積層方向に溶接をすることが開示されているが、前記ア(オ)bのとおり、層間短絡電流により効率低下を招くという問題があるほか、溶接により強固に固着されているため、その後鉄心を上板部材及び下板部材で押圧しても、鉄心片間の隙間が解消されることはない。そのため、当業者においては、磁石挿入孔から樹脂を積層した鉄心片を溶接により固定した後に、磁石挿入孔への樹脂の注入時に、上板部材及び下板部材で鉄心を押圧し、磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂で固定しようとしても、鉄心片間に生じた隙間から樹脂が漏れると認識し、鉄心片の固定手段として溶接を用いることはできないと理解する。b また、仮に溶接により鉄心片を固定した場合、最上部の鉄心片には、溶接ビードが突出する(甲70の図2、甲73の段落【0007】、甲75(特開平8-1号公報)の図13。なお、乙4のように溶接溝がある場合であっても、最上部の鉄心片と最下部の鉄心片に溶接ビードが突出することは明らかである。。)そのため、磁石挿入孔への樹脂の注入時に、上板部材及び下板部材で鉄心を押圧し、磁石挿入孔に挿入された永久磁石を樹脂で固定するためには、上板部材に、抜きかしめと同様に、「逃げ空間」を設ける必要が生じる。したがって、溶接による固定を行う場合であったとしても、最初の親出願の明細書等の記載からは、「逃げ空間」が必要であることが明らかである。c なお、乙5の請求項4の構成は、「全体を貫通するリベット材でかしめ」る構成(乙5の請求項5、段落【0013】及び【0014】も同様)であるところ、乙5の図2によると、リベットは上部及び下部から突出しているから、仮に、乙5の技術を適用しようとしても、上板部材又は下板部材には、「逃げ空間」が必要となる。また、乙3及び乙6について、かしめピンは、積層鉄心の両端から突出する構成となる(甲76(特開2003-143786号公報)の段落【0023】及び図も参照)から、かしめピンによる固定方法を最初の親出願の明細書等に記載された発明に適用することもできない。d 以上に関し、そもそもモータには様々な種類が存在する。例えば、巻線界磁DCモータ、永久磁石界磁DCモータ、巻線界磁同期モータ、表面磁石PMモータ、ブラシレスDCモータ、埋込磁石PMモータ、誘導モータなど、動作原理や構造が全く異なるモータが多数ある(甲54(武田洋次外「埋込磁石同期モータの設計と制御」オーム社(平成13年発行))の3頁)。この点、本件発明のように、回転子積層鉄心に永久磁石を挿入するタイプのモータは、典型的には、永久磁石をロータ内部に埋め込んだ埋込磁石同期モータ(IPMSM)に分類される 。しかも、本件発明は、回転子積層鉄心に永久磁石を挿入し、樹脂で封止するというものである。そのため、他の形態のモータで用いられている技術が、本件発明に当然に適用されるというものではない。

(3) 原出願の明細書等に記載された発明について

原出願の明細書等には最初の親出願の明細書等と同様の事項が記載されている以上、原出願の明細書等の記載から導かれる技術的事項は、最初の親出願の明細書等の記載から導かれる技術的事項と同様である。そうすると、前記(1)及び(2)と同様に、本件発明は、原出願の明細書等に記載されていないものである。

2 取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)

本件明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも「かしめ部を介してかしめ積層された回転子積層鉄心」及び「かしめ部が突出する側に位置する上板部材又は下板部材に形成された、かしめ部の逃げ空間」という構成を備えることで、磁石挿入孔以外には樹脂が注入されずに固定させる構成のみが記載されている。他方で、かしめ部なし構成や逃げ空間なし構成については、本件明細書の発明の詳細な説明に記載がない。そのため、逃げ空間なし構成において、本件明細書の段落【0005】に記載されたように、「各鉄心片が積層されている回転子積層鉄心において、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造方法を提供する」という課題を解決するための構成は明らかでない。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても本件発明を実施できる程度に明確かつ十分な説明がされているとはいえない。

3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)

(1) 本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された課題を正しく理解

していない。本件明細書の段落【0004】には、「発明が解決しようとする課題」として、特許文献1記載の技術においては、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまうこと、これを上型又は下型で押圧しながら磁石挿入孔を閉塞しようとすると、前記の突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こす原因となること、そのため、押圧時に非常に大きな荷重をかけて押し潰す必要があったこと、しかし、この突出したかしめ部を押し潰すための荷重をかけることにより、かしめ部の強度が不安定になったり、設備が大型化すること等の課題があったことが記載され、同【0005】には、本件発明は、かかる事情に鑑みてなされたことが明記された上で、各鉄心片がかしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造方法を提供することを目的とすることが開示されている。また、同【0015】の、「・・・この逃げ空間は、回転子積層鉄心22のかしめ部が、回転子積層鉄心22の下面から突出する場合には、下押圧プレート21に形成することになる。これによって、上板部材15(具体的には上押圧プレート19)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができる・・・」との記載の「これによって」は、「逃げ空間」によってという意味であることは明らかである。したがって、同【0014】には、逃げ空間によって、上板部材15(具体的には上押圧プレート19)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができるので、回転子積層鉄心22に形成された磁石挿入孔30を確実に上板部材15及び下板部材16が閉塞できて樹脂漏れを防止でき、更には、突出するかしめ部40、41にもかしめ方向とは逆の荷重がかからないので、回転子積層鉄心22のかしめ強度を維持できるという課題を解決できることが記載されているのである。以上によると、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている発明の課題は、従来技術の回転子積層鉄心は、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から突出してしまうことから、突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こす原因となることから、押圧時に非常に大きな荷重をかけて押し潰す必要があったこと、しかし、この突出したかしめ部を押し潰すための荷重をかけることにより、かしめ部の強度が不安定になったり、設備が大型化するという問題があることから、かしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、突出するかしめ部の位置に逃げ空間を設けることで、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能であり、かしめ部が常時安定したかしめ強度を有することを目的とするというものであることは明らかである。

(2) したがって、本件発明が発明の詳細な説明に記載したものであるからサポー

ト要件違反は認められない旨の本件審決の判断は誤りである。

(3)

(被告の主張)

について被告は、本件明細書の段落【0013】には、下押圧プレート21や、下押圧プレート21又は上押圧プレート19にベントを設けることによる「樹脂漏れの防止」について記載されており、それらの手法は、かしめ積層とは関係のない「樹脂漏れの防止」の達成手段であると主張する。しかし、同【0002】には、「特許文献1においては・・・回転子積層鉄心を上下から上型及び下型で押圧した後、前記樹脂注入孔部から樹脂を所定の圧力によって注入し、磁石挿入孔内の永久磁石を固定するものであった。」と記載されている。そして、現に、「特許文献1」(甲20)では、上型が積層鉄心の上面に密着して押圧し、下型が積層鉄心の下面に密着して押圧した状態で磁石挿入孔に樹脂を注入し磁石を固定することが記載されている。そのため、甲20においても、上型と積層鉄心の上面の間や下型と積層鉄心の下面との間で樹脂漏れが発生することがないことは明らかであって、「樹脂漏れの防止」という課題は解決済みであったしたがって、当業者において、本件明細書に記載された課題以外に樹脂漏れの課題を認識することはできない。この点、下押圧プレート21による「樹脂漏れの防止」は、かしめ部が突出しない側の樹脂漏れに関するもので、かしめと関係のない樹脂漏れ防止手段とはいえない。また、下押圧プレート21又は上押圧プレート19にベントを設けることは、磁石挿入孔30から空気を逃がすためのものであり、「樹脂漏れの防止」の達成手段ではない。

第4

(被告の主張)

1 取消事由1(分割要件に関する判断の誤り)について

(1) 最初の親出願の明細書等から導かれる技術的事項について

ア 最初の親出願の明細書等から導かれる技術的事項についての本件審決の認定判断に誤りはない。最初の親出願の明細書等に原告が主張するような技術的思想が記載されていたとしても、最初の親出願の明細書等に記載されていると当業者が理解できるものは、当該技術的思想に限られるものではなく、技術常識をもってすると、本件発明も記載されているといえる。イ 分割要件の適否は、分割出願の明細書等に記載された事項が最初の親出願及び原出願の明細書等に記載されているか否かによって判断され、分割出願が新たな技術的事項を導入するものでない場合には、当該分割出願は適法なものとして認められるところ、上記明細書等に記載されているか否かの判断においては、記載されている事項そのもののみならず、当業者によって明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項も含めて検討されることになる。本件審決の認定判断は、上記のような判断枠組みに沿ったものである。ウ 本件審決の認定判断に誤りがないことは、最初の親出願の明細書等に、「回転子積層鉄心の上下に磁石挿入孔を実質的に閉塞する上板部材及び下板部材を備える」と記載され(請求項1、段落【0006】、回転子積層鉄心の上下を上板部材)及び下板部材で閉塞する方法は実質的なものでよい、換言すれば、樹脂漏れを起こさないような閉塞方法を達成できる上板部材及び下板部材であればよい旨が記載されていることからも裏付けられる。エ また、本件審決の認定判断中、最初の親出願の明細書等に記載された回転子積層鉄心は、かしめにより積層板を固定した鉄心に限られず、溶接や接着などのかしめ以外の手段により固定されたものも含まれているとした点に誤りがないことは、最初の親出願の明細書の段落【0002】が説明する甲20(特許文献1)の段落【0015】~【0017】及び図6からも裏付けられる。この点、甲20では、板状磁性部材の積層の方法に関して、「例えば抜きかしめ等により固着一体化して積層鉄心3を形成する。」と説明されており(甲20の段落【0013】【0015】【0021】及び【0026】、、 、 )「かしめにより積層板を固定した鉄心」に限定されていない。「例えば抜きかしめ等により固着一体化」の文言から分かるように、甲20は、抜きかしめ以外の固着方法を用いることができることを前提としている。したがって、本件技術常識の存否を論じるまでもなく、最初の親出願の明細書等に記載された回転子積層鉄心がかしめにより積層板を固定した鉄心に限られないとした本件審決の認定判断に誤りはない。上記に関し、かしめに抜きかしめ以外のかしめがあることや、甲20に「抜きかしめ等」と記載されているのみであることは、甲20の「抜きかしめ等」の「等」の文言に「かしめ以外」のものを含むと解釈してはならない理由とならない。甲2の段落【0015】には、「抜きかしめ等」により「固着一体化して積層鉄心3を形成する。」と記載されており、「固着一体化」できる方法として「抜きかしめ」以外の固着方法を用いることができると解釈するのが素直である。この点、乙15(特開2002-247817号公報)の段落【0017】の記載や、乙16(特開2-157395号公報)の段落【0025】の記載においても、「抜きかしめ」と溶接等が並列的に取り扱われている。また、「抜きかしめ」とは、「積層される鋼板の位置決め、及び、固定あるいは保持のための突起を各鋼板の所定位置に形成すること」である(乙12(特開200-231199号公報)、乙13(特開2003-61273号公報)の段落【0】及び図2、乙14(特開2003-235187号公報)の段落【001】。そして、甲55の段落【0019】及び【0020】の記載からは、甲55)において、かしめ部は、「位置決め、及び、固定あるいは保持のための突起」として形成されていることが理解され、甲55に記載された「切り起こしかしめ」「半抜、きかしめ」及び「Vかしめ」は、「抜きかしめ」の一種であるということになる。したがって、「抜きかしめ」とは別の概念として、甲60に記載されたかしめが位置付けられるかのような

(原告の主張)

は、誤りである。なお、「ピンによるかしめ」は、「抜きかしめ」とは回転子積層鉄心の固定方法としては異なるものであって(乙3の段落【0002】、乙6の段落【0031】、乙15の段落【0017】、)「抜きかしめ」に含まれるかしめを「ピンによるかしめ」とひとまとめにして取り扱っている点でも

(原告の主張)

は誤っている。オ なお、本件明細書における特許文献1(甲20)に係る従来技術が、回転子積層鉄心を下型の中に入れた上で上型を載置して、上型と下型とを固定して樹脂を注入するという手法を用いていたのに対し、本件発明は、「上板部材及び下板部材」を積層鉄心の「上下に配置して」樹脂を注入するという手法(サンドイッチのような考え方)を用いているのであり、これらの比較からしても、本件発明の本質的部分(従来技術にみられない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は、「回転子積層鉄心の上下に上板部材及び下板部材を配置し、上板部材及び下板部材とで回転子積層鉄心を上下から押圧して、永久磁石の樹脂封止を行う」点にあるといえる。

(2) 技術常識について

ア 本件技術常識について(ア) 甲21及び23~26についてa 甲21及び23~26における回転子積層鉄心では、固定手段は明記されていないが、「固定」はされているのであるから、各層を構成する回転子は何らかの手段で固定されていることになる。そして、固定手段が明示されていないということは、最初の親出願の出願時に技術常識として知られていた固定手段で固定されているということになる。

(原告の主張)

によると、固定手段が各文献に明示的に記載されていないと何らの認定もしてはならないということになるが、刊行物の記載は当業者の目で検討されることを無視するものであって失当である。b 原告は、甲21、23~28に関し、例えば甲21の出願時には甲20等は公開されていなかったことから本件技術常識の認定には誤りがある旨を主張するが、技術常識の認定は、最初の親出願の出願時である平成17年1月12日当時を基準とし、その当時の当業者の立場(能力)で認定されるから、上記主張は相当でない。c より古い文献を参照しても、甲20、22、27及び28と同様の技術のほか、他の固定方法が昭和40年代から種々知られていたことが分かる(乙1、乙2、甲31)。この点、乙1の4欄9行目~20行目並びに第2図及び第3図には、電磁鉄板を複数積層した回転子鉄心のスリットに充(楔)を挿入して嵌合することや、永久磁石の回転子鉄心への挿入について記載されている。また、最初の親出願の明細書の段落【0004】及び【0005】に基づく

(被告の主張)

を踏まえて本件審決が認定した本件技術常識にいう「かしめ」とは、「抜きかしめ」のことをいうものと解されるから、乙2は、本件技術常識を基礎付けるものである。また、積層鉄心をスポット溶接する方法は古くから知られており(例えば、乙2(特開昭50-122608号公報)の1頁左下欄下から3行目~右下欄2行目に記載されたものがある。、スポット溶接で固定する方法が回転子積層鉄心の固定)方法に適さないなどということはない。(イ) 甲20について前記(1)エのとおり、甲20には、「例えば抜きかしめ等により固着一体化」と記載されており、かしめ以外の固定手段も採用可能なことが明示的に示されている。(ウ) 甲22について甲22の段落【0025】~【0027】及び図5(a)からすると、甲22には、第3実施例として、貫通孔7と永久磁石片12、13との間に生じる隙間18に樹脂を滴下する技術が記載されており、回転子鉄心6の積層鋼板をエポキシ樹脂等の樹脂で強固に固着することが記載されているといえる。なお、樹脂により積層鋼板を固定する技術については、甲28の段落【0017】、乙6の段落【0031】、甲69の段落【0013】にも開示されている。(エ) 甲27及び28についてa 本件審決は、甲27及び28のみに基づいて本件技術常識を認定したものではない。b 原告が主張する甲27の永久磁石(磁石片)の配置に関する記載は、甲27の記載事項についての本件審決の認定に影響を及ぼすものではない。甲28についても、

(原告の主張)

は、甲28の記載事項についての本件審決の認定に影響を及ぼさない。(オ) かしめが固定手段として技術常識となっていたとの

(原告の主張)

についてa 甲64は、複数の永久磁石を挿入する回転子積層鉄心を用いるモータに関する文献ではない。また、甲64の請求項1からして、かしめ(抜きかしめ)に関する発明を記載したものでもない。さらに、甲64の段落【0003】~【0006】には、かしめ方式の問題点を指摘した上で絶縁被膜(接着被膜)を施した電磁鋼板を用い、加熱加圧により積層鉄心を固着することが記載されているから、当業者において、かしめ以外を用いないことが技術常識であると認識することはない。甲28の段落【0017】、乙6の段落【0031】及び乙15の段落【0017】の記載も、原告が主張するような技術常識がないことを示している。b 甲65~68は、永久磁石を挿入するタイプの回転子積層鉄心を対象とするものではない(甲65は、リラクタンスモータに関する文献であり(段落【000】等)、甲66で、溶接部の積層間短絡が問題とされているのは固定子についてであり(段落【0008】、甲67及び68も固定子を対象とするものである(甲6)の段落【0003】、甲68の図1))。。また、そもそも層間短絡による損失の増加は、溶接のみならず、かしめ(抜きかしめ)による固定でも発生するものである(甲68の「5.結論」。かしめ(抜き)かしめ)による積層においても、突起の接触を介して各鉄心片が電気的に接続されるからである(甲68の図3及び図4)。なお、甲68は、あくまで数理的な解析に基づく論文であって、実験データによる裏付けのないものである(「1.緒言」及び「5.結論」)から、溶接の場合の短絡損失がかしめの場合よりも大きくなるという記載を重視すべきではなく、結論として、短絡損失をなくすための方法について、「かしめや溶接を用いずに積層間結束を採用すること」とされていることに着目すべきである。さらに、甲69は、接着剤による積層を用いた発明であり(請求項1)、段落【0】及び【0005】を踏まえると、同【0004】の記載は、従来の接着剤によるかしめ積層がいまだ工業生産の現場で使用できるレベル(実用化レベル)にまでは達していないというのみであり、接着剤によるかしめ積層自体が積層鉄心の固定方法として使用できる余地はないというものではない。(カ) かしめ以外の固定方法についてa 溶接、接着、さらにはかしめによる固定、型内自動結束法(抜きかしめ)等様々な回転子積層鉄心の固定方法が本件特許の出願日前に知られていたことを示す文献は、多数存在する(乙3の請求項1・4及び段落【0002】、乙4の請求項1並びに段落【0015】及び【0025】、乙5の請求項4・5並びに段落【001】【0014】及び【0022】、 、乙6の段落【0030】及び【0031】。)b

(原告の主張)

によっても、乙3に、溶接での固定、ピンを挿入してかしめる方法、型内自動結束法(抜きかしめ)による固定が記載されている事実は揺るがない。乙3の段落【0002】の記載は、型内自動結束法が多用されているというのみで、それが一般的というものではなく、当業者がかしめ以外を用いないというものでもない。また、乙4には、第2実施形態として、あらかじめ溶接をしている態様も記載されている(段落【0017】。そして、乙5の段落【0022】の「外周面を)溶接して一体化しても良い。」との記載から、使用している形態の溶接は理解でき、同【0024】の記載から、回転子5が溶接で固定された後に磁性体45が圧入されることも理解できる(同【0013】及び【0014】も参照)。さらに、乙6において、図3(b)の段階で積層された各電磁鋼板16は溶接溝21で溶接されて(溶接部22が形成され)、固着されているのであり、図3(d)の段階で溶接されるのは側板23のみである。イ 最初の親出願の明細書等における記載等について(ア) 本件審決の認定判断の誤りをいう

(原告の主張)

についてa 単に、技術分野に関する記載が一般的で概括的な記載であるという理由から、最初の親出願の明細書の段落【0001】を明細書に記載された技術的事項の認定の基礎とできないとはいえない。具体的な記載内容からして、同段落は、最初の親出願の明細書等に記載された発明の内容を説明するものである。b 同【0002】について、甲20には、かしめ以外の固定手段も採用可能なことが明示的に示されているから(前記ア(イ)、(1)エ)

(原告の主張)

には理由がない。、c 本件審決は、明細書の記載から認定できる事項(かしめ以外の固定手段)の具体例について、当業者においては溶接や接着を理解できるということを含め、最初の親出願の明細書等に記載された技術的事項を認定しているのであって、単に本件技術常識が存在していることを根拠にそのような認定をしたものではない。d 前記(1)イのように、分割要件の適否は、当業者によって明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項か否かという視点で検討されるものであるから、最初の親出願の明細書の特定の段落(段落【0004】)の課題の記載のみに基づいて分割要件の適否を論じる

(原告の主張)

は、誤っている。e(a) 積層鉄心について、板厚が0.5mm以下のものが技術常識となっていたとはいえない。この点、甲45~48のいずれにも、「0.5mm」という境界値についての記載はなく、板厚0.5mmという具体的かつ特定の数値を所与のものとして、「積層鉄心として板厚が0.5mm以下のものを用いる」ということは記載されていない。また、甲45は固定子を対象とするもので、回転子積層鉄心を対象とするものではなく、甲46~48は、いずれも無方向電磁鋼板の一般的な文献であって、回転子積層鉄心に用いる無方向性電磁鋼板に関する文献ではない(なお、甲の2頁左欄16行目~20行目には、板厚を薄くすることによるデメリットについての言及もある。。)乙5の請求項4及び5、乙7の2頁左下欄5行目~7行目、乙8の第9欄18行目~19行目、乙9の段落【0022】、乙10の段落【0028】、の記載からも、上記技術常識は認められないといえる。その後、平成14年や平成15年に公開された公開特許公報にも、積層鉄心の板厚が0.5mmを超えることは記載されていた(乙17(特開2002-233087号公報)、乙18(特開2003-187号公報)。原告がその主張の根拠とする甲45のように、回転子積層鉄心では)なく固定子の文献まで含めると、例えば、乙22(特開2001-275333号公報)の段落【0027】等や、乙23(特開2001-251828号公報)の請求項1に、板厚が0.5mmを超えるものが記載されている。なお、原告が提出する鑑定意見書(甲60及び61)については、原告の依頼により、原告が提示した偏った資料に基づいて、原告が設定した誘導的な鑑定事項について作成されたものにすぎない。

(b) モータの効率の向上は、出力の向上や、損失(駆動回路損失、鉄損、銅損及

び機械損)の低減という様々な要素を適切に調整しないと達成されないというのが技術的には正しい理解であり(乙11(モータ技術実用ハンドブック編集委員会編「モータ技術実用ハンドブック」(平成23年3月23日頒布)20頁~23頁・4頁~489頁・690頁~693頁。甲52を含むもの。)「絶縁処理した電)、磁鋼板が薄いほど、渦電流損が減り、効率が向上する」という

(原告の主張)

は正しくない。そして、乙11によると、最も高い材料費を占める材料であって安い材料を使用したいという要求が強い電磁鋼板において、薄型化はコスト面から積極的には取りにくい開発方針であって、まずは材質の改善(低鉄損のヨーク材の開発)が開発の中心にあったことも理解される。

(c) 甲57と同時期に公開された乙17の段落【0022】や、その少し後に公

開された乙18には、「厚さ0.3mm~0.7mmの電磁鋼板」という記載があるから、甲57の記載のみに基づき、0.5mm以下の鋼板が一般的であるとはいえない。また、甲58は、変圧器を対象とするもので(乙19。甲58の論文の一部)、これと時期や執筆者や題名を共通にする甲59も、同様に変圧器を対象とするものであるから、本件発明とは関連しない。(イ) 当業者は溶接等を用いることはできないと理解するとの

(原告の主張)

についてa(a) 甲70に記載された鉄心は、当該鉄心に複数の永久磁石を挿入するものではなく、そこに記載された溶接の方法は、回転子積層鉄心の積層固定方法として使用されるものではない。また、原告が問題とする隙間は、甲70の従来技術において生じるもので、甲70では、その隙間を解消することを目的として(段落【00】、請求項1に記載される発明が提案されている。)甲71は、固定子を対象とする文献であり(例えば図1)、回転子積層鉄心を対象とするものでなく、また、接着で鉄心片同士を結合する技術を利用するものである(段落【0004】。そして、隙間についても、結合前にそれが生じることが示さ)れた(同【0005】)上で、それによる問題を解消することを目的として(同【0】、)「カシメ結合すること」を構成に含む発明(請求項1)を提案している。甲72は、表面磁石型(SPM:surface permanent magnetic)モータに関するもので、いわゆる埋込磁石構造とは異なるモータについてのものである。甲73も、回転子積層鉄心とは関係のない技術に関するものである(段落【00】及び【0004】並びに図1)。なお、甲50には、複数の永久磁石を挿入する回転子積層鉄心についての言及はなく、また、従来技術の問題点に鑑み、積層する鉄心抜板間の隙間を極力小さくできて安定した寸法精度を得るようにすること等を目的として(段落【0008】、)発明(請求項1)を提案している。以上のように、甲50、70~73のいずれも、本件発明が対象とする回転子積層鉄心に関するものではない。また、甲50、70及び71では、鉄心片に隙間が生じる現象の発生原因が異なっているほか、いずれにおいても、それぞれの請求項に記載された発明を採用することで隙間の発生も解消するとされているから、当業者においては、鉄心片に隙間が生じる問題は解消されたものと認識することになる。したがって、甲50、70~73に基づき、

(原告の主張)

するような技術常識は認められない。

(b) 甲65の段落【0004】には、溶接が好ましくない旨が記載されているに

すぎない。この点、そもそもモータの効率は、層間短絡が一因となる鉄損だけで決まるわけではなく、駆動回路損失、銅損、機械損との複合的な要因で決まるものである(前記(ア)e(b))から、仮に、側面を縦方向に溶接することが層間短絡電流による効率低下の一因となるとの前提に立っても、その効率低下を補う方法は他にも存在する。なお、仮に、層間短絡電流による効率低下が発生するため当業者においては溶接は行わないのだとすると、層間短絡に伴う損失増加は、溶接だけでなく、かしめ(抜きかしめ)による積層においても生じる問題であるから、当業者は、かしめ(抜きかしめ)による固定も行わないことになり(甲68、乙21)、かしめが固定手段として技術常識となっていた旨の

(原告の主張)

と矛盾する。なお、上板部材及び下板部材で押圧しても鉄心片間の隙間が解消されることはないなどといった

(原告の主張)

は、証拠に基づいておらず、根拠を欠くものである。b 前記a(a)のとおり、甲70に記載された溶接の方法は、回転子積層鉄心の積層固定方法として使用されるものではない。そして、甲70は、鉄心に複数の永久磁石を挿入するものではないので、同磁石の挿入及び樹脂封止が必要とならない。そのため、甲70は「逃げ空間」を議論する前提を欠くものである。甲73及び7についても同様である(甲73も、回転子積層鉄心の発明に関する文献ですらなく、甲75は、鉄心に複数の永久磁石を挿入するものではない。。)したがって、いずれも、永久磁石を樹脂封止する回転子積層鉄心において溶接ビードが発生することの根拠とはならない。なお、乙4についての

(原告の主張)

は、証拠に基づいておらず、根拠を欠くものである。c 例えば、乙1の第3図でピンに該当する充(楔)10a、10bが積層鉄心の両端から突出していないことを踏まえると、乙3及び6について、かしめピンが積層鉄心の両端から突出する構成となるとはいえない。

(3) 原出願の明細書等に記載された発明について

前記(1)及び(2)からして、

(原告の主張)

は、その前提を誤るものである。

2 取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)について

(1)

(原告の主張)

は、実施可能要件の判断枠組みを理解しないものか、実施可能要件とサポート要件とを混同するものである。

(2) 本件明細書の段落【0001】~【0018】について、当業者が実施可能

な程度に明確かつ十分に記載されていることは、明白である。本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載から分かるとおり、本件発明は、①回転子積層鉄心の上下のいずれか一方に磁石挿入孔に樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、②上板部材及び下板部材とで回転子積層鉄心を上下から押圧し、(プランジャで樹脂を注入して)永久磁石の樹脂封止を行って、③磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を磁石挿入孔にのみ注入して固定する、との製造方法を採用する。ここで、「押圧」とは「圧して押え付けること」をいうから、上板部材及び下板部材で回転子積層鉄心を上下から圧して押え付けて樹脂封止を行うことで樹脂を磁石挿入孔にのみ注入することになる。そうすると、請求項の文言上、当業者がその実施をすることについて過度な試行錯誤を強いられるというようなことはない。そして、上記①~③についての実施の具体例は、本件明細書の発明の詳細な説明のうち段落【0011】~【0017】に、その変形例については同【0018】に、それぞれ当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されているところである。したがって、本件発明は、実施可能要件を満たしている。

3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について

(1) 本件審決は、本件明細書の段落【0001】~【0005】及び【0011】

~【0017】の記載を指摘した上で、同【0015】を具体的に摘示して、「発明が解決する課題の一つとして、樹脂を磁石挿入孔30内に注入するときの樹脂漏れを防止すること」という課題を認定したところ、そのような検討方法は、本件明細書全体の記載から課題を認定する手法を採用するものであって相当である。この点、本件明細書の段落【0004】では、従来技術(特許文献1)における「封入樹脂の漏れ」の問題が指摘され、同【0005】で「樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする」と記載されている。そして、同【0013】には、下押圧プレート2による「樹脂漏れの防止」や、下押圧プレート21又は上押圧プレート19にベントを設けることによる「樹脂漏れの防止」、すなわち、かしめ積層とは関係のない「樹脂漏れの防止」の達成手段が記載されている。さらに、同【0015】には、突出するかしめ部が存在する場合には、上押圧プレートに逃げ空間を設けることで、「樹脂漏れの防止」と共に「回転子積層鉄心のかしめ強度の維持」が達成される旨、すなわち、突出するかしめ部と逃げ空間の組合せは、「樹脂漏れの防止」及び「回転子積層鉄心のかしめ強度の維持」という二つの達成手段である旨が記載されている。これらの記載を踏まえても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体に共通している課題(問題意識)は、「樹脂漏れの防止」にあるといえる。

(2) そして、

「樹脂漏れの防止」という明細書全体の共通の課題(問題意識)に鑑みると、当業者は、「発明が解決する課題の一つとして、樹脂を磁石挿入孔30内に注入するときの樹脂漏れを防止する」点を本件発明の課題と認識することができ、この課題が必ずしも「各鉄心片がかしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心」を対象とするものに限られないことを認識できる。なお、その意味では、本件明細書の段落【0005】の「かしめ部を介して」との記載は余事記載ともいえるが、そのような余事記載が存在するという形式的な理由でサポート要件違反があるなどとはいえない。したがって、

(原告の主張)

には理由がない。

(3) 原告は、「樹脂漏れの防止」という課題が解決済みであったなどと主張する

が、サポート要件の判断枠組みからして、課題が公知文献で解決済みであるか否かは考慮要素ではない。

第5 当裁判所の判断

1 本件特許の出願に至るまでの明細書等の記載

(1) 最初の親出願の明細書等の記載

最初の親出願の明細書等(甲3)には、次の記載がある。【請求項1】複数の鉄心片がかしめ部を介してかしめ積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造装置であって、前記磁石挿入孔の樹脂注入時に、前記回転子積層鉄心の上下に前記磁石挿入孔を実質的に閉塞する上板部材及び下板部材を備えると共に、前記上板部材及び前記下板部材のいずれか一方に前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する樹脂ポットを備え、しかも、前記回転子積層鉄心の表面から突出する前記かしめ部が当接する側に位置する前記上板部材又は前記下板部材には、前記かしめ部の逃げ空間が設けられていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造装置。【技術分野】【0001】本発明は、回転子積層鉄心の外側部分に設けられた複数の磁石挿入孔に永久磁石を挿入し、更に、この永久磁石を樹脂によって封止固定する装置及び方法に関する。【背景技術】【0002】例えば、特許文献1に記載されている磁石埋め込み型回転子においては、磁石挿入孔に挿入される永久磁石を、磁石挿入孔内に樹脂を封入して固定することが開示されている。この特許文献1においては、それぞれの磁石挿入孔の半径方向内側位置に更に樹脂注入孔部を設けると共に、磁石挿入孔と樹脂注入孔部とを連通溝部で連通させておき、回転子積層鉄心を上下から上型及び下型で押圧した後、前記樹脂注入孔部から樹脂を所定の圧力によって注入し、磁石挿入孔内の永久磁石を固定するものであった。【0003】【特許文献1】特開2002-34187号公報【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0004】しかしながら、この特許文献1記載の技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう。これを上型又は下型で押圧しながら磁石挿入孔を閉塞しようとすると、前記の突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こす原因となるため、押圧時に非常に大きな荷重をかけて押し潰す必要があった。しかし、この突出したかしめ部を押し潰すための荷重をかけることにより、かしめ部の強度が不安定になったり、設備が大型化する等の問題があった。【0005】本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、各鉄心片がかしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】【0006】前記目的に沿う第1の発明に係る回転子積層鉄心の製造装置は、複数の鉄心片がかしめ部を介してかしめ積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造装置であって、前記磁石挿入孔の樹脂注入時に、前記回転子積層鉄心の上下に前記磁石挿入孔を実質的に閉塞する上板部材及び下板部材を備えると共に、前記上板部材及び前記下板部材のいずれか一方に前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する樹脂ポットを備え、しかも、前記回転子積層鉄心の表面から突出する前記かしめ部が当接する側に位置する前記上板部材又は前記下板部材には、前記かしめ部の逃げ空間が設けられている。【0007】ここで、第1の発明に係る回転子積層鉄心の製造装置において、前記樹脂は熱硬化性樹脂であって、前記上板部材及び前記下板部材にはそれぞれ、これらを加熱する

第1、第2の熱源を備え、更に、前記樹脂ポットの樹脂排出口と前記磁石挿入孔と

の間は樹脂溝によって連結され、かつ、前記上板部材及び前記下板部材のいずれか一方又は双方には、樹脂封入時に前記磁石挿入孔内の空気を外部に逃がすベントが設けられているのが好ましい。【0008】また、第2の発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、複数の鉄心片がかしめ部を介してかしめ積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、熱硬化性樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記熱硬化性樹脂を注入する樹脂ポットを備え、それぞれ加熱源によって加熱された上板部材及び下板部材を配置し、更に、前記回転子積層鉄心の前記かしめ部が突出する側に位置する前記上板部材又は前記下板部材には、前記かしめ部の逃げ空間を形成して、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して樹脂封止する際に、封止される前記熱硬化性樹脂の漏洩を防止している。【発明の効果】【0009】請求項1、2記載の回転子積層鉄心の製造装置、及び請求項3記載の回転子積層鉄心の製造方法においては、磁石挿入孔の樹脂注入時に、回転子積層鉄心の上下に磁石挿入孔を実質的に閉塞する上板部材及び下板部材を備え、回転子積層鉄心の表面から突出するかしめ部が当接する側に位置する上板部材又は下板部材には、かしめ部の逃げ空間が設けられているので、表面から突出したかしめ部が逃げ空間内に入りこみ、これによって上板部材及び下板部材によって回転子積層鉄心を押圧する力を最小にすることができる。また、これによって、設備を小型化することができる。そして、突出したかしめ部に大きな荷重が掛からないので、かしめ部が常時安定したかしめ強度を有する。特に、請求項2記載の回転子積層鉄心の製造装置においては、樹脂は熱硬化性樹脂であって、上板部材及び下板部材にはそれぞれ、これらを加熱する第1、第2の熱源を備え、更に、樹脂ポットの樹脂排出口と磁石挿入孔との間は樹脂溝(ランナー)によって連結され、かつ、上板部材及び下板部材のいずれか一方又は双方には、樹脂封入時に磁石挿入孔内の空気を外部に逃がすベントが設けられているので、余分な樹脂を必要とせず、確実強固に永久磁石を磁石挿入孔に固定することができる。【発明を実施するための最良の形態】・・・【0011】図1~図3に示すように、本発明の一実施の形態に係る回転子積層鉄心の製造装置は、垂直に立設された4本のガイドポスト11の上下両端に配置される上固定台12及び下固定台13と、上固定台12及び下固定台13の中間に配置され、ガイドポスト11に沿って昇降する昇降台14と、上固定材12及び昇降台14にそれぞれ固定される上板部材15及び下板部材16とを有している。上板部材15はバッキングプレート17、上型プレート18及び上押圧プレート1を備え、下板部材16は昇降台14上に載置される下型プレート20及びその上に載置される下押圧プレート21とを有している。下押圧プレート21の中央には回転子積層鉄心22の中央に形成される軸孔23に装着されるガイド芯24を有している。なお、この実施の形態においては、下押圧プレート21とガイド芯24によって回転子積層鉄心22を載置状態で搬送するトレイを形成している。【0012】下固定台13の上部には昇降手段の一例である油圧シリンダ25が設けられ、この油圧シリンダ25によって上部の昇降台14がガイドポスト11に沿って昇降する構造となっている。なお、昇降手段として、エアシリンダ、雌ねじと雄ねじの組み合わせを用いたジャッキ機構、電動シリンダ、トグル機構等も適宜使用できる。バッキングプレート17の中央には開口部28が設けられ、開口部28に対応する上型プレート18及び上押圧プレート19は、複数(この実施の形態では8)の樹脂ポット(シリンダ)29が貫通状態で形成されている。この樹脂ポット29は、図2に示すように回転子積層鉄心22を平面視して、その外周部に形成された8個の磁石挿入孔30の内側位置にある。それぞれの樹脂ポット29内の樹脂を押し出すプランジャ32は共通ベース33に固定され、共通ベース33は上固定台12に固定された油圧シリンダ34によって昇降され、樹脂ポット29内に投入された樹脂を底から排出するようにしている。なお、上型プレート18には第1の熱源(加熱源)の一例である図示しない電熱ヒータが設けられ、樹脂ポット29を約170℃近傍の温度に加熱している。【0013】図2(平面的位置を示すのみ)及び図3に示すように、樹脂ポット29の底部には樹脂ポット29の樹脂排出口と磁石挿入孔30との樹脂の通路となる樹脂溝(ランナー)35が形成されている。この樹脂溝35は回転子積層鉄心22に当接する上押圧プレート19(即ち、上板部材15の底部)に形成されている。一方、回転子積層鉄心22の底部には下板部材16を構成する下押圧プレート21が配置され、磁石挿入孔30からの樹脂漏れを防止している。また、下押圧プレート21には、樹脂封入時に磁石挿入孔30からの空気を逃がす図示しないベントが設けられている。このベントは深さが0.03mm程度の溝からなり、空気は逃がすが樹脂は通過しないようになっており、これを上押圧プレート19に形成することもできる。なお、下板部材16を構成する下型プレート20には第2の熱源(加熱源)の一例である電熱ヒータが設けられて、下型プレート20を約170℃に加熱している。従って、樹脂ポット29から排出された樹脂は樹脂溝35を通過し、磁石挿入孔3内に入り、内部に配置されている永久磁石37の周囲を覆い、それぞれの永久磁石37を磁石挿入孔30に固定する。【0014】回転子積層鉄心22は複数のプレス加工によって形成された複数枚の鉄心片39がかしめ積層されて形成されているが、鉄心片39の形成時にかしめ部(この実施の形態ではV字状かしめ)40、41が形成されている。そして、図3に示す回転子積層鉄心22では最上部の鉄心片39aは下層の鉄心片39のかしめ部40、41のかしめ突起が突出する抜き孔42がそれぞれ形成されているが、この抜き孔42から僅少の範囲で下層の鉄心片39のかしめ部40、41(詳細にはかしめ突起)が突出している。【0015】回転子積層鉄心22の上面を押圧する上板部材15の一部である上押圧プレート1の下面が完全平面である場合、鉄心片39aから突出するかしめ部40、41を押圧することになるので、この上押圧プレート19の底面で、かしめ部40、41が突出する位置に逃げ空間43、44を形成し、突出したかしめ部40、41を上押圧プレート19が押さえつけないようにしている。この逃げ空間は、回転子積層鉄心22のかしめ部が、回転子積層鉄心22の下面から突出する場合には、下押圧プレート21に形成することになる。これによって、上板部材15(具体的には上押圧プレート19)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができる ので、回転子積層鉄心22に形成された磁石挿入孔30を確実に上板部材15及び下板部材16が閉塞できて樹脂漏れを防止でき、更には、突出するかしめ部40、41にもかしめ方向とは逆の荷重がかからないので、回転子積層鉄心22のかしめ強度を維持できる。【0016】続いて、この回転子積層鉄心の製造装置10の動作及びその作用について説明する。上板部材15及び下板部材16をそれぞれ電熱ヒータで加熱した状態で、油圧シリンダ25を作動させて昇降台14を下降させ、かつ油圧シリンダ34を作動させてプランジャ32を上昇させた状態で、下押圧プレート21に搭載された回転子積層鉄心22を下型プレート20の所定位置(例えば、位置決めピン等を介して)に配置する。ここで、回転子積層鉄心22は150~170℃近傍に予め予熱されているのが好ましい。なお、下押圧プレート21とガイド芯24で回転子積層鉄心22の搬送用トレイを構成する。【0017】次に、油圧シリンダ25を上昇させて、下板部材16を押上げ、回転子積層鉄心2を上板部材15と下板部材16とで押圧挟持する。この時、回転子積層鉄心22の表面から突出するかしめ部40、41は、上板部材15に形成された逃げ空間4、44内にすっぽり入りこみ、上板部材15の上押圧プレート19が回転子積層鉄心22の上面に密着することになる。そして、回転子積層鉄心22が上押圧プレート19によってクランプされている状態で、各樹脂ポット29には所定の熱硬化性樹脂のタブレットを投入しておくものとするが、周囲の熱によってこの樹脂は溶解している。次に油圧シリンダ34を下げて、プランジャ32を押し下げ、樹脂ポット29内の樹脂を樹脂溝35を介して磁石挿入孔30内に注入する。なお、樹脂ポット29又はプランジャ32のいずれか一方には、プランジャ32の下降時に樹脂ポット29内に溜まる空気を逃がす図示しないベントを設けることもできる。これによって、磁石挿入孔30内に樹脂が封入され、内部に配置されている永久磁石37が固定される。なお、図示していないが永久磁石37は、磁石挿入孔30内の所定位置に固定されるように周囲に複数の突起が形成されている。【0018】前記実施の形態においては、磁石挿入孔30と樹脂ポット29の平面的位置を完全に相違させて両者を樹脂溝35によって連結するようにしたが、樹脂ポットの一部を磁石挿入孔の一部にラップさせるようにして、樹脂溝を省略することもできる。前記実施の形態においては、樹脂ポット29を上板部材15に配置したが、下板部材16に配置することもできるし、あるいは回転子積層鉄心22をそのトレイごと上下逆にすることもできる。前記実施の形態においては、封止樹脂として熱硬化性樹脂を使用したが熱可塑性樹脂を使用することもできる。また、各樹脂ポット29又は各樹脂溝35の一部又は全部を連結するカル(樹脂溜まり)を設けることもできる。更には、逃げ空間43、44は、回転子積層鉄心22の表面から突出したかしめ部が嵌入できるものであればその形状によって本発明が限定されるものではない。・・・【符号の説明】【0020】:回転子積層鉄心の製造装置、11:ガイドポスト、12:上固定台、13:下固定台、14:昇降台、15:上板部材、16:下板部材、17:バッキングプレート、18:上型プレート、19:上押圧プレート、20:下型プレート、21:下押圧プレート、22:回転子積層鉄心、23:軸孔、24:ガイド芯、25:油圧シリンダ、28:開口部、29:樹脂ポット、30:磁石挿入孔、32:プランジャ、33:共通ベース、34:油圧シリンダ、35:樹脂溝、37:永久磁石、、39a:鉄心片、40、41:かしめ部、42:抜き孔、43、44:逃げ空間【図1】【図2】

(2) 原出願の明細書等の記載

ア 原出願の出願当初の明細書等(甲4)について、特許請求の範囲には、次の記載があり、また、明細書の発明の詳細な説明には、最初の親出願の出願当初の明細書の発明の詳細な説明の記載と同じ事項が記載されている。【請求項1】複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、熱硬化性樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には上下に貫通して形成され前記磁石挿入孔に前記熱硬化性樹脂を注入する樹脂ポットを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記樹脂ポット内の前記熱硬化性樹脂をプランジャで押し出して、前記磁石挿入孔に充填することを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項2】請求項1記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記上板部材及び前記下板部材は加熱源によって加熱されていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項3】請求項1又は2記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記樹脂ポットは、平面視して外周部に配置された前記磁石挿入孔の半径方向内側にあることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項4】請求項1又は2記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記磁石挿入孔と前記樹脂ポットは樹脂溝によって連結されていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項5】請求項1又は2記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記樹脂ポットの一部が前記磁石挿入孔にラップしていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。イ その後、本件特許の実際の出願日である平成23年7月4日時点において、原出願の明細書等のうち、特許請求の範囲及には次の請求項1~5の記載(同日付け補正による補正前のもの)がある。また、明細書の発明の詳細な説明については、段落【0006】及び【0007】が削除され、段落【0008】が次のように補正されたが、同【0004】【0005】及び【0011】~【0019】の記載、は、最初の親出願の明細書に記載されているものと同様(ただし、同【0019】は最初の親出願の明細書の段落【0020】に対応する。)である。(弁論の全趣旨)【請求項1】複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、熱硬化性樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記熱硬化性樹脂を注入する樹脂ポットを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記樹脂ポット内の前記熱硬化性樹脂をプランジャで押し出して、前記磁石挿入孔に充填し、しかも、前記樹脂ポットは該樹脂ポットが形成されている前記上板部材又は前記下板部材を上下に貫通して形成されていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項2】請求項1記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記上板部材及び前記下板部材は加熱源によって加熱されていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項3】請求項1又は2記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記樹脂ポットは、平面視して外周部に配置された前記磁石挿入孔の半径方向内側にあることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項4】請求項1又は2記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記磁石挿入孔と前記樹脂ポットは樹脂溝によって連結されていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【請求項5】請求項1又は2記載の回転子積層鉄心の製造方法において、前記樹脂ポットの一部が前記磁石挿入孔にラップしていることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。【0008】本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、熱硬化性樹脂を前記磁石挿入孔に注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記熱硬化性樹脂を注入する樹脂ポットを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記樹脂ポット内の前記熱硬化性樹脂をプランジャで押し出して、前記磁石挿入孔に充填し、しかも、前記樹脂ポットは該樹脂ポットが形成されている前記上板部材又は前記下板部材を上下に貫通して形成されている。

2 磁石が挿入される回転子積層鉄心における積層の固定方法に関する平成17

年1月12日以前の証拠の記載事項

(1) 乙5の記載事項

ア 平成7年10月13日に公開された乙5は、発明の名称を「圧縮機用電動機の回転子」とする特許出願に係るもので、乙5には、次の記載がある。【0001】【産業上の利用分野】本発明は、圧縮機用電動機の回転子の構造に関するものである。【0008】【発明が解決しようとする課題】・・・【0009】本発明は・・・、回転子鉄心の強度を維持しつつ、運転効率を向上させることができる圧縮機用電動機の回転子を提供することを目的とする。【0010】【課題を解決するための手段】・・・【0013】請求項4の発明の圧縮機用電動機の回転子は、突極構造の回転子鉄心内に磁性体を有するものであって、回転子鉄心は、厚さ寸法0.3mm~0.7mmの回転子用鉄板を複数枚積層し、かしめ、若しくは溶接により固着して構成すると共に、磁性体を挿入した状態で両端面に非磁性材料から成る端面部材を設けた後に全体を貫通するリベット材でかしめて構成し、且つ、回転子鉄心の突極部内にスロットを形成し、このスロット内に磁性体を配設すると共に、前記回転子鉄心の外径を40mm~70mm、前記スロットと突極部側壁間の狭路幅を0.3mm以上.5mm未満としたものである。【0014】請求項5の発明の圧縮機用電動機の回転子は、突極構造の回転子鉄心内に磁性体を有するものであって、回転子鉄心は、貫通孔を穿設した厚さ寸法0.mm~0.7mmの回転子用鉄板を複数枚積層し、かしめ、若しくは溶接により固着して構成すると共に、磁性体を挿入した状態で両端面に非磁性材料から成る端面部材を設けた後、貫通孔に挿通されて全体を貫通するリベット材でかしめて構成し、且つ、回転子鉄心の突極部内にスロットを形成し、このスロット内に磁性体を配設すると共に、回転子鉄心の外径を40mm~70mm、スロットと突極部側壁間の狭路幅を0.3mm以上0.5mm未満としたものである。【0022】図2は、図1に示した回転子5の一部縦断側面図、図3は平面図である(回転軸6に圧入する前の状態)。各図において、26は回転子鉄心であり、厚さ.3mm~0.7mmの電磁鋼板から図4の如き形状に打ち抜いた回転子用鉄板を複数枚積層し、お互いにかしめて一体に積層されている。各回転子用鉄板2・・(判決注:原文ママ)は、かしめによらずに外周面を溶接して一体化しても良い。イ 前記アによると、乙5には、複数枚積層した回転子用鉄板27を、かしめて固着するほか、外周面を溶接して固着して回転子鉄心を構成すること(なお、磁性体はその後に挿入されるものとみられる。)が記載されている。

(2) 甲22の記載事項

ア 平成12年5月12日に公開された甲22は、発明の名称を「永久磁石形モータの回転子およびその製造方法」とする特許出願に係るもので、甲22には、次の記載がある。【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、回転子鉄心に永久磁石を組み込んで構成される永久磁石形モータの回転子およびその製造方法に関する。【0005】一方、回転子3は、積層鋼板からなる回転子鉄心6と、この回転子鉄心6に形成された例えば4個の貫通孔7内に収納された4個の永久磁石8とから構成されている。前記永久磁石8は、図8に示すように、その厚み方向にN極、S極が分布している。また、前記回転子鉄心6の中心部には回転軸9が挿入固定されている。【0016】【発明の実施の形態】以下、本発明の第1実施例を図1乃至図3を参照して説明する。図1において、回転子3は、積層鋼板からなる回転子鉄心6と、この回転子鉄心6に形成された例えば4個の貫通孔7a乃至7dを有し、この貫通孔7a乃至7dに挿入される永久磁石片12、13から構成されている。・・・【0026】・・・(第4実施例)第4実施例を図6を参照して説明する。【0027】図6において、20は例えばエポキシ樹脂等の樹脂21を収納した容器で、この容器20内に永久磁石片が挿入された回転子鉄心6からなる回転子3を浸漬することにより貫通孔と永久磁石片の固着を行うとともに積層鋼板からなる回転子鉄心6も強固に固着する。【0028】このようにすることにより、永久磁石片全面に接着剤を塗布する工程を必要としていた従来に比し、組立工程の大幅な低減が可能となるとともに回転子鉄心に生ずる亀裂を防止でき回転子鉄心が分離するのも防止できるものである。イ 前記アによると、甲22には、永久磁石片8を挿入した積層鋼板からなる回転子鉄心6を、エポキシ樹脂等の樹脂で強固に固着することが記載されている。

(3) 乙3の記載事項

ア 平成12年5月30日に公開された乙3は、発明の名称を「磁石鉄心の製造方法」とする特許出願に係るもので、乙3には、次の記載がある。【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、電磁鋼板を積層してなる鉄心内部に磁石を具備した磁石鉄心の製造方法に関する。【0002】【従来の技術】従来、例えば回転電機用磁石回転子に採用されている磁石鉄心を製造するには、電磁鋼鈑をプレス機械で打ち抜き、これを所定枚数積層して結束される。旧来、その結束のための固着手段としては、電磁鋼鈑の積層後にピンを挿入してかしめたり、溶接などをしていたが、その後、積層後の歪みが少なく積層精度の優れた型内自動結束法が多用されている。この型内自動結束法は、電磁鋼鈑を所定形状に打ち抜くと同時に、例えば上型に設けたポンチ等にて背面側が中空状凹部となす山形状突起を形成し、この山形状突起を位置付けに所定枚数積層した後、加圧することにより各積層間で山形状突起が他の山形突起の凹部内に圧入されて結合し結束する方法である。【0004】【発明が解決しようとする課題】・・・【0011】本発明・・・の目的は、接着剤を用いた磁石鉄心の製造方法において、積層鉄心の強固な結束と、該鉄心と磁石との接着が同時に行えると共にその接着強度が十分で、且つ磁気性能の向上と安定化を図らしめ、生産性に富んだ磁石鉄心の製造方法を提供するにある。【0012】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の磁石鉄心の製造方法は、電磁鋼鈑を積層し磁石を具備してなる磁石鉄心を得るにあたって、フープ材から供給された電磁鋼鈑の面上にフィルム状の接着剤を添設して、この接着剤と電磁鋼鈑を同時に型で所定の鉄心形状に打ち抜いて所定枚数積層し、この積層鉄心に形成された溝に磁石を挿入した後、加熱、加圧することにより各積層間の接着剤を溶融展延させて溝内にも充填し、積層鉄心の結束と磁石の接着を同時に行うことを特徴とする(請求項1の発明)。【0018】また、上記目的を達成するために本発明の磁石鉄心の製造方法は、電磁鋼鈑を積層し磁石を具備してなる磁石鉄心を得るにあたって、フープ材から供給された電磁鋼鈑の面上に液状の接着剤を塗布した後、これを乾燥工程を経て固形化し、この被接着剤電磁鋼鈑を型で所定の鉄心形状に打ち抜いて所定枚数積層し、この積層鉄心に形成された溝に磁石を挿入した後、加熱、加圧することにより各積層間の接着剤を溶融展延させて溝内にも充填し、積層鉄心の結束と磁石の接着を同時に行うことを特徴とする(請求項4の発明)。イ 前記アによると、乙3には、接着剤を添設又は塗布した複数の電磁鋼板からなる積層鉄心に磁石を挿入したものを、加熱、加圧することで接着剤により積層鉄心の結束を行うことが記載されている。

(4) 甲20の記載事項

ア 平成14年1月31日に公開された甲20は、発明の名称を「磁石埋込型回転子」とする特許出願に係るもので、甲20には、次の記載がある。【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、積層鉄心の外周部に設けられた穴部に複数の永久磁石が装着され、回転電機の回転子として機能する磁石埋込型回転子に係り、特に永久磁石を穴部内に固定するための構造に関するものである。【0013】そして、後述する積層鉄心の両端部および永久磁石とそれぞれ対応する位置に、例えば第2の板状磁性部材2を3~4枚程度、残りの位置には第1の板状磁性部材1をそれぞれ配置した組み合わせで積層し、各穴部1aと2a、1bとb、1cと2cをそれぞれ一致させ例えば抜きかしめ等で固着一体化することにより積層鉄心3が構成され、第2の板状磁性部材2が配置された部分には各スリット部2dにより、板厚の3~4倍分の深さおよび径を有する連通溝部4および連通穴部5が形成される。【0014】6は両穴部1a、2aに対をなして嵌挿された永久磁石、7は両軸用穴部1c、2cに嵌合された回転子軸、8は各注入用穴部1b、2bから注入され、連通溝部4および連通穴部5を介して各穴部1a、2aに注入され、各永久磁石6の軸中心側に一部空間を残して装填された熱硬化性樹脂でなる樹脂部材である。 ・・・【0015】次に、上記のように構成される実施の形態1における磁石埋込型回転子の製造方法について説明する。まず、打ち抜き加工により穴部1a、注入用穴部b、軸用穴部1cを有する第1の板状磁性部材1、および穴部2a、注入用穴部b、軸用穴部2c、スリット部2dを有する第2の板状磁性部材2をそれぞれ形成する。次いで、図4に示すように、第2の板状磁性部材2を積層鉄心3の両端部に相当する位置、および各永久磁石6と対応する位置にそれぞれ3~4枚ずつ配置するとともに、残りの部分には第1の板状磁性部材1を配置し、お互いの穴部1a、a、注入用穴部1b、2b、および軸用穴部1c、2cがそれぞれ一致するように積層して、例えば抜きかしめ等により固着一体化して積層鉄心3を形成する。イ 前記アによると、甲20には、複数の板状磁性部材2を積層して、抜きかしめ等で固着一体化して積層鉄心3を構成すること(なお、永久磁石はその後に挿入されるものとみられる。)が記載されている。

(5) 甲27の記載事項

ア 平成14年11月29日に公開された甲27は、発明の名称を「永久磁石埋め込み同期電動機」とする特許出願に係るもので、甲27には、次の記載がある。【0001】【発明の属する技術分野】本発明は永久磁石をロータ内に埋め込んだ、永久磁石埋め込み同期電動機に関し、とくにコイルをステータに集中巻し、永久磁石の磁束を弱める方向に界磁を行い、その運転領域を拡大するようにした同期電動機に関する。【0025】一方、ロ一タ3は、複数枚の電磁鋼板を積層してなるロータコア4の内部にロータ回転軸心と平行に複数の磁石挿入孔4aが設けられており、その中にそれぞれ一対の永久磁石片6-1と6-2を1極分の磁石とする永久磁石6が、周方向に偶数個、等間隔に並べて埋め込まれている。【0066】図7に第6の実施形態を示す。【0067】本実施形態では、電磁鋼板を積層して構成するロータコア4について、それらを互いに溶接により固定する際に、ロータ周方向において、内部に埋め込まれる永久磁石6が最も外周面に接近する部位を溶接部15としている。【0068】溶接部15では、積層された鋼板どうしが電気的に接合された導通状態となるため、この部分に溶接深さと同じ厚さの導電性部材を設置したのと同様の効果が生じる。したがって、前述の実施形態と同様の効果が得られる上、溶接部1はロータ外周上にあり、常に外気と接しているので、ロータ3が回転することでその部分で発生した熱は効果的に冷却され、永久磁石6が高温になるのを抑制できる。イ 前記アによると、甲27には、複数枚の電磁鋼板を積層してなるロータコアに永久磁石6を埋め込んだものにおいて、電磁鋼板を互いに溶接により固定することが記載されている。

(6) 乙6の記載事項

ア 平成14年12月18日に公開された乙6は、発明の名称を「真空ポンプ」とする特許出願に係るもので、乙6には、次の記載がある。【発明の属する技術分野】【0001】本発明は真空ポンプに係り、特に半導体製造工程における真空チャンバ内のガスの排気などに好適に利用できる真空ポンプに関するものである。【0003】【発明が解決しようとする課題】・・・【0009】本発明は・・・、モータロータの発熱が極めて少なく、高温条件下でも安全に駆動することのできるモータを使用して、ポンプ運転の信頼性を向上させた真空ポンプを提供することを目的とする。【0010】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明の1態様は、吸気口と排気口を備え、対向して配置された一対のポンプロータを同期運転させてガスの吸入排気を行う真空ポンプにおいて、前記ポンプロータを駆動するモータは、ステータとモータロータとを備え、前記モータロータの鉄心の内部に永久磁石が配置された永久磁石型モータであることを特徴とする。【0012】本発明の他の1態様は、前記鉄心の内部には、複数の前記永久磁石が、それぞれの磁極面が前記モータロータの半径方向を向くように前記モータロータの回転軸を中心に配置され、前記鉄心は、複数の電磁鋼板が積層されて形成されるとともに、前記鉄心の外周上であって、かつ前記永久磁石の磁極中心から前記半径方向にある位置において溶接されたことを特徴とする。【0021】【発明の実施の形態】・・・【0026】図2及び図3に示すように、本実施形態に使用されるモータMは、鉄心12に永久磁石17が内設された永久磁石型モータである。図2において、主軸bにモータロータ11が直接固着されており、モータロータ11の外周近傍にはステータ13が周設されている。ステータ13にはモータロータ11を取り囲むように磁極歯14が一体形成され、それぞれの磁極歯14には巻線15が巻回されている。【0027】鉄心12は、複数の薄板状の電磁鋼板16が積層固着されて形成され、永久磁石17を挿入するための磁石挿入穴18が4箇所に設けられている。それぞれの磁石挿入穴18は、永久磁石17が挿入されたときに磁極面がモータロータ1の半径方向と垂直になるように、主軸1bを中心に円周等配に形成されている。板状の永久磁石17は、隣接する永久磁石17の表裏面が交互に異磁極となるように、それぞれの磁石挿入穴18に挿入され、接着剤(図示せず)によって固着されている。・・・【0030】図3(b)に示すように、電磁鋼板16に設けられた凹状の切欠き部によって鉄心12の外周面には断面凹状の溶接溝21が形成され、その位置は、上述したように、内設される永久磁石17の磁極中心の半径方向延長線上である。そして、この溶接溝21において溶接されて溶接部22が形成され、積層された各電磁鋼板16が固着される。【0031】この溶接箇所においては、モータ運転時における磁束の変動が極めて少ないので、鉄心12での渦電流の発生は微少であり、その結果、モータロータ1での発熱が少なくなり、モータ効率を向上させることが可能となる。なお、本実施形態では溶接により各電磁鋼板16を固着しているが、例えば、電磁鋼板として接着剤付電磁鋼板を用い、これらを積層した後に加熱して固着する方法などを用いてもよく、あるいは、積層後、鉄心に積層方向に貫通する穴をいくつか設け、この穴にかしめピンを挿入し、ピンをかしめて固着してもよい。イ 前記アによると、乙6には、複数の電磁鋼板16からなる鉄心12の内部に永久磁石17が挿入された永久磁石型モータについて、溶接により各電磁鋼板16が固着されること、固着方法として、接着剤付電磁鋼板を用いて積層後に加熱して固着する方法や積層後にかしめピンを挿入してピンをかしめて固着する方法を用いてもよいことが記載されている。

(7) 乙4の記載事項

ア 平成14年12月20日に公開された乙4は、発明の名称を「永久磁石型モータ」とする特許出願に係るもので、乙4には、次の記載がある。【0001】【発明の属する技術分野】本発明は永久磁石型モータに係り、特に複数の電磁鋼板が積層固着されてなる鉄心に永久磁石が内設されたロータを備える永久磁石型モータに関するものである。【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明は・・・、複数の電磁鋼板にて構成された鉄心において、渦電流の発生を極めて低く抑えることができ、また内部に配置される永久磁石のレイアウトを自由に構成することのできる永久磁石型モータを提供することを目的とする。【0008】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明の1態様は、巻線が装着されたステータと、複数の永久磁石と鉄心により構成されたロータとを備える永久磁石型モータにおいて、前記鉄心の内部には、前記複数の永久磁石が、それぞれの磁極面が前記ロータの半径方向を向くように、前記ロータの回転軸を中心に配置され、前記鉄心は、複数の電磁鋼板が積層されて形成されるとともに、前記鉄心の外周上であって、かつ前記永久磁石の磁極中心から前記半径方向にある位置において溶接されたことを特徴とする。【0012】【発明の実施の形態】・・・【0013】・・・図2(b)に示すように、鉄心5は、渦電流の発生を防ぐために複数の薄板状の電磁鋼板6が積層固着されて形成されている。鉄心5には、複数の平板状の永久磁石7を挿入するための4つの磁石挿入穴8が、主軸9を中心として円周等配に設けられており、それぞれの磁石挿入穴8は、永久磁石7の磁極面がロータ1の半径方向を向くように形成されている。・・・【0014】図2(c)に示すように、それぞれの電極鋼板6の外周縁には溶接用の切欠き部10が形成されている。電磁鋼板6は打ち抜き加工により成形され、電磁鋼板6の内周及び外周と、磁石挿入穴8を形成する穴及び切欠き部10が同時に形成される。図2(b)に示すように、鉄心5の外周面には電磁鋼板6に設けられた切欠き部10により溶接溝11が形成される。この溶接溝11の位置は、磁石挿入口8に配置される永久磁石7の磁極の中心からロータ1の半径方向の延長線上にある位置であり、かつ主軸9と並行に直線状に形成される。本実施形態では、鉄心内に4つの永久磁石7が内設されており、これら4極の磁極数と同数箇所だけ溶接がなされている。【0015】図3に示すように、本実施形態では、ロータ1の両端面には、非磁性の側板12が装着されており、側板12の外周縁には、電磁鋼板6と同一の箇所に、同一形状の切欠き部13が設けられている。本実施形態では、まず、所定枚数の電磁鋼板6を重ねて鉄心5を形成し、この鉄心5の内部に永久磁石7を挿入した後、電磁鋼板6及び側板12を同時に溶接する。このように、鉄心5及び永久磁石7の両端面を側板12で覆うことにより、ロータ1端部は雰囲気に直接さらされることがなくなるため、ごみの付着や錆び、腐食を防止することが可能となる。なお、本実施形態においては、溶接にはTIG溶接を用いているが、これに限らず、本発明と同様の効果を奏する手段であれば他の固着方法を用いてもよい。イ 前記アによると、乙4には、複数の電磁鋼板6からなる鉄心5の内部に永久磁石7を挿入した後、電磁鋼板6を側板12と同時に溶接すること及び同様の効果を奏する手段であれば他の固着方法を用いてもよいことが記載されている。

(8) 甲28の記載事項

ア 平成15年10月24日に公開された甲28は、発明の名称を「回転機用ロータの製造方法」とする特許出願に係るもので、甲28には、次の記載がある。【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、回転機用ロータの製造方法に関し、特に電磁鋼板を積層してロータコアを形成する回転機用ロータの製造方法に関する。【0017】実施例1.図1は本発明により製造される回転機用ロータのロータコアを示した図である。図1に示すように、本発明により製造される回転機用ロータのロータコア22は、円盤状の電磁鋼板24を複数枚積層して作られている。各電磁鋼板24は、高透磁率材料、例えば軟磁性材料等で構成されており、プレス加工等によって中心部に円筒状の軸スロット26が打ち抜かれ、さらに四つの直方体状の磁石スロット28が軸スロット26を囲むように等間隔で打ち抜かれている。プレス加工された電磁鋼板24は、複数枚密着固定してロータコア22が形成される。電磁鋼板24同士の密着固定は、溶接あるいは接着等、用途に応じて自由に選択可能である。【0020】非磁性領域32の形成後、図1の磁石スロット28に、図示しない磁石が挿入、接着され、回転機用ロータが形成される。なお、磁石の挿入は、磁石が熱により減磁することを防ぐため、上記拡散浸透処理後が望ましいが、本実施例はこれに限定されるものではない。また磁石スロット28は直方体に限定されるものではなく、例えば円弧状のものでもよく、また磁石スロット28の配置や数も回転機の用途に応じて適宜選択すればよい。【0021】ブリッジ部間領域に非磁性領域32が形成された際の磁石による磁界形成の概念図を図3に示す。図3に示すとおり、長辺の外周側をN極、内周側をS極とする磁石34を埋設した場合、ブリッジ部間領域、つまり磁石角部周辺のみ非磁性領域32が形成されているため、磁界は主に磁石長辺の垂直方向にのみ発生し、ブリッジ部において回転磁界、つまりロータ回転に無効となる磁界が発生しない。したがって、磁石34の持つ磁界形成のエネルギーが主に回転トルクに寄与する有効な磁界にのみ費やされる。【0025】ロータコア22が形成された後、図1に示すとおり、隣り合う磁石スロット28の角部(ブリッジ部)間領域の表面30(主に電磁鋼板外周側面)に溶接を行う。溶接方法はレーザ溶接等、用途に応じて自由に選択可能である。溶接部分は、図4に示すように、ブリッジ部の外周側面36のみでもよく、また図5に示すように、隣接する磁石スロット間全体の外周側面38に及んでもよい。いずれの場合も溶接部分に歪を生じさせることで溶接部分のみの磁気特性を悪化させ非磁性領域32を形成する。この際、溶接によりロータ外周部に溶接部位が膨らまないように処理を施すことは言うまでもない。溶接による非磁性領域32の形成処理の際、電磁鋼板24の密着固定の効果も期待でき、前述した電磁鋼板24の密着固定処理を削減する、あるいは密着固定処理の補強を行うことも可能となる。イ 前記アによると、甲28には、複数の電磁鋼板24を積層してロータコア2を形成するに当たり、電磁鋼板24同士の密着固定は、溶接あるいは接着等、用途に応じて自由に選択可能であること、ロータコア22の形成後、表面30(主に電磁鋼板外周側面)に溶接(溶接方法はレーザ溶接等、用途に応じて自由に選択可能である。)を行うが、その際、電磁鋼板24の密着固定の効果も期待できることが記載されている。

3 本件明細書の記載及び本件発明の概要

(1) 本件明細書(甲36)には、次の記載がある。

【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は、回転子積層鉄心の外側部分に設けられた複数の磁石挿入孔に永久磁石を挿入し、更に、この永久磁石を樹脂によって封止固定する方法に関する。【背景技術】【0002】例えば、特許文献1に記載されている磁石埋め込み型回転子においては、磁石挿入孔に挿入される永久磁石を、磁石挿入孔内に樹脂を封入して固定することが開示されている。この特許文献1においては、それぞれの磁石挿入孔の半径方向内側位置に更に樹脂注入孔部を設けると共に、磁石挿入孔と樹脂注入孔部とを連通溝部で連通させておき、回転子積層鉄心を上下から上型及び下型で押圧した後、前記樹脂注入孔部から樹脂を所定の圧力によって注入し、磁石挿入孔内の永久磁石を固定するものであった。【先行技術文献】【特許文献】【0003】【特許文献1】特開2002-34187号公報【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0004】しかしながら、この特許文献1記載の技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう。これを上型又は下型で押圧しながら磁石挿入孔を閉塞しようとすると、前記の突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こす原因となるため、押圧時に非常に大きな荷重をかけて押し潰す必要があった。しかし、この突出したかしめ部を押し潰すための荷重をかけることにより、かしめ部の強度が不安定になったり、設備が大型化する等の問題があった。【0005】本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、各鉄心片がかしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】【0006】【0007】【0008】前記目的に沿う本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔にのみ注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記永久磁石の樹脂封止を行う。【発明の効果】【0009】本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法においては、回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には磁石挿入孔に樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、上板部材及び下板部材とで回転子積層鉄心を上下から押圧して、永久磁石の樹脂封止を行うので、永久磁石を磁石挿入孔に固定することができる。【発明を実施するための形態】【0011】続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。図1~図3に示すように、本発明の一実施の形態を適用した回転子積層鉄心の製造装置10は、垂直に立設された4本のガイドポスト11の上下両端に配置される上固定台12及び下固定台13と、上固定台12及び下固定台13の中間に配置され、ガイドポスト11に沿って昇降する昇降台14と、上固定材12及び昇降台14にそれぞれ固定される上板部材15及び下板部材16とを有している。上板部材15はバッキングプレート17、上型プレート18及び上押圧プレート1を備え、下板部材16は昇降台14上に載置される下型プレート20及びその上に載置される下押圧プレート21とを有している。下押圧プレート21の中央には回転子積層鉄心22の中央に形成される軸孔23に装着されるガイド芯24を有している。なお、この実施の形態においては、下押圧プレート21とガイド芯24によって回転子積層鉄心22を載置状態で搬送するトレイを形成している。【0012】下固定台13の上部には昇降手段の一例である油圧シリンダ25が設けられ、この油圧シリンダ25によって上部の昇降台14がガイドポスト11に沿って昇降する構造となっている。なお、昇降手段として、エアシリンダ、雌ねじと雄ねじの組み合わせを用いたジャッキ機構、電動シリンダ、トグル機構等も適宜使用できる。バッキングプレート17の中央には開口部28が設けられ、開口部28に対応する上型プレート18及び上押圧プレート19は、複数(この実施の形態では8)の樹脂ポット(シリンダ)29が貫通状態で形成されている。この樹脂ポット29は、図2に示すように回転子積層鉄心22を平面視して、その外周部に形成された8個の磁石挿入孔30の内側位置にある。それぞれの樹脂ポット29内の樹脂を押し出すプランジャ32は共通ベース33に固定され、共通ベース33は上固定台12に固定された油圧シリンダ34によって昇降され、樹脂ポット29内に投入された樹脂を底から排出するようにしている。なお、上型プレート18には第1の熱源(加熱源)の一例である図示しない電熱ヒータが設けられ、樹脂ポット29を約170℃近傍の温度に加熱している。【0013】図2(平面的位置を示すのみ)及び図3に示すように、樹脂ポット29の底部には樹脂ポット29の樹脂排出口と磁石挿入孔30との樹脂の通路となる樹脂溝(ランナー)35が形成されている。この樹脂溝35は回転子積層鉄心22に当接する上押圧プレート19(即ち、上板部材15の底部)に形成されている。一方、回転子積層鉄心22の底部には下板部材16を構成する下押圧プレート21が配置され、磁石挿入孔30からの樹脂漏れを防止している。また、下押圧プレート21には、樹脂封入時に磁石挿入孔30からの空気を逃がす図示しないベントが設けられている。このベントは深さが0.03mm程度の溝からなり、空気は逃がすが樹脂は通過しないようになっており、これを上押圧プレート19に形成することもできる。なお、下板部材16を構成する下型プレート20には第2の熱源(加熱源)の一例である電熱ヒータが設けられて、下型プレート20を約170℃に加熱している。従って、樹脂ポット29から排出された樹脂は樹脂溝35を通過し、磁石挿入孔3内に入り、内部に配置されている永久磁石37の周囲を覆い、それぞれの永久磁石37を磁石挿入孔30に固定する。【0014】回転子積層鉄心22は複数のプレス加工によって形成された複数枚の鉄心片39がかしめ積層されて形成されているが、鉄心片39の形成時にかしめ部(この実施の形態ではV字状かしめ)40、41が形成されている。そして、図3に示す回転子積層鉄心22では最上部の鉄心片39aは下層の鉄心片39のかしめ部40、41のかしめ突起が突出する抜き孔42がそれぞれ形成されているが、この抜き孔42から僅少の範囲で下層の鉄心片39のかしめ部40、41(詳細にはかしめ突起)が突出している。【0015】回転子積層鉄心22の上面を押圧する上板部材15の一部である上押圧プレート1の下面が完全平面である場合、鉄心片39aから突出するかしめ部40、41を押圧することになるので、この上押圧プレート19の底面で、かしめ部40、41が突出する位置に逃げ空間43、44を形成し、突出したかしめ部40、41を上押圧プレート19が押さえつけないようにしている。この逃げ空間は、回転子積層鉄心22のかしめ部が、回転子積層鉄心22の下面から突出する場合には、下押圧プレート21に形成することになる。これによって、上板部材15(具体的には上押圧プレート19)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができるので、回転子積層鉄心22に形成された磁石挿入孔30を確実に上板部材15及び下板部材16が閉塞できて樹脂漏れを防止でき、更には、突出するかしめ部40、41にもかしめ方向とは逆の荷重がかからないので、回転子積層鉄心22のかしめ強度を維持できる。【0016】続いて、この回転子積層鉄心の製造装置10の動作及びその作用について説明する。上板部材15及び下板部材16をそれぞれ電熱ヒータで加熱した状態で、油圧シリンダ25を作動させて昇降台14を下降させ、かつ油圧シリンダ34を作動させてプランジャ32を上昇させた状態で、下押圧プレート21に搭載された回転子積層鉄心22を下型プレート20の所定位置(例えば、位置決めピン等を介して)に配置する。ここで、回転子積層鉄心22は150~170℃近傍に予め予熱されているのが好ましい。なお、下押圧プレート21とガイド芯24で回転子積層鉄心22の搬送用トレイを構成する。【0017】次に、油圧シリンダ25を上昇させて、下板部材16を押上げ、回転子積層鉄心2を上板部材15と下板部材16とで押圧挟持する。この時、回転子積層鉄心22の表面から突出するかしめ部40、41は、上板部材15に形成された逃げ空間4、44内にすっぽり入りこみ、上板部材15の上押圧プレート19が回転子積層鉄心22の上面に密着することになる。そして、回転子積層鉄心22が上押圧プレート19によってクランプされている状態で、各樹脂ポット29には所定の熱硬化性樹脂のタブレットを投入しておくものとするが、周囲の熱によってこの樹脂は溶解している。次に油圧シリンダ34を下げて、プランジャ32を押し下げ、樹脂ポット29内の樹脂を樹脂溝35を介して磁石挿入孔30内に注入する。なお、樹脂ポット29又はプランジャ32のいずれか一方には、プランジャ32の下降時に樹脂ポット29内に溜まる空気を逃がす図示しないベントを設けることもできる。これによって、磁石挿入孔30内に樹脂が封入され、内部に配置されている永久磁石37が固定される。なお、図示していないが永久磁石37は、磁石挿入孔30内の所定位置に固定されるように周囲に複数の突起が形成されている。【0018】前記実施の形態においては、磁石挿入孔30と樹脂ポット29の平面的位置を完全に相違させて両者を樹脂溝35によって連結するようにしたが、樹脂ポットの一部を磁石挿入孔の一部にラップさせるようにして、樹脂溝を省略することもできる。前記実施の形態においては、樹脂ポット29を上板部材15に配置したが、下板部材16に配置することもできるし、あるいは回転子積層鉄心22をそのトレイごと上下逆にすることもできる。また、各樹脂ポット29又は各樹脂溝35の一部又は全部を連結するカル(樹脂溜まり)を設けることもできる。更には、逃げ空間43、44は、回転子積層鉄心22の表面から突出したかしめ部が嵌入できるものであればその形状によって本発明が限定されるものではない。【符号の説明】【0019】:回転子積層鉄心の製造装置、11:ガイドポスト、12:上固定台、13:下固定台、14:昇降台、15:上板部材、16:下板部材、17:バッキングプレート、18:上型プレート、19:上押圧プレート、20:下型プレート、21:下押圧プレート、22:回転子積層鉄心、23:軸孔、24:ガイド芯、25:油圧シリンダ、28:開口部、29:樹脂ポット、30:磁石挿入孔、32:プランジャ、33:共通ベース、34:油圧シリンダ、35:樹脂溝、37:永久磁石、、39a:鉄心片、40、41:かしめ部、42:抜き孔、43、44:逃げ空間【図1】

(2) 本件発明の概要

前記第2の2の本件特許の特許請求の範囲の記載及び前記(1)で認定した本件明細書の記載からすると、本件発明について、次のとおり認められる。ア 技術分野本件発明は、回転子積層鉄心の外側部分に設けられた複数の磁石挿入孔に永久磁石を挿入し、さらに、この永久磁石を樹脂によって封止固定する方法に関する。(本件明細書の段落【0001】)イ 本件発明の課題(ア) 従来技術として、例えば、甲20に記載されている磁石埋込み型回転子においては、磁石挿入孔に挿入される永久磁石を、磁石挿入孔内に樹脂を封入して固定することが開示されているが、それは、それぞれの磁石挿入孔の半径方向内側位置に更に樹脂注入孔部を設けると共に、磁石挿入孔と樹脂注入孔部とを連通溝部で連通させておき、回転子積層鉄心を上下から上型及び下型で押圧した後、前記樹脂注入孔部から樹脂を所定の圧力によって注入し、磁石挿入孔内の永久磁石を固定するものであった。(同【0002】)しかし、上記技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう。これを上型又は下型で押圧しながら磁石挿入孔を閉塞しようとすると、突出したかしめ部が上型又は下型の押圧面と回転子積層鉄心との間に微小な隙間を生じさせて封止樹脂の漏れを引き起こす原因となるため、押圧時に非常に大きな荷重をかけて押し潰す必要があったが、突出したかしめ部を押し潰すための荷重をかけることにより、かしめ部の強度が不安定になったり、設備が大型化する等の問題があった。(同【0004】)(イ) 本件発明は、各鉄心片がかしめ部を介して積層されている回転子積層鉄心において、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。(同【0005】)ウ 課題を解決するための手段本件発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔にのみ注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法であって、前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記永久磁石の樹脂封止を行う。(同【0008】)エ 本件発明の効果本件発明に係る回転子積層鉄心の製造方法においては、回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には磁石挿入孔に樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、上板部材及び下板部材とで回転子積層鉄心を上下から押圧して、永久磁石の樹脂封止を行うので、永久磁石を磁石挿入孔に固定することができる。(同【0009】)

4 取消事由1(分割要件に関する判断の誤り)について

(1) 最初の親出願の出願時における積層された回転子の固定方法に関する技術常

識についてア 前記2(1)~(8)の各イの甲20、22、27、28、乙3~6の各記載事項を踏まえると、最初の親出願の出願日である平成17年1月12日当時の技術常識として、磁石が挿入される回転子積層鉄心における積層の固定方法は、かしめを用いるものに限られておらず、溶接や接着も選択肢として存在していたことが認められる。なお、本件全証拠をもってしても、上記技術常識について、それが本件特許の実際の出願日である平成23年7月4日までの間に変更されたものとも認められない。イ

(原告の主張)

について(ア) 原告は、甲20の段落【0015】等における「抜きかしめ等」という記載は、「かしめ」以外の固定方法を含むという趣旨ではなく、「抜きかしめ」以外の「かしめ」による固定方法を含むという趣旨であると主張するが、同段落の文言や、甲に係る発明の出願日である平成12年7月13日より前に公開されていた前記

(1)~(3)の甲22並びに乙3及び5の記載事項に照らし、上記「抜きかしめ等」

という記載を

(原告の主張)

するように限定的に解することは相当でない。また、原告は、甲22について、永久磁石片の挿入後に回転子3を樹脂21を収納した容器20内に浸漬していることを指摘して、甲22に開示された技術を最初の親出願の明細書等に記載されている発明に適用することはできないと主張するが、上記主張は、前記アの技術常識の認定を妨げるものではない。さらに、原告が甲27及び28について主張する点も、同じく前記アの技術常識の認定を妨げるものではない。(イ) 原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固定手段としては、かしめが技術常識となっていたと主張するが、原告がその根拠とする証拠(甲64~69)を含め、本件全証拠をもってしても、最初の親出願の出願当時、上記固定手段として、かしめが広く一般的に用いられていたという事情を超えて、かしめ以外の溶接や接着といった固定方法がもはや選択肢となっていなかったといった事情までは認められないから、原告の上記主張は、前記アの技術常識の認定を左右するものではない。上記に関し、原告は、積層鉄心を溶接すると溶接部で短絡することで渦電流が発生し、効率が低下することが技術常識であり、接着にも問題があったから、溶接や接着による固定方法は実用化されていなかった旨を主張する。しかし、溶接により溶接部で短絡することを踏まえた上で、なお溶接が選択肢として検討されていたことは、甲27の段落【0068】(前記2(5))、乙6の段落【0031】(同(6))及び乙4の段落【0007】(同(7))の記載からも認められるところであり、接着についても選択肢として検討されていたことは、甲22(同(2))及び乙3(同(3))のとおりである。さらに、そもそも、仮に、実用化にまで至っていなかったとしても、そのことをもって、直ちに技術としての選択肢から除外されるものでもない。(ウ) 原告のその余の主張は、いずれも前記アの技術常識の認定を左右するものではない。

(2) 最初の親出願の明細書等に記載された発明について

ア 前記1(1)の最初の親出願の明細書等の記載を踏まえると、次のとおり(なお、便宜のため、最初の親出願の明細書等及び原出願の明細書等の記載の共通部分を基礎として検討する。、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載されていた)ものと認められる。(ア) 少なくとも、段落【0005】【0012】【0014】及び【0017】、 、から、最初の親出願の明細書等には、「複数の鉄心片が積層された回転子積層鉄心の複数の磁石挿入孔に挿入する永久磁石を、樹脂を前記磁石挿入孔にのみ注入して固定する回転子積層鉄心の製造方法」に係る発明であることが記載されていると認められる。(イ) 少なくとも、段落【0004】【0011】~【0013】及び【0017】、~【0019】並びに図1及び図2から、最初の親出願の明細書等には、「前記回転子積層鉄心の上下に、いずれか一方には前記磁石挿入孔に前記樹脂を注入する複数の樹脂ポットと該樹脂ポットにそれぞれ対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材を配置し、前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記永久磁石の樹脂封止を行うことを特徴とする」発明が記載されていると認められる。(ウ) そして、最初の親出願の明細書等に、他に前記(ア)及び(イ)の認定を左右するような記載はない。(エ) したがって、本件発明は、最初の親出願の明細書等に記載されていたものと認められる。イ

(原告の主張)

について(ア) 原告は、最初の親出願の明細書等について、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、発明の効果及び実施形態に係る明細書の記載からすると、あくまで、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る技術的事項が導かれるのであって、特に、発明が解決しようとする課題に照らし、かしめ以外の固定手段を用いることは同明細書等には記載されておらず、明細書の段落【0018】に、かしめ部あり構成を前提とした逃げ空間あり構成を必須とする旨の記載があることも考慮すると、同明細書等に記載された発明は、逃げ空間あり構成を必須とするものであるなどと主張する。しかし、最初の親出願の明細書中、発明が解決しようとする課題等において、かしめ部・逃げ空間あり構成に係る事項が特に取り上げられて深く検討されているとしても、そのことから直ちに、最初の親出願の明細書等に記載された発明が上記構成を含むものに限定されるものではない。前記(1)アのとおり、最初の親出願の出願当時、固定手段として溶接や接着も選択肢として存在していたことが認められるのであるから、同明細書等における記載もそれを前提に理解すべきものである。そして、前記ア(ア)及び(イ)のように最初の親出願の明細書に記載されていたといえる本件発明に係る構成や、当該構成における複数の樹脂ポットとそのそれぞれに対応するプランジャとを備えた上板部材及び下板部材による回転子積層鉄心の上下からの押圧並びに樹脂ポット内の樹脂を磁石挿入孔へ注入しての永久磁石の樹脂封止といった機序自体が、かしめ部あり構成であるか、かしめ部なし構成であるかによって影響を受けるものともみられない。そうすると、最初の親出願の明細書等には、①本件発明を含む発明が記載された上で、

②かしめ部あり構成の場合に当該発明を用いる際の問題点等について、逃げ空間あ

り構成などが更に記載されているというべきであって、上記②の記載の存在によって上記①の記載が存在しないものとはいえないところである。(イ) 上記に関し、原告は、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の積層された鉄心片の固定手段として、かしめが技術常識となっていたことから、最初の親出願の明細書等の記載について固定手段を特定の手段に限定するものではないとはいえない旨を主張するが、原告が主張する上記技術常識が認められないことは、前記

(1)イのとおりである。

(ウ) また、原告は、「かしめ積層されていても回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0.mm以下でないもの」(鉄心片の板厚が0.5mm超のもの)について、当業者は通常想定しないなどと主張するところ、かしめ積層された回転子積層鉄心の鉄心片の板厚が0.5mm以下でないものは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまうことをもって、同板厚が0.5mmを超える全てにおいて、直ちに、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出するとはいえないと理解できるものではないとしても、本件全証拠をもってしても、最初の親出願の出願当時、回転子積層鉄心の鉄心片について、板厚0.5mm以下のものが用られる場合が多かったという事情を超えて、板厚0.5mm超のものが選択肢となっていなかったといった事情は認められない。この点、板厚0.5mm超のものを用いる例があったことは、乙5の記載(前記2

(1))やその他の証拠(乙7~10、17、18)からも認められるところである。

さらに、最初の親出願の明細書の段落【0004】には、「この特許文献1記載の技術においては、回転子積層鉄心を形成する各鉄心片がかしめ積層された特に鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いものでは、かしめ部の一部が回転子積層鉄心の上下いずれかの面から少しの範囲で突出してしまう」と記載されており、「鉄心片の板厚が0.5mm以下の薄いもの」が全体の中から特に取り上げられた例であることが明記され、それ以外の場合(鉄心片の板厚が0.5mmを超えるもの)の存在が示唆されているから、仮に、通常は板厚0.5mm以下のものを想定している当業者においても、同段落の記載に接した場合には板厚0.5mm超のものを選択肢として考慮し得るといえる。したがって、原告の上記主張も、前記アの認定を左右するものではない。(エ) 原告のその余の主張は、いずれも前記アの認定を左右するものではない。

(3) 原出願の明細書等に記載された発明について

前記1(2)のとおり、原出願の明細書等には、前記(2)ア(ア)及び(イ)で指摘した各段落の記載がある。そして、同明細書等に、他に同(ア)及び(イ)の認定を左右するような記載はない。したがって、本件発明は、原出願の明細書等に記載されていたものと認められる。

(4) 以上によると、本件特許の出願は、特許法44条2項の規定により、最初の

親出願の出願日である平成17年1月12日にしたものとみなされるから、本件発明は、甲1から新規性がないものとすることができず、取消事由1は認められない。

5 取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)について

(1) 特許法36条4項1号に規定する実施可能要件については、明細書の発明の

詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、特許請求の範囲に記載された発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討すべきところ、前記3(1)の本件明細書の記載からすると、本件明細書の発明の詳細な説明においては、当業者において過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載があると認められる。

(2) 原告は、かしめ部なし構成や逃げ空間なし構成については、本件明細書の発

明の詳細な説明に記載がないから、逃げ空間なし構成において、本件明細書の段落【0005】に記載された課題を解決するための構成は明らかでないなどと主張するが、上記のうち課題の解決についていう部分が実施可能要件ではなくサポート要件に係るものとみられることをおくとしても、前記4(2)イ(ア)~(ウ)で判示した点に照らし、原告の上記主張は採用できない。

(3) よって、取消事由2は認められない。

6 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について

(1) 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許

請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 前記第2の2の本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載を踏まえ、前記

(2)イ及び前記4(2)イ(ア)で指摘した点を考慮すると、本件明細書の段落【000

】に「かしめ部を介して」との記載があるとしても、本件発明の課題の一つは、各鉄心片が積層されている回転子積層鉄心において、樹脂漏れのない磁石挿入孔への永久磁石の樹脂封止が可能な回転子積層鉄心の製造方法を提供すること(本件明細書の段落【0005】参照)と解すべきところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記課題の解決に関し、永久磁石の樹脂封止について、特許請求の範囲の請求項1(前記第2の2)に対応して、「前記上板部材及び前記下板部材とで前記回転子積層鉄心を上下から押圧して、前記各樹脂ポット内の前記樹脂をプランジャで押し出して、前記磁石挿入孔に充填する」(段落【0008】)という構成、換言すると、「磁石挿入孔の樹脂注入時に、回転子積層鉄心の上下に磁石挿入孔を実質的に閉塞する上板部材及び下板部材を備え、樹脂ポットに注入された樹脂は、プランジャによって押されて磁石挿入孔に充填される」という構成を採ること 【0009】(同 )が記載され、「上板部材15(具体的には上押圧プレート19)と下板部材16(具体的には下押圧プレート21)を回転子積層鉄心22の上面及び下面に密接させることができるので、回転子積層鉄心22に形成された磁石挿入孔30を確実に上板部材15及び下板部材16が閉塞できて樹脂漏れを防止でき」ること(同【001】)が記載されているから、当業者は、本件明細書における記載から、本件発明の上記構成を採用することで、上記課題が解決できると認識することができるものと認められる。

(3) 前記(2)の認定と異なり、本件発明の課題について、専らかしめ部あり構成を

前提としたものとして理解すべき旨をいう

(原告の主張)

は、前記4(2)イ(ア)で述べた点に照らし、採用できない。なお、前記(2)に照らし、本件発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないというべき事情もない。

(4) よって、取消事由3は認められない。

第6 結論

以上の次第であるから、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官本 多 知 成裁判官中 島 朋 宏裁判官勝 又 来 未 子

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