令和4(行ケ)10035審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和5年7月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社タグチ工業 被告東宝株式会社
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法令 |
商標権
不正競争防止法2条1項1号2回 商標法4条1項15号1回
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キーワード |
許諾42回 審決42回 ライセンス14回 無効11回 商標権5回 無効審判3回 分割2回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 特許庁における手続の経緯、関連する商標とそれについての訴訟等25
9年(行ケ)第10214号)を提起したところ、当庁は、平成30年6月
12日、本件の引用商標は周知著名であり、別件商標に係る前記指定商品の
1次判決」という。)。
7号、15号及び19号に該当するとして、商標登録無効審判(無効201
9-890064号。甲332。以下「本件審判」という。)を請求した。
67号)を提起するとともに、同日付けで、別件商標に係る商標権を、商品
3667号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審
2 本件審決の理由の要旨
3 原告の主張する本件審決の取消事由15
1 取消事由1(引用商標が周知著名な商標に当たるとした認定及びこれに基づ
221頁(以下「平成29年最判」という。)参照)、本件審決の判断は誤っ
2 取消事由2(本件商標と引用商標の類否についての認定及び判断の誤り)15
1巻3号1055頁)。
3 取消事由3(法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」に係る認定及び判断
15号が適用されるとしても、当該使用許諾関係の誤信は、引用商標の使用
1 本件商標登録の法4条1項15号該当性の有無について
6~74、77、78、92、101の3、102の4)、さらに、怪獣
25~129、143~153)、その中には「Godzilla」につ
146)などとするものもあることからすれば、引用商標は周知著名であ
3文字のものが多いとしても、これらは怪獣「ゴジラ」が著名であること
2 結論 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯、関連する商標とそれについての訴訟等25
(1) 原告は、次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。 |
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判決文
令和5年7月19日判決言渡
令和4年(行ケ)第10035号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年5月15日
判 決
原 告 株 式 会社 タ グ チ 工 業
同 訴 訟代 理 人 弁 理 士 森 寿 夫
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 平 野 和 宏
被 告 東 宝 株 式 会 社
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 辻 居 幸 一
同 佐 竹 勝 一
15 同 西 村 英 和
同 訴 訟代 理 人 弁 理 士 石 戸 孝
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2019-890064号事件について令和4年3月31日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
25 1 特許庁における手続の経緯、関連する商標とそれについての訴訟等
(1) 原告は、次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
登録番号 第6143667号
登録出願日 平成30年7月25日
登録査定日 平成31年4月3日
設定登録日 令和元年5月10日
5 登録商標
商品及び役務の区分 第7類
指定商品 「パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等
のアタッチメント」
(2) 怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジラ」は、被告によって創作されたも
10 のであり、
「ゴジラ」は周知・著名であるところ、被告は、その欧文字表記で
ある「GODZILLA」(以下「引用商標」という。)も用いている。
(3) 原告は、平成23年11月21日、本件商標と同一の商標について、商品
及び役務の区分並びに指定商品を「第7類 鉱山機械器具、土木機械器具、
荷役機械器具、農業用機械器具、廃棄物圧縮装置、廃棄物破砕装置」として
15 商標登録出願をし、平成24年4月27日、設定の登録がされた(商標登録
第5490432号。甲339。以下、その商標を「別件商標」という。。
)
被告は、平成29年2月22日、別件商標について、無効審判請求をした
(無効2017-890010号)が、同年10月16日、請求は成り立た
ない旨の審決がされた(甲340)。
20 被告は、平成29年11月22日、当庁に審決取消訴訟(同裁判所平成2
9年(行ケ)第10214号)を提起したところ、当庁は、平成30年6月
12日、本件の引用商標は周知著名であり、別件商標に係る前記指定商品の
中に含まれる商品の中には、別件商標を使用したときに、当該商品が被告又
は被告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同
25 一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務
に係る商品であると誤信させるおそれがあるものが含まれるとして、別件商
標は商標法(以下「法」という。)4条1項15号に違反して登録されたもの
であるとして前記審決を取り消す旨の判決をした(甲130。以下「別件第
1次判決」という。。
)
5 (4) 原告は、平成30年7月25日、本件商標の出願をした。
(5) 令和元年6月14日、別件第1次判決は、上告不受理決定により確定した
(甲131)。
令和元年11月6日、別件第1次判決による差し戻し後の前記無効審判請
求事件について、同商標の登録は法4条1項15号に違反してされたもので
10 あるとして、登録を無効とする旨の審決がされた(甲341)。
(6) 被告は、令和元年11月6日、引用商標に照らし、本件商標が法4条1項
7号、15号及び19号に該当するとして、商標登録無効審判(無効201
9-890064号。甲332。以下「本件審判」という。)を請求した。
(7) 原告は、令和元年12月12日、当庁に、前記(5)の別件第1次判決による
15 差し戻し後の審決について、審決取消訴訟(当庁令和元年(行ケ)第101
67号)を提起するとともに、同日付けで、別件商標に係る商標権を、商品
及び役務の区分並びに指定商品を「第7類 鉱山機械器具、土木機械器具、
荷役機械器具、農業用機械器具、廃棄物圧縮装置、廃棄物破砕装置但し、パ
ワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメントを除
20 く」とするもの(商標登録第5490432号の1)と、本件商標に係る指
定商品と同一の「第7類 パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿
孔機等のアタッチメント」とするもの(商標登録第5490432号の2)
に分割し、その旨の登録がされた。
令和2年8月20日、前記審決取消請求事件について、別件商標は、被告
25 の業務に係る商品との間で出所の混同のおそれがあるとし、別件商標権の分
割の効果は登録の時点から将来に向かって生じるから、前記審決の判断の当
否に影響することはなく、商標権の分割の効果を主張して審決の取消しを求
めることは手続上の信義則に反し又は権利を濫用するものとして許されない
とし、原告の請求を棄却する旨の判決(甲246。以下「別件第2次判決」
という。 がされた。
) 原告は、前記判決について、上告受理の申立てをしたが、
5 令和3年7月9日、不受理決定がされた(甲247)。
(8) 本件審判の請求につき、特許庁は、令和4年3月31日、
「登録第614
3667号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審
決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年4月8日、原告に送達
された。
10 (9) 原告は、令和4年5月4日、本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりであり、要するに、本件商
標は法4条1項7号及び同項19号には該当しないが、同項15号に該当する
ので、法46条第1項の規定により無効とすべきであるとするものである。
15 3 原告の主張する本件審決の取消事由
(1) 取消事由1
引用商標が周知著名な商標に当たるとした認定及びこれに基づく判断の誤
り
(2) 取消事由2
20 本件商標と引用商標の類否についての認定及び判断の誤り
(3) 取消事由3
法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」に係る認定及び判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(引用商標が周知著名な商標に当たるとした認定及びこれに基づ
25 く判断の誤り)
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は、引用商標は周知著名であって、その独創性の程度も高いと判
断した。しかし、本件審決が認定した、引用商標が多数使用されているとす
る「これを基にした物品」とは、怪獣である「ゴジラ」のキャラクターを利
用した玩具及びぱちんこ遊技機であって、全て一般消費者のみを需要者とす
5 る商品であり(甲74、101、102)、土木関連分野の業務に従事する専
門業者を需要者とする本件商標の指定商品である「第7類 パワーショベル
用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」とは異なる商品
である。
また、
「ゴジラ」という怪獣のキャラクターやその名称である「GODZI
10 LLA」なる欧文字が周知であったとしても、本件商標の指定商品の取引者・
需要者に対しても出所表示機能を奏すべき商標として周知性を有することを
意味しない。この点、本件商標の指定商品は「第7類 パワーショベル用の
破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であり、その取引者
及び需要者は、本件審決認定のとおり、土木機械の一種である動力ショベル
15 用の附属装置(アタッチメント)を使用する土木関連分野の業務に従事する
専門業者及び当該機械器具の製造販売やリースを行う者である。本件商標の
指定商品については、製造者から最終購買者(使用者)に至るまで全ての対
象者(需要者及び取引者)が特殊特定分野の業務に従事する専門業者なので
あり、したがって、需要者として一般消費者を対象とし、キャラクター(被
20 告〔請求人〕及びそのライセンシーの商品の場合は「ゴジラ」という怪獣の
キャラクター)が有する顧客吸引力を利用する、いわゆるキャラクター商品
とは、需要者が著しく異なっている。そして、被告(請求人)及びそのライ
センシーは、引用商標を使用して本件商標の指定商品である「第7類 パワ
ーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」を製
25 造販売していない。
そもそも、本件審決は、引用商標を商標として使用して販売している商品
について、①引用商標の使用状態又は態様(引用商標単独での使用か、
「ゴジ
ラ」という怪獣のキャラクターを併用した使用か、デザインとしての使用か
等)、②引用商標の使用期間・使用(販売)地域、営業規模・商品の生産量・
販売量・売上額・同種商品の市場におけるシェアなどの販売状況の総体、③
5 引用商標が使用された商品の宣伝広告物の内容(広告媒体・取引書類等の種
類)
・宣伝期間・宣伝地域・宣伝態様・マスメディアの報道(マスメディアで
の紹介状況等)
・回数・宣伝費用等の広告宣伝の状況の総体を具体的に認定す
ることがないまま、引用商標が周知性を有することを認定しているにすぎな
い。
10 そうすると、本件審決認定の事情から直ちに、引用商標が日本国内の広範
囲にわたって、本件商標の指定商品である「第7類 パワーショベル用の破
砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」の取引者及び需要者(土
木機械の一種である動力ショベル用の附属装置(アタッチメント)を使用す
る土木関連分野の業務に従事する専門業者及び当該機械器具の製造販売やリ
15 ースを行う者)の間に知られるようになったということはできないものであ
り(不正競争防止法2条1項1号に関するものではあるが、最高裁平成27
年(受)第1876号同29年2月28日第三小法廷判決・民集71巻2号
221頁(以下「平成29年最判」という。)参照)、本件審決の判断は誤っ
ている。
20 (2) 本件審決は、本件商標の指定商品と被告が引用商標の使用を許諾した一般
消費者向けの商品(人形やぬいぐるみ等の玩具、文房具、食料品、雑貨等)
が、その性質、用途又は目的において関連性を有するものではなく、その取
引者及び需要者を共通しているとはいえないとしながら、引用商標が周知著
名な商標で、その独創性は高いものであって、称呼において相紛らわしく、
25 外観においても相紛らわしい点を含むものであるから類似性は高いこと、被
告の業務内容が多角化しているといえることを理由に混同を生ずるおそれが
あると判断した。
本件審決の判断は、一般消費者において普通に払われる注意力を基準とし
た場合には当てはまる余地があり得るとしても、取引者及び需要者が一般消
費者とは異なる場合には、当該取引者及び需要者において普通に払われる注
5 意力を基準として、法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無
を判断しなければならない(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7
月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁。
(以下「平成12年最
判」という。)
)。
本件商標の指定商品は「第7類 パワーショベル用の破砕機・切断機・掴
10 み機・穿孔機等のアタッチメント」であり、その取引者及び需要者は、専ら
その性能や品質などが商品選択の基準とされる土木機械の一種である動力シ
ョベル用の附属装置(アタッチメント)を使用する土木関連分野の業務に従
事する専門業者及び当該機械器具の製造販売やリースを行う者である。
そうすると、法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、
15 専らその性能や品質などが商品選択の基準とされる土木機械の一種である動
力ショベル用の附属装置(アタッチメント)を使用する土木関連分野の業務
に従事する専門業者及び当該機械器具の製造販売やリースを行う者において
普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。
しかしながら、本件審決は、専らその性能や品質などが商品選択の基準と
20 される土木機械の一種である動力ショベル用の附属装置(アタッチメント)
を使用する土木関連分野の業務に従事する専門業者及び当該機械器具の製造
販売やリースを行う者において普通に払われる注意力を基準として、引用商
標が周知著名な商標に当たると判断したものではない。
したがって、専らその性能や品質などが商品選択の基準とされる土木機械
25 の一種である動力ショベル用の附属装置(アタッチメント)を使用する土木
関連分野の業務に従事する専門業者及び当該機械器具の製造販売やリースを
行う者において普通に払われる注意力を基準としたうえで、被告(請求人)
及びそのライセンシーによる商品の具体的な販売状況等について十分に審理
することなく、本件審決摘示の事情(怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジ
ラ」の欧文字表記である引用商標が周知著名であり、その独創性の程度も高
5 いこと)のみをもって直ちに、引用商標が周知著名な商標に当たるとの認定
判断を前提に混同を生ずるおそれがあると認めた本件審決の判断は誤ってお
り、その判断の誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすものである。
〔被告の主張〕
(1) 平成12年最判が、引用商標の周知著名性を法4条1項15号における
10 「混同を生ずるおそれ」を判断する際の考慮要素としたのは、周知著名商標
であればあるほど、同商標と同一・類似する商標が使用された場合、商品・
役務類似範囲を超えた出所の混同を生ずる蓋然性が高いからである。
そうすると、引用商標が使用されている商品と本件商標の指定商品が必ず
しも一致せず、両商標の需要者が異なっているとしても、引用商標の周知著
15 名性は高く、混同を生ずるおそれが認められる商品の範囲は広いことから、
引用商標は本件商標の指定商品の取引者・需要者に対しても出所表示機能を
奏すべき商標として周知性を有しないとの原告の主張は理由がない。
さらには、引用商標は、後記のとおり本件商標の指定商品である工事現場
等で使用されるパワーショベル用のアタッチメントと同じ分野、業態、ある
20 いは近い分野、業態のサービス(産廃業、解体業、建築業など)を提供する
企業にライセンスされることもあるのであり、本件商標の指定商品の取引者・
需要者に対しても周知著名であるということができる。
原告は、引用商標が日本国内の広範囲にわたって本件商標の指定商品の取
引者・需要者の間に知られなければならないと主張し、平成29年最判を引
25 用するが、同判決は、不正競争防止法2条1項1号の周知性について判断す
るものにすぎず、法4条1項15号における「混同を生ずるおそれ」の判断
要素としての引用商標の周知著名性とは全く関連性がない。
(2) 原告は、平成12年最判において、
「当該商標の指定商品等の取引者・需要
者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきで
ある」とされているにもかかわらず、本件審決は、専らその性能や品質など
5 が商品選択の基準とされる土木機械の一種である動力ショベル用の附属装置
(アタッチメント)を使用する土木関連分野に従事する専門業者及び当該機
械器具の製造販売やリースを行う者において普通に払われる注意力を基準と
して、引用商標が周知著名な商標に当たると判断したものではないと主張す
るが、平成12年最判は、引用商標の周知著名性の程度や当該商標と引用商
10 標との類似性などに照らし、本件商標の指定商品の取引者・需要者の注意力
を基準に、法4条1項15号における「混同を生ずるおそれ」の有無が判断
されるべきとしているのであって、本件商標の指定商品の取引者・需要者の
注意力を基準に、引用商標の周知著名性の程度が判断されるとは述べていな
い。
15 2 取消事由2(本件商標と引用商標の類否についての認定及び判断の誤り)
〔原告の主張〕
(1) 本件審決は、本件商標と引用商標とは、観念において紛れるおそれがなく、
称呼において相紛らわしいものであって、外観においても相紛らわしい点を
含むものということができるから、本件商標と引用商標とは、類似性が高い
20 商標ということができると判断した。
しかし、商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、
商品の出所につき誤認混同を生ずるかおそれがあるか否かにより決すべきで
あり、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、
連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的
25 に考察すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2
月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成3年(オ)
第1805号同4年9月22日第三小法廷判決・集民165号407頁、最
高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集5
1巻3号1055頁)。
なお、前記最高裁平成9年3月11日判決が判示するとおり、 商標の外観、
「
5 観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同する
おそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、右三点のうち類似す
る点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等
によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについ
ては、これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭
10 和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22
巻2号399頁参照)。
」
(2) そうすると、仮に本件商標と引用商標が外観上又は称呼上類似するとして
も、本件商標の指定商品は、専らその性能や品質などが商品選択の基準とさ
れる「第7類 パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のア
15 タッチメント」であって、商品の用途や機能の専門性が高く、当該商品の製
造者から購買者(使用者)に至るまでの販売ルートに関与する需要者及び取
引者の全てが専門業者に限られているという取引の実情に鑑みれば、当該指
定商品について本件商標が使用されても、被告が引用商標の使用を許諾した
一般消費者向けの商品(人形やぬいぐるみ等の玩具、文房具、食料品、雑貨
20 等)と、その性質、用途又は目的において関連性を有するものではないし、
その取引者及び需要者も異なるために、原告の商品が、被告又は被告との間
にいわゆる親子関係や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示によ
る商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品で
あると誤信されるおそれはなく、本件商標を引用商標と類似する商標と解す
25 ることはできない。
したがって、本件商標と引用商標とが、観念において、相紛れるおそれが
ないうえ、本件商標の指定商品と被告が引用商標の使用を許諾した一般消費
者向けの商品(人形やぬいぐるみ等の玩具、文房具、食料品、雑貨等)が、
その性質、用途又は目的において関連性を有するものではなく、その取引者
及び需要者も異なるにもかかわらず、称呼及び外観においても相紛らわしい
5 ことを理由に、本件商標と引用商標とは、類似性が高い商標ということがで
きると認めた本件審決の判断は誤っており、その判断の誤りは本件審決の結
論に影響を及ぼすものである。
〔被告の主張〕
(1) 平成12年最判は、引用商標の周知著名性の程度、当該商標と引用商標と
10 の類似性、当該商標の指定商品と他人の業務に係る商品との間の性質、用途
又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その
他取引の実情などを考慮して、法4条1項15号における「混同を生ずるお
それ」の有無が判断されるべきとしているのであって、当該商標の指定商品
と他人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度
15 並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などを考慮して、
当該商標と引用商標の類似性が判断されるとは述べていない。
当該商標と引用商標との類似性は、当該商標の指定商品と他人の業務に係
る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、商品の取引者及
び需要者の共通性などとともに、
「混同を生ずるおそれ」を判断するための要
20 素の一つとして挙げられているにもかかわらず、当該商標の指定商品と他人
の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、商品
の取引者及び需要者の共通性が否定されるから、混同を生ずるおそれはなく、
したがって、両商標は類似しないと主張する原告の論法は、平成12年最判
の考え方を正解しないものであって、理由がない。
25 (2) 既に述べたとおり、本件商標である「GUZZILLA」と引用商標であ
る「GODZILLA」が類似することに加え、引用商標である「GODZ
ILLA」の周知著名性・独創性の程度が高いこと、及び、被告は、様々な
分野、業界において、経営を多角化しているだけでなく、多様多岐に渡る分
野、業界において、ライセンスを許諾した長年の実績があること、とりわけ、
引用商標は、本件商標の指定商品である工事現場等で使用されるパワーショ
5 ベル用のアタッチメントと同じ分野、業態、あるいはこれに近い分野、業態
のサービス(産廃業、解体業、建築業など)を提供する企業にも使用が許諾
されるなど、本件商標の指定商品と被告の業務に係る商品等とは一定の関連
性があり、共通する取引者・需要者が存在すること、引用商標は、
「建造物等
を破壊する力強いイメージ」を有するものとして使用されているところ、本
10 件商標の指定商品は、まさに「建造物の破壊」という用途において用いられ
る商品であり、引用商標のライセンスの対象商品となりうること、取引者・
需要者が、著名な引用商標と類似する本件商標に接した場合、
「建造物を破壊
する力強いイメージ」を有する引用商標を想起し、タイアップ・使用許諾が
あるなどと混同するおそれがあること、を考慮すれば、本件商標がその指定
15 商品であるパワーショベル用のアタッチメントに使用された場合において、
当該商品の需要者・取引者において普通に払われる注意力を基準としたとし
ても、「混同を生ずるおそれ」が認められることは明らかである。
3 取消事由3(法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」に係る認定及び判断
の誤り)
20 〔原告の主張〕
(1) 本件審決は、特に「出所混同のおそれ」について、別件第1次判決及び別
件第2次判決における判断理由を正しく理解せず、誤った認定判断をしてお
り、その認定判断の誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすものであるから、
取り消されるべきである。
25 別件第1次判決及び別件第2次判決から明らかなように、同事件で争われ
た、本件商標と全く同一デザインの欧文字からなり、本件商標の指定商品で
ある「第7類 パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のア
タッチメント」を含んだ「第7類 鉱山機械器具、土木機械器具、荷役機械
器具、農業用機械器具、廃棄物圧縮装置、廃棄物破砕装置」を指定商品とす
る別件商標については、その指定商品中に、当該商品が被告又は被告との間
5 に緊密な営業上の関係にある営業主等の業務に係る商品であると誤信される
おそれがあるものを含んでいるから法4条1項15号に該当する、と判断さ
れたのであって、その指定商品の全てについて誤信されるおそれがあると判
断されたわけではない。
むしろ、判決の理由で述べられた「本件指定商品のうち専門的・職業的な
10 分野において使用される機械器具」とは、正しく本件商標の指定商品である
「第7類 パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッ
チメント」であることは、別件第1次判決に「本件指定商品のうち、被告ア
タッチメント等の専門的・職業的な分野において使用される機械器具は、産
業現場で、人の業務を補助するために、専らその性能や品質などが商品選択
15 の基準とされ、その需要者は産業機械分野の業務に従事する者であり、その
取引者は産業機械器具の製造販売やリース等を行う者である。このように、
本件指定商品に含まれる一部の商品については、原告が引用商標の使用を許
諾した商品との関連性の程度が高くなく、その取引者及び需要者も異なると
いうことはできる」とされていることから明らかである。
20 (2) なお、本件審決においては、別件第1次判決がいう「産業機械分野の業務
に従事する者」及び「産業機械器具の製造販売やリース等を行う者」は、よ
り具体的に「土木機械の一種である動力ショベル用の附属装置(アタッチメ
ント)を使用する土木関連分野業務に従事する専門業者」と認定されること
となった。
25 よって、本件商標の指定商品であり、かつ、原告が本件商標を実際に使用
している「パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッ
チメント」については、専らその性能や品質などが商品選択の基準とされ、
その需要者は土木機械の一種である動力ショベル用の附属装置(アタッチメ
ント)を使用する土木関連分野の業務に従事する専門業者であり、その取引
者は当該機械器具の製造販売やリースを行う者であるから、これら取引者、
5 需要者が、引用商標の取引者、需要者と異なることは明らかである。
しかも、被告及びそのライセンシーは、少なくとも引用商標を使用して本
件商標の指定商品である「第7類 パワーショベル用の破砕機・切断機・掴
み機・穿孔機等のアタッチメント」を製造販売していない。
そうとすると、本件商標の指定商品は「第7類 パワーショベル用の破砕
10 機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であるから、当該指定商
品について本件商標が使用されても、被告が引用商標の使用を許諾した一般
消費者向けの商品(人形やぬいぐるみ等の玩具、文房具、食料品、雑貨等)
と、その性質、用途又は目的において何ら関連性を有するものではなく、そ
の取引者及び需要者も全く異なり、本件商標の指定商品における商品選択基
15 準は専らその性能や品質などであり、需要者・取引者は商標のイメージによ
って誘引されるものではない。
また、本件商標の指定商品が、被告又は被告との間にいわゆる親子関係や
系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグ
ループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそ
20 れもない。本件審決の認定及び判断は誤りである。
(3) 被告は、本件商標の指定商品である「第7類 パワーショベル用の破砕機・
切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」の分野に進出していない。こ
の点について、被告は、
「第三者に対してライセンスを許諾する」場合も法4
条1項15号の適用が認められる旨主張するが、平成12年最判は、第三者
25 に対してライセンスを許諾する場合の誤信、すなわち使用許諾関係の誤信に
ついて同号が適用されることを明示していない。
この点については、意見書(甲342)に記載のとおり、
「第三者に対して
ライセンスを許諾する」場合の誤信、すなわち使用許諾関係の誤信について
15号が適用されるとしても、当該使用許諾関係の誤信は、引用商標の使用
者が出願商標の指定商品の品質管理をしているとの誤信が生じる場合に限っ
5 て、「混同」に含まれると解するべきである。
これを本件についてみると、本件商標の指定商品の取引者・需要者が、映
画の制作・配給等を行う被告が原告の「パワーショベル用の破砕機・切断機・
掴み機・穿孔機等のアタッチメント」の品質管理を行うことを予想すること
はあり得ない。したがって、本件商標が使用されることによって、使用許諾
10 関係の誤信が生じると仮定しても、それは法4条1項15号の「混同」には
含まれないため、同号該当性は否定されることになる。被告の主張には理由
がない。
〔被告の主張〕
(1) 被告は、様々な分野、業界において経営を多角化しているだけでなく、多
15 様多岐に渡る分野、業界において、長年にわたり引用商標のライセンスを許
諾してきたことから、その取引者・需要者は極めて幅広く、限りない。
さらに、引用商標は、本件商標の指定商品である工事現場等で使用される
パワーショベル用のアタッチメントと同じ分野、業態、あるいはこれに近い
分野、業態のサービス(産廃業、解体業、建築業など)を提供する企業にも
20 使用が許諾されてきたものであるから、本件商標の指定商品と共通する取引
者・需要者も存在する。
したがって、本件商標の指定商品と被告の業務に係る商品等とは一定の関
連性があり、共通する取引者・需要者が存在することは明らかである。
(2) 引用商標である「GODZILLA」の周知著名性・独創性の程度が高い
25 ことに加えて、本件商標である「GUZZILLA」と引用商標である「G
ODZILLA」が類似すること、及び、被告は、様々な分野、業界におい
て経営を多角化しているだけでなく、多様多岐に渡る分野、業界において、
ライセンスを許諾した長年にわたる実績があること、とりわけ、引用商標は、
工事現場等で使用されるパワーショベル用のアタッチメントと同じ分野、業
態、あるいはこれに近い分野、業態のサービス(産廃業、解体業、建築業な
5 ど)を提供する企業にも使用が許諾されるなど、本件商標の指定商品と引用
商標の権利者である被告の業務に係る商品等とは一定の関連性があり、共通
する取引者・需要者が存在すること、引用商標は、
「建造物等を破壊する力強
いイメージ」を有するものとして使用されているところ、本件商標の指定商
品は、まさに「建造物の破壊」という用途において用いられる商品であり、
10 引用商標のライセンスの対象商品となりうること、取引者・需要者が、著名
な引用商標と類似する本件商標に接した場合、 建造物を破壊する力強いイメ
「
ージ」を有する引用商標を想起し、タイアップ・使用許諾があるなどと混同
するおそれがあることなどを考慮すれば、本件商標がその指定商品であるパ
ワーショベル用のアタッチメントに使用された場合において、当該商品の取
15 引者・需要者において普通に払われる注意力を基準としたとしても、
「混同を
生ずるおそれ」が認められることは明らかである。
第4 当裁判所の判断
1 本件商標登録の法4条1項15号該当性の有無について
本件審決は、本件商標登録には法4条1項15号(混同を生ずるおそれ)に
20 該当する事由があるとして同登録は無効であると判断し、原告はこれを争うの
で、以下、同登録に上記無効事由があるかどうかについて判断する。
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を
生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使
用したときに,当該指定商品又は指定役務が他人の業務に係る商品又は役務
25 であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定商品又は指定役
務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係
又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主
の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標を含むもの
と解するのが相当である。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,
当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創
5 性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は
役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務
の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指
定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基
準として,総合的に判断されるべきものである(平成12年最判参照)。
10 そして、この「同一の表示による商品化事業を営むグループ」には、表示
を指定された商品に付し役務に用いるなどして商品の販売等の事業を営む他
の営業主のように、他人の表示に係る使用許諾(ライセンス)契約を締結し
て事業を営む者をも含むと解すべきであるから、そこにいう「誤信されるお
それがある商標」(広義の混同のおそれのある商標)には、使用許諾に係る
15 他人の表示と同一ないし類似の商標であって、これが商品に付され又は役務
に用いられることにより、他人の表示に関するライセンス契約を締結して事
業を営むグループに属する関係にある複数の営業主のうちに、この同一ない
し類似の商標を用いて事業を営む者に属する関係にあると誤信されるおそれ
がある商標を含むものというべきである。
20 以下、この観点から判断する。
(2) 商標の類似性の程度
ア 外観
本件商標は、「GUZZILLA」と、8文字の欧文字から成る。本件
商標において、「G」と「A」の字体は、やや丸みを帯び、「U」と3文
25 字目の「Z」の上端及び7文字目の「L」と「A」の下端は、それぞれ結
合し、3文字目及び4文字目の「Z」は、両文字の左下が前下方に鋭く突
尖しているほか、やや縦長の太文字で表されることによって、デザイン化
されている。
引用商標は、「GODZILLA」と、8文字の欧文字から成る。被告
が引用した引用商標の文字は、標準文字であって、デザイン化されていな
5 いが、実際には、様々な書体で使用されている。
本件商標と引用商標の外観とを対比すると、いずれも8文字の欧文字か
らなり、語頭の「G」と語尾の5文字「ZILLA」を共通にする。2文
字目において、本件商標は「U」から成るのに対し、引用商標は「O」か
ら成るが、本件商標において「U」と3文字目の「Z」の上端は結合し、
10 やや縦長の太文字で表されているから、見誤るおそれがある。もっとも、
本件商標と引用商標は、3文字目において相違するほか、本件商標は前記
のとおりデザイン化され、全体的に外観上まとまりよく表されている。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において相紛らわしい点を
含むものということができる。
15 イ 称呼
本件商標の語頭の2文字「GU」は、ローマ字の表記に従って発音すれ
ば「グ」と称呼され、我が国において、なじみのある「GUM」などの英
単語と同様に発音すれば「ガ」と称呼される。したがって、本件商標は、
「グジラ」又は「ガジラ」と称呼され、語頭音は「グ」と「ガ」の中間音
20 としても称呼されるものである。なお、原告が製造販売等する建設機械用
アタッチメントは、本件商標の商標登録出願日以前において、その外観に
本件商標が付され、「ガジラ」との名称で取引されていたことが認められ
るものの(甲250~252、272、273)、その名称が「ガジラ」
として、広く知られていたと認めるに足りる証拠はない。よって、本件商
25 標から「ガジラ」との称呼のみが生じるとはいえない。
引用商標は、後記(3)イのとおり、怪獣映画に登場する怪獣の名称として
著名な「ゴジラ」の欧文字表記として広く知られているから、「ゴジラ」
と称呼されるものである。また、引用商標の語頭音は、英語の発音におい
て、「ゴ」と「ガ」の中間音としても称呼され、現に大ヒットした映画「シ
ン・ゴジラ」でも「ゴ」と「ガ」の中間音として称呼されるなど、我が国
5 において、本件商標の商標登録出願時、引用商標の英語の発音による称呼
も一般化しており(甲163~165、275ないし277)、英和辞典
には、「Godzilla」の発音につき「ガドズィラ」と表記するもの
もある(甲153)ことなどから、引用商標の語頭音の「ゴ」は、「ゴ」
と「ガ」の中間音としても称呼されるものということができる。
10 本件商標と引用商標の称呼を対比すると、語頭音を除く称呼は「ジラ」
と共通する。また、語頭音は、本件商標は「グ」と「ガ」の中間音として
称呼され得るものであって、引用商標は「ゴ」と「ガ」の中間音として称
呼され得るものであるところ、本件商標における「グ」と「ガ」の中間音
と、引用商標における「ゴ」と「ガ」の中間音とは、いずれも子音を共通
15 にし、母音も近似する。
したがって、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいもの
というべきである。
ウ 観念
本件商標からは特定の観念が生じず、引用商標からは怪獣映画に登場す
20 る怪獣「ゴジラ」との観念が生じる。
エ 本件商標と引用商標の類似性
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいも
のであって、外観においても相紛らわしい点を含むことから、類似性の程
度は高いものということができる。
25 (3) 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
ア 怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジラ」は、被告によって創作された
ものであり、「ゴジラ」が著名であることは当事者間に争いがない。
日本国語大辞典(第2版第5巻、平成16年(2004年)5月20日
第4刷発行)には、「ゴジラ(Godzilla)」の項目があり、そこ
には、「昭和29年(1954)製作の東宝映画「ゴジラ」にはじめて出
5 てくる怪獣の名。ゴリラとクジラを合体させた命名。恐龍に似た体長50
メートルの巨大怪獣で、水爆実験によって太古の眠りから覚め、日本に上
陸して東京都心で大暴れをする。興行的にも大ヒットし、怪獣ブームの端
緒となった。」と記載されているところである(甲125)。
イ 映画に登場する怪獣である「ゴジラ」には、昭和30年、欧文字表記と
10 して引用商標が当てられ、その後、引用商標が「ゴジラ」を示すものとし
て使用されるようになった(甲7、8)。「GODZILLA」の表記と
なった理由について、「JI」の発音がアメリカ人には難しいため、神を
意味する「GOD」を入れたなど諸説あるが、関係者による「GOD」が
ついたプロセスを記した本があり、そこには日本でつけられた旨が書かれ
15 ていたとするもの、昭和31年に米国版ゴジラを公開する際に米国で付け
られたとするものもあるが、詳細は不明である(甲221、257の1)。
また、「ゴジラ」をそのまま英語表記すると「Gojira」となるが、
あえて「GODZILLA」のような変わった綴りにしたのは、神を意味
する「GOD」を入れることで強そうなイメージとゴジラが唯一無二の存
20 在であることを欧米人に認識してもらう意図があったためといわれてい
る、とするものがある(甲275)。
欧文字表記の引用商標は、我が国において、遅くとも昭和32年以降、
映画の広告や当該映画中に頻繁に使用され(甲7、8、10、21、39
~43、46~50、55、79、80、81の1~3、82、84)、
25 遅くとも昭和58年以降、怪獣である「ゴジラ」を紹介する書籍や、東京・
日比谷の広場に設置された銅像その他これを基にした物品に多数使用さ
れていること(甲17、18、21、22、26、45、52~54、5
6~74、77、78、92、101の3、102の4)、さらに、怪獣
である「ゴジラ」の英語表記として多くの辞書にも掲載されており(甲1
25~129、143~153)、その中には「Godzilla」につ
5 き「ゴジラ:日本映画(東宝1954-)から世界中で知られる怪獣」(甲
146)などとするものもあることからすれば、引用商標は周知著名であ
るということができる。
ウ 「ゴジラ」は、前記アのとおり、ゴリラとクジラを合体させたものであ
ると説明されているところ、語頭が「G」で始まり、語尾が「ZILLA」
10 で終わる登録商標は、引用商標の他には、本件商標を除き見当たらない。
架空の怪獣の名称において、語頭が濁音で始まり、語尾が「ラ」で終わる
3文字のものが多いとしても、これらは怪獣「ゴジラ」が著名であること
の影響によるものと認められ(甲253)、さらに、欧文字表記において、
引用商標と類似するものも見当たらない。
15 エ 以上によれば、引用商標は周知著名であって、「ゴジラ」を欧文字表記
したにとどまらない点を含め、その独創性の程度も高いというべきであ
る。
(4) 商品の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性
ア 商品の関連性の程度
20 本件商標の指定商品は、第7類「パワーショベル用の破砕機・切断機・
掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であり、土木機械の一種である動力
ショベル用の附属装置(アッタッチメント)であって、示された破砕、切
断、掴み、穿孔等の土木作業の用途によって交換される動力ショベル専
用の装置であり、土木に関する専門的・職業的な分野において使用され
25 る機械器具である。
これに対し、被告の主な業務は、映画の制作・配給、演劇の制作・興行、
不動産経営等のほか、キャラクター商品等の企画・制作・販売・賃貸、著
作権・商品化権・商標権その他の知的財産権の取得・使用・利用許諾その
他の管理であり(甲159)、多角化している。被告は、百社近くの企業
に対し、引用商標の使用を許諾しているところ、その対象商品は、人形や
5 ぬいぐるみなどの玩具、文房具、衣料品、食料品、雑貨、遊戯具等、多岐
にわたるほか、宣伝広告等にも使用を許諾している(甲12、83、85
~102、169~181(枝番を含む。))。
また、被告は、平成17年以降、複数の大手ゼネコンから、工事現場や
工事中の壁面に引用商標を含むゴジラの表示やロゴ等を使用することに
10 つき許諾を求められたり、あるいは実際にその許諾をするなど、本件商
標の指定商品である作業現場で使用される動力ショベルのアタッチメン
トと同じか、あるいはこれに近い分野である、産廃業、解体業及び建築業
等について引用商標の使用許諾を行うなどしてきた(甲195~212、
乙1、2、6~17(枝番を含む。))。
15 その中には、住宅やビルの解体を手掛ける業者において、「ゴジラvs
コング(GODZILLA vs KONG)」として、「GODZIL
LA」を「破壊神」としてタイアップCMを放送したり、クレーン車が建
築物を運搬する場面が映画「ゴジラvsコング(GODZILLA v
s KONG)」の映像とともにCMとして放送するなどの企画もあっ
20 た(乙6~9、12、13)。
被告が引用商標の使用を許諾した商品等のうち、玩具、文房具、衣料
品、食料品、雑貨等については、日常生活で、一般消費者によって使用さ
れる物であるから、性質、用途及び目的における関連性の程度は高くは
ないものの、被告は、産廃業、解体業及び建築業等の業種にも引用商標の
25 使用を許諾するなどしているところ、これらは、本件商標の指定商品の
取引者・需要者と同じかこれと近い分野ないし業態であり、本件商標の
指定商品と共通する取引者・需要者も一定数存するものというべきであ
る。
よって、本件商標の指定商品は、被告の業務に係る商品等と比較した場
合、性質、用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれて
5 いるというべきである。
イ 取引者及び需要者の共通性
本件商標の指定商品は、第7類「パワーショベル用の破砕機・切断機・
掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であり、土木機械の一種である動力
ショベル用の附属装置(アタッチメント)であって、示された破砕、切
10 断、掴み、穿孔等の土木作業の用途によって交換される動力ショベル専
用の装置であり、土木に関する専門的・職業的な分野において使用され
る機械器具である。なお、土木に関する機械器具においても、レンタルが
行われているものであるから(乙33、34、41~49)、その取引者
は、これらの器具の製造販売や小売り、レンタル等を行う者である。
15 また、被告が引用商標の使用を許諾した玩具、雑貨、遊戯具等について
は、その需要者は一般消費者であり、その取引者は、これらの商品の製造
販売や小売り等を行う者であるが、被告が引用商標の使用を許諾した産
廃業、解体業及び建築業等については、本件商標の指定商品の取引者・需
要者と同じかこれと近い分野ないし業態であり、本件商標の指定商品の
20 取引者及び需要者の中には、被告から使用許諾を受けて事業を営む者の
業務に係る商品等の取引者及び需要者と共通する者が含まれる。そして、
商品の性質、用途又は目的を考慮しても、これら共通する取引者及び需
要者は、商品の性能や品質のみを重視するとまでいうことはできず、使
用許諾関係も含む商品等に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮
25 して取引を行うというべきである。
(5) 出所混同のおそれ
以上のとおり、「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たっての
各事情について、取引の実情などに照らして考慮すれば、本件商標の指定
商品に含まれる専門的・職業的な分野において使用される機械器具と、被
告の業務にかかる商品等との関連性の程度が非常に高いとはいえない。
5 しかし、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいものであ
って、外観においても相紛らわしい点を含むものであることから、その類
似性の程度は高く、引用商標は周知著名であって、その独創性の程度も高
い。さらに、被告の業務は多角化しており、本件商標の指定商品に含まれ
る商品の中には、被告の使用許諾に係る商品及び業務等と比較した場合、
10 性質、用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれる。加え
て、これらの商品の取引者及び需要者と、被告の業務に係る商品の取引者
及び需要者とは共通し、これらの取引者及び需要者は、取引の際に、商品
の性能や品質のみではなく、商品等に付された商標に表れる業務上の信用
をも考慮して取引を行うものということができる。
15 そうすると、本件商標の指定商品についても、本件商標を使用したとき
に、当該商品が被告又は被告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊
密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属
する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあ
るものが含まれるというべきである。
20 よって、本件商標は、法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」
のある商標として、法46条1項の規定により無効とされるべきである。
(6) 原告の主張に対する補足的判断
ア 取消事由1(引用商標が周知著名な商標に当たるとした認定及びこれ
に基づく判断の誤り)について
25 原告は、本件商標の指定商品は「第7類 パワーショベル用の破砕機・
切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」であるから、その取引者及
び需要者は、土木機械の一種である動力ショベル用の附属装置(アタッ
チメント)を使用する土木関連分野の業務に従事する専門業者及び当該
機械器具の製造販売やリースを行う者であり、特殊特定分野の業務に従
事する専門業者であるところ、被告及びそのライセンシーは、引用商標
5 を使用して本件商標の指定商品である「第7類 パワーショベル用の破
砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」を製造販売しておら
ず、引用商標が日本国内の広範囲にわたって本件商標の指定商品を使用
する土木関連分野の業務に従事する専門業者及び当該機械器具の製造販
売やリースを行う者の間に知られるようになったということはできない
10 から、本件審決の判断は誤りである旨を主張する。
しかし、引用商標の周知著名性についての認定及び判断は前記(3)のと
おりであり、これが本件商標の指定商品の取引者及び需要者について変
わるところがあるものとは認められず、引用商標は周知著名であるとい
うことができる。
15 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 取消事由2(本件商標と引用商標の類否についての認定及び判断の誤
り)について
原告は、仮に本件商標と引用商標が外観上又は称呼上類似するとして
も、本件商標の指定商品は、専らその性能や品質などが商品選択の基準
20 とされるから、商品の用途や機能の専門性が高く、当該商品の製造者か
ら購買者(使用者)に至るまでの販売ルートに関与する需要者及び取引
者の全てが専門業者に限られているとの取引の実情に鑑みれば、本件商
標と引用商標とは観念において相紛れるおそれがなく、本件商標の指定
商品と被告が引用商標の使用を許諾した一般消費者向けの商品(人形や
25 ぬいぐるみ等の玩具、文房具、食料品、雑貨等)が、その性質、用途又は
目的において関連性を有するものではないから、その取引者及び需要者
も異なるにもかかわらず、称呼及び外観においても相紛らわしいことを
理由に、本件商標と引用商標とは、類似性が高い商標ということができ
ると認めた本件審決の判断は誤りである旨を主張する。
しかし、前記(2)のとおり、本件商標と引用商標とは称呼及び外観にお
5 いて相紛らわしいものであり、類似性の程度は高いものであると認めら
れるところ、これを踏まえ、商品の関連性や他人の表示の周知著名性や
独創性の程度、取引の実情等を総合的に判断して法4条1項15号の「混
同を生ずるおそれ」を判断すべきものである。そして、引用商標は著名で
あるほか、独創性の程度も高いこと、被告は産廃業、解体業及び建築業
10 等、本件商標の指定商品の取引者・需要者と近い業種にも引用商標を含
む使用許諾(ライセンス)を行っていることなどの取引の実情等を総合
考慮すれば、
「混同を生ずるおそれ」があると認められることについては
既に述べたとおりである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
15 ウ 取消事由3(法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」に係る認定
及び判断の誤り)について
原告は、本件商標の指定商品について本件商標が使用されても、被告
が引用商標の使用を許諾した一般消費者向けの商品(人形やぬいぐるみ
等の玩具、文房具、食料品、雑貨等)と、その性質、用途又は目的におい
20 て何ら関連性を有するものではなく、その取引者及び需要者も全く異な
るから、本件商標の指定商品が、被告又は被告との間にいわゆる親子関
係や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業
を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤
信されるおそれはなく、仮に使用許諾(ライセンス)関係の誤信について
25 法4条1項15号が適用されるとしても、当該使用許諾関係の誤信は、
引用商標の使用者が出願商標の指定商品の品質管理をしているとの誤信
が生じる場合に限って、
「混同」に含まれると解すべきであると主張する。
しかし、既に述べたとおり、平成12年最判にいう広義の混同のおそ
れがある商標には、使用許諾(ライセンス)契約に基づき事業を営むグル
ープに属する関係にあるとの誤信をさせるおそれのある商標を含むもの
5 と解されるところ、それは商標の自他識別機能を保護することで業務上
の信用を維持することに目的があるものであって、その主眼は自他識別
機能の保護にあり、原告の主張するように、使用許諾をした者が許諾を
受けた者の品質管理をしているとの誤信が生じる場合に限られると解す
べき根拠はないというべきである。
10 また、「混同を生ずるおそれ」について、法4条1項15号該当性は、
商品の関連性のみならず他人の表示の周知著名性や独創性の程度、取引
の実情等を総合的に判断するものであるところ、引用商標は著名である
ほか、独創性の程度も高く、その他本件商標の指定商品の取引者・需要者
との一定の共通性があることからすれば、本件商標は引用商標との「混
15 同を生ずるおそれ」のある商標であると認められることについては既に
述べたとおりである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
2 結論
以上によれば、原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく、本件審決
20 を取り消すべき違法はない。
よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
5 裁判官
今 井 弘 晃
10 裁判官
水 野 正 則
(別紙審決書写し省略)
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