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令和2(ワ)12013特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和4年9月27日
事件種別 民事
当事者 原告日本発條株式会社
被告ユニテクノ株式会社 補佐人弁理士有我栄一郎
法令 特許権
特許法36条6項2号1回
特許法36条6項1号1回
キーワード 実施29回
無効15回
特許権8回
無効審判4回
新規性3回
進歩性2回
損害賠償1回
差止1回
侵害1回
主文 1 原告の請求を棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、「マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット」の特許権を 有する原告が、被告が平成31年1月22日までに販売したプローブコンタク5 トが同特許権に係る発明の技術的範囲に属するとして、不法行為に基づき同プ ローブコンタクト及びこれが組み込まれたテスト用ICソケットの販売につき

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判決文

令和4年9月27日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第12013号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和4年6月14日
判 決
原 告 日 本 発 條 株 式 会 社
原告訴訟代理人弁護士 高 橋 雄 一 郎
同 阿 部 実 佑 季
10 原告訴訟代理人弁理士 林 佳 輔
被 告 ユ ニ テ ク ノ 株 式 会 社
被告訴訟代理人弁護士 野 村 晋 右
15 同 池 原 元 宏
被告訴訟 復 代理人弁護 士 宮 國 尚 介
被 告 補 佐 人 弁 理 士 有 我 栄 一 郎
同 石 川 淳 浩
主 文
20 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
1 被告は1億5000万円及びこれに対する令和2年7月1日から支払済みま
25 で年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、「マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット」の特許権を
5 有する原告が、被告が平成31年1月22日までに販売したプローブコンタク
トが同特許権に係る発明の技術的範囲に属するとして、不法行為に基づき同プ
ローブコンタクト及びこれが組み込まれたテスト用ICソケットの販売につき
1億5000万円の損害賠償及び令和2年7月1日(訴状送達の日の翌日)から
支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合
10 による遅延損害金を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
易に認められる事実)
ア 原告は、測定機器及びその付属品、部分品の製造販売等を業とする会社で
ある。(弁論の全趣旨)
15 イ 被告は、計測器及び関連する電子部品の製造販売等を業とする会社であ
る。(弁論の全趣旨)
原告は、以下の特許権(以下、「本件特許権」といい、本件特許権に係る特
許を「本件特許」という。)を有している。(甲1、2)
特許番号 第4889183号
20 発明の名称 マイクロコンタクタプローブと電気プローブユニット
優先日 平成12年6月16日
出願日 平成13年6月15日
登録日 平成23年12月22日
本件特許に係る請求項1、21の記載は、以下のとおりである(以下、請求
25 項1、21に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」「本件発明21」とい

い、本件発明1、21を総称して「本件発明」という。また、本件特許権に係
る明細書を「本件明細書」と総称する。。

ア 請求項1
支持孔が形成された絶縁体と、
5 前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備え、
前記導電アッセンブリは、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジ
ャと、
リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
10 前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を
有し、
前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャ
の一方に摺動可能に接触し、
15 前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャ
の他方に固定され、
前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通
経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に
1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される
20 マイクロコンタクタプローブ。
イ 請求項21
絶縁体に形成された支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセン
ブリであって、
検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプランジ
25 ャと、
リード導体に接触される、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き部を
有し、
5 前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャ
の一方に摺動可能に接触し、
前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプランジャ
の他方に固定され、
前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通
10 経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に
1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される
導電アッセンブリ。
前記 の請求項は次のとおり分説される。(以下、それぞれの構成要件を符
号に従い、「構成要件1A」などという。)
15 ア 請求項1
1A 支持孔が形成された絶縁体と、
1B 前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセンブリと、を備
え、
1C 前記導電アッセンブリは、検査対象に接触される、前記支持孔の一端
20 から露出可能な第1のプランジャと、
1D リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャと、
1E 前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、を
備え、
1F 前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻き
25 部を有し、
1G 前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプラン
ジャの一方に摺動可能に接触し、
1H 前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプラン
ジャの他方に固定され、
5 1I 前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される
導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部と
して単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつき
が抑制される
1J マイクロコンタクタプローブ。
10 イ 請求項21
21A 絶縁体に形成された支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電ア
ッセンブリであって、
21B 検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出可能な第1のプ
ランジャと、
15 21C リード導体に接触される、前記支持孔の他端に臨む第2のプランジ
ャと、
21D 前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねと、
を備え、
21E 前記コイルばねは、摺動導通部と固定導通部とを有する筒状の密巻
20 き部を有し、
21F 前記摺動導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプラ
ンジャの一方に摺動可能に接触し、
21G 前記固定導通部は、電気的に導通可能に、前記第1及び第2のプラ
ンジャの他方に固定され、
25 21H 前記第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成され
る導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導
通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗
のばらつきが抑制される
21I 導電アッセンブリ。
5 被告は、遅くとも平成28年3月から平成31年1月22日まで、別紙被告
製品目録記載の製品(以下、同目録記載1の製品を「被告製品1」、同記載2
の製品を「被告製品2」といい、両製品を総称して「被告製品」という。)を
販売していた。被告製品2は、概ね、別紙プローブコンタクトのとおりの構成
を有している。被告製品2は、2つのプランジャとコイルばねで構成されてお
10 り、片方のプランジャが中空で、他方のプランジャをはめ込む構造になってい
る(以下、被告製品の中空のプランジャを「第2プランジャ」、他方のプラン
ジャを「第1プランジャ」という。。そのコイルばねは、片方の末端から約1

3巻目(ただし、後記のとおり、正確には、12巻目4分の3であるか、13
巻目であるかについては当事者間に争いがある。)まで密に巻かれ、コイルば
15 ねに圧縮する力が加わっていない状態でも、1巻目と2巻目、2巻目と3巻目
はそれぞれ隙間なく常時接触するようになっており、上記約13巻目までは、
同様である。上記約13巻目の部分からコイルばねの巻かれる角度が変化して
疎に巻かれており、コイルばねが力を加えられていない状態では、密に巻かれ
た部分のように順次接触することはない(以下、被告製品2のコイルばねの比
20 較的密に巻かれている部分を「本件密部分」、疎にまかれている部分を「本件
疎部分」という。。
) コイルばねの両端から圧縮する方向に力が加えられると本
件密部分は基本的に縮まないため、主として本件疎部分が縮むことによってコ
イルばねの全長が縮むことになる。コイルばねは、第1プランジャに本件密部
分がはめ込まれ、第2プランジャに本件疎部分がはめ込まれることによって両
25 ブランジャに固定されている。第1プランジャのコイルばねをはめ込む部分に
は、全周にわたって出っ張り(プランジャの径が大きくなっている部分。以下
「本件突出部」という。)があり、本件密部分の末端0.5巻の部分の径が小
さくなっており、径が小さくなっている部分が本件突出部に引っかかってコイ
ルばねが第1プランジャから外れないようになっている(なお、本件突出部が、
5 コイルばねの中心軸を第1プランジャの中心軸と同一になるように固定でき
るだけの径と幅を有しているか(0.5巻以降のコイルばねの内径以上の径を
有しているか)については後記のとおり当事者間に争いがある。。
)(弁論の全
趣旨)
ア 被告製品1は、以下の構成を備え、構成要件1Aから1E、1Jを充足す
10 る。(弁論の全趣旨)
1-a プローブコンタクトを嵌装するための内部空間が形成された絶縁
性のソケットベースと、
1-b ソケットベースに嵌装されソケットベースからの脱落が防がれた、
弾発性を有するプローブコンタクトと、を備え、
15 1-c プローブコンタクトは、検査対象に接触される、ソケットベースの
内部空間の一端から露出可能な第1のプランジャと、
1-d DUTボードに接触する、ソケットベースの内部空間の他端に臨む
第2のプランジャと、
1-e 第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねを備え
20 ている。
1-j テスト用ICソケット
イ 被告製品2は、以下の構成を備え、構成要件21Aから21D、21Iを
充足する。(弁論の全趣旨)
2-a ソケットベースに形成された内部空間へ嵌装し脱落を防いだ弾発
25 性を有するプローブコンタクトであって、
2-b 検査対象に接触される、ソケットベースの一端から露出可能な第1
のプランジャと、
2-c DUTボードに接触される、ソケットベースの他端に臨む第2のプ
ランジャと、
5 2-d 第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢するコイルばねを備え
ている。
2-i プローブコンタクト
3 争点
被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか
10 ア 被告製品の「コイルばねは、摺動導通部」を有する「筒状の密巻き部を有
し、」
「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に前記第1及び第2のプランジ
ャの一方に摺動可能に接触し」ているか(構成要件1F、1G、21E、2
1F)(争点1-1)
イ 第1プランジャ、密巻き部、第2プランジャにより構成される導通経路に
15 は、一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存
在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制されるか(構成要件1I、
21H)(争点1-2)
損害(争点2)
本件特許に無効理由があるか
20 ア 本件発明1、21が、特開平3-17974公報(以下「乙7公報」とい
う。)に記載された発明と同一であり、本件特許に新規性欠如の無効理由が
あるか(争点3-1)
イ 本件発明1、21が、特開平8-78078公報(以下「乙8公報」とい
う。)に記載された発明を主引例として容易に発明でき、本件特許に進歩性
25 欠如の無効理由があるか(争点3-2)
ウ 本件特許に、明確性要件違反の無効理由があるか(争点3-3)
エ 本件特許に、サポート要件違反の無効理由があるか(争点3-4)
オ 本件特許に、実施可能要件違反の無効理由があるか(争点3-5)
4 争点に対する当事者の主張
5 被告製品の「コイルばねは、摺動導通部」を有する「筒状の密巻き部を有し、」
「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に前記第1及び第2のプランジャの一
方に摺動可能に接触し」ているか(構成要件1F、1G、21E、21F)
(争
点1-1)
(原告の主張)
10 ア 「密巻き部」(構成要件1F、21E)は、検査時の状態(プランジャに
ついて検査に応じたストローク(コイルばねの収縮によりプローブコンタ
クトが収縮すること)がされた状態)でコイルが密に巻かれた部分(ストロ
ークが大きくなるに応じて疎にまかれた部分も順次接触していくことによ
り密巻き部の範囲は広くなる)と解するのが相当である。被告は、本件特許
15 に係る無効審判においては、
「密巻き部」の範囲について、コイルばねが収
縮していない状態において決定されるものではないと主張していたのであ
り、これに反する主張は許されない。
また、
「摺動導通部」が「電気的に導通可能に」
「摺動可能に接触し」てい
る(構成要件1F、21F等)とは、検査時にプランジャがコイルの「密巻
20 部」に接触していることが必要であり、かつ、それで足りると解すべきであ
る。したがって、被告が主張するようにプローブコンタクトについてストロ
ークが行われていない状態でコイルばねが「密巻き部」であった部分と接触
する必要はないし、一定の範囲のストロークにおいて常に摺動するプランジ
ャと「密巻き部」が導通可能に接触している必要もない。被告が主張する限
25 定を加えるべき記載は特許請求の範囲にも本件明細書にもなく、本件発明は
検査時の抵抗のばらつきを抑制するものであるから被告の主張する限定解
釈は不当である。
イ 被告は、「密巻き部」に当たるためには、常時安定的な電気的導通する経
路になっている必要があると主張するが、プランジャとコイルの密となっ
5 ている部分が接触すれば電気が流れるのであるから、そのような接触があ
れば足りる。
ウ 原告は、被告製品2のサンプル(以下「本件サンプル」という。)を入手
しており、本件サンプルを用いた次の分析によれば、第2プランジャが「密
巻部」に電気的に導通可能に、摺動可能に接触することが認められる。本件
10 サンプルは、本件密部分の末端0.5巻の部分で径が小さくなっており、そ
の結果、第1プランジャとコイルばねの芯がずれ、このことも要因で本件密
部分が第2プランジャに接触する。
シミュレーション
原告は、本件サンプルを分解して各部品の寸法を計測し、その値を用い
15 てシミュレーションソフト上でプランジャとコイルばねからなるプロー
ブコンタクトを再現し、同ソフト上で同プローブコンタクトをストローク
させて、ストロークの量に応じたコイルばねと第2プランジャの距離(以
下「本件距離」という。)をシミュレートした(甲25、26、31、3
9~43。以下「本件シミュレーション」という。 。被告製品は、ソケッ

20 トにセットされるとストローク量は700μm程度になり、フルストロー
クで1500μmになるところ、このストローク区間のほとんど全てにお
いて本件距離が0になっている。
また、ストロークしている間は瞬間的に本件距離が0にならない時があ
るが、ストロークが止まり検査するタイミングでは、密巻部の撓み(中心
25 から左右方向への動き)が止まることによって密巻部とプランジャは接触
して導通する。
摺動痕
本件サンプルを10万回程度ストロークさせたところ、第2プランジャ
の表面には、第2プランジャの末端から600μmの範囲に摺動痕が残っ
5 た。検査では、600μmから700μmの位置で本件密部分がプランジ
ャに接するようにして行ったから、この摺動痕によってプランジャが密巻
部と接触していることが認められる。被告は、本件疎部分によって生じた
可能性があると主張するが、被告によれば本件疎部分の径は本件密部分の
径よりも広いのであるから、本件疎部分が接触しているのであれば、本件
10 密部分も接触していると認められる。
X線写真
本件サンプルをストロークさせて、第2プランジャが密巻部の高さにな
るようにしたところでX線写真(甲24)を撮影したところ、第2プラン
ジャが密巻部に接していることが認められる。
15 (被告の主張)
ア 原告の主張は否認ないし争う
イ 密巻部の「密」とは、「すきまがないこと。ぎっしり詰まっていること」、
「こまかいこと。すきまのないこと」を意味するから、コイルばねのうち
「密」に巻かれた部分である「密巻き部」は、文言上バネが加重を受けてい
20 ない状態で巻き目と巻き目の間に隙間がないように巻かれている部分をい
う。本件明細書の図も、検査前の待機状態でいずれも巻き目と巻き目の間に
すきまがないように巻かれた状態で描かれている。加重を受けていない状
態はもちろんのこと、検査前の待機状態においても隙間がある14巻き目
及び15巻き目は、密巻き部に含まれない。原告の主張を前提にすると、バ
25 ネが加重を受けていない状態で密に巻かれた部分がなくてもストローク時
に隙間がなくなる部分があれば「密巻き部」に該当することになってしまう
が、その場合、密に巻かれた部分がないコイルばねを備えた構成である公知
技術も「密巻き部」を備えることになり、本件発明は新規性を失う。原告は、
本件特許に係る無効審判における被告の主張について指摘するが、被告は
5 原告が主張する趣旨の主張はしていない。
「摺動導通部」の「摺動」は、
「摺る」
(する)と「動く」からなる熟語で
あり、この「摺る」は、
「擦る」「する」又は「こする」
( )と同義であるとこ
ろ、これらは「物を他の物と触れ合わせて動かす」こと、「物と物を触れ合
わせる」ことや「他の物に触れてなでるようにこする」ことを意味する。ま
10 た、
「摺動」とは、特許技術用語として「接触してすり動くこと」
「接触状態
で摺り動かす」ことを意味すると説明されている。このように、
「摺動」は、
物と物とが常に触れ合った状態のまますり動くことを表す言葉であるから、
単なる「導通」ではなく「摺動導通」と記載した場合、
「摺動」しながら「電
気的に導通」すること、すなわち、「物と物とが常に触れ合った状態のまま
15 すり動きながら、電気的に導通し続けること」を意味するものと解される。
構成要件1G、21Fにおいても、「摺動導通部」が、「電気的に導通可能」
な状態で、
「第1及び第2のプランジャの一方に」
「摺動可能」に「接触」す
ること、すなわち、「摺動導通部」は、電気的に常に導通した状態となるよ
うに、
「第1及び第2のプランジャの一方」と常に接触したまますり動く(常
20 に触れ合いながら動く)ことが記載されている。他の特許文献においても、
「摺動導通」の文言が同様の意味で用いられている。
本件発明において、コンタクトプローブは、検査前の待機状態からその後
のストローク中は常に摺動導通している必要があると解すべきであり、本件
明細書の実施例の記載(【0026】【0035】
、 )もそのことを前提にして
25 いる。また、コンタクトプローブは、20万回以上の検査で安定的に用いる
ことが前提とされ、また、顧客が任意のストローク量を設定して検査を行う
ことを想定してコンタクトプローブを設計、製造する必要があるため、検査
前の待機状態から最大限ストロークが可能な状態に至るまで、常に一定の接
触圧を受けながら電気的に導通し続けることが必要になる。
5 原告は、ある一点においてプランジャと「密巻き部」が接すれば良いと主
張するが、この解釈では「摺動」も、「摺動導通」も不要になり、特許請求
の範囲の文言に明らかに反する。また、原告の解釈を前提にある1点のみで
接触することで良いとすると、当該コンタクトプローブについては、当該一
点を検査の位置に調整して用いることになるが、そのようなことはおよそ不
10 可能であり、実用に耐えない。
ウ 原告は、プランジャと接触すれば導通する「密巻き部」に当たると主張す
るが、本件発明において、構成要件1I、21Hの記載は密巻き部を介した
常時安定的な電気的導通を前提にしていることなどからすると、摺動導通す
る「密巻き部」といえるためには、その前提として、当該部位が常時安定的
15 な電気的導通をする部位であり、有意な導通経路であることが必要と解すべ
きである。コイルとプランジャとは別に第1プランジャと第2プランジャで
の導通を確保し、コイルの密の部分の金メッキが薄く、プランジャがコイル
に接触するとしても、その十分な接触圧がかからない場合には、プランジャ
と密巻き部の接触による経路については、常時安定的な電気的導通が確保さ
20 れていないことになるから、接触部位のコイルが密になっており、プランジ
ャと接触することがあったとしても、コイルの当該部位は「密巻き部」に当
たらない。
エ 原告は、本件サンプルが被告製品2であると主張するが、写真や図面だけ
では判断できず、否認する。
25 オ 被告製品2は、第2プランジャが本件密部分に接しないように設計されて
いるため、被告製品2は、本件密部分に接することがないものである。また、
仮に不具合によって接触することがあったとしても、導通に十分な接触圧
が生じることはない。原告は、本件密部分の末端0.5巻の径が小さくなっ
ていることによってコイルばねと第1プランジャの芯がずれると主張する
5 が、本件突出部によってコイルばねの向きが同一の軸線上に固定されるた
め、芯ずれは生じない。
原告が主張する本件サンプルを用いた分析は、次のとおり、いずれも第2
プランジャが「密巻き部」に、電気的に導通可能で摺動可能に接触すること
を認めるに足りるものではない。
10 シミュレーション
被告製品では、本件突出部が十分な径を有して、コイルばねの中心軸を
第1プランジャの中心軸に固定している。本件シミュレーションにはこの
点が反映されておらず、コイルばねの中心軸と第1プランジャの中心軸が
ブレる設定になっている。よって、本件シミュレーションは被告製品の仕
15 様を正確に反映したものであるとはいえない。
また、本件シミュレーションを前提としても、検査前の待機状態である
被告製品2を700μmストロークした状態からストロークが終了する
までの間に、1巻目から原告が本件密部分として主張する13巻目の範囲
においてですら、本件距離が0にならないストローク量が複数あり、プラ
20 ンジャと本件密部分が常時接触しないことが示されている。なお、原告の
シミュレーションでは、ストローク量が飛び飛びの値になっているため、
ほかにも接触していないストローク量がある可能性もある。
摺動痕
原告が指摘する摺動痕は、本件疎部分によって生じた可能性を排除でき
25 ず、本件密部分によって生じたとは認められない。摺動痕が、原告が指摘
する範囲よりも広範囲に生じていることも被告の主張を裏付ける。
X線写真
原告が証拠として提出するX線写真は画像が不鮮明であり、本件密部分
と第2プランジャが接触しているかを判別できない。
5 第1プランジャ、密巻き部、第2プランジャにより構成される導通経路には、
一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存在し、
検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制されるか(構成要件1I、21H)
(争点1-2)
(原告の主張)
10 原告は、密巻き部の有無以外は被告製品2と変わらないプローブコンタクト
2つ(以下、両比較品を総称して「比較品1」という。その外観は別紙比較品
1のとおりである。)と本件サンプルの抵抗値を測定する比較実験をした。そ
の結果は、別紙比較品1実験結果記載のとおりであり(「本件対象製品」と記
載されている折れ線が本件サンプルに係る結果であり、「比較品1」「比較品

15 2」と記載されている折れ線が2つの比較品1に係る結果である。、
) 抵抗値の
ばらつきが抑制されている。
比較品1は、原告と被告の共通の顧客から、原告に送られてきた修理依頼品
の中に混在していたプローブコンタクトである。同顧客がテスト用ソケットメ
ーカーとして認定しているのは、原告、被告及び山一電機株式会社の3社であ
20 るところ、山一電機株式会社のカタログによればその製造している製品は比較
品1の形状と明らかに異なるため、比較品1は被告が製造した製品である。し
たがって、比較品1は、密巻き部の有無以外は被告製品2と同じ仕様のはずで
ある。
さらに、原告は、本件サンプルを分解してコイルばねの向きを逆転させ、本
25 件密部分を第2プランジャ側に組付けた比較品を2つ作成した(以下、両比較
品を総称して「比較品2」という。その外観は、別紙比較品2のとおりである。。

比較品2は、本件サンプルの部品をそのまま利用しているので、密巻き部の有
無以外は本件サンプルと差がないはずである。本件サンプルと比較品2を用い
た実験結果は別紙比較品2実験結果のとおりである(「被告製品」と記載され
5 ている折れ線が本件サンプルに係る結果で、「比較品」と記載されている2つ
の折れ線が2つの比較品2に係る結果である。。
) この結果により、本件サンプ
ルが、比較品2に比べて抵抗値のばらつきが小さいことが示されている。この
結果からも、同様の傾向を示した比較品1が品質的に見て適切な比較対象とな
り得ないとはいえない。
10 被告も独自の比較実験を行っているが、その比較実験の評価については争
う。
また、構成要件1I及び21Hの「前記検査対象の検査時の抵抗のばらつき
が抑制される」という効果は、「前記第1及び第2のプランジャと前記密巻部
とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記
15 摺動導通部として単に1つの部位が存在し」という物理的な構成を備えること
から導かれる効果であるから、当該物理的構成を備えるものは当該効果を奏す
る。したがって、被告製品が当該物理的構成を備えることが証明されれば、当
該効果を奏することも同時に証明される。構成要件1I、21Hの充足性の観
点からは、原告及び被告の実験はいずれも確認的、補足的な意味合いを持つに
20 すぎない。
(被告の主張)
本件サンプルが被告製品2であること、比較品1が被告が製造した製品であ
ることは否認する。
被告において、被告製品2と同等の構造を有する製品(被告製品2と寸法の
25 みが異なる製品。以下「被告比較品」という。)と、被告比較品のコイルばね
の向きを逆転させて本件密部分が第2プランジャ側にあるコンタクトプロー
ブと、被告比較品のコイルばねを本件密巻部を有さないコイルばねに置換した
コンタクトプローブとの3種で抵抗値を測定したところ、抵抗値に有意な差は
認められなかった。したがって、被告製品2を構成するコイルばねの本件密部
5 分には、検査時の抵抗のばらつきを抑制する効果はない。
原告の比較品1を用いた比較実験では、実験当初の1回目から10回目付近
おいて、抵抗値がそれ以降に比べて高い数値を示している。これは、比較品1
の部材の接触面に変質等の劣化が生じていることが原因であると思われ、比較
品1は抵抗値を比較する検査対象として適格性を欠いている。
10 原告による比較品2を用いた実験についても、そもそも、被告製品2で使用
されているコイルばねは、第1プランジャと第2プランジャの側で内径の寸法
が異なっており、コイルばねを取り外してその方向を逆転して組み付けること
はできない。よって、比較品2を用いた実験は、原告の説明のとおりには実施
不可能であり、その結果には信ぴょう性がない。さらに、比較品2の2つのサ
15 ンプルは、実験初期(100回から500回)に大きな抵抗値の差が生じてお
り、また、片方は2万回を超えて測定不能となっているのに、もう片方は5万
回を超えてから測定不能になっている。同様の方法で作成した二つの比較品の
間でこのような差が生じるのは不自然であり、検査対象として不適切であった
ことが示されている。また、比較品2のうちの一方については、1500回に
20 おいて標準偏差が突出しており、不自然であり、これは、実験結果が示す内容
が正確ではないか、用いた部品の品質や構造に問題があったことを示してい
る。
原告は、本件特許の審査過程においては、複数のサンプル間の特定のストロ
ーク回数における抵抗値のばらつきを問題にしていたところ、本件訴訟におい
25 ては、単一のサンプルにおける特定のストローク数の範囲における抵抗値のば
らつき(30回から350回の抵抗値の標準偏差、501回から550回の抵
抗値の標準偏差等を算出し、これらの標準偏差の数値のばらつき)を問題にし
ている。構成要件1I、21Hで問題としている抵抗のばらつきが、本件訴訟
において原告が主張する趣旨のばらつきであることは明細書には記載されて
5 おらず、審査過程において原告が説明していたばらつきの意味とも異なるか
ら、構成要件1I、2Hにおける「抵抗のばらつき」が原告が本件訴訟で主張
する趣旨のばらつきであるとはいえない。
⑶ 損害(争点2)
(原告の主張)
10 被告は、被告製品を平成26年1月頃から5年間程度販売したため、原告が
受けた損害は1億5000万円を下らない。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
⑷ 本件発明1、21が、乙7公報で開示された発明と同一であり、本件特許に
15 新規性欠如の無効理由があるか(争点3-1)
(被告の主張)
ア 本件発明1について
乙7公報には、次の発明(以下「乙7-1発明」という。)が記載され
ている。
20 a 支持孔が形成された絶縁基板2と、
b 支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の接触子1と、を備え、
c 接触子1は、プリント配線板5上の導電パターン6に接触される、支
持孔の一端から露出可能な針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11
で構成されるプランジャと、
25 d リード線25に接続されたプラグ26に接触する、支持孔の他端に臨
むレセプタクル3と、
e 針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11で構成されるプランジャ、
並びにレセプタクル3を逆方向に付勢する圧縮コイルばね9と、を備え、
f 圧縮コイルばね9は、(上記プランジャを構成する)軸部8と摺動し
5 導通する部分(「摺動導通部」)とレセプタクル3の環状内向突部12に
固定され導通する部分(「固定導通部」)とを有する筒状の密着巻部9a
を有し、
g 摺動導通部は、電気的に導通可能に、(上記プランジャを構成する)
軸部8に摺動可能に接触し、
10 h 固定導通部は、電気的に導通可能に、レセプタクル3の環状内向突部
12に固定され、
i 針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11で構成されるプランジャ、
レセプタクル3並びに密着巻部9aとにより構成される導通経路には、
針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11で構成されるプランジャが
15 摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存在し、
j プリント配線板5上の導電パターン6の検査時の内部抵抗が低くか
つ安定化する
k 絶縁基板2に保持される接触子1
本件発明1の構成要件1Aから1Kと乙7―1発明における構成要件
20 aからkは、以下のとおり、全ての点において一致する。
(一致点1-1)
乙7-1発明における構成要件aの「絶縁基板2」は、本件特許発明1
における構成要件1Aの「絶縁体」に相当する。
(一致点1-2)
25 乙7-1発明における構成要件bの「接触子1」は、本件特許発明1に
おける構成要件1Bの「導電アッセンブリ」に相当する。
(一致点1-3)
乙7-1発明における構成要件cの「針状体4、胴体部7、軸部8及び
拡頭部11で構成されるプランジャ」は、本件特許発明1における構成要
5 件1Cの「第1のプランジャ」に相当する。
(一致点1-4)
乙7-1発明における構成要件dの「レセプタクル3」は、本件特許発
明1における構成要件1Dの「第2のプランジャ」に相当する。
(一致点1-5)
10 乙7-1発明における構成要件eの「圧縮コイルばね9」は、本件特許
発明1における構成要件1Eの「コイルばね」に相当する。
(一致点1-6)
乙7-1発明における構成要件fの「密着巻部9a」は、本件特許発明
1における構成要件1Fの「密巻き部」に相当する。
15 (一致点1-7)
乙7-1発明における構成要件gの「摺動導通部」は、本件特許発明1
における構成要件1Gの「摺動導通部」に相当する。
(一致点1-8)
乙7-1発明における構成要件hの「固定導通部」は、本件特許発明1
20 における構成要件1Hの「固定導通部」に相当する。
(一致点1-9)
乙7-1発明における構成要件iの「針状体4、胴体部7、軸部8及び
拡頭部11で構成されるプランジャ、レセプタクル3並びに密着巻部9a
とにより構成される導通経路」は、本件特許発明1における構成要件1I
25 の「導通経路」に相当し、上記導通経路には、構成要件1Iにおいて「前
記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部
位が存在」するのと同様、「針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11
で構成されるプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部
位が存在」する。
5 (一致点1-10)
乙7-1発明における構成要件jの「プリント配線板5上の導電パタ-
ン6の検査時の内部抵抗が低くかつ安定化する」は、本件発明1における
構成要件1Jの「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」に相
当する。
10 (一致点1-11)
乙7-1発明における構成要件kの「絶縁基板2に保持される接触子1」
は、本件発明1における構成要件1Kの「マイクロコンタクタプローブ」
に相当する。
イ 本件発明21について
15 乙7公報には、次の発明(以下「乙7-2発明」という。)が記載され
ている。
l 絶縁基板2に形成された支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の接触
子1であって、
m プリント配線板5上の導電パターン6に接触される、支持孔の一端か
20 ら露出可能な針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11で構成される
プランジャと、
n リード線25に接続されたプラグ26に接触される、支持孔の他端に
臨むレセプタクル3と、
o 針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11で構成されるプランジャ
25 並びにレセプタクル3を逆方向に付勢する圧縮コイルばね9と、を備え、
p 圧縮コイルばね9は、(上記プランジャを構成する)軸部8と摺動し
導通する部分(「摺動導通部」)とレセプタクル3の環状内向突部12に
固定され導通する部分(「固定導通部」)とを有する筒状の密着巻部9a
を有し、
5 q 摺動導通部は、電気的に導通可能に、軸部8に摺動可能に接触し、
r 固定導通部は、電気的に導通可能に、レセプタクル3の環状内向突部
12に固定され、
s 針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11で構成されるプランジャ、
レセプタクル3並びに密着巻部9aとにより構成される導通経路には、
10 針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11で構成されるプランジャが
摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位が存在し、
t プリント配線板5上の導電パターン6の検査時の内部抵抗が低くか
つ安定化する
u 接触子1。
15 本件特許発明21における構成要件21Aから21Jと乙7-2発明
における構成要件lからuは、以下のとおり、全ての点において一致する。
(一致点21-1)
乙7-2発明における構成要件lの「接触子1」は、本件特許発明21
における構成要件21Aの「導電アッセンブリ」に相当する。
20 (一致点21-2)
乙7-2発明における構成要件mの「針状体4、胴体部7、軸部8及び
拡頭部11で構成されるプランジャ」は、本件発明21における構成要件
21Bの「第1のプランジャ」に相当する。
(一致点21-3)
25 乙7-2発明における構成要件nの「レセプタクル3」は、本件発明2
1における構成要件21Cの「第2のプランジャ」に相当する。
(一致点21-4)
乙7-2発明における構成要件oの「圧縮コイルばね9」は、本件発明
21における構成要件21Dの「コイルばね」に相当する。
5 (一致点21-5)
乙7-2発明における構成要件pの「密着巻部9a」は、本件発明21
における構成要件1Eの「密巻き部」に相当する。
(一致点21-6)
乙7-2発明における構成要件qの「摺動導通部」は、本件発明21に
10 おける構成要件21Fの「摺動導通部」に相当する。
(一致点21-7)
乙7-2発明における構成要件rの「固定導通部」は、本件発明21に
おける構成要件21Gの「固定導通部」に相当する。
(一致点21-8)
15 乙7-2発明における構成要件sの「針状体4、胴体部7、軸部8及び
拡頭部11で構成されるプランジャ、レセプタクル3並びに密着巻部9a
とにより構成される導通経路」は、本件発明21における構成要件21H
の「導通経路」に相当し、上記導通経路には、構成要件21Hにおいて「前
記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部
20 位が存在」するのと同様、「針状体4、胴体部7、軸部8及び拡頭部11
で構成されるプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部
位が存在」する。
(一致点21-9)
乙7-2発明における構成要件tの「プリント配線板5上の導電パター
25 ン6の検査時の内部抵抗が低くかつ安定化する」は、本件発明21におけ
る構成要件21Iの「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」
に相当する。
(一致点21-10)
乙7-2発明における構成要件uの「接触子1」は、本件発明21にお
5 ける構成要件21Jの「導電アッセンブリ」に相当する。
原告が主張する相違点1について、乙7公報に記載されている「針状体
4」は、
「絶縁基板2」の下端(すなわち「支持孔の一端」)から下方向に
露出可能となっており、「検査対象に接触される、支持孔の一端から露出
可能」との構成を備えていることは明らかである。本件発明1、21の特
10 許請求の範囲において「第1のプランジャ」が「支持孔」に直接接触して
いるか否かの限定はなく、
「針状体4」と「絶縁基板2」との間に「レセプ
タクル3」が介在していることは、上記構成を備えるか否かの結論に影響
を及ぼすものではない。
原告が主張する相違点2は、乙7-1発明、乙7-2発明の「レセプタ
15 クル3」が「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第2のプラ
ンジャ」を備えないとの主張を理由とするものである。しかし、本件発明
1、21における特許請求の範囲では、「第2のプランジャ」について、
「前記支持孔の他端に臨む」との記載があるだけで、それ以上の構成の限
定はない。むしろ、例えば、本件明細書の図9で示された第8の実施態様
20 における「プランジャ4」は「リード導体11」に固定され、検査対象に
接触されるのと反対の側が固定的な構造となっている。このような本件明
細書の記載からも「検査対象に接触されるのと反対の側は固定的な構造」
のものであっても本件発明における「プランジャ」から除外されるわけで
はないことは明らかである。
25 原告が主張する相違点3について、原告の主張は、相違点2と同様、乙
7-1発明、乙7-2発明の「レセプタクル3」が「リード導体に接触す
る、支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」に対応する構成を備えていな
いとの主張を理由とするものであり、この主張が誤りであることは、相違
点2において述べたとおりである。
5 原告が主張する相違点4について、本件発明の特許請求の範囲の記載に
おいて、他に導通経路があるか否かの限定はないから、原告の上記主張は、
相違点に関する主張として意味をなさない。
原告が主張する相違点5について、原告の主張は、相違点2と同様に、
乙7-1発明、乙7-2発明の「レセプタクル3」が「リード導体に接触
10 する、支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」に対応する構成を備えてい
ないとの主張を理由とするものであり、この主張が誤りであることは、相
違点2において述べたとおりである。
原告が主張する相違点6について、原告の主張は、相違点4において原
告が主張する理由と同じく、他の導通経路が存在することを理由とするも
15 のであり、この主張は、相違点4において述べたとおり、理由がない。
(原告の主張)
本件発明1と乙7-1発明、本件発明21と乙7-2発明を対比すると、次
の相違点がある。
(相違点1)
20 本件発明1、21は、「検査対象に接触される、前記支持孔の一端から露出
可能な第1のプランジャ」(構成要件1C、21B)を備えるのに対し、乙7
-1発明、乙7-2発明の針状体4の胴体部7は、レセプタクル3の一端から
露出可能であるものの、絶縁基板2の孔の一端から露出しない点
(相違点2)
25 本件発明1、21は、「リード導体に接触する、前記支持孔の他端に臨む第
2のプランジャ」
(構成要件1D、21C)を備えるのに対し、乙7-1発明、
乙7-2発明は「針状体4と圧縮コイルばね9とからなるプローブ本体14を
レセプタクル3に組付ける」構造であり、「前記支持孔の他端に臨む第2のプ
ランジャ」に対応する構成を有しない点
5 (相違点3)
本件発明1、21は、「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢する
コイルばね」(構成要件1E、21D)を備えるのに対し、乙7-1発明、乙
7-2発明は「針状体4と圧縮コイルばね9とからなるプローブ本体14をレ
セプタクル3に組付ける」構造であり、「前記支持孔の他端に臨む第2のプラ
10 ンジャ」に対応する構成を有しないため、コイルばね9が「『第2のプランジ
ャ』を付勢」し得ず、また、コイルばね9が「第1のプランジャを『第2のプ
ランジャと逆方向』に付勢」し得ない点
(相違点4)
本件発明1、21の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、前記第1及
15 び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触する摺動導通部を有する筒状の
密巻き部」(構成要件1F、1G、21E、21F)を有するのに対し、乙7
-1発明、乙7-2発明では、導電パターン6とリード線25とが、針状体4
の胴体部7及びレセプタクル3を介して導通するものであるため、圧縮コイル
ばね9は摺動導通部を有しない点
20 (相違点5)
本件発明1、21の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、前記第1及
び第2のプランジャの他方に固定される固定導通部を有する筒状の密巻き部」
(構成要件1F、1H、21E、21G)を有するのに対し、乙7-1発明、
乙7-2発明はレセプタクル3の内部に「針状体7とコイルばね9との2部品
25 を1体化してなるプローブ本体14」を受容させる構造であり、「前記支持孔
の他端に臨む第2のプランジャ」を有しないため、コイルばね9が「第1及び
第2のプランジャの『他方』に固定」され得ない点
(相違点6)
本件発明1、21では、
「前記第1及び第2のプランジャと密巻き部とによ
5 り構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導
通部として単に1つの部位が存在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑
制される」(構成要件1I、21H)のに対し、乙7-1発明、乙7-2発明
では、導電パターン6とリード線25とが、針状体4の胴体部7及びレセプタ
クル3を介して導通するものであるため、圧縮コイルばね9は摺動導通部を有
10 しないため、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通
経路」「一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位」

も存在せず、「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制」されない点
本件発明1、21と乙7-1発明、乙7-2発明との相違点は上述のとおり
であるから、少なくとも、被告主張の(一致点1-3)ないし(一致点1-1
15 0)及び(一致点21-2)ないし(一致点21-9)は一致点ではない。
⑸ 本件発明1、21に係る特許が、乙8公報で開示された発明を主引例とする
進歩性欠如の無効理由があるか(争点3-2)
(被告の主張)
ア 本件発明1について
20 乙8公報には、次の発明(以下「乙8-1発明」という。)が記載され
ている。
a 設置孔141及び貫通孔142で構成される支持孔が形成された壁
部14と、
b 支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性のコネクタ・ピン1と、を備え、
25 c コネクタ・ピン1は、検査対象に接触される、貫通孔142の一端か
ら露出可能なプランジャ10の可動接点頭部101と、
d 固定電極113に接触する、貫通孔142の他端に臨む固定電極基部
111と固定接点接触部112からなる固定側電極11と、
e プランジャ10と固定側電極11を逆方向に付勢する付勢バネ13
5 と、を備え、
f 付勢バネ13は、プランジャ10と摺動し、導通する部分と固定側電
極11に固定され導通する部分とを有し、
g 付勢バネ13がプランジャ10と摺動し、導通する部分は、電気的に
導通可能に、プランジャ10の外周面に摺動可能に接触し、
10 h 付勢バネ13が固定側電極11に固定され導通する部分は、電気的に
導通可能に、固定側電極11に固定され、
i 固定側電極11、プランジャ10及び付勢バネ13とにより構成され
る導通経路には、プランジャ10が摺動接触する部分として単に1つの
部位が存在する
15 j 壁部14に保持されるコネクタ・ピン1
本件発明1と乙8-1発明は次の点で一致する。
(一致点1-1)
乙8-1発明における構成要件aの「壁部14」は、本件発明1におけ
る構成要件1Aの「絶縁体」に相当する。
20 (一致点1-2)
乙8-1発明における構成要件bの「コネクタ・ピン1」は、本件発明
1における構成要件1Bの「導電アッセンブリ」に相当する。
(一致点1-3)
乙8-1発明における構成要件cの「プランジャ10」は、本件発明1
25 における構成要件1Cの「第1のプランジャ」に相当する。
(一致点1-4)
乙8-1発明における構成要件dの「固定電極基部111と固定接点接
触部112からなる固定側電極11」は、本件発明1における構成要件1
Dの「第2のプランジャ」に相当する。
5 (一致点1-5)
乙8-1発明における構成要件eの「付勢バネ13」は、本件発明1に
おける構成要件1Eの「コイルばね」に相当する。
(一致点1-6)
乙8-1発明における構成要件gの「付勢バネ13がプランジャ10と
10 摺動し、導通する部分」は、本件発明1における構成要件1Gの「摺動導
通部」に相当する。
(一致点1-7)
乙8-1発明における構成要件hの「付勢バネ13が固定側電極11に
固定され導通する部分」は、本件発明1における構成要件1Hの「固定導
15 通部」に相当する。
(一致点1-8)
乙8-1発明における構成要件jの「壁部14に保持されるコネクタ・
ピン1」は、本件発明1における構成要件1Kの「マイクロコンタクタプ
ローブ」に相当する。
20 本件発明1と乙8-1発明は、次の点で相違する。
(相違点1-1)
本件発明1のコイルばねは「密巻き部」を有している(構成要件1F)
のに対し、乙8-1発明の付勢ばね13は「密巻き部」を有しているか否
か不明である点
25 (相違点1-2)
本件発明1には、第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成さ
れる導通経路が示されている(構成要件1I)のに対し、乙8-1発明で
は、付勢ばね13が「密巻き部」を有しているか否か不明である関係から、
「プランジャ10」 固定電極基部111と固定接点接触部112からな


5 る固定側電極11」及び「密巻き部」で構成される導通経路があるかが不
明である点
(相違点1-3)
本件発明1のマイクロコンタクトプローブは、「検査時の抵抗のばらつ
きが抑制される」(構成要件1J)のに対し、乙8-1発明のコネクタ・
10 ピン1は、検査時の抵抗のばらつきを抑制するか否か不明である点
特開2000-46867号公報(以下「乙9公報」という。)では、
プランジャとしての導電性針状体9が、コイルばねの密巻き部と電気的
に導通可能に摺動して接触すること、プランジャとしての導電性針状体
9、密巻き部及び配線パターン2aで構成される導通経路において密巻
15 き部では、電流がコイル状に流れずに軸線方向に流れ得ることから、高
周波の場合に特に低インダクタンス化及び低抵抗化が向上され得ること
が開示されている(以下「乙9発明」という)。
前記 で主張したとおり、圧縮コイルばねのうち導通経路となり得る部
分に密巻き部を設けることにより、導通時に密巻き部において電流がコイ
20 ル状に流れずに軸線方向に流れ得ることによって、低インダクタンス化及
び低抵抗化の向上を図ることができることは、乙9公報に開示されている
(乙9公報【0013】【0014】
、 、図1)。
乙8-1発明及び乙9発明は、いずれも、導電性接触子の構造に関する
技術であり、技術分野が同一である。そして、乙8公報には、付勢ばねを
25 介した導通経路における技術課題として、付勢ばねの抵抗が非常に大きい
こと、そのため、電流が正常に流れないおそれがあることが明らかにされ
ている(乙8公報【0003】。このような課題に対し、これを解決する

手段として、乙9発明では、導通経路を構成する付勢ばねに密巻き部を設
けることにより、通電時、電流がコイル状に流れずに軸線方向に流れ得る
5 ことによって、低インダクタンス化及び低抵抗化の向上を図ることができ
ることが具体的に示されている。
以上によれば、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有す
る者であれば、上記技術課題の解決手段として乙9公報に開示された技術
を乙8-1発明に適用することを考えることは極めて自然かつ容易であ
10 り、乙9公報に開示の内容を乙8-1発明に適用することは、その発明の
属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に推考し得るも
のである。
より具体的にいえば、乙8公報の図6の構成において、二つのプランジ
ャ間の圧縮コイルばねを介した導通経路を想定し、乙9発明の技術事項を
15 適用して、「付勢バネ13がプランジャ10と摺動し、導通する部分」を
密巻き部とすることは容易に推考し得るものである。これにより、付勢ば
ね13は「密巻き部」を有することになる(相違点1-1に係る構成)。
そして、「プランジャ10」「固定電極基部111と固定接点接触部11

2からなる固定側電極11」及び「密巻き部」で構成される導通経路(相
20 違点1-2に係る構成)においては、乙9発明によれば、導通時に密巻き
部において電流がコイル状に流れずに軸線方向に流れ得ることによって、
低インダクタンス化及び低抵抗化が向上し、検査時の抵抗のばらつきが抑
制されることになる(相違点1-3に係る構成)。
イ 本件発明21について
25 乙8公報には、次の発明(以下「乙8-2発明」という。)が記載され
ている。
k 壁部14に形成された設置孔141と貫通孔142へ嵌装し脱落を
防いだ弾発性のコネクタ・ピン1であって、
l 検査対象に接触される、貫通孔142の一端から露出可能なプランジ
5 ャ10の可動接点頭部101と、
m 固定電極113に接触される、貫通孔142の他端に臨む固定電極基
部111と固定接点接触部112からなる固定側電極11と、
n プランジャ10と固定側電極11を逆方向に付勢する付勢バネ13
と、を備え、
10 o 付勢バネ13は、プランジャ10と摺動し、導通する部分と固定側電
極11に固定され導通する部分とを有し、
p 付勢バネ13がプランジャ10と摺動し、導通する部分は、電気的に
導通可能に、プランジャ10の外周面に摺動可能に接触し、
q 付勢バネ13が固定側電極11に固定され導通する部分は、電気的に
15 導通可能に、固定側電極11に固定され、
r 固定側電極11とプランジャ10と付勢バネ13とにより構成され
る導通経路には、プランジャ10と付勢バネ13が摺動接触する単に1
つの部位が存在する
s コネクタ・ピン1。
20 本件発明21と乙8-2発明は次の点で一致する。
(一致点21-1)
乙8-2発明における構成要件kの「コネクタ・ピン1」は、本件発明
21における構成要件21Aの「導電アッセンブリ」に相当する。
(一致点21-2)
25 乙8-2発明における構成要件lの「プランジャ10」は、本件発明2
1における構成要件21Bの「第1のプランジャ」に相当する
(一致点21―3)。
乙8-2発明における構成要件mの「固定電極基部111と固定接点接
触部112からなる固定側電極11」は、本件発明21における構成要件
5 21Cの「第2のプランジャ」に相当する。
(一致点21-4)
乙8-2発明における構成要件nの「付勢バネ13」は、本件発明21
における構成要件21Dの「コイルばね」に相当する。
(一致点21-5)
10 乙8-2発明における構成要件pの「付勢バネ13がプランジャ10と
摺動し、導通する部分」は、本件発明21における構成要件21Fの「摺
動導通部」に相当する。
(一致点21-6)
乙8-2発明における構成要件qの「付勢バネ13が固定側電極11に
15 固定され導通する部分」は、本件発明21における構成要件21Gの「固
定導通部」に相当する。
(一致点21-7)
乙8-2発明における構成要件sの「コネクタ・ピン1」は、本件発明
21における構成要件21Jの「導電アッセンブリ」に相当する。
20 本件発明21と乙8-2発明は、次の点で相違する。
(相違点21-1)
本件発明21のコイルばねは「密巻き部」を有している(構成要件21
E)のに対し、乙8-2発明の付勢ばね13は「密巻き部」を有している
か否か不明である点
25 (相違点21-2)
本件発明21には、第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成
される導通経路が示されている(構成要件21H)のに対し、乙8-2発
明では、付勢ばね13が「密巻き部」を有しているか否か不明である関係
から、「プランジャ10」「固定電極基部111と固定接点接触部112

5 からなる固定側電極11」及び「密巻き部」で構成される導通経路がある
かが不明である点
(相違点21-3)
本件発明21の導電アッセンブリは、「検査時の抵抗のばらつきが抑制
される」(構成要件21I)のに対し、乙8-2発明のコネクタ・ピン1
10 は、検査時の抵抗のばらつきを抑制するか否か不明である点
前記ア で主張したとおり、圧縮コイルばねのうち導通経路となりうる
部分に密巻き部を設けることにより、導通時に密巻き部において電流が
コイル状に流れずに軸線方向に流れ得ることによって、低インダクタン
ス化及び低抵抗化の向上を図ることができることは、乙9公報に開示さ
15 れている(乙9公報【0013】【0014】
、 、図1)。
乙8―2発明及び乙9発明は、いずれも、導電性接触子の構造に関する
技術であり、技術分野が同一である。そして、乙8公報には、付勢ばねを
介した導通経路における技術課題として、付勢ばねの抵抗が非常に大きい
こと、そのため、電流が正常に流れないおそれがあることが明らかにされ
20 ている(乙8公報【0003】。このような課題に対し、これを解決する

手段として、乙9発明では、導通経路を構成する付勢ばねに密巻き部を設
けることにより、通電時、電流がコイル状に流れずに軸線方向に流れ得る
ことによって、低インダクタンス化及び低抵抗化の向上を図ることができ
ることが具体的に示されている。
25 以上によれば、乙9公報に接した本件発明の属する技術の分野における
通常の知識を有する者であれば、上記課題の解決手段として乙9公報に開
示された技術を乙8-2発明に適用することを考えることは極めて自然
かつ容易なことであり、乙9公報に開示の内容を乙8-2発明に適用する
ことは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容
5 易に推考し得るものである。
より具体的にいえば、乙8公報の図6の構成において、2つのプランジ
ャ間の圧縮コイルばねを介した導通経路を想定し、乙9発明の技術事項を
適用して、「付勢バネ13がプランジャ10と摺動し、導通する部分」を
密巻き部とすることは容易に推考し得るものである。これにより、付勢ば
10 ね13は「密巻き部」を有することになる(相違点21-1に係る構成)。
そして、「プランジャ10」「固定電極基部111と固定接点接触部11

2からなる固定側電極11」及び「密巻き部」で構成される導通経路(相
違点21-2に係る構成)においては、乙9発明によれば、導通時に密巻
き部において電流がコイル状に流れずに軸線方向に流れ得ることによっ
15 て、低インダクタンス化及び低抵抗化が向上し、検査時の抵抗のばらつき
が抑制されることになる(相違点21-3に係る構成)。
ウ 原告が主張する相違点1は、「固定側電極11」が「第2のプランジャ」
に当たらないと主張するものと理解できるが、本件発明1、21における特
許請求の範囲では、
「第2のプランジャ」について、
「前記支持孔の他端に臨
20 む」との記載があるだけで、それ以上の構成の限定はない。また、本件明細
書における記載にも、
「第2のプランジャ」の構成を限定するような文言は
なく、本件明細書の記載上、乙8公報で開示された構成(「固定電極側基部
111と固定接点接触部112からなる固定側電極11」 が
) 「プランジャ」
から除外される根拠は何もないから、原告の主張には理由がない。
25 原告が主張する相違点2、相違点5及び相違点6の一部(「前記支持孔の
他端に臨む第2のプランジャに対応する構成を有しない」と主張する部分)
は、相違点1と同様、乙8発明の「固定側電極11」が「リード導体に接触
する、支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」に対応する構成を備えていな
いとの主張を理由とするものであり、この主張が誤りであることは、相違点
5 1において述べたとおりである。
原告が主張するその余の相違点は、乙8発明に本件発明1、21における
「密巻き部」が開示されていないことを主張するものであるが、相違点に係
る構成が乙9発明によって容易に想到できることは前記ア、イで主張したと
おりである。
10 エ 原告は、乙9公報には本件発明1、21と乙8発明との相違点に係る構成、
具体的には、原告が主張する相違点1、同2、同4ないし至同6に係る構成
が開示されていないと主張する。しかし、乙8発明との相違点として原告が
挙げるものは、いずれも乙8発明の「固定側電極11」が「リード導体に接
触する、支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」に対応する構成を備えてい
15 ないとの主張を理由とするものであるところ、前記ウのとおり、この主張自
体が誤りであるから、原告の上記主張は失当である。
オ また、原告は、乙8-1発明、乙8-2発明に乙9発明の密巻き部10a
を有する圧縮コイルばね10を組み合わせることは困難であると主張する
が、乙8公報の図6に示された構成において、圧縮コイルばね10のうち、
ガイド部103との摺動接触を考慮してその一部(下の図において青色で
示す部分)を密巻きにすることは可能であり、その際、
「ガイド部103を
伸長させ」たり、
「密巻き部10aを伸長させる」必要はない。したがって、
原告の主張は失当である。
5 そして、乙8公報及び乙9公報はいずれも、導電性接触子の構造に関する文
献であり、プランジャと摺動接触する箇所におけるコイルばねを密巻きとする
乙9の図1に接した当業者であれば、同じく導電性接触子の構造を示す乙8の
図6の構造においてプランジャと摺動接触する箇所において圧縮コイルばね
10のうち、ガイド部103との摺動接触を考慮してその一部を密巻きとする
10 ことは、何の困難もなく容易にできることである。
(原告の主張)
ア 本件発明1、21と乙8-1発明、乙8-2発明とを対比すると、少なく
とも以下の各点で両者は相違する。
(相違点1)
15 本件発明1、2は、「リード導体に接触する、支持孔の他端に臨む第2の
プランジャ」(構成要件1D、21C)を備えるのに対し、乙8-1発明、
乙8-2発明は、設置孔141の開口端の一方から固定側電極11を突設さ
せて固定し、設置孔141の開口端の他方にプランジャ10を収納する構造
であり、「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」に対応する構成を有
20 しない点
(相違点2)
本件発明1、21は、「前記第1及び第2のプランジャを逆方向に付勢す
るコイルばね」
(構成要件1E、21D)を備えるのに対し、乙8-1発明、
乙8-2発明は、設置孔141の開口端の一方から固定側電極11を突設さ
25 せて固定し、設置孔141の開口端の他方にプランジャ10を収納する構造
であり、「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」に対応する構成を有
しないため、付勢バネ13が「『第2のプランジャ』を付勢」し得ず、また、
付勢バネ13が「第1のプランジャを『第2のプランジャと逆方向』に付勢」
し得ない点
5 (相違点3)
本件発明1、21の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、第1及び
第2のプランジャの一方に摺動可能に接触する摺動導通部を有する筒状の
密巻き部」(構成要件1F、1G、21E、21F)を有するのに対し、乙
8-1発明、乙8-2発明では、プランジャ10を貫通孔142側に常に押
10 圧させるための、スライダ部102と固定電極基部111との間に設置され
る付勢バネ13が開示されているのみで、付勢バネ13は摺動導通部を有す
る筒状の密巻き部を備えない点
(相違点4)
本件発明1、21の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、第1及び
15 第2のプランジャの他方に固定される固定導通部を有する筒状の密巻き部」
(構成要件1F、1H、21E、21G)を有するのに対し、乙8-1発明、
乙8-2発明では、プランジャ10を貫通孔142側に常に押圧させるため
の、スライダ部102と固定電極基部111との間に設置される付勢バネ1
3が開示されているのみで、付勢バネ13は固定導通部を有する筒状の密巻
20 き部を備えない点
(相違点5)
本件発明1、21の「コイルばね」は、「電気的に導通可能に、第1及び
第2のプランジャの他方に固定される固定導通部を有する筒状の密巻き部」
(構成要件1F、1H、21E、21G)を有するのに対し、乙8-1発明、
25 乙8-2発明は、設置孔141の開口端の一方から固定側電極11を突設さ
せて固定し、設置孔141の開口端の他方にプランジャ10を収納する構造
であり、「前記支持孔の他端に臨む第2のプランジャ」を有しないため、付
勢バネ13が「第1及び第2のプランジャの『他方』に固定」され得ない点
(相違点6)
5 本件発明1、21では、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより
構成される導通経路には、一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部とし
て単に1つの部位が存在し、検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制され
る」
(構成要件1I、21H)のに対し、乙8-1発明、乙8-2発明では、
設置孔141の開口端の一方から固定側電極11を突設させて固定し、設置
10 孔141の開口端の他方にプランジャ10を収納する構造であり、「前記支
持孔の他端に臨む第2のプランジャ」に対応する構成を有しないことに加え、
プランジャ10を貫通孔142側に常に押圧させるための、スライダ部10
2と固定電極基部111との間に設置される付勢バネ13が開示されてい
るのみで、付勢バネ13は摺動導通部を有する筒状の密巻き部を備えないた
15 め、「第1及び第2のプランジャと密巻き部とにより構成される導通経路」
も「一方のプランジャが摺動接触する摺動導通部として単に1つの部位」も
存在せず、「検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制」されない点
したがって、少なくとも被告主張の一致点1-4ないし一致点1-7及び
一致点21-3ないし一致点21-6は一致点ではない。
20 イ 乙9公報には、少なくとも相違点1、2、4ないし6に係る各構成が開示
されていないから、当業者は、乙8公報及び乙9公報の記載を参照しても本
件発明1、21に想到することはできない。
ウ そもそも、乙8-1発明、乙8-2発明と乙9発明とでは根本的な構造が
相違しているから、乙9発明の構造の一部を部分的に抜き出して乙8-1
25 発明、乙8-2発明の一部に部分的に適用することはできず、組み合わせが
不能である。
すなわち、乙8-1発明、乙8-2発明は、設置孔141の開口端の一方
から固定側電極11を突設させて固定し、設置孔141の開口端の他方にプ
ランジャ10を収納し、プランジャ内孔100に固定側電極11の固定電極
5 1113が配置され、プランジャ10のスライダ部102と固定側電極11
の固定電極113とが摺動接触して導通させるものであって、付勢バネ13
は、単に、プランジャ10を貫通孔142側に常に押圧させるためのものに
すぎない構造である。
したがって、乙8発明の付勢バネ13は、プランジャ10を貫通孔142
10 側に付勢する目的を達成するものであり、乙8の図6を参照しても、付勢バ
ネ13が配置される部分はスライダ部102と固定電極基部111との間
の、孔の全長の半分以下の長さの短い領域である。
このような領域に、乙9発明の、密着巻き部10aを有する圧縮コイルば
ね10を入れようとすれば、ガイド部103と密着巻き部10aとを摺動接
15 触させるために、ガイド部103を伸長させるか、密着巻き部10aを伸長
させる必要があるところ、これは、乙8発明に乙9発明を適用した上でさら
なる変更が必要になる、いわゆる「容易の容易」の類型に該当し、当業者が
容易に想到することができないものである。
10 図22 乙8 図6 図23 乙9 図1
エ 乙8-1発明、乙8-2発明に乙9発明の密着巻き部10aを有する圧縮
コイルばね10を組み合わせる動機付けは存在しない。
すなわち、乙8公報には、「従来のコネクタ・ピンにおいては、正常状態
では上述のとおり、電極b、ケーシングaの内周面、スライダdの外周面、
15 可動接点頭部eで形成される通電経路が存在しているが、スライダdの外周
面とケーシングaの内周面との間に僅かな間隙があるために、通常はズレて
いるスライダdの中心軸とケーシングaの中心軸とが一致すると、スライダ
dの外周面とケーシングaの内周面との間隙が全周にわたって存在するこ
とになり、上記通電経路が遮断され、ケーシングaとスライダdとの間に付
20 勢バネfが介在した通電経路のみが存在することになり、非常に抵抗の大き
い付勢バネfを介して流れる電流が正常時の略2%程度に低下し、電源オフ
状態になる恐れがあった」
(乙8公報【0003】)と記載されていることか
ら、乙8-1発明、乙8-2発明に用いられる付勢バネ13は、その名の通
り、単に「付勢」することを目的としたバネにすぎない。
25 乙8-1発明、乙8-2発明においては、付勢バネ13を、乙9発明の圧
縮コイルばね10のように導通経路を構成する部材として用いることの示
唆は存在せず、単に「付勢」することを目的としたバネであることを説明す
るのみであるから、乙8公報に接した当業者は、付勢バネ13を、導通経路
を構成する部材として用いる発想には至らない。
5 したがって、乙8-1発明、乙8-2発明に乙9発明の圧縮コイルばね1
0を組み合わせる動機付けは存在しない。
⑹ 本件特許に、明確性要件違反の無効理由があるか(争点3-3)
(被告の主張)
本件発明1及び本件発明21における「密巻き部」は、摺動導通部と固定導
10 通部を有し筒状であること以外に構成についての限定がない。他方で、「前記
第1及び第2のプランジャと前記密巻き部とにより構成される導通経路には、
前記一方のプランジャが摺動接触する前記摺動導通部として単に1つの部位
が存在し、前記検査対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」(構成要件
1I及び21H)とされ、検査時の抵抗のばらつきが抑制される」密巻き部」
「 「
15 であることが要件となっている。また、本件明細書の記載によれば、単に相対
的にみて「2つの摺動導通部」が存在するものよりも「抵抗のばらつき」が軽
減されればよいということではなく、「インダクタンス及び抵抗の増大」を伴
わないことが作用効果の前提となっている(【0137】【0150】。この
、 )
ためには、コイルばねにおいて螺旋状に高周波信号が流れないようにすること
20 が必要となり、そのための構成が「密巻き部」であるものと理解される(【0
031】。本件発明1、21の特許請求の範囲の文言は、具体的にどのような

構成の「密巻き部」であればインダクタンス及び抵抗の増大を伴わずに「検査
対象の検査時の抵抗のばらつきが抑制される」「密巻き部」に該当するのかが
不明であり、その技術的範囲は不明確である。原告の主張によれば、「密巻き
25 部」とは、単に「空間的にすき間が少なく巻かれた部分」をいい、また、実施
例の説明において記載されている「電流がかなりの割合で軸方法に略々ストレ
ートに流れる効果が生じる」ものには限定されないとのことであるから、一層、
その技術的範囲は不明確である。
本件発明1及び本件発明21に係る特許は、特許法36条6項2号が規定す
5 る「特許を受けようとする発明が明確であること」に違反する。
(原告の主張)
ア 「密」とは、時間的・空間的にすき間が少ないことをいうから(甲7)、
構成要件1F及び21Eの「密巻き部」とは、その文言上、空間的にすき間
が少なく巻かれた部分をいうものと解釈される。
10 また、構成要件1I及び21Hには「前記第1及び第2のプランジャと前
記密巻き部とにより構成される導通経路には・・・」という構成が規定され
ていることから、構成要件1F及び21Eの「密巻き部」は、第1及び第2
のプランジャとともに導通経路を構成するものである(構成要件1I及び2
1H)。
15 「導通」とは、電流が通じていることをいい、「経路」とは、通過する道
すじをいうから(甲7)「導通経路」とは、電流が通じる道すじをいうもの

と解釈される。
よって、構成要件1F及び21Eの「密巻き部」は、特許請求の範囲の文
言上、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプラ
20 ンジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分と解釈されるものであ
り、記載はそれ自体で明確である。
そして、本件明細書及び図面において、特許請求の範囲に記載された「密
巻き部」に対応する、実施形態における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」
は、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプラン
25 ジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分であると説明されている・
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び21は、記載がそ
れ自体で明確であり、用語についての明細書及び図面における定義又は説明
によってかえって記載が不明確になるという事情もないから、本件特許の特
許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明は明確である。
5 イ 特許請求の範囲の記載がそれ自体で明確でないと仮定したとしても、上述
のとおり、本件明細書及び図面において、特許請求の範囲に記載された「密
巻き部」に対応する、実施形態における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」
は、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプラン
ジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分であると説明されている
10 から、出願時の技術常識をもって考慮して特許請求の範囲の用語を解釈す
ると、その「密巻き部」は空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、
第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分で
あることが明確である。
したがって、特許請求の範囲の請求項1及び21は、請求項に記載された
15 用語についての明細書及び図面における定義又は説明を出願時の技術常識
をもって考慮してその用語を解釈すると記載が明確であるから、本件特許の
特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明は明確である。
ウ 本件発明による抵抗のばらつきの抑制という効果は、2つのプランジャと
コイルの密巻き部とにより構成される導通経路において、2つの摺動導通
20 部を存在させず、1つの摺動導通部のみを存在させる構造により奏する効
果である(甲2、
【0007】【0011】等)から、請求項1及び21に

おいて規定された構造を備えれば抵抗のばらつきの抑制という効果が得ら
れる。
⑺ 本件特許に、サポート要件違反の無効理由があるか(争点3-4)
25 (被告の主張)
本件発明の「密巻き部」は、特許請求の範囲において、摺動導通部と固定導
通部を有し筒状であること以外に構成の限定がなく、本件明細書で示された技
術事項を超える範囲を含み得る(例えば、本件明細書には、「このときの導通
経路Lは、唯一のコイルばね2を通ることになるので、その中間密巻螺旋部2
5 aを通り、コイルばね2の軸線方向に沿って直線的に電気信号が流れ得ること
から、コイルばね2の粗巻螺旋部に高周波信号が流れることによるインダクタ
ンスおよび抵抗の増大が生じない」との記載がある(【0006】)が、「摺動
導通部と固定導通部を有し筒状である密巻き部」との表現からは「軸線方向に
沿って直線的に電気信号が流れない」構成も含まれ得る。原告自身、「密巻き
10 部」とは、単に「空間的にすき間が少なく巻かれた部分」をいうものとし、「電
流がかなりの割合で軸方法に略々ストレートに流れる効果が生じる」ものには
限定されないと主張している。このように、本件発明は、明細書の発明の詳細
な説明に開示された技術事項を超える広い特許請求の範囲を記載しているこ
とになり、明細書の発明の詳細な発明に記載されたものとは言えない。
15 本件発明1及び本件発明21に係る特許は、特許法36条6項1号が規定す
る「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるこ
と」に違反する。
(原告の主張)
ア 本件明細書において、特許請求の範囲に記載された「密巻き部」に対応す
20 る、実施形態における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」は、空間的にす
き間が少なく巻かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに
電流が通じる道すじを構成する部分であることが説明されており、当該構
成を備えることにより「検査時の抵抗のばらつきが最小限に収まる」
(【00
32】)ことが記載されているから、空間的にすき間が少なく巻かれた部分
25 であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成
する部分と解釈される構成要件1F及び21Eの「密巻き部」を備える本件
発明1及び21は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できるこ
とを当業者が認識できるように記載された範囲」の発明である。
したがって、本件発明1、21は、本件明細書の発明の詳細な説明におい
5 て「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範
囲」を超えるものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載において、
特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載したものである。
イ 本件発明1、21による抵抗のばらつきの抑制という効果は、2つのプラ
ンジャとコイルの密巻き部とにより構成される導通経路において、2つの
10 摺動導通部を存在させず、1つの摺動導通部のみを存在させる構造により
奏する効果である(【0007】【0011】等)から、本件発明1及び2

1において規定された構造を備えれば抵抗のばらつきの抑制という効果が
得られる。
⑻ 本件特許に、実施可能要件違反の無効理由があるか(争点3-5)
15 (被告の主張)
本件発明の「密巻き部」については、摺動導通部と固定導通部を有し筒状で
あること以外に構成の限定がない一方で、「前記第1及び第2のプランジャと
前記密巻き部とにより構成される導通経路には、前記一方のプランジャが摺動
接触する前記摺動導通部として単に1つの部位が存在し、前記検査対象の検査
20 時の抵抗のばらつきが抑制される」
(構成要件1I及び21H)とされ、
「検査
時の抵抗のばらつきが抑制される」「密巻き部」であることが要件となってい
る。また、前記 で主張したとおり、「密巻き部」はインダクタンス及び抵抗
の増大が伴わないような構成になっていることが前提となっている。しかし、
本件明細書の記載からは「密巻き部」をどのような構成とすればインダクタン
25 ス及び抵抗の増大を伴わずに本件発明の上記課題を解決できるのか不明であ
り、発明の詳細な説明に「密巻き部」の製造方法が具体的に記載されていると
は到底いえない。
なお、原告は「密巻き部」とは、単に「空間的にすき間が少なく巻かれた部
分」をいうとし、また、実施例の説明において記載されている「電流がかなり
5 の割合で軸方法に略々ストレートに流れる効果が生じる」ものには限定されな
いとするが、どのような構成の「密巻き部」であれば検査時の抵抗のばらつき
が抑制されることになるのかより一層不明である。
本件発明1及び本件発明21に係る特許は、特許法36条4項1項が規定す
る「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施を
10 することができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」に違反する
(原告の主張)
本件明細書において、特許請求の範囲の「密巻き部」に対応する、実施形態
における「密巻螺旋部15a(筒状部15)」は、空間的にすき間が少なく巻
かれた部分であって、第1及び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじ
15 を構成する部分であることが説明されており、当該構成を備えることにより
「検査時の抵抗のばらつきが最小限に収まる」【0032】
( )ことが記載され
ている。そうすると、空間的にすき間が少なく巻かれた部分であって、第1及
び第2のプランジャとともに電流が通じる道すじを構成する部分と解釈され
る構成要件1F及び21Eの「密巻き部」を備える本件発明1及び21は、当
20 業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、発明の属する技術の
分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明
確かつ十分に記載したものである。
第3 当裁判所の判断
25 1 本件発明について
⑴ 本件明細書の記載(甲2)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
5 本発明は、導電性針状体としてのプランジャを、液晶ディスプレイ用基板、
TAB、あるいはパッケージ基板(PKG)等の接触対象に接触させて電気信
号を取り出し、リード線等の信号伝送ラインを介して外部回路に伝える、導電
性の小形接触子、ソケットピン(SCP)、または薄形プローブ(THP)等
のマイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)に関する。本発明はさらに複
10 数のマイクロコンタクタプローブにより構成される電気プローブユニットに
関する。
【0002】
【従来の技術】
プリント配線板の導体パターンあるいは電子素子等の電気的検査を行う従
15 来の電気プローブユニットには、導電性針状体としてのプランジャと、このプ
ランジャを軸線方向に出没自在に保持するホルダと、プランジャをその突出端
がホルダの前端(軸方向端)から突出する向きに弾発付勢するコイルばねとを
備えて構成され、プランジャの突出端を被検体の接触対象へ弾発的に接触させ
ることが可能なマイクロコンタクタプローブが用いられる。
20 【0003】
そうした例として、図13に示すマイクロコンタクタプローブ100が知
られている。これは、日本国特開平10-239349号公報に開示されたも
ので、一対のプランジャ3および4をコイルばね2の両端に結合したプランジ
ャアッシ5を絶縁性ホルダ6および7に形成された支持孔8および9に、一対
25 のプランジャ3および4の往復動を許容して収容した構成を有し、各プランジ
ャ3および4は外方へ突出する力を受けるが脱落阻止されている。
【図13】
【0004】
この取付状態で、プランジャ3および4は、それぞれの段部を上側ホルダ7
5 および下側ホルダ6に係合させて脱落阻止され、支持孔9および8内に収容さ
れる。コイルばね2は中間に密巻螺旋部2aを備え、この中間の密巻螺旋部2
aは、待機状態(プランジャ3が検査対象に接触してない状態)にあるプラン
ジャ3および4の軸部3aおよび4aに接触できる長さを有する。
【0005】
10 このマイクロコンタクタプローブ100は、上側のプランジャ4の突出端
を、ホルダ7に積層した配線プレート10に固定したリード導体11に弾接さ
せて電気的に接続し、下側のプランジャ3の突出端を検査対象12へ弾発的に
接触させて用いる。この検査時の電気信号の導通経路Lは、図13に実線の矢
印で示すように、検査対象12から下側のプランジャ3を通り、その軸部3a
15 から中間密巻螺旋部2aを介して上側のプランジャ4の軸部4aに伝達され、
このプランジャ4を通ってリード導体11に至る。これにより、基板13上に
形成された検査対象12である印刷回路にショートあるいは断線が無いか検
査する。
【0006】
このときの導通経路Lは、唯一のコイルばね2を通ることになるので、その
中間密巻螺旋部2aを通り、コイルばね2の軸線方向に沿って直線的に電気信
5 号が流れ得ることから、コイルばね2の粗巻螺旋部に高周波信号が流れること
によるインダクタンスおよび抵抗の増大が生じない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このマイクロコンタクタプローブ100は、導通経路Lに、
10 図13に示すように、プランジャ3および4の軸部3aおよび4aと中間密巻
螺旋部2aとの摺動導通部AおよびBが存在し、この2つの摺動導通部Aおよ
びBの存在による抵抗の分散が、検査の精度を狭めるという課題がある。
【0008】
またマイクロコンタクタプローブ100は、検査対象12上の酸化皮膜が
15 破れずに接触抵抗が高くなり不安定になるようなことがないように、検査対象
12に対するプランジャ3の接触圧をある程度大きくするが、この大きくした
接触圧が同時にプランジャ4を介してリード導体11にも作用し、量産工程で
使用する場合に、その接触圧がリード導体11をテスト毎(数10万~数10
0万回)に加圧し、基板13(または配線プレート10)の早期損傷その他に
20 よる使用期間の狭まりに関係してくるという課題も有る。
【0009】
そこで、本発明は、インダクタンスおよび抵抗の増大を伴うことなく、導通
経路中の摺動導通部の数を減少させて、検査精度を向上可能なマイクロコンタ
クタプローブ(導電性接触子)および電気プローブユニットを提供することを
25 目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明に係るマイクロコンタクタプローブは、開端
及び閉端を有する支持孔が形成された絶縁体と、前記支持孔内に前記閉端で露
5 呈するリード導体と、前記支持孔へ嵌装し脱落を防いだ弾発性の導電アッセン
ブリとを備え、このアッセンブリは、前記開端で外方へ露出する第1の導体部
と、前記リード導体に接触する第2の導体部とを備えるマイクロコンタクタプ
ローブであって、前記第1及び第2の導体部の一方は、前記第1及び第2の導
体部の他方にその一部分が摺動可能に接触する筒状導体部と、この筒状導体部
10 の別の部分に固定された固定導体部とを備えて成る。
【0011】
この発明によれば、単一の摺動接触となる筒状導体部が、高周波でなおイン
ダクタンスを低減できる。
【0018】
15 【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施態様を図面に基づき説明する。本発明の上記その他の目
的及び新規な特徴は以下の詳細な説明を添付図面に照らして読むことでより
完全となろう、図面中、同じ部材は同じ符号で表す。
【0021】
20 図2に図1の電気プローブユニットPUの任意なマイクロコンタクタプロ
ーブ1を示す。
【図2】
【0022】
プローブユニットPUは、前記モジュールハウジングMH内に固定された
5 絶縁性板部材としての下側プローブホルダ6と、この下側プローブホルダ6の
上に積層された絶縁性板部材としての上側プローブホルダ7と、この上側プロ
ーブホルダ7の上に積層されリード導体11が形成された絶縁性基板として
の配線プレート10とを有する。これらプローブホルダ6および7と配線プレ
ート10とは密に接合される。前記プローブ1毎に、下側ホルダ6に筒状の下
10 側支持孔8を縦通するとともに、その下端近くに内方への段差8aを設けて端
部を縮径し、上側ホルダ7は、筒状の上側支持孔9を縦通し、その上端近くに
内方への段差9aを設けて端部を縮径する。段差8aおよび9a間では、上下
の支持孔8および9が上記縮径端部よりも大きな同一の径を持つ。上側支持孔
9の上端では、対応するリード導体11の下端部が内方に露出する。
15 【0023】
前記プローブ1は、下側支持孔8の大径部分へ軸方向摺動可能に嵌合させ
る中間部3bをフランジにした導電性の針状部材である下側のプランジャ3
と、上側支持孔9の大径部分へ軸方向摺動可能に嵌合させる中間部4bをフラ
ンジにした導電性の針状部材である上側のプランジャ4と、これら上下のプラ
ンジャ3および4のフランジになった部分3bおよび4b間に縮装され各支
5 持孔8および9の大径部へ摺動可能に嵌合するコイルばね2とで構成され、従
ってプランジャ3および4は常時逆の方向に付勢される。その結果、下側のプ
ランジャ3は、フランジの部分3bで下側支持孔8の段差8aに押し当てら
れ、これにより脱落阻止されて、その針頭部3cの錐状尖端が外方へ突出し、
上側のプランジャ4は、その針頭部4cの錐状尖端が前記リード導体11下端
10 のパッド11aに押し当てられる。上下のプランジャ3および4は、工具鋼
(SK)をNiメッキで下処理し、Auメッキにより0.1mmの外径に仕上
げる。コイルばね2は、螺旋に巻いたピアノ線(SWPA)を0.3mm厚の
Niメッキで下処理し、0.3~0.5μm厚のAuメッキで仕上げる。
【0024】
15 下側のプランジャ3は、前記フランジ部3bの上にボス部3dを備え、この
ボス部3dの上に上方へ延びる軸部3aを備える。上側のプランジャ4は、前
記フランジ部4dの下にボス部4dを備える。コイルばね2は、比較的長い筒
状部15を構成する上部の密巻の螺旋部15aと、短い筒部を構成する下端の
密巻の螺旋部と、その間に延在する粗巻の螺旋部とを有する。上記筒部では、
20 いずれも、ばね2の隣接する螺旋部のAuメッキが広い領域で密着し、電流が
かなりの割合で軸方向へ略々ストレートに流れる。長い方の筒状部15は、上
側プランジャ4のボス部4dを圧入し、一体的にきつく嵌着して、筒部上端で
の通電に供する。短い方の筒部も、下側プランジャ3のボス部3dを圧入し、
きつく嵌着して通電に供する。粗巻螺旋部は下側プランジャ3の軸部3a周り
25 に遊嵌する。この軸部3aの上端を上記長い筒状部15の下部へ摺動可能に嵌
合し、軸部上端での通電に供する。
【0025】
上記第1の実施態様では、コイルばね2の一端に密巻螺旋部15aとして
形成した前記筒状部15を上側のプランジャにきつく固定し、上記密巻螺旋部
5 15aへ軸部3aが摺動可能に接触する下側のプランジャ3をコイルばね2
の他端に嵌合密着させている。
【0026】
より詳細には、前記フランジの部分3bを有する下側のプランジャ3は、そ
のフランジ部3bの一方の側に形成された針頭部3cと、フランジ部3bの他
10 方の側に前記ボス部3dを介し一体的に形成された比較的長いシャフト部分
である前記軸部3aとを備える。この軸部3aは、図2に示すような待機状態
(下側プランジャ3が検査対象12に接触してない状態)の時にその先端が前
記密巻螺旋部15aに届くだけの長さを有し、また上記ボス部3dよりも少し
小さな直径で形成される。前記フランジの部分4bを有する上側のプランジャ
15 4は、そのフランジ部4bの一方の側に形成された針頭部4cと、フランジ部
4bの他方の側に一体形成されたボス部4dとを備える。
【0027】
コイルばね2は、一端に前記密巻螺旋部15aを形成し、残りの部分に前記
粗巻螺旋部を形成する。密巻螺旋部15aに前記ボス部4dを圧入し、これに
20 より上側プランジャ4を嵌合密着させ、また粗巻螺旋部の端に比較的短寸の密
巻螺旋部を設け、このコイルに前記軸部3a同様にボス部3dを挿入して、こ
のボス部3dにコイル端部を密巻した状態となし、これにより下側プランジャ
3を嵌合密着させる。密巻螺旋部15aの軸長は、上記軸部3aとボス部4d
との間に、下側プランジャ3の検査操作を適切に行える軸方向距離を与えるよ
25 うに定める。
【0028】
以上の導体(つまり、本例では、コイルばね2と上下のプランジャ3および
4)からなり弾発的に伸縮可能である導電性の組物を以下「プランジャアッシ」
と呼び、これを前記ホルダ6及び7内に取付け、その際、上側のプランジャ4
5 をホルダ7の支持孔9に位置させ、下側のプランジャ3をホルダ6の支持孔8
に位置させる。この取付状態では、それぞれ針頭部3cおよび4cの先端がホ
ルダ6および7の外へ突出した状態の上下のプランジャ3及び4が、支持孔8
および9内に往復動可能に収容されるが、前記フランジ部3bおよび4bが支
持孔8および9の段差8aおよび9aに当たるので、コイルばね2に弾発力が
10 あっても抜止めされる。
【0029】
プローブ1は、上記ホルダ7の上面に配線プレート10を積層して構成さ
れる。この積層により、上側プランジャ4がコイルばね2の弾発力に抗しつつ
支持孔9に没入し、針頭部4cの先端が配線プレート10のリード導体11の
15 パッド11aに弾性接触した状態となり、これにより電気的接続が得られる。
【0030】
このように構成したプローブ1は、下側プランジャ3の針頭部3cの錐状
尖端を、基板13上に形成された検査対象12に弾性接触させることにより検
査に供される。この検査時に生じる電子信号の導通経路L1は、図2に実線の
20 矢印で示すように、検査対象12から下側プランジャ3に延び、その軸部3a
から上側プランジャ4への通電は密巻螺旋部15aを経由し、更に上側プラン
ジャ4を通ってリード導体11の(パッド11a)に至り、これにより、基板
13上に形成された印刷回路である検査対象12に短絡または断線がないか
検査できる。
25 【0031】
このように、マイクロコンタクタプローブ1では、コイルばね2により逆の
方向に付勢された一対のプランジャ3および4が、密巻螺旋部15a(筒状部
15)を介して電気的に連結され、別にインダクタンスおよび抵抗を有するコ
イルばね2の粗巻螺旋部へ高周波信号が流れるのを防ぎ、インダクタンスおよ
5 び抵抗の低減が可能となる。
【0032】
また、密巻螺旋部15a(筒状部15)は、上側プランジャ4との間の電気
導通に関し一体的な状態にあり、その間に、摺動導通部でなく固定導通部とし
て機能可能な連結部Cが存在する。この状態で、プランジャ対3および4と密
10 巻螺旋部15a(筒状部15)とにより構成される前記導通経路L1には、プ
ランジャ3の軸部3aが摺動接触する摺動導通部Dとして単に1つの部位が
存在し、検査時の抵抗のばらつきが最小限に収まる。
【0081】
図9に本発明の第8の実施態様に係るマイクロコンタクタプローブ26を
15 示す。このプローブ26は、信号をリニアに流せる筒状部15を上側プランジ
ャ4とコイルばね2とに設けた点で他の実施態様と異なる。
【図9】
【0082】
より詳細には、プローブ26は、その筒状部15が、プランジャ4の延長部
である筒状部分15bとコイルばね2の一方の側に形成した密巻螺旋部15
aとの2つの筒状部で構成される。下側プランジャ3は、軸部3aを、上記筒
5 状部分15bへ摺動可能に挿入する。
【0083】
前記筒状部分15bに軸部3aを挿入して、対になったプランジャ3およ
び4を軸方向移動可能に整列する。コイルばね2は、軸部3aおよび筒状部分
15bの外側に配置する。密巻螺旋部15aは、筒状部分15bへ摺動可能に
10 接触させ、その一端をプランジャ3に結合する。この螺旋部15aの他端をプ
ランジャ4に結合する。こうして、プランジャ対3および4が互いに連結され
る。
【0084】
より詳細には、プランジャ3にフランジ部3bを設け、その一方の側に針頭
15 部3cを形成し、他方の側にボス部3dを介して長い軸部3aを一体形成す
る。プランジャ4にもフランジ部4bを設け、その一方の側に針頭部4cを形
成し、他方の側にボス部4dを一体形成する。
【0085】
筒状部分15bは、ボス部4dまで延ばし、プランジャ4と一体に形成す
20 る。筒状部分15bの中空部4eを、針頭部4c側で針頭部4cの中間まで延
ばし、針頭部4cの端部に形成したメッキ用の孔4fを介して外部と連通させ
る。メッキ用孔4fは、メッキ液の流れを良くするためのもので、中空部4e
壁面でのメッキを安定にし、軸部3aの摺動抵抗を最小限に抑える。
【0086】
25 コイルばね2は、その一方の側に密巻螺旋部15aを有し、他方の側に粗巻
螺旋部をを備える。密巻螺旋部15aでは、軸部3aをコイルに挿入しボス部
3dをコイルの端部に圧入して下側プランジャ3を固定する。粗巻螺旋部の一
端で筒状部分15をコイル内の軸部3aの外側に挿入してプランジャ4を接
合し、コイル端部をボス部4dに密巻きする。
5 【0087】
このようにプランジャアッシを構成し、第1の実施態様(マイクロコンタク
タプローブ1)における如く、プランジャ4をホルダ7の支持孔9に位置させ、
プランジャ3をホルダ6の支持孔8に位置させて、そのホルダ7の上面に配線
プレート10を積層することにより組付を行う。
10 【0088】
この組付により、マイクロコンタクタプローブ26は、図9に示す待機状態
(プランジャ3が検査対象12に接触してない状態)に置かれ、プランジャ4
の針頭部4cがリード導体11のパッド11aに弾接し、プランジャ3の針頭
部3cが抜止めされた状態で外部へ突出する。この状態における筒状部分15
15 bと密巻螺旋部15aとは待機状態にあってそれらの端部が互いに一部重な
り合い、それぞれ検査時にプランジャ3を押し戻せる長さを有する。筒状部分
15bと軸部3aとは、待機状態で軸部3aを筒状部分15bへ適宜挿入で
き、しかも検査時にプランジャ3の押し戻しが可能なる長さを有する。
【0089】
20 このように構成したマイクロコンタクタプローブ26では、対になったプ
ランジャ3および4に、可撓性のあるコイルばね2から、中心軸に直交する方
向で横向きの接触圧がかかる。この横向きの接触圧は、軸部3aが筒状部分1
5b(筒状部15)に接触する摺動導通部Qによるプランジャ対3および4間
の連結により形成される第1の導通経路L6と、筒状部分15bが密巻螺旋部
25 15a(筒状部15)に接触する摺動導通部Rによるプランジャ対3および4
間の密巻螺旋部15aを介した連結により形成される第2の導通経路L7と
の2つの導通経路をもたらす。
【0090】
より詳細には、このプローブ26での検査における信号は、図9に実線の矢
5 印で示すように、第1の導通経路L6と第2の導通経路L7とに沿って伝わ
る。第1の導通経路L6は、検査対象12から下側プランジャ3へと延び、そ
の軸部3aを通って筒状部分15bおよび上側プランジャ4に至り、このプラ
ンジャ4を通ってリード導体11(パッド11a)に至る。第2導通経路L7
は、上記対象12から下側プランジャ3へと延び、そのボス部3dから密巻螺
10 旋部15aおよび筒状部分15bを介して上側プランジャ4に至り、この上側
プランジャ4を通ってリード導体11(パッド11a)に至る。
【0091】
これら第1および第2導通経路L6およびL7は、コイルばね2の粗巻螺
旋部を含まずに構成され、従ってコイルに高周波信号が流れることによるイン
15 ダクタンスおよび抵抗の増加を防止でき、インダクタンスおよび抵抗が低くな
る。
【0092】
密巻螺旋部15aはプランジャ3にしっかり固定され、このプランジャ3
と一体導通状態にあり、その接続部Pが摺動導通部でなく固定導通部をなす。
20 筒状部分15bはプランジャ4の延長部である。従って、上記螺旋部15aお
よび筒状部分15bを介し一体で連続した導通経路が形成される。
【0093】
この状態で、第1の導通経路L6には、プランジャ3の軸部3aが筒状部分
15bと摺接する摺動導通部Qとして単に1つの部位が存在する。第2の導通
25 経路L7には、筒状部分15bが密巻螺旋部15aと摺接する摺動導通部Rと
して単に1つの部位が存在する。第1および第2の導通経路L6およびL7
は、いずれも単一の摺動導通部を有し、検査時の抵抗のばらつきが最小限に収
まる。
【0094】
5 従って、第1および第2の導通経路L6およびL7を備えるマイクロコン
タクタプローブ26は、単一の導通経路を備える以上の実施態様に較べ、低抵
抗で、検査信号の導通がより安定する。
【0105】
以上の実施態様から分かるように、本発明の第1の実施様式として開示さ
10 れる導電性接触子(マイクロコンタクタプローブ)は、主コイルばねにより相
反する方向に付勢された一対の導電性針状体(プランジャ)を、絶縁体からな
るホルダに設けられた支持孔に往復動を許容して収容すると共に、一つの導電
性針状体が外方へ突出すると共に抜止めされて取り付けられており、かつ他の
導電性針状体が、前記ホルダに積層される配線プレートに電気的に接続して取
15 り付けられている導電性接触子であって、前記導電性針状体および主コイルば
ねの少なくとも一方に、電気信号の直線的な流れを可能とする筒状部が形成さ
れており、前記一対の導電性針状体の内、一方の導電性針状体が前記筒状部に
対して一体的な電気的導通状態になっており、他方の導電性針状体が前記筒状
部に対して摺動可能に電気的に接続されている。
20 【0106】
この第1の実施様式では、筒状部は、主コイルばねにのみ形成される場合
と、導電性針状体にのみ形成される場合と、あるいは主コイルばねおよび導電
性針状体の両方に形成される場合の3通りがある。いずれの場合でも、主コイ
ルばねにより相反する方向に付勢される一対の導電性針状体は、筒状部を介し
25 て電気的に接続されるので、コイルばねの粗巻き部にコイル状に高周波信号が
流れることによるインダクタンスおよび抵抗の増大が生じないため、低インダ
クタンス化および低抵抗化を図ることができる。
【0107】
また、筒状部は、一方の導電性針状体に対して一体的な電気的導通状態にな
5 っているので、この両者の接続部位は、摺動導通部とはならないで、固定導通
部となっている。これにより一対の導電性針状体と筒状部とで構成される導通
経路には、他方の導電性針状体が筒状部に摺動可能に当接する、1箇所の摺動
導通部のみが発生することになり、これにより検査時の抵抗値のばらつきを極
力抑制することができる。
10 【0108】
なお、
「導電性針状体が筒状部に対して一体的な電気的導通状態になってい
る」とは、筒状部が主コイルばねに形成される場合は、筒状部を導電性針状体
に、圧入、半田付け、あるいはロー付け等の手段で一体的に結合することを意
味し、あるいは筒状部が導電性針状体に形成される場合は、筒状部を導電性針
15 状体に、圧入、半田付け、あるいはロー付け等の手段で一体的に結合すること、
および筒状部を導電性針状体に一体形成することを意味する。
【0122】
この第8の実施様式によれば、主コイルばねにより付勢されて被検査体に
当接する導電性針状体は、密着巻き部からなる筒状部を介して配線プレートに
20 電気的に接続するので、コイルばねの粗巻き部にコイル状に高周波信号が流れ
ることによるインダクタンスおよび抵抗の増大が生じないため、低インダクタ
ンス化および低抵抗化を図ることができる。
【0123】
このときの導通経路には、被検査体に当接する導電性針状体の軸部が、密着
25 巻き部からなる筒状部に摺動可能に当接することにより、1箇所の摺動導通部
のみが発生することになり、これにより検査時の抵抗値のばらつきを極力抑制
することができる。
【0124】
また、配線プレート側の導電性針状体を不要としたので、その分、部品点数
5 の削減および導通経路を短くできる。
【0125】
また、導電性針状体は、被検査体に対しては大きな接触圧で弾接すると共
に、密着巻き部からなる筒状部は、配線プレートに対しては小さな接触圧で弾
接してそれぞれ電気的に接続することができる。
10 【0135】
以上、特定の用語により本発明の実施例を説明してきたが、そうした説明は
例示的なものであり、以下の請求の範囲を逸脱することなく変更および更改が
可能なこと理解できよう。
【0136】
15 以上の説明から分かるように、本発明は、配線プレートの導電部が銅箔を金
メッキして構成する等、小さい接触圧でも良好な接触状態が得られることに鑑
みてなされたものであり、従って、被検査体に接触する導電性針状体が、配線
プレートに電気的に接続されている導電性針状体よりも大きいばね荷重で付
勢されるようにして、以て検査精度の低下を伴うことなく、配線プレートの寿
20 命の向上を可能とした導電性接触子を提供することも目的としている。
【0137】
【発明の効果】
以上の説明から分かるように、第1の実施様式によれば、
(1)コイルばねにより相反する方向に付勢される一対のプランジャ(導電
25 性針状体)は、筒状部を介して電気的に接続されるので、コイルばねの密巻螺
旋部にコイル状に高周波信号が流れることによるインダクタンスおよび抵抗
の増大が生じないため、低インダクタンス化および低抵抗化を図ることができ
ること、および
(2)一方のプランジャに対して一体的な電気的導通状態になっているの
5 で、この両者の接続部位は、摺動導通部とはならないで、固定導通部となって
いる。これにより一対のプランジャと筒部とで構成される導通経路には、他方
のプランジャが筒部に摺動可能に当接する、1箇所の摺動導通部のみが発生す
ることになり、これにより検査時の抵抗値のばらつきを極力抑制することがで
きることにより、インダクタンスおよび抵抗の増大を伴うことなく、導通経路
10 中の摺動導通部の発生個数を減少させて、以て検査精度の向上を可能としたマ
イクロコンタクタプローブ(導電性接触子)を提供することができる。
【0144】
第8の実施様式によれば、第1の実施様式の効果に加えて、配線プレート側
のプランジャを不要としたので、その分、部品点数の削減および導通経路を短
15 くでき、これにより組付性および高周波特性の向上を図ることができる。
【0145】
また、プランジャは、検査対象に対しては大きな接触圧で弾接すると共に、
密巻螺旋部からなる筒部は、配線プレートに対しては小さな接触圧で弾接して
それぞれ電気的に接続することができ、これにより配線プレート側の損傷を抑
20 制することができると共に、検査対象に対しては安定した電気的接続状態が得
られ、ひいては配線プレートの寿命を向上させることができる。
【0150】
本発明は、マイクロコンタクタプローブ(導電性接触子)および電気プロー
ブユニットに適用して、インダクタンスおよび抵抗の増大を伴うことなく、導
25 通経路中の摺動導通部の数を減少させ、検査精度を向上させることができる。
⑵ 本件発明の意義
電気プローブユニットに用いられるマイクロコンタクタプローブとしては、
プランジャの突出端を被検体に弾発的に接触させて接触対象と導通させる必
要があるところ、従来技術として、一対のプランジャをコイルばねで接続させ
5 ることにより、コイルばねの弾性によって片方のプランジャが被検体に弾発的
に接触するとともに、被検体、プランジャ、コイルばね、他方のプランジャと
いう導通経路も同時に形成できる構成が開示されていた。もっとも、単純に2
つのプローブを最初から最後まで疎に巻かれたコイルばねで導通させると、コ
イルばねにプランジャの弾性の確保と導通経路という2つの役割を同時に担
10 わせることができるものの、コイルばねに電流が流れるときに、電流が螺旋状
に流れてしまい、抵抗及びインダクタンスの増大を招いてしまう結果になる。
そこで、特開平10-239349号に記載された発明(以下「本件先行発明」
という。)では、コイルばねのうちその中央を、互いに接触するように密に巻
き、この部分を電流が流れるときには、電流がコイルばねに沿って螺旋状に流
15 れるのではなく、軸線方向に沿って直線的に流れるようにした上で、両プラン
ジャはコイルばねが接触状態になっている部分と接触するようにすることに
よって(前記⑴の図13参照)、コイルばねによる弾性と導通経路を確保しつ
つ、電流がコイルばねを螺旋状に流れることによる弊害を防止することができ
るようになっている(【0002】~【0005】。

20 本件明細書には、本件先行発明について両プランジャがコイルばねの密に巻
かれた部分と接触して導通を確保しているものの、2つの「摺動導通部」が形
成されていることによる抵抗の分散が検査の精度を狭めてしまうという課題
があるとした上で(【0007】、本件発明では、本件発明の構成をとること

で、インダクタンス及び抵抗の増大を伴うことなく、導通経路中の摺動導通部
25 の数を減少させて、検査精度を向上可能なコンタクタクタプローブを提供する
ことを目的とし 【0009】、
( ) その解決方法として、導通経路で「摺動可能」
に接触する部分を一つのみにし、その余の各導体間の接触部分を「固定された」
ものとしたことが記載されている。
2 争点1-1(被告製品の「コイルばねは、摺動導通部」を有する「筒状の密巻
5 き部を有し、「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に前記第1及び第2のプラ

ンジャの一方に摺動可能に接触し」ているか(構成要件1F,1G、21E、2
1F))について
本件発明21は、2つのプランジャとこれらを逆方向に付勢するコイルば
ねなどによって構成される導電アッセンブリ(以下、本件発明21に係る導
10 電アッセンブリを「本件アッセンブリ」という。)に関する発明であり、本件
発明1は本件アッセンブリが組み込まれたマイクロコンタクタプローブに
関する発明である。
本件アッセンブリのコイルばねは、「筒状の密巻き部」を有するとともに
(構成要件1F、21E)「筒状の密巻き部」は、
、 「摺動導通部」を有し(構
15 成要件1F、21E)「摺動導通部」は、2つのプランジャの一方に「摺動可

能に接触し」ているとされている(構成要件1G、21F)。
⑵ア 「密巻き部」の意義について検討すると、「密」は、文言上「すきまがな
いこと」を意味する(大辞泉第2版。乙31)。そして、前記1⑵で認定し
たとおり、本件先行発明は、マイクロコンタクタプローブに必要とされる2
20 つのプランジャの導通と被検体への弾発的接触の2つの目的を同時に達成
するために2つのプランジャをコイルばねで接続する構成が考えられると
ころ、最初から最後まで疎に巻かれたコイルばねを用いると、電流が螺旋状
に流れて抵抗及びインダクタンスが増大してしまうのに対し、コイルばね
の中央部の密巻螺旋部において電流が軸線方向に沿って直線的に流れ得る
25 ようにし、2つのプランジャとコイルばねの接触個所をこの部分に限定す
ることによって抵抗及びインダクタンスの増大を生じさせることなく、被
検体への弾発的接触と2つのプランジャの導通を実現したものである。そ
して、本件発明は、本件先行発明ではコイルばねの「密巻螺旋部」と2つの
プランジャとの間それぞれに合計2つの「摺動導通部」が形成されているこ
5 とを課題として、これを解決する発明であるから、本件発明の「密巻き部」
は、本件先行発明における「密巻螺旋部」と同様、コイルばねに流れた電流
が螺旋状ではなく軸線方向に沿って直線的に流れるようになっているもの
であると解され、このように解することは、構成要件1F、21Eの「筒状」
という文言にも沿うものといえる。
10 また、本件発明においては、本件アッセンブリが2つのプランジャとコイ
ルばねからなると記載され(構成要件1C~1E、21D~21D)、その
コイルばねが「筒状の密巻き部」を有しているとされている。コイルばねは、
圧縮圧力により疎に巻かれていた部分も接触状態になることがあるもので
あるところ、「筒状の密巻き部」を有するコイルばねが本件アッセンブリの
15 構成要素とされていることからは、そのコイルばねは、本件アッセンブリに
おいて、少なくとも圧縮圧力を加える前から「密巻き部」を有するものであ
り、その「密巻き部」は圧縮圧力を加える前から軸線方向において接触状態
にある部分をいうと理解するのが自然なものである。そして、特許請求の範
囲にも本件明細書にも、上記のような自然な理解と異なり、疎に巻かれてい
20 てアッセンブリにおいて圧縮圧力を加えた場合に初めて接触状態になる部
分について、本件発明のコイルばねの「密巻き部」ということを示唆する記
載もないし、そのような図面もない。
イ 「摺動導通部」の意義について検討すると、摺動は、文言上「接触してす
り動く」の意義を有する(特許技術用語集第3版。乙36) また、
。 導通は、
25 文言上「電流が通じていること」の意義を有する(広辞苑第7版)。したが
って、
「摺動導通部」とは、接触したまますり動いて電気が通じることが可
能な部位の意義であると理解できる。
そして、摺動(すり動く)とは、一定のストローク区間においてその接触
が続くことを前提としているものであるから、その文言から、摺動導通部」

5 とは、プランジャと「密巻き部」が接触しながら動き、その間、連続して電
気的に導通していること、すなわち、本件アッセンブリが縮む過程の一点で
はなく、少なくとも一定の区間において、連続して電気的に導通しているこ
とを意味すると理解できる。
そして、特許請求の範囲の記載及び本件明細書において、「摺動導通部」
10 が形成される時点について、上記のような文言に反し、一定のストローク区
間のうちのある点において導通していればいいことを示唆する記載は何ら
ない。
また、本件発明は、本件先行発明では「摺動導通部」という不安定な導通
経路が2つあるのに対し、検査精度の向上のため、プランジャとコイルばね
15 間の導通経路をできる限り安定させることをその趣旨とするものといえる。
そうすると、「密巻き部」との「摺動導通」について、一定のストローク区
間において接触が続き連続して導通するのではなく、特定の部位、タイミン
グでのみ接触して導通経路が形成されれば足りるなど、ただでさえ固定導通
よりも不安定な摺動導通の通常の文言上の意義から離れて、さらに不安定な
20 限定的な接触で足りるとすることは、本件明細書から理解できる本件発明の
趣旨に反するものであるといえる。
そして、2つのプランジャからなる本件アッセンブリはソケットベースに
はめ込まれてマイクロコンタクタプローブを形成した上で用いられること
が前提になっているものの、被検体に適用されるにあたってどのストローク
25 区間によって用いられるかは一義的に定まる性質のものではない(弁論の全
趣旨)。
これらを考慮すると、本件アッセンブリは、少なくともソケットベースに
はめ込まれ、検査前の待機状態になった後は、ストローク中も含めて連続し
て電気的に導通している摺動導通部が形成されていることを前提としてい
5 ると解するのが相当である。
ウ この点について、原告は、本件発明には、本件発明が被検体を検査すると
きの抵抗のばらつきを低下させることに技術的意義があるところ、本件アッ
センブリをはめ込まれたマイクロコンタクタプローブは、現実に被検体を検
査するために用いられるときには特定のストロークで固定され、その上で電
10 流を流すのであるから、特定のストローク1点で、それもストロークを停止
した時に「密巻き部」が形成されている部分にプランジャが接触して導通す
れば、被検体を検査するときの抵抗のばらつきが低下するため、 密巻き部」

に摺動導通していると解するべきであると主張する。
しかし、被検体と接触して検査する1点において「密巻き部」がプランジ
15 ャと接触すれば足りると解すると、導電アッセンブリがソケットベースには
め込まれて検査前の待機状態になった後、フルストロークするまでのいずれ
か1点において「密巻き部」とプランジャが接触すれば足りると解釈するこ
とになるが、このような形態は「摺動」導通部という文言に反する。また、
前記のとおり、一般にこの種の導電アッセンブリは特定のストロークでのみ
20 用いることが想定されているわけではないところ、原告の解釈では、特定の
部位、タイミングでのみ接触して導通経路が形成されれば足りることとなる
が、これはできるだけ不安定な導通経路を排除しようとした本件発明の趣旨
に反するものである。
原告は、被告が、本件特許に係る無効審判においては、「密巻き部」の範
25 囲について、コイルばねが収縮していない状態において決定されるものでは
ないと主張していたことを理由にこれに反する主張は許されないと主張す
るが、被告がそのような趣旨の主張をしたことを認めるに足りる証拠はなく、
仮にそれが認められたとして、本件訴訟で無効審判におけるものと異なる解
釈を主張することが許されないとすべき事情もうかがえない。
5 ⑵ 以上によれば、本件アッセンブリのプランジャの一方が「密巻き部」の「摺
動導通部」に「摺動可能に接触する」とは、少なくとも本件アッセンブリがソ
ケットベースにセットされて検査前の待機状態になってからフルストローク
に至るまでの間、連続して、コイルばねが圧縮圧力を加える前から軸線方向に
おいて接触状態であった部位と第1または第2のプランジャに接触して導通
10 可能になっていることをいうものといえる。
以上を前提に、まず、被告製品2について、「コイルばねは、摺動導通部」
を有する「筒状の密巻き部を有し、「前記摺動導通部は、電気的に導通可能に

前記第1及び第2のプランジャの一方に摺動可能に接触し」ているか(構成要
件21E、21F)を検討する。
15 原告が、第2プランジャが「密巻き部」に接触していると主張する根拠は、
本件シミュレーションの結果、摺動痕及びX線写真である。
ア 本件シミュレーション結果について
本件シミュレーションは、原告が被告製品2であると主張する本件サンプ
ルを分解して計測し、その結果に基づいてプランジャとコイルばねからなる
20 導電アッセンブリをシミュレーションソフトウェア上で再現し、同ソフトウ
ェア上で導電アッセンブリをストロークさせてストローク量に応じたコイ
ルばねと第2プランジャの距離(本件距離)をシミュレートしたものである
(弁論の全趣旨) 本件シミュレーションでは、
。 シミュレーション開始時(ス
トロークが0の状態)においてコイルばねが接触状態にあった部位(本件密
25 部分)は、13巻目までとして設定されている(なお、被告は被告製品2の
本件密部分が13巻目までであることを否認している。。
) また、弁論の全趣
旨によれば、被告製品2は、検査前の待機状態ではソケットベースに700
㎛ストロークされた状態でセットされることが想定されていると認められ
る。仮に原告が主張するように被告製品2のコイルばねの13巻目までが圧
5 縮圧力を加えない状態において接触状態にあった部位であったとしても、本
件シミュレーションによれば、700㎛以降のストローク区間においても、
0巻目から13巻目までの間で本件距離が0にならないストローク点が相
当数存在する(乙46)。そうすると、本件シミュレーションについて、被
告製品2のコイルばねの13巻目までが圧縮圧力を加えない状態で接触状
10 態にあったのか否かや本件突出部の仕様が本件シミュレーションに正確に
再現されているか否かといった問題について検討するまでもなく、本件シミ
ュレーションからは、被告製品2がソケットベースにセットされて検査前の
待機状態になってからフルストロークまでの間、連続して、コイルばねが圧
縮圧力を加えない状態で軸線方向において接触状態であった部位と第2プ
15 ランジャが接触して導通可能になっていたと認めることはできない。
イ 摺動痕について
甲12号証によれば、原告が本件サンプルを用いて10万回程度ストロー
クをさせたところ、実験終了後、第2プランジャの先端から600㎛の位置
にかけて傷跡がついていたことが認められる。
20 しかし、被告製品2は、第1プランジャとコイルばねの軸線が一致し、ス
トローク中も一切たわまないことを前提にすると、第2プランジャとコイル
ばねの間に隙間が生じてストロークの量にかかわらず接触しない設計にな
っていることが認められる(乙3)。そして、コイルばねの構造上、本件疎
部分の方がたわみやすいことに照らせば、原告が指摘する600㎛の位置ま
25 でに生じた傷も、本件密部分ではなく、本件疎部分によって生じた可能性を
排除できない。そうすると、仮に、原告が行った実験の開始前には原告が指
摘する傷がなく、また、同実験において行われたストローク量が、本件密部
分が第2プランジャの先端から600㎛の位置まで達するものであったと
しても、この傷が本件密部分との接触によって生じたものであると認めるに
5 足りる証拠はない。
なお、仮にこれが本件密部分によって生じた傷であったとしても、この結
果は、ストロークの過程で本件密部分と第2プランジャが接触したストロー
ク点が存在したことを示すにすぎず、ソケットケースに収められて検査前の
待機状態になって以降、連続して接触していたことを示す証拠であるとはい
10 えない。
ウ X線写真
原告は、甲24号証のX線写真をもって本件密部分と第2プランジャが接
触していることが理解できると主張するが、同写真は不鮮明であり、この写
真をもって接触の有無は認定できない。
15 そうすると、本件シミュレーション、原告が実験によって生じたと主張する
摺動痕及びX線写真のいずれをもってしても、本件サンプルがソケットベー
スにセットされて検査前の待機状態になってからフルストロークまでの間、
第2プランジャが、連続して、コイルばねが圧縮圧力を加える前から軸線方
向において接触状態であった部位に接触して導通可能になっていたとは認め
20 られず、原告が主張するその他の事実を考慮してもこれを認めるに足りない。
よって、本件サンプルが被告製品2であるか否かについて判断するまでもな
く、被告製品2について、
「密巻き部」の「摺動導通部」が一方のプランジャ
と「摺動可能に接触」すると認めるに足りる証拠はないから、被告製品2は、
少なくとも構成要件1F、1Gを充足するとは認められない。
25 被告製品1は、被告製品2を組み合わせたものであるから、同様に、構成要件
21E、21Fを充足するとは認められない。
第4 結論
以上のとおりであって、被告製品はいずれも本件特許権に係る発明の技術的
範囲に属するとはいえないから、その余の争点について判断するまでもなく、原
5 告の請求には理由がない。よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 佐 伯 良 子
15 裁判官 仲 田 憲 史

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