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令和3(ワ)29302発信者情報開示請求事件

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裁判所 認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和4年12月12日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社WILL
被告ソフトバンク株式会社
法令 著作権
キーワード 侵害25回
損害賠償2回
実施2回
分割1回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者ら(以下「本件発信者ら」という。)がいわゆる ファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著 作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を送信可能化したことに20 よって、本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対 し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関す る法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信 者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事 案である。25 なお、本件では、BitTorrentの仕組み、著作権侵害調査の正確性等 を確認するため、技術説明会(甲17)を実施して、争点を整理している。 2 前提事実(証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものと する。) 当事者 ア 原告は、アダルトDVD等の制作、販売等を目的とする株式会社である。5 (弁論の全趣旨)

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判決文

令和4年12月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第29302号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和4年10月28日
判 決
5 原 告 株 式 会 社 W I L L
同訴訟代理人弁護士 戸 田 泉
同 角 地 山 宗 行
同 籠 屋 恵 嗣
被 告 ソフトバンク株式会社
10 同訴訟代理人弁護士 金 子 和 弘
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
15 第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、氏名不詳者ら(以下「本件発信者ら」という。)がいわゆる
ファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著
20 作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を送信可能化したことに
よって、本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対
し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関す
る法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信
者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事
25 案である。
なお、本件では、BitTorrentの仕組み、著作権侵害調査の正確性等
を確認するため、技術説明会(甲17)を実施して、争点を整理している。
2 前提事実(証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものと
する。)
当事者
5 ア 原告は、アダルトDVD等の制作、販売等を目的とする株式会社である。
(弁論の全趣旨)
イ 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であって、一般利用者に向
けてインターネット接続サービスを提供しており、プロバイダ責任制限法2
条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。(弁論の全趣旨)
10 本件各動画に係る著作権の帰属
原告は、本件各動画の著作権者である。(甲1、2、9ないし11、弁論の
全趣旨)
⑶ BitTorrentの仕組み
BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有ソフトであり、
15 その概要や使用の手順は、次のとおりである。(甲3、17、弁論の全趣旨)
ア BitTorrentでは、特定のファイルを配布する場合、まず、当該
ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割されたデータ(ピース)
をBitTorrentネットワーク上のユーザーに分散して共有させる。
イ BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようと
20 するユーザーは、まず、「トラッカーサイト」と呼ばれるウェブサイトに接
続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウン
ロードする。
そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentに読
み込ませることにより、BitTorrentが、当該トレントファイルに
25 記録されたトラッカーサーバーに接続し、当該特定のファイルの提供者のリ
ストを要求することになる。トラッカーサーバーは、ファイルの提供者を管
理するサーバーであり、上記の要求に応じ、自身にアクセスしているファイ
ル提供者のIPアドレスが記載されたリストをユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数の
ユーザーに接続し、それぞれから、当該ピースのダウンロードを開始する。
5 そして、全てのピースのダウンロードが終了すると、元の一つの完全なファ
イルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは、
「シーダー」と呼ばれる。また、
目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」
と呼ばれるが、ダウンロードが完了し、完全な状態のファイルを保有すると、
10 当該ユーザーは自動的にシーダーとなり、今度は、リーチャーからの求めに
応じて、当該ファイルの一部(ピース)をアップロードしてリーチャーに提
供することになる。
また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前で
あっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャー
15 の求めに応じてアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイ
ルをダウンロードすると同時に、当該ファイルについて同時にアップロード
可能な状態に置かれることになり、他のリーチャーに当該ファイルの一部を
送信することが可能な状態になっている。
オ BitTorrentは、このようなユーザー相互間のデータの授受を通
20 じて、中央管理的なサーバーを必要とすることなく、大容量のファイルを高
速でダウンロードすることを可能にするものである。
⑷ 原告による著作権侵害調査の概要
ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社LEAF(以下「本件調査
会社」という。)に対し、本件各動画の著作権侵害に係る調査(以下「本件
25 調査」という。)を依頼したところ、同社から、本件発信者らが、別紙動画
目録⑴及び⑵記載の各発信時刻に、同目録記載のIPアドレスの割当てを受
けてインターネットに接続し、BitTorrentを使用した上で、本件
各動画のファイルを自動的に送信し得る状態に置いていた旨の報告を受け
た。(甲6、弁論の全趣旨)
イ 本件調査会社は、本件調査を実施するに当たって、自ら販売し、使用して
5 いる著作権侵害検出システム(以下「本件検知システム」という。)を使用
した。(甲4、6、弁論の全趣旨)
⑸ 被告による本件発信者情報の保有
被告は、本件発信者情報を保有している。(弁論の全趣旨)
第3 争点及びこれに対する当事者の主張
10 本件の争点は、権利侵害の明白性及び特定電気通信該当性であり、この点に関
する当事者の主張は、以下のとおりである。
(原告の主張)
1 本件調査の内容
本件調査に当たり、本件検知システムは、まず、トレントクライアント(Bi
15 tTorrentを利用するための個々のソフトウェア)同士で特定のハッシュ
を共有している他のIPアドレスを探すため、BitTorrentネットワー
ク上のシステムに参加する。そして、本件検知システムは、あるピア(当該ネッ
トワークに参加しているコンピューター。以下同じ。)からダウンロードのリク
エストが送られてくると、当該リクエストの時間、リクエストを行ったピアのI
20 Pアドレス、リクエストされたハッシュ値、リクエストを行ったピアのノードI
D等をデータベースに記録する。本件調査会社の担当者は、このハッシュ値につ
いて誤検知がないか等を確認した上で、本件調査において監視対象とするハッシ
ュ値を決定した。
BitTorrentは、トラッカーサーバーに接続し、特定のファイルの提
25 供者のリストを要求すると、要求を受けたトラッカーサーバーが、自身にアクセ
スしている提供者のIPアドレス等が記載されたリストをユーザーに返信する
という仕組みであるところ、本件調査は、この仕組みを利用し、トラッカーサー
バーに接続して本件各動画のファイルの提供者のリストを要求し、要求を受けた
トラッカーサーバーから、自身にアクセスしている提供者のIPアドレス等が記
載されたリストの返信を受けるというものである。そして、本件検知システムに
5 おいて、実際に当該リストに記録されていた各ユーザーに接続をしたところ、当
該各ユーザーからの応答が確認されており(以下、この応答が確認されたことを
「Handshake」という。)、別紙動画目録⑴及び⑵記載の「発信時刻」
欄記載の各日時は、その応答確認(Handshake)が行われた日時である。
2 権利侵害の明白性
10 Handshakeが行われたということは、本件発信者らが、BitTor
rentシステムを介して、本件検知システムの要求に応じて、自動的に本件各
動画をダウンロードできる状態にしていたことを示すものであり、Handsh
akeによって、原告の送信可能化権が侵害されたことは明らかである。
3 本件各動画との同一性
15 本件発信者らは、BitTorrentのネットワーク上にそれぞれアクセス
した上で、ハッシュが付されたファイルをアップロードできる状態にしていた。
そして、本件各動画とこれらのハッシュごとのファイルの動画とを比較すると、
いずれの動画も本件各動画と同一のものであることが確認された。
4 特定電気通信該当性
20 本件調査において、本件検知システムは実際に本件発信者らに接続をして、本
件発信者らが応答することの確認(Handshake)を行っているところ、
このときの本件発信者らからの送信は、不特定の者によって受信されることを目
的とする電気通信の送信、すなわちプロバイダ責任制限法上の「特定電気通信」
に該当するものである。
25 (被告の主張)
1 権利侵害の明白性
本件発信者らが、原告の著作権を侵害したというためには、本件発信者らがフ
ァイルのダウンロードを100%完了し、実際にファイルを閲覧できる状態に至
ったことを要するから、ファイル保持率が100%に至っていない場合は、閲覧
不能な以上、著作権を侵害したとはいえない。このことは、「P2P型ファイル
5 交換ソフトによる権利侵害情報検出システムの技術的認定要件」(乙1)におい
て、ピースを送信可能状態にしているだけでは足りず、ファイル全体を送信可能
状態としていることを要するとしていることからも、明らかである。
2 本件各動画との同一性
本件発信者らが、原告の著作権を侵害したというためには、本件発信者らがダ
10 ウンロードしたファイルが、原告により権利侵害情報と判定されたファイルと同
一のファイルであることが検証されなければならない。すなわち、特定のトレン
トファイルを対象にBitTorrent互換ソフトウェアを用いて実際のフ
ァイルをダウンロードし、内容が著作権侵害物であることが実際に確認される必
要がある。
15 ところが、本件調査においては、監視対象となったピアがダウンロードしたと
される実際のファイルを、本件調査会社はダウンロードしておらず、監視対象の
ピアにおいてダウンロードしたファイルの内容が、本件各動画と同一の動画であ
ったことは何ら確認されていない。
3 特定電気通信該当性
20 本件調査において記録された通信記録は、本件検知システムと監視対象である
ピアとの間で行われた一対一の通信記録にすぎないから、この通信が不特定の第
三者に伝播されることはなく、特定電気通信と評価することはできない。
第4 当裁判所の判断
1 争点に対する判断
25 認定事実
前記前提事実、証拠(甲3ないし7、17)及び弁論の全趣旨によれば、本
件調査につき、次の事実が認められる。
ア 本件検知システムは、まず、トレントクライアント(BitTorren
tを利用するための個々のソフトウェア)同士で特定のハッシュを共有して
いる他のIPアドレスを探すため、BitTorrentネットワーク上の
5 システムに参加する。
イ 本件検知システムは、あるピアからファイルのダウンロードのリクエスト
が送られてくると、リクエストされたハッシュ値等をデータベースに記録し、
本件調査会社の担当者の確認を経て、監視対象となるピアが決定される。
ウ 当該監視対象となるピアは、監視ソフトによってファイル保持率等の情報
10 を定期的に取得され、当該情報は、本件検知システムに伝えられて、同シス
テムに記録される。具体的には、監視ソフトがトラッカーサーバーに接続し、
本件各動画(全部又は一部をいう。以下1において同じ。)に係るファイル
の提供者のリストを要求して、トラッカーサーバーから、当該提供者のIP
アドレス等が記載されたリストの返信を受ける。そして、当該リストは、本
15 件検知システムに記録されるので、同システムは、当該リストに記録された
各ユーザーに接続をして、当該各ユーザーからの応答を確認する(Hand
shake)。なお、別紙動画目録⑴及び⑵記載の「発信時刻」欄記載の各
日時は、その応答確認(Handshake)が行われた日時である。
エ なお、上記各ユーザーは、ファイルをその端末に既にダウンロードすると
20 同時に、当該ファイルについて同時にアップロード可能な状態となっており、
不特定多数の者に当該ファイルを送信することが可能な状態になっている。
⑵ 権利侵害の明白性
前記前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び上記認定事実記載
の本件検知システムの仕組み等によれば、本件発信者らは、本件各動画をその
25 端末にダウンロードして、本件各動画を不特定多数の者からの求めに応じ自動
的に送信し得るようにした上、別紙動画目録⑴及び⑵記載のIPアドレス及び
ポート番号の割当てを受けてインターネットに接続し、Handshakeの
時点である別紙動画目録⑴及び⑵記載の「発信時刻」欄記載の各日時において、
不特定の者に対し、BitTorrentのネットワークを介して本件各動画
に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知したもの
5 と認めるのが相当である。そして、当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣
旨によっても、侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせ
る事情を認めることはできない。
これらの事情を踏まえると、本件発信者らは、Handshakeの時点に
おいて、不特定の者に対し、BitTorrentのネットワークを介して本
10 件各動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知
しているのであるから、本件発信者らによるHandshakeに係る情報は、
プロバイダ責任制限法5条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に該当
するものと解するのが相当である。また、本件発信者らによるHandsha
keに係る情報は、上記のとおり、不特定の者において、本件各動画に係る送
15 信可能化権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で、必要な電
気通信の送信であるといえるから、「特定電気通信」にも該当するものと解す
るのが相当である。
⑶ 被告の主張
ア 被告は、ファイル保持率が100%に至っていない場合は、閲覧不能な以
20 上、著作権を侵害したとはいえないと主張する。しかしながら、証拠(甲1
6)及び弁論の全趣旨によれば、ファイル保持率が100%ではない場合、
すなわち、ファイルのダウンロードが100%まで完了していない場合であ
っても、ファイルの閲覧が可能であることが認められるから、前記認定に係
るBitTorrentの仕組み及び本件各動画に係る著作物の内容等に
25 照らし、少なくとも著作権の一部を侵害したものと認めるのが相当である。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
イ 被告は、監視対象のピアにおいてダウンロードしたファイルの動画が、本
件各動画と同一の動画であったことは何ら確認されていないから、当該ファ
イルのダウンロードが原告の著作権を侵害したことの立証がない旨主張す
る。しかしながら、証拠(甲6、7、15、17)及び弁論の全趣旨によれ
5 ば、ハッシュとは、データ(ファイル)を特定の関数で計算して得られる値
であり、元のデータが同じであれば、必ず同じ値がハッシュ関数によって生
成されるところ、本件各動画と、監視対象のハッシュに該当するファイルの
動画を比べると(甲15)、少なくとも当該ファイルの動画が、本件各動画
の該当動画と同一内容のものであることが立証されていることからすると、
10 その余のハッシュに該当する各ファイルの動画についても、本件各動画と同
一内容のものであると推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠は
ない。そうすると、上記ハッシュに該当する各ファイルの動画は、本件各動
画と同一内容の動画であると認めるのが相当である。したがって、被告の主
張は、採用することができない。
15 ウ 被告は、本件調査における通信記録は、一対一の通信記録にすぎないから、
特定電気通信と評価することはできないと主張する。しかしながら、Han
dshakeに係る情報が、不特定の者において、本件各動画に係る送信可
能化権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で、必要な電気
通信の送信であるといえることは、上記において説示したとおりである。し
20 たがって、被告の主張は、採用することができない。
エ その他に、被告提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、被告の
主張は、技術説明会における技術説明及びこれを踏まえた口頭議論の内容等
を踏まえると、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告の主張は、
いずれも採用することができない。
25 ⑷ 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者らに対し、損害賠償請求を予定
していることが認められることからすると、原告には本件発信者情報の開示を
受けるべき正当な理由があるものといえる。
⑸ したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、
本件発信者情報の開示を求めることができる。
2 結論
5 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容し、仮執行宣言については、
相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
裁判官
小 田 誉 太 郎
裁判官
古 賀 千 尋
(別紙)
発 信 者 情 報 目 録
別紙動画目録(1)及び(2)記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻
5 頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
① 氏名又は名称
② 住所
③ 電子メールアドレス
(別紙)著作物目録、動画目録(1)及び動画目録(2)は省略

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