令和4(ワ)23542発信者情報開示請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
東京地方裁判所東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年7月14日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社h.m.p 被告エキサイト株式会社
|
法令 |
著作権法29条1項2回 著作権法14条2回 著作権法2条1項10号1回 著作権法2条1項1号1回 著作権法16条1回 著作権法15条1項1回
|
キーワード |
侵害17回 損害賠償4回 実施2回
|
主文 |
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。10
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件
氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBi
tTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワー
ク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙動画目録20
記載の作品(以下「本件動画」という。)を複製して作成した電子データ(以
下「本件複製物」という。)を、本件氏名不詳者が管理する端末にダウンロー
ドし、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態とする、又は実際に自
動公衆送信することによって、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したこ
とが明らかであり、本件氏名不詳者に対する損害賠償請求等のため、被告が保25
有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)
の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の
損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責
任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事
案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
令和5年7月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第23542号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和5年5月30日
判 決
5 原 告 株式会 社 h .m . p
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
被 告 エキサ イト 株式 会 社
同訴訟代理人弁護士 藤 井 康 弘
主 文
10 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
15 第2 事案の概要等
1 事案の要旨
本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件
氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBi
tTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワー
20 ク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、別紙動画目録
記載の作品(以下「本件動画」という。)を複製して作成した電子データ(以
下「本件複製物」という。)を、本件氏名不詳者が管理する端末にダウンロー
ドし、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態とする、又は実際に自
動公衆送信することによって、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したこ
25 とが明らかであり、本件氏名不詳者に対する損害賠償請求等のため、被告が保
有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)
の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の
損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責
任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事
案である。
5 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特
記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者
ア 原告は、アダルト動画の企画及び制作を行っている株式会社である(弁
論の全趣旨)。
10 イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
⑵ 本件動画の著作物性
本件動画は、アダルト動画であり、思想又は感情を創作的に表現した映画
の著作物(著作権法2条1項1号、10条1項7号)である(甲2、11)。
⑶ 株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲
15 5、6、弁論の全趣旨)
原告は、本件調査会社に対し、本件動画について、ビットトレントを利用
した著作権侵害行為の監視を依頼した。この依頼を受け、本件調査会社は、
「μTorrent」という名称のソフトウェア(以下「本件ソフト」という。)
を使用して調査を開始したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記
20 載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)を割り当てられた
本件氏名不詳者が、ビットトレントネットワーク上において、本件複製物を
不特定多数のビットトレント利用者の求めに応じて自動的にアップロードし
得る状態にしたとの調査結果を得た。
⑷ 本件各発信者情報の保有
25 被告は本件各発信者情報を保有している。
3 争点
⑴ 原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
⑵ 原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点
2)
第3 争点に関する当事者の主張
5 1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
⑴ 原告に本件動画の著作権が帰属すること
本件動画のパッケージには、第三者認証機関によって割り当てられた原告
の会員番号等が記載されており、著作物の原作品に、又は著作物の公衆への
10 提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(実名)又はその雅号、筆
名、略称その他実名に代えて用いられるもの(変名)として周知のものが著
作者名として通常の方法により表示されているといえるから(著作権法14
条)、本件動画の著作者は原告であると推定される。
また、本件動画は、原告の発意に基づき、原告代表者及び原告の従業員が
15 職務上作成したものであり、職務著作に該当するから、原告が本件動画の著
作者となる(著作権法15条1項)。
さらに、本件動画の製作において、原告代表者及び原告の従業員は、その
企画、全体的な製作に関する決定を行っており、「全体的形成に創作的に寄
与した者」(著作権法16条本文)に該当し、本件動画の著作者であるとい
20 えるところ、原告代表者及び原告の従業員は、本件動画の映画製作者である
原告に対し参加約束をしたことから、本件動画の著作権は原告に帰属する
(著作権法29条1項)。
以上のとおり、いずれにしても、本件動画の著作権は原告に帰属している。
⑵ 本件調査会社の調査結果に信用性があること
25 本件ソフトは、ビットトレントをより効率的に利用するためのソフトウェ
アであって、違法アップロードをした者(以下「侵害者」という。)を特定
することを目的として開発されたものではない。しかし、本件ソフトには、
侵害者がファイルをダウンロードしつつ、同ファイルをアップロードしてい
る状態を監視することができる機能が備わっており、そのような行為に及ん
だ侵害者のIPアドレスを解明することができる仕組みとなっている。
5 本件調査会社は、①「.torrent」という拡張子がついたファイル(以下
「トレントファイル」という。)をダウンロードし、本件ソフト上にて対象
ファイルのダウンロードを開始する、②侵害者が対象ファイルをアップロー
ドしていることが判明した場合には、侵害者のIPアドレスを確認した上で、
さらに、実際にダウンロードしたファイルを開いて被侵害品と比較して、そ
10 の同一性を確認するという方法により、侵害者のIPアドレスを特定してい
る。
本件においても同様の方法で調査が実施されており、調査結果の正確性に
疑義はない。
そして、上記の調査結果によって判明した日時及びIPアドレスは、本件
15 氏名不詳者が本件複製物を不特定多数の者からの求めに応じてダウンロード
できる状態にしていた、又は実際に自動公衆送信していた際のものであると
いえる。
よって、本件調査会社の調査結果には信用性が認められ、本件氏名不詳者
が原告の著作権を侵害していることは明らかである。
20 (被告の主張)
⑴ 原告に本件動画の著作権が帰属しないこと
原告は、著作権法14条、15条1項又は29条1項に基づき、自らに本
件動画の著作権が帰属すると主張しているが、これらの主張を裏付ける証拠
は提出されていない。
25 したがって、原告に本件動画の著作権が帰属しているかは明らかではない。
⑵ 本件調査会社の調査結果に信用性がないこと
以下の事情などからすれば、本件調査会社の調査結果を信用することはで
きない。
ア 本件調査会社は、原告の依頼に基づき調査を行った会社にすぎず、本件
ソフトを開発した会社でもないから、その説明の中立性、正確性は担保さ
5 れていない。
イ 本件調査会社は、多数のファイルを同時にダウンロードしていることな
どからすれば、IPアドレスの取り違えが発生している可能性がある。
ウ 原告は、本件調査会社の調査結果によって判明した日時及びIPアドレ
スは、本件氏名不詳者が本件複製物を実際にアップロードしていた際のも
10 のであると主張するが、本件調査会社が、本件氏名不詳者が本件複製物を
ダウンロードしている場面をスクリーンショットで撮影した画像(甲1。
以下「本件スクリーンショット」という。)において、侵害者の端末の通
信状況が表示される下段の「上り速度」 「下り速度」の欄は、いずれも空
、
欄となっており、このような事情からすれば、上記の日時及びIPアドレ
15 スは、本件氏名不詳者が本件複製物を実際にアップロードした際のもので
はない。
2 争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)
について
(原告の主張)
20 原告は、本件氏名不詳者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求する予定
であるが、そのためには、被告が保有する本件各発信者情報の開示を受ける必
要がある。
したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が
ある。
25 (被告の主張)
争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
⑴ 原告に本件動画の著作権が帰属するか
証拠(甲17、20)及び弁論の全趣旨によれば、原告代表者が、本件動
5 画の撮影及び製作に関する決定を行ったことが認められるから、原告代表者
は、本件動画の「全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条)に
該当し、本件動画の著作者であるといえる。
また、上記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件動画の製作
に発意及び責任を有する者、すなわち「映画製作者」(著作権法2条1項1
10 0号)であると認められ、原告代表者は「映画製作者」である原告に対し本
件動画の「製作に参加することを約束している」ものと認められる。
したがって、本件動画の著作権は、著作権法29条1項により、原告に帰
属する。
⑵ 本件調査会社の調査結果の信用性
15 ア 証拠(甲4ないし6、22)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレン
トネットワークとは、インターネットを通じ、P2P方式でファイルを共
有するネットワークであり、特定のファイルをダウンロードしようとする
ユーザーが、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにおいて当
該ファイルに係るトレントファイルをダウンロードした後、当該トレント
20 ファイルを自らの端末のクライアントソフトで読み込むと、トラッカーサ
イトと呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルを保有するピア(デ
ータをやり取りするユーザーの端末)のIPアドレスを取得して、当該ピ
アから当該ファイルをダウンロードするとともに、自動的にトラッカーサ
イトにピアとして登録され、以後、別のピアから要求があれば、自己の端
25 末から当該ピアに対して当該ファイルを送信する仕組みのものであること
が認められる。
そして、上記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本
件複製物に係るトレントファイルをダウンロードした上、ビットトレント
のクライアントソフトの一つである本件ソフトを起動し、本件ソフト上に
て、本件複製物のダウンロードを開始したところ、本件IPアドレスを割
5 り当てられた本件氏名不詳者が本件複製物をアップロードしていることを
確認し、さらに、実際に本件氏名不詳者からダウンロードしたファイルを
開いて本件動画と比較したところ、これらが同一の内容を有していること
を確認したことが認められる。本件全証拠によっても、このような本件調
査会社による調査手法に特段の問題点は認められない。
10 イ これに対し、被告は、①本件調査会社は、原告の依頼に基づき調査を行
った会社にすぎず、本件ソフトを開発した会社でもないから、その説明の
中立性及び正確性が担保されていない、②本件調査会社は、多数のファイ
ルを同時にダウンロードしていることからすれば、IPアドレスの取り違
えが発生している可能性がある、③本件スクリーンショットにおいて、侵
15 害者の端末の通信情報が表示される下段の「上り速度」及び「下り速度」
の欄がいずれも空欄となっていることからすれば、本件調査会社の調査結
果によって判明した日時及びIPアドレスは、本件氏名不詳者が本件複製
物を実際にアップロードした際のものではないなどとして、本件調査会社
の調査結果は信用できないと主張する。
20 しかし、上記①については、本件調査会社による調査手法に特段問題点
が認められないことは上記アで説示したとおりであって、本件調査会社が
原告の依頼を受けて調査を行ったことや本件ソフトの開発会社ではないこ
とは、本件調査会社の調査結果の信用性を直ちに否定するような事情とは
いえない。したがって、この点の被告の主張は採用することができない。
25 上記②については、実際にIPアドレスの取り違えが発生していること
をうかがわせる証拠もないから、この点の被告の主張は、抽象的なおそれ
を指摘するものにすぎず、採用することができない。
上記③について、証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件スクリ
ーンショットの撮影時において、本件IPアドレスで特定される端末のフ
ァイル保有率は90.2%であり(侵害者の端末の通信情報が表示される
5 本件スクリーンショット下段の「%」欄)、また、本件調査会社の端末の
通信情報が表示される本件スクリーンショット上段の「状態」欄には、本
件調査会社のダウンロードの進行状況として「ダウンロード中99.6%」
と記載されていることが認められる。そうすると、上記の時点において、
本件氏名不詳者は本件複製物をアップロードすることが可能な状況にあり、
10 かつ、本件調査会社は本件複製物のダウンロードを実施していたものとい
える。このような事情に加え、本件スクリーンショット下部の「上り速度」
や「下り速度」欄が空欄であったとしても、ファイルのダウンロードが進
行し得ること(甲12)にも鑑みると、被告が指摘する「上り速度」及び
「下り速度」欄が空欄となっているということのみをもって、本件調査会
15 社の調査結果によって判明した日時及びIPアドレスは、本件氏名不詳者
が本件複製物を実際にアップロードした際のものではないということはで
きない。
したがって、被告の主張はいずれも採用することができない。
⑶ 違法性阻却事由の不存在
20 本件全証拠によっても、本件氏名不詳者の行為について、違法性阻却事由
が存在することはうかがわれないから、不存在であると認めるのが相当であ
る。
⑷ 小括
以上によれば、本件調査会社の調査結果に基づき、本件氏名不詳者が本件
25 複製物をビットトレントネットワークにアップロードすることによって、本
件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである
(プロバイダ責任制限法5条1項1号)と認めることができる。
2 争点2(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)
について
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件氏名不詳者に対し、不法行為に基づく
5 損害賠償請求等をする予定であることが認められる。
したがって、原告には被告が保有する本件各発信者情報の開示を受けるべき
正当な理由があるといえる(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
3 結論
以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判
10 決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
國 分 隆 文
裁判官
バ ヒ ス バ ラ ン 薫
裁判官
木 村 洋 一
(別紙)
発信者情報目録
以下のIPアドレスを、以下の日時に被告から割り当てられていた契約者の氏名
5 又は名称、住所及び電子メールアドレス
令和4年(2022年)7月22日
日時
7時18分19秒
IPアドレス 省略
以上
(別紙)
動画目録
品番 省略 甲1
作品名 省略 甲2
5 以上
最新の判決一覧に戻る