令和4(ネ)10111不正競争行為差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和5年4月27日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
不正競争
不正競争防止法2条1項21号2回
|
キーワード |
特許権31回 侵害28回 損害賠償9回 差止4回 実施1回
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主文 |
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は、被控訴人が、控訴人らは被控訴人の取引先に対し被控訴人が製造・
販売する製品が控訴人Xの共有する特許権を侵害している旨通知したところ、これ
は不正競争防止法2条1項21号に定める不正競争に該当すると主張し、控訴人ら
に対して、同法3条1項に基づき、被控訴人が同製品を製造・販売することが同特
許権を侵害する旨を被控訴人の取引先その他の第三者に告知・流布することの差止
めを求めるとともに、同法4条本文及び民法719条1項に基づき、損害賠償金の
うち1000万円及びこれに対する不正競争の日の後である令和3年9月11日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害
金の連帯支払を求める事案である。 |
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判決文
令和5年4月27日判決言渡
令和4年(ネ)第10111号 不正競争行為差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第22940号)
口頭弁論終結日 令和5年3月7日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人が、控訴人らは被控訴人の取引先に対し被控訴人が製造・
販売する製品が控訴人Xの共有する特許権を侵害している旨通知したところ、これ
は不正競争防止法2条1項21号に定める不正競争に該当すると主張し、控訴人ら
に対して、同法3条1項に基づき、被控訴人が同製品を製造・販売することが同特
許権を侵害する旨を被控訴人の取引先その他の第三者に告知・流布することの差止
めを求めるとともに、同法4条本文及び民法719条1項に基づき、損害賠償金の
うち1000万円及びこれに対する不正競争の日の後である令和3年9月11日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害
金の連帯支払を求める事案である。
原審は、被控訴人の控訴人らに対する差止請求を全部認容し、控訴人らに対する
損害賠償請求を100万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で
認容し、その余をいずれも棄却したところ、控訴人らは、原判決のうち自己の敗訴
部分を不服として、本件各控訴をした。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3並びに
第3に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決4頁2行目の「併せて」の次に「、同年12月」を加える。
(2) 原判決4頁4行目の「乙7の2」を「甲19、21の1ないし9、乙7の
2」と改める。
(3) 原判決4頁16行目の「上告した」を「上告及び上告受理の申立てをした」
と改める。
(4) 原判決4頁17行目及び18行目の各「当該上告」の次にいずれも「及び
上告受理の申立て」を加える。
(5) 原判決5頁6行目の「令和3年8月19日」を「令和3年8月19日付け
で」と改める。
(6) 原判決5頁11行目の「弁論の全趣旨」を「甲21の1ないし9」と改め
る。
(7) 原判決5頁13行目の「優先日」を「出願日」と改める。
(8) 原判決5頁21行目の「違法性」の次に「及び控訴人らの過失」を加える。
(9) 原判決7頁4行目の「願書に添付された」を「設定登録時の」と改める。
(10) 原判決9頁14行目の「併せて」を「合わせて」と改める。
(11) 原判決10頁18行目の「甲1、2、9、10」を「甲1(社団法人繊維
学会編「第2版繊維便覧」(平成11年))、甲2(本宮達也ほか編「繊維の百科
事典」(平成14年))、甲9(多田牧子著「組物-伝統から未来へ-」(日本家
政学会誌61巻3号177~181頁(平成22年)))、甲10(花田美和子ほ
か著「引張荷重下における市販組紐の力学的特性評価」(繊維製品消費科学45巻
10号766~772頁(平成16年)))」と改める。
(12) 原判決10頁20行目の「甲11ないし13」を「甲11(特許第349
3002号公報(平成16年))、甲12(中国実用新案第2747241号明細
書(2005年))、甲13(韓国公開特許第10-2011-0108642号
公報(2011年))」と改める。
(13) 原判決10頁24行目の「14」の次に「(特開平3-70505号公
報)」を加える。
(14) 原判決11頁9行目から10行目にかけての「甲15ないし17」を「甲
15(米国特許第4426908号明細書(1984年))、甲16(特開昭63
-59492号公報)及び甲17(実公昭51-41821号公報)」と改める。
(15) 原判決11頁10行目の「本件特許出願前」を「本件特許の出願日前」と
改める。
(16) 原判決14頁1行目(2か所)、2行目、8行目及び9行目の各「径」の
次にいずれも「(上下方向)」を加える。
(17) 原判決19頁12行目の「違法性」の次に「及び控訴人らの過失」を加え
る。
(18) 原判決19頁15行目から16行目にかけての「阻却される」を「阻却さ
れ、また、控訴人らに過失はない」と改める。
(19) 原判決20頁12行目から13行目にかけての「送付しており」を「送付
されており」と改める。
(20) 原判決20頁25行目の「明白である」を「明白であり、また、控訴人ら
には過失が認められる」と改める。
(21) 原判決21頁4行目の「取る」を「執る」と改める。
(22) 原判決23頁16行目及び19行目の各「前記2」の次にいずれも「(控
訴人らの主張)」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人の控訴人らに対する差止請求は全部理由があり、控訴
人らに対する損害賠償請求は100万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を
求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は、次のとおり改め、控訴人らの当審における補充主張に鑑み後記2を付加するほ
かは、原判決の「事実及び理由」欄の第4に説示のとおりであるから、これを引用
する。
(1) 原判決33頁19行目を以下のとおり改める。
「(2) 構成要件B①及び②の「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」の意義
ア 「非伸縮性素材」の意義」
(2) 原判決33頁20行目の「ア」を削る。
(3) 原判決34頁17行目から36頁16行目までを以下のとおり改める。
「イ 「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」の意義
(ア) 本件明細書等には、「…ひも本体全体が伸縮性素材からなる本構成をとる
ことによって、軸方向張力を加えることで伸縮性素材からなるひも全体が伸び縮む
…。」(【0018】)、「…伸縮性素材は、ゴム状素材と非伸縮性の通常素材と
の編み込みによって構成されていることを特徴とする。かかる特徴を備える構成と
することにより、…軸方向に伸縮することが可能となる。」(【0020】)、
「「ゴム状素材」とは、ゴムのように伸縮性に優れた糸状素材のことを指しており、
軸方向に対し力を加えることによって良く伸びる効果を生じさせる機能を有する。
…ゴム状素材を編み込む構造をとることによって、ひもに対し軸方向張力を加えた
場合、少ない力で十分に伸びることが可能となる。」(【0022】)、「通常素
材もゴム状素材と編み込まれることにより、…軸方向に伸縮することが可能とな
る。」(【0024】)、「…中心ひもはひもを伸縮させるために機能させる必要
はないので、伸縮性素材を用いる必要はなく、非伸縮性素材からなっていればよい。
即ち、ひも本体に軸方向の張力を加え伸縮させる場合でも、中心ひもは前記ゴム状
素材のようには伸縮しない。」(【0031】)などの記載があるところ、これら
の記載によると、本件明細書等は、「ひも本体」又は「中心ひも」の作製の際に用
いられる素材の伸縮性又は非伸縮性がそのまま「ひも本体」又は「中心ひも」の伸
縮性又は非伸縮性を導くことを当然の前提としているものといえる。加えて、前記
アのとおりの本件発明の「伸縮性素材」及び「非伸縮性素材」の意義にも照らすと、
本件発明の「伸縮性素材からなるひも本体」とは、「伸縮性素材(伸び縮みする性
質を有する素材)からなる伸縮性のひも本体」をいい、他方、本件発明の「非伸縮
性素材からな(る)中心ひも」とは、「非伸縮性素材(伸縮性素材と比較して伸縮
性に乏しい素材)からなる非伸縮性の中心ひも(「伸縮性素材からなるひも本体」
と比較して伸縮性に乏しいもの)」をいうものと解するのが相当である。
(イ) なお、本件発明は、靴ひものような固定のために穴通しが必要なひもとし
て用いられるチューブ状ひも本体を備えたひもに関するものであり、ひも本体に強
い張力を繰り返し加えても断裂しにくいひもを提供するものであるところ(本件明
細書等の段落【0001】、【0002】、【0011】、【0018】等)、加
えて、本件明細書等に「ひもは日常生活において老若男女が汎用的に用いる固定具
あるいは結束具として用いられることが想定されることから、力の弱い老人や子供
でも利用できるよう、できるだけ少ない軸方向張力によってこぶの中心部分の径が
変化することが望ましい。」との記載(段落【0036】)があることも併せ考慮
すると、本件発明の「ひも本体」及び「中心ひも」に係る「伸縮性」及び「非伸縮
性」は、靴ひも等を予定した通常の荷重(靴ひも等を締めるなどする目的で人間が
靴ひも等を手で引っ張る際に必要とされる程度の荷重。以下、「通常の荷重」とい
う場合について同じ。)が「ひも本体」及び「中心ひも」に掛かる場合を当然の前
提として論じられていると解され、したがって、本件発明の「ひも本体」及び「中
心ひも」に係る「伸縮性」及び「非伸縮性」については、「ひも本体」及び「中心
ひも」に上記の程度の通常の荷重が掛かる場合を前提としてこれを論ずるのが相当
である。
ウ 控訴人らは、「非伸縮性素材」に該当するか否かについては「中心ひも」の
作製に用いられる素材自体の非伸縮性をみて判断するべきであると主張する。しか
しながら、本件明細書等には、「「伸縮性素材からなる」とは、ひもが伸び縮みす
る性質を有する素材からなることを意味している。伸縮性素材としては、天然ゴム
や合成ゴムなどを用いることが考えられ…。」(段落【0018】)、「「ゴム状
素材」とは、ゴムのように伸縮性に優れた糸状素材のことを指しており、軸方向に
対し力を加えることによって良く伸びる効果を生じさせる機能を有する。…天然ゴ
ムや合成ゴムなどの種類を問わず、ゴムそのものもここでいう「ゴム状素材」に当
然に含まれる。」(段落【0022】)、「「非伸縮性の通常素材」とは、前記ゴ
ム状素材との比較において伸縮性に乏しい繊維素材のことを指す。すなわち、「非
伸縮性」とは、「伸縮性に乏しい」ことを意味する技術用語であって、「伸縮性を
有さない」ことを意味するものではない。」(段落【0023】)などの記載があ
るところ、これらの記載によると、「非伸縮性素材」とは、「中心ひも」の作製に
用いられる素材自体が一定の非伸縮性を有するか否かに着目したものではなく、
「伸縮性素材」との比較において伸縮性に乏しい素材をいうものと解されるから、
控訴人らの主張は、本件明細書等の記載に基づかないものであって、採用すること
ができない。
(3) 構成要件B①及び②(「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」)の充足性
ア 甲51の試験結果(キャタピラン+及びキャタピーエアー+について、張力
(荷重)が0ないし1000gfの領域においては、荷重と長さ比との関係がほぼ
比例関係にあるのに対し、張力(荷重)が1000ないし1250gfとなったと
ころから、長さ比-荷重曲線が上記比例関係の直線から離れて急激に立ち上がる傾
向がみられたというもの)、甲52の試験結果(キャタピラン+及びキャタピーエ
アー+に1000又は1250gfの張力(荷重)を加えると、これらのひものこ
ぶの部分がほぼ平坦化する様子が見て取れるもの)及び弁論の全趣旨によると、キ
ャタピラン+等の全体(外層(本件発明の「ひも本体」に相当するもの)及び芯材
(本件発明の「中心ひも」に相当するもの))に掛かる通常の荷重は、少なくとも
1250gf(約12.3N)以下であると認められる。
イ 乙16(枝番を含む。)の試験結果(キャタピラン+を使用した引張試験の
結果)、これに基づく考察を記載した乙17の陳述書(グラフ①及び③)及び弁論
の全趣旨によると、キャタピラン+等の全体(外層及び芯材)に約12.3N以下
の荷重が掛かる場合、キャタピラン+等の外層及び芯材に掛かる荷重は、いずれも
約10N以下であると認められる。
ウ 乙16(枝番を含む。)の試験結果、乙17の陳述書及び弁論の全趣旨によ
ると、キャタピラン+等の外層及び芯材に掛かる荷重がいずれも約10N以下であ
る場合、キャタピラン+等の芯材は、外層よりも伸び率が高く、伸縮性に富むもの
と認められる。
エ 以上によると、キャタピラン+等に掛かる通常の荷重を前提とした場合、キ
ャタピラン+等の芯材は、外層と比較して伸縮性に乏しいということはできないか
ら、本件発明の「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」に該当しない。したがって、
キャタピラン+等は、構成要件①及び②の「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」
を充足しない。」
(4) 原判決36頁18行目の「構成要件B①」を「構成要件B①及び②の「非
伸縮性素材からな(る)中心ひも」」と改める。
(5) 原判決37頁4行目の「知的財産権侵害の結果の重大性」を「他人の知的
財産権を侵害した旨の告知等をされることの事業者にとっての重大性」と改める。
(6) 原判決37頁17行目の「少なくとも」を削る。
(7) 原判決37頁17行目の「裁判所」から18行目の「かかわらず」までを
「本件特許権を侵害するものではないにもかかわらず」と改める。
(8) 原判決38頁2行目の「阻害するものであり、」の次に「当該見解が」を
加える。
(9) 原判決38頁3行目の「そもそも」から6行目の「当を得ないものであ
る。」までを削る。
(10) 原判決38頁10行目の「違法性」の次に「及び控訴人らの過失」を加え
る。
(11) 原判決38頁18行目の「併せて」の次に「、同年12月」を加える。
(12) 原判決39頁10行目の「上告した」を「上告及び上告受理の申立てをし
た」と改める。
(13) 原判決39頁11行目及び12行目の各「当該上告」の次にいずれも「及
び上告受理の申立て」を加える。
(14) 原判決39頁13行目の「令和3年1月頃以降」を「令和2年12月頃以
降」と改める。
(15) 原判決39頁15行目の「同月下旬」を「令和3年1月下旬」と改める。
(16) 原判決39頁19行目の「甲40の1ないし3」を「甲30ないし32、
40の1ないし3、乙A5」と改める。
(17) 原判決40頁10行目の「弁論の全趣旨」を「甲42、弁論の全趣旨」と
改める。
(18) 原判決40頁13行目から14行目にかけての「うち1社からは」を「う
ち1社(卸問屋)からは、その販売先の1社分について」と改める。
(19) 原判決40頁19行目の「甲48ないし50」を「甲34の1及び2、甲
35の1ないし4、甲36の1及び2、甲37の1及び2、甲38の1ないし4、
甲45、48ないし50、乙A2、6ないし13」と改める。
(20) 原判決40頁20行目末尾に「及び控訴人らの過失の有無」を加える。
(21) 原判決41頁12行目の「特許権を侵害する」を「本件特許権を侵害する」
と改める。
(22) 原判決41頁19行目の「取る」を「執る」と改める。
(23) 原判決41頁26行目の「判断が確定した経緯」を「判断がされたこと及
びその後の経緯」と改める。
(24) 原判決42頁24行目から25行目にかけての「そのうち1社からは、最
終的に」を「うち1社(卸問屋)からは、最終的にその販売先の1社分について」
と改める。
(25) 原判決43頁6行目の「令和元年7月以降」から7行目の「認められる」
までを「、令和元年7月以降、キャタピラン等の売上高がマイナスになっている月
も多くみられる」と改める。
(26) 原判決43頁16行目から17行目にかけての「同書面によれば、原告は」
を「弁論の全趣旨によると、被控訴人は、同書面において」と改める。
(27) 原判決44頁5行目の「キャタピラン+等」から8行目の「解釈であるし」
までを「キャタピラン+等が本件発明の構成要件B①及び②の「非伸縮性素材から
な(る)中心ひも」を充足するかについては、当該構成要件の解釈に争いがあるも
のの、これが、通常の荷重を前提として、「非伸縮性素材(伸縮性素材(伸び縮み
する性質を有する素材)と比較して伸縮性に乏しい素材)からなる非伸縮性の中心
ひも(「伸縮性素材からなるひも本体」と比較して伸縮性に乏しいもの)」をいう
との解釈は、当然に想定すべき範囲内のものであるし」と改める。
(28) 原判決44頁13行目から14行目にかけての「当該構成要件」から15
行目の「後に」までを「本件仮処分の手続において、被控訴人から、当該構成要件
の解釈及びキャタピラン+等の伸縮性に係る試験結果についての指摘を受けてから
間もない時期に」と改める。
(29) 原判決45頁1行目の「競争において」の次に「控訴人会社が」を加える。
(30) 原判決45頁2行目の「その態様は、悪質である」を「その態様において
も相当でない」と改める。
(31) 原判決45頁12行目の「甲34の1、乙A12」を「甲34の1、甲3
5の3、甲36の1、乙A11、12」と改める。
(32) 原判決45頁19行目から20行目にかけての「があったことが認められ
る」を「、③被控訴人に対し、キャタピラン+等につき、損害賠償請求がされたと
きは、被控訴人においてこれに対応する確証がない限り、販売をやめるのが妥当な
ところである旨通知してきた取引先、④被控訴人に対し、キャタピラン+等に関し
ては、裁判所の判断が出るまでは、当社としては販売できない状況であり、返品さ
せてもらう旨通知してきた取引先、⑤控訴人Xに対し、キャタピラン+等について
は、即刻販売を停止し、速やかに全ての在庫を仕入先に返品する旨回答してきた取
引先があったものと認められる」と改める。
(33) 原判決45頁25行目の「主張」から26行目末尾までを「上記主張を採
用することはできない。」と改める。
(34) 原判決46頁4行目の「あるから」の次に「(記録上明らかな事実)」を
加える。
(35) 原判決46頁8行目の「本件告知行為」から9行目末尾までを「控訴人ら
の上記主張は、本件告知行為が違法性を欠くとはいえないとの上記判断を左右する
ものではない。」と改める。
(36) 原判決46頁11行目の「悪質性」を「目的及び態様」と改める。
(37) 原判決47頁2行目の「競争において」の次に「控訴人会社が」を加える。
(38) 原判決47頁5行目の「付されている上」の次に「(なお、控訴人Xは、
実際に控訴人会社の代表取締役を務める者である。)」を加える。
(39) 原判決47頁7行目の「一般の」から10行目の「いえる」までを「本件
特許権を共有するだけで「結ばない靴紐」に係る製品を販売していない控訴人Xの
みならず、同製品を販売して被控訴人と市場で競合する控訴人会社についても、本
件告知行為の主体であると認めるのが相当である」と改める。
(40) 原判決47頁21行目から22行目にかけての「看過するものであり」か
ら23行目末尾までを「看過するものである。」と改める。
(41) 原判決47頁26行目の「原告は、」の次に「キャタピラン等が」を加え
る。
(42) 原判決48頁8行目の「悪質性」を「目的及び態様」と改める。
(43) 原判決48頁18行目の「起因するものであって、」の次に「「虚偽の事
実」の告知と」を加える。
(44) 原判決48頁26行目の「悪質性」を「内容」と改める。
(45) 原判決49頁3行目の「、本件告知行為の悪質性等に鑑みると」を削る。
2 控訴人らの当審における補充主張について
(1) 控訴人らは、構成要件B①の「非伸縮性素材」の意義に関し、本件明細書
等の段落【0022】及び【0023】の記載を挙げて、「非伸縮性素材」は「ゴ
ムのように優れた伸縮性を有するとはいえない素材」を意味すると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の2(2)アにおいて列挙した本件明
細書等の各記載に加え、本件特許に係る請求項2の記載(「伸縮性素材は、ゴム状
素材と非伸縮性の通常素材との編み込みによって構成されている請求項1に記載の
ひも。」)を総合すると、段落【0022】、【0023】等にいう「ゴム状素材」
は、「伸縮性素材」(構成要件A③)をそれ以上に限定しない本件発明(請求項1
に係る発明)との関係では、「伸縮性素材」の例として挙げられているにすぎない
と解されるから、本件発明の「非伸縮性素材」(構成要件B①)が「ゴムのように
優れた伸縮性を有するとはいえない素材」を意味するとの控訴人らの上記主張を採
用することはできない。
(2) 控訴人らは、構成要件B①及び②の「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」
の意義に関し、特許請求の範囲及び本件明細書等には「中心ひも」が「ひも本体」
よりも伸縮性に乏しいものを指すとの記載が全くないから、本件発明の「中心ひも」
が「ひも本体」よりも伸縮性に乏しいものを指すと解釈することはできないと主張
する。
確かに、特許請求の範囲及び本件明細書等には、「中心ひも」が「ひも本体」と
比較して伸縮性に乏しいものを指すことを直接的に示す記載はない。しかしながら、
補正して引用する原判決第4の2(2)イ(ア)において列挙した本件明細書等の各記
載によると、本件明細書等は、「ひも本体」又は「中心ひも」の作製の際に用いら
れる素材の伸縮性又は非伸縮性がそのまま「ひも本体」又は「中心ひも」の伸縮性
又は非伸縮性を導くことを当然の前提としているものといえ、これによると、本件
発明の「(非伸縮性素材からなる)中心ひも」は、「(伸縮性素材からなる)ひも
本体」と比較して伸縮性に乏しいものをいうと解釈するのが相当であるから、控訴
人らの上記主張を採用することはできない。
(3) 控訴人らは、本件発明の「ひも本体」及び「中心ひも」に係る「伸縮性」
及び「非伸縮性」に関し、特許請求の範囲及び本件明細書等には当該「伸縮性」等
が「ひも本体」等に通常の荷重が掛かる場合を当然の前提としている旨の記載はな
いから、当該「伸縮性」等につき「ひも本体」等に通常の荷重が掛かる場合を前提
としてこれを論ずるのは相当でない旨の主張をする。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の2(2)イ(イ)において列挙した本
件明細書等の各記載によると、本件発明の「ひも本体」等に係る「伸縮性」等は、
靴ひも等を予定した通常の荷重が「ひも本体」等に掛かる場合を当然の前提として
論じられていると解されるから、当該「伸縮性」等については、「ひも本体」等に
上記の程度の通常の荷重が掛かる場合を前提としてこれを論ずるのが相当である。
なお、控訴人らは、本件明細書等の段落【0036】の記載は本件特許に係る請求
項3(「ひも本体」のこぶの径に限定を加えたもの)及び同請求項に係る発明の実
施例(実施形態4)について説明するものであり、本件発明(請求項1に係る発明)
の「ひも本体」に「伸縮性素材」を採用したことにより得られる効果について述べ
るものではないから、本件発明の「ひも本体」等に係る「伸縮性」等の解釈につき
同段落の記載を参酌することはできない旨の主張をするが、段落【0001】、
【0002】、【0011】及び【0018】を始めとする本件明細書等の各記載
を総合すると、段落【0036】の「ひもは、日常生活において老若男女が汎用的
に用いる固定具あるいは結束具として用いられることが想定されることから、力の
弱い老人や子供でも利用できるようにすることが望ましい」旨の記載は、請求項3
に係る発明についてのみならず、本件発明についても妥当するものと解されるから、
本件発明の「ひも本体」等に係る「伸縮性」等の解釈について同段落の上記趣旨の
記載を参酌することは許されるというべきである。
以上のとおりであるから、控訴人らの主張を採用することはできない。
(4) 控訴人らは、本件通知書に記載されたキャタピラン+等が本件特許権を侵
害していると考えている旨の見解に関し、仮にこれが不正競争防止法2条1項21
号にいう「虚偽の事実」に該当するのであれば、特許権者としては、特許権の被疑
侵害者を発見した場合であっても、後日裁判所により特許権の侵害はない旨の判断
がされ、損害賠償を命じられるとのリスクを回避するため、被疑侵害者に対し訴訟
提起前に警告書を送付することがおよそできなくなるから、上記の見解が同号にい
う「虚偽の事実」に該当するとの判断は誤りであると主張する。
しかしながら、特許権者が特許権の被疑侵害者を発見し、訴訟提起に先立って当
該被疑侵害者に対し警告書を送付したが、後日裁判所により特許権の侵害がない旨
の判断がされた場合であっても、当該警告書の送付が特許権者の正当な権利行使の
範囲内の行為であると評価されるときは、同送付は違法性を欠き、当該特許権者が
同送付を理由として損害賠償責任を負うことはないのであるから、特許権者が被疑
侵害者に対し訴訟提起前に警告書を送付することがおよそできなくなることを前提
とする控訴人らの上記主張は、前提を誤るものとして採用することができない。
(5) 控訴人らは、本件告知行為の違法性の有無に関し、①控訴人らと被控訴人
との間の紛争の発端は、被控訴人が控訴人Xらとの間で締結した共同出願契約(乙
30の1及び2)における約定(事前の協議・承諾なく本件特許権に関わる製品を
販売した場合には、本件特許権を剥奪できるとするもの)に違反し、単独でキャタ
ピラン等の製造・販売を開始したことであること、②控訴人Xは、本件通知書にお
いて、キャタピラン等とキャタピラン+等が別の商品であり、これらが異なる状況
にあることを分かりやすく明記していること、③本件通知書の記載は、キャタピラ
ン+等がキャタピラン等と同様に本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象
を与えるものではないことを根拠に、本件告知行為の目的は被控訴人の取引先が過
去に販売したキャタピラン等について損害賠償請求をすることであり、同目的が
「裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が確定したキャタピラン等の存在
を奇貨として、本件特許権を侵害しないように改良されたキャタピラン+等につい
ても、裁判所による判断がされる前に、本件特許権を侵害する趣旨を告知し、被控
訴人の取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結
ばない靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において控訴人会社が優
位に立つこと」であるとの認定は誤りであると主張する。
しかしながら、控訴人Xは、本件告知行為をした時点において、被控訴人がその
製造・販売する商品をキャタピラン等からキャタピラン+等に入れ替え、「結ばな
い靴紐」の市場においてキャタピラン等の販売が縮小していることを十分に認識し
ていたこと(補正して引用する原判決第4の4(2)イ)、被控訴人は、令和2年1
2月22日、前訴の控訴審判決において命じられたキャタピラン等に係る損害賠償
金(平成28年4月1日から平成30年8月31日までに生じたもの)を支払った
ものと認められること(乙7の3、弁論の全趣旨)、キャタピラン等に係る損害賠
償金(平成30年9月1日から令和3年4月30日までに生じたもの)についても、
遅くとも本件告知行為の前までには、その額の確定等の手続が終了し、被控訴人か
らその支払がされるのを待つ状況となっていたものと認められること(甲60、7
7、弁論の全趣旨)、控訴人Xは、本件包括協議において、直接又は間接に、被控
訴人が「結ばない靴紐」の市場から撤退することを一貫して求めていたと認められ
ること(甲59ないし67、70ないし74)、本件通知書の送付を受けた被控訴
人の取引先は、キャタピラン等と同様にキャタピラン+等についても本件特許権を
侵害するおそれがあるとの強い印象を受けたこと(補正して引用する原判決第4の
4(2)イ及びウ)、その他、補正して引用する原判決第4の4(1)において認定した
各事実に照らすと、控訴人らが主張する上記①の事情や本件通知書の記載内容を考
慮してもなお、本件通知書においてされたキャタピラン等に係る本件特許権の行使
等についての言及は、あくまで名目的なものであったといわざるを得ず、本件告知
行為の真の目的は、補正して引用する原判決第4の4(2)イのとおり、キャタピラ
ン等と同様にキャタピラン+等も本件特許権を侵害する趣旨を告知し、被控訴人の
取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結ばない
靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において控訴人会社が優位に立
つことであったと認めるのが相当である。
この点に関し、控訴人らは、キャタピラン+等の取扱いを停止した4社のうち2
社(株式会社シューマート及び株式会社チヨダ)は当初本件通知書に対して反論を
したのであるから、両社は本件告知行為によりキャタピラン+等が本件特許権を侵
害するおそれがあるとの強い印象を受けたものではないと主張する。確かに、本件
通知書の送付を受けた株式会社シューマートは、「キャタピラン+等が本件発明の
技術的範囲に属するというのであれば、その説明をしていただきたい」旨の回答
(乙A2)をし、本件通知書の送付を受けた株式会社チヨダも、「株式会社チヨダ
は、入手済みの弁理士の見解書を踏まえ、キャタピラン+等については本件発明の
技術的範囲に属しないと判断している」旨の回答(乙A6)をしたものと認められ
るが、結局、両社は、本件告知行為の約4か月後に、それぞれ本件通知書において
求められたとおりにキャタピラン+等の取扱いを停止したものと認められるのであ
り(弁論の全趣旨)、加えて、本件通知書の記載内容も併せ考慮すると、両社が本
件通知書の送付を受けた際に上記のような回答をしたことは、両社において本件告
知行為によりキャタピラン+等が本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象
を受けたとの認定を左右するものではない。
また、控訴人らは、キャタピラン+等の取扱いを停止した4社のうちその余の2
社(朝日ゴルフ株式会社及び株式会社Olympicグループ)は控訴人らと被控
訴人との間に紛争が生じていることを理由に、紛争が解決するまでキャタピラン+
等の取扱いを一時的に停止したにすぎず、キャタピラン+等が本件特許権を侵害す
ると認識してその取扱いを中止したものではないと主張するが、本件通知書の記載
内容及び両社が本件通知書の送付を受けた後速やかにキャタピラン+等の取扱いを
停止したものと認められること(弁論の全趣旨)に照らすと、株式会社Olymp
icグループの回答書(乙A12)に「キャタピラン等及びキャタピラン+等に関
する控訴人Xと被控訴人との間の紛争が解決するまで、これらの商品の販売をしな
い方針である」旨の記載があることを考慮しても、両社は、本件告知行為によりキ
ャタピラン+等が本件特許権を侵害するおそれがあるとの強い印象を受けたものと
認めるのが相当である。
以上のとおりであるから、控訴人らの主張を採用することはできない。
(6) 控訴人らは、本件告知行為に係る過失の有無に関し、被控訴人の第1主張
書面(本件仮処分の手続において提出されたもの)に記載された本件発明の構成要
件B①の「非伸縮性素材からなり」に係るクレーム解釈は特許請求の範囲及び本件
明細書等の記載から大きく外れた荒唐無稽なものであり、同主張書面を見てもキャ
タピラン+等が本件特許権を侵害していないと判断することはできなかったから、
本件告知行為について控訴人らに過失はない旨の主張をする。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の2及び前記(1)ないし(3)において
説示したところに照らすと、被控訴人が上記第1主張書面においてした主張(本件
発明の「非伸縮性素材からな(る)中心ひも」は「伸縮性素材からなるひも本体と
比較して伸縮性が乏しいもの」をいうところ、キャタピラン+等のひも本体(外層)
と中心ひも(芯材)の伸縮性を比較した試験結果によると、キャタピラン+等は本
件特許権を侵害しない旨の主張(補正して引用する原判決第4の4(2)イ))は、
十分な説得性を有する相当なものであるといえ、加えて、補正して引用する原判決
第4の4(2)イにおいて指摘した各事情も併せ考慮すると、控訴人らは、遅くとも
同主張書面を受領した時点で、キャタピラン+等の製造・販売が本件特許権を侵害
しない可能性が相当程度にあることを容易に認識し得たと認められるから、そのよ
うな認識可能性があったにもかかわらず本件告知行為に及んだ控訴人らには、過失
があると認めるのが相当である。
したがって、控訴人らの上記主張を採用することはできない。
3 結論
よって、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれ
も理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
浅 井 憲
裁判官中島朋宏は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官
本 多 知 成
(別紙)
当 事 者 目 録
控 訴 人 X
(以下「控訴人X」という。)
控 訴 人 株式会社COOLKNO T
JAPAN
(以下「控訴人会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 山 内 貴 博
浜 崎 翔 多
石 戸 孝 則
同補佐人弁理士 石 橋 良 規
奥 和 幸
被 控 訴 人 株 式 会 社 ツ イ ン ズ
同訴訟代理人弁護士 橋 本 芳 則
森 本 純
小 野 隆 大
同訴訟代理人弁理士 荒 川 伸 夫
高 橋 智 洋
以 上
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