ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和3(行ケ)10066 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和4年12月13日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告中外製薬株式会社 被告沢井製薬株式会社 日医工株式会社 |
| 対象物 | エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤 |
| 法令 |
特許権 特許法29条1項1回 |
| キーワード | 審決30回 新規性29回 実施10回 無効6回 進歩性4回 無効審判2回 特許権1回 優先権1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告及び大正製薬株式会社(以下「大正製薬」という。)は、平成22年 4月28日、発明の名称を「エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制 剤」とする発明について特許出願(特願2010-103915号。優先権5 主張(日本):平成21年4月28日(以下「本件優先日」という。))を し、平成28年7月15日、特許権の設定登録(特許第5969161号。 請求項の数4。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。(甲4 5) ⑵ 被告らは、令和元年12月23日、本件特許につき、無効審判請求をした10 (無効2019-800112号事件)。 ⑶ 原告及び大正製薬は、令和2年11月30日、上記無効審判請求事件にお いて、本件特許の請求項3及び4を訂正して新たに請求項3ないし8とする 旨の訂正請求書を提出した(訂正後の請求項の数8。以下「本件訂正」とい う。)。(甲44)15 ⑷ 特許庁は、令和3年4月15日、本件訂正を認めた上で、「特許第596 |
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令和4年12月13日判決言渡
令和3年(行ケ)第10066号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年9月27日
判 決
原 告 中 外 製 薬 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 末 吉 剛
同 高 橋 聖 史
同訴訟代理人弁理士 寺 地 拓 己
同 一 宮 維 幸
被 告 沢 井 製 薬 株 式 会 社
被 告 日 医 工 株 式 会 社
上記両名訴訟代理人弁護士 森 本 純
同 芳 賀 彩
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2019-800112号事件について令和3年4月15日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告及び大正製薬株式会社(以下「大正製薬」という。)は、平成22年4月28日、発明の名称を「エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制
5 剤」とする発明について特許出願(特願2010-103915号。優先権主張(日本):平成21年4月28日(以下「本件優先日」という。))をし、平成28年7月15日、特許権の設定登録(特許第5969161号。請求項の数4。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。(甲45)
⑵ 被告らは、令和元年12月23日、本件特許につき、無効審判請求をした(無効2019-800112号事件)。
⑶ 原告及び大正製薬は、令和2年11月30日、上記無効審判請求事件において、本件特許の請求項3及び4を訂正して新たに請求項3ないし8とする旨の訂正請求書を提出した(訂正後の請求項の数8。以下「本件訂正」という。 。) (甲44)
⑷ 特許庁は、令和3年4月15日、本件訂正を認めた上で、「特許第5969161号の請求項1~8に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月23日、原告に送達された。
⑸ 原告は、令和3年5月21日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。2 特許請求の範囲の記載本件訂正後における本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(甲44。以下、順に「本件訂正発明1」等といい、併せて「本件各訂正発明」と総称する。 。)
⑴ 請求項1「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物。」
⑵ 請求項2「投与される対象が原発性骨粗鬆症患者である、請求項1に記載の組成物。」
5 ⑶ 請求項3「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象が、若年者平均骨密度(YAM)の80%より低いか、またはTスコアがYAM値に対して-1SD以下である大腿部骨密度を有する、上記組成物。」
⑷ 請求項4「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象がI型骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」
⑸ 請求項5「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」
⑹ 請求項6「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象が、若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く70%以上である大腿部骨密度を有し、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」
⑺ 請求項7「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象が、原発性骨粗鬆症患者であって、若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有し、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」
⑻ 請求項8
5 「エルデカルシトールを含んでなる非外傷性である前腕部骨折を抑制するための医薬組成物であって、投与される対象が、原発性骨粗鬆症患者であって、若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する、上記組成物。」3 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりであり、後記の取消事由の関係では、要するに、本件各訂正発明は、甲1の文献(井上大輔ほか「骨粗鬆症治療薬:ED-71」「ホルモンと臨床( 第55巻 第7号」(2007年7月1日発行)。以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。 であって新規性を欠き、) 仮に、そうでないとしても、甲1発明、甲1文献の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって進歩性を欠くから、特許を受けることができないものとして無効とすべきであるというものである。
⑵ 本件審決が認定した甲1発明は、次のとおりである(化学構造は、別紙「甲1発明の化学構造」記載のとおりである。 。)「原発性骨粗鬆症患者を対象として0.75μg/日の用量で経口投与される、以下の化学構造を有するED-71(1α,25-dihydroxy-2β-(3-hydroxypropoxy)vitamin D3 )を含んでなる、骨粗鬆症治療薬。」
⑶ 本件審決が認定した本件各訂正発明と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。ア 本件訂正発明1(ア) 一致点「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物。」(イ) 相違点1「医薬組成物について、本件訂正発明1では、『非外傷性である前腕部
5 骨折を抑制するため』のものであると特定されているのに対して、甲1発明では、『骨粗鬆症治療薬』であると特定されている点。」イ 本件訂正発明2本件訂正発明1と同じ(本件訂正発明2において医療組成物を「投与される対象」が「原発性骨粗鬆症患者」であると更に特定した点は、甲1発明との相違点とはならない。 。)ウ 本件訂正発明3(ア) 一致点「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物。」(イ) 相違点1上記ア(イ)と同じ。(ウ) 相違点2「医薬組成物について、本件訂正発明3では、『投与される対象』が、『若年者平均骨密度(YAM)の80%より低いか、またはTスコアがYAM値に対して-1SD以下である大腿部骨密度を有する』ものであると特定されているのに対して、甲1発明では、『原発性骨粗鬆症患者』と特定されている点。」エ 本件訂正発明4(ア) 一致点「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物であって、投与される対象が骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」(イ) 相違点1上記ア(イ)と同じ。(ウ) 相違点3「医薬組成物について、本件訂正発明4では、『投与される対象』が、
5 『I型骨粗鬆症患者』と特定されているのに対して、甲1発明では、『原発性骨粗鬆症患者』と特定されている点。」オ 本件訂正発明5(ア) 一致点「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物であって、投与される対象が原発性骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」(イ) 相違点1上記ア(イ)と同じ。(ウ) 相違点4「医薬組成物について、本件訂正発明5では、投与される対象である原発性骨粗鬆症患者が、 非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされ『る』患者であることが特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定がされていない点。」カ 本件訂正発明6(ア) 一致点「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物であって、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」(イ) 相違点1上記ア(イ)と同じ。(ウ) 相違点5「医薬組成物について、本件訂正発明6では、『投与される対象』が、『若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く70%以上である大腿部骨密度を有する』ものであると特定されているのに対して、甲1発明では、『原発性骨粗鬆症患者』と特定されている点。」キ 本件訂正発明7
5 (ア) 一致点「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物であって、投与される対象が原発性骨粗鬆症患者であり、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される、上記組成物。」(イ) 相違点1上記ア(イ)と同じ。(ウ) 相違点6「医薬組成物について、本件訂正発明7では、投与される対象である原発性骨粗鬆症患者が、『若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有』する患者であることが特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定がされていない点。」ク 本件訂正発明8(ア) 一致点「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物であって、投与される対象が原発性骨粗鬆症患者である、上記組成物。」(イ) 相違点1上記ア(イ)と同じ。(ウ) 相違点7「医薬組成物について、本件訂正発明8では、投与される対象である原発性骨粗鬆症患者が、『若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する』患者であることが特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定がされていない点。」4 原告の主張する取消事由
⑴ 取消事由1本件各訂正発明の甲1発明に対する新規性の有無に関する判断の誤り
⑵ 取消事由2
5 本件各訂正発明の甲1発明に対する進歩性の有無に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件各訂正発明の甲1発明に対する新規性の有無に関する判断
の誤り)について〔
(原告の主張)
〕本件審決は、相違点1ないし7につき、いずれも実質的な相違点ではないと判断したが、以下のとおり、その判断には誤りがある。
⑴ 相違点1について(本件各訂正発明)
以下のとおり、本件各訂正発明は、前腕部骨折(以下、「橈骨遠位端骨折」と同義で用いる。)の抑制が特に求められる患者群に対して予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトールの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適することを見出した医薬用途発明であるから、相違点1を実質的な相違点ではないとした本件審決の判断は誤りである。ア 本件各訂正発明と甲1発明とは用途が異なること(ア) 前腕部骨折は、骨粗鬆症患者の中では活動性が高く若い年齢層で生じやすい点や、受傷原因及び骨質等の様々な点で、他の部位の骨折とは異なる特徴を有しており、また、前腕部骨折の予防は、骨折期間中のADL(Activities of daily living(日常生活動作))及びQOL(Qualityof life(生活の質))の低下を防ぐという点で重要である。本件各訂正発明は、エルデカルシトールが、上記のような前腕部骨折を抑制することが特に求められる患者群において、顕著な効果を奏することを新たに見出した医薬用途発明であり、その効果は従来技術では得られなかった新たなものとして独自の技術的意義を有するから、公知発明とは区別されるべき発明である。(イ) これに対し、甲1文献には、エルデカルシトールについて、骨粗鬆症
5 全般の治療又は用途が記載されているにすぎず、骨折の予防については
何ら具体的な記載はなく、むしろ、当時はエルデカルシトールの骨折抑制効果が確認されていなかったことが明記されている。また、甲1文献には、前腕部の骨折に関する記載はないから、仮に、甲1文献が骨折全般を抑制する骨粗鬆症薬の発明を開示しているとしても、前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症薬の発明に係る上位概念を示しているにすぎず、その下位概念である前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症薬の発明をも開示しているとはいえない。したがって、甲1文献には、骨粗鬆症全般の治療薬が開示されているにすぎず、前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されているものではない。また、本件優先日後に公開された甲13の文献には、エルデカルシトールの骨折リスクに対する効果は不明である旨記載されており、本件審決が引用した甲6の文献にも、エルデカルシトールの骨折予防効果については具体的には確認されていないことが示されている上、骨粗鬆症治療薬には様々なものがあり、いずれの部位に特に優れた効果を奏するかを予測するのは困難である。そうすると、甲1文献に接した当業者は、エルデカルシトールについて、骨折の抑制のために投与されると認識していたとはいえないし、仮に骨折を抑制する効果を奏すると理解したとしても、特定の部位において特に骨折を抑制すると理解するものではない。(ウ) 以上によれば、本件各訂正発明における「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」という用途は、甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」という用途とは客観的に区別された異なるものである。イ 患者群の特徴に応じて薬剤が使い分けられていること(ア) 同一の名称の疾患の治療及び予防であっても、より良い治療又は予防効果を得るためには、患者群の特徴に応じた薬剤の選択が求められてい
5 るところ、ある有効成分が、当該疾病全般の治療又は予防に有効である
ことが知られていたとしても、より限定した患者群において顕著な効果が見出された場合、その発明は、従来技術とは区別された新規性を有するものである。そして、骨粗鬆症においては、体の様々な部位で骨強度が低下し、骨折のリスクが高まるものであり、患者全体において、椎体、大腿骨近位部及び前腕部等、様々な部位で骨折が生じるが、個々の患者によっていずれの部位の骨折の抑制が求められるかは異なる。また、同じ箇所を繰り返し骨折しやすいという骨粗鬆症の骨折の特徴を考慮して、患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けられている(甲65ないし68)。(イ) そうすると、本件各訂正発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、従来技術とは区別された新規性を有するものである。ウ 臨床試験において顕著かつ予想外の効果が確認されていること(ア) 本件特許に係る明細書(以下、図面と併せて「本件明細書等」という。)の実施例1として記載されている臨床試験(以下「本件臨床試験」という。)は、第Ⅲ相臨床試験として行われたものであるところ、本件臨床試験においては、次のとおり、エルデカルシトールが、既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏するものであることが確認されている。なお、アルファカルシドールは、治療上の有効性が期待されて実際に使用されている上、エルデカルシトールと同様に活性型ビタミンD
3 製剤に属することからすれば、比較対象として適切である。
a エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は、投与初期から認められ、144週間にわたって持続した。(本件明細書等の図1)b 層化ログランク検定によれば、エルデカルシトール投与群において
5 は、アルファカルシドール投与群と比較して、有意な前腕部骨折の発
生の低下が認められた。(本件明細書等の表2)c 層化コックス回帰においては、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とすると、エルデカルシトール投与群のそれ(ハザード比)は0.29であり、前腕部骨折危険率が71%減少したことが判明した。これに対し、椎体骨折に係るハザード比は、0.74(椎体骨折危険率の減少は26%)にとどまっている。(本件明細書等の表2)d 大腿部骨密度が70%より低いグループにおいては、アルファカルシドール投与群における骨折発生件数は157例中7例であったのに対し、エルデカルシトール投与群における骨折発生件数は182例中0例であった。また、大腿部骨密度が80%より低く70%以上であるグループにおいては、アルファカルシドール投与群における骨折発生件数は169例中7例(4.1%)であったのに対し、エルデカルシトール投与群における骨折発生件数は158例中2例(1.3%)にまで抑制することができた。(本件明細書等の表4)(イ) 本件臨床試験の結果は、原告の医薬品(販売名「エディロール」)の承認申請の資料として提出され、添付文書にも記載されている上、骨粗鬆症ガイドライン(甲42の1)においても、「前腕骨骨折リスク 71%抑制」 「転倒を原因とすることが多い前腕骨骨折の強力な抑制効果が認、められた」と記載されるなどしている。(ウ) エルデカルシトールを含有する医薬組成物を、骨粗鬆症治療薬として、骨粗鬆症全般の治療又は予防のために投与することが知られていたとしても、本件明細書等において開示されたエルデカルシトールの効果(前腕部骨折が、椎体骨折よりも、更には非椎体全体の骨折よりも抑制されるという効果)は、本件優先日当時は知られておらず、本件臨床試験によって初めて明らかになったものであるから、本件各訂正発明の効
5 果は予測されていなかったものといえる。
⑵ 相違点3について(本件訂正発明4)
ア 本件特許が出願された当時、原発性骨粗鬆症は、青年期に生じる特発性骨粗鬆症、Ⅰ型骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症)及びⅡ型骨粗鬆症(老人性骨粗鬆症。退行期骨粗鬆症とも呼ばれる。)に大別されていたところ、Ⅰ型骨粗鬆症は、女性の患者が男性の患者よりも著しく多く、また、65歳未満がその大半を占めているから、75歳以上がその大半を占めるⅡ型骨粗鬆症とは患者群が異なるといえる。また、Ⅰ型骨粗鬆症は、皮質骨と比較して海綿骨が特に急激に減少するものであり、海綿骨及び皮質骨の両者が同様の速度で減少するⅡ型骨粗鬆症とは骨量の減少の仕方が異なる。さらに、Ⅰ型骨粗鬆症の患者群においては、前腕部骨折が生じやすいとされている(甲58ないし64)。以上のとおり、Ⅰ型骨粗鬆症は、Ⅱ型骨粗鬆症とは区別されていたものであるところ、Ⅰ型骨粗鬆症患者は、前腕部骨折のリスクが高く、その抑制が望まれる患者群であるといえる。イ そして、本件訂正発明4においては、投与対象がⅠ型骨粗鬆症患者に特定されているところ、本件臨床試験において、エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制という顕著な効果が明確に示されていることからすれば、前腕部骨折の発生が特に懸念されているⅠ型骨粗鬆症の患者群に対する顕著な効果を奏することが示されているといえる。ウ これに対し、甲1文献には、原発性骨粗鬆症患者の中から特にⅠ型骨粗鬆症患者を投与対象とすることについて、記載も示唆もない。エ 以上によれば、相違点3は、実質的な相違点であり、これを実質的な相違点ではないとした本件審決の判断は誤りである。
⑶ 相違点4について(本件訂正発明5)
ア 個々の患者によって、いずれの部位における骨折リスクが高く、特に骨
5 折を抑制すべきであるかは異なるものであるところ、本件訂正発明5にお
いては、投与対象が「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」に特定されている。そして、本件訂正発明5は、当該患者群に対し、前腕部骨折の抑制という顕著かつ予想外の効果を奏する。イ これに対し、甲1文献には、上記のような患者群の特定は記載されていない。ウ したがって、相違点4は、実質的な相違点であり、これを実質的な相違点ではないとした本件審決の判断は誤りである。
⑷ 相違点5について(本件訂正発明6)
ア 本件訂正発明6においては、投与対象が「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く70%以上である大腿部骨密度を有」する患者に特定されているところ、同患者は、骨粗鬆症には至らず骨量減少と診断されるか(脆弱性骨折のない場合)、重症度の低い(軽症の)骨粗鬆症であり、原発性骨粗鬆症患者と等価ではない。そして、本件明細書等の表4においては、エルデカルシトールがこの患者群に対して顕著な効果を奏することが示されている。すなわち、骨折発生件数が、既存薬であるアルファカルシドールでは169例中7例(4.1%)であったのに対し、エルデカルシトールでは158例中2例(1.3%)にとどまる。イ これに対し、甲1文献には、上記のような患者群の特定は記載されていない。ウ したがって、相違点5は、実質的な相違点であり、これを実質的な相違点ではないとした本件審決の判断は誤りである。
⑸ 相違点6について(本件訂正発明7)
ア 本件訂正発明7においては、投与対象が「若年者平均骨密度(YAM)
5 の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者に特定さ
れているところ、同患者は、原発性骨粗鬆症患者の一部にすぎず、原発性骨粗鬆症患者と等価ではない。そして、本件明細書等の表4においては、エルデカルシトールがこの患者群に対して顕著な効果を奏することが示されている。すなわち、骨折発生件数が、既存薬であるアルファカルシドールでは118例中5例(4.2%)であったのに対し、エルデカルシトールでは140例のいずれについても骨折は生じなかった。イ これに対し、甲1文献には、上記のような患者群の特定は記載されていない。ウ したがって、相違点6は、実質的な相違点であり、これを実質的な相違点ではないとした本件審決の判断は誤りである。
⑹ 相違点7について(本件訂正発明8)
ア 本件訂正発明8においては、投与対象が「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者に特定されているところ、同患者は、その一部が原発性骨粗鬆症患者に該当するとしても、原発性骨粗鬆症患者と等価ではない。そして、本件明細書等の表4においては、エルデカルシトールがこの患者群に対して顕著な効果を奏することが示されている。イ これに対し、甲1文献には、上記のような患者群の特定は記載されていない。ウ したがって、相違点7は、実質的な相違点であり、これを実質的な相違点ではないとした本件審決の判断は誤りである。〔被告らの主張〕以下のとおり、本件各訂正発明には新規性がないから、本件審決の判断に誤りはない。
5 ⑴ 相違点1について
ア 用途発明には当たらないこと(ア) 本件優先日当時、骨粗鬆症治療薬としてのエルデカルシトールは公知であったところ、骨粗鬆症は全身的な骨疾患であり、その治療においては椎体や大腿骨等も含めた全身的な骨強度の維持・改善及びこれによる骨折抑制が目的とされる。そして、前腕部は、骨粗鬆症において骨折を起こしやすい部位の一つであるから、前腕部骨折の抑制は、骨粗鬆症治療薬の骨粗鬆症全般の治療の用途において、不可分的かつ内在的に含まれ、かつ、骨粗鬆症治療において当然に企図されている。また、骨粗鬆症の発症機序やエルデカルシトールの作用機序に照らしてみても、前腕部骨折の発生及びその抑制について、他の部位にはみられないような特別な発症機序や作用機序がみられるというものではない。(イ) したがって、骨粗鬆症治療薬について、骨粗鬆症全般の治療の用途とは別に、前腕部骨折の抑制という独立した用途を観念することはできない。また、骨粗鬆症治療薬について前腕部骨折の抑制という用途を観念することが一応できたとしても、骨粗鬆症全般の治療という用途と前腕部骨折の抑制という用途とを客観的に区別することは困難であるから、本件各訂正発明について、用途発明として新規性が認められる余地はない。(ウ) 仮に、エルデカルシトールについて一定の前腕部骨折を抑制する効果がみられたとしても、それは公知の用途である骨粗鬆症治療の下で当然に予定されていたものでしかなく、新たな属性といえるようなものではない。本件明細書等において、アルファカルシドールに対するエルデカルシトールの骨折リスク減少率の比(相対比)が示されているのは椎体及び前腕部のみであって、その他の部位の試験結果は全く示されていないから、原告が主張するエルデカルシトールの属性は、本件明細書等の
5 記載の範囲を超えたものである。
イ 甲1文献等の記載について(ア) 当業者は、骨粗鬆症に対する薬剤の効果が骨密度を測定して評価されていることなどの技術常識に基づき、後期第Ⅱ相試験においてエルデカルシトールが骨密度を増加させた旨の甲1文献の記載をみて、甲1発明が骨折を抑制するための医薬組成物となると理解するものである。そして、エルデカルシトールの第Ⅲ相臨床試験が進行中である旨の甲1文献等の記載をもって、上記の理解が否定されるものではない。(イ) 甲1文献等において、前腕部骨折を抑制する効果について直接的かつ明示的な記載がされていなくても、当業者は、前腕部が骨粗鬆症において骨折を起こしやすい部位の一つであることや、骨粗鬆症に対して薬剤を投与する目的が、骨粗鬆症による骨折を減少させることにより、骨折によって引き起こされる諸症状を緩和することにあることなどの技術常識に基づいて、高い骨折抑制効果が期待される骨粗鬆症治療薬であるエルデカルシトールについて、前腕部骨折を抑制する効果があるものと理解する。ウ 患者群に応じた薬剤の使い分けについてそもそも、相違点1は、「非外傷性である前腕部骨折の抑制」という用途の限定に係る相違点であり、患者群を「前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群」に限定したことに係る相違点ではない。エ 前腕部骨折を抑制する効果は認められないこと(ア) 骨粗鬆症治療薬の臨床試験においては、全ての主要骨折部位について骨折抑制効果の比較がされるわけではなく、ある特定の部位について骨折抑制効果が確認されれば、当該部位の骨折抑制効果についてエビデンスがあるとされる。また、骨粗鬆症治療薬の臨床試験の結果、ある部位の骨折抑制効果について有意差なしとの報告がされたとしても、そもそ
5 も、当該臨床試験においては、当該部位の骨折抑制効果を実証するため
に試験がデザインされておらず、その中で有意差が確認されなかったにすぎないということも十分に考えられる。したがって、特定の部位について骨折抑制効果が確認されたとする骨粗鬆症治療薬の例を挙げても、それらは、当該骨粗鬆症治療薬において、当該部位についてのみ特別に優れた骨折抑制効果がみられることを意味するものではない。(イ) 原告が主張するように、いずれの部位に特に優れた効果を奏するのかは各薬剤によって異なるものであり、その予測は困難であるというのであれば、本件臨床試験のように、単にアルファカルシドールに対するエルデカルシトールの特定の部位における骨折減少率の相対比の値をみただけでは、当該部位に対する具体的な効果を把握することはできない。エルデカルシトールの部位別の具体的な効果を把握するためには、前腕部、椎体及びその他の主要な骨折部位それぞれについて、プラセボと比較をすることによって効果を客観的に確認する必要がある。また、アルファカルシドールと比較するのであれば、少なくとも、アルファカルシドールについて、前腕部、椎体及びその他の主要な骨折部位それぞれについて、プラセボとの比較により効果が客観的に確認されている必要がある。(ウ) 骨粗鬆症における主要な骨折部位は複数あるのであるから、前腕部の骨折を抑制する効果だけをみても、あるいは、前腕部及び椎体における骨折発生リスクの比較結果だけをみても、骨粗鬆症治療薬としてのエルデカルシトールの他の主要な骨折部位に対する効果は不明であり、骨粗鬆症治療とは区別された前腕部骨折の抑制という独立した用途を導くことはできない。(エ) 以上によれば、本件臨床試験の結果を基に、本件各訂正発明が特に前
5 腕部骨折を抑制する効果を奏するとはいえない。
⑵ 相違点2について
ア 本件明細書等の段落【0027】及び【0028】に記載されているとおり、本件優先日当時における日本の骨粗鬆症の診断基準においては、骨密度がYAMの70%以下であれば骨粗鬆症と診断され、また、WHOの診断基準においては、骨密度のTスコアが-2.5SD以下であれば骨粗鬆症と診断されるから、相違点2に係る本件訂正発明3の投与対象者は、甲1発明の投与対象である原発性骨粗鬆症患者を含むものである。イ したがって、相違点2は、実質的な相違点となるものではない。
⑶ 相違点3について
ア Ⅰ型骨粗鬆症患者は、原発性骨粗鬆症患者の代表的な患者であり、また、甲1発明は、原発性骨粗鬆症患者に対して実施した臨床試験の結果に基づくものであるから、相違点3は実質的な相違点となるものではない。イ 本件臨床試験においては、エルデカルシトール投与群及びアルファカルシドール投与群(対照群)のいずれの患者についても、大半が65歳以上であったと理解されるところ、Ⅰ型骨粗鬆症患者の大半が65歳未満であるとする
(原告の主張)
を踏まえると、Ⅰ型骨粗鬆症患者は、本件臨床試験における患者とは年齢層を異にする。したがって、本件明細書等には、Ⅰ型骨粗鬆症患者とそれ以外の骨粗鬆症患者との間で前腕部骨折を抑制する効果を比較した記載はおろか、Ⅰ型骨粗鬆症患者について前腕部骨折を抑制する効果を確認した記載すらないといえる。ウ 骨粗鬆症患者は、Ⅰ型骨粗鬆症患者とⅡ型骨粗鬆症患者とに明確に区分されるわけではないから、本件訂正発明4の「Ⅰ型骨粗鬆症患者」は、対象患者を明確に特定するものではない。したがって、対象患者を「Ⅰ型骨粗鬆症患者」に限定したところで、公知の骨粗鬆症治療の用途と前腕部骨折の抑制という用途とが客観的に区別されるわけではない。
5 エ ある相違点が実質的な相違点であるか否かは、あくまで発明の構成(相
違点3においては対象患者の特定)において実質的な相違が認められるか否かによって決せられるのであって、顕著な効果が認められるか否かによって決せられるものではない。また、本件明細書等には、エルデカルシトールについて、Ⅰ型骨粗鬆症患者に対する前腕部骨折抑制効果を確認した試験結果の記載が全くなく、その効果は不明である。オ Ⅰ型骨粗鬆症患者の主要な骨折発生部位は、椎体及び前腕部であり、同患者においては、前腕部骨折のみならず椎体骨折の抑制も重要とされている。したがって、Ⅰ型骨粗鬆症患者に対するエルデカルシトールの投与は、前腕部骨折を抑制する目的に限ったものではなく、骨粗鬆症における主要な骨折部位の代表例である椎体及び前腕部骨折の抑制を目的としたものであり、これは、とりもなおさず、骨粗鬆症全般の治療を目的としたものであるから、対象患者をⅠ型骨粗鬆症患者に限定したところで、骨粗鬆症治療と区別された前腕部骨折の抑制という独立した用途が観念されるわけではない。
⑷ 相違点4について
ア 前腕部骨折は、骨粗鬆症において骨折を発生しやすい主な部位の一つであり、骨粗鬆症患者においては、当然に「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる」のであるから、そのような限定を付したところで、甲1発明との実質的な相違点となるものではない。また、本件明細書等においても、投与対象を「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」に限定する旨の記載はない。イ したがって、本件訂正発明5も、甲1発明に対する新規性が欠如した発明でしかない。
⑸ 相違点5について
ア 本件優先日当時、脆弱性骨折を有し、かつ、大腿部骨密度がYAMの8
5 0%より低く70%以上の患者が、原発性骨粗鬆症の治療薬の適用対象で
ある「原発性骨粗鬆症患者」であること、骨粗鬆症患者が椎体骨折等の脆弱性骨折を有している場合が多いことは技術常識であった。そうすると、当業者は、甲1発明の骨粗鬆症治療薬を投与する対象である骨粗鬆症患者には、脆弱性骨折のある、大腿部骨密度がYAMの80%より低く70%以上である者が含まれていると認識する。イ したがって、本件訂正発明6で特定される対象は、甲1発明の骨粗鬆症治療薬を投与する対象として当然に含まれる患者を含むから、相違点5は、実質的な相違点ではない。
⑹ 相違点6について
ア 大腿部骨密度がYAMの70%より低い患者が「原発性骨粗鬆症患者」の典型例であることは、本件優先日当時の技術常識であった。また、大半の高齢者はYAMの60%以上の大腿骨密度を有しており、本件訂正発明7の「若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者は、「原発性骨粗鬆症患者」の典型例に相当する。そうすると、当業者は、甲1発明の骨粗鬆症治療薬を投与する対象である骨粗鬆症患者には、YAMの70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する者が含まれていると認識する。イ したがって、本件訂正発明7で特定される「若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者は、甲1発明の骨粗鬆症治療薬を投与する対象として当然含まれる患者を含むから、相違点6は、実質的な相違点ではない。
⑺ 相違点7について
ア 上記⑸及び上記⑹で主張したとおり、脆弱性骨折があり大腿部骨密度がYAMの80%以下の患者、及び、脆弱性骨折がなく、大腿部骨密度がYAMの70%未満の患者が、「原発性骨粗鬆症患者」の典型例であることは、
5 本件優先日当時の技術常識であった上、大半の高齢者はYAMの60%以
上の大腿骨密度を有する。そうすると、当業者は、甲1発明の骨粗鬆症治療薬を投与する対象である骨粗鬆症の患者には、脆弱性骨折があり大腿部骨密度がYAMの80%より低く60%以上である者、及び、脆弱性骨折がなく、大腿部骨密度がYAMの70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する者が含まれていると認識する。イ したがって、本件訂正発明8で特定される患者は、甲1発明の骨粗鬆症治療薬を投与する対象として当然に含まれる患者を含むから、相違点7は、実質的な相違点ではない。
2 取消事由2(本件各訂正発明の甲1発明に対する進歩性の有無に関する判断
の誤り)について〔
(原告の主張)
〕
⑴ 相違点1に係る容易想到性について(本件各訂正発明)
ア 前記1〔
(原告の主張)
〕⑴で主張したとおり、エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制という用途は、本件明細書等によって初めて開示された事項であり、甲1文献には何らの記載もなく、この点に関する技術常識も存在しない。また、「非外傷性である前腕部骨折を抑制する」という用途は、「骨粗鬆症治療薬」としての用途とは明確に異なる。イ さらに、前記1〔
(原告の主張)
〕⑴で主張したとおり、本件各訂正発明は、既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折を著しく抑制することができるという効果を奏するものである上、この効果は、当業者であっても全く予測することができなかったものである。ウ したがって、甲1文献の記載及び技術常識を参酌しても、相違点1は、当業者が容易に想到し得た事項ではない。
⑵ 相違点3に係る容易想到性について(本件訂正発明4)
ア 前記1〔
(原告の主張)
〕⑵で主張したとおり、甲1文献には、原発性骨粗
5 鬆症患者の中から特にⅠ型骨粗鬆症患者を投与対象とすることについて、
記載も示唆もない。また、本件明細書等の実施例1が示すとおり、エルデカルシトールは、前腕部骨折の抑制に顕著な効果を奏するものであり、前腕部骨折が生じやすいⅠ型骨粗鬆症患者に顕著な効果を奏するものである。イ したがって、相違点3は、当業者が容易に想到し得た事項ではない。
⑶ 相違点4に係る容易想到性について(本件訂正発明5)
ア 相違点4に係る「投与される対象が、非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者であり」との構成要件は、投与対象をより明確にすることにより、本件訂正発明5の顕著な効果(前腕部骨折の抑制)の発現をより確実にしたものである。イ したがって、相違点4は、当業者が容易に想到し得た事項ではない。
⑷ 相違点5に係る容易想到性について(本件訂正発明6)
ア 本件訂正発明6においては、投与対象が「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く70%以上である大腿部骨密度を有」する患者に特定されている。そして、前記1〔
(原告の主張)
〕⑷で主張したとおり、本件明細書等の実施例1においては、この患者群において、エルデカルシトールが、アルファカルシドールと比較して、予想外の顕著な効果を奏したことが示されている。イ このような投与対象に関する特定及び顕著な効果について、甲1文献には記載がない。ウ したがって、相違点5は、当業者が容易に想到し得た事項ではない。
⑸ 相違点6(本件訂正発明7)及び相違点7(本件訂正発明8)に係る容易
想到性についてア 本件訂正発明7においては、投与対象が「若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者に特定さ
5 れ、また、本件訂正発明8においては、投与対象が「若年者平均骨密度(Y
AM)の80%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者に特定されている。そして、前記1〔
(原告の主張)
〕⑸で主張したとおり、本件明細書等の実施例1においては、これらの患者群において、エルデカルシトールが、アルファカルシドールと比較して、予想外の顕著な効果を奏したことが示されている。イ このような投与対象に関する特定及び顕著な効果について、甲1文献には記載がない。ウ したがって、相違点6及び7は、いずれも当業者が容易に想到し得た事項ではない。〔被告らの主張〕
⑴ 相違点1に係る容易想到性について
ア 本件優先日当時における骨粗鬆症に関する技術常識によれば、甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」は、骨粗鬆症に伴って起こる骨折を減少させることを治療目的とする薬であり、その治療目的のうち、転倒が大半の原因である「橈骨遠位端骨折」を減少させることは、本件各訂正発明の「非外傷性である前腕部骨折」を抑制することに相当する。したがって、当業者は、甲1発明の骨粗鬆症治療薬を本件各訂正発明の「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」のものとすることを自然に想到する。イ 本件優先日当時における骨粗鬆症の発症機序及びエルデカルシトールの作用機序に関する技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールが前腕部骨折の抑制に効果があると合理的に期待する。ウ 活性型ビタミンD 3 製剤には転倒防止効果があることが知られていたところ、エルデカルシトールは、活性型ビタミンD 3製剤の一つである上、その作用を既存薬剤よりも高めた薬剤であることが知られていた。
5 エ 以上によれば、
「エルデカルシトールを含んでなる医薬組成物」を前腕部骨折を抑制するための医薬組成物とすることは、甲1発明及び技術常識に基づき、本件優先日前の当業者が容易に想到し得たものである。
⑵ 相違点3に係る容易想到性について
ア 本件優先日前においては、51歳以上の骨粗鬆症患者について、主要な骨折部位として椎体及び前腕部の骨折リスクが高く、その発生の抑制が重要であること、骨折の予防及びQOLの維持において、最初の椎体骨折の予防及び進行の阻止が重要であること、転倒が椎体骨折の大きな要因であることが技術常識であったところ、エルデカルシトールを含むビタミンD
3 製剤は、最初の椎体骨折を予防するための骨粗鬆症治療薬の一つとして
推奨されていたものであり、また、エルデカルシトールが長期間安全に使用可能な骨粗鬆症治療薬として期待されていたことからすれば、エルデカルシトールをⅠ型骨粗鬆症患者又は65歳未満の骨粗鬆症患者に投与することは、当業者が当然に想到し得たものである。イ 椎体及び前腕部は、いずれも骨粗鬆症における主要な骨折発生部位の代表例であるから、椎体及び前腕部の骨折を抑制することを目的としたⅠ型骨粗鬆症患者に対するエルデカルシトールの投与は、骨粗鬆症全般の治療の用途にほかならないから、Ⅰ型骨粗鬆症患者に対するエルデカルシトールの投与において、前腕部骨折の抑制という用途を、エルデカルシトールの新規な用途として、骨粗鬆症全般の治療の用途とは区別されたものとして独立して観念することはできない。ウ したがって、本件訂正発明4について、前腕部骨折の抑制という新規な用途の存在を認めて進歩性を認めることは許されない。
⑶ 顕著な効果を奏しないこと
ア 本件明細書等の実施例1は、本件臨床試験の試験結果を事後解析したものであって検定の多重性や検出力の低下の問題がある上、結果の再現性に
5 乏しいものであるから、およそ客観的な評価と認められるようなものでは
ない。また、本件臨床試験においては、比較されているアルファカルシドールの前腕部骨折抑制効果の程度自体が不明である上、相対的な指標であるハザード比については、イベントの発生率が僅少で、かつ、治療群と対照群の発生率の差が小さい場合には、発生率の僅かな差が大きな数値に置き換えられてしまうという問題があることからすれば、アルファカルシドールと比較したハザード比のみによって本件各訂正発明の効果を評価することはできない。したがって、本件明細書等における実施例1の記載及び本件臨床試験の結果から、本件各訂正発明が前腕部骨折の抑制について予測し得ない顕著な効果を奏するものとはいえない。イ エルデカルシトールについて、アルファカルシドールを上回る前腕部骨折抑制の効果が認められることは、本件優先日当時、当業者が合理的に予測することができた範囲のものでしかなく、また、大腿部骨密度に基づく本件訂正発明6ないし8における数値限定は、格別の臨界的意義が認められるようなものではない。したがって、本件訂正発明6ないし8について、顕著な効果が認められる余地はない。ウ 本件訂正発明2、3及び5は、それぞれ、本件訂正発明1の対象患者を「原発性骨粗鬆症患者」 「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低い、か、またはTスコアがYAM値に対して-1SD以下である大腿部骨密度を有する」及び「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる原発性骨粗鬆症患者」に限定したものであるが、本件明細書等には、これらの対象患者の限定によって効果に差異が生じる旨の記載はない。したがって、本件訂正発明2、3及び5について、顕著な効果が認められる余地はない。
5 第4 当裁判所の判断
1 本件各訂正発明について
⑴ 特許請求の範囲
本件各訂正発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2のとおりである。
⑵ 本件明細書等の記載
本件明細書等には、次のとおりの記載がある(甲43。表1ないし4及び図1については、別紙本件明細書等図面等目録記載のとおりである。 。)ア 技術分野「本発明は、エルデカルシトール(ED-71)を含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物、有効量のエルデカルシトールを投与することを含んでなる前腕部骨折の抑制方法、および該医薬組成物の製造におけるエルデカルシトールの使用に関する。 (段落【0001】」 )イ 背景技術「高齢者の骨折は、『高齢になると骨がもろくなるために自然で避けがたいもの』とされているが、高齢者の生命予後にも間接に影響するのみならず、生存期間中の自立を低下させ、QOL(生活の質)を直接に悪化させるため、その抑制もしくは予防が望まれている。特に高齢者の増加と平均寿命の延長が顕著となって高齢者の骨折増加が著しく多くなるに従い、それは強く求められている。 (段落【0002】」 )「高齢者がほとんどまたは全くの外傷なしに骨折する(脆弱性骨折)基礎疾患のひとつとして骨粗鬆症がある。骨粗鬆症は、骨強度の低下により、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患である。わが国の骨粗鬆症患者は2002年時点で約1100万人と推計されており、80%以上が女性である。今後、人口の高齢化率が急激に高まることから、骨粗鬆症患者数は急激に増加すると推測されている。 (段落【0003】」 )「骨粗鬆症では、骨の脆弱化により、主に脊椎(椎体)、大腿骨近位部、
5 前腕部が骨折しやすく、特に、大腿部及び前腕部骨折は、交通事故などの
高度な外力はもとより、一般的な日常生活で起こる転倒などによる軽微な外力によって起こる。 (段落【0004】」 )「これら骨折の発生頻度は、大腿骨頸部は155人/10万人、前腕部はそれを上回る196人/10万人程度である。さらに、本邦の女性における前腕部骨折の場合、50歳から急激に増加し、55歳以降は年間300~400人/10万人となり、80歳以降からさらに増加する傾向にある。 (段落【0005】」 )「前腕部骨折の予後に関しては生命予後に影響は少ないとされているものの、大腿骨頸部骨折と同等以上の骨折発生数と、骨折期間中の著しいADL(Activities of daily living;日常生活動作)及びQOL(Qualityof life;生活の質)の低下からみて、その骨折を予防することは極めて重要である。 (段落【0006】」 )「一方、2006年骨粗鬆症の予防と治療GL作成委員会編のガイドラインによれば、本邦における骨粗鬆症の治療に際しては、カルシウム製剤、女性ホルモン製剤、活性型ビタミンD製剤、ビタミンK製剤、ビスホスホネート製剤、SERM製剤、カルトシトニン製剤、イソフラボン製剤、蛋白同化ホルモン製剤等が主に使用されている。海外における治療ではそれらに加え、PTH及びそのアナログ、RANKL阻害剤、ストロンチウム製剤などが使われている。 (段落【0007】」 )「これら現行治療剤のうち、現在最も高い頻度で使用されているのがビスホスホネート製剤である。ビスホスホネートのひとつであるアレンドロネートは、10mg/日による継続的な治療で閉経後の骨粗鬆症患者の椎骨の骨折の危険性を減少し、BMDを増加させる。また、近年、非椎体骨折のリスクの減少や、大腿骨頚部骨折後における二次骨折の予防または低減化の効果も報告されている(特許文献1、特許文献2) 」。(段落【000
5 8】)
「しかしながら、ビスホスホネートは、骨粗鬆症の治療薬としてBMDを上昇させるものの、同時に、微小な骨損傷の蓄積など、骨質の低下をもたらす可能性が示唆されている。さらに、アレンドロネートでは厳しい服用規則や副作用のために患者のコンプライアンスが悪いという報告がある。一般に、ビスホスホネートは、食事中のカルシウムとのキレート形成によりその吸収が阻害されるため、空腹時に服用すべきことや、食道炎や食道潰瘍予防のために立位あるいは坐位で十分量の水とともに服用し服用後30分以上は横たわらないこと等の厳しい服薬規制がなされている。現在、それら規制が少なくなる新たなビスホスホネート剤が開発されてはいるものの、近年、ビスホスホネート服用時に歯科処置の際の顎骨壊死の問題がクローズアップされ、その外、骨関節痛などの筋骨格系副作用も報告されており、安全上の問題がある。 (段落【0009】」 )「そのほかの骨粗鬆症治療薬に関しても、SERM製剤の有効成分である塩酸ラロキシフェンでは静脈血栓塞栓症の発作や梗塞といった血管運動症状リスクの増加、PTHでは動物での骨肉腫発生リスク増加の報告等、それぞれに重篤な安全上の問題を有している。さらに、PTH及びRANKL阻害剤は皮下あるいは静脈内注射剤であり、長期投与に不向きであるなどのコンプライアンス上の問題もある。 (段落【0010】」 )「一方、ビスホスホネートのほかに、非椎体骨折予防の効果が認められている薬剤としてビタミンD化合物があり、カルシトリオールとアルファカルシドールはそれぞれ非椎体骨折に対して有意な抑制効果を示すことがメタアナリシスにより報告されている(非特許文献1) ビタミンD化合。物は、他の同効薬に見られるコンプライアンス低下や重篤な副作用等の問題がない点で、長期の服用が必要とされる骨粗鬆症治療剤のような薬剤として非常に優れていると言える。 (段落【0011】」 )
5 「そうしたビタミンD化合物の一種であるエルデカルシトールは、19
85年に物質発明が出願されて以来、数多くの特許・非特許文献の報告があり、そのひとつにエルデカルシトールを有効成分として含有する『骨癒合促進剤』に関する特許第3789956号(特許文献3)がある。ここに言う骨癒合促進とは、骨延長、骨切り、骨折、骨移植などの後に必要な骨の再接合を伴う骨修復過程を促進するものであるから、そうした再接合を伴わないところの骨折の抑制又は予防とは異なる。また、『新規ビタミンD3誘導体を有効成分とする医薬』に関する特公平7-80773(特許文献4)は、エルデカルシトールを有効成分として含有するビタミンD代謝異常を伴う疾患の治療剤を開示する。その疾患に骨粗鬆症が含まれる。」(段落【0012】)「前腕部は、人が転倒する際に最初に地面や床に接触して体重負荷を最も大きく受ける部位であるから、高齢者や骨粗鬆症患者など骨がもろくなっている人は転倒により骨折し易いところ、それが骨折せずに転倒による体重負荷を充分に受け止めることができれば、前腕部のみならず、転倒による体全体の損傷を最小限にすることができる。 (段落【0013】」 )ウ 発明が解決しようとする課題「従って、本発明は、前腕部の骨折を既存薬剤の効果を上回って予防できる医薬組成物を提供することを目的とする。 (段落【0016】」 )エ 課題を解決するための手段「本発明は、エルデカルシトールを含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物または前腕部骨折抑制剤を提供する。好ましくは、本医薬組成物は、原発性骨粗鬆症患者に投与され、更に好ましくは、大腿骨骨密度が若年者平均骨密度(Young Adult Mean、YAM)の80%未満、好ましくは70%未満、より好ましくは60%未満のヒトに投与される。好ましくは、原発性骨粗鬆症患者に、エルデカルシトールが0.75μg/
5 日の用量で経口投与される。 (段落【0017】
」 )「上記のように、骨折の抑制又は予防は、骨の再接合を伴わない点で骨癒合促進とは異なるから、エルデカルシトールで前腕部骨折を抑制する用途は、本発明者らが初めて見出したものである。また、上記の、エルデカルシトールを骨粗鬆症の治療剤とすることは、前腕部という特定部分の骨折抑制の用途を示唆するものではないから、エルデカルシトールで前腕部骨折を抑制する用途は、やはり本発明者らが初めて見出したものである。」(段落【0018】)オ 発明の効果「本発明により、従来から使用されている医薬品に比べ大きく前腕部骨折を抑制できる。本発明における前腕部骨折抑制効果は、同種同効薬であるアルファカルシドールより有意に上回り、当業者の常識から予想されるレベルをはるかに超えるものである。 (段落【0019】」 )カ 図面の簡単な説明「【図1】図1は、カプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)法によるエルデカルシトール/アルファカルシドール投与時の非外傷性前腕部骨折発生頻度の経時的推移を示す。 (段落【0020】」 )キ 発明を実施するための形態「本明細書および請求の範囲全体に渡り、以下の定義が適用される。エルデカルシトール(eldecalcitol)とは、開発コード『ED-71』の化合物であり、化学名:(1R,2R,3R,5Z,7E)-2-(3-ヒドロキシプロピルオキシ)-9,10-セココレスタ-5,7,10(19)-トリエン-1,3,25-トリオールを有する化合物である。 (段」落【0021】)「前腕部は、橈骨と尺骨からなる。骨折を抑制するための医薬組成物は、骨折を予防することができるので、
5 骨折を予防するための医薬組成物とも言うことができる。抑制あるいは予
防は、骨粗鬆症に罹患していない者あるいは骨粗鬆症患者のいずれにおいても、新たな骨折が発生しないことを意味する。 (段落【0022】」 )「骨粗鬆症は、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分類される。原発性骨粗鬆症は、更に、特発性骨粗鬆症、I型骨粗鬆症、及びII型骨粗鬆症を含む。特発性骨粗鬆症は、小児や正常の性腺機能のある男女の青年に起こり、I型骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症)は、51~75歳の間に発生し、女性は男性の6倍ほどかかりやすいが、性腺摘除後または血清中のテストステロン濃度の低い男性にも発生する。II型骨粗鬆症(退行性または老人性骨粗鬆症)は、老化の正常な経過などに関連し、一般的に60歳以上の患者に発症する。高齢女性ではI型とII型がしばしば一緒に起こる。 (段落」【0023】)「本発明の医薬組成物の投与対象は、高齢者、好ましくは骨減少症患者および骨粗鬆症患者、より好ましくは骨粗鬆症患者、さらに好ましくは原発性骨粗鬆症患者である。高齢とは、年齢が60以上であることを意味する。(段落【0024】」 )「本発明の医薬組成物が投与されるべき対象の骨密度は、好ましくはYAMの80%より低く、より好ましくはYAMの70%より低く、特に好ましくはYAMの60%より低い。 (段落【0025】」 )「骨密度(BMD:Bone Mineral Density)とは、レントゲンや超音波測定により、骨に沈着しているカルシウムが若年成人(骨密度が最大に達する20~44歳)の平均(Young Adult Mean、YAM)と比べどのくらいあるかを数値化(%)したものである。 (段落【0026】」 )「現在の日本の骨粗鬆症の診断基準では、脆弱性骨折がない場合、骨密度がYAMの80%以上なら『正常』 70~80%なら骨がもろくなって、
5 きている状態『骨減少症』、そして70%以下なら『骨粗鬆症』で骨が折れ
やすい状態とされている(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編、代表:折茂肇)」。 (段落【0027】)「また、世界保健機構(WHO:World Health Organization)の診断基準によれば、骨粗鬆症の重症度は、骨密度及び脆弱性骨折数によって定義される。この基準において、YAMに対して骨密度のTスコアが-1SD以内なら『正常』 骨密度のTスコアが-1~-2.、 5SDなら『低骨量(骨量減少) 、』 骨密度のTスコアが-2.5SD以下なら『骨粗鬆症』 そして、、骨密度のTスコアが-2.5SD以下で、かつ1箇所以上の脆弱性骨折を有するなら『重症骨粗鬆症』と定義される。ここで、SDは標準偏差値である。 (段落【0028】」 )「Tスコアとは、骨密度のいわゆる『偏差値』のことであり、YAMの骨密度を基準としたとき、どの程度そこからずれているかを示す標準偏差値(SD)である。Tスコアは、次のようにして計算される:」(段落【0030】)「【数1】Tスコア=(被験者の測定骨密度値-100%YAM値)/100%YAM値の標準偏差」(段落【0031】)「前述のように、日本では、骨密度がYAMの80%以上なら『正常』、YAMの70%以下なら『骨粗鬆症』で骨が折れやすい状態と定義されているが、日本の基準である『YAMの80%』および『YAMの70%』は、それぞれ、海外の基準である『骨密度のTスコアがYAM値に対して約-1SD』および『骨密度のTスコアがYAM値に対して約-2.5SD』に相当し、日本の基準が、骨密度がYAMの何%であるかを表記するのに対し、海外の基準は、YAMから何SD単位が低下しているかで表記
5 する違いがあるが、基本的に大きな違いはない(http://・・・)」
。(段落【0033】)「外傷性骨折とは、交通事故などの大きな外力により生じた骨折を示し、非外傷性骨折とは、転倒などの一般的な日常生活で起こる軽微な外力により生じた骨折を示す。脆弱性骨折とは、低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折をいう。 (段落【0035】」 )「骨強度とは、骨密度と骨質の2つの要因からなり、単位体積当たりの骨の量である骨密度は、骨強度のほぼ70%の要素を説明するとされており、残り30%の要素は、微細構造、骨代謝回転、微小骨折、石灰化の要因からなる骨質が説明するとされている。 (段落【0036】」 )「臨床試験データの解析により、有効量のエルデカルシトールを相当な期間、実質的に毎日投与すると、前腕部骨折のリスクを減少させうることが示された。以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらはいかなる意味においても限定的に解釈されない。 (段落【0049】」 )ク 実施例「実施例1原発性骨粗鬆症患者を対象として、エルデカルシトールの有効性を、アルファカルシドールを対照とした無作為割付二重盲検群間比較試験により検討した。 (段落【0050】」 )「患者数:エルデカルシトール(ED-71)投与:526人アルファカルシドール(ALF)投与:523人診断及び包含基準:46~92歳の原発性骨粗鬆症患者
5 用量及び投与:
エルデカルシトール(ED-71):0.75μg/日、経口投与アルファカルシドール(ALF):1.0μg/日、経口投与試験に使用した製剤は、それぞれWO2005/074943、及び特許4070459号に基づいて調製された。 (段落【0051】」 )「投与期間:エルデカルシトール(ED-71)、アルファカルシドール(ALF)ともに144週継続投与(後観察4週間)検討方法:X線撮影により既存椎体骨折個数を測定し、DXA法により大腿部骨密度を測定した。患者大腿部骨密度は以下のように計算および表示した。すなわち、大腿部骨密度測定に Hologic 社の骨密度測定器であるQDRを用いた場合は、100%YAM値として原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史 他 :日本骨代謝学会雑誌18(3):76-82、2001 に記載されている0.863g/cm 2 を使用した。また、Lunar 社の骨密度測定器であるDPXを用いた場合は、その測定器により得られる値を、やはり原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)折茂肇; 林泰史 他 :日本骨代謝学会雑誌 18(3):76-82、2001 に記載の下記換算式により、QDRを用いた場合の測定近似値へ変換したのち、100%YAM値として0.863g/cm 2 を使用した。これらの患者測定値を0.863g/cm 2を100%として%表示した。以下の表1にYAMに相対させて示した大腿骨骨密度は、QDRまたはDPXのいずれかを使用して得られたものである。 (段落【0052】」 )「【数2】QDR測定近似値=(DPX測定骨密度値+0.092)/1.294」(段落【0053】)「そして、血液検査によりにより25(OH)D値及びCa摂取量を測定した。投与開始時から投与終了時に認められた前腕部、椎体部について、
5 骨折時期、骨折原因等のインタビュー聴取、X線撮影、発生頻度計測を行
い、統計解析を行った。尚、発生頻度はカプラン-マイヤー推定による。」(段落【0054】)「表1は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与するにあたり、各投与グループの患者背景を示したものである。」(段落【0055】)「交通事故などの大きな外力により起こった外傷性の骨折を除く、転倒などによる非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度は、既存の活性型ビタミンD3製剤であるアルファカルシドール投与群では523例中17例(3.63%)に発生したが、エルデカルシトール投与群では526例中5例(1.07%)であった。 (段落【0057】」 )「表2は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与することによる非外傷性前腕部骨折頻度を層化ログランク検定および層化コックス回帰により比較したものである。 (段落【0058】」 )「層化ログランク検定とは、結果に影響を与えそうな因子(予後因子)の偏りを防ぐため、比較する2群でそのような因子が均等になるように割り付けることであり、用いた予後因子で層の中で群間差を計算しこれを重みつき平均することで層別調整し、その上でログランク検定を行うことをいう。ログランク検定とは、基本的にはすべての日にわたる相対危険度を平均して、この平均相対危険度(RR)の統計学的に有意かどうかカイ二乗検定を行うものである。 (段落【0060】」 )「層化コックス回帰とは、イベントが起こるまでの期間に何らかの別の要因が与える効果を調べたいときに用いる方法であり、それらが基準となる個体のハザードに対して、比例定数の形でかかるとする比例ハザード性を仮定する方法である。ハザードとは、ある時点まで前腕部を骨折していなかった者が、その時点において前腕部骨折する確率(瞬間前腕部骨折確率)を表す。ハザード比とは、2群のハザードの比をいう。すなわち、一
5 方を基準にした場合に他方が何倍の前腕部骨折確率であるかを表してい
る。 (段落【0061】」 )「層化ログランク検定の結果、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認められた(ハザード比:0.29、90%信頼区間(confidence interval(CI):0.13-0.67、片側p=0.0048)。すなわち、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とすると、エルデカルシトール投与群のそれは0.29であり、前腕部骨折危険率は71%減少したことが判明した。(段落」 【0062】)「図1は、エルデカルシトール/アルファカルシドールを投与することによる経時的な非外傷性前腕部骨折割合をカプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)法により表したものである。この方法は、観察開始よりエンドポイント(前腕部骨折)まで、前腕部骨折発生時点ごとにリスク集合に対する前腕部骨折者数を計算し積算して前腕部骨折の累積発生率を計算することで、薬剤の効果を解析するものである。ここに、リスク集合とは、前腕部骨折が発生する直前の、その事象が起きていない時の個体数(患者数)を指す。 (段落【0063】」 )「図1の経時的な解析によれば、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は投与初期より認められ、144週間に渡り持続したことが判明した。表3は、図1に示した未骨折患者数と前腕部骨折発生数の数値を示したものである。 (段落【0064】」 )「表4は、エルデカルシトール/アルファカルシドール投与前大腿部骨密度背景別に患者群をグループ化後の薬剤投与後前腕部骨折発生率を比較したものである。 (段落【0066】」 )「表4の薬剤投与前大腿骨骨密度背景別の前腕部骨折発生件数比較によれば、エルデカルシトールの前腕部骨折抑制効果は、大腿骨骨密度が70%より低いグループにおいてアルファカルシドールよりもさらに著し
5 く高いという結果が得られた。すなわち、アルファカルシドール投与群で
は157例中、7例に前腕骨骨折が見られたのに対し、エルデカルシトール投与群182例では前腕部骨折の発生は全く見られなかった。 (段落」【0068】)「比較例層化ログランク検定および層化コックス回帰を非外傷性椎体骨折について行った結果、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシトール投与群の椎体骨折発生の危険性は、前腕部骨折発生の危険性ほど低いものではなかった(層化ログランク検定:p=0.046、ハザード比:0.74、90%信頼区間(CI:0.56-0.97)。すなわち、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とすると、エルデカルシトール投与群のそれは0.74であり、椎体骨折の危険率は26%減少に留まることが判明した。 (段落【0069】」 )
⑶ 本件各訂正発明の技術的意義
上記⑴及び⑵によれば、本件各訂正発明の技術的意義は、次のとおりであると認められる。ア 本件各訂正発明は、エルデカルシトール(ED-71)を含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物、有効量のエルデカルシトールを投与することを含んでなる前腕部骨折の抑制方法及び当該医薬組成物の製造におけるエルデカルシトールの使用に関する発明である。(段落【0001】)イ 骨粗鬆症は、脆弱性骨折(低骨量(骨密度がYAMの80%未満又は脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折)の基礎疾患の一つであり、骨の脆弱化により、主に脊椎(椎体)、大腿骨近位部及び前腕部が骨折しやすい。また、高齢者や骨粗鬆症患者等の骨がもろくなっている者は、転倒等による軽微な外力によって前腕
5 部を骨折しやすいが、その発生数やADL及びQOLの観点からすれば、
前腕部骨折を予防することは極めて重要である。(段落【0003】【00、04】 【0006】 【0013】及び【0035】、 、 )ウ 従来、骨粗鬆症治療薬の一つとして、非椎体骨折予防の効果が認められているビタミンD化合物があり、その一種であるエルデカルシトールは、骨癒合促進剤や骨粗鬆症治療薬として知られていた。本件各訂正発明は、エルデカルシトールについて、前腕部の骨折を抑制するという用途を初めて見出した発明であり、既存薬剤の効果を上回って前腕部の骨折を予防することができる医薬組成物を提供することを目的とする発明である。(段落【0011】 【0012】 【0016】及び【0018】、 、 )エ 本件各訂正発明は、エルデカルシトールを含んでなる、前腕部骨折を抑制するための医薬組成物又は前腕部骨折抑制剤を提供し、好ましくは、前記医薬組成物は、原発性骨粗鬆症患者に投与され、更に好ましくは、大腿骨骨密度がYAMの80%未満、好ましくは70%未満、より好ましくは60%未満のヒトに投与され、好ましくは、原発性骨粗鬆症患者に、エルデカルシトールが0.75μg/日の用量で経口投与される。(段落【0017】)オ 本件各訂正発明における前腕部骨折抑制効果は、同種同効薬であるアルファカルシドールを有意に上回り、当業者の常識から予想されるレベルをはるかに超えるものであり、本件各訂正発明は、従来から使用されている医薬品に比べ、大きく前腕部骨折を抑制することができるという効果を奏する。(段落【0019】)
2 取消事由1(本件各訂正発明の甲1発明に対する新規性の有無に関する判断
の誤り)について
⑴ 引用発明(甲1発明)について
ア 甲1文献の記載
5 甲1文献は、
「骨粗鬆症治療薬:ED-1」と題する論稿であり、次のとおりの記載がある(甲1)。(ア) 「はじめにアルファカルシドール(1α(OH)D 3 )を初めとする活性型ビタミンD 3 は本邦で長く骨粗鬆症治療薬として用いられてきた。活性型ビタミンD 3 の主な作用は生理的なビタミンDと同じく腸管からのカルシウム・リン吸収の促進である。・・・これまでに、活性型ビタミンD 3が脊椎および大腿骨頸部骨折を抑制するという報告が、わが国を中心に多数存在する。また、高齢者においてビタミンDおよびカルシウムの補充療法が大腿骨頸部その他の非椎体骨折を予防するとの成績が報告されている。・・・活性型ビタミンD 3 作用の大部分はビタミンDの補充効果と考えられているが、それ以外の骨折抑制機序として、骨に対する直接的なアナボリック作用や、骨量に依存しない骨質・骨強度の改善効果が注目されている。ビタミンD作用は核内受容体 superfamily に属するビタミンD受容体(VDR:vitamin D receptor)を介して発現する。既に骨粗鬆症治療薬(ラロキシフェン)として応用されている選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM:selective estrogen receptor modulator)と同様、組織特異的な作用を有するVDRリガンドが、骨に対する好ましい作用を特に強力に発揮する可能性がある。本稿ではまず骨粗鬆症治療薬としての(活性型)ビタミンDに関するこれまでのエビデンスをまとめ、上述のような組織特異的作用が期待される新規ビタミンD誘導体ED-71について、最近の臨床試験成績を含めて概説する。(」(679)69頁左欄1行~同頁右欄18行)(イ) 「1)ED-71のビタミンD誘導体としての特徴ED-71(1α,25-dihydroxy-2β-(3-hyd
5 roxypropoxy)vitamin D 3)は、活性型ビタミンD
(1α,25-dihydroxyvitamin
3 D 3(1,25D
3 ) の2β位に hydroxypropoxy 基を導入した化合物である
) (図5) 1,。25D 3 に比 べてビ タミンD結 合蛋白 ( DBP: vitamin D-bindingprotein)に対する親和性が高く、in vivo における血中半減期が延長している。一方、VDRに対する親和性は1,25D 3 よりも2~3倍低い。しかし、これらの薬理学的特性と in vivo での効果との関係は明らかでない。 (」 (681)71頁右欄下から3行~(682)72頁右欄3行)(ウ) 「2)ED-71の実験動物に対する効果ED-71は、ラットの卵巣摘出骨粗鬆症のモデルを用いたスクリーニングにより見出された活性型ビタミンD 3 誘導体である。卵巣摘除した Wistar-Imamichi 系雌性ラットに3ヵ月間経口投与して活性型ビタミンD3と効果を比較した検討では、ED-71は破骨細胞数を減少、骨吸収マーカーを低下させ、用量依存性に骨密度を増加させた。ED-71は、アルファカルシドールと同様もしくはやや強い血清カルシウム上昇作用を示したが、同程度のカルシウム上昇作用をもたらす用量で比較すると骨密度増加効果がアルファカルシドールより強力であった。ED-71による骨密度の増加は骨強度の増加を伴っており、健常な骨質が保持されていると考えられる。また最近、ラット骨髄除去モデルにおいて、ED-71が回復初期の骨吸収を抑制して骨形成を高め、血管新生も促進することが示された。この効果は同用量の活性型ビタミンD 3 では認められなかった。さらにラットを用いた骨折モデルにおいては、ED-71には骨吸収を抑制して仮骨のリモデリングを阻害する効果が認められたが、骨折治癒過程に悪影響は与えなかったと報告されている。これらの作用に骨局所の細胞成分に対する直接効果がどの程度寄与しているのかは不明である。 (6」(
5 82)72頁右欄4行~(683)73頁左欄16行)
(エ) 「3)ED-71の臨床検討成績原発性骨粗鬆症患者109例に対して行われた前期第Ⅱ相臨床試験においては、0.25、0.5、0.75、1.0μg/日の連日経口投与により、用量依存的に骨密度増加が認められた(図7、8)。0.75μg/日で2.5~3%の腰椎骨密度の上昇という、従来の活性型ビタミンD 3 ではみられなかった強力な骨量増加作用が示された。最高用量においても11.0mg/dlを超える高カルシウム血症は認められず、安全性についても問題がないことが確認された。この結果を受けて原発性骨粗鬆症患者219例を対象に、臨床推奨用量の決定を目的とした後期第Ⅱ相臨床試験が行われた。この検討ではED-71のビタミンD補充効果以外の骨量増加効果を検証するために、全例に200~400IU/日のビタミンDが補充された。その結果、投与3ヵ月後には症例の92%の血清25(OH)D濃度が20ng/ml以上に達し、ビタミンD欠乏状態でないことが確認された。骨密度は用量依存性に増加し、12ヵ月間の0.75μg/日投与で腰椎骨密度はプラセボに対して2.6%増、大腿骨近位部でも1.5%の増加が認められた(図9)。血中・尿中のカルシウム濃度も用量依存的な上昇がみられたが、全試験期間中、正常範囲を逸脱することはなかった。骨代謝マーカーは、尿NTX、血清BAP(骨型アルカリホスファターゼ)、血清オステオカルシンのいずれも有意に低下し、骨代謝回転の抑制効果が認められた(図10) この検討ではED-71の強力な効果が認めら。れたが、ビタミンD非充足状態の症例が多かったため、ビタミンD補充効果が強く作用している可能性が考えられる。しかしながら試験開始時の25(OH)D濃度が下位1/4(<25ng/ml)と上位1/4(>29ng/ml)の例における骨密度変化を検討した post-hoc 解
5 析では、0.75μg/日以上の投与群における骨密度の上昇はビタミ
ンD充足状態にかかわらず同等に認められた。したがって、ED-71はビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加させたものと考えられた。ED-71の作用機序には未だ不明な点が多く残されており、今後さらなる検討を要する。 (」 (683)73頁左欄17行~(685)75頁左欄1行)(オ) 「図7図8図9」((683)73頁~(684)74頁)(カ) 「おわりに(活性型)ビタミンD 3 の骨粗鬆症治療薬としての位置づけを明らかにした上で、新しい誘導体であるED-71について概説した。現在、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目としてED-71とアルファカルシドールの効果を比較する、3年間の大規模な無作為二重盲検試験が進行中である。活性型ビタミンD 3 誘導体として開発されたED-71であるが、全く新しい機序を介して作用を発揮している可能性もあり、今
5 後の基礎・臨床研究の進展がますます注目される。(
」(685)75頁左欄2行~12行)イ 甲1発明の内容上記アによれば、甲1発明の内容は、本件審決が認定したとおり(前記
第2の3⑵)であると認められる(原告も争っていない。 。
)
⑵ 本件各訂正発明と甲1発明との一致点及び相違点
前記1及び上記⑴によれば、本件各訂正発明と甲1発明との一致点及び相違点は、本件審決が認定したとおり(前記第2の3⑶)であると認められる(原告も争っていない。 。)
⑶ 本件優先日当時の技術常識
ア 骨の構造に関する技術常識証拠(甲4、5、8)及び弁論の全趣旨によれば、本件優先日当時、骨の構造に関し、次の事項が技術常識であったと認められる。(ア) 骨は、表面が皮質骨により取り囲まれ、内側の海綿骨に連続している構造である。(イ) 海綿骨の骨梁は、外力に対する抵抗力が力学的に大きくなるように並んでおり、また、皮質骨は、骨の力学的強度の保持に重要な役割を果たす。(ウ) 前腕部の橈骨超遠位(橈骨遠位端)は、海綿骨及び皮質骨からなり、腰椎は主に海綿骨から、大腿骨近位部は皮質骨及び海綿骨からなる。イ 骨粗鬆症に関する技術常識証拠(甲2ないし4、6、10、32、33)及び弁論の全趣旨によれば、本件優先日当時、骨粗鬆症に関し、次の事項が技術常識であったと認められる。(ア) 骨粗鬆症は、骨吸収(骨破壊)及び骨形成(骨の構築)のバランスが崩れ、相対的に骨吸収が優位になることによって生じる骨量の減少が、
5 骨の微細構造の破壊を引き起こし、骨の強度を低下させることが原因で、
骨折が起こりやすくなる疾病である。(イ) 骨粗鬆症の主な臨床症状には脆弱性骨折があり、椎体、前腕骨遠位部、大腿骨近位部及び上腕骨近位部等において骨折が発生しやすく、大腿骨近位部及び前腕骨遠位部における骨折の大半は、転倒が原因で発生する。(ウ) 骨粗鬆症に対して薬剤を投与する目的は、骨粗鬆症による骨折を減少させることにより、骨折によって引き起こされる諸症状を緩和することにあるところ、骨折の頻度は骨の量的又は質的な変化に関係することが明らかにされているものの、薬剤の骨折に対する効果を直接的に証明することは容易ではないため、一般的には、骨折の代用指標として骨量(骨密度)を測定して評価している。ウ 前腕部骨折に関する技術常識証拠(甲4、10、52、53、58)及び弁論の全趣旨によれば、本件優先日当時、前腕部骨折に関し、次の事項が技術常識であったと認められる。なお、これらの事項は、本件優先日後に公開された文献(甲59ないし62、67)からも認定することができる。(ア) 前腕部は、骨粗鬆症において骨折が発生しやすい他の部位と同様に、骨強度が低下することによって骨折リスクが増加する。(イ) 前腕部骨折は、そのほとんどが転倒によって発生するものであることから、身体的活動性が比較的高く、転倒時に反射的に手で防御することができる前期高齢者等において好発するが、そのような防御をすることができない年齢(70歳又は80歳以降)になると、発生率は上昇しなくなる。エ 活性型ビタミンD 3 製剤に関する技術常識証拠(甲2、7、11)及び弁論の全趣旨によれば、本件優先日当時、活性型ビタミンD 3製剤は、従来から骨粗鬆症治療に用いられており、骨の
5 脆弱性そのものを改善する効果に加え、骨折の外因である転倒防止効果が
あることが技術常識であったと認められる。オ エルデカルシトールに関する技術常識証拠(甲6、7、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件優先日当時、エルデカルシトールに関し、次の事項が技術常識であったと認められる。(ア) エルデカルシトールは、従来から骨粗鬆症治療の標準薬として使用されてきたアルファカルシドール等の活性型ビタミンD 3 化合物が有する骨に対する作用を強めた化合物であり、アルファカルシドールよりも骨作用(骨密度(BMD)の増加作用)及び骨吸収抑制作用が強く、また、骨形成を促進する作用がある。(イ) エルデカルシトールは、経口投与される薬剤であり、骨の微細構造に対する改善効果及び骨強度の改善効果を伴った骨量増加作用を有し、海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても効果を期待することができる薬剤である。(ウ) エルデカルシトールの投与においては、腰椎における骨強度と骨密度との間に良好な正の相関がみられる。
⑷ 本件訂正発明1の新規性の有無(相違点1が実質的な相違点であるか否か)
についてア 相違点1についての検討(ア) 原告は、本件各訂正発明につき、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者群において予測されていなかった顕著な効果を奏するものであり、エルデカルシトールの新たな属性を発見し、それに基づく新たな用途への使用に適することを見出した医薬用途発明であるから、相違点1に係る本件各訂正発明の用途(「非外傷性である前腕部骨折を抑制するための」 は甲1発明の) 「骨粗鬆症治療薬」の用途とは区別される旨主張する。(イ) そこで検討するに、公知の物は、原則として、特許法29条1項各号
5 により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、
その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解される。そして、前記1⑶のとおり、本件各訂正発明の医薬組成物は、高齢者や骨粗鬆症患者等の骨がもろくなっている者が転倒等した際に、前腕部である橈骨又は尺骨に軽微な外力がかかって生じる骨折のリスク、すなわち前腕部における非外傷性骨折のリスクに着目して、その用途が「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」と特定されている(相違点1)ものである。(ウ) しかしながら、前記⑶イの技術常識によれば、当業者は、甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」につき、椎体、前腕部、大腿部及び上腕部を含む全身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し、各部位における骨折リスクを減少させるために投与される薬剤であると認識するものといえる。また、前記⑶ア、エ及びオの各技術常識によれば、当業者は、エルデカルシトールの効果は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり、海綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識するものといえる。さらに、前記⑶イ及びウの技術常識によれば、当業者は、骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生じるものであり、また、前腕部における骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものといえる。以上の事情を考慮すると、当業者は、骨粗鬆症患者における前腕部の骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて、他の部位の骨の病態
5 及び骨折リスクと異なると認識するものではなく、また、甲1発明の「骨
粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効果についても、前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないというべきである。(エ) さらに、本件優先日前に公開された甲12の文献には、エルデカルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制することが第Ⅲ相臨床試験において確認されたことが記載されていることに加え、前記⑶エ及びオの技術常識によれば、エルデカルシトールによる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるところ、本件明細書等には、骨折リスクを減少させようとする部位が前腕部である場合と他の部位である場合とで、エルデカルシトールが及ぼす作用に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記⑶ウ及びオの技術常識を考慮しても、本件明細書等の記載から、エルデカルシトールの作用に関して上記の相違があると把握することはできない。そうすると、当業者は、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作用が相違すると認識するものではないというべきである。(オ) 以上によれば、エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」と特定されることにより、当業者が、エルデカルシトールについて未知の作用・効果が発現するとか、骨粗鬆症治療薬として投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異なる病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。そうすると、本件各訂正発明については、公知の物であるエルデカルシトールの未知の属性を発見し、その属性により、エルデカルシトール
5 が新たな用途への使用に適することを見出した用途発明であると認める
ことはできないから、相違点1に係る用途は甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」の用途と区別されるものではない。(カ) したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。イ
(原告の主張)
(前記第3の1〔
(原告の主張)
〕⑴)に対する判断(ア) 前記第3の1〔
(原告の主張)
〕⑴アの主張についてa 原告は、前腕部骨折は他の部位の骨折とは異なる特徴を有すること、甲1文献には前腕部骨折を抑制する骨粗鬆症治療薬が開示されているものではないことなどを理由に、本件各訂正発明の用途は甲1発明の用途と客観的に区別することができる旨主張する。しかしながら、前記⑶ウの技術常識によれば、前腕部骨折は、身体的活動性が比較的高い前期高齢者等において好発する特徴があるといえるものの、上記アで検討したとおり、前腕部の骨と他の部位の骨とで病態が異なるものとはいえず、また、前腕部の骨折リスクを減少させるために投与する場合と骨粗鬆症患者に投与する場合とで、エルデカルシトールの作用が相違するともいえないことからすれば、前腕部骨折に上記の特徴があるからといって、本件各訂正発明の用途は甲1発明の用途と客観的に区別することができるものとはいえない。また、前記⑴のとおり、甲1文献には、エルデカルシトールにつき、動物実験において、骨密度増加効果がアルファカルシドールよりも強力であるところ、骨密度の増加は骨強度の増加を伴っていると考えられること、第Ⅱ相臨床試験において、腰椎骨及び大腿骨の骨密度の増加が認められ、ビタミンD補充効果に依存せずに強力に骨密度を増加させたものと考えられること、新規椎体骨折発生頻度を主要評価項目としてアルファカルシドールの効果と比較する更なる臨床試験が進行中であることが記載されているところ、前記⑶ウないしオのとおり、
5 エルデカルシトールがアルファカルシドールに比して有意に優れた骨
強度改善効果等を有していることや、前腕部の骨折リスクは他の部位と同様に骨強度が低下することによって増加するものであることが技術常識であったこと、上記ア(エ)のとおり、本件優先日当時、エルデカルシトールがアルファカルシドールよりも優位に椎体骨折の発生を抑制することが第Ⅲ相臨床試験において確認されたことが記載されている文献(甲12)が存在したことを併せ考慮すれば、当業者は、甲1文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するものであることを、合理的に予測し得たものといえる。b したがって、原告の上記主張は採用することができない。(イ) 同イの主張についてa 原告は、一般に患者群の特徴に応じて薬剤が選択されており、骨粗鬆症においても個々の患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けられているところ、本件各訂正発明は、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者という限定された患者群に対して顕著な効果を奏するものとして、従来技術とは区別された新規性を有する旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、前腕部の骨折リスクは、骨強度が低下することによって増加する点において、骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであるから、骨粗鬆症患者のうち、全身の骨折の抑制が必要とされる者と前腕部の骨折の抑制が特に必要とされる者とを客観的に区別することはできないというべきである。b 上記に関し、原告は、同じ箇所を繰り返し骨折しやすいという骨粗鬆症の骨折の特徴を考慮して、患者の状態に応じて様々な薬剤が使い分けられているとして、甲65ないし68の各文献(ただし、甲66
5 ないし68は本件優先日後に公開された文献である。 の記載内容を指
)摘する。しかしながら、甲65の文献には、椎体骨折の既往症がある患者群においては、再び椎体骨折が生じるリスクが4.4倍高まり、再び前腕部骨折が生じるリスクも1.4倍高まることが記載されているところ、この記載から、ある部位において骨折の既往を有している場合には、当該部位や他の部位の骨折リスクが高くなるといえるとしても、このことは、前腕部に限られるものではなく、他の部位にも当てはまるものであるというべきである。また、甲66の文献には、薬剤の選択について、大腿骨の骨折抑制に対するエビデンスに基づき、エルデカルシトールを老人性骨粗鬆症に対して選択することが推奨されているにすぎない。さらに、甲67の文献には、最初の椎体骨折を抑制する必要があることを前提に、そのエビデンスを有する薬剤として、SERMと共にエルデカルシトールが挙げられているにすぎない。そして、甲68の文献には、前腕骨の骨折発生率の抑制を前提として、非椎体の骨折リスクが高い骨粗鬆症例におけるエルデカルシトールの有用性が期待される旨が記載されているにすぎない。そうすると、これらの文献から、本件優先日当時、骨粗鬆症患者において、特に前腕部骨折の抑制が意識されていたと認めることはできず、また、本件優先日以降において、一般に、前腕部骨折を抑制するためにエルデカルシトールが選択されていると認めることもできない。c したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。(ウ) 同ウの主張についてa 原告は、本件臨床試験に係る結果において、エルデカルシトールが、既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが
5 確認されている旨主張する。
そこで検討するに、本件明細書等には、アルファカルシドールを比較薬とした無作為割付二重盲検群間比較試験である本件臨床試験において、非外傷性の前腕部骨折の3年間の発生頻度が、アルファカルシドール投与群においては523例中17例(骨折確率3.63%)であり、エルデカルシトール投与群においては526例中5例(骨折確率1.07%)であったこと、これらの骨折発生頻度を層化ログランク検定及び層化コックス回帰により比較した結果、アルファカルシドール投与群の骨折確率を1とした際のエルデカルシトール投与群の骨折確率、すなわちハザード比は0.29であったこと、これにより、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したことが判明したこと、これらの試験結果の結論として、アルファカルシドール投与群に対するエルデカルシトール投与群の明らかな優越性が認められたことが記載されている。しかしながら、上記アで検討したとおり、当業者は、甲1文献の記載に基づいて、エルデカルシトールが、他の部位と同様に前腕部についても、アルファカルシドールよりも優位にその骨折を抑制するものであることを、合理的に予測し得たものといえることからすれば、エルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が減少することも予測し得たというべきである。また、ハザード比を用いた解析においては、対照群におけるイベントの発生率が小さい場合には、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられてしまうことがあることが知られているところ(甲20、乙7)、本件臨床試験においては、対照群であるアルファカルシドール投与群における骨折確率が3.63%と小さかったことからすれば、ハザード比の値に基づいてエルデカルシトール投与群における前腕部骨折危険率が71%減少したと算定され
5 たことについては、臨床上のわずかな差が大きな数値に置き換えられ
てしまった結果である可能性を否定することができない。また、本件臨床試験において、アルファカルシドール投与群における骨折確率とエルデカルシトール投与群における骨折確率との差(絶対リスク減少率)は、前腕部骨折については2.56%、椎体骨折については4.1%であり、椎体骨折の方が前腕部骨折よりも大きな値となる。以上の事情を考慮すると、上記のハザード比の値のみに基づいて、エルデカルシトールの前腕部骨折の抑制効果が、アルファカルシドールに比して格別顕著であり、当業者の予測し得る範囲を超えるものであると直ちに評価することはできないというべきである。b 以上によれば、このほかに原告が本件臨床試験に関して縷々主張する点を考慮しても、本件臨床試験において、エルデカルシトールが、既存薬剤であるアルファカルシドールと比較して、前腕部骨折の抑制が特に求められる患者に対し、顕著かつ予想外の効果を奏することが確認されたものということはできない。c したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。(エ) その他このほか、原告は相違点1について縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではない。ウ 小括以上によれば、本件審決が、本件訂正発明1は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑸ 本件訂正発明2の新規性の有無(相違点1が実質的な相違点であるか否か)
についてア 前記第2の3⑶イのとおり、本件訂正発明2は、相違点1において甲1
5 発明と相違するところ、前記⑷で検討したとおり、相違点1は実質的な相
違点ではない。イ したがって、本件審決が、本件訂正発明2は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑹ 本件訂正発明3の新規性の有無(相違点1及び2が実質的な相違点である
か否か)についてア 相違点2についての検討(なお、原告は、相違点2について具体的な主張はしていない。)(ア) 本件訂正発明3において、医薬組成物の投与対象者として特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低いか、またはTスコアがYAM値に対して-1SD以下である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されるものであるか否かについて検討する。(イ) 前記⑷ア(イ)のとおり、本件訂正発明3の「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」の医薬組成物は、前腕部における非外傷性骨折のリスクのリスクに着目して、その用途が「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」と特定されているものである。また、本件明細書等においては、日本及びWHOの骨粗鬆症の診断基準に基づき、骨密度がYAMの80%以上又はYAMに対して骨密度のTスコアが-1SD以内の骨の状態は「正常」 骨密度がYAMの70~80%又はYAMに対して骨、密度のTスコアが-1~-2.5SDの骨は「もろくなってきている状態(骨減少症) 、骨密度がYAMの70%以下又はYAMに対して骨密」度のTスコアが-2.5SD以下の骨は「折れやすい状態(骨粗鬆症)」とされている(段落【0027】 【0028】及び【0033】 。、 )そうすると、本件訂正発明3において特定されている投与対象者には、骨がもろくなってきている状態又は骨が折れやすい状態の者、すなわち
5 骨折リスクが増加している者全般が含まれるものであり、そうであれば、
上記の特定は、骨の状態が「正常」な者を含まないことを意味するにとどまるものといえる。(ウ) 他方で、証拠(甲33)及び弁論の全趣旨によれば、本件優先日当時における原発性骨粗鬆症の診断基準(なお、骨密度は原則として腰椎骨密度とするが、大腿骨頸部骨密度であってもよいとされていた。)は、次のとおりであったと認められることからすれば、甲1発明における「原発性骨粗鬆症患者」は、脆弱性骨折がある者又は脆弱性骨折がない場合であっても骨密度がYAMの70%未満の者をいうものと認められ、これらは当然に骨折リスクが増加している者を意味するものといえる。a 原発性骨粗鬆症
(a) 低骨量を来す骨粗鬆症以外の疾患又は続発性骨粗鬆症を認めず、
かつ、脆弱性骨折(低骨量(骨密度がYAMの80%未満又は脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端又はその他の部位に発生した非外傷性骨折)がある場合
(b) 上記(a)において脆弱性骨折がない場合であっても、骨密度がY
AMの70%未満の場合b 骨量減少脆弱性骨折がなく、骨密度がYAMの70%以上80%未満の場合c 正常脆弱性骨折がなく、骨密度がYAMの80%以上の場合(エ) 上記(イ)及び(ウ)によれば、当業者は、本件訂正発明3及び甲1発明の投与対象者について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者という点において一致するものと認識するといえる。(オ) 加えて、前記⑷で検討したとおり、エルデカルシトールによる前腕部
5 を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内に吸収され
たエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるところ、本件明細書等には、投与対象者の骨密度の値が異なることにより、エルデカルシトールが及ぼす作用に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記⑶ウ及びオの技術常識を考慮しても、本件明細書等の記載から、エルデカルシトールの作用に関して上記の相違があると把握することはできない。そうすると、当業者は、投与対象者の骨密度の値が異なることにより、エルデカルシトールの作用が相違すると認識するものではないというべきである。(カ) 以上によれば、当業者は、本件訂正発明3において特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低いか、またはTスコアがYAM値に対して-1SD以下である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されると認識するものではないというべきである。(キ) したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。イ 小括以上によれば、相違点2は実質的な相違点ではなく、また、前記⑷で検討したとおり、相違点1も実質的な相違点ではないから、本件審決が、本件訂正発明3は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑺ 本件訂正発明4の新規性の有無(相違点1及び3が実質的な相違点である
か否か)についてア 相違点3についての検討(ア) 本件訂正発明4において、医薬組成物の投与対象者として特定されて
5 いる「Ⅰ型骨粗鬆症患者」が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区
別されるものであるか否かについて検討する。(イ) 本件明細書等においては、Ⅰ型骨粗鬆症につき、51歳ないし75歳の間に発生し、女性が男性の6倍ほどかかりやすいこと、高齢女性においてはⅡ型骨粗鬆症を併発することがあることなどの特徴が記載されているものの(段落【0023】 、他の類型の骨粗鬆症患者に比して前)腕部骨折のリスクが高いことを示す記載は存しない。また、証拠(甲4、6、52、53、58)及び弁論の全趣旨によれば、Ⅰ型骨粗鬆症患者は、閉経後早期に海綿骨量が減少することから、急性椎骨圧迫骨折及び前腕部骨折のリスクが高いことが技術常識であったと認められるものの、上記のとおり、Ⅰ型骨粗鬆症患者は51ないし75歳と比較的若年の者であることや、前記⑶ウのとおり、前腕部骨折は、身体的活動性が比較的高く、転倒時に反射的に手で防御することができる前期高齢者等において好発するとの技術常識を考慮すると、Ⅰ型骨粗鬆症患者において前腕部の骨折リスクが高いとされているのは、身体的活動性が比較的高く、転倒時に反射的に手で防御することができる若年の者が、他の類型よりも多く含まれることが影響しているものといえる。以上のとおりの本件明細書等の記載及び技術常識を踏まえると、当業者は、Ⅰ型骨粗鬆症患者について、特に前腕部の骨折リスクが高い患者群であると直ちに認識するものではないというべきである。そうすると、相違点3に係る本件訂正発明4の投与対象者の特定は、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者であることを超える技術的意義を有するものではないというべきである。(ウ) 他方で、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」にⅠ型骨粗鬆症患者が含まれることは明らかである。
5 (エ) 上記(イ)及び(ウ)によれば、当業者は、本件訂正発明4及び甲1発明の
投与対象者について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者としてⅠ型骨粗鬆症患者を含むという点において一致するものと認識するといえる。(オ) 加えて、前記⑷で検討したとおり、エルデカルシトールによる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるところ、本件明細書等には、投与対象者がⅠ型骨粗鬆症患者である場合に、エルデカルシトールが及ぼす作用に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記⑶ウ及びオの技術常識を考慮しても、本件明細書等の記載から、エルデカルシトールの作用に関して上記の相違があると把握することはできない。そうすると、当業者は、投与対象がⅠ型骨粗鬆症患者である場合に、エルデカルシトールの作用が相違すると認識するものではないというべきである。(カ) 以上によれば、当業者は、本件訂正発明4において特定されている「Ⅰ型骨粗鬆症患者」が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されると認識するものではないというべきである。(キ) したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。イ
(原告の主張)
(前記第3の1〔
(原告の主張)
〕⑵)に対する判断(ア) 原告は、Ⅰ型骨粗鬆症につき、女性の患者が男性の患者よりも著しく多く、65歳未満がその大半を占め、皮質骨と比較して海綿骨が特に急激に減少するなどⅡ型骨粗鬆症とは異なる特徴を有し、また、Ⅰ型骨粗鬆症の患者群においては前腕部骨折が生じやすいことから、Ⅱ型骨粗鬆症とは区別されるものである旨主張する。
5 しかしながら、上記アで検討したとおり、本件明細書等の記載及び技
術常識を踏まえると、当業者は、Ⅰ型骨粗鬆症患者について、特に前腕部の骨折リスクが高い患者群であると直ちに認識するものではないというべきである。また、前記⑶ウの技術常識によれば、70歳又は80歳以上の身体的活動性が低い者についても、当該年齢以降の前腕部骨折の発生率が上昇しなくなるにすぎず、前腕部の骨折リスクが減少又は消滅するものではない。さらに、上記アで検討したとおり、当業者は、投与対象がⅠ型骨粗鬆症患者である場合に、エルデカルシトールの作用が相違すると認識するものではないというべきである。以上によれば、相違点3に係る投与対象者の特定に関し、Ⅰ型骨粗鬆症とⅡ型骨粗鬆症とを区別することはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。(イ) 原告は、Ⅰ型骨粗鬆症患者につき、甲58ないし64の各文献の記載内容を基に、前腕部骨折を抑制する必要性が特に高い旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、Ⅰ型骨粗鬆症患者において前腕部の骨折リスクが高いとされているのは、身体的活動性が比較的高く、転倒時に反射的に手で防御することができる若年の者が、他の類型よりも多く含まれることが影響しているものといえる。また、原告が指摘する各文献の内容をみても、甲58及び甲63の各文献には、50歳ないし70歳の者が転倒して手をついた際に前腕部骨折が発生する旨が記載されているにすぎないこと、甲59及び甲60の各文献には、前腕部骨折の割合が若年者において高い旨が記載されているにすぎないこと、甲61の文献には、骨粗鬆症であるものの既往骨折のない閉経期の女性の骨格ケアとして、橈骨骨折及び脊髄骨折の予防が望ましい旨が記載されているにすぎないこと、甲62の文献には、前腕部骨折を機に骨粗鬆症の治療に積極的に取り組むべきである旨が記載さ
5 れているにすぎないこと、甲64の文献には、骨粗鬆症により海綿骨及
び皮質骨の骨強度が低下して骨折リスクが高くなる旨が記載されているものの、これは他の部位の骨にも当てはまる内容であることからすれば、これらの文献の記載内容によっても、Ⅰ型骨粗鬆症患者について、特に前腕部骨折を抑制する必要性が高いと認めることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。(ウ) このほか、原告は相違点3について縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではない。ウ 小括以上によれば、相違点3は実質的な相違点ではなく、また、前記⑷で検討したとおり、相違点1も実質的な相違点ではないから、本件審決が、本件訂正発明4は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑻ 本件訂正発明5の新規性の有無(相違点1及び4が実質的な相違点である
か否か)についてア 相違点4についての検討(ア) 本件訂正発明5においては、医薬組成物の投与対象者が「非外傷性である前腕部骨折の抑制が必要とされる」者と特定されているところ、本件訂正発明5は、相違点1に係る用途である「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」に投与される医薬組成物であるから、当然に、非外傷性である前腕部骨折を抑制する必要がある患者に対して投与されるものである。そうすると、本件訂正発明5における上記の特定は、相違点1に係る用途に対応する者という以上に投与対象者を特定するものではないというべきである。(イ) そして、相違点1に係る用途が甲1発明の用途と区別されるものではないことは、前記⑷で検討したとおりである。
5 (ウ) したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。
イ
(原告の主張)
(前記第3の1〔
(原告の主張)
〕⑶)に対する判断(ア) 原告は、個々の患者によって、いずれの部位での骨折リスクが高く、特に骨折抑制すべきであるかは異なるから、本件訂正発明5において特定されている投与対象者は甲1発明の投与対象者と区別される旨主張するが、前記⑷イ(イ)で検討したところに照らすと、同主張を採用することはできない。(イ) このほか、原告は相違点4について縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではない。ウ 小括以上によれば、相違点4は実質的な相違点ではなく、また、前記⑷で検討したとおり、相違点1も実質的な相違点ではないから、本件審決が、本件訂正発明5は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑼ 本件訂正発明6の新規性の有無(相違点1及び5が実質的な相違点である
か否か)についてア 相違点5についての検討(ア) 本件訂正発明6において、医薬組成物の投与対象者として特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く70%以上である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されるものであるか否かについて検討する。(イ) 本件明細書等の記載によれば、本件訂正発明6において特定されている投与対象者は、「骨がもろくなってきている状態(骨減少症)」とされる者であり(段落【0027】 、前記⑹ア(ウ)のとおりの本件優先日当時)における骨粗鬆症の診断基準においても、脆弱性骨折があれば骨粗鬆症であり、脆弱性骨折がなければ骨量減少であると診断される者であるか
5 ら、骨折リスクが増加して骨折を抑制する必要がある者のうち、比較的
軽症の者であるといえる。そして、本件明細書等には、本件各訂正発明の医薬組成物が投与されるべき対象の骨密度は低いほど好ましい旨(段落【0025】)や、本件臨床試験の結果として、大腿骨骨密度が70%より低いグループにおいて好ましい結果が得られた旨(段落【0068】)は記載されているものの、骨折リスクが増加して骨折を抑制する必要がある者が、比較的軽症である場合と比較的重症である場合とで、エルデカルシトールの投与対象として何らかの相違があることを示す記載は存しない。そうすると、相違点5に係る本件訂正発明6の投与対象者の特定は、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者であることを超える技術的意義を有するものではないというべきである。(ウ) 他方で、前記⑹ア(ウ)で検討したとおり、甲1発明における「原発性骨粗鬆症患者」は、脆弱性骨折がある者又は脆弱性骨折がない場合であっても骨密度がYAMの70%未満の者をいうものと認められ、これらは当然に骨折リスクが増加している者を意味するものといえる。(エ) 上記(イ)及び(ウ)によれば、当業者は、本件訂正発明6及び甲1発明の投与対象者について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者という点において一致するものと認識するといえる。(オ) 加えて、前記⑷で検討したとおり、エルデカルシトールによる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるところ、本件明細書等には、投与対象者の骨密度の値が異なることにより、エルデカルシトールが及ぼす作用に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記⑶ウ及びオの技術常識を考慮しても、本件明細書等の記載から、エ
5 ルデカルシトールの作用に関して上記の相違があると把握することはで
きない。そうすると、当業者は、投与対象者の骨密度の値が異なることにより、エルデカルシトールの作用が相違すると認識するものではないというべきである。(カ) 以上によれば、当業者は、本件訂正発明6において特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く70%以上である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されると認識するものではないというべきである。(キ) したがって、相違点5は実質的な相違点ではない。イ
(原告の主張)
(前記第3の1〔
(原告の主張)
〕⑷)に対する判断(ア) 原告は、本件訂正発明6において特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く70%以上である大腿部骨密度を有」する患者につき、骨粗鬆症には至らず骨量減少と診断されるか(脆弱性骨折のない場合)、重症度の低い(軽症の)骨粗鬆症であるから、原発性骨粗鬆症患者と等価ではなく、また、本件明細書等の表4において、エルデカルシトールがこの患者群に対して顕著な効果を奏することが示されている旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、相違点5に係る本件訂正発明6の投与対象者の特定は、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者であることを超える技術的意義を有するものではなく、当業者は、本件訂正発明6及び甲1発明の投与対象について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者という点において一致するものと認識するといえる。また、本件明細書等の表4に示されたエルデカルシトールの効果が、当業者が甲1文献の記載や技術常識から予測し得た範囲の事項であることは、前記⑷で検討したとおりである。
5 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(イ) このほか、原告は相違点5について縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではない。ウ 小括以上によれば、相違点5は実質的な相違点ではなく、また、前記⑷で検討したとおり、相違点1も実質的な相違点ではないから、本件審決が、本件訂正発明6は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑽ 本件訂正発明7の新規性の有無(相違点1及び6が実質的な相違点である
か否か)についてア 相違点6についての検討(ア) 本件訂正発明7において、医薬組成物の投与対象者として特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されるものであるか否かについて検討する。(イ) 本件明細書等の記載によれば、本件訂正発明7において特定されている投与対象者は、「骨が折れやすい状態(骨粗鬆症)」とされる者であり(段落【0027】 、) 前記⑹ア(ウ)のとおりの本件優先日当時における骨粗鬆症の診断基準においても、脆弱性骨折がなくても骨粗鬆症と診断される者であるから、骨折リスクが増加して骨折を抑制する必要がある者のうち、比較的重症の者といえる。そして、本件明細書等には、本件各訂正発明の医薬組成物が投与されるべき対象の骨密度は低いほど好ましい旨(段落【0025】)や、本件臨床試験の結果として、大腿骨骨密度が70%より低いグループにおいて好ましい結果が得られた旨(段落【0068】)は記載されているものの、前記⑷で検討したとおり、当業者は、エルデカルシトールにつき、
5 アルファカルシドールに比して有意に優れる骨強度改善効果等により、
骨折リスクが増大した者のうち比較的重症の者であっても、前腕部骨折を抑制することを予測し得るものといえる。また、本件明細書等には、骨折リスクが増加して骨折を抑制する必要がある者が、比較的軽症である場合と比較的重症である場合とで、エルデカルシトールの投与対象として何らかの相違があることを示す記載は存しない。そうすると、相違点6に係る本件訂正発明7の投与対象者の特定は、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者であることを超える技術的意義を有するものではないというべきである。(ウ) 他方で、前記⑹ア(ウ)で検討したとおり、甲1発明における「原発性骨粗鬆症患者」は、脆弱性骨折がある者又は脆弱性骨折がない場合であっても骨密度がYAMの70%未満の者をいうものと認められ、これらは当然に骨折リスクが増加している者を意味するものといえる。(エ) 上記(イ)及び(ウ)によれば、当業者は、本件訂正発明7及び甲1発明の投与対象者について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者として原発性骨粗鬆症患者を含むという点において一致するものと認識するといえる。(オ) 加えて、前記⑷で検討したとおり、エルデカルシトールによる前腕部を含む全身の骨折リスクの減少作用は、経口投与されて体内に吸収されたエルデカルシトールが、骨に対して直接的又は間接的に何らかの作用を及ぼすことによって達成されるものであるといえるところ、本件明細書等には、投与対象者の骨密度の値が異なることにより、エルデカルシトールが及ぼす作用に相違があることを示す記載は存しない。そして、前記⑶ウ及びオの技術常識を考慮しても、本件明細書等の記載から、エルデカルシトールの作用に関して上記の相違があると把握することはできない。
5 そうすると、当業者は、投与対象者の骨密度の値が異なることにより、
エルデカルシトールの作用が相違すると認識するものではないというべきである。(カ) 以上によれば、当業者は、本件訂正発明7において特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されると認識するものではないというべきである。(キ) したがって、相違点6は実質的な相違点ではない。イ
(原告の主張)
(前記第3の1〔
(原告の主張)
〕⑸)に対する判断(ア) 原告は、本件訂正発明7において特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の70%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者につき、原発性骨粗鬆症患者の一部にすぎないから、原発性骨粗鬆症患者と等価ではなく、また、本件明細書等の表4において、エルデカルシトールがこの患者群に対して顕著な効果を奏することが示されている旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、相違点6に係る本件訂正発明7の投与対象者の特定は、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者であることを超える技術的意義を有するものではなく、当業者は、本件訂正発明7及び甲1発明の投与対象について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者として原発性骨粗鬆症患者を含むという点において一致するものと認識するといえる。また、本件明細書等の表4に示されたエルデカルシトールの効果が、当業者が甲1文献の記載や技術常識から予測し得た範囲の事項であることは、前記⑷で検討したとおりである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。(イ) このほか、原告は相違点6について縷々主張するが、いずれも前記の
5 結論を左右するものではない。
ウ 小括以上によれば、相違点6は実質的な相違点ではなく、また、前記⑷で検討したとおり、相違点1も実質的な相違点ではないから、本件審決が、本件訂正発明7は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑾ 本件訂正発明8の新規性の有無(相違点1及び7が実質的な相違点である
か否か)についてア 相違点7についての検討(ア) 本件訂正発明8において、医薬組成物の投与対象者として特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されるものであるか否かについて検討する。(イ) 本件明細書等の記載によれば、本件訂正発明8において特定されている投与対象は、脆弱性骨折がない場合の骨の状態について「もろくなってきている状態(骨減少症)」とされる者及び「骨が折れやすい状態(骨粗鬆症)」とされる者であり(段落【0027】 、骨折リスクが増加して)骨折を抑制する必要がある者のうち、比較的軽症の者及び比較的重症の者の双方を含むものといえる。そして、前記⑼及び⑽で検討したところに照らすと、相違点7に係る本件訂正発明8の投与対象者の特定は、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者であることを超える技術的意義を有するものではないというべきである。(ウ) 他方で、前記⑹ア(ウ)で検討したとおり、甲1発明における「原発性骨粗鬆症患者」は、脆弱性骨折がある者又は脆弱性骨折がない場合であっても骨密度がYAMの70%未満の者をいうものと認められ、これらは
5 当然に骨折リスクが増加している者を意味するものといえる。
(エ) 上記(イ)及び(ウ)によれば、当業者は、本件訂正発明8及び甲1発明の投与対象者について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者という点において一致するものと認識するといえる。(オ) 加えて、前記⑼及び⑽で検討したところに照らせば、当業者は、投与対象者の骨密度の値が異なることにより、エルデカルシトールの作用が相違すると認識するものではないというべきである。(カ) 以上によれば、当業者は、本件訂正発明8において特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く60%以上である大腿部骨密度を有する」者が、甲1発明の「原発性骨粗鬆症患者」と区別されると認識するものではないというべきである。(キ) したがって、相違点7は実質的な相違点ではない。イ
(原告の主張)
(前記第3の1〔
(原告の主張)
〕⑹)に対する判断(ア) 原告は、本件訂正発明8において特定されている「若年者平均骨密度(YAM)の80%より低く60%以上である大腿部骨密度を有」する患者につき、その一部が原発性骨粗鬆症患者に該当するとしても、原発性骨粗鬆症患者と等価ではなく、また、本件明細書等の表4において、エルデカルシトールがこの患者群に対して顕著な効果を奏することが示されている旨主張する。しかしながら、上記アで検討したとおり、相違点7に係る本件訂正発明8の投与対象者の特定は、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者であることを超える技術的意義を有するものではなく、当業者は、本件訂正発明8及び甲1発明の投与対象について、骨折リスクが増加しており骨折を抑制する必要がある者という点において一致するものと認識するといえる。また、本件明細書等の表4に示されたエルデカルシトールの効果が、当業者が甲1文献の記載や技術常識から予測し
5 得た範囲の事項であることは、前記⑷で検討したとおりである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。(イ) このほか、原告は相違点7について縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するものではない。ウ 小括以上によれば、相違点7は実質的な相違点ではなく、また、前記⑷で検討したとおり、相違点1も実質的な相違点ではないから、本件審決が、本件訂正発明8は甲1発明に対する新規性を欠くものであると判断したことに誤りはない。
⑿ 小括
以上によれば、本件各訂正発明は、いずれも甲1発明に対する新規性を欠くものであり、本件審決の判断に誤りはないから、取消事由1は理由がない。
3 結論
よって、取消事由2について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官東 海 林 保
5 裁判官
中 平 健裁判官都 野 道 紀(別 紙)甲1発明の化学構造(別 紙)本件明細書等図面等目録【表1】【表2】【表3】【表4】【図1】
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