ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和3(行ケ)10163 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和4年11月29日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社東京精密 被告浜松ホトニクス株式会社 |
| 対象物 | レーザ加工装置 |
| 法令 |
特許権 特許法134条の24回 特許法29条2項1回 |
| キーワード | 審決92回 実施69回 無効34回 分割34回 進歩性15回 刊行物4回 訂正審判1回 特許権1回 無効審判1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ア 被告は、平成13年9月13日に出願した特許出願(特願2001-2 78663号、優先日平成12年9月13日(以下「本件優先日」という。)。 以下「原出願」という。)の一部を分割した特許出願(特願2004-3110 8326号)の一部を更に分割した特許出願(特願2005-20907 3号)を分割して、平成18年3月2日、発明の名称を「レーザ加工装置」 とする発明について、新たな特許出願(特願2006-56671号。以 下、「本件出願」という。)をし、同年10月13日、特許権の設定登録(特 許第3867108号。請求項の数1。以下、この特許を「本件特許」と15 いう。)を受けた(甲31、35)。 イ 被告は、平成30年4月24日、本件特許の特許請求の範囲の請求項1 について訂正することを求める訂正審判(訂正2018-390073号) を請求した(甲54)。 特許庁は、同年7月3日、上記訂正を認める審決(以下「訂正審決」と20 いう。甲54)をし、同月13日、訂正審決は確定し、同月20日、その |
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令和4年11月29日判決言渡
令和3年(行ケ)第10163号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年7月21日
判 決
原 告 株 式 会 社 東 京 精 密
同訴訟代理人弁護士 服 部 誠
中 村 閑
柿 本 祐 依
同訴訟代理人弁理士 相 田 義 明
山 下 崇
被 告 浜松ホトニクス株式会社
同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
深 沢 正 志
尾 関 孝 彰
松 本 直 樹
大 澤 恒 夫
同訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
柴 田 昌 聰
小 曳 満 昭
同訴訟復代理人弁護士 河 合 哲 志
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2019-800082号事件について令和3年11月18日
5 にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ア 被告は、平成13年9月13日に出願した特許出願(特願2001-278663号、優先日平成12年9月13日(以下「本件優先日」という。 。)以下「原出願」という。)の一部を分割した特許出願(特願2004-318326号)の一部を更に分割した特許出願(特願2005-209073号)を分割して、平成18年3月2日、発明の名称を「レーザ加工装置」とする発明について、新たな特許出願(特願2006-56671号。以下、「本件出願」という。)をし、同年10月13日、特許権の設定登録(特許第3867108号。請求項の数1。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた(甲31、35)。イ 被告は、平成30年4月24日、本件特許の特許請求の範囲の請求項1について訂正することを求める訂正審判(訂正2018-390073号)を請求した(甲54)。特許庁は、同年7月3日、上記訂正を認める審決(以下「訂正審決」という。甲54)をし、同月13日、訂正審決は確定し、同月20日、その旨の登録がされた(甲35)。
⑵ 原告は、令和元年10月10日、本件特許について特許無効審判(無効2019-800082号)を請求した。被告は、令和2年9月16日付けの無効理由通知(以下「本件無効理由通知」という。)を受けた後、令和3年3月18日付けの審決の予告(以下「本件審決予告」という。甲34)を受けたため、同年5月28日付けで、本件特許の特許請求の範囲の請求項1を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした(甲33)。特許庁は、同年11月18日、本件訂正を認めた上、「本件審判の請求は、
5 成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月25日、原告に送達された。
⑶ 原告は、令和3年12月23日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲の記載本件訂正前(訂正審決による訂正後のもの)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「訂正前発明」という。甲31)。【請求項1】ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記加工対象物のレーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記レーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備え、前記加工対象物はシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装置。
5 ⑵ 本件訂正後本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。下線部は本件訂正による訂正箇所である。甲33)。【請求項1】ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記加工対象物のレーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記レーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備え、前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装置。3 本件審決の理由
⑴ 理由の要旨
5 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりである。その理由の要旨は、本件訂正を認めた上で、本件無効理由通知及び本件審決予告に係る無効理由(甲15を主引用例とする進歩性の欠如。以下、この無効理由を「職権無効理由」という。 、無効理由1(甲1を主引用例とする進歩性の欠如)) 、無効理由2(甲2を主引用例とする進歩性の欠如)、無効理由3(甲3を主引用例とする進歩性の欠如)、無効理由4(甲4を主引用例とする進歩性の欠如)、無効理由5(甲5を主引用例とする進歩性の欠如)、無効理由6(甲6を主引用例とする進歩性の欠如) 無効理由7、 (甲7を主引用例とする進歩性の欠如)、無効理由8(明確性要件違反)、無効理由9(サポート要件違反)及び無効理由10(実施可能要件違反)は、いずれも理由がないというものである。本件審決が引用した甲1ないし7、15は、次のとおりである。甲1 特開平11-163403号公報甲2 特開昭50-131458号公報甲3 特開昭50-64898号公報甲4 特開平11-71124号公報甲5 特開平4-111800号公報甲6 特開平11-138896号公報甲7 国際公開第00/32349号甲15 特開平11-177137号公報本件訂正の経緯本件訂正に至る経緯として、次の事実が認められる(甲33、34、弁論の全趣旨)。ア 本件審決予告は、本件特許は、職権無効理由(甲15を主引用例とする進歩性の欠如)により、無効とすべきものと判断したものであるところ、「当審無効理由通知で通知した無効理由についての検討」として、次のと
5 おりの甲15に記載された発明(以下「甲15発明」という。)を認定した上で、①甲15発明の「基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201」又は「基板201」は、訂正前発明の「ウェハ上の加工対象物」又は「加工対象物」に相当する、②訂正前発明は、加工対象物が「シリコンウェハ」であるのに対し、甲15発明は、加工対象物が基板201である点で相違(相違点2)するが、甲15発明において、レーザ光により切断分離される加工対象物としてシリコンウェハを採用することは、当業者にとって選択的事項の範疇である旨判断した。また、本件審決予告は、「当審無効理由通知で通知に対する被請求人の主張について」として、①訂正前発明では、シリコンウェハである加工対象物について、その表面に溝部があるかないかについて何ら特定がないから、表面に溝部があるシリコンウェハを排除しているわけではない、②被請求人(被告)は、訂正前発明では「シリコンウェハを構成するシリコン基板の表面に切断のための溝部が形成されること」は全く想定されておらず、本件明細書(本件出願の願書に添付した明細書(図面を含む。 。) 以下同じ。甲31)に接した当業者は溝部が形成されたシリコンウェハを加工対象物に含むとは理解しないとか、「シリコンウェハ」と言っただけで当業者には「シリコン基板の表面に切断のための溝部が形成されていないシリコンウェハ」を意味すると理解されると主張するが、発明の詳細な説明を記載する際に、全ての実施形態をもれなく記載することが求められているわけではないことを踏まえれば、本件明細書にも訂正前発明に含まれる全ての実施形態が記載されているとはいえないし、甲15(図2等を参照。)及び甲1(図1等を参照。)のように、その表面に溝部が形成された基板についても切断分離を行うことは従来から知られており、訂正前発明においても、シリコンウェハである加工対象物について、その表面に溝部があるかない
5 かについては何ら特定がないのであるから、訂正前発明が、表面に溝部があるシリコンウェハを排除するものであるとまでいうことはできない旨判断した。【甲15発明】「基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機であって、前記基板201が載置されるステージと、レーザー光線を照射するYAGレーザー照射装置と、前記ステージに載置された前記基板201の内部に、前記YAGレーザー照射装置から照射されたレーザー光線を集光し、そのレーザー光線の焦点の位置で微視的なマイクロ・クラックの集合である前記加工変質部を形成させるレーザーの光学系と、レーザー光線の焦点が前記基板201上の溝部203の内部側に位置するように、前記レーザーの光学系を調整し、レーザ光線の焦点が前記基板201のブレイク・ライン204に沿って移動するように、前記基板201の厚さ方向と直交する方向に前記ステージを移動させる制御部と、を備えるレーザー加工機。」イ 被告は、本件審決予告を受けたため、本件訂正前の請求項1の「前記加工対象物はシリコンウェハである」を「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」に訂正することを訂正事項(以下「本件訂正事項」という。)とする本件訂正をした。職権無効理由関係本件審決が認定した本件発明と甲15発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
5 (一致点)「ウェハ状の加工対象物の内部に、改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記集光用レンズを調整し、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備えるレーザ加工装置。」である点。(相違点1)本件発明は、改質領域が「切断の起点」となるのに対し、甲15発明は、改質領域に相当する微視的なマイクロ クラックの集合である加工変質部が、・基板201上の溝部203の内部側に形成されており、当該加工変質部が切断の起点となるものか明らかでない点。(相違点2)本件発明は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対し、甲15発明は、加工対象物が一方の表面に溝部203が形成された基板201である点。(相違点3)本件発明は、「制御部」により、「レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記加工対象物のレーザ光入射面を基準として前記加
5 工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記レーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる」制御をしているのに対し、甲15発明は、レーザー光線の焦点が基板201上の溝部203の内部側に位置するように、前記レーザーの光学系を調整し、レーザ光線の焦点が前記基板201のブレイク・ライン204に沿って移動するように、前記基板201の厚さ方向と直交する方向に前記ステージを移動させる制御をしているが、基板201の厚さ方向に複数のブレイク・ラインを形成しているか不明な点。無効理由2関係本件審決が認定した甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。 、)本件発明と甲2発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。(甲2発明)「半導体結晶ウェーハの裏面に、ペレットに分割するための起点となるスクライブ溝を形成するレーザー加工装置であって、前記半導体結晶ウェーハが載置される載置台と、レーザー光を出射するYAGレーザーと、前記載置台に載置された前記加工対象物の裏面近傍に、前記YAGレーザーから出射されたレーザー光が焦点を結び、その焦点の位置でスクライブ溝を形成させる光学レンズ51と、前記レーザー光の出力および前記半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れる制御部と、を備える、
5 レーザー加工装置。」(一致点)「ウェハ状の加工対象物に、切断の起点となる加工領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で加工領域を形成させる集光用レンズと、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備えるレーザ加工装置。」である点。(相違点1)本件発明は、加工対象物の「内部」の「改質領域」を切断の起点とするのに対して、甲2発明は、半導体結晶ウェーハの裏面のスクライブ溝が切断の起点である点。(相違点2)本件発明は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対し、甲2発明は、加工対象物が半導体結晶ウェーハである点。(相違点3)本件発明は、「制御部」が「レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記加工対象物のレーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工
5 対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記レーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する」のに対し、甲2発明の制御部は、レーザー光の出力および半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れる制御を行っている点。
⑸ 無効理由5関係本件審決が認定した甲5に記載された発明(以下「甲5発明」という。 、)本件発明と甲5発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。(甲5発明)「厚板の合成石英ガラスに、連続的に微細なクラックを形成するエキシマレーザビームで切断加工する装置であって、前記厚板の合成石英ガラスが載置される載置台と、エキシマレーザビームを照射するエキシマレーザと、前記載置台に載置された前記厚板の合成石英ガラスに、前記エキシマレーザから照射されたエキシマレーザビームの焦点を合わせて、その焦点の位置で微細なクラックを形成させるレンズと、エキシマレーザビームの焦点の移動速度を略一定にして、エキシマレーザビームの焦点を前記厚板の合成石英ガラスの底面から上方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させる制御部と、を備える、エキシマレーザビームで切断加工する装置。」(一致点)「加工対象物に、改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、
5 レーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備えるレーザ加工装置。」である点。(相違点1)本件発明は、改質領域を「切断の起点」とするのに対して、甲5発明は、連続的に微細なクラックで切断加工する(微細なクラックが連続することで切断加工する)点。(相違点2)本件発明は、加工対象物が「ウェハ状の加工対象物」であって「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対し、甲5発明は、加工対象物が厚板の合成石英ガラスである点。(相違点3)制御部が、本件発明は、「レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記加工対象物のレーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記レーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記切断予定ラインに沿って移動するように、前
5 記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する」のに対し、甲5発明は、エキシマレーザビームの焦点の移動速度を略一定にして、エキシマレーザビームの焦点を前記厚板の石英ガラスの底面から上方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させるものである点。
第3 当事者の主張
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)
⑴
(原告の主張)
ア 新規事項に関する判断の誤り本件審決は、①本件明細書の【0027】には、加工対象物であるシリコンウェハがシリコン単結晶構造で構成される場合が記載されていること、②図1ないし4から「切断予定ライン5」に沿った細長いくぼみである「溝」は形成されていないことが看取できること、③【0033】の記載から溝の有無に関係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハは切断できることから、本件明細書等には、「加工対象物」である「シリコンウェハ」を、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」とすることは記載されているといえるとして、本件訂正事項は、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではないから、特許法134条の2第9項で準用する126条5項に適合する旨判断した。しかしながら、本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も示唆もない。本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウ
5 ェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たらない。
本件審決の挙げる本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はない。また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」であるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明であり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予定ライン5に沿って存在するのかも不明である。さらに、【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。」と記載しているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断できるものであることの記載はない。したがって、①ないし③を考慮しても、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」ことを導くことはできないから、本件訂正事項は新規事項を追加するものでないとした本件審決の上記判断は誤りである。イ 訂正の目的に関する判断の誤り本件審決は、本件訂正事項は、訂正前発明の「加工対象物」である「シリコンウェハ」を、訂正により「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」に限定するものであり、また、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」との記載は、加工対象物である「シリコンウェハ」のうち、シリコン単結晶構造部分には、切断予定ラインに沿った細長いくぼみが存在しないという意味に解されるから、その意味は明確であるとして、本件訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
5 (特許法134条の2第1項ただし書1号)と認められる旨判断した。
しかしながら、レーザ加工装置の加工対象物としての「シリコンウェハ」は、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであり(甲36) このような溝が形成されているシリ、コンウェハが存在しないことは、本件優先日前の技術常識であることに照らすと、本件訂正事項によって「レーザ加工装置」の構成に何らかの限定が加えられているわけではなく、本件訂正の前後で、「レーザ加工装置」は、性能上も構成上も同じものであるから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また、本件明細書には、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝の有無、技術的意義についての言及がないため、本件訂正後の「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」において、シリコン単結晶構造部分がどのような位置にあり、切断予定ラインに沿ってどのような溝が形成されているのか不明確である。そうすると、仮に本件訂正事項により「レーザ加工装置」が何らかの意味で限定されるとしても、本件訂正によってどのようなシリコンウェハが加工対象物となるのかを理解することができず、本件訂正後の特許請求の範囲の記載が明確とはいえないから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。さらに、物の構成という観点やサブコンビネーション発明のクレーム解釈の観点からも、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。したがって、本件審決の上記判断は誤りである。ウ 小括以上のとおり、本件審決には訂正要件の判断に誤りがあり、この誤りは、本件特許の特許請求の範囲(請求項1)に係る発明の要旨認定の誤りに帰
5 するから、審決の結論に影響を及ぼすものであり、本件審決は、取り消さ
れるべきである。
⑵
(被告の主張)
ア 新規事項に関する判断の誤りの主張に対し本件明細書記載の「シリコンウェハ」は、レーザ加工装置の加工対象物としての「通常のシリコンウェハ」である。そして、「通常のシリコンウェハ」 「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成は、されていないシリコンウェハ」であることは、本件優先日当時の技術常識であること(甲36)からすると、本件訂正後の請求項1の「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」は、「通常のシリコンウェハ」であり、本件明細書に記載されているに等しい事項である。また、溝が形成されていない図1ないし4に示されるシリコンウェハは、その大部分が単結晶構造であることは自明であるから、「シリコン単結晶構造部分」が切断予定ライン5に沿って存在することも自明である。さらに、原告が指摘する【0033】には、「シリコンウェハの表面」や「シリコンウェハの裏面」の形状(溝の有無)についての限定はないから、上記記載は、当該形状(溝の有無)にかかわらず、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断されることを表しているといえる。また、本件明細書には、「溝が無ければ切断されない」という趣旨の記載があるわけでもないから、当業者は、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」シリコンウェハが切断可能であることを当然に理解する。以上によれば、本件訂正事項は、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項の追加に当らないとした本件審決の判断に誤りはない。イ 訂正の目的に関する判断の誤りの主張に対し
5 本件審決予告(前記第2の3 ア)が示すように、本件訂正前の特許請
求の範囲(請求項1)は、その文言上、①シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハを切断し得る性能を有するレーザ加工装置のみならず、②シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されているシリコンウェハを切断し得る性能を有するが、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハを切断し得る性能を有するとは限らないレーザ加工装置を含むと解される余地があったため、本件訂正事項によって、②のレーザ加工装置を特許請求の範囲から除外したことは明らかであり、また、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確であるから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。したがって、これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。ウ 小括以上のとおり、本件審決における訂正要件の判断に誤りがないから、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(甲15を主引用例とする進歩性の判断の誤り)
(職権無効理由関係)
⑴
(原告の主張)
ア 相違点2の認定の誤り本件審決は、甲15の記載から、「基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機」の発明(甲15発明)を認定した上で、本件発明と甲15発明の相違点2として、本件発明は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対し、甲15発明は、加工対象物が一方の表面に溝部203が形成され
5 た基板201である点で相違すると認定した。
しかしながら、甲15の記載(【0001】【0005】ないし【000、8】【0019】ないし【0022】【0027】ないし【0030】【0、 、 、032】等)から、甲15の「レーザー加工機」の加工対象物として「溝部がない基板」を認定でき、また、「基板201の一方の表面に溝部203が形成されておらず、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機」の発明を認定できる。したがって、本件審決における甲15発明の認定には誤りがあり、その結果、相違点2の認定にも誤りがある。イ 相違点2の容易想到性の判断の誤り仮に本件審決における甲15発明の認定に誤りがないとしても、以下のとおり、相違点2の容易想到性の判断に誤りがある。本件審決は、相違点2に関し、①甲15の【0020】の記載及び実施例2は、ブレイク・ラインに沿って、ローラーにより荷重をかけて基板を切断分離するものであるから、平坦な分離端面となるように基板を切断(分離)するためには、基板201の表面に溝部203を形成することは必要不可欠な要件と理解されるので、基板201から溝部203を捨象することは想定し得ず、加工対象物として、ブレイク・ライン(切断予定ライン)に沿った溝が形成されていない基板201を採用し、表面に溝が形成されていない基板201の内部側に形成された加工変質部を形成するよう改変を行う動機は存在しない、②当業者は、このような改変を行えば、甲15記載の課題を解決できないと理解するから、当該改変にはむしろ阻害事由がある、③甲15発明の基板201から溝部203を捨象して、加工対象物をブレイク・ライン(切断予定ライン)に沿った溝が形成されていない基板201とした場合においても、基板201の内部側に形成され
5 た加工変質部(ブレイク・ライン204)のみによって基板が切断(分離)
できると理解できるような事情は見いだせない旨判断した。しかしながら、甲15の【0020】の「本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係している」との記載は、①ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部は、溝部形成後にダイヤモンドスクライバーで分離させると半導体ウエハー内に保持された応力によって所望通りの端面が形成できないこと(【0021】 、②「本発明」はダイサーにより生じた内部応力に依存する)ことなくレーザースクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させることにより、端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができること 【0022】( 前段) ③半導体ウエハー、の厚みを部分的に薄くするために溝部を形成しても、レーザー照射により極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成することにより正確に窒化物半導体ウエハーが分離できること(【0022】後段)を意味するものであり、【0020】の記載から、平坦な分離端面となるように基板を切断(分離)するためには、基板201の表面に溝部203を形成することは必要不可欠であるとは認定できない。また、【0022】前段の「本発明」とは、その直前の【0019】の「本発明」を指すところ、【0019】は、「本発明」を「半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができる」発明と規定しているから、【0022】前段の「本発明」は、【0019】と同様に、「半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射すること」を技術的特徴とする発明であって、溝を形成することを必須の構成としない発明であると理解
5 するのが合理的かつ自然である。加えて、本件優先日当時、
「サファイア基板は溝を形成しなくともスクライブ(割断)できること」が知られていたこと(甲39ないし42)からすると、甲15(特に【0019】ないし【0022】 に接した当業者は、) ごく自然に半導体ウエハーの表面に溝を形成せずにその内部にレーザの焦点をあててウエハーを割断することを理解するといえる。さらに、甲15において、加工対象物に溝部を設ける理由は、溝部を形成することにより生じる内部応力を半導体ウエハーの切断に利用するためではなく、ウエハー自体の厚さを薄くするためであること 【0023】( 、【0029】等)からすると、加工対象物が溝を形成する必要のない厚さである場合、加工対象物に溝を設ける必要はない。また、【0032】には、「発光ダイオード用の窒化物半導体ウエハーとする場合…pn接合を持つ窒化物半導体層で数μmから数十 μmの厚みがある」と記載され、溝を形成せずに加工対象物全体の厚さを薄くする技術が開示されている。そして、本件優先日当時において、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあり、しかも、シリコンウェハのように、へき開性を有し、さほど硬度が高くない(硬くない)加工対象物を切断する場合、当業者は、コストアップに繋がる溝形成プロセスを避け、溝を設けないで、レーザー照射をしようと試みるから、甲15発明において、相違点2に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものである。したがって、本件審決の上記判断は誤りである。ウ 小括以上のとおり、本件審決における相違点2の認定及び判断に誤りがあり、この誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものであるから、本件審決は、取り消されるべきである。
⑵
(被告の主張)
5 ア 相違点2の認定の誤りの主張に対し
刊行物の記載に基づく引用発明の認定は、刊行物の記載を基礎として客観的、具体的にされるべきところ、甲15には、「半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機」についての具体的記載は、実施例2にしかないことを踏まえると、本件審決が、実施例2に基づいて、「一方の表面に溝部203が形成され」た「基板201」を加工対象物としたレーザー加工機の発明として甲15発明を認定したことは妥当であるから、本件審決がした本件発明と甲15発明の相違点2の認定に誤りはない。また、甲15の記載から、「一方の表面に溝部を形成しない」基板を加工対象物としたレーザー加工機の発明を認定することはできない。したがって、本件審決における相違点2の認定の誤りをいう
(原告の主張)
は理由がない。イ 相違点2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し甲15には、基板201の表面に溝部203を形成することなしに、「基板201上の溝部203の内部側」に形成された加工変質部に沿って、平坦な分離端面となるように基板を切断(分離)することができることを示す記載は一切ない。かえって、甲15の記載(請求項1、【0001】【0、004】【0006】【0013】【0064】、 、 、 )を総合すれば、甲15発明は、サファイアやスピネル基板などの上に窒化物半導体が形成された半導体ウエハーは、ダイヤモンドスクライバーのみで切断することは困難であり、ダイサーのみで切断しようとすると、その切断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗に切断できない、基板から窒化物半導体層が部分的に剥離するなどの課題があったことから、従来の方法における「ダイヤモンドスクライバーにより、ダイサーで形成した溝部の底面にスクライブ・ラインを形成する」という工程に換えて、「レーザー照射により、溝部
5 の底面にブレイク・ラインを形成する」という工程を採用することを課題
解決手段とした発明であり、溝部が形成されることを前提とした発明である。甲15の【0020】ないし【0022】の記載は、溝部が形成されることを前提とした発明についての実施の形態を説明した記載であるから、本件審決が、甲15発明において、「基板201上の溝部203の内部側」に形成された加工変質部に沿って、平坦な分離端面となるように基板を切断(分離)するためには、基板201の表面に溝部203を形成することは必要不可欠な要件と理解されると認定した点に誤りはない。原告が挙げる【0019】記載の「本発明」について、【0013】には「溝部103にブレイク・ライン104をレーザー照射により形成する工程」を有することが記載されており、【0019】記載の「半導体ウエハーの特定箇所」とは、「溝部の表面か、その溝部の内部側」を指していると解するのが妥当であり、【0019】は、甲15発明が溝部の形成を必須の構成としていることを表していると解するのが妥当である。また、仮に甲15において基板に溝部を設ける理由は、ウエハー自体の厚さを薄くするためであると理解されるとしても、そのことは、甲15に「基板の厚さが溝部を設ける必要がない程度に薄い場合、基板に溝部を形成することなしに基板を切断(分離)することができる発明」が記載されていることを何ら意味するものではない。さらに、原告主張の「サファイア基板は溝を形成しなくともスクライブ(割断)できること」が本件優先日当時知られていたことは、甲15に溝部を形成することを要しない発明が記載されていることを意味するものではない。以上によれば、甲2に接した当業者において、甲15発明の加工対象物として、ブレイクライン(切断予定ライン)に沿った溝が形成されていない基板201を採用し、表面に溝が形成されていない基板201の内部側
5 に形成された加工変質部を形成するよう改変を行う動機付けは存在しな
い。かえって、甲15発明において、基板に溝部を形成しておくことは必要不可欠であるから、上記改変を行うことには阻害要因がある。したがって、相違点2の容易想到性を否定した本件審決の判断に誤りはない。ウ 小括以上のとおり、本件審決における相違点2の認定及び容易想到性の判断に誤りがないから、原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(甲2を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由2関係)
⑴
(原告の主張)
ア 相違点1の認定の誤り本件審決は、本件発明と甲2発明の相違点1として、本件発明は、加工対象物の「内部」の「改質領域」を切断の起点とするのに対して、甲2発明は、半導体結晶ウェーハの裏面のスクライブ溝が切断の起点である点で相違すると認定した。しかしながら、甲2には、①「本発明」の目的は、「半導体結晶の表面・電極パターンに従い裏面を加工する方法を提供」することだけでなく、「簡単でかつ信頼度の高い半導体結晶ウェーハのレーザー加工法を提供する」ことや「レーザースクライブにおけるペレット分割の歩留まりを向上させること」も目的であること(1頁右欄~2頁左上欄)、②「本発明」の目的に共通する技術的意義として、「レーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅が大きい半導体結晶ではレーザー光がほとんど吸収されずに裏面に到達することを用い、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶ」(2頁左上欄)という手段を採用したことの記載がある。そして、「近傍」とは「近所。近辺。」を指し(甲50)、甲2記載の「半導体結晶ウェーハの裏面近傍」とは、半導体結晶ウェーハの裏面に近い内
5 側、すなわち、半導体結晶ウェーハの内部を指すことからすると、甲2記
載のレーザー加工装置は、加工対象物(半導体結晶ウェーハ)の裏面ではなく、加工対象物の「内部」の「改質領域」を切断の起点とするものといえる。したがって、本件審決における甲2発明の認定には誤りがあり、その結果、相違点1の認定にも誤りがある。イ 相違点1の容易想到性の判断の誤り仮に本件審決における相違点1の認定に誤りがないとしても、以下のとおり、相違点1の容易想到性の判断に誤りがある。本件優先日当時、レーザ光を用いた半導体基板の加工技術において、加工対象物のレーザ光を照射した部分から飛散物が生じたり、溶融物が残る等により、製造工程に支障をきたす等の課題があることは、周知であり(甲12、51ないし53)、また、「ウェハ状の加工対象物の内部」に「改質領域」を設けるように構成し、当該内部の改質領域を切断の起点とすることは、周知の技術であった(甲1、15等)。そして、甲2発明と上記周知技術は、技術分野が共通し、甲2記載の発明の目的の一つは、「レーザースクライブにおけるペレット分割の歩留まりを向上させること」にあり、上記周知技術は歩留まりを向上させる作用機能を有するから、両者は、目的(課題)等においても共通する。そうすると、甲2に接した当業者は、甲2発明において、上記課題を解決するために、上記周知技術を考慮し、甲2発明における「切断の起点となる領域」を「半導体基板の内部」に位置する「改質領域」とし、相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものである。したがって、本件審決の上記判断は誤りである。ウ 小括
5 以上のとおり、本件審決における相違点1の認定及び判断に誤りがあり、
この誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものであるから、本件審決は、取り消されるべきである。
⑵
(被告の主張)
ア 相違点1の認定の誤りの主張に対し甲2に「加工対象物の内部に切断の起点となる改質領域を形成する」という事項を表していると解される記載がないことに照らしても、甲2発明の技術的意義は、「半導体結晶ウェーハの裏面を表面からレーザー光照射で加工すること」にあるから(2頁左上欄)、甲2発明においては、加工対象物の裏面にスクライブ溝が形成され、そのスクライブ溝が切断の起点になる。そうすると、甲2発明の「半導体結晶ウェーハの裏面近傍」が、半導体結晶ウェーハの裏面に近い内側を含む領域を指していると解され得るとしても、それは、「半導体結晶ウェーハの裏面」を加工できる程度に裏面に近い位置を指していると解するのが妥当であり、半導体結晶ウェーハの裏面ではなく、内部にスクライブ溝が形成されることを意味するものではない。したがって、本件審決における相違点1の認定の誤りをいう
(原告の主張)
は理由がない。イ 相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し前記アのとおり、甲2発明の技術的意義は、「半導体結晶ウェーハの裏面を表面からレーザー光照射で加工すること」にあるから、甲2に接した当業者において、甲2発明において、半導体結晶ウェーハの裏面のスクライブ溝に替えて、半導体結晶ウェーハの内部に改質領域を設けようと試みる動機付けはない。次に、甲1及び15は、加工対象物の内部に形成する加工変質部に加え
5 て、溝の形成を必須とするものであり、その溝の形成を捨象した周知技術
は、甲1及び15から抽出することはできない。また、甲1及び15記載の発明は、上記溝の形成時に飛散物が発生するものであるから、原告主張の課題を解決し得る技術でもない。したがって、相違点1の容易想到性を否定した本件審決の判断に誤りはない。ウ 小括以上のとおり、本件審決における相違点1の認定及び容易想到性の判断に誤りがないから、原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(甲5を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由5関係)
⑴
(原告の主張)
ア 相違点2の認定の誤り本件審決は、本件発明と甲5発明の相違点2として、本件発明は、加工対象物が「ウェハ状の加工対象物」であって「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対し、甲5発明は、加工対象物が厚板の合成石英ガラスである点で相違すると認定した。しかしながら、甲5には、「本発明は、石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的とし、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的としている。 (2」頁右上欄) 「焦点をワークの内部に結ばせているのでワークの厚味に影響、を受けず、自由な形状に加工できる。 (3頁左下欄)との記載があること」からすると、甲5記載のレーザ加工装置の加工対象物は、「厚板の合成石英ガラス」ではなく、「透明材料」と認定すべきである。ここで「透明材料」とは、照射するレーザビームに対して透明という意味であり、例えば、赤外光のレーザビームを透過するものは、当該レーザ
5 ビームに対して「透明材料」であるといえる。そして、シリコンウェハは、
赤外光のレーザビームに対して透明であるから、「透明材料」に該当する。また、甲5記載のレーザ加工装置は、「エキシマレーザ」に限定されず、加工対象物の「高エネルギービーム」に対する吸収特性に応じて、適切な高エネルギービームを選択すればよいから、加工対象物をシリコンウェハとする場合は、シリコンウェハの吸収特性に応じて、適切な赤外光レーザ(例えば、YAGレーザ)を選択すればよい。そして、レーザビームの吸収により加工可能なものであれば、加工対象物内での光の多光子吸収を利用して光を透明材料に吸収させることにより、透明材料の結合ボンドを切断したり、透明材料の中に微小なクラックを発生させたりすることで加工対象物の内部を加工できるのであるから、加工対象物はガラスに限定されず、シリコンウェハでもよい。さらに、前記1 イのとおり、レーザ加工装置の加工対象物としての「シリコンウェハ」は、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであることは、本件優先日前の技術常識である。以上によれば、相違点2は、実質的相違点ではないから、本件審決の上記認定は誤りである。イ 相違点2の容易想到性の判断の誤り本件優先日当時、レーザ割断技術をガラスやシリコン基板などの脆性材料に適用することは、周知技術であり、また、シリコン基板を含む半導体基板をYAGレーザで切断することは、周知技術であった(甲48、49、52等)。加えて、前記アのとおり、甲5は、甲5記載のレーザ加工装置の加工対象物を「厚板」に限定するものではなく、かつ、加工方法も「複雑な切断加工」でない直線的な加工も記載しており、また、YAGレーザを明示的
5 に記載していること(2頁左上欄)からすると、当業者は、甲5発明にお
いて、上記周知技術を適用する動機付けがあるから、加工対象物を「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」(相違点2に係る本件発明の構成)とすることを容易に想到することができたものである。したがって、相違点2の容易想到性を否定した本件審決の判断は誤りである。ウ 小括以上のとおり、本件審決における相違点2の認定及び判断に誤りがあり、この誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものであるから、本件審決は、取り消されるべきである。
⑵
(被告の主張)
ア 相違点2の認定の誤りの主張に対し本件審決は、原告が本件審判に係る審判請求書(乙3)で甲5記載の実施例1に基づいて甲5記載の発明を主張したことを踏まえて、実施例1(加工対象物は「厚板の合成石英ガラス」)に基づいて、甲5発明を認定し、その上で、本件発明と甲5発明を対比して、相違点2を認定したものであり、本件審決における相違点1の認定に誤りはない。相違点2の認定の誤りをいう
(原告の主張)
は、甲5記載の実施例1に基づいて甲5発明の認定を否定するものであるから、信義則に反するものであり、また、刊行物に記載された技術的思想ないし技術的構成を、刊行物の具体的な記載から離れて、抽象化、一般化ないし上位概念化することにほかならず、恣意的な認定、判断を招くものであるという意味においても妥当ではない。イ 相違点2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し甲5発明は、「石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工する
5 ことを目的とし、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な
切断加工を可能とすることを目的とし」(甲5の2頁左上欄) そのために、、連続的なクラックにより切断を行うようにしたこと(2頁左下欄、3頁左下欄)を踏まえれば、甲5発明を適用する加工対象物としてシリコンウェハが想起されないことは明らかである。また、甲5発明で使用されているエキシマレーザの光はシリコンウェハを透過しないから、甲5発明をそのままシリコンウェハの加工に使用できないことも明らかである。これらの事情を考慮すると、当業者において、甲5発明の加工対象物を「シリコンウェハ」とすることを試みる動機付けはない。次に、原告が主張するように、本件優先日当時、レーザ割断技術をガラスやシリコン基板などの脆性材料に適用すること、シリコン基板を含む半導体基板をYAGレーザで切断することは、周知技術であったからといって、そのことから直ちに、甲5発明の加工対象物を「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」(相違点2に係る本件発明の構成)とすることの動機付けがあるとはいえない。したがって、相違点2の容易想到性を否定した本件審決の判断に誤りはない。ウ 小括以上のとおり、本件審決における相違点2の認定及び容易想到性の判断に誤りがないから、原告主張の取消事由4は理由がない。
第3図
表1表2(別紙4)甲5
第1図
第4 当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項について
⑴ 本件明細書(甲31)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する図1ないし22については別紙1を参照)。ア 【技術分野】
5 【0001】本発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断に使用されるレーザ加工装置に関する。【背景技術】【0002】レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の通りである。例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よって、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。【0003】加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの文献に開示された切断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。【特許文献1】特開2000-219528号公報【特許文献2】特開2000-15467号公報【発明が解決しようとする課題】【0004】しかし、これらの文献に開示された切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生す
5 ることがある。よって、これらの切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウェハ、液晶表示装置が形成されたガラス基板や電極パターンが形成されたガラス基板の場合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置や電極パターンが損傷することがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。【0005】本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工装置を提供することである。イ 【課題を解決するための手段】【0006】本発明に係るレーザ加工装置は、ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、加工対象物が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、載置台に載置された加工対象物の内部に、レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で改質領域を形成させる集光用レンズと、レーザ光の集光点が加工対象物の内部に位置するように、加工対象物のレーザ光入射面を基準として加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、加工対象物の厚さ方向と直交する方向に載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が加工対象物の内部に位置するように、レーザ光入射面を基準として加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が切断予定ラインに沿って移動するように、加工対象物の厚さ方向と直交する方向に載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備えることを特徴とする。【0007】
5 本発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成することができる。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係るレーザ加工装置によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。なお、集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。【0008】また、本発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の内部に改質領域を形成している。よって、加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはない。【0009】また、本発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物に照射されるレーザ光の加工対象物への入射方向におけるレーザ光の集光点の位置を変えることにより、改質領域を入射方向に沿って並ぶように複数形成することができる。このため、加工対象物を切断する際に起点となる箇所を増やすことができる。【0010】本発明に係るレーザ加工装置によれば、ウェハ状の加工対象物の内部において、加工対象物のレーザ光入射面から加工対象物の厚さ方向に第1の距離だけ離れた第1の位置、及び第1の距離より短い第2の距離だけ離れた第2の位置に、切断の起点となる改質領域を確実に形成することができ
5 る。ウ 【発明の効果】【0011】本発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。【0012】また、本発明に係るレーザ加工装置によれば、複数の改質領域を形成することにより加工対象物を切断する際の起点となる箇所を増やすことができる。従って、加工対象物の厚みが比較的大きい場合等においても、加工対象物の切断が可能となる。エ 【発明を実施するための最良の形態】【0013】以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態に係るレーザ加工方法は、多光子吸収により改質領域を形成している。多光子吸収はレーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収について簡単に説明する。【0014】材料の吸収のバンドギャップE G よりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>E Gである。しかし、光学的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>E G の条件(n=2,3,4,・・・である)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm 2 )で決まり、例えばピークパ
5 ワー密度が1×10 8(W/cm 2)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm 2)で決まる。【0015】このような多光子吸収を利用する本実施形態に係るレーザ加工の原理について図1~図6を用いて説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1の平面図であり、図2は図1に示す加工対象物1の II-II 線に沿った断面図であり、図3はレーザ加工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1の IV-IV 線に沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1の V-V 線に沿った断面図であり、図6は切断された加工対象物1の平面図である。【0016】図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。【0017】レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3~図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。加工対象物1に
5 レーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。【0018】加工対象物1の切断において、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1の表面3に不必要な割れを発生させることなく加工対象物1の切断が可能となる。【0019】なお、改質領域を起点とした加工対象物の切断は、次の二通りが考えられる。一つは、改質領域形成後、加工対象物に人為的な力が印加されることにより、改質領域を起点として加工対象物が割れ、加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは、例えば、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物に曲げ応力やせん断応力を加えたり、加工対象物に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。他の一つは、改質領域を形成することにより、改質領域を起点として加工対象物の断面方向(厚さ方向)に向かって自然に割れ、結果的に加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが小さい場合、改質領域が1つでも可能であり、加工対象物の厚みが大きい場合、厚さ方向に複数の改質領域を形成することで可能となる。なお、この自然に割れる場合も、切断する箇所の表面上において、改質領域が形成されていない部分まで割れが先走ることがなく、改質部を形成した部分のみを割断することができるので、割断を制御よくすることができる。近年、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあるので、このような制御性
5 のよい割断方法は大変有効である。【0020】さて、本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域として、次の(1)~(3)がある。【0021】(1)改質領域が一つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合レーザ光を加工対象物(例えばガラスやLiTaO 3 からなる圧電材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10 8(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。このパルス幅の大きさは、多光子吸収を生じさせつつ加工対象物表面に余計なダメージを与えずに、加工対象物の内部にのみクラック領域を形成できる条件である。これにより、加工対象物の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され、これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×10 12(W/cm 2 )である。パルス幅は例えば1ns~200nsが好ましい。なお、多光子吸収によるクラック領域の形成は、例えば、第45回レーザ熱加工研究会論文集(1998年.12月)の第23頁~第28頁の「固体レーザー高調波によるガラス基板の内部マーキング」に記載されている。【0022】本発明者は、電界強度とクラックの大きさとの関係を実験により求めた。実験条件は次ぎの通りである。【0023】(A)加工対象物:パイレックス(登録商標)ガラス(厚さ700μm)(B)レーザ
5 光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ波長:1064nmレーザ光スポット断面積:3.14×10 -8 cm 2発振形態:Qスイッチパルス繰り返し周波数:100kHzパルス幅:30ns出力:出力<1mJ/パルスレーザ光品質:TEM 00偏光特性:直線偏光(C)集光用レンズレーザ光波長に対する透過率:60パーセント(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒【0024】なお、レーザ光品質がTEM 00 とは、集光性が高くレーザ光の波長程度まで集光可能を意味する。【0025】図7は上記実験の結果を示すグラフである。横軸はピークパワー密度であり、レーザ光がパルスレーザ光なので電界強度はピークパワー密度で表される。縦軸は1パルスのレーザ光により加工対象物の内部に形成されたクラック部分(クラックスポット)の大きさを示している。クラックスポットが集まりクラック領域となる。クラックスポットの大きさは、クラックスポットの形状のうち最大の長さとなる部分の大きさである。グラフ中の黒丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が100倍、開口数(NA)が0.80の場合である。一方、グラフ中の白丸で示すデータは集光用レンズ(C)の倍率が50倍、開口数(NA)が0.55の場合である。ピークパワー密度が10 11 (W/cm 2 )程度から加工対象物の内部にクラッ
5 クスポットが発生し、ピークパワー密度が大きくなるに従いクラックスポットも大きくなることが分かる。【0026】次に、本実施形態に係るレーザ加工において、クラック領域形成による加工対象物の切断のメカニズムについて図8~図11を用いて説明する。図8に示すように、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して切断予定ラインに沿って内部にクラック領域9を形成する。クラック領域9は一つ又は複数のクラックを含む領域である。図9に示すようにクラック領域9を起点としてクラックがさらに成長し、図10に示すようにクラックが加工対象物1の表面3と裏面21に到達し、図11に示すように加工対象物1が割れることにより加工対象物1が切断される。加工対象物の表面と裏面に到達するクラックは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。【0027】
(2)改質領域が溶融処理領域の場合レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10 8(W/cm 2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。また、溶融処理領域は相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から
5 非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×10 12 (W/cm 2 )である。パルス幅は例えば1ns~200nsが好ましい。【0028】本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次ぎの通りである。【0029】(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)(B)レーザ光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ波長:1064nmレーザ光スポット断面積:3.14×10 -8 cm 2発振形態:Qスイッチパルス繰り返し周波数:100kHzパルス幅:30ns出力:20μJ/パルスレーザ光品質:TEM 00偏光特性:直線偏光(C)集光用レンズ倍率:50倍NA:0.55レーザ光波長に対する透過率:60パーセント(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
5 【0030】図12は上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお、上記条件により形成された溶融処理領域の厚さ方向の大きさは100μm程度である。【0031】溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図13は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚みtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。【0032】例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚みが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光が80%以上透過することが分かる。図12に示すシリコンウェハ11の厚さは350μmであるので、多光子吸収による溶融処理領域はシリコンウェハの中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光がシリコンウェハ11の内部で吸収されるのは僅かであり、ほとんどが透過する。このことは、シリコンウェハ11の内部でレーザ光が吸収されて、溶融処理領域がシリコンウェハ11の内部に形成(つまりレーザ光による通常の加熱で溶融処理領域が形成)されたものではなく、溶融処理領域が多光子吸収により形成されたことを意味する。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁~第73頁の「ピコ秒パルス
5 レーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。【0033】なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。なお、溶融処理領域からシリコンウェハの表面と裏面に割れが自然に成長するのは、一旦溶融後再固化した状態となった領域から割れが成長する場合、溶融状態の領域から割れが成長する場合及び溶融から再固化する状態の領域から割れが成長する場合のうち少なくともいずれか一つである。いずれの場合も切断後の切断面は図12に示すように内部にのみ溶融処理領域が形成される。加工対象物の内部に溶融処理領域を形成する場合、割断時、切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。【0034】
(3)改質領域が屈折率変化領域の場合レーザ光を加工対象物(例えばガラス)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10 8(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件で照射する。パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、加工対象物の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×10 12(W/cm 2 )である。パルス幅は例えば1ns以下が好ましく、1ps以下がさらに好ましい。多光子吸収による屈折率変化領域の形成は、例えば、第42回レーザ熱加工研究会論文集(1997年.11月)の第105頁~第111頁の「フェム
5 ト秒レーザー照射によるガラス内部への光誘起構造形成」に記載されている。【0035】以上のように本実施形態によれば、改質領域を多光子吸収により形成している。そして、本実施形態は加工対象物に照射されるレーザ光の加工対象物への入射方向におけるレーザ光の集光点の位置を変えることにより、改質領域を入射方向に沿って並ぶように複数形成している。【0036】複数の改質領域形成についてクラック領域を例に説明する。図14は、本実施形態に係るレーザ加工方法を用いて加工対象物1の内部に二つのクラック領域9が形成された加工対象物1の斜視図である。【0037】二つクラック領域9形成方法について簡単に説明する。まず、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の内部の裏面21付近に合わし、切断予定ライン5に沿って集光点を移動させながら加工対象物1にパルスレーザ光Lを照射する。これにより、クラック領域9(9A)が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部の裏面21付近に形成される。次に、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の内部の表面3付近に合わし、切断予定ライン5に沿って集光点を移動させながら加工対象物1にパルスレーザ光Lを照射する。この照射により、クラック領域9(9B)が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部の表面3付近に形成される。【0038】そして、図15に示すように、クラック領域9A,9Bからクラック91が自然に成長する。詳しくはクラック91が、クラック領域9Aから裏面21方向、クラック領域9A(9B)からクラック領域9B(9A)方向、クラック領域9Bから表面3方向にそれぞれ自然に成長する。これに
5 より、切断予定ライン5に沿った加工対象物1の面、すなわち切断面となる面において、加工対象物1の厚み方向に長く延びたクラック9を形成することができる。よって、比較的小さな力を人為的に印加するだけ又は印加することなく自然に加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断することができる。【0039】以上のように本実施形態によれば複数のクラック領域9を形成することにより加工対象物1を切断する際の起点となる箇所を増やしている。従って、本実施形態によれば加工対象物1の厚みが比較的大きい場合や加工対象物1の材質がクラック領域9形成後のクラック91が成長しにくい場合等においても、加工対象物1の切断が可能となる。【0040】なお、二つのクラック領域9だけでは切断が困難な場合、三つ以上のクラック領域9を形成する。例えば、図16に示すように、クラック領域9Aとクラック領域9Bとの間にクラック領域9Cを形成する。また、レーザ光の入射方向ならば図17に示すように加工対象物1の厚み方向と直交する方向にも切断することができる。【0041】本実施形態において、複数のクラック領域9は、パルスレーザ光Lが入射する加工対象物の入射面(例えば表面3)に対して遠い方から順に形成するのが好ましい。例えば図14において、先にクラック領域9Aを形成し、その後にクラック領域9Bを形成する。入射面に対して近い方から順にクラック領域9を形成すると、後に形成されるクラック領域9形成時に照射されるパルスレーザ光Lが先に形成されたクラック領域9により散乱される。これにより、後に形成されるクラック領域9を構成する1ショットのパルスレーザ光Lで形成されるクラック部分(クラックスポッ
5 ト)の寸法にばらつきが生じる。よって、後に形成されるクラック領域9を均一に形成することができない。これに対して、入射面に対して遠い方から順にクラック領域9を形成すると上記散乱が生じないので、後に形成されるクラック領域9を均一に形成することができる。【0042】但し、本実施形態において、複数のクラック領域9の形成順序は上記に限定されず、加工対象物の入射面に対して近い方から順に形成してもよいし、またランダムに形成してもよい。ランダムに形成とは、例えば図16において、まずクラック領域9Cを形成し、次にクラック領域9Bを形成し、レーザ光の入射方向を反対にして最後にクラック領域9Aを形成するのである。【0043】なお、複数の改質領域形成について、クラック領域の場合で説明したが、溶融処理領域や屈折率変化領域でも同様のことが言える。また、パルスレーザ光について説明したが、連続波レーザ光についても同様のことが言える。【0044】次に、本実施形態に係るレーザ加工方法に使用されるレーザ加工装置の一例について説明する。図18はこのレーザ加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台10
5 7をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら三つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115と、を備える。【0045】レーザ光源101はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Nd:YVO 4 レーザやNd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。クラック領域や溶融処理領域を形成する場合、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO 4 レーザ、Nd:YLFレーザを用いるのが好適である。屈折率変化領域を形成する場合、チタンサファイアレーザを用いるのが好適である。【0046】集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。つまり、Z軸ステージ113により加工対象物1の厚み方向における集光点Pの位置が調節される。これにより、例えば、集光点Pを加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より入射面(表面3)に近い位置又は遠い位置に調節したり、厚みの略半分の位置に調節したりすることができる。なお、集光用レンズ105をZ軸方向に移動させることによっても、これらの調節やレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる。【0047】
5 ここで、Z軸ステージによる加工対象物の厚み方向における集光点Pの位置の調節について図19及び図20を用いて説明する。本実施形態では加工対象物の厚み方向におけるレーザ光の集光点の位置を、加工対象物の表面(入射面)を基準として加工対象物の内部の所望の位置に調節している。図19はレーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の表面3に位置している状態を示している。図20に示すように、Z軸ステージを集光用レンズ105に向けてz移動させると、集光点Pは表面3から加工対象物1の内部に移動する。集光点Pの加工対象物1の内部における移動量はNzである(Nはレーザ光Lに対する加工対象物1の屈折率である)。よって、レーザ光Lに対する加工対象物1の屈折率を考慮してZ軸ステージを移動させることにより、加工対象物1の厚み方向における集光点Pの位置を制御することができる。つまり、集光点Pの加工対象物1の厚み方向における所望の位置を表面3から加工対象物1の内部までの距離(Nz)とする。この距離(Nz)を上記屈折率(N)で除することにより得られた移動量(z)だけ、加工対象物1を厚み方向に移動させる。これにより、上記所望の位置に集光点Pを合わせることができる。【0048】レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光
5 線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。【0049】レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge-coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。【0050】レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。可視光の焦点が表面3に位置するZ軸ステージ113の位置において、レーザ光Lの集光点Pも表面3に位置するようにレーザ加工装置1は調整されている。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。【0051】
5 全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。また、全体制御部127は、図19及び図20で説明した移動量(z)のデータが入力され、記憶される。【0052】次に、図18及び図21を用いて、本実施形態に係るレーザ加工方法を説明する。図21は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。加工対象物1はシリコンウェハである。【0053】まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。次に、加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量(z)を決定する(S103)。これは、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。つまり、加工対象物1の厚み方向における集光点Pの位置が決定される。集光点Pの位置は加工対象物1の厚さ、材質等を考慮して決定する。本実施形態では加工対象物1の内部の裏面付近に集光点Pを位置させるための第1移動量のデータと表面3付近に集光点Pを位置させるための第2移動量のデータが使用される。最初に形成する溶融処理領域は第1移動量のデータを用いて形成される。次に形成する溶融処理領域は第2移動量のデータを用い
5 て形成される。これらの移動量のデータは全体制御部127に入力される。【0054】加工対象物1をレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。【0055】この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。Z軸ステージ113のこの位置において、パルスレーザ光Lの集光点Pは表面3に位置することになる。なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。【0056】全体制御部127には予めステップS103で決定された第1移動量のデータが入力されており、この移動量のデータがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量のデータに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111) この内部。の位置は加工対象物1の裏面付近である。
5 【0057】次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する(S113) 溶。融処理領域は加工対象物1の内部のうち、裏面付近に形成される。【0058】次に、ステップS111と同様にして第2移動量のデータに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部の表面3付近となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S115) そして、。 ステップS113と同様にして加工対象物1の内部に溶融処理領域を形成する(S117) このステップでは溶融処理領域が加工対象。物1の内部の表面3付近に形成される。【0059】最後に、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って曲げることにより、加工対象物1を切断する(S119)。これにより、加工対象物1をシリコンチップに分割する。【0060】本実施形態の効果を説明する。本実施形態によれば多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定ライン5に沿うように加工対
5 象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。【0061】また、本実施形態によれば、加工対象物1に多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。よって、パルスレーザ光Lは加工対象物1を透過し、加工対象物1の表面3ではパルスレーザ光Lがほとんど吸収されないので、改質領域形成が原因で表面3が溶融等のダメージを受けることはない。【0062】以上説明したように本実施形態によれば、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1が例えば半導体ウェハの場合、半導体チップに切断予定ラインから外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、半導体チップを半導体ウェハから切り出すことができる。表面に電極パターンが形成されている加工対象物や、圧電素子ウェハや液晶等の表示装置が形成されたガラス基板のように表面に電子デバイスが形成されている加工対象物についても同様である。よって、本実施形態によれば、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりを向上させることができる。【0063】
5 また、本実施形態によれば、加工対象物1の表面3の切断予定ライン5は溶融しないので、切断予定ライン5の幅(この幅は、例えば半導体ウェハの場合、半導体チップとなる領域同士の間隔である。 を小さくできる。)これにより、一枚の加工対象物1から作製される製品の数が増え、製品の生産性を向上させることができる。【0064】また、本実施形態によれば、加工対象物1の切断加工にレーザ光を用いるので、ダイヤモンドカッタを用いたダイシングよりも複雑な加工が可能となる。例えば、図23に示すように切断予定ライン5が複雑な形状であっても、本実施形態によれば切断加工が可能となる。【0065】また、本実施形態によれば改質領域を入射方向に沿って並ぶように複数形成することにより、加工対象物1を切断する際に起点となる箇所を増やしている。例えば、加工対象物1のレーザ光の入射方向の寸法が比較的大きい場合や、加工対象物1が改質領域からクラックが成長しにくい材質の場合、切断予定ライン5に沿った改質領域が一本だけでは加工対象物1の切断が困難である。従って、このような場合、本実施形態のように複数の改質領域を形成することにより、加工対象物1を容易に切断することができる。⑵ 前記⑴の記載事項によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に関し、次のような開示があることが認められる。ア 加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する、従来のレーザによる切断方法では、加工対象物の表面の切断する箇所の領域周辺も溶融されるため、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成された半導体素子のうち、
5 上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがあり、また、加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する方法があるが、かかる切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがあり、精密切断をすることができず、半導体チップ、液晶表示装置や電極パターンが損傷することがあり、平均入力エネルギーが大きいので、半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きいという問題があった(【0002】ないし【0004】)イ 「本発明」は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工装置を提供することを目的とし、課題とするものであり 【0005】 、( ) 上記課題を解決するための手段として、ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、加工対象物が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、載置台に載置された加工対象物の内部に、レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で改質領域を形成させる集光用レンズと、レーザ光の集光点が加工対象物の内部に位置するように、加工対象物のレーザ光入射面を基準として加工対象物の厚さ方向に第1動量だけ集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、加工対象物の厚さ方向と直交する方向に載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が加工対象物の内部に位置するように、レーザ光入射面を基準として加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が切断予定ラインに沿って移動するように、加工対象物の厚さ方向と直交する方向に載置台を移動させる機能を有する制御部とを備える構成を採
5 用した(【0006】 。)「本発明」に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができるので、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ等)の歩留まりや生産性を向上させることができ、また、複数の改質領域を形成することにより加工対象物を切断する際の起点となる箇所を増やすことができるので、加工対象物の厚みが比較的大きい場合等においても、加工対象物の切断が可能となるという効果を奏する(【0011】 【0012】、 )
2 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について⑴ 新規事項に関する判断の誤りについてア 本件訂正事項は、本件訂正前の請求項1の「前記加工対象物はシリコンウェハである」を「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」に訂正するというものであり、「加工対象物」の「シリコンウェハ」を「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」に訂正するものである。本件明細書には、「シリコンウェハ」に関し、「レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10 8(W/cm 2 )以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。…加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。(」【0027】 、(A)加工対象物:シ)「リコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ) (」 【0029】 、) 「なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを
5 発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。…加工対象物の内部に溶融処理領域を形成する場合、割断時、切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。(」【0033】)との記載があり、また、「切断予定ライン」に関し、「切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。 (」 【0007】 、) 「図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。 (」 【0016】、) 「レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3~図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。 (」 【0017】 、) 「図14は、本実施形態に係るレーザ加工方法を用いて加工対象物1の内部に二つのクラック領域9が形成された加工対象物1の斜視図である。…二つクラック領域9形成方法について簡単に説明する。まず、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の内部の裏面21付近に合わし、切断予定ライン5に沿って集光点を移動させながら加工対象物1にパルスレーザ光Lを照射する。これにより、クラック領域9(9A)が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部の裏面21付近に形成される。次に、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の内部の表面3付近に合わし、切断予定ライン5に沿って集光点を移動させながら加工対象物1にパルスレーザ光Lを照射する。この照射により、クラック領域9(9B)が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部の表面3付近に形成される。 (」 【0036】、【0037】 、)「そして、図15に示すように、クラック領域9A,9Bか
5 らクラック91が自然に成長する。…これにより、切断予定ライン5に沿った加工対象物1の面、すなわち切断面となる面において、加工対象物1の厚み方向に長く延びたクラック9を形成することができる。よって、比較的小さな力を人為的に印加するだけ又は印加することなく自然に加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断することができる(【0038】)との記載がある。一方で、本件明細書には、加工対象物の「シリコンウェハ」の表面又は裏面に溝が形成されていることについての記載や示唆はない。また、図1、3、14及び15には、「切断予定ライン5」が示されているが、切断予定ライン5に沿った溝の記載はない。そして、①甲36(SEMI規格「鏡面単結晶シリコンウェハの仕様」)には、「6.1 標準ウェーハの分類」に「6.1.1.それぞれ標準化されたウェーハの寸法、許容寸法及びフラット・ノッチの特性は表3から表9にて分類されている。」との記載があり、「6.1.2」には寸法等の特性の異なる「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」及び「鏡面単結晶シリコンウェーハ」(分類1.1ないし1.16.3)が掲載され(18頁)「6.、
9 表裏面目視特性」に「ウェーハは、発注仕様に規定された測定可能な(目視または他の方法による)ウェーハの表裏面の品質要求をみたさなければならない。 、」「表12 鏡面ウェーハ欠陥限度」の「2.8.11 くぼみ」の項目の「最大欠陥限度」欄には「なし」との記載があること(41頁~42頁) ②、 「LSIに用いられるウェーハ表面は無ひずみで凹凸のない鏡面であることが必要であり…このような鏡面ウェーハは…鏡面研磨することによって得られる」こと(「半導体用語大辞典」360頁))からすると、本件優先日当時、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコンウェハは、単結晶構造であり、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形状であることが、技術常識であったことが認められる。
5 以上の本件明細書の記載(図1、3、14及び15を含む。)及び本件優先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明である。そうすると、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえないから、本件明細書に記載した事項の範囲内にしたものと認められる。したがって、本件訂正事項は、新規事項を追加するものではなく、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合するとした本件審決の判断に誤りはない。イ これに対し、原告は、①本件明細書には、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の明示的な記載がなく、その示唆もないのみならず、溝を形成するかしないか、形成するとしてどこに、どのように形成するかといった観点からの記載も示唆もないし、本件明細書を補完するものとして、図面を見ても、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」が記載されているのと同視できるとする根拠も見当たらない、②本件明細書の【0027】には、「加工対象物がシリコン単結晶構造の場合」との記載があるだけであり、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の記載はなく、また、図1ないし4に示す「加工対象物1」が「シリコンウェハ」であるとしても、どの部分が「シリコン単結晶構造部分」にあたるのか不明
5 であり、「シリコン単結晶構造部分」が切断予定ライン5に沿って存在するのかも不明である、③【0033】は、「シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。 と記載」しているだけであり、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハが切断できるものであることの記載はないとして、本件訂正事項は新規事項を追加するものでないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら、前記アで説示したとおり、本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識を踏まえると、【0029】記載の「(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)」は、単結晶構造の標準仕様のシリコンウェハであって、その表面及び裏面に凸凹のない平坦な形状であると理解できるから、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であることは自明であり、本件訂正事項は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものといえない。原告の挙げる①ないし③は、いずれも、上記判断を左右するものではない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。⑵ 訂正の目的の判断の誤りについてア 本件訂正の経緯(前記第2の3 )及び本件審決予告(甲34)によれば、①本件審決予告は、「基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201」を加工するレーザー加工機として甲15発明を認定した上で、訂正前発明(本件訂正前の請求項1に係る発明)は、甲15発明に甲3記載の技術的事項を適用して、当業者が容易に発明をすることができ
5 たものであるから、特許法29条2項に違反するとの職権無効理由により、本件特許は無効とすべきものであると判断したものであるところ、その理由中で、訂正前発明では、シリコンウェハである加工対象物について、その表面に溝部があるかないかについて何ら特定がないから、表面に溝部があるシリコンウェハを排除しているわけではない、本件明細書にも訂正前発明に含まれる全ての実施形態が記載されているとはいえないし、甲15(図2等を参照。)及び甲1(図1等を参照。)のように、その表面に溝部が形成された基板についても切断分離を行うことは従来から知られており、訂正前発明においても、シリコンウェハである加工対象物について、その表面に溝部があるかないかについては何ら特定がないのであるから、訂正前発明が、表面に溝部があるシリコンウェハを排除するものであるとまでいうことはできない旨述べたこと、②被告は、本件審決予告を受けたため、訂正前発明の「加工対象物」の「シリコンウェハ」から甲15発明の「加工対象物」である「基板201の一方の表面に溝部203が形成」された「半導体ウエハー200」を除外するために、本件訂正をしたことが認められる。しかるところ、本件訂正前の請求項1は、「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記加工対象物のレーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させた後、
5 レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記レーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備え、前記加工対象物はシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装置」というものであり、「加工対象物」の「シリコンウェハ」を特定のものに規定する記載はない。また、本件明細書においても、「加工対象物」となる「シリコンウェハ」の用語を定義した記載はない。そして、半導体材料に用いられる標準仕様のシリコンウェハは、単結晶構造であり、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形状であることが、本件優先日当時の技術常識であったことは、前記⑴ア認定のとおりであるが、標準仕様のシリコンウェハの表面又は裏面にあらかじめ溝を形成するなどの加工をしたシリコンウェハも加工対象物となり得るものといえるから、本件訂正前の請求項1の「シリコンウェハ」は、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形状であるものはもとより、その表面又は裏面に溝を有するものや、その溝が切断予定ラインに沿った位置に形成されたものも含まれると解される。以上によれば、本件訂正前の請求項1の「加工対象物」 「シリコンウェのハ」を「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」に訂正する本件訂正事項は、本件訂正前の請求項1の「加工対象物」の「シリコンウェハ」から「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成された」ものを除外するものであり、訂正前発明(本件訂正前の請求項1に係る発明)に係る特許請求の範囲を狭くしたものと認められる。したがって、本件訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
5 と認められるから、特許法134条の2第1項ただし書1号に適合するとした本件審決の判断に誤りはない。イ これに対し、原告は、①レーザ加工装置の加工対象物としての「シリコンウェハ」は、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであり(甲36) このような溝が形成され、ているシリコンウェハが存在しないことは、本件優先日前の技術常識であることに照らすと、本件訂正事項によって「レーザ加工装置」の構成に何らかの限定が加えられているわけではなく、本件訂正の前後で、「レーザ加工装置」は、性能上も構成上も同じものであるから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない、②本件訂正後の「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」において、シリコン単結晶構造部分がどのような位置にあり、切断予定ラインに沿ってどのような溝が形成されているのか不明確であるから、仮に本件訂正事項により「レーザ加工装置」が何らかの意味で限定されるとしても、本件訂正によってどのようなシリコンウェハが加工対象物となるのかを理解することができず、本件訂正後の特許請求の範囲の記載が明確とはいえないから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではないなどと主張する。しかしながら、前記アで説示したとおり、単結晶構造で、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形状である標準仕様のシリコンウェハの表面又は裏面にあらかじめ溝を形成するなどの加工をしたシリコンウェハも加工対象物となり得るものといえるから、本件訂正前の請求項1の「シリコンウェハ」は、その表面及び裏面に凹凸のない平坦な形状であるものはもとより、その表面又は裏面に溝を有するものや、その溝が切断予定ラインに沿った位置に形成されたものも含まれると解されるところ、本件訂正事項は、本件訂正前の請求項1の「加工対象物」の「シリコンウェハ」から
5 「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成された」ものを除外するものであり、訂正前発明(本件訂正前の請求項1に係る発明)に係る特許請求の範囲を狭くしたものと認められる。また、本件訂正後の請求項1記載の「切断予定ライン」とは、「シリコンウェハ」の表面や内部の切断する箇所を示した実際に引かれた線又は仮想線であること(本件明細書の【0007】、【0016】 、等) 標準仕様の「シリコンウェハ」は、「鏡面研磨単結晶シリコンウェーハ」又は「鏡面単結晶シリコンウェーハ」であり、単結晶構造であること(甲36)に照らすと、本件訂正後の請求項1の「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」の内容は明確である。したがって、原告の上記主張は、理由がない。その他原告は、縷々主張するが、本件とは異なる技術分野の技術や裁判例等を前提とするものであるか、又は本件の事案に即したものではないから、いずれも採用することができない。⑶ 小括以上のとおり、本件審決における訂正要件の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(甲15を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(職権無効理由関係)について⑴ 甲15の記載事項について甲15には、次のような記載がある(下記記載中に引用する図1ないし7については別紙2を参照)。ア 【特許請求の範囲】【請求項1】基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子の製造方法であって、
5 前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し少なくとも該
第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板(101)に溝部(103)
を形成する工程と、該溝部(103)にブレイク・ライン(104)をレーザー照射により形成する工程と、前記ブレイク・ライン(104)に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有することを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。【請求項3】前記ブレイク・ラインは基板(101)の溝部底面に形成された凹部(104)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。【請求項4】前記ブレイク・ラインは基板(201)内部に形成された加工変質部(204)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。イ 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオードやレーザーダイオード、さらには高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造方法に係わり、特に、基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法に関する。【0002】【従来技術】今日、高エネルギーバンドギャップを有する窒化物半導体(InXGaYAl 1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を利用した半導体素子が種々開発されつつある。窒化物半導体を利用したデバイス例として、青色、緑色や紫外がそれぞれ発光可能な発光ダイオードや青紫光が発光可能な半導体レーザが報告されている。さらには高温においても安定駆動可能かつ機械的強度が高い各種半導体素子などが挙げられる。【0003】通常、赤色、橙色、黄色などが発光可能なLEDチップなど
5 の半導体素子として利用されるGaAs、GaPやInGaAlAsなどの半導体材料が積層された半導体ウエハーの場合は、半導体ウエハーからダイサーやダイヤモンドスクライバーによりチップ状に切り出され形成される。ダイサーとは刃先をダイヤモンドとする円盤の回転運動により半導体ウエハーをフルカットするか、又は刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット)、外力によりカットする装置である。一方、ダイヤモンドスクライバーとは同じく先端をダイヤモンドとする針により半導体ウエハーに極めて細い線(スクライブ・ライン)を例えば碁盤目状に引いた後、外力によってカットする装置である。GaPやGaAs等のせん亜鉛構造の結晶は、へき開性が「110」方向にある。そのため、この性質を利用してGaAs、GaAlAs、GaPなどの半導体ウエハーを比較的簡単に所望形状に分離することができる。【0004】しかしながら、窒化物半導体を利用した半導体素子は、GaP、GaAlAsやGaAs半導体基板上に形成させたGaAsP、GaPやInGaAlAsなどの半導体素子とは異なり単結晶を形成させることが難しい。結晶性の良い窒化物半導体の単結晶膜を得るためには、MOCVD法やHDVPE法などを用いサファイアやスピネル基板など上にバッファーを介して形成させることが行われている。そのため、サファイア基板などの上に形成された窒化物半導体層ごと所望の大きさに切断分離することによりLEDチップなど半導体素子を形成させなければならない。【0005】サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きく熱膨張率も異なる。また、サファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており、その性質上へき開性を有していない。さらに、サファイア、窒化物半導体ともモース硬度がほぼ9と非常に硬い物質である。
5 【0006】したがって、ダイヤモンドスクライバーのみで切断することは困難であった。また、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗に切断できなかった。また、場合によっては基板から窒化物半導体層が部分的に剥離する場合があった。【0007】そのため窒化物半導体ウエハーは所望のチップごとに分割する方法として特開平8-274371号などに記載されているようにダイヤモンドスクライバーやダイサーを組み合わせて使用する方法が考えられている。具体的一例として、図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子を製造する工程を示す。図5(A)は、サファイア基板501上に窒化物半導体502が形成された半導体ウエハー500を示す。図5(B)はサファイア基板501の下面側から窒化物半導体502に達しない深さでダイサー(不示図)による溝部503を形成する工程を示す。 (C)図5は、溝部にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成する工程を示す。図5(D)は、スクライブ工程の後、半導体ウエハー500をチップ状510に分離する分離工程を示してある。これにより、切断面のクラック、チッピングが発生することなく比較的綺麗に切断することができるとされている。【0008】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、あらかじめダイサーなどで半導体ウエハー500の厚みを部分的に薄くさせた溝部503を形成し、溝部503にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成させる場合、ダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触しなければならない。【0009】即ち、通常ダイサーの円盤幅よりもダイヤモンドスクライバーの刃先の方が大きい。そのため図6の如く、ダイヤモンドスクライバーの刃先601が半導体ウエハー500に形成された溝部503の底
5 面に届かない場合がある。この状態でスクライバーを駆動させると半導体ウエハーの平面では図7の如き、所望のスクライブ・ライン703が形成されず歪んだスクライブ・ライン704が形成される傾向にある。これらを防止する目的でダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触するためにはダイサーで形成した溝部503の幅を広くする必要がある。溝部503が広くなると半導体ウエハーからの半導体素子の採り数が減少する。【0010】他方、溝の幅を狭くした場合は刃先が溝の底に接触させるために溝部503の深さを浅くする必要がある。溝部503を浅くすると半導体ウエハーの分離部の厚みが厚くなり半導体ウエハーを正確に分離することが困難になる傾向がある。したがって、何れも正確により小さい窒化物半導体素子を形成することができないという問題があった。【0011】より小さい窒化物半導体素子を正確に量産性よく形成させることが望まれる今日においては上記切断方法においては十分ではなく、優れた窒化物半導体素子の製造方法が求められている。窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正確にチップ状に分離することができれば、半導体素子の電気特性等を向上させることができる。しかも、1枚の半導体ウエハーから多くの半導体素子を得ることができるため生産性をも向上させられる。【0012】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをより小さいチップ状に分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供することを目的とする。ウ 【0013】【課題を解決するための手段】本発明は、基板101上に窒化物半導体1
5 02が形成された半導体ウエハー100を窒化物半導体素子110に分割する窒化物半導体素子の製造方法である。特に、半導体ウエハー100は第1及び第2の主面を有し少なくとも第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板101に溝部103を形成する工程と、溝部103にブレイク・ライン104をレーザー照射により形成する工程と、ブレイク・ライン104に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有する窒化物半導体素子の製造方法である。【0014】本発明の請求項2に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、第1の主面121が基板101上の一方にのみ窒化物半導体が形成された半導体ウエハー100の窒化物半導体積層側であり、第2の主面111は半導体ウエハーを介して対向する基板露出面側である。【0015】本発明の請求項3に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、ブレイク・ラインが基板101の溝部底面に形成された凹部104である。【0016】本発明の請求項4に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、ブレイク・ラインが基板201内部に形成された加工変質部204である。【0017】本発明の請求項5に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、ダイヤモンドスクライバー、ダイサー、エッチング装置、レーザー加工機から選択される少なくとも1種によって溝部103を形成するものである。【0018】本発明の請求項6に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、溝部403は第1の主面側421の予め基板401が露出された表面に形成されたものである。 本発明の請求項7に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、溝部103の幅が10μm以上35μm以下であり、溝部103の深さが3.7μm以上100μm以下である。
5 エ 【0019】【発明の実施の形態】本発明者らは種々実験の結果、窒化物半導体素子を製造する場合において半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができることを見いだし本発明を成すに到った。【0020】本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。【0021】即ち、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部は、その溝部形成時に内部応力が生ずる。特に、溝部の底面に沿ってダイヤモンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する工程においてはスクライバーの刃先にかかる加重で溝部底以外にも広く歪みが増幅される。そのため、溝部形成後にダイヤモンドスクライバーで分離させると半導体ウエハー内に保持された応力によって所望通りの端面が形成されず、より正確に窒化物半導体ウエハーが分離できないと考えられる。【0022】本発明はダイサーにより生じた内部応力に依存することなくレーザースクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させる。これにより端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができると考えられる。また、窒化物半導体素子を分離されるためには半導体ウエハーの厚みが部分的に薄い溝部を形成させる。その溝部よりも狭いブレイク・ラインをレーザー照射により形成することで、極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成することができ量産性の良い窒化物半導体素子を分離できるものである。以下、本発明の製造方法例について説明する。
5 【0023】半導体ウエハーとして、LD(laser diode)となる構成の窒化物半導体層をスピネル基板上に形成させた。具体的には、スピネル基板上に、GaNのバッファー層、n型GaNのコンタクト層、n型AlGaNのクラッド層、n型GaNの光ガイド層、SiをドープしInの組成を変化させた多重量子井戸構造となるInGaNの活性層、p型AlGaNのキャップ層、p型GaNの光ガイド層、p型AlGaNのクラッド層及びp型GaNのコンタクト層が積層されている。この半導体ウエハーのスピネル基板側をウエットエッチングにより半導体ウエハー表面に溝部を縦横に形成させる。CO 2 レーザーを溝部の底面に照射してスピネル基板内部に加工変質部としてブレイク・ラインを溝部に沿って縦横に形成させた。ブレイク・ラインに沿ってローラーによる加圧により窒化物半導体素子として分離させる。分離された窒化物半導体素子は何れも端面が綺麗に形成されている。以下、本発明の工程に用いられる装置などについて詳述する。オ 【0024】(窒化物半導体ウエハー)窒化物半導体ウエハーとしては、基板上に窒化物半導体層が形成されたものである。窒化物半導体の基板としては、サファイア、スピネル、炭化珪素、酸化亜鉛や窒化ガリウム単結晶など種々のものが挙げられるが量産性よく結晶性の良い窒化物半導体層を形成させるためにはサファイア基板、スピネル基板などが好適に用いられる。サファイア基板などは劈開性がなく極めて硬いため本発明が特に有効に働くこととなる。【0025】窒化物半導体(In XGa YAl1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)はMOCVD法やHVPE法などにより種々形成することができる。窒化物半導体にPN接合、PIN接合、MIS接合を形成させることにより半導体素子として利用することができる。半導体の構造もホモ接合、ヘテロ接合やダブルへテロ接合など種々選択することができる。また、半
5 導体層を量子効果が生じる程度の薄膜とした単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることもできる。【0026】窒化物半導体はバンドギャップが比較的大きく熱に強いことから紫外から赤色系まで発光可能な発光ダイオード、DVDなどに利用可能な短波長レーザーなどの発光素子、光センサーや比較的高起電力を有する太陽電池などの受光素子、耐熱性を持つトランジスターなど種々の半導体素子として利用することができる。【0027】基板の厚さとしてはレーザー加工機の加工精度や出力により種々選択することができるがレーザーにより大きい溝(深い溝)を形成させる場合はダイサーに比べて時間が掛かること及び長時間の加熱による部分的な破壊などの観点からレーザー加工による溝部などを大きく形成させすぎないことが好ましい。【0028】また、ダイサーなどにより半導体ウエハーに形成される溝部としては、歩留りよく所望の形、サイズに量産性良く形成する観点から溝部の幅が35μm以下が好ましく30μm以下がより好ましい。更に好ましくは25μm以下である。下限については特に制限はないがダイサーで形成する場合、あまり薄くし過ぎると刃先がぶれるため溝部を細くかつ深く形成しがたい傾向にある。したがって、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。さらに、好ましくは20μm以上である。また、溝部の深さは半導体ウエハーの厚みにもよるが量産性や分離のし易さから3.7μm以上が好ましく、より好ましくは4.5μm以上である。更に好ましくは5.2μm以上である。上限値は特に制限はないが量産性を考慮して100μm以下であることが望ましい。同様に、溝部が幅35μm以下深さ5.2μm以上、より好ましくは幅30μm以下深さ4.5μm、更に好ましくは幅25μm以下深さ3.7μm以上の範囲においてはダイヤモンドスクライバーでは溝部に図6の如く半導体ウエハーの分割
5 に寄与するスクライブ・ラインを形成することができないため本発明の効果が特に大きい。【0029】なお、窒化物半導体ウエハーに単に溝を形成する方法としては、ウエットエッチング、ドライエッチング、ダイサー、ダイヤモンドスクライバーやレーザーの加工さらにはこれらの組合せにより形成することができる。しかしながら、ある程度の幅を持ち効率よく半導体ウエハーの厚みを部分的に薄くさせるためにはダイサーを用いることが好ましい。特に、ダイサーを用いて溝部を形成させた場合は、チップ状に分割した時の端面の綺麗さ(平滑性)の差が顕著に出る傾向にある。即ち、ダイサーを用いて溝部を形成させた後にレーザーを用いて半導体ウエハーを分離したものと、ダイサーを用いて溝部を形成させた後にダイヤモンドスクライバーにより分離させたものとをそれぞれ比較するとレーザーにより凹部を形成させたものの方が分離端面が綺麗に形成される傾向にある。このような平滑性は、透光性絶縁層であるサファイア基板を利用した光学設計をする場合には顕著な違いとなる場合がある。【0030】窒化物半導体が積層されたサファイア基板を分離させる場合、切断端面を量産性良く切断させるために窒化物半導体ウエハーの最も薄い分離部の厚みは100μm以下が好ましい。100μm以下だとチッピングなどが少なく比較的容易に分離することができる。また、基板の厚さの下限は特に問わないが、あまり薄くすると半導体ウエハー自体が割れやすく量産性が悪くなるため30μm以上であることが好ましい。【0031】窒化物半導体層が単一量子井戸構造や多重量子井戸構造などの薄膜を含む場合、レーザー照射による半導体接合や半導体層の損傷を防ぐ目的で予めレーザーが照射される窒化物半導体層をエッチングなどにより予め除去することもできる。【0032】発光ダイオード用の窒化物半導体ウエハーとする場合、基板
5 で通常200から500μmの厚みがあり、pn接合を持つ窒化物半導体層で数 μmから数十 μmの厚みがある。したがって、半導体ウエハーのほとんどが基板の厚みで占められることとなる。レーザーによる加工を行いやすくするために基板の厚みを研磨により薄くすることができる。このような研磨は、窒化物半導体を形成させてから薄くしても良いし薄く研磨した基板上に窒化物半導体を形成させることもできる。【0033】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる照射部が選択的に飛翔する或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質部になると考えられる。また、本発明のブレイク・ラインは半導体ウエハーの溝部表面を除去しても良いし基板の溝部よりも内部側に加工変質部を形成させても良い。さらに、本発明は溝部近傍に形成されたレーザー加工によるブレイク・ラインに加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。【0034】(レーザー加工機)本発明に用いられるレーザー加工機としては、ブレイク・ラインとなる凹部、加工変質部などが形成可能なものであればよい。具体的には、YAGレーザー、CO 2 レーザーやエキシマ・レーザーなどが好適に用いられる。特に、YAGレーザーは熱の変質が少なくブレイク・ラインを形成することができる。また、CO 2レーザーはパワーを挙げることができるため切断能力に優れる。【0035】レーザー加工機によって照射されるレーザーはレンズなどの光学系により所望により種々に焦点を調節させることができる。したがって、レーザー照射により半導体ウエハーの任意の焦点に窒化物半導体を損傷させることなく凹部、加工変質部などを形成させることができる。また、レーザーの照射面は、フィルターを通すことなどにより真円状、楕円状や矩形状など所望の形状に調節させることもできる。【0036】レーザー加工機によるブレイク・ラインの形成にはレーザー
5 照射装置自体を移動させても良いし照射されるレーザーのみミラーなどで走査して形成させることもできる。さらには、半導体ウエハーを保持するステージを上下、左右、90度回転など種々駆動させることにより所望のブレイク・ラインを形成することもできる。以下、本発明の実施例について詳述するが実施例のみに限定されるものでないことは言うまでもない。カ 【0037】【実施例】(実施例1)厚さ200μmであり洗浄されたサファイアを基板101としてMOCVD法を利用して窒化物半導体を積層させ窒化物半導体ウエハーを形成させた。窒化物半導体は基板を分割した後に発光素子110として働くよう多層膜として成膜させた。まず、510℃において原料ガスとしてNH 3(アンモニア)ガス、TMG(トリメチルガリウム)ガス及びキャリアガスである水素ガスを流すことにより厚さ約200オングストロームのバッファー層を形成させた。【0038】次に、TMGガスの流入を止めた後、反応装置の温度を1050℃に挙げ再びNH3(アンモニア)ガス、TMGガス、ドーパントガスとしてSiH4(シラン)ガス、キャリアガスとして水素ガスを流すことによりn型コンタクト層として働く厚さ約4μmのGaN層を形成させた。【0039】活性層は、一旦、キャリアガスのみとさせ反応装置の温度を800℃に保持し後、原料ガスとしてNH 3(アンモニア)ガス、TMGガス、TMI(トリメチルインジウム)及びキャリアガスとして水素ガスを流すことにより厚さ約3nmのアンドープInGaN層を堆積させた。【0040】活性層上にクラッド層を形成させるため原料ガスの流入を停止し反応装置の温度を1050℃に保持した後、原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガス、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス、TMGガス、ドーパントガスとしてCp 2Mg(シクロペンタジエルマグシウム)ガス及
5 びキャリアガスとして、水素ガスを流しp型クラッド層として厚さ約0.1μmのGaAlN層を形成させた。【0041】最後に、反応装置の温度を1050℃に維持し原料ガスとしてNH 3(アンモニア)ガス、TMGガス、ドーパントガスとしてCp 2Mgガス及びキャリアガスとして水素ガスを流しp型コンタクト層として厚さ約0.5μmのGaN層を形成させた(なお、p型窒化物半導体層は400℃以上でアニール処理してある。 。)【0042】半導体ウエハーに、RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝部が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層が形成された半導体ウエハーを用いる。なお、エッチング時にpn各半導体が露出するようマスクを形成させエッチング後除去させてある。また、pn各半導体層には、電極120がスパッタリング法により形成されている(図1(A) 。)【0043】こうして形成された窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板101を100μmまで研磨した後、半導体ウエハー100のサファイア基板面111が上になるように水平方向に自由駆動可能なテーブル上に真空チャックを用いて固定させた。ブレード回転数30,000rpm、切断速度3mm/secでステージを移動させることによりサファイア基板101の底面に幅約30μm、深さ約15μmの溝を縦横に形成し溝部103とさせる。溝部103は、窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板露出面側111から見るとエッチング面130と略平行に形成されておりそれぞれがその後に窒化物半導体素子となる300μm角の大きさに形成させてある(図1(B) 。)【0044】次に、ダイサーの刃先など駆動部のみレーザー(356nm)が照射可能なYAGレーザー照射装置と入れ替えた(不示図) 窒化物半導。
5 体ウエハー100の固定は維持したままレーザーの焦点を窒化物半導体ウエハーの溝部103底面に結ばれるようレーザーの光学系を調節させる。調節したレーザー光線を16J/cm 2 で照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿って深さ約3μmの更なる溝としての凹部104をブレイク・ラインとして形成する(図1(C) 。)【0045】ブレイク・ラインに沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ、窒化物半導体ウエハー100を切断分離することができる。分離された窒化物半導体素子110の端面はいずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子を形成することができる(図1(D) 。)【0046】こうして形成された窒化物半導体素子であるLEDチップに電力を供給したところいずれも発光可 能であると共に切断端面にはクラックやチッピングが生じているものはほとんどなかった。また、発生していたチッピングも極めて小さいものであり、歩留りは98%以上であった。【0047】これにより、ブレイク・ラインの形成をレーザーで行うため、ダイヤモンドスクライバーを利用したものと異なりカッターの消耗、劣化による加工精度のバラツキ、刃先交換のために発生するコストを低減することができる。製造歩留りを高め、形状のバラツキが低減できる。特に、切り代を小さくし、半導体素子の採り数を向上させることが可能となる。キ 【0048】(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させた。形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C) 。)【0049】ブレイク・ラインの形成を溝部203底面でなく基板201内面に形成させても実施例1のLEDチップとほぼ同様の歩留りを形成
5 することができる。ク 【0062】(実施例5)実施例1のYAGレーザーの照射の代わりにエキシマ・レーザーを用いた以外は実施例1と同様にして半導体ウエハーを分離してLEDチップを形成させた。実施例1と同様、形成されたLEDチップの分離端面はいずれも発光可能でありチッピングやクラックのない綺麗な面を有している。【0063】(比較例1)レーザー加工の代わりに溝部に沿ってダイヤモンドスクライバーにより繰り返し3回スクライブした以外は実施例1と同様にして半導体ウエハーを分離させた。比較例1の分離された窒化物半導体素子は部分的にクラックやチッピングが生じていた。また、図7の如き歪んだスクライブ・ラインが形成され約75%の歩留りであった。ケ 【0064】【発明の効果】本発明は半導体ウエハーの基板に達する溝部を形成し、その溝部にレーザー照射によるブレイク・ラインを形成する。これにより刃先消耗等による加工精度の劣化を引き起こすことなく、より幅が狭くかつ深い溝部に、加工バラツキのない高精度のブレイク・ライン形成を可能にし、容易にかつ正確にブレイク・ラインに沿って窒化物半導体素子を分割することが可能となる。そのため、形状の揃った製品供給、及び製品歩留りの向上が可能となる。【0065】また、レーザー照射により半導体ウエハーに対して非接触でブレイク・ラインを形成することにより、従来のようなスクライブ・カッターの劣化、交換により発生していた加工コストの低減が可能となる。【0066】さらに、半導体層面側から基板に達する溝部を、あらかじめ窒化物半導体が除去された半導体ウエハーに形成することで、溝部形成による半導体への損傷がなく信頼性の高い素子を製造することが可能となる。
5 【0067】窒化物半導体積層面側の凹部をレーザー照射により形成することで、より幅の狭い溝部を形成することですむ。このため半導体ウエハーからの窒化物半導体素子の採り数を向上させることが可能となる。甲15発明についてア 本件審決は、甲15記載の実施例2及び図2等に基づいて、甲15発明(前記第2の3 ア)を認定したものと認められる。そして、前記⑴の記載事項によれば、甲15には、本件審決認定の甲15発明が記載されていることが認められる。イ 前記⑴の記載事項によれば、甲15には、①基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する従来の製造方法として、半導体ウエハー500の厚みを部分的に薄くさせた溝部503を形成する工程と、溝部にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成する工程と、スクライブ・ラインを形成する工程の後、半導体ウエハー500をチップ状510に分離する分離工程とを有する方法が考えられているが、溝部503にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成させる場合、ダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触しなければならないが、その接触のためには、溝部503の幅を広くする必要があるが、溝部503が広くなると半導体ウエハーからの半導体素子の採り数が減少し、他方で、広くした場合には、溝の幅を狭くした場合は刃先が溝の底に接触させるために溝部503の深さを浅くする必要があり、半導体ウエハーの分離部の厚みが厚くなり、半導体ウエハーを正確に分離することが困難になる傾向があり、いずれも正確により小さい窒化物半導体素子を形成することができないという問題があり、従来の窒化物半導体素子の製造方法は十分ではなかったこと 【0(007】ないし【0011】 、②「本発明」は、窒化物半導体ウエハーを)より小さいチップ状に分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの
5 発生をより少なくし、また、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供することを目的とし、これを課題とすること(【0012】 、③「本発明」は、上記課題を解決するための手)段として、半導体ウエハー100は第1及び第2の主面を有し少なくとも
第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板101に溝部103を形成
する工程と、溝部103にブレイク・ライン104をレーザー照射により形成する工程と、ブレイク・ライン104に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有する窒化物半導体素子の製造方法の構成を採用したこと(【0013】 、④「本発明」は、半導体ウエハーの基板に達する溝部を形)成し、その溝部にレーザー照射によるブレイク・ラインを形成することにより、刃先消耗等による加工精度の劣化を引き起こすことなく、より幅が狭くかつ深い溝部に、加工バラツキのない高精度のブレイク・ライン形成を可能にし、容易にかつ正確にブレイク・ラインに沿って窒化物半導体素子を分割することが可能となるため、形状の揃った製品供給、及び製品歩留りの向上が可能となるという効果を奏すること(【0064】)の開示があることが認められる。相違点2の認定の誤りについて原告は、甲15の記載(【0001】【0005】ないし【0008】【0、 、019】ないし【0022】 【0027】ないし【0030】 【0032】、 、等)から、甲15の「レーザー加工機」の加工対象物として「溝部がない基板」を認定でき、また、「基板201の一方の表面に溝部203が形成されておらず、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機」の発明を認定できるから、本件審決における甲15発明の認定には誤りがあり、その結果、相違点2の認定にも誤りがある旨主張する。
5 しかしながら、甲15の記載から、甲15発明とは異なる他の発明が認定できるからといって、本件審決がした甲15発明の認定に誤りがあることになるものではない。また、原告は、甲15発明の認定が甲15の記載に基づかないことや、不合理であることなどを具体的に指摘するものではない。したがって、相違点2の認定に誤りがあるとの原告の上記主張は、その前提において採用することができない。相違点2の容易想到性の判断の誤りについて原告は、①甲15の【0020】ないし【0022】の記載から、平坦な分離端面となるように基板を切断(分離)するためには、基板201の表面に溝部203を形成することは必要不可欠であるとは認定できない、②【0022】前段の「本発明」とは、その直前の【0019】の「本発明」を指すところ、【0019】は、「本発明」を「半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができる」発明と規定しているから、【0022】前段の「本発明」は、【0019】と同様に、「半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射すること」を技術的特徴とする発明であって、溝を形成することを必須の構成としない発明を記載していると理解するのが合理的かつ自然であること、本件優先日当時、「サファイア基板は溝を形成しなくともスクライブ(割断)できること」が知られていたこと(甲39ないし42)からすると、甲15(特に【0019】ないし【0022】)に接した当業者は、ごく自然に半導体ウエハーの表面に溝を形成せずに、その内部にレーザの焦点をあててウエハーを割断することを理解するといえる、③そして、本件優先日当時において、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあり、しかも、シリコンウェハのように、へき開性を有し、さほど硬度が高くない(硬くない)加工対象物を切断する場合、当業者は、コストアップに繋がる溝形成プロセスを避け、溝を設けないで、レーザー照射をしよう
5 と試みるから、甲15発明において、相違点2に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたなどとして、これと異なる本件審決の判断には誤りがある旨主張する。しかしながら、甲15には、甲15記載の窒化物半導体素子の製造方法において、基板201の表面に溝部203を形成せずに、「基板201上の溝部203の内部側」に形成された加工変質部に沿って、平坦な分離端面となるように基板を切断(分離)することができることを示す記載はない。また、甲15には、「本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。 (」 【0020】 、) 「即ち、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部は、その溝部形成時に内部応力が生ずる。特に、溝部の底面に沿ってダイヤモンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する工程においてはスクライバーの刃先にかかる加重で溝部底以外にも広く歪みが増幅される。そのため、溝部形成後にダイヤモンドスクライバーで分離させると半導体ウエハー内に保持された応力によって所望通りの端面が形成されず、より正確に窒化物半導体ウエハーが分離できないと考えられる。 (」 【0021】 、) 「本発明はダイサーにより生じた内部応力に依存することなくレーザースクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させる。これにより端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができると考えられる。また、窒化物半導体素子を分離されるためには半導体ウエハーの厚みが部分的に薄い溝部を形成させる。その溝部よりも狭いブレイク・ラインをレーザー照射により形成することで、極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成することができ量産性の良い窒化物半導体素子を分離できるものである。(」【0022】)との記載があるところ、【0020】及び【0022】記
5 載の「本発明」とは、いずれも、【0013】記載の「少なくとも第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板101に溝部103を形成する工程」を有する「窒化物半導体素子の製造方法」である「本発明」を指すものと理解するのが自然であり、【0019】記載の「本発明」 これと同様であること、も、【0020】ないし【0022】の記載内容に照らすと、【0020】ないし【0022】は、基板201の表面に溝部203を形成することを前提とした記載であると認められる。加えて、甲15には、「本発明」は、半導体ウエハーの基板に達する溝部を形成し、その溝部にレーザー照射によるブレイク・ラインを形成することにより、刃先消耗等による加工精度の劣化を引き起こすことなく、より幅が狭くかつ深い溝部に、加工バラツキのない高精度のブレイク・ライン形成を可能にし、容易にかつ正確にブレイク・ラインに沿って窒化物半導体素子を分割することが可能となるため、形状の揃った製品供給、及び製品歩留りの向上が可能となるという効果を奏すること(【0064】 の記載があることに照らすと、) 仮に原告が主張するように本件優先日当時シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあったとしても、甲15に接した当業者において、甲15に基づいて、甲15発明において、加工対象物として、ブレイクライン(切断予定ライン)に沿った溝が形成されていない基板201を採用する動機付けがあるものと認めることはできないから、相違点2に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認めることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。小括以上のとおり、本件審決における相違点2の認定及び容易想到性の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(甲2を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由2関係)について
5 ⑴ 甲2の記載事項について甲2には、次のような記載がある(下記記載中に引用する第1図ないし第3図、表1及び2については別紙3を参照)。ア 「特許請求の範囲半導体結晶ウェーハの表面方向からレーザー光を照射し、半導体結晶ウェーハの裏面近傍に焦点を結び、半導体結晶ウェーハの裏面を加工することを特徴とする半導体ウェーハの加工法。 (1頁左下欄)」イ 「発明の詳細な説明本発明は半導体結晶ウェーハの加工法に関し、特にレーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅の大きな半導体結晶ウェーハのレーザー加工法に関する。レーザー光による半導体結晶ウェーハの加工例としてスクライブがある。レーザースクライブはダイシング法に比べ切りしろが小さくできることやダイアモンドポイントスクライブ法より信頼度が大きいことなどの利点があり、最近広く用いられつつある。従来半導体結晶ウェーハのレーザースクライブはウェーハ表面近傍にレーザー光の焦点を結び、表面からスクライブ溝を入れる方法で行なわれている。前記の方法でP-N接合の形成された半導体結晶ウェーハのP-N接合部を切断すると漏洩電流が著しく増大することの欠点がある。又裏面全体に金属電極を付加した半導体結晶ウェーハをペレットに分割する場合、表面からの加工法によるスクライブでは裏面電極が切断されないため、半導体結晶は分離できても電極が連なった複合ペレットが多く発生する欠点がある。又素子によっては半導体結晶ウェーハの表面よりも裏面からスクライブ溝を入れペレットに分割した方が好ましい場合があるが、この場合裏面から表面電極パターンに従って加工位置を設定することは困難である。 (1頁左下欄11行~右下欄16行)」
5 ウ 「本発明は上記の欠点を除き、簡単でかつ信頼度の高い半導体結晶ウェーハのレーザー加工法を提供するものである。本発明の目的は半導体結晶の表面・電極パターンに従い裏面を加工する方法を提供するものである。本発明の他の目的はレーザースクライブにおけるペレット分割の歩留りを向上させることにある。 (1頁右下欄17行~2頁左上欄3行)」エ 「本発明の方法はレーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅が大きい半導体結晶ではレーザー光がほとんど吸収されずに裏面に到達することを用い、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶことにより半導体結晶ウェーハの裏面を表面からのレーザー光照射で加工することである。 (2頁左上欄4行~10行)」オ 「次に本発明の実施例を図面を参照して説明する。実施例1本発明の実施例に用いられた半導体結晶はGaPであり、レーザー光はYAGレーザーである。GaPのエネルギー禁止帯幅は3.1eVであり、YAGレーザーの発振波長1.06μ に相当するエネルギー約1.2eVよりも充分大きく、従ってレーザー光はほとんど吸収されずGap結晶を透過する。GaP結晶ウェーハは第1図に断面が示されている。 (2頁左」上欄11行~19行)「(111)面GaP単結晶基板11上にN型層12およびP型層13を形成したP-N接合をもったGaP結晶ウェーハに電極として表面に150μφ の金、亜鉛、ニッケルから成るオーム性電極14を0.4mmの間隔で付加し、裏面には金とシリコン(2%)から成るオーム性電極1
5 3000Å を付加し、その上に金16を約1μ 付加してある。GaP結晶ウェーハの厚さは160μ±10μである。 (2頁左上欄2」0行~右上欄7行)「第2図に光学レンズ51によって焦点を結ぶときの半導体結晶
5 ウェーハ52とレーザー光焦点53の位置が示されている。第2図(a)は従来通常行なわれている表面からの加工における焦点位置であり、焦点は半導体結晶表面の近傍にある。第2図(b)は本発明の方法におけるレーザー光焦点53の位置であり、GaPの屈折率3.3を考慮し、半導体結晶ウェーハを約400μ レンズに近づけて設定した。レーザー光の出力および半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れたときの溝の形状を調べた結果を表1に示す。本発明の方法では表面を直接加工する従来の方法に比べ溝が幅広くなったが、加工部の形状は悪化していない。上記(a) (b)の各方法でスクライブ溝を入れたウェーハをローラ一、式のブレーキング装置を用い、条件を一定にしてペレットに分割したとき、連ったペレットの割合は表2のように裏面からスクライブ溝を入れた(b)で少ない。(a)の方法で連ったペレットの多くはGaP結晶は割れており、裏面電極が連っていることが認められた。(a) (b)各方法でペレットにしたペレットをカーブトレーサーで電、流-電圧特性を調べると(a)の表面からスクライブ溝を入れたペレットでは第3図点線のように漏洩電流が増大している。これはP-N接合面を切断したためである。従って従来の表面からのスクライブ法ではP-N接合が表面から浅い所にある通常の素子ではエッチングなどの工程を行なうか又はプレナー型にする必要がある。一方(b)の裏面からのスクライブでは第3図実線のようにペレット本来の電流-電圧特性を示した。 (2」頁右上欄8行~右下欄11行)カ 「実施例2実施例1と同様な半導体結晶ウェーハを用い、先づ第2図(b)の焦点位置に設定し、レーザー光の出力を下げるとともにGaP結晶ウェーハの移動速度を3倍にして裏面をスクライブした後、第2図(a)の焦点位置
5 に設定し、実施例1と同じ条件で表面からスクライブしてペレットに分割した。この両面からスクライブすることによりほとんど100%連ったペレットを無くすることができた。本発明の実施例としてYAGレーザーを用い、GaP結晶ウェーハのペレットに分割するだめのスクライブ溝を入れることを例として説明したが、本発明の特長を活かしさらに複雑な加工にも適用可能であることはいうまでもない。半導体結晶ウェーハとしてはYAGレーザーを用いる場合でもレーザー光の波長エネルギーよりも大きな禁止帯幅をもつ半導体結晶および多元素化合物半導体結晶の全てに適用できる。将来さらに波長エネルギーの小さいレーザー光の加工機が得られれば、さらにエネルギー禁止帯幅の小さい半導体結晶にも適用できる。さらに本発明の実施例ではP-N接合を含む半導体結晶ウェーハを例としたが、結晶中の不純物に依存することなく、如何なる導電型の組み合わせのウェーハに対しても適用される。 (2頁右上欄8行~3頁左上欄15行)」キ 「本発明の方法によれば裏面に表面電極パターンとの対応した電極や位置指定することなく表面電極のパターンに従って簡単にかつ正確に裏面の加工ができる。 (3頁左上欄16行~19行)」甲2発明について前記⑴の記載事項によれば、甲2には、本件審決認定の甲2発明(前記第2の3⑷)が記載されていることが認められる。相違点1の認定の誤りについて原告は、「近傍」とは「近所。近辺。」を指し(甲50)、甲2記載の「半導体結晶ウェーハの裏面近傍」とは、半導体結晶ウェーハの裏面に近い内側、すなわち、半導体結晶ウェーハの内部を指すことからすると、甲2記載のレーザー加工装置は、加工対象物(半導体結晶ウェーハ)の裏面ではなく、加工対象物の「内部」の「改質領域」を切断の起点とするものといえるから、本
5 件審決における甲2発明の認定には誤りがあり、その結果、相違点1の認定にも誤りがある旨主張する。そこで検討するに、本件発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には、「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置」にいう「改質領域」を特定のものに規定する記載はないが、本件明細書には、本件発明の実施形態として、「改質領域」について、「 改質領域が一つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合」(【0021】 、)「⑵改質領域が溶融処理領域の場合」(【0027】 、)「 改質領域が屈折率変化領域の場合」 【0034】( )が記載されている。次に、前記⑴の記載事項によれば、甲2には、①半導体結晶ウェーハのレーザースクライブは、従来から、ウェーハ表面近傍にレーザー光の焦点を結び、表面からスクライブ溝を入れる方法で行われているが、半導体結晶ウェーハのP-N接合部を切断すると漏洩電流が著しく増大するという欠点や、裏面全体に金属電極を付加した半導体結晶ウェーハをペレットに分割する場合、表面からの加工法によるスクライブでは裏面電極が切断されないため、半導体結晶は分離できても電極が連なった複合ペレットが多く発生する欠点があり、また、素子によっては半導体結晶ウェーハの表面よりも裏面からスクライブ溝を入れペレットに分割した方が好ましい場合があるが、この場合裏面から表面電極パターンに従って加工位置を設定することは困難であるという欠点があったこと(前記 イ)、②「本発明」は、上記の欠点を除き、簡単でかつ信頼度の高い半導体結晶ウェーハのレーザー加工法を提供するものであり、「本発明」の目的は半導体結晶の表面・電極パターンに従い裏面を加工する方法を提供するものであり、また、本発明の他の目的はレーザースクライブにおけるペレット分割の歩留りを向上させることにあること(前記 ウ)、③「本発明」の方法は、レーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅が大きい半導体結晶ではレーザー光がほとんど吸収されずに裏面に到達する
5 ことを用い、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶことにより半導体結晶ウェーハの裏面を表面からのレーザー光照射で加工するものであること(前記 エ)、④第2図(a)は、従来通常行なわれている表面からの加工における焦点位置であり、焦点は半導体結晶表面の近傍にあり、
第2図(b)は、
「本発明」の方法におけるレーザー光焦点53の位置であり(実施例1) 「本発明」の方法では表面を直接加工する従来の方法に比べ溝、が幅広くなったが、加工部の形状は悪化していないこと(前記 オ)、⑤実施例2は、実施例1と同様な半導体結晶ウェーハを用い、先づ第2図(b)の焦点位置に設定し、レーザー光の出力を下げるとともにGaP結晶ウェーハの移動速度を3倍にして裏面をスクライブした後、第2図(a)の焦点位置に設定し、実施例1と同じ条件で表面からスクライブしてペレットに分割したものであり、この両面からスクライブすることによりほとんど100%連ったペレットを無くすることができたこと(前記 カ)、⑥「本発明」の方法によれば、裏面に表面電極パターンとの対応した電極や位置指定することなく表面電極のパターンに従って簡単にかつ正確に裏面の加工ができるという効果を奏すること(前記 キ)の開示があることが認められる。上記①ないし⑥と第2図に示された「半導体結晶ウェーハ52」における「レーザー光焦点53」の位置を総合すると、甲2記載の半導体結晶ウェーハの加工法(本発明)は、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶことにより、表面からのレーザー光照射で半導体結晶ウェーハの裏面を加工する方法であり、その効果は、簡単にかつ正確に裏面の加工ができることであることが認められる。そうすると、甲2記載の「レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶ」にいう「裏面近傍」とは、レーザー光の焦点を結ぶ位置を特定したものにすぎず、加工する箇所(レーザースクライブが形成される箇所)は、あくまで半導体結晶ウェーハの「裏面」であって、「内部」であるものと
5 はいえないから、「裏面近傍」が裏面に近い位置を意味するものとしても、甲2において、半導体結晶ウェーハの内部に切断の起点となる「改質領域」(相違点1に係る本件発明の構成)が形成されることの開示があるものと認めることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。相違点1の容易想到性の判断の誤りについて原告は、①本件優先日当時、レーザ光を用いた半導体基板の加工技術において、加工対象物のレーザ光を照射した部分から飛散物が生じたり、溶融物が残る等により、製造工程に支障をきたす等の課題があることは、周知であり(甲12、51ないし53)、また、「ウェハ状の加工対象物の内部」に「改質領域」を設けるように構成し、当該内部の改質領域を切断の起点とすることは、周知の技術であったこと(甲1、15等)、②甲2発明と上記周知技術は、技術分野が共通し、甲2記載の発明の目的の一つは、「レーザースクライブにおけるペレット分割の歩留まりを向上させること」にあり、上記周知技術は歩留まりを向上させる作用機能を有するから、両者は、目的(課題)等においても共通することからすると、甲2に接した当業者は、甲2発明において、上記課題を解決するために、上記周知技術を考慮し、「切断の起点となる領域」を「半導体基板の内部」に位置する「改質領域」とし、相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたから、これと異なる本件審決の判断には誤りがある旨主張する。しかしながら、前記 のとおり、甲2には、甲2記載の半導体結晶ウェーハの加工法(本発明)は、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶことにより、表面からのレーザー光照射で半導体結晶ウェーハの裏面を加工する方法であり、その効果は、簡単にかつ正確に裏面の加工ができることであることの開示があることからすると、原告が挙げる①及び②を勘案しても、甲2に接した当業者において、甲2発明において、ペレットに分
5 割するための切断の起点として、半導体結晶ウェーハの裏面にスクライブ溝を形成することに代えて、「半導体結晶ウェーハの内部に改質領域を形成する」構成とする動機付けがあるものと認めることはできないから、相違点1に係る本件発明の構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。小括以上のとおり、本件審決における相違点1の認定及びその容易想到性の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(甲5を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由5関係)について⑴ 甲5の記載事項について甲5には、次のような記載がある(下記記載中に引用する第1図については別紙4を参照)ア 「2 特許請求の範囲(1)透明材料に吸収されない高エネルギービームを透明材料内部に焦点を結ばせて照射することを特徴とする透明材料の切断加工方法。(2)特許請求の範囲第1項において、透明材料の下側に高エネルギービームの焦点を合せ、次に、上方に焦点を移動させる透明材料の切断加工方法。(3)特許請求の範囲第1項ないし第2項のいずれかにおいて、透明材料は石英ガラスである透明材料の切断加工方法。
(4)特許請求の範囲第1項ないし第3項のいずれかにおいて、高エネルギービームはエキシマレーザである透明材料の切断加工方法。 (1頁左」下欄)イ 「2.発明の詳細な説明
5 [産業上の利用分野]本発明は、石英ガラスなどの種々の透明材料を切断加工する方法に関する。[従来の技術]従来、石英ガラスなどの種々の透明材料を切断加工する方法として、バンドソーや内周刃などの直線的な切断機や、コアドリル、円筒研削機などの円形の加工機械が使用され直線状または、円筒状の加工がおこなわれている。また、不定形の切断加工には炭酸ガスレーザを使用したレーザ加工機等が使用されている。 (1頁左下欄18行~右下欄9行)」「[発明が解決しようとする課題]従来の切断加工機械のバンドソーや、内周刃などでは直線的な切断加工のみであり、また、コアドリル、円筒研削機などの円形の加工機械は、円筒形の切断のみであり、複雑な加工には使用できなかった。炭酸ガスレーザを利用したレーザ切断機では、炭酸ガスレーザビームの波長はガラスを透過しないため、材料表面部に集光し表面より溶断して行くが、この場合溶断表面より内部へ進行するに従って、溶断面のピットによりレーザビームがさえぎられるので、溶断する厚さに対し限度があり、現状では10mm程度が限界である。ウ 本発明は、石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的とし、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的としている。 (1頁右下欄10行~2頁左上」欄5行)エ 「[課題を解決するための手段]そこで、本発明は、石英ガラスなどの透明材料に吸収されない高エネルギービームを透明材料内部に焦点を結ばせて照射し、透明材料内部に微小
5 なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工しようとするものである。透明材料としては、例えば、光学ガラス、石英ガラスなどの無機ガラス、アクリル樹脂などの透明樹脂等が挙げられる。高エネルギービームとしては、XeF(351nm)、XeC1(308nm)、KrF(248nm)、ArF(193nm)等のエキシマレーザーや、YAGレーザ及びその高調波等が挙げられる。透明材料の高エネルギービームに対する吸収特性に応じて、適切な高エネルギービームを選択する必要がある。高エネルギービームは、100Hz以上の高くりかえし周波数の方が効率的である。焦点の移動は、光学的に焦点位置を移動させても、また、ワークを移動させても良く、操作しやすい方法を適宜選択できる。焦点は、最初ワークの下側にあわせ、それから上方に移動させるのが効率的である。最初に、ワークの上方に焦点を合せると、切断部分により高エネルギービームが部分的に切断されてしまい作業効率が悪くなるからである。高エネルギービームが通過する表面は研磨しておき、ビームが表面で散乱するのを防止し、焦点位置にビームが集中するようにするのが好ましい。 (2頁左上欄6行~右上15行)」オ 「[作用]透明材料に吸収されない高エネルギービームを、レンズやミラーから構成される光学系を介して透明材料の内部に焦点を合せ、高エネルギービームを透明材料内部に照射する。すると、高エネルギービームの照射された個所に数十ミクロン以下の微小なクラックが発生する。高エネルギービームの照射位置を移動させて、透明材料に連続的なクラックを発生させるこ
5 とによって透明材料を切断加工する。 (2頁右上欄16行~左下欄5行)」「クラックの発生について更に詳しく説明する。固体中では、荷電子のエネルギー準位は帯状のいわゆるバンド構造をとっている。絶縁体ではバンドギャップ以下のフォトンエネルギーのフォトン、すなわち、長波長の光は吸収しない。しかし、バンドギャップよりも低エネルギーの光でも、レンズで集光するなどしてフォトン密度を極端に高くすると、2個あるいは、それ以上のフォトンを同時に吸収することにより、電子が充満帯(エネルギーギャップよりエネルギーの低いエネルギーバンド)から伝導帯(エネルギーギャップよりエネルギーが高く、通常の状態では電子の存在しないエネルギーバンド)に励起される。このように、フォトンを同時に2個吸収することを2光子吸収、さらに一般に複数個吸収することを多光子吸収という。この発明においては、多光子吸収を利用して、バンドギャップよりエネルギーが低く、本来、吸収の起こらない波長の光を透明材料に吸収させることにより、透明材料の結合ボンドを切断したり、あるいは、発熱を利用して微小なクラックを透明材料内部に発生させるのである。石英ガラスでは、このバンドギャップは約9eV(140nm)である。石英ガラス中に不純物や欠陥構造が無い限り、バンドギャップよりも低エネルギー、すなわち、長波長の光は、通常吸収しない。ここでエキシマレーザの波長とフォトンエネルギーを以下に示す。励起に必要な種類 波長(nm) フォトンエネルギー(eV) フォトン数ArF 193 6.4 2KrF 248 5.0 2XeCl 308 4.0 3
5 XeF 351 3.5 3したがって、エキシマレーザはすべて波長が140nmより長いので、通常は吸収が起きないはずである。しかし、前記の、多光子吸収によって吸収が起こり、このため結合ボンドの開裂あるいは発熱作用を生じ微細なクラックが内部に発生するのである。荷電子を充満帯から伝導帯に励起するのに必要なフォトン数は、石英ガラスのバンドギャップ9eVを超えるために必要な個数である。」(2頁左下欄6行~3頁左上欄9行)カ 「[実施例]次に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。実施例1透明材料として150×150×150mmの合成石英ガラス(OH1300ppm含有)を使用し、高エネルギービームとしては、不安定共振器を用いたエキシマレーザ(KrF 248nmエネルギー密度50mJ/cm 2・パルス、くり返し周波数150Hz)を使用し、焦点距離500mmのレンズで集光し、ミラーで反射させ、上面を予め研磨したワークである厚板の合成石英ガラスの内部にエキシマレーザビームの焦点を合せエキシマレーザをワークの上面から照射し、ワークを3r.p.mの回転数で回転させながら、焦点の位置を3mm/minの速さでワーク底面より引き上げることにより、直径30mmの円筒形の孔を開けた。このとき、ワーク内部におけるエキシマレーザのビームの垂直方向の焦点位置は、レンズの位置を移動させることによって変化させた。また、ワーク内部での焦点位置の水平方向の移動は、ワーク自体を水平方向に移動させることによっておこなった。切断に当っては、焦点位置は、ワークの底面から上方向に移動させた。」(3頁左上欄10行~右上欄15行)
5 キ 「[効果]以上、述べてきたように、透明材料の内部に焦点をあわせ、透明材料に対し吸収の無い高エネルギービーム、例えば、石英ガラスに対しエキシマレーザを照射すると、微細なクラックが透明材料の内部に発生する。これを連続させることによって透明材料を複雑な形状に切断加工できる。焦点をワークの内部に結ばせているのでワークの厚味に影響を受けず、自由な形状に加工できる。焦点の移動をコンピュタにプログラムしておくことによって、円錐形、ひょうたん型など、その形状は制約を受けないといってよいものである。」(3頁右上欄16行~左下欄7行)甲5発明についてア 本件審決は、甲5記載の実施例1に基づいて、甲5発明(前記第2の3
⑸)を認定したものと認められる。そして、前記⑴の記載事項によれば、甲5には、本件審決認定の甲5発明が記載されていることが認められる。イ 前記⑴の記載事項によれば、甲5には、①石英ガラスなどの種々の透明材料を切断加工する方法として、従来、直線的な切断加工にはバンドソーや内周刃などの直線的な切断機が、円筒形の切断加工には、コアドリル、円筒研削機などの円形の加工機械が使用されているが、複雑な加工には使用できないという問題があり、また、不定形の切断加工には炭酸ガスレーザを利用したレーザ切断機が使用されているが、炭酸ガスレーザビームの波長はガラスを透過しないため、溶断する厚さに対し限度があり、現状では10mm程度が限界であるという問題があること(前記 イ)、②「本発明」は、石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的とし、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的とし、これらを課題とすること(前記 ウ) ③、 「本
5 発明」は、上記課題を解決するための手段として、石英ガラスなどの透明材料に吸収されない高エネルギービームを透明材料内部に焦点を結ばせて照射し、透明材料内部に微小なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工しようとするものであること(前記 エ) ④、 「本発明」は、透明材料に吸収されない高エネルギービームを透明材料の内部に焦点を合せ、高エネルギービームを透明材料内部に照射すると、高エネルギービームの照射された個所に数十ミクロン以下の微小なクラックを発生させ、高エネルギービームの照射位置を移動させて、透明材料に連続的なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工すること(前記オ)、⑤「本発明」は、透明材料の内部に焦点を合せ、透明材料に対し吸収の無い高エネルギービーム(例えば、石英ガラスに対しエキシマレーザ)を照射すると、微細なクラックが透明材料の内部に発生するので、これを連続させることによって透明材料を複雑な形状に切断加工できる、焦点をワークの内部に結ばせているのでワークの厚味に影響を受けず、自由な形状に加工できるという効果を奏すること(前記 キ)の開示があることが認められる。相違点2の認定の誤りについて原告は、甲5には、「本発明は、石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的とし、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的としている。 (2頁右上欄)」 、「焦点をワークの内部に結ばせているのでワークの厚味に影響を受けず、自由な形状に加工できる。 (3頁左下欄)との記載があることからすると、①」甲5記載のレーザ加工装置の加工対象物は、「厚板の合成石英ガラス」ではなく、「透明材料」と認定すべきである、②シリコンウェハは、赤外光のレーザビームに対して透明であるから、「透明材料」に該当する、③甲5記載のレーザ加工装置の加工対象物は、シリコンウェハでもよい、④レーザ加工装置の
5 加工対象物としての「シリコンウェハ」は、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであることは、本件優先日前の技術常識であるとして、相違点2は、実質的相違点ではないから、本件審決における相違点2の認定には誤りがある旨主張する。しかしながら、甲5の記載から、加工対象を「透明材料」とする発明が認定できるからといって、本件審決がした甲5発明の認定に誤りがあることになるものではない。また、原告は、甲5発明の認定が甲5の記載に基づかないことや、不合理であることなどを具体的に指摘するものではない。したがって、相違点2の認定に誤りがあるとの原告の上記主張は、その前提において採用することができない。⑷ 相違点2の容易想到性の判断の誤りについて原告は、本件優先日当時、レーザ割断技術をガラスやシリコン基板などの脆性材料に適用することは、周知技術であり、また、シリコン基板を含む半導体基板をYAGレーザで切断することは、周知技術であったこと(甲48、49、52等)、甲5は、甲5記載のレーザ加工装置の加工対象物を「厚板」に限定するものではなく、かつ、加工方法も「複雑な切断加工」でない直線的な加工も記載しており、また、YAGレーザを明示的に記載していること(2頁左上欄)からすると、当業者は、甲5発明において、上記周知技術を適用する動機付けがあるから、加工対象物を「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」(相違点2に係る本件発明の構成)とすることを容易に想到することができたものであり、これと異なる本件審決の判断は誤りである旨主張する。そこで検討するに、前記 イの認定事実によれば、甲5記載の切断加工方法は、石英ガラスなどの透明材料を加工対象物とし、その厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを課題とし、上記課題を解決するための手段として、石英ガラスなどの透明材料に吸収されない高
5 エネルギービームを透明材料内部に焦点を結ばせて照射し、透明材料内部に微小なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工する構成を採用し、これにより、焦点をワークの内部に結ばせているのでワークの厚味に影響を受けず、自由な形状に加工できるという効果を奏することに技術的意義が認められる。しかるところ、シリコンウェハは、非常に薄く(甲36記載の標準ウェーハ(分類1.1ないし1.16.3)の厚さは、「279μm~925μm」である(30頁~37頁) ) 複雑な切断加工を要するものでないことに照ら。、すと、甲5に接した当業者において、甲5発明の加工対象物を「厚板の合成石英ガラス」に代えて「シリコンウェハ」とする動機付けがあるものと認めることはできない。また、本件優先日当時、レーザ割断技術をガラスやシリコン基板などの脆性材料に適用すること、シリコン基板を含む半導体基板をYAGレーザで切断することは、周知技術であったからといって、そのことから直ちに、甲5発明の加工対象物を「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」(相違点2に係る本件発明の構成)とすることの動機付けがあるものと認めることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。小括以上のとおり、本件審決における相違点2の認定及び容易想到性の判断に誤りはないから、原告主張の取消事由4は理由がない。
第5 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。したがって、原告の請求は棄却されるべきものであるから、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 小 川 卓 逸
裁判官 遠 山 敦 士
(別紙1)
本件明細書【図1】【図2】【図3】【図4】【図5】【図6】【図7】【図8】【図9】【図10】【図11】【図12】【図13】【図14】【図15】【図16】【図17】【図18】【図19】【図20】【図21】【図22】
(別紙2)
甲15【図1】【図2】【図3】【図4】【図5】【図6】【図7】
(別紙3)
甲2第1図第2図
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