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令和4(ネ)10100発信者情報開示請求控訴事件

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裁判所 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和5年3月9日
事件種別 民事
当事者 被控訴人ソフトバンク株式会社
法令 著作権
著作権法2条1項1号1回
キーワード 侵害33回
損害賠償4回
許諾3回
主文 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事件の概要 1 本件は、控訴人が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がツイッタ ー上のアカウントにおいて投稿したツイート(別紙著作物目録記載1のイラスト (以下「控訴人イラスト」という。)及び同目録記載2の動画(以下「控訴人動画」 という。)に基づいて作成された別紙投稿記事目録の使用画像欄記載の画像(以下 「本件画像」という。)の掲載を含むもの。以下「本件ツイート」という。)によ り、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権) が侵害されたことが明らかであると主張し、被控訴人に対して、令和3年法律第2 7号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報 の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目 録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。

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判決文

令和5年3月9日判決言渡
令和4年(ネ)第10100号 発信者情報開示請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第32650号)
口頭弁論終結日 令和5年1月12日
判 決
控 訴 人 カ バ ー 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 田 中 圭 祐
吉 永 雅 洋
遠 藤 大 介
蓮 池 純
神 田 竜 輔
鈴 木 勇 輝
神 崎 建 宏
被 控 訴 人 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金 子 和 弘
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示
せよ。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がツイッタ
ー上のアカウントにおいて投稿したツイート(別紙著作物目録記載1のイラスト
(以下「控訴人イラスト」という。)及び同目録記載2の動画(以下「控訴人動画」
という。)に基づいて作成された別紙投稿記事目録の使用画像欄記載の画像(以下
「本件画像」という。)の掲載を含むもの。以下「本件ツイート」という。)によ
り、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)
が侵害されたことが明らかであると主張し、被控訴人に対して、令和3年法律第2
7号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報
の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目
録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人は、これを不服として本件控訴
をした。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
次の点を改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ないし3に摘示
のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁13行目の「バーチャルYouTubeタレント」を「バーチ
ャルYouTuberタレント」と改める。
(2) 原判決2頁24行目の「弁論の全趣旨」を「甲7」と改める。
(3) 原判決4頁17行目の「また」の次に「、本件画像は」を加える。
(4) 原判決5頁11行目及び24行目の各「本件画像」の次にいずれも「の掲
載を含む本件ツイートを投稿すること」を加える。
(5) 原判決5頁25行目の「本件ツイートは」を削る。
(6) 原判決9頁24行目の「あるところ」の次に「、法4条1項に」を加える。
(7) 原判決11頁14行目の「並びに」の次に「令和4年総務省令第39号に
よる廃止前の」を加える。
(8) 原判決11頁16行目の「(以下「省令」という。)」を削る。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次の
とおりである。
2 争点1(本件ツイートの投稿により控訴人の権利が侵害されたことが明らか
であるか)について
(1) 控訴人イラストの著作物性
ア 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、
美術又は音楽の範囲に属するものをいうところ(著作権法2条1項1号)、思想又
は感情を創作的に表現したものであるといえるためには、創作者の個性が何らかの
形で発揮されていれば足りると解するのが相当である。
イ これを本件についてみるに、証拠(甲14、16、17)によると、控訴人
イラストは、控訴人キャラクターのイラストであるところ、頭頂部からウサギの耳
のような形状の耳が生え、左側頭部の三つ編みの上部、右側頭部の三つ編みの下部
及び左腰部のポケットにそれぞれにんじんが1本ずつ挟まり、首元にウサギを模し
たマフラーないしショールを身につけているなど、ウサギを擬人化したような特徴
的なデザインとなっているものと認められる。そうすると、控訴人イラストは、創
作者の個性が発揮されているということができるから、思想又は感情を創作的に表
現したものに該当する。なお、控訴人イラストが美術の範囲に属するものであるこ
とは、その内容に照らし、明らかである。
以上のとおりであるから、控訴人イラストは、著作物に該当する。
(2) 控訴人動画の著作物性
証拠(甲18、19)及び弁論の全趣旨によると、控訴人動画は、控訴人イラス
トを映像化したものであると認められるところ、前記(1)において説示したところ
に照らすと、控訴人動画も、著作物に該当するといえる。
(3) 控訴人イラスト及び控訴人動画に係る著作権の帰属
証拠(甲12、14ないし16)及び弁論の全趣旨によると、控訴人キャラクタ
ーは、控訴人が、控訴人キャラクターに係る著作権等の権利が控訴人に帰属するこ
とを条件とし、外部のイラストレーターに委託して制作させたものであると認めら
れるから、控訴人キャラクターに係る著作権(控訴人イラスト及び控訴人動画に係
る著作権)は、控訴人に帰属するものと認めるのが相当である。
(4) 本件ツイートの投稿による著作権侵害の成否
証拠(甲1、18、19)及び弁論の全趣旨によると、本件画像は、控訴人動画
を静止させて切り抜いた画像を素材とし、控訴人キャラクターの両目の下にそれぞ
れ涙の絵柄を付し、また、控訴人キャラクターの顔の周りに首つり用の縄の絵柄を
付し、さらに、「死ぬ」及び「ぺこ」との文字を付したいわゆるコラージュ画像で
あると認められるから、本件発信者が本件画像の掲載を含むツイートである本件ツ
イートを投稿し、これにより、本件画像をツイッターのサーバにアップロードした
行為は、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権)を侵害す
るものであるということができる。
(5) 控訴人による利用許諾の有無
控訴人が定める本件規約(甲12、15)によると、控訴人が権利を保有するキ
ャラクターの二次的創作物の作成等に関しては、当該作成等を行う者に対し、当該
キャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為をしないことなどを条件として、非
独占的に許諾することとされている(4条1項及び2項)。
前記(4)によると、本件画像も、控訴人キャラクターの二次的創作物であるとい
えるが、証拠(甲1)によると、本件画像の内容は、控訴人キャラクターが自殺し
ようとしており、かつ、その様子を自ら配信しているというものであると認められ
るから、本件画像の作成等は、本件規約(4条2項2号)にいうキャラクターの名
誉ないし品位を傷つける行為に該当するというべきである。
この点に関し、被控訴人は、自殺は不名誉なものと解されてはならないし、本件
画像には自殺について閲覧者の考察を深めるための創作作品としての価値があるな
どとして、本件画像の作成等はキャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為に該
当しないと主張する。しかしながら、社会通念上、自殺が否定的な印象を持って受
け止められていることは明らかであるから、控訴人キャラクターが自殺しようとし
ている様子を描く本件画像の作成等を行うこと自体、控訴人キャラクターの名誉を
傷つけるものといえるし、自殺の様子を自ら配信するという行為に至っては、控訴
人キャラクターの品性が疑われるものであるといわざるを得ないから、控訴人キャ
ラクターが自己の自殺の様子を配信している様子を描いているという点でも、本件
画像の作成等を行うことが控訴人キャラクターの名誉ないし品位を傷つけるもので
あることは明らかである。なお、仮に本件画像に創作作品としての価値があったと
しても、そのことは、本件画像の作成等が控訴人キャラクターの名誉ないし品位を
傷つけるとの上記結論を左右するものではない。したがって、被控訴人の上記主張
を採用することはできない。
以上のとおりであるから、本件画像に関し、控訴人が本件発信者に対して控訴人
イラスト及び控訴人動画の利用(複製)を許諾したものと認めることはできない。
(6) 小括
前記(1)ないし(5)において検討したところによると、本件発信者による本件ツイ
ートの投稿により、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権)
が侵害されたことは明らかであるといえる。
3 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1
項)に該当するか)について
(1) 前記第1のとおり、控訴人は、本件ログインがされた日時である令和3年
6月26日7時47分54秒(時刻の表記は、24時間制による。以下同じ。また、
令和3年中の日付については、以下、年の記載を省略する。)頃に被控訴人から本
件IPアドレス(省略)が割り当てられていた契約者に係る発信者情報(本件発信
者情報)の開示を求めているところ、前記前提事実(補正して引用する原判決第2
の1(2))のとおり、本件ツイートが投稿されたのは、同月20日20時39分で
あるから、本件ツイートは、上記のとおり控訴人が発信者情報の開示を求める本件
ログインがされた時期にされたものではなく、本件発信者情報は、本件ツイートの
投稿時に利用されたログインに係る発信者情報ではない。そこで、侵害情報である
本件ツイートの投稿時に利用されたログイン以外のログインに係るIPアドレスか
ら把握される発信者情報が法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」
に該当するかが問題となる。
(2) そこで検討するに、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による
情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性
ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定す
らできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があるこ
とを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情
報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、
当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供
者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害
者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平
成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号6
76頁参照)。そうすると、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲をむやみ
に拡大することは相当とはいえないものの、これを侵害情報の投稿時に利用された
ログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定するとなると、複数
のログインが同時にされているなどして投稿時に利用されたログインが特定できな
い場合などには、被害者の権利の救済を図ることができないこととなり、上記の法
の趣旨に反する結果となる。そして、法4条1項の文言は、「侵害情報の発信者情
報」などではなく、「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもたせたもの
とされていること、証拠(甲33、38)及び弁論の全趣旨によると、令和3年法
律第27号(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示
に関する法律の一部を改正する法律)による改正は、法4条1項の「当該権利の侵
害に係る発信者情報」に侵害情報を送信した後に割り当てられたIPアドレスから
把握される発信者情報が含まれ得ることを前提として行われたものと認められ、上
記の改正の前後を通じ、「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報を送信
した際のログインに係る発信者情報のみに限定されるものではないと解されること、
また、このように解したとしても、当該発信者が侵害情報を流通させた者と同一人
物であると認められるのであれば、発信者情報の開示により、侵害情報を流通させ
た者の発信者情報が開示されることになるのであるから、開示請求者にとって開示
を受ける理由があるということができる一方、発信者にとって不当であるとはいえ
ないことなどに照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」を侵害情報の投稿
時に利用されたログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定して
解釈するのは相当でなく、それが当該侵害情報を送信した者の発信者情報であると
認められる限り、当該侵害情報を送信した後のログインに係るIPアドレスから把
握される発信者情報や、当該侵害情報の送信の直前のログインよりも前のログイン
に係るIPアドレスから把握される発信者情報も、法4条1項の「当該権利の侵害
に係る発信者情報」に該当すると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみるに、本件アカウントのプロフィール欄(アカウン
ト名の下部に表示される自己紹介の文章部分。甲11)には、「感謝するぜ、お前
と出会えたこれまでの全てに」、「俺の手持ち」、「誕生日:1月8日」などの記
載があり、また、本件アカウントにおいてされた投稿(甲11)の内容は、単にY
ouTubeの動画を引用するもののほか、「泣いてる」、「俺のグラグラの能力
が発現してモーター」、「愛知県に地震きた」、「エドモンド本田美央」、「エド
モンド本田たのし~」、「スーパー頭突きじゃあ!!笑笑」、「ガチンコでごわ
す!!笑笑」、「本田やばい」、「アイシールド21は神龍寺戦までね」、「やま
ゆり園真実の名言集 ライフラインはいるだけで士気が下がる」、「これ使うなら
5cで良くね?」などといったものであり、上記プロフィール欄の記載内容や上記
投稿内容に照らすと、本件アカウントが複数の者によって管理されていたことはう
かがわれず、むしろ、本件アカウントは、1名の個人によって管理されていたもの
と推認するのが相当である。また、証拠(甲23、33)及び弁論の全趣旨による
と、ツイッターは、いわゆるログイン型サービスであり、ツイートの投稿を行おう
とする者は、アカウント名及びパスワード(8文字以上)を入力してログインをし
なければならないものと認められるところ、通常、アカウント名やパスワードを第
三者と共有するという事態は余り考えられない。さらに、証拠(甲5、26、27、
35)及び弁論の全趣旨によると、本件アカウントについては、6月26日から9
月21日までの間、合計467回のログインがされているところ、そのうち本件I
Pアドレスからは、毎日のようにログインがされており、ログインの回数(合計1
47回)においても、他の各IPアドレスからのログインの回数(例えば、被控訴
人が携帯電話回線に割り当てた各IPアドレスのうち本件アカウントへのログイン
に使用された回数が最も多かったのは、「IPアドレス省略」及び「IPアドレス
省略」の各10回にとどまる。)を圧倒していたものと認められるから、本件IP
アドレスは、本件アカウントへのログインに使用される最も主要なIPアドレスで
あったと評価することができる。以上に加え、本件ログインが本件ツイートの投稿
の約5日半後にされたものであることも併せ考慮すると、本件発信者情報は、本件
ツイートの投稿の後のログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報では
あるが、本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められ、した
がって、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると認め
るのが相当である。
(4)ア この点に関し、被控訴人は、本件IPアドレスは固定回線に割り当てら
れたものであるのに対し、本件ツイートはiPhoneにより投稿されたものであ
るところ、本件アカウントへのログインに際しては固定回線に割り当てられたIP
アドレスと携帯電話回線に割り当てられたIPアドレスとが別々に使用されている
から、本件IPアドレスに係る契約者と本件ツイートの投稿の際に使用されたIP
アドレスに係る契約者とは異なると主張する。
確かに、証拠(甲1、27、36)及び弁論の全趣旨によると、本件IPアドレ
スは、固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本件ツイートには、「Tw
itter for iPhone」との表示がされ、本件ツイートは、iPho
ne向けのアプリケーションである「Twitter for iOS」を利用し
てされたものであると認められる。しかしながら、証拠(甲36)及び弁論の全趣
旨によると、携帯電話を用いてツイッターのアカウントにツイートを投稿する場合、
当該携帯電話が5G回線等の携帯電話回線に接続されているとき又は固定回線を利
用した自宅等のWi-Fiに接続されているときのいずれであっても、当該ツイー
トには「Twitter for iPhone」との表示がされるものと認めら
れるから、本件IPアドレスが固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本
件ツイートに「Twitter for iPhone」との表示がされていると
の事実は、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件
ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左
右するものではない。
なお、証拠(甲28、29)及び弁論の全趣旨によると、携帯電話を用いてイン
ターネットに接続する場合、携帯電話回線を利用するときには携帯電話回線に割り
当てられたIPアドレスが使用され、自宅等におけるWi-Fi接続によるときに
は固定回線に割り当てられたIPアドレスが使用されるものと認められるから、証
拠(甲5、26、35)によって認められる本件アカウントへのログインの状況に
よっても、本件アカウントへのログインに関し、固定回線に割り当てられたIPア
ドレス(本件IPアドレス)と携帯電話回線に割り当てられたIPアドレス(「省
略」等)とが別人によって使用されていたものと認めることはできない。
以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 被控訴人は、本件アカウントへのログインについては本件IPアドレス以外
のIPアドレスを使用してされたものも多数存在しており、本件IPアドレス以外
のIPアドレスを使用してしたログインに基づいて本件ツイートが投稿された可能
性も否定できないと主張する。
確かに、証拠(甲5、26、35)によると、本件アカウントについては、6月
26日から9月21日までの間、合計467回のログインがされ、そのうち本件I
Pアドレス以外のIPアドレスを使用してされたログインは、320回に上るもの
と認められる。しかしながら、前記アのとおり、携帯電話を用いてインターネット
に接続する場合、携帯電話回線を利用するときには携帯電話回線に割り当てられた
IPアドレスが使用され、自宅等におけるWi-Fi接続によるときには固定回線
に割り当てられたIPアドレスが使用されるものと認められるところ、証拠(甲2
8、29)及び弁論の全趣旨によると、少なくとも携帯電話回線を利用するときは、
使用するIPアドレスが頻繁に変わるものと認められ、加えて、前記(3)のとおり、
本件IPアドレスが本件アカウントへのログインに使用される最も主要なIPアド
レスであったと評価できることも併せ考慮すると、本件IPアドレス以外のIPア
ドレスを使用してされた本件アカウントへのログインが多数回存在するとしても、
それは、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件ツ
イートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左右
するものではない。
以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
ウ 被控訴人は、本件ツイートの投稿は6月20日20時39分にされていると
ころ、これは本件発信者が自宅に帰っていない時間帯であるから、本件ツイートは
固定回線を使用して投稿されたものではなく、固定回線に割り当てられたIPアド
レスである本件IPアドレスは本件ツイートの投稿の際に使用されたIPアドレス
ではないと主張する。
しかしながら、証拠(甲5、26、35)によると、本件アカウントについては、
20時39分より前の夕方ないし夜間の時間帯に本件IPアドレスからログインが
されている例が幾つもあるものと認められ、20時39分が本件発信者においてお
よそ本件IPアドレスを使用することができない時間帯であるということはできな
いし(なお、6月20日は、日曜日である。)、仮に、本件発信者が6月20日2
0時39分に本件IPアドレスを使用できる場所に居なかったとしても、前記アの
とおり、本件アカウントへのログインに関し、固定回線に割り当てられたIPアド
レス(本件IPアドレス)と携帯電話回線に割り当てられたIPアドレス(「省略」
等)とが別人によって使用されていたものと認めることはできないから、本件発信
者が同日20時39分に本件IPアドレスを使用できる場所に居なかったとの事実
も、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件ツイー
トを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左右する
ものではない。
以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
4 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」(法4条1項)に該当するか)
について
前記3(2)のとおり、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、
侵害情報を送信した者の発信者情報をいうものと解されるところ、これと同様に、
同項の前記趣旨等に照らすと、同項にいう「開示関係役務提供者」は、上記「当該
権利の侵害に係る発信者情報」である侵害情報を送信した者の発信者情報を保有す
る特定電気通信役務提供者であれば足りると解するのが相当である。
そして、前記前提事実(補正して引用する原判決第2の1(3))のとおり、被控
訴人は、本件発信者情報を保有しているところ、前記3(3)のとおり、本件発信者
情報は、本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報(侵害情報を送信した者
の発信者情報)であると認められ、また、弁論の全趣旨によると、被控訴人は、法
2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当するものと認められるから、被
控訴人は、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当するというべきである。
この点に関し、被控訴人は、被控訴人は単にログインを媒介したプロバイダにす
ぎず、侵害情報を流通させた特定電気通信設備そのものを管理するプロバイダでは
ないから、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たらないと主張するが、
上記説示したところに照らすと、被控訴人の上記主張は、同項の「開示関係役務提
供者」の解釈に関し狭きに失するものというほかなく、採用の限りでない。
5 争点4(控訴人が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)
について
証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、本件発信者に対し、不法
行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるものと認められるところ、本件発信
者の氏名(名称)、住所及びメールアドレスは、当該請求をするに際して不可欠な
ものであるといえるから、控訴人は、前記3(3)のとおり本件ツイートを投稿した
本件発信者の発信者情報であると認められる本件IPアドレスから把握される発信
者情報(本件発信者情報)の開示を受けるべき正当な理由を有するというべきであ
る。
この点に関し、被控訴人は、本件発信者情報のうち氏名又は名称及び住所が開示
されれば、本件発信者に対して損害賠償等を請求することができるから、控訴人は
本件発信者情報のうちメールアドレスの開示を受けるべき正当な理由を有しないと
主張するが、権利行使の態様は、訴えの提起に限定されるものではなく、その前段
階として、電子メールにより連絡を取り交渉を行うことは、正当な権利行使の一態
様であるといえるから、控訴人は、本件発信者情報のうちメールアドレスについて
も、その開示を受けるべき正当な理由を有するということができる。したがって、
被控訴人の上記主張を採用することはできない。
6 結論
よって、当裁判所の上記判断と異なる原判決は不当であり、本件控訴は理由があ
るから、原判決を取り消した上、控訴人の請求を認容することとして、主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
浅 井 憲
裁判官
中 島 朋 宏
(別紙)
発信者情報目録
別紙ログイン情報目録のIPアドレス欄記載のIPアドレスを割り当てられた電
気通信設備から別紙投稿記事目録の接続先IPアドレス欄記載のIPアドレスに対
して通信を行った電気通信回線を、別紙ログイン情報目録のログイン日時欄記載の
日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げるもの
1 氏名又は名称
2 住所
3 メールアドレス
以 上
(別紙)
ログイン情報目録
ログイン日時 ログイン日時(日本時間) IP アドレス
2021/06/25 22:47:54 2021/06/26 07:47:54 省略
以 上
(別紙)
投稿記事目録
使用画像
アカウント名 省略
ユーザー名 省略
投稿日時
令和3年6月20日20時39分
(日本時間)
以下のうちいずれか。
接続先 省略
IP アドレス 省略
省略
省略
省略
省略
省略
省略
省略
省略
省略
省略
以 上
(別紙)
著作物目録


【#兎田ぺこら初配信】はじめまして、兎田ぺこらです!!【ホ
動画タイトル
ロライブ/新人 Vtuber】
URL https://以下省略
抜粋画像
以 上

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