ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和4(行ケ)10100 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和5年8月24日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告ABB株式会社 被告デュールシステムズアーゲー |
| 対象物 | 塗装機器および塗装方法 |
| 法令 |
特許権 特許法36条6項1号5回 特許法29条2項5回 特許法36条6項2号3回 |
| キーワード | 審決40回 無効16回 進歩性8回 無効審判5回 実施4回 特許権1回 刊行物1回 優先権1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない)10 (1) 本件特許の設定登録 被告は、発明の名称を「塗装機器および塗装方法」とする発明について、 平成21年(2009年)10月16日、特許出願(同日を国際出願日とす る特許出願。パリ条約による優先権主張外国庁受理:2008年10月24 日、ドイツ連邦共和国)をし、平成28年7月29日、特許権の設定登録を15 受けた(特許第5976320号。請求項の数40。以下、この特許を「本 件特許」という。)。 (2) 前件の無効審判 本件特許については、令和2年1月31日に無効審判請求(無効202 0-800009号事件)がされ、同年12月11日付けで「特許第59720 6320号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲 のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4、11、13-15、19、24、 25、29、34、35〕、〔2〕、〔5〕、〔6-10〕、〔12〕、〔16、1 7〕、〔18〕、〔20〕、〔21〕、〔22〕、〔23〕、〔26〕、〔27〕、〔28〕、 |
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令和5年8月24日判決言渡
令和4年(行ケ)第10100号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年6月29日
判 決
原 告 A B B 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 川 村 憲 正
同 神 山 直 史
同 池 田 浩 司
同 下 平 俊 直
被 告 デュール システムズ アーゲー
同訴訟代理人弁理士 木 村 満
同 長 谷 川 陽 子
同 山 本 洋 美
同 白 井 健 朗
同 鈴 木 洋 雅
同 榊 原 靖
同 大 坂 知 美
同訴訟代理人弁護士 笠 原 基 広
同 野 村 信 之
同訴訟復代理人弁理士 橋 本 幸 治
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
5 特許庁が無効2021-800046号事件について令和4年8月12日にした審決中、「特許第5976320号の請求項5、12、18、21、22、26、28、36及び37に係る発明についての本件審判の請求は成り立たない。」との部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない)
(1) 本件特許の設定登録被告は、発明の名称を「塗装機器および塗装方法」とする発明について、平成21年(2009年)10月16日、特許出願(同日を国際出願日とする特許出願。パリ条約による優先権主張外国庁受理:2008年10月24日、ドイツ連邦共和国)をし、平成28年7月29日、特許権の設定登録を受けた(特許第5976320号。請求項の数40。以下、この特許を「本件特許」という。 。)
(2) 前件の無効審判本件特許については、令和2年1月31日に無効審判請求(無効2020-800009号事件)がされ、同年12月11日付けで「特許第5976320号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3、4、11、13-15、19、24、25、29、34、35〕 〔2〕 〔5〕 〔6-10〕 〔12〕 〔16、1、 、 、 、 、7〕 〔18〕 〔20〕 〔21〕 〔22〕 〔23〕 〔26〕 〔27〕 〔28〕、 、 、 、 、 、 、 、 、〔30〕 〔31〕 〔32、33〕 〔36〕 〔37〕 〔38〕 〔39、40〕、 、 、 、 、 、について訂正することを認める。本件審判の請求を却下する。」旨の審決がされ、当該審決は確定した。
(3) 今回の無効審判ア 原告は、令和3年5月28日、本件特許について、特許法29条2項違反(進歩性欠如)、36条6項1号違反(サポート要件違反)、同項2号
5 違反(明確性要件違反)及び同項3号違反(簡潔性要件違反)を理由として、特許無効審判(無効2021-800046号事件)を請求した。イ 被告は、令和3年11月2日、本件特許の特許請求の範囲の請求項5、12、18、20、23、26、32、33、36、37、39及び40を訂正(請求項20、23、32、33、39及び40については削除)する訂正請求をした(以下、その訂正を「本件訂正」という。 。)ウ 特許庁は、令和4年8月12日、本件訂正を認めた上で、「特許5976320号の請求項5、12、18、21、22、26、28、36及び37に係る発明についての本件審判の請求は、成り立たない。特許5976320号の請求項20、23、32、33、39及び40に係る発明についての本件審判の請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月23日、原告に送達された。
(4) 原告は、令和4年9月20日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 本件発明の概要
(1) 特許請求の範囲ア 本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、別紙「本件特許の特許請求の範囲」記載のとおりである(以下、その各請求項に係る発明を請求項番号に対応して「本件発明5」などといい、総称して「本件発明」という。 。)イ 上記特許請求の範囲の各請求項(削除分を除く請求項の数9)を通じて、以下の共通する構成(発明特定事項)が定められている(設定時の請求項1がこれに相当する。 。)「 塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1
5 ~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され(る、)ことを特徴とする塗装機器」ウ 上記イの共通の構成に加え、請求項5ではキャビンの空気からオーバースプレーを除去する空気フィルターについて、請求項12では行列形式に配置された塗装剤ノズルについて、請求項18では連続的な塗装セッションの間に回転する塗装剤ノズルについて、請求項21ではエフェクト塗料等の特殊塗料について、請求項22では塗装剤と接するプリントヘッドの表面のエリアに摩耗を減少させる塗装が提供されていることについて、請求項26ではプリントヘッドを位置決めする多軸ロボットとセンサーについて、請求項28ではプリントヘッドが経路の方向に関してお互いに隣に配置される塗装剤ノズルについて、請求項36では、塗装方法として、エリア塗装の表面積の大きさによってプリントヘッドが回転する場合があることについて、請求項37では、塗装方法として、プリントヘッド等の空間位置を検知する工程と、測定された位置の関数として、プリントヘッドの空間位置を開ループ調節及び閉ループ制御す
5 る工程を有することについての構成(発明特定事項)が付加されている。なお、本件発明5、12、18、21、22、26及び28は塗装装置に係る物の発明、本件発明36及び37は塗装方法に係る方法の発明である。
(2) 明細書の発明の詳細な説明の要旨本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明及び図面の抜粋を、別紙「本件明細書の記載事項(抜粋)」に掲げる。これによれば、本件発明について以下のとおりの事項が開示されているものと認められる。ア 本件発明は、塗装剤で車両部品を塗装する塗装機器に関連するものである(【0001】 。既知の塗布機器、すなわち、多軸ロボットハンド軸を)介した回転アトマイザー、空気アトマイザー、またはいわゆる空気レス装置のような塗布機器は、塗装効率が最適ではなく、オーバースプレーとして知られる、スプレーされた塗料の一部が、塗装される車両部品上につかず、キャビンの空気とともに塗装キャビンから除去される必要があった(【0002】 【0003】 。オーバースプレーを含む空気は塗装、 )キャビンの下に位置する排水部に入り、オーバースプレーがキャビンの空気から除去され、水と結合するが、オーバースプレーを含むこの排水は、再び面倒なプロセスで処理されなければならず、高価な方法で処理されなければならない特別廃棄物を構成する(【0004】 。さらに、塗)装中に起こる塗装キャビンからのオーバースプレーを素早く除去するために、塗装キャビンにおける空気の下降速度は少なくとも約0.3~0.5m/秒の範囲内になければならない(【0005】 。その上、塗装中に)起こるオーバースプレーは、時々及び局所的に、雰囲気中の爆発をもたらし得るので、監視されなければならなかった(【0006】 。一方、そ)れらの不十分な塗布効率と、結果として起こるオーバースプレーのため、既知の塗布機器は、必要な排水と必要とされる防爆のための高額な投資
5 費用を招いた(【0007】 【0008】 。、 )本件発明の課題は、上記に関する適切な改良を引き出すことにあ る(【0009】 。)イ 本件発明に係る塗装機器におけるプリントヘッドは、好ましくはきわめて大きな表面塗装アウトプットを発揮し、それは好ましくは、1m 2 /分、2m 2 /分、3m 2 /分または4m 2 /分を超える(【0017】 。本件発)明に係る解決法によって、十分な表面アウトプットで完全な車体を塗装するだけでなく、限定された細部および図面を印刷することも可能になる(【0041】 。)ウ 本件発明の一実施態様において、プリントヘッドが経路の方向に関してお互いに隣に配置される塗装剤ノズルを有することによって、外側の塗装剤ノズルは、内側の塗装剤ノズルよりも少ない塗装剤を吐出し、それは経路の方向に対して横向きの分布の対応する層厚さに至る(【0060】 。図24は、部品表面60上の所定の塗装剤の経路に沿ってプリン)トヘッド59を移動させる多軸ロボット58を有する本件発明に係る塗装機器を示し、ロボット58はロボット制御装置61によって操作される。プリントヘッド59が部品表面60上の所定の塗装剤の経路に沿ってガイドされることによって塗装剤の経路が蛇行パターンでお互いに隣接するように、ロボット制御装置61はロボット58を制御する(以上、【0128】 。図29は、2つの隣接した塗装経路の塗布中のプリント)ヘッド74を示し、それによって、以前の塗装経路におけるプリントヘッド74’の位置がアポストロフィ付きで示される一方、現在の塗装経路におけるプリントヘッド74の位置はアポストロフィなしで示される(【0140】 。)3 甲1発明について
(1) 明細書の記載
5 原告が本件無効審判請求(前記第2の1(3)ア)において進歩性欠如をいう無効理由の主引用例文献としたのは、出願日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2007/0062383号明細書(甲1-1。以下、その翻訳である甲1-2と合わせて「甲1」という。)であり、そこには別紙「甲1発明の明細書の記載事項(抜粋)」のとおりの記載がある。
(2) 本件審決が認定した甲1発明本件審決は、甲1には、以下の物の発明及び方法の発明が記載されていると認定した(以下、それぞれ「甲1機器発明」及び「甲1方法発明」といい、総称して「甲1発明」という。 。)ア 甲1機器発明異なる色のインクジェットプリントヘッド14を備えた少なくとも1つの印刷ブロック18を備えるプリントアセンブリ13と、プリントアセンブリ13の位置決めを確実にし、水平(Tx)、垂直(Ty)、及び深さ(Tz)方向の並進を可能にする3並進自由度を有するキャリア15と、プリントアセンブリ13の向きを確実にし、2つの直交軸に沿ってその回転(Rx、Ry)を可能にする2自由度を有するリスト16とを備え、最大印刷速度は、180dpiの解像度で2.142m 2 /分であるトラック12の外面11上への3次元印刷に使用されるロボット10。イ 甲1方法発明異なる色のインクジェットプリントヘッド14を備えた少なくとも1つの印刷ブロック18を備えるプリントアセンブリ13と、プリントアセンブリ13の位置決めを確実にし、水平(Tx)、垂直(Ty)、および深さ(Tz)方向の並進を可能にする3並進自由度を有するキャリア15と、プリントアセンブリ13の向きを確実にし、2つの直交軸に沿ってその回転(Rx、Ry)を可能にする2自由度を有するリスト1
5 6とを備え、最大印刷速度は、180dpiの解像度で2.142m 2 /分であるトラック12の外面11上への3次元印刷に使用されるロボット10によって、トラック12の外面11上へ3次印刷する方法。4 本件審決の理由の要旨(ただし、後記5の取消事由と関連する事項に限る。)
(1) 原告が主張した無効理由の要旨ア 無効理由1(甲1を主引用文献とする進歩性の欠如)本件発明は、いずれも甲1発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。イ 無効理由2(サポート要件違反)本件発明の「前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され」たという発明特定事項は、いわゆる機能的表現とされるものであり、その機能が当てはまる物を広く包含し得るから、特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件に違反する。ウ 無効理由3(明確性要件違反)本件発明は、面積塗装性能に関する発明特定事項、経路の方向に関してお互いに隣に配置されるとする塗装剤ノズルの配置、プリントヘッドの空間位置についての調整・制御の工程に関する発明特定事項が不明確であり、特許法36条6項2号のいわゆる明確性要件に違反する。
(2) 無効理由1(甲1を主引用文献とする進歩性の欠如)に対する判断ア 本件発明5、12、18、21、22、26及び28と甲1機器発明を対比すると、「塗装剤ノズル」に関し、これらの本件発明においては、「前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され」と特定されているのに対し、甲1機器発明においては、「異なる色」のものと特定さ
5 れるものであって、上記の本件発明のようには特定されていない(相違点A)(本判決注:この相違点A及び後述の相違点Bは、本件発明の各請求項に共通の構成〔前記2(1)イ参照〕に係る相違点である。 。)そして、甲1機器発明は、「異なる色のインクジェットプリントヘッド」を備えるものであって、「あらゆる画像複雑さにかかわらずあらゆる画像または写真を印刷することが可能なデジタル技術とを使用して」 「16、00万色による180dpiの印刷品質で、表面上でのデジタル画像の3次元自動印刷を可能にする」ことを目的とするものである。そうすると、甲1機器発明における「インクジェットプリントヘッド」の全てが同一の塗装剤を塗布し得るように塗装剤供給源に一緒に接続されると、その目的を果たすことができなくなる。よって、甲1機器発明において、上記の本件発明5、12、18、21、22、26及び28の発明特定事項を採用することには阻害要因があるといえ、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。イ 本件発明36及び37と甲1方法発明を対比すると、これらの本件発明においては、「塗装機器」が「前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され」るものに特定され、かつ、「塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように」「塗装剤が塗布され」と特定されているのに対し、甲1方法発明においては、「インクジェットプリントヘッド14」は「異なる色」のものと特定されるものであって、上記の本件発明のようには特定されていない点で相違する(相違点B)。そして、上記の相違点Bは前記ア記載の相違点Aと同じ発明特定事項を含むものであり、それについての判断は前記アに同旨である。したがって、本件発明36及び37は、甲1方法発明に基づいて当業者
5 が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。ウ 以上により、本件発明は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、それらについての特許は同法123条1項2号に該当し無効とすべきものであるとはいえない。
(3) 無効理由2(サポート要件)に対する判断本件特許の発明の詳細な説明の【0001】~【0009】によると、本件発明の解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は(塗装効率において)「適切な改良を引き出すこと」である。そして、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の各発明特定事項に対応する記載があり、当業者は、「前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され」た「塗装機器」及び該「塗装機器」を用いた「塗装方法」は、発明の課題を解決できると認識できる。したがって、本件発明は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件に適合する。
(4) 無効理由3(明確性要件)に対する判断本件発明に係る特許請求の範囲の記載には、意味内容が不明な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載及び図面に本件発明の各発明特定事項について具体的に記載されているから、当業者は、特許請求の範囲の記載並びに願書に添付した本件明細書の記載及び図面を考慮して、本件発明がどのようなものかを理解することができる。したがって、本件発明に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、特許法36条6項2号の
5 いわゆる明確性要件に適合する。5 審決の取消事由
(1) 甲1発明を主引用例とする進歩性の判断の誤り
(2) サポート要件の判断の誤り
(3) 明確性要件の判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲1発明を主引用例とする進歩性の判断の誤り)
(1)
(原告の主張)
本件審決は、以下のア~キの点で、甲1発明(甲1機器発明及び甲1方法発明)の認定を誤り、その結果、本件発明との一致点及び相違点の認定を誤っている。そして、本件発明は、いずれも甲1発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。ア まず、甲1機器発明に関する審決の認定「異なる色のインクジェットプリントヘッド14を備えた少なくとも1つの印刷ブロック18を備えるプリントアセンブリ13と」は、「異なる色または同一の色を吐出可能な(インクジェットプリントヘッド14を備えた少なくとも1つの印刷ブロック18を備える)インクジェットプリントアセンブリ13と」と認定されるべきである(主たる認定誤り)(下線は、本件審決の認定判断との違いを示す注記である。以下同じ。 。)なぜなら、①まず、甲1のクレーム17では、噴霧されたインクの色に関して全く言及されていない。②また、機器としてのインクジェットプリンタや塗装ロボットでは、販売段階や製造段階ではインクカートリッジは何ら搭載されておらず、塗装(インク)は当該インクジェットプリンタやプリントヘッドの構成要素ではなく、その構成外の塗料(インク)は除外して判断すべきである。③さらに、甲1の Fig.10に開示されて
5 いる構成では、1つのインクドラム60から、1つのチューブが1つの
ポンプ61へと繋がり、さらに1つのポンプ61から1つのフィルタ62を経て、1つのヘッドリザーバ63へとインク(塗料)が供給され、そのヘッドリザーバ63から4つのインクジェットプリントヘッド14へとインク(塗料)が供給される構成が明確に示されているから、当業者は、図面上、4つのインクジェットプリントヘッド14へ、同じ色のインク(塗料)が供給されることを確実に読み取ることができる。④その上、甲1の明細書の【0049】 【0215】及びクレーム30には、、「白色」という一色だけで下塗り層を表面11に塗布することが示唆されている。そして、上記と同様に、審決における甲1方法発明についても、「異なる色または同一の色を吐出可能な(インクジェットプリントヘッド14を備えた少なくとも1つの印刷ブロック18を備える)インクジェットプリントアセンブリ13と」と認定されるべきである。イ 本件審決においては、本件発明と甲1機器発明の相違点について『甲1の【0010】及び【0055】によると「あらゆる画像複雑さにかかわらずあらゆる画像または写真を印刷することが可能なデジタル技術とを使用して」』と認定しているが、甲1の【0010】には「本発明の目的は、・・・(中略)・・・複雑さにかかわらずあらゆる画像または写真を印刷することが可能なデジタル技術とを使用して」と記載されているのであり、「画像複雑さ」については一切言及されていない(補足的な認定誤り1)。ウ 本件審決25頁では、 「1600万色による180dpiの印刷品質で、『表面上でのデジタル画像の3次元自動印刷を可能にする」ことを目的とするものである。』と認定している。しかし、甲1の【0010】では、「画像」や「写真」があらゆるもの(カラー、単色他)であり、そのよ
5 うな「画像」や「写真」に対して、デジタル技術を使用してフルカラー
印刷を行う、又はモノクロ等の単色の印刷を行うものと理解すべきであり、単色のインクジェット印刷をする場合を排除していない(補足的な認定誤り2)。エ 本件審決の『「1600万色による180dpiの印刷品質で、表面上でのデジタル画像の3次元自動印刷を可能にする」ことを目的とするものである。』との認定は、甲1の【0055】という解決結果(解決手段が入り込んだ、事後分析的なもの)が入り込んだ状態で認定されており、不当である(補足的な認定誤り3)。オ 本件審決は、甲1の【0055】の記載に着目して『「1600万色の・・・』と認定しているが、甲 1 の【0119】には「プリントヘッド14、たとえば4色のヘッド(青色、シアン、マゼンタ、黒色)」と記載されており、物理的には1600万色になり得ない(補足的な認定誤り4)。カ 本件審決の『「1600万色による180dpiの印刷品質で、表面上でのデジタル画像の3次元自動印刷を可能にする」ことを目的とするものである。』との認定は、甲1の明細書の【0055】のみに着目して認定されており、同号証の Fig.10 に開示されている構成や、同明細書の【0049】 【0215】及びクレーム30における「白色」という一、色だけで下塗り層を表面11に塗布することの開示を看過したままされている点で、誤りである(補足的な認定誤り5)。キ 本件審決は、甲1機器発明の目的について、前記第2の4(2)ア記載のとおり認定しているが、甲1機器発明に対する目的(課題)の認定は、甲 1 の【0008】及び【0009】に記載された参考文献[1]及び、あるいは又は、参考文献[2]を踏まえて認定すべきであり、甲1機器発明と参照文献[1]及び参照文献[2]に記載の発明との一致点は甲1機器発明の課題を構成せず、相違点は課題を構成するとすべきである。
5 結局、甲1機器発明の課題は、「5つの電動軸を有する(印刷)ロボット
を用いて(相違点1)、表面が凹凸や曲面を有するような複雑な形状に対して印刷する場合であってもインクの吐出部位が他の吐出部位に対して摺動せずに構成の簡素化が図れ(相違点2)、表面の深さ(凹凸)の読み取りといった非常に時間のかかるプロセスが存在せず(相違点3)、乾燥デバイスによってインクを乾燥させることができる(相違点4)印刷ロボットを提案することである。」と認定されるべきである(補足的な認定誤り6)。
(2)
(被告の主張)
以下のア~キに述べるとおり、審決における甲1機器発明及び甲1方法発明の認定に誤りはなく、相違点に関する認定にも誤りはない。審決における阻害要因の認定や進歩性の判断の誤りはなく、原告が主張する取消事由1には理由がない。ア 原告主張の主たる認定誤りについて原告が指摘するとおり、甲1発明のクレーム17においては「噴霧されたインク」と記載されるに留まり、「色」への具体的な言及はないが、甲
1 の明細書の【0043】 【0068】 【0072】及び【0215】で
、 、は、プリントアセンブリが、異なる色のインクを使用するいくつかのプリントヘッドを備えた少なくとも1つの印刷ブロックを備えることが開示されており、逆に、その他のプリントアセンブリの構成、すなわち、同じ色のみを噴霧可能な構成が具体的に開示されているわけではない。そして、本件審決で認定されたとおり、甲1機器発明の課題は「あらゆる画像複雑さにかかわらずあらゆる画像または写真を印刷することが可能なデジタル技術とを使用して」 「1600万色による180dpiの、印刷品質で、表面上でのデジタル画像の3次元自動印刷を可能にする」ことであり、この課題を解決するためには、「異なる色のインクジェット
5 プリンタヘッド14」が必須である。したがって、クレーム17におい
て噴霧されたインクの色への具体的な言及がないとしても、甲1機器発明が「異なる色のインクジェットプリントヘッド14」を備えていると認定することは誤りではない。イ 原告主張の補足的な認定誤り1について仮に、原告が主張するように、甲 1 の【0010】の「複雑さにかかわらずあらゆる画像または写真を印刷することが可能」との記載の「複雑さ」が表面の複雑さを指すことが正しく、本件審決の阻害要因の認定を「あらゆる表面複雑さにかかわらず」と読み替えたとしても、目的を果たすことができなくなるから阻害要因があるとの結論を導き出すことができる。本件審決には取り消されるべき違法性はない。ウ 原告主張の補足的な認定誤り2について本件審決の、 「1600万色による・・・を可能にする」ことを目的とす『るものである。』との認定は、甲1の【0010】の記載ではなく、【0055】の記載に基づくものであり、【0010】の記載の解釈に左右されない。エ 原告主張の補足的な認定誤り3について原告は、本件審決の認定が、甲1の【0055】という解決結果が入り込んだ状態でされていると主張するが、【0010】の記載と【0055】の記載を比較すれば、【0055】の記載は【0010】の記載をより具体的に表現したにすぎないといえる。原告が主張するように、甲1機器発明及び甲1方法発明の解決手段及び解決結果の要素が入り込んだものではない。オ 原告主張の補足的な認定誤り4について甲1の【0119】の「青色」は「黄色」の誤記であり、黄色、シアン、マゼンタ及び黒色という組み合わせによれば、1600万色での印刷を
5 行うことが可能である。
仮に、原色の1色として黄色の代わりに青色をあえて用いるとしても、インクジェットプリントヘッド14から吐出可能である各原色の色の濃さの階調の数を、黄色を用いる場合に比べて十分に多くすれば、約1600万色での印刷を行うことは可能である。カ 原告主張の補足的な認定誤り5について甲1の Fig.10 及び「白色」の下塗り層に関する反論は、前記アのとおり(後記第4の1(1)アと同趣旨)である。キ 原告主張の補足的な認定誤り6について原告は、甲1機器発明と参照文献[1]及び参照文献[2]に記載の発明との一致点は甲1機器発明の課題を構成せず、逆に、相違点は甲1機器発明の課題を構成すると主張するが、その妥当性を一切示していない。
2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)
(1)
(原告の主張)
ア 本件発明の課題認定の誤りによるサポート要件違反(ア) 本件審決は、本件発明の解決しようとする課題は「適切な改良を引き出すこと」と認定しているが、本件特許の詳細な説明の【0002】から【0008】までの記載からすると、本件発明の解決しようとする課題は、オーバースプレーの低減、塗装キャビンにおいてオーバースプレー除去のために空気を約0.3~0.5m/秒の範囲内の下降速度とすること、高価な費用を要する排水の処理及び防爆構造を不要とすることといった、複数の課題の全てを解決することである。よって、本件審決における本件発明の課題認定は誤っており、その結果、本件審決の特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件の判断(サポート要件に適合しているとの判断)にも誤りがある。(イ) 本件発明で用いられる「プリントヘッド」は、回転霧化頭方式やエ
5 アスプレーガン方式又はそれに近い構成を含んでおり、これらによっ
てはオーバースプレーの低減はさほどでないと考えられ、前記の課題を解決しないから、サポート要件を満たしていない。イ 面積塗装性能に関するサポート要件違反本件発明においては、「前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され」とされているが、「面積塗装性能」の用語がどのような意味であるかの開示がない。「面積塗装性能」に関する数値を裏付ける実験データ等が何ら開示されておらず、「少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能」は、どのような条件下で成り立つものであるかについての開示もない。「1m 2 /分」の臨界的意義も不明である。
(2)
(被告の主張)
ア 本件発明の課題認定の誤りによるサポート要件違反(ア) 本件明細書の【0002】から【0008】までの記載内容を踏まえれば、本件発明の主要な課題が塗布効率の改良であり、これに従属する副次的な課題がオーバースプレー、排水処理、下降気流、防爆及び費用の問題の解消であることが読み取れる。本件発明が解決しようとしている課題を「適切な改良を引き出すこと」であるとした本件審決の認定に誤りはない。(イ) 本件明細書の【0068】には、プリントヘッドについて「回転アトマイザーを有しない」と記載しているから、原告が主張するような「回転霧化頭方式やエアスプレーガン方式又はそれに近い構成」を意図するものではない。イ 面積塗装性能に関するサポート要件違反「面積塗装性能」の用語の意味は、当業者であれば、字義どおりに、面積を塗装する性能であると理解できる。
3 取消事由3(明確性要件の判断の誤り)
5 (1)
(原告の主張)
ア 「少なくとも1m2 /分の面積塗装性能」の不明確さ本件発明においては、①「面積塗装性能」という用語の解釈、②その「少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能」は、どのような条件下で成り立つものなのか、③「少なくとも1m 2 /分」の外縁が不明確であるという点から、出願時の技術常識を考慮しても、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確なものになっており、明確性の要件を満たさない。イ 本件発明28の「前記プリントヘッド(74)が、経路の方向に関してお互いに隣に配置される塗装剤ノズル(75)を有し」という発明特定事項は多義的であり、以下の(ア)から(カ)まで(不明点1~6)の点で不明確である。(ア) 何が経路の方向に対して横向きに配置(被告主張)されているのか不明確である(不明点1)。(イ) 「プリントヘッド74が経路の方向に対して横向きに配置された塗装剤ノズル75を有する」とは、上下方向及び進行方向に直交するような向きを横向きとし、そのような向きに塗装剤ノズル75が開口しているような解釈となるが、かかる塗装剤ノズルの配置は不明確である(不明点2)。(ウ) 本件明細書の【0141】には、「経路の方向に関してお互いに隣に配置される塗装剤ノズル(75)を有し」という点が一切記載されておらず、「経路の方向に関してお互いに隣に配置される塗装剤ノズル
(75)」の関係が不明確である(不明点3)。
(エ) 本件発明28には、「複数のノズル列」が存在するとされるが、本件明細書の【0140】及び【0141】にはそのような言及が一切なく、不明確である(不明点4)。(オ) 「複数のノズル列」と「横向き」の関係、その「複数のノズル列」
5 における各ノズルと「横向き」の関係に関して、本件発明28の「外
側の前記塗装剤ノズル(75)は、内側の前記塗装剤ノズル(75)よりも少ない塗装剤を吐出する」ことをどのように実現するのかについて一切開示がなく、明細書の記載を参酌しても理解できない(不明点5)。(カ) 本件発明28の「外側の前記塗装剤ノズル(75)は、内側の前記塗装剤ノズル(75)よりも少ない塗装剤を吐出する」については、何を基準として「内側」 「外側」というのかの記載が一切存在しない、(不明点6)。ウ 本件発明37については、図24の説明においては「センサー」を制御対象としているのに対し、図24においては「センサー62」は制御対象ではなく検出器として図示されており、一致していない。また、本件発明37の「測定された位置の関数として、前記プリントヘッド(8、9)の前記空間位置を開ループ調節(steureung)および閉ループ制御(regelung)する工程」については、「閉ループ調節」と「閉ループ制御」とを様々な組み合わせで制御することが考えられるから、どのように制御するかについて全く理解できない。
(2)
(被告の主張)
ア 「少なくとも1m2 /分の面積塗装性能」について
①については、前記2(2)イのとおり、「面積塗装性能」の用語の意味
は明確であり、②については塗装対象における膜厚、プリントヘッドの傾きなど、印刷の場合とは同様に扱えない条件によって面積塗装性能の制御が著しく困難となるような事情は存在しない。
(原告の主張)
する③についても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。イ 本件発明28の「前記プリントヘッド(74)が、経路の方向に関して
5 お互いに隣に配置される塗装剤ノズル(75)を有し」という発明特定
事項における「経路」とは、本件明細書の【0140】の記載を考慮すれば、「塗装経路」のことであることを当業者は理解するから、「経路」とは何かが不明確であるとはいえない。ウ 本件発明37に関しては、【0128】及び【0129】から、図24において、プリントヘッド59及びそれに取り付けられた光学センサー62の位置は、ロボット制御装置61による制御されるロボット58によりプリントヘッド59がガイドされることで調節されることが読み取れるから、図24の説明と図24は一致する。また、原告が主張する閉ループ制御については、様々なループ制御があり得るものの、こうしたループ制御は周知技術であり(甲21)、本件発明37が明確性要件に反することはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(甲1発明を主引用例とする進歩性の判断の誤り)について
(1) 甲1発明の認定の誤りと一致点及び相違点の認定の誤りア 甲1機器発明に係る審決の認定について甲 1 の明細書の【0043】 【0068】 【0072】及び【0215】、 、では、プリントアセンブリが、異なる色のインクを使用するいくつかのプリントヘッドを備えた少なくとも1つの印刷ブロックを備えることが開示されている。その上、甲1発明の課題は、本件審決が認定したとおり、「あらゆる画像複雑さにかかわらずあらゆる画像または写真を印刷することが可能なデジタル技術とを使用して」 「1600万色による18、0dpiの印刷品質で、表面上でのデジタル画像の3次元自動印刷を可能にする」ことであると認められるところ、この課題を解決するためには、「異なる色のインクジェットプリンタヘッド14」が必須である。よって、審決が甲1機器発明について「(同一の色ではなく)異なる色
5 のインクジェットプリントヘッド14を備えた少なくとも1つの印刷ブロック18を備えるプリントアセンブリ13と」と認定した点に誤りはない。イ 原告主張の主たる認定誤りについて原告は、甲1発明を「異なる色または同一の色を吐出可能な」と認定すべきであると主張する(主たる認定誤り)。この点、確かに甲1のクレーム17では、色に関する具体的な言及はないが、甲1機器発明において「異なる色のインクジェットプリンタヘッド14」が必須であることは上記アのとおりである。原告は、インクは甲1機器発明の構成ではないとも主張するが、甲1の【0146】の記載及び Fig.10に図示されたインクドラム60等の構成から明らかなように、甲1は、インクドラム60というインク貯留部位が接続された後のインクジェットプリンタヘッド14を開示しており、甲1機器発明を認定するに当たり、インクを除外して判断すべき理由は見当たらない。また、原告が主張するように、甲1の Fig.10において、1つのインクドラム60から、1つのチューブ、1つのポンプ61、1つのフィルタ62、1つのヘッドリザーバ63を経て、4つのインクジェットプリントヘッド14へとインク(塗料)が供給される構成が図示されていることが認められる。しかし、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、インクジェットプリンタの技術分野では、複数のインク貯蔵部を1つにまとめて配置し、複数のプリントヘッドを1つにまとめて配置し、さらに、インクをインク貯蔵部からプリントヘッドへと供給する供給ラインを1つに束ねて配置するという周知技術が存在していたこと、同技術分野では、図面、特に概略構成図では、紙面の大きさや図の概略化の都合から同じ又は類似の構成が複数存在する場合にその1つのみを図示
5 することが慣習的に行われていたことが認められる。そうすると、上記のような甲1の Fig.10の図示を踏まえても、1つのインクドラム60から4つのインクジェットプリントヘッド14へと同じ色のインク(塗料)が供給される構成を開示しているとはいえない。さらに、原告は、甲1の明細書の【0049】 【0215】及びクレー、ム30に「白色」という同一色の色のインクだけで下塗り層を表面11に塗布することが示唆されていることを指摘するが、当該明細書の記載においては、白色の下塗り層を表面に施す手段が何であるかは特定されていない。証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、インクジェット印刷の分野では、インクジェットプリンタによるインクジェット印刷の前の下塗りは当該インクジェットプリンタとは別の下塗り塗布装置により行われることが周知であることも認められる。以上により、原告の上記主張は、甲1発明が「同一の色」を吐出可能なインクジェットプリントヘッドを含むと理解すべき根拠となるものではなく、採用できない。ウ 原告主張の補足的な認定誤りについて原告主張の補足的な認定誤り5(甲1の Fig.10 の開示及び白色一色だけを塗布すること)を採用できないことは、上記イにおいて判断したとおりである。それ以外の点(補足的な認定誤り1~4、6)は、本件審決の基本的な判断構造(①甲1発明が「異なる色」のインクジェットプリンタヘッドを備える点で本件発明と相違点があるところ、②この相違点に係る本件発明の構成を甲1発明に採用することには阻害要因があり、甲1発明等に基づいて当業者が容易に本件発明の構成を想到できたとはいえないこと)に影響しない枝葉末節な説示部分を取り上げてこれを論難するものにすぎない。補足的な認定誤り1~6をいう原告の主張は、本件審決の取消事由として失当であり、採用することができない。
5 (2) 小括上記(1)での認定説示を踏まえると、甲1発明において、相違点に係る本件発明の発明特定事項を採用することには阻害要因があるといえ、本件発明は、甲1発明又は他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法29条2項の要件を欠くものではない。なお、甲1発明はトラックの外面上への3次元印刷に使用されるロボットであって、既に塗装された薄板金属、塗装された壁などの様々な媒体上への印刷を可能にする印刷に係る発明であり(【0055】 、塗装自体に係る)発明とは異なる技術分野に属する発明である。このことからみても、甲1発明に基づいて本件発明の構成を得ることが動機づけられるとはいえない。よって、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について(1) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲の記載に際し、発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したものであり、その趣旨は、発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば、公開されていない発明について独占的、排他的な権利を請求することになって妥当でないため、これを防止することにあるものと解される。そうすると、特許請求の範囲の記載が同号所定の要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解す
5 るのが相当である。
(2) そこで検討するに、本件明細書の【0009】には、「本発明の目的は、適切な改良を引き出すことにある。」との記載があり、【0002】から【0008】までの記載も踏まえると、本件発明の主要な課題が塗布効率の改良であり、これに従属する副次的な課題がオーバースプレー、排水処理、下降気流、防爆及び費用の問題の解消であることが読み取れる。そして、これらは、「塗布効率」を改善できれば、「オーバースプレー」やそれに伴い生じる「排水処理」 「下降気流」及び「防爆」の問題が抑制されるという関係にあ、る。そうすると、本件発明の課題は、本件審決認定のとおり、「適切な改良を引き出すこと」であり、その具体的な内容は「塗布効率を改良すること」であるということができる。そして、本件明細書の【0017】によれば、本件発明に係る塗装機器におけるプリントヘッドについては、「好ましくはきわめて大きな表面塗装アウトプットを発揮し、それは好ましくは、1m 2 /分、2m 2 /分、3m 2/分または4m 2 /分を超える。」と記載されており、【0068】によれば、従来の方法である「回転アトマイザーを有しない」と記載されているから、本件発明については塗装効率の向上(オーバースプレーの低減)が見込まれるといえる。本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというのが相当である。よって、本件審決が、本件発明の解決しようとする課題は「適切な改良を引き出すこと」と認定した点に誤りはない。
(3) これに対し、原告は、本件発明の解決しようとする課題は、オーバースプレーを低減することなどの複数の課題であるとするが、それがいかなる意味でサポート要件違反を導くのか不明というほかない。また、原告は、本件発明の「前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発
5 揮するように構成され」とされている点について開示がないと主張するが、面積塗装性能は「m 2 /分」という単位で表されていることから、単位時間の塗装面積を示すと理解することができ、開示がないとはいえない。「少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能」を成り立たせる条件の開示がないとの点についても、プリントヘッドのノズルの数を増やしたり、プリントヘッドの移動速度を速くしたり、塗装の吐出圧力を高くすれば、面積塗装性能を高くすることができることは明らかである。そして、「1m 2 /分」については、本件明細書の【0017】 【0041】及び【0071】の記載をみれば、、面積塗装性能については、それ自体が特有の効果を生じさせる技術的な意義を有するというよりも、車両の塗装に当たって単位時間当たりの塗装面積を大きくすべきことを表現し、そのための一つの目安としての性能を規定したものと理解できる。「少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能」の上記のような意義を踏まえれば、当該数値の臨界的意義を示すことまでサポート要件の求めるところではないというべきである。
(4) 以上によれば、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件を充足する。原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(明確性要件の判断の誤り)について前記2(3)と同趣旨の理由により、「少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能」の意味内容等が不明確であるとはいえない。また、本件発明28に関し不明点1~6があると原告が主張する点に関しては、本件明細書の【0128】 【0129】 【0140】、 、 、図24、29を照らし合わせれば、「経路の方向に関してお互いに隣に配置される」のが「塗装ノズル」であること(不明点1関係) 「経路の方向に関してお互いに隣に配置、される」との記載が複数の「塗装剤ノズル」の並べ方を特定するものであるこ
5 と(不明点2関係)など、いずれも当業者であればその意味内容を容易に理解できるものといえる。さらに、本件発明37についても、本件明細書の【0128】及び【0129】を踏まえると、原告の主張する明細書の説明と図面との不一致があるとはいえず、「閉ループ制御」についても周知技術にすぎないものであり(甲21)、本件発明37が明確性要件を欠くとはいえない。以上の点を含め、明確性要件違反に関する原告の主張は、いずれも、当業者であれば通常理解できる範囲の表現につき、根拠のない論難を加えるものにすぎず、いずれも採用することができない。よって、本件発明につき特許法36条6項2号の明確性要件違反があるとはいえず、原告主張の取消事由3は理由がない。
4 結論以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められないから、原告の請求は棄却されるべきものである。よって、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
岩 井 直 幸
裁判官
頼 晋 一
(別紙)
本件特許の特許請求の範囲【請求項5】
5 塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され、かつ、a)前記塗布機器が、部品が前記塗装剤で塗装される塗装キャビン内に配置される、及び、d)前記塗装キャビン(2)から下向きに前記キャビンの空気を抜き出す空気抜き器(10)が設けられ、及び、e)前記空気抜き器(10)の上流に配置され、前記キャビンの空気から前記オーバースプレーを除去する空気フィルター(11)が設けられた、ことを特徴とする塗装機器。【請求項12】塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記5 塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され、かつ、a)前記プリントヘッド(8、9)が、行(einer zeile)および列(einer spalte)の行列形式に配置された塗装剤ノズル(29)を有し、及び、b)さまざまな前記ノズル列(28.1~28.4)の前記塗装剤ノズル(29)が色変換器(30)によって一緒に供給される、ことを特徴とする塗装機器。【請求項18】塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さ5 まざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され、かつ、a)前記プリントヘッド(8、9、43)が回転軸に対して回転自在に搭載され、塗装中、又は、連続的な塗装セッションの間に回転し、及び、b)前記プリントヘッド(8、9、43)が異なるサイズの塗装剤ノズルを有する、ことを特徴とする塗装機器。【請求項20】(削除)【請求項21】塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように5 構成され、特殊塗料が、エフェクト塗料、メタリック塗料、もしくはマイカ塗料である、ことを特徴とする塗装機器。【請求項22】塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され、前記塗装剤と接する前記プリントヘッド(8、9)の表面のエリアが、摩耗を減少させる塗装、ダイヤモンド塗装、硬質メタル、もしくは、硬質材料と軟質材料との材料の組み合わせ、を提供される、ことを特徴とする塗装機器。【請求項23】(削除)【請求項26】塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、5 前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され、かつ、前記塗装機器は、a)前記プリントヘッド(59)を位置決めする多軸ロボット(58)と、b)ロボット(58)によって前記プリントヘッド(59)と一緒に位置決めされ、塗装される部品(60)上のガイド経路の方向を検知する、センサー(62)と、c)入力側において前記センサー(62)と接続され、出力側において前記ロボット(58)と接続されるロボット制御装置(61)と、を備え、前記ロボット制御装置(61)が前記ガイド経路の前記方向の関数として、前記プリントヘッド(59)を位置決めし、さらに、a)前記センサー(62)が光学センサーであり、及び、b)前記ガイド経路が以前に塗布された塗装剤の経路である、ことを特徴とする塗装機器。【請求項28】5 塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成され、かつ、a)前記プリントヘッド(74)が、経路の方向に関してお互いに隣に配置される塗装剤ノズル(75)を有し、b)外側の前記塗装剤ノズル(75)は、内側の前記塗装剤ノズル(75)よりも少ない塗装剤を吐出する、ことを特徴とする塗装機器。【請求項32】(削除)【請求項33】(削除)【請求項36】塗料で車両部品を塗装する塗装方法であって、塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、塗装機器に設けられたプリントヘッド(8、9)によって塗装剤が塗布され、前記塗装機器は、5 塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であって、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成される、塗装機器であり、a)大きな表面積のエリア塗装においては、均一な塗装を得るために前記プリントヘッド(8、9)が回転し、及び、b)細部又は図面の詳細な塗装においては、局所的な高解像度を得るために前記プリントヘッド(8、9)が回転しない、ことを特徴とする塗装方法。【請求項37】塗料で車両部品を塗装する塗装方法であって、塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、塗装機器に設けられたプリントヘッド(8、9)によって塗装剤が塗布され、前記塗装機器は、塗装剤を塗布する塗布機器を有し、塗料で車両部品を塗装する塗装機器であっ5 て、前記塗布機器が、少なくとも1つの塗装剤ノズル(12; 14.1~14.4; 16.1~16.6; 20; 29; 36; 44; 45)から前記塗装剤を吐出するプリントヘッド(8、9)であり、前記プリントヘッドが、ノズル列に配置された塗装剤ノズルを有し、それぞれのノズル列がいくつかの塗装剤ノズルを含み、前記塗装剤ノズルの全てが前記車両部品に同一の塗装剤を塗布し得るように、さまざまな前記ノズル列の前記塗装剤ノズルが、塗布される前記塗装剤が供給される塗装剤供給ラインに一緒に接続され、前記プリントヘッドが搭載される多軸ハンドを有する多軸ロボットによって前記プリントヘッドが位置決めされ、前記プリントヘッドが、少なくとも1m 2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成される、塗装機器であり、前記塗装方法は、さらに、a)前記プリントヘッド(8、9)及び/又は塗装される前記部品表面の空間位置を検知する工程と、b)測定された位置の関数として、前記プリントヘッド(8、9)の前記空間位置を開ループ調節(steureung)および閉ループ制御(regelung)する工程と、を含むことを特徴とする塗装方法。【請求項39】及び【請求項40】(削除)
(別紙)
本件明細書の記載事項(抜粋)【発明の詳細な説明】【技術分野】5 【0001】本発明は、塗装剤で部品を塗装する塗装機器に関連し、より具体的には、塗料で車両部品を塗装する塗装機器に関連する。さらに、本発明は対応する塗装方法に関連する。【背景技術】【0002】図1は、⾞両部品を塗装する従来型の塗装装置の断⾯図を示す。ここで、塗装される車両部品は塗装キャビン2を通って図面の平面に対して直角にコンベヤ1上を運ばれ、その中で、続いて、車両部品が塗装ロボット3、4によって従来の方法で塗装される。塗装ロボット3、4は、多軸ロボットハンド軸を介して、たとえば回転アトマイザー、空気アトマイザー、またはいわゆる空気レス装置のような塗布機器それぞれを運ぶいくつかの回転ロボットアームを有する。【0003】しかしながら、これらの既知の塗布機器の欠点は塗装効率が最適ではないことで、オーバースプレーとして知られる、スプレーされた塗料の一部が、塗装される車両部品上につかず、キャビンの空気とともに塗装キャビン2から除去される必要がある。そのため、塗装キャビン2の上には、矢印方向下向きに、塗装キャビン2の天井6を通して空気が塗装キャビン2に導入されるいわゆるプレナム5がある。含有されたオーバースプレーとともにキャビン2からの空気が塗装キャビン2の下に位置する排水部(auswaschung)7に入り、オーバースプレーがキャビンの空気から除去され、水と結合する。【0004】続いて、オーバースプレーを含むこの排水が再び面倒なプロセスで処理されなければならず、生み出された塗料スラッジが、それに対比して高価な方法で処理されなければならない特別廃棄物を構成する。【0005】5 さらに、塗装中に起こる塗装キャビン2からのオーバースプレーを素早く除去するために、塗装キャビン2における空気の下降速度は少なくとも約0.3~0.5m/秒の範囲内になければならない。【0006】さらに塗装中に起こるオーバースプレーは、時々および局所的に、雰囲気中の爆発をもたらし得るので、関連法令のATEX製品ガイドライン(ATEX:空気中の爆発)が監視されなければならない。【0007】一方、それらの不十分な塗布効率と、結果として起こるオーバースプレーのため、既知の塗布機器は、必要な排水と必要とされる防爆のための高額な投資費用を招く。【0008】他方、運転中に起こるオーバースプレーのため、既知の塗布機器は、塗装ロスおよびオーバースプレーの処理費用を通しての高額な運転コストがついてまわる。【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0009】そのため、本発明の目的は、適切な改良を引き出すことにある。【課題を解決するための手段】【0017】たとえばインクジェットプリンターに用いられるような従来型のプリントヘッドと対照的に、本発明に係る塗装機器におけるプリントヘッドは、好ましくはきわめて大きな表面塗装アウトプットを発揮し、それは好ましくは、1m 2 /分、2m2/分、3m 2/分または4m 2 /分を超える。【0041】本発明に係る解決法によって、十分な表面アウトプットで完全な車体を塗装す5 るだけでなく、限定された細部および図面を印刷することも初めて可能になることもまた、本発明の主な長所である。【0060】本発明の一実施態様において、プリントヘッドが経路の方向に関してお互いに隣に配置される塗装剤ノズルを有することによって、外側の塗装剤ノズルは、内側の塗装剤ノズルよりも少ない塗装剤を吐出し、それは経路の方向に対して横向きの分布の対応する層厚さに至る。ノズルは必ずしも一列に配置されなくてもよい。塗料の量は、ノズルごと、および、ピクセルごとに制御され得る。たとえば、塗料の異なる量によって、色合いの強度が制御される。ここで、層厚さの分布がガウスの正規分布であることが可能である。あるいは、層厚さの分布が台形状の分布となるように、個々の塗装剤ノズルによって吐出される塗装剤の量が選択されることも可能である。隣接する塗装剤経路の台形状の層厚さの分布が一定の層厚さに至るように隣接する塗装剤経路がお互いに重なり合うので、そのような台形状の層厚さの分布は長所である。【図面の簡単な説明】【0066】【図1】車両部品を塗装する従来の塗装装置の断面図を示す。・・・中略・・・【図24】プリントヘッドを位置決めするために、プリントヘッドおよびセンサーを制御する多軸ロボットを有する、本発明に係る塗装機器の模式図を示す。・・・中略・・・【図29】台形状の層厚さの分布を生むプリントヘッドの模式図を示す。【発明を実施するための形態】【0068】本発明に係る塗装装置の特徴は、塗装ロボット3、4が塗布機器としての回転アトマイザーを有しないが、プリントヘッド8、9を有し、それが95%以上の非5 常に大きな塗布効率を有し、それゆえに、オーバースプレーをほとんど生じないという事実に当初は存する。【0071】本実施態様においては、プリントヘッド8、9は従来型のプリントヘッド同様にピエゾ効果に基づき動作するが、プリントヘッド8、9の表面塗装性能は従来型のプリントヘッドよりも非常に大きく、車両部品が満足のいく作業速度で塗装され得る。【0128】他方、メタリックエフェクトを得るために、最上層は半透明のメタリック塗料から構成される。非常に単純な形式において、図24は、部品表面60上の所定の塗装剤の経路に沿ってプリントヘッド59を移動させる多軸ロボット58を有する本発明に係る塗装機器を示し、ロボット58はロボット制御装置61によって操作される。プリントヘッド59が部品表面60上の所定の塗装剤の経路に沿ってガイドされることによって塗装剤の経路が蛇行パターンでお互いに隣接するように、ロボット制御装置61はロボット58を制御する。【0129】現在の塗装剤の経路が以前の塗装剤の経路に関連して正確に位置し得るように、光学センサー62が、操作中に以前の塗装剤の経路の位置および方向を検知するプリントヘッド59にも取り付けられることが特徴である。【0140】非常に簡素化された形態で、図29は、2つの隣接した塗装経路の塗布中のプリントヘッド74を示し、それによって、以前の塗装経路におけるプリントヘッド74’の位置がアポストロフィ付きで示される一方、現在の塗装経路におけるプリントヘッド74の位置はアポストロフィなしで示される。【0141】プリントヘッド74が経路の方向に対して横向きに配置された塗装剤ノズル75 5を有することによって、外側の塗装剤ノズル75は、内側の塗装剤ノズル75よりも少ない塗装剤を吐出する。結果として、プリントヘッド74は部品表面における台形状の層厚さの分布76を得る。続いて、一定の層厚さに至る以前の塗装経路の台形状の層厚さの分布76’上にも台形状の層厚さの分布76が重ね合わせられるので、これが長所である。【0149】・・・前略・・・58 ロボット59 プリントヘッド60 部品表面61 ロボット制御装置・・・後略・・・【図1】【図24】【図29】
(別紙)
甲1の記載事項(抜粋)(甲1-2の訳文より)【0008】本説明の終わりにある参照文献[1]は、大きいサイズの物体を装飾すること5 が可能なプリントヘッドを備えたデバイスを記載している。これらの物体は、壁または車両とすることができる。このプリントヘッドは、装飾すべき表面に沿って3次元に移動する手段上に取り付けられる。このプリントヘッドは、複数の印刷要素が4列に配置された枠を備える。1つの同じ列の印刷要素は、インクであるかアクリル塗料であるかにかかわらず、1つの同じ色を噴霧することを可能にする。動作の際は、枠に連結された導管を介して、印刷要素に色が恒久的に供給される。印刷要素は、個々に移動するように取り付けられており、形状センサに接続された演算デバイスによって制御される電動システムを介して枠内を摺動する。この形状センサは、印刷すべき表面の起伏を判定し、噴霧ノズルを備える印刷要素の端部が常に表面から同じ距離だけ離れているように、印刷要素の動きを指示する。【0009】参照文献[2]は、たとえば自動車の外面を塗装するための自動塗装ロボット⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗を記載している。このデバイスは、様々なインクに対する噴霧ヘッドと、方向 Ox⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗にこれらのヘッドの動きを制御する手段と、塗装すべき表面に対して方向Oy に⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗沿って動きを制御する手段と、塗装すべき表面に対して方向 Oz に沿って動きを制御する手段を備え、それによって塗装すべき表面と前記ヘッドとの間の一定の距離を維持することを可能にする。この文献では、ヘッドは 塗装すべき表面のプロファイルに追従するが、表面との平行度を維持するために向きを変 化させない。ロボットは単独で、深さ方向の表面追従を有する。これは、特定の点で、4 つのヘッドのそれぞれに対して表面からの距離が異なることを意味する。加えて、このプ ロファイル追従では、印刷プロセスの前に表面に対する深さ読取りプロセスが必要である 。この読取りプロセスは、機械フィーラによって自動的に行われる。これにより、様々な 点におけるその深さを示すメッシングが作られる(その精細度は、表面の複雑さに依存す る)。この読取りプロセスには数十分かかる可能性がある。【0010】5 本発明の目的は、コストを低減させるためのインクジェット印刷技術と、複雑さにかかわらずあらゆる画像または写真を印刷することが可能なデジタル技術とを使用して、事前に取り外すことなく、表面を印刷することを可能にする、5つの電動軸を有する印刷ロボットを提案することによって、従来技術のロボットを簡略化することである。本発明では、媒体上のインクの乾燥が瞬時に行われ、したがって乾燥のための追加の固定化時間は生じない。【0043】有利には、プリントアセンブリは、少なくとも1つの印刷ブロックを備え、少なくとも1つの印刷ブロックには、異なる色のインクを使用するいくつかのプリントヘッドが設けられる。各印刷ブロックは、それぞれ黄色、シアン、マゼンタ、および黒色のインクを使用する4つのプリントヘッドを備えることができる。インクは、紫外線乾燥インクとすることができる。【0049】有利には、このプロセスは、表面を清浄にして均一に白色にするための事前の表面準備ステップを含む。【0055】本発明のロボットで使用される技術は、1600万色による180dpiの印刷品質で、表面上でのデジタル画像の3次元自動印刷を可能にする。品質は、ダブルパスによって360dpiまで延ばすことができる。使用される紫外線インク(UV)は、ターポリン、塗装された薄板金属、塗装された壁などの様々な媒体上への印刷を可能にする。一体型の乾燥デバイスが、媒体上で瞬時乾燥を提供する。【0068】本発明のロボット10は、5つの電動軸を有する印刷ロボットであり、3つの並進軸および2つの回転軸を有する。このロボット10は、少なくとも1つの印刷ブロック18を備えるプリントアセンブリ13を空間内で動かして配向することができ、少なくとも1つの印刷ブロック18には、いくつかのインクジェットプリン5 トヘッド14が設けられており、たとえば4つのヘッドがそれぞれ、固定されたままの印刷すべき媒体12の表面11上へ、黄色、シアン、マゼンタ、および黒色のインクを噴霧する。【0072】たとえば異なる色のインクジェットプリントヘッド14を備えた少なくとも1つの印刷ブロック18を備えるプリントアセンブリ13と、【0119】プリントヘッド14、たとえば4色のヘッド(青色、シアン、マゼンタ、黒色)、【0144】図10は、シャーシ上に設置された4つのプリントヘッド14を示す。インク供給のためのオリフィスを見ることができる。使用されるシャーシは、ほぼ完全なヘッドの位置合わせおよび基準面が得られるように、プリントヘッドの精密な取付けを可能にする。【0145】図10はまた、他の印刷関連構成要素、すなわち【0146】インクドラム60、ポンプ61、フィルタ62、ヘッドリザーバ63、およびヘッドへのインク供給を制御する制御ユニット64【0147】たとえばPCタイプ(「パーソナルコンピュータ」)の端末66からの画像の伝達および印刷の操縦のためのインターフェースおよびプリントヘッド制御カード65の統合を示す。【0148】補助デバイスが、プリントヘッドのプライミングを提供する。【0215】印刷はクワッドトーンであり、4つの色はシアン、マゼンタ、黄色、および黒色である。モデルの色に同一の印刷色を得るために、白色の下塗り層を表面11上に事前に塗布しておくこともできる。
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