知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和4(ワ)25601 発信者情報開示請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和4(ワ)25601発信者情報開示請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年6月30日
事件種別 民事
当事者 原告
被告KDDI株式会社
法令 著作権
著作権法2条1項9号2回
著作権法2条1項1号2回
著作権法2条1項15号1回
著作権法19条3項1回
キーワード 侵害42回
損害賠償6回
許諾4回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
1 事案の要旨
5条2項に基づき、本件発信者情報の開示を求める(別紙ログイン情報目録記
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠(特記しない限り、
3 争点
4 当事者の主張
3項、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開
5条2項柱書所定の「当該侵害関連通信に係る発信者情報」に当たる。
1 争点1(本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)に
2)したと認められ、前記(2)において説示したとおり、本件投稿文章は、本
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)
3 争点3(本件各ログインに係る送信は侵害情報の送信と相当の関連性を有す
1 氏名又は名称
2 住所10
3 電話番号
4 電子メールアドレス
1 氏名又は名称
2 住所10
3 電話番号
4 電子メールアドレス
1 2022/6/28 23:28:27 2022/6/29 08:28:27 省略
2 2022/6/27 23:47:48 2022/6/28 08:47:48 省略
3 2022/6/27 14:04:42 2022/6/27 23:04:42 省略
事件の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者が、ツイッタ25 ー(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿するこ とができる情報ネットワーク)において、原告の作成した別紙原告文章目録記 載の文章(以下「本件原告文章」という。)を複製又は翻案して作成した別紙投 稿文章目録記載の文章(以下「本件投稿文章」という。)を投稿(以下「本件投 稿」という。)したことにより、本件原告文章に係る原告の著作権(複製権、翻 案権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵5 害されたことが明らかであり、上記氏名不詳者に対する損害賠償請求権等の行 使のため、被告が保有する侵害関連通信に係る発信者情報である別紙発信者情 報目録1記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき 正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限 及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)10 5条2項に基づき、本件発信者情報の開示を求める(別紙ログイン情報目録記 載1ないし3の各ログインに係る送信から把握される発信者情報に係る請求の

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 著作権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和5年6月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第25601号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和5年4月18日
判 決
5 原 告 A
同訴訟代理人弁護士 田 中 圭 祐
遠 藤 大 介
吉 永 雅 洋
蓮 池 純
10 神 田 竜 輔
鈴 木 勇 輝
被 告 K D D I 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 今 井 和 男
小 倉 慎 一
15 山 本 一 生
小 俣 拓 実
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
25 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者が、ツイッタ
ー(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿するこ
とができる情報ネットワーク)において、原告の作成した別紙原告文章目録記
載の文章(以下「本件原告文章」という。)を複製又は翻案して作成した別紙投
稿文章目録記載の文章(以下「本件投稿文章」という。)を投稿(以下「本件投
稿」という。)したことにより、本件原告文章に係る原告の著作権(複製権、翻
5 案権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵
害されたことが明らかであり、上記氏名不詳者に対する損害賠償請求権等の行
使のため、被告が保有する侵害関連通信に係る発信者情報である別紙発信者情
報目録1記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき
正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限
10 及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)
5条2項に基づき、本件発信者情報の開示を求める(別紙ログイン情報目録記
載1ないし3の各ログインに係る送信から把握される発信者情報に係る請求の
選択的併合)事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠(特記しない限り、
15 枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
当事者
ア 原告は、「B」との変名により、インターネット上の作品投稿サイト「p
ixiv」(以下「本件作品投稿サイト」という。)に、自身が作成した文
章を投稿している者である(甲8、9、11)。
20 イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
本件原告文章の作成
原告は、令和4年1月10日、「B」との変名により、本件作品投稿サイト
に、自身が作成した本件原告文章を投稿した(甲8、9、11の3、弁論の
全趣旨)。
25 本件投稿
氏名不詳者は、本件投稿文章の全文を画像化した上、令和4年6月27日
午後11時18分(日本時間。特記しない限り、以下同じ。 、ツイッターに

おいて、別紙投稿記事目録記載のユーザー名により特定されるアカウント
(以下「本件アカウント」という。)を利用し、当該画像を添付して同目録記
載の内容の本件投稿をした。なお、本件投稿に当たり、原告の氏名も変名も
5 記載されていなかった。(甲1)
本件アカウントへのログイン
本件アカウントには、別紙ログイン情報目録記載1ないし3のログイン日
時欄の各日時に、被告の用いる電気通信設備を経由して、各IPアドレスを
送信元とするログイン(以下、番号に従って「本件ログイン1」などといい、
10 これらを総称して「本件各ログイン」という。)がされた(甲4ないし6)。
本件発信者情報の保有
被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
15 原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2)
本件各ログインに係る送信は侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの
か(争点3)
4 当事者の主張
争点1(本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)
20 について
(原告の主張)
ア 本件原告文章の著作物性
原告は、令和3年に公開された映画「クレヨンしんちゃん 謎メキ!花
の天カス学園」(以下「本件映画」という。)を参考にして、本件原告文章
25 を作成した。具体的には、本件原告文章のうち、キャラクター名、舞台設
定、「エリートポイント」との概念及び呼称、本件原告文章の末尾の台詞は、
本件映画を参考にしている。また、一部の台詞は、TVアニメ「クレヨン
しんちゃん」をオマージュしたものである。
本件映画では、登場人物は5歳児で、舞台として生徒会室が登場せず、
全年齢向けの映画作品であることから性描写は存在しない。これに対し、
5 本件原告文章において、登場人物を中学生にしていること、舞台が生徒会
室であること、登場人物が性行為を行っているとの設定や性行為の具体的
内容のほか、個々の文章表現は全て原告が創作したものである。すなわち、
本件原告文章は、本件映画のストーリー等を単に組み合わせるなどしたも
のではなく、作者である原告の考えや気持ちを具体的に表現しつつ、登場
10 人物の振る舞いや感情の形容の仕方、叙述方法及び全体的な記述の順序・
構成などにおいて、原告の個性が発揮されている。
したがって、本件原告文章は、原告の「思想又は感情を創作的に表現し
た」「言語の著作物」(著作権法2条1項1号、10条1項1号)に当たる。
イ 本件原告文章に係る原告の著作権が侵害されたことは明らかであること
15 (ア) 本件原告文章の冒頭部分(別紙原告文章目録の1枚目8行目から21
行目。以下同じ。)と本件投稿文章の冒頭部分(別紙投稿文章目録の1枚
目4行目から16行目まで。以下同じ。)及び本件原告文章の末尾部分
(別紙原告文章目録の6枚目18行目から7枚目7行目まで。以下同じ。)
と本件投稿文章の末尾部分(別紙投稿文章目録の5枚目16行目から6
20 枚目6行目。以下同じ。)のみを対比しても、その記述内容及び順序にお
いて共通する部分があり、かつ、これらの共通部分における登場人物の
心情の形容の仕方や叙述方法に原告の個性ないし独自性が表れており、
表現上の創作性がある。このように、本件投稿文章は、本件原告文章の
表現上の本質的な特徴が維持されており、これに接する者が本件原告文
25 章の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものである。
また、本件原告文章と本件投稿文章との間に、上記のような共通部分
があることからすると、本件投稿文章は、本件原告文章に依拠して作成
されたものといえる。
したがって、本件投稿は、本件原告文章を複製又は翻案するものであ
る。
5 (イ) また、本件投稿は、本件投稿文章をツイッターへアップロードし、も
って公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信
装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録するものであるから、本件原告
文章の送信可能化に該当する(著作権法2条1項9号の5イ、同項9号
の4、同項7号の2)。
10 (ウ) 氏名不詳者は、あたかも本件原告文章の著作者であるかのように振舞
っており、このような本件投稿の悪質性に照らせば、本件投稿について、
引用による利用等の権利制限規定の適用がないことは明らかである。
このほか、氏名不詳者が本件投稿をしたことに関し、違法性阻却事由
に該当する事実は存在しない。
15 (エ) したがって、氏名不詳者によって、本件原告文章に係る原告の著作権
(複製権、翻案権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
ウ 本件原告文章に係る原告の著作者人格権が侵害されたことは明らかであ
ること
(ア) 前記イ(ア)のとおり、本件投稿文章は、本件原告文章を複製又は翻案し
20 たものである。
(イ) しかし、本件投稿により本件原告文章を公衆へ提供するに際し、原告
の変名を著作者名として表示していない。
また、氏名不詳者は、原告の意に反して、本件原告文章の表現の一部
を切除し、これに変更を加えている。
25 (ウ) 本件原告文章は、原告の努力によって作成されたもので、「著作物の利
用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を
害するおそれがない」
(著作権法19条3項)とは到底いえないから、氏
名表示を省略することは許されない。
さらに、本件投稿をすることに必要性、合理性はなく、「やむを得ない
改変」(同法20条2項4号)といえないことは明らかである。
5 このほか、氏名不詳者が本件投稿をしたことに関し、違法性阻却事由
に該当する事実は存在しない。
(エ) したがって、氏名不詳者によって、本件原告文章に係る原告の著作者
人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵害されたことは明らかであ
る。
10 (被告の主張)
ア 複製権、翻案権及び同一性保持権を侵害するとの主張について
(ア) 表現上の本質的な特徴が維持されていないこと
本件原告文章のような短い小説においては、会話やいわゆる地の文に
おける内容や順番の差違は、仮に大きな差違でなかったとしても、個性
15 の発現に当たって重要な要素となる。
本件原告文章と本件投稿文章とを対比すると、両者には上記の点にお
いて大きな差違があるから、本件投稿文章において、本件原告文章の表
現上の本質的な特徴が維持されているとはいえない。
(イ) 本件投稿文章が本件原告文章に依拠したものであるかが明らかでない
20 こと
仮に、本件投稿文章において、本件原告文章の表現上の本質的な特徴
が維持されているとしても、以下のとおり、本件投稿文章が本件原告文
章に依拠したものであるかは明らかでない。
すなわち、本件投稿の本文に「pixivに上げていた小説」と記載
25 されていることからすると、本件投稿をした氏名不詳者も本件作品投稿
サイトに本件投稿文章を投稿していたと考えられるから、本件投稿文章
は、本件原告文章よりも先に投稿され、本件原告文章に依拠することな
く作成された可能性がある。また、仮に、本件原告文章の方が先に公表
されていたとしても、本件投稿の発信者は、本件小説を知らずに、本件
投稿に係る小説を創作した可能性もある。
5 (ウ) 小括
したがって、本件投稿によって、本件原告文章に係る原告の複製権、
翻案権及び同一性保持権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
イ 公衆送信権及び氏名表示権を侵害するとの主張について
前記ア(ア)のとおり、本件投稿文章は、本件原告文章と同一の内容でない
10 以上、本件投稿は本件原告文章を投稿したものとはいえない。
したがって、本件投稿によって、本件原告文章に係る原告の公衆送信権
及び氏名表示権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)
について
15 (原告の主張)
ア 原告は、本件投稿をした氏名不詳者に対し、不法行為に基づく損害賠償
請求等を予定しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の
開示を受けるべき正当な理由がある。
イ 被告は、本件原告文章は本件映画の二次的著作物であるから、本件映画
20 の著作権者から許諾を得ていない限り、本件投稿によって原告に損害が生
じないと主張する。
しかし、二次的著作物の著作者は、原著作物の著作者とは独立して権利
行使できるから、この点についての被告の主張は失当である。
(被告の主張)
25 原告は、氏名不詳者に対し、本件原告文章に係る著作権が侵害されたとし
て損害賠償請求等をする予定であると主張する。
この点に関し、原告は、本件原告文章について、本件映画の二次創作であ
ると主張しているところ、仮に、原告が、本件原告文章の作成に当たって、
本件映画の著作権者から許諾を得ていなければ、二次的著作物である本件原
告文章の作成は、本件映画の著作権者の翻案権及び同一性保持権を侵害する
5 違法な行為となる。そうすると、違法な行為を行った原告に損害は発生して
いないし、万が一、原告に生じた損害が観念できるとしても、氏名不詳者の
故意又は過失による違法行為との因果関係を欠くことは明らかである。
したがって、原告が、本件原告文章の作成に当たって、本件映画の著作権
者から許諾を得ていなければ、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理
10 由があるとはいえない。
争点3(本件各ログインに係る送信は侵害情報の送信と相当の関連性を有
するものか)について
(原告の主張)
ア ツイッターにおいては、登録されたアカウントにログインしなければ権
15 利侵害情報を送信できない。
イ 被告は、本件アカウントに異なるプロバイダを経由してのログインがさ
れていることを指摘して、複数のユーザーが本件アカウントにログインし
ている可能性が高いと主張する。
しかし、昨今、携帯電話回線と固定回線とで異なるプロバイダを利用し
20 ている者も多くいること、公衆無線LANが普及していることなどから、
同じユーザーが複数のプロバイダを経由して本件アカウントにログインす
ることは容易に想定できる。特に、本件投稿の直前直後にされたログイン
は、全て被告を経由してされたものであるから、少なくとも本件投稿は被
告を経由プロバイダとして送信された可能性が極めて高い。
25 また、被告は、別紙ログイン情報目録記載の情報により特定される契約
者(以下「本件契約者」という。)に対して意見照会をしたところ、本件投
稿について全く身に覚えがないと回答したことなどを根拠として、別紙ロ
グイン情報目録記載の情報により特定される通信は、本件投稿、すなわち
侵害情報の送信と相当の関連性を有しないと主張する。
しかし、本件契約者の回答を裏付ける客観的証拠はなく、その回答内容
5 が直ちに信用できるものであるとはいえない。
ウ 以上によれば、本件各ログインに係る送信は、侵害情報の送信と相当の
関連性を有する。
したがって、本件各ログインに係る送信は、プロバイダ責任制限法5条
3項、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開
10 示に関する法律施行規則(以下、単に「施行規則」という。)5条2号所定
の侵害関連通信に当たるから、本件発信者情報は、プロバイダ責任制限法
5条2項柱書所定の「当該侵害関連通信に係る発信者情報」に当たる。
(被告の主張)
ア 本件アカウントには、被告の管理していないIPアドレスを接続元とす
15 るログインもされているところ、これは、ユーザーが異なるプロバイダを
経由して本件アカウントにログインしたことを意味する。ユーザーは、端
末を変更しても、従前利用していたプロバイダを引き続き利用することが
通常であるから、本件において異なるプロバイダを経由して本件アカウン
トにログインがされているということは、複数のユーザーが本件アカウン
20 トにログインしている可能性が高い。
また、被告が本件契約者に意見照会をしたところ、本件契約者は、
「B」
という人物は知らないし、本件投稿について全く身に覚えがないと回答し
た。
これらの事情に照らせば、本件契約者は本件投稿をしていない上、プラ
25 イバシー権及び通信の自由の重要性も考慮すると、本件各ログインの送信
は、本件投稿、すなわち侵害情報の送信と相当の関連性を有しない。
イ したがって、本件発信者情報は、プロバイダ責任制限法5条2項柱書所
定の「当該侵害関連通信に係る発信者情報」に当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)に
5 ついて
本件原告文章の著作物性について
弁論の全趣旨によれば、原告は、キャラクター名、舞台設定、「エリートポ
イント」との概念及び呼称並びに末尾の台詞について、本件映画を参考にし
て本件原告文章を作成したことが認められるものの、他方で、本件映画は全
10 年齢を対象としたものと認められるから、その内容に性的な描写を含んでい
ないものと考えられる。
以上を前提に本件原告文章を検討すると、登場人物が性的行為を行ってい
る状況を描写するものであって、その具体的な動作や会話の内容、感情の叙
述のほか、全体的な記述の順序及び構成において工夫がされていると認める
15 ことができ、その表現には原告の個性が表れているといえる。
したがって、本件原告文章は、原告の「思想又は感情を創作的に表現した
ものであつて」「文芸」「の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)とい
え、「言語の著作物」(同法10条1項1号)に当たるというべきである。
本件投稿文章が本件原告文章を複製又は翻案したものかについて
20 ア 言語の著作物の「複製」(著作権法2条1項15号)とは、既存の著作物
に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、
変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、そ
の表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作
物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行
25 為をいうと解される。
また、言語の著作物の「翻案」(同法27条)とは、既存の著作物に依拠
し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現
に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現する
ことにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直
接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうと解される(最
5 高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民
集55巻4号837頁参照)。
そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであ
るから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して作成又は創作さ
れた著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現
10 それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作
物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないと
解される。
イ 本件原告文章の冒頭部分と本件投稿文章の冒頭部分とは、天下統一カス
カベ学園は入学すると皆エリートになることができる評判の学校であると
15 の紹介、歯を立てると夕飯抜きとなる旨の台詞、登場人物が生徒会室で性
的行為に及んでいること、オツムンは気を利かせているのか黙っているこ
と、事が終わった後にポイントを減点するのだろうが、当該ポイントは無
用の長物であることを表現している点において、その内容及び順序がほぼ
共通していることが認められる。
20 このような本件投稿文章の冒頭部分における表現上の共通性に照らせば、
本件投稿文章の冒頭部分は、本件原告文章の表現上の本質的な特徴の同一
性を維持しており、かつ、本件原告文章の表現上の本質的な特徴を感得す
ることができるものといえる。
そして、本件投稿文章の冒頭部分における記述のうち、特に登場人物が
25 性的行為を一向に止めないとの動作の描写には、本件原告文章と差異があ
るところ、この差異部分における記述の内容及び方法には、作者の新たな
思想又は感情が創作的に表現されているものといえる。
ウ 次に、本件原告文章の末尾部分と本件投稿文章の末尾部分とは、どんな
ことをされても言うことを聞くのは、風間くんだからと述べていること、
主人公が「しんのすけ」を突き飛ばしたこと、唇を許すと躾という建前が
5 崩れること、青春や恋愛のような無駄なものは必要がないこと、主人公が
「お願いだから」と述べること、主人公が敵意を込めて「しんのすけ」を
睨みつけたこと、「しんのすけ」が主人公の耳元で「風間くんを」「諦めな
い」と述べたことを表現している点において、その内容及び順序がほぼ共
通していることが認められる。
10 このような本件投稿文章の末尾部分における上記の表現上の共通性(な
お、本件原告文章のうち、末尾の「オラは、風間くんを絶対諦めない」と
の台詞は、本件映画を参考にしたものであると認められ(前記(1))、この
部分には原告の表現上の創作性があるとはいい難いから、この点における
共通性は考慮しない。)に照らせば、本件投稿文章の末尾部分は、本件原告
15 文章の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しており、かつ、本件原告文
章の表現上の本質的な特徴を感得することができるものといえる。
そして、本件投稿文章の末尾部分における記述のうち、特に主人公が、
あの頃の自分はここにいないと述べることや、「しんのすけ」の瞳に僕の表
情が映る様子を描写している点において、本件原告文章と差異があるとこ
20 ろ、この差異部分における記述の内容及び方法には、作者の新たな思想又
は感情が創作的に表現されているものといえる。
エ 前記イ及びウにおいて説示した本件原告文章と本件投稿文章の各冒頭部
分及び各末尾部分の表現上の共通性に鑑みれば、本件原告文章に接するこ
となく独自に本件投稿文章を作成することは極めて困難と考えられる上、
25 氏名不詳者は、本件投稿に当たり、本件作品投稿サイトに上げていた小説
であると述べていること(前提事実(3))からすると、本件作品投稿サイト
の存在を認識していたと認められ、本件原告文章に接する機会があったと
いえる。これらの事情を考慮すると、本件投稿文章は本件原告文章に依拠
して作成されたものと認めるのが相当である。
オ 以上によれば、本件投稿文章は、本件原告文章を翻案したものと認めら
5 れる。
本件投稿により原告の著作権又は著作者人格権が侵害されたかについて
前提事実(3)のとおり、氏名不詳者は、本件投稿により、本件投稿文章の全
文を送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ、同項9号の4、同項7号の
2)したと認められ、前記(2)において説示したとおり、本件投稿文章は、本
10 件原告文章を翻案したものであるから、本件原告文章の表現上の本質的な特
徴を感得できる部分についても送信可能化されたと評価できる。
そして、本件全証拠によっても、本件投稿について違法性阻却事由が存在
することは全くうかがわれない。
したがって、本件投稿により、少なくとも本件原告文章に係る原告の著作
15 権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)
について
(1) 弁論の全趣旨によれば、原告は、氏名不詳者に対し、本件原告文章に係る
原告の著作権が侵害されたことを理由として損害賠償請求等をする意思を有
20 しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必
要があると認められる。
したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が
ある。
(2) これに対し、被告は、本件映画の著作権者の許諾がない限り、本件映画の
25 二次的著作物である本件原告文章の作成は違法な行為であるから、原告に損
害は発生していないし、万が一、原告に生じた損害が観念できるとしても、
氏名不詳者の故意又は過失による違法行為との因果関係を欠くと主張する。
そこで検討すると、前記1(2)アのとおり、既存の著作物に依拠して作成又
は創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件な
ど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の
5 著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらない
と解される。
前記1(1)において認定したとおり、原告は、キャラクター名、舞台設定、
「エリートポイント」との概念及び呼称並びに末尾の台詞について、本件映
画を参考にするとともに、一部の台詞については、TVアニメ「クレヨンし
10 んちゃん」をオマージュして、本件原告文章を作成したことが認められる。
しかし、本件映画やTVアニメ「クレヨンしんちゃん」(以下、これらを合わ
せて「本件映画等」ということがある。)のうち、原告が参考にした部分の具
体的な内容を認めるに足りる証拠はなく、原告が自認する事項についても、
これらが、アイデアなど表現それ自体でないか、表現上の創作性がない部分
15 である可能性を否定できない。このほか、本件全証拠によっても、本件原告
文章について、本件映画等の表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これ
に接する者が本件映画等の表現上の本質的な特徴を直接感得することのでき
るものであるとは認められない。
そうすると、本件証拠上、原告が本件文章を作成した行為が、本件映画等
20 を複製又は翻案するものであって、著作権を侵害する違法なものであるとい
うことはできない。
したがって、被告の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用する
ことはできない。
3 争点3(本件各ログインに係る送信は侵害情報の送信と相当の関連性を有す
25 るものか)について
(1) プロバイダ責任制限法5条3項が、発信者情報開示の対象となる侵害関連
通信について、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内である
ものであることを明示して求めるとともに、施行規則5条柱書及び同2号が、
侵害情報の送信と相当の関連性を有するログインに係る送信に限って上記侵
害関連通信と定めているのは、権利侵害を伴う投稿をした時の通信とは異な
5 るログイン時の通信から把握される発信者情報を開示の対象とすることによ
り、権利侵害を伴う投稿とは関連性の薄い他の通信の秘密やプライバシーを
侵害するおそれが高くなる上、開示関係役務提供者に過度な負担を強いるお
それがあることから、開示の対象とするログイン時の通信を、侵害情報の発
信者の特定のために必要最小限度のものに限定する趣旨と解される。この趣
10 旨に照らせば、ログインに係る送信と侵害情報の送信とが相当の関連性を有
するか否かは、当該ログインに係る送信と当該侵害情報の送信との時間的近
接性、当該ログインに伴って行われた投稿内容と当該侵害情報の内容の一連
性ないし一体性の有無のほか、当該侵害情報の発信者を特定する他の手段、
方法等の有無を総合考慮して判断すべきと解するのが相当である。
15 これを前提として、本件各ログインに係る送信が本件投稿に係る送信との
間で相当の関連性を有するかを検討すると、前提事実(4)のとおり、本件ログ
イン3は、本件投稿のわずか約14分前にされたものであることが認められ、
本件投稿と時間的に極めて近接しているといえる。これに対し、本件ログイ
ン1及び2は、本件投稿の後にされたもので、かつ、本件ログイン3と比較
20 すると、本件投稿から時間的に離れたものであると認められる。そして、本
件ログイン3に係る送信から把握される情報のほかに本件発信者を特定する
適切な手段があるとは認められない。これらの事情に鑑みれば、本件証拠上、
本件ログイン3に伴って行われた投稿の有無及びその内容が明らかではない
ことを考慮しても、少なくとも本件ログイン3に係る送信は本件投稿に係る
25 送信と相当の関連性を有するものと認めるのが相当である。
したがって、少なくとも本件ログイン3に係る送信は、施行規則5条2号
所定の侵害関連通信に当たるから、別紙発信者情報目録2記載の各情報は、
プロバイダ責任制限法5条2項柱書所定の「当該侵害関連通信に係る発信者
情報」に当たるというべきである。
(2) 被告は、異なるプロバイダを経由して本件アカウントにログインがされて
5 いることから、複数のユーザーが本件アカウントにログインしている可能性
が高い上、本件契約者が意見照会に対して身に覚えがないとの回答をしてい
ることを踏まえると、本件各ログインの送信は、本件投稿に係る送信と相当
の関連性を有しないと主張する。
しかし、ツイッターにおいてはアカウントによる管理がされているところ
10 (前提事実(3)及び(4))、こうしたアカウントに係るパスワードを第三者に教
えたり、第三者との間で共有したりすることは通常考え難い。そして、本件
全証拠によっても、本件アカウントが複数人によって共有されていることを
うかがわせる事情は何ら認められないことからすると、本件投稿をした者と
本件各ログインをした者は同一人物であると認められる。
15 また、本件契約者に対する意見照会の回答についても、その回答が真実で
あることを裏付ける客観的な証拠はなく、前記判断を左右するものとはいえ
ない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
第4 結論
20 よって、原告の請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第29部
25 裁判長裁判官
國 分 隆 文
裁判官
間 明 宏 充
裁判官
木 村 洋 一
(別紙)
発信者情報目録1
別紙ログイン情報目録記載1ないし3のログイン日時欄の各日時頃に、IPアド
5 レス欄の各IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から別紙投稿記事目録の接
続先IPアドレス欄記載のIPアドレスに対して通信を行った電気通信回線を使用
した者に関する情報であって、次に掲げる情報。
1 氏名又は名称
10 2 住所
3 電話番号
4 電子メールアドレス
以上
(別紙)
発信者情報目録2
別紙ログイン情報目録記載3のログイン日時欄の日時頃に、IPアドレス欄のI
5 Pアドレスを割り当てられた電気通信設備から別紙投稿記事目録の接続先IPアド
レス欄記載のIPアドレスに対して通信を行った電気通信回線を使用した者に関す
る情報であって、次に掲げる情報。
1 氏名又は名称
10 2 住所
3 電話番号
4 電子メールアドレス
以上
(別紙)
ログイン情報目録
ログイン日時 ログイン日時(日本時間) IPアドレス
1 2022/6/28 23:28:27 2022/6/29 08:28:27 省略
2 2022/6/27 23:47:48 2022/6/28 08:47:48 省略
3 2022/6/27 14:04:42 2022/6/27 23:04:42 省略
以上
(別紙)
投稿記事目録
URL https://以下省略
内容 pixiv に上げていた小説
誰かに止められちゃったからここで載せます。
なんか国語のテストみたいでかっこイイね!
※内容は R 18 です。
天カス学園ネタバレありますのでご注意を。
年齢操作、性的描写などあります。
添 付 画 像 の 文 別紙投稿文章目録記載のとおり
字起こし
ユーザー名 C
接続先 以下のうちいずれか。
IPアドレス IPアドレスは省略
5 以上
(別紙原告文章目録 省略)
(別紙投稿文章目録 省略)

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (9月16日~9月22日)

来週の知財セミナー (9月23日~9月29日)

9月24日(火) -

韓国の知的財産概況

9月25日(水) - 東京 港

はじめての意匠

9月27日(金) - 神奈川 川崎市

図書館で学ぶ知的財産講座 第1回

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

栄セントラル国際特許事務所

愛知県名古屋市中区栄3-2-3 名古屋日興證券ビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

弁理士事務所サークル

東京都江戸川区西葛西3-13-2-501 特許・実用新案 意匠 商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

エヌワン特許商標事務所

〒243-0021 神奈川県厚木市岡田3050 厚木アクストメインタワー3階B-1 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング