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令和3(行ケ)10156審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年9月29日
事件種別 民事
当事者 原告
被告特許庁長官
対象物 発電システム及び発電方法
法令 特許権
特許法36条4項1号1回
キーワード 実施37回
審決15回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は、平成27年9月7日、発明の名称を「発電システム及び発電方法」25 とする発明について、特許出願(特願2015-176188号。以下「本 願」という。)をした(甲6)。 ⑵ 原告は、令和元年5月31日付けの拒絶理由通知(甲7)を受けた後、同 年8月23日付けで、特許請求の範囲及び明細書について手続補正(甲9) をした。

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判決文

令和4年9月29日判決言渡
令和3年(行ケ)第10156号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年7月19日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁理士 岡 崎 廣 志
駒 井 慎 二
10 被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 佐 々 木 芳 枝
小 川 恭 司
青 木 良 憲
熊 谷 健 治
15 冨 澤 美 加
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
20 第1 請求
特許庁が不服2020-3804号事件について令和3年10月22日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
25 ⑴ 原告は、平成27年9月7日、発明の名称を「発電システム及び発電方法」
とする発明について、特許出願(特願2015-176188号。以下「本
願」という。)をした(甲6)。
⑵ 原告は、令和元年5月31日付けの拒絶理由通知(甲7)を受けた後、同
年8月23日付けで、特許請求の範囲及び明細書について手続補正(甲9)
をした。
5 ⑶ 原告は、令和元年11月25日付けの拒絶査定(甲10)を受けたため、
令和2年3月19日、拒絶査定不服審判(不服2020−3804号事件。甲
11)を請求するとともに、明細書について手続補正(甲12)をした。
⑷ 原告は、令和3年4月28日付けの拒絶理由通知(甲1)を受けたため、
同年7月7日付けで、特許請求の範囲及び明細書について手続補正(以下「本
10 件補正」という。甲3)をした。
特許庁は、同年10月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との
審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年11月9日、原告
に送達された。
⑸ 原告は、令和3年12月8日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
15 した。
2 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、
請求項1に係る発明を「本願発明」という。 。

【請求項1】
20 少なくとも下部が液体で満たされた貯液部(100)と、
下部が前記貯液部(100)の前記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上
部に出る様に設置され、上端部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出
し口が設けられた揚水路(200)と、
一定量の圧縮気体(圧力値Pt)を貯蔵する圧縮気体貯蔵タンク(600)
25 と、
前記液取り出し口から、前記揚水路(200)内に揚水された液体を前記所
定の高さ位置より一定距離下方に導出する下方導水路(250)と、
一方が前記下方導水路(250)の下方端部に連結し、他方に前記液体を水
平に送り出す入口を設けるとともに開閉式のゲート(300)が配設された水
平導水路(260)と、
5 下部が前記水平導水路(260)に連通し上部が気体圧縮機(500)に連
結し、少なくとも前記水平導水路(260)との連結部よりも下方に前記液体
を集液可能な、内部が大気圧(圧力値P0(P0<Pt))に維持された集液部
(400)と、
前記気体圧縮機(500)で圧縮された気体を前記圧縮気体貯蔵タンク(6
10 00)へ送出する気体通路(650)と、
前記圧縮気体貯蔵タンク(600)よりの圧縮気体を前記水平導水路(26
0)の前記入口から前記集液部(400)方向に出射する圧縮気体供給路(6
70)と、
一方が前記集液部(400)底部に接続され、他方が前記貯液部(100)
15 の水面下までほぼ垂直に延出するよう配設された導水路(350)と、
前記導水路(350)下部に設けられ、前記導水路(350)を介して前記
貯液部(100)へ落下する液体の落下エネルギーで発電する発電手段(70
0)とを備え、
発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に圧縮した気体を貯蔵する
20 とともに、前記ゲート(300)を閉めて前記揚水路(200)および前記下
方導水路(250)内に前記液体を充填しておき、
発電時に前記ゲート(300)を開けて、前記水平導水路(260)の前記
入口を介して、前記液体と前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されてい
る圧縮気体とが前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出さ
25 れるとともに前記集液部(400)上部から前記気体が前記気体圧縮機(50
0)に供給されて圧縮されることによって、前記下方導水路(250)内の液
体が前記一定距離下方に落下し、該落下に伴って前記揚水路(200)の頂上
部の液体も前記下方導水路(250)に流出して該頂上部が真空域に保たれる
ことで前記揚水路(200)に前記貯液部(100)の液体が揚水され、前記
液体と前記圧縮気体とが循環再使用されることを特徴とする発電システム。
5 3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は、本件補正後の明細書(以下、図面を含めて「本願明細書」とい
う。甲3、12)の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をす
ることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法
10 36条4項1号の規定する要件(以下「実施可能要件」という。)を満たしてい
ないから、本願は拒絶すべきものであるというものである。
4 取消事由
実施可能要件の判断の誤り
第3 当事者の主張
15 1 原告の主張
⑴ 実施可能要件の適合性
ア 本願発明は、
「発電時に前記ゲート(300)を開けて、前記水平導水路
(260)の前記入口を介して、前記液体と前記圧縮気体貯蔵タンク(6
00)に貯蔵されている圧縮気体とが前記水平導水路(260)から前記
20 集液部(400)に射出されるとともに前記集液部(400)上部から前
記気体が前記気体圧縮機(500)に供給されて圧縮されることによって、
前記下方導水路(250)内の液体が前記一定距離下方に落下し、該落下
に伴って前記揚水路(200)の頂上部の液体も前記下方導水路(250)
に流出して該頂上部が真空域に保たれることで前記揚水路(200)に前
25 記貯液部(100)の液体が揚水され、前記液体と前記圧縮気体とが循環
再使用される」という構成を有する発電システムである。
しかるところ、本願発明の発電原理について、本願明細書の記載(【00
27】、
【0040】ないし【0042】、
【0045】、
【0049】 図2等)

から、①本願発明では、発電時、圧縮気体供給路670の出口より集液部
(大気圧室)400へ圧縮気体を射出することで、大気圧室400内にお
5 いて、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押しのけられて、大気圧よ
り低い低圧力空間が生成されること、②下方導水路250を揚水路200
の頂上部の高さから一定距離下方に導出した構成としているため、下方導
水路250内の液体(水)は、その高さに相当する重力落下エネルギーを
保有しているところ、発電時、かかる重力落下エネルギーの作用によって、
10 下方導水路250内の液体はその管内を落下し、水平導水路260を介し
て大気圧室400内の上記生成された空間へ射出されること、③そして、
下方導水路250内の液体の落下により揚水路200の頂上部が真空域
に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路200
に揚水されること、④このように本願発明の発電システムは、重力落下エ
15 ネルギーを保有する下方導水路250内の水が重力落下し、その落下作用
を受けた水平導水路260内の水が大気圧室400内へ射出された後、導
水路350を介して水槽100へ落下するとともに、水槽100の水が揚
水路200へ揚水されることが繰り返される結果、揚水路200から下方
導水路250へ連続的に水が供給され、下方導水路250内の水が水平導
20 水路260内の水とともに連続的に大気圧室400内へ射出されて、水の
循環再使用動作が実現可能となることを理解できる。
したがって、本願明細書の記載から、本願発明の発電システムは、上記
構成に係る動作を行うことができることを理解できるから、本願明細書の
発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる
25 程度に明確かつ十分に記載したものである。
イ この点に関し、本件審決は、本願明細書の記載によれば、①発電時にゲ
ート300を開けると、トリチェリの実験における管の他端に相当する下
方導水路250は、ゲート300によって閉じられている状態から、水平
導水路260を介して集液部400に連通する状態となり、下方導水路2
50は、水平導水路260を介して大気圧に連通し、揚水路200の頂上
5 部は真空域に保たれないため、大気圧を利用して揚水路200に貯液部1
00の液体を揚水することはできない、②ゲート300を開けた時に、圧
縮空気は水柱内に噴射されず、水柱はサイフォンの原理により下方導水管
250の下端にある他端から水槽100の水面にある一端へ(揚水棟20
0へ戻る向き、発電する際の水の流れとは逆向きに)移動することになる
10 から、揚水路に貯液部の液体を揚水したり、液体を循環再使用したりする
ことはできないとして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者
が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したも
のではない旨判断した。
しかしながら、①については、本願発明の発電システムでは、水平導水
15 路260の出口側より大気圧室400へ圧縮気体と液体(水)とが射出さ
れるので、下方導水路250が下部導水路260を介して大気圧に連通す
ることはなく、大気圧室400から揚水路200の頂上部へ空気が逆流す
ることもない。また、本願発明の発電システムでは、圧縮空気の保有エネ
ルギーが、大気圧の気体を押しのけるためのエネルギーよりも大きいため、
20 圧縮空気を大気圧室400へ連続的に供給することによって、大気圧室4
00内の空気を常時押しのけることが可能である。
②について、本願発明は、サイフォンの原理に従う発電システムではな
く、下方導水路250内の水が保有する重力落下エネルギーを発電エネル
ギー源とするものである。また、本願発明は、重力落下エネルギーを保有
25 する下方導水路250内の水が重力落下し、その落下作用を受けた水平導
水路260内の水が大気圧室400内へ射出された後、導水路350を介
して水槽100へ落下するとともに、水槽100の水が揚水路200へ揚
水されることが繰り返される結果、揚水路200から下方導水路250へ
連続的に水が供給され、下方導水路250内の水が水平導水路260内の
水とともに連続的に大気圧室400内へ射出されて、水の循環再使用動作
5 が実現可能となる。
したがって、本件審決の上記判断は誤りである。
⑵ 小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発
明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、
10 実施可能要件に適合する。
したがって、これを否定した本件審決の判断は誤りであるから、本件審決
は違法として取り消されるべきである。
2 被告の主張
⑴ 実施可能要件の適合性の主張に対し
15 ア 原告の主張①について
本願明細書の記載によれば、圧縮空気が射出された大気圧室400の水
平導水路260の出口付近では、もともと大気圧室400にあった大気圧
の空気が押しのけられて大気圧よりも圧力が高い圧縮空気に入れ替わり、
局所的かつ瞬間的に大気圧より高い圧力となることはあり得るとしても、
20 噴射された圧縮空気は、その後大気圧室内に拡散して、次第に均一の圧力
(大気圧程度)になると考えられる。
したがって、大気圧室400内に、水平導水路260の出口側から水の
噴出を可能にするほどの低圧力空間を生成することができるとはいえな
い。
25 イ 原告の主張②について
本願明細書の記載から、下方導水路250内の水は重力落下エネルギー
を有していると同時に、揚水路200内の水も重力落下エネルギーを有し
ていること、揚水路200内の水と下方導水路250内の水は上部導水路
210内の水を介して接続されており、両端が開放されている配管内が液
体で満たされた状態であるから、ゲート300を開いた後の水の挙動は、
5 サイフォンの原理に則した挙動となることが理解される。すなわち、揚水
路200内の水の液槽面(水槽100の液面)と下方導水路250内の水
の液槽面(下方導水路250の下端)にそれぞれ働く液体圧と気圧との合
力を比較して、その力が大きい方から小さい方へ液体は動き出す。そして、
液体を持ち上げる向きを正の向きとして、揚水路200内の水の液槽面
10 (水槽100の液面)に働く気圧(大気圧)と液体圧との合力と、下方導
水路250内の水の液槽面(下方導水路250の下端)に働く気圧と液体
圧との合力を比較したとき、後者の方が大きいから、下方導水路250内
の水が上部導水路210を経由して一旦持ち上がった後、揚水路200に
流れ落ちていく挙動となる。
15 したがって、下方導水路250内の液体はその管内を落下し、水平導水
路260を介して大気圧室400内の上記生成された空間へ射出される
ことはない。
ウ 原告の主張③について
本願明細書の記載によれば、下方導水路250内の水は、一旦持ち上が
20 り上部導水路210を経由して、揚水路200に流れ落ちることで、揚水
路200の頂上部は空気で満たされることになるから、揚水路200の頂
上部が真空域となることはない。また、水槽内の水が大気圧によって水槽
の水面より高い位置に止まるのは、トリチェリの実験のように水柱の一端
がガラス管などによって閉塞されている場合に、水柱による水圧と大気圧
25 とが釣り合うことで発生する現象であるところ、本願発明の水柱は、水槽
100から揚水路200及び上部導水路210を経て下方導水路250
まで連続しており、その先にあるゲート300が開いている場合は、水柱
の一端は閉塞されていないから、下方導水路250の下端にも水平導水路
260内の平均気圧がかかることになり、水柱の一端(揚水路200の下
端)のみに大気圧が働くことにならず、水が大気圧によって水槽の水面よ
5 り高い位置に止まる現象も発生しない。
したがって、下方導水路250内の水の落下によって揚水路200の頂
上部が真空域となり、大気圧下にある貯液部100の水が大気圧によって
揚水路200に揚水されるということはない。なお、水槽100から揚水
路200及び上部導水路210を経て下方導水路250まで連続してい
10 る水柱から、下方導水路250内の水が切り離されて落下することもない。
エ 原告の主張④について
前記アないしウによれば、本願発明の発電システムは、下方導水路25
0内の水が落下し、そこへ揚水路200から水が供給されることが繰り返
されて、下方導水路250内の水が連続的に大気圧室400内へ射出され
15 るという現象を発生させることはできないから、本願明細書の発明の詳細
な説明の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、本願発明の発電シ
ステムにおいて、原告が主張するような水の循環再使用動作が実現可能で
あると理解することはできない。
⑵ 小括
20 以上によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適
合しないとした本件審決の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由は理
由がない。
第4 当裁判所の判断
1 実施可能要件の適合性の有無
25 ⑴ 本願明細書の記載事項
ア 本願明細書(甲3、12)には、次のような記載がある(下記記載中に
引用する図1、2、4及び5については別紙を参照)。
(ア) 【技術分野】
【0001】
本発明は水圧・圧縮空気及び大気圧を利用した発電システム及び発電
5 方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の水力発電は、水車を用いたものが一般的である。この水車を用
いた水力発電の原理は、管水路の途中に水車を設けて水の移動エネルギ
10 ーを水車の回転エネルギーに変換し、更に水車の回転エネルギーを発電
機による電気エネルギーに変える方法である。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、本願発明者が開発し開示したものであっ
て、その具体的な発電方法は図4に示すとおりである。この従来方法は、
15 水路管4底部の圧縮空気の吹出口から上向に移動する圧縮空気の作用に
より水路管4内の大気圧の重さを低下させ、かつ水路2側から水路管4
内への流入水の比重を小さくし、該水路側に作用する大気圧の重さと水
圧とをエネルギーとして作用させ水路管4内の水を高い位置まで押し上
ることによって、貯水管1に海水又は河川水の水を常時流入部から流水
20 しかつ水量調整部3を介して水路の水量を調節しながら、上部の傾斜水
路管へ流入させかつ同時に水路直結の圧縮空気貯蔵部6から圧縮空気を
水路管4へ注入し、更に前記水路管4に流れている水を押し上げて再度
水車直結型の発電機Aに流水する水圧・圧縮空気及び大気圧を利用した
地下水流発電方法である。
25 【0004】
管上部の圧縮空気はブロアーBで吸い上げて再圧縮し、再度水路管4
底部の圧縮空気の吹出口に送るように構成している。
【0005】
又、特許文献2に記載の発明も本願発明者が開発し、開示したもので
あって、図5に示すように、揚水路200内に水を充填させ、上部を気
5 密構造として圧縮空気を貯蔵部320に貯蔵しておき、圧縮空気を圧縮
空気噴出装置350に送って該揚水路200内に噴出し、上向に移動す
る圧縮空気の作用により大気圧の重さを低下させて揚水路200内の水
の比重を小さくし、該揚水路200内に流入する水に作用する大気圧の
重さと水圧とをエネルギーとして作用させ揚水路200内の水を高い位
10 置まで押し上げ、溢れ出た水を落下口270から落下させ、落下させた
水の落下エネルギーを利用して水車直結型の発電機500を駆動すると
共に、揚水路200内を上部に上昇した圧縮空気はブロアーで吸い出す
と共に圧縮空気貯蔵部に送って再利用していた。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】
15 【0007】
しかしながら、特許文献1記載の発明は、管の底部に圧縮空気等を送
り、底部に送られた空気が気泡となって管内を上昇するエネルギー(圧
力差エネルギーを含む。 を利用し、
) 管内を移動する水の移動エネルギー
を利用して水車又はタービンを回動させており、エネルギー効率に不満
20 があった。また、圧縮空気噴出手段の構成も大がかりであった。
【0008】
特許文献2記載の発明も、同様に揚水路200内に圧縮空気を噴出し
(射出し)、上向に移動する圧縮空気の作用により大気圧の重さを低下さ
せて揚水路200内の水の比重を小さくし、揚水した水を落下させて発
25 電していた。このため、特許文献1と同様の解決すべき課題を有してい
た。エネルギー効率を上げるために圧縮空気を蓄積する圧縮空気貯蔵部
を備えていたが、構成が複雑であり、発電効率も満足のいくものではな
かった。
【0009】
更に発電効率が良く、且つ構成も簡略化された発電システム及び発電
5 方法が求められていた。
(ウ) 【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の如き課題を解決するためになされたもので、より発電
効率が良く、発電量も大きくできる水圧・圧縮空気及び大気圧を利用し
10 た発電システム及び発電方法を提供する。
係る課題を解決する一手段として例えば以下の構成を備える。
【0011】
即ち、少なくとも下部が液体で満たされた貯液部と、下部が前記貯液
部の前記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、
15 上端部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた
揚水路と、一定量の圧縮気体(圧力値Pt)を貯蔵する圧縮気体貯蔵タ
ンクと、前記液取り出し口から、前記揚水路内に揚水された液体を前記
所定の高さ位置より一定距離下方に導出する下方導水路と、一方が前記
下方導水路の下方端部に連結し、他方に前記液体を水平に送り出す入口
20 を設けるとともに開閉式のゲートが配設された水平導水路と、下部が前
記水平導水路に連通し上部が気体圧縮機に連結し、少なくとも前記水平
導水路との連結部よりも下方に前記液体を集液可能な、内部が大気圧(圧
力値P0(P0<Pt))に維持された集液部と、前記気体圧縮機で圧縮
された気体を前記圧縮気体貯蔵タンクへ送出する気体通路と、前記圧縮
25 気体貯蔵タンクよりの圧縮気体を前記水平導水路の前記入口から前記集
液部方向に出射する圧縮気体供給路と、一方が前記集液部底部に接続さ
れ、他方が前記貯液部の水面下までほぼ垂直に延出するよう配設された
導水路と、前記導水路下部に設けられ、前記導水路を介して前記貯液部
へ落下する液体の落下エネルギーで発電する発電手段とを備え、発電開
始前に前記圧縮気体貯蔵タンクに圧縮した気体を貯蔵するとともに、前
5 記ゲートを閉めて前記揚水路および前記下方導水路内に前記液体を充填
しておき、発電時に前記ゲートを開けて、前記水平導水路の前記入口を
介して、前記液体と前記圧縮気体貯蔵タンクに貯蔵されている圧縮気体
とが前記水平導水路から前記集液部に射出されるとともに前記集液部上
部から前記気体が前記気体圧縮機に供給されて圧縮されることによって、
10 前記下方導水路内の液体が前記一定距離下方に落下し、該落下に伴って
前記揚水路の頂上部の液体も前記下方導水路に流出して該頂上部が真空
域に保たれることで前記揚水路に前記貯液部の液体が揚水され、前記液
体と前記圧縮気体とが循環再使用されることを特徴とする発電システム
とする。
15 (エ) 【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大気圧の有効利用により揚水した液体を水平導水路
に導き、圧縮気体の射出力を互いに同方向に移動する液体に作用させる
ことが出来、効率よく導水路内の液体を発電水車に供給できる。
20 【0016】
また、使用した圧縮気体を再利用可能としたことにより圧縮電力を抑
えることができ効率の良い発電が可能となる。
(オ) 【発明を実施するための形態】
【0020】
25 以下、図面も参照して本発明に係る一発明の実施の形態例を詳細に説
明する。
本発明に係る一発明の実施の形態例による発電方法は、発電に用いる
液体の供給路内における水圧と、大気圧力と、圧縮気体エネルギーと、
を有効利用した流水発電方法であり、液体の押上げ及び押し上げた液体
の移動に勢いを付与するために使用する圧縮気体と、使用した圧縮気体
5 とが余剰電力によりエネルギーとして事前貯蔵を可能にし、かつ大気圧
を隔離した圧縮気体の循環システムによりエネルギーの再使用を可能に
して効率の良い発電を可能としている。
【0021】
即ち、少なくとも下部が液体、例えば水や海水、汽水、不凍液その他
10 の液体で満たされた貯液部(水槽)と、貯液部の液面下部に沈み、上部が
液面上部に出る様に設置され、上端部近傍の前記液面より所定の高さ位
置に液取り出し口が設けられた気密構造の揚水路(揚水棟)と、一定量
の圧縮気体、例えば大気、安定した特性の窒素等の気体を貯蔵する圧縮
気体貯蔵タンクと、液取り出し口から揚水された液体を一定距離下方に
15 導出する下方導水路と、下方導水路の下降端部に連結し液体を水平に送
り出す入口に開閉式のゲートが配設された水平導水路と、水平導水路に
連通し上部が気体圧縮機に連結し、下部は発電水車に液体を供給する導
水路に連結し、少なくとも水平導水路連結部下方に液体を集液可能な集
液部(大気圧室)と、気体圧縮機で圧縮された気体を貯蔵する圧縮気体
20 貯蔵タンクと、圧縮気体貯蔵タンクよりの圧縮気体を水平導水路の入口
(ゲート下流)から集液部方向に射出する気体出射口を備える圧縮気体
供給路と、集液部底部から発電機に集液した液体を供給するほぼ垂直に
配設された導水路と、導水路下部に設けられ、導水路より落下する液体
の落下エネルギーで発電する発電機とを備えることを特徴とする発電シ
25 ステムとする。
(カ) 【0025】
〔本実施の形態例の地下流水発電の概要〕
現在の水力発電はダム等に水を溜め、山間部で発電することが一般的
であるが、本実施の形態例では、ある程度の容量の水槽や池があれば大
気圧・圧縮空気・水圧を利用して揚水し、水・圧縮空気の循環再使用に
5 より、市街地等の平坦地においても水力発電を行うことができる。
【0026】
原理的には、大気圧0の環境では大気圧作用により水であれば約10
mの高さとなる。そこで、大気圧を利用し真空域として水面上10.0
m程度まで揚水し、揚水した水を圧縮空気も使用して大気圧域へ放出し、
10 その際の落下エネルギーを利用して発電を行なう。
【0027】
大気圧域への放出に使用した圧縮空気は、例えばブロアー(送風機)
で回収し再圧縮再使用可能に構成されている。
【0028】
15 なお、本実施の形態例発電システムでは、圧縮空気製造に必要な電力
については使用圧力値が110KPa~150KPaの低圧力であれば
圧縮空気の製造に大量の電力を必要としないが、水力発電の夜間電力の
一部を使用して製造貯蔵することにより電力消費事情に合わせた発電電
力が得られる。
20 【0029】
本実施の形態例の具体的な発電原理をまとめると以下の通りである。
【0030】
(1)大気圧を利用すると真空域において水は10m程度まで揚水可能
である。
25 (2)圧縮空気を利用する際に、通常の大気圧から圧縮するのではなく、
圧縮された空気を再利用すると、回収再加圧に必要とする電力は大気圧
(空気)からの圧縮に比べて約1/10の電力となる。
【0031】
以上を踏まえて、
(1)大気圧は、水銀柱760mmHg(トリチェリ
の実験)程度である。事前に空気を圧縮し、圧縮した圧縮空気(100
5 KPa~150KPa)を圧縮空気貯蔵タンクに貯蔵(主たる使用目的
のほか、水の蒸発及び凍結防止作用も期待できる。)する。
【0032】
(2)予め揚水棟に必要な高さまで揚水(発電機起動時は外部電力によ
り事前に必要な高さまで揚水)しておく。
10 (3)高圧圧縮機又はブロアーで大気を圧縮する際には電力を消費する。
【0033】
(4)水については循環再使用する。
(5)圧縮空気については上記したように回収再加圧使用し、効率化を
図ることにより圧縮している。
15 (6)発電機1台の発電容量は100kw~10000kwとすること
ができる。本例では水中設置型の水車発電機を使用し、水車一基で10
0kwを発電する仕様とし、10000kwであれば導水路を10本施
設する。
【0034】
20 (7)発電単価は1kwh当り約6円~8円とする(減価償却30年金
利2%で計算した。
(8)発電所建設用地は、発電機一基あたり200m 2~1000m 2 で
あり、例えば都市部における発電専用ビルの活用も考えられる。そのほ
かに例えば、都市空間の利用として学校、公園、スポーツ施設、ビルや
25 駐車場の地下空間の利用、農地(「耕作放棄地」の利用、湾港内の会場発
電所、湖沼の上発電所等場所に限定されず自由に設置できる。
【0035】
以上の仕様に基づく本実施の形態例の発電システムによって、
(1)化
石燃料の使用削減による地球温暖化防止効果、
(2)都市部であっても発
電できるため、発電電力の利用による水素の製造とエコカーの普及推進
5 (水素製造基地内への発電所建設)が実現できる。
【0036】
更に、構造も簡便であるため発電所の建設費用も低く抑えることが可
能である。
(キ) 【0037】
10 〔本実施の形態例の発電機の基本構造例〕
以上を踏まえた本実施の形態例の発電システムの具体的な構成例を図
1を参照して説明する。図1は本実施の形態例の発電システムの基本構
成例を示す図である。
【0038】
15 図1に示す様に本実施の形態例では、常時液体である水が張られた水
槽100と、基部が水槽100の水面下に延出し上面が水面より例えば
7m(メートル)~8mの高さの気密構造の揚水棟200と、揚水棟の
最上部よりほぼ水平に延出する上部導水路210と上部導水路の端部よ
り僅かに下側に延出する下方導水路250と、下方導水路250下部か
20 ら再び水平方向に延出する下部導水路260と下部導水路260入り口
(基部)に設けられた揚水された水を下部導水路260に流すか否かを
制御可能なゲート300とを備える。下方導水路250は、圧縮空気が
揚水棟200に逆流することがないようにする作用を兼ね備えている。
下部導水路260は、水平方向に延出するのが原則であるが僅かに上方
25 に傾斜させることにより、圧縮空気はほぼ必ず大気圧室400に送り出
すことができる。
【0039】
更に、下部導水路260先端部に連通し、下部が下部導水路260よ
り所定距離下面となるように配設され、下部に揚水された水を保持可能
で上部が気密に構成された大気圧室400と、一方が大気圧室400底
5 部に接続され、他方が水槽100の水面下までほぼ垂直に延出する導水
路350と、導水路350下部内の水槽100の水面下付近に配設され
た水車式発電機の発電水車700と、圧縮空気貯蔵タンク600と、大
気圧室400上部から圧縮空気貯蔵タンク600間を連通する圧縮空気
通路650と、圧縮空気通路650途中に配設された空気を圧縮可能な
10 空気圧縮機500と、圧縮空気貯蔵タンク600に貯蔵されている圧縮
空気を下部導水路260内に噴出するための圧縮空気導出管670とを
含む。
【0040】
以上の構成において、本実施の形態例では、揚水棟200を水面より
15 ほぼ7m~8mの高さとし大気圧(100KPa)環境下で揚水棟20
0内を真空状態とすると、大気圧の作用で理論上は約10m(メートル)
の高さまで実現できる計算であるが、確実に揚水できる範囲ということ
で7m~8mの高さとしている。実際には本システムの起動前に不図示
の揚水ポンプで水槽の水を揚水棟200の中全てを満たす様に揚水して
20 揚水棟内を真空域にしている。
【0041】
下方導水路250の断面積に比例して揚水棟200から大気圧室40
0への放流量上限が決まる。或いはゲート300の開口率により放流量
上限が決まる。更に、本実施の形態例では、水・圧縮空気の射出方向の
25 ベクトルを同方向とし、水・圧縮空気の放出力が合体する方式を採用し
ているため、大気圧室400の圧力値の1.3倍から1.5倍程度(圧
縮空気110KPa~130KPa+水圧20KPa)の水圧流水で流
水している。又、大気圧室400の水面は下部導水路260の下部より
低く保つことにより、圧縮空気の揚水棟200側への逆流を防いでいる。
【0042】
5 又、図1の例では、空気圧縮機をコンプレッサではなく、ブロアーを
用い、例えば入口圧力120KPa、出口圧力130KPaとしている。
これは、上部を気密構造とした大気圧室400からの回収空気を再利用
しているためであり、低電力での空気圧縮を実現している。
【0043】
10 以上の発電システムの具体的な構成例としては、揚水棟200を内径
1.0mの円筒形に形成し、下部開口端を水槽100の底面より1.5
mの台上に固定し、水面より上辺までの高さを5.0m~9.0mとす
る。上部導水路210は高さ0.5m、幅1.0mの断面矩形で長さ1.
5mとする。
15 【0044】
下方導水路250を高さ0.5m、幅1.0mの断面矩形で長さ2.
0mとする。ゲート300と大気圧室400間の下部導水路260は高
さ0.3m、幅1.0mの断面矩形で長さ0.3mとする。ゲート30
0は上下動するゲート板を下部に配置したときは閉接状態で、上部に配
20 置したときは開放状態としている。
【0045】
大気圧室400は、長さ3.0m、幅2.0mの断面矩形で、底部の
先端(下部導水路260の開口部の対向位置)中央から内径0.5mの
導水路350が水槽100の水面下まで延出している。圧縮空気を噴出
25 するための圧縮空気導出管670の先端部は、下部導水路260の入口
近傍底部近傍と入口近傍上部近傍にそれぞれ横方向の配設された所定幅
の棒状噴出管構造で、大気圧室400側に所定間隔で孔が配設されてお
り、ここから圧縮空気を大気圧室方向に噴出する構造となっている。こ
の構造を図2に示す。図2において、点線で示す横方向に圧縮空気出射
管を配置し、矢印方向に圧縮空気を射出する射出穴を複数備えている。
5 【0046】
本実施の形態例では、水平方向に流れる水流に対して水の流れる方向
に圧縮空気を噴射することで、効率よく水流を強めることが出来、圧縮
空気の噴射力を効率よく水に与えることができる。更に、この圧縮空気
は大気圧室400に放出されるが、大気圧室400上部から空気圧縮機
10 (ブロア)500に送られる。
【0047】
このため、圧縮された空気を再利用でき、空気圧縮機500で空気を
圧縮する際に大気圧下の空気を圧縮するのに比べ少ない電力で所望の圧
縮空気を得ることができる。圧縮空気圧は、例えば大気圧の10%~3
15 0%増しの110KPa~130KPaとすることが望ましい。これに
より、ごく僅かに圧縮するのみで希望する圧縮空気を得ることができる。
なお、本実施の形態例では、空気圧縮機として、大晃機械工業(株)の
高性能ブロアーを採用している。
【0048】
20 以上の方式で発電システムを構築すると、例えば、発電容量500K
Wの発電システムとする場合、圧縮空気を毎秒1.0m 3 程度下部導水路
260内に上述した構成で噴出すると、毎秒0.7~1.0m 3 の水を送
り出すことができる。この水を導水路350より下方に落下させると約
58.3KWの発電が可能となる。
25 【0049】
大気圧室400に噴き出した圧縮空気は大気圧室上部に設置したブロ
アーにより回収され、再加圧後循環され再使用される。
(ク) 【0050】
以下、具体的に図面を参照して本実施の形態例の発電原理を説明する。
図1は本発明に係る一発明の実施の形態例の発電システムの発電原理
5 を説明するための図である。
【0051】
本実施の形態例の発電システムは、例えば、発電に必要な水を大気圧
と圧縮空気の作用で貯水池の水面より約9メートル上まで押上げるほぼ
円筒状の揚水路200と、揚水路200上部に気密状態を維持するよう
10 に配設された大気圧室400、圧縮空気貯蔵タンク600等からなる圧
縮空気回収・貯蔵機構、大気圧室400の導水路350下部の例えば水
中に設けられた発電機に連結された水車(タービン)700等から構成
され、導水路350からの水の落下エネルギーにより水車700を回転
させて発電を行う。
15 【0052】
以上に説明した本実施の形態例における発電システムは、水槽100
に設置された揚水路200の底辺位置の水圧と大気圧力と圧縮空気エネ
ルギーとを利用した発電方法である。
【0053】
20 揚水棟の揚水を大気圧室に送り出す際に圧縮空気の射出方向と水の流
れる方向を完全に一致させることが出来、水を勢いよく送り出すことが
出来、圧縮空気タンクへの圧縮空気の貯蔵は、余剰電力によるエネルギ
ーとしての事前貯蔵に該当し、発電中においても、大気圧を隔離した圧
縮空気の循環システムによりエネルギーの再使用を可能にした水圧・圧
25 縮空気及び大気圧を利用した発電方法である。
【0054】
また大気圧室400内に射出される圧縮空気を外部に放出させること
なく再利用可能としたことにより、発電の前に圧縮空気を充填させてお
くだけで、少ない電力で発電中の圧縮空気生成を可能とした、水圧・圧
縮空気及び大気圧を利用した発電機構であるから、無尽蔵・無公害・低
5 価格の天然エネルギーを最大限利用した発電システムを提供するもので
ある。
イ 前記アの記載事項によれば、本願明細書には、本願発明に関し、次のよ
うな開示があることが認められる。
(ア) 従来、水力発電の方法として、管の底部に圧縮空気等を送り、底部に
10 送られた空気が気泡となって管内を上昇するエネルギーを利用し、管内
を移動する水の移動エネルギーを利用して水車又はタービンを回動させ
る地下水流発電方法や、同様に揚水路内に圧縮空気を噴出し、上向に移
動する圧縮空気の作用により大気圧の重さを低下させて揚水路内の水の
比重を小さくし、揚水した水を落下させて発電する方法が提案されてい
15 たが、いずれもエネルギー効率に不満があり、圧縮空気噴出手段の構成
も大がかりであり、又は構成が複雑であるという問題があったため、発
電効率が良く、かつ構成も簡略化された発電システム及び発電方法が求
められていた(【0003】ないし【0009】 。

(イ) 「本発明」は、前記問題点を解決し、より発電効率が良く、発電量も
20 大きくできる水圧・圧縮空気及び大気圧を利用した発電システム及び発
電方法を提供することを課題とするものであり、その課題を解決するた
めの手段として、貯液部から液体を揚水する揚水路、揚水された液体を
下方に導出する下方導水路、下方導水路の下方端部に連結し液体を水平
に送り出す水平導水路、水平導水路に連結しその連結部よりも下方に液
25 体を集液可能な集液部を備え、圧縮気体を貯蔵する圧縮気体貯蔵タンク
及び同タンクから圧縮気体を水平導水路の入口から集液部方向に出射す
る圧縮気体供給路を備える構成を採用した (
( 【0010】 0011】 。

【 )
「本発明」によれば、大気圧の有効利用により揚水した液体を水平導
水路に導き、圧縮気体の射出力を互いに同方向に移動する液体に作用さ
せることができ、効率よく導水路内の液体を発電水車に供給することが
5 でき、また、使用した圧縮気体を再利用可能としたことにより圧縮電力
を抑えることができ効率の良い発電が可能となるという効果を奏する
(【0015】 【0016】 。
、 )
⑵ 実施可能要件の適合性の有無
原告は、本願発明の記載によれば、①本願発明では、発電時、圧縮気体供
10 給路670の出口より集液部(大気圧室)400へ圧縮気体を射出すること
で、大気圧室400内において、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押
しのけられて、大気圧より低い低圧力空間が生成されること、②下方導水路
250を揚水路200の頂上部の高さから一定距離下方に導出した構成とし
ているため、下方導水路250内の液体(水)は、その高さに相当する重力
15 落下エネルギーを保有しているところ、発電時、かかる重力落下エネルギー
の作用によって、下方導水路250内の液体はその管内を落下し、水平導水
路260を介して大気圧室400内の上記生成された空間へ射出されること、
③そして、下方導水路250内の液体の落下により揚水路200の頂上部が
真空域に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路2
20 00に揚水されること、④このように本願発明の発電システムは、重力落下
エネルギーを保有する下方導水路250内の水が重力落下し、その落下作用
を受けた水平導水路260内の水が大気圧室400内へ射出された後、導水
路350を介して水槽100へ落下するとともに、水槽100の水が揚水路
200へ揚水されることが繰り返される結果、揚水路200から下方導水路
25 250へ連続的に水が供給され、下方導水路250内の水が水平導水路26
0内の水とともに連続的に大気圧室400内へ射出されて、水の循環再使用
動作が実現可能となることを理解できるから、本願明細書の発明の詳細な説
明の記載は、実施可能要件に適合する旨主張する。
しかしながら、原告の主張は、以下のとおり理由がない。
ア 「下方導水路250内の液体がその管内を落下し、その落下により揚水
5 路200の頂上部が真空域に保たれ、その結果、大気圧によって貯液部1
00の液体が揚水路200に揚水される」との点について
(ア) 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には、
「少なくとも下部が液
体で満たされた貯液部(100)と、下部が前記貯液部(100)の前
記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、上端
10 部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた揚
水路(200)と」 「発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600)

に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前
記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充
填しておき、発電時に前記ゲート(300)を開けて」との記載がある。
15 また、本願明細書には、
「本システムの起動前に不図示の揚水ポンプで水
槽の水を揚水棟200の中全てを満たす様に揚水して揚水棟内を真空
域にしている」との記載(【0040】)がある。
これらの記載によれば、本願発明において、発電の開始前には、揚水
路200等に存在する液体(以下では、
「液体」は「水」であるとする。)
20 は、「一端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、
(実施例【0038】では上部導水路210を介し)下方導水路250
を経て、
「他端」はゲート300まで存在しており、揚水路200等は水
で満たされていることが理解できる。また、本願明細書の「大気圧室4
00の水面は下部導水路260の下部より低く保つ」との記載 【004

25 1】)から、上記水の「一端」を上流側、「他端」を下流側とすると、ゲ
ート300よりも下流側の管内には水が存在しないことが理解できる。
(イ) 前記(ア)を踏まえ、ゲート300を開けたときの前記(ア)の水(「一
端」が貯液部100の水面下にあり、そこから、揚水路200、
(上部導
水路210を介し)下方導水路250を経て、
「他端」がゲート300ま
で存在する水)の挙動を検討する。
5 揚水路200内にある水と下方導水路250内にある水は、その上部
が(実施例(【0038】)では、上部導水路210内の水を介して)つ
ながっている。
そして、乙2に示されている考え方(被告はこれを「サイフォンの原
理」として説明し、原告もその説明を争っていない。)によれば、揚水路
10 200の下部が存する貯液部100の水面(図1の水槽100の水面)
には、大気圧(その圧力を「A」とする。)と貯液部100の水面から揚
水路200の頂部まで存在する水の圧力(水の重さによる圧力。その圧
力を「B」とする。)がかかる。他方、下方導水路250の下端には、水
平導水路260内の平均気圧(その圧力を「C」とする。)と下方導水路
15 250の下端から頂部までに存在する水の圧力(水の重さによる圧力。
その圧力を「D」とする。)が働く。
ここで、本願発明では、
「発電時に前記ゲート(300)を開け」た際
に、
「前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体」が
「前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出される」
20 ため、水平導水路260内の平均気圧(C)は大気圧(A)より大きく
なる(C>A)。また、水による圧力については、貯液部100の水面か
ら揚水路200の頂部までの長さの方が下方導水路250の下端から頂
部までの長さよりも長いから、貯液部100の水面から揚水路200の
頂部まで存在する水の圧力の方が大きくなる(B>D)。
25 そうすると、水を持ち上げる向きを正の向きとして、揚水路200の
下部が存する貯液部100の水面に働く圧力(A-B)と、下方導水路
250の下端に働く圧力(C-D)とを比較すると、後者の方が大きい
から、ゲート300を開けると、下方導水路250内の水は、一旦上方
に持ち上がった後、揚水路200に流れ落ちていくものと考えられる。
なお、ゲート300を開けた際に、水平導水路260及び大気室40
5 0から空気が下方導水路250内に入り込むと、下方導水路250内の
ゲート300付近にあった水が水平導水路260側へ落下することがあ
り得るが、これは、入り込んだ上記空気と上記水が入れ替わることによ
って生じる現象であって、このことによって、下方導水路250や揚水
路200に真空域が生じることはなく、貯液部100から揚水路200
10 に向かって水が引き揚げられるといった現象も生じないものと理解され
る。
したがって、本願明細書の記載から、原告が主張する「発電時に、重
力落下エネルギーの作用によって下方導水路250内の液体がその管内
を落下し、その落下により揚水路200の頂上部が真空域に保たれ、そ
15 の結果、大気圧によって貯液部100の液体が揚水路200に揚水され
る」ことが起こることを理解することはできない。
イ 「大気圧室400内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」
との点について
原告は、本願発明では発電時、圧縮気体供給路670の出口より集液部
20 (大気圧室)400へ圧縮気体を射出することで、大気圧室400内にお
いて、その圧縮気体の体積分の大気圧の気体が押しのけられて、大気圧よ
り低い低圧力空間が生成されると主張し、更にその説明として、圧縮空気
の保有エネルギーが、大気圧の気体を押しのけるためのエネルギーよりも
大きいため、圧縮空気を大気圧室400へ連続的に供給することによって、
25 大気圧室400内の空気を常時押しのけることが可能となる旨主張する。
しかしながら、本願明細書には、大気圧より高い圧力を有する圧縮気体
を大気圧に維持された空間に放出することによって、当該空間に大気圧よ
り低い低圧力空間が形成されることについての記載はなく、また、これを
裏付ける技術常識についての立証もない。
さらに、前記アのとおり、ゲート300を開けた場合、下方導水路25
5 0内の液体は、水平導水路260の方向に流れないものと考えられるとこ
ろ、原告が主張する大気圧室400内の低圧力空間が、下方導水路250
内の液体を、水平導水路260を通って大気室400の方向に引き出すほ
どの力を生じさせることを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、本願明細書の記載から、原告が主張する「大気圧室400
10 内において大気圧より低い低圧力空間が生成される」ことを理解すること
はできず、さらに、その低圧力空間の作用によって下方導水路250内の
液体がその管内を落下することが生じるものと理解することもできない。
2 小括
以上によれば、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施
15 をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められな
いから、実施可能要件に適合するものと認められない。
したがって、これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから、原告主張の取
消事由は理由がない。
第5 結論
20 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれを取り消
すべき違法は認められない。
したがって、原告の請求は棄却されるべきものであるから、主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 小 川 卓 逸
裁判官 遠 山 敦 士
(別紙)
【図1】

【図2】
【図4】


【図5】

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