令和3(ネ)10082損害賠償請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和4年10月18日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
実施15回 無効12回 無効審判6回 損害賠償5回 特許権4回 新規性4回 進歩性3回 侵害2回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における拡張請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 事案の概要
⑴ 本件は、発明の名称を「包装用積層フィルム又は該包装用積層フィルムで
成形された包装袋及び包装用積層フィルムの製造方法。」とする特許(特許第
6422064号。以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特
許権」という。)を有する控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が原判決別紙
被告製品目録記載の各製品を販売することは本件特許権の侵害に当たると主5
張して、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。 |
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判決文
令和4年10月18日判決言渡
令和3年(ネ)第10082号 損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所令
和2年(ワ)第3862号)
口頭弁論終結日 令和4年7月12日
5 判 決
控 訴 人 X
同訴訟代理人弁護士 拾 井 美 香
10 被 控 訴 人 株式会社クオリティファースト
同訴訟代理人弁護士 岡 田 春 夫
同 瓜 生 嘉 子
同訴訟代理人弁理士 井 澤 眞 樹 子
15 主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における拡張請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、3000万円及びこれに対する令和2年4月2
3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え(控訴人は、当審にお
いて、原審における300万円の損害賠償請求を、このように拡張した。)。
25 第2 事案の概要等
1 事案の概要
⑴ 本件は、発明の名称を「包装用積層フィルム又は該包装用積層フィルムで
成形された包装袋及び包装用積層フィルムの製造方法。 とする特許
」 (特許第
6422064号。以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特
許権」という。)を有する控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が原判決別紙
5 被告製品目録記載の各製品を販売することは本件特許権の侵害に当たると主
張して、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
⑵ 原審は、上記各製品に用いられている積層フィルムをヒートシール方式に
よりピロー状に成形した包装袋(被告包装袋)は本件特許の請求項1及び2
記載の各発明(本件各発明)の技術的範囲に属するものとは認められず、ま
10 た、本件特許は乙14に記載された製品(乙14製品)に対する新規性を欠
くものであって特許無効審判により無効にされるべきものであるとして、控
訴人の請求を棄却した。これを不服として、控訴人は、本件控訴を提起した。
⑶ 控訴人は、原審においては300万円の損害賠償を求めていたが、当審に
おいて請求を拡張し、控訴人の損害額合計1億7617万3934円のうち
15 3000万円及びこれに対する令和2年4月23日(本件訴えを提起した日)
から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正後のもの)所定
の年3分の割合による遅延損害金の損害賠償を求めている。
2 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張
前提事実、争点及び争点についての当事者の主張は、以下のとおり原判決を
20 補正し、後記3のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事
実及び理由」の第2の1及び2並びに第3(原判決1頁26行目ないし15頁
16行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決3頁8行目の「いる」を「いること」に改める。
⑵ 原判決4頁17行目末尾に改行して次のとおり加える。
25 「⑹ 無効審判請求等
ア 被控訴人及び大阪シーリング印刷株式会社は、令和3年5月31日、
特許庁に対し、本件特許権につき、無効審判請求をした(無効2021
-800047号。以下「本件無効審判請求事件」という。 。
)
イ 控訴人は、令和3年10月9日、本件無効審判請求事件において、本
件特許の請求項1ないし4を訂正する旨の訂正請求をした(以下「本件
5 訂正」という。 。
) (甲48)」
3 当審における補充主張
⑴ 争点1-2(「シーラント層」(構成要件C)の意義)について
〔控訴人の主張〕
ア クレーム解釈について
10 以下のとおり、本件各発明に係る積層フィルム又は包装袋には、ミシン
目加工が基材フィルムのみならずシーラント層にも及んでいるものが含ま
れるから、被告包装袋は、そのミシン目が積層フィルムを貫通しているか
否かにかかわらず、構成要件Cを充足する。
(ア) 本件特許の請求項1においては、「前記基材フィルムの印刷面側には
15 少なくともシーラント層が積層されて」とだけ記載されており、シーラ
ント層がミシン目加工の前後いずれに積層されたかは特定されていない
から、基材フィルムにミシン目加工がされた後にシーラント層が積層さ
れるとは限らない。
(イ) 本件特許の出願時における請求項1ないし3の内容及びその後の補正
20 の内容からすれば、本件発明1には、グラビア版インラインミシン目加
工、ダイカッターインラインミシン目加工、ダイカッターオフラインミ
シン目加工及びレーザーミシン目加工の各製造方法による包装袋が含ま
れているものと解するのが相当である。そうすると、本件発明1に係る
包装袋には、ダイカッターオフラインミシン目加工及びレーザーミシン
25 加工によってシーラント層にもミシン目の孔が開く場合も含まれること
となる。
(ウ) 本件明細書において使用されている「密封」に係る用語は、いずれも
「すきまなく、きっちりと封をする」という意味で用いられているもの
であり、包装袋に孔がないという意味ではない。また、他の様々な製品
においても、
「密封」の語は、封をするという意味で用いられており、空
5 気を通さない「気密性」の語とは異なる。
(エ) 本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書の記載からすれば、本件
各発明が共通して有する特徴は、いずれの方法で製造された場合であっ
ても、包装袋のバージン性、新たな方法での開封及び内容物の取り出し
やすさにあるのであって、包装物の気密性(原判決がいうところの密封
10 性)は、ミシン目の加工方法によって生じ得る副次的な要素にすぎず、
本件各発明の主要な要素ではない。
イ 被告包装袋のミシン目は積層フィルムを貫通していないこと
以下のとおり、被告包装袋のミシン目は積層フィルムを貫通していない
から、本件各発明のシーラント層が気密性(密封性)のある層であると解
15 釈した場合であっても、被告包装袋は構成要件Cを充足する。
(ア) 控訴人が実施した水漏れ確認実験においては、複数の被告製品につい
て、取出口のミシン目部分からの水漏れは確認できなかった。また、控
訴人が実施したおもりによる実験においては、複数の被告製品について、
四隅のR部分に45gのおもりを載せても同部分は沈まなかった。これ
20 らの実験結果に照らせば、被告包装袋のミシン目は積層フィルムを貫通
していないものと認められる。
(イ) 被告包装袋は、本件各発明が想定する製造方法のうちダイカッターオ
フラインミシン目加工を行うことによって製造されたものであり、加工
方法が共通する両者は当然に同じ構成となる。この点に関し、被控訴人
25 は、被告包装袋には貫通用ダイロールを用いてミシン目加工を行ってい
ると主張するが、被控訴人が提出した刃型製造記録(乙37)の記載内
容からすれば、刃型全体を「ズボ抜き」にする指示がされているとみる
ことはできないし、ダイカッターロールに係る模式図(乙36)は、記
載された図面間に齟齬がある上、技術的に不可解な内容である。また、
被告製品の製造に係る指示が記載されているとされる乙10及び乙11
5 の記載内容は、被告包装袋のミシン目が積層フィルムを貫通しているこ
との根拠となるものではない。
(ウ) 被控訴人が実施したシールチェック液による透過実験の結果において、
シールチェック液の染み出しが確認できるのは、ミシン目加工や包装袋
の作業工程で生じたと思われる破断のある中央クロス部、カモメ部及び
10 R部のみである上、大半のミシン目では薄赤い線状に着色するだけで染
み出しは確認できないことなどからすれば、かかる実験結果をもって、
被告包装袋のミシン目が積層フィルムを貫通しているということはでき
ない。
また、被控訴人が用いたシールチェック液は、ヒートシール部分が完
15 全に密閉されているか否かをチェックするためのものであり、ミシン目
の貫通の有無を確認するための液ではない上、非常に浸透性・膨潤(溶
解)性が高い化学品であることなどからすれば、被控訴人が実施した上
記実験は、明らかに不適切な方法によるものである。
〔被控訴人の主張〕
20 ア クレーム解釈について
(ア) 本件発明1の技術的範囲は、補正前の出願時における特許請求の範囲
の記載から定めるものではなく、現在の請求項の記載に基づいて解釈す
べきである。なお、出願時の請求項1ないし3の記載をみても、シーラ
ント層にミシン目の孔が開く場合も含まれるものと解釈するのは誤りで
25 ある。
(イ) 本件各発明に係る補正の経過をみても、出願時の請求項1ないし3は、
製造方法の記載を含んでいたものの、いずれも物の発明であることから、
製造方法にかかわらず、基材フィルムにミシン目や貫通溝が入り、その
印刷面側に設けられたシーラント層にはミシン目や貫通溝の入らない
構成の積層フィルムが記載されていたものであり、補正によってこの構
5 成が明確になったにすぎない。
(ウ) 「密封」の語に係る控訴人の主張は、独自の定義にすぎない。封をし
た部分のシーラント層にミシン目や溝が貫通し、内容物が外部に漏れ出
たり外部の環境による影響を受けたりする状態では、
「密封性」が保たれ
ているなどといえない。
10 (エ) そもそも、シーラント層にミシン目等が入っている密封性のない包装
袋は、本件発明1の技術的範囲には含まれない。また、本件各発明は、
完全密封性やバージン性を保つことができないという従来技術の課題
をシーラント層を設けることによって解決しているのであるから、密封
性を有するシーラント層が本件各発明の特徴であることは当然であり、
15 これが副次的な要素であるなどということはできない。
イ 被告包装袋は本件各発明の技術的範囲に属さないこと
(ア) 控訴人が実施した水漏れ確認実験は、控訴人が用いた液体が水と同じ
浸透性や表面張力等を有するものであれば、濡れ性の低い積層フィルム
に存在する微細孔を加圧なしに短時間で通過することは考え難い上、詳
20 細な実験条件も明らかではないから、客観性・信用性に乏しい。実際に
も、被控訴人が実施した同様の実験においては、着色した水はカッター
で貫通させたミシン目状の切目等ですら浸透することができなかった。
また、控訴人が実施したおもりによる実験は、貫通の有無を確かめる実
験として意味のあるものではない。
25 (イ) 被告包装袋は、ダイカッターロールの切り刃によりミシン目が貫通す
るように加工されており、このことは製造工程に係る資料(乙36及び
37)からも明らかである。また、乙10及び乙11の記載内容等に不
合理な点はなく、これらの書面によれば、被告包装袋は、ミシン目が積
層フィルムを貫通するように製造されていることは明らかである。
(ウ) 被控訴人及びその関係者が実施した各種実験(乙38ないし40、4
5 6ないし49)においては、被告包装袋のミシン目が積層フィルムを貫
通していることが確認されている。また、被控訴人が実験に用いたシー
ルチェック液は、食品のポリ袋等の包装材のシールチェックやピンホー
ルチェックのために一般的に用いられている市販のものであり、通常の
使用によってポリエチレン等のフィルム基材を侵すようなものではない。
10 ⑵ 争点2-2(乙14による新規性欠如の有無)について
〔控訴人の主張〕
原判決が指摘する本件明細書の段落【0029】及び【0031】の記載
は、補正前の請求項4に関するものであり、いずれも本件各発明に関するも
のではない。また、本件発明1及び2には、取出口の領域に封止シールを貼
15 付するという構成は含まれておらず、乙14製品のように封止シールを開封
の手段として利用することはできない。さらに、ミシン目等の一般的な機能・
役割のほか、本件各発明の構成要件に開封手段として封止シール等が含まれ
ていないこと、本件明細書の記載内容からすれば、本件各発明のミシン目等
は、指でつまんで破断することによって開封することを想定したものであり、
20 封止シールによる開封は想定していない。
したがって、開封手段に係る本件各発明の構成要件E及び乙14製品の構
成E’は一致しないから、本件各発明が乙14製品に対する新規性を欠くと
いうことはできない。
〔被控訴人の主張〕
25 本件発明1の構成要件Eにおいては、開封方法について何ら限定されてお
らず、ミシン目又は溝部が開封により取出口になりさえすれば、どのような
開封方法であってもよいから、構成要件Eと乙14製品の構成E’との同一
性を否定する控訴人の主張は誤りである。
⑶ 訂正の再抗弁(当審における新たな主張)
〔控訴人の主張〕
5 控訴人は、本件各発明の構成要件B2と乙14製品の構成要件B’との一
致を回避するために、本件無効審判請求事件において本件訂正をした。以下
のとおり、本件訂正によって控訴人の請求は認められる。
ア 訂正事項
(ア) 請求項1について
10 控訴人は、本件訂正において、請求項1のうち、次の下線部分を削除
した。
「表層の基材フィルムに絵柄の印刷が施され、前記基材フィルムには、
前記絵柄に対応した、略円形又は略四角形の形状のミシン目又は基材フ
ィルムを貫通する溝若しくは前記略円形又は前記略四角形の中央部で
15 二分された形状のミシン目又は基材フィルムを貫通する溝が設けられ、
前記基材フィルムの印刷面側には少なくともシーラント層が積層され
て、非シール部に前記ミシン目又は溝部が設けられ該ミシン目又は溝部
が開封により取出口になることを特徴とする包装袋」
(イ) 請求項2について
20 訂正前の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、一群の請
求項として訂正される。
イ 訂正要件に適合すること
本件訂正は、いずれも本件発明1及び2における切れ目を「ミシン目」
に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるな
25 ど、訂正要件に適合するものである。
ウ 無効理由が解消すること
(ア) 本件訂正により、本件各発明と乙14製品との一致が問題となる構成
要件B2が削除されるから、乙14製品に係る無効理由(新規性欠如)
は解消される。
(イ) 本件発明 1 の構成要件B1の「ミシン目」は、包装フィルムに所定の
5 間隔で設けられた連続した小穴であるのに対し、乙14製品の構成B’
の「カット」は、包装フィルムを構成する材料の一部をカットする抜き
加工であり、明らかに相違する。また、本件発明 1 の構成要件B1の「ミ
シン目」は、該ミシン目部分を指で破り取出口を形成するものであるの
に対し、乙14製品の構成B’の「カット」は、取出口部分に貼り合わ
10 された該封止シールをねじることで取出口を形成し、かつ、該封止シー
ルを再度貼り合わせることによって再封性を担保したものであり、この
点においても両者は相違する。
エ 訂正後のクレームであっても充足が認められること
被告包装袋を開封して取出口となる略四角形の形状及び中央で二分さ
15 れた形状の切れ目は、
「ミシン目」であって基材フィルムを貫通する溝では
ないから、本件訂正後のクレームであっても、被告包装袋は、本件各発明
を侵害するものである。
〔被控訴人の主張〕
ア 無効理由は解消しないこと
20 包装袋の属する技術分野において、
「ミシン目」と「ハーフカット」とは
その機能も技術的な意味も全く同じものであり、積層フィルムの開封のた
めの構成としては実質的に同一であるといえるから、本件訂正が認められ
て「溝部」に関する記載が削除されたとしても、本件各発明及び乙14製
品は、同一の構成である。
25 イ 被告包装袋は訂正後の技術的範囲に属さないこと
本件訂正がされたとしても、被告包装袋が本件各発明の技術的範囲に属
さないことには何ら変わりがない。
⑷ 訂正後のクレームに対する無効の主張(当審における新たな主張)
〔被控訴人の主張〕
訂正の再抗弁が認められたとしても、包装袋の属する技術分野において、
5 「ミシン目」及び「ハーフカット」は、その機能も技術的な意味も全く同じ
ものである上、ありふれた慣用技術であるから、乙14製品に取出口を形成
するために、基材フィルムに「カット」を設ける代わりに「ミシン目」を設
けることは、当業者が容易になし得る程度の単なる設計事項にすぎない。
したがって、本件訂正後の本件各発明は、進歩性を欠くものである。
10 〔控訴人の主張〕
ア 本件発明1は、ミシン目自体に特許性があるものではないから、ミシン
目が慣用技術であるからといって、本件発明1に進歩性がないということ
にはならない。
イ 包装袋を抜き加工した場合には、封止シールを貼り付けるなどの脱落防
15 止措置を講じる必要があるのに対し、全周にわたって破断するものではな
いミシン目は、封止シール等を貼付する必要はなく、それのみで独立した
取出口となる。そして、乙14製品はこのような効果を奏するものではな
く、他の従来技術を含めても、略円形又は略四角形の形状のミシン目を取
出口とすることを示唆するようなものは存在しない。したがって、本件各
20 発明は、乙14製品と比較して、当業者が予測できない有利な効果を奏す
るものであるから、進歩性がある。
⑸ 控訴人の損害額(当審における請求の拡張)
〔控訴人の主張〕
被控訴人は、平成29年8月23日から被告包装袋を使用した被告商品を
25 販売しているところ、被告商品の売上高は年間20億円を下らないから、実
施料率を3%とすると、同日から本件訴えが提起された令和2年4月23日
までの被告商品の販売に対する実施料相当額は、1億6016万3934円
であり、この請求額と相当因果関係を有する弁護士費用の額は、1601万
円である(合計1億7617万3934円)。
〔被控訴人の主張〕
5 否認し、又は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告包装袋は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
当裁判所も、原審と同様に、被告包装袋は本件各発明の技術的範囲に属する
とは認められないと判断する。
10 その理由は、以下の⑴のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」の
第4の1及び2(原判決15頁18行目ないし28頁17行目)に記載のとお
りであるから、これを引用する。
⑴ 原判決の補正
ア 原判決15頁22行目冒頭に次のとおり加える。
15 「商品を販売するための包装袋には、各種の性能、機能が求められるが、
性能面では内容物を保護するための密封性、耐破袋性、保形性などがある。
更に劣化防止のためのバリアー性、遮光性、などがある。一方、消費者が
購入後の使用、保管等に関して利便性としては、内容物を取り出す開封性、
開封後の保存、保管性及び再密封性、内容物を使い切る取出し性などがあ
20 る。」
イ 原判決18頁14行目末尾に改行して次のとおり加える。
「【0013】
本発明の任意の形状で開封口を設ける方法は、本発明者が・・・にて提
案したグラビア印刷機を用いて、絵柄の印刷と開封を容易にするミシン目
25 の加工とをグラビア印刷インラインで行うことに関して詳細に記載して
いる。」
ウ 原判決18頁22行目末尾に改行して次のとおり加える。
「【0015】
本発明のミシン目を有する包装用積層フィルムは、グラビア印刷機を用
いて、絵柄印刷とミシン目加工をグラビア印刷インラインで行う必要はな
5 く、オフラインでミシン目加工を行ってもよい。印刷に使用する基材フィ
ルムは、12μから40μ程度と薄膜であり、ダイカッターの刃先とアン
ビルロールの間隔(ダイカッターの刃先とアンビルロールの接触を防ぐク
リアランス)を管理することは困難であり、アンビルロールの外周に0,
2mmから0,6mmの1層又は2層で構成する自己粘着層を設ければ安
10 定したミシン目を形成することができる。または、先に記載したグラビア
版と自己粘着層が外周に設けられたニップ圧胴とを圧接できる装置を用
い略円形又は略四角形等の形状にミシン目加工をオフラインで行っても
よい。・・・」
エ 原判決24頁14行目冒頭ないし18行目末尾を次のとおり改める。
15 「このように、本件発明1の特許請求の範囲においては、
『表層の基材フ
ィルム』については断続的に切り込みを入れるミシン目又は基材フィルム
を貫通する溝が設けられることが明示されているのに対し、『シーラント
層』については基材フィルムの印刷面側に積層されることが示されている
にすぎないことからすれば、特許請求の範囲の文言解釈としては、
『表層の
20 基材フィルム』とは異なり、
『シーラント層』にはミシン目又は溝が設けら
れているものではないと解するのが自然であるといえる。」
オ 原判決25頁18行目末尾に次のとおり加える。
「また、本件各発明においては、内容物の保護や保存性の確保もその課
題の一つとされているところ 【0001】
( 、
【0005】 【0007】 、
及び )
25 包装される内容物としては、ウェットティッシュ 【0003】 や食品
( ) (図
5等)等、様々なものが想定されているといえ、これらの内容物について
は、乾燥や湿気による品質の劣化や異物の混入を防ぐ必要があるといえ
る。」
カ 原判決25頁19行目冒頭ないし22行目末尾を次のとおり改める。
「そして、本件各発明は、取出口となるミシン目又は溝の加工が施され
5 た基材フィルムに、シーラントフィルム等を貼り合わせることにより、包
装用積層フィルムを密封性のあるものとし、これを使用することにより、
バージン性や開放性等を兼ね備えた包装袋とすることで、上記の各課題を
解決しようとするものであるといえるところ、上記の密封性については、
様々な内容物の品質の劣化や異物の混入等を防ぐことができる程度の密
10 封性が想定されているというべきであり、このような本件各発明の技術的
意義を考慮すると、本件各発明のシーラント層にミシン目又は溝の加工が
及んだ場合には、上記の意味における密封性を確保することができず、発
明の目的を達成することができなくなってしまうというべきである。
以上のとおり、本件明細書から読み取ることができる本件各発明の技術
15 的意義からすれば、本件各発明のシーラント層は、ミシン目又は溝の加工
が及んでいないものとみるのが相当である。」
キ 原判決27頁16行目冒頭ないし17行目末尾を次のとおり改める。
「オ 以上のとおり、本件発明1の特許請求の範囲の文言解釈及び本件
明細書から読み取ることができる本件各発明の技術的意義からすれば、本
20 件各発明のシーラント層は、ミシン目又は溝の加工がされていないとみる
のが相当であり、本件明細書の他の記載をみても、ミシン目等が積層フィ
ルムの全層に及んでいる例は開示されていないといえることからすれば、
構成要件Cの『シーラント層』は、ミシン目又は溝の加工がされていない
ものと解釈するのが相当である。」
25 ⑵ 控訴人の当審における補充主張に対する判断
ア 前記第2の3⑴〔控訴人の主張〕ア(ア)について
(ア) 控訴人は、構成要件Cの「シーラント層」の解釈に関し、本件特許の
請求項1の記載によれば、シーラント層がミシン目加工の前後いずれに
おいて積層されたかは特定されていないから、基材フィルムにミシン目
加工がされた後にシーラント層が積層されるとは限らない旨主張する。
5 確かに、本件発明1の特許請求の範囲の文言上、シーラント層がミシ
ン目加工の前後いずれにおいて積層されるものであるかは特定されてい
ない。
しかしながら、本件発明1の特許請求の範囲の文言解釈としては、
「表
層の基材フィルム」とは異なり、
「シーラント層」にはミシン目又は溝が
10 設けられるものではないと解するのが自然であるといえることは、前記
のとおり補正して引用する原判決の説示(原判決24頁11行目ないし
18行目)のとおりである。そして、本件各発明の技術的意義等を考慮
すれば、上記の解釈が相当であることについても、前記のとおり補正し
て引用する原判決の説示(原判決24頁19行目ないし27頁17行目)
15 のとおりである。
(イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 同〔控訴人の主張〕ア(イ)について
(ア) 控訴人は、構成要件Cの「シーラント層」の解釈に関し、本件明細書
に記載されている各製造方法によれば、本件発明1に係る包装袋には、
20 ダイカッターオフラインミシン目加工及びレーザーミシン目加工によ
ってシーラント層にもミシン目の孔が開く場合も含まれることとなる
旨主張する。
しかしながら、ダイカッターオフラインミシン目加工について言及す
る本件明細書の段落【0015】には、
「ミシン目加工をグラビア印刷イ
25 ンラインで行う必要はなく、オフラインでミシン目加工を行ってもよい」
と記載されているにすぎず、シーラント層にもミシン目の孔が開くこと
が記載されているものではない。
また、レーザーミシン目加工について言及する本件明細書の段落【0
016】及び【0017】には、シーラント層が設けられた後にレーザ
ー加工を行い、基材フィルムと隣接するフィルム層又は樹脂層の全部又
5 は一部を除去する製造方法が記載されているものの、かかる記載のほか、
本件明細書の他の記載内容をもっても、本件明細書において、ミシン目
等が積層フィルムの全層を貫通する例が開示されているということはで
きないことは、前記のとおり補正して引用する原判決の説示(原判決2
5頁23行目ないし27頁15行目)のとおりである。
10 (イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 同〔控訴人の主張〕ア(ウ)及び(エ)について
(ア) 控訴人は、構成要件Cの「シーラント層」の解釈に関し、本件明細書
において用いられている「密封」に係る用語は空気を通さない「気密性」
の語とは異なるものである上、本件発明1の特許請求の範囲及び本件明
15 細書の記載からすれば、包装物の気密性は本件各発明の主要な要素では
ない旨主張する。
しかしながら、本件明細書の記載から読み取ることができる本件各発
明の技術的意義を考慮すると、本件各発明のシーラント層にミシン目又
は溝の加工が及んだ場合には、本件各発明において要求される程度の密
20 封性を確保することができず、発明の目的を達成することができなくな
ってしまうというべきであることは、前記のとおり補正して引用する原
判決の説示(原判決24頁19行目ないし25頁22行目)のとおりで
ある。そうすると、本件各発明において、包装物の密封性は、発明の主
要な要素であるというべきである。
25 なお、控訴人は、上記主張に関し、
「密封」に係る用語の意義について
種々の例を挙げるが(甲65ないし71(枝番があるものについては枝
番を含む。以下同じ。 )
)、これらの例を考慮しても、上記結論を左右する
ものではない。
(イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 同〔控訴人の主張〕イ(ア)について
5 (ア) 控訴人は、被告包装袋のミシン目が積層フィルムを貫通しているか否
かに関し、控訴人が実施した水漏れ確認実験及びおもりによる実験の結
果に照らせば、被告包装袋のミシン目は積層フィルムを貫通していない
ものと認められる旨主張する。
しかしながら、控訴人が実施した水漏れ確認実験について検討するに、
10 証拠(甲58)及び弁論の全趣旨によれば、同実験は、着色した水を用
いて、被告包装袋のミシン目から水が漏れるか否かを確認する内容であ
ったと認められるところ、被控訴人において実施した実験の結果(乙4
0ないし44)からすれば、このような実験において、シールチェック
液等を用いず、表面張力のある水を用いることは相当でないというべき
15 であるから、控訴人が実施した水漏れ確認実験の結果をもって、被告包
装袋のミシン目が積層フィルムを貫通していないと認められるものでは
ないというべきである。
また、控訴人が実施したおもりによる実験は、単に被告包装袋のミシ
ン目の上におもりを乗せるという内容にすぎないことからすれば、同実
20 験の結果をもって、被告包装袋のミシン目が積層フィルムを貫通してい
ないと認められるものではないというべきである。
(イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 同〔控訴人の主張〕イ(イ)について
(ア) 控訴人は、被告包装袋はダイカッターオフラインミシン目加工を行う
25 ことによって製造されたものであるから、本件各発明と同様にミシン目
が積層フィルムを貫通していない旨主張する。
しかしながら、被控訴人から依頼を受けて被告包装袋のミシン目加工
を行っている大阪シーリング印刷株式会社の従業員の陳述書(乙36)
において、同社で使用しているダイカットロールは、貫通用の刃型とし
て製造されているものであると説明されているところ、併せて提出され
5 た同社の刃型製造記録(乙37)の記載内容や、原審において提出され
た同社の刃型製造記録(乙10)及びチェックシート(乙11)の記載
内容も併せ考慮すると、同社においては、被告包装袋につき、積層フィ
ルムを貫通するようにミシン目を施しているものと認めるのが相当であ
る。
10 上記に関して控訴人は、上記の各書面の信用性につき縷々主張するが、
上記陳述書において説明されている技術的な内容に関して不自然、不合
理な点は見当たらず、その他控訴人が指摘する点を考慮しても、上記の
各書面の信用性を疑うべき事情は存しないというべきである。
(イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
15 カ 同〔控訴人の主張〕イ(ウ)について
(ア) 控訴人は、被控訴人が行ったシールチェック液による透過実験の結果
をもって、被告包装袋のミシン目が積層フィルムを貫通しているという
ことはできない旨主張する。
そこで検討するに、証拠(乙40、46及び47)及び弁論の全趣旨
20 によれば、被控訴人が実施した透過実験は、シールチェック液として三
菱ガス化学株式会社のエージレスシールチェック液を用いて、上記エー
ジレスシールチェック液を被告包装袋のミシン目周辺に塗布し、ミシン
目からの染み出しの有無を目視で確認したところ、塗布から2分後に中
央クロス部からの若干の染み出しが確認され、塗布から10分後にはミ
25 シン目全体からの染み出しが確認されたという内容であると認められる。
このような上記実験の結果からすれば、被告包装袋のミシン目は、積層
フィルムを貫通しているものと認められる。
上記に関して控訴人は、上記実験において染み出しが確認された中央
クロス部等について、ミシン目加工や包装袋の作業工程で生じたと思わ
れる破断があるなどと主張するが、かかる主張を裏付ける証拠は存しな
5 い。
(イ) また、控訴人は、上記実験において用いられたエージレスシールチェ
ック液について、ミシン目の貫通の有無を確認するには不適切なもので
あるなどと主張する。
しかしながら、証拠(乙45、50)及び弁論の全趣旨によれば、上
10 記実験に用いられたエージレスシールチェック液は、フィルムのシール
部分の接着ミスやフィルムのピンホールの有無をチェックするために一
般的に用いられるものであると認められるほか、上記のとおりの実験の
内容に照らせば、上記実験は、通常想定されているエージレスシールチ
ェック液の使用方法に従って行われたものといえる。
15 (ウ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
キ その他の主張について
このほか、控訴人は、構成要件Cのクレーム解釈及び被告包装袋のミシ
ン目が積層フィルムを貫通しているか否かに関して縷々主張するが、これ
まで検討したところに照らせば、いずれも採用することができない。
20 2 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の原審にお
ける請求及び当審における拡張請求は、いずれも棄却すべきである。
よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人の当審における拡
張請求も理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
25 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
5 東 海 林 保
裁判官
10 中 平 健
裁判官
15 都 野 道 紀
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