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令和4(ワ)22602発信者情報開示請求事件

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裁判所 認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年2月16日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社MBM
被告KDDI株式会社
法令 著作権
キーワード 侵害13回
損害賠償2回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるファ イル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙侵害著 作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を送信可能化したことにより、20 本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電 気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以 下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録 記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。

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判決文

令和5年2月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第22602号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和4年12月13日
判 決
5 原 告 株 式 会 社 M B M
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
被 告 K D D I 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 今 井 和 男
小 倉 慎 一
10 山 本 一 生
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
15 第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるファ
イル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙侵害著
20 作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。 を送信可能化したことにより、

本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電
気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以
下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録
記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
25 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限
り、枝番を含むものとする。)
当事者(甲2の2)
ア 原告は、本件動画の著作権を有する株式会社である。
イ 被告は、インターネットサービスプロバイダ事業等を営む株式会社であり、
5 プロバイダ責任制限法2条3号にいう特定電気通信役務提供者に該当する。
⑵ BitTorrentの仕組み(甲4、5、10)
BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有に係るソフト
であり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである。
ア BitTorrentにおいては、特定のファイルを細分化し(以下、細
10 分化されたファイルの一部を「ピース」という。)、ネットワーク上のユー
ザーに分散して共有させる。
イ BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようと
するユーザーは、まず、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに
接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウ
15 ンロードする。
そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentクラ
イアントソフトに読み込ませることにより、BitTorrentが、当該
トレントファイルに記録されたトラッカーに接続し、当該特定のファイルの
提供者のリストを要求することになる。トラッカーは、ファイルの提供者の
20 リストを管理するサーバーであり、上記の要求に応じ、自身にアクセスして
いる特定のファイル提供者のIPアドレスが記載されたリストをユーザー
に返信する。
ウ リストを受け取ったBitTorrentクライアントソフトは、当該リ
ストに記載されたIPアドレスの割当てを受けた、当該ファイルのピースを
25 持つ他の複数のユーザーに接続し、それぞれから、当該ピースのダウンロー
ドを開始する。そして、全てのピースのダウンロードが終了すると、元の一
つの完全なファイルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは、
「シーダー」と呼ばれる。また、
目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」
と呼ばれる(以下、両者を併せて「ピア」ということがある。)が、ダウン
5 ロードが完了し、完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザーは自動
的にシーダーとなり、今度は、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイ
ルの一部(ピース)をアップロードしてリーチャーに提供することになる。
また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前で
あっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャー
10 の求めに応じてアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイ
ルをダウンロードすると同時に、当該ファイルについて同時にアップロード
可能な状態に置かれることになり、他のリーチャーに当該ファイルの一部を
送信することが可能な状態になっている。
オ BitTorrentを通じてファイルをダウンロードした利用者は、B
15 itTorrentクライアントソフトを停止させるまで、トラッカーに対
し、当該ファイルが送信可能であることを継続的に通知し、他の不特定の利
用者からの要求があれば、常にこれを送信することが可能な状態となる。す
なわち、ユーザーは、他のユーザーと共同し、それぞれが保有するピースを
送信することにより、特定のファイルのダウンロードを希望するユーザーに
20 対し、当該ファイルの全体を受信させる役割を担い続けることになる。
⑶ 原告による著作権侵害調査の概要(甲1の2、2の2、5、10)
ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本件
調査会社」という。 に対し、
) 本件動画に係る著作権侵害についての調査(以
下「本件調査」という。)を依頼した。
25 イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記
載2の日時に、同記載のIPアドレスの割り当てを受けた発信者(本件発信
者)が本件動画に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)のダウン
ロード及びアップロードを行っていたことを報告した。
⑷ 本件発信者情報の保有
被告は、本件発信者情報を保有している。
5 3 争点及びこれに対する当事者の主張
本件における争点は、権利侵害の明白性であり、より具体的には、本件調査の
信用性が争われている(令和4年12月9日付け経過表参照)。
原告の主張
ア 本件調査会社は、BitTorrentを利用した違法ダウンロード及び
10 アップロードの特定に際しては、μtorrentというクライアントソフ
トを利用しているが、同ソフトは、BitTorrentをより効率的に利
用することを可能とするために開発されたソフトウェアであり、BitTo
rrentを利用して特定ファイルのダウンロードを行っているピアのI
Pアドレスを機械的に取得して表示するものであるから、そこに恣意が入る
15 余地はない。
そして、本件調査会社は、本件調査において、μtorrentを利用し
て、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載2の日時頃、同目録記載のIP
アドレスの割当てを受けて、BitTorrentのネットワークに参加し、
本件動画に係るファイルのダウンロード及びアップロードを行っているこ
20 とを確認している。
イ 以上によれば、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載2の日時頃、被告
の提供するインターネット接続サービスを利用し、同目録記載のIPアドレ
スの割当てを受けてインターネットに接続し、BitTorrentを用い
て、本件動画を複製したファイルを、不特定多数の他のBitTorren
25 tの利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことが認め
られる。
そして、本件発信者の上記行為につき、違法性阻却事由の存在をうかがわ
せる事情は認められないから、本件動画に係る原告の送信可能化権が侵害さ
れたことは明白であるといえる。
⑵ 被告の主張
5 ア 原告の主張は、本件調査に基づき作成された甲4号証、甲5号証及び甲1
0号証に依拠しているところ、これらの各書証の作成者である本件調査会社
は、μtorrentの開発者ではなく、また、BitTorrentのネ
ットワークを通じてファイルをダウンロード及びアップロード可能な状態
に置いたIPアドレスの特定に関し、専門技術を有する者であるか否かも不
10 明である。したがって、上記各書証は、本件調査の信用性を裏付けるもので
あるとはいえない。
また、市販のソフトウェアを用いてIPアドレスを変更することは可能で
あることからすれば、BitTorrentの仕組みにおいて、IPアドレ
ス等に関して暗号化や偽装の介入する余地がないとはいえないため、本件発
15 信者以外の第三者が、別紙発信者情報目録記載のIPアドレスを偽装した可
能性も排除できない。
イ 以上によれば、本件発信者が本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害し
たことが明らかであるとはいえない。
第4 当裁判所の判断
20 1 認定事実
前記前提事実、証拠(甲1の2、2の2、5、8、10、11、12)及び弁
論の全趣旨によれば、本件調査につき、次の事実が認められる。
⑴ μtorrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つで
あり、BitTorrentを用いて実際に特定のファイルをアップロード及
25 びダウンロードしている最中のユーザーにつき、そのIPアドレスを特定した
上で、当該IPアドレスとともに、当該ユーザーが当該ファイルをアップロー
ドする際の上り速度や、ダウンロードする際の下り速度、ダウンロード量及び
アップロード量等を画面上に表示するという機能を有している。
⑵ 本件調査会社は、μtorrentを起動し、本件動画に係るトレントファ
イルをμtorrentに読み込ませた上で、BitTorrentを通じて、
5 本件動画のファイルのダウンロードを行った。
そして、本件調査会社は、上記ダウンロードの際、μtorrentの上記
機能を利用して、その時点において、本件ファイルにつき、BitTorre
ntを通じてアップロード及びダウンロードを行っている他のユーザーの存
否を確認したところ、別紙発信者情報目録記載2の日時に、同記載のIPアド
10 レスの割当てを受けたユーザーが、本件ファイルに係るピースをダウンロード
すると同時にアップロードしていることを確認した。
2 権利侵害の明白性
⑴ 前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び前記認定事実によれば、
本件発信者は、本件ファイルに係るピースをその端末にダウンロードして、当
15 該ピースを不特定多数の者からの求めに応じ、BitTorrentを通じて
自動的に送信し得るようにした上、被告から別紙発信者情報目録記載2のIP
アドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同記載の日時において、
ダウンロードと同時にアップロードが可能な状態となる本件調査会社の端末
に、本件ファイルのピースを実際にダウンロードさせたことが認められる。
20 これらの事情を踏まえると、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載2の日
時において本件動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと認めるのが相当
である。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性
を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。
したがって、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。
25 ⑵ これに対し、被告は、本件調査会社による本件調査には信用性が認められな
いとして、権利侵害の明白性が認められない旨主張する。
しかしながら、被告は、本件調査会社がIPアドレスの特定に係る専門技術
を有するか不明であるとか、本件調査会社が特定したIPアドレスは第三者に
より偽装されたものである可能性があるなどといった、抽象的な事情や可能性
を指摘するにとどまり、本件調査の信用性を左右する事情を具体的に主張する
5 ものではない。他方、原告は、上記において認定したとおり、本件調査の具体
的内容を詳細に説明するほか(甲4、5、10)、本件調査の裏付け資料とし
て、IPアドレス、品番、日付等が現に表示された利用態様に係るスクリーン
ショットを状況証拠(甲1の2)として提出している。これらの主張立証の内
容を踏まえると、被告の主張を十分に考慮しても、本件調査の信用性を覆すに
10 足りず、被告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。
したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。
3 正当な理由
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定して
いることが認められることからすると、原告には、本件発信者情報の開示を受け
15 るべき正当な理由があるものといえる。
4 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、
本件発信者情報の開示を求めることができる。
5 結論
よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のと
20 おり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
25 裁判長裁判官
中 島 基 至
裁判官
小 田 誉 太 郎
裁判官
國 井 陽 平
別紙
発信者情報目録
5 以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
欠番
令和4年(2022年)7月7日
日時
19時34分14秒

IPアドレス 省略
ポート番号 省略
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
別紙
侵害著作物目録
欠番
令和4年(2022年)7月7日 甲1-2
日時
19時34分14秒 甲2-2
IPアドレス 省略

ポート番号 省略
品番 省略
作品名 省略
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
欠番
以上

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