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令和4(ネ)10044著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年11月2日
事件種別 民事
当事者 被控訴人株式会社TOKAIコミュニケーションズ
法令 著作権
著作権法32条1項1回
キーワード 侵害76回
損害賠償8回
許諾3回
主文 1 原判決中、控訴人X1 の被控訴人に対する請求を棄却した部分を
2 被控訴人は、控訴人X1 に対し、令和2年6月30日0時56分
35秒及び同年8月16日16時49分52秒において、被控訴人
3 控訴人X1 の当審における拡張請求を棄却する。
4 控訴人X2の控訴を棄却する。
5 控訴人X2の当審における拡張請求を棄却する。
6 訴訟費用は、控訴人X1 と被控訴人との間で生じたものは、第1、
2審とも被控訴人の負担とし、控訴人X2と被控訴人との間に生じ
事件の概要 1 事案の概要 本件は、氏名不詳者により、ツイッター(インターネットを利用してツイートと 呼ばれるメッセージ等を投稿することができるサービス)において、原判決別紙投 稿記事目録記載1及び2の各記事(同別紙記載3の本件投稿画像1又は2を含む。) が投稿されたことにより、本件投稿画像1又は2に含まれる原判決別紙控訴人画像 目録記載2の本件控訴人プロフィール画像に係る控訴人X1 の著作権及び控訴人 X2の原著作者の権利が侵害されたこと並びに控訴人X1 の名誉権が侵害された ことが明らかであると主張して、控訴人らが、経由プロバイダである被控訴人に対 し、令和3年法律第27号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任 の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。) 4条1項に基づき、別紙IPアドレス目録記載の日時頃の発信元IPアドレスに割 り当てられていた発信者情報の開示を求める事案である。

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判決文

令和4年11月2日判決言渡
令和4年(ネ)第10044号 著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第6266号)
口頭弁論終結日 令和4年9月5日
判 決
控訴人(一審原告) X1
(以下「控訴人X1」という。)
同所
控訴人(一審原告) X2
(以下「控訴人X2」といい、控訴人
X1と併せて「控訴人ら」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 齋 藤 理 央
被控訴人(一審被告) 株式会社TOKAIコミュニケーションズ
同訴訟代理人弁護士 松 尾 栄 蔵
村 上 諭 志
溝 端 俊 介
主 文
1 原判決中、控訴人X1 の被控訴人に対する請求を棄却した部分を
取り消す。
2 被控訴人は、控訴人X1 に対し、令和2年6月30日0時56分
35秒及び同年8月16日16時49分52秒において、被控訴人
から、(IPアドレス省略) のIPアドレスが割り当て
られていた契約者に係る氏名(名称)、住所、メールアドレス及び
電話番号を開示せよ。
3 控訴人X1 の当審における拡張請求を棄却する。
4 控訴人X2の控訴を棄却する。
5 控訴人X2の当審における拡張請求を棄却する。
6 訴訟費用は、控訴人X1 と被控訴人との間で生じたものは、第1、
2審とも被控訴人の負担とし、控訴人X2と被控訴人との間に生じ
た当審における訴訟費用は全て控訴人X2の負担とする。
事 実 及 び 理 由
用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従い、原
判決に「原告」とあるのを「控訴人」 「被告TOKAI」
と、 とあるのを「被控訴人」
と適宜読み替える。また、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」と改
める。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人らに対し、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報を開
示せよ(控訴人らは、原審において別紙IPアドレス目録記載の日時頃、同目録記
載の発信元IPアドレスに割り当てられていた契約者に関する情報(氏名(名称)、
住所、電話番号及びメールアドレス)の開示を求めていたが、当審において開示を
求める対象を別紙発信者情報目録のとおり変更した。)。
3 訴訟費用は第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、氏名不詳者により、ツイッター(インターネットを利用してツイートと
呼ばれるメッセージ等を投稿することができるサービス)において、原判決別紙投
稿記事目録記載1及び2の各記事(同別紙記載3の本件投稿画像1又は2を含む。)
が投稿されたことにより、本件投稿画像1又は2に含まれる原判決別紙控訴人画像
目録記載2の本件控訴人プロフィール画像に係る控訴人X1 の著作権及び控訴人
X2の原著作者の権利が侵害されたこと並びに控訴人X1 の名誉権が侵害された
ことが明らかであると主張して、控訴人らが、経由プロバイダである被控訴人に対
し、令和3年法律第27号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任
の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)
4条1項に基づき、別紙IPアドレス目録記載の日時頃の発信元IPアドレスに割
り当てられていた発信者情報の開示を求める事案である。
原判決は、被控訴人はプロバイダ責任制限法4条1項所定の「開示関係役務提供
者」に当たらないとして控訴人らの請求を棄却し、控訴人らが、原判決に不服があ
るとして、控訴を提起し、当審において、別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本
件発信者情報」という。)の開示を求めるものへと請求を拡張した。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後
記3のとおり当審における当事者の補充主張及び追加主張を加えるほかは、原判決
の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の2及び3並びに「第3 争点に
関する当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁4行目の「被告らは、いずれも」を「被控訴人は、」と改め、同
頁13行目の「本件原告画像」の次に「を正方形にトリミングしたもの(甲2)」
を挿入する。
(2) 原判決3頁25行目の「前者を」を「その投稿画像部分を含め、前者を」と
改める。
(3) 原判決4頁12行目から14行目までを次のとおり改める。
「 (4) 被控訴人による発信者情報の保有
被控訴人は、本件発信者情報のうち、別紙IPアドレス目録記載の各日時におい
て、同目録記載の発信元IPアドレスが割り当てられていた契約者に係る氏名(名
称)、住所、メールアドレス及び電話番号の情報を保有している。」
(4) 原判決4頁21行目の「被告ら」を「被控訴人」と改める。
(5) 原判決5頁10行目の「前記前提事実(2)イ」を「前記前提事実(2)ア」と改
める。
(6) 原判決6頁8行目及び24行目並びに7頁1行目の「画像」を削り、6頁2
5行目の「当該画像」を「その画像」と改める。
(7) 原判決8頁1行目から3行目までを、「控訴人らは、本件各ツイートの投稿
者に対し、本件控訴人プロフィール画像を含むツイートを投稿することについて、
許諾していない。」と改める。
(8) 原判決9頁26行目の「スクリーンショット画像」 「スクリーンショット」

と改める。
(9) 原判決12頁1~2行目の「同ツイートをスクリーンショットに撮影して」
を「同ツイートのスクリーンショットを撮影して」と改める。
(10) 原判決13頁17行目の「公共性」を「公益性」と改める。
(11) 原判決15頁22行目から16頁1行目までを削る。
(12) 原判決16頁6行目から8行目までの「特定電気通信役務提供者の損害賠
償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定め
る省令」の前に「令和4年総務省令第39号による廃止前の」を加える。
(13) 原判決17頁4行目冒頭から18頁12行目末尾まで及び同頁16行目の
「また、」から同頁20行目末尾までを削り、同頁13行目の「(4)」を「(2)」と、
同頁23行目、24行目及び26行目の「被告ら」を「被控訴人」とそれぞれ改め、
同行目の「いずれも」を削る。
(14) 原判決20頁9行目及び10~11行目の「令和(2020)年」を「令和
2(2020)年」とそれぞれ改める。
(15) 原判決21頁5行目から26行目までを削る。
(16) 原判決22頁1行目の「被告ら」を「被控訴人」と改め、同頁20行目冒頭
から23頁13行目末尾まで及び同頁15行目の「、被告らは」から同頁16行目
の「それぞれ」までを削り、同頁14行目の「本件ツイート1」を「本件各ツイー
ト」と改める。
(17) 原判決24頁11行目冒頭から25頁19行目末尾までを削り、同頁20
行目冒頭の「エ」を「イ」と改め、同行目の「前記アないしウの」及び同頁21行
目冒頭から同頁22行目末尾までを削る。
(18) 原判決25頁26行目及び26頁2行目の「被告ら」を「被控訴人」とそれ
ぞれ改める。
3 当審における当事者の補充主張及び追加主張
(1) 控訴人らの主張
ア 争点1(控訴人らの権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(ア) 本件ツイート1は、控訴人X1 が、ツイッターの機能を利用して送受信され
たダイレクトメッセージ(以下「DM」という。)を捏造して、ツイートとして投稿
したとの事実を摘示するものであるが、DMを捏造して投稿することは社会一般で
許容されない卑怯な行為に当たるから、本件ツイート1の内容は、控訴人X1 の
社会的評価を低下させるものであり、本件ツイート1の投稿は、控訴人X1 の名
誉を毀損する。なお、上記事実は真実ではなく、違法性阻却事由はうかがえない。
そして、このような誹謗目的での投稿に控訴人らの著作物を無断転用する行為は、
公正な慣行に合致せず、また、正当な引用の目的をもって利用されたとはいえない
から、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用が、控訴人らの
著作権を侵害することは明らかである。
(イ) 本件ツイート2は、控訴人X1 が、他者のツイートの文章を改ざんして、他
者のツイートや DM を捏造し、事実とは異なる内容のツイートをしているとの事実
を摘示するもので、他者のツイートや DM を捏造して投稿することは社会一般で許
容されない卑怯な行為に当たるから、本件ツイート2の内容は、控訴人X1 の社
会的評価を低下させるものであり、本件ツイート2の投稿は、控訴人X1 の名誉
を毀損する。本件ツイート2の内容は事実無根であって真実性の要件を欠き、公益
目的もないから、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は皆無である。
そして、本件ツイート1の場合と同様に、本件ツイート2における本件控訴人プ
ロフィール画像の利用が、控訴人らの著作権を侵害することも明らかである。
(ウ) なお、本件ツイート2に連なるスレッドの最後の投稿に付された画像をみる
と、本件ツイート1に付された画像とトリミングやスクリーンショットの内容など
全く同一であるから、両ツイートの投稿者が同一人であることは明らかである。
イ 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する
か)について
(ア) 発信者情報開示請求において、開示情報の範囲を限定的に解すると、被害者に
おいて本来審理を望んでいない表現まで判断の俎上に上げることを余儀なくされ、
裁判所もこれに応じて本来違法性を宣明すべき範囲を超えて違法性を宣明せざるを
得なくなる場合があり、結果的に表現の自由に対する萎縮効果を過度に生じさせる
こととなる。開示情報の範囲をいたずらに狭めることは表現の自由の保護につなが
るものではなく、過度な開示範囲の限定は、かえって、表現の自由にとって害悪と
なる危険性がある。
そこで、投稿者とログイン者が同一人物と推認されれば、ログイン時の情報は広
く開示対象となると解すべきである。
(イ) 被控訴人は、本訴訟に顕出しているだけでも少なくとも約20万個のIPア
ドレスを保有し、契約者に貸し出している。この20万個以上のIPアドレスにお
いて、偶然同じツイッターアカウントを共有している人物に、偶然同じIPアドレ
スが割り当てられ、それぞれ別にログインしている可能性は殆どゼロである。
そうすると、①令和2年6月30日0時56分35秒を始期とし、②同年8月1
6日16時49分52秒を終期とする期間内に「発信元IPアドレス(IPアドレ
ス省略) 」を割り得てられていた「契約者」と、同期間、同IPアド
レスで本件アカウントに98回ログインしていた者が同一人物であることは明らか
であり(甲40、73、74、80) 控訴人らは当該同一の人物
、 (被控訴人契約者)
の氏名、住所、電話番号、メールアドレスという一つの単一の発信者情報の開示を
求めている。控訴人らは、この点を明らかにするために、本件において開示を求め
る発信者情報を、別紙発信者情報目録記載のとおりに改めた。
上記が同一人物であることについては、投稿内容が一貫していることに加え、被
控訴人が、当該事実についての回答を拒否し、別人の関与の可能性があることにつ
いて積極的な主張立証をしていないこと、被控訴人が、本件ツイート2について、
投稿から1年以上が経過した本訴訟の手続中に投稿者に対する照会をしたにもかか
わらず、その結果を提出していないこと(なお、本件ツイート1についての照会結
果のみ提出している。乙6)からもうかがえる。
(ウ) 近年、ログイン時の情報も発信者情報に含まれるとする裁判例がほとんどで
あり、その中でも、①投稿の直前のログインなど侵害情報の送信と通信に密接な(客
観的な)関連性があるログインに限られるとするもの、②投稿者とログイン者が同
一人物と推認されれば足るとするもの、③投稿とログインに時間的近接性を求める
ものがあるが、「ツイッターへログインした者と投稿者の同一性が認定できる場合
には、当該ログインに係る情報を発信者情報と解することは妨げない」
(東京高裁令
和3年9月30日判決。甲71)とする判示によれば、本件発信者情報がプロバイ
ダ責任制限法4条1項の「発信者情報」に該当するのは明らかである。
(エ) 令和3年法律第27号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責
任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和4年10月1日施行。以下「令
和4年改正法」という。甲82)に対応する特定電気通信役務提供者の損害賠償責
任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年総務省令第39号。
以下「令和4年総務省規則」という。甲83)においても、投稿の前提となったロ
グインに限って開示が認められる(すなわち前記(ウ)①)とする限定的な規定を採用
するものではないことが宣明されている。
令和4年総務省規則の制定に先立ち、総務省は、同年3月、投稿の前提となった
ログインに限って開示が認められるとする趣旨の総務省規則案(特定電気通信役務
提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則案。甲8
4)を公表していたが、パブリックコメントにより、東京高裁平成30年6月13
日判決(判時2418号3頁。甲25)などを念頭とした裁判実務に比し、被害者
救済を後退させるものであるという指摘がされたことから(甲85) 総務省は上記

規則案を修正し、上記のとおりの令和4年総務省規則の制定に至ったものである。
この経緯に照らしても、発信者情報を投稿前のログインに係る情報に限定する理
由はなく、ログイン者と投稿者の同一性があれば足りるというべきであり、仮に、
ログイン者と投稿者の同一性では足りず、ログイン通信と投稿の間に時間的な近接
性を要するとしても、本件では、本件ツイート1の投稿から僅か7時間後のログイ
ン(別紙IPアドレス目録記載①)に係る発信者情報について、開示を否定する論
拠はない。
ウ 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか)について
(ア) 原判決は、本件ツイート1の投稿の直前のログインに係る通信 が、
「amazonaws.com」を含むドメインのものであるから、本件ツイート1の投稿に係る
通信が、被控訴人の電気通信設備以外の電気通信設備を経由して行われたことをう
かがわせると判示したが、「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」を含むドメインで
のログインは、アマゾンウェブサービス(AWS)を利用した外部アプリケーション
やソーシャルログインである可能性が高い(甲34)。そして、先頭に「EC2」と表
記されていることから、アマゾンが提供する EC2 サービスに利用されているものと
推認される。なお、AWS の一つとして Amazon Cognito(アマゾン・コグニート)と
いうサービスが広くソーシャルログインに利用されており、これはツイッターにも
対応している(甲77)。また、
「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」は、通常、ア
マゾン VPC(仮想プライベートクラウド)の初期に設定される DNS(ドメインネー
ムサーバ)名である(甲78)。甲78にいう「ec2-public-IPv4-address.compute-
1.amazonaws.com」の「public-IPv4-address」の部分には、その時に応じて適宜のIP
アドレスが利用され、本件のログイン状況のようにその時々で数字が変わる。本件
アカウントにログインしている「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」は、事業者が
用いる何らかの AWS サービスにおいて自動的に割り当てられるIPアドレスと推
認され、インターネット接続プロバイダが一般ユーザーに貸し出しているIPアド
レスではない。よって、
「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」を含むドメインから
のログインは、ソーシャルログインなどの際(例えば、発信者がツイッターID を利
用して facebook にログインした際に、facebook にログインするのに必要な情報をツ
イッター(のサーバ)から引き出したような場合)にアプリケーション側で利用し
たIPアドレスと推認され、発信者の投稿のためのログイン通信とは到底考えられ
ないから除外されるべきである。この点に関する原判決の認定及び判断は明らかに
誤りである。
(イ) 本件アカウントにおいては、令和2年7月6日10時53分に、控訴人 X
1に係るツイート(以下「本件ツイート3」という。甲61)がされており、その
内容からしても、本件各ツイートと同一の者による投稿であることがうかがわれる。
そして、本件ツイート3の直前のログインは、令和2年7月6日8時4分57秒の
被控訴人の管理するIPアドレス(IPアドレス省略) (本件の発信元
IPアドレス)を用いたログイン通信である(甲40、80)。また、本件ツイート
1の直後(7時間後)のログインも、被控訴人の管理する上記IPアドレスを用い
たログイン通信である(甲40、80)。そして、前記(ア)のとおり、本件ツイート
1の直前のログインである「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」を含むドメイン
からのログインは除外すべきである。
本件アカウントへのログイン状況からすると、本件各ツイートを投稿した発信者
は、主にパソコンを用いてツイッターにログインしていたのであり、スマートフォ
ンなどは出かけた時などに閲覧用に補助的に利用していたと推認でき、本件ツイー
ト3は明らかに被控訴人の通信設備を利用したパソコンからの投稿であるし、本件
ツイート1も被控訴人の通信設備を用いて投稿された蓋然性が高い。
以上から、本件ツイート1を媒介した通信設備は、被控訴人管理の通信設備であ
る。そうすると、被控訴人は「開示関係役務提供者」に該当する。
(2) 被控訴人の主張
ア 争点1(控訴人らの権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(ア) 本件控訴人プロフィール画像は、ありふれた表現であって著作物性が認めら
れず、控訴人らが著作権を有することについての客観的証拠もない。また、適法な
引用に該当し、違法性阻却事由がある。ツイッター社はコメント付きリツイートに
よる引用ができる機能(以下、同機能によるリツイートを「引用リツイート」とい
う。 を提供しているが、
) それ以外の著作権法上許容される引用を禁止しているわけ
ではない。また、本件控訴人プロフィール画像の利用については、控訴人X1 の
黙示の同意がある。
(イ) 本件各ツイートは、控訴人X1 の名誉権を侵害するものではない。
本件ツイート2における「控訴人X1 がツイート内容の改ざんを行っている」
という記載は、何らの罪も構成しない行動を指摘するにとどまり、控訴人X1 の
人格について殊更に攻撃を加えるものではないから、一般閲覧者の通常の注意と読
み方を基準とすれば、控訴人X1 の社会的評価を低下させるとはいえない。また、
本件ツイート2に対するリプライ(返信)として表示されているツイートにおいて、
改ざんされたものと思われるツイートのスクリーンショットが投稿されているから、
本件ツイート2の投稿者には、少なくとも真実と信じるについて相当の理由がある。
(ウ) 控訴人らは、本件各ツイートについて、その内容から同一人物による投稿であ
ると主張するが、余人であればおよそ使用しないであろう特徴的な表現がされてい
るといった事情もなく、論理の飛躍がある。
イ 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する
か)について
(ア) 「権利の侵害に係る発信者情報」にログイン時の情報が含まれることがあるこ
とまでは争わないが、その範囲は、侵害投稿の直前のログインなど、侵害投稿との
密接な関連性があるものに限られるべきである。
発信者情報開示請求は、情報の流通によって権利の侵害があった場合において、
自己の権利を侵害されたと主張する者に、当該情報が流通することとなった特定
電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者に対して、保有する発信者情報
の開示を請求できる権利を創設した反面、発信者のプライバシーや表現の自由、通
信の秘密等に配慮し、その権利行使の要件として、権利侵害の明白性はもちろん、
発信者情報と権利侵害の強い関連性を厳格に求めるという、自己の権利を侵害さ
れたと主張する者と発信者のそれぞれの権利の絶妙なバランスの上に成り立って
いる制度であって、個人のプライバシーや表現の自由が侵害されるおそれを犠牲
にしてまで、発信者情報開示が認められる範囲を、法令の文言解釈の限度を超え過
度に拡張して情報の開示を認めるべきではない。
(イ) 控訴人らの主張するようなおよそ1か月半にも及ぶ広い「期間」における
情報の開示を認めてしまうと権利の侵害とは無関係な発信者情報の開示を行うこ
とになってしまうため、そのような請求を認めることはできない。控訴人らが開示
を求める期間内においてIPアドレスを割り当てられた契約者が同一であるかと
いう点については、上記の観点から、被控訴人として回答できない。
(ウ) 令和4年総務省規則においても、侵害関連情報の開示が認められるのは、侵
害情報の送信と相当の関連性を有するものに限定されており、控訴人らの主張す
るような1か月半もの幅をもったログインに係る情報について開示の対象とする
ことを認めるものではない。また、別紙IPアドレス目録記載①については本件ツ
イート1から約7時間後のログインにかかるもの、本件ツイート2は同②から1
か月半以上後の投稿であって、侵害投稿直後のログインなどのように侵害投稿と
の間の関係性が強く認められる場合ではないことから、令和4年改正法において
も、本件のような場合に開示が認められるものではない。
ウ 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか)について
(ア) 「開示関係役務提供者」は、
「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信
設備を用いる特定電気通信役務提供者」を意味するものであるところ、用語の通常
の用法上、
「当該」とは、同一の文脈内における前出の単語を参照するものであるか
ら、プロバイダ責任制限法4条1項柱書の文脈においては、
「当該」に係る「特定電
気通信」は、同項の「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害さ
れたとする者」の「特定電気通信」を指すことは明らかであり、「当該」「特定電気
通信」とは、権利を侵害されたとする情報の流通を生じさせた「特定電気通信」の
みを意味することは明らかである。「用に供される」の範囲について、「蓋然性」が
ある場合にまでその範囲を広げることは、文言解釈の範囲を著しく逸脱しているも
のといわざるを得ない。したがって、被控訴人は、
「開示関係役務提供者」に該当し
ない。
(イ) 控訴人らは、令和4年改正法を根拠として、本件に適用されるプロバイダ責任
制限法においても、被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当すると主張するが、
令和4年改正法は、その施行後においてのみ根拠となり得るものであって、施行以
前の事案である本件については、根拠にも指針にもなり得るものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1-1(本件ツイート1の投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 「権利侵害の明白性」について
発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報
であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これ
がいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、プロバイ
ダ責任制限法4条1項1号が、発信者情報の開示請求について厳格な要件を定めて
いること(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・
民集64巻3号758頁参照)に照らすと、同号が規定する「侵害情報の流通によ
って当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当
するといえるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたこ
とに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで
主張立証されなければならないと解される。
(2) 本件ツイート1について
証拠(甲3、4)によると、本件ツイート1は、ユーザー名「A 」の
本件アカウントにおいて、令和2年6月29日午後5時45分に、「X1’ さ
ん(X1’’) 」「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立て上げるのやめて
くれませんかね?」「捏造したところで信用の問題で誰も信じないとは思いますけ
ど」「そんなクソDM直に送るような人でもないんですよ、あんたと違って」とい
う文章を付して、控訴人X1 が同日午後3時01分に投稿したツイートをリツイ
ートするとともに、同ツイート及びこれに対するリプライとして投稿された2件の
ツイートをスクリーンショットとして撮影した本件投稿画像1を合わせて投稿され
たものである。本件投稿画像1には、控訴人X1 が投稿した3件のツイートが含
まれており、各ツイートのアイコンとして本件控訴人プロフィール画像が掲載され
ていることから、本件投稿画像1には、本件控訴人プロフィール画像が3か所にお
いて掲載されている。
(3) 著作権侵害について
ア 証拠(甲1~3、5、13、37、38)によると、本件控訴人画像1は、
控訴人X2が撮影した写真(本件控訴人写真)に、控訴人X1 が、その被写体で
ある自らの顔部分に作画を加えて作成したものであることが認められる。そして、
本件控訴人写真には、被写体の選択や撮影場面等に撮影者である控訴人X2の個性
が表れているということができ、また、本件控訴人画像の顔部分に描かれた絵には、
目と口の形状や位置等に控訴人X1の個性が表れているということができる。そう
すると、本件控訴人写真及びこれを加工した本件控訴人画像には、いずれも著作物
性が認められる。そして、本件控訴人プロフィール画像は、本件控訴人画像を複製
し、主に下部分を切除して被写体の上半身を残したものであって、控訴人 X1
が著作権を、控訴人X2が原著作者の権利を有するものと認められる。
イ 本件では、本件ツイート1の投稿者が、本件アカウントにおいて、控訴人ら
の許諾を得ることなく本件ツイート1を投稿しており(甲5、13) これにより、

本件控訴人プロフィール画像をツイッターのサーバに複製し、送信可能化したとい
える。
ウ 被控訴人は、上記イの本件控訴人プロフィール画像の利用について、
「引用」
に当たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、①
公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行
われるものでなければならない(著作権法32条1項)。
エ(ア) 本件についてみると、本件ツイート1においては、「X1’ さん」「D
M画像捏造してまで友人を悪人に仕立てあげるのやめてくれませんかね?」との文
言と共に本件投稿画像1が投稿されているところ、「X1’」は控訴人X1の旧姓
であるから(甲81)、同ツイートは、控訴人X1 が「DM画像を捏造した」と
いう行為を批判するために、控訴人X1 が捏造した画像として、本件投稿画像1
を合わせて示したものと推認され、本件投稿画像1を付した目的は、控訴人 X1
が「DM画像を捏造」してこれをツイートした行為を批評することにあると認めら
れる。
(イ) 上記控訴人X1 の行為を批評するために、控訴人X1 のツイートに手を
加えることなくそのまま示すことは、客観性が担保されているということができ、
本件ツイート1の読者をして、批評の対象となったツイートが、誰の投稿によるも
のであるか、また、その内容を正確に理解することができるから、批評の妥当性を
検討するために資するといえる。また、本件控訴人プロフィール画像は、ツイート
にアイコンとして付されているものであるところ、本件ツイート1において、控訴
人X1 のツイートをそのまま示す目的を超えて本件控訴人プロフィール画像が利
用されているものではない。そうすると、控訴人X1 のツイートを、アイコン画
像を含めてそのままスクリーンショットに撮影して示すことは、批評の目的上正当
な範囲内での利用であるということができる。
(ウ) 次に、証拠(乙12)によると、画像をキャプチャしてシェアするという手
法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められることに照ら
すと、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、公正な慣行
に合致するものと認めるのが相当である。
オ(ア) 控訴人らは、本件投稿画像1の分量が本件ツイート1の本文の分量と同等
であり、主従関係にないから、引用に当たらないと主張するが、仮に「引用」に該
当するために主従関係があることを要すると解したとしても、主従関係の有無は分
量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断する
べきである。本件では、本件投稿画像1ではなく、本件控訴人プロフィール画像と
本件ツイート1の本文の分量を比較すべきである上、本件投稿画像1は、本件ツイ
ート1の本文の内容を補足説明する性質を有するものとして利用されているといえ
ることから、控訴人らの上記主張は採用できない。
(イ) 控訴人らは、引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツ
イッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張する。しかし
ながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右さ
れるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反す
るなどの事情はうかがえない(甲41、乙13、14)。そして、批評対象となっ
たツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが
変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更
されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができな
くなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場
合を回避することができる。現に、令和2年8月7日時点における、本件ツイート
1が引用リツイートした控訴人X1 のツイートと本件投稿画像1を比較すると、
上記引用リツイートでは、控訴人X1 のユーザー名が変更されており、本件ツイ
ート1が投稿された当時に、同ツイートが批評した控訴人X1 のツイートが当時
のまま表示されているものではないことが認められ(甲3)、引用リツイートのみ
によっていたのでは、本件ツイート1の投稿当時の控訴人X1 のツイートを参照
することはできなくなっていたといえる。そうすると、スクリーンショットにより
引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、
その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえないから、控
訴人らの上記主張は採用できない。
(ウ) 控訴人らは、本件ツイート1が、控訴人X1 を誹謗中傷する目的のもので、
引用の目的自体が正当ではなかったこと、引用リツイート機能を用いて引用するこ
とで投稿の目的が達成できたこと、本件控訴人プロフィール画像を黒塗りにしても
投稿の目的を達することができたことからすると、本件ツイート1における本件控
訴人プロフィール画像の利用は、「引用の目的上正当な範囲内」のものではないと
主張するが、前記エのとおり、本件における引用の目的は批評であるところ、本件
ツイート1の内容が名誉毀損ないし侮辱に当たるかは別として、控訴人X1 の行
為を批評するという引用の目的に照らし、正当な範囲内の利用であるということが
できる。また、スクリーンショットによる引用をすることは引用の目的に照らして
必要性があるといえることは前記(イ)のとおりであるし、批評対象である控訴人
X1のツイートを、アイコン画像を含めてそのまま引用することにより、読者をし
て、批評対象であるツイートの投稿者やその内容を正確に把握できるといえるから、
上記控訴人らが指摘する事項を考慮しても、本件ツイート1における本件控訴人プ
ロフィール画像の利用は、「引用の目的上正当な範囲内」で行われたと認めるのが
相当である。
そうすると、控訴人らの上記主張はいずれも採用できない。
カ したがって、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用に
ついて、控訴人らの著作権侵害が明白であるとはいえない。
(4) 控訴人X1 に係る名誉毀損について
ア ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、
当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきも
のであり(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・
民集10巻8号1059頁参照)、このことは、ツイッター上の投稿記事の名誉毀
損該当性の判断においても同様である。
また、名誉毀損には、事実の摘示によるもののみならず、意見ないし論評による
ものも含まれるところ、ある表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な
他人に関する特定の事項を明示的に主張、又は黙示的に主張するものと理解される
ときは、当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相
当であり(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集
51巻8号3804頁参照)、上記のような証拠等による証明になじまない物事の
価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属するも
のというべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16
年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。そして、一般の
読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであることは、上記の区
別に当たっても妥当する(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。
イ 本件についてみると、本件ツイート1における「DM画像捏造してまで友人
を悪人に仕立てあげるのはやめてくれませんかね?」との文言は、一般の読者の普
通の注意と読み方とを基準にすると、控訴人X1 が画像を「捏造」してまで「友
人を悪人に仕立てあげる」ような悪質な人物であることを意味するもので、控訴人
X1 の社会的評価を低下させるものであると認められる。
そして、本件ツイート1の上記文言及び「捏造したところで信用の問題で誰も信
じないとは思いますけど」「あんたと違って」との文言は、一般の読者の普通の注
意と読み方とを基準にすると、控訴人X1 が、DM画像を捏造したという事実を
前提として、友人が悪人であるかのような内容の投稿(ツイート)をしても誰も信
じないほどに控訴人X1 が信用されていないとの投稿者の意見を表明したものと
認めるのが相当であり、控訴人X1 が信用されていないか否かは証拠等による証
明になじまない事項に係るものであるから、事実の摘示ではなく、意見ないし論評
の表明であるとみるのが相当である。
ウ(ア) ところで、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損
にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公
益を図ることにあった場合に、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分
について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし
論評としての域を逸脱したものでない限り、その行為は違法性を欠くものというべ
きである(最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判
決・民集41巻3号490頁、最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12
月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)。
(イ) 前記イのとおり、本件ツイート1は、控訴人X1 が、DM画像を捏造した
という事実を前提とするものであるところ、本件ツイート1に引用されている、控
訴人X1 のツイートに引用された画像(DMをスクリーンショットにより撮影し
た上で、差出人名等をマスキング加工したものと思料されるもの)及び当該画像を
含む本件投稿画像1を観察しても、本件ツイート1の投稿者が何をもって控訴人
X1がDM画像を捏造したものと判断したのかをうかがわせる記載はない。 (甲
証拠
89、90、乙17の5・6)によると、本件アカウントにおいて、本件ツイート
2に対するリプライとして、本件投稿画像1及び控訴人X1 とも本件アカウント
とも異なるユーザー名における「原画あんまりやってないのに適当な事いっちゃい
けない・・・」とのツイートをスクリーンショットにより撮影した画像を添えて、
「こっちは友人の被害案件!」などといった文章のツイートが投稿されている事実
が認められるが、本件投稿画像1に含まれるDM画像は、マスキング加工されてい
ることから差出人が明らかではなく、また、その内容は「原画まだあんまりやって
ないのに適当なこと言っちゃいけないと思いますよ。。。」というもので、上記異
なるユーザー名でされたツイートの内容とは一応異なるものであって、これをもっ
て控訴人X1 がDM画像を捏造したと認めることはできない。そうすると、本件
ツイート1について、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について
真実であることの証明があるとはいえない。
したがって、本件ツイート1による控訴人X1 の名誉毀損について、違法性阻
却事由の存在をうかがわせるような事情は存在しないと認めるのが相当であるから、
本件ツイート1によって控訴人X1 の名誉権が侵害されたことが明らかであると
いえる。
(5) 以上によれば、本件ツイート1について、控訴人X1 の権利侵害の明白性
が認められるが、控訴人X2の権利侵害の明白性は認められない。
2 争点1-2(本件ツイート2の投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 本件ツイート2について
証拠(甲10、11)によると、本件ツイート2は、ユーザー名「A 」
の本件アカウントにおいて、令和2年9月30日午後9時33分に、「ちなみにX
1’ (X1 )さんに触ると」「意味不明なクソリプされたり」「ツイート
文章を改竄して捏造妄想作話するんで要注意だよ!」という文章に、控訴人 X1
が同年8月1日午後1時56分に投稿したツイートをスクリーンショットとして撮
影した本件投稿画像2を合わせて投稿されたものであり、本件投稿画像2には、上
記控訴人X1 のツイートに付されたアイコンとして、本件控訴人プロフィール画
像が1か所掲載されている。
(2) 著作権侵害について
ア 前記1(3)アのとおり、本件控訴人プロフィール画像は、控訴人X1 が著作
権を、控訴人X2が原著作者の権利を有するものと認められるところ、本件ツイー
ト2の投稿者は、本件アカウントにおいて、控訴人らの許諾を得ることなく本件ツ
イート2を投稿しており(甲5、13)、これにより、本件控訴人プロフィール画
像をツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ そして、前記(1)の本件ツイート2における文章及び本件投稿画像2をみる
と、本件ツイート2は、その投稿者が、読者に対し、控訴人X1に触れる(ツイッ
ター上で対話するなどの交流をすることを意味すると推認される。)と、控訴人X
1 から「意味不明なクソリプされたり」するから注意が必要である旨知らせる
内容となっており、「意味不明なクソリプ」の例として本件投稿画像2を用いてい
るものと理解できるから、報道又は批評の目的で本件投稿画像2に含まれる本件控
訴人プロフィール画像を利用しているものと一応認められる。そして、その利用の
方法は、控訴人X1 のツイートをそのまま、アイコン部分も含めてスクリーンシ
ョットに撮影して示したというもので、前記(1)エと同様に、報道又は批評の目的上
正当な範囲内での利用であり、また、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当
である。
ウ そうすると、本件ツイート2における本件控訴人プロフィール画像の利用に
ついて、控訴人らの著作権侵害が明白であるとはいえない。
(3) 名誉毀損について
ア 本件ツイート2の内容は前記(1)のとおりであり、控訴人X1 について、
「意味不明なクソリプされたり」「ツイート文章を改竄して捏造妄想作話するんで
要注意だよ!」という文言は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、
控訴人X1 が、意味不明なクソリプ(非常に悪い又は取るに足らない内容のリプ
ライの意味と推認される。 をしたり、
) 他人がしたツイートの文章を改ざんしたり、
真実とは異なる妄想を述べるような人物であることを意味するもので、控訴人 X
1の社会的評価を低下させるものであると認めるのが相当である。
イ そして、本件ツイート2は、同ツイートに添付した本件投稿画像2に示され
る控訴人X1 のツイートの内容が「意味不明なクソリプ」であるという事実を前
提として、控訴人X1 が、改竄したり、捏造又は妄想して作り上げた話をするよ
うな人物であるから、注意すべきであるという主観的な意見を述べるものであり、
これは証拠等による証明になじまない事項に係るものであるから、事実の摘示では
なく、意見ないし論評の表明であるとみるのが相当である。
ウ ところで、捏造又は妄想して作り上げた話をする人物であるとの意見ないし
論評は、控訴人X1 の人格を攻撃するものであり、人身攻撃に及ぶものであって
意見ないし論評としての域を逸脱したものということができる。そうすると、その
余の点について検討するまでもなく、本件ツイート2について、違法性阻却事由が
あるとは認められない。
エ したがって、本件ツイート2による控訴人X1 の名誉毀損について、違法
性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は存在しないと認めるのが相当である
から、本件ツイート2によって控訴人X1 の名誉権が侵害されたことが明らかで
あるといえる。
(4) 以上によれば、本件ツイート2について、控訴人X1 の権利侵害の明白性
は認められるが、控訴人X2の権利侵害の明白性は認められない。
3 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する
か)について
(1) 控訴人X1 は、令和2年6月30日0時56分35秒から同年8月16日
16時49分52秒までの期間、控訴人から、(IPアドレス省略) の
IPアドレスが割り当てられていた契約者に係る情報の開示を求めているところ、
前記1(2)及び2(1)のとおり、本件ツイート1が投稿されたのは同年6月29日午
後5時45分、本件ツイート2が投稿されたのは同年9月30日午後9時33分で
あるから、上記開示を求める期間において本件各ツイートがされたものではなく、
本件発信者情報は、本件各ツイートの投稿がされたログインに係る情報ではない。
そこで、侵害情報である本件各ツイートの投稿がされたログイン以外のログイン時
のIPアドレスに係る情報が、プロバイダ責任制限法4条1項の「当該権利の侵害
に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。なお、被控訴人が把握している情報
は、侵害情報の投稿時のIPアドレスではなく、ログイン時のIPアドレスに係る
発信者情報であるが、これが、「権利の侵害に係る発信者情報」に含まれ得ること
については争いがない。
そこで検討するに、プロバイダ責任制限法4条の趣旨は、特定電気通信(同法2
条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、そ
の高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には
加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異な
る特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を
受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳
格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定
電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとする
ことにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解
される(前掲最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決参照)。そうすると、「当
該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲をむやみに拡大することは相当とはいえな
いものの、侵害情報の投稿がされたログイン時のIPアドレスから把握される情報
に限定するとなると、複数のログインが同時にされているなどして投稿がされたロ
グインが特定できない場合などには、被害者の権利の救済をはかることができない
こととなり、上記法の趣旨に反する結果となる。そして、プロバイダ責任制限法4
条1項は「侵害情報の発信者情報」ではなく、「権利の侵害に係る発信者情報」と
やや幅をもたせた規定としていること、証拠(甲83、85)によると、特定電気
通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の令和3
年法律第27号による改正は、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係
る発信者情報」には、侵害情報を送信した後に割り当てられたIPアドレスから把
握される情報が「発信者情報」に含まれることを前提として行われたことが認めら
れ、上記改正の前後を通じ、「権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報を送信
した際の情報のみに限定されるものではないと解されること、また、このように解
したとしても、当該発信者が、侵害情報を流通させた者と同一人物であると認めら
れるのであれば、発信者情報の開示により、侵害情報を流通させた者の情報が開示
されることになるのであるから、開示請求者にとって開示を受ける理由があるとい
うことができ、また、発信者にとって不当であるとはいえないこと、特に本件のよ
うなツイッターにおいては、設定されたアカウントにログインし、ログインされた
状態で投稿することになり、侵害情報の送信をするにはログインが不可欠であると
ころ(弁論の全趣旨)、同一アカウントであれば、当該ログインに係る情報は、侵
害情報の送信におけるログイン時とは異なるその前後のログインに係る発信者情報
と同一となるのが通常であると考えられることに照らすと、「侵害情報の発信者情
報」を侵害情報が投稿されたログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報
に限定して解釈するのは相当ではなく、当該侵害情報を送信した者の情報であると
認められるのであれば、侵害情報を送信した後のログイン時のIPアドレスから把
握される発信者情報や、侵害情報の送信の直前のログインよりも前のログイン時の
IPアドレスから把握される発信者情報も、プロバイダ責任制限法4条1項の「権
利の侵害に係る発信者情報」に当たり得ると解するのが相当である。
(2) 上記を前提に検討すると、本件では、本件各ツイートはいずれも本件アカウ
ントにおいて投稿されたものであるところ、本件アカウントにおけるツイートの内
容(甲3、10、89、91、乙17の1、2、6)をみると、本件アカウントは
個人により管理されているものと推認される。そして、本件アカウントによる投稿
の内容及び本件アカウントに対するログインの状況(甲39、40、80)に照ら
しても、本件各ツイートが、本件アカウントの管理者以外の者により投稿されたこ
とをうかがわせる事情はない。
そうすると、本件発信者情報は、本件ツイート1の送信よりも後のログイン時の
IPアドレスから把握される発信者情報であり、又は本件ツイート2の送信の直前
のログインよりも前のログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報である
ものの、「侵害情報の発信者情報」に当たるということができる。
4 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか)について
次に、被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか検討するに、前記3のと
おり、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」を、侵害
情報を送信した者の発信者情報を意味するものと解するのと同様に、同項の「当該
開示関係役務提供者」は、上記「権利の侵害に係る発信者情報」である侵害情報を
送信した者の発信者情報を保有する開示関係役務提供者であれば足りると解するの
が相当である。
そして、訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の第2の2(4)のとおり、被
控訴人は、本件アカウントに対してログインがされた時刻である別紙IPアドレス
目録記載①及び②の時点において、同目録記載の発信元IPアドレスが割り当てら
れていた契約者に係る情報を保有しているところ、本件アカウントに対してログイ
ンした者と本件各ツイートを投稿した者は同一人物であると推認されるから、上記
情報は、侵害情報を発信した者の発信者情報に当たる。そうすると、被控訴人は、
プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当する。
5 争点4(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
(1) 証拠(甲5、13)によると、控訴人X1 は、本件各ツイートの投稿者に
対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるから、本件各ツイートの
投稿者であるものと推認される本件アカウントの管理者の氏名(名称)、住所、メー
ルアドレス及び電話番号の開示を受ける正当な理由があるというべきである。
被控訴人は、氏名又は名称及び住所が開示されれば、上記投稿者に対して損害賠
償を請求することができるから、電話番号及びメールアドレスの開示を受ける正当
な理由がない旨主張するが、権利行使の態様は訴え提起に限定されるものではなく、
その前段階として、電話又は電子メールにより連絡をとり、交渉を行うことは、正
当な権利行使の一態様である。そして、そのために、控訴人X1 が、本件投稿者
の電話番号及びメールアドレスの開示を求めることには正当な理由があるというこ
とができるから、上記被控訴人の主張は採用できない。
(2) もっとも、控訴人X1 が本件各ツイートによる権利侵害に関する権利行使
をするために、令和2年6月30日0時56分35秒から同年8月16日16時4
9分52秒までの期間、被控訴人から、(IPアドレス省略) のIPア
ドレスが割り当てられていた契約者に係る情報を全て開示するまでの必要はなく、
被控訴人が情報を保有していることが明らかな上記期間の始期及び終期の時点にお
いて、上記IPアドレスが割り当てられていた契約者に係る情報の開示のみを認め
れば足りる。
第4 結論
よって、控訴人X1 の請求は、別紙IPアドレス目録記載の各日時に、同目録
記載の発信元IPアドレスに割り当てられていた契約者の氏名(名称)、住所、メ
ールアドレス及び電話番号の開示を求める限度で理由があるから、控訴人X1 の
被控訴人に対する原審における請求を認容すべきところ、これを棄却した原判決は
失当であり、控訴人X1 の控訴は理由があるから、原判決中控訴人X1 の被控
訴人に対する請求を棄却した部分を取り消した上、控訴人X1 の被控訴人に対す
る原審における請求を認容し、控訴人X1 の当審における拡張請求には理由がな
いからこれを棄却することとし、控訴人X2の請求には理由がないからこれを棄却
した原判決は相当であって、控訴人X2の控訴は理由がないからこれを棄却し、ま
た、控訴人X2の当審における拡張請求には理由がないからこれを棄却することと
して、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
浅 井 憲
裁判官
勝 又 来 未 子
別紙
発信者情報目録
別紙アカウント目録記載のアカウントにログインした際の別紙IPアドレス目録
記載の発信元IPアドレスを、同目録記載の各ログイン日時のうち①を始期とし、
②を終期とする期間内、被控訴人から割り当てられていた契約者に関する下記情報
1 氏名(名称)
2 住所
3 メールアドレス
4 電話番号
以上
別紙
アカウント目録
ユーザーID:A’
ユーザー名:A
URL:https://以下省略
以上
別紙
IPアドレス目録
① 令和2年6月30日 0時56分35秒(日本時間(JST))
発信元IPアドレス (省略)
② 令和2年8月16日 16時49分52秒(日本時間(JST))
発信元IPアドレス (省略)
以上

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