令和3(ワ)6381等不正競争行為差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年2月13日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告エヌアイラボ株式会社 被告エムスリーキャリア株式会社
|
法令 |
不正競争
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キーワード |
実施4回 損害賠償3回 差止3回 商標権1回
|
主文 |
1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
2 被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じこれを25分し、その11を原告の負担とし、そ20 |
事件の概要 |
1 要旨
原告と被告は、いずれも医療機関に対して麻酔科医を紹介する事業(役務)を20
営むものであるところ、
(1) 本件本訴は、原告が、被告の資料等(甲5の1ないし3及び甲6。以下、甲
5の1ないし3の文書を「本件文書」といい、個別には書証の枝番号に従い「本
件文書1」などという。また、甲6を「本件メール」という。)を使用した説明
等(以下「本件告知等行為」という。)が主位的に不正競争防止法(以下「不競25
法」という。)2条1項21号の、予備的に同項20号の各不正競争に該当する
と主張し、被告に対し、同法3条に基づくその行為の差止めと同法14条に基
づく信用回復措置を求めるとともに、同法4条に基づく損害賠償請求として、
原告の被った損害合計2860万円のうち1100万円及びこれに対する行
為の後の日である令和3年7月14日(訴状送達の日の翌日)からの民法所定
年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、5
(2) 本件反訴は、被告が、①原告の取締役であるP1が、被告の従業員から後記
本件情報を得て使用した行為(以下「本件取得等行為」という。)が不競法2条 |
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判決文
令和5年2月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第6381号 不正競争行為差止等請求事件(本訴)
令和4年(ワ)第1721号 損害賠償請求事件(反訴)
口頭弁論終結日 令和4年12月12日
5 判 決
本訴原告(反訴被告) エヌアイラボ株式会社
(以下「原告」という。)
代表者代表取締役
10 訴訟代理人弁護士 川村和久
同 藤岡亮
本訴被告(反訴原告) エムスリーキャリア株式会社
(以下「被告」という。)
代表者代表取締役
15 訴訟代理人弁護士 小名木俊太郎
同 阿久津透
主 文
1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
2 被告の反訴請求をいずれも棄却する。
20 3 訴訟費用は、本訴反訴を通じこれを25分し、その11を原告の負担とし、そ
の余を被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
(本訴・主位的請求)
25 1 被告は、別紙告知行為(表示)目録記載1の相手先に対し、同目録記載2の内
容の告知をし、又は流布してはならない。
2 被告は、本判決確定までに別紙告知行為(表示)目録記載1の相手先であって、
かつ同目録記載2の内容を告知した者に対し、別紙信用回復措置目録1記載の訂
正文を、本判決確定の日から10日以内に送付せよ。
3 被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する令和3年7月14日から
5 支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
(本訴・主位的請求第1項、第2項についての予備的請求)
1 被告は、別紙役務目録記載の役務の広告又は取引書類(ただし、別紙告知行為
(表示)目録記載1の相手先を対象とするものに限る。)について、別紙告知行
為(表示)目録記載2の内容の表示を記載してはならない。
10 2 被告は、本判決確定までに別紙告知行為(表示)目録記載1の相手先であって、
かつ同目録記載2の内容の表示を記載した広告又は取引書類を用いて別紙役務
目録記載の役務を提供した者に対し、別紙信用回復措置目録2記載の訂正文を、
本判決確定の日から10日以内に送付せよ。
(反訴)
15 原告は、被告に対し、2865万2500円及び別紙損害一覧表の内金額欄記載
の各金員に対する同起算日欄記載の各日から各支払済みまで同料率欄記載の割合
による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 要旨
20 原告と被告は、いずれも医療機関に対して麻酔科医を紹介する事業(役務)を
営むものであるところ、
(1) 本件本訴は、原告が、被告の資料等(甲5の1ないし3及び甲6。以下、甲
5の1ないし3の文書を「本件文書」といい、個別には書証の枝番号に従い「本
件文書1」などという。また、甲6を「本件メール」という。)を使用した説明
25 等(以下「本件告知等行為」という。)が主位的に不正競争防止法(以下「不競
法」という。 2条1項21号の、
) 予備的に同項20号の各不正競争に該当する
と主張し、被告に対し、同法3条に基づくその行為の差止めと同法14条に基
づく信用回復措置を求めるとともに、同法4条に基づく損害賠償請求として、
原告の被った損害合計2860万円のうち1100万円及びこれに対する行
為の後の日である令和3年7月14日(訴状送達の日の翌日)からの民法所定
5 年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、
(2) 本件反訴は、被告が、①原告の取締役であるP1が、被告の従業員から後記
本件情報を得て使用した行為(以下「本件取得等行為」という。)が不競法2条
1項4号又は5号の不正競争に該当する、②原告が、被告の業務委託契約先か
ら、後記本件情報の開示を受け、これを使用して同委託先に営業活動をさせた
10 行為(以下「本件開示等行為」という。)が同8号に該当する、と主張し、原告
に対し、同法4条(予備的に不法行為)に基づき、反訴請求の趣旨の損害金及
び別紙損害一覧表の内金額欄記載の各金員に対する同起算日欄記載の各日か
ら各支払済みまで同料率欄記載の割合による遅延損害金の支払を求めた
事案である。
15 2 前提事実(争いのない事実及び証拠(枝番号があるものは、特に明示する場合
を除き各枝番号を含む。以下同じ。)により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告
原告は、平成31年4月1日に設立された有料職業紹介事業等を目的とす
20 る株式会社である(甲1)
。
イ 被告
被告は、医療及びヘルスケア関連人材の派遣、採用支援、評価、教育、研
修等を目的とする株式会社である。
ウ 株式会社アネステーション等
25 株式会社アネステーション(以下「アネステ社」という。)は、麻酔科医紹
介サイト「アネナビ」を運営して医療機関に対する麻酔科医の紹介サービス
を提供していたところ、被告は、平成28年8月にアネステ社を子会社化し、
平成29年4月に吸収合併した(甲39、乙3、6、7、23)。
P1は、アネステ社の従業員であったが、子会社化の際に被告の従業員に
転籍となり、その後、平成31年2月28日をもって被告を退職した(甲2
5 2の2、24、25) P1は、
。 被告を退職するに当たり、退職後においても、
職務上知り得た業務上の秘密や取引先の情報等を漏洩等しない旨が記載さ
れた退職時誓約書を被告に差し入れた(乙10) P1は、
。 原告の設立時の代
表取締役であり、現在は取締役である。
P4は、アネステ社の従業員であったが、現在は被告の従業員である。
10 P2は、アネステ社の取締役であったが、子会社化の際に退任し、平成2
8年7月29日、アネステ社との間で業務委託契約を締結した(乙8) その
。
後の吸収合併により、委託者の地位がアネステ社から被告に承継された(乙
9) 業務委託契約書では、
。 契約期間中及び契約終了後2年間、被告が承諾し
た場合を除き、P2が競合事業等を行うことを禁止する旨の条項が存在し、
15 また、P2は、契約終了後も業務上の情報や取引先に関する情報等を漏洩等
しない旨が記載された令和元年12月16日付けの会社情報に関する誓約
書を被告に差し入れた(乙8、11) この業務委託契約は令和3年3月31
。
日に終了した。
(2) 原告及び被告の事業(役務)等の内容
20 ア 原告の役務
原告は、令和元年9月より、ウェブサイト「アネステプラス」あるいは「ア
ネステーションプラス」を運営し、関西圏に特化して、医療機関における診
療時間外の夜間・休日において発生した緊急手術(通常、数時間以内に実施
が予定されるものをいう。)に対応するため、麻酔科医の紹介を希望する医
25 療機関に対し、予め複数の麻酔科医を登録したウェブサイト上のシステムを
用いて、待機料の負担なく、当該緊急手術に対応可能な麻酔科医を迅速にマ
ッチングし、紹介する役務(以下「原告役務」という。)を提供している(甲
3、14、39)。
イ 被告の役務
被告は、麻酔科医を紹介するウェブサイト「アネナビ」を運営しており、
5 その中で、原告役務と同種の役務(以下「被告役務」という。)を「Dr.E
xpress」の名称で提供している(甲22の2、乙5、23)。なお、原
告役務と被告役務の主要な相違点は、麻酔科医の最終的な決定方法である
(甲22の2)。
ウ 類似する役務(サービス)
10 原告、被告によるもの以外に、診療時間外の夜間・休日において発生した
緊急手術に対応するため、待機料を支払うことで、予め確保した特定の麻酔
科医を医療機関に紹介する役務が提供されている(甲22の2、乙23) な
。
お、原告、被告とも、原告役務及び被告役務のほか、一般的な形態の麻酔科
医の紹介等の役務も提供している。
15 (3) 本件告知等行為
被告は、令和元年9月頃に本件文書2を、令和3年1月頃に本件文書1及び
本件文書3を作成し、令和2年12月頃から令和3年5月頃までの間、少なく
とも七つの医療機関に対し、本件文書の全部又は一部を交付し、本件メールを
送信して本件告知等行為を行った。
20 (4) 本件取得等行為
P1は、被告の従業員であるP4から、私物のスマートフォンを用いて、次
の情報(以下、これらの情報を「本件情報」と総称する。 を取得した
) (乙12)。
ア 令和元年9月10日及び同月11日
被告の取引先医療機関の名称、その担当者及び部署名。具体的には、被告
25 の取引先医療機関である特定の病院が大阪府の病院を指すこと、同病院の担
当者の実名、同病院の担当部署が総務・経理課であること(以下「情報①」
という。)
イ 同月11日
特定の医療機関の手術状況。具体的には、ある特定の整形外科・外科病院
の金曜日案件(金曜日における人材紹介案件)において過去に複数の症例(一
5 度の人材紹介で複数の手術を担当することとなる場合)があったこと(以下
「情報②」という。)
ウ 同月12日
特定の医療機関と被告との契約状況及び契約内容。具体的には、被告とあ
る特定の病院との間に契約関係があること、当該契約がプレミアムプラン
10 (上位顧客向けの料金プラン)であること(以下「情報③」という。)
エ 同月12日
被告における契約の仕組みに関する情報。具体的には、被告が提供する人
材紹介サービスにおいて、連続した手術に関する人材募集をする場合に、1
件目9時、2件目オンコールというように、時間指定で、オンコールの選択
15 ができること(以下「情報④」という。)
オ 同月24日
紹介することを避けるべき医師に関する特定の医療機関の情報。具体的に
は、ある特定の病院に紹介することを避けるべき医師4人の実名(以下「情
報⑤」という。)
20 3 争点
(1) 本訴請求関係(争点1)
ア 本件告知等行為は「原告の」営業上の信用を害する(不競法2条1項21
号)か(争点1-1)
イ 本件告知等行為は「虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」
(同号)に当
25 たるか(争点1-2)
ウ 本件告知等行為の内容は被告役務の質について「誤認させるような表示」
(同項20号)に当たるか(争点1-3)
エ 損害の発生及びその額(争点1-4)
オ 信用回復措置等の必要性があるか(争点1-5)
(2) 反訴請求関係(争点2)
5 ア 本件情報は「営業秘密」(不競法2条6項)に当たるか(争点2-1)
イ 本件取得等行為は「営業秘密不正取得行為」
(同条1項4号、5号)に当た
るか(争点2-2)
ウ 本件開示等行為は「不正競争」(同項8号)に当たるか(争点2-3)
エ 本件取得等行為及び本件開示等行為は不法行為を構成するか(争点2-4)
10 オ 損害の発生及びその額(争点2-5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(本件告知等行為は「原告の」営業上の信用を害する(不競法2条
1項21号)か)について
【原告の主張】
15 (1) 本件告知等行為において、原告の名称や具体的なサービス名が明示されてい
なくとも、相手方が、当該事実の内容、競争関係の状況及びその他諸般の事情
から、当該事実が原告に関する事実であると理解できる程度に特定されていれ
ば、「原告の」営業上の信用を害する事実に当たる。
(2) 本件文書1のタイトルは「Dr.Express体制強化のご案内」である。
20 本件文書2中には「アネナビやアネステーションに類似した名称のサービス」
との記載があるが、これが原告役務を想定していることは被告も認めている。
本件文書3の比較文書で「アネナビ」欄に記載された事項は全て被告役務の特
徴であると理解できる。そして、本件メールは、本件文書の内容を全てまとめ
た形で、冒頭において 「Dr.
「 Expressの類似サービスをアネナビより
25 安く提供できる」と営業されている会社」 すなわち原告について、
、 被告との違
いを連絡する趣旨であることを述べた上で、被告役務の優位性を各医療機関に
アピールしようとしたものであると客観的に読める。
本件文書及び本件メールの記載内容は以上のとおりであるところ、本件告知
等行為の当時、原告役務及び被告役務と同種の役務を提供している事業者は、
関西圏では原告及び被告以外には存在せず、本件告知等行為の相手方となった
5 のは、いずれも被告の既存顧客であって、原告が、被告より低価格で原告役務
を提供できる旨の営業活動を行っていた医療機関であった。また、本件告知等
行為は、P1が被告を退社した後に原告役務の提供を開始し、それによって被
告の顧客が奪われたことから、被告が原告の営業活動を妨害するために行われ
たものである。
10 以上のとおり、本件告知等行為の内容、競争関係の状況及びその他諸般の事
情に照らすと、本件告知等行為は、原告に関する事実であると理解できる程度
に特定されているといえ、原告の営業上の信用を害する。
(3) 被告は、被告役務がオンコール(医療機関が特定の医師に対し、待機料を支
払って時間拘束を行うこと)、かつ、スポット(単発的)の一種であることを前
15 提として、関西圏において、原告役務及び被告役務と同種の役務を提供してい
る事業者が複数ある旨を主張する。しかし、被告役務は、待機料を支払って専
属の医師を拘束する代わりに、複数の医療機関の複数の麻酔科医で構成された、
夜間休日に緊急麻酔を行うチームの中から緊急時に対応可能な医師を、その都
度、その時点においてマッチングし、紹介するスポットサービスであるから、
20 オンコールに含まれない。
【被告の主張】
(1) 本件文書2にある「アネナビやアネステーションに類似した名称のサービス」
が原告役務を想定していることは認めるが、本件文書及び本件メールのいずれ
においても、原告の名称や原告役務の名称等は記載されておらず、少なくとも
25 明示的に本件文書等が原告に関する言及を含むものではないことは明らかで
ある。
また、本件告知等行為の相手方において、本件告知等行為が原告に関して言
及するものであると理解することもできない。すなわち、本件文書1は、そも
そも他人に関する言及が一切なされていない。本件文書2は、単に「アネナビ
やアネステーションに類似した名称のサービス」とするところ、麻酔を英語で
5 「アネスシィーズィア」というなど、麻酔科医の人材紹介を行うサービスとし
て「アネ…」という名称を用いることが想定され、現に多数存在することから、
これを見た本件文書2の読み手は、広く麻酔科医を取り扱う同業他社によるサ
ービス一般と理解するものである。本件文書3は、被告役務と「他社様」の提
供するサービスとを比較するものであるが、比較の着眼点は、「医師のマッチ
10 ング」等のように、広く医師の人材紹介会社全般に当てはまるものであるし、
仮に医師が麻酔科医と理解できるとしても、麻酔科医のマッチングサービスを
提供する事業者は複数存在する。また、
「他社様」に関して指摘されている内容
は、広く一般的な医師の人材紹介会社の特徴を列記するものである。したがっ
て、本件文書3の読み手は、当該記載から「他社様」が原告を指すものである
15 と理解することはない。そして、本件文書は、それぞれ別の機会に別の目的で
作成されたものであり、令和3年1月以降、本件文書が同時に医療機関に提供
されたことがあったとしても、各書面の趣旨目的は異なるし、「類似業者」と
「他社様」という被告以外の事業者を広く指す用語が合わさることにより途端
に原告が想起されるようなこともない。さらに、本件メールは、本件文書の各
20 記載を整理したものであり、そもそも、被告役務のみならず、
「アネナビ!」を
も想定した文章であることから、原告の営業の信用を害するものではない。
(2) 原告は、本件告知等行為の当時、原告役務及び被告役務と同種の役務を提供
している事業者は、関西圏では原告及び被告のみであると主張する。しかし、
原告は、緊急医師紹介サービスのみに特化して事業を行っているわけではなく、
25 常勤や非常勤の医師の紹介を含めた麻酔科医の紹介事業全般を行っているこ
と、被告役務のように当日まで医師が決まっていないサービスと特定の麻酔科
医を予め確保している通常のオンコール(患者の急変や救急搬送等の緊急事態
が発生した場合において、夜間、早朝、休日等であっても緊急手術等に対応で
きるように予め待機すること)のサービスは医療機関側にとって代替可能性が
あり、それぞれのサービスは、診療時間外の夜間・休日等の緊急案件の紹介事
5 業という同一の事業分野に属するものといえることから、原告と被告は、原告
役務及び被告役務という狭い事業分野で競争しているわけではなく、より広い
麻酔科医の紹介事業、細分化しても診察時間外の夜間・休日等の緊急案件の紹
介事業という事業分野で競争関係にあるといえる。したがって、本件告知等行
為の対象となる役務を原告役務及び被告役務と同種の役務に限定する理由は
10 なく、このことからも、本件文書等が原告に言及するものではないことが分か
る。
(3) 以上から、本件告知等行為は「原告の」営業上の信用を害さない。
2 争点1-2(本件告知等行為は「虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」
(不
競法2条1項21号)に当たるか)について
15 【原告の主張】
本件告知等行為は、①「医師のマッチング」について「属人的マッチング」、②
「医師のバックアップ体制」について「なし」、③「営業体制」について「1名が
365日24時間対応」、④「権利・特許」について「なし」などとしているが、
これらはいずれも虚偽の事実である。
20 すなわち、原告は、①ウェブサイト上でのシステムにより人的な作業を介さな
いマッチングを行っており、②確実に紹介可能な医師数を十分確保し、③ウェブ
サイト上でのシステムによりマッチングを行い、複数の社員による緊急時の電話
での受付体制を整え、④少なくとも「アネステーション」について商標権を有し
ている。
25 したがって、本件告知等行為は「虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に
当たる。
【被告の主張】
本件文書1は、被告役務についてのみ言及するものであり、何ら第三者の営業
上の信用を害する虚偽の事実を記載したものではない。本件文書2は、他社サー
ビスへの言及があるものの、それらは被告役務と異なることを指摘しているにす
5 ぎず、
「営業上の信用を害する」ものでも、客観的事実に反するものでもない。ま
た、本件文書3の「他社様」の部分は、通常のオンコールのサービスについて記
載したものであり、いずれも虚偽の記載でも第三者の信用を害する記載でもない。
さらに、本件メールは、本件文書の各記載を整理したものであり、原告の営業上
の信用を害するものではない。
10 したがって、本件告知等行為は「虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に
当たらない。
3 争点1-3(本件告知等行為の内容は被告役務の質について「誤認させるよう
な表示」(不競法2条1項20号)に当たるか)について
【原告の主張】
15 仮に、本件告知等行為が原告を対象とするものであると認められなかったとし
ても、本件告知等行為は、市場に全く存在しない「他社」の、しかもありもしな
い極めて低品質のサービスを措定し、あえてそれと比較することにより、これに
接した医療機関に対し、被告役務の品質を実際よりも著しく優良なものと誤認さ
せるものである。
20 したがって、本件告知等行為の内容は、被告役務の質について「誤認させるよ
うな表示」に当たる。
【被告の主張】
診察時間外の夜間・休日等の緊急案件の紹介事業という事業分野が存在し、そ
の事業分野では、原告と被告のみならず、通常のオンコールのサービスを提供す
25 る競合他社が10社程度存在している。そのため、被告がありもしない競合他社
を作出し、そこと比較しているという事実はない。
また、本件文書3のように他社と比較するという行為についても、真実の情報
に基づくものであれば、顧客に対し商品や役務の情報を提供するというプラスの
面もあることから、それ自体が当然に不正競争になるわけではなく、比較広告の
内容に虚偽や欺瞞性がなければ、誤認惹起行為に該当しない。本件においては、
5 虚偽の事実を記載するものでもなく、被告役務と通常のオンコールのサービスを
提供する他社との一般的な相違点を記載するものであり、社会通念上の相当性を
逸脱したようなものではない。
したがって、本件告知等行為の内容は、被告役務の質について「誤認させるよ
うな表示」に当たらない。
10 4 争点1-4(損害の発生及びその額)について
【原告の主張】
(1) 被告は、東証一部上場企業であるエムスリー株式会社の子会社であり、資本
金1億円超、売上高150億円超という規模で全国展開して事業を行う会社で
ある。本件事案は、規模において格段に勝る被告が、経営基盤も未だ脆弱な設
15 立したばかりの原告において、これまで被告が独占的に市場に提供してきた被
告役務と競争関係にある原告役務の提供を開始したことに対し危機感を抱き、
原告役務やその事業体制について虚偽の事実を告知する等により、顧客に対す
る原告の営業上の信用を失墜させ、業務を妨害することで自社事業の防衛を図
ろうとする不当な動機の下に、不正競争を行ったものであって、極めて悪質と
20 いわざるを得ない。
(2) 被告の本件告知等行為により、現に、原告において複数の医療機関との取引
ないし商談等が突然停止ないし撤回されるなど著しい被害が生じている。本件
告知等行為による原告の売上喪失額(最短1年間は契約が継続するものとして、
1年間分に限る。)は3576万円であり、控えめにみても、限界利益率は9
25 0%、売上予測の達成可能性は50%であるから、原告の逸失利益額は、これ
らを乗じた1600万円を下らない。
(3) 原告は、被告の営業誹謗行為により営業上の信用を棄損され、無形損害を被
ったところ、これを金銭に換算すれば、少なくとも1000万円を下らない。
(4) 本訴の遂行に要する弁護士費用のうち前記(2)及び(3)の合計の1割に相当
する260万円は、不正競争との間に相当因果関係が認められる。
5 (5) 以上から、原告の被った損害額は合計2860万円となるが、そのうち11
00万円の損害賠償を求める。
【被告の主張】
争う。
5 争点1-5(信用回復措置等の必要性があるか)について
10 【原告の主張】
本件告知等行為は、専ら原告を標的としたネガティブキャンペーンであること、
前記4【原告の主張】(1)のとおり、極めて悪質かつ違法性が高いこと、被告が自
らの非を認めず、その行いを改めないことにより、実際に原告の売上に多大な悪
影響を与えていること等を勘案すると、差止めの必要性があることはもとより、
15 別紙信用回復措置目録1及び2記載の訂正文の送付等の適宜の信用回復措置が
不可欠である。
【被告の主張】
争う。
6 争点2-1(本件情報は「営業秘密」
(不競法2条6項)に当たるか)について
20 【被告の主張】
(1) 秘密管理性が認められること
本件情報は、
「アネナビ管理画面」というシステムに保存されていたところ、
同システムへのアクセス権限が与えられていたのは、被告の全従業員約621
名のうちP4を含むわずか十数名程度に限られており、それらの限られた従業
25 員にはID及びパスワードが発行され、当該ID等がなければ同システムにア
クセスできない仕組みになっていた。
(2) 有用性が認められること
本件情報は、被告の顧客奪取に繋がる情報(情報①、③、④)、対象の医療機
関に対して先回りをした営業をすることが可能となる情報(情報②)、顧客の
ニーズに合ったサービスを提供することが可能となる情報(情報⑤)である。
5 (3) 非公知性が認められること
本件情報は、いずれも、公開されておらず、被告が独自に入手し収集した情
報であって、対象医療機関に対する問合せ等によって容易に入手できる情報で
はない。したがって、営業を行う上で非常に重要な情報である。
(4) 以上から、本件情報はいずれも営業秘密に当たる。
10 【原告の主張】
本件情報は、いずれも対象医療機関に対して直接確認すれば得られる情報であ
って、少なくとも非公知性の要件を欠いていることは明らかである。
したがって、本件情報はいずれも営業秘密に当たらない。
7 争点2-2(本件取得等行為は「営業秘密不正取得行為」(不競法2条1項4
15 号、5号)に当たるか)について
【被告の主張】
(1) P1は、日中の昼間の勤務時間中で、P4が被告の事業場において営業秘密
に容易にアクセスすることができる状況下において、行動を監督する者がいな
い時間を狙って、同人に対し、スマートフォンという個人的な連絡ツールを用
20 いて連絡をとることで、密かに本件情報を取得した。P4が、部外者であるP
1に対し本件情報を提供する行為は、被告の就業規則に違反する行為であると
ころ、被告の元従業員であるP1は、そのことを容易に認識し得た。このよう
な行為は、正常な経済活動を大きく逸脱した公序良俗に反するものであること
は明らかである。
25 したがって、本件取得等行為は、営業秘密不正取得行為に当たる。
(2) これを前提とすると、P1は原告の取締役であること、本件取得等行為が原
告の事業に関して実施されたものであることに加え、原告は同族会社であると
ころ、P1は、被告での勤務を通して、原告内で突出した職務経験や知識があ
り、また、父であり夫でもあることから、原告において、P1が意思決定上重
要な地位を占めていると推測されること等を考慮すると、原告は、実質的には
5 P1の支配する株式会社であるといえる。したがって、本件取得等行為は、原
告の行為と同視することができるから、不競法2条1項4号の不正競争に当た
る。
また、仮に、本件取得等行為がP1個人の行為であるとしても、原告は、本
件取得等行為が介在したことを知って、本件情報を取得又は使用しているから、
10 いずれにしても、不競法2条1項5号の不正競争に当たる。
【原告の主張】
原告が同族会社であることは認めるが、その余は否認ないし争う。
メッセージのやり取りという、一般に用いられるコミュニケーション手段を用
いて、相手に対し平穏な形で質問を行って事実を確認する行為は、不正な手段と
15 はいえない。
したがって、本件取得等行為は、営業秘密不正取得行為に当たらない。
8 争点2-3(本件開示等行為は「不正競争」(不競法2条1項8号)に当たる
か)について
【被告の主張】
20 P2は、被告に対し、業務委託契約終了後2年間の競業避止義務、及び営業情
報等の使用禁止義務を負っている(前提事実(1)ウ)にもかかわらず、原告は、P
2との間で雇用契約又は業務委託契約を締結し、P2が不正の利益を得る目的で
開示した本件情報その他の被告の営業秘密に属する情報を、悪意又は重過失によ
り取得し、これを使用して、被告との業務委託契約が終了した直後頃から、P2
25 をして、医療機関等に対する営業活動をさせた。
かかる本件開示等行為は、不正競争(不競法2条1項8号)に当たる。
【原告の主張】
原告がP2との間で業務委託契約を締結し、営業の一部を委託したことがあっ
たこと、P2が一部の医療機関に対し営業活動を行ったことは認め、その余は、
不知ないし否認、又は争う。
5 P2が開示したとされる営業秘密が特定されていないことから、主張自体失当
であって、本件開示等行為が不正競争に当たらないことは明らかである。
9 争点2-4(本件取得等行為及び本件開示等行為は不法行為を構成するか)に
ついて
【被告の主張】
10 (1) 仮に、本件取得等行為が不正競争(不競法2条1項4号、5号)に当たらな
いとしても、競業関係にある会社間において、主観的にも客観的にも営業上有
益な情報を、相手方の内部者を通じて取得する行為は、社会的相当性が認めら
れる行為であるとは到底いえず、違法性が認められることは明らかである。
特に、行為者であるP1は、被告の元従業員であり、退職時には退職時誓約
15 書を差し入れ、営業秘密を漏洩等しない旨を誓約している(前提事実(1)ウ)こ
とから、違法性がより強固に認められる。
したがって、本件取得等行為は不法行為を構成する。
(2) 仮に、本件開示等行為が不正競争(不競法2条1項8号)に当たらないとし
ても、故意又は重過失によって、被告と競合し得る事業を営む原告が、当該事
20 業に密接に関わる人材であって、かつ、被告に対し競業避止義務等を負う者を
あえて採用し、当該競業避止義務等の趣旨を没却するような態様で当該事業に
従事させることは、社会的相当性がない。
したがって、本件開示等行為は不法行為を構成する。
【原告の主張】
25 否認ないし争う。
10 争点2-5(損害の発生及びその額)について
【被告の主張】
(1) 本件取得等行為により、被告の従前の顧客であった三つの医療機関(直近1
年間の売上は、60万円、95万円及び37万円)との契約が終了したが、こ
れがなければ、少なくとも2年間はこれらの契約が継続していたはずである。
5 したがって、本件取得等行為によって被告が被った損害は、前記売上合計の1
92万円に2を乗じた384万円を下らない。
(2) 本件開示等行為により、被告の従前の顧客であった医療機関(直近1年間の
売上は976万円)との契約が終了したが、本件開示等行為がなければ、少な
くとも2年間はこの契約が継続していたはずである。また、本件開示等行為に
10 より、被告は、顧客である二つの医療機関の料金を半額に減額することを余儀
なくされ、令和4年1月までの間に、減額後の料金の支払(297万2500
円及び232万円)を受けた。したがって、被告が被った損害は、前記売上9
76万円に2を乗じた1952万円に、料金減額分合計529万2500円を
加えた2481万2500円を下らない。
15 (3) 以上から、被告が被った損害は合計2865万2500円を下らない。
【原告の主張】
争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1-1(本件告知等行為は「原告の」営業上の信用を害する(不競法2条
20 1項21号)か)について
(1) 本件文書及び本件メールの記載内容は別添資料のとおりであり、原告の社名
や原告役務の名称等は記載されていないから、これらの記載内容から、本件告
知等行為が原告に関するものであることが明示的に特定されているとはいえ
ない。そこで、本件文書等に接した需要者(医療機関等ないしその担当者)に
25 おいて本件告知等行為が原告に関するものであると理解することができるか
について検討する。
証拠(乙23、証人P3)及び弁論の全趣旨によれば、本件文書2は、医療
機関が被告役務と他社の類似サービスを混同することがあり、令和元年9月頃
には、原告役務と被告役務を混同した問合せを受けるようになったことを契機
として、その頃、被告役務について説明することを目的として作成された文書
5 であり、本件文書1及び3は、令和3年1月頃、医療機関との契約更新等に関
する商談の際に、被告役務の説明をすることを目的として作成された文書であ
り、本件メールは、被告が医療機関から、被告役務と類似したサービスを被告
より安く提供できる旨の営業をしている会社があるとの相談を受ける機会が
増えたことから、被告役務の説明をすることを目的として作成され、医療機関
10 に送信されたものであること、令和3年1月以降、本件文書及び本件メールは、
他の資料と同時に医療機関に提供され、商談の際に使用されることがあったこ
とが認められる。
本件文書1は、
「Dr.Express体制強化のご案内」という表題の下、
被告役務の特徴等が記載されているのみで、原告及び原告役務を想起させる表
15 現等はない。本件文書2は、
「類似業者・サービスについて」という表題の下、
「アネナビやアネステーションに類似した名称のサービスから連絡がくるが、
アネナビと同じサービス・品質なのかと質問をいただくことがございます。こ
れらの団体・企業は当社とは一切関係がございません。」などと記載されてい
るところ、「アネナビやアネステーションに類似した名称のサービス」が原告
20 役務を想定していることは当事者間に争いがない。しかし、麻酔は英語で「ア
ネスシィーズィア」と発音することなどから、冒頭に「アネ」を付した名称で
麻酔科医を紹介する類似サービスは、原告役務の他にも複数存在し(乙1の1、
2の1、2の2) 前記認定のとおり、
、 医療機関が被告役務と他社の類似サービ
スや原告役務を混同することが現に生じていたことに加え、本件文書2は「こ
25 れらの団体・企業」と記載されており、複数の類似サービスが存在することを
示唆する内容になっている。これらの事情に照らすと、本件文書2に接した需
要者は、「アネナビやアネステーションに類似した名称のサービス」が原告役
務を含めた複数の類似サービスを指していると理解するものと認められ、原告
役務のみを指していると理解するとまでは認められない。本件文書3は、「医
師のマッチング」、
「医師のバックアップ体制」、
「営業体制」及び「権利・特許」
5 の各項目について、
「アネナビ」と「他社様」を比較するものである。アネナビ
については、被告役務の特徴等が記載されており、関西圏において、待機料を
支払うことなく、診療時間外の夜間・休日のスポット案件について麻酔科医を
紹介するサービスを提供しているのは原告と被告のみである(甲18~20、
22の2、証人P1、証人P3)。しかし、比較項目は、前記のとおり医師のマ
10 ッチング等の一般的なものであって、原告役務及び被告役務の分野に関する項
目に限定されたものではなく、比較対象も、麻酔科医を紹介するウェブサイト
である「アネナビ」と「他社様」であって、広く麻酔科医の紹介サービス一般
を対象としており、原告や原告役務を示唆するものではない。営業体制におい
て、
「他社様」の記載が「1名が365日24時間対応」とされており、そのよ
15 うな体制の企業が存在するのかと疑問を抱いたり、この「他社様」が零細企業
だけを想定しているのではという感想を抱いたりする向きはあろうが(その点
では適切を欠く感を免れないが)、全体を通じて観察してみると、なお原告な
いし原告役務を想起させるには至らない。加えて、証拠(乙1、4、証人P1、
証人P3)及び弁論の全趣旨によれば、複数の業者が、関西圏において、麻酔
20 科医を紹介する類似サービスを提供しているところ、被告役務は、原告役務の
みならず、他社の類似サービスとも競合関係にあることが認められる。これら
の諸事情に照らすと、本件文書3に接した需要者は、
「他社様」は原告を含めた
競合他社を指すと理解するものと認められ、原告のみを指していると理解する
とは認められない。
25 本件メールは、被告役務の類似サービスをアネナビより安く提供できると営
業している会社があるとの相談を受けることが増えてきたので、被告との違い
を連絡する旨を記載した後に、権利関係、営業体制及び医師のバックアップ体
制について、
「アネナビ」と「一般的な紹介会社、他社様」とを比較するもので
ある。アネナビについては、被告役務の特徴等が記載されており、前記のとお
り、関西圏において、待機料を支払うことなく、夜間・休日のスポット案件に
5 ついて麻酔科医を紹介するサービスを提供しているのは原告と被告のみであ
る。しかし、比較項目は、営業体制等の一般的なものであって、原告役務及び
被告役務の分野に関する項目に限定されたものではなく、また、比較対象も、
麻酔科医を紹介するウェブサイトである「アネナビ」と「一般的な紹介会社、
他社様」であって、広く麻酔科医の紹介サービス一般を対象としており、原告
10 や原告役務を示唆するものではない。加えて、関西圏における競合他社の状況
等に照らすと、本件メールに接した需要者は、「一般的な紹介会社、他社様」
は、原告を含めた競合他社を指していると理解するものと認められ、原告のみ
を指していると理解するとは認められない。
次に、本件文書及び本件メールが同時に需要者に提供された場合について検
15 討するに、前記のとおり、本件文書1は原告及び原告役務を想起させる記載は
なく、本件文書2は原告役務を含む複数の類似サービスを想起させ、本件文書
3及び本件メールは原告を含む競合他社を想起させるにとどまるものである
から、これらが合わさったとしても、これらに接した需要者が、本件文書2の
「アネナビやアネステーションに類似した名称のサービス」が原告役務のみを
20 指し、本件文書3及び本件メールの「他社様」等が原告を指すと理解すること
にはならない。
さらに、被告の担当者が、本件文書及び本件メールを使用して、医療機関に
対して行った説明等の具体的内容は証拠上明らかでなく、その他、本件告知等
行為が原告に関するものであることを裏付ける事情はない。
25 (2) これに対し、原告は、本件告知等行為は、その内容、競争関係の状況及びそ
の他諸般の事情に照らすと、原告に関する事実であると理解できる程度に特定
されていると主張し、関西圏において、原告役務及び被告役務と同種のサービ
スは存在しないことを裏付ける証拠として、医療機関等へのアンケート結果
(甲18、19)及び他社への調査結果(甲20)を提出し、本件告知等行為
が原告に関するものであることを裏付ける証拠として、P1と医療機関との会
5 話の録音反訳書(甲21)を提出する。
しかし、前記のとおり若干適切を欠く点が指摘できるものの、本件文書3及
び本件メールの記載内容や競合他社の状況等から、本件文書3等は被告役務と
類似サービス一般とを比較するものであると理解されることは前述したとお
りであり、関西圏において、原告役務及び被告役務と同種のサービスが存在し
10 ないことは、前記認定に影響を与えるものではない。また、P1と医療機関と
の会話の録音反訳(甲21) 各医療機関と取引関係等があるP1が訪問し、
は、
担当者に対し、P1が本件文書や本件メールの記載内容等の被告の営業活動に
ついて説明した上で、その中で用いられた「他社」や「類似業者」と聞いてど
の業者を思い浮かべるかを質問するものであり、その調査方法は、そもそも原
15 告関係者であるP1が実施していること自体によって多分に誘導的かつ中立
性に疑義があり、これから直ちに本件文書等から原告を想起するとまでは認め
られない。
したがって、原告の前記主張は採用できない。
(3) 以上から、本件告知等行為は「原告の」営業上の信用を害するとはいえず、
20 争点1-1に係る原告の主張は、理由がない。
2 争点1-3(本件告知等行為の内容は被告役務の質について「誤認させるよう
な表示」(不競法2条1項20号)に当たるか)について
(1) 原告は、本件告知等行為は、市場に全く存在しない「他社」の、しかもあり
もしない極めて低品質のサービスを措定し、あえてそれと比較することにより、
25 これに接した医療機関に対し、被告役務の品質を実際よりも著しく優良なもの
と誤認させる旨を主張する。
この点、前記1において指摘したほか、本件文書3及び本件メールにおいて
は、
「他社様」の「医師のバックアップ体制」及び「権利・特許」についていず
れも「なし」とされているところ、
「他者様」の提供するサービス内容は様々で
あり、それに応じてバックアップ体制の要否や知的財産権等の保有について
5 様々な状況が考えられる(乙1、2、証人P1、証人P3)のに、これらが「な
し」であるとすることについて的確な立証はなく、需要者に「他社様」の状況
に誤解を生じさせ得るものとして、適切を欠くきらいはある。しかし、前記1
(1)のとおり、本件文書3及び本件メールに接した需要者は、被告役務と類似
サービス一般を比較しているものと理解するものであり、このような抽象的な
10 比較の対象との対比において、当該文書に記述された被告役務の品質が実際よ
りも著しく優良なものと誤認させることになるとまでは認められない。
(2) したがって、本件告知等行為の内容は被告役務の質について「誤認させるよ
うな表示」に当たらず、争点1-3に係る原告の主張は、理由がない。
3 争点2-1(本件情報は「営業秘密」
(不競法2条6項)に当たるか)について
15 (1) 「公然と知られていない」状態(非公知性)とは、営業秘密保有者の管理下
以外では一般的に入手することができない状態をいう。
これを本件についてみるに、本件情報のうち、情報①(被告の取引先医療機
関の名称、その担当者及び部署名)、②(特定の医療機関の手術状況)及び⑤
(紹介することを避けるべき医師に関する特定の医療機関の情報)は、主とし
20 て特定の医療機関が保有する情報を被告が入手して管理しているにすぎない
ものであり、被告の管理下のみに属する情報ではない。また、情報③(特定の
医療機関と被告との契約状況及び契約内容)及び④(被告における契約の仕組
みに関する情報)は、その性質上、契約の相手方に対し開示されることが予定
された情報であって、被告の管理下のみに属する情報ではなく、被告が、契約
25 の相手方との間で、当該情報についての秘密保持契約等を締結するなどして、
その開示等を禁止していたことをうかがわせる証拠もない。
したがって、本件情報は、いずれも「公然と知られていない」とはいえない。
(2) 以上から、本件情報は、非公知性を欠く上、秘密管理性や有用性についても
的確な立証を欠くから、
「営業秘密」に当たらず、これを前提とする被告の主張
は理由がない。
5 4 争点2-3(本件開示等行為は「不正競争」(不競法2条1項8号)に当たる
か)について
前記3(1)のとおり、本件情報は営業秘密に当たらないことに加え、P2が原
告に開示したとするその他の情報は何ら具体的に特定されておらず、請求原因事
実の主張を欠く。
10 したがって、本件開示等行為は「不正競争」に当たらず、争点2-3に係る被
告の主張は理由がない。
5 争点2-4(本件取得等行為及び本件開示等行為は不法行為を構成するか)に
ついて
前記3(1)及び4のとおり、本件情報は営業秘密に当たらず、P2が開示した
15 とするその他の情報は特定されていないから、本件取得等行為等が不法行為を構
成することはない(そもそも、不正競争に当たらない行為で不法行為に該当する
行為が想定できるかも疑問である。。争点2-4に係る被告の主張は、理由がな
)
い。
第5 結論
20 以上のとおり、本訴請求に係るその余の点について判断するまでもなく、原告の
本訴請求は理由がなく、反訴請求に係るその余の点について判断するまでもなく、
被告の反訴請求は理由がない。
よって、原告の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却することとして、主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
峯 健 一 郎
(別紙)
告知行為(表示)目録
1 相手先
5 原告又は被告の提供する別紙役務目録記載の役務を現に利用し、又は今後利用
する可能性のある医療機関(ただし、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、
和歌山県に所在するものに限る。)
2 内容
10 エムスリーキャリア株式会社のマッチングシステムでは、商標登録済みかつ特
許出願済みの独自システムを用い、専用コールセンターも完備しつつ複数の営業
職員が組織的に365日24時間対応するうえ、医師のバックアップ体制もあり、
100%即時マッチング可能であるが、エヌアイラボ株式会社ないし他社のマッ
チングシステムにおいては、権利取得もなく、一人の営業が365日24時間電
15 話対応する属人的マッチングであり、医師のバックアップ体制もない。
以上
(別紙)
役務目録
医療機関における通常の診療時間外の夜間・休日において発生した緊急手術(通常、
5 数時間以内に実施が予定されるものをいう。)に対応するため、麻酔科医の紹介を希
望する医療機関に対し、複数の麻酔科医を予め登録したウェブサイト上のシステムを
用いて、当該緊急手術に対応可能な麻酔科医を迅速にマッチングし、紹介する役務
以上
(別紙)
信用回復措置目録1
当社は、
5 自社のマッチングシステムでは、商標登録済みかつ特許出願済みの独自システムを
用い、専用コールセンターも完備しつつ複数の営業職員が組織的に365日24時間
対応するうえ、医師のバックアップ体制もあり、100%即時マッチング可能である
が、エヌアイラボ株式会社のマッチングシステムにおいては、権利取得もなく、一人
の営業が365日24時間電話対応する属人的マッチングであり、医師のバックアッ
10 プ体制もない
との事実を告知し、貴院に対し、エヌアイラボ株式会社のマッチングシステムが極
めて低品質のサービスであるかのような印象を与えました。
上記の事実は虚偽ですので、撤回いたします。
今後、かかる行為を行わないことを誓約し、エヌアイラボ株式会社に対し、深くお
15 詫び申し上げます。
令和 年 月 日
エムスリーキャリア株式会社
20 〇〇(注) 御中
注 相手先医療機関名を入れる。送付先は当該医療機関の管理者宛とする。
以上
(別紙)
信用回復措置目録2
当社は、
5 自社のマッチングシステムでは、商標登録済みかつ特許出願済みの独自システムを
用い、専用コールセンターも完備しつつ複数の営業職員が組織的に365日24時間
対応するうえ、医師のバックアップ体制もあり、100%即時マッチング可能である
が、他社のマッチングシステムにおいては、権利取得もなく、一人の営業が365日
24時間電話対応する属人的マッチングであり、医師のバックアップ体制もない
10 などと自社の役務が他社の役務に比してその品質が著しく優良であるかのごとき
誤認を招く宣伝・広告をして参りました。
上記の表示は事実に反し、不正競争防止法に違反する品質誤認表示でありましたの
で撤回いたします。
今後、このような表示を行わないことを誓約し、ここに深くお詫び申し上げます。
令和 年 月 日
エムスリーキャリア株式会社
〇〇(注) 御中
注 相手先医療機関名を入れる。送付先は当該医療機関の管理者宛とする。
以上
(別紙)
損害一覧表
内金額 起算日 料率
382万円 令和元年11月1日 年5分
1952万円 令和3年6月1日 年3分
37万円 令和3年8月1日 年3分
38万2500円 令和3年9月1日 年3分
71万5000円 令和3年10月1日 年3分
76万円 令和3年11月1日 年3分
61万2500円 令和3年12月1日 年3分
81万7500円 令和4年1月1日 年3分
81万円 令和4年2月1日 年3分
82万5000円 令和4年3月1日 年3分
以上
別紙
別紙
別紙
別紙
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