令和3(ワ)33045民事訴訟 著作権
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年5月12日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社WILL 被告株式会社TOKAIコミュニケーションズ
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法令 |
著作権
著作権法2条1項9号10回 著作権法16条2回 著作権法14条2回 著作権法10条1項7号1回
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キーワード |
侵害35回 損害賠償7回 分割1回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 事案の要旨
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は10
10条1項7号)である(甲13)。20
3 争点
3)
4 争点に関する当事者の主張
2条1項9号の5イ及びロが定める類型(「記録」、「追加」、「変換」、「入力」
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
2が、それぞれ「自動公衆送信し得るように」されたものと認められる。
2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス |
事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本20
件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるB
itTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワー
ク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙著作物目録
記載1及び2の各動画(以下、番号に従って「本件動画1」及び「本件動画2」
といい、これらを総称して「本件各動画」という。)をそれぞれ複製して作成し25
た動画ファイル(以下、本件動画1に対応するものを「本件ファイル1」、本件
動画2に対応するものを「本件ファイル2」といい、これらを総称して「本件
各ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、
公衆の求めに応じて自動的に送信し得る状態とすることによって、本件各動画
に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に
対する損害賠償請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報5
(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると
主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開 |
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判決文
令和5年5月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第33045号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和5年2月14日
判 決
5 原 告 株式会社WILL
同訴訟代理人弁護士 戸 田 泉
角 地 山 宗 行
被 告 株式会社TOKAIコミュニケーションズ
同訴訟代理人弁護士 松 尾 栄 蔵
10 村 上 諭 志
松 岡 亮
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
15 事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
20 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本
件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるB
itTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワー
ク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙著作物目録
記載1及び2の各動画(以下、番号に従って「本件動画1」及び「本件動画2」
25 といい、これらを総称して「本件各動画」という。)をそれぞれ複製して作成し
た動画ファイル(以下、本件動画1に対応するものを「本件ファイル1」、本件
動画2に対応するものを「本件ファイル2」といい、これらを総称して「本件
各ファイル」という。)を、本件各氏名不詳者が管理する端末にダウンロードし、
公衆の求めに応じて自動的に送信し得る状態とすることによって、本件各動画
に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に
5 対する損害賠償請求のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報
(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると
主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開
示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、
本件各発信者情報の開示を求める事案である。
10 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は
特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
当事者
ア 原告は、映画・ビデオの映像制作、編集業務、販売等を目的とする株式
会社である(弁論の全趣旨)。
15 イ 被告は、コンピューターによる情報の処理等を目的とする株式会社であ
り、一般利用者に向けて広くインターネット接続サービスを提供している
アクセスプロバイダである。
本件各動画の著作物性
本件各動画は、思想又は感情を創作的に表現した映画の著作物(著作権法
20 10条1項7号)である(甲13)。
ビットトレントの仕組み(甲3、弁論の全趣旨)
ア ビットトレントは、P2P方式のファイル共有プロトコル及びこれを利
用するためのソフトウェアである。
ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係る
25 データをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに
参加している端末。「クライアント」とも呼ばれる。)同士の間でピースを
転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及び
ポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されて
いる。
共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」
5 には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全ての
ピースのハッシュ値(ハッシュ関数を用いて得られた数値)などが記載さ
れている。一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビッ
トトレントネットワークが形成される。
イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする
10 ユーザーは、インターネット上のウェブサーバー等において提供されてい
る当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にイ
ンストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み
込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、
定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号
15 等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等
の情報のリストを取得する。
ピアは、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他
のピアとの間で通信を行い、当該他のピアが現在稼働しているか否かや、
当該他のピアのピース保有状況を確認した上(以下、この当該他のピアと
20 の通信を「ハンドシェイクの通信」という。 、当該他のピアが当該ピース
)
を保有していれば、当該他のピアに対して当該ピースの送信を要求し、当
該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、
自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他
のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワ
25 ークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、
最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。
株式会社LEAF(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲10、
弁論の全趣旨)
本件調査会社は、別紙動画目録1及び2記載のIPアドレス、ポート番号
及び発信日時を以下の方法により特定した。
5 ア 本件調査会社担当者は、ビットトレントネットワーク上で共有されてい
るファイルの中から、本件各動画の作品名、品番、ファイル名等に基づい
て、本件各動画と同一であることが疑われるファイルのハッシュ値を探索
し、誤りの有無をチェックした上で、当該ハッシュ値を監視対象とした。
イ 前記アの監視に用いられたソフトウェア(以下「本件監視ソフトウェア」
10 という。)が、トラッカーに接続し、監視対象である当該ハッシュ値を有す
る特定のファイルを共有しているピアに関する情報のリストを要求したと
ころ、トラッカーから当該ピアのIPアドレス、ポート番号及び当該特定
のファイルの保持率の情報のリストが返信された。別紙動画目録1及び2
記載のIPアドレス及びポート番号は、当該リストに記載されていたもの
15 である。
また、トラッカーからピアの情報のリストが返信された後、実際に各ピ
アとの間でハンドシェイクの通信を行い、各ピアが応答することを確認し
た。別紙動画目録1及び2記載の各発信日時は、ハンドシェイクの通信に
より各ピアから応答確認があった時刻である。
20 本件各発信者情報の保有
被告は、本件各発信者情報を保有している。
3 争点
原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信
25 者情報…以外の発信者情報」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)に当たる
か(争点2)
原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点
3)
4 争点に関する当事者の主張
争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
5 (原告の主張)
ア 原告が本件各動画の著作権者であること
(ア) 本件動画1の「監督」を担当した者はA1ことA(以下「本件監督1」
という。)であり、本件動画2の「監督」を担当した者はB1ことB(以
下「本件監督2」といい、本件監督1と併せて「本件各監督」という。)
10 である。本件各監督は、それぞれ、本件各動画の脚本の創作や映像の編
集等の総指揮を行うとともに、脚本や映像内容に関する最終決定権限を
有しており、本件各動画の「全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権
法16条本文)であるから、本件動画1の著作者は本件監督1、本件動
画2の著作者は本件監督2である。
15 原告は、本件各動画を最初に発意して企画し、その製作費用の全てを
負担する等の責任を負う主体であったから、本件各動画の「映画製作者」
(同法2条1項10号)である。そして、本件各動画の製作に当たり、
著作者である本件各監督は、映画製作者である原告に対し、本件各動画
の製作に参加することを約束していたから、本件各動画の著作権は原告
20 に帰属する(同法29条1項)。
(イ) また、原告は、本件各動画を製作した上、「S1(エスワン)」及び
「MOODYZ(ムーディーズ)」の名称で、本件各動画を収録したDV
D及びBlu-ray Discを日本全国で販売したが、「S1(エス
ワン)」及び「MOODYZ(ムーディーズ)」は、原告の変名として広
25 く周知されていたから、原告は、著作権法14条により、本件各動画の
著作者と推定される。
イ 本件各動画と本件各ファイルに係る動画とが同一であること
ビットトレントでは、共有されているファイルを特定するために、ファ
イル毎に生成される英数字の羅列であるハッシュ値を利用している。本件
各氏名不詳者は、ビットトレントネットワークにおいて、別紙動画目録1
5 及び2の「ハッシュ」欄記載のハッシュ値により特定されるファイル、す
なわち本件各ファイルをアップロードできる状態にしていた。
本件各動画と本件各ファイルを再生した動画とを比較すると、本件各フ
ァイルに係る動画が本件各動画と同一のものであることは明らかである。
ウ 本件各氏名不詳者は本件各動画を送信可能化したこと
10 本件各発信者情報から特定される本件各氏名不詳者は、遅くとも別紙動
画目録1及び2の各項番の発信日時欄記載の時刻までに、本件各ファイル
の全部又は一部を取得して自身が管理するピアの記録媒体に保存し、かつ、
これと同時にビットトレントネットワークを介して、不特定の他のピアか
らの要求に応じて本件各ファイルを自動的に送信し得るようにした。
15 ビットトレントを利用して著作物に係る特定のファイルを共有する場合、
当該特定のファイルを細分化したピースのみでも当該著作物の一部を復元
することが可能である。実際に、本件ファイル1について、ファイル全体
の5パーセントに相当する部分をダウンロードして当該部分を再生したと
ころ、本件動画1の一部を視聴することができた。
20 したがって、本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化したことは明
らかである。
エ 違法性阻却事由の不存在
本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化したことに関し、違法性阻
却事由に該当する事実は存在しない。
25 (被告の主張)
ア 本件各動画に係る著作権が原告に帰属していることは明らかでないこと
(ア) 本件動画1の「監督」を担当した者が本件監督1であること及び本件
動画2の「監督」を担当した者が本件監督2であることについては、い
ずれも立証がされていない。
(イ) また、「S1」及び「MOODYZ」は、原告の登録商標であって、原
5 告の名称又は変名ではないから、これらの表示が本件各動画を収録した
DVDなどのパッケージに付されていたとしても、著作権法14条は適
用されない。
イ 本件各発信者情報から特定される者が本件各氏名不詳者と同一人である
ことは明らかでないこと
10 原告は、本件監視ソフトウェアによる調査結果に基づいて、本件各発信
者情報から特定される者が本件各ファイルを共有していた本件各氏名不詳
者と同一人であると主張する。しかし、当該調査結果が信頼性及び信用性
を有するものであることの立証がされているとはいえない。
したがって、別紙動画目録1及び2の各項番記載のIPアドレス、ポー
15 ト番号及び発信日時によって特定される者が本件各ファイルを共有してい
た本件各氏名不詳者であることが明らかであるとはいえない。
ウ 本件各ファイルに係る動画が本件各動画との間で類似性及び依拠性を有
するものであることは明らかではないこと
本件各ファイルに係る動画が本件各動画に依拠して作成され、かつ、本
20 件各動画と類似するものであることの立証がされているとはいえない。
エ 本件各ファイルを構成するデータが本件各動画を構成するに足りないも
のである可能性があること
ビットトレントネットワークにおいて共有されているファイルのデータ
は、多数のピースに分割され、ピース単位でピア同士の間で共有されてい
25 る。そのため、仮にビットトレントネットワーク上に本件各ファイルを構
成する全てのピースが存在していたとしても、本件各氏名不詳者が管理す
るピアにおいては、当該ファイルを構成するピースの一部しか保有されて
おらず、かつ、その一部のピースからは、本件各動画の表現の本質的特徴
を直接感得することができる映像を再生できない可能性がある。
オ 本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化したかは明らかでないこと
5 著作権法が送信可能化に当たる行為として定めているいずれの類型にお
いても、当該行為によって行われ得ることとなった送信が、「公衆」からの
求めに応じて自動的に行うものでなければならない(著作権法2条1項9
号の5柱書、同項9号の4)。
ビットトレントネットワークにおいては、特定のファイルに対応するト
10 レントファイルを共有し、ビットトレントネットワークに参加したピアに
対してのみ、当該特定のファイルを構成するピースを送信することができ
る。そのため、本件各氏名不詳者が本件各動画を送信可能化したというた
めには、トレントファイルを取得して、自身の管理するピアをビットトレ
ントネットワークに参加させた者が「公衆」に当たらなければならないが、
15 この点についての立証がされているとはいえない。
争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、
特定発信者情報…以外の発信者情報」に当たるか)について
(原告の主張)
ア ビットトレントネットワークを介して、他のピアから、ファイルをダウ
20 ンロードしたいという要求を受けたピアは、ファイルをアップロードする
直前に、自身の保有する当該ファイルに関する情報のほか、その時点で当
該ファイルをアップロードすることが可能な状態になっているか否か等を
必ず当該他のピアに通知する。この通知に相当するハンドシェイクの通信
は、各ピアが他のピアとの間で実際にファイルのダウンロードやアップロ
25 ードを行う前の準備段階の行為として必要不可欠なものであるといえる。
このようなビットトレントの仕組みに照らすと、あるピアが著作物に係
るファイルをダウンロードしただけでは、その送信可能化がされたという
ことはできず、トラッカーに対する通知や他のピアとのハンドシェイクの
通信により、自身の保有する当該ファイルに関する情報等を他のピアに通
知することで、初めて他の不特定のピアに対する当該ファイルの送信可能
5 化が実現されるに至ったものとみることができる。
本件についてみると、本件各氏名不詳者は、その管理するピアをして、
ハンドシェイクの通信により、本件各ファイルの全部又は一部を取得して
自身が管理するピアの記録媒体に保存していること及び当該ファイルを送
信(アップロード)できる状態になっていることを、本件監視ソフトウェ
10 アに通知したのであるから、当該ハンドシェイクの通信によって、本件各
動画が送信可能化され、本件各動画に係る原告の公衆送信権が侵害された
ということができる。
以上によれば、原告は、別紙動画目録1及び2の発信日時欄記載の時刻
に行われたハンドシェイクの通信によって、公衆送信権を侵害されたとい
15 えるから、本件各発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、
特定発信者情報…以外の発信者情報」に該当する。
イ また、本件各氏名不詳者の管理するピアが発したトラッカーに対する通
知の送信によって、本件各動画が送信可能化され、本件各動画に係る原告
の公衆送信権が侵害されたと解するとしても、当該通知の送信は、本件各
20 氏名不詳者の管理するピアが別紙動画目録1及び2記載の各IPアドレス
を用いて行ったものであるから、本件各発信者情報は、「当該権利の侵害に
係る発信者情報のうち、特定発信者情報…以外の発信者情報」に該当する。
(被告の主張)
ア 「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とす
25 る電気通信…の送信」(プロバイダ責任制限法2条1号)であって、開示請
求の対象となる場合のその送信は、「侵害情報」(同条5号)を流通させる
ものに限られる(同法5条1項1号)。
そして、著作権法2条1項9号の5イ又はロのいずれにも該当しない行
為は、送信可能化する行為と評価することはできない。
イ 本件において、本件各動画を送信可能化する行為と評価する余地がある
5 のは、本件各氏名不詳者の管理するピアが、トラッカーに対し、自身が本
件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを最初に通知した送信
に限られ、その後のトラッカーに対する同様の通知の送信を送信可能化行
為と評価することはできない。
なぜなら、ビットトレントの仕組みに照らせば、特定のピアに本件各フ
10 ァイルの一部又は全部が記録された後、当該特定のピアがトラッカーに対
し本件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを通知し、トラッ
カーが保有するリストに自身の情報を記録させることによって、他のピア
は当該特定のピアが本件各ファイルを自動的に送信し得る状態にあること
を初めて認識できる。したがって、ピアがトラッカーに対し、自身が本件
15 各ファイルを自動的に送信し得る状態にあることを最初に通知する送信を
した時点で、本件各動画に係る送信可能化状態が作出される。そして、そ
の後は当該状態が継続しているにすぎないから、2回目以降の当該通知の
送信は、本件各氏名不詳者の管理するピアが本件各ファイルを自動的に送
信し得ることを確認するものにとどまり、本件各動画を送信可能化するも
20 のではない。
ウ これに対し、ハンドシェイクの通信は、本件各動画について、著作権法
2条1項9号の5イ及びロが定める類型(「記録」「追加」「変換」「入力」
、 、 、
及び「接続」)のいずれにも該当しないから、本件各動画を送信可能化する
行為に当たらない。
25 すなわち、ハンドシェイクの通信は、ビットトレントネットワークを形
成しているピア同士で行われるものであるから、その前提として、ピアは、
トラッカーに対し、自身をピアとしてリストに記録するように既に通知し
ている。したがって、ハンドシェイクの通信と、トラッカーに対する最初
の通知の送信とは、明らかに異なるものである。
また、本件監視ソフトウェアが行うハンドシェイクの通信は、本件各フ
5 ァイルを共有しているピアの監視を目的とするものであって、本件各ファ
イルのダウンロードを目的としていないものであるから、本件監視ソフト
ウェアが特定のピアとハンドシェイクの通信をしたとしても、その後、本
件監視ソフトウェアが当該ピアに対して本件各ファイルを構成するピース
のダウンロードを要求することはない。したがって、本件監視ソフトウェ
10 アとその監視対象とされるピアとの間で行われるハンドシェイクの通信は、
本件各動画の送信可能化と何ら関係のないものである。
以上のとおり、別紙動画目録1及び2記載のIPアドレス、ポート番号
及び発信日時により特定されるハンドシェイクの通信は、本件各動画を送
信可能化する通信ではない。
15 エ 仮に「侵害情報の送信…に係る」(特定電気通信役務提供者の損害賠償責
任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年総務省令
第39号)(以下「プロバイダ責任制限法施行規則」という。)2条各号参
照)を広く捉えて解釈した場合であっても、トラッカーに対する通知の送
信とハンドシェイクの通信とが、どの程度時間的に離隔しているのかが明
20 らかではなく、両者の間に関連性があるとはいえない。
オ 以上によれば、ハンドシェイクの通信から把握された本件各発信者情報
が「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報…以外の発
信者情報」に該当することはない。
争点3(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有する
25 か)について
(原告の主張)
原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償を請求する予定であるが、そ
のためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。
したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
がある。
5 (被告の主張)
著作権侵害に基づく損害賠償請求の法的性質は不法行為に基づく損害賠償
請求であるから、これが認められるためには権利侵害者の故意又は過失によ
って著作権が侵害されたことが必要である。
特にP2P方式のファイル共有ソフトウェアの中には、ネットワーク参加
10 者が保有する共有ファイルを自動的に送受信するものがある。ビットトレン
トがそのような仕組みのものであった場合、本件各氏名不詳者は、自動的に
送受信されるファイルの中に本件各動画に類似する動画ファイルである本件
各ファイルが存在することを認識しないまま、本件各ファイルを受信し、順
次これを送信又は送信可能な状態に置いていた可能性がある。そのため、本
15 件各氏名不詳者は、本件各動画に係る著作権を侵害することを認識せず、か
つ、認識し得ない状態のまま本件各ファイルを送受信していた可能性がある。
それにもかかわらず、本件各氏名不詳者が故意又は過失によって本件各動画
に係る著作権を侵害したことの立証がされているとはいえない。
したがって、原告が予定している損害賠償請求が法的に認められない可能
20 性があるから、原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとは
いえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
本件各動画の著作権者について
25 前提事実(2)及び証拠(甲6、8)によれば、本件各動画が映画の著作物で
あること、本件監督1は本件動画1について、本件監督2は本件動画2につ
いて、それぞれ、各著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であり、本件
各動画の著作者であること、原告が本件各動画の製作に発意と責任を有して
いたこと、本件各監督は、原告に対し、本件各動画の製作に参加することを
約束していたことが認められる。
5 したがって、著作権法16条及び29条1項により、原告は、本件各動画
の著作権者であると認められる。
本件各動画が「送信可能化」されたか否かについて
ア 「送信可能化」(著作権法2条1項9号の5)に該当するには、「自動公
衆送信し得るようにすること」が必要であることから、まず、この点につ
10 いて検討する。
(ア) 証拠(甲10、13ないし15)によれば、ビットトレントネットワ
ークにおいて共有されていた本件ファイル1は別紙動画目録1の「ハッ
シュ」欄記載のハッシュ値を、同本件ファイル2は同目録2の「ハッシ
ュ」欄記載のハッシュ値を、それぞれ有するものであること、本件各フ
15 ァイルに係る動画を本件各動画と対比すると、本件ファイル1に係る動
画は本件動画1を、本件ファイル2に係る動画は本件動画2を、それぞ
れ複製して作成されたものであることが認められる。
(イ) 前提事実(3)及び(4)並びに証拠(甲10)によれば、別紙動画目録1
の項番2の発信日時欄記載の時刻に同IPアドレス欄記載のIPアドレ
20 スが割り当てられていたピアは、同時刻に本件ファイル1の全体を、同
項番3ないし6の発信日時欄記載の各時刻に同IPアドレス欄記載のI
Pアドレスが割り当てられていたピアは、同各時刻に本件ファイル1の
少なくとも60パーセントに相当する部分を、それぞれ保有していたと
認められる。また、別紙動画目録2の項番1ないし4の発信日時欄記載
25 の各時刻に同IPアドレス欄記載のIPアドレスが割り当てられていた
ピアは、同各時刻に本件ファイル2の全体を保有していたと認められる。
そして、前提事実(3)イによれば、ビットトレントネットワークにおい
て、ピアは、他のピアから自身が保有するピースの送信を求められると、
当該ピースを当該他のピアに送信(アップロード)するように動作する
から、別紙動画目録1の項番2ないし6及び同目録2の項番1ないし4
5 記載の各ピアは、インターネット上に形成されたビットトレントネット
ワークに参加している他のピアからの求めに応じて、本件各ファイルを
「公衆からの求めに応じ自動的に」(著作権法2条1項9号の4)「公衆
送信」(同項7号の2)し得る状態にあったものと認められる。
(ウ) 以上によれば、別紙動画目録1の項番2ないし6記載の各ピアにより
10 本件動画1が、同目録2の項番1ないし4記載の各ピアにより本件動画
2が、それぞれ「自動公衆送信し得るように」されたものと認められる。
イ 次に、ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化に該
当する行為について検討する。
(ア) 著作権法2条1項9号の5は、イ又はロ所定の行為により自動公衆送
15 信し得るようにすることを「送信可能化」と定義していることから、「送
信可能化」されたといえるには、同項9号の5イ又はロに該当する行為
がされることが必要である。
(イ) まず、ビットトレントネットワーク以外の手段によって取得した特定
のファイルをビットトレントネットワークにおいて共有しようとする場
20 合について検討する。
前提事実(3)イにおいて認定したとおり、ビットトレントネットワーク
においては、①トレントファイルを共有するピアで形成されるビットト
レントネットワーク内でのみ当該トレントファイルに対応する特定のフ
ァイルが共有され、②他のピアからのピースの送信要求は、トラッカー
25 から提供されるピアのIPアドレス及びポート番号の情報のリストに基
づいてされるところ、当該情報は、各ピアが定期的にトラッカーに通知
した自身のIPアドレス及びポート番号の情報が基礎となっている。こ
のようなビットトレントの仕組みに照らせば、ピアは、トラッカーに対
し、自身の情報を提供するための最初の通知の送信をしたことによって、
他のピアからの要求があればいつでもファイルを構成するピースを送信
5 し得る状態になったといえる。そうすると、当該トラッカーに対する最
初の通知の送信をもって、著作権法2条1項9号の5ロ所定の「その公
衆送信用記録媒体に情報が記録され…ている自動公衆送信装置について、
公衆の用に供されている電気通信回線への接続…を行うこと」に当たる
と解される(以下「類型1」という。。
)
10 (ウ) 次に、あるピアが、ビットトレントネットワークによって取得した特
定のファイルを、当該ビットトレントネットワークに参加している他の
ピアとの間で共有しようとする場合について検討する。
前提事実(3)イにおいて認定したとおり、ビットトレントネットワーク
においては、①特定のファイルに対応するトレントファイルを共有して
15 いれば、これを共有するピアで形成されるビットトレントネットワーク
に既に参加しているといえるとともに、②ピアが、特定のファイルを構
成するピースを他のピアからダウンロードしたり、他のピアにアップロ
ードしたりするためには、当該他のピアが自身のピアのIPアドレス及
びポート番号の情報を把握している必要があるから、予めトラッカーに
20 自身のIPアドレス及びポート番号の情報を通知していると考えられる。
このようなビットトレントの仕組みに照らせば、共有しようとする特定
のファイルを構成するピースを何ら保有していないピアは、他のピアか
ら当該ピースの送信を受けることによって、別の他のピアからの要求が
あればいつでも当該ピースを送信し得る状態になったといえる。そうす
25 ると、①共有しようとする特定のファイルを構成するピースを何ら保有
していないピアが、当該ピースを保有する他のピアから当該ピースをダ
ウンロードすること、又は、②当該ファイルを構成するピースを何ら保
有していない他のピアに対して、当該ファイルを構成するピースを保有
するピアが、当該ピースをアップロードすることをもって、著作権法2
条1項9号の5イ所定の「公衆の用に供されている電気通信回線に接続
5 している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録…する
こと」に当たると解される。もっとも、動画に係るファイルが多数のピ
ースに細分化されている場合、ピースの一部のみからなるファイルを動
画再生用ソフトウェア等に読み込ませることができない場合も考えられ
るから、動画に係るファイルの基となった著作物の表現の本質的特徴が
10 感得できるような状態で再生し得る程度の数量ないし組合せのピースが
ダウンロード又はアップロードされることが必要と解される(以下「類
型2」という。。
)
(エ) これを本件についてみると、別紙動画目録1及び2の各項番記載の情
報により特定されるピアが、類型1及び2のいずれの態様によって本件
15 各ファイルを自動的に送信し得る状態となったのかを認めるに足りる証
拠はない。
しかし、ビットトレントの仕組みに照らし、別紙動画目録1及び2の
各項番記載の情報により特定されるピアが、類型1及び2以外の態様に
よって本件各ファイルを自動的に送信し得る状態になったとは考え難く、
20 これを裏付ける証拠もない。
したがって、本件各動画については、類型1又は2のいずれかの態様
すなわち著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定のいずれかの行為によ
り、自動公衆送信し得るようにされたものと認めることができる。
ウ 以上によれば、別紙動画目録1の各項番記載の情報により特定されるピ
25 アにより本件動画1が、別紙動画目録2の各項番記載の情報により特定さ
れるピアにより本件動画2が、それぞれ「送信可能化」されたものと認め
られる。
被告の主張について
ア 被告は、本件監視ソフトウェアによる調査結果が信頼性及び信用性を有
するものではないから、別紙動画目録1及び2の各項番記載のIPアドレ
5 ス、ポート番号及び発信日時によって特定される者が本件各ファイルを共
有していた本件各氏名不詳者と同一人であることが明らかとはいえないと
主張する。
しかし、被告は、本件監視ソフトウェアによる調査結果が信頼性及び信
用性を有するものでない可能性を抽象的に主張するにとどまり、信頼性及
10 び信用性を欠くものであることを示す具体的な事情を何ら主張立証してい
ない。
そして、本件全証拠によっても、本件監視ソフトウェアによる調査結果
の信頼性及び信用性に合理的な疑いを差し挟む特段の事情は何ら認められ
ない。
15 イ また、被告は、本件各氏名不詳者が管理するピアにおいては、当該ファ
イルを構成するピースの一部しか保有されておらず、かつ、その一部のピ
ースからなるデータからは、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得す
ることができる動画を再生できない可能性があると主張する。
この点、証拠(甲17)によれば、ビットトレントネットワークで共有
20 されているファイルの5パーセント程度がダウンロードされた状態であっ
ても、当該ファイルに係る動画の基となった作品の表現の本質的特徴を感
得できる程度に当該動画を再生できると認められる。
前記(2)ア(イ)において認定したとおり、別紙動画目録1及び2の各項番
記載のピアは、少なくとも本件各ファイル全体の60パーセント以上に相
25 当するピースをダウンロードしていたというのであるから、本件各動画の
本質的特徴を感得するに十分な数量及び組合せのピースを保有していたと
認められる。
ウ さらに、被告は、トレントファイルを取得してビットトレントネットワ
ークに参加した者が「公衆」に当たることの立証がされているとはいえな
5 いと主張する。
著作権法上、「公衆」とは、不特定の者又は特定の多数の者を意味すると
解される(同法2条5項)。そして、特定のファイルに対応するトレントフ
ァイルは、インターネット上で公開されているのが通常であると考えられ
るところ、そのようなトレントファイルは少なくとも不特定の者において
10 利用することができるから、同じトレントファイルを共有している他のピ
アの管理者も不特定の者となるのが通常である。これに対し、本件全証拠
によっても、本件各ファイルが特定かつ少数の者の間でのみ共有されてい
たとは認められない。
したがって、本件各ファイルに係るトレントファイルを取得してビット
15 トレントネットワークに参加した他のピアの管理者は「公衆」に当たると
いえる。
エ 以上のとおり、被告の前記各主張はいずれも採用することができない。
小括
以上の検討結果に加え、他に違法性阻却事由が存在することをうかがわせ
20 る事情は見当たらないことからすると、本件各氏名不詳者により、本件各動
画が「送信可能化」され、本件各動画に係る原告の公衆送信権が侵害された
ことは明らかであると認められる。
2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特
定発信者情報…以外の発信者情報」に当たるか)について
25 ビットトレントを利用したファイル共有における送信可能化に該当する通
信について
前記1(2)イにおいて説示したとおり、ビットトレントを利用したファイル
共有においては、当該ファイルを自動的に送信し得る状態にするための態様
として類型1及び2が想定できる。
しかし、前提事実(3)イのとおり、ハンドシェイクの通信は、ビットトレン
5 トネットワークを形成しているピアが、トラッカーから提供された他のピア
に関する情報に基づき、他のピアとの間で、当該他のピアが現在稼働してい
るか否かや、当該他のピアのピース保有状況を確認する通信であって、トラ
ッカーに対する通知の送信(類型1)ではないし、共有される特定のファイ
ルを構成するピースをダウンロード又はアップロードする通信(類型2)で
10 もないから、類型1及び2のいずれにも該当しない。そして、本件において、
類型1及び2の態様以外に、ビットトレントネットワークを形成しているピ
ア同士の間で行われるハンドシェイクの通信が、著作物を「送信可能化」す
る行為に該当し得るものであることについて、主張及び立証はされていない。
したがって、上記ハンドシェイクの通信が著作権法2条1項9号の5イ又は
15 ロ所定の行為に該当するとは認められない。
また、同項9号の5イ又はロ所定の行為により「送信可能化」がされれば、
当該行為によって「送信可能化」が完全に実現するのであって、その後、「送
信可能化」状態が維持されたとしても、「送信可能化」に該当する行為が継続
していると解することはできない。したがって、この観点からも、上記ハン
20 ドシェイクの通信が、本件各動画を送信可能化し、本件各動画に係る原告の
公衆送信権を侵害する通信であると認めることはできない。
原告の主張について
ア 原告は、ハンドシェイクの通信が、各ピアが実際にファイルのダウンロ
ードやアップロードを行う前の準備段階の行為として必要不可欠なもので
25 あるから、当該通信によって、本件各動画が「送信可能化」され、本件各
動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたということができると主張する。
しかし、前記(1)において説示したとおり、ハンドシェイクの通信によっ
て、本件各動画が送信可能化されたとはいえない。
また、本件においては、プロバイダ責任制限法5条1項に基づく請求が
されているところ、同法2条6号は、「氏名、住所その他の侵害情報の発信
5 者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」を「発信者情報」
と規定するとともに、同法5条1項柱書は、「当該権利の侵害に係る発信者
情報」について、「発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして
総務省令で定めるもの」である「特定発信者情報」と「特定発信者情報…
以外の発信者情報」とに分けて規定している。そして、前者は、プロバイ
10 ダ責任制限法施行規則5条が規定する特定電気通信役務の利用に係る契約
の申込み等(同条1号)、ログイン(同条2号)、ログアウト(同条3号)
及び同契約の終了(同条4号)のための各手順に従って行った識別符号そ
の他の符号の電気通信による送信である「侵害関連通信」から把握される
情報であるのに対し、後者は「侵害情報の送信」から把握される情報であ
15 るとされている(プロバイダ責任制限法施行規則2条各号)。このようなプ
ロバイダ責任制限法及び同法施行規則の規定からすると、同法及び同法施
行規則は、権利侵害をもたらす送信から把握される情報(特定発信者情報
以外の発信者情報)とそれ以外の送信から把握される情報(特定発信者情
報)とを明確に区別した上、後者については、それに該当する情報を4つ
20 の類型の送信に係るものに限定していると解するのが相当である。そうす
ると、ハンドシェイクの通信がされた時点までに本件各動画が「送信可能
化」の状態にされていたとしても、ハンドシェイクの通信から把握される
情報は、特定発信者情報以外の情報に該当しないから、プロバイダ責任制
限法5条1項柱書所定の「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定
25 発信者情報…以外の発信者情報」に当たるとはいえない。
イ さらに、原告は、本件各氏名不詳者が管理するピアからトラッカーに対
する通知は、本件各氏名不詳者が別紙動画目録1及び2記載の各IPアド
レスを用いて行ったものであるから、本件各発信者情報は、「当該権利の侵
害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報…以外の発信者情報」に該当
5 すると主張する。
しかし、原告が主張する別紙動画目録1及び2の各項番記載の各情報は、
トラッカーから提供されたリストや、ハンドシェイクの通信から把握され
た情報であるというのであるから、前記アにおいて説示したところと同様
に、権利侵害をもたらす送信から把握される情報(特定発信者情報以外の
10 発信者情報)と認めることができない。したがって、プロバイダ責任制限
法5条1項柱書所定の「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発
信者情報…以外の発信者情報」に当たるとはいえない。
ウ 以上のとおり、原告の前記各主張はいずれも採用することができない。
小括
15 以上によれば、ビットトレントネットワークにおいて本件各動画が送信可
能化された態様を前提とすると、トラッカーから提供されたリスト及びハン
ドシェイクの通信から把握される情報は、プロバイダ責任制限法5条1項柱
書所定の「当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報…以外
の発信者情報」に当たるとはいえない。
20 したがって、本件各発信者情報は、同項柱書所定の「当該権利の侵害に係
る発信者情報のうち、特定発信者情報…以外の発信者情報」に当たると認め
ることはできない。
第4 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいず
25 れも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
5 國 分 隆 文
裁判官
10 間 明 宏 充
裁判官小川暁は、転補につき、署名押印することができない。
15 裁判長裁判官
國 分 隆 文
(別紙)
発信者情報目録
別紙動画目録1及び2記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信日時頃に被告
5 から割り当てられていた契約者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
以上
(別紙著作物目録 省略)
(別紙動画目録1及び2 省略)
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