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令和4(ワ)1848特許権移転登録手続

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和5年2月6日
事件種別 民事
当事者 原告サンシード株式会社
被告コギトケミカル株式会社
法令 特許権
特許法35条3項1回
特許法34条1項1回
特許法123条1項6号1回
キーワード 特許権11回
職務発明6回
実施1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、原告が、被告に対し、別紙特許権目録記載1ないし3の特許権(以下、 総称して「本件各特許権」という。)に係る各発明(以下「本件各発明」という。) は、被告代表者の原告在職中の職務発明であって原告が特許を受ける権利を有して20 いるのに、被告が出願して特許を受けたものであって、特許法123条1項6号に 規定する事由があるから、同法74条1項に基づき、各移転登録を求める事案であ る。

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判決文

令和5年2月6日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第1848号 特許権移転登録手続請求事件
口頭弁論終結日 令和5年1月24日
判 決
5 原告 サンシード株式会社
同訴訟代理人弁護士 拾井美香
被告 コギトケミカル株式会社
同訴訟代理人弁護士 藤川義人
同 尾倉隆景
10 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
15 被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載1ないし3の特許権につき、特許法
74条1項を原因とする移転登録手続をせよ。
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、別紙特許権目録記載1ないし3の特許権(以下、
総称して「本件各特許権」という。)に係る各発明(以下「本件各発明」という。)
20 は、被告代表者の原告在職中の職務発明であって原告が特許を受ける権利を有して
いるのに、被告が出願して特許を受けたものであって、特許法123条1項6号に
規定する事由があるから、同法74条1項に基づき、各移転登録を求める事案であ
る。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
25 (1) 当事者等
原告は、合成樹脂加工並に販売等を目的とする株式会社である。
被告は、平成30年10月1日に設立された、プラスチック加工機械、工作
機械、印刷機械、製紙機械、レーザ機器、金型、その他産業用及び一般用機械
の製造、組み立て及び販売を目的とする株式会社である。
被告代表者は、平成24年5月に原告の従業員となり、平成30年10月1
5 5日に原告を退職した。
(2) 本件各特許権及び本件各発明
本件各特許権の特許番号、出願日、登録日、特許権者、発明者、特許請求の
範囲は、いずれも別紙各特許公報記載のとおりである。
本件各発明は、ウェットティッシュ用のボックス容器の製作のための、製造
10 装置、成形方法、成形体及び金型に関するものである。
2 主たる争点
本件各発明につき、特許法35条3項の規定の適用により、原告が特許を受け
る権利を原始取得したか(請求原因)
(1) 被告代表者が本件各発明を完成させたのが原告在職中であったか(争点1)
15 (2) あらかじめ原告に特許を受ける権利を取得させることを定めた就業規則が
存したか(争点2)
なお、被告は、被告代表者が原告を退職する際、原告から特許を受ける権利の
譲渡を受けた旨も主張している(抗弁)。
第3 争点に関する当事者の主張
20 1 争点1(被告代表者が本件各発明を完成させたのが原告在職中であったか)に
ついて
【原告の主張】
平成29年10月頃、大王製紙株式会社(以下「大王製紙」という。)から原告
に対してウェットティッシュの容器の企画提案があり、本件各発明は、これを受
25 けて平成30年5月頃、被告代表者が発明を完成させたものであり、職務発明で
ある。
【被告の主張】
原告の主張を否認する。被告代表者が本件発明を完成させたのは、被告代表者
が原告を退職した後の、平成30年12月頃である。実際に、原告主張の大王製
紙提案の企画が実現したのも、被告代表者が原告を退職した後である。
5 2 争点2(あらかじめ原告に特許を受ける権利を取得させることを定めた就業規
則が存したか)について
【原告の主張】
原告においては、労働者代表と協議の上、平成30年9月3日、職務発明につ
いては、その発明が完成した時に、会社が特許を受ける権利を取得する(第4条)
10 旨及び同規程を平成26年1月1日以降に完成した発明に適用する(第10条)
旨等を定める職務発明取扱規程(甲12。 「甲12規程」
以下 という。 を制定し、

同日、朝礼及び社内ポータルシステム「evalue掲示板」により従業員に通
達するとともに、文書を掲示した。
よって、本件各発明には、甲12規程の定めが適用される。
15 【被告の主張】
(1) 原告の主張の変遷
原告は、当初、証拠説明書において甲12規程の制定日を平成26年1月1
日としていたところ、第1準備書面によって前記【原告の主張】のとおり主張
を変遷させたものであり、主張自体信ぴょう性に欠ける。
20 (2) 甲12規程が周知を欠くこと
原告における前記システムでは、掲示板とは別に、誰が内容を確認したか分
かる機能が存在し、就業規則や社内規程の改定制定の通達は、通常この機能に
よって行われていた。しかし、甲12規程はこれによる手続が行われておらず、
被告代表者は当該朝礼には出席していないので通達も受けていない。したがっ
25 て、甲12規程は有効に効力発生したとはいえない。
(3) 甲12規程は本件各発明に遡及適用できないこと
そもそも原告の主張によっても、甲12規程は「あらかじめ」定められたも
のではない。仮に甲12規程について遡及適用が可能であるとしても、改定さ
れた基準を改定前に使用者等に帰属した職務発明に適用して相当の利益を与
えることについて個別の合意が必要であると解される。
5 本件において、原告は、被告が主張した平成30年8月頃の原告代表者と当
時原告従業員であった被告代表者間の協議を否認し、被告代表者が原告を退職
した後、被告が原告に無断で本件各発明の特許出願をしたと主張するものであ
ることからすると、本件各発明に関し、そのような個別合意がされていないこ
とは争いがないものと解される。
10 よって、甲12規程を本件各発明に遡及適用することはできない。また、仮
に遡及適用されたとしても、被告代表者から原告に対して特許を受ける権利が
承継されるのは合意に基づくものにすぎないから、これを被告に対抗できない。
(4) 本件各発明に適用される就業規則による不承継
原告における職務発明等の扱いについては、原告の就業規則(乙1)84条
15 に「社員が自己の現在又は過去における職務に関連して発明、考案をした場合、
会社の要求があれば、特許法、実用新案法、意匠法等により特許、登録を受け
る権利又はその他の権利は、発明者及び会社が協議のうえ定めた額を会社が発
明者である社員に支払うことにより、会社に譲渡又は継承されるものとする。」
と規定されているところ、本件各発明について原告から被告代表者に対して何
20 らかの支払がされたことはない。したがって、本件各発明に係る特許を受ける
権利は原告に承継されていないし、本件各特許権の権利者は被告として登録さ
れているから、原告はその主張する承継を被告に対抗できない。
第4 判断
1 争点2(あらかじめ原告に特許を受ける権利を取得させることを定めた就業規
25 則(甲12規程)が存したか)について
(1) 甲12規程に関する主張立証の経緯
原告は、訴状とともに提出した令和4年3月4日付証拠説明書において、甲
12規程の作成年月日を平成26年1月1日としていたこと、被告は、令和4
年8月9日付準備書面において、甲12規程の存在を否認し、その根拠として、
甲12規程に用いられる「取得」
「相当の利益」との文言は、平成27年7月に
5 公布され、平成28年4月1日に施行された特許法等の一部を改正する法律
(平成27年法律第55号)で初めて採用されたものであって、平成26年1
月1日時点でこのような文言が使われた規程が存したのは極めて不自然であ
ると指摘したこと、原告は、平成4年9月20日付け原告第1準備書面におい
て、前記第3「2」
【原告の主張】のとおり主張したこと、はいずれも当裁判所
10 に顕著である。
(2) 本件において、甲12規程は、原告が本件各発明に係る特許を受ける権利
を原始取得する根拠として不可欠のものであって、訴え提起の段階で、甲12
規程が適用されるかどうかについては、その制定過程及び本件各発明の完成時
期や被告代表者の退職時期との関係で慎重に検討されるはずのものである。し
15 かも、この経緯は、専ら原告の領域内の事情であり、かかる検討を阻むものは
ない。
しかるところ、原告は、当初甲12規程の作成日時を平成26年1月1日と
特定したにもかかわらず、被告から文言の不自然さを指摘されるや、その制定
日は平成30年9月3日であって、平成26年1月1日にさかのぼって適用さ
20 れると主張したものであって、このように主張が変遷した経緯自体、被告代表
者が原告に在職中に甲12規程が制定されたことを疑わしめるに十分である。
また、そのように作成されたのであれば、甲12規程は、制定日を明らかにし
た上、同規程の適用を定めた10条は「さかのぼって適用する」と表現するの
が自然と思われるが、同条にはそのような遡及適用の趣旨は記載されていない
25 し、制定日も書かれていない。遡及の限度が平成26年1月1日である根拠も
何ら示されていない。
加えて、甲12規程が、被告代表者の原告退職時期に近接した平成30年9
月3日に真実制定されたというのであれば、原告と被告代表者間で当然に退職
時に本件各発明に係る特許を受ける権利の帰属について協議ないし確認がさ
れるものと考えられる。しかし、原告は、被告代表者が原告を退職した後本件
5 各発明について特許出願がされたことを知った後も、本件各特許権に係る発明
の実施品と思料されるボックス容器に関する大王製紙、原告、被告の取引に継
続して関与していたことを自認しているのであって、かかる協議や確認がされ
たこともうかがえないどころか、被告が権利者であることを前提とした行動を
とっているものというべきである。
10 (3) その他原告の提出する証拠等も、前記認定の経緯に照らすと採用の限りで
なく、結局、平成30年9月3日当時を含め、被告代表者が原告に在職する期
間中に、甲12規程が適法に制定されたと認めるに足りる証拠はないといわざ
るをえない。
2 前記1によると、争点1に関わらず、原告が甲12規程により本件各発明に係
15 る特許を受ける権利を取得したとは認められない。本件各発明に適用される就業
規則(乙1)によっても、原告が特許を受ける権利を承継したとは認められない
し、また当該承継の事実を被告に対抗できない(特許法34条1項)。
なお、原告は、当裁判所が口頭弁論を終結する予定の期日として指定した令和
4年12月16日の期日の直前に、同年11月29日付け準備書面により本件各
20 発明を原始取得させる旨の黙示の合意が存した旨の主張をした。同主張はそもそ
も時機に遅れた攻撃防御方法というべきであるが、前判示のとおり、本件各発明
において適用されるべき就業規則(乙1)が存するところ、かかる明示の合意の
ほかに、原告主張の従業員が原告名義の特許出願に異を唱えなかった等の事情か
ら特許を受ける権利の移転等に関する黙示の合意が成立する余地はないという
25 べきであって、原告の主張は、それ自体失当である。
第5 結論
以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がない。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
布 目 真 利 子

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