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令和3(ネ)10099特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和4年12月26日
事件種別 民事
対象物 生体用水素ガス供給装置
法令 特許権
民法709条1回
キーワード 侵害17回
無効15回
実施7回
特許権6回
審決6回
進歩性4回
差止2回
新規性2回
訂正審判2回
損害賠償1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。20
事件の概要 1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に 同じ。) 本件は、発明の名称を「生体用水素ガス供給装置」とする各特許(本件各特 許)に係る特許権者である控訴人が、被控訴人の製造販売等に係る原判決別紙10 被告製品目録1記載の製品(被告製品1)は本件特許1に係る特許発明の技術 的範囲に、同目録2記載の製品(被告製品2)は本件特許2に係る特許発明の 技術的範囲にそれぞれ属すると主張して、特許法(法)100条1項、2項に 基づき、被告各製品の製造、使用、譲渡等の差止め及び被告各製品等の廃棄を 求めるとともに、民法709条、法102条2項に基づき、損害賠償金2億115 430万円の一部である9130万円及びうち7730万円(令和2年3月3

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判決文

令和4年12月26日判決言渡
令和3年(ネ)第10099号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第22768号)
口頭弁論終結日 令和4年10月31日
5 判 決
控 訴 人 M i Z 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 服 部 真 尚
10 同訴訟代理人弁理士 吉 田 正 義
同 窪 田 稚 之
同 補 佐 人 弁 理 士 吉 田 安 子
被 控 訴 人 株式会社日省エンジニアリング
同訴訟代理人弁護士 櫻 井 彰 人
同 補 佐 人 弁 理 士 平 山 俊 夫
主 文
1 本件控訴を棄却する。
20 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録1及び2記載の各製品を製造し、使用
25 し、譲渡し、貸し渡し、輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはなら
ない。
3 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録1及び2記載の各製品、その半製品及
び製造のための金型を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、 9130万円及びうち7730万円に対する令
和2年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員、うち1400万
5 円に対する同日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に
同じ。)
本件は、発明の名称を「生体用水素ガス供給装置」とする各特許(本件各特
10 許)に係る特許権者である控訴人が、被控訴人の製造販売等に係る原判決別紙
被告製品目録1記載の製品(被告製品1)は本件特許1に係る特許発明の技術
的範囲に、同目録2記載の製品(被告製品2)は本件特許2に係る特許発明の
技術的範囲にそれぞれ属すると主張して、特許法(法)100条1項、2項に
基づき、被告各製品の製造、使用、譲渡等の差止め及び被告各製品等の廃棄を
15 求めるとともに、民法709条、法102条2項に基づき、損害賠償金2億1
430万円の一部である9130万円及びうち7730万円(令和2年3月3
1日までの被告各製品の販売利益に相当する損害額)に対する令和2年10月
4日(不法行為後である訴状送達日の翌日)から支払済みまで平成29年法律
第44号による改正前の民法所定年5分の割合による遅延損害金、うち140
20 0万円(令和2年4月1日以降の被告製品2の販売利益に相当する損害額)に
対する同日から支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金の支払を
求める事案である。
原判決は、被告製品1は本件特許1に係る特許発明の技術的範囲に、被告製
品2は本件特許2に係る特許発明の技術的範囲にそれぞれ属さないし、本件各
25 特許には無効理由(実施可能要件違反)があるとして、控訴人の請求をいずれ
も棄却したところ、控訴人が本件控訴を提起した。
控訴人は、原判決後に、本件特許1に関する訂正審判請求を行い、これを認
める審決が確定したところ、当審においては、本件特許1については、訂正後
の請求項6の発明(以下「本件訂正発明6」という。)に基づく請求原因のみ
を主張している。
5 2 「前提事実」及び「争点」は、前記1の請求原因の変更を踏まえ、以下のと
おり原判決の補正をするほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2
に記載するとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決3頁25行目冒頭から7頁14行目末尾までを次のとおり改める。
「ア 控訴人は、令和3年12月10日付けで本件特許1に関する訂正審判
10 請求を行い(甲35)、令和4年3月31日、これを認める審決(甲3
8。以下「本件訂正審決」という。)がされ、同審決は確定した。
本件訂正審決後の本件特許1に係る特許請求の範囲の請求項6は以
下のとおりである。
「 被電解原水が導入される電解室と、前記電解室の内部と外部とを区画
15 する一つ以上の隔膜と、前記電解室の内部及び外部のそれぞれに前記隔
膜を挟んで設けられた少なくとも一対の電極板と、を有し、前記電解室
の外部の電極板が前記隔膜に接触させて設けられている電解槽と、
前記一対の電極板に直流電圧を印加する直流電源と、
陰極となる電極板から発生する水素ガスを希釈するための希釈用ガス
20 供給器と、を備え、
さらに前記電解室の内部の電極板が前記隔膜に接触させて設けられて
おり、
前記電解室の外部に、前記一対の電極板の一方の電極板を包含する側
室が設けられており、
25 前記電解室の内部および前記側室に被電解原水が導入されており、
前記希釈用ガス供給器から供給される希釈用ガスを前記陰極又は陰極
水面に送風することにより、
電解時の前記陰極又は前記陰極水面から7cm離れた位置の水素ガス
濃度を常に4vol%未満に維持し、水素ガス濃度が0.1~4vol%
の、水素ガスと希釈用ガスを含む混合ガスを生体に供給する
5 生体用水素ガス供給装置。」
イ 本件訂正発明6は、以下のように分説される。
「11A 被電解原水が導入される電解室と、前記電解室の内部と外部
とを区画する一つ以上の隔膜と、前記電解室の内部及び外部の
それぞれに前記隔膜を挟んで設けられた少なくとも一対の電極
10 板と、を有し、前記電解室の外部の電極板が前記隔膜に接触さ
せて設けられている電解槽と、
11B 前記一対の電極板に直流電圧を印加する直流電源と、
11C 陰極となる電極板から発生する水素ガスを希釈するための希
釈用ガス供給器と、を備え、
15 11D さらに前記電解室の内部の電極板が前記隔膜に接触させて設
けられており、
11E 前記電解室の外部に、前記一対の電極板の一方の電極板を包
含する側室が設けられており、
11F 前記電解室の内部および前記側室に被電解原水が導入されて
20 おり、
11G 前記希釈用ガス供給器から供給される希釈用ガスを前記陰極
又は陰極水面に送風することにより、
11H 電解時の前記陰極又は前記陰極水面から7cm離れた位置の
水素ガス濃度を常に4vol%未満に維持し、水素ガス濃度が
25 0.1~4vol%の、水素ガスと希釈用ガスを含む混合ガス
を生体に供給する
11I 生体用水素ガス供給装置。」
⑵ 原判決12頁4行目冒頭から7行目末尾までを次のとおり改める。
「⑴ 被告製品1が本件訂正発明6の技術的範囲に属するか否か(争点1)
ア 文言侵害の成否(争点1-1)
5 被告製品1は構成要件11Aを充足するか(争点1-1-1)
被告製品1は構成要件11Eを充足するか(争点1-1-2)
被告製品1は構成要件11Fを充足するか(争点1-1-3)
被告製品1は構成要件11G及び11Hを充足するか(争点1
-1-4)
10 イ 均等侵害の成否(争点1-2)
被告製品1は第1要件を充足するか(争点1-2-1)
被告製品1は第2要件を充足するか(争点1-2-2)
被告製品1は第3要件を充足するか(争点1-2-3)
被告製品1は第5要件を充足するか(争点1-2-4)」
15 ⑶ 原判決12頁16行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。
「ア 無効理由1(サポート要件違反)の有無(争点3-1)
イ 無効理由2(明確性要件違反①)の有無(争点3-2)
ウ 無効理由3(明確性要件違反②)の有無(争点3-3)
エ 無効理由4(進歩性欠如)の有無(争点3-4)」
20 3 争点に関する当事者の主張
争点1-1-1(被告製品1は構成要件11Aを充足するか)
ア 控訴人の主張
被告製品1における高分子膜10の機能は、内タンク空間(①内タンク
6の底部より上側の内部空間、②内タンク6の底部の正方形穴の中の空間、
25 ③内タンク6の底部の正方形穴の下側における網目状の内部電極板(陰極
電極板11)の網目の間の空間)と外部(網目状の外部電極板(陽極電極
板12)の網目の間の空間以下の外タンク2の空間(外タンク空間))を
区切っているから、構成bは、以下の下線部を補足して認定すべきである。
「b.前記内タンク6には、その中央に多数の孔を開けた水滴防止中蓋9
を設け、底部の4箇所の正方形穴4、4、4、4の外面に外側からケー
5 シング13(高分子膜10の上側に網目状の陰極電極板11、下側に網
目状の陽極電極板12をそれぞれ接合した部材)を保持し、ここで、高
分子膜10によって内タンク空間の内部と外部とが仕切られており、上
側の網目状の陰極電極板11は内タンク空間の内部に存在し、一方、高
分子膜10の下側の網目状の陽極電極板12は内タンク空間の外部に
10 存在し、外タンク空間の内部に存在し、」
被告製品1の「内タンク空間」は、まず内タンク空間に水が注入され、
注入された水の一定量が内タンク空間に貯留するから、構成要件11Aの
「被電解原水が導入される電解室」に相当し、被告製品1の「4つの高分
子膜10」は、内タンク空間の内部と外部とを仕切っており、電解室の内
15 部と外部を仕切るものは隔膜に限られないから、構成要件11Aの「電解
室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」に相当し、被告製品1の「高
分子膜10に接合する4つの対の陰極電極板11と陽極電極板12」は、
陰極電極板11は内タンク空間に存在するため内部の電極板ということ
ができ、陽極電極板12は内タンク空間の外部に存在しており、外部の電
20 極板といえるから、構成要件11Aの「電解室の内部及び外部のそれぞれ
に隔膜を挟んで設けられた少なくとも一対の電極板」に相当し、被告製品
1の「陽極電極板12が高分子膜10に接合させて設けられている電解槽」
は、構成要件11Aの「電解室の外部の電極板が隔膜に接触させて設けら
れている電解槽」に相当する。
25 よって、被告製品1は、構成要件11Aを充足する。
原判決は、構成要件1A(構成要件1Aは、構成要件11Aと同じであ
る。)の「被電解原水が導入される電解室」とは、電解室の内部と外部が
別個に独立した状態となるべく、電解室の内部と外部とで水が連通しない
ように、隔膜によって、その内部と外部とが完全に区画されているものを
指すとし、被告製品1は、内タンク6と外タンク2とで水が連通するので、
5 構成要件1Aを充足しない旨判断している。
しかしながら、「区画」の意義は「しきり。境界。」(甲23)であり、
本件訂正発明6における「区画」は、電解室(空間)の内部と外部とを単
に仕切るものにすぎず、電解室の内部と外部とで水が連通しないように、
電解室の内部と外部とを完全に区画するものではない。
10 また、本件明細書1の【0033】には、電解室内に設けられた電極板
を陰極とし、電解室外に設けられた電極板を陽極とした実施例1の場合に、
「被電解原水が導入される電解室と、電解室における内と外を区画する陽
イオン交換膜(「ナフィオン424」(デュポン社製))と、電解室内外
のそれぞれに、陽イオン交換膜を挟んで設けられた一対の白金電極と、を
15 有し、電解室外の電極板が陽イオン交換膜に接触させて設けられており、
さらに電解室内の電極板も陽イオン交換膜に接触させて設けられている
電解槽の電解室に、水温20.8℃の藤沢市水道水1.4Lを入れるとと
もに陽イオン交換膜にも水を湿潤させた。」と記載されており、隔膜(陽
イオン交換膜)が湿潤し、水が隔膜を透過していることを示している。
20 イ 被控訴人の主張
被告製品1で、注入された水は、外タンク2に流出し、まず外タンク
2に貯留した後、内タンク6に貯留し、内タンク6と外タンク2で同一
高さの水面になるから、構成要件11Aの「被電解原水が導入される電
解室」に相当するのは、被告製品1の「内タンク空間」ではなく、外タ
25 ンク2である。
被告製品1で、内タンク6と外タンク2は、連通しており、4つの高
分子膜10では仕切られておらず、他の部材でも仕切られていないから、
被告製品1は、「電解室の内部と外部とを区画する1つ以上の隔膜」の
要件を具備しない。
また、被告製品1の陰極電極板11、高分子膜10及び陽極電極板1
5 2は、内タンク6の外部に存在し、高分子膜10は内タンク6の内部と
外部を仕切っていないから、被告製品1は、「電解室の内部及び外部の
それぞれに前記隔膜を挟んで設けられた少なくとも一対の電極板」の要
件を具備しない。
控訴人は、前記ア のとおり、本件明細書1の【0033】にも、陽
10 イオン交換膜が湿潤して含水し、水が透過した状態が示されている旨主
張するが、同記載は、陽イオン交換膜が湿潤状態で水素イオンを伝導す
るとの特性を有することから、水の電気分解の前段階で陽イオン交換膜
を湿潤させておくとの趣旨であり、本件訂正発明6において、「電解室
の内部と外部とは、水が連通することがない独立した構造」であるかど
15 うかとは別個の問題である。
⑵ 争点1-1-2(被告製品1は構成要件11Eを充足するか)
ア 控訴人の主張
被告製品1は、構成aにおいて、「外タンク2内に底部に水の流出孔3
と4カ所の正方形穴4・・・と各穴4の下部に突出した枠体5・・・を有
20 する内タンク6を設け」ているということができ、構成bによれば、高分
子膜10の下側の網目状の陽極電極板12は内タンク空間の外部に存在
し、外タンク空間の内部に存在しているということができる。
ここで、「外タンク空間」は、構成要件11Eの側室に該当し、「陽極
電極板12は内タンク空間の外部に存在し、外タンク空間の内部に存在」
25 するのであるから、被告製品 1 は、構成要件11Eの「前記電解室(内タ
ンク空間)の外部に、前記一対の電極板の一方の電極板(陽極電極板12)
を包含する側室(外タンク空間)が設けられて」といえる。
よって、被告製品1は、構成要件11Eを充足する。
イ 被控訴人の主張
被告製品1において、水(被電解原水)の電気分解が行われる場所(区
5 画)は外タンク2であり、また、水が貯留されるのは電気分解が行われる
外タンク2内であって、内タンク6は電気分解が行われる外タンク2に常
に水を貯留させておくために存在する部材であることから、外タンク2が
構成要件11Aの「被電解原水が導入される電解室」に該当する。
したがって、被告製品1には、「電解室」に相当する外タンク2の外部
10 に構成要件11Eの「側室」に相当する部材は存在しないから、構成要件
11Eを充足しない。
⑶ 争点1-1-3(被告製品1は構成要件11Fを充足するか)について
ア 控訴人の主張
被告製品1において、本件訂正発明6の電解室である内タンク空間と、
15 本件訂正発明6の側室である外タンク空間の各タンク空間に水が貯留さ
れている。
よって、被告製品1は、構成要件11Fを充足する。
イ 被控訴人の主張
被告製品1において、構成要件11Eの「電解室」に該当するのは外タ
20 ンク2であり、内タンク6ないし控訴人主張の「内タンク空間」ではない。
したがって、被告製品1には、「電解室」に相当する外タンク2の外部に
「側室」に相当する部材は存在しないから、構成要件11Fを充足しない。
⑷ 争点1-1-4(被告製品1は構成要件11G及び構成要件11Hを充足
するか)について
25 ア 控訴人の主張
被告製品1は、空気供給器15から供給される空気を水滴防止中蓋9の
下面に設けた空気排出口16から送風しており、陰極から約6cm前後上
にある陰極水面にも空気を送風しており、水素ガス濃度が2.6vol%
の、水素ガスと空気を含む混合ガスを生体に供給するものであるから、構
成要件11G及び構成要件11Hを充足する。
5 イ 被控訴人の主張
被告製品1において、ケーシング13(上側を陰極電極板11、下側を
陽極電極板12に接合された高分子膜10)は、内タンク6の外部で外タ
ンク2内の水の中に存在し、陰極電極板11及び陽極電極板12ともに外
タンク2内に存在しているから、被告製品1は構成要件11G及び11H
10 の「陰極水面」を具備しない。
また、仮に、控訴人主張の「内タンク空間」を「電解室」、内タンク水
面を「陰極水面」と仮定したとしても、内タンク水面は、注入される水量
及び電気分解の時間経過により時々刻々と変化し、内タンク水面から7c
m離れた位置が混合ガスの導出口より上方に位置する場合は、希釈用ガス
15 が内タンク水面に送風することがなくなるから、被告製品1は、「希釈用
ガスを・・・陰極水面に送風する」及び「水素ガス濃度が0.1~4vo
l%の、水素ガスと希釈用ガスを含む混合ガスを生体に供給する」の要件
を具備しない。
⑸ 争点1-2-1(均等侵害の成否・被告製品1は第1要件を充足するか)
20 ア 控訴人の主張
本件訂正発明6は、生体に供給されるまでの送風経路の全てにおいて
水素ガス濃度を4vol%未満に維持するために、最も高濃度の水素ガ
スが発生する局面である電解時の陰極又は陰極水面において、発生した
水素ガスを直ちに希釈するという原理に基づいており、これは、特許発
25 明を先行技術と対比して見い出される課題の解決手段における本件特許
1の特徴的原理である。
一方、被告製品1は、陰極電極板11から水素ガスが発生し、空気供
給器15から供給される希釈用の空気を陰極水面に送風することにより、
電解時の陰極電極板11から7cm離れた位置の水素ガス濃度を常に4
vol%未満に維持し、水素ガス濃度が2.6vol%の、水素ガスと
5 空気を含む混合ガスを生体に供給しており、被告製品1の備える解決手
段は、本件訂正発明6の解決手段の原理と実質的に同一の原理に属する。
したがって、本件訂正発明6における「前記電解室の内部と外部とを
区画する 1 つ以上の隔膜」は本質的部分ではなく、これを被告製品1に
おける「①内タンク6の側壁の一部、②流出孔3を有する内タンク6の
10 底部、③4つの高分子膜10」に置換しても、本質的部分を置換するも
のではない。
よって、被告製品1は、均等の第1要件を充足する。
被控訴人は、後記イのとおり、本件訂正発明6においては、水素ガス
と空気(酸素ガス)が混合することを防止するため、被電解原水が導入
15 される電解室の内部と外部とを区画する隔膜と、電解室の内部と外部に
隔膜を挟んで電極板を設けた上で、水素ガスが発生する陰極表面もしく
は陰極水面に希釈用ガスを吹き付けることが課題解決の特徴的原理であ
り、「電解室の内部と外部とを区画する 1 つ以上の隔膜」は、その本質
的部分である旨主張する。しかし、希釈用ガスは生体に供給されるため、
20 本件特許1において、酸素ガスを含有するガスであることが想定され、
当然に通常大気(空気)も含むものである(本件明細書1【0022】)
から、水素ガスと空気(酸素ガス)が混合することはそもそも想定され
ているところであり、被控訴人の主張は失当である。
イ 被控訴人の主張
25 本件明細書1の【0004】、【0005】の記載から、本件訂正発明
6は、水素ガスを安全に使用するため、陰極又は陰極水面で発生した水素
ガスと空気が混合することを防止する手段を提供するものである。そして、
課題解決手段(【0006】)における「水素ガスが発生する陰極表面も
しくは陰極水面に希釈用ガスを吹き付ける」及び「水素ガス発生の時点か
ら生体に送り届けられるまでのあらゆる時点において、水素ガスを爆発限
5 界外の濃度である4vol%未満に維持する」との記載は、陰極表面もし
くは陰極水面に希釈用ガスを吹き付けて、発生する水素ガスを希釈し、発
生時点から生体に送り届けるまで酸素と混合しないように区別すること
を意味しており、本件訂正発明6の構成のうち当該課題解決手段を基礎付
ける特徴的な部分は、水素ガスが発生する陰極又は陰極水面と酸素ガスが
10 発生する陽極を「隔膜」により区画して両ガスが混合することを防止し、
陰極又は陰極水面に希釈用ガスを吹き付ける構成である。
これは、本件明細書1の【0015】において、「電極板14、15間
に隔膜13を挟まない場合、陰極で発生した水素ガスに対して陽極で発生
した酸素ガスや塩素ガスが混合してしまうことになるため、爆発の危険性
15 や生体に対する有毒性の観点から好ましくない。」として、陰極で発生し
た水素ガスと陽極で発生した酸素ガスや塩素ガスが混合しないように陰
極と陽極電極間に隔膜を挟むことの重要性を記載していることからも明
らかである。
そうすると、本件訂正発明6における「前記電解室の内部と外部とを区
20 画する1つ以上の隔膜」は本質的部分であり、これを被告製品1における
「①内タンク6の側壁の一部、②流出孔3を有する内タンク6の底部、③
4つの高分子膜10」に置換すると、仕切り区分する部材に膜以外のプラ
スチック材や開口部である流出孔3等を含むことから、本質的部分を置換
することになる。よって、被告製品1は、均等の第1要件を充足しない。
25 ⑹ 争点1-2-2(均等侵害の成否・被告製品1は第2要件を充足するか)
ア 控訴人の主張
本件訂正発明6の「課題解決原理」ないし「作用効果」は、先行技術で
は、水素ガス発生装置から空気混合器に至る導管において爆発限界を超え
る水素ガスを通過させており、医療の現場や家庭で、安全に使用すること
ができなかったことを踏まえ(本件明細書1【0004】)、最も高濃度
5 の水素ガスが発生する局面である電解時の陰極又は陰極水面において、発
生した水素ガスを直ちに希釈することを通じて、生体に供給されるまでの
送風経路の全てにおいて水素ガス濃度を4vol%未満に維持し、健康上
有益な水素ガスを、医療の現場や家庭で安全に使用することである。
被告製品1においても、陰極電極板11からは水素ガスが発生し、空気
10 供給器15から供給される希釈用の空気を陰極水面に送風することによ
り、電解時の陰極電極板11から7cm離れた位置の水素ガス濃度を常に
4vol%未満に維持し、水素ガス濃度が2.6vol%の、水素ガスと
空気を含む混合ガスを生体に供給しているのであり、最も高濃度の水素ガ
スが発生する局面である電解時の陰極水面において、発生した水素ガスを
15 直ちに希釈することを通じて、以降の生体に供給されるまでの送風経路全
てで水素ガス濃度を4vol%未満に維持し、健康上有益な水素ガスを、
医療の現場や家庭で安全に使用することができる。
よって、本件訂正発明6における被告製品1との異なる部分である「前
記電解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」を、被告製品1にお
20 ける「①内タンク6の側壁の一部、②流出孔3を有する内タンク6の底部、
③4つの高分子膜10」に置換をしても、特許発明の目的を達することが
でき、同一の作用効果を奏するから、被告製品1は均等の第2要件を充足
する。
イ 被控訴人の主張
25 被告製品1は、高分子膜10が水内に水平に位置するため、その上面に
接合された陰極電極板11で発生した水素ガス及び下面に接合された陽
極電極板12で発生した酸素ガスは、いずれも小さな気泡となって水の中
を上方に移動することになるところ、「①内タンク6の側壁の一部、②流
出孔3を有する内タンク6の底部、③4つの高分子膜10」の構成におい
ては、控訴人主張の「内タンク空間」と「外タンク空間」が流出孔3で連
5 通し、また、「外タンク空間」(ケーシング13と枠体5との間の隙間空
間を含む)が陰極電極板11の網目空間と連通しているから、陰極電極板
11で発生した水素ガスの気泡は正方形穴4を通って内タンク6内に流
入し、他方で、陽極電極板12で発生した酸素ガスの気泡も、流出孔3並
びにケーシング13と枠体5の間に設けられた隙間空間を通って内タン
10 ク6内に流入し、陰極電極板11で発生した水素ガスと陽極電極板12で
発生した酸素ガスが内タンク6内で混合することになる。
このように、上記の置換をすると、被告製品1のように、高分子膜10
が水の中に水平に設けられている構成では、水素ガスと酸素ガスが混合す
ることになり、本件訂正発明6と同一の作用効果を奏しないことになる。
15 それゆえに、被告製品1では、陽極電極板12で発生した酸素ガスの気
泡が流出孔3並びにケーシング13と枠体5の隙間から内タンク6内に
流入することを防止するため、ケーシング13を保持する枠体5により陽
極電極板12で発生した酸素ガスの気泡を集合させて直径の大きな気泡
に形成し、枠体5から内タンク6と外タンク2の間の水内を通って外部に
20 排出することにより、流出孔3並びにケーシング13と枠体5の間の隙間
から内タンク6内に流入することを防止しているのである。
よって、被告製品1は、均等の第2要件を充足しない。
⑺ 争点1-2-3(均等侵害の成否・被告製品1は第3要件を充足するか)
ア 控訴人の主張
25 陽イオン交換膜を用いた固体高分子水電解において、陰極室と陽極室を
貫通孔により水を連通する構成は、被控訴人が被告製品1の製造販売を開
始した平成29年11月以前から周知の技術である。
すなわち、特許第5113891号公報(甲37。以下「甲37文献」
という。)では、陽イオン交換膜であるナフィオン(【0052】)を使
用した場合の固体高分子水電解が開示されており、陰極室と陽極室を貫通
5 孔により水を連通する構成が開示されている(【0033】、図1(別紙
1)等) 被控訴人は、
。 甲37文献は本件訂正発明6と技術分野が異なり、
オゾン水を製造するためのものである旨主張するが、同文献においても、
固体高分子水電解の陽極ではオゾン又は酸素ガスが発生し、陰極では水素
ガスが発生するのであり(【0052】)、本件訂正発明6と、甲37文
10 献は、いずれも水の電気分解に伴う水素ガス又は酸素ガスの発生に関する
ものであるといえる。
また、実用新案登録第3198704号公報(甲40。以下「甲40文
献」という。)は、陽イオン交換膜であるナフィオン(【0030】)を
使用した場合の固体高分子水電解が開示されており、水素の吸引に使用で
15 きる電解装置において(請求項1、【0001】)、 陰極室と陽極室を貫
通孔により水が連通する構成が開示されている(【0026】、【002
8】、【0029】、【0039】、【0041】、図1及び図2(別紙
2))。
さらに、特許第6662809号公報(甲36。以下「甲36文献」と
20 いう。)の【0027】、【0041】、図1及び図2(別紙3)では、
「酸素室(陰極室)と水素室(陽極室)とを隙間により水を連通させ、生
体に水素ガスを供給する構成において、高分子膜の下側となる陽極(プラ
ス極)で発生した酸素ガス(オゾンガス)は、隔膜(高分子膜)のおかげ
で隔膜(高分子膜)の上側となる陰極(マイナス極)で発生した水素ガスと
25 の混合が防止されている。」との事項が開示されている。
甲40文献に係る考案は平成27年5月1日に出願されて、同年7月1
6日、甲40文献が発行されており、甲36文献に係る発明は平成29年
4月27日に出願されているところ、これらの考案者ないし発明者は被控
訴人自身であり、被控訴人は平成29年11月に被告製品1の製造販売を
開始している。
5 そうすると、陽イオン交換膜を用いて生体に水素ガスを供給する装置に
おいて、陰極室と陽極室とを貫通孔(隙間を含む)により水を連通させて
いても、陽極で発生した酸素ガス(オゾンガス)が陰極で発生した水素ガ
スと混合しない構成は、被控訴人自身の手によって、被控訴人が被告製品
1の製造、販売等を開始する以前から既に周知の技術であったから、特許
10 請求の範囲に記載された構成中の被告製品1と異なる部分である「前記電
解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」を周知技術に置換するこ
とは容易に想到することができた。
よって、被告製品1は均等の第3要件を充足する。
イ 被控訴人の主張
15 被告製品1における「①内タンク6の側壁の一部、②流出孔3を有する
内タンク6の底部、③4つの高分子膜10」との構成は、あえて、内タン
ク6内の水が外タンク2内へ流出することを促すと共に、陰極及び陽極電
極板11、12で発生した水素ガスと酸素ガスが内タンク6内で混合する
ことを許容する構成を一旦採るが、混合させないために、切欠部を有する
20 枠体5により陽極電極板12で発生した酸素ガス及びオゾンガスの気泡
が内タンク6内に流入することを防止するものであるから、本件置換は、
当業者が製造時において容易に想到できるものではない。
また、控訴人が主張する各文献によって、置換容易性を基礎付けること
はできない。すなわち、甲37文献は、オゾン水製造装置、オゾン水製造
25 方法、殺菌方法及び排水・廃液処理方法に関するものであって(【000
1】)、原料水を陽極側から又は陰極側から供給して、電解セルを通って
陰極側又は陽極側に通過させてオゾン水を製造するもので、陰極及び陽極
で発生した水素ガス、酸素ガス及びオゾンガスは、多数の貫通孔を介する
流れの過程で互いに混合するものであり、本件訂正発明6のように電解室
の内部で発生した酸素ガス又は水素ガスと電解室の外部で発生した水素
5 ガス又は酸素ガスを混合させず、発生した水素ガスを医療の現場や家庭で
安全に使用するという構成とは全く異なる。なお、オゾンガスは毒性が強
く、本件訂正発明6のような生体用水素ガス供給装置では排除すべきもの
であり、甲37文献を置換容易性の根拠とすることはこの点からも不可能
である。
10 次に、甲40文献には、被告製品1における「①内タンク6の側壁の一
部、②流出孔3を有する内タンク6の底部、③4つの高分子膜10」との
構成は存在しない。同文献に記載された装置の連通孔314は、陽極34
で発生したオゾンガスを通過させてタンク1内の原水中に排出するもの
で(【0041】)、被告製品 1 の流出孔3とは異なる。
15 さらに、甲36文献に係る発明は、従来技術にない新たな発明として被
控訴人が出願し、特許登録したものであり、その実施品が被告製品1なの
であるから、控訴人の主張は失当である。
よって、被告製品1は、均等の第3要件を充足しない。
⑻ 争点1-2-4(均等侵害の成否・被告製品1は第5要件を充足するか)
20 ア 被控訴人の主張
本件特許1の出願過程において、特許庁審査官による拒絶理由通知(乙
16)に対し、控訴人は、被電解原水が導入された電解室の内部と外部が
隔膜により区画された場合に、電解室の内部又は外部に設けられた陰極板
の周囲に被電解原水が存在するか否か不明であった構成を、電解室の内部
25 と外部を区画する隔膜が電解室内の被電解原水の流出を防止することを
明確にする趣旨の補正をした。
被告製品1の構成は、「内タンク空間」内の水を外部に流出させるもの
であり、当該構成は、出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外
されたものであるから、均等侵害の第5要件を充足しない。
イ 控訴人の主張
5 被控訴人が主張する補正は、記載不備を解消するため、単に「水素ガス
濃度の測定位置」と「希釈用ガスの送風する対象」を明確にしたものにす
ぎず、控訴人は、
「前記電解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」
との構成自体を出願過程において補正したわけでもない。
よって、被告製品1は、均等の第5要件を充足する。
10 ⑼ 争点2-1(被告製品2は構成要件1Aを充足するか)
ア 控訴人の主張
以下のとおり当審における補充主張を加えるほか、原判決第2の3⑷(原
告の主張)の記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決は、本件発明2の構成要件1Aの「前記筐体内に設けられて前
15 記筐体内を被電解水が導入される陰極室と被電解水が導入される陽極室
とに区画する隔膜」は、陰極室内の被電解水と陽極室内の被電解水が連
通しない状態となり、陰極室と陽極室とがそれぞれ別個に被電解水を導
入するための被電解水入口を有するように、筐体内を陰極室と陽極室と
に完全に区画する膜を指すとし、高分子膜6の上側空間と下側空間とで
20 水が連通しており、水が連通しないように、水導入空間を2つに区切る
部材が存在しない被告製品2は、構成要件1Aを充足しないと判断する。
しかしながら、「区画」の意義が「しきり。境界。」(甲23)であ
ることは前記⑴ア のとおりである。区画することによって、区画され
る内外の物質の移動までも制限はされない。被告製品2における高分子
25 膜6は、水が導入される筒部材空間(陰極室)と、水が導入される底ケ
ース空間 (陽極室)とを仕切っているから、構成要件1Aにいう「前記
筐体内に設けられて前記筐体内を被電解水が導入される陰極室と被電解
水が導入される陽極室とに区画する隔膜」に該当する。
本件発明2は、本件発明1の原理を応用したものであり、混合ガス、
希釈ガスから塵埃等を除去するために改良が加えられた(本件明細書2
5 の【0004】ないし【0007】))。したがって、本件明細書1の
【0033】において指摘しているとおり、ナフィオン424等の陽イ
オン交換膜においては、膜が水を透過させ、膜が湿潤して含水している
ことが当然の前提となっている。本件明細書2の【0013】には、「隔
膜25としては、筐体20の内部を陽極室21と陰極室22に仕切るこ
10 とができるものであればよい。」として、透水量が0.3cc/cm 2 ・
min以下の多孔性膜を例示している。
原判決は、隔膜が含水して湿潤した状態を考慮していない点で、争点
1-1と同様の誤りをしている。
イ 被控訴人の主張
15 以下のとおり当審における補充主張を加えるほか、原判決第2の3 (被
告の主張)の記載のとおりであるから、これを引用する。
本件訂正発明6において、ナフィオン424等の陽イオン交換膜が湿
潤しているとされるのは、水の電気分解の前段階で陽イオン交換膜を湿
潤させておくとの趣旨であり、陽イオン交換膜が陰極室と陽極室を完全
20 に区画するかどうかとは別個の問題であることは、前記⑴イ で主張し
たとおりであり、それを改良した本件発明2においても、ナフィオン膜
が水を透過させることはない。
被告製品2において、外部から筒部材3に注がれた水は、高分子膜6
の周囲に存在する底蓋12に設けられた11個の孔11、底蓋12の外
25 周と内壁16の内周の隙間、直方体枠10の上部に設けられた窓穴5の
裏面と高分子膜6の上面に接合した網目状の陰極電極板7との網目の隙
間を通って底ケース4の上面に流出し、筒部材3と内壁16に囲まれた
底ケース4の内部空間を満たすことからして、被告製品2の高分子膜6
は当該内部空間を仕切っていない。
⑽ 争点2-2(被告製品2は、構成要件1Cを充足するか)ないし争点2-
5 6(被告製品は、構成要件4Cを充足するか)について
原判決第2の3⑸ないし⑼の記載のとおりであるから、これを引用する。
⑾ 争点3-1(本件特許 1 の無効理由1(サポート要件違反)の有無)
以下のとおり補正するほか、原判決第2の3⒁の記載のとおりである(原
審におけるサポート要件違反①及び同②の主張は撤回され、同③の主張は維
10 持されたものである。)から、これを引用する。
ア 原判決26頁11行目、19行目の各「本件発明1」を、いずれも「本
件訂正発明6」と改める。
イ 原判決26頁16行目の「特許請求の範囲」の次に「(訂正後の請求項
6)」を加える。
15 ウ 原判決26頁20行目の「請求項1」から21行目の「請求項10」ま
でを「訂正後の請求項6」と改める。
エ 原判決27頁8行目の「本件発明1-1」を「本件訂正発明6」と改め
る。
⑿ 争点3-2(本件特許1の無効理由2(明確性要件違反①)の有無)
20 以下のとおり補正するほか、原判決第2の3⒂の記載のとおりであるから、
これを引用する。
ア 原判決27頁12行目の「本件発明1の請求項1」を「本件訂正発明6
(訂正後の請求項6)」と改める。
イ 原判決27頁25行目の「本件発明1」 「本件訂正発明6」
を と改める。
25 ウ 原判決28頁3行目の「本件発明1」から4行目の「10」までを「本
件訂正発明6。訂正後の請求項6」と改める。
エ 原判決28頁12行目、17行目の各「本件発明1-1」を、いずれも
「本件訂正発明6」と改める。
オ 原判決28頁12行目、16行目の各「1D」を、いずれも「11H」
と改める。
5 カ 原判決28頁15行目の「請求項1」 「訂正後の請求項6」
を と改める。
⒀ 争点3-3(本件特許1の無効理由3(明確性要件違反②)の有無)
以下のとおり補正するほか、原判決の第2の3⒃の記載のとおりであるか
ら、これを引用する。
ア 原判決28頁21行目、29頁1行目、3行目の各「請求項1」をいず
10 れも「訂正後の請求項6」と改める。
イ 原判決29頁6行目の「本件発明1」から7行目の「10」までを「本
件訂正発明6。訂正後の請求項6」と改める。
ウ 原判決29頁11行目、26行目の各「1D」を、いずれも「11H」
と改める。
15 エ 原判決30頁1行目の「本件発明1-1」を「本件訂正発明6」と改め
る。
⒁ 争点3-4(本件特許1の無効理由4(進歩性欠如)の有無)
以下のとおり補正するほか、原判決の第2の3⒄の記載のとおりであるか
ら、これを引用する。
20 ア 原判決30頁7行目の「(1A)」を「(11A)」と、12行目の「(1
B)」を「(11B)」と、14行目の「(1C)」を「(11C)」と、
16行目の「(1D’)」を「(11G’)」と、20行目の「(1E)」
を「(11I)」と、それぞれ改める。
イ 原判決30頁15行目末尾に改行して次のように加える。
25 「(11D) 前記陰極室35の内部の陰極板33が前記イオン交換膜3
1に接触させて設けられており、
(11E) 前記陰極室35の外部に、陽極板32を包含する陽極室3
4が設けられており、
(11F) 陰極室35と陽極室34に水が導入されており、」
ウ 原判決30頁21行目、23行目、25行目から26行目、31頁1行
5 目、2行目から3行目、4行目、19行目、20行目、23行目、35頁
19行目、20行目、36頁1行目、4行目の各「本件発明1-1」を、
いずれも「本件訂正発明6」と改める。
エ 原判決30頁22行目の「「陰極室35」、」の次に「「陽極室34」、」
を、24行目の「「電解室」、」の次に「「側室」、」を加える。
10 オ 原判決31頁7行目の「1A」を「11A」と、12行目の「1B」を
「11B」と、13行目の「1C」を「11C」と、15行目の「1D’」
を「11G’」と、17行目の「1E」を「11I」と、それぞれ改める。
カ 原判決31頁14行目末尾に改行して次のように加える。
「11D さらに前記電解室の内部の電極板が前記隔膜に接触させて設け
15 られており、
11E 前記電解室の外部に、前記一対の電極板の一方の電極板を包含
する側室が設けられており、
11F 前記電解室の内部および前記側室に被電解原水が導入されてお
り、」
20 キ 原判決36頁10行目、23行目、37頁11行目の各「本件発明1-
1」を、いずれも「本件訂正発明6」に改める。
ク 原判決36頁11行目から12行目の「1A,1B,1C,1E」を「1
1A、11B、11C、11D、11E、11F、11I」に改める。
ケ 原判決36頁12行目、21行目、37頁9行目の各「1D」を、いず
25 れも「11G、11H」と改める。
コ 原判決37頁11行目の「請求項1」を「請求項6」と改める。
⒂ 争点4-1(本件特許2の無効理由1(サポート要件違反①)の有無)、
4-2(本件特許2の無効理由2(サポート要件違反②)の有無)
原判決第2の3⒅及び⒆の記載のとおりであるから、これを引用する。
⒃ 争点4-3(本件特許2の無効理由3(実施可能要件違反)の有無)
5 以下のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほか、原判決第2
の3⒇の記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の補充主張)
原判決は、本件明細書2には、一対の電極は、いずれも隔膜に接触又はわ
ずかな隙間をもって設けられているから、水の電気分解が生じ得ない記載が
10 されていると判断した。
しかしながら、固体高分子水電解の装置において、陰極室の外部の電極板
が隔膜に接触していない構成でも、被電解原水が一定の電解質を含有すれば、
被電解原水の中をイオンが移動し、水の電気分解は生じる。そして、本件明
細書2の【0017】では、被電解原水に電解質を適宜含有してもよいこと
15 が開示されている。
よって、電解室の内部の電極板が隔膜に接触していない構成であっても、
一定の電解質を含有する被電解原水を使用できる記載があり、当業者であれ
ば、容易に実施可能であると認識することができる。
⒄ 争点4-4(本件特許2の無効理由4(法29条1項柱書違反)の有無)、
20 争点4-5(本件特許2の無効理由5(新規性・進歩性欠如①)の有無)、
争点4-6(本件特許2の無効理由6(新規性・進歩性欠如②)の有無)及
び争点5(控訴人の損害及び損害額)
原判決の第2の3(21)ないし(24)の各記載のとおりであるから、これを引
用する。
25 第3 当裁判所の判断
1 本件明細書等の記載
以下のとおり補正するほか、原判決の第3の1の記載のとおりであるから、
これを引用する。
⑴ 原判決51頁7行目の「本件各特許の特許請求の範囲の記載は、前記前提
事実⑶のとおりである」 「本件訂正審決後の本件特許1に係る特許請求の
を、
5 範囲の請求項6は前記前提事実⑶アの、本件特許2に係る特許請求の範囲の
記載は前記前提事実⑶ウのとおりである」と改める。
⑵ 原判決54頁26行目の「従来技術」の次に「(特開2009-5881号
公報、乙1)」を加える。
2 被告製品1に係る文言侵害の成否について
10 争点1-1-1(被告製品1は構成要件11Aを充足するか)
ア 控訴人は、前記第2の3⑴ア のとおり、被告製品1の構成bについて、
原判決の認定するところに加え、
「ここで、高分子膜10によって内タンク
空間の内部と外部とが仕切られており、上側の網目状の陰極電極板11は
内タンク空間の内部に存在し、一方、高分子膜10の下側の網目状の陽極
15 電極板12は内タンク空間の外部に存在し、外タンク空間の内部に存在
し、」との構成を加えるべきである旨主張するが、被告製品1の客観的特
定としては原判決の認定するところ(引用に係る原判決の第2の1 イ参
照)で十分であって、採用できない。以下、これを前提に判断する。
イ 構成要件11Aの「被電解原水が導入される電解室」とは、これに続く、
20 「前記電解室の内部と外部とを区画する隔膜」という文言にあるように、
「隔膜」によりその内部と外部とが区画されるものであるところ、隔膜に
よる区画については、本件明細書1に、電解室の内部に被電解原水が導入
される旨の記載が存する一方、外部(側室)に、被電解原水が存在しない
場合に関する複数の記載が存在し(【0019】、【0027】)、本件
25 明細書1上、隔膜が被電解原水を外部に連通するものであることは想定さ
れていない。
本件訂正発明6では、「前記電解室の外部に、前記一対の電極板の一方
の電極板を包含する側室が設けられており、前記電解室の内部および前記
側室に被電解原水が導入されており」と、側室を設けて側室にも被電解水
が導入されることを特定するが、本件明細書1には、電解室の外部に被電
5 解原水が存在する場合と存在しない場合に応じて、隔膜の材質や構造を変
えるといった記載はないし、電解室と側室にそれぞれ水を導入する場合に
関する実施例2においては、「・・・電解室と側室に・・・藤沢市水道水
を1.4Lずつ入れ、・・・」(【0036】)として、電解室と側室に
別々に水を導入することが記載されている。
10 そうすると、本件訂正発明6における「被電解原水が導入される電解室」
とは、電解室の内部と外部が別個の独立した状態となるべく、電解室の内
部と外部とで水が連通しないように、隔膜によって、内部と外部とが完全
に区画されているものを指すというべきである。
被告製品1は、引用に係る原判決の第2の1 イによれば、内タンク6
15 と外タンク2とで水が連通するものであり、構成要件11Aの「前記電解
室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」を有さないから、構成要件
11Aを充足しない。
ウ 控訴人は、前記第2の3⑴ア のとおり、本件訂正発明6における「区
画」は、電解室(空間)の内部と外部とを単に仕切るものにすぎず、電解
20 室と外とで被電解原水が外部に連通しないことを意味しない旨主張する
が、本件明細書1には被電解原水が外部に連通することを示唆する記載も
なく、前記イ記載の結論を左右するに足りる事情は見当たらない。したが
って、控訴人の上記主張は採用できない。
また、控訴人は、前記第2の3⑴ア のとおり、本件明細書1の【00
25 33】に、隔膜(陽イオン交換膜)が湿潤して含水し、水が隔膜を透過し
た状態が示されている旨主張するが、本件明細書1の【0033】 「・ ・
の ・
さらに電解室内の電極板も陽イオン交換膜に接触させて設けられている
電解槽の電解室に、水温20.8℃の藤沢市水道水1.4Lを入れるとと
もに陽イオン交換膜にも水を湿潤させた。」との記載は、隔膜(陽イオン
交換膜)を湿潤させることを示すにとどまり、水が電解室の外に流出する
5 ことを示すものとはいえない。
エ 以上のとおり、被告製品1は構成要件11Aを充足しないから、その他
の点について判断するまでもなく、本件訂正発明6についての文言侵害は
成立しないが、均等侵害が成立するか否かを検討する前提として、他の構
成要件についても検討する。
10 被告製品1は構成要件11E及び構成要件11Fを充足するか(争点1-
1-2、争点1-1-3)
ア 被告製品1の構成bにおけるケーシング13は、内タンク6に保持され
る別部材ではあるが、その機能からみれば、水素ガスの発生するケーシン
グ13の陰極電極板11から上を内タンク空間、酸素ガスの発生するケー
15 シング13の陽極電極板12から下を外タンク空間と扱うことは可能で
あり、電解室である内タンク空間の外部に、一対の電極板の一方の電極板
(陽極電極板12)を包含する側室(外タンク空間)があるものといえる。
また、被告製品1において、本件訂正発明6における電解室や側室に相
当する内タンク空間と外タンク空間の双方に、電解水が貯留されている。
20 したがって、被告製品1は、構成要件11E及び構成要件11Fを充足
する。
イ 被控訴人は、前記第2の3⑵イのとおり、被告製品1には側室に相当す
る部材はない旨主張する。
しかし、ケーシング13の陰極電極板11から上を内タンク空間、ケー
25 シング13の陽極電極板12から下を外タンク空間と扱うことが可能であ
ることは前記アのとおりであり、また、構成要件11Eは、側室側の電極
板が陽極か陰極かを特定していないから、被控訴人の主張は採用できない。
被告製品1は構成要件11G及び構成要件11Hを充足するか(争点1-
1-4)
被告製品1は、空気供給器15から供給される空気を水滴防止中蓋9の下
5 面に設けた空気排出口16から送風しており、陰極から約6cm前後上にあ
る陰極水面にも空気を送風し(構成f、構成g)、水素ガス濃度が2.6v
ol%の、水素ガスと空気を含む混合ガスを生体に供給するものであるから
(甲7)、構成要件11G及び構成要件11Hを充足する。
被控訴人は、前記第2の3⑷イのとおり、被告製品1の内タンク水面は、
10 注入される水量及び電気分解の時間経過により時々刻々と変化し、内タンク
水面から7cm離れた位置が混合ガスの導出口より上方に位置する場合は、
希釈用ガスが内タンク水面に送風することがなくなる旨主張するが、引用に
係る原判決第2の1 イ のとおり、被告製品1の使用開始時の水面は、水
1.2L程度注ぎ入れた位置(陰極から水面までの距離は約6cm前後)に
15 なり、この水面の位置は、電気分解の時間経過に伴い下降するものの、大き
く変化するものではないのであるから、上記主張は採用できない。
以上によれば、被告製品1は、構成要件11Aを充足しないが、その他の
構成要件は充足するので、以下、これを前提にして均等侵害の成否について
検討する。
20 3 被告製品1に係る均等侵害の成否について
被告製品1は第1要件を充足するか(争点1-2-1)
ア いわゆる均等論の第1要件で問題となる特許発明の本質的部分とは、当
該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の
技術的思想を構成する特徴的部分であると解される。
25 また、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、
特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許
請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成
する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定される。ただし、
明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところ
が、出願時の従来技術に照らして客観的に不十分な場合には、明細書に記
5 載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られな
い特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。
本件明細書1によれば、本件訂正発明6は、従来技術である生体用水素
ガス供給装置(乙1発明)では、水素ガス発生装置から鼻腔カニューラへ
の導管の一部に空気混合器を取り付けることにより、供給する水素ガスの
10 濃度を任意に設定することができるものであったところ、水素ガス発生装
置から空気混合装置に至る導管において爆発限界を超える水素ガスを通
過させているため、安全に使用することができなかったため 【0004】、
( )
健康上有益な水素ガスを医療の現場や家庭で安全に使用することができ
る生体用水素ガス供給装置を提供するという課題(【0005】)を解決す
15 るため、希釈用ガスを陰極又は陰極水面に送風することにより、水素ガス
を爆発限界外の一定の濃度(4vol%)未満に維持することにした(【0
006】)というものである。そして、本件明細書1の【0007】には、
本件訂正発明6の効果として、
「本発明によれば、健康上有益な水素ガスを、
医療の現場や家庭で安全に使用することができる。」と記載されている。
20 すなわち、本件訂正発明6は、発生した水素ガスに着目して、希釈用ガ
スを陰極又は陰極水面に送風することにより、水素ガスを爆発限界外の一
定濃度未満に維持するものであり、これが本件訂正発明6の本質的部分と
いうべきである。
したがって、本件訂正発明6の「前記電解室の内部と外部とを区画する
25 一つ以上の隔膜」という構成を、被告製品1における「①内タンク6の側
壁の一部、②流出孔3を有する内タンク6の底部、③4つの高分子膜10」
との構成に置換することは、水素ガスの濃度に関わるものでないから、本
質的部分を置換するものとはいえない。
よって、被告製品1は、均等の第1要件を充足する。
イ 被控訴人は、前記第2の3⑸イのとおり、本件明細書1の【0015】
5 の「電極板14、15間に隔膜13を挟まない場合、陰極で発生した水素
ガスに対して陽極で発生した酸素ガスや塩素ガスが混合してしまうこと
になるため、爆発の危険性や生体に対する有毒性の観点から好ましくな
い。 との記載から、
」 水素ガスが発生する陰極又は陰極水面と酸素ガスが発
生する陽極を「隔膜」により区画して両ガスが混合することを防止するこ
10 とも、本件訂正発明6の本質的部分に当たる旨主張する。
しかし、本件明細書1の【0015】の上記記載は、実施形態に関する
記載にすぎないし、また、同記載は、電極板14、15の間に隔膜13を
「挟む」ことの意義を説明するものであって、隔膜により、水素ガスと酸
素ガスの発生場所を区画することの技術的意義を記載したものとは理解
15 されるが、水素ガスの発生場所の空間と酸素ガスの発生場所の空間が互い
に、水や発生ガスが連通することがないように独立した構造に区画され、
かつ、その区画に用いられるものが隔膜のみであることの技術的意義を記
載したものとまで理解することはできない。よって、被控訴人の上記主張
は採用できない。
20 被告製品1は第2要件を充足するか(争点1-2-2)
ア 本件訂正発明6は、健康上有益な水素ガスを医療の現場や家庭で安全に
使用することができる生体用水素ガス供給装置を提供することを課題と
し、水素ガスが発生する陰極表面もしくは陰極水面に希釈用ガスを吹き付
けることにより、水素ガス発生の時点から生体に送り届けられるまでのあ
25 らゆる時点において、水素ガスを爆発限界外の濃度である4vol%未満
に維持することにより、健康上有益な水素ガスを、医療の現場や家庭で安
全に使用することができるという作用効果を奏するものである(【000
4】ないし【0007】 。

本件訂正発明6における「前記電解室の内部と外部とを区画する一つ以
上の隔膜」という構成を、被告製品1における「①内タンク6の側壁の一
5 部、②流出孔3を有する内タンク6の底部、③4つの高分子膜10」との
構成に置換したとしても、水素ガスの濃度に影響するものではなく、実験
成績証明書(甲7)によれば、被告製品1は、陰極から約6cm前後上に
ある陰極水面にも空気を送風しており、水素ガス濃度が2.6vol%の、
水素ガスと空気を含む混合ガスを生体に供給するものであるから、本件訂
10 正発明6と同様の効果が奏されるものといえる。よって、被告製品1は、
第2要件を充足する。
イ 被控訴人は、前記第2の3⑹イのとおり、前記アのような置換をすると、
陰極電極板11で発生した水素ガスと陽極電極板12で発生した酸素ガ
スが混合することになり、本件訂正発明と同一の作用効果を奏しない旨主
15 張するが、同主張は、前記 において認定した本件訂正発明6の本質的部
分に基づく作用効果(前記ア参照)に関わるものとはいえない。
また、被告製品1においては、水素ガスが高分子膜10の上側の陰極電
極板11で発生し、直接内タンク6内に流入するのに対し、酸素ガスは、
高分子膜10の下側の陽極電極板12において発生するものであり、水素
20 ガスと酸素ガスの発生場所は高分子膜10によって区画されるものであっ
て、酸素ガスの内タンク内への流入は抑制されているのであるから、本件
訂正発明6の効果を妨げるような構造であるとまではいえない。
よって、被控訴人の上記主張は採用できない。
被告製品1は第3要件を充足するか(争点1-2-3)
25 ア 被告製品1の製造開始時において、本件訂正発明6における「前記電解
室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構成を、被告製品1
における「①内タンク6の側壁の一部、②流出孔3を有する内タンク6の
底部、③4つの高分子膜10」との構成に置換することは、当業者が容易
に想到し得たかについて検討する。
イ 前記2のとおり、本件訂正発明6においては、構成要件11Aの隔膜に
5 よる区画は、隔膜によって電解室の内部と外部とが完全に区画されるもの
であり、電解室の内部と外部とは、水が連通することがない独立した構造
となっている。また、本件明細書1においては、電解室の内部と外部を分
ける隔膜は、縦に設置されたもののみが開示され、陽極で発生する水素と
陰極で発生する水素は、別空間に排出されると理解される。
10 これに対し、被告製品1は、内タンク空間と外タンク空間の間を水が連
通する構成の下で高分子膜10を水平に配置し、高分子膜10の上側に保
持された陰極電極板11で発生する水素ガスと、高分子膜10の下側に保
持された陽極電極板12で発生する酸素ガスの混合が起こり得る状態を
許容した上で、陽極電極板12で発生した酸素ガスは、枠体5内に集めて
15 大きな気泡を形成し、流出孔3から内タンク6内に進入するのを防止した
上、内タンク6と外タンク2の隙間内の水内を通って外部に排出するとい
うものである(乙29の1・2)。そうすると、本件訂正発明6と被告製品
1は、その基本的発想を異にするものというべきであって、被告製品1に
おける「①内タンク6の側壁の一部、②流出孔3を有する内タンク6の底
20 部、③4つの高分子膜10」との構成への置換が本件訂正発明6の単なる
設計変更とはいえない。
また、本件明細書1においては、
「前記電解室の内部と外部とを区画する
一つ以上の隔膜」との構成を、被告製品1のような「①内タンク6の側壁
の一部、②流出孔3を有する内タンク6の底部、③4つの高分子膜10」
25 との構成に置換した場合に生じ得る事項についての示唆もないから、本件
明細書1において、上記のような置換をする動機付けとなるものも認めら
れない。
ウ 控訴人は、前記第2の3⑺アのとおり、陽イオン交換膜を用いた固体高
分子水電解において、陰極室と陽極室を貫通孔により水を連通する構成は、
被控訴人が製造販売を開始した平成29年11月以前から周知の技術で
5 あるとして、甲36文献、甲37文献、甲40文献を提示するので、以下、
検討する。
甲37文献は、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び
廃水・廃液処理方法に関するものであり(【0001】 、電解反応を利用

した化学物質の製造において、多くの電解セルでは、陽極側と陰極側に
10 存在する溶液あるいはガスが物理的に互いに分離された構造を採るが、
一部の電解プロセスにおいては、陽極液と陰極液が互いに混じり合うこ
とを必要とするか、あるいは、混じり合うことが許容されることを前提
として 【0002】 、
( ) 陽極側と陰極側が固体高分子電解質隔膜により物
理的に隔離され、陽極液と陰極液は互いに隔てられ、混合することなく
15 電解が行われる従来のオゾン水電解(【0005】)では、電解反応の進
行に伴い液組成が変化し、入側と出側で反応条件が異なるなどの問題点
があったことを踏まえ 【0006】 、
( ) 電解セルの流入口より流入した原
料水がその流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである
両電極面に到達し、オゾン水を高効率で製造できる等の作用を有するオ
20 ゾン水製造装置等を提供することを目的とした ものである(【001
6】 。

その技術分野(オゾン水製造装置)及び目的(オゾン水を高効率で製
造すること等)のいずれも本件訂正発明6と異なるし、その具体的構成
も、貫通孔11が設けられた電解セル8(陽極1、陰極2及び固体高分
25 子電解質隔膜3)に直交して原料水(オゾン水)の流路が設けられると
いうものであって(【0034】及び【0035】 、電極室の内部に被電

解原水が貯留され、電気分解が行われる本件訂正発明6とは異なる。し
たがって、甲37文献に開示された事項を本件訂正発明6に適用する動
機付けは見い出せない。
甲40文献は、電源のない場所に持ち運び、水素の吸入や水素水の飲
5 用に使用することのできるポータブル型電解装置に係る技術分野に属す
るものであり(【0001】 、電解ユニット3は、ケーシング31、高分

子膜32、電極板33、34、スプリング35からなること 【0028】 、
( )
ケーシング31は、内部に反応室311となる容積が確保されており、
側部に外部と反応室311とを連通するように穿孔された連通孔314
10 が設けられていること 【0029】 、
( ) 電解ユニット3の高分子膜32は、
イオンの通過を規制するイオン交換機能を有する薄膜からなるもの(例
えば、ナフィオン)で、ケーシング31の窓孔311を閉塞する大きさ
の方形に形成されていること(【0030】)が記載され、使用形態とし
て、内部に原水Wが収容されたタンク1にキャップ2、ガイド筒4、水
15 素吐出管5を一体的に取付けられること 【0034】 、
( ) スイッチ9が入
れられると、原水Wが電気分解され、ケーシング31の反応室311の
内部にあるプラス極の電極板34で水素イオンと電子とが生成されて高
分子膜32を通過し、ケーシング31の窓孔312に露出しているマイ
ナス極の電極板33で水素(ガス)が生成され、水素は、微細な気泡H
20 を形成してタンク1の内部で水素水からなる電解水を生成すること、プ
ラス極の電極板34で生成されたオゾン(ガス)は、高分子膜32を通
過することなくケーシング31の反応室311の内部に滞留され、ケー
シング31の反応室311の内部の滞留圧力が大きくなると連通孔31
4から吐出されること(【0041】)が記載されている。
25 しかし、甲40文献には、陰極室及び陽極室についての記載はないか
ら、これを見ても、陰極室と陽極室とを貫通孔により水を連通する構成
が記載されているとはいえない。別紙2の図2において、マイナス極の
電極板33より上側部分を陰極室と、プラス極の電極板34より下側の
反応室を陽極室であると解釈すると、連通孔314は、陽極室とその外
部を貫通するものであって、陽極室と陰極室を貫通するものではない。
5 マイナス極の電極板33より上側部分と、ケーシング31側面の外側部
分はつながった空間であることから、ケーシング31側面の外側部分も
陰極室であるとみた場合には、連通孔314は、陽極室(反応室)と陰
極室(ケーシング31側面の外側部分)を貫通するものであるといえる
が、酸素と水素が同じ陰極室内に排出されることになり、被告製品1の
10 構成に至らない。
甲36文献に係る発明の公開日は平成30年11月22日であり、甲
36文献自体の発行日は令和2年3月11日であるから、その内容や位
置付けについて検討するまでもなく、甲36文献は、被控訴人が被告製
品1の製造販売を開始した平成29年11月時点における周知文献とは
15 いえない。
エ 以上によれば、控訴人主張の周知技術は、いずれも、本件訂正発明6に
おける「前記電解室の内部と外部とを区画する一つ以上の隔膜」という構
成を、被告製品1における「①内タンク6の側壁の一部、②流出孔3を有
する内タンク6の底部、③4つの高分子膜10」との構成に置換する動機
20 付けになるものとはいえない。
これらの事実関係によれば、このような置換が容易であったとはいえな
いから、被告製品1は、均等の第3要件を充足しない。
前記 ないし によれば、被告製品1は、均等の第1要件及び第2要件を
充足するものの、第3要件を充足しないから、第5要件について判断するま
25 でもなく、本件訂正発明6の技術的範囲に属しない。
4 被告製品2に係る文言侵害の成否について
争点2-1(被告製品2は、構成要件1Aを充足するか)
ア 当裁判所も、被告製品2は構成要件1Aを充足しないものと判断する。
その理由は、後記イのとおり当審における控訴人の補充主張に対する判
断を付加するほか、原判決の第3の3⑴の説示のとおりであるから、これ
5 を引用する。
イ 当審における控訴人の補充主張に対する判断
控訴人は、前記第2の3⑼ア のとおり、構成要件1Aにおける「区画」
の意義が「しきり。境界。」であり、区画することによって、区画される内
外の物質の移動までも制限はされないと主張するが、引用に係る原判決の
10 第3の3⑴における説示のとおり、構成要件1Aの記載及び本件明細書2
の記載に照らせば、本件発明2-1において、構成要件1Aの「前記筐体
内に設けられて前記筐体内を被電解水が導入される陰極室と被電解水が
導入される陽極室とに区画する隔膜」との文言は、陰極室内の被電解水と
陽極室内の被電解水が連通しない状態となり、陰極室と陽極室とがそれぞ
15 れ、別個に、被電解水を導入するための被電解水入口を有するように、筐
体内を陰極室と陽極室とに完全に区画する膜を意味すると解するのが相
当である。
また、控訴人は、前記第2の3⑼ア のとおり、本件発明2は本件発明
1を改良したものであり、隔膜が湿潤して含水し、水を透過させているこ
20 とが当然の前提となっている旨主張するが、本件明細書1の【0033】
が隔膜(陽イオン交換膜)を湿潤させることを示すにとどまり、水が電解
室の外に流出することを示すものではないことは前記2⑴ウのとおりで
ある。
よって、控訴人の上記各主張は、いずれも採用できない。
25 ウ 以上によれば、被告製品2は構成要件1Aを充足しないから、争点2-
2(被告製品2は、構成要件1Cを充足するか)について判断するまでも
なく、本件発明2-1の技術的範囲に属するということはできない。
争点2-3(被告製品2は、構成要件2Aを充足するか)
当裁判所も、被告製品2は構成要件2Aを充足しないものと判断する。
その理由は、原判決の第3の4⑴の説示のとおりであるから、これを引用
5 する。
そうすると、被告製品2は、構成要件2Aを充足しないから、争点2-4
(被告製品2は、構成要件2Cを充足するか)について判断するまでもなく、
本件発明2-2の技術的範囲に属するということはできない。
争点2-5(被告製品2は、構成要件4Aを充足するか)
10 当裁判所も、被告製品2は構成要件4Aを充足しないものと判断する。
その理由は、原判決の第3の5⑴の説示のとおりであるから、これを引用
する。
そうすると、被告製品2は構成要件4Aを充足しないから、争点2-6(被
告製品2は、構成要件4Cを充足するか)について判断するまでもなく、本
15 件発明2-4の技術的範囲に属するということはできない。
前記 ないし のとおり、被告製品2は、本件発明2-1、2-2、2-
4の各技術的範囲のいずれにも属さないものであるところ、本件発明2-6
の構成要件6Bは、本件発明2-1、2-2を引用しているから、被告製品
2は、本件発明2-6の技術的範囲にも属しない。
20 5 以上によれば、被告製品1は、文言侵害、均等侵害のいずれの意味において
も本件特許権1を侵害するものではないから、本件特許権1に基づく各請求は、
その他の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
また、被告製品2は、本件特許権2を侵害するものではないから、控訴人の
被控訴人に対する本件特許権2に基づく各請求は、その他の争点について判断
25 するまでもなく、いずれも理由がない。
第4 結論
以上のとおりであって、控訴人の請求はいずれも理由がないから、これらを
いずれも棄却した原判決は相当である。
したがって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
10 菅 野 雅 之
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岡 山 忠 広
(別紙1)
【図1】
5 【図2】
【図3】
(別紙2)
【図1】
【図2】
(別紙3)

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