令和3(ワ)14272登録ドメイン名使用権確認請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和5年4月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社メディライン 被告スイスラスティック・アクチェンゲゼルシャフト・ザンクト・ガレン
|
法令 |
不正競争
商標法53条の21回 商標法37条1回
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キーワード |
商標権20回 許諾5回 実施5回 ライセンス5回 審決2回 侵害2回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、株式会社日本レジストリサービス(以下「JPRS」という。)にド
メイン名「venosanshop.jp」(以下「本件ドメイン名」という。)を登録してい20
る原告が、被告の申し立てたJPドメイン紛争処理手続において本件ドメイン
名の登録を取り消せとの裁定が下されたことから、同裁定に基づいて本件ドメ
イン名の取り消される事態を回避するため、本件ドメイン名を使用する権利を
有することの確認を求める事案である。 |
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判決文
令和5年4月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第14272号 登録ドメイン名使用権確認請求事件
口頭弁論終結日 令和5年2月16日
判 決
5 原 告 株式会社メディライン
同訴訟代理人弁護士 小 泉 妙 子
被 告 スイスラスティック・アクチェンゲゼルシャフト
・ザンクト・ガレン
同訴訟代理人弁護士 十 河 陽 介
10 主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
15 原告が株式会社日本レジストリサービスに登録するドメイン名「venosanshop.
jp」を使用する権利を有することを確認する。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
本件は、株式会社日本レジストリサービス(以下「JPRS」という。)にド
20 メイン名「venosanshop.jp」(以下「本件ドメイン名」という。)を登録してい
る原告が、被告の申し立てたJPドメイン紛争処理手続において本件ドメイン
名の登録を取り消せとの裁定が下されたことから、同裁定に基づいて本件ドメ
イン名の取り消される事態を回避するため、本件ドメイン名を使用する権利を
有することの確認を求める事案である。
25 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は
特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
当事者
ア 原告は、医薬品、医薬部外品、化粧品の販売並びに輸出入及び輸出入代
行業務等を目的とする株式会社である。原告は、平成20年3月25日、
「有限会社スペクトラム」が「株式会社スペクトラム」に商号変更したこ
5 とにより設立され、同年8月29日、現商号に変更した(甲1)。
原告代表者は、原告、株式会社ディーピーシー(以下「ディーピーシー」
という。)及び株式会社ベノサンジャパン(以下「ベノサンジャパン」とい
う。)の一人株主であり、ディーピーシー及びベノサンジャパンの代表取締
役も務めている。
10 イ 被告は、「VENOSAN」とのブランド名を用いて医療用弾性ストッキ
ング等の製造等を行うスイス法人である。
当初、スイス法人であるSalzmann AG St.Gallen
(以下「ザルツマン」という。)が「VENOSAN」ブランドの医療用弾
性ストッキング等の製造等の事業を行っていたが、平成27年頃、被告が
15 当該事業を引き継いだ。
「汎用JPドメイン名登録等に関する規則」(以下「本件規則」という。)
の定め
本件ドメイン名は、汎用JPドメイン名であるところ、汎用JPドメイン
名の登録等については、JPRSが定める本件規則が適用される。なお、汎
20 用JPドメイン名とは、「汎用JPドメイン名登録等に関する技術細則」に定
める文字種別及び文字列その他の技術的要件に従って本件規則に基づいて登
録されるJPドメイン名をいう(乙17)。
本件規則において、汎用JPドメイン名の登録をした者(以下「登録者」
ということがある。)は、その登録に係る汎用JPドメイン名について第三者
25 との間に紛争がある場合には、一般社団法人日本ネットワークインフォメー
ションセンター(以下「JPNIC」という。)が定める「JPドメイン名紛
争処理方針」(以下「紛争処理方針」という。)に従った処理を行うことに同
意し、JPRSはJPNICが認定する紛争処理機関(以下「認定紛争処理
機関」という。)の裁定に従った処理を行う旨が定められている(25条の2、
37条)。
5 紛争処理方針の定め(甲7)
ア 4条a項
JPドメイン名紛争処理手続においてドメイン名の移転又は取消しを求
める申立人は、以下の3項目の全てを立証しなければならない。
「(ⅰ) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商
10 標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
(ⅱ) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有し
ていないこと
(ⅲ) 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されてい
ること」
15 イ 4条b項
特に以下の事情(ただし、これらに限定されない。)があれば、4条a項
(ⅲ)号に関し、「当該ドメイン名の登録または使用は、不正の目的である」
と認めなければならない。
「(ⅰ)登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名
20 に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るた
めに、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的
として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき
(ⅱ) 申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用でき
ないように妨害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該
25 登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき
(ⅲ) 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当
該ドメイン名を登録しているとき
(ⅳ)登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくは
その他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品及び
サービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などに
5 ついて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユ
ーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーション
に誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」
ウ 4条c項
特に以下の事情(ただし、これらに限定されない。)があれば、4条a項
10 (ⅱ)号の反対事実、すなわち「登録者は当該ドメイン名に関係する権利ま
たは正当な利益を有している」と認めなければならない。
「(ⅰ)登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争
処理機関から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目
的をもって行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使
15 用していたとき、または明らかにその使用の準備をしていたとき
(ⅱ) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、
当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき
(ⅲ) 登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き
起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標そ
20 の他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を
非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき」
エ 4条k項
「いずれの当事者も、このJPドメイン名紛争処理手続の開始前、係属中
または終結後のいずれの段階においても、当該ドメイン名の登録に関して
25 裁判所に出訴することができる」。紛争処理機関の「パネルが、登録者の
ドメイン名登録の取消…の裁定を下した場合には、JPRSはパネルの裁
定の実施を、紛争処理機関からの裁定の通知から10日間…の間、保留す
る。もしこの10日間の間に、JPRSに対し、登録者から申立人を被告
として…管轄裁判所に出訴したことを証する書面…の提出がなければ、J
PRSはその裁定を実施する。…もしこの10日間の間に、登録者から出
5 訴したことを証する書面の提出があったときには、JPRSはその裁定結
果の実施を見送る。また、(ⅰ)公正証書による当事者間での和解契約書、
(ⅱ)登録者が提訴した当該訴訟についての訴えの取下書及び申立人の同意
書、または(ⅲ)当該訴訟を却下もしくは棄却する、あるいは登録者は当該
ドメイン名を継続して使用する権利がないとの裁判所による確定判決また
10 はそれと同一の効力を有する書面の写しを、申立人または登録者からJP
RSが受領するまで、JPRSはパネルの裁定の実施に関わるいかなる手
続も行わない。」
ザルツマン及び被告とディーピーシーとの間の販売権付与契約
ア ザルツマンとディーピーシーは、平成21年6月、ザルツマンが、ディ
15 ーピーシーに対し、日本における「VENOSAN」ブランドの医療用ス
トッキング等(ただし、一部の製品を除く。甲18・付録Ⅰ)の独占的販
売権を付与する旨の契約をした(以下「本件販売契約1」という。。
)
本件販売契約1には、以下の条項が設けられていた。
(ア) 販売権が付与される「ディーピーシー」は、ディーピーシー及びその
20 関連会社を意味する(1.3条)。
(イ) 「関連会社」とは、その過半数の所有権が、本件販売契約1のいずれ
かの当事者の過半数の所有権と直接的又は間接的に共通している組織を
意味する(1.4条のⅲ)。
(ウ) ディーピーシーは、自社名と自費で製品の配布を促進することに同意
25 する。ディーピーシーは、ザルツマンの名前で又は代理として、いかな
る点においても契約や約束を締結してはならない(3条)。
(エ) マーケティング戦略や販売及び広告は、ディーピーシーの独自の裁量
で、地域の市場状況を考慮に入れて行われる。その費用は、本件販売契
約1に他の特定の事項が含まれていない限り、ディーピーシーが負担す
る(6.1条)。
5 (オ) 当事者は、インターネットを介して製品を宣伝及び販売してもよい
(7.1条)。
(カ) 本件販売契約1の6条の規定は、当事者のインターネットプロモーシ
ョンに適用されるものとする(7.3条)。
イ 被告とディーピーシーは、平成29年6月12日、被告が、ディーピー
10 シーに対し、日本における「VENOSAN」ブランドの医療用ストッキ
ング等の独占的販売権を付与する旨の契約をした(以下「本件販売契約2」
という。 。本件販売契約2においても、前記ア(ア)ないし(カ)と同旨の条項
)
が定められていた。
ウ 被告は、令和元年12月6日及び同月9日、ディーピーシーに対し、本
15 件販売契約2を終了させる旨を通知した。これにより、本件販売契約2は、
令和2年6月30日をもって終了した。
原告による本件ドメイン名の登録
原告は、平成23年9月23日、本件ドメイン名をJPRSに登録した。
その後、本件ドメイン名を用いたウェブサイト(以下「本件サイト」とい
20 う。)が開設され、本件サイトにおいて「VENOSAN」ブランドの被告の
商品などが販売されていた。
ディーピーシーの商標権
ア ディーピーシーは、別紙原告側商標権目録1記載の商標について、平成
24年5月2日に商標登録出願をし、同年12月7日に設定の登録を受け
25 た(以下「本件原告側商標権1」という。甲20)。
イ ディーピーシーは、別紙原告側商標権目録2記載の商標について、平成
31年1月7日に商標登録出願をし、令和2年1月7日に設定の登録を受
けた(以下「本件原告側商標権2」という。甲29)。
被告は、令和3年3月11日、本件原告側商標権2に係る商標登録につ
いて、商標法53条の2所定の商標登録取消審判を請求したところ、特許
5 庁は、これを取り消す旨の審決をし、その後、同審決は確定した(甲29、
弁論の全趣旨)。
被告の商標権
被告は、別紙被告商標権目録1ないし3記載の各商標権(以下、番号に従
って「本件被告商標権1」などといい、各商標権に係る登録商標を「本件被
10 告商標1」などという。)を有している。
日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルの裁定
被告は、令和3年3月8日、認定紛争処理機関である日本知的財産仲裁セ
ンターに対し、原告を相手方として、本件ドメイン名の登録を取り消せとの
裁定を求める申立てをした(以下「本件申立て」という。。
)
15 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、本件申立てについて、同年
5月21日、紛争処理方針4条a項(ⅰ)ないし(ⅲ)号の各要件を満たすとし
て、本件ドメイン名の登録を取り消せとの裁定をした。
本件訴えの提起
原告は、令和3年6月3日、被告に対し、本件訴えを提起した。
20 これにより、前記(8)の裁定結果の実施は見送られている(弁論の全趣旨)。
紛争処理方針4条a項(ⅰ)号の要件の充足
本件ドメイン名は、本件被告商標1ないし3と同一であるか、又は混同を
引き起こすほど類似している。
3 争点
25 紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たすか(争点1)
紛争処理方針4条a項(ⅲ)号の要件を満たすか(争点2)
4 争点に関する当事者の主張
争点1(紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たすか)について
(被告の主張)
ア 紛争処理方針の解説によれば、①登録者の氏名又は法人名とドメイン名
5 との不一致、②ドメイン名と一致する登録者の日本における登録商標の不
存在及び③ドメイン名に関するライセンスの不存在(以下、番号に従って
「要件①」などということがある。)が立証された場合、登録者が紛争処理
方針4条c項(ⅰ)ないし(ⅲ)号の各事情の主張立証責任を負うとされてい
る。
10 イ(ア) 本件において、①本件ドメイン名は、原告の現在の商号の要部である
「メディライン」とも、設立時の商号の要部である「スペクトラム」と
も一致していないし、②原告は日本において本件ドメイン名と一致する
登録商標を有していない。また、③本件申立ての前に、本件販売契約2
は終了しているから、原告が本件ドメイン名に関して被告からライセン
15 スを受けていることはない。
したがって、原告が紛争処理方針4条c項(ⅰ)ないし(ⅲ)号の各事情
の存在を立証しない限り、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号は満たされるこ
とになる。
(イ)この点、原告は、紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情があると主張
20 する。
しかし、原告は、本件販売契約2の終了後、日本知的財産仲裁センタ
ーから本件申立てに係る通知を受ける前に、本件サイトにおいて、「VE
NOSAN」及び「ママライン」との標章を付して被告の医療用弾性ス
トッキングを販売していただけでなく、本件ドメイン名とは関係のない
25 「FOOTNURSE」及び「コットンプレミアム」とのブランド名の
商品などを多数販売していた。
被告が「ママライン」との標章を付して販売していた商品は、「VEN
OSAN」ブランドの商品の一つで「LEGLINE」と称されるもの
である。本件販売契約2では、「VENOSAN」ブランドの被告の商品
をそれ以外の名称で販売することを禁止していたから、本件販売契約2
5 の存続期間中であっても、本件サイトにおいて当該商品を「ママライン」
との名称で販売することは、本件販売契約2に基づく正当な行為に当た
らない。
したがって、原告は、自らの商品又はサービスの提供についての正当
な目的をもって、本件ドメイン名を使用していないから、紛争処理方針
10 4条c項(ⅰ)号所定の事情があることが立証されているとはいえない。
(ウ) このほか、紛争処理方針4条c項(ⅱ)及び(ⅲ)号所定の事情があるこ
とについても立証されているとはいえない。
(エ) 以上のとおり、紛争処理方針4条c項(ⅰ)ないし(ⅲ)号の各事情があ
ることは立証されていないから、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を
15 満たす。
ウ 仮に紛争処理方針の解説所定の各要件のいずれかが認められないとして
も、以下の事情に照らせば、原告が本件ドメイン名に関係する権利又は正
当な利益を有していないことは明らかである。
前記イ(ア)のとおり、本件ドメイン名は、原告の現在の商号の要部である
20 「メディライン」とも、設立時の商号の要部である「スペクトラム」とも
一致していない。また、被告は、原告に対し、本件ドメイン名の登録及び
使用について許諾したことはない。
そもそも、被告が本件申立てをした時点で、本件販売契約1及び2はい
ずれも終了していたから、ディーピーシーとザルツマン及び被告とが本件
25 販売契約1及び2を締結していたことは、原告が本件ドメイン名に関する
権利又は正当な利益を有していることの根拠とならない。
エ したがって、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たす。
(原告の主張)
ア 紛争処理方針の解説所定の要件①ないし③が認められないこと
(ア) 被告が主張するとおり、本件ドメイン名は原告の商号又はその要部と
5 一致していない。
しかし、原告、ディーピーシー及びベノサンジャパンは、いずれも原
告代表者が代表取締役を務め、かつ、同人が一人株主であることから、
本件ドメイン名をこの3社のいずれに取得させるかについて同人の経営
判断によって決めることができた。原告代表者は、ザルツマンから購入
10 する「VENOSAN」ブランドの医療用弾性ストッキングを含む医療
用弾性ストッキング、着圧ストッキング及び着圧ソックス等を取り扱う
販売会社としてベノサンジャパンを位置付け、ベノサンジャパンが取り
扱う商品を販売するウェブサイトの一つである本件サイトの運営会社と
して原告を位置付けた上、ベノサンジャパンが取り扱う商品を販売する
15 ウェブサイトに使用する目的で本件ドメイン名を原告名義で取得した。
ベノサンジャパンの商号の要部は「ベノサン」、本件ドメイン名の要部は
「venosan」であるから、実質的に見れば、本件ドメイン名の実際の使用
者であるベノサンジャパンの商号の要部のアルファベット表記と、本件
ドメイン名の要部とは、いずれも「venosan」で一致していることになる。
20 (イ) また、ディーピーシーは、日本において本件原告側商標権1及び2を
有していたから、実質的に見れば、本件ドメイン名の要部と一致する登
録商標を有していたといえる。
(ウ) さらに、被告は、本件ドメイン名に関し、原告にライセンスを付与す
る権原を有しないし、そのような立場にもないのであるから、そもそも
25 原告が被告から本件ドメイン名についてライセンスを付与されること自
体あり得えない。したがって、本件において、要件③は検討を要しない。
(エ) したがって、紛争処理方針の解説所定の要件は認められない。
イ 紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情があること
(ア) 仮に紛争処理方針の解説所定の各要件のいずれもが認められるとして
も、原告は、以下のとおり、本件申立てがされる前に、本件販売契約1
5 及び2が定める債務の履行である「VENOSAN」ブランドの医療用
弾性ストッキングの販売を正当な目的をもって行うために、本件ドメイ
ン名を使用しており、かつ、その正当性は本件販売契約2の終了後も存
続しているから、紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情がある。
(イ) 被告は、原告が、本件サイトにおいて、「VENOSAN」及び「ママ
10 ライン」との標章を付して被告の医療用弾性ストッキングを販売してい
ただけでなく、本件ドメイン名とは関係のない「FOOTNURSE」
及び「コットンプレミアム」とのブランド名の商品などを販売していた
ことを指摘して、紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情がないと主張
する。
15 本件サイトにおいて、「VENOSAN」ブランドの商品以外の商品の
販売が制約されるということは、本件販売契約1及び2にも、紛争処理
方針にも記載されていない。また、自らの費用と裁量で取得した本件ド
メイン名を用いたウェブサイトで販売できる商品を、特定の商品の販売
元にすぎない被告が制約できるはずがない。そもそも、ドメイン名には、
20 通常、それを用いるウェブサイトの運営会社の名称やその略称などが用
いられることが多いところ、当該ウェブサイトにおいて社名等と同じ名
称の商品及びサービスしか取り扱っていないという例外的な場合を除き、
当該ウェブサイトで販売及び提供される全ての商品及びサービスの名称
が、当該ウェブサイトのドメイン名と関連しているということはほとん
25 どない。原告は、本件販売契約1及び2に基づいて、実際の販売行為を
行う会社であるベノサンジャパンの略称である「ベノサン」のアルファ
ベット表記に「店」を意味する平易な英単語を組み合わせた本件ドメイ
ン名を採用し、本件サイトにおいて、「VENOSAN」ブランドの商品
及びベノサンジャパンが取り扱う他の商品を販売しているのであって、
このようなごく当たり前の経済活動が、「商品またはサービスの提供を正
5 当な目的をもって行うため」(紛争処理方針4条c項(ⅰ)号)に該当しな
いと判断されることは著しく不当である。
(ウ) したがって、紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情があることが立
証されているから、原告は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利
益を有していると認められなければならない。
10 ウ 原告は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していること
仮に紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情が認められないとしても、
以下の事情に照らせば、原告が本件ドメイン名に関係する権利又は正当な
利益を有していることは明らかである。
(ア) 紛争処理方針の解説によれば、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号所定の
15 「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を有するか否かの判断
に当たって問題とされるべきは、そのドメイン名の選択が妥当といえる
だけの独立の利益を有しているか否かであるとされている。
本件販売契約1の1.3条及び1.4条によれば、原告は、ディーピ
ーシーの関連会社に当たる。そして、本件販売契約1の6.1条、7.
20 1条及び7.3条は、原告が、独自の裁量に基づいて、マーケティング
戦略及びインターネット上での製品販売に関するインターネットプロモ
ーションを行うと定め、かつ、同3条は、その販売促進を自社名と自費
で行うと定めていた。これに対し、本件販売契約1には、原告が「VE
NOSAN」の語を含むドメイン名を取得することを制限したり、被告
25 が原告に当該ドメイン名の取得を許諾したりする権原を有することを認
める定めはない。そうすると、原告が、独自の裁量に基づくマーケティ
ング戦略の一環として、本件ドメイン名を登録及び使用することは、本
件販売契約1により許容されていた行為である。したがって、原告は、
「VENOSANの店」との意味を表す本件ドメイン名を選択し、これ
を登録及び使用することについて、独立した利益を有している。
5 また、被告とディーピーシーが締結した本件販売契約2においても上
記各条項は維持されていたから、原告が本件ドメイン名を使用すること
は本件販売契約2により許容されていた行為であって、原告は本件ドメ
イン名を登録及び使用することについて、引き続き独立した利益を有し
ている。
10 (イ) 本件販売契約2は、契約終了後の原告による本件ドメイン名の使用を
禁止していないから、本件ドメイン名の選択が妥当といえるだけの原告
の独立した利益が、本件販売契約2の終了に伴って当然に失われること
にはならない。
また、原告が、本件販売契約2の終了後に、本件サイトにおいて「V
15 ENOSAN」ブランドの被告の商品を販売する行為は、本件販売契約
2の終了について何の帰責性もなく、被告から何の補償も得られていな
い原告が、在庫品の購入費用及び諸経費、在庫品販売によって得られた
はずの利益の喪失等に相当する経済的損失が生ずることを回避するため
に行うものであるから、原告は当該行為について正当な利益を有してい
20 る。
エ したがって、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たすとはいえない。
争点2(紛争処理方針4条a項(ⅲ)号の要件を満たすか)
(被告の主張)
原告は、本件サイトにおいて、各種の商品を販売しているから、「商業上の
25 利得を得る目的」で本件ドメイン名を使用していること(紛争処理方針4条
b項(ⅳ)号)は明らかである。
また、原告は、本件サイトにおいて、被告の医療用弾性ストッキングのみ
ならず、「FOOTNURSE」ブランドなどの被告以外の商品も取り扱って
いる。本件サイトでは、被告の医療用弾性ストッキングが「ベノサン」又は
「VENOSAN」との表現を用いて紹介されている上、「ベノサンオンライ
5 ンショップ」 「世界のトップブランドベノサンショップ」 「ベノサンカスタ
、 、
マーサポート」などの記載がされていたことからすると、これらの記載を見
た需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品なども、被告の商品であ
ると誤信したり、本件サイトが被告、被告の正規販売代理店又は被告と提携
する者などによって運営されていると誤信する。したがって、原告は、「その
10 ウェブサイト」「に登場する商品及びサービスの出所」「について誤認混同を
生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサ
イト」「に誘引するために」、本件ドメイン名を使用している(紛争処理方針
4条b項(ⅳ)号)ことは明らかである。
したがって、紛争処理方針4条b項(ⅳ)号所定の事情があるから、紛争処
15 理方針4条a項(ⅲ)号の要件を満たす。
なお、現時点において本件サイト上の記載が修正されているとしても、本
件申立てがされた時点までに紛争処理方針4条a項(ⅲ)号所定の「不正の目
的」で本件ドメイン名が登録又は使用されていれば足りるから、上記の結論
を左右しない。
20 (原告の主張)
原告が「商業上の利得を得る目的」で本件ドメイン名を使用していること
は認める。もっとも、前記(1)(原告の主張)ア(ア)のとおり、本件サイトにお
いて各種の商品を販売しているのは、原告ではなく、ベノサンジャパンであ
る。
25 このように、本件サイトは、ベノサンジャパンが取り扱う商品を販売する
ためのサイトであることから、サイト上では本来「ベノサンジャパン」と記
載すべきところ、令和3年2月当時、「ベノサン」と「ベノサンジャパン」と
の使い分けが適切にできていなかったため、誤って「ベノサン」と記載して
いた。しかし、現在は適切な記載に修正されているから、この事実は紛争処
理方針4条b項(ⅳ)号の事情があることを裏付ける根拠にならない。そもそ
5 も、「VENOSAN」という名称は被告のブランドとして日本国内で認知さ
れていないから、原告が日本国内で認知されていない被告の商品との誤認混
同を生ぜしめることを意図すること自体あり得ないし、日本国内で認知され
ていない「VENOSAN」の語を含む本件ドメイン名を使用しても、イン
ターネット上のユーザーをして、本件サイト又はその他のオンラインロケー
10 ションに誘引することもできない。
したがって、紛争処理方針4条b項(ⅳ)号所定の事情は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たすか)について
判断枠組みについて
15 証拠(乙6の1)によれば、紛争処理方針の解説には、申立人により要件
①ないし③のいずれもが立証されたときは、登録者が、紛争処理方針4条c
項(ⅰ)ないし(ⅲ)号に例示されている事情があるなどとして、「ドメイン名に
関係する権利または正当な利益」を有することを主張立証すべきと記載され
ていることが認められる。これは、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号が、申立人
20 に、登録者における「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」の不存
在の立証を要求していることを踏まえ、登録者に「ドメイン名に関係する権
利または正当な利益」があることを基礎付ける典型的な事情として、①登録
者の氏名又は法人名とドメイン名とが一致すること、②ドメイン名と一致す
る登録者の日本における登録商標とが一致すること及び③ドメイン名を用い
25 ることについて登録者が申立人から許諾を得ていることを挙げ、これらの各
事情がいずれもないことを申立人が立証すれば、登録者が紛争処理方針4条
c項(ⅰ)号ないし(ⅲ)号に例示されている事情があることなどを指摘して反
証しない限り、登録者が「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を
有しないことが推定されるとの解釈を示すものであるところ、かかる解釈は
紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件該当性の判断枠組みとして相当なものと
5 解される。
紛争処理方針の解説所定の要件①ないし③の存否について
ア 原告の現商号のうち、「株式会社」の部分は、会社の種類を表す普通名称
であるから、原告の現商号の要部は「メディライン」であると認められる。
他方、本件ドメイン名のうち、「.jp」の部分は、日本を示す国コードトッ
10 プレベルドメインであり、「shop」の部分は、「店」を意味する一般的な英
単語であるから、本件ドメイン名の要部は「venosan」であると認められる。
そうすると、原告の現商号の要部と本件ドメイン名の要部とは一致してい
ないというべきである。このほか、原告の現商号や本件ドメイン名をどの
ように対比しても両者は一致しないし、原告の過去の商号である「有限会
15 社スペクトラム」及び「株式会社スペクトラム」についても同様である。
したがって、紛争処理方針の解説所定の要件①が立証されているといえる。
また、本件全証拠によれば、原告は、本件ドメイン名又はその要部と一
致する登録商標に係る商標権を有していないと認められるから、紛争処理
方針の解説所定の要件②が立証されているといえる。
20 さらに、原告は、被告が、本件ドメイン名に関し、原告にライセンスを
付与する権原を有しないと主張していること、本件販売契約1及び2は既
に終了していると認められること(前提事実(4)ウ、弁論の全趣旨)からす
ると、原告は、被告から、本件ドメイン名を用いることについて許諾を得
ていないと認められるから、紛争処理方針の解説所定の要件③が立証され
25 ているといえる。
イ 以上によれば、紛争処理方針の解説所定の要件①ないし③のいずれもが
立証されているといえるから、原告による反証のない限り、原告が、本件
ドメイン名について、「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を有
しないことが推定されるといえる。
紛争処理方針4条c項所定の各事情の有無
5 ア 証拠(乙1ないし5)によれば、本件販売契約2の終了後である令和3
年2月8日当時、本件サイトにおいて、ヘッダー部分に本件サイトを運営
する会社又は店舗の名称と解し得る態様で「ベノサン」との標章を付した
上で、「VENOSAN」ブランドの被告の医療用弾性ストッキングが販売
されていたことが認められる。
10 本件被告商標1及び3と「ベノサン」との標章を対比すると、両者は外
観上相違するものの、称呼上同一であるといえる。また、「VENOSAN」
も「ベノサン」も造語と解され、通常、何かしらの意味を有する語である
と理解できないから、いずれも特定の観念を生じない。これらの事情を総
合考慮すると、「ベノサン」との標章は本件被告商標1及び3と類似する。
15 そうすると、本件被告商標1及び3と類似する「ベノサン」との標章を
使用して、医療用弾性ストッキングである「VENOSAN」ブランドの
被告の商品を販売することは、本件被告商標権1及び3を侵害するものと
みなされる行為に当たる(商標法37条)。
したがって、原告は、正当な目的をもって本件ドメイン名を使用してい
20 たとはいえず、紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情があるとは認めら
れない。
イ このほか、本件全証拠によっても、紛争処理方針4条c項(ⅱ)号及び
(ⅲ)号所定の事情があると認めることはできない。
原告の主張について
25 ア 原告は、本件ドメイン名の要部は、実質的に見れば、本件ドメイン名の
実際の使用者であるベノサンジャパンの商号の要部のアルファベット表記
と一致しており、また、ディーピーシーが有する本件原告側商標権1及び
2と一致しているから、紛争処理方針の解説所定の要件①及び②は認めら
れないと主張する。
しかし、ドメイン名の登録者と資本関係や人的関係のある他者が、実質
5 的に当該ドメイン名を使用している場合に、当該登録者に「ドメイン名に
関係する権利または正当な利益」があるか否かを判断するためには、資本
関係や人的関係の態様及び目的のほか、当該登録者が当該他者にドメイン
名を使用させている態様及び目的などの様々な事情を総合考慮する必要が
ある。そうすると、登録者と資本関係や人的関係のある他者が実質的にド
10 メイン名を使用しているとの事情は、それのみによって当該登録者に「ド
メイン名に関係する権利または正当な利益」があると判断できるものでは
なく、「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を基礎付ける典型的
な事情であるとはいえない。
このことは、ドメイン名の登録者と資本関係や人的関係のある他者が有
15 する登録商標と当該ドメイン名とが一致しているという事情についても、
同様に当てはまる。
以上のとおり、原告が指摘する事情は、紛争処理方針4条c項各号所定
の事情や「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を基礎付ける事
情となり得る余地があるとしても、登録者に「ドメイン名に関係する権利
20 または正当な利益」があることの典型的な事情であるとはいえないから、
紛争処理方針の解説所定の要件①及び②が認められないとはいえない。
イ(ア) 原告は、仮に紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情の存在が認めら
れないとしても、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有し
ていると主張する。
25 そこで検討すると、登録者が紛争処理方針4条a項(ⅱ)号所定の「ド
メイン名に関係する権利または正当な利益」を有するというためには、
そのドメイン名の選択が妥当といえるだけの独立の利益を有しているこ
とが必要と解される。
本件ドメイン名は、前記(2)アのとおり、原告の商号とも原告が保有す
る登録商標とも一致しない。また、本件証拠上、原告及びその関連会社
5 が事業の遂行に当たって「ベノサン」との語を初めて使用したのは、デ
ィーピーシーとザルツマンが本件販売契約1を締結する直前の平成21
年5月1日にメディラインジャパン有限会社がベノサンジャパンに商号
を変更した時であると認められ(甲9)、それよりも前に原告及びその関
連会社が事業の遂行に当たって「ベノサン」又は「VENOSAN」と
10 の語を使用していたと認めるに足りる証拠はない。さらに、ブランド名
をそのまま含むドメイン名は、当該ブランド名を用いた商標と同様の出
所表示機能や顧客吸引力を有すると考えられるところ、本件ドメイン名
の要部である「venosan」と被告の商品のブランド名である「VENOS
AN」とは、大文字か小文字かの違いを除いて同一であるから、本件ド
15 メイン名は「VENOSAN」ブランドに係る出所表示機能や顧客吸引
力を有すると考えられる。
このように、原告は、「ベノサン」又は「VENOSAN」を含む商号
及び登録商標を有しておらず、かつ、本件販売契約1の締結より前にこ
れらの語を使用していなかった以上、そのような原告において、「VEN
20 OSAN」ブランドに係る出所表示機能や顧客吸引力を有する本件ドメ
イン名を選択することが妥当といえるだけの独立の利益が認められると
すれば、本件販売契約1により、ディーピーシー及びその関連会社に対
して日本における「VENOSAN」ブランドの被告の商品(ただし、
一部の商品を除く。)に係る独占的販売権が付与されたことを前提として、
25 本件ドメイン名を用いたウェブサイトにおいて被告の商品を販売すると
の目的のために、本件ドメイン名を登録及び使用しているという点にそ
の根拠を求めざるを得ない。本件販売契約1が締結された後、本件サイ
トにおいて、実際に「VENOSAN」ブランドの被告の商品が販売さ
れていたこと(前提事実(5))に鑑みれば、実際に、原告も上記の目的の
ために本件ドメイン名を登録及び使用していたものと解される。
5 そうすると、本件販売契約1と実質的に同内容の本件販売契約2の終
了に伴って、原告及び原告の関連会社が日本における「VENOSAN」
ブランドの被告の商品に係る独占的販売権を失ったことにより、本件ド
メイン名が有する出所表示機能及び顧客吸引力を利用して被告の商品を
販売するという目的もその必要性も失われたのであるから、原告におい
10 て本件ドメイン名を選択することが妥当といえるだけの独立の利益も失
われたというべきである。
(イ) これに対し、原告は、本件販売契約2において、契約終了後に原告が
本件ドメイン名を使用することを禁止していないから、本件ドメイン名
の選択が妥当といえるだけの原告の独立した利益が、本件販売契約2の
15 終了によって当然に失われることにはならないと主張する。
しかし、本件販売契約2において、同契約終了後も原告に本件ドメイ
ン名の使用を許諾する旨の定め等が存在したというのであれば格別、契
約終了後に原告が本件ドメイン名を使用することを禁止する趣旨の定め
が明示的に設けられていないからといって、前記(ア)の独立の利益の喪失
20 に係る判断が左右されるものではない。
(ウ) また、原告は、本件販売契約2の終了後に本件サイトにおいて「VE
NOSAN」ブランドの被告の商品を販売する行為は、本件販売契約2
の終了について何の帰責性もなく、被告から何の補償も得られていない
原告が、在庫品の購入費用及び諸経費、在庫品販売によって得られたは
25 ずの利益の喪失等に相当する経済的損失が生ずることを回避するために
行うものであるから、原告は当該行為について正当な利益を有している
と主張する。
しかし、本件販売契約2の当事者はディーピーシーと被告であり、仮
に本件販売契約2の終了により、ディーピーシーに損害が生じたのであ
れば、ディーピーシーと被告との間でその損害の補償についての協議を
5 行ったり、ディーピーシーが被告に対してその賠償を求めたりなどの手
段が講じられるべきであり、また、被告の故意又は過失により原告の権
利又は法的利益が侵害されたというのであれば、不法行為に基づく損害
賠償請求をするなどの手段が講じられるべきである。そうではなく、原
告が本件ドメイン名の登録及び使用を継続し、本件サイトにおいて「V
10 ENOSAN」ブランドの被告の商品を販売する行為を継続するのは、
上記の損害の発生回避や填補ないし賠償のための手段として正当である
とはいえず、そのような行為について原告が正当な利益を有していると
いうこともできない。
ウ したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
15 小括
以上によれば、原告は本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有
していないと認められるから、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たす。
2 争点2(紛争処理方針4条a項(ⅲ)号の要件を満たすか)について
当事者の主張に沿って、紛争処理方針4条b項(ⅳ)号所定の事情の有無につ
20 いて検討する。
商業上の利得を得る目的の有無について
原告が「商業上の利得を得る目的」で本件ドメイン名を使用していること
は当事者間に争いがない。
商品の出所について誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネッ
25 ト上のユーザーを本件サイト等に誘引するために、本件ドメイン名を使用し
ているか否かについて
ア 証拠(乙1ないし5)によれば、本件販売契約2の終了後である令和3
年2月8日当時、本件サイトにおいて、「VENOSAN」ブランドの被告
の商品が販売されていたことが認められる。
そして、本件サイトには、当該商品の商品名として「VENOSAN5
5 000」 「VENOSAN6000」 「VENOSAN7000」などと
、 、
記載されるとともに(乙1・1頁、乙2・6頁、乙3・1頁)、当該商品に
関連して、「スイス医療ブランド」(乙3・4頁) 「スイスのデザイン力」
、
(乙3・4頁) 「区分スイス製・一般医療機器(医療機器届出番号13B
、
3X10094000001) (乙3・6頁) 「最新の弾性ストッキング
」 、
10 がスイスから上陸しました。 (乙4・2頁)と記載されていたことが認め
」
られる。
イ(ア) 加えて、令和3年2月8日当時、本件サイトにおいて、次の記載がさ
れていたことが認められる(乙5)。
「2020年、ベノサンから新しくFOOTNURSEが誕生しま
15 す!」「FOOTNURSEは、医療用着圧ソックスとして大ブレイクし
た『ベノサン』から新しく誕生したブランドです。もともと『医療用』
に開発されていたベノサンの着圧ソックスが、このたび『健康な女性用』
に新たなブランドを立ち上げました。」
(イ) また、令和3年9月22日当時、ベノサンジャパンが開設していたウ
20 ェブサイトには、次の記載がされていたことが認められる(乙13)。
「FOOTNURSEは、…一般医療機器としてもしっかり認定され
ています(医療機器届出番号13B3X10094000001)」
。(同
3枚目) 「その点FOOTNURSEは、創業1883年の医療用弾性
、
ストッキングを50年以上にわたって製造している着圧ソックスの本場
25 『SWISSLASTIC社』と、『ベノサン・ジャパン』が企画力・技
術力を結集させて、丁寧に編み込まれていますので…」(同4枚目)。
(ウ) そして、原告は、令和3年9月3日当時、被告と関係のない「FOO
TNURSE」ブランドの商品をインターネット上のオンラインストア
で販売していたことが認められる(乙7)。
ウ 前記アにおいて認定した本件サイトの記載を見た需要者は、「VENOS
5 AN」という標章は、本件サイトで販売されている医療用弾性ストッキン
グについてのスイス所在の製造元又は同製造元が使用するブランド名を示
すものと理解するのが通常と考えられる。また、「ベノサン」は「VENO
SAN」の日本語読みに相当することからすると、前記イ(ア)の記載を見た
需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品についても、「VENO
10 SAN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると
理解するといえる。また、前記1(3)アにおいて認定したとおり、本件サイ
トのヘッダー部分に本件サイトを運営する会社又は店舗の名称と解し得る
態様で「ベノサン」との標章が付されていたことも考慮すると、上記記載
を見た需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品も、「VENOS
15 AN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると誤
信したり、本件サイトが当該製造元、当該製造元の正規販売代理店又は当
該製造元と提携する者などによって運営されていると誤信するおそれがあ
ると認められる。
そして、前記イ(イ)のとおり、「FOOTNURSE」ブランドの商品は
20 被告と何ら関係がないにもかかわらず、ベノサンジャパンが開設していた
ウェブサイトに、「FOOTNURSE」ブランドの商品に被告が関与して
いると理解できる程度の記載がされていることからすると、本件サイトの
前記イ(ア)の記載は、原告が、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出
所について誤認混同を生ぜしめることを意図して掲載したものと認めるの
25 が相当である。
エ 以上によれば、原告は、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出所に
ついて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザ
ーを本件サイト又はベノサンジャパンが開設していたウェブサイトに誘引
するために、本件ドメイン名を使用していると認められる。
原告の主張について
5 ア 原告は、令和3年2月当時、本件サイトにおいて「ベノサン」と「ベノ
サンジャパン」との使い分けが適切にできていなかったにすぎないと主張
する。
しかし、前記イ(イ)のとおり、「FOOTNURSE」ブランドの商品は
被告と何ら関係がないにもかかわらず、ベノサンジャパンが開設していた
10 ウェブサイトに、「FOOTNURSE」ブランドの商品に被告が関与して
いると理解できる程度の記載がされていることからすると、本件サイトの
前記イ(ア)の記載が単なる使い分けに関する過誤によるものであるとは考え
難い。
イ また、原告は、「VENOSAN」という名称が被告のブランドとして日
15 本国内で認知されていないから、原告が日本国内で認知されていない被告
の商品との誤認混同を生ぜしめることを意図すること自体あり得ないなど
と主張する。
しかし、本件サイトを見た需要者が、「FOOTNURSE」ブランドの
商品の出所は被告であると具体的に認識しなくとも、「VENOSAN」ブ
20 ランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると理解するこ
とになれば、商品の出所について誤認混同が生ずることになるから、「VE
NOSAN」との名称が被告のブランドとして日本国内で認知されている
必要があるとはいえない。
ウ したがって、原告の前記各主張を採用することはできない。
25 小括
以上によれば、紛争処理方針4条b項(ⅳ)号所定の事情があると認められ
るから、その余の点について判断するまでもなく、紛争処理方針4条a項
(ⅲ)号の要件を満たす。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、
5 主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
國 分 隆 文
裁判官
間 明 宏 充
裁判官小川暁は、転補につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官
國 分 隆 文
(別紙)
原告側商標権目録1
商標
登録番号 第5541032号
出願日 平成24年5月2日
登録日 平成24年12月7日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第25類 ポリウレタン製の弾性糸を使用したキャミソール 、その他の
キャミソール、ポリウレタン製の弾性糸を使用したノースリ
ーブシャツ、その他のノースリーブシャツ 、ティーシャツ、
コルセット、その他の下着、弾性ストッキング(医療用のも
のを除く。 、ポリウレタン製の弾性糸を使用したストッキン
)
グ、その他のストッキング 、ウォームアップタイツ 、 スポー
ツタイツ、トレーニングタイツ、 その他のタイツ、靴下、ポ
リウレタン製の弾性糸を使用した手袋 、その他の手袋 、腕カ
バー、腰保護用サポーター、弾性スリーブ、腕保護用サポー
ター、手首保護用サポーター 、腕及び手首保護用サポーター 、
保温用サポーター、ゲートル
以上
(別紙)
原告側商標権目録2
商標 ベノサン(標準文字)
登録番号 第6213216号
出願日 平成31年1月7日
登録日 令和2年1月7日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第25類 ストッキング、タイツ、靴下
以上
(別紙)
被告商標権目録1
商標
国際登録番号 第562687号
登録日(国内) 平成15年2月7日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
10 Medical compression stockings for sick persons suffering
from leg pain.
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務(訳)
第10類 脚の痛みに苦しむ病人用の医療用圧迫ストッキング
以上
(別紙)
被告商標権目録2
商標
国際登録番号 第1403960号
登録日(国内) 令和2年2月28日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
10 Orthopedic articles; medical compression stockings; medical
support tights; graduated compression hosiery for medical
use; medical compression hosiery; stockings for varicose
veins; hosiery for medical use; medical support hosiery;
elastic stockings for surgical use; orthopedic knee
bandages; socks for diabetics; elastic bandages; compression
garments; support tights for medical use; orthopedic
bandages for joints; orthopedic belts; orthopedic supports;
orthopedic support bandages; orthopedic cast padding;
embolic protection devices; elastic stockings for medical
use.
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務(訳)
第10類 整形外科用品、医療用の圧迫ストッキング 、医療用サポート
タイツ、医療用の段階的な圧迫靴下 、医療用の圧迫用メリヤ
ス下着及び靴下、静脈瘤用のストッキング 、医療用の靴下、
医療用支持用靴下、外科用弾性ストッキング 、整形外科用の
膝用包帯、糖尿病患者用靴下、弾性包帯 、医療用圧迫衣服、
医療用の支持用タイツ 、整形外科用の関節用包帯 、整形外科
用ベルト、整形外科用サポーター 、整形外科用の支持包帯、
整形外科用のギプス用パッド 、塞栓保護装置、医療用の弾性
ストッキング
以上
(別紙)
被告商標権目録3
商標
国際登録番号 第1404648号
登録日(国内) 令和2年2月14日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
10 Orthopedic articles; medical compression stockings; medical
support tights; graduated compression hosiery for medical
use; medical compression hosiery; stockings for varicose
veins; hosiery for medical use; medical support hosiery;
elastic stockings for surgical use; orthopedic knee
bandages; socks for diabetics; elastic bandages; compression
garments; support tights for medical use; orthopedic
bandages for joints; orthopedic belts; orthopedic supports;
orthopedic support bandages; orthopedic cast padding;
embolic protection devices; elastic stockings for medical
use.
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務(訳)
第10類 整形外科用品、医療用の圧迫ストッキング 、医療用サポート
タイツ、医療用の段階的な圧迫靴下 、医療用の圧迫用メリヤ
ス下着及び靴下、静脈瘤用のストッキング 、医療用の靴下、
医療用支持用靴下、外科用弾性ストッキング 、整形外科用の
膝用包帯、糖尿病患者用靴下、弾性包帯 、医療用圧迫衣服、
医療用の支持用タイツ 、整形外科用の関節用包帯 、整形外科
用ベルト、整形外科用サポーター 、整形外科用の支持包帯 、
整形外科用のギプス用パッド 、塞栓保護装置、医療用の弾性
ストッキング
以上
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