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令和3(ワ)33761民事訴訟 著作権

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裁判所 認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年6月22日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社ケイ・エム・プロデュース
法令 著作権
キーワード 侵害23回
損害賠償2回
実施2回
分割1回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要

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判決文

令和 5 年 6 月 22 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 3 年(ワ)第 33761 号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和 5 年 4 月 24 日
判 決
原 告 株式会社ケイ・エム・プロデュース
同訴訟代理人弁護士 戸 田 泉
同 角 地 山 宗 行
被告株式会社 NTT ぷらら訴訟承継人
株 式 会 社 NTT ド コ モ
同訴訟代理人弁護士 西 村 光 治
15 同 髙 橋 慶 彦
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、原告が、インターネット接続サービスを提供するプロバイダである
被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件氏名不詳者ら」という。)が、P2P 形式
25 のファイル共有ソフトの一種であるビットトレント(Bit Torrent)のネットワー
クに接続し、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の各動画(以下、各動
画を同目録記載の順に「本件著作物 1」などといい、これらを併せて「本件各
著作物」という。)のデータを自己の端末にダウンロードした上で、被告の提供
するインターネット接続サービスを通じて公衆送信し、もって原告の本件各著
作物に係る著作権(公衆送信権(送信可能化権を含む。 )を侵害したことが明

5 らかである旨を主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。 条 1 項に基づき、別紙
)5
発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求め
る事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易
10 に認められる事実。証拠番号の枝番は省略する(以下同様) )

(1) 当事者等
原告は、主にアダルトビデオの制作、販売を業とする会社であり、 million」
「 、
「REAL」「SCOOP」等の屋号(レーベル名)を用いている(甲 1、2、7、8)
、 。
被告は、電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とする株式会社で
15 あり、一般利用者に向けて広くインターネット接続サービスを提供している
プロバイダである。
(2) 本件各著作物の著作権の帰属
ア 本件著作物 1 及び 6 の監督であるaことA並びに本件著作物 5 の監督で
あるbことBは、いずれも上記各著作物の製作時には別の会社の従業員で
20 あったものの、原告に出向しており、その給与は原告が支払っていた。ま
た、両名による上記各著作物の製作は、原告の発意に基づき、原告におけ
る職務の履行として行われた。このような上記各著作物につき、原告は、
自己の著作の名義の下に公表した。(甲 9~11)
したがって、本件著作物 1、5 及び 6 は、いずれも原告が著作者として著
25 作権を有する。
イ 本件著作物 2~4、7 及び 8 はいずれも映画の著作物であるところ、本件
著作物 2 の監督であるcことC、本件著作物 3 の監督であるdことD、本
件著作物 4 の監督であるeことE、本件著作物 7 の監督であるfことF及
び本件著作物 8 の監督であるgことGは、いずれも、その脚本の創作や映
像の編集等の総指揮を行い、その全体的形成に創作的に寄与した者であり、
5 いずれも、上記各著作物の著作者である。また、原告は、上記各著作物の
製作につき、自ら発意して企画し、その製作費用全てを負担するなどの責
任を有する者である。さらに、上記各著作物の著作者である上記各監督は、
映画製作者である原告に対し、上記各著作物の製作に参加することを約束
した。(甲 7~10)。
10 したがって、本件著作物 2~4、7 及び 8 の著作権は、いずれも原告に帰
属する(著作権法 29 条 1 項)。
(3) ビットトレントの仕組み
ビットトレントは、いわゆる P2P 形式のファイル共有ソフトであり(ただ
し、以下では、
「ソフトとしてのビットトレントを介して形成されるファイル
15 交換システム」を意味する場合もある。 、その概要や使用の手順は、次のと

おりである。(甲 3、弁論の全趣旨)
ア ビットトレントでは、特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファ
イルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割されたデータ(ピース)
をビットトレントを介して形成されるネットワーク上のユーザーに分散し
20 て共有させる。
イ ビットトレントを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユ
ーザーは、まず、「トラッカーサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、
当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロー
ドする。ユーザーが当該トレントファイルをビットトレントに読み込ませ
25 ることにより、ビットトレントが、当該トレントファイルに記載されたト
ラッカーサーバーに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求
することになる。ファイルの提供者を管理するサーバーであるトラッカー
サーバーは、上記の要求に応じ、自身にアクセスしているファイル提供者
の IP アドレスが記載されたリストをユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数
5 のユーザーに接続し、それぞれから当該ピースのダウンロードを開始する。
全てのピースのダウンロードが終了することにより、元の 1 つの完全なフ
ァイルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。
目的のファイル全体につきダウンロードが完了する前のユーザーは「リ
10 ーチャー」と呼ばれるが、ダウンロードが完了し、完全な状態のファイル
を保有すると、当該ユーザーは自動的にシーダーとなり、今度は、リーチ
ャーからの求めに応じて、当該ファイルの一部(ピース)をアップロード
してリーチャーに提供することになる。
また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前
15 であっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチ
ャーの求めに応じてアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的の
ファイルをダウンロードすると同時に、当該ファイルについて同時にアッ
プロード可能な状態に置かれることになり、他のリーチャーに当該ファイ
ルの一部を送信することが可能な状態になっている。
20 オ ビットトレントは、このようなユーザー相互間のデータの授受を通じて、
中央管理的なサーバーを必要とすることなく、大容量のファイルを高速で
ダウンロードすることを可能にするものである。
(4) 本件調査の概要
ア 原告は、本件訴訟の提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」と
25 いう。)に対し、本件各著作物の著作権侵害に係る調査(以下「本件調査」
という。)を依頼した。同社は、本件調査を実施し、原告に対し、氏名不詳
者らが、別紙動画目録記載の発信時刻に、同目録記載の IP アドレス(以下
「本件各 IP アドレス」という。)の割当てを受けてインターネットに接続
し、ビットトレントを使用した上で、本件各著作物のファイルを自動的に
公衆送信し得る状態に置いていた旨を報告した。(甲 4、5)
5 イ 本件調査会社は、本件調査の実施に当たり、自ら開発した著作権侵害検
出システム(以下「本件検出システム」という。)を使用した。(甲 5)
(5) 被告による本件発信者情報の保有
被告は、本件発信者情報を保有している。
2 本件の主たる争点は、権利侵害の明白性である。この点に関する当事者の主張
10 は、以下のとおりである。
(原告の主張)
(1) 本件調査の内容
ビットトレントにおいては、特定のファイルをダウンロードしようとする
ユーザーがトラッカーサーバーに接続して当該ファイルの提供者のリストを
15 要求すると、トラッカーサーバーが、自身にアクセスしているファイル提供
者の IP アドレスが記載されたリストをユーザーに返信する仕組みとなって
いる。本件調査はこの仕組みを利用し、監視ソフトがトラッカーサーバーに
接続し、本件各著作物のファイルの提供者のリストを要求して、トラッカー
サーバーから当該提供者の IP アドレスが記載されたリストの返信を受け、当
20 該リストのデータを本件検出システムのデータベースに記録している。当該
リストに記載された IP アドレスが別紙動画目録記載の IP アドレスである。
本件調査においては、実際に当該リストに記録されていたユーザーに接続
をして、当該ユーザーからの応答を確認しており(以下、この応答確認を
「Handshake」という。 、別紙動画目録の「発信時刻」欄記載の日時は、当該

25 応答確認(Handshake)が行われた日時である。
なお、本件検出システムが検知する IP アドレス等が正確であることは、本
件検出システムによる検出 IP アドレス等の同一性確認試験やその再試験に
よっても確認されている。
(2) 権利侵害の明白性
ア ビットトレントにおいては、ファイルを送信しようとする者が当該ファ
5 イルを自身のパソコンの共有フォルダに蔵置してクライアントソフトを起
動させると、当該パソコンがトラッカーサーバーに接続され、自らが所持
するファイル情報、IP アドレス等がトラッカーサーバーに対し通知、記録
され、トラッカーサーバーにおいて、当該ファイルの所持者のリストが作
成される。他方、ファイルを受信しようとする者がトラッカーサーバーに
10 接続すると、トラッカーサーバーから当該ファイルの所持者のリストが提
供される。このリストを元に、受信者は、送信者に接続することによりフ
ァイルを受信することになる。
したがって、本件氏名不詳者らのようなファイルの送信者は、
「公衆の用
に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置」であるト
15 ラッカーサーバーに対し自らが所持するファイル情報、IP アドレス等を通
知し、トラッカーサーバーにこれらの「情報を記録」し、これにより、当
該ファイルを受信者の求めに応じて「自動公衆送信し得るように」して、
送信可能化権を侵害する状態にしたものといえる(著作権法 23 条 1 項、2
条 1 項 9 号の 5 イ)。
20 イ 仮に上記のようにいえないとしても、ビットトレントにおいて、ファイ
ルを送信しようとする者が当該ファイルを自身のパソコンの共有フォルダ
に蔵置してクライアントソフトを起動し、クライアントサーバーに接続す
ると、送信者のパソコンは、クライアントサーバーにパソコンを接続させ
ている受信者からの求めに応じ、自動的にファイルを送信し得る状態とな
25 る。
したがって、ファイルを共有フォルダに蔵置したままクライアントサー
バーに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは、クライアントサー
バーと一体となって「情報が記録され」た「自動公衆送信装置」に当たる
ということができると共に、その時点で、
「公衆の用に供されている電気通
信回線への接続」がされ、送信可能化権を侵害する状態にしたものといえ
5 る(著作権法 23 条 1 項、2 条 1 項 9 号の 5 ロ)。
(3) Handshake について
本件氏名不詳者らは、ビットトレントのネットワークを介して、受信者で
ある本件検出システムのリクエストに応じて自動的に本件各著作物のファイ
ルを送信することができる状態にし、送信可能化権を侵害する状態にした。
10 本件調査では、受信者である本件検出システムが、トラッカーサーバーから
ファイル情報、IP アドレス等が記載されたリストを取得した後、当該リスト
に載っていた本件氏名不詳者らに接続をして、本件氏名不詳者らが応答する
ことの確認(Handshake)を行った。
したがって、Handshake は、本件氏名不詳者らが原告の送信可能化権を侵
15 害し、その状態が継続していることを通知しているといえるのであるから、
Handshake に係る情報は、 5 条 1 項にいう
法 「権利の侵害に係る発信者情報」
に該当する。
(被告の主張)
否認する。
20 (1) 本件各著作物がインターネット上にアップロード等されたことが明らか
でないこと
ビットトレントの一般的性格については知らない。また、本件各著作物が
インターネット上にアップロード又はダウンロードされたサイトやその態様
及び時期等の基本的な情報が特定されていない。
25 (2) 本件検出システムの信頼性
ア 認定システムでないこと
いわゆる P2P 型ファイル交換ソフトについては、IP アドレスの特定方法
の信頼性が問題とされており、 プロバイダ責任制限法発信者情報開示ガイ

ドライン(第 8 版)(以下「本件ガイドライン」という。
」 )においても、プ
ロバイダ等は、請求者が提出した信頼性に関する技術的資料等に基づき、
5 当該特定方法の信頼性の有無を判断することとされると共に、請求者が、
「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」が特定方法の信頼性
が認められると別途認定したシステム(以下「認定システム」という。)を
用いてこれらを技術的に特定し、プロバイダ等がこれを確認した場合には、
当該資料の提出を要しないとされている。しかるに、本件各 IP アドレスの
10 特定に利用されたシステム(本件検出システム)は、本件ガイドライン記
載の認定システムではないようである。
また、本件検出システムの正確性が技術的に立証されたことが明らかで
ない。例えば、原告による同一性確認試験が、本件ガイドライン記載の「確
認試験により複数回 IP アドレス等の特定の結果を確認する」という試験方
15 法に適合しているかどうかも明らかでない。
イ 同一性確認試験等について
同一性確認試験(甲 6)でのサンプルとなる試験ファイルの公開は 1 回
限りであり、これをもって一致率 100%と結論付けている。しかし、1 回限
りの結論をもって、本件訴訟における多数のログに関する全ての IP アドレ
20 スの特定結果も正確であるといえるかは明らかでない。
また、同一性確認試験の再試験(甲 13)については、そもそもの調査作
業やその結果の信頼性を担保するような説明がされていない。上記再試験
では、トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続している
他 の 端 末 の IP ア ド レ ス と 思 わ れ る も の が 表 示 さ れ た と し て い る が 、
25 Handshake 調査を行うにあたり対象ファイルのダウンロード調査を行って
いない以上、再試験の画面に表示されていた他の端末の IP アドレスが当該
端末の実際の IP アドレスと一致することは確認されていない。したがっ
て、本件各 IP アドレスを割り当てられた端末が、ビットトレントのネット
ワークを介して本件各著作物のファイルを公衆送信したとは認められない。
(3) Handshake について
5 本件では、本件検出システムの信頼性に疑義があることに加え、そもそも
権利侵害が行われた日時等の態様が不明確である。そのため 、権利侵害と
Handshake との間の時間的間隔も不明であり、権利侵害をした IP アドレスの
利用者と Handshake をした IP アドレスの利用者とが同一人物であるとも限
らない。
10 したがって、Handshake が行われた日時に係る発信者情報は、
「当該権利の
侵害に係る発信者情報」(法 5 条 1 項)であるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点に対する判断
(1) 認定事実
15 前提事実(前記第 2 の 1(3)、(4))、証拠(甲 3~6、13~15)及び弁論の全
趣旨によれば、本件調査につき、次の事実が認められる。
ア 本件調査会社は、原告から指定されたコンテンツの品番を含むファイル
をトラッカーサイトで検索し、著作権侵害が疑われるファイルのハッシュ
値(データ〔ファイル〕を特定の関数で計算して得られる値をいい、ファ
20 イルからハッシュ値は一意に定まることから、ファイルの同一性確認のた
めに用いられるものである。)を取得し、本件検出システムに登録した。
イ 本件検出システムは、上記経緯により同システムの監視対象となった上
記ファイルのハッシュ値について、ビットトレントネットワーク上で監視
を行った。具体的には、本件検出システムは、トラッカーサーバーに対し、
25 上記ファイルのダウンロードを要求し、当該ファイルをダウンロードでき
る(所持している)ピアの IP アドレス、ポート番号等のリストをトラッカ
ーサーバーから受け取って、本件検出システムのデータベースに記録した
(別紙動画目録記載の「IP アドレス」及び「ポート番号」は、当該 IP アド
レス及びポート番号である。 。

本件検出システムは、上記リストを受け取った後、同リストに載ってい
5 たユーザーに接続をして、同ユーザーが応答することの確認(Handshake)
を行った。別紙動画目録の「発信時刻」欄記載の日時は、当該 Handshake 完
了時のものである。その際、本件検出システムは、上記ユーザーが保有し
ている上記ファイルを実際にダウンロードしていないものの、上記時点に
おいて上記ユーザーから返信された上記ファイルのハッシュ値によって、
10 実際に上記ユーザーが上記ファイルを所持していることの確認を行った。
そのため、本件検出システムは、上記時点において直ちに上記ユーザーか
ら上記ファイルのダウンロードができる状態にあったことになる。
ウ ビットトレントにおいて、ファイルをダウンロードするようになったユ
ーザーは、ビットトレントクライアントソフトを停止させるまで、トラッ
15 カーサーバーに対し、当該ファイルが送信可能であることを継続的に通知
し、他のユーザーからの要求があれば、当該ファイルを送信し得る状態に
なっている。
(2) 権利侵害の明白性について
前提事実記載のビットトレントの仕組み及び上記認定事実記載の本件検出
20 システムの仕組み等によれば、本件氏名不詳者らは、本件各著作物をその端
末にダウンロードし、本件各著作物を不特定多数の者からの求めに応じ自動
的に送信し得るようにした上、別紙動画目録記載の IP アドレス及びポート番
号の割当てを受けてインターネットに接続し、もって、Handshake の時点で
ある別紙動画目録の「発信時刻」欄記載の各日時において、不特定の者に対
25 し、ビットトレントのネットワークを介して本件各著作物に係るファイルを
自動公衆送信し得る状態とし、その状態が継続していることを通知したもの
といえる。
これらの事情を踏まえると、本件氏名不詳者らは、Handshake の時点にお
いて、不特定の者に対し、自らの端末をインターネットに接続することによ
り同端末に記録されたファイルの情報をビットトレントのネットワークを介
5 して自動公衆送信し得るようにして、本件各著作物に係る送信可能化権を侵
害したと認められるから、本件氏名不詳者らによる Handshake に係る情報は、
法 5 条 1 項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと解され
る。
(3) 被告の主張について
10 ア 被告は、本件検出システムの信頼性に関し、本件検出システムが本件ガ
イドラインの認定システムであるか明らかでなく、その正確性が技術的に
立証されていない旨を主張する。
しかし、本件ガイドラインは、認定システムであれば、そのシステムの
技術的な信頼性の確認方法を緩やかにしてよい旨を説明しているに過ぎず、
15 認定システムに該当しない検出システムの信頼性につき直ちに疑義が生じ
るとするものではない。
本件調査は、前記(1)のとおり、ビットトレントの仕組み等を踏まえて本
件調査会社が開発した本件検出システムを使用して行われたものであると
ころ、その内容に特段不合理な点は認められない上、原告は、複数回の同
20 一性確認試験を行って本件検出システムによる IP アドレス等の検知の正
確性を確認した(甲 6、13)。また、実際に、本件調査により検知された IP
アドレス等の割当てを受けた氏名不詳者らの一部について、原告との間で
和解が成立したこともうかがわれる(弁論の全趣旨)。
以上によれば、その他被告が縷々指摘する事情を踏まえても、本件検出
25 システムの信頼性につき技術的に疑義を差し挟むべき事情があるとはいえ
ない。この点に関する被告の主張は採用できない。
イ 被告は、本件ではそもそも権利侵害が行われた日時等の態様が不明確で
あり、そのため、権利侵害と Handshake との間の時間的間隔も不明であり、
権利侵害をした IP アドレスの利用者と Handshake をした IP アドレスの利
用者とが同一人物であるとも限らないとも主張する。
5 しかし、前記のとおり、本件では、本件氏名不詳者らが、Handshake の時
点において、不特定の者に対し、自らの端末をインターネットに接続する
ことにより同端末に記録されたファイルの情報をビットトレントのネット
ワークを介して自動公衆送信し得るようにして、本件各著作物に係る送信
可能化権を侵害したことが認められるのであって、このような Handshake
10 に係る情報が本件発信者情報である。Handshake をした者とは別に、同じ
IP アドレスを利用して権利侵害をした者がいるかどうかは、上記判断に影
響を与えるものではない。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主
張は採用できない。
15 2 前記認定の各事実に加え、弁論の全趣旨によれば、本件氏名不詳者らによる
Handshake の通信は、上記のとおり、不特定の者において、本件各著作物に係る
送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で必要な
電気通信の送信であるといえるから、「特定電気通信」(法 2 条 1 号)に該当す
ること、被告が、アクセスプロバイダとして、特定電気通信の用に供される特
20 定電気通信設備を用いて特定電気通信役務を提供する「特定電気通信役務提供
(法 2 条 3 号)に当たり、本件発信者情報を保有していること、原告が、本
者」
件氏名不詳者らに対する損害賠償 等を請求するために本件発信者情報の開示
を受ける必要性があり、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理
由があることがそれぞれ認められる。
25 3 まとめ
以上より、原告は、法 5 条 1 項に基づき、被告に対し、本件発信者情報の開
示請求権を有する。
第4 結論
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとお
り判決する。なお、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととする。
東京地方裁判所民事第 47 部
10 裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
15 裁判官
小 口 五 大
20 裁判官
久 野 雄 平
(別紙著作物目録省略)
(別紙動画目録省略)

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