令和3(ワ)18135損害賠償請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年11月4日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社チェンジ 被告JamfJapan合同会社
|
法令 |
不正競争
不正競争防止法2条1項21号1回
|
キーワード |
ライセンス29回 損害賠償4回 許諾2回 侵害2回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は、原告が、被告に対し、①被告が、従業員をして、故意又は過失によ
り、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布し
(不正競争防止法2条1項21号)、原告はこれにより営業上の利益を侵害さ
れ損害を被ったと主張して、不正競争による損害賠償請求権(不正競争防止法5
4条)に基づき、796万4000円及びこれに対する不正競争の日である令
和3年2月5日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の
支払を求め、又は、②被告の従業員が上記の事実の告知等により被告の事業の
執行について原告の信用を毀損し、原告はこれにより損害を被ったと主張して、
使用者責任による損害賠償請求権(民法709条、715条)に基づき、上記10
と同額の支払を求める事案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 不正競争に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
令和4年11月4日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和3年(ワ)第18135号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和4年9月1日
判 決
原 告 株 式 会 社 チ ェ ン ジ
同訴訟代理人弁護士 戸 澤 晃 広
道 垣 内 正 人
10 平 澤 遼 大
同訴訟復代理人弁護士 増 井 瑞 希
溜 慶 太
被 告 Jamf Japan合同会社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護士 江 幡 奈 歩
坂 庭 美 香
主 文
20 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求等
1 被告は、原告に対し、796万4000円及びこれに対する令和3年2月5
25 日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、①被告が、従業員をして、故意又は過失によ
り、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布し
(不正競争防止法2条1項21号)、原告はこれにより営業上の利益を侵害さ
5 れ損害を被ったと主張して、不正競争による損害賠償請求権(不正競争防止法
4条)に基づき、796万4000円及びこれに対する不正競争の日である令
和3年2月5日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の
支払を求め、又は、②被告の従業員が上記の事実の告知等により被告の事業の
執行について原告の信用を毀損し、原告はこれにより損害を被ったと主張して、
10 使用者責任による損害賠償請求権(民法709条、715条)に基づき、上記
と同額の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証
拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以
下同じ。)
15 ⑴ 当事者
原告は、モバイル端末、ウェアラブル端末の導入、企画、保守及び管理事
業等を目的とする株式会社である。(甲1)
被告は、ソフトウェアのライセンス及び販売並びに関連サービス及びサポ
ートの提供等を目的とする合同会社である。(甲3)
20 Jamf Software LLC(以下「Jamf本社」という。)
は、アメリカ合衆国の法人である。
⑵ 事実経過等
ア Jamf本社は、日本において、その保有するソフトウェア等(以下、
総称して「Jamf製品」という。)を、被告と代理店を通じて、最終
25 消費者に対し販売している。(弁論の全趣旨)
イ 原告及びJamf本社は、平成29年4月25日、アメリカ合衆国ミネ
ソタ州法を準拠法として、原告がJamf製品を非独占的に最終消費者
に対し再販売等することなどを内容とする再販売契約(以下「本件契約」
という。)を締結した。
本件契約において、Jamf本社は、原告を通じてJamf製品を販売
5 した者を含めいかなる者に対してもJamf製品等を直接販売等するこ
とができること、Jamf本社は30日前に書面で通知することにより
本件契約を解約することができることなどが定められていた。
(甲2、乙12)
ウ Jamf製品は、日本国内において、原告のほか、株式会社マジックハ
10 ット(以下「マジックハット」という。)又はソフトブレーン・インテグ
レーション株式会社(以下「SBI」という。)を一次代理店とし、ダイ
ワボウ情報システム株式会社(以下「DIS」という。)、SB C&S
株式会社(以下「SBCS」という。)又は株式会社Too(以下「To
o」という。)を二次代理店とし、さらに、三次代理店、四次代理店等を
15 通じて、最終消費者に対し販売されていた。(弁論の全趣旨)
原告は、従前、一次代理店としてTooに対しJamf製品を再販売し
ていたが、令和3年1月1日から、Tooが一次代理店となったことに伴
い、Tooに対する売上げを得られなくなった。(争いがない事実)
エ 宮城県栗原市教育委員会(以下「栗原市教育委員会」という)は、 文部
20 科学省のGIGAスクール構想に基づくプロジェクトの一環として、令
和3年4月から使用する端末機器としてiPadを採用することとし、
その管理プログラムとしてJamf製品であるJamf Pro(以下
「本件製品」という。)を導入することとした。
栗原市教育委員会は、有限会社シブヤ(以下「シブヤ」という。)を通
25 じ、富士ゼロックス宮城株式会社(令和3年4月1日に富士フイルムビ
ジネスイノベーションジャパン株式会社に統合された。以下、その前後
を通じて「富士ゼロックス宮城」という。)に対し本件製品のライセン
ス取得の作業を発注するとともに、NECネッツエスアイ株式会社(以
下「NECネッツエスアイ」という)に対し本件製品のキッティング
(端末機器において、ライセンス認証を行った上で、同ライセンスに係
5 るプログラムを導入してエンドユーザがすぐに使用できる状態にする作
業)を発注した(以下、栗原市教育委員会が発注したこれらをまとめて
「栗原市案件」ということがある。)。(弁論の全趣旨)
富士ゼロックス宮城は、令和2年11月頃、DISに対し栗原市案件に
ついて本件製品のライセンス取得の見積りを依頼し、DISは、原告に
10 対しこの件についての見積りを依頼した。(争いがない事実のほか、甲
13)
栗原市案件に係る取引等の概略やJamf製品の代理店の関係等は、別
紙取引関係図のとおりである。
オ 被告の従業員(以下「本件被告従業員」という。)は、令和3年2月5
15 日、富士ゼロックス宮城に対し、「今年度よりチェンジ様が再販可能なリ
セラーというポジションではなくなりますため、御社がJamf Pro
をご購入いただく際のご調達先は、御社→SBCS様もしくはダイワボウ
様→マジックハット様(https://以下省略)の商流にて対応させていただ
けないでしょうか?」という記載(以下「本件記載」という。)を含む電
20 子メール(以下「本件メール」という。)を送信した。なお、被告におけ
る事業年度は1月から12月であった。(乙1、弁論の全趣旨)
カ DISは、令和3年2月9日、マジックハットに対し、栗原市案件につ
いて本件製品のライセンス取得の見積りを依頼し、同月17日、これを発
注した。
25 キ Jamf本社は、令和3年9月14日、原告に対して、本件契約を同年
12月末日をもって解約する旨通知し、本件契約は、同月末日をもって終
了した。(乙15)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は、次のとおりである。
① 本件メールの送信が、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害す
5 る虚偽の事実を告知、流布するものか。
② 本件被告従業員が、被告の事業の執行として本件メールを送信し、原告
の信用を毀損したか。
③ 被告又は本件被告従業員に故意があるか。
④ 原告の損害及び額
10 ⑴ 争点①(本件メールの送信が、被告と競争関係にある原告の営業上の信用
を害する虚偽の事実を告知、流布するものか。)について
(原告の主張)
本件メールの送信は、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する
虚偽の事実を告知、流布するものである。
15 被告は、本件製品の販売等を直接行うことも可能であり、原告とは競争関
係にあった。
被告は、原告が、本件契約に基づき本件製品の再販売業者としての地位に
あり、本件製品の再販売が可能であったにもかかわらず、従業員をして、富
士ゼロックス宮城ひいてはDISに対し、原告には本件製品を販売する権限
20 がないとの原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知、流布した。
(被告の主張)
本件被告従業員は、令和3年4月の開始に向けて納期の遅れが一切許され
ない栗原市案件について、同年2月4日、NECネッツエスアイから、同月
15日にキッティング作業の開始を予定しているが、ライセンス取得がされ
25 た旨の報告がなくこのままでは作業に支障が生じるとして、ライセンス取得
状況の確認を求められたことから、栗原市教育委員会ほか関係者に迷惑をか
けることを懸念し、富士ゼロックス宮城に対し本件メールを送信した。
被告はJamf製品を販売する者であるのに対し、原告は、Jamf製品
を取り扱う一次代理店のひとつにすぎないから、被告と原告は競争関係には
ない。
5 また、本件記載は、虚偽の事実を内容とするものではない。すなわち、J
amf本社は、令和3年度から条件を満たした業者のみに限定して二次代理
店に対する再販売を許諾することにしたところ、原告については、本件メー
ルの送信当時、この条件を満たさないことが高度な蓋然性、確実性をもって
見込まれていた。本件被告従業員は、近い将来見込まれる予定として本件記
10 載をしたものである。
さらに、本件メールは栗原市案件における本件製品のライセンス発注の遅
延の解消を主眼とするものであり、本件記載は補足的なものにすぎないから、
本件メールの内容は原告の営業上の信用を害するものではないし、そのおそ
れもない。
15 ⑵ 争点②(本件被告従業員が、被告の事業の執行として本件メールを送信し、
原告の信用を毀損したか。)について
(原告の主張)
本件被告従業員は、被告の事業の執行として本件メールを送信し、原告の
信用を毀損した。
20 (被告の主張)
本件記載は補足的なものにすぎず、本件メールの送信は、原告の営業上の
信用を害するものではない。実際、本件メールを受領した富士ゼロックス宮
城は、栗原市案件のライセンス発注の遅れを懸念していたにすぎず本件記載
の内容には特段注目していない
25 ⑶ 争点③(被告又は本件被告従業員に故意があるか。)について
(原告の主張)
本件メールの送信は、原告を被告の取引相手から排除しようという意図の
もとされたものであり、被告及び本件被告従業員には故意がある。
(被告の主張)
本件被告従業員は、原告について二次代理店への再販売を行うことができ
5 なくなることが高度な蓋然性、確実性をもって見込まれていたことから、近
い将来見込まれる予定として本件記載をしたものであり、本件被告従業員に
は原告の信用の毀損について故意も過失もない。
⑷ 争点④(原告の損害及び額)について
(原告の主張)
10 被告の不正競争等により、原告は営業上の利益を侵害され、次の損害を被
った。
ア 逸失利益 224万円
原告は、本件行為を受け、栗原市教育委員会に迷惑をかけることを回避
するため栗原市案件から外れることを了承したところ、栗原市案件におい
15 てDISに対し本件製品を販売した場合に得られるはずであった利益相当
額である標記額の損害を被った。
イ 信用棄損に係る無形損害 500万円
ウ 弁護士費用 72万4000円
エ 合計 796万4000円
20 (被告の主張)
ア 逸失利益について
原告が栗原市案件から外れたことは、ライセンス取得の発注が長期滞留
したことが原因であり、本件記載の内容とは何ら関係がないし、三次代理
店である富士ゼロックス宮城がどの二次代理店に発注するかや各二次代理
25 店がどの一次代理店に発注するかは各業者が独自に決定することであって、
原告は栗原市案件において見積りをしたにすぎず、DISから実際に受注
することまで約束されていたわけではないから、原告には逸失利益はない。
イ 信用棄損に係る無形損害について
本件メールを受領したのは富士ゼロックス宮城の一社にすぎず、富士ゼ
ロックス宮城は、栗原市案件のライセンス発注の遅れを懸念していたにす
5 ぎず本件記載の内容には特段注目していないから、原告には何らの無形損
害も発生していない。
ウ 弁護士費用について
原告は、被告に対する嫌がらせとして本件訴えを提起したものであり、
原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用は損害として認められない。
10 第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、証拠(各項末尾に掲記のほか、甲13、乙16、18、証人A、
証人B(以下「B」という。)。ただし、いずれも後記認定に反する部分を除
く。)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
15 ⑴ 栗原市教育委員会は、GIGAスクール構想に基づくプロジェクトの一環
として使用する端末機器に令和3年4月から本件製品を導入することとし、
シブヤを通じ、富士ゼロックス宮城に対し本件製品のライセンス取得を発注
し、NECネッツエスアイに対しキッティングを発注した(栗原市案件)。
富士ゼロックス宮城は、令和2年11月頃、DISに対し栗原市案件につ
20 いて本件製品のライセンス取得の見積りを依頼し、DISは、原告に対しこ
の件について見積りを依頼し、原告は、DISに対し見積りを提出した。こ
の見積りの有効期間は45日間であった。
本件被告従業員は、令和2年11月、原告から案件候補のリストを受領し
た。同リストには、原告が栗原市案件についてDISから富士ゼロックス宮
25 城を三次代理店とする本件製品のライセンス取得の見積りを依頼された旨が
記載されていた。本件被告従業員は、同月19日及び27日、原告の担当者
に対し、栗原市案件の発注の進捗状況を確認する電子メールを送信したが、
原告の担当者からは一切返信がなかった。
⑵ Jamf本社は、令和2年12月、Jamf本社と再販売業者との間の再
販売許諾契約について令和3年1月1日から適用するJamfパートナープ
5 ログラムという名称の規約(以下「本件規約」という。)を定めた。本件規
約においては、毎年11月に翌年の事業計画を提出し、12月末までにJa
mf本社の承諾を得ること、Jamf本社は、各業者について、当年のJa
mf本社との間の取引金額、販売目標の達成率及び翌年の事業計画を考慮し
て業者のレベルを決定すること、再販売をすることができるゴールドレベル
10 のパートナーとなるためにはJamf本社との間の取引金額が200万ドル
以上である必要があること、業者が更に業者に対する再販売を希望する場合
にはJamf本社の承認を得る必要があること等が定められていた。(争い
がない事実のほか、甲7、乙2)
被告は、令和2年12月14日及び同月17日、原告に対し、本件規約に
15 ついて説明を行った。原告は、従前、Tooに対しJamf製品を再販売し
ていたが、令和3年1月1日からTooが一次代理店となることに伴い、売
上げの約7割を占めるTooに対する売上げを得られなくなることが見込ま
れていた。原告の令和2年の取引金額はTooとの間の取引を除くと200
万ドルに満たないものであり、Tooに代わる取引先を獲得するなどの事業
20 計画がない限り、原告は再販売をすることができるゴールドレベルのパート
ナーの条件を満たさない状況であった。被告は、原告について、令和3年の
事業計画次第でゴールドレベルのパートナーと判断する余地もあるとしてい
たものの、原告がゴールドレベルのパートナーとなることが可能となる事業
計画を提出することは現実的ではなかった。(乙13)
25 原告以外の再販売業者には令和3年1月から本件規約が適用された。
被告は、原告についての本件契約も、原告の理解を得て、令和3年のでき
るだけ早い時期から本件規約を適用することを希望していた。
⑶ 本件被告従業員は、令和3年2月4日、NECネッツエスアイから、栗原
市案件について、キッティングの作業開始予定日が同月15日と設定されて
いるにもかかわらず、本件製品のライセンス取得がされた旨の報告がなく、
5 作業に支障が生じる可能性があるとの連絡を受けた。
栗原市案件は文部科学省のGIGAスクール構想に基づくプロジェクトの
一環として栗原市教育委員会から発注されたものであり、学校の新年度が開
始する令和3年4月に端末機器の利用が可能になることが厳格に求められて
いた。また、キッティングは、ライセンス取得を前提として、端末機器にお
10 いてライセンス認証を行った上で、端末機器に同ライセンスに係るプログラ
ムを導入セットアップする作業であり、作業開始予定日に合わせて相当数の
人員を集めたり場所を確保したりするなどの準備をしなければならず、作業
を開始するためには予定日の相当前にライセンスが取得されている必要があ
った。
15 本件被告従業員は、原告の担当者から栗原市案件について進捗状況の連絡
を受けていなかったことや原告が確認のメールに返信しないことがあったな
どの原告の従前の対応状況等に鑑み、被告の連絡に対する原告の反応が遅か
ったりその反応がなかったりしてキッティング作業が遅延し、栗原市教育委
員会等関係者に迷惑をかける事態を招来することを懸念し、速やかに作業を
20 進めるため、令和3年2月5日、連絡先を把握していた富士ゼロックス宮城
の担当者に対し、本件記載を含む次のような記載がある本件メールを送信し
た。
「 ご発注いただく際の商流の件で確認をさせていただきたく、…ご協
力を賜りたくご連絡を差し上げました。
25 御社もご存知のことと思いますが、納期が非常にタイトスケジュール
な案件となっておりまして、現場にて構築作業を請け負うNECネッツ
エスアイ様からも迅速な納品をと依頼されております。
昨年に御社からダイワボウ様経由にてチェンジ様(https://以下省略)
にお見積もりを依頼されていた履歴が弊社にて確認できました。
また御社にてJamf ProをMVSに加えていただくという方向
5 で動いていただいており、弊社製品の購入先は今後SBCS様に一本化
される予定だと伺っております。
また今年度よりチェンジ様が再販可能なリセラーというポジションで
はなくなりますため、御社がJamf Proをご購入いただく際のご
調達先は、御社→SBCS様もしくはダイワボウ様→マジックハット様
10 (https://以下省略)の商流にて対応させていただけないでしょうか?
マジックハット様は今回の栗原市様案件でNECネッツエスアイ様と
共にご対応いただいており状況等も把握されておりますため、スムーズ
に弊社へご注文できるようスタンバイされておられます。
ダイワボウ様、SBCS様へご発注される際にマジックハット社へご
15 注文をいただくよう、可能でしたらご指示くださいますと幸いです。」
富士ゼロックス宮城の担当者は、令和3年2月5日、本件被告従業員に対
し、「商流の件は承知致しました。できるならば調整いたします。ただ、そ
もそもDIS様へ1月15日に発注しているのでなんで止まっているのかを
確認いたします。御社への注文が行っていないことを教えていただいてあり
20 がとうございます。」という趣旨の記載を含む電子メールを返信した。
富士ゼロックス宮城は、DISに対し本件製品のライセンス取得の発注に
ついて進捗状況を確認し、DISは、これを受け原告に連絡した。
本件被告従業員は、令和3年2月9日、富士ゼロックス宮城の担当者に対
し、「ご進捗のほどはいかがでしょうか。もし可能でしたら私の連絡先をお
25 伝えいただき、DIS又はSBCSご担当者様からご連絡をいただけますと
幸いです。弊社の一次代理店様からも進展の連絡がないためボトルネックを
解消したく、ご協力賜ることできますと幸いです。」との記載を含む電子メ
ールを送信した。DISは、原告の了解を得て、栗原市案件のライセンス取
得の発注先をマジックハットに変更し、同日、被告に対しその旨連絡した。
本件被告従業員は、これを受けて富士ゼロックス宮城の担当者に対し状況を
5 報告し、DISの発注書が届いたら被告において対応する旨が記載された電
子メールを送信し、富士ゼロックス宮城の担当者は、「進展あって良かった
です。」との記載を含む電子メールを返信した。DISは、同日、マジック
ハットに対し、栗原市案件のライセンス取得の見積りを依頼した。
DISは、令和3年2月17日、マジックハットに対し、栗原市案件のラ
10 イセンス取得を発注した。被告は、同月19日、マジックハットからこの件
を受注し、同日、栗原市案件について本件製品のライセンスが発行された。
なお、DISは、ITに関する製品等を扱う大手の商社であり、従前から、
原告及びマジックハットの双方からJamf製品を購入していた。
NECネッツエスアイは、栗原市案件について本件製品のライセンスが発
15 行されていなかったことから当初のキッティング作業の開始日の予定を延期
し、令和3年3月1日、キッティング作業を開始した。
(本項につき、乙1)
⑷ 被告の従業員であるBは、令和3年2月10日、本件規約との関係で、原
告に対し、原告の事業計画の提出の必要性について再度説明し、同月26日
20 の打合せの際にそれを提出するよう求めた。(甲8、乙14)
原告は、DISからの情報により、本件被告従業員が富士ゼロックス宮城
の担当者に対し本件記載を含む内容の電子メールを送信したことを知り、令
和3年2月19日、被告に対し面談を求め、同月24日、被告に対し本件メ
ールの送信について調査等を求めた。(甲5、乙3、4)
25 被告は、令和3年3月3日、原告に対し、本件被告従業員が原告の取引先
に対し事実に反する内容と商流変更依頼と受け取られる電子メールを送信し
たことにつき謝罪すること、被告は、原告がJamf製品を取り扱わなくな
るという認識は一切持っておらず、そのような情報も共有していないこと、
従業員に本件規約の内容が誤って認識されたことにより事実と異なる本件メ
ールが送信され、原告及び原告の取引先に不信感を感じさせる結果となった
5 ことについて申し訳なく考えていること、本件メールは被告の指示ではなく
本件被告従業員の判断によって送信されたものであること、栗原市案件の進
捗状況の確認等については被告が関与すべき立場にはなかったこと、原告の
取引先に対し誤った情報の修正を行う予定であることなどを記載した書面を
交付した。被告は、本件被告従業員を通じて、富士ゼロックス宮城の担当者
10 に対し、本件記載について修正し、謝罪した。(甲6)
原告は、令和3年3月3日、本件メールの送付は偽計業務妨害罪に該当す
ると認識しているなどと記載した電子メールを送信し、同月26日、弁護士
(原告訴訟代理人)に委任して、原告は被告に対する損害賠償請求及び刑事
告訴をせざるを得ない状況にあるが、被告が非を認めて和解を希望する場合
15 には協議に応じる用意があるとした上で、和解をする場合には、Jamf本
社がDISとの間でDISをゴールドレベルのパートナーとして再販売契約
を締結することが条件であるなどと記載した書面を送付した。これに対し、
被告も弁護士(被告訴訟代理人)に委任し、原告と被告との間で協議が継続
された。被告は、謝罪を繰り返すとともに、同年6月9日、原告に対し、D
20 ISに対し一般的な内容で契約を締結することを提案する準備がある旨説明
したが、原告は、DISに他社より有利な条件が付加されないことに納得せ
ず、法的措置をとる予定である旨述べて協議を打ち切った。(甲8、乙4~
11)
原告は、令和3年7月12日、本件訴えを提起した。(顕著な事実)
25 ⑸ DISは、その後も、従前と同様に、原告に対しJamf製品の発注を行
った。原告は、令和3年の事業計画を提出しなかったが、従前と変わること
なく、Jamf本社の一次代理店として取引を行った。
Jamf本社は、令和3年9月14日、原告に対し、本件契約を同年12
月末日をもって解約する旨通知した。
原告とJamf本社との間の本件契約は、令和3年12月末日をもって終
5 了した。
2 争点①(本件メールの送信が、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を
害する虚偽の事実を告知、流布するものか。)及び争点②(本件被告従業員が、
被告の事業の執行として本件メールを送信し、原告の信用を毀損したか。)に
ついて
10 本件被告従業員は、令和3年2月5日、富士ゼロックス宮城の担当者に対し、
原告が同年度からJamf製品を再販売することができる業者ではなくなる旨
の本件記載を含む本件メールを送信した(前記第2の1⑵、前記1⑶)。
もっとも、本件被告従業員は、令和3年2月4日、NECネッツエスアイか
ら、同月15日に栗原市案件についてキッティング作業の開始を予定している
15 にもかかわらずライセンス取得がされた旨の報告がないとの連絡を受けたとこ
ろ、令和2年11月頃に原告の担当者に対して栗原市案件について問い合わせ
た際には一切その返信がなく、その後も進捗状況の連絡を受けていなかったこ
と等もあって、栗原市案件についてキッティング作業が遅延し、栗原市教育委
員会等関係者に迷惑をかける事態を招来することを懸念し、速やかに作業を進
20 めるため、連絡先を把握していた富士ゼロックス宮城の担当者に対し本件メー
ルを送信したものである(前記1⑴、⑶)。そして、本件メールの内容も、厳
格な納期の迫った栗原市案件について、関係者に迷惑をかけることがなく速や
かに作業を進めるために考えられる協力を富士ゼロックス宮城の担当者に求め
るところに要点があることが明らかである。
25 本件メールの当時、富士ゼロックス宮城にとって、発注した取引が確実に実
現に至ることは重要であったことは推認できる。もっとも、富士ゼロックス宮
城は大手の商社であるDISと取引していたのであり、本件メールを受信した
富士ゼロックス宮城の担当者は、DISに対する注文がその後滞っているとい
う認識の下に、DISに対して本件製品のライセンス取得の発注の進捗状況を
確認するという対応をとったが(同⑶)、DISに対してその発注先をどうす
5 るかについての指示等をしたなどの事実を認めるに足りず、富士ゼロックス宮
城にとり、DISの取引先が誰であるか自体が重要であったことや、それを実
際に重視したことを認めるに足りない。
また、本件メールの内容は富士ゼロックス宮城の担当者を通じてDISも認
識するところとなったものの、DISは、本件記載にかかわらず、その後も、
10 従前と変わることなく、原告に対しJamf製品の発注を継続しており(同
⑸)、いずれも本件記載に注意や関心を払わなかったものと認められる。
原告は、栗原市案件に関しその了解の上で商流から離脱したものの、元来、
栗原市案件については、関係者であるNECネッツエスアイから本件製品の手
続がされていないために作業に支障があるという連絡があり(そして、現に、
15 NECネッツエスアイは、令和3年2月15日に開始を予定していたキッティ
ング作業を同年3月1日に遅れて開始した(同⑶)。)、富士ゼロックス宮城
の担当者も手続が滞っているという認識を有していたように(同上。令和3年
2月5日のメール)、本件製品のライセンス取得の発注が円滑にされていなか
ったという点に問題が存在し、上記のとおりDISがその後も従前と同様に原
20 告との取引を継続していることに鑑みれば、原告が「再販可能なリセラーとし
てのポジションでなくなる」という本件記載が、原告が栗原市案件について商
流から離脱したことに影響したとは認めるに足りない。
本件記載は、本件被告従業員が富士ゼロックス宮城の担当者に送信し、DI
Sも認識することとなった本件メール中の記載である。そして、そこにおいて
25 された、原告が令和3年度からJamf製品を再販売することができる業者で
はなくなる旨の本件記載は、上記に述べたとおりの本件メール全体の目的とそ
の中での本件記載の位置付けに照らせば、これに接した者が原告の信用性に関
係するものとしてその記載に着目するものとはいえず、原告の社会的評価を低
下させて信用を害するとかそのおそれがあるとまでは認められないものであり、
このことはその後に実際にこれに接した者の受け止め方や本件記載による影響
5 によっても裏付けられる。したがって、本件メールの送信は、原告の営業上の
信用を害する事実を告知、流布するものであるとは認められず、また、本件被
告従業員が、本件メールを送信して原告の信用を毀損したとも認められない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。
10 よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 佐 伯 良 子
裁判官 仲 田 憲 史
別紙
取引関係図
以 上
最新の判決一覧に戻る