令和4(行ケ)10007審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年1月18日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告ダイキン工業株式会社
ダイキンアプライドアメリカズインコーポレィティッド 被告特許庁長官
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対象物 |
熱搬送システム |
法令 |
特許権
特許法50条2回 特許法29条2項1回
|
キーワード |
審決180回 実施29回 刊行物26回 進歩性12回 特許権1回 拒絶査定不服審判1回 優先権1回
|
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 原告らにつき、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告らは、平成30年(2018年)6月19日(パリ条約による優先権10
主張外国庁受理 平成29年(2017年)6月23日 (US)アメリカ
合衆国。以下、平成29年(2017年)6月23日を「本願優先日」とい
う。)を国際出願日として、発明の名称を「熱搬送システム」とする特許出願
(平成30年(2018年)12月27日国際公開、WO2018/235
832、特願2019-525638号、出願当初の請求項の数10。以下15
「本願」という。)を行った(以下、本願の願書に添付された明細書を図面と
併せて「本願明細書等」という。本願明細書等は、別紙再公表特許公報(W
O2018/235832、甲1)のとおりである。)。
⑵ 原告らは、令和2年3月16日付け拒絶理由通知を受け、同年4月15日
に意見書及び手続補正書を提出し、同手続補正書により、特許請求の範囲の20
記載を補正したが(この補正により、請求項の数は11となった。)、同月2
8日付けで拒絶査定を受けた。
原告らは、令和2年9月11日、拒絶査定不服審判(不服2020-12 |
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判決文
令和5年1月18日判決言渡
令和4年(行ケ)第10007号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年11月1日
判 決
原 告 ダイキン工業株式会社
10 原 告 ダイキン アプライド アメリカズ
インコーポレィティッド
原告ら訴訟代理人弁護士 小 松 陽 一 郎
同 藤 野 睦 子
15 同 原 悠 介
同訴訟代理人弁理士 加 藤 秀 忠
同 上 田 雅 子
被 告 特 許 庁 長 官
20 同 指 定 代 理 人 山 崎 勝 司
同 平 城 俊 雅
同 松 下 聡
同 青 木 良 憲
同 清 川 恵 子
25 主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 原告らにつき、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための
付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
5 第1 請求
特許庁が不服2020-12722号事件について令和3年9月10日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
10 ⑴ 原告らは、平成30年(2018年)6月19日(パリ条約による優先権
主張外国庁受理 平成29年(2017年)6月23日 (US)アメリカ
合衆国。以下、平成29年(2017年)6月23日を「本願優先日」とい
う。
)を国際出願日として、発明の名称を「熱搬送システム」とする特許出願
(平成30年(2018年)12月27日国際公開、WO2018/235
15 832、特願2019-525638号、出願当初の請求項の数10。以下
「本願」という。)を行った(以下、本願の願書に添付された明細書を図面と
併せて「本願明細書等」という。本願明細書等は、別紙再公表特許公報(W
O2018/235832、甲1)のとおりである。。
)
⑵ 原告らは、令和2年3月16日付け拒絶理由通知を受け、同年4月15日
20 に意見書及び手続補正書を提出し、同手続補正書により、特許請求の範囲の
記載を補正したが(この補正により、請求項の数は11となった。、同月2
)
8日付けで拒絶査定を受けた。
原告らは、令和2年9月11日、拒絶査定不服審判(不服2020-12
722号、以下「本件審判」という。)を請求した。
25 特許庁は、令和3年9月10日、本件審判について、結論を「本件審判の
請求は、成り立たない。 とする審決
」 (以下「本件審決」という。本件審決は、
別紙のとおりである。 をし、
) その謄本は、同月28日、原告らに送達された。
なお、出訴期間として原告ダイキン アプライド アメリカズ インコーポ
レィティッドに対し90日が附加された。
⑶ 原告らは、令和4年1月21日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提
5 起した。
2 特許請求の範囲の記載
本願の請求項1ないし11に係る発明は、令和2年4月15日に提出された
手続補正書(甲7)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に
記載された事項により特定されるものであり、本願の請求項1(以下、上記補
10 正後の請求項1を「請求項1」という。 に係る発明
) (以下「本願発明」という。)
は、次のとおりである(本件審決2〔本件審決2頁〕(なお、AないしIの分
)
説の符号は、本判決において付した。。
)
A 冷媒を昇圧する冷媒昇圧機と、
B 前記冷媒と室外空気とを熱交換させる室外空気熱交換器と、
15 C 前記冷媒と熱搬送媒体とを熱交換させる媒体熱交換器と、
D 前記室外空気熱交換器を前記冷媒の放熱器として機能させ、かつ、前記媒
体熱交換器を前記冷媒の蒸発器として機能させる冷媒放熱状態と、前記室外
空気熱交換器を前記冷媒の蒸発器として機能させ、かつ、前記媒体熱交換器
を前記冷媒の放熱器として機能させる冷媒蒸発状態と、を切り換える冷媒流
20 路切換機と、
を有しており、前記冷媒としてHFC-32からなる流体が封入された冷媒
回路と、
E 前記熱搬送媒体を昇圧する媒体昇圧機と、
F 前記媒体熱交換器と、
25 G 前記媒体熱交換器を前記熱搬送媒体の放熱器として機能させる第1媒体
放熱状態と、前記媒体熱交換器を前記熱搬送媒体の蒸発器として機能させる
第1媒体蒸発状態と、を切り換える第1媒体流路切換機と、
H 前記熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させる複数の室内空気熱交換器と、
を有しており、前記熱搬送媒体として二酸化炭素が封入された媒体回路と、
を備えた、
5 I 熱搬送システム。
3 本件審決の理由の要旨
⑴ 引用文献記載の発明等
ア 引用文献1(特開2008-20083号公報、甲11)記載の発明
本件審決が認定した引用文献1記載の発明(以下「引用発明」という。)
10 は、次のとおりである(本件審決4の4-1⑵〔本件審決8、9頁〕。
)
1次側冷凍サイクル10と、2次側冷凍サイクル20とを備えた2元冷
凍サイクル装置1であって、
2元冷凍サイクル装置1は、1次側冷凍サイクル10の冷媒(1次側冷
媒)と2次側冷凍サイクル20の冷媒(2次側冷媒)とが熱交換できるよ
15 うに形成された中間熱交換器300とを備え、
1次側冷凍サイクル10は、第1圧縮機100と、この第1圧縮機10
0の吐出口に連結された第1四方弁150と、この第1四方弁150に連
結された室外熱交換器160と、この室外熱交換器160に連結された第
1膨張機構170と、この第1膨張機構170に連結され、中間熱交換器
20 300に組み込まれた第1中間熱交換器300Aと、この第1中間熱交換
器300Aに第1四方弁150を介して連結されたアキュムレータ18
0とを順次備え、このアキュムレータ180は圧縮機100の吸込口へと
連結され、
2次側冷凍サイクル20は、第2圧縮機200と、この第2圧縮機20
25 0の吐出口から連結された第2四方弁250と、この第2四方弁250に
連結され、中間熱交換器300に組み込まれた第2中間熱交換器300B
と、この第2中間熱交換器300Bに連結された第2膨張機構260と、
この第2膨張機構260に連結された室内熱交換器270と、この室内熱
交換器270に第2四方弁250を介して連結されたアキュムレータ2
80とを順次備え、このアキュムレータ280は圧縮機200の吸込口へ
5 と連結され、
中間熱交換器300は、第1中間熱交換器300Aと第2中間熱交換器
300Bとを備えており、1次側冷媒と2次側冷媒とを熱交換可能に構成
され、
2元冷凍サイクル装置1の冷房運転時は、1次側冷媒は室外熱交換器1
10 60で凝縮され、第1中間熱交換器300Aで蒸発し、2次側冷媒は第2
中間熱交換器300Bにおいて放熱し冷熱を得て、室内熱交換器270に
よって室内の熱を吸収し室内空気を冷却し、
冷凍サイクル1の暖房運転時は、1次側冷媒は、第1中間熱交換器30
0Aで凝縮され、室外熱交換気160で蒸発し、2次側冷媒は室内熱交換
15 器270において放熱し室内空気を暖め、第2中間熱交換器300Bによ
って蒸発し、
2元冷凍サイクル装置1は、1次側冷凍サイクル10に使用する1次側
冷媒をHC系冷媒であるプロパンを用い、2次側冷凍サイクル20に使用
する2次側冷媒に二酸化炭素冷媒を用いたものである、
20 2元冷凍サイクル装置1。
イ 引用文献2(特許第5800994号公報、甲12)記載の技術的事項
本件審決が認定した引用文献2記載の技術的事項(以下「引2事項」と
いう。)は、次のとおりである(本件審決4の4-2⑵〔本件審決11、1
2頁〕。
)
25 高温側(高段側、一次側)の冷凍サイクル(以下、高温側サイクルとい
う)と、低温側(低段側、二次側)の冷凍サイクル(以下、低温側サイク
ルという)と、を備えた冷凍装置では、高温側サイクルの蒸発器と低温側
サイクルの凝縮器とでカスケードコンデンサが構成され、高温側サイクル
の冷媒と低温側サイクルの冷媒とは、カスケードコンデンサにおいて熱交
換するものにおいて、高温側サイクルの冷媒として、例えば、HFC冷媒
5 (R410A、R404A、R32、R407C)、HFO冷媒、HC冷媒
等が使用され、低温側サイクルの冷媒として、例えば、地球温暖化係数(G
WP)が1であるCO2冷媒が使用されること。
ウ 引用文献3(特開2016-44892号公報、甲13)記載の技術的
事項
10 本件審決が認定した引用文献3記載の技術的事項(以下「引3事項」と
いう。 は、
) 次のとおりである(本件審決4の4-3⑵〔本件審決18頁〕。
)
熱源側圧縮機21を備える熱源側冷媒が循環する冷凍サイクルと、搬送
側回路と、利用側圧縮機31を備える利用側回路50とをカスケードに接
続するものにおいて、利用側回路50に複数の利用ユニット4a、4bを
15 設けること。
エ 引用文献10(特開2017-32184号公報、甲14)記載の技術
的事項
本件審決が認定した引用文献10記載の技術的事項(以下「引10事項」
という。 は、
) 次のとおりである(本件審決4の4-4⑵〔本件審決20頁〕。
)
20 空調用圧縮機11で圧縮された高温高圧の空調用冷媒は、給湯用冷媒と
カスケード熱交換器でカスケードに接続され、1次側の空調用冷媒が、給
湯用冷媒を加熱するものにおいて、1次側の空調用冷媒にR32を用い、
給湯用冷媒には、二酸化炭素冷媒を用いること。
オ 引用文献11(特開2005-180866号公報、甲15)記載の技
25 術的事項
本件審決が認定した引用文献11記載の技術的事項(以下「引11事項」
という。 は、
) 次のとおりである(本件審決4の4-5⑵〔本件審決21頁〕。
)
高段側冷媒回路の蒸発器と低段側冷媒回路の放熱器とを交熱的にカスケ
ード接続するカスケード熱交換器とを備えた二元冷凍装置において、前記
高段側冷媒回路内には冷媒としてアンモニア(R717)、プロパン(R2
5 90)、プロピレン(R1270)やフッ素系冷媒のR410、R32、R
134a、R407Cなどが所定量封入(実施例ではプロピレンとする)
されると共に、低段側冷媒回路内には冷媒として自然冷媒である二酸化炭
素(CO2)が所定量封入されていること。
⑵ 本件審決が引用文献記載の事項に基づいて認定した周知事項
10 ア 周知事項1
本件審決は、引2事項、引11事項に基づき、本願優先日前に周知の事
項として、次の周知事項1を認定した(本件審決6の⑴〔本件審決25頁〕。
)
1次側(高温側)の冷媒回路の蒸発器と2次側(低温側)の冷媒回路の
放熱器とをカスケード接続する二元冷凍装置において、前記1次側(高温
15 側)の冷媒回路内には冷媒としてR32を用い、前記2次側(低温側)の
冷媒回路には冷媒として二酸化炭素(CO2)を用いること
イ 周知事項2
本件審決は、引3事項等に基づき、本願優先日前に周知の事項として、
次の周知事項2を認定した(本件審決6の⑴〔本件審決25頁〕。
)
20 利用側圧縮機を備える利用側回路に複数の利用ユニットを設けること
⑶ 本願発明と引用発明の対比
本件審決が認定した本願発明と引用発明の一致点、相違点は、次のとおり
である(本件審決5〔本件審決23、24頁〕。
)
ア 一致点
25 冷媒を昇圧する冷媒昇圧機と、
前記冷媒と室外空気とを熱交換させる室外空気熱交換器と、
前記冷媒と熱搬送媒体とを熱交換させる媒体熱交換器と、
前記室外空気熱交換器を前記冷媒の放熱器として機能させ、かつ、前記
媒体熱交換器を前記冷媒の蒸発器として機能させる冷媒放熱状態と、前記
室外空気熱交換器を前記冷媒の蒸発器として機能させ、かつ、前記媒体熱
5 交換器を前記冷媒の放熱器として機能させる冷媒蒸発状態と、を切り換え
る冷媒流路切換機と、
を有しており、前記冷媒として流体が封入された冷媒回路と、
前記熱搬送媒体を昇圧する媒体昇圧機と、
前記媒体熱交換器と、
10 前記媒体熱交換器を前記熱搬送媒体の放熱器として機能させる第1媒
体放熱状態と、前記媒体熱交換器を前記熱搬送媒体の蒸発器として機能さ
せる第1媒体蒸発状態と、を切り換える第1媒体流路切換機と、
前記熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させる室内空気熱交換器と、
を有しており、前記熱搬送媒体として二酸化炭素が封入された媒体回路と、
15 を備えた、
熱搬送システム。
イ 相違点
(ア) 相違点1
冷媒として流体が封入された冷媒回路について、本願発明は、
「HFC
20 -32からなる流体が封入され」ているのに対して、引用発明は、
「HC
系冷媒であるプロパン」が流体として用いられている点。
(イ) 相違点2
熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させる室内空気熱交換器について、
本願発明は、
「複数の室内空気熱交換器」としているのに対して、引用発
25 明は、室内熱交換器270が複数設けられているとは特定されていない
点。
⑷ 進歩性に関する判断
本件審決の進歩性に関する判断の要旨は、次のとおりである。
ア 相違点の検討(本件審決6⑴〔本件審決24、25頁〕)
(ア) 相違点1について
5 引用発明において、冷媒回路において用いる冷媒として、HC系冷媒
であるプロパンに代えて、R32とすることは、当業者が容易に想到し
得たことである。
(イ) 相違点2について
引用発明において、相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、
10 当業者が容易に想到し得たことである。
イ 効果について(本件審決6⑵〔本件審決25頁〕)
本願発明は、全体としてみても、引用発明、引10事項、周知事項1、
2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
ウ まとめ(本件審決6⑷〔本件審決27頁〕)
15 本願発明は、引用発明、引10事項、及び周知事項1、2に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2
項の規定により特許を受けることができない。
4 原告ら主張の取消事由
⑴ 取消事由1(引用発明、並びに一致点及び相違点の認定の誤り)
20 ⑵ 取消事由2(周知技術の認定の誤り)
⑶ 取消事由3(進歩性の判断の誤り)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(引用発明、並びに一致点及び相違点の認定の誤り)について
〔原告らの主張〕
25 ⑴ 本願発明の要旨認定について
本願発明は、1台の室外機に複数台の室内機が接続され、室内機は個別に
冷暖房ができる、規模の大きい建物(ビル)に設置されるマルチパッケージ
型空気調和機(以下「ビル用マルチ」という。 であり
) (甲16、添付資料1)、
本願発明の「媒体昇圧機」は、ペア機である引用発明の「第2圧縮機」とは
異なる。その理由は、次のとおりである。
5 本願明細書等に「ビル用マルチ」という用語はないが、本願発明は、本願
の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの熱搬送システムであり、
1台の室外機(室外熱交換機等を有する冷媒回路)と複数の室内機(複数の
室内空気熱交換器)を備え、冷暖房切り替え可能な冷媒流路切換機、第1媒
体流路切替機を有しており、ビル用マルチである。そして、本願明細書等の
10 【背景技術】に記載された「チラーシステム」(段落【0002】)が、解決
すべき課題を有する「従来のチラーシステム」【発明の概要】段落【000
(
3】)として表示されていることから、本願発明は、ビル等の大容量の冷暖房
に使われるセントラル空調機の課題解決を前提としている。
また、本願発明の課題は、本願明細書等に記載のとおり、
「媒体回路を構成
15 する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の向上を図るこ
と」にあり(段落【0005】、本願発明の作用効果は、以下の五つである
)
ことが、本願明細書等に明記されている。
効果1:冷房と暖房が可能であること(段落【0007】及び【0061】)
効果2:複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であること(段落【0
20 062】)
効果3:配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテナンス省力化、媒
体使用量削減(段落【0008】及び【0063】)
効果4:着火事故防止(段落【0009】及び【0064】)
効果5:環境負荷低減(段落【0010】及び【0065】)
25 ビル用マルチについて、冷媒量が多いこと、漏えいがしやすいこと、可燃
性冷媒を使用しようとすると着火事故の問題があることは、当業者の技術常
識である(例えば、甲23の2頁目の囲み部分、3頁目の表備考欄)。また、
配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテナス省力化というのは、当
業者であれば、ビル用マルチにおける建物内配管の小径化、
(チラーシステム
を前提とする)省スペース化、配管施工等を想定した課題であると理解する。
5 さらに、本願明細書等に開示されている、本願発明の<動作及び特徴>(段
落【0054】~【0060】)や図1ないし図4、図8ないし図20はいず
れも、まさに、1台の室外機に複数台の室内機が接続され、室内機は個別に
冷暖房ができる空調機であって、ビル用マルチである。別の言い方をすれば、
本願発明は、上記課題(段落【0003】~【0005】)を踏まえて、上記
10 効果1ないし効果5を奏する発明であることが本願明細書等から明白である
(段落【0007】~【0011】【0061】~【0066】。
、 )
⑵ 引用発明の認定の誤りについて
ア 原告ら主張に係る引用発明について
本件審決の引用文献1の特許請求の範囲の請求項1、発明の詳細な説明
15 の段落【0004】【0006】【0007】【0014】【0027】
、 、 、 、 、
【0028】【0042】ないし【0052】によれば、引用文献1記載
、
の引用発明は、次のとおり認定されるべきである(下線部は、本件審決の
認定と異なる部分である。。
)
室外熱交換器を有する1次側冷凍サイクルと、
20 室内熱交換器を有する2次側冷凍サイクルと、
この2次側冷凍サイクルに設けられ、2つのシリンダを有するとともに、
これら2つのシリンダのうち1つは圧縮運転と非圧縮運転とを切替可能
に構成され、インバータ駆動される2シリンダ形回転式圧縮機と、
上記1次側冷凍サイクルの冷媒と上記2次側冷凍サイクルの冷媒とを熱
25 交換する中間熱交換器とを備えることを特徴とする2元冷凍サイクル装
置
であって、
2元冷凍サイクル装置1は、1次側冷凍サイクル10の冷媒(1次側冷
媒)と2次側冷凍サイクル20の冷媒(2次側冷媒)とが熱交換できるよ
うに形成された1つの中間熱交換器300とを備え、
5 1次側冷凍サイクル10は、
・・・1つの中間熱交換器300に組み込ま
れた第1中間熱交換器300Aと、この第1中間熱交換器300Aに第1
四方弁150を介して連結されたアキュムレータ180とを順次備え、こ
のアキュムレータ180は圧縮機100の吸込口へと連結され、
2次側冷凍サイクル20は、
・・・前記中間熱交換器300に組み込まれ
10 た第2中間熱交換器300Bと、この第2中間熱交換器300Bに連結さ
れた第2膨張機構260と、この第2膨張機構260に連結された1つの
室内熱交換器270と、この室内熱交換器270に第2四方弁250を介
して連結されたアキュムレータ280とを順次備え、このアキュムレータ
280は、2つのシリンダのうち1つは圧縮運転と非圧縮運転とを切替可
15 能に構成され、インバータ駆動される2シリンダ形回転式である圧縮機2
00の吸込口へと連結され、
前記中間熱交換器300は、第1中間熱交換器300Aと第2中間熱交
換器300Bとを備えており、1次側冷媒と2次側冷媒とを熱交換可能に
構成され、・・・たものである、2元冷凍サイクル装置1。
20 イ 引用発明の認定の誤りの有無について
本件審決による引用発明の認定には誤りがあり、その理由は、次のとお
りである。
(ア) 2シリンダ形回転式圧縮機を備える点について
引用発明の認定は、不用意に上位概念化してはならず、刊行物の記載
25 を基礎として、客観的、具体的にされなければならない。本件審決は、
引用発明が、圧縮運転と非圧縮運転とを切替可能に構成した、インバー
タ駆動される2シリンダ形回転式圧縮機を必須の構成要素とする発明で
あることを捨象し、抽象化、上位概念化して、圧縮機全般を前提として
いるかのように認定した点で、引用発明の認定に誤りがある。
(イ) ペア機である点について
5 a 引用文献1には、中間熱交換器300(室外機内)と室内熱交換機
270(室内機)とが1対1で対応しているペア機(以下「ペア機」
という。)を前提にした発明が開示されており、本件審決は、この点を
看過した点でも誤っている。
すなわち、引用文献1記載の発明は、媒体熱交換器(中間熱交換器)
10 と室内熱交換器が1対1で連結しているパッケージ型空調機(ペア機)
を大前提とした課題の解決に関するものであり、一つの中間熱交換機
に対して複数の室内熱交換器を有するパッケージ型空調機(ビル用マ
ルチ)を想定していない。引用文献1に記載された【発明が解決しよ
うとする課題】 「2次側の圧縮機の吸込容積が冷房運転時と暖房運
は、
15 転時とで同じであるため、能力可変幅が圧縮機回転数可変範囲に依存
してしまう。このため低負荷や高負荷時において、能力可変幅を逸脱
し、負荷に応じた運転ができないことや、圧縮機の効率が悪い低回転
数での運転となることがあった」(段落【0003】)ことである。ペ
ア機では、引用文献1の図1に示されるように、室内機に、ビル用マ
20 ルチの各室内機に設けられているような個別の膨張機構は存在せず、
室内機の設定温度及び室内温度に基づく能力要求は、室外機の圧縮機
の能力調整によって処理されるから、上記課題が生じるのであって、
このような課題は、本願発明が想定しているビル用マルチにおいては
生じない。
25 被告は、引用文献1には、ペア機という用語の記載はないし、ペア
機に限るという記載もなく、更には室内熱交換器の台数についての記
載もないと主張するが(後記〔被告の主張〕⑵イ(イ)a)、その可能性を
排除する記載がなければ引用発明として想定されるとする認定は、典
型的な上位概念化であり、引用発明の認定に容易想到性の判断を持ち
込むもので許されない。
5 b また、被告は、引用文献1の段落【0003】及び【0004】の
記載を参酌して、引用文献1に記載されている課題がペア機に特有の
ものとはいえないと主張する(後記〔被告の主張〕⑵イ(イ)b) しかし、
。
本願発明が想定しているビル用マルチでは、通常、各室内機の能力要
求に応じて室内機を制御し、システム全体としては全室内機の負荷に
10 対応できる構成としているため、引用文献1に記載されているような、
圧縮機について、低負荷や高負荷時において、能力可変幅を逸脱し、
負荷に応じた運転ができないという課題が生じない。また、室内機が
複数台の場合には、室内熱交換器を複数備えるので、それぞれの室内
の負荷に応じて、各室内熱交換器に流れる冷媒量を調整する必要があ
15 るところ、各室内熱交換器に流れる冷媒量を調節することは、2シリ
ンダ型圧縮機のシリンダの圧縮運転と非圧縮運転とを切り替えて圧縮
機のシリンダ容積を変えるだけでは難しいため、引用発明から出発し
て室内熱交換器を複数にするという発想にはつながらない。なお、原
告らの主張は、ビル用マルチにおいて、圧縮非圧縮を切り替え可能な
20 2シリンダ型圧縮機を一切使用しないという趣旨ではなく(ビル用マ
ルチでも、例えば、システム全体の能力可変幅を拡大するために2シ
リンダ型圧縮機を用いることはあり得る。、引用文献1に記載された
)
引用発明の解決課題及びその解決手段としての引用発明の構成(圧縮
非圧縮を切り替え可能な2シリンダ型圧縮機)は、本願発明と技術的
25 思想が異なるということを主張しているのである。
⑶ 本願発明と引用発明の一致点、相違点の認定の誤りについて
ア 原告ら主張に係る本願発明と引用発明の一致点、相違点について
引用文献1記載の引用発明は、前記⑵アのとおりであるから、本願発明
と引用発明の一致点、相違点は、次のとおり認定されるべきである(下線
部は、本件審決の認定と異なる部分である。。
)
5 (ア) 一致点
冷媒を昇圧する冷媒昇圧機と、
前記冷媒と室外空気とを熱交換させる室外空気熱交換器と、
前記冷媒と熱搬送媒体とを熱交換させる媒体熱交換器と、
前記室外空気熱交換器を前記冷媒の放熱器として機能させ、かつ、前
10 記媒体熱交換器を前記冷媒の蒸発器として機能させる冷媒放熱状態と、
前記室外空気熱交換器を前記冷媒の蒸発器として機能させ、かつ、前記
媒体熱交換器を前記冷媒の放熱器として機能させる冷媒蒸発状態と、を
切り換える冷媒流路切換機と、
を有しており、前記冷媒として流体が封入された冷媒回路と、
15 前記熱搬送媒体を昇圧する機構と、
前記媒体熱交換器と、
前記媒体熱交換器を前記熱搬送媒体の放熱器として機能させる第1媒
体放熱状態と、前記媒体熱交換器を前記熱搬送媒体の蒸発器として機能
させる第1媒体蒸発状態と、を切り換える第1媒体流路切換機と、
20 前記熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させる室内空気熱交換器と、
を有しており、前記熱搬送媒体として二酸化炭素が封入された媒体回路
と、
を備えた、
熱搬送システム。
25 (イ) 相違点
a 相違点1
冷媒として流体が封入された冷媒回路について、本願発明は、
「HF
C-32からなる流体が封入され」ているのに対して、引用発明は、
「HC系冷媒であるプロパン」が流体として用いられている点。
b 相違点2
5 本願発明は、媒体熱交換機に連結している室内空気熱交換器が複数
であるのに対して、引用発明は、中間熱交換器300に連結している
室内熱交換器が一つである点。
c 相違点3
熱搬送媒体を昇圧する機構について、本願発明は、複数の室内空気
10 熱交換器を備えた熱搬送システムを前提とした昇圧可能な媒体昇圧機
であるのに対して、引用発明は、
『二つのシリンダのうち一つは圧縮運
転と非圧縮運転とを切替可能に構成され、インバータ駆動される2シ
リンダ形回転式圧縮機』が用いられている点。
イ 一致点、相違点の認定の誤りの有無について
15 (ア) 相違点2について
引用発明の認定に関して主張したとおり、引用文献1の記載に基づけ
ば、室内空気熱交換器は一つであるから、引用発明は、室内熱交換器が
一つであるとして認定すべきであり、本件審決が、相違点2において、
「引用発明は、室内熱交換器270が複数設けられているとは特定され
20 ていない」と認定したのは、複数設けることを特徴とする本願発明に接
した先入観による後知恵の認定であり、誤りである。
引用発明は、ビル用マルチに関する本願発明と異なり、ペア機に特有
の課題である、2次側の圧縮機において低負荷や高負荷時に負荷に応じ
た運転ができないという課題を解決するための発明であるから、このよ
25 うな技術的意義の相違を踏まえて対比した上で、相違点2を認定すべき
である。被告は、一方のシリンダを圧縮運転と非圧縮運転とに切替可能
な2シリンダ形回転式圧縮機を備える1台の室外機に対して、複数の室
内機が連結された形態のマルチエアコン自体は、乙2及び乙3の各文献
に記載されており、本願優先日前の周知技術であると主張するが(後記
〔被告の主張〕⑶イ(ア))、乙2及び乙3の各文献は、審査・審判手続に提
5 出されておらず、このような被告の主張は、審査・審判手続で指摘のな
かった新たな文献により、新たに「周知の技術」を持ち出すものであり、
失当である(特許法50条、159条2項)。
(イ) 相違点3について
また、引用発明が特定の圧縮機の構成を有するのは、ペア機特有の課
10 題である、2次側の圧縮機において低負荷や高負荷時に負荷に応じた運
転ができないという課題の解決のためであって、本願発明のようなビル
用マルチにおいて、このような圧縮機を適用する理由がないから、ペア
機である引用発明の「第2圧縮機」がビル用マルチである本願発明の「媒
体昇圧機」に相当する(本件審決5〔本件審決21頁24行目~30行
15 目〕 とした本件審決の認定は誤りであり、
) この点を相違点3として認定
し、判断すべきである。
(ウ) 審決の結論に対する影響について
本件審決は、本願発明と引用発明との一致点・相違点に関し、原告ら
主張の上記相違点2及び上記相違点3を認定しておらず、そのため、こ
20 れらの相違点に対する判断を行っておらず、そのことは、直ちに本件審
決の結論に影響するので、本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
⑴ 〔原告らの主張〕⑴(本願発明の要旨認定について)に対し
本願発明は、複数の室内機を有し冷媒量が多いビル用マルチに限られず、
25 本願発明と引用発明の対比に当たって、引用発明の「第2圧縮機」は、本願
発明の「媒体昇圧機」に相当する。その理由は、次のとおりである。
本願の特許請求の範囲の請求項1、本願明細書等には、
「ビル用」であるこ
との記載はない。家庭用のルームエアコンであっても、1台の室外機に複数
台の室内機を接続するマルチ型のものは本願優先日前に周知の事項であり
(乙8の段落【0001】及び【0015】、乙9の段落【0001】及び【0
5 011】、本願発明が複数の室内空気熱交換器を備えるからといって、必ず
)
しもビル用のものとはいえない。
⑵ 〔原告らの主張〕⑵(引用発明の認定の誤りについて)に対し
ア 原告ら主張に係る引用発明について
原告ら主張に係る引用発明の認定のうち、本件審決の認定と異なる部分
10 は争う。
イ 引用発明の認定の誤りの有無について
本件審決による引用発明の認定に誤りはない。その理由は、次のとおり
である。
(ア) 2シリンダ形回転式圧縮機を備える点について
15 引用発明の認定は、本願発明との対比及び判断を誤りなくすることが
できるように行うことで足りる。本件審決は、本願発明が媒体回路側の
圧縮機について、
「熱搬送媒体を昇圧する媒体昇圧機」とのみ特定し、媒
体昇圧機の具体的な態様を特定していないので、当該事項と明確に対比
できるものとして、引用発明について、
「2次側冷凍サイクル20」 「第
の
20 2圧縮機200」と認定したものである。引用文献1の段落【0012】
には、
「第2圧縮機200」という用語が記載されているから、本件審決
は、本願発明との対比及び判断が明確にできる範囲のものとして、引用
文献1の記載に基づいて、そこに記載された文言を用いて引用発明を認
定したものであり、引用文献の記載を何ら抽象化又は上位概念化したも
25 のではない。
(イ) ペア機である点について
a 原告らは、引用文献1記載の発明はペア機を前提としており、ビル
用マルチを想定していない旨主張する(前記〔原告らの主張〕⑵イ(イ)
a)。しかし、引用文献1には、ペア機という用語の記載はないし、ペ
ア機に限るという記載もなく、更には室内熱交換器の台数についての
5 記載もない。引用文献1の特許請求の範囲には、ペア機に関する発明
であることを示す記載はない。
原告らは、ビル用マルチでは、引用文献1に記載されている、2次
側の圧縮機において低負荷や高負荷時に負荷に応じた運転ができない
という課題は生じない旨主張する(前記〔原告らの主張〕⑵イ(イ)a)。
10 しかし、本願発明は、各室内機の能力要求に応じて、各室内機に設け
られた膨張機構の開度調整がなされるための事項、つまり膨張機構に
ついては何ら記載されておらず、
「室内空気熱交換器」について、せい
ぜい「前記熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させる複数の室内空気熱
交換器と、を有し」
(構成要件H)た「熱搬送システム」
(構成要件I)
15 と特定するのみであるから、本願発明は、そもそも、原告らが主張す
る上記の課題とはかかわりがなく、別の課題を解決するものであって、
本願発明の進歩性を判断する前提として引用発明を認定するに当たり、
原告ら主張の上記課題を考慮する必要はない。原告らの上記主張は、
本願発明の特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、失当であ
20 る。
b また、引用文献1の段落【0003】及び【0004】の記載を参
酌すると、引用文献1に記載された2次側冷凍サイクルにおいて、冷
房時と暖房時で、圧縮機の吸い込み容積が同じであるとするならば、
同一回転数では冷房運転時の能力が大きくなりすぎるということは、
25 室内機が1台の場合(ペア機)であっても、室内機が複数台の場合(ビ
ル用マルチ)であっても同じようにいえるから、引用文献1に記載さ
れている、2次側の圧縮機において低負荷や高負荷時に負荷に応じた
運転ができないという課題は、ペア機に特有のものとはいえない。
⑶ 〔原告らの主張〕⑶(本願発明と引用発明の一致点、相違点の認定の誤り
について)に対し
5 ア 原告ら主張に係る本願発明と引用発明の一致点、相違点について
原告ら主張に係る本願発明と引用発明の一致点、相違点の認定のうち、
本件審決の認定と異なる部分は争う。
イ 一致点、相違点の認定の誤りの有無について
原告らの主張は争う。
10 本件審決による本願発明と引用発明の一致点、相違点の認定に誤りはな
い。その理由は、次のとおりである。
(ア) 相違点2について
引用発明の認定に関して反論したとおり、引用文献1において、
「室内
熱交換器270」が複数設けられていると規定されていないことは、引
15 用文献1の記載から明らかであり、さらに、引用文献1に、ペア機とい
う用語の記載やペア機に限るという記載はなく、室内熱交換器の台数に
ついての記載もない。引用文献1には、図面において、2元冷凍サイク
ル装置1(段落【0010】)について、最も単純なものとして、室内構
成(I)として室内熱交換器270を一つ備え、室外構成(E)として
20 中間熱交換器300、室外熱交換器160を各一つ備えるものが記載さ
れているにすぎない。
したがって、本件審決の相違点2の認定に誤りはない。
この点に関し、原告らは、引用発明は、ビル用マルチに関する本願発
明と異なり、ペア機に特有の課題である、2次側の圧縮機において低負
25 荷や高負荷時に負荷に応じた運転ができないという課題を解決するため
の発明であるから、このような技術的意義の相違を踏まえて対比した上
で、相違点2を認定すべきであると主張する(前記〔原告らの主張〕⑶
イ(ア))。
しかし、一方のシリンダを圧縮運転と非圧縮運転とに切替可能な2シ
リンダ形回転式圧縮機を備える1台の室外機に対して複数の室内機が連
5 結された形態のマルチエアコン自体は、乙2及び乙3の各文献に記載さ
れており、本願優先日前の周知技術であり、原告ら主張の上記課題がビ
ル用マルチに生じないということはできないから、原告らの上記主張は
誤りであり、本件審決による相違点2の認定に誤りはない。
(イ) 相違点3について
10 前記(ア)のとおり、一方のシリンダを圧縮運転と非圧縮運転とに切替可
能な2シリンダ形回転式圧縮機を備える1台の室外機に対して複数の室
内機が連結された形態のマルチエアコン自体は、本願優先日前の周知技
術であるから、原告らが相違点3として、熱搬送媒体を昇圧する機構に
ついて、引用発明は、
「二つのシリンダのうち一つは圧縮運転と非圧縮運
15 転とを切替可能に構成され、インバータ駆動される2シリンダ形回転式
圧縮機」が用いられている、ということを認定することは、当を得たも
のではない。
また、仮に引用発明における第2圧縮機200を「インバータ駆動さ
れる2シリンダ形回転式圧縮機」と認定したとしても、
「インバータ駆動
20 される2シリンダ形回転式圧縮機」は圧縮機の一形態であるにすぎず、
上記のとおりペア機特有なものとはいえないから、本願発明における「媒
体昇圧機」に相当するものであることに変わりはなく、相違点3は存在
しない。
したがって、相違点3を認定すべきであるとする原告らの主張は失当
25 である。
(ウ) 審決の結論に対する影響について
以上のとおり、本件審決による本願発明と引用発明との一致点・相違
点の認定に誤りはないから、審決の結論に影響を与えるものではない。
2 取消事由2(周知技術の認定の誤り)について
〔原告らの主張〕
5 ⑴ 周知事項1について
本件審決は、引用文献2の記載により認定した引2事項、引用文献11の
記載により認定した引11事項等に基づいて周知事項1を認定したところ
(本件審決6⑴〔本件審決25頁〕、本件審決による周知事項1の認定には
)
誤りがあり、その理由は、次のとおりである。
10 ア 複数の冷媒の中からの選択について
引用文献2(甲12)の段落【0018】には、1次側冷媒としてHF
C冷媒、HFO冷媒、HC冷媒等が多数列挙されており、2次側冷媒とし
て二酸化炭素が例示されているにすぎず、引用文献11の段落【0021】
には、一次側冷媒としてアンモニア(R717)、プロパン(R290)、
15 プロピレン(R1270) フッ素系冷媒
、 (R410、R32、R134a、
R407c)などが多数列挙され、実施例ではプロピレンが開示されてい
るに過ぎないから、いずれの文献にも、
「1次側の冷媒回路内の冷媒として
R32、2次側の冷媒回路内の冷媒として二酸化炭素を用いること」
(「周知
事項1」)の記載がない。本件審決は、周知事項の認定の段階で、例示され
20 る複数の冷媒からR32を選択するという推定・推論をしており、客観的
に周知事項を認定していない。
本件審決は、本願発明に接した後で、複数列挙の冷媒から、本願発明と
同じ構成を選択しており、このような判断は、引用発明の認定に容易想到
性の判断を持ち込むもので許されない。また、本件審決の認定は、周知事
25 項の認定の段階で想定・推論し、さらに、本願発明と引用発明との相違点
について論理付けができるかどうかの判断をしているから、いわゆる容易
の容易であって許されない。
この点に関し、被告は、乙4の文献に記載された表6.1を挙げて、い
ずれの冷媒も一般的で、その中から冷凍サイクルに用いる冷媒を当業者が
選択でき、R32の選択が困難である理由はないと主張するが(後記〔被
5 告の主張〕⑴ア)、被告の上記主張は、審査・審判で指摘していない乙4の
文献を主張の根拠とする点でも失当である。
イ 空調機の発明と冷凍装置の発明であることについて
本願発明は、ビル用マルチの発明であるのに対して、引用文献2記載の
発明と引用文献11記載の発明は、低温領域の冷凍装置に関するものであ
10 る。そのため、引用文献2記載の発明と引用文献11記載の発明は、本願
発明とは、対象とする温度領域が重なっておらず、求められる熱力学特性
が全く異なる上、本願発明と異なり、冷房と暖房の切替や、部屋ごとの独
立した温度調整といった要請もない。
したがって、本件審決が周知事項1を認定したのは誤りである。
15 この点に関し、被告は、空調機も、冷凍室等の低温用途の冷凍サイクル
装置も、二元冷凍装置であることに変わりはないと主張するが(後記〔被
告の主張〕⑴イ) 証拠上認められる技術から上位概念化して引用発明を認
、
定したり、一連の技術の一面だけに着目して、ひとまとまりの技術的事項
の一部を抽出したりすることは、後知恵を招き不適切である。引用文献に
20 記載された事項は、超低温用途なのであるから、これを事実として認定し
て、このような分野の違いにより、論理付けが否定されるか否かは、論理
付けの場面(容易想到性の判断)で考慮されるべき事項である。
ウ 周知性を裏付ける文献の数について
周知事項1は、被告の主張によっても、それを根拠づける文献は、引用
25 文献2と引用文献11のみで数が少なく、周知技術に該当しないことは明
白である。
また、本件審決は、周知事項1を、複数の文献(引用文献1、2及び1
0)を組み合わせて認定しており、いわゆる容易の容易であり、許されな
い。
⑵ 1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒に二酸化炭素(CO2)を用いるこ
5 とについて
本件審決は、周知事項1及び引10事項から、1次側冷媒により2次側冷
媒を冷却又は加熱する場合のいずれであっても、1次側冷媒にR32を用い、
2次側冷媒にCO2を用いること自体は、本願優先日前に普通に採用される
冷媒の組合せであるとするが(本件審決6⑴〔本件審決25頁〕、誤りであ
)
10 り、その理由は、次のとおりである。
ア 空調用冷凍サイクルにおける2次側冷媒に二酸化炭素を用いることにつ
いて
引用文献10(甲14)記載の発明は、
「空調給湯システム」に用いられ
るものであって、本願発明との対比の対象となる「室内の空調」は、R4
15 10A、R32及びR407Cが例示されている空調用冷媒(段落【00
41】)が室内熱交換器31に流入して室内空気と熱交換することで行わ
れ(段落【0021】、図1等、1元回路)、これに対して、
「給湯(温水の
生成)」は、熱生成ユニット40に到達した空調用冷媒が、カスケード熱交
換器44にて給湯用冷媒を加熱することにより行われ、給湯用冷媒には、
20 熱媒体を給湯用熱交換器320で60~90℃にまで沸き上げるため(段
落【0027】、二酸化炭素冷媒が用いられる(段落【0041】。この
) )
ように、引用文献10記載の発明は、給湯用冷媒にのみ二酸化炭素が用い
られており、空調用冷凍サイクルにおける2次側冷媒に二酸化炭素を用い
ることが記載されているわけではないから、「室内空調の冷凍サイクルに
25 おいて1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒にCO2を用いること」は記
載されていない。
本件審決が引用文献10を参照した趣旨が、相違点1に、引2事項及び
引11事項から認定した周知事項1を適用するに当たって、論理付のため
に文献を追加して判断したのだとすると、いわゆる容易の容易として許さ
れない。また、本件審決が引用文献10を参照した趣旨が、周知事項1を
5 認定するためだとすると、本願発明と異なってR32以外の冷媒も記載さ
れている点や、二酸化炭素が冷媒として用いられているのが空調用冷凍サ
イクルにおける2次側冷媒ではなく給湯用冷媒であるという点を捨象し
て、技術の一面だけに着目し又は上位概念化して周知技術の認定に用いて
いるから、許されない。
10 イ 空調機の発明と冷凍装置の発明であることについて
本件審決は、周知事項1及び引10事項から「1次側冷媒により2次側
冷媒を冷却又は加熱する場合のいずれであっても、1次側冷媒にR32を
用い、2次側冷媒にCO2を用いること自体は、本願優先日前に普通に採用
される冷媒の組み合わせである」と認定した。
15 しかし、引10事項には、給湯用冷媒として二酸化炭素が記載されてい
るのみであり、本件審決の上記認定は、0℃近い水温を60℃以上の高温
にしなければならない給湯システムと、人が過ごすための快適な室温を2
5℃ないし30℃(一般空調域)に制御する空調機との技術的な違い、技
術分野の違い、原理の違いを無視した乱暴な認定である。
20 この点に関し、被告は、サイクルの対象が給湯用又は空調用であるとい
った用途は、それらの冷媒の組み合わせがあることとは関係ないことであ
ると主張するが(後記〔被告の主張〕⑵イ)、技術的思想として発明全体を
一体としてとらえるべきであるから、このような被告の主張は独自の見解
であり、失当である。
25 ⑶ 引用文献11に記載されたプロパンと本願発明に記載されたR32の違
いについて
本件審決は、
「引11事項に示すとおり、1次側冷媒回路に用いられる冷媒
として、プロパンとR32とは併記して例示される冷媒でもある。」とする
(本件審決6⑴〔本件審決25頁〕。
)
しかし、引用文献11には、プロパンに換えてR32とすることについて
5 の示唆も動機付けも一切記載がなく、仮に、当業者が引用文献11に基づき、
引用発明のプロパンを同引用文献(請求項5、段落【0021】)に記載され
た冷媒のいずれかに置き換えるとするならば、同じ炭化水素系で、実施例に
記載のあるプロピレンに置き換える可能性が高い。また、プロパンとR32
とでは、燃焼性(安全性)、外気温による蒸発圧力への影響度合い、熱搬送能
10 力、圧力による冷媒密度などが大きく異なり、これらに代替性はない。さら
に、地球温暖化の防止の観点からは、プロパンをR32に代替することはな
い。
したがって、上記の本件審決の趣旨が、プロパンとR32に代替性がある
という趣旨であれば、誤りである。
15 ⑷ 周知事項2について
本件審決は、引用文献3の記載により認定した引3事項等に基づいて周知
事項2を認定したところ(本件審決6⑴〔本件審決25頁〕、本件審決によ
)
る周知事項2の認定には誤りがあり、その理由は、次のとおりである。
ア 技術的思想の違いの有無について
20 引用文献3は、2冷媒回路-スラリー回路-冷媒回路からなる三次回路
方式の空気調和装置に関するものであって、本願発明のような二元回路方
式(低温側冷凍サイクルと高温側冷凍サイクルの間で熱交換をさせる方式
で、高温側と低温側とでそれぞれ適した冷媒を使用するシステム)ではな
いし、引用文献3は、二つの冷媒回路で同じ冷媒を使用することが好まし
25 いとするものである(段落【0008】。このように、本願発明と引用文
)
献3記載の発明は、異なる技術的思想のものであるにもかかわらず、本件
審決は、引用文献3の記載を単なる空気調和装置として上位概念化したう
えで認定するものであって、誤りである。引用文献3は、スラリー等を前
提とする三元回路を前提とする技術であって、引3事項を認定する証拠に
はならない。
5 イ 室内熱交換器の個数を相違点としたことについて
本件審決は、他の構成要件との関係性を無視して、室内熱交換器の個数
だけを相違点として取り出した結果、本願発明とは無関係である引用文献
により、(形式的に)複数の室内熱交換機の記載があるものを論理づけに用
いており、その点でも判断に誤りがある。
10 ウ 周知性を裏付ける文献について
引用文献3のみの1件により周知事項2の周知性が裏付けられるとはい
えない。被告は、本件訴訟において、引用文献3に加えて乙5ないし乙7
の各文献を新たに追加したが、原告らには、審査、審判手続において、こ
れらの文献に基づく被告の主張を争う機会や補正の機会が与えられてい
15 ないから、これら新たな公知文献(乙5~乙7)に基づく主張は許されな
い(特許法50条、159条2項) そもそも、
。 乙5ないし乙7の各文献は、
いずれも、本願発明のような、利用側回路が一方の熱交換器を凝縮器とし、
他方の熱交換器を蒸発器とする二元冷凍サイクルを開示するものではな
いし、引用文献3が前提とする三元回路とも異なるから、引3事項にいう
20 「利用側回路50に複数の利用ユニット4a、4bを設けること」が周知
であることを裏付けるものではない。
〔被告の主張〕
⑴ 〔原告らの主張〕⑴(周知事項1について)に対し
原告らの主張は争う。
25 ア 複数の冷媒の中からの選択について
本件審決による引2事項及び引11事項の認定に誤りはない。引用文献
2には低温側サイクル21に用いられる冷媒としてCO2が挙げられてお
り、高温側の冷媒として例示された各冷媒とCO 2の組み合わせが具体的
に記載されているといえるから、例示されているHFC冷媒のうちR32
を選択することはできる。引用文献2に高温側の冷媒として例示されたも
5 のは、いずれも冷凍サイクルに使用される冷媒として極めて一般的なもの
であるから(乙4の文献に記載された表6.1)、その中から冷凍サイクル
に用いる冷媒を当業者が選択することができ、R32の選択が困難である
理由はない。
イ 空調機の発明と冷凍装置の発明であることについて
10 引用文献2と引用文献11が低温用途の冷凍サイクル装置であったと
しても、空調機も、冷凍室等の低温用途の冷凍サイクル装置も、二元冷凍
装置であることに変わりはないから、これらの文献により、二元冷凍装置
における周知の冷媒であることは認定することができる。
ウ 周知性を裏付ける文献の数について
15 本件審決は、周知技術1の認定のために、10年以上も前に公知となっ
た刊行物である引用文献11を含め、複数の文献を示しており、本件審決
が周知事項1を認定したことに何ら誤りはない。
⑵ 〔原告らの主張〕⑵(1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒に二酸化炭
素(CO2)を用いることについて)に対し
20 本件審決が、周知事項1及び引10事項から、1次側冷媒により2次側冷
媒を冷却又は加熱する場合のいずれであっても、1次側冷媒にR32を用い、
2次側冷媒にCO2を用いること自体は、本願優先日前に普通に採用される
冷媒の組み合わせである(本件審決6⑴〔本件審決25頁〕)と認定したこと
に誤りはない。
25 ア 空調用冷媒サイクルにおける2次側冷媒に二酸化炭素を用いることにつ
いて
原告らは、引用文献10において、給湯用冷媒にのみ二酸化炭素が用い
られているとか、空調用冷凍サイクルにおける2次側冷媒に二酸化炭素を
用いることは記載されていない等と主張するが(前記〔原告らの主張〕⑵
ア)、本件審決は、引用文献10において、単に、冷媒回路をカスケード接
5 続する冷凍サイクルにおいて、1次側冷媒により2次側冷媒を加熱する場
合(1次側を凝縮器、2次側を蒸発器として用いる場合)に、1次側冷媒
にR32を用い、2次側冷媒にCO 2を用いること自体が記載されている
としているのであって(引10事項) 冷凍サイクルの対象が給湯用である
、
とか空調用であるといった用途は、それらの冷媒の組み合わせがあること
10 とは関係のないことであり、1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒にC
O2を用いることは、引用文献2、引用文献11に加えて、引用文献10に
も記載された事項といえる。
原告らは、本件審決が引用文献10を参照したことは、容易の容易とし
て許されないとか、技術の一面だけに着目し又は上位概念化して周知技術
15 の認定に用いていると主張する(前記〔原告らの主張〕⑵ア)。
しかし、引用文献2、引用文献11及び引用文献10には、2元冷凍サ
イクル装置の2次側冷媒にCO2 を用いたときの1次側冷媒が複数具体的
に記載され、2次側冷媒にCO 2 との組み合わせとしてR32を用いるこ
とが、限られた数の組み合わせの一つとして具体的に記載がされているか
20 ら、原告らの上記主張は理由がない。
イ 空調機の発明と冷凍装置の発明であることについて
原告らは、本件審決が1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒にCO2を
用いることは本願優先日前に普通に採用される冷媒の組み合わせである
と認定したことについて、給湯システムと空調機との技術的な違い、技術
25 分野の違い、原理の違いを無視した乱暴な認定であると主張するが(前記
〔原告らの主張〕⑵イ)、前記アのとおり、冷凍サイクルの対象が給湯用で
あるとか空調用であるといった用途は、1次側冷媒にR32を用い、2次
側冷媒にCO2を用いるという冷媒の組み合わせがあることとは関係のな
いことであるから、原告らの上記主張は理由がない。
⑶ 〔原告らの主張〕⑶(引用文献11に記載されたプロパンと本願発明に記
5 載されたR32の違いについて)に対し
微燃性であるR32は、冷媒が漏れた際の着火性の観点からみて、強燃性
のプロパンよりは安全であり、本願優先日前に、冷媒として周知であったか
ら、プロパンに換えてR32を採用することは容易に想到し得る。
⑷ 〔原告らの主張〕⑷(周知事項2について)に対し
10 次のとおり、本件審決による周知事項2の認定に誤りはない。
ア 技術的思想の違いの有無について
引用文献3(甲13)は、スラリー回路を介在するものであるが、その
点を除けば、二つの冷媒回路を備える本願発明の二元回路と同じであり、
利用側回路に複数のユニットを設けるものであるから、本件審決が周知事
15 項2を認定したことに誤りはない。
イ 室内熱交換器の個数を相違点としたことについて
室内熱交換機の個数の相違に関する相違点2は、冷媒の相違に関する相
違点1と別個に判断することができるので、相違点2を相違点1と分けて
認定したことに誤りはない。
20 ウ 周知性を裏付ける文献について
周知事項2が周知であることは、引用文献3のほか、乙5の文献(段落
【0027】【0065】
、 、図2)、乙6の文献(段落【0020】【00
、
23】、
【0052】 図14) 乙7の文献
、 、 (段落【0011】、
【0012】、
【0013】、図1)により裏付けられる。
25 3 取消事由3(進歩性判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
原告らの主張する本願発明と引用発明の相違点(前記1⑶ア(イ))を前提とす
るならば、本願発明には進歩性がある。本件審決が認定した一致点、相違点を
前提としても、本件審決の進歩性の判断には誤りがあり、その理由は、次のと
おりである。
5 ⑴ 設計事項であるか否かについて
ア 相違点1について
相違点1について、プロパンをR32に置き換えることを設計事項であ
るとすることは、技術分野を問わず、優先日当時に公知の冷媒であれば、
何を適用しても全て設計事項とするものであり、明らかに誤りである。
10 イ 相違点2について
相違点2について、ペア機において、複数の部屋に室内機を設置する場
合には、ペア数を増やすのが通常で、室内機のみを増やすことは考えにく
いし、また、ペア機とマルチでは、室外機一つ当たりの規模、配管、室内
の空調制御方法等が異なるから、部屋数等に応じて、ベア数を増やさずに、
15 マルチに変更することは、設計事項ではない。
ウ 設計事項であることの説示の有無について
本件審決では、
「設計事項」との理由は一つも挙げられていないから、相
違点1及び2を設計事項と判断するのは失当である。
⑵ 主引用発明に周知技術を適用する動機付けの有無について
20 ア 動機付けの判断の有無について
周知事項を根拠に設計事項であるとする場合でも、周知事項であるとい
う理由だけで、容易想到であることの論理付けができるか否かの検討(そ
の周知事項の適用に阻害要因がないか等の検討)を省略してはならないと
ころ、本件審決は、これらの判断をしていないから、その判断は失当であ
25 る。
イ 技術分野の関連性の有無について
技術分野の関連性を判断するに当たっては、各技術を上位概念化しては
ならず、具体的な技術分野が共通するかを検討しなければならないところ、
本願発明は、一つの媒体熱交換機に対して複数の室内熱交換器を有するビ
ル用マルチに関するものであるのに対し、引用発明は、ペア機特有の課題
5 に着目したもので、しかも2シリンダ形回転式圧縮機に係るものであって、
その具体的な技術分野は相違しており、共通性があるとはいえないから、
引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到するための動機付け
は極めて薄い。
ウ 課題、作用・機能の共通性の有無について
10 本願発明は、冷房と暖房が可能であること、複数の屋内の冷房及び暖房
をまとめて切り替えることが可能であること、配管の小径化・省スペース
化・配管施工及びメンテナンス省力化が可能であること、媒体の使用量削
減が可能であること、着火事故を防止できること、環境負荷を低減するこ
とができることという多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合シス
15 テムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変とする
ものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なっており、この
観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到するため
の動機付けはない。
⑶ 組み合わせの阻害要因について
20 引用発明において使用されているプロパンは、冷媒の能力として、寒冷地
での使用が困難であるから、これをR32に代替することには阻害要因があ
る。また、引用発明ではプロパンの使用が前提とされているところ、プロパ
ンは周知のとおり強燃性であり、着火事故の防止というビル用マルチの決定
的な課題に反する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用すること
25 には、阻害要因がある。
〔被告の主張〕
⑴ 〔原告らの主張〕⑴(設計事項であるか否かについて)に対し
次のとおり、本件審決の進歩性の判断に誤りはない。
ア 相違点1について
本件審決は、周知事項1と引10事項から、R32とCO 2の冷媒の組み
5 合わせが、2元冷凍サイクル装置における普通の冷媒の組み合わせである
ことを示し、引用発明においてプロパンをR32に変更することは適宜な
し得る技術的事項であるとしたものであり、R32は冷媒として極めて一
般的なものであったから(乙1、乙4)、その判断に誤りはない。
イ 相違点2について
10 本件審決の相違点2に関する判断に誤りはない。
ウ 設計事項であることの説示の有無について
本件審決の進歩性の判断に誤りはない。
⑵ 〔原告らの主張〕⑵(主引用発明に周知技術を適用する動機付けの有無に
ついて)に対し
15 ア 動機付けの判断の有無について
本件審決は、相違点1について、周知事項1及び引10事項より導き出
される周知事項を参酌して、引用発明において、プロパンをR32に換え
ることは容易であると判断しているものであり、また、相違点2について
は、周知事項2により、引用発明における利用ユニットに相当する室内熱
20 交換器の数は、利用側の部屋の数や利用形態に応じて適宜決め得る設計的
事項であることから、引用発明において、室内熱交換器270を複数設け
ることは容易であると判断しているものである。そうすると、引用発明に
周知事項1及び2を適用している訳ではないので、その動機付けについて
は特段検討する必要はない。
25 イ 技術分野の関連性の有無について
空調装置、冷凍装置及び給湯器という技術分野に本質的な差異は認めら
れないから、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到すること
はできる。
ウ 課題、作用・機能の共通性の有無について
引用発明のプロパンと周知事項1のR32とは、どちらも燃焼性を有し、
5 着火事故に対する安全性を高めるという課題が共通し、二元冷凍装置のカ
スケード熱交換器において二酸化炭素冷媒を凝縮させるものである点で
作用・機能が共通しており、また、引用発明のプロパンと引10事項のR
32とは、二元冷凍装置のカスケード熱交換器において二酸化炭素冷媒を
蒸発させるものである点で作用・機能が共通している。そして、引用文献
10 2の段落【0018】の記載、及び引用文献11の段落【0021】の記
載において、R32とプロパン(R290)は冷媒として併記されており、
プロパンをR32に置き換えることの示唆がある。
⑶ 〔原告らの主張〕⑶(組み合わせの阻害要因について)に対し
原告らの主張は争う。
15 第4 当裁判所の判断
1 本願優先日(平成29年(2017年)6月23日)前の技術常識
⑴ 空調機と冷凍機、給湯器について
ア 刊行物等の記載
本願優先日前に公知であった刊行物等には、空調機と冷凍機、給湯器に
20 ついて、別紙「空調機と冷凍機、給湯器に関する刊行物の記載」のような
記載があった。
イ 技術常識
別紙「空調機と冷凍機、給湯器に関する刊行物の記載」によれば、次の
事項は、本願優先日前に当業者に一般的に知られている技術又は経験則か
25 ら明らかな事項(技術常識)であったと認められる。
(ア) 環境温度より高い温度や低い温度の環境を生成する機械をヒートポ
ンプあるいは冷凍機といい、ヒートポンプは低温や高温を生成する機械
の総称であるのに対し、冷凍機は低温を生成する機械を指し、圧縮機、
蒸発器、凝縮器、膨張弁、受液器の五つの部分から構成される構造の冷
凍機を蒸気圧縮式冷凍機という(以下「技術常識A」という。。
)
5 (イ) 空調を行う機械と冷凍を行う機械は、ヒートポンプあるいは冷凍機と
して原理的には全く同じであり、ヒートポンプ技術が給湯分野に応用さ
れて、冷暖房と給湯の機能を合体させたヒートポンプ冷暖房給湯システ
ム、及び給湯機能だけを独立させたヒートポンプ給湯機として製品化さ
れている(以下「技術常識B」という。。
)
10 ⑵ 冷媒について
ア 刊行物等の記載
本願優先日前に公知であった刊行物等には、冷媒について、別紙「冷媒
に関する刊行物の記載」のような記載があった。
イ 技術常識
15 別紙「冷媒に関する刊行物の記載」によれば、本願優先日前においては、
蒸気圧縮冷凍機において用いられる冷媒として多くの種類が当業者に知
られており(同別紙記載1(甲16添付資料3表4)、3(甲16添付資料
9)、4(乙4の表6.1)、これら冷媒についての次の事項は、本願優先
)
日前に当業者に一般的に知られている技術又は経験則から明らかな事項
20 (技術常識)であったと認められる。
(ア) 本願優先日当時までに冷媒として知られているものとしては、自然冷
媒としてアンモニア(R717)、プロパン(R290)、プロピレン(R
1270)、二酸化炭素(R744)、炭化水素(HC)等があり、HF
C冷媒としてR32、R134a、R404A、R407C、R410
25 A等があり、HFO冷媒としてR1234yf等があった。
冷媒として、20世紀の前半までは、アンモニア、プロパンなど様々
な物質(自然冷媒)が利用されていたが、毒性や可燃性を有するという
欠点があったところ、1930年にフロン系冷媒が発明されてから、フ
ロン系以外の冷媒は一旦駆逐され、その後、フロン系冷媒の中で塩素を
含む冷媒CFC、HCFCは、オゾン層破壊の問題から製造・利用が禁
5 止され、HFCも温暖化の問題から利用が見直されようとしている。そ
して、代替物質の研究・開発が進められる中、HFC系冷媒、HFO系
冷媒のほか、アンモニア、炭化水素(ブタン、プロパン)、二酸化炭素な
ど自然冷媒が再び注目されている(同別紙記載1(甲16添付資料3「3.
空調用冷媒の変遷」及び「表2 冷媒の変遷」、4(乙4「6.1.1
)
10 冷媒とその種類」)
)(以下「技術常識C」という。。
)
(イ) 代替フロン(HFC等)から低GWP(Global Warming Potential:
地球温暖化係数)
・ノンフロン冷媒への転換が進んでいく状況であり、空
調用冷媒の低GWP冷媒候補は多数あるが、将来的にどの冷媒が主流に
なるかは見えていないものの、課題としては低GWP冷媒の微燃性に対
15 する安全性の確保があり、低GWPと可燃性についてはトレードオフ
(「複数の条件を同時にみたすことのできないような関係」大辞林第4版)
の傾向がある(同別紙記載1(甲16添付資料3「2.冷媒の特徴」 4.
、
「
低GWP冷媒」)
)(以下「技術常識D」という。。
)
(ウ) 平成23年(2011年)にはR32を採用した空調機器の基本特許
20 が開放されており、R32は空調機器に用いられており(同別紙記載2
(甲16添付資料6)、本願優先日時点には、家庭用エアコン(家庭用
)
AC)ではプロパン(R-290)とR32が、業務用エアコン(業務
用PAC)やビル用マルチ(ビルマルチ)ではR32が次世代の冷媒候
補として挙げられていた(同別紙記載1(甲16添付資料3図1)(以
)
25 下「技術常識E」という。。
)
(エ) エアコン用の次世代の冷媒候補であるプロパンとR32については、
プロパンはGWPが20未満であるが強燃性で、R32はGWPが67
5であるが微燃性であり、両者のGWPと燃焼性はトレードオフの関係
にあり、また、プロパンとR32は、熱物性値である標準沸点、臨界温
度、臨界圧力は似た性質を有する(同別紙記載5(乙28表1)、6(乙
5 29表2)(以下「技術常識F」という。。
) )
2 本願発明の内容
⑴ 特許請求の範囲及び本願明細書等の記載
ア 特許請求の範囲の記載
本願特許の特許請求の範囲(令和2年4月15日付け手続補正書(甲7)
10 による補正後のもの)の請求項1の記載(本願発明)は、前記第2の2の
とおりであり、その他の請求項の記載は、次のとおりである。
(ア) 請求項2
前記媒体回路を構成する配管の管径は、前記熱搬送システムの定格能
力が14kW以下の場合に、10mm以下である、
15 請求項1に記載の熱搬送システム。
(イ) 請求項3
前記冷媒回路、前記媒体昇圧機及び前記第1媒体流路切換機は、室外
に配置された熱搬送装置に設けられており、
前記室内空気熱交換器は、室内に配置された利用装置に設けられてい
20 る、
請求項1又は2に記載の熱搬送システム。
(ウ) 請求項4
前記熱搬送装置は、前記冷媒回路が設けられた空冷装置と、前記媒体
昇圧機及び前記第1媒体流路切換機が設けられた熱源装置と、を有して
25 いる、
請求項3に記載の熱搬送システム。
(エ) 請求項5
前記媒体昇圧機は、インバータによって回転数が制御されるモータを
有している、
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱搬送システム。
5 (オ) 請求項6
前記媒体昇圧機は、ロータリ圧縮機である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱搬送システム。
(カ) 請求項7
前記媒体昇圧機は、オイルレスのターボ圧縮機である、
10 請求項1~5のいずれか1項に記載の熱搬送システム。
(キ) 請求項8
前記第1媒体流路切換機は、前記第1媒体放熱状態において、前記室
内空気熱交換器を前記熱搬送媒体の蒸発器として機能させ、前記第1媒
体蒸発状態において、前記室内空気熱交換器を前記熱搬送媒体の放熱器
15 として機能させる、
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱搬送システム。
(ク) 請求項9
前記媒体回路は、前記室内空気熱交換器を前記熱搬送媒体の蒸発器と
して機能させる第2媒体蒸発状態と、前記室内空気熱交換器を前記熱搬
20 送媒体の放熱器として機能させる第2媒体放熱状態と、を切り換える第
2媒体流路切換機を、前記室内空気熱交換器ごとにさらに有している、
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱搬送システム。
(ケ) 請求項10
前記媒体回路は、前記媒体回路を循環する前記熱搬送媒体を溜めるレ
25 シーバをさらに有している、
請求項1~9のいずれか1項に記載の熱搬送システム。
(コ) 請求項11
前記媒体回路は、複数の前記室内空気熱交換器のそれぞれに対応する
利用側媒体減圧機を有する、
請求項1~10のいずれか1項に記載の熱搬送システム。
5 イ 本願明細書等の記載
本願明細書等の記載は、別紙再公表特許公報(WO2018/2358
32)のとおりである。
⑵ 本願発明の技術的意義
前記⑴ア及びイによれば、本願発明の技術的意義は、次のとおり認められる。
10 ア 技術分野
本願発明は、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて室内の空調を行う
熱搬送システム(チラーシステム)に関する(段落【0001】及び【0
144】。
)
イ 課題
15 冷媒回路と水回路を有する従来のチラーシステムは、水配管の管径が大
きく、大きな設置スペースが必要で、施工やメンテナンスに手間がかかる
(段落【0003】。
)
これに対して、水回路を省略して冷媒回路に冷媒を採用すると、環境負
荷(オゾン層破壊や地球温暖化)を低減する特性を満足できる流体には、
20 微燃性や可燃性を有するものが多く、冷媒が室内に漏洩した場合に、室内
における冷媒の濃度が可燃濃度まで上昇して着火事故を起こすおそれが
ある(段落【0004】。
)
本願発明の課題は、冷媒が循環する冷媒回路と熱搬送媒体が循環する媒
体回路とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて室内の空
25 調を行う熱搬送システムにおいて、媒体回路を構成する配管を小径化する
とともに、環境負荷の低減及び安全性の向上を図ることにある(段落【0
005】。
)
ウ 課題を解決する手段
本願発明は、冷媒としてHFC-32からなる流体が封入された冷媒回
路と、熱搬送媒体として二酸化酸素が封入された媒体回路と、を備えた熱
5 搬送システムであり、冷媒回路は、冷媒昇圧機と、室外空気熱交換器と、
媒体熱交換器と、冷媒流路切換機とを有し、媒体回路は、媒体昇圧機と、
媒体熱交換器と、第1媒体流路切換機と、熱搬送媒体と室内の空気とを熱
交換させる複数の室内空気熱交換器と、を有しており、冷媒流路切換機に
より、室外空気熱交換器及び媒体熱交換器を冷媒の放熱器又は蒸発器とし
10 て機能させることを切替え、また、第1媒体流路切換機により、媒体熱交
換器を熱搬送媒体の放熱器又は蒸発器として機能させることを切り換え
るものである(請求項1、段落【0006】。
)
エ 本願発明の効果
本願発明は、熱搬送媒体として二酸化炭素を使用しているため、熱搬送
15 媒体として水を使用する場合と比べて、媒体回路を構成する配管を小径化
することができ、これにより、配管の設置スペースを小さくでき、配管施
工やメンテナンスも省力化でき、媒体回路の媒体の量を少なくすることが
できる(段落【0008】及び【0063】。また、熱搬送媒体が媒体回
)
路から漏洩しても、不燃性であるため、着火事故を起こすおそれをなくす
20 ことができる(段落【0009】及び【0064】。
)
さらに、冷媒のHFC-32及び熱搬送媒体の二酸化炭素は、いずれも
オゾン層破壊係数がゼロで、かつ温暖化係数が小さい流体であるため、環
境負荷低減の要求を満たすことができる(段落【0010】及び【006
5】。
)
25 また、流路切換機により、室内の空調(冷房及び暖房)を行うことがで
き(段落【0061】、室内の冷房及び室内の暖房を全ての室内空気熱交
)
換器でまとめて切り換えて行うことができる(段落【0062】。
)
3 取消事由1(引用発明、並びに一致点及び相違点の認定の誤り)について
⑴ 本願発明の要旨認定について
ア 要旨認定の手法
5 発明の要旨認定は、特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきであり、
発明が属する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通常の意
味内容により特許請求の範囲の記載を解釈するのが相当である。もっとも、
特許請求の範囲の記載の意味内容が、明細書又は図面において、通常の意
味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、通常の意味内容
10 とは異なるものとして解される余地はあるものの、そのような定義又は説
明がない場合には、上記のとおり解釈するのが相当である。
イ 本願発明がビル用マルチの発明として特定されるか否かについて
(ア) 本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第2の2のとおりで
あり、このうち構成要件Hには「前記熱搬送媒体と室内空気とを熱交換
15 させる複数の室内空気熱交換器」という記載があるところ、
「室」は「①
ざしき、へや。居間」
(広辞苑第7版)を意味するから、本願発明は、熱
搬送媒体と、
「室内」すなわち「ざしき、へや。居間」内の空気とを熱交
換させる、いわゆる「空調用」「空調」は「空気調節の略。(広辞苑第
( 」
7版))の「空気熱交換器」を複数有するもの(以下、
「マルチエアコン」
20 という。)であることが特定されている。また、構成要件Dの「冷媒流路
切換機」及び構成要件Gの「第1媒体流路切換機」という記載があるこ
とからすると、前記の「複数の室内空気熱交換器」において、室内空気
を冷却又は加熱すること、すなわち、冷暖房が切替可能であることが特
定されている。他方、本願の特許請求の範囲の請求項1には、冷媒量や
25 室の規模等の特定はないから、本願発明は、冷媒量が特に多い「ビル用」
のマルチエアコンに特定されているとは認められず、一般家庭でも使用
される規模のマルチエアコンをも包含していると解さざるを得ない。
そうすると、本願発明は、通常の意味内容により特許請求の範囲の記
載を解釈するならば、複数の室内熱交換器を有する冷暖房が切替可能な
マルチエアコンの発明であると認められるものの、冷媒量が特に多い「ビ
5 ル用」のマルチエアコン(ビル用マルチ)に特定されているとは認めら
れない。
(イ) 次に、仮に特許請求の範囲の記載の意味内容が、明細書又は図面にお
いて、通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、
通常の意味内容とは異なるものとして解される余地はあるので、この点
10 について検討する。本願明細書等の【産業上の利用可能性】の「本発明
は、冷媒が循環する冷媒回路と熱搬送媒体が循環する媒体回路とを有し
ており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて室内の空調を行う熱搬
送システムに対して、広く適用可能である。(段落【0144】
」 )という
記載は、本願発明が、1台の室外機に複数台の室内機が接続されたマル
15 チエアコンであると解することと整合するものの、そこから、使用する
冷媒の量が桁違いに多いビル用マルチであると理解できるものではない
し、その余の本願明細書等の記載をみても、本願発明のマルチエアコン
がビル用に限定されている旨の定義又は説明を見出すことはできない。
したがって、本願発明について、特許請求の範囲の記載の意味内容を、
20 通常の意味内容とは異なるものとして解さなければならない理由はない。
(ウ) この点に関し、原告らは、本願明細書等の【背景技術】に記載された
「チラーシステム」
(段落【0002】)が、解決すべき課題を有する「従
来のチラーシステム」【発明の概要】段落【0003】
( )として表示され
ていることから、本願発明は、ビル等の大容量の冷暖房に使われるセン
25 トラル空調機の課題解決を前提としていると主張する(前記第3の1〔原
告らの主張〕⑴)。
しかし、本願明細書等の【背景技術】には、
「従来より、冷媒回路と水
回路とを有しており、水回路を循環する水と冷媒回路を循環する冷媒と
を熱交換させることによって冷媒から水に熱搬送を行うように構成され
たチラーシステムがある。(段落【0002】
」 )と記載され、【発明の概
5 要】には「上記従来のチラーシステムは、水回路に水と室内空気とを熱
交換させる熱交換器を設けることによって室内の空調に使用されること
がある。(段落【0003】
」 )と記載されており、これによれば、チラー
システムとは、水回路を循環する水と冷媒回路を循環する冷媒とを熱交
換させることによって冷媒から水に熱搬送を行うように構成された冷却
10 装置を指し、空調以外の用途のものをも含むものであると認められ、
「チ
ラーシステム」という用語が用いられていることから、本願発明が、ビ
ル等の大容量の冷暖房に使われるセントラル空調機の課題解決を前提と
していると解することはできない。
また、原告らは、本願明細書等の課題や効果の記載から、本願発明は
15 ビル用マルチであると主張する(前記第3の1〔原告らの主張〕⑴)。
しかし、
「媒体回路を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の
低減及び安全性の向上を図ること」(段落【0005】)という本願発明
の課題は、ビル用ではない家庭用等のマルチエアコンの課題でもある。
また、原告らが本願発明の作用効果として主張する、冷房と暖房が可能
20 であること(効果1) 複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能で
、
あること(効果2)、配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテナ
ンス省力化、媒体使用量削減(効果3)、着火事故防止(効果4)、環境
負荷低減(効果5)は、いずれもビル用ではない家庭用等のマルチエア
コンの作用効果としても妥当するものである。
25 したがって、本願明細書等の課題や効果の記載から、本願発明はビル
用マルチであると認めることはできない。
(エ) そうすると、本願発明は、複数の室内熱交換器を有する冷暖房が切替
可能なマルチエアコンの発明であると認められるものの、冷媒量が特に
多い「ビル用」のマルチエアコン(ビル用マルチ)に特定されていると
は認められない。
5 ⑵ 引用発明の認定の誤りについて
ア 引用文献1の記載
引用文献1には、別紙「引用文献1(甲11)の記載」のとおりの記載
がある。
イ 引用文献1に開示された技術的事項
10 別紙「引用文献1(甲11)の記載」によれば、引用文献1には、次の
ような技術的事項が開示されているものと認められる。
引用文献1は、空気調和機等に用いられる2元式冷凍サイクルに関し、
特に効率を高めることができる技術に関するものであり(段落【000
1】、従来、2次側の圧縮機の吸込容積が冷房運転時と暖房運転時とで同
)
15 じであるため、能力可変幅が圧縮機回転数可変範囲に依存してしまい、負
荷に応じた運転ができないことや、圧縮機の効率が悪い低回転数での運転
となることがあったところ(段落【0003】、冷房運転時と暖房運転時
)
に応じた適正な吸込容積として効率の高い運転が可能な2元冷凍サイク
ル装置を提供することを目的とし(段落【0004】、このような目的を
)
20 達成するために、1次又は2次冷凍サイクルに設けられ、インバータ駆動
される2シリンダ式圧縮機の一つのシリンダは圧縮運転と非圧縮運転を
切り替え可能とし、かかる構成により、圧縮機の吸込容積を可変とするこ
とで、冷房運転時と暖房運転時に応じた適切な吸込容積とすることができ、
効率の高い運転が可能となるものである(段落【0006】及び【000
25 7】。
)
そして、図1に図示される第1の実施の形態に係る2元冷凍サイクル装
置1は、第1圧縮機100と、第1四方弁150と、室外熱交換器160
と、第1膨張機構170と、一つの中間熱交換器300に組み込まれた第
1中間熱交換器300Aとを有する1次側冷凍サイクル10と(段落【0
011】、第2圧縮機200と、第2四方弁250と、一つの中間熱交換
)
5 器300に組み込まれた第2中間熱交換器300Bと、第2膨張機構26
0と、一つの室内熱交換器270とを有する2次側冷凍サイクル20とを
備え(段落【0012】、第1圧縮機100及び第2圧縮機200は、イ
)
ンバータ130で駆動される2シリンダ形回転式圧縮機であり、必要時に
シリンダ108Bに高圧冷媒を導入し、ベーン115b前後の圧力差をな
10 くし第2シリンダ108Bのみ非圧縮運転ができるようになっており(段
落【0027】、1次側冷媒にHC系冷媒であるプロパンを用い、2次側
)
冷媒に二酸化炭素冷媒を用いた(段落【0053】及び【0058】)もの
であり、室内側に使用する冷媒が二酸化炭素であるため、室内に可燃性冷
媒が漏れることがなく、安全に使用できる(段落【0062】 ものである。
)
15 ウ 引用発明の認定の誤りの有無について
(ア) 引用発明の認定の手法
引用発明の技術内容は、引用文献の記載を基礎として、客観的かつ具
体的に認定・確定されなければならず、引用文献に記載された技術内容
を、本願発明との対比に必要がないにもかかわらず抽象化したり、一般
20 化したり、上位概念化したりすることは、恣意的な判断を容れるおそれ
が生じるため、原則として許されない。他方、引用発明の認定は、これ
を本願発明と対比させて、本願発明と引用発明との相違点に係る技術的
構成を確定させることを目的としてされるものであるから、本願発明と
の対比に必要な技術的構成について過不足なく行われなければならず、
25 換言すれば、引用発明の認定は、本願発明との対比及び判断を誤りなく
することができるように行うことで足りる。
(イ) 2シリンダ形回転式圧縮機を備える点について
a 本願の特許請求の範囲の請求項1において、「媒体昇圧機」は、「前
記熱搬送媒体を昇圧する媒体昇圧機」構成要件E)
( と特定されている。
これによれば、
「媒体昇圧機」は、その具体的な構造や駆動手段等は特
5 定されていないから、熱搬送媒体を昇圧することができる様々な構成
を包含するものである。このことは、媒体昇圧機に関して、本願の請
求項5で「インバータによって回転数が制御されるモータを有してい
る」とされ、請求項6で「ロータリ圧縮機である」とされ、請求項7
で「オイルレスのターボ圧縮機である」とされていることや、本願明
10 細書等の段落【0042】に「媒体昇圧機31は、熱搬送媒体を昇圧
する機器である。媒体昇圧機31は、ロータリやスクロール等の容積
式の媒体圧縮要素(図示せず)をモータからなる媒体昇圧機用駆動機
構31aによって駆動する圧縮機である。尚、媒体昇圧機31を構成
する媒体圧縮要素は、ロータリやスクロールのような容積式の圧縮要
15 素に限定されるものではなく、他の形式(レシプロ等)の圧縮要素で
あってもよい。また、媒体昇圧機用駆動機構31aは、モータに限定
されるものではなく、他の駆動機構(エンジン等)であってもよい。」
と記載され、本願発明の媒体昇圧機として様々な構成を採用し得るこ
とが記載されていることとも整合する。
20 他方、前記イのとおり、引用文献1には、第1の実施の形態におい
て、第1圧縮機100及び第2圧縮機200は、インバータ130で
駆動される2シリンダ形回転式圧縮機であり、必要時にシリンダ10
8Bに高圧冷媒を導入し、ベーン115b前後の圧力差を無くし第2
シリンダ108Bのみ非圧縮運転ができるものとして記載されている。
25 上記のとおり、本願発明における「媒体昇圧機」は、具体的な構造
や駆動手段等は特定されておらず、熱搬送媒体を昇圧することができ
る様々な構成を包含するものであることに照らすと、このような本願
発明と引用発明との相違点に係る技術的構成を確定させるためには、
引用発明が第2圧縮機200を備えていることを特定すれば過不足が
ないということができ、第2圧縮機200について、第1の実施の形
5 態に係る具体的な構造等を認定することまでを要するものではないと
いうべきである。
そうすると、本件審決が引用発明の2次側冷凍サイクル20の圧縮
機を単に「圧縮機200」と認定したことには誤りはない。
b 原告らは、本件審決は、引用発明が、圧縮運転と非圧縮運転とを切
10 替可能に構成した、インバータ駆動される2シリンダ形回転式圧縮機
を必須の構成要素とする発明であることを捨象し、抽象化、上位概念
化して、圧縮機全般を前提としているかのように引用発明を認定した
点で、引用発明の認定に誤りがあると主張する(前記第3の1⑵イ(ア))。
確かに、引用発明を、抽象化、上位概念化して認定することにより、
15 引用発明に記載されていない技術的思想を認定することは許されない。
しかし、引用発明は、常に刊行物に書かれたとおりの具体的な構成と
して認定しなければならないとする理由はなく、本願発明との対比及
び判断を誤りなくすることができるように、本願発明に示された技術
的思想と対比する上で必要な限度で、刊行物の記載に基づいて、そこ
20 に示された技術的思想を表す構成を認定することは許されるというべ
きである。これを本件についてみると、本願発明における「媒体昇圧
機」は、具体的な構造や駆動手段等を特定することなく、熱搬送媒体
を昇圧することのできる装置という技術的思想を示すものであると認
められ、技術的観点からしても、その技術的思想の内容及び範囲を把
25 握することは可能である。そして、引用文献1に、圧縮運転と非圧縮
運転とを切替可能に構成した、インバータ駆動される2シリンダ形回
転式圧縮機を備える発明が記載されているとしても、そこには、上記
のような技術的思想を表す構成が示されていると認められるから、同
じ技術的思想を示すものとして、引用発明の2次側冷凍サイクル20
の圧縮機を単に「圧縮機200」と認定することは、引用文献1の記
5 載に基づいて、本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができ
るように引用発明の認定を行ったということができる。
したがって、本件審決による引用発明の認定に誤りがあるとは認め
られない。
(ウ) ペア機である点について
10 a 引用文献1に開示された技術的事項は、前記イのとおりであって、
引用文献1に記載された引用発明は、圧縮機の吸込容積を冷房運転時
と暖房運転時に応じた適正な吸込容積として、効率の高い運転が可能
な2元冷凍サイクル装置を提供することを課題とし、圧縮機の一つの
シリンダは圧縮運転と非圧縮運転を切り替え可能とする構成により上
15 記課題を解決したものである。そして、引用文献1には、第1の実施
の形態として、必要時に第2シリンダ108Bのみ非圧縮運転ができ
る第2圧縮機200とともに、一つの中間熱交換器300と一つの室
内熱交換器270とを有する2次側冷凍サイクル20(いわゆるペア
機)が記載されている。
20 しかし、引用文献1において、実施の形態は、上記のようにペア機
であることが把握できるものの、その特許請求の範囲の請求項1の記
載をみると、上記課題を解決する手段である圧縮機に係る構成(二つ
のシリンダのうち一つは圧縮運転と非圧縮運転とを切替可能に構成)
が特定される一方で、室内熱交換器の数量等の具体的な構成について
25 は特定されていない上、その発明の詳細な説明の記載を見ても、前記
課題解決手段と室内熱交換器数量等の具体的な構成が密接不可分であ
ることをうかがわせる記載はない。このような特許請求の範囲や発明
の詳細な説明の記載に照らすと、上記課題を解決する手段との関係に
おいて、室内熱交換器270の数量等の具体的な構成は、課題の解決
に必須のものではなく、任意付加的なものであって、引用文献1に記
5 載された発明は、ペア機に特定されるものではないものと認められる。
そうすると、引用文献1の記載に基づいて、本件審決が引用発明の認
定において、室内熱交換器の数量等を記載せずに、単に「室内熱交換
器270」と認定したことに誤りはないというべきである。
b この点に関し、原告らは、引用文献1には、ペア機を前提にした発
10 明が開示されており、本件審決は、引用発明の認定に当たってこの点
を看過して点で誤っていると主張する(前記第3の1〔原告らの主張〕
⑵イ(イ))。
原告らの上記主張は、引用文献1に、低負荷や高負荷時に負荷に応
じた運転ができないという課題が記載されているとし、そのような課
15 題は、ペア機に生じ、本願発明のようなそれぞれの室内の負荷に応じ
て、各室内熱交換器に流れる冷媒量を調節するビル用マルチには生じ
ないから、引用発明として、ペア機であることを認定すべきであると
いうものである。しかし、前記aのとおり、引用文献1の特許請求の
範囲や発明の詳細な説明の記載に照らすと、室内熱交換器270の数
20 量等の具体的な構成は、課題の解決に必須のものではなく、引用文献
1に記載された発明は、ペア機に特定されるものではないし、前記⑴
イ(エ)のとおり、本願発明は、マルチエアコンの発明であると認められ
るものの、冷媒量が特に多い「ビル用」のマルチエアコンに特定され
ているとは認められないし、また、本願発明は、各室内熱交換器に流
25 れる冷媒量を調節する構成は何ら特定されていないから、原告らの上
記主張は採用することができない。
⑶ 本願発明と引用発明の一致点、相違点の認定の誤りについて
ア 相違点2について
前記⑵ウ(ウ)aのとおり、引用文献1の特許請求の範囲や発明の詳細な説
明の記載に照らすと、室内熱交換器270の数量等の具体的な構成は、課
5 題の解決に必須のものではなく、引用発明における室内熱交換器270に
係る本件審決の認定に誤りがあるとはいえないことからすると、本件審決
が相違点2の認定において、「熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させる室
内空気熱交換器について、
・・・引用発明は、室内熱交換器270が複数設
けられているとは特定されていない点。」としたことは誤りであるとは認
10 められない。
原告らは、引用発明は、ビル用マルチに関する本願発明と異なり、ペア
機に特有の課題である、低負荷や高負荷時に負荷に応じた運転ができない
という課題を解決するための発明であるから、このような技術的意義の相
違を踏まえて対比した上で、相違点2を認定すべきであるなどと主張する
15 が(前記第3の1〔原告らの主張〕⑶イ(ア))、前記⑵ウ(ウ)bのとおり、引
用発明の課題に関する原告らの上記主張は採用することができないから、
相違点2に関する原告らの主張も採用することができない。
イ 相違点3について
前記⑵ウのとおり、本件審決の引用発明の認定に誤りはなく、本願発明
20 と引用発明を対比すると、引用発明の「圧縮機200」は本願発明の「媒
体昇圧機」に相当するから、この点は相違点とすることはできず、本件審
決が、本願発明と引用発明が「熱搬送媒体を昇圧する媒体昇圧機」を備え
る点で一致すると認定したことに誤りはない。
なお、仮に、引用発明の認定として、圧縮機200について、原告らの
25 主張のとおり、
「二つのシリンダを有するとともに、これら二つのシリンダ
のうち一つは圧縮運転と非圧縮運転とを切替可能に構成され、インバータ
駆動される2シリンダ形回転式圧縮機」と認定したとしても、本願の特許
請求の範囲の請求項1において、「媒体昇圧機」は、「前記熱搬送媒体を昇
圧する媒体昇圧機」
(構成要件E)と特定されているにとどまり、その具体
的な構造や駆動手段等は特定されておらず、熱搬送媒体を昇圧することが
5 できる様々な構成を包含するものであるから、上記のような圧縮機も本願
発明の「媒体昇圧機」に相当し、本願発明と引用発明の相違点を構成する
ものではない。
そうすると、本願発明と引用発明の相違点として相違点3を認定すべき
とする原告らの主張は採用することができない。
10 ⑷ 以上によれば、本件審決による本願発明と引用発明との一致点・相違点の
認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(周知技術の認定の誤り)について
⑴ 周知事項1について
引2事項は、引用文献2の記載に基づいて客観的に認定されたものであり、
15 また、引11事項は、引用文献11の記載に基づいて客観的に認定されたも
のであり、それらの認定に誤りがあるとは認められない。そして、本件審決
が、引用文献2の記載により認定した引2事項、引用文献11の記載により
認定した引11事項等に基づいて周知事項1を認定したことにも誤りはない。
その理由は、次のとおりである。
20 ア 複数の冷媒の中からの選択について
(ア) 本件審決は、
「引2事項」中、冷媒について、
「高温側サイクルの冷媒
として、例えば、HFC冷媒(R410A、R404A、R32、R4
07C)、HFO冷媒、HC冷媒等が使用され、低温側サイクルの冷媒と
して、例えば、地球温暖化係数(GWP)が1であるCO 2冷媒が使用さ
25 れること。(本件審決の4の4-2⑵〔本件審決12頁〕
」 )と認定し、ま
た、「引11事項」中、冷媒について、「高段側冷媒回路内には冷媒とし
てアンモニア(R717)、プロパン(R290)、プロピレン(R12
70)やフッ素系冷媒のR410、R32、R134a、R407Cな
どが所定量封入(実施例ではプロピレンとする)されると共に、低段側
冷媒回路内には冷媒として自然冷媒である二酸化炭素(CO2)が所定量
5 封入されていること」(本件審決の4の4-5⑵〔本件審決21頁〕)と
認定しており、上記に認定された冷媒は、引用文献2と引用文献11の
それぞれに記載のとおりであるから、各刊行物の記載を基礎として、客
観的かつ具体的に認定、確定されたものということができ、これを誤り
とすることはできない。
10 (イ) 確かに、一般論としては、引用刊行物において、例えば、当該刊行物
に化合物が一般式の形式で記載され、当該一般式が膨大な数の選択肢を
有する場合には、当業者は、特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を
積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り、当該刊行物の記載
から当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはでき
15 ないといえる。
しかし、引用文献2と引用文献11のように、一般式のような形式で
はなく、1次側冷媒が具体的に列挙されている場合には、複数列挙され
ている1次側冷媒のそれぞれと二酸化炭素との組み合わせが、並列的に、
現実に記載されているものと認められるから、当該刊行物の記載から、
20 1次側冷媒のうちの一つと二酸化炭素の組み合わせからなる特定の選択
肢に係る具体的な技術的思想を示す構成を認めることができるというべ
きである。
もっとも、1次側冷媒として列挙されたものの中に、2次側冷媒の二
酸化炭素と組み合わせることが技術的にできないようなものがある場合
25 には、そのようなものは、2次側冷媒の二酸化炭素との組み合わせとし
て抽出することはできないが、引用文献2や引用文献11において、R
32について、2次側冷媒の二酸化炭素と組み合わせることが技術的に
できないことを示す記載はない。また、技術常識C(前記1⑵イ(ア))に
照らして、引用文献2や引用文献11に列挙される冷媒(いずれもR3
2を含む。 は、
) いずれの冷媒も本願優先日前に当業者によく知られたも
5 のであり、かつこれらのいずれかを選択することは、フロンの代替物質
の研究・開発が進められる技術動向にも合致しているものであるから、
いずれの選択肢も技術的に採用し得ないものではない。さらに、これら
の1次側冷媒を2次側冷媒の二酸化炭素と組み合わせた場合に、二元冷
媒回路がカスケード接続された蒸気圧縮式冷凍機として一切稼働しない
10 等の、1次側冷媒として技術的に採用し得ないとする事情は認められな
い。そのため、1次側冷媒としてのR32と2次側冷媒として二酸化炭
素(CO2)を組み合わせることは、技術的に採用し得ないものとは認め
られない。
そうすると、本件審決が、引2事項及び引11事項から周知事項1を
15 導き出したことは、各刊行物の記載に基づいて、客観的かつ具体的に、
そこに記載された技術的事項を認定したものと認められ、誤りがあると
は認められない。
(ウ) この点に関し、原告らは、本件審決は、周知事項の認定の段階で、例
示される複数の冷媒からR32を選択するという推定 推論をしており、
・
20 客観的に「周知事項」を認定していない旨、本件審決は、本願発明に接
した後で、複数列挙の冷媒から、本願発明と同じ構成を選択しており、
このような判断は、引用発明の認定に容易想到性の判断を持ち込むもの
で許されない旨、本件審決の認定は、周知技術の認定の段階で想定・推
論し、さらに、本願発明と引用発明との相違点について論理付けができ
25 るかどうかの判断をしているから、いわゆる容易の容易であって許され
ない旨主張する(前記第3の2〔原告らの主張〕⑴ア)。
しかし、前記ア(イ)のとおり、引用文献2と引用文献11には、複数列
挙されている1次側冷媒のそれぞれと二酸化炭素との組み合わせが、現
実に記載されているものと認められ、複数列挙されている1次側冷媒の
一つであるR32と二酸化炭素の組み合わせは、現実に記載されている
5 組み合わせのうちの一つである。そして、引用発明の認定は、本願発明
との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うものであり、
相違点1において、1次側冷媒について、本願発明がR32であるのに
対して引用発明がプロパンであることが示されていることからすれば、
相違点1に関係する冷媒の組み合わせとしては、1次側冷媒がR32で
10 ある組み合わせを選択することは当然に行われるべきことである。そこ
において、相違点1に関係する冷媒の組み合わせを選択して示すという
精神作用が働いているとしても、それは、引用文献の記載のうち相違点
に関連する組み合わせを、
「R32」という本願発明の構成要件中の具体
的な用語と同一の用語を探すことにより選択しているというにとどまり、
15 それをもって、引用文献の記載と離れた推定、推論、想定が行われてい
ると認めることはできないし、容易想到性に関する判断が行われている
とはいえない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
イ 空調機の発明と冷凍装置の発明であることについて
20 原告らは、引用文献2記載の発明と引用文献11記載の発明は、本願発
明とは、対象とする温度領域が重なっておらず、求められる熱力学特性が
全く異なる上、本願発明と異なり、冷房と暖房の切替や、部屋ごとの独立
した温度調整といった要請もないから、本件審決が周知事項1を認定した
のは誤りである旨主張する(前記第3の2〔原告らの主張〕⑴イ)。
25 しかし、前記アで述べたとおり、本件審決が、引用文献2の記載に基づ
く引2事項、引用文献11の記載に基づく引11事項から、1次側冷媒と
してのR32と2次側冷媒として二酸化炭素(CO2)を組み合わせること
を導き出したことに誤りはなく、周知事項1は、引用文献2及び引用文献
11の記載に基づいて、客観的かつ具体的に、そこに記載された技術思想
を認定したものと認められ、その点に誤りがあるとは認められない。
5 ウ 周知性を裏付ける文献の数について
原告らは、周知事項1は、被告の主張によっても、それを根拠づける文
献は、引用文献2と引用文献11のみで数が少なく、周知技術に該当しな
いことは明白であると主張する(前記第3の2〔原告らの主張〕⑴ウ)。
しかし、周知技術とは、その技術分野において一般的に知られている技
10 術をいうところ、別紙「冷媒に関する刊行物の記載」及び技術常識Cによ
れば、周知事項1で特定される冷媒は、いずれもヒートポンプに係る技術
分野において広く知られていたものと認められるから、このような冷媒の
組み合わせを特定した周知事項1は、周知技術に該当するものと認められ
る。なお、乙5(特開平7-269964号公報)には、別紙「乙5(特
15 開平7-269964号公報)の記載」のとおりの記載があり、乙5の文
献に記載された実施例1には、二元冷媒回路がカスケード接続された空調
機において、1次側にHFC32(R32)を、2次側にCO 2を用いる組
み合わせが選択肢として記載されており(乙5の文献段落【0023】及
び【0024】、周知事項1がヒートポンプに係る技術分野において広く
)
20 知られていたことが裏付けられる。
この点に関し、原告らは、本件審決は、周知事項1を、複数の文献(引
用文献1、2及び10)を組み合わせて認定しており、いわゆる容易の容
易であり、許されないと主張する(前記第3の2〔原告らの主張〕⑴ウ)。
しかし、前記イのとおり、本件審決が、引2事項及び引11事項から周
25 知事項1を導き出したことは、各刊行物の記載に基づいて、客観的かつ具
体的に、そこに記載された技術的事項を認定したものと認められ、誤りが
あるとは認められず、前記ア(ウ)のとおり、それをもって、引用文献の記載
と離れた推定、推論、想定が行われていると認めることはできないし、容
易想到性に関する判断が行われているとはいえない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
5 ⑵ 1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒に二酸化炭素(CO2)を用いるこ
とについて
本件審決が、周知事項1及び引10事項から、1次側冷媒により2次側冷
媒を冷却又は加熱する場合のいずれであっても、1次側冷媒にR32を用い、
2次側冷媒にCO2を用いること自体は、本願優先日前に普通に採用される
10 冷媒の組み合わせである(本件審決6⑴〔本件審決25頁〕)と認定したこと
に誤りはない。
ア 空調用冷媒サイクルにおける2次側冷媒に二酸化炭素を用いることにつ
いて
原告らは、引用文献10記載の発明は、給湯用冷媒にのみ二酸化炭素が
15 用いられており、空調用冷媒サイクルにおける2次側冷媒に二酸化炭素を
用いることが記載されているわけではないから、「室内空調の冷凍サイク
ルにおいて1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒にCO2を用いること」
は記載されていない旨主張する(前記第3の2〔原告らの主張〕⑵ア)。
しかし、本件審決は、引10事項として、
「給湯用冷媒には、二酸化炭素
20 冷媒を用いること」を認定しており、空調用冷媒サイクルにおける2次側
冷媒に二酸化炭素を用いることが記載されていることまでを認定したも
のではないから、原告らの上記主張は、その前提を欠くものであり、採用
することができない。また、引用文献10の記載に照らし、引10事項は、
その記載に基づいて客観的かつ具体的に認定できるものであり、その認定
25 に誤りがあるとは認められない。
イ 空調機の発明と冷凍装置の発明であることについて
原告らは、本件審決が、周知事項1及び引10事項から「1次側冷媒に
より2次側冷媒を冷却又は加熱する場合のいずれであっても、1次側冷媒
にR32を用い、2次側冷媒にCO2を用いること自体は、本願優先日前に
普通に採用される冷媒の組み合わせである」と認定したことについて、引
5 10事項には、給湯用冷媒として二酸化炭素が記載されているのみであり、
本件審決の上記認定は、0℃近い水温を60℃以上の高温にしなければな
らない給湯システムと、人が過ごすための快適な室温を25℃ないし3
0℃(一般空調域)に制御する空調機との技術的な違い、技術分野の違い、
原理の違いを無視した乱暴な認定であると主張する(前記第3の2〔原告
10 らの主張〕⑵イ)。
周知事項1や引10事項の基礎となった各刊行物(周知事項1につき引
用文献2及び引用文献11、引10事項につき引用文献10)は、個別的
にみれば、冷凍機又は給湯機に関するものであるが、前記⑴及び前記アの
とおり、周知事項1及び引10事項は、各刊行物の記載に基づいて客観的
15 かつ具体的に認定できるものであり、それらの認定に誤りがあるとはいえ
ない。そして、周知事項1は、1次側冷媒により2次側冷媒を冷却する場
合であり、引10事項は1次側冷媒により2次側冷媒を加熱する場合であ
るが、いずれの場合であっても、1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒
にCO2を用いることが記載されているといえる。さらに、技術常識A及び
20 Bによれば、冷凍、給湯及び空調は、いずれもヒートポンプを用いること
から、原理的には全く同じで、技術面で共通していることが認められ、冷
媒に係る技術常識Cも踏まえれば、本件審決が認定したとおり、「1次側
冷媒により2次側冷媒を冷却又は加熱する場合のいずれであっても、1次
側冷媒にR32を用い、2次側冷媒にCO2を用いること」は、ヒートポン
25 プに係る技術分野(冷凍、給湯、空調)における当業者に知れ渡っていた
ものと認められる。なお、前記⑴ウのとおり、乙5の文献に記載された実
施例1には、二元冷媒回路がカスケード接続された空調機において、1次
側にHFC32(R32)を、2次側にCO 2を用いる組み合わせが選択肢
として記載されており(乙5の文献段落【0023】及び【0024】 、
)
上記の認定を裏付けているといえる。
5 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
⑶ 引用文献11に記載されたプロパンと本願発明に記載されたR32の違
いについて
原告らは、本件審決が、
「引11事項に示すとおり、1次側冷媒回路に用い
られる冷媒として、プロパンとR32とは併記して例示される冷媒でもある。」
10 と認定したこと(本件審決6⑴〔本件審決25頁〕)について、プロパンとR
32とでは性質が異なること等から、上記の本件審決の趣旨が、プロパンと
R32に代替性があるという趣旨であれば、誤りであると主張する(前記第
3の2〔原告らの主張〕⑶)。
しかし、前記⑴ア(ウ)のとおり、引用文献11(甲15)には、複数列挙さ
15 れている1次側冷媒のそれぞれと二酸化炭素との組み合わせが、並列的に、
現実に記載されているものと認められるから、本件審決が上記のとおり認定
したことについて誤りはない。
⑷ 周知事項2について
ア 周知事項2の認定の誤りの有無について
20 (ア) 引用文献3の記載
引用文献3には、別紙「引用文献3(甲13)の記載」のとおりの記
載がある。
(イ) 引用文献3に開示された技術的事項
別紙「引用文献3(甲13)の記載」によれば、引用文献3には、次
25 のような技術的事項が開示されているものと認められる。
引用文献3に記載された発明は、熱源側回路を循環する冷媒と熱交換
を行う熱搬送媒体が循環する回路を有する空気調和装置に関し(段落【0
001】、フロン等の冷媒量の削減が要求され、二次回路方式を採用す
)
ることで、装置全体で冷媒が循環する回路部分(ここでは、熱源側回路)
を小さくして、冷媒量の削減を図ることが検討され(段落【0002】、
)
5 利用側回路を循環する熱搬送媒体の熱搬送能力を向上させるために、ス
ラリーを熱搬送媒体として使用した構成が提案されているところ(段落
【0003】、搬送用媒体の利用によって冷媒量の削減の要求を満たし
)
つつ、利用側熱交換器や利用側熱交換器が設けられる利用ユニットを容
易に開発できるようにするものである(段落【0004】【0009】。
~ )
10 そして、図1に図示される一実施形態に係る空気調和装置1は、熱源側
冷媒が熱源側圧縮機21により循環する熱源側回路20と、熱源側冷媒
と熱交換を行う熱搬送媒体が循環ポンプ29により循環する搬送側回路
40と、熱搬送媒体と熱交換を行う利用側冷媒が利用側圧縮機31によ
り循環する利用側回路50とを有する装置であって(段落【0032】、
15 【0041】、各回路は、媒体-熱源側冷媒熱交換器26及び媒体-利
)
用側冷媒熱交換器34により接続されており(段落【0035】、熱搬
)
送媒体として電子相転移物質を水や水溶液、油等の液媒体に多量に混入
させたスラリーを用い(段落【0054】、建物内の複数の空間の空調
)
を行うことができるように、利用ユニット4a、4bが複数(ここでは、
20 2台)設けられているものである(段落【0034】。なお、利用ユニ
)
ットの台数については、2台に限定されるものではなく、3台以上であ
ってもよいとの示唆がある(段落【0034】。
)
(ウ) 認定の誤りの有無について
引用文献3の記載(前記(ア))及び引用文献3に開示された技術的事項
25 (前記(イ))によれば、本件審決の認定した引3事項(前記第2の3⑴ウ、
本件審決の4の4-3⑵〔本件審決18頁〕)は、引用文献3の記載を客
観的かつ具体的に認定したものと認められ、その認定に誤りがあるとは
認められない。
また、引3事項により周知事項2を認定したことに誤りがあると認め
ることもできない。そして、周知事項2は、二元冷媒回路がカスケード
5 接続された空調機に限ったとしても、乙5ないし乙7の各文献に示され
ているから、当該技術分野において一般的に知られているものであった
ことは、乙5ないし乙7により裏付けられているものと認められる。
イ 原告らの主張に対する判断
(ア) 技術的思想の違いの有無について
10 原告らは、引用文献3記載の発明は、三次回路方式の空調装置に関す
るものであることなどから、本願発明と技術的思想を異にするものであ
り、本件審決は、引用文献3の記載を単なる空気調和装置として上位概
念化した上で認定するもので誤りであると主張する(前記第3の2〔原
告らの主張〕⑷ア)。
15 しかし、本件審決が認定した相違点2は、利用側空調機の数の相違で
あるところ、利用側回路が、熱源側の熱を、熱交換器を介して利用側に
直接伝えるか、搬送側回路を一つ追加して当該搬送側回路を介して伝え
るかは、相違点2の判断に直接の関連性はないから、本件審決の周知事
項2の認定は、相違点2に係る事項の判断に必要となる事項が過不足な
20 く認定されているといえる。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(イ) 室内交換器の個数を相違点としたことについて
原告らは、本件審決は、他の構成要件との関係性を無視して、室内熱
交換器の個数だけを相違点として取り出した結果、本願発明とは無関係
25 である引用文献により、(形式的に)複数の室内熱交換機の記載があるも
のを論理づけに用いており、その点でも誤った判断であると主張する(前
記第3の2〔原告らの主張〕⑷イ)。
しかし、本件審決による相違点2の認定に誤りがないことは、前記3
⑶アのとおりであり、相違点2の認定に誤りがあることを前提とする原
告らの上記主張は採用することができない。また、冷媒の相違に関する
5 相違点1と、室内熱交換器の個数の相違に関する相違点2は、それらの
内容に鑑みて、別個の相違点として認定し、容易想到性の判断も別途に
行うのが相当と解され、冷媒の種類と室内交換機の個数が技術的に関連
していると認めるに足りる証拠はなく、それらの構成要件を関連付けて
解釈する根拠を認めるに足りる証拠もないから、その点からみても、本
10 件審決が、室内熱交換器の個数の相違を相違点2として認定したことに
誤りはなく、原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ) 周知性を裏付ける文献について
原告らは、引用文献3のみの1件により周知事項2の周知性が裏付け
られるとはいえない旨、原告らには、審査、審判手続において、乙5な
15 いし乙7の各文献に基づく被告の主張を争う機会や補正の機会が与えら
れていないから、これらの新たな公知文献(乙5~乙7)に基づく主張
は許されない旨、そもそも乙5ないし乙7の各文献は、本願発明とも引
用文献3が前提とする三元回路とも異なるから、引3事項にいう「利用
側回路50に複数の利用ユニット4a、4bを設けること」が周知であ
20 ることを裏付けるものではない旨を主張する(前記第3の2〔原告らの
主張〕⑷ウ)。
確かに、審決取消訴訟においては、審判手続において表れなかった資
料を新たに証拠として提出することは原則として許されないが、いかな
る例外もなく絶対に許されないというわけではなく、例えば、当業者に
25 とっては、刊行物をいちいち挙げるまでもないほどの周知慣用事項につ
いて、審決取消訴訟の段階で、これを立証するために補充的に新たな資
料を提出することは許されるというべきであるところ、本件審決は、周
知事項2を、その技術分野において一般的に知られている技術的事項と
して認定したものであり、そのような事項は、その技術分野において、
例示する必要がない程よく知られており、当業者が熟知している事項で
5 あるので、多数の証拠を示されなければ認められないというものではな
く、本件審決において、引用文献3は、そのような技術的事項の内容を
示すために用いられたものであるから、原告らの上記主張は、その前提
を欠くといえる。そして、本件審判において引用文献3が提出されてい
たことを考慮すると、本件審判の手続において原告らに主張立証の機会
10 が与えられていなかったとはいえない。また、乙5ないし乙7の各文献
は、それらがなければ周知事項2の周知性が認められないというもので
はなく、本件審決が周知であるとした認定に誤りがないことを示すため
に補充的に本件訴訟で提出されたものであり、乙5の文献【0027】
( 、
【0065】 図2) 乙6の文献 【0020】 0023】 0052】
、 、 ( 、
【 、
【 、
15 図14)、乙7の文献(【0011】【0012】【0013】
、 、 、図1)に
は、周知事項2に当たる事項が記載されているから、被告が乙5ないし
乙7の各文献を提出して周知事項2が周知である旨主張したことに誤り
はない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
20 ⑸ 以上によれば、取消事由2は理由がない。
5 取消事由3(進歩性判断の誤り)について
原告らは、原告らの主張する本願発明と引用発明の相違点(前記第3の1〔原
告らの主張〕⑶ア(イ))を前提とするならば、本願発明には進歩性があると主張
するが、前記3のとおり、本件審決による本願発明と引用発明との一致点・相
25 違点の認定に誤りはなく、原告らの主張する相違点(前記第3の1〔原告らの
主張〕⑶ア(イ))は採用することができないから、原告らの上記主張は理由がな
い。
以下では、本件審決が認定した一致点、相違点を前提として、本件審決の進
歩性の判断には誤りがあるか否かについて判断する。
⑴ 相違点1について
5 冷媒に係る技術常識を踏まえると、多数の冷媒の中では、CFC、HCF
Cは製造利用が禁止されていることから、HFC系冷媒、HFO系冷媒、又
は自然冷媒が選択肢となることは当業者にとって自明の事項であるし(技術
常識C)、これらの選択肢の中でも、R32やプロパンは、空調用の冷媒とし
て次世代の候補であったこと(技術常識E)や、プロパンとR32は、熱物
10 性値である標準沸点、臨界温度、臨界圧力において似た性質を有し、物性特
性が類似する一方で、プロパンはGWP(Global Warming Potential、地球
温暖化係数)が20未満であるが強燃性であるのに対し、R32はGWPが
675であるが微燃性であり、両者のGWPと燃焼性はトレードオフの関係
にあること(技術常識D及びF)は本願発明の技術分野において周知であり、
15 当業者は、技術を理解する上で当然又は暗黙の前提となる知識として有して
いたものと認められる。そして、低GWPと可燃性がトレードオフの関係に
ある以上、当業者は、その他の、毒性がないことなどの冷媒に求められる要
求にも配慮しながら、冷媒の選択肢の中から、トレードオフの関係にある事
項のいずれを重視するかによって、より適切な冷媒を選択するものであり、
20 こうした選択可能な冷媒から一つの冷媒を選択することは、当業者の通常の
創作能力の発揮にすぎないといわざるを得ない。
ところで、引用発明は1次側冷媒にプロパンを用いているところ、燃焼性
は高いもののGWPは低いプロパンに換えて、燃焼性は小さいもののGWP
がプロパンより高いR32を選択することは、GWPが低いことよりも燃焼
25 性が低いことを重視することからきわめて容易に導かれる選択であるし、ま
た、プロパン又はR32のいずれを選択した場合であっても、引用発明が解
決しようとする課題(圧縮機の吸込容積を冷房運転時と暖房運転時に応じた
適正な吸込容積として効率の高い運転が可能な2元冷凍サイクル装置を提供
すること)は、
「圧縮機の吸込容積を可変とすることで、冷房運転時と暖房運
転時に応じた適切な吸込容積とすること」という引用発明の解決手段を採用
5 することで解決し得るものである。そうすると、引用発明において、プロパ
ンに換えてR32を採用して相違点1に係る本願発明の構成とすることは、
引用発明の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的
事項の採用というべきものである。
本願優先日当時には、上記のような技術常識があったものであり、本件審
10 決は、二元冷凍装置において、
「1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒にC
O2を用いること」が、本願優先日前の刊行物に具体的に記載され、認識され
ていたこと(周知事項1)、1次側冷媒により2次側冷媒を冷却する場合も
過熱する場合も、「1次側冷媒にR32を用い、2次側冷媒にCO 2を用いる
こと」が普通に採用される冷媒の組み合わせであること(周知事項1、引1
15 0事項)を証拠により認定し、1次側冷媒としてプロパンとR32が併記し
て例示されていること(引11事項)を認定して、引用発明において、プロ
パンに換えてR32を採用して相違点1に係る本願発明の構成とすることは、
上記の設計変更や設計的事項の採用により、当業者が容易に想到し得ること
を示したものといえる。
20 したがって、本件審決が、相違点1について、
「引用発明において、冷媒回
路において用いる冷媒として、HC系冷媒であるプロパンに代えて、R32
とすることは、当業者が容易に想到し得たことである」
(本件審決6⑴〔本件
審決25頁〕)と判断したことに誤りはない。
⑵ 相違点2について
25 前記3⑵ウ(ウ)aのとおり、引用発明において室内熱交換器の数は任意付加
的な事項である一方、引用発明の課題は、圧縮機の吸込容積を冷房運転時と
暖房運転時に応じた適正な吸込容積として効率の高い運転が可能な2元冷凍
サイクル装置を提供することであり、室内熱交換器の数とは関係がなく、ペ
ア又はマルチのいずれを選択した場合であっても、引用発明が解決しようと
する課題は、引用発明の解決手段を採用することにより解決し得るものであ
5 る。そうすると、引用発明において、室内熱交換器の数は、利用側の部屋の
数や利用形態に応じて当業者が適宜決め得る事項であるといえる。そして、
周知事項2のとおり、利用側回路に複数の利用ユニットを設けることが周知
であることを踏まえると、引用発明において、複数の利用装置を設けること
を採用して相違点2に係る本願発明の構成とすることは、引用発明の課題を
10 解決するための技術の具体的適用に伴う単なる設計変更や設計的事項の採用
というべきものであり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
したがって、本件審決が、相違点2について、
「引用発明における利用ユニ
ットに相当する室内熱交換器の数は、利用側の部屋の数や利用形態に応じて
適宜決め得ることであるから、引用発明において、相違点2に係る本願発明
15 の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。(本件審
」
決6⑴〔本件審決25頁〕)と判断したことに誤りはない。
⑶ 原告らの主張に対する判断
ア 設計事項であるか否かについて
(ア) 相違点1について
20 原告らは、相違点1について、プロパンをR32に置き換えることを
設計事項であるとすることは、技術分野を問わず、優先日当時に公知の
冷媒であれば、何を適用しても全て設計事項とするものであり、明らか
に誤りであると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕⑴ア)。
しかし、引用発明においてプロパンに換えてR32を採用することが
25 設計変更や設計的事項の採用と解されるのは、前記⑴で述べた事情を考
慮したことによるものであり、技術分野を問わず、優先日当時に公知の
冷媒であれば、何を適用しても全て設計事項とするものではないから、
原告らの上記主張は採用することができない。
(イ) 相違点2について
原告らは、相違点2について、ペア機においてペア数を増やさずにマ
5 ルチに変更することは設計事項ではない等と主張する(前記第3の3〔原
告らの主張〕⑴イ)。
ペア機に関して、複数の部屋に設置する場合に、ペア数を増やすこと
は、当業者が通常認識している選択肢といえるから、そのような選択も
当業者の通常の創作能力の範囲内にあるといえる。しかし、前記⑵のと
10 おり、利用側に複数の熱交換機を設けることも、当業者が通常認識して
いる選択肢であり、ペア数を増やすかマルチとするかも含めて、当業者
が適宜選択できることであって、ペア数を増やすという選択肢の存在が
上記相違点2の判断を左右するものではないから、原告らの上記主張は
採用することができない。
15 (ウ) 設計事項であることの説示の有無について
原告らは、本件審決では、
「設計事項」という理由は一つも挙げられて
いないから、相違点1及び2を設計事項と判断するのは失当であると主
張する(前記第3の3〔原告らの主張〕⑴ウ)。
しかし、前記⑴及び⑵のとおり、引用発明において相違点1及び2に
20 係る本願発明の構成を採用することは当業者の通常の創作能力の発揮に
すぎないから、設計事項ということができるものであり、本件審決の容
易想到性に関する判断(本件審決6〔本件審決24~27頁〕)も、その
判断内容に鑑みれば、これと同様に判断したものと認められるから、原
告らの上記主張は採用することができない。
25 イ 主引用発明に周知技術を適用する動機付けの有無について
(ア) 動機付けの判断の有無について
原告らは、周知事項を根拠に設計事項であるとする場合でも、周知事
項であるという理由だけで、容易想到であることの論理付けができるか
否かの検討(その周知事項の適用に動機付けがあるか、阻害要因がない
か等の検討)を省略してはならないところ、本件審決は、これらの判断
5 をしていないから、その判断は失当であると主張する(前記第3の3〔原
告らの主張〕⑵ア)。
本願発明の容易想到性が肯定されるためには、主引用発明に、副引用
例に記載された発明又は周知技術を組み合わせることについて、原則と
して動機付けがなければならないと解される。しかし、主引用発明に、
10 その課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事
項を採用することによって本願発明に至る場合は、そのような設計変更
や設計的事項の採用は、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないから、
それについて特段の動機付けがなくても本願発明の容易想到性が認めら
れるというべきである。前記⑴及び⑵のとおり、引用発明に相違点1及
15 び2に係る本願発明の構成を適用することは、当業者の通常の創作能力
の発揮にすぎないから、設計事項ということができるものであり、その
適用について特段の動機付けのあることが示されなくても容易想到性は
認められる。
また、前記⑴及び⑵のとおり、引用発明が解決しようとする課題は、
20 引用発明の解決手段を採用することで解決し得るものであり、引用発明
において相違点1及び2に係る本願発明の構成を適用することによって
引用発明の課題が解決できなくなるような事情はないから、それらの適
用に阻害事由はない。本件審決は、阻害要因についての原告らの主張を
挙げた上、それらの主張を採用できないことを判断しており(本件審決
25 6⑶イ〔本件審決26、27頁〕、その判断に誤りがあるとは認められ
)
ない。なお、上記のとおり、相違点1及び2の容易想到性を認めるため
には、特段の動機付けを要するものではないが、以下、念のため、原告
らの主張について検討する。
(イ) 技術分野の関連性の有無について
原告らは、技術分野の関連性を判断するに当たっては、各技術を上位
5 概念化してはならないとし、本願発明はビル用マルチに関するものであ
るのに対し、引用発明は、ペア機特有の課題に着目したもので、しかも
2シリンダ形回転式圧縮機に係るものであって、その具体的な技術分野
は相違しているから、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想
到するための動機付けは極めて薄いと主張する(前記第3の3〔原告ら
10 の主張〕⑵イ)。
しかし、前記3⑵ウのとおり、本願発明はビル用マルチに限定される
ものではなく、媒体昇圧機の具体的な構造等は特定されていないし、前
記⑵のとおり、引用発明の課題はペア機特有のものではないから、原告
らの主張はその前提において採用することができない。
15 (ウ) 課題、作用・機能の共通性の有無について
原告らは、本願発明は、多数の作用効果を有機的に組み合わせた統合
システムの発明であるのに対し、引用発明は、圧縮機の吸込容積を可変
とするものにすぎず、その具体的な課題や作用・機能は全く異なってお
り、この観点からも、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想
20 到するための動機付けはないと主張するので(前記第3の3〔原告らの
主張〕⑵ウ)、この点について検討する。
原告らの上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、容易想到性の判
断に当たり、請求項に係る発明と主引用発明との間に具体的な課題や作
用・効果の共通性を要するという主張であるとすれば、主引用例の選択
25 の場面では、そもそも請求項に係る発明と主引用発明との間で、解決す
べき課題が大きく異なるものでない限り、具体的な課題が共通している
必要はないというべきである。これを本件についてみるに、本願発明の
課題は、
「冷媒が循環する冷媒回路と水(熱搬送媒体)が循環する水回路
(媒体回路)とを有しており、熱搬送媒体と室内空気とを熱交換させて
室内の空調を行うチラーシステム(熱搬送システム)において、媒体循
5 環を構成する配管を小径化するとともに、環境負荷の低減及び安全性の
向上を図ること」(段落【0005】)であって、格別新規でもなく、い
わば自明の課題というべきものであり、二酸化炭素を熱搬送媒体として
採用した引用発明においては解決されているといえるものである。
また、原告らは、本願発明が奏する効果についても主張するので、こ
10 の点について検討すると、本願発明の、冷房と暖房が可能であるという
効果(段落【0007】及び【0061】、及び複数の室内の冷房及び
)
暖房をまとめて切換可能であるという効果(段落【0062】)は、本願
発明が、冷媒流路切換機及び第1媒体流路切換機を備えることによる効
果であるところ、引用発明においても、第1四方弁150と第2四方弁
15 250を備えるから、冷房と暖房が可能であるし、複数の室内空気熱交
換器(相違点2に係る本願発明の構成)を備える場合には、第2四方弁
250と連結された室内熱交換機の数が増えるのみであると考えられる
から、複数の室内の冷房及び暖房をまとめて切換可能であるという効果
も当然に奏されることになる。そして、1次側にR32冷媒(相違点1
20 に係る本願発明の構成)を採用した場合でも、そのような効果を奏する
ことに変わりはない。配管小径化、省スペース化・配管施工及びメンテ
ナンス省力化、媒体使用量削減を図ることができるという本願発明の効
果(段落【0008】【0063】
、 )は、本願発明が熱搬送媒体として二
酸化炭素を採用したことによって奏するものであり、これは、引用発明
25 も、熱搬送媒体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏する
ものである。着火事故を防止できるという本願発明の効果(段落【00
09】及び【0064】)は、室内側に配置される媒体回路に二酸化炭素
を用いていることによるものであるが、これは、引用発明も、熱搬送媒
体として二酸化炭素を採用するから、同様の効果を奏するものである(甲
11の段落【0062】。また、本願明細書等には、HFC-32(R
)
5 32)を冷媒として採用する冷媒回路を構成する配管を室内側まで設置
する必要がないとの記載もある(段落【0009】 【0064】 が、
及び )
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及びその記載により認定される
本願発明では、冷媒回路が室内側に設置されていないことは特定されて
いないので、上記の効果は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記
10 載に基づくものとは認められない。さらに、技術常識D及びFに照らせ
ば、引用発明のプロパンは強燃性であるのに対し、本願発明のR32は
微燃性であることから、着火事故を防止できるという効果は、引用発明
に比べると本願発明が優れていると解されるが、引用発明において相違
点1に係る本願発明の構成を採用することにより、自ずと奏するように
15 なる効果である。環境負荷を低減するという本願発明の効果(段落【0
010】及び【0065】)は、R32と二酸化炭素を採用したことによ
るものであるところ、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成
を採用することにより自ずと奏されるものである。そうすると、原告ら
が本願発明の効果として主張するものは、引用発明も奏するものである
20 か、又は相違点1に係る本願発明の構成を採用することにより自ずと奏
するものであり、引用発明に他の技術を組み合わせて本願発明を想到す
るための動機付けを否定するに足りるような顕著なものではない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 組み合わせの阻害要因について
25 原告らは、プロパンは、冷媒の能力として、寒冷地での使用が困難であ
るから、これをR32に代替することには阻害要因があると主張する(前
記第3の3〔原告らの主張〕⑶)。
しかし、本願発明においては、寒冷地での使用の可否など冷房又は暖房
の能力に関連する特定はなく、引用文献1にも、引用発明において、特に
寒冷地での使用が困難なプロパンのような冷媒を採用することに技術的
5 意味があることをうかがわせるような記載はないから、引用発明のプロパ
ンをR32に代替することに阻害事由があるとは認められない。
また、原告らは、着火事故の防止というビル用マルチの決定的課題に反
する選択となるので、引用発明をビル用マルチに使用することには阻害要
因があると主張する(前記第3の3〔原告らの主張〕⑶)。
10 しかし、本願発明がビル用マルチに限定されたものでないことは前記3
⑴イのとおりであるし、仮に本願発明がビル用マルチに適用されるとして
も、引用発明で採用されている強燃性のプロパンを微燃性のR32に置き
換えることは、ビル用マルチに要請される性能に必ずしも反するものでは
なく、むしろそれにそう面もあるから、原告らの上記主張は採用すること
15 ができない。
⑷ 以上によれば、取消事由3は理由がない。
6 結論
原告らは、その他縷々主張するが、それらはいずれも理由がない。
以上によれば、原告らの主張する取消事由はいずれも理由がなく、本件審決
20 には、これを取り消すべき違法はない。
よって、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第3部
5 裁判長裁判官
東 海 林 保
10 裁判官
中 平 健
15 裁判官
都 野 道 紀
(別紙再公表特許公報,別紙審決書写し省略)
別紙
空調機と冷凍機、給湯器に関する刊行物の記載
1 乙12(「エコキュート普及促進のため小型化・高効率化を実現」国立研究開発
5 法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO、 「NEDO」
以下 という。)
のホームページ)
(乙19により、平成25年(2013年)に掲載されたものと
認められる。)
「自動車部品サプライヤーとしての強みを活かした開発
世界で初めて CO2 冷媒ヒートポンプ給湯器を作り出したデンソーは、給湯器や
10 家電のメーカーではありません。エンジン制御システムや電子機器、カーエアコ
ン、カーナビシステムなどの自動車部品関連事業を中心とする企業でありながら、
画期的な給湯システムを作り出すことができたのはなぜでしょうか。
プロジェクトの責任者を務めた空調冷熱技術2部・部長の平輝彦さんによれば、
「むしろ自動車関連の仕事をベースとした技術力があるからこそ、エコキュート
15 を実現できたのだと思います」とのこと。
長年、自動車用途で培われたラジエータなどの熱交換器だけでなく、コンプレッ
サやエジェクタなどカーエアコンの主要な高度技術を広くエコキュートに応用で
マ マ
きたというわけです。大気からの熱を吸熱するエパボレータやその熱で水を温め
るための水冷媒熱交換器などにおいて、カーエアコンで使われている材料や加工
20 技術などが大いに役立っています。
平さんは、
「冷凍サイクルということでは、カーエアコンと給湯器とで共通するも
のも多いですし、そもそもデンソーでは自動車とその他の製品を区別せず開発に
あたっています。実際には担当製品分野が決まっていますが、デンソーの色々の
分野の技術者、開発者が全員同じ建物内で仕事をしているので、情報共有やアイ
25 デアの提案などは活発に行われています」と語ります。
例えば、今回のプロジェクトでは、エバポレータ(吸熱を行う熱交換器)にアル
ミ扁平管を使っています。通常の給湯器では銅とアルミを使いますが、製品の軽
量性や性能を考えればアルミ単体の方が優れています。その一方で加工が難しく、
一般的には採用されてきませんでした。
しかし、カーエアコンのアルミ扁平管を作ってきた技術がベースとしてあるため、
5 デンソーではエコキュートでもアルミ扁平管を採用することができました。そし
て、このアルミ微細加工技術がエコキュートの実用化、性能向上に重要な役割を
果たしているのです(次項目参照)」
。
2 乙22 「ヒートポンプがわかる本」
( 社団法人日本冷凍空調学会、平成19年(2
10 007年)8月31日第1版第2刷発行)8頁
「●ヒートポンプとは
(中略)
環境温度より高い温度や低い温度の環境を生成する機械をヒートポンプある
いは冷凍機と言います。冷凍機は低温を生成する機械を指すのに対し、ヒートポ
15 ンプは低温や高温を生成する機械の総称です。」
「●身の回りのヒートポンプ
(中略)
生活の中のヒートポンプをまとめると、以下のとおりになります。
家庭:冷蔵庫、ルームエアコン、除湿機、ヒートポンプ給湯機」
3 乙23(「ヒートポンプ活用ガイドブック」株式会社電気書院、昭和60年2月
10日第1版第1刷発行)263~264頁
「熱回収式ルームエアコンの使い方
日立製作所 ルームエアコン設計部 五十川元
25 (中略)
ヒートポンプルームエアコンは、定格冷房能力に対する定格暖房能力の割合を
示す冷暖比が10年前の約1.7倍以上にも高暖房力化され、またCOP(成績
係数)も改良されて、省エネルギー性が高められている(第1図).ヒートポンプ
ルームエアコンの性能改良に伴って、需要も年々増加し、58冷凍年度では、ル
ームエアコン全体の出荷台数の約半数をヒートポンプが占めるに至っている(第
5 2図).
(中略)
ヒートポンプ技術がこの給湯分野に応用されつつあり、冷暖房と給湯の機能を合
体させたヒートポンプ冷暖房給湯システム、および給湯機能だけを独立させたヒ
ートポンプ給湯機として製品化されている.家庭用ヒートポンプ給湯の歴史は浅
10 く、生産台数も多くないが、経済性や安全性などから将来に大きな期待が寄せら
れている.」
「成績係数」とは、(coefficient of performance)冷凍機やヒートポンプ
なお、 「
の入力に対する出力の比。」を意味する。
15 4 乙24(「わかり易い機械講座 冷凍および空気調和」株式会社明現社、昭和6
0年3月30日第1版第12刷)
「ではここで冷凍機の構成要素をならべてみよう。
① 圧縮機(コンプレッサ、compressor)
冷媒の蒸気を圧縮して送り出す。冷凍機の心臓ともいえる。
20 ② 蒸発器(エバポレータ、evaporator)
冷却器ともいい、物体から熱を奪い低温にする。
③ 凝縮器(コンデンサ、condenser)
圧縮された冷媒の蒸気を水または空気で冷却して液体とする。
④ 膨張弁(エクスパンションバルブ expansion valve)
25 絞り弁で、高圧冷媒液が通るとき急に広い所に吹き出されるので圧力が低下し、
したがって沸点が下がり、蒸発器で容易に蒸発しやすくなる。冷媒流量も調整で
きる。キャピラリチューブという細い管を使うことも多い。
⑤ 受液器(レシーバー、receiver)
凝縮した冷媒液を一時ためておく容器
以上のように大きく五つの部分から構成されている。このような構造のものを
5 ふつう蒸気圧縮式冷凍機と名付けている。一般に冷凍機といえば、この形式のも
のと考えてよい。
さて冷凍機の働きを冷媒の流れにしたがってみると、蒸発器で熱を奪った気体
冷媒は、圧縮機で高温・高圧の状態となり、凝縮器で冷やされて、ふたたび液体
にかわり、受液器、膨張弁を経て蒸発器に帰ってくる。奪った熱は庫外に設けら
10 れた長いパイプの凝縮器で外部に吐き出しているわけである。(24頁)
」
「 次に電気冷蔵庫、ガス冷蔵庫、ルームクーラなどについて少しみておこう。
1.3.6 電気冷蔵庫(Electric refrigerator)冷媒としては、塩化メチル(methyl
chloride, CH2Cl2) 亜硫酸ガス
, (sulfur dioxide, SO2)またはフレオンガス(Freon,
CHCl2F)などを使って圧縮液化させ、次にこれを膨張弁で急激に膨張気化させ
15 る。このとき気化に際して、庫内の熱を吸収し、庫内温度を下げ、氷をつくる。」
(26頁)
「1.3.8 クーラ 電気冷蔵庫と原理的にはまったく同じで、ただ蒸発器を室内に、
凝縮器を室外に置く点が異なる。蒸発器で吸収した室内の熱を室外に置かれた凝
縮器で放出する。
20 (中略)
なお、後にのべるように凝縮器における放熱を利用して暖房ができる。蒸発器、
凝縮器をそのままにしておき、スイッチ一つで冷媒の流れを反対にすれば、冷房
側がそのまま暖房側になる。このような便利な冷暖房装置は、ヒートポンプ方式
と言われ、広く利用されている。
25 1.4 冷凍サイクル
1.4.1 冷凍サイクルとは 前節では冷凍機はどんな機器から構成され、冷媒がど
んな順序で、どんな変化をしながら循環するかをのべた。そしてあたかも水ポン
プのように熱を低熱源から高熱源にくみ上げる働きをしていることにもふれた。
冷凍機の冷媒の流れる順序をもう一度繰り返すと下のようになる。
このように、Aから出発して、一まわりしふたたびもとのAにもどる、この循
環の輪をサイクル(cycle)と名付ける。(27頁)
」
別紙
冷媒に関する刊行物の記載
1 甲16 「陳述書」
( ダイキン工業株式会社空調生産本部商品開発エグゼクティブ
5 リーダー主席技師甲、令和4年2月28日)添付資料3(「空調用冷媒の動向」N
TTファシリティーズ総研 Annual Report No.28 平成29年(2017年)
6月)
「1. はじめに
近年,地球温暖化問題から高 GWP(Global Warming Potential:地球温暖化
10 係数)冷媒を巡り,国際的な規制強化の動きが高まっている。今後,代替フロン
から低 GWP・ノンフロン冷媒への転換がますます進んでいく状況にある。
我国では,機器使用中の冷媒の大規模漏洩の判明などを受けて,これまでのフ
ロン回収・破壊法が改正され,回収・廃棄時だけでなくフロン類の製造から廃棄
までのライフサイクル全体にわたる包括的な対策が取られるように「フロン類の
15 使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」(以下「フロン排出抑制法」)が施
行されている。
本稿では近年の空調用冷媒の取り巻く状況とその動向について紹介する。
2. 冷媒の特徴
フロン類とはフルオロカーボン(フッ素と炭素の化合物)の総称であり,フロ
20 ン排出抑制法では CFC(クロロフルオロカーボン),HCFC(ハイドロクロロフ
ルオロカーボン) HFC
, (ハイドロフルオロカーボン)をフロン類と呼んでいる。
最近では低 GWP 冷媒として HFO(ハイドロフルオロオレフィン)系冷媒を採
用した製品の発売が増えている。HFO は水素,フッ素,炭素からなる化合物で,
炭素と炭素の結合に二重結合を有するため大気中での分解が早く,GWP が極め
25 て低い。
20 」
「3. 空調用冷媒の変遷
3.1 黎明期,フロン系冷媒の登場
空調システムの黎明期における空調用冷媒には炭化水素,アンモニア,二酸化
炭素といった自然冷媒が用いられていた。その後,CFC(クロロフルオロカーボ
25 ン),HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)といったフロン系冷媒が開発さ
れた。冷媒として性能に優れ,化学的に安定し不燃,無毒であり安全性が高いこ
とから使用用途が拡大していった。
3.2 オゾン層保護
1974 年,CFC が成層圏のオゾン層を破壊することが米国カルフォルニア大学
ローランド教授らの論文により明らかとなった。この問題から,オゾン層を破壊
5 する物質に関するモントリオール議定書に基づき,国際的に生産・輸入が規制さ
れた。同議定書を受けて,日本では「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に
関する法律」(以下「オゾン層保護法」)に基づき,CFC を 1995 年に全廃済み,
HCFC を 2020 年に全廃予定である。
3.3 地球温暖化対策
10 オゾン層破壊問題を受けて,HFC(ハイドロフルオロカーボン)系冷媒が開発
された。一般にこれらを代替フロンと呼ぶ。HFC 系冷媒はオゾン層を破壊する塩
素を持たないためオゾン層破壊はしないものの,二酸化炭素の 100 倍から1万倍
以上の大きな温室効果がある。そのためこれまでの代替フロンに代わる低 GWP・
ノンフロン冷媒が求められている。
15 低 GWP 冷媒としては,HFC 系の混合冷媒や HFO(ハイドロフルオロオレフ
ィン)系冷媒などの研究開発が進んでいる。また,これら以外に自然界に存在す
る自然冷媒である炭化水素,アンモニア,二酸化炭素などの採用がある。
4. 低 GWP 冷媒
4.1 次世代冷媒候補
20 図1に製品別の次世代候補を示す。空調用冷媒の低 GWP 冷媒候補は多数挙げ
られているが,将来的にどの冷媒が主流となっていくのかは見えていない。
(中略)
4.2 低 GWP 冷媒の課題
現在,低 GWP 冷媒の課題として低 GWP 冷媒の微燃性に対しての安全性の確
25 保が挙げられる。
冷媒の国際規格として ISO 817 があり,2014 年に微燃性(2L)区分を含む冷
媒の安全等級の基準が盛り込まれ改訂されている。本改訂では,燃焼性区分が細
分化され等級としては4つに分類された(不燃性:Class1,微燃性:Class2L,
燃焼性:Class2,強燃性:Class3)(表3)。
CFC 系冷媒は不燃性であったが, GWP 冷媒として期待されている冷媒には
低
5 微燃性のものが多い。 GWP 冷媒としては,HFO 系冷媒(R-1234yf,
低 R-1234ze
(E),HFC 系との混合冷媒(R-32)などがあるが,微燃性(2L)区分の冷媒
)
がほとんどである(表4)。このように低 GWP 化と可燃性についてはトレードオ
フの傾向があり,GWP が低くても燃焼性や毒性の問題で一長一短である。
」
」
2 甲16添付資料6(「経営戦略を成功に導く知財戦略」特許庁2020年(令和
20 2年))
「 ダイキン工業株式会社は1924年に大阪で創業。
現在、空調機・フッ素化学製品の世界的メーカーとして、世界150か国以上
で事業を展開しており、空調事業は世界トップレベルを誇る。
オープン領域とした地球温暖化への影響を低減する基本技術の特許を無償開放
25 し、グローバルに技術を普及して、市場を拡大するとともに、クローズ領域の競
争力のある特許で競争力を確保して販売台数を拡大。」
「冷媒R32特許の無償開放の経緯
同社は、従来の冷媒(代替フロンR410A)に比べて地球温暖化係数が訳1
/3の冷媒R32を使用した空調機を開発し、基本特許・関連特許を世界各国で
出願・取得。マーケットを拡大していくために、標準化を進めつつ、特許技術の
5 オープン化を展開してきた(図1)。
図1 冷媒R32特許技術の段階的なオープン化の拡大
2011年:温暖化影響の少ない冷媒への切換えに向けた取組を加速するため、
新興国においてR32空調機に関する93件の特許を無償開放。
10 2015年:各国の環境規制の機運の高まりに合わせ、先進国においても「無償
開放」を行うことを発表。
2019年:2011年以降に出願した特許(約180件)に関しても「無償開
放」をアナウンス。同社の「特許権不行使の誓約」の中で、事前許可も契約も不
15 要であること、係争等の場合に誓約を取消し得ることなどを明記。」
3 甲16添付資料9は、ASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)の Standard 34
であり、各種の多数の冷媒について冷媒番号を定めており、その冷媒番号は、国
際標準化機構(ISO、International Organization for Standardization)の ISO
20 817でも採用されている。
4 乙4(「初級標準テキスト 冷凍空調技術」公益社団法人日本冷凍空調学会、平
成24年(2012年)2月10日 第4次改訂)
「6.1.1 冷媒とその種類
25 ⑴ 冷媒の歴史
冷媒は冷凍機の内部を循環して冷凍サイクルを形成する作動物質で、液体の状
態で周囲の物質から熱を吸収し低温で蒸発し、物質を冷却する媒体である。
冷凍サイクルで、加熱目的で利用するときはヒートポンプサイクルというが、
この場合は加熱が目的なので冷凍という名称は適当でないので、ヒートポンプの
作動液体または媒体と呼ぶことがあるが、冷却加熱兼用のヒートポンプでは冷媒
5 という名称をそのまま使っていることが多い。
冷媒には蒸気圧縮冷凍機に用いられるものと、吸収冷凍機に用いられるものが
ある。ここでは、前者用の冷媒を取り上げる。後者には(中略)がある。
冷媒には多くの種類があり、19世紀から20世紀の前半にかけては、エチル
エーテル(中略)アンモニア(中略)プロパンなどいろいろな物質が利用されて
10 いたが、これはいずれも毒性や可燃性を有するという欠点があった。しかし、1
930年にフルオロカーボン(フロン)系冷媒が発明されるに及んで、ほとんど
ほかの冷媒は駆逐されて1990年代まできた。
しかし、このフルオロカーボン系冷媒の中で、塩素を含む冷媒(CFC系、H
CFC系)の塩素が、地球の成層圏に存在し大気圏への紫外線の透過を防いでい
15 るオゾン層を破壊していることがわかり、その製造、利用が全面的に禁止される
ようになり、さらに塩素を含まないHFC系も地球温暖化に寄与していることか
ら、その利用も見直されようとしている。
表6.1はこれらの冷媒のオゾン破壊や地球温暖化に与える影響を比較したも
のである。表ではオゾン破壊についてはR11を1とし、地球温暖化については
20 二酸化炭素を1とした相対値で示している。
現在、冷凍技術分野では、このフルオロカーボン系冷媒の代替物質の研究・開
発が進められている。
その中には、まだその利用が認められているHCFC・HFC系冷媒(R22,
R134aなど)のほかに、冷凍機の古い歴史の中で用いられてきたアンモニア
25 やブタン、プロパン、二酸化炭素などがあり、総称して自然冷媒と呼ばれ、注目
を集めている。
」
5 乙28(「環境問題と冷媒開発-快適な生活環境の持続のために-」山田康夫
15 ダイキン工業株式会社 化学と教育67巻7号、2019年(平成31年))
「
」(316頁、赤枠は被告による。)
「
」(317頁)
6 乙29(「船舶における冷凍冷蔵・空調用冷媒の現状および将来動向」日本マリ
ンエンジニアリング学会誌、第41巻第3号、2006年(平成8年))
「
」(28頁、赤枠は被告による。)
別紙
引用文献1(甲11)の記載
1 特許請求の範囲
5 【請求項1】
室外熱交換器を有する1次側冷凍サイクルと、
室内熱交換器を有する2次側冷凍サイクルと、
この2次側冷凍サイクルに設けられ、2つのシリンダを有するとともに、これ
ら2つのシリンダのうち1つは圧縮運転と非圧縮運転とを切替可能に構成され、
10 インバータ駆動される2シリンダ形回転式圧縮機と、
上記1次側冷凍サイクルの冷媒と上記2次側冷凍サイクルの冷媒とを熱交換す
る中間熱交換器とを備えることを特徴とする2元冷凍サイクル装置。
(中略)
【請求項3】
15 上記2次側冷凍サイクルの冷媒は、二酸化炭素を主成分とする単一冷媒又は混
合冷媒であることを特徴とする請求項1または2記載の2元冷凍サイクル装置。
【請求項4】
上記1次側冷凍サイクルの冷媒は、炭化水素系の冷媒であることを特徴とする
請求項3記載の2元冷凍サイクル装置。
2 発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機等に用いられる2元式冷凍サイクルに関し、特に効率を
25 高めることができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍装置において、低温度を発生させるために、1次側冷凍サイクルと2次側
冷凍サイクルを備えた2元冷凍サイクル装置が用いられることがある。このよう
な2元冷凍サイクル装置に用いられる圧縮機には、インバータ駆動の容量可変形
5 圧縮機を用いたり、圧縮機を複数台設置したりすることが知られている(例えば
特許文献1参照)。
【特許文献1】 特開平4-148160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
10 【0003】
上述した2元冷凍サイクル装置を空気調和機とした場合、次のような問題があ
った。すなわち、2次側の圧縮機の吸込容積が冷房運転時と暖房運転時とで同じ
であるため、能力可変幅が圧縮機回転数可変範囲に依存してしまう。このため低
負荷や高負荷時において、能力可変幅を逸脱し、負荷に応じた運転ができないこ
15 とや、圧縮機の効率が悪い低回転数での運転となることがあった。これは、一般
的に圧縮機の運転回転数が低いと、シール部からの漏れ量が多くなり、効率が低
下するためである。
【0004】
そこで本発明は、圧縮機の吸込容積を可変とすることで、冷房運転時と暖房運
20 転時に応じた適正な吸込容積とし効率の高い運転が可能な2元冷凍サイクル装置
を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明の2元冷凍サイクル装置は次
25 のように構成されている。
【0006】
室外熱交換器を有する1次側冷凍サイクルと、室内熱交換器を有する2次側冷
凍サイクルと、この2次側冷凍サイクルに設けられ、2つのシリンダを有すると
ともに、これら2つのシリンダのうち1つは圧縮運転と非圧縮運転とを切替可能
に構成され、インバータ駆動される2シリンダ形回転式圧縮機と、上記1次側冷
5 凍サイクルの冷媒と上記2次側冷凍サイクルの冷媒とを熱交換する中間熱交換器
とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、圧縮機の吸込容積を可変とすることで、冷房運転時と暖房運
10 転時に応じた適正な吸込容積とすることができ、効率の高い運転が可能となる。
【0008】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る2元冷凍サイクル装置(空気調和機)
1を示す構成図、図2は2元冷凍サイクル装置1に組み込まれた第1圧縮機10
0及び第2圧縮機200を示す断面図、図3は2元冷凍サイクル装置1の暖房運
15 転時におけるP-h線図である。
(中略)
【0010】
図1に示すように2元冷凍サイクル装置1は、1次側冷凍サイクル10と、2
次側冷凍サイクル20とを備えている。また、2元冷凍サイクル装置1は、1次
20 側冷凍サイクル10の冷媒(1次側冷媒)と2次側冷凍サイクル20の冷媒(2
次側冷媒)とが熱交換できるように形成された中間熱交換器300とを備えてい
る。なお、1次側冷媒と2次側冷媒とには、同じ冷媒又は特性の類似した冷媒を
用いる。
【0011】
25 1次側冷凍サイクル10は、第1圧縮機100と、この第1圧縮機100の吐
出口に連結された第1四方弁150と、この第1四方弁150に連結された室外
熱交換器160と、この室外熱交換器160に連結された第1膨張機構170と、
この第1膨張機構170に連結され、中間熱交換器300に組み込まれた第1中
間熱交換器300Aと、この第1中間熱交換器300Aに第1四方弁150を介
して連結されたアキュムレータ180とを順次備え、このアキュムレータ180
5 は圧縮機100の吸込口へと連結されている。
【0012】
2次側冷凍サイクル20は、第2圧縮機200と、この第2圧縮機200の吐
出口から連結された第2四方弁250と、この第2四方弁250に連結され、中
間熱交換器300に組み込まれた第2中間熱交換器300Bと、この第2中間熱
10 交換器300Bに連結された第2膨張機構260と、この第2膨張機構260に
連結された室内熱交換器270と、この室内熱交換器270に第2四方弁250
を介して連結されたアキュムレータ280とを順次備え、このアキュムレータ2
80は圧縮機200の吸込口へと連結されている。
【0013】
15 中間熱交換器300は、第1中間熱交換器300Aと第2中間熱交換器300
Bとを備えており、1次側冷媒と2次側冷媒とを熱交換可能に構成されている。
(中略)
【0026】
また、第1圧縮機100と第1四方弁150とを連結する吐出管118の中途
20 部から分岐して、第2シリンダ室114bに接続される吸込管116bの中途部
に合流する分岐管Pが設けられている。この分岐管Pの中途部には、第1開閉弁
128が設けられている。吸込管116bで分岐管Pの分岐部よりも上流側に第
2開閉弁129が設けられている。第1開閉弁128と第2開閉弁129とは、
それぞれ電磁弁であって、制御部140からの電気信号に応じて開閉制御される
25 ような構成となっている。
【0027】
このように、第1圧縮機100及び第2圧縮機200は、インバータ130で
駆動される2シリンダ形回転式圧縮機であり、必要時にシリンダ108Bに高圧
冷媒を導入し、ベーン115b前後の圧力差を無くし第2シリンダ108Bのみ
非圧縮運転ができるようになっている。
5 【0028】
このように構成された2元冷凍サイクル装置1では、次のようにして通常運転
と片側シリンダ非圧縮運転(能力半減運転)との切換えを行う。すなわち、通常
運転を行う場合は、制御部140が、圧力切換え機構Kの第1開閉弁128を閉
成し、第2の開放弁129を開放するよう制御する。そして、制御部140はイ
10 ンバータ130を介して電動機部103に運転信号を送る。回転軸104が回転
駆動され、偏心ローラ113a、113bは第1、第2シリンダ室114a、1
14b内で偏心回転を行う。
(中略)
【0032】
15 次に、第1シリンダ108Aは圧縮運転で、第2シリンダ108Bのみ非圧縮
運転を行う片側シリンダ非圧縮運転を行う場合について説明する。なお、片側シ
リンダ非圧縮運転は、冷房運転又は暖房運転に応じて第1圧縮機100及び第2
圧縮機200の一方のみにおいて行われ、他方は上述した通常運転を行う。第2
シリンダ108Bの非圧縮運転は次のように行う。すなわち、制御部140が圧
20 力切換え機構Kの第1開閉弁128を開放し、第2開閉弁129を閉成するよう
に切換え設定する。第1シリンダ室114aにおいては上述したように通常の圧
縮作用がなされ、密閉ケース101内に吐出された高圧ガスが充満してケース内
高圧となる。吐出管118から吐出される高圧ガスの一部が分岐管Pに分流され、
開放する第1開閉弁128と吸込み管116bを介して第2シリンダ室114b
25 内に導入される。
【0033】
第2シリンダ室114bが吐出圧(高圧)雰囲気にある一方で、ベーン室12
2bはケース内高圧と同一の状況下にあることには変わりがない。このため、ベ
ーン115bは前後端部とも高圧の影響を受けていて、前後端部において差圧が
存在しない。ベーン115bはローラ113b外周面から離間した位置で移動す
5 ることなく停止状態を保持し、第2シリンダ室114bでの圧縮作用は行われな
い。結局、第1シリンダ室114aでの圧縮作用のみが有効であり、能力を半減
した運転がなされることになる。
(中略)
【0036】
10 2元冷凍サイクル装置1の冷房運転時は図1中矢印Cのように、まず1次側冷
凍サイクル10では、上述したように第1圧縮機100で圧縮された1次側冷媒
は、第1圧縮機100の吐出管118から第1四方弁150、室外熱交換器16
0、第1膨張装置170及び第1中間熱交換器300Aを順次通過し、第1四方
弁150、第1アキュムレータ180を介して第1圧縮機100へと戻る。
15 【0037】
同様に、2次側冷凍サイクル20では、第2圧縮機200で圧縮された2次側
冷媒は、第2圧縮機200の吐出管118から第2四方弁250、第2中間熱交
換器300B、第2膨張装置260及び室内熱交換器270を順次通過し、第2
四方弁250、第2アキュムレータ280を介して第2圧縮機200へと戻る。
20 このとき、1次側冷媒は室外熱交換器160で凝縮され、第1中間熱交換器30
0Aで蒸発し、2次側冷媒は第2中間熱交換器300Bにおいて放熱し冷熱を得
て、室内熱交換器270によって室内の熱を吸収し室内空気を冷却する。
【0038】
2元冷凍サイクル装置1の暖房運転時は第1四方弁150と、第2四方弁25
25 0とを切換える。これにより、図1中矢印Hのように、冷媒の流れが冷房運転時
と逆になり、1次側冷媒の流れは1次側冷凍サイクル10では、第1圧縮機10
0の吐出管118から第1四方弁150、第1中間熱交換器300A、第1膨張
装置170及び室外熱交換器160を順次通過し、第1四方弁150、第1アキ
ュムレータ180を介して第1圧縮機100へと戻る。
【0039】
5 同様に2次側冷凍サイクル20では、第2圧縮機200で圧縮された2次側冷
媒が、第2圧縮機200の吐出管118から第2四方弁250、室内熱交換器2
70、第2膨張装置260及び第2中間熱交換器300Bを順次通過し、第2四
方弁250、第2アキュムレータ280を介して第1圧縮機200へと戻る。
【0040】
10 図3は冷凍サイクル1の暖房運転時における冷媒の状態を示しており、図3中
実線Mは冷凍圧縮サイクル行程の1次側冷凍サイクル10の冷媒のP―hの変化
を示し、aは第1圧縮機100の入口(吸込み)部、bは第1中間熱交換器30
0A、cは第1膨張装置170の入口部、dは室外熱交換器160の入口部の入
口部の冷媒の状態を示している。また、図3中破線Nは冷凍圧縮サイクル行程の
15 2次側冷凍サイクル20の冷媒のP―hの変化を示し、eは第2圧縮機200の
入口(吸込み)部、fは室内熱交換器270の入口部、gは第2膨張装置26の
入口部、hは第2中間熱交換器300Bの入口部の冷媒の状態を示している。
【0041】
1次側冷媒は、第1中間熱交換器300Aで凝縮され、室外熱交換気160で
20 蒸発する。2次側冷媒は室内熱交換器270において放熱し室内空気を暖め、第
2中間熱交換器300Bによって蒸発する。このとき図3に示すように、中間熱
交換器300では、1次側冷凍サイクル10の凝縮と2次側冷凍サイクル20の
蒸発とでの温度差をとって熱交換させるため、1次側冷媒の冷凍サイクル行程と
2次側冷媒の冷凍サイクル行程とが交差する二段構造となる。
25 (中略)
【0052】
図4は2元冷凍サイクル装置1の変形例に係る冷房運転時のT-h線図、図5
は本変形例の暖房運転時のT-h線図、図6は本変形例の1次側冷凍サイクル1
0と2次側冷凍サイクル20の熱交換時の凝縮温度と全体のサイクル効率(CO
P)を示したグラフ、図7は本変形例の二酸化炭素冷媒のP-h線図上に冷房運
5 転と暖房運転における二酸化炭素の冷媒状態を示したグラフである。
【0053】
本変形例の2元冷凍サイクル装置1は、1次側冷凍サイクル10に使用する1
次側冷媒をHC系冷媒であるプロパンを用い、2次側冷凍サイクル20に使用す
る2次側冷媒に二酸化炭素冷媒を用いたものである。
10 (中略)
【0055】
2元冷凍サイクル装置1は、2次側冷凍サイクル20の室内熱交換器(蒸発)
270で室内空気から吸熱して室内を冷却する。室内空気から吸熱した2次側冷
媒は、中間熱交換器300の1次側冷凍サイクル10の第1中間熱交換器(蒸発)
15 300Aと2次側冷凍サイクル20の第2中間熱交換器(凝縮)300Bとで熱
交換し、冷媒の熱を2次側冷媒から1次側冷媒に移動させる。1次側冷媒の熱を
1次側冷凍サイクル10の室外熱交換器(凝縮)160で室外空気へ放熱させる。
【0056】
図5は、本変形例の2元冷凍サイクル装置1の暖房運転時における、図5中破
20 線Qは1次側冷媒であるプロパンのT-hの変化、図5中実線Rは2次側冷媒で
ある二酸化炭素のT-hの変化を示したグラフである。
【0057】
2元冷凍サイクル装置1は、1次側冷凍サイクル10の室外熱交換器(蒸発)
160にて室外空気から吸熱し、中間熱交換器300の1次側冷凍サイクル10
25 の第1中間熱交換器(凝縮)300Aと2次側冷凍サイクル20の第2中間熱交換
器(蒸発)300Bとで熱交換し、冷媒の熱を1次側冷媒から2次側冷媒へ移動さ
せる。そして、2次側冷媒の熱を2次側冷凍サイクル20の室内熱交換器270
により室内を暖房する。
【0058】
図4、5に示すように、2次側冷媒として用いる二酸化炭素はサイクル効率が
5 低いため、2次側冷凍サイクル20の冷媒に使用する場合は、1次側冷凍サイク
ル10で、高圧側と低圧側の温度差を可能な限り取り、2次側冷凍サイクルは圧
力差を極力小さくすることが消費電力量の点で望ましい。
【0059】
図6は、1次側冷凍サイクル10と2次側冷凍サイクル20との熱交換時の凝
10 縮温度と全体のサイクル効率(COP)を示したグラフである。冷房運転時は、
2次側冷凍サイクル20の二酸化炭素の凝縮温度を下げるほど、暖房運転時は1
次側冷凍サイクル10のプロパンの凝縮温度を上げるほど効率が高くなる。
【0060】
図7は、二酸化炭素のP-h線図上に、冷房運転時及び暖房運転時における二
15 酸化炭素の冷媒状態を示したグラフである。図7に示すように、冷房運転時と暖
房運転時で、作動圧力が極端に変わることが分かる。他の冷媒は圧力に大きな差
があると、コンプレッサ吸込における冷媒の密度の差が大きくなる。しかし、二
酸化炭素冷媒の場合は、暖房運転時に超臨界サイクルになり、エンタルピ差が冷
房運転時に比べて極端に小さくなる。このため、上述した第1の実施の形態の2
20 元冷凍サイクル装置1とは異なり、吸込み圧力が低く、冷媒の比体積の大きな(冷
媒密度の小さい)冷房運転の方が暖房運転に比べて、能力が大きすぎることにな
る。
【0061】
したがって、一方のシリンダを圧縮運転と非圧縮運転とを切替可能な2シリン
25 ダ形回転式圧縮機(例えば第1圧縮機100、第2圧縮機200)を備えること
により、冷房運転時や低負荷時には1つのシリンダでの運転、暖房運転時や高負
荷時には2シリンダでの運転とすることができ、適用能力範囲を広げることが可
能となる。
【0062】
本実施例の2元冷凍サイクル装置1によれば1次側冷媒に炭化水素(HC)系
5 の冷媒を用い、2次側冷媒に二酸化炭素冷媒を用いると、使用冷媒が自然界に存
在する冷媒であることから、代替フロンを用いる必要がなく、地球温暖化への冷
媒自体の直接効果を減少することが可能である。このため、冷媒の漏れなどによ
る温暖化防止に有効となる。また、室内側に使用する冷媒が二酸化炭素冷媒であ
るため、室内に可燃性冷媒が漏れることもなく、安全に使用可能である。
10 【0063】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した
例で2次側冷媒に二酸化炭素を用いるとしたが、この二酸化炭素冷媒は単一冷媒
又は混合冷媒のどちらでも適用できる。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲
で種々変形実施可能である。
15 【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る2元冷凍サイクル装置を示す構成図。
【図2】同2元冷凍サイクル装置に組み込まれた第1圧縮機及び第2圧縮機を示
す断面図。
20 (中略)
【図4】同2元冷凍サイクル装置の変形例における冷房運転時のT-h線図。
【図5】本変形例の暖房運転時のT-h線図。
(中略)
【図7】本変形例の二酸化炭素冷媒のP-h線図上に冷房運転と暖房運転におけ
25 る二酸化炭素の冷媒状態を示したグラフ。
【符号の説明】
【0065】
1…2元冷凍サイクル装置、10…1次側冷凍サイクル、20…2次側冷凍サイ
クル、100…第1圧縮機、150…第1四方弁、160…室外熱交換器、17
0…第1膨張装置、180…第1アキュムレータ、200…第2圧縮機、250
5 …第2四方弁、260…第2膨張弁、270…室内熱交換器、280…第2アキ
ュムレータ、300…中間熱交換器、300A…第1中間熱交換器、300B…
第2中間熱交換器、E…室外構成、I…室内構成、C…冷房運転時の冷媒の流れ、
H…暖房運転時の冷媒の流れ。
10 3 図面
【図1】
【図2】
15 (中略)
【図4】
【図5】
【図6】
(以下略)
別紙
引用文献3(甲13)の記載
1 発明の詳細な説明
5 【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和装置、特に、熱源側回路を循環する冷媒と熱交換を行う熱
搬送媒体が循環する回路を有する空気調和装置に関する。
【0002】
10 近年の温室効果ガスの大幅削減の要求に関して、空気調和装置の分野において
は、フロン等の冷媒量の削減が要求されている。これに対して、二次回路方式の
空気調和装置の採用が検討されている。ここで、二次回路方式の空気調和装置と
は、熱源側回路を循環する冷媒と熱交換を行う熱搬送媒体が循環する利用側回路
を有しており、利用側回路が有する利用側熱交換器における熱搬送媒体の熱交換
15 によって空調を行うものである。すなわち、二次回路方式を採用することで、装
置全体で冷媒が循環する回路部分(ここでは、熱源側回路)を小さくして、冷媒
量の削減を図ることが検討されている。
【0003】
また、二次回路方式の空気調和装置として、特許文献1(特開2000-16
20 1724号公報)には、利用側回路を循環する熱搬送媒体の熱搬送能力を向上さ
せるために、液体-固体相転移に伴って得られる潜熱を利用する物質を含むスラ
リーを熱搬送媒体として使用した構成が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
25 【0004】
特許文献1の構成では、利用側回路を構成する利用側熱交換器に熱搬送媒体が
流れることになる。このため、利用側熱交換器や利用側熱交換器が設けられる利
用ユニットを熱搬送媒体用に開発する必要がある。ところが、利用側熱交換器や
利用側熱交換器が設けられる利用ユニットの開発にあたっては、冷媒が循環する
だけの一次回路方式の空気調和装置において使用されている利用側熱交換器や利
5 用側熱交換器が設けられる利用ユニットの構成を流用することが難しい。
【0005】
本発明の課題は、熱源側回路を循環する冷媒と熱交換を行う熱搬送媒体が循環
する回路を有する空気調和装置において、搬送用媒体の利用によって冷媒量の削
減の要求を満たしつつ、利用側熱交換器や利用側熱交換器が設けられる利用ユニ
10 ットを容易に開発できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点にかかる空気調和装置は、熱源側冷媒が循環する熱源側回路と、熱
源側冷媒と熱交換を行う熱搬送媒体が循環する搬送側回路と、熱搬送媒体と熱交
15 換を行う利用側冷媒が循環する利用側回路とを有している。そして、利用側回路
は、利用側熱交換器を有しており、熱源側回路からの熱は、搬送側回路を通じて
利用側回路に搬送され、利用側熱交換器における利用側冷媒の熱交換によって空
調を行うようになっており、熱搬送媒体は、電子のもつ自由度に関する相転移で
ある電子相転移を行う物質である電子相転移物質を含むスラリーである。
20 【0007】
ここでは、二次回路方式における利用側回路を、熱源側冷媒と熱交換を行う熱
搬送媒体が循環する搬送側回路、及び、熱搬送媒体と熱交換を行う利用側冷媒が
循環する利用側回路によって構成するとともに、熱搬送媒体として電子相転移を
行う物質である電子相転移物質を含むスラリーを使用している。ここで、熱源側
25 回路、搬送側回路及び利用側回路という3つの回路を有する構成を三次回路方式
と呼ぶことにする。また、電子相転移とは、特許文献2(特開2010-163
510号公報)にも記載されているように、電子のもつ自由度である、軌道の自
由度、又は、電荷・スピン・軌道の自由度のうち少なくとも2つ以上を含む複自
由度の相転移のことである。そして、この電子相転移は、固体状態で発生する相
転移(固体-固体相転移)であり、相転移に伴って潜熱を得ることができ、相転
5 移時の体積変化が固体-液体相転移に比べて小さいという特性がある。そして、
ここでは、このような電子相転移を行う物質である電子相転移物質を水や水溶液、
油等の液媒体に多量に混入させたスラリーを熱搬送媒体としているのである。
【0008】
このため、ここでは、熱源側回路を循環する熱源側冷媒と搬送側回路を循環す
10 る熱搬送媒体とが熱交換することによって、熱搬送媒体において液媒体の温度変
化及び電子相転移物質の相転移が発生する。そして、搬送側回路を循環する熱搬
送媒体と利用側回路を循環する利用側冷媒とが熱交換することによって、熱搬送
媒体において液媒体の温度変化及び電子相転移物質の相転移(但し、熱源側回路
を循環する熱源側冷媒と搬送側回路を循環する熱搬送媒体との熱交換とは逆の温
15 度変化及び相転移)が発生する。そして、利用側熱交換器における利用側冷媒の
熱交換によって、空調が行われることになる。すなわち、ここでは、電子相転移
物質の電子相転移による潜熱を利用して、熱源側回路から搬送側回路への熱搬送、
そして、搬送側回路から利用側回路への熱搬送が行われる。しかも、電子相転移
時における電子相転移物質の体積変化が小さいため、搬送側回路における圧力変
20 化も抑えられる。また、このとき、利用側回路を構成する利用側熱交換器に利用
側冷媒が流れることになるため、利用側熱交換器や利用側熱交換器が設けられる
利用ユニットを熱搬送媒体用に開発する必要がない。そして、利用側熱交換器や
利用側熱交換器が設けられる利用ユニットの開発にあたっては、利用側冷媒のよ
うな冷媒が循環するだけの一次回路方式の空気調和装置において使用されている
25 利用側熱交換器や利用側熱交換器が設けられる利用ユニットの構成を流用するこ
とができる。しかも、利用側回路と同様に冷媒が循環する熱源側回路との共通化
も可能になり、このような共通化の観点では、特に、熱源側冷媒と利用側冷媒と
を同じ冷媒にすることが好ましい。
【0009】
これにより、ここでは、搬送用媒体の利用によって冷媒量の削減の要求を満た
5 しつつ、利用側熱交換器や利用側熱交換器が設けられる利用ユニットを容易に開
発できるようにすることができる。
(中略)
【0030】
以下、本発明にかかる空気調和装置の実施形態について、図面に基づいて説明
10 する。尚、本発明にかかる空気調和装置の実施形態の具体的な構成は、下記の実
施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0031】
(1)構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気調和装置1の概略構成図である。次
15 に、空気調和装置1の全体構成について説明する。
【0032】
<全体>
空気調和装置1は、回路構成の観点から見ると、熱源側冷媒が循環する熱源側
回路20と、熱源側冷媒と熱交換を行う熱搬送媒体が循環する搬送側回路40と、
20 熱搬送媒体と熱交換を行う利用側冷媒が循環する利用側回路50とを有する装置
である。そして、空気調和装置1は、利用側回路50が、利用側熱交換器42a、
42bを有しており、熱源側回路20からの熱が、搬送側回路40を通じて利用
側回路50に搬送され、利用側熱交換器42a、42bにおける利用側冷媒の熱
交換によって空調を行うようになっている。ここで、熱源側回路20は、昇圧、
25 放熱、減圧、蒸発の行程を行いながら熱源側冷媒が循環する蒸気圧縮式(直膨式)
の冷凍サイクルを構成している。また、搬送側回路40は、熱源側回路20から
得た熱(冷熱や温熱)を利用側回路50に搬送しながら熱搬送媒体が循環する熱
搬送サイクルを構成している。さらに、利用側回路50は、搬送側回路40から
得た熱(冷熱や温熱)を使用しつつ、昇圧、放熱、減圧、蒸発の行程を行いなが
ら利用側冷媒が循環する蒸気圧縮式(直膨式)の冷凍サイクルを構成している。
5 このように、空気調和装置1では、三次回路方式が採用されている。ここで、熱
源側冷媒と利用側冷媒とは異なる冷媒であってもよいし同じ冷媒であってもよい
が、熱源側回路20と利用側回路50との共通化の観点では、同じ冷媒にするこ
とが好ましい。
【0033】
10 また、空気調和装置1は、ユニット構成の観点から見ると、主として、熱源ユ
ニット2と、中間ユニット3と、利用ユニット4a、4bとが接続されることに
よって構成されている。ここで、熱源ユニット2は、ビル等の建物外に設けられ
ており、中間ユニット3及び利用ユニット4a、4bは、その建物内に設けられ
ている。そして、熱源ユニット2と中間ユニット3とは、熱搬送媒体が流れる送
15 り側熱搬送媒体連絡管6及び戻り側熱搬送媒体連絡管7を介して接続されている。
また、中間ユニット3と利用ユニット4a、4bとは、利用側冷媒が流れる液利
用側冷媒連絡管8及びガス利用側冷媒連絡管9を介して接続されている。すなわ
ち、空気調和装置1では、熱源側冷媒が循環する熱源側回路20が熱源ユニット
2に設けられており、熱搬送媒体が循環する搬送側回路40が送り側熱搬送媒体
20 連絡管6及び戻り側熱搬送媒体連絡管7を介して熱源ユニット2及び中間ユニッ
ト3にまたがって設けられている。また、空気調和装置1では、利用側冷媒が循
環する利用側回路50が液利用側冷媒連絡管8及びガス利用側冷媒連絡管9を介
して中間ユニット3及び利用ユニット4a、4bにまたがって設けられている。
このように、空気調和装置1では、互いに離れた場所に設置される室外側(ここ
25 では、熱源ユニット2)と室内側(ここでは、中間ユニット3及び利用ユニット
4a、4b)との接続を、熱搬送媒体が流れる熱搬送媒体連絡管6、7を介して
行うようにしており、熱源側冷媒が循環する熱源側回路20が室外側(ここでは、
熱源ユニット2)だけに収まり、かつ、利用側冷媒が循環する利用側回路50が
室内側(ここでは、中間ユニット3及び利用ユニット4a、4b)だけに収まる
ようにしている。
5 【0034】
また、ここでは、建物内の複数の空間の空調を行うことができるように、利用
ユニット4a、4bが複数(ここでは、2台)設けられている。また、空調とし
て冷房及び暖房を行うことができるように、熱源側回路20における熱源側冷媒
の流れ方向を切り換えるための熱源側冷媒切換機構23が熱源側回路20に設け
10 られており、利用側回路50における利用側冷媒の流れ方向を切り換えるための
利用側冷媒切換機構33が利用側回路50に設けられている。ここで、冷房は、
熱源側回路20から搬送側回路40を通じて利用側回路50に冷熱を搬送し利用
側熱交換器42a、42bにおける利用側冷媒の蒸発によって冷熱を利用する空
調である。また、暖房は、熱源側回路20から搬送側回路40を通じて利用側回
15 路50に温熱を搬送し利用側熱交換器42a、42bにおける利用側冷媒の放熱
によって温熱を利用する空調である。尚、利用ユニットの台数は、2台に限定さ
れるものではなく、3台以上であってもよい。次に、空気調和装置1の詳細構成
について説明する。
【0035】
20 <熱源ユニット> 熱源ユニット2は、上記のように、室外に設置されており、
搬送側回路40の一部及び熱源側回路20を構成している。熱源ユニット2は、
主として、熱源側圧縮機21と、熱源側冷媒切換機構23と、熱源側熱交換器2
4と、熱源側膨張機構25と、媒体-熱源側冷媒熱交換器26と、循環ポンプ2
9とを有している。そして、熱源側圧縮機21、熱源側冷媒切換機構23、熱源
25 側熱交換器24、熱源側膨張機構25及び媒体-熱源側冷媒熱交換器26が接続
されることによって構成された熱源側冷媒が循環する回路が熱源側回路20であ
る。また、媒体-熱源側冷媒熱交換器26及び循環ポンプ29が熱搬送媒体連絡
管6、7を介して媒体-利用側冷媒熱交換器34に接続されることによって構成
された熱搬送媒体が循環する回路が搬送側回路40である。
【0036】
5 熱源側圧縮機21は、冷凍サイクルの低圧の熱源側冷媒を高圧になるまで昇圧
して熱源側冷媒を循環させるための機器である。ここでは、熱源側圧縮機21は、
ロータリ式やスクロール式等の容積式の圧縮要素(図示せず)をインバータによ
り周波数(回転数)制御可能な熱源側圧縮機用モータ22によって回転駆動する
構造となっている。すなわち、熱源側圧縮機21は、周波数(回転数)を変化さ
10 せることで運転容量を制御することが可能に構成されている。熱源側圧縮機21
は、吸入側及び吐出側がともに熱源側冷媒切換機構23に接続されている。
【0037】
熱源側冷媒切換機構23は、熱源側回路20における熱源側冷媒の流れの方向
を切り換えるための機構である。熱源側冷媒切換機構23は、冷房時には、熱源
15 側熱交換器24を熱源側圧縮機21において昇圧された熱源側冷媒の放熱器とし
て機能させ、かつ、媒体-熱源側冷媒熱交換器26を熱源側熱交換器24におい
て放熱した熱源側冷媒の蒸発器として機能させる冷房サイクル状態への切り換え
を行う。すなわち、熱源側冷媒切換機構23は、冷房時には、熱源側圧縮機21
の吐出側と熱源側熱交換器24のガス側とが接続される(図1の熱源側冷媒切換
20 機構23の実線を参照) しかも、
。 熱源側圧縮機21の吸入側と媒体-熱源側冷媒
熱交換器26のガス側とが接続される(図1の熱源側冷媒切換機構23の実線を
参照)。また、熱源側冷媒切換機構23は、暖房時には、熱源側熱交換器24を媒
体-熱源側冷媒熱交換器26において放熱した熱源側冷媒の蒸発器として機能さ
せ、かつ、媒体-熱源側冷媒熱交換器26を圧縮機21において昇圧された熱源
25 側冷媒の放熱器として機能させる暖房サイクル状態への切り換えを行う。すなわ
ち、熱源側冷媒切換機構23は、暖房時には、熱源側圧縮機21の吐出側と媒体
-熱源側冷媒熱交換器26のガス側とが接続される(図1の熱源側冷媒切換機構
23の破線を参照) しかも、
。 熱源側圧縮機21の吸入側と熱源側熱交換器24の
ガス側とが接続される(図1の熱源側冷媒切換機構23の破線を参照)。尚、ここ
では、熱源側冷媒切換機構23として四路切換弁が使用されているが、複数の弁
5 を組み合わせた回路構成にすること等によって、四路切換弁と同様の機能を果た
せるように構成してもよい。
【0038】
熱源側熱交換器24は、冷房時には室外空気を冷却源として熱源側圧縮機21
において昇圧された熱源側冷媒の放熱器として機能し、暖房時には室外空気を加
10 熱源として熱源側膨張機構25において減圧された熱源側冷媒の蒸発器として機
能する熱交換器である。熱源側熱交換器24は、液側が熱源側膨張機構25に接
続されており、ガス側が熱源側冷媒切換機構23に接続されている。ここで、熱
源ユニット2は、熱源ユニット2内に室外空気を吸入して、熱源側熱交換器24
において熱源側冷媒と熱交換させた後に、外部に排出するための室外ファン27
15 を有している。すなわち、熱源ユニット2は、熱源側熱交換器24を流れる熱源
側冷媒の冷却源又は加熱源としての室外空気を熱源側熱交換器24に供給するフ
ァンとして、室外ファン27を有している。ここでは、室外ファン27として、
室外ファン用モータ28によって駆動されるプロペラファン等が使用されている。
【0039】
20 熱源側膨張機構25は、冷房時には熱源側熱交換器24において放熱した冷凍
サイクルの高圧の熱源側冷媒を冷凍サイクルの低圧まで減圧し、暖房時には媒体
-熱源側冷媒熱交換器26において放熱した冷凍サイクルの高圧の熱源側冷媒を
冷凍サイクルの低圧まで減圧するための機構である。熱源側膨張機構25は、一
端が熱源側熱交換器24の液側に接続されており、他端が媒体-熱源側冷媒熱交
25 換器26のガス側に接続されている。ここでは、熱源側膨張機構25として電動
膨張弁が使用されている。
【0040】
媒体-熱源側冷媒熱交換器26は、熱源側回路20を循環する熱源側冷媒と搬
送側回路40を循環する熱搬送媒体との熱交換を行う熱交換器である。媒体-熱
源側冷媒熱交換器26は、冷房時には、熱源側膨張機構25において減圧された
5 熱源側冷媒と媒体-利用側冷媒熱交換器34において吸熱した熱搬送媒体との熱
交換によって、熱源側冷媒の蒸発器として、かつ、熱搬送媒体の放熱器として機
能する。また、媒体-熱源側冷媒熱交換器26は、暖房時には、熱源側圧縮機2
1において昇圧された熱源側冷媒と媒体-利用側冷媒熱交換器34において放熱
した熱搬送媒体との熱交換によって、熱源側冷媒の放熱器として、かつ、熱搬送
10 媒体の吸熱器として機能する。媒体-熱源側冷媒熱交換器26の熱源側冷媒が流
れる部分は、液側が熱源側膨張機構25に接続されており、ガス側が熱源側冷媒
切換機構23に接続されている。また、媒体-熱源側冷媒熱交換器26の熱搬送
媒体が流れる部分は、入口側が循環ポンプ29の吐出側に接続されており、出口
側が送り側熱搬送媒体連絡管6に接続されている。このように、熱源側回路20
15 と搬送側回路40とが、媒体-熱源側冷媒熱交換器26を有している。
【0041】
循環ポンプ29は、熱搬送媒体を昇圧して熱搬送媒体を循環させるための機器
である。ここでは、循環ポンプ29は、遠心式や容積式等のポンプ要素をポンプ
用モータ30によって駆動する構造となっている。循環ポンプ29は、吸入側が
20 戻り側熱搬送媒体連絡管7に接続されており、吐出側が媒体-熱源側冷媒熱交換
器26の入口側に接続されている。尚、循環ポンプ29は、遠心式や容積式等の
機械式のポンプに限定されるものではなく、特許文献1のような加減圧動作によ
る構成を使用してもよい。また、循環ポンプ29の接続位置は、媒体-熱源側冷
媒熱交換器26の入口側に限定されるものではなく、媒体-熱源側冷媒熱交換器
25 26の出口側に接続されていてもよい。この場合には、媒体-熱源側冷媒熱交換
器26の熱搬送媒体が流れる部分は、入口側が戻り側熱搬送媒体連絡管7に接続
され、出口側が循環ポンプ29の吐出側に接続されることになる。
【0042】
<中間ユニット>
中間ユニット3は、上記のように、室内に設置されており、搬送側回路40の
5 一部及び利用側回路50の一部を構成している。中間ユニット3は、主として、
媒体-利用側冷媒熱交換器34と、利用側圧縮機31と、利用側冷媒切換機構3
3とを有している。そして、媒体-利用側冷媒熱交換器34が熱搬送媒体連絡管
6、7を介して循環ポンプ29及び媒体-熱源側冷媒熱交換器26に接続される
ことによって構成された熱搬送媒体が循環する回路が搬送側回路40である。ま
10 た、利用側圧縮機31、利用側冷媒切換機構33及び媒体-利用側冷媒熱交換器
34が利用側冷媒連絡管8、9を介して利用側流量調節機構4a、41b及び利
用側熱交換器42a、42bに接続されることによって構成された利用側冷媒が
循環する回路が利用側回路50である。
【0043】
15 媒体-利用側冷媒熱交換器34は、搬送側回路40を循環する熱搬送媒体と利
用側回路50を循環する利用側冷媒との熱交換を行う熱交換器である。媒体-利
用側冷媒熱交換器34は、冷房時には、媒体-熱源側冷媒熱交換器26において
放熱した熱搬送媒体と利用側圧縮機31において昇圧された利用側冷媒との熱交
換によって、熱搬送媒体の吸熱器として、かつ、利用側冷媒の放熱器として機能
20 する。また、媒体-利用側冷媒熱交換器34は、暖房時には、媒体-熱源側冷媒
熱交換器26において吸熱した熱搬送媒体と利用側流量調節機構41a、41b
において減圧された利用側冷媒との熱交換によって、熱搬送媒体の放熱器として、
かつ、利用側冷媒の蒸発器として機能する。媒体-利用側冷媒熱交換器34の熱
搬送媒体が流れる部分は、入口側が送り側熱搬送媒体連絡管6に接続されており、
25 出口側が戻り側熱搬送媒体連絡管7に接続されている。また、媒体-利用側冷媒
熱交換器34の利用側冷媒が流れる部分は、液側が液利用側冷媒連絡管8に接続
されており、ガス側が利用側冷媒切換機構33に接続されている。このように、
搬送側回路40と利用側回路50とが、媒体-利用側冷媒熱交換器34を有して
いる。
【0044】
5 利用側圧縮機31は、冷凍サイクルの低圧の利用側冷媒を高圧になるまで昇圧
して利用側冷媒を循環させるための機器である。ここでは、利用側圧縮機21は、
ロータリ式やスクロール式等の容積式の圧縮要素(図示せず)をインバータによ
り周波数(回転数)制御可能な利用側圧縮機用モータ32によって回転駆動する
構造となっている。すなわち、利用側圧縮機31は、周波数(回転数)を変化さ
10 せることで運転容量を制御することが可能に構成されている。利用側圧縮機31
は、吸入側及び吐出側がともに利用側冷媒切換機構33に接続されている。
【0045】
利用側冷媒切換機構33は、利用側回路50における利用側冷媒の流れの方向
を切り換えるための機構である。利用側冷媒切換機構33は、冷房時には、媒体
15 -利用側熱交換器34を利用側圧縮機31において昇圧された利用側冷媒の放熱
器として機能させ、かつ、利用側熱交換器42a、42bを媒体-利用側熱交換
器34において放熱した利用側冷媒の蒸発器として機能させる冷房サイクル状態
への切り換えを行う。すなわち、利用側冷媒切換機構33は、冷房時には、利用
側圧縮機31の吐出側と媒体-熱源側冷媒熱交換器34のガス側とが接続される
20 (図1の利用側冷媒切換機構33の実線を参照) しかも、
。 利用側圧縮機31の吸
入側と利用側熱交換器42a、42bのガス側とが接続される(図1の利用側冷
媒切換機構33の実線を参照)。また、利用側冷媒切換機構33は、暖房時には、
媒体-利用側熱交換器34を利用側熱交換器42a、42bにおいて放熱した利
用側冷媒の蒸発器として機能させ、かつ、利用側熱交換器42a、42bを利用
25 側圧縮機31において昇圧された利用側冷媒の放熱器として機能させる暖房サイ
クル状態への切り換えを行う。すなわち、利用側冷媒切換機構33は、暖房時に
は、利用側圧縮機31の吐出側と利用側熱交換器42a、42bのガス側とが接
続される(図1の利用側冷媒切換機構33の破線を参照)。しかも、利用側圧縮機
31の吸入側と媒体-利用側冷媒熱交換器34のガス側とが接続される(図1の
利用側冷媒切換機構33の破線を参照)。尚、ここでは、利用側冷媒切換機構33
5 として四路切換弁が使用されているが、複数の弁を組み合わせた回路構成にする
こと等によって、四路切換弁と同様の機能を果たせるように構成してもよい。
【0046】
<利用ユニット>
利用ユニット4a、4bは、上記のように、室内に設置されており、利用側回
10 路50の一部を構成している。利用ユニット4aは、主として、利用側流量調節
機構41aと、利用側熱交換器42aとを有している。また、利用ユニット4a
と同様に、利用ユニット4bは、主として、利用側流量調節機構41bと、利用
側熱交換器42bとを有している。そして、利用側流量調節機構41a、41b
及び利用側熱交換器42a、42bが利用側冷媒連絡管8、9を介して媒体-利
15 用側冷媒熱交換器34、利用側圧縮機31及び利用側冷媒切換機構33に接続さ
れることによって構成された利用側冷媒が循環する回路が利用側回路50である。
尚、利用ユニット4bは、利用ユニット4aと同様の構成を有するため、以下の
説明では、利用ユニット4aの構成だけを説明し、利用ユニット4bの構成につ
いては、利用ユニット4aの各部を示す符号の添字「a」を添字「b」に読み替
20 えることで説明を省略する。」
(中略)
【0052】
そこで、ここでは、熱搬送媒体として、電子のもつ自由度に関する相転移である
電子相転移を行う物質である電子相転移物質を含むスラリーを使用している。こ
25 こで、電子相転移とは、特許文献2にも記載されているように、電子のもつ自由
度である、軌道の自由度、又は、電荷・スピン・軌道の自由度のうち少なくとも
2つ以上を含む複自由度の相転移のことである。そして、この電子相転移は、固
体状態で発生する相転移(固体-固体相転移)であり、相転移に伴って潜熱を得
ることができ、相転移時の体積変化が固体-液体相転移に比べて小さいという特
性がある。
5 【0053】
このような電子相転移物質としては、VO2(二酸化バナジウム)やVO2(二酸
化バナジウム)のV(バナジウム)の一部をW(タングステン)等で置換したも
ののように、種々の物質がある。そして、冷房や暖房のような空調用途では、0℃
~50℃程度の温度範囲内で電子相転移を行う電子相転移物質を使用することが
10 好ましい。例えば、V0.99W0.01O2(電子相転移温度:42℃~44℃) 0.977W0.023
、V
O2
(電子相転移温度:10℃~11℃) V0.98Ta0.02O2
、 (電子相転移温度:48℃
~49℃)、V0.92Ta0.08O2(電子相転移温度:3℃~4℃)、V0.95Nb0.05O2(電
子相転移温度:15℃~16℃) 0.975Ru0.025O2(電子相転移温度:36℃~3
、V
7℃)、V0.97Mo0.03O2(電子相転移温度:33℃~34℃)、LiMn2O4(電子
15 相転移温度:21℃)、LiVS2(電子相転移温度:40℃)、TbBaFe2O5
(電子相転移温度:12℃)、DyBaFe2O5(電子相転移温度:21℃)、Ho
BaFe2O5(電子相転移温度:23℃)、YBaFe2O5(電子相転移温度:3
7℃)、DyBaCo2O5.54(電子相転移温度:45℃)、HoBaCo2O5.48(電子
相転移温度:31℃)、YBaCo2O5.49(電子相転移温度:24℃)を使用する
20 ことができる。
【0054】
そして、ここでは、上記のような電子相転移を行う物質である電子相転移物質を
水や水溶液、油等の液媒体に多量に混入させたスラリーを熱搬送媒体としている。
2 図面
【図1】
(以下略)
別紙
乙5(特開平7-269964号公報)の記載
5 【0009】
【実施例】以下、この発明の実施例を図面に基づき説明する。図1は、この発明の
第1実施例を示す空気調和装置の冷媒回路図である。この冷媒回路は、第1の冷媒
回路である流路Aと第2の冷媒回路である流路Bとの二つの閉流路を備えている。
流路Aは、室内熱交換器1,流体駆動機3,中間熱交換器5を配管7により結合し
10 ており、内部を流れる冷媒aとして、HFC32/125(50/50)を使用している。室内熱交
換器1は、冷媒aと外部の室内空気とを熱交換させる。流体駆動機3は、正逆回転
可能な可逆ポンプであり、冷媒aの吐出方向を、室内熱交換器1側と中間熱交換器
5側とに切り替え可能である。中間熱交換器5は、冷媒aの通路と、流路B内を流
れる冷媒bの通路とが隔壁9を介して仕切られ、冷媒aと冷媒bとを隔壁9を介し
15 て熱交換させる。
【0010】流路Bは、室外熱交換器11,四方弁13,圧縮機15,前述した中
間熱交換器5,膨張弁17を配管19により結合しており、内部を流れる冷媒bと
して、HFC134a を使用している。室外熱交換器11は、冷媒bと外部の室外空気と
を熱交換させ、四方弁13は、冷媒bの流路を実線状態と破線状態とに切り替え可
20 能である。圧縮機15は冷媒bを高温高圧のガス冷媒として吐出し、膨張弁17は
冷媒bを膨張させる。
【0011】流路Bのすべての要素および、中間熱交換器5,流体駆動機3は室外
機21内に収納され、室内熱交換器1は室内機23内に収納される。流路Aの配管
7には、室外機21と室内機23とを結ぶ渡り配管25および27が含まれている。
25 【0012】次に、このような構成の空気調和装置の動作を説明する。
【0013】冷房運転時には、流路Aの冷媒aはIA の方向に流れ、流路Bの冷媒b
はIB の方向に流れる。このとき流体駆動機3から液状態で吐出された冷媒aは、渡
り配管27を通って室内熱交換器1に流入し、ここで空気を冷却することにより一
部あるいは全部が蒸発する。蒸気あるいは気液二相状態となった冷媒aは、渡り配
管25を通って中間熱交換器5に流入する。中間熱交換器5内では、冷媒aは、流
5 路B側にて低温状態にある冷媒bにより冷却され、液状態となって流体駆動機3に
戻る。
【0014】一方、冷房運転時において、流路Bでは、圧縮機15で圧縮され吐出
された蒸気状態の冷媒bは、切り替え流路が破線状態となっている四方弁13を通
り、室外熱交換器11に流入する。室外熱交換器11内で冷媒bはで空気により冷
10 却され、一部あるいは全部が凝縮する。液あるいは気液二相状態となった冷媒bは、
膨張弁17を通って膨張し、気液二相状態になって中間熱交換器5に流入する。こ
の中間熱交換器5内において、冷媒bは、前述したように、冷媒aを冷却し、蒸気
状態となる。蒸気状態となった冷媒bは、四方弁13を経て圧縮機15へ戻る。
【0015】暖房運転時には、流路Aの冷媒aは IIA の方向に流れ、流路Bの冷媒
15 bは IIB の方向に流れる。このとき、流体駆動機3により吐出された蒸気状態の冷
媒aは、中間熱交換器5に流入し、流路B側にて高温状態にある冷媒bにより加熱
され、一部あるいは全部が蒸発する。蒸気あるいは気液二相状態となった冷媒aは、
渡り配管25を通って室内熱交換器1に流入する。室内熱交換器1では、冷媒aは
空気を加熱することにより凝縮する。液状態となった冷媒aは、渡り配管27を通
20 って流体駆動機3に戻る。このように、冷媒aは、冷暖両運転時ともに、液状態で
流体駆動機3に流入するので、液ポンプである流体駆動機3を効率よく運転するこ
とができる。
【0016】一方、暖房運転時において、流路Bでは、圧縮機15で圧縮され吐出
された蒸気状態の冷媒bは、切り替え流路が実線状態となっている四方弁13を通
25 り、中間熱交換器5に流入する。中間熱交換器5においては、前述したように冷媒
bは、冷媒aを加熱し、一部あるいは全部が凝縮する。液あるいは気液二相状態と
なった冷媒bは、膨張弁17を通って膨張し、気液二相状態になって室外熱交換器
11に流入する。室外熱交換器11では、冷媒bは空気により加熱され蒸気状態と
なり、四方弁13を通って圧縮機15に戻る。
【0017】ところで、流路Aにおいては、流体駆動機3により冷媒aを循環させ
5 ることで、熱を室内熱交換器1から中間熱交換器5へ搬送する(冷房運転時)、ある
いは、中間熱交換器5から室内熱交換器1へ搬入する(暖房運転時)働きがあり、
流路Aの流体駆動機3の出口から入口までの配管内での冷媒の圧力損失が小さいほ
ど、流体駆動機3への入力が小さくなる。特に、流路Aにおける配管7は、室外機
21と室内機23とを接続する長い渡り配管25,27を含んでいるので、圧力損
10 失を小さくすることは有効である。
【0018】表1は、各HFC冷媒および自然冷媒の圧力損失を示している。
【表1】
この表から明らかなように、流路Aに用いた冷媒aである HFC32/125(50/50)の圧力
損失は、12.1[kPa] であり、流路Bに用いた冷媒bである HFC134a の同29.
3[kPa] よりも大幅に小さい。したがって、本実施例のように、冷媒aとして
25 HFC32/125(50/50)を用いると、HFC134a を用いた場合に比べ、流体駆動機3への入
力は大幅に低減される。
【0019】また、表1において、HFC23 の圧力損失は8.3[kPa] と極めて小さ
い値であることから、HFC23 を流路Aの冷媒aとして用いることにより、流体駆動
機3への入力をさらに低減させることができる。
【0020】一方、流路Bは、室外機21内に収納されるので、配管19の長さは
5 短く、このため流路Bの実COPに対する圧力損失の影響は、従来の空気調和装置
に比べると大幅に小さい。したがって、冷媒bとして、圧力損失については特に考
慮せず、理論COPの高い冷媒を選択すれば、流路Bの実COPも高くなる。
【0021】表2には、HFC冷媒および自然冷媒の理論COPの比較が示してあ
る。
10 【表2】
20 こ の 表 か ら 明 ら か な よ う に 、 HFC134a の 理 論 C O P は 5 . 5 2 で あ り 、
HFC32/125(50/50)の同4.92よりも大幅に大きい、したがって、本実施例のよう
に、流路Bにおける冷媒bとして、HFC134a を用いると、HFC32/125(50/50)を用い
た場合に比べ、流路Bの実COPは大幅に向上する。
【0022】以上のように、本実施例では、空気調和装置の冷媒流路を流路Aと流
25 路Bから構成し、流路Aを流れる冷媒aとして、配管の圧力損失が HFC134a より大
幅に小さい冷媒 HFC32/125(50/50)を用い、流路Bを流れる冷媒bとして、理論CO
Pが HFC32/125(50/50)よりも大幅に高い冷媒 HFC134a を用いることにより、従来
の空気調和装置に HFC134a および HFC32/125(50/50)を単独で用いたいずれの場合
よりも高い実COPを得ることができる。
【0023】なお、表1に挙げたCO 2 ,HFC125,HFC32 の重量比が 50%以下の
5 HFC32/125(25/75),HFC32 の重量比が 10%以上 25%以下の HFC32/134a(25/75) な
ども、配管部分の圧力損失は HFC134a より小さいので、これらを冷媒aとして用い
れば、程度の差はあるものの、本実施例と同様の効果が得られる。また、これらの
冷媒以外に、配管部分の圧力損失が HFC134a よりも小さい冷媒であれば、冷媒aと
して本発明の効果を発揮することができる。加えて、HFC32/125 や HFC32/134a にお
10 ける、HFC32 の重量比の上限値は、混合冷媒の可燃性の限界によって定まるので、
現状では、HFC32/125 の場合 50%,HFC32/134a の場合 25%としてあるが、将来の
調査結果により、上昇することがあり、その場合には新たな可燃性上限値が、本発
明の HFC32 の上限値となる。
【0024】表2に挙げたアンモニア,プロパン,HFC32 ,HFC32 の重量比が 50%
15 以上の HFC32/125 ,HFC32 の重量比が 25%以下の HFC32/134a も、理論COPが
HFC32/125(50/50)よりも大きいので、これらを冷媒bとして用いれば、程度の差は
あるものの、本実施例と同様の効果が得られる。また、これらの冷媒以外に、理論
COPが HFC32/125(50/50)よりも大きい冷媒であれば、冷媒bとして、本発明の効
果を発揮することができる。
【図1】
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