知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和3(ワ)10032 民事訴訟 特許権

この記事をはてなブックマークに追加

令和3(ワ)10032民事訴訟 特許権

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和5年6月15日
事件種別 民事
当事者 原告松尾電機株式会社
被告功得電子工業股份有限公司
対象物 チップ型ヒューズ
法令 特許権
特許法2条3項1号1回
特許法102条2項1回
特許法100条1項1回
キーワード 侵害29回
特許権10回
進歩性8回
無効8回
分割8回
差止6回
実施6回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、発明の名称を「チップ型ヒューズ」とする特許(以下「本件特許」と いう。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が 本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の 技術的範囲に属する被告製品を販売等することは本件特許権の侵害に当たると 主張して、被告に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の譲渡10 等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づく損害 賠償として4000万円のうち1000万円及びこれに対する不法行為の日の 後(本訴状送達の日の翌日)である令和3年12月15日から支払済みまで平成 29年法律第44号による改正前の民法所定年5分の割合による遅延損害金の 支払を求める事案である。15

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和5年6月15日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和3年(ワ)第10032号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和5年4月20日
判 決
原 告 松 尾 電 機 株 式 会 社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 松 村 信 夫
同 塩 田 千 恵 子
10 同 甲 斐 一 真
同 補 佐 人 弁 理 士 木 村 正 俊
被 告 功得電子工業股份有限公司
15 同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 田 上 洋 平
同 冨 田 信 雄
同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 北 村 修 一 郎
同 太 田 隆 司
同 補 佐 人 弁 理 士 飯 田 淳 也
20 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
25 1 被告は、別紙「製品目録」記載の製品(以下「被告製品」という。)を生
産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸入し、譲渡又は貸渡しの申出をしてはなら
ない。
2 被告は、被告製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和3年12月15
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 第2 事案の概要
本件は、発明の名称を「チップ型ヒューズ」とする特許(以下「本件特許」と
いう。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が
本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の
技術的範囲に属する被告製品を販売等することは本件特許権の侵害に当たると
10 主張して、被告に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の譲渡
等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づく損害
賠償として4000万円のうち1000万円及びこれに対する不法行為の日の
後(本訴状送達の日の翌日)である令和3年12月15日から支払済みまで平成
29年法律第44号による改正前の民法所定年5分の割合による遅延損害金の
15 支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、当裁判所に顕著な事実、争いの
ない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
原告は、電子部品の製造、販売等を目的とする株式会社である。
20 被告は、電子部品の製造等を目的とする台湾の法人である。
(2) 本件特許権
原告は、次の本件特許権を有している。本件特許権の特許請求の範囲、明細書
及び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特
許公報」【掲載省略】のとおりである(甲2)。
25 ア 登録番号 特許第5737664号
イ 出願日 平成25年2月15日
ウ 登録日 平成27年5月1日
エ 発明の名称 チップ型ヒューズ
(3) 構成要件
本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。
5 A-1 基板への取り付け用端子の2つの平板状部を間隔をあけて同一水平面上
に有し、
A-2 当該水平面とは異なる高さにある水平面における前記2つの平板状部間
に位置するヒューズが、
A-3 前記2つの平板状部と一体に形成されている端子一体型ヒューズと、
10 B-1 一方の面が閉じられ、前記一方の面と異なる水平面に位置する他方の面
が開口され、
B-2 前記開口の周縁から前記一方の面に向かう周壁部を有し、
B-3 前記ヒューズが前記開口から前記一方の面側に向かう中途の位置に位置
し、
15 B-4 前記2つの平板状部が前記周壁部にそれぞれ接触しているケースと、
C 前記ケース内において前記ヒューズに設けられた消弧材部とを、具備する
D チップ型ヒューズ。
(4) 被告製品の構成
別紙「被告製品の構成」のとおり、被告製品の構成 c 以外の構成について当事
20 者間に争いがなく、また、原告は、被告の主張する構成 c について積極的に争っ
ていない(令和4年9月29日の書面による準備手続中の協議)。そして、被告
製品が、構成要件 A-1 ないし B-4 及び D を充足すること、同 C を充足しないこと
(文言侵害が成立しないこと)は当事者間に争いがない。
(5) 被告の行為
25 被告は、令和2年1月15日から同月17日までの間、東京で開催された電子
部品及び材料の博覧会に出展し、被告製品が掲載されたパンフレットを配布する
などした。
(6) 原告は、令和5年2月27日付けの準備書面5において、被告製品が、本
件特許の特許請求の範囲請求項3に係る発明(以下「本件発明2」という。)の
技術的範囲に属するとして、本件発明2に係る本件特許権侵害を理由とする請求
5 原因を追加主張した(以下「本件追加」という。当裁判所に顕著な事実)。
2 争点
(1) 本件発明の技術的範囲への属否(均等侵害の成否。争点1)
(2) 本件追加の可否(争点2)
(3) 本件発明の無効理由の有無(争点3)
10 ア 公開特許公報(特開平9-63455号公報。平成9年3月7日公開。乙
1。以下「乙1公報」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)
に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点3-1)
イ 乙1発明及び公開特許公報(特開平11-273541号公報。平成11
年10月8日公開。乙2。以下「乙2公報」という。)に記載された発明(以下
15 「乙2発明」という。)に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点3-2)
ウ 乙1発明及び公開特許公報(特開2007-287504号公報。平成1
9年11月1日公開。乙3。以下「乙3公報」という。)記載の発明(以下「乙
3発明」という。)に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点3-3)
エ 乙1発明及び周知技術に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点3-4)
20 (4) 損害の発生及びその額(争点4)
(5) 差止め等の必要性の有無(争点5)
第3 争点についての当事者の主張
1 本件発明の技術的範囲への属否(均等侵害の成否。争点1)
(原告の主張)
25 (1) 被告製品の構成
被告製品の構成は、別紙「被告製品の構成」の各「原告の主張」欄記載のとお
りである(ただし、原告は、被告主張の構成 c を積極的に争っていない。)。
(2) 均等侵害が成立すること
別紙「均等侵害の成否等」の各「原告の主張」欄記載のとおり、被告製品は本
件発明と均等である。
5 (被告の主張)
(1) 被告製品の構成
被告製品の構成は、別紙「被告製品の構成」の各「被告の主張」欄記載のとお
りである。
(2) 均等侵害が成立しないこと等
10 被告製品の構成 c と本件発明の構成要件 C には相違があり、別紙「均等侵害の
成否等」の各「被告の主張」欄記載のとおり、被告製品に均等論は適用されない
し、適用されたとしても均等侵害は成立しない。
2 本件追加の可否(争点2)
(原告の主張)
15 (1) 本件発明2の構成要件は、次のとおり分説される。
A-1 ないし C は、本件発明と同じ。
D-1 前記ヒューズは、前記2つの平板状部における前記開口側にある縁部と
一体に結合され、
D-2 前記2つの平板状部における周壁部の外面側にある縁部から前記一方の
20 面側に前記周壁部に接触して立ち上がり部が立ち上がっており、
E-1 前記2つの平板状部における前記開口側にある縁部は前記開口の縁に接
してあり、
E-2 前記開口側にある縁部から前記ケースの中央側に向かって傾斜した傾斜
部の先端側に前記ヒューズが一体に形成されている
25 F チップ型ヒューズ。
(2) 前記(1)のとおり、本件発明2の構成要件の一部は本件発明の構成要件と
一致しており、これに対応させて被告製品の構成を特定した場合において、被告
製品が本件発明2の技術的範囲に属するか否かに関し、均等論を含めて新たな争
点が追加されることはない。また、被告は、すでに多数の先行発明に関する公報
等を引用しながら、本件発明には無効原因がある旨の主張を十分に行っているか
5 ら、本件追加によって、被告から新たな無効主張がされるとは考えられず、訴訟
の審理がさらに長期化するおそれはない。
一方、侵害訴訟における第一審手続の充実という民事訴訟の目的と訴訟全体の
審理期間の短縮にも資することになるので、第一審において、本件追加を行う必
要性がある。
10 したがって、本件追加は時機に後れたものでなく、訴訟の完結を遅延させ、あ
るいは著しく訴訟手続を遅滞させるものでもない。
(被告の主張)
(1) 本件追加は、令和4年11月28日の書面による準備手続中の協議にお
いて、裁判所の心証が開示された後、当初から主張可能であった、本件特許権の
15 別請求項による主張を追加するものであり、原告には故意又は重過失が認められ
るし、時機に後れたものでもある。
また、本件発明2の構成要件 D-1 ないし E-2 における「縁部」の解釈が不明で
あることから、求釈明等を行うことなく、本件発明2に対応した被告製品の構成
の特定やその属否についての認否を行うことはできないし、本件発明2は本件発
20 明の従属項であって、本件発明2の発明要旨は本件発明よりも狭いことから、無
効主張をするに当たっては、新たな公知資料の検索をする必要がある。
したがって、本件追加は、訴訟の完結を遅延させ、あるいは、著しく訴訟手続
を遅滞させることになる。
(2) 以上から、本件追加につき、これが攻撃方法に該当する場合は民訴法15
25 7条1項に基づく却下を求め、訴えの追加的変更に該当する場合は同法143条
4項に基づく訴えの変更を許さない旨の決定を求める。
3 本件発明の無効理由の有無(争点3)
被告及び原告の主張は、それぞれ別紙「無効主張一覧」の「被告の主張」欄及
び「原告の主張」欄記載のとおりである。
4 損害の発生及びその額(争点4)
5 (原告の主張)
(1) 特許法102条2項に基づく損害の主張
被告は、遅くとも、令和2年2月頃から、被告製品を日本に輸出し、日本国内
で販売・譲渡し、訴え提起までの間に、少なくとも1億円の販売代金を取得した。
被告製品を販売することによる被告の利益は、少なくとも前記販売代金の30%
10 を下らない。
したがって、被告の侵害行為により原告が被った損害は、3000万円を下ら
ない。
(2) 弁護士等報酬
原告は、原告訴訟代理人らに対し、本件訴訟の遂行を委任し、少なくとも10
15 00万円の報酬支払を約した。
したがって、弁護士等費用1000万円は、被告の侵害行為と相当因果関係の
ある損害に含まれる。
(3) 以上から、被告の侵害行為により原告が被った損害は4000万円を下
らないところ、原告は、被告に対し、一部請求として1000万円の支払を求め
20 る。
(被告の主張)
争う。
被告は、被告製品について、譲渡等や輸出、輸入に該当する行為(特許法2条
3項1号)を行った事実はないから、これによって原告に損害が発生した事実は
25 ない。
5 差止め等の必要性の有無(争点5)
(原告の主張)
被告は被告製品の販売等を行っており、原告の営業上の利益が侵害され又はそ
のおそれがあるから、被告製品の生産等の行為の差止め、及び、被告製品の廃棄
が必要である。
5 (被告の主張)
争う。
被告は、かつて被告製品の譲渡の申出を行ったことはあるが(前提事実(5))、
現在、日本で譲渡の申出を行っておらず、また、将来行う予定もないから、原告
の差止め請求には理由がない。
10 第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件発明の技術的範囲への属否(均等侵害の成否))について
(1) 被告製品の構成
被告製品が、本件発明の構成要件 A-1 ないし B-4 及び D を充足すること、同 C
を充足しないこと(文言侵害が成立しないこと)は当事者間に争いがない。
15 そこで、被告製品は、本件発明と均等であるかについて検討する。
(2) 均等侵害の成否
ア 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用
いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、
①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等
20 におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用
効果を奏するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当
該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製
品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要
件)、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業
25 者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤
対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除
外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品
等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的
範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号
同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
5 そして、対象製品等が特許発明の構成要件の一部を欠く場合であっても、当該
一部が特許発明の本質的部分ではなく、かつ前記均等の他の要件を充足するとき
は、均等侵害が成立し得るものと解される。
これに対し、被告は、対象製品等が構成要件の一部を欠く場合に均等論を適用
することは、特許請求の範囲の拡張の主張であって許されない旨を主張するが、
10 構成要件の一部を他の構成に置換した場合と構成要件の一部を欠く場合とで区
別すべき合理的理由はないし、本件において、原告は、被告製品には構成要件 C
の「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分が存在し、置換構成を有する旨
主張していると解されるから、被告の前記主張を採用することはできない。
イ 第1要件ないし第3要件
15 原告は、別紙「均等侵害の成否等」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件発
明の本質的な構成部分は構成要件のうち A-1 ないし A-3、B-3 及び B-4 であり、
構成要件 C は本件発明の課題解決方法に資するものではないとして、第1要件は
満たす旨主張するところ、被告もこれを積極的に争っていない。
一方、第2要件及び第3要件に関し、原告は、被告製品の構成 c の「接着剤で
20 接着することにより形成された密閉された空間26」が本件発明の構成要件 C の
「消弧材部」と同一の作用効果(消弧作用)を有することを示す実験報告書等(甲
13、14、32)を証拠提出する。これらは、被告製品と同じ構造を有する製
品につき、ヒューズエレメント部が密閉構造である場合と、非密閉構造である場
合又は端子一体型ヒューズ素子を取り出して遮断試験用基板に実装して遮断試
25 験を行った場合の、各アーク放電の持続時間を対比した結果、密閉構造のものは、
非密閉構造等のものに比べ、同持続時間が2分の1ないし3分の1になったとい
うものである。しかし、これらは、被告製品の「密閉された空間」と本件発明の
「消弧材部」の各作用効果の対比自体を行うものではないことに加え、被告が証
拠提出する試験報告書(乙16)によれば、被告製品、被告製品に消弧材部を設
けたヒューズ及び被告製品のヒューズ素子のみを対象として、アーク放電の持続
5 時間を記録したところ、被告製品が最も同時間が長かったという結果であったこ
とが認められ、被告製品とヒューズ素子の各アーク放電の持続時間について、原
告が提出する実験報告書(甲14)と相反する結果となっている。そうすると、
原告が提出する前記証拠その他の事情等から、被告製品の構成 c が本件発明の構
成要件 C と同様の作用効果を有するとまでは認め難いから、少なくとも第2要件
10 が満たされるとはいえない。
ウ 第4要件
前記イの点は措くとしても、以下のとおり、第4要件も満たさない。
被告は、被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発
明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考可能であった旨を主張
15 する。
(ア) 乙1公報は、発明の名称を「表面実装超小型電流ヒューズ」とする公開特
許公報であり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙1)。
a 発明の属する技術分野
「本発明は、電子機器回路の小型化、高密度化に伴うプリント回路基板への表
20 面実装を可能とする超小型電流ヒューズに関するものである。」(【0001】)
b 従来の技術
「従来の表面実装小型電流ヒューズとしては、次のような構成のものが開発さ
れている。1つは、小型化を目的として開発されたもので、絶縁物基板上に金属
薄膜から成る可溶部を形成した後、この可溶部である金属薄膜を低融点ガラスあ
25 るいは合成樹脂により埋め込んだ構造である。また、低コスト化を目的として開
発されたものは、可溶部として可溶線を金属電極間にボンディング等により接続
した後、可溶線を合成樹脂に埋め込む状態でヒューズ本体に一体モールド成形し
た構造のものである。しかしながら、これらの構造を有する表面実装小型電流ヒ
ューズは、その目的が単に小型化や低コスト化に主眼を置いているため、可溶部
あるいは可溶線(以下「可溶部」とまとめて言う。)が合成樹脂や低融点ガラス
5 等の絶縁物に直接接触した構造となり、その結果可溶部が熱的中立を保てず本来
のヒューズとしての溶断性能がおろそかにされている欠点を有していた。 」
(【0002】)
「詳細には、可溶部が絶縁物に直接接触する構造は、電子機器の回路故障等に
より異常電流が流れ、可溶部よりジュール熱が発生した際、このジュール熱が絶
10 縁物に直接奪われ、異常電流を遮断する時間が遅れるとともに、可溶部が接触し
ている絶縁物自体も加熱しなければならないため大きな発熱を必要としている。」
(【0003】)
「このことは、可溶部を加熱する以上の発熱を必要とするためにヒューズ自体
の内部抵抗を大きくする必要を生じ、この結果通常の使用状態において、電気回
15 路上でヒューズ自体による電力損失を大きくするとともに、ヒューズ自体の発熱
を大きくする欠点を有するものである。」(【0004】)
「更に別の高信頼性を目的として開発された超小型電流ヒューズは、電極をケ
ース内に配置固定した後、この電極間に可溶線を架張、半田付けした後、その開
口部を蓋にて密閉した構造を有する。しかしながら、可溶線を電極に半田付けす
20 る方式は、半田が固まる際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ即ち可溶
線の長さにバラツキが生じるという問題を解決する必要があるが、未だ克服され
ていない。」(【0005】)
「その上、上記の従来の小型あるいは超小型電流ヒューズは、各部品を1つ1
つバッチ工程で加工組立てを行う必要があり、部品が小さいためその作業は困難
25 を極め、即ち製造し難く、その結果低コスト化にも限界があるものであった。 」
(【0006】)
c 発明が解決しようとする課題
「本発明は、上記問題点を解決し、製造が容易な構造を有し、また溶断時間の
バラツキを最小限に抑え、かつ高い信頼性を有する表面実装超小型電流ヒューズ
を提供することにある。」(【0007】)
5 d 課題を解決するための手段
「…前記可溶線挟持部は、前記空間内に延在する第1板部と、当該第1板部が
前記空間内に延在する方向とは異なる方向に当該第1板部より曲がって延在し
て前記第1板部と共に前記可溶線の端部を挟持する第2板部とを有する。前記可
溶線の両端部を前記可溶線挟持部で挟持した前記1対の金属電極のそれぞれは
10 前記本体の各前記短側壁に配置される。前記可溶線の両端部は、前記本体の空間
内に架張されるよう前記1対の金属電極の可溶線挟持部により挟持される。本発
明のヒューズはまた、耐熱性で電気的絶縁性材料から成る蓋部を備え、前記蓋部
の横断面は、前記本体の開口部に嵌合するよう凸型形状を有し、前記蓋部の平坦
面が前記本体の長側壁の頂面より僅かに沈んだ位置まで前記蓋部を押し込み前
15 記蓋部の凸部分の両平坦面を前記本体の載置部の上面に載置して接着剤を塗布
し前記本体の空間を密閉かつ前記蓋部を前記本体に固定する。前記金属電極は、
前記短側壁の内側内面と前記蓋部の長手方向の端面とにより挟み込まれて固定
される。」(【0008】)
e 発明の実施の形態
20 「…1は、セラミック等の耐熱性で電気的絶縁材料から成り、直方体の箱型形
状をした本体を、2は、本体1の短側壁の各々に取り付けられており、金属板を
加工して作られた1対の金属電極を、3は、セラミック等の耐熱性で電気的絶縁
材料から成り、本体1の開口部に嵌め込められた蓋部を、4は、蓋部3を本体1
に接着して固定し、かつ本体1の内部を密閉するための接着剤を、5は、両端部
25 を金属電極2に挟持され本体1の空間6に架張された可溶線をそれぞれ示す。 」
(【0016】)
「図4を参照すると、本体1は、対向した2つの短側壁11と、対向した2つ
の長側壁12と、底部13とから構成され、各長側壁12の内側の面は、本体1
の空間6に向かって延在し、かつ長側壁12の頂面に対して段差を有する載置部
14を有する。」(【0017】)
5 「図3及び図2を参照すると、金属電極2は、1体の金属板から成り、本体1
の短側壁11の頂面と両側面に嵌合するような鞍状の形状を有する鞍部21と、
可溶線5の端部を挟持する可溶線挟持部22を有する。…第2板部222は、可
溶線5を挟持するための処理前には第1板部221の幅方向の一端より延在し
ている。第2板部222は、第1板部221の上に可溶線5の端部が置かれた状
10 態でそれを挟むように第1板部221の端部から曲げられ第1板部221の上
に重ねられる。この処理により、可溶線5の端部は第1板部221と第2板部2
22とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される。第2板部222は第1板部
221とほぼ同じ大きさである。」(【0018】)
「…1対の金属電極2をフレーム状に連続プレス成型加工する。なお、1対の
15 金属電極2の離間距離は本体1の短側壁11の離間距離と同じにしてある。この
状態において、各金属電極2の第1板部221に可溶線5の各端部が配置され第
2板部222が折り曲げられ第1板部221に重ねられ可溶線5の端部を挟み
込むことを連続工程で行う。可溶線5を挟持した1対の金属電極2が連続した状
態において隣接同士の間隔に合わせて本体1の長側壁12が隣同士となるよう
20 配置し、上記連続した可溶線5挟持の1対の金属電極2の鞍部21を本体1の双
方の短側壁11に嵌合させて固定することを連続工程で行う。この工程で可溶線
5は本体1の空間6に浮いた状態で架張される。次いで、図6に示されるように、
蓋部3の凸部側を本体1の開口部に入れて、蓋部3の平坦面が本体1の長側壁1
2の頂面より僅かに沈んだ位置まで蓋部3を押し込む。その際、金属電極2の鞍
25 部21の第3の部分を、本体1の短側壁11の内面と蓋部3の端面32(図5参
照)とにより挟み固定する。また、蓋部3の平坦面31は本体1の載置部14の
上面に載置される。図2の(A)及び(B)に示されるように、蓋部3の平坦面
が本体1の長側壁12の頂面より僅かに沈んだ位置まで押し込むことによりで
きた浅い凹み即ち蓋部3の平坦面上に接着剤4を塗布すると、接着剤4は、蓋部
3の側面と本体1の長側壁12及び金属電極2の鞍部21の第3の部分との間、
5 及び蓋部3の平坦面31と載置部14の上面との隙間に流れ込み固化して互い
に接着する。その結果、本体1の空間6は確実に密閉される。以上の全工程は連
続工程で容易に行うことができ、量産性に優れている。」(【0020】)
「本発明の表面実装超小型電流ヒューズは、以上説明したように構成されてい
るので、製作組立が連続工程でなすことができ、その結果容易に製造することが
10 できる。従って、大幅なコスト削減が可能となる。」(【0027】)
「本発明は、表面実装超小型電流ヒューズにおいて要求される各国規格の条件
を満たす最小の大きさを実現するため発明されたもので、溶断特性のバラツキは
可溶線の熱的中立を確保した結果、従来のいかなる小型ヒューズよりも少なくす
ることが可能となる。加えて、超小型電流ヒューズの従来型に比べて2倍以上大
15 きい遮断能力が可能となり交流直流の両回路に使用できる。更に、従来の熱的中
立を保てるタイプのヒューズに比べて、完全な密閉が可能のため、公害防止のた
めの回路基板のフロン洗浄の代わりとして無公害の温水洗浄に充分耐え得る性
能を有する。」(【0028】)
「金属電極は、回路基板の回路パターンのパッドと半田付けにより機械的に固
20 定かつ電気的に接続でき、更に可溶線の長さを正確に保持し本体の底面と蓋部の
裏面との間に浮いた状態で簡単正確に保持することが可能となる。その結果、溶
断時間のバラツキはを最小限に抑えることができる。」(【0029】)
「本発明の表面実装超小型電流ヒューズは、電気用品取締法に規定されている
交流の電路に使用されるヒューズの電極間の距離を1.5mm以上とする条件を
25 解決し最も小型にして交流直流何れの回路にも使用できかつ高い信頼性を有す
ることができる。」(【0030】)
【図2】(A) 【図3】
(イ) 乙1発明の構成
乙1発明がα-1、β-1 ないしβ-4 及びδの構成を有することは当事者間に争
10 いがなく(別紙「均等侵害の成否等」 「第4要件」
の 欄)、乙1公報の段落【0008】
【0016】【0018】【0020】及び【図2】(A)の記載内容に照らすと、α-2 及び
γの構成を有するものと認められる。
また、被告主張のα-3 の構成(金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれる
ことにより一体形成されている電極一体型ヒューズ)に関し、原告は、電極とヒ
15 ューズが同一の金属によって一体的に形成されているとの趣旨であれば否認す
ると述べるところ、乙1公報には、可溶線5は、両端部を金属電極2に挟持され
本体1の空間6に架張された可溶線を示す旨(同【0016】)、可溶線5の端部は
第1板部221と第2板部222とにより挟み込まれ、金属電極2に固定される
旨(同【0018】)の記載があることから、可溶線5と金属電極2は異なる部材で
20 構成され、可溶線5は、可溶線挟持部22において挟持されることによって金属
電極2に接続されているものと認められる(α-3’)。
以上から、乙1発明の構成は、別紙「裁判所の認定」の「乙1発明の構成」欄
記載のとおりとなる。
(ウ) 被告製品の構成
25 被告製品が a-1 ないし b-4 及び d の構成を有することは当事者間に争いがな
く、構成 c を有することも実質的に争いがないから、被告製品の構成は、別紙「裁
判所の認定」の「被告製品の構成」欄記載のとおりとなる。
(エ) 被告製品と乙1発明の対比
被告製品の a-1、a-2 及び b-1 ないし d の各構成は、それぞれ、乙1発明のα-
1、α-2 及びβ-1 ないしδの各構成と同一であるものと認められる。
5 そこで、被告製品の構成 a-3 と乙1発明の構成α-3'が一致するかを検討する。
「一体」の字義は、「一つになって分けられない関係にあること」であるところ
(広辞苑第七版)、被告製品は、別紙「被告製品写真」の3及び4に示されるよ
うに、ヒューズ本体4と2つの平板状部10の部材が連続し、一つになって分け
られないように形成されていることが明らかである。一方、乙1発明の可溶線5
10 と金属電極2は、異なる部材で構成され、また、可溶線5は、可溶線挟持部22
において挟持されることによって金属電極2に接続されていることから、可溶線
5と金属電極2は、同一材料で形成されておらず、一つになって分けられないよ
うに形成されてもいない。
したがって、可溶線5と可溶線挟持部22は一体に形成されているとは認めら
15 れず、乙1発明は構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しており、被告製
品は、公知技術と同一であるとはいえない。
(オ) 乙1発明と乙3発明に基づく容易推考性
被告は、乙1発明が構成 a-3 を有していない点で被告製品と相違しても、被告
製品の構成 a-3 は、乙1発明の構成α-3’を乙3発明の構成に置換することによ
20 り、当業者にとって容易に推考可能である旨を主張する。
a 乙3公報は、発明の名称を「面実装型電流ヒューズ」とする公開特許公報で
あり、発明の詳細な説明には次の記載がある(乙3)。
(a) 技術分野
「本発明は、過電流が流れると溶断して各種電子機器を保護する面実装型電流
25 ヒューズに関するものである。」(【0001】)
(b) 背景技術
「従来のこの種の面実装型電流ヒューズは、図7に示すように、セラミックか
らなるケース1と、このケース1の内部に形成された空間部2と、前記ケース1
の両端部に形成された外部電極3と、この外部電極3と電気的に接続された断面
が円形のヒューズエレメント部4とを備え、前記ヒューズエレメント部4の溶断
5 部5を前記ケース1の内部に形成された空間部2内に配設した構成としていた。」
(【0002】)
(c) 発明が解決しようとする課題
「上記した従来の面実装型電流ヒューズにおいては、ヒューズエレメント部3
として同じ線径のものや同じ材料のものを使用しているため、線径や材料によっ
10 て決まる溶断電流等の溶断特性を調整することができないという課題を有して
いた。」(【0004】)
「本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性の調整ができる面実装
型電流ヒューズを提供することを目的とするものである。」(【0005】)
(d) 課題を解決するための手段
15 「本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁性を有するケースと、このケースの
内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部電極と、この
外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設したヒューズエ
レメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一部を切削する
ことによって設けたもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部の切削に
20 よって溶断部の線径を調整できるため、溶断特性を調整することができるという
作用効果が得られるものである。」(【0007】)
「本発明の請求項3に記載の発明は、特に、ヒューズエレメント部と外部電極
とを一体の金属で構成したもので、この構成によれば、ヒューズエレメント部と
外部電極とを接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができると
25 いう作用効果が得られるものである。」(【0009】)
(e) 発明の効果
「以上のように本発明の面実装型電流ヒューズは、絶縁性を有するケースと、
このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成された外部
電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を配設し
たヒューズエレメント部とを備え、前記溶断部を前記ヒューズエレメント部の一
5 部を切削することによって設けているため、この切削によって溶断部の線径を調
整でき、これにより、溶断特性を調整することができるという優れた効果を奏す
るものである。」(【0016】)
(f) 発明を実施するための最良の形態
「図4、図5において、本発明の実施の形態2が上記した本発明の実施の形態
10 1と相違する点は、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の金属で
構成した点である。この場合、外部電極13はケース11の底部11aの端面お
よび裏面に沿うように折り曲げている。」(【0035】)
「上記構成においては、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを一体の
金属で構成しているため、ヒューズエレメント部15と外部電極13とを接続す
15 る必要はなくなり、これにより、生産性を向上させることができるという効果が
得られるものである。」(【0036】)
【図4】 【図5】
b 容易推考性
20 (a) 乙3公報の発明の詳細な説明によれば、乙3発明は面実装型電流ヒュー
ズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の面実装型電流ヒューズにおいて
は、ヒューズエレメント部4として同じ線径のものや同じ材料のものを使用して
いるため、線径や材料によって決まる溶断電流等の溶断特性を調整することがで
きないという課題を有していたこと(同【0004】)に対し、絶縁性を有するケー
スと、このケースの内部に形成された空間部と、前記ケースの両端部に形成され
た外部電極と、この外部電極と電気的に接続され、かつ前記空間部内に溶断部を
5 配設したヒューズエレメント部とを備え、ヒューズエレメント部の切削によって
溶断部の線径を調整でき、溶断特性を調整することを可能としたものである(同
【0007】【0016】)。そして、特に、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体
の金属で形成する構成をとることによって、ヒューズエレメント部と外部電極と
を接続する必要がなくなるため、生産性を向上させることができるという効果を
10 奏すること(同【0009】【0036】)や、発明の実施の形態として、外部電極13
がケース11の底部11a の端面及び裏面に沿うように折り曲げられた形態が記
載されている(同【0035】【図4】【図5】)。
以上によれば、乙3公報には、面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の
向上を目的として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の
15 金属で形成するという乙3発明が開示されているといえる。
一方、乙1公報の発明の詳細な説明によれば、乙1発明は表面実装超小型電流
ヒューズに関する発明であり(段落【0001】)、従来の表面実装小型電流ヒュー
ズは、可溶部あるいは可溶線が合成樹脂や低融点ガラス等の絶縁物に直接接触し
た構造である場合、可溶部等が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断
20 性能がおろそかにされている問題(同【0002】~【0004】)や、電極をケース内
に配置固定した後、電極間に可溶線を架張して半田付けする方式は、半田が固ま
る際に生じる盛り上がりの差により電極間の長さ、すなわち、可溶線の長さにば
らつきが生じるという問題があったこと(同【0005】)に加え、従来の小型ある
いは超小型電流ヒューズは、各部品を一つ一つバッチ工程で加工組立てを行う必
25 要があり、部品が小さいためその作業は困難を極め、製造し難く、その結果、低
コスト化にも限界があるという問題があった(同【0006】)。これに対し、乙1
発明は、可溶線5を挟持した一対の金属電極2が箱型形状を有する本体1の両端
に取り付けられ、蓋部3を本体1の上面より僅かに沈む位置まで押し込み接着剤
を塗布して蓋部3を本体1に固定して内部を密閉し、可溶線は本体1の内部空間
に浮いた状態で架張されている構成をとることで(同【0008】)、溶断特性のば
5 らつきを最小限に抑えることや従来型と比べて2倍以上大きい遮断能力を有す
ることを可能としたこと(同【0028】~【0030】)に加え、連続工程で製作組立
を行うこと、特に、可溶線5を挟持した一対の金属電極2を組み立てた後に鞍部
21を本体1の双方の短側壁11に嵌合させて固定することにより、製造が容易
になって、大幅なコスト削減が可能となるという効果を奏するものである(同
10 【0020】【0027】)。
そうすると、乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装型ヒューズに関する発
明であり、その技術分野は同一である。また、乙1発明と乙3発明は、いずれも
生産性の向上という同一の課題に対し、予めヒューズと電極とを組み合わせた後
に本体に固定するという技術思想に基づく課題解決手段を提供する発明である
15 ことに加え、乙1発明の溶断時間のばらつきを抑えるという課題と乙3発明の溶
断特性を調整するという課題は、所望の溶断特性を実現するという点で関連して
いるといえる。
したがって、乙1発明と乙3発明は、技術分野、課題及び解決手段を共通にす
るから、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在するものと認められる。
20 (b) 原告の主張
原告は、乙1発明と乙3発明とは、その課題等が相違することのほか、乙3発
明において、ヒューズエレメント部の切削を容易にするためには、乙1発明のケ
ース11は上下方向の中央で分割される必要があること、乙1発明の本体1の空
間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置する場合、ヒューズエレ
25 メント部15を切削する必要があるが、所望の抵抗値が得られるように切削する
ことは実質的に不可能であることから、乙1発明に乙3発明を組み合わせること
はその構成上不可能であることなどの阻害要因があるとして、被告製品と乙1発
明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない旨を主張する。
しかし、前記(a)のとおり、乙1発明と乙3発明の課題は同一又は関連してい
る。また、乙3公報の発明の詳細な説明によれば、ヒューズエレメント部の切削
5 は、スクライブやパンチング等の機械的方法によって行うが、予めヒューズエレ
メント部の切削をした後にケースに固定をしてもよい旨が記載されていること
から(段落【0022】【0027】【0028】)、ヒューズエレメント部を切削するため
に、ケースを上下方向の中央で分割する必要があることにはならない。また、乙
3発明を乙1発明に適用するに当たり、乙1発明の空間部6内に、外部電極と一
10 体の金属で形成され、溶断部を配設したヒューズエレメント部を配置することと
なるが、空間部6内にヒューズエレメント部を配置する場合に、当該ヒューズエ
レメント部を切削する必要が必ずしもあるともいえない(ヒューズエレメント部
の一部の切削は本体への配置前に行うことができる。)。その他、乙1発明に乙
3発明を組み合わせることについて阻害要因があることをうかがわせる事情は
15 ない。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(c) 以上から、乙1発明に乙3発明を適用する動機付けが存在し、これを阻害
する要因は認められないから、乙1発明の可溶線と金属電極は異なる部材で構成
される構成に代えて、乙3発明の、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外
20 部電極部を一体の金属で形成する構成を採用して被告製品の構成とすることは、
当業者が本件特許の出願時に容易に推考し得たものと認められ、被告製品は、均
等の第4要件を満たさない。
(3) したがって、被告製品について均等侵害は成立しないから、被告製品は本
件発明の技術的範囲に属さない。
25 2 争点2(本件追加の可否)について
本件追加は、被告製品が、本件発明に係る請求項とは別の請求項記載の本件発
明2の技術的範囲に属するとして請求原因を主張し、本件特許権の侵害に基づく
各請求を追加するものであるから、訴えの追加的変更に当たると解するのが相当
であるところ、当裁判所は、本件追加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させ
ることとなると認め、これを許さないこととする(民訴法143条1項ただし書、
5 同条4項)。
すなわち、本件追加に係る請求原因は、原告において、審理の当初から主張す
ることが可能であったところ、令和4年11月28日の書面による準備手続中の
協議において、当裁判所は、当事者双方に対し、被告製品は本件発明の技術的範
囲に属さないとの心証を開示して、話合いによる解決を検討するよう促し、その
10 後、和解協議を行ったものの、令和5年1月27日の同協議において、これ以上
の和解協議は行わないこととなり、口頭弁論の終結に向けて、原告は、これまで
の主張の補充及び反論を記載した書面を提出する旨述べたが、同年2月27日付
けの準備書面5において、本件追加を行ったものである(当裁判所に顕著な事実)。
このように、本件追加が行われた時点で、本件訴訟は、被告製品が本件発明の技
15 術的範囲に属さないとの当裁判所の心証開示を踏まえた和解協議を終え、審理を
終結する直前の段階に至っていた。仮に、本件追加を許した場合、被告製品が本
件発明2の技術的範囲に属するか否かや、本件特許に係る無効理由の有無につい
ても改めて審理を行う必要があり、そのために相当な期間を要することになるこ
とは明らかである。そうすると、本件発明2が本件発明1の従属項であり、構成
20 要件の一部が同一であること、その他原告が指摘する事情を考慮しても、本件追
加は、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになると認められる。
3 結論
よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理
由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
5 裁判長裁判官
武 宮 英 子
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官
峯 健 一 郎
(別紙)
製 品 目 録
1 名称 Surface Mount Fuse-SMD MMS-P 020
5 同 MMS-P 030
同 MMS-P 040
同 MMS-P 050
2 構成 別紙「被告製品の構成」の「原告の主張」欄記載のとおり。
被告製品の各構成部品の後に付した符号は、対応する本件の特許発明の構成部
10 品について本件の特許発明の明細書及び図面に付された符号と同じものとした。
また、添付の被告製品写真においても、各構成部品について上記説明中の符号と
同一の符号を付した。
3 外観 別紙「被告製品写真」のとおり。
15 以上
(別紙) 被告製品の構成
原告の主張 被告の主張
基板への取り付け用端子の2つの平板状部10を
a-1 原告の主張と同じ。
間隔をあけて同一水平面上に有し、
当該水平面とは異なる高さにある水平面におけ
a-2 る前記2つの平板状部間に位置するヒューズ4 同上
が、
前記平板状部と一体形成されている端子一体型
a-3 同上
ヒューズと、
主壁面16が閉じられ、前記主壁面と異なる水平
b-1 同上
面に位置する他方の面が開口され
前記開口の周縁から前記主壁面に向かう側壁部
b-2 同上
(18、20、22、24)を有し、
前記ヒューズ4が前記開口から前記主壁面側に向
b-3 同上
かう中途の位置に位置し、
前記2つの平板状部が前記側壁部にそれぞれ接
b-4 同上
触しているケース14と
前記ケース内には前記ヒューズ4の周辺に前記
前記ケース内には前記ヒューズ4の周辺に前記
ヒューズ4を包摂するように前記主壁面、その側
ヒューズ4を包摂するように前記主壁面、その側
壁部と同ケース14内のヒューズ4と前記開口部と
c 壁部と同ケース内のヒューズと前記開口部との
の間に設けられた隔壁101と、前記隔壁101と前記
間に設けられた隔壁101により形成された密閉さ
ケース14を接着剤で接着することにより形成され
れた空間26を設けた
た密閉された空間26を設けた
d チップ型ヒューズ 原告の主張と同じ。
(別紙)
被 告 製 品 写 真
5 1 全体図(被告製品パンフレット(甲5)より)
7.3±0.3mm
4.0±0.2mm
5.8±0.3mm
2 展開図
主壁面(16)
側壁(18、20)
側壁(22、24)
立ち上がり部(12)
3 X 線断面図
側壁(22、24)
主壁面(16)
ヒューズ本体(4)
連結部(6)
傾斜部(8)
隔壁(101)
立ち上がり部(12) 立ち上がり部(12)
平板状部(10)
空間(26)(斜線部)
4 Y 線断面図
側壁(18、20)
端壁(22、24)
ヒューズ本体(4)
連結部(6)
平板状部(10)
立ち上がり部(12) 立ち上がり部(12)
以上
(別紙) 均等侵害の成否等
原告の主張 被告の主張
被告製品には、本件発明の構成要件Cにおける「消弧材部」に対応する消弧作用を有する部分、具体的には、ヒューズエレメント本体の周囲に空
間(空気層)を設け、隔壁とケースを接着剤で接着することでより密閉された状態が存在し、置換構成を有するから、均等論が適用される。
被告製品は、本件発明の構成要件Cの「消弧材部」を具備せず、消弧材部と技術的に置換した構成も有しない。
すなわち、消弧に有効な方法としては、(1)再起電圧を低下させる、(2)絶縁耐力を高める、(3)しゃ断電流を減衰させる方法があり、アークの周
すなわち、空気(大気圧)による密閉状態によって、特段の消弧作用が生じることはなく、また、接着剤の塗布により消弧作用は生じない
囲の圧力を高めることがこれらに資するとされている。被告製品の構成により、隔壁とケースを接着剤で接着することでより密閉された状態に
から、被告製品は、空気(大気圧)で絶縁するだけであり、ケース内の圧力が上昇するものでも、接着剤が気化するものでもない。
なると、ヒューズエレメントが遮断する時の気化により、容器内の圧力が高くなり、その結果、上記(1)ないし(3)の方法により消弧作用が生じ、
なお、本件明細書(段落【0030】)には、ケース内の圧力を下げた方が消弧性が向上する旨が記載されており、原告がアークの周囲の圧力
接着剤により密閉していない場合よりも消弧作用が大きくなる。また、接着剤を塗布した場合、同接着剤はアーク放電が起こる際に発生する大
を高めた方が消弧性が向上すると主張することは禁反言の法理により許されない。
量の熱により気化するが、その際にヒューズエレメントの熱を奪い、アークを冷却するから、かかる作用によっても、上記(1)の方法により、接
均等論の適用
着剤を塗布しない場合よりも消弧作用が大きくなる。
の可否
仮に、被告製品に本件発明の構成要件Cに対応する構成が存在しないとしても、均等の要件を実質的に満たす限り、均等論が適用されるべきであ
る。
均等論は、特許請求の範囲に記載された構成の一部を他の技術等に置き換えた置換構成を有する場合に適用される法理であり、構成の一部
すなわち、現行の特許法の下では、特許請求の範囲の構成要件の一部を他の構成に置換した場合と欠落した場合とで、特別に区別をしなければ
が欠落した場合において、特許請求の範囲に含まれるものとして解釈することは、単なる特許請求の範囲の拡張の主張であって許されな
ならない理由はない。また、出願当初にあらゆる侵害態様を予想して特許請求の範囲を作成することは困難であるから、限定された要件の下で
い。
権利者を救済するという均等論の趣旨からすれば、特許請求の範囲に記載されている構成の一部が欠落している実施(不完全利用)について
も、その趣旨を及ぼすべきである。
従来、薄膜型エレメントを使用するヒューズは製造工程が複雑で面倒であり、端子一体型のヒューズを製作することが困難であるという難点が
あった。また、端子非一体型のヒューズは、製法上、ヒューズ本体(エレメント)部分と端子部分に接続点が存在するため、接触抵抗による発
熱が生じてしまう、エレメント部分の周囲に空間を設けることができないため、遮断特性が満足できず、定格電流を高めて高電流に対応するこ
とが困難であるという難点があった。定格電流を高め、高電流にも対応が比較的容易な線エレメントタイプで、線エレメントをセラミックケー
スに収める構造のヒューズもあるが、ヒューズ本体部分と端子部分が別々に製作されるため、両者の接続部分の接触抵抗により発熱が生じるな
どの不具合を生じ、ヒューズの性能が安定しないだけでなく、高電流になるほど製品寿命にも影響を及ぼす可能性があった。本件発明は、上記
第1要件
の課題を解決することを目的として、ヒューズ本体と端子が一体に形成された端子一体型ヒューズであって、セラミックケース内に安定的に収
納されかつその端子部分がケース外部に存在する電極との接続を可能にするため、「基板への取り付け端子の2つの平板状部を間隔をあけて同
一水平面上に有し、当該水平面とは異なる高さにある水平面における前記2つの平板状部間に位置し、かつ前記平板状部がセラミックケースの
周縁部および周壁部に接触する構造を有する端子一体型ヒューズ」とする構成としたものである。
したがって、本件発明の本質的な構成部分は、構成要件のうちA-1ないしA-3、B-3及びB-4であり、構成要件Cは本件発明による課題解決方法に
資するものではないから、本質的部分ではない。
本件発明の作用効果は、①従来の製造方法と比較して、チップ型ヒューズの製造が容易であること、②板状の比較的厚いCu層をヒューズの母材
として使用することができるので、例えば50A程度の大電流に対応できること、③ヒューズ本体と実装用の端部電極である平板状部とが一体形成
されるので、ヒューズ本体と平板状部とを接続するための不要な抵抗成分が発生せず、信頼性の高いヒューズが得られることである。 存在しない置換構成により、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものか否かは判断できないから、第2要件の充
第2要件
被告製品の構成a-1ないしb-4は本件発明の構成要件A-1ないしB-4と同一であり、被告製品の構成cと本件発明の目的や作用効果とは無関係で 足は否定される。
あって、被告製品が本件発明と同一の目的を達成し同一の作用効果を奏することを妨げない。
したがって、被告製品が構成cを有するとしても、被告製品は本件発明とその目的や作用効果が同じである。
被告製品は、本件発明の構成要件Cに対応する構成として構成cを有するが、その余の構成は、本件発明の構成要件A-1ないしB-4と同一であるた
被告製品の製造等の時点において、存在しない置換構成を当業者が容易に想到できたか否かを判断することはできないから、第3要件の充
第3要件 め、本件発明と同一の目的を達し、同一の作用効果を奏しうることは明白であり、被告製品の製造時においては、本件発明の構成要件Cを被告製
足は否定される。
品の構成cに置換することは、当業者であれば容易に想到することができる。
(別紙) 均等侵害の成否等
被告の主張 原告の主張
被告製品の構成は、本件発明の特許出願時における公知技術(乙1発明)と同一又は当業者が乙1発明から出願時に容易に推考できたものである。 争う。
乙1公報には、以下の構成の発明(乙1発明)が記載されている。
(α-1)基板への取り付け用金属電極の2つの鞍部21を間隔をあけて同一水平面上に有し、
(α-2)当該水平面とは異なる高さにある水平面における前記2つの鞍部間に位置する可溶線5が、
乙1公報にα-1、β-1ないしβ-4及びδの構成が記載されていることは認める。
(α-3)金属電極2の可溶線挟持部22に挟み込まれることにより一体形成されている電極一体型ヒューズと
α-2については否認する。乙1公報の段落【0018】には可溶線5の端部は第一板部と第二板部とにより挟み込まれ、金属電極2によって固定されることが開示され
(β-1)底部13が閉じられ、前記底部13と異なる水平面に位置する他方の面が開口され
ているのみであり、「(基板への取り付け部と)異なる高さにある水平面」に可溶線が位置することまで明示していない。
(β-2)前記開口の周縁から前記底部13に向かう2つの短壁11と2つの長壁12を有し、
α-3については「金属電極2の可溶線挟持部22にヒューズが挟み込まれている」との構成は認め、「一体形成されている」「電極一体型ヒューズ」の文言が「電極
(β-3)前記可溶線5が前記開口から底面側に向かう中途の位置に位置し、
とヒューズが同一の金属によって一体的に形成されている」との趣旨であれば否認する。
(β-4)前記2つの鞍部21が前記2つの短壁11にそれぞれ接触している本体1と
γについては「前記蓋部3を接着剤4で接着することにより形成された密閉された空間6」を有するとの点は不知であるが、その余は認める。
(γ)前記本体1内には前記可溶線5の周辺に前記可溶線5を包摂するように前記底部13、その2つの短壁11と2つの長壁12と同本体1内の前記可溶線5と前記開口部との間に
設けられた蓋部3と、前記蓋部3を接着剤4で接着することにより形成された密閉された空間6を設けた
(δ)表面実装超小型電流ヒューズ
①被告製品の構成a-2及びa-3は、乙1公報には開示されていないから、被告製品が乙1発明と同一である旨の被告の主張は争う。
①被告製品の構成a-1ないしdは、乙1発明の構成α-1ないしδをそれぞれ充足するから、被告製品は公知技術である乙1発明と同一である。
乙1公報の特許請求の範囲の記載からすると、可溶線と可溶線挟持部とは異なる部材として構成され、両者の関係は、可溶線の両端部と可溶線挟持部が「挟持」
被告製品の構成a-2に対応する乙1発明の構成α-2は乙1公報の段落【0018】及び【図2】(A)に記載されており、被告製品の構成cに対応する乙1発明の構成γは乙1公
によって結びつけられているにすぎず、物理的なあるいは構造的な一体性は存在しない。加えて、乙1公報には上記可溶線と可溶線挟持部を含む電極が同一の素
報の段落【0020】及び【図2】(A)に記載されている。また、乙1発明の構成α-3については、可溶線と電極とを一体に構成するか、別体で構成するかは当業者が適宜適
材によって製造されていることを示し、あるいはこれを示唆する記述も存在しない。
用可能な設計事項であるから、実質的に被告製品の構成a-3と同一である。
また、ある部材が他の部材によって挟持される場合に、両者が「一体的に形成されている」と評価されることは相当でないことは明らかである。
②乙2発明は、基本的に金属箔で構成された端子及び可溶体が異なる金属材料で構成された場合における「端切れ」という課題を解決するための手段を提供する
②仮に、被告製品の構成a-3はヒューズ部分が平板状部と一体形成されているのに対し、乙1発明の構成α-3はヒューズ部分に相当する可溶線5が鞍部22を構成する金属電
ものであり、非薄膜型ヒューズにおいて同様の課題が生じることは開示されておらず、その課題解決手段を提供するものではない。また、乙1発明の課題は「製
極2の可溶線挟持部22で挟持されている点において相違するとしても、当該被告製品の構成は、乙2公報に開示された構成に置換することにより、当業者に容易に推考可
造が容易な構造を有し、その溶断時間のバラツキを最小限に抑え、かつ信頼性を有する表面実装超小型電流ヒューズを提供することにある」のであり(乙1公報
能である。
の段落【0007】)、乙2発明の課題とは異なる。さらに、乙1発明は、その課題を解決するため、金属電極と可溶部が異なるものとして形成され、それが可溶線
すなわち、乙2公報(請求項1、段落【0003】~【0007】【0019】等)には、表面実装可能な小型ヒューズにおいて、可溶体と端子とが異なる金属材料で構成されてい
挟持部において接続する構成となっているが(乙1公報の請求項1)、そのような構成において、乙2発明における「端切れ」が生じるという課題については記
ることにより生じる「端切れ」という現象を解決課題として、可溶体と端子を同一の金属材料で一体に形成する構成を採用した乙2発明が開示されている。
載も示唆も全くないから、乙1発明の被告製品との相違部分を乙2発明に置き換える動機付けがない。むしろ、乙2発明は、可溶体がその上下を絶縁材料ではさ
乙1発明と乙2発明は、いずれも小型の表面実装可能なヒューズに関するものであり、技術分野は同一である。また、乙2発明は、可溶線部と金属電極が別部材で構成さ
みこまれた状態で支持され、可溶部が絶縁物と直接接触する構造となるヒューズを前提にするものであるため、乙2発明を、従来技術が「可溶部が絶縁物に直接
れていることによる「端切れ」を解決課題として、可溶線部と金属電極を一体に形成するというものであり、乙1発明の構成から生じる課題を解決するものである。
接触する構造」であったことにより生じる、「ヒューズ自体の発熱を大きくする欠点」を解決することを課題として設定する乙1発明に適用することは、乙1発
そして、「製造が容易な構造を有し…」との乙1発明の解決課題(作用効果)及び乙2発明の上記課題解決手段(作用効果)からすれば、これらの発明から生じる作用効
第4要件 明が解決しようとする課題とその解決手段としてのヒューズの構造とその作用、効果を阻害するおそれがある。
果は、製造が容易であるヒューズと端子とが一体に形成されたチップ型ヒューズを提供するという本件発明の作用効果と同一であるといえる。
したがって、被告製品と乙1発明の相違部分は、乙2発明から容易に推考できたとはいえない。
③乙3発明は、ヒューズエレメント部3として同じ線径や同じ材料を使用しているため、線径や材料によって決まる溶断電流の溶断特性を調整することができない
という課題の解決手段、ヒューズエレメント部と外部電極とを一体の金属で構成したことにより、ヒューズエレメント部と外部電極とを接続する必要性がなくな
り、生産性を向上させることができるという課題解決手段を提供するものであり(乙3公報の段落【0004】【0005】【0009】)、可溶線とこれを挟持する金属電
③仮に、被告製品と乙1発明が前記②記載の点において相違するとしても、当該被告製品の構成は、乙3公報に開示された構成に置換することにより、当業者に容易に推
極は金属素材をもって一体として形成されず、線径や素材を逐次変更することができることを前提とする乙1発明とは課題が相違する。また、乙3発明は、溶断
考可能である。
特性の調整のため、ヒューズエレメント部15の中央を切削して溶断部14を形成することが必要で、切削を容易にするために底部11a上にヒューズエレメント部15を
すなわち、乙3公報(請求項1、請求項3、段落【0009】【0035】【0036】等)には、(表)面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の向上を目的(解決課題)と
載置し、ケース11は、上下方向の中央で分割された底部11aと蓋部11bとする必要があるのに対して、乙1発明は、「可溶部が絶縁物と接触することにより、可溶
して、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の金属で形成するという乙3発明が開示されている。
部が熱的中立性を保てず本来のヒューズとしての溶断性能がおろそかにされている」という従来技術の問題点を解決するため、溶断部を含むエレメント部分が絶
乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装可能なヒューズに関するものであり、技術分野は同一である。また、乙3発明は、生産性の向上を解決課題として、溶断部を配
縁体ないし絶縁材料を有する部分と接触しないようにし、「その可溶線(溶断部)の両端は、前記本体の空間部内に架張されるよう前記一対の金属電極の可溶線
設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の金属で形成する構成を採用したものであり(ヒューズエレメント部と外部電極とを接続する必要がなくなるから、工程が
挟持部により挟持され」る構造としているから、乙1発明と乙3発明は、ヒューズの構造のみならず、解決しようとする技術的な課題を異にしている。
減少し、生産性が向上する。)、製造が容易な構造を有する表面実装超小型電流ヒューズを提供する(乙1公報の段落【0007】)という乙1発明の解決課題と同一であ
さらに、乙3発明の作用効果は、乙3発明の前記構成を前提としているから、仮に、乙3発明の構成を乙1発明に適用しようとすると、乙1発明の本体1を底部と
る。さらに、乙3発明は、精度よく所定の抵抗値が得られるという作用効果を有するところ(乙3公報の段落【0008】)、当該作用効果は乙1発明の溶断時間のバラツキ
蓋部とに分割することが必要であるが、乙1発明の金属電極2の配置位置からみて、そのように分割することは不可能であるし、仮に、乙1発明の本体1の空間部6
を最小限に抑え、かつ高い信頼性を有する表面実装超小型電流ヒューズを提供するという解決課題に対応する。
内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置したら、空間部6内にあるヒューズエレメント部15を切削する必要があるが、空間部6内にあるヒューズエレメント
部15を、所望の抵抗値が得られるように切削することは実質的に不可能である。したがって、乙3発明を乙1発明に適用することには阻害要因がある。
以上から、被告製品と乙1発明の相違部分は、乙3発明から容易に推考できたとはいえない。
④仮に、被告製品と乙1発明が前記②記載の点において相違するとしても、当該被告製品の構成は、周知技術(乙2公報、乙3公報、特開平1-287905号(乙
④乙4ないし乙8記載の技術は、本件発明及び被告製品の技術分野における周知技術とはいえない。
4)、特開平5-166454号(乙5)、特開平7-57614号(乙6)、実開平5-69847号(乙7)、特開2011-9157号(乙8))を適用することに
また、乙4ないし乙8記載の技術は、いずれも技術分野、目的、課題、課題解決方法が本件発明及び被告製品とは異なっており、乙1発明と被告製品との相違点
より当業者に容易に推考可能である。
に適用すべき前提となる課題や課題解決手段の共通性は存在しないし、乙4ないし乙8記載の各技術相互間も、技術分野が異なっていたり、課題や課題解決方法
すなわち、これらの乙2公報等には、ヒューズ部分(可溶線)が平板状部(端子)と一体形成されている端子一体型ヒューズが開示されており、これは本件発明の特許出
に共通性がない。
願時の周知技術である。仮に、被告製品の課題と本件発明の課題が同一であるならば、被告製品の課題と乙1発明の課題も同一であり、本件発明の課題と乙1発明の課題
さらに、乙2ないし乙8には、本件発明や被告製品のように、一方の面が開口されたケースの開口面側に端子を配置し、溶断部をケースの内部(空間部)に配置
も同一であると考えられる。そして、乙1発明の構成α-3を、「ヒューズ部分(可溶線)が平板状部(端子)と一体形成されている端子一体型ヒューズ」との周知技術を
し、ケースの内部で端子と溶断部とを一体に形成することまでは示されていない。
適用して置換することについての阻害要因はなく、むしろ、前記②及び③のとおり、乙2発明及び乙3発明は乙1発明と課題の共通性があることから、積極的な動機付け
したがって、これらの技術を乙1発明に適用することによって本件発明及び被告製品が容易に推考できるとはいえない。
がある。
第5要件 本件発明の特許出願手続において被告製品を意識的に除外したものであるなどの特段の事情はない。
(別紙) 無効主張一覧
被告の主張 原告の主張
乙1発明に基づく進歩性欠如 本件発明は乙1発明から当業者が容易に想到する発明である。 争う。
乙1発明の構成 充足論(均等侵害の成否等)における均等の第4要件に関する被告の主張(α-1ないしδ)のとおり。 乙1公報に少なくともα-3の構成が開示されていることは否認する。
本件発明と乙1発明 乙1公報に少なくともα-3の構成は開示されておらず、本件発明の構成要件A-3に対応する構成は開示されていないから、この点において乙1発明と
乙1発明の構成α-1ないしβ-4及びδは、本件発明の構成要件A-1ないしB-4及びDにそれぞれ相当する。
の一致点 本件発明は相違する。
相違点1 乙1発明には本件発明の構成要件A-3に相当する構成がないことは相違点である。
本件発明と乙1発明
1 本件発明は、ヒューズのケース内において消弧材部を具備しているのに対し、乙1発明には、単に蓋部と接着剤で密閉 被告主張の相違点1は否認する。乙1発明には「蓋部と接着剤で密閉された空間」が存在し、これが本件発明の「消弧材部」に相当する部分に当た
の相違点
された空間しかない点 るので、乙1発明は「消弧材部」の構成を有するといえる。
原告は、乙1発明の構成γと同様の構成を有する被告製品の構成を、本件発明の構成要件Cと置換することは、被告製
品の製造時に当業者であれば容易に想到可能であったと主張する(均等侵害の第3要件に関する原告の主張欄参照)。
相違点1に係る本件
そうであれば、被告製品製造時のみならず、乙1発明が公開された本件特許出願時より前の時点においても、消弧機能
発明の構成の容易想 乙1発明には本件発明の構成要件A-3に相当する構成がないとの相違点を看過して、乙1発明から本件発明が容易想到である旨の主張は理由がない。
の向上を目的として、乙1発明の構成γを、消弧材部を設けるという本件発明の構成要件Cの構成に置換することは、
到性
当業者であれば容易に想到可能であったといえる。特に、消弧材部を設けない置換が容易であるのであれば、逆に消弧
材部を設ける置換が容易でないといえるような理由が本件特許出願時にはおよそ認められないからである。
乙1発明及び乙2発明に基づ
本件発明は乙1発明に乙2公報記載の事項を適用して当業者が容易に想到できる発明である。 争う。
く進歩性欠如
乙1発明の構成 前記1と同じ。 乙1公報にα-3の構成が開示されていることは否認する。
前記1の相違点1に加え、
本件発明と乙1発明 相違点2
相違点2に係る構成の相違が存在する。
の相違点 本件発明のヒューズが2つの平板状部と一体に形成されている端子一体型のヒューズであるのに対し、乙1発明は、
ヒューズ部分に相当する可溶線5が、鞍部22を構成する金属電極2の可溶線挟持部22で挟持されている点
表面実装可能な小型ヒューズにおいて、可溶体と端子とが異なる金属材料で構成されていることにより生じる「端切
乙2公報記載の事項 れ」という現象を解決課題として、可溶体と端子を同一の金属材料で一体に形成する構成を採用した発明が開示されて
いる。
乙2公報の段落【0009】に記載される「剥離」は、同【0004】における「金属材料」が「金属膜」であるために、可溶体と端子との間に機械的なス
トレスが繰り返し加わることで生じるのであり、乙2発明で課題とされる「端切れ」は、「金属材料」が金属膜であるからこそ生じるものである。
一方、乙1発明において、可溶線5と金属電極2とは、可溶線5が可溶線挟持部22に挟み込まれることにより固定されるため(乙1公報の段落
【0018】)、機械的強度が高く、可溶線5が可溶線挟持部22との間に機械的なストレスが繰り返し加わったとしても、可溶線5が可溶線挟持部22から
「剥離」することはなく、乙2発明で問題となるような意味での「端切れ」は生じない。したがって、乙1発明と乙2発明の解決すべき課題に共通
性はない。
乙1発明は、従来技術が「可溶部が絶縁物に直接接触する構造」により生じる「ヒューズ自体の発熱を大きくする欠点」を解決課題として設定し、
乙1発明と乙2発明は、いずれも小型の表面実装可能なヒューズに関するものであり、技術分野は同一である。また、
課題解決の手段として、可溶部が、絶縁材料で形成された本体内部の中空部に、可溶線挟持部に挟持されて配設され、絶縁材料からなる本体とは接
相違点2に係る本件 乙2発明は、可溶線部と金属電極が別部材で構成されていることによる「端切れ」を解決課題として、可溶線部と金属
しない形で存在する特徴のある構造により、「本体の底面と蓋部の裏面との間に浮いた状態で簡単正確に保持することが可能」となり、その結果、
発明の構成の容易想 電極を一体に形成するというものであり、乙1発明の構成から生じる課題を解決するものである。
溶断時間のバラツキを抑えることができるとするものである(乙1公報の段落【0029】)。一方、乙2発明は、可溶体がその上下を絶縁材料ではさ
到性 したがって、仮に相違点2が存在するとしても、本件特許出願時において、乙1発明に接した当業者が、乙2記載の事
みこまれた状態で支持され、可溶部が絶縁物と直接接触する構造となるヒューズを前提にするものであるため、これを、上記解決課題を設定する乙
項を適用して、相違点2に係る本件発明の構成に至ることは容易である。
1発明に適用することは、乙1発明が解決しようとする課題とその課題を解決する手段としてのヒューズの構造とその作用、効果を阻害するおそれ
がある。また、乙1発明は、解決課題として「製造が容易な構造」を有する点も挙げ、課題を解決する手段としては、「全工程」を「連続工程で容
易に行うことができ、量産性に優れている」という技術的な特性を挙げている。一方、乙2発明は、可溶体と端子とを一体の金属で構成するために
は、その基板となる絶縁体とは異なる工程で製造しなければならず、複雑な過程を経て行なわれるため、これを連続工程で容易に行うことはできな
い。そうすると、乙1発明の可溶体と可溶体保持部分及び端子を、乙2発明のような可溶体と端子とを同一の金属材料で一体に構成される部材に変
更することによって、「製造の容易な構造」とその製造を「連続工程で容易に行う」という乙1発明の解決すべき課題や作用、効果を阻害するおそ
れがある。
(別紙) 無効主張一覧
被告の主張 原告の主張
乙1発明及び乙3発明に基づく
本件発明は乙1発明に乙3公報記載の事項を適用して当業者が容易に想到できる発明である。 争う。
進歩性欠如
乙1発明の構成 前記1と同じ。
本件発明と乙1発明
前記2と同じ。
の相違点
(表)面実装可能な小型ヒューズにおいて、生産性の向上を目的(解決課題)として、溶断部を配設したヒューズエレメン
乙3公報記載の事項
ト部と外部電極を一体の金属で形成するという発明が開示されている。
乙3発明は、溶断特性の調整ができる面実装型電流ヒューズを提供することを目的とするものであり(乙3公報の段落【0005】)、底部11aの両端部の上面に載置されたヒューズ
3 エレメント部15の中央を切削して溶断部14を形成することが必要で、切削を容易にするために底部11a上にヒューズエレメント部15を載置する必要がある。すなわち、ケース11
乙1発明と乙3発明は、いずれも表面実装可能なヒューズに関するものであり、技術分野は同一である。また、乙3発明
は、上下方向の中央で分割された底部11aと蓋部11bとする必要がある。一方、乙1発明は、「可溶部が絶縁物と接触することにより、可溶部が熱的中立性を保てず本来のヒュー
は、生産性の向上を解決課題として、溶断部を配設したヒューズエレメント部と外部電極を一体の金属で形成する構成を採
ズとしての溶断性能がおろそかにされている」という従来技術の問題点を解決するため、溶断部を含むエレメント部分が絶縁体ないし絶縁材料を有する部分と接触しないように
用したものであり(ヒューズエレメント部と外部電極とを接続する必要がなくなるから、工程が減少し、生産性が向上す
し、「その可溶線(溶断部)の両端は、前記本体の空間部内に架張されるよう前記一対の金属電極の可溶線挟持部により挟持され」る構造としているから、乙3発明とは、ヒュー
相違点2に係る本件 る。)、製造が容易な構造を有する表面実装超小型電流ヒューズを提供する(乙1公報の段落【0007】)という乙1発明の
ズの構造のみならず、その解決しようとする技術的な課題及びその解決手段としての技術思想を異にするものであり、両者の間には課題の共通性は存在しない。
発明の構成の容易想 解決課題と同一である。さらに、乙3発明は、精度よく所定の抵抗値が得られるという作用効果を有するところ(乙3公報
また、乙3発明は、ヒューズエレメントと外部電極とが同一の金属で構成されているとの特性やそのことによる「生産性を向上させることができる」(乙3公報の段落
到性 の段落【0008】)、当該作用効果は乙1発明の溶断時間のバラツキを最小限に抑え、かつ高い信頼性を有する表面実装超小
【0009】)という作用効果を有するところ、乙3発明の構成を乙1発明に組み合わせようとすると、乙1発明の本体1を底部と蓋部とに分割することが必要であるが、乙1発明の
型電流ヒューズを提供するという解決課題に対応する。
金属電極2の配置位置からみて、そのように分割することは不可能である。加えて、乙1発明の本体1の空間部6内に乙3発明のヒューズエレメント部15を配置したなら、空間部6
したがって、本件特許出願時において、乙1発明に接した当業者が、乙3公報記載の事項を適用して、相違点2に係る本件
内にあるヒューズエレメント部15を切削する必要があるが、空間部6内にあるヒューズエレメント部15を、所望の抵抗値が得られるように切削することは実質的に不可能である。
発明の構成に至ることは容易である。
以上のとおり、乙1発明に乙3公報記載の技術を適用する動機づけとなるような課題の共通性はなく、かえって、その適用を阻害する要因が存するから、相違点2に係る本件発明
の構成が容易想到であるとはいえない。
乙1発明及び周知技術(乙2~
本件発明は乙1発明に乙2ないし乙8から導かれる周知技術を適用して当業者が容易に想到できる発明である。 争う。
8)に基づく進歩性欠如
乙1発明の構成 前記1と同じ。
本件発明と乙1発明
前記2と同じ。
の相違点
乙2ないし乙8に開
ヒューズ部分(可溶線)が平板状部(端子)と一体形成されている端子一体型ヒューズ 否認する。
示された周知技術
乙1発明に乙2発明又は乙3発明を適用しても、当業者にとって本件発明が想到容易でないことは前記2及び3のとおりである。
乙1発明の構成α-3を置換して、ヒューズ部分(可溶線)と平板状部(端子)を金属材料で一体的に形成して、相違点2に
容易想到性 乙4ないし8からは、「ヒューズ部分(可溶線)と平板状部(端子)とが金属材料で一体的に形成してなる端子一体型ヒューズ」なる構成の技術が本件発明の属する分野における
係る本件発明の構成に至ることは、本件特許出願時の当業者にとって想到容易である。
当業者に対して周知であったとはいえない。
乙4について
乙4記載の発明は、インダクタンス素子(コイル)及びその製造に関する発明であり、ヒューズ又はその製造方法とは本来対象とする技術分野が相違している。また、乙4記載の
発明の解決課題は、「インダクタンス素子とヒューズとが別個の部品として回路中に挿入されていることから、それぞれを回路に組み立てる際のコストがそれだけ高くつくのみな
らず、電源のサイズもそのヒューズの設置スペース分だけ大型化する」ことにあり、ヒューズ本体のエレメントと端子部分等が接続された場合に接続部分から生じる接触抵抗によ
る発熱等の不具合を防止し、あわせて製造が容易なヒューズを提供することを目的とする本件発明とは相違している。さらに、課題解決の方法も「インダクタンス素子の内部導体
に所定の電流が流れることにより溶断するヒューズ部と一体的に設けるとともにヒューズの周囲に空洞部を設ける。」というのであり、「ヒューズの溶断部(エレメント部分)と
端子等を一体に形成する」という本件発明とは相違する。
加えて、乙4の「特許請求の範囲」の記載はインダクタンス素子(コイル)の内部導体に、従来は別個の部品として回路中に挿入されていたヒューズを「一体として」設けること
を意味するのであって、ヒューズのうち溶断部と端子が一体形成されているとの意味ではない。
乙5ないし乙7について
乙5記載の発明のチップ型ヒューズの構造及び製法は、ガラス布基材フッ素樹脂基板上に無電解銅メッキを行い厚さ4μmの銅被膜を形成した後、これをフォトレジストによる硬
化やエッチングを行って可溶体を構成し、その上部にシリコン保護膜を形成するものであり、電極部分4は前記フッ素基板上に存在するCu層(金属層)であるから、板状ないし
線状の金属材料から形成される本件発明の可溶部や端部とはその構造や製造方法が全く異なっている。そこで、乙5記載の発明の技術が「可溶体と電極部とが同一の工程で形成」
されるとしても、その技術的な意義は、他のヒューズにおいて可溶体と端子部分が同一の素材で同一の工程で製造されることとは技術的な意味が異なる。
乙6記載の発明は、基板の上に金属膜形成技術でヒューズを製作するため可溶部や端子部分の構造にこのような形成過程が反映している点で、本件発明とはその構造や製法が異
なっている。すなわち、乙6記載の発明において、ヒューズの可溶部分とその端子は金属膜で構成されており、その構造や製法のみならず、そのような発明において解決しなけれ
ばならない技術的な課題も本件発明とは異なっている。
乙7記載の発明は、可溶部分と端子も基板の存在を前提としてその上に形成された金属膜をメタルコーティング手段または真空蒸着手段により低融点の有機絶縁基材の上面により
一体的に層設されているにすぎない。
以上のように、乙5ないし乙7に開示されている技術は、本件発明や被告製品とは具体的な技術分野のみならず、解決すべき技術的課題やその解決手段としての技術思想を異にす
るだけでなく、そのヒューズの構造や製造方法も全く異なっている。よって、乙5ないし7記載の発明は、被告の主張するような周知技術の存在を証明するものではない。
乙8について
乙8記載の発明の詳細な説明や図1及び図2をみても、可溶部を含む溶断部と端子部がどのように一体形成されているのかが明確ではないし、乙8記載の発明に係るヒューズは
「移動体としての車両」などの機器に接続される比較的大型のヒューズであり、本件発明や被告製品のように基板上の回路に設置される小型の載置型ヒューズとは、その技術の応
用分野を異にする。したがって、乙8は被告主張の周知技術を開示しているとはいえない。
(別紙) 裁判所の認定
被告製品の構成 乙1発明の構成
基板への取り付け用端子の2つの平板状部10を 基板への取り付け用金属電極の2つの鞍部21を間
a-1 α-1
間隔をあけて同一水平面上に有し、 隔をあけて同一水平面上に有し、
当該水平面とは異なる高さにある水平面におけ
当該水平面とは異なる高さにある水平面における
a-2 る前記2つの平板状部間に位置するヒューズ4 α-2
前記2つの鞍部間に位置する可溶線5が、
が、
可溶線5と金属電極2は異なる部材で構成され、可
前記平板状部と一体形成されている端子一体型
a-3 α-3' 溶線挟持部22において挟持されることによって金
ヒューズと、
属電極2に接続された可溶線5と、
主壁面16が閉じられ、前記主壁面と異なる水平 底部13が閉じられ、前記底部13と異なる水平面に
b-1 β-1
面に位置する他方の面が開口され 位置する他方の面が開口され
前記開口の周縁から前記主壁面に向かう側壁部 前記開口の周縁から前記底部13に向かう2つの短
b-2 β-2
(18、20、22、24)を有し、 壁11と2つの長壁12を有し、
前記ヒューズ4が前記開口から前記主壁面側に向 前記可溶線5が前記開口から底面側に向かう中途
b-3 β-3
かう中途の位置に位置し、 の位置に位置し、
前記2つの平板状部が前記側壁部にそれぞれ接 前記2つの鞍部21が前記2つの短壁11にそれぞれ
b-4 β-4
触しているケース14と 接触している本体1と
前記ケース内には前記ヒューズ4の周辺に前記 前記本体1内には前記可溶線5の周辺に前記可溶線
ヒューズ4を包摂するように前記主壁面、その側 5を包摂するように前記底部13、その2つの短壁
壁部と同ケース14内のヒューズ4と前記開口部と 11と2つの長壁12と同本体1内の前記可溶線5と前
c γ
の間に設けられた隔壁101と、前記隔壁101と前 記開口部との間に設けられた蓋部3と、前記蓋部3
記ケース14を接着剤で接着することにより形成 を接着剤4で接着することにより形成された密閉
された密閉された空間26を設けた された空間6を設けた
d チップ型ヒューズ δ 表面実装超小型電流ヒューズ

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (9月16日~9月22日)

来週の知財セミナー (9月23日~9月29日)

9月24日(火) -

韓国の知的財産概況

9月25日(水) - 東京 港

はじめての意匠

9月27日(金) - 神奈川 川崎市

図書館で学ぶ知的財産講座 第1回

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

IP-Creation特許商標事務所

東京都練馬区豊玉北6-11-3 長田ビル3階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 鑑定 コンサルティング 

中井国際特許事務所

大阪府大阪市中央区北浜東1-12 千歳第一ビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

北大阪特許事務所

〒564-0051 大阪府吹田市豊津町1番18号 エクラート江坂ビル4F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標