令和4(行ケ)10117審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和5年9月12日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社セブン-イレブン・ジャパン
株式会社ニッセーデリカ 被告特許庁長官
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対象物 |
カップ食品 |
法令 |
特許権
特許法29条1項3号1回
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キーワード |
実施34回 審決12回 新規性3回 拒絶査定不服審判1回 刊行物1回 優先権1回
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主文 |
1 原告らの請求を棄却する。20
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
(1) 原告らは、発明の名称を「カップ食品」とする発明について、令和2年
7月30日(優先権主張 令和元年9月24日)に特許出願(特願202
0-129485号。請求項の数13。以下「本願」という。)をしたが、
令和3年4月8日付けで拒絶査定を受けた。5
(2) 原告らは、令和3年7月1日、拒絶査定不服審判を請求すると共に、特
許請求の範囲及び明細書を変更する旨の手続補正書を提出した(以下、そ
の補正を「本件補正」という。)。
特許庁は、上記審判請求を不服2021-8700号事件として審理し、
令和4年10月5日、本件補正を却下した上、「本件審判の請求は、成り10
立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、
同月17日、原告らに送達された。
(3) 原告らは、令和4年11月15日、本件審決の取消しを求める本件訴訟
を提起した。 |
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判決文
令和5年9月12日判決言渡
令和4年(行ケ)第10117号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年7月11日
判 決
原 告 株式会社セブン-イレブン・ジャパン
原 告 株式会社ニッセーデリカ
原告ら訴訟代理人弁理士 須 田 元 也
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 筑 波 茂 樹
15 同 一 ノ 瀬 覚
同 大 谷 光 司
同 小 暮 道 明
同 綾 郁 奈 子
主 文
20 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2021-8700号事件について令和4年10月5日にした
25 審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
(1) 原告らは、発明の名称を「カップ食品」とする発明について、令和2年
7月30日(優先権主張 令和元年9月24日)に特許出願(特願202
0-129485号。請求項の数13。以下「本願」という。)をしたが、
5 令和3年4月8日付けで拒絶査定を受けた。
(2) 原告らは、令和3年7月1日、拒絶査定不服審判を請求すると共に、特
許請求の範囲及び明細書を変更する旨の手続補正書を提出した(以下、そ
の補正を「本件補正」という。)。
特許庁は、上記審判請求を不服2021-8700号事件として審理し、
10 令和4年10月5日、本件補正を却下した上、「本件審判の請求は、成り
立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、
同月17日、原告らに送達された。
(3) 原告らは、令和4年11月15日、本件審決の取消しを求める本件訴訟
を提起した。
15 2 発明の内容
(1) 本件補正前の請求項1の記載は、以下のとおりである。
【請求項1】
コンビニエンスストア等で販売され、加熱して食するカップ状容器に収納
されたカップ食品であって、
20 カップ容器本体と、
前記カップ容器本体の高さ方向中間位置に形成された2段の段差部と、
周面に前記2段の段差部に嵌合する嵌合部が形成され、該嵌合部を前記2
段の段差部に嵌合させることにより前記カップ容器本体の高さ方向中間位置
で内壁に着脱自在に取り付けられる中皿と、
25 前記カップ容器本体の上部を覆う蓋体と、
を具備し、
前記中皿の下部の第1の空間にスープ状の第1の食材を収納し、前記中皿
の上部の第2の空間に第2の食材を収納し、食に際しては、容器全体を加熱
した後、前記中皿を前記カップ容器本体から外して、前記第2の食材を前記
第1の食材の上に落下させる
5 ことを特徴とするカップ食品。
(2) 本件補正後の請求項1の構成を分説すると、以下のとおりである(これ
に基づく発明を、以下「本件補正発明」という。下線部が本件補正によっ
て加えられた部分である。)。
【請求項1】
10 A コンビニエンスストア等で販売され、加熱して食するカップ状容器に収
納されたカップ食品であって、
B カップ容器本体と、
C 前記カップ容器本体の上部を覆う蓋体と、
D 前記カップ容器本体の高さ方向中間位置に形成された2段の段差部と、
15 E 周面に前記2段の段差部に嵌合する嵌合部が形成され、該嵌合部を前記
2段の段差部に嵌合させることにより前記カップ容器本体の高さ方向中
間位置において前記嵌合部が前記蓋体と離間した状態で内壁に着脱自在
に取り付けられる中皿と、
を具備し、
20 F 前記中皿の下部の第1の空間にスープ状の第1の食材を収納し、前記中
皿の上部の第2の空間に第2の食材を収納し、食に際しては、容器全体
を加熱した後、前記中皿を前記カップ容器本体から外して、前記第2の
食材を前記第1の食材の上に落下させる
ことを特徴とするカップ食品。
25 (3) 本願の願書に添付した明細書(本件補正後のもの)及び図面(以下、併
せて「本願明細書」という。)の抜粋を別紙1に掲げる。
3 引用発明について
(1) 本件審決が本件補正発明の新規性の欠如をいう理由の主引用文献とした
のは、本願出願日前に頒布された刊行物である特開2017-21023
6号公報(以下「引用文献」という。)であり、そこには別紙2「引用文
5 献の記載事項(抜粋)」のとおりの記載がある。
(2) 本件審決は、引用文献には、下記の発明(以下「引用発明」という。)
が記載されていると認定した。
食品を上下に分離した状態で収容して販売する用途に適し、開封するこ
となく閉蓋状態のまま電子レンジで加熱調理する用途に適した食品包装用
10 容器に収容されたカップ食品であって、
食品包装用容器は、上面開口の容器本体1と中皿3と蓋5とを備え、
蓋5は容器本体1の開口部を閉塞し、
容器本体1は、底面部10と周壁部11とフランジ部12とを備え、周
壁部11は、底面部10の周縁から上方に向けて拡開しつつ延びていて周
15 壁部11の大部分を占める周壁主部110と、該周壁主部110の上側に
下部段差部111を介して延設された第二逆テーパ嵌合部112と、該第
二逆テーパ嵌合部112の上側に上部段差部114を介して延設された第
一逆テーパ嵌合部116とを備え、
中皿3の周壁部31の上部に逆テーパ嵌合部313が形成され、この中
20 皿3の逆テーパ嵌合部313が容器本体1の第二逆テーパ嵌合部112に
内嵌合し、中皿3のフランジ部32は、周壁部31の上端から外側に向け
て延設され、
容器本体1に中皿3を装着した状態において中皿3のフランジ部32は
容器本体1の上部段差部114の上に載置した状態となり、
25 第二逆テーパ嵌合部112の下側に下部段差部111が設けられている
ので、中皿3を上側から容器本体1に押していく際に中皿3を押し込み過
ぎるということがなく、
蓋5は、天面部50と天面部50の周縁から下方に向けて拡開しつつ延
びる内側周壁部51と、内側周壁部51の下端から外側に向けて水平に延
びる延在部52と、延在部52の外縁から上側に向けて延びる外側周壁部
5 53と、外側周壁部53の上端から外側に向けて延設されるフランジ部5
4とを備え、
閉蓋状態において、蓋5の延在部52が中皿3のフランジ部32から上
方に浮いて離れた状態であり、
麺類の場合には、中皿3よりも下側の下部収容空間7にはダシやスープを
10 入れ、中皿3よりも上側の上部収容空間6には麺や具を入れておき、
開封することなく閉蓋状態のまま電子レンジで加熱調理する用途に適した
構成である
食品包装用容器に収容されたカップ食品。
4 本件審決の理由の要旨等
15 本件審決は、①本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするもの(特許法
17条の2第5項2号)に該当するが、②本件補正発明は引用発明との間に実
質的な相違点はなく、新規性を欠くので、特許法29条1項3号に該当し、独
立特許要件を欠くものであるとして、本件補正は却下すべきものとした。
その上で、本願に係る本件補正前の発明も引用発明と同一であり新規性を欠
20 くとして、本願は拒絶されるべきものとした。
5 取消事由
独立特許要件の判断の誤り(本件補正発明と引用発明の同一性の判断の誤り、
相違点の看過)
第3 当事者の主張
1 原告らの主張
(1) 構成要件D及びE中の「カップ容器本体の高さ方向中間位置」について
ア 「中間」とは「二つの物事、地点の間、特に、そのまんなか」を意味す
るものである(甲5)。また、本件補正発明の「前記カップ容器本体の
高さ方向中間位置に形成された2段の段差部」は、「中皿の周面に形成
された嵌合部」が嵌合されるものである(構成要件E)ので、少なくと
も「嵌合部」の嵌合が可能な位置に限定される。さらに、「中皿」の語
には、「容器本体の上端と下端の間」に形成される皿という意味を本来
的に含意する。
以上からすると、本件補正発明の「2段の段差部」の形成位置とされ
る「容器本体の高さ方向中間位置」とは、カップ容器本体の上端又は下
端に偏らない中間位置を示すものと解釈すべきである。
イ 引用発明において、「第一逆テーパ嵌合部116」は、3段の段差を構
成しており、蓋5を内嵌合するためだけに設けられたものであり、ここ
に、上記段差部114、第二逆テーパ嵌合部112、下部段差部111
からなる構成(以下「中皿嵌合部」という。) を設けることはできな
い。そうすると、引用発明において、「カップ容器本体の高さ方向中間
位置」の基準となる容器本体1の高さとは、別紙3参考図2の領域RA
を除いた領域RHと解するのが相当である。
ウ 上記アで示した「中間位置」は、ある程度幅のある概念と考えられる
が、そうだとしても、引用発明においては、容器本体1の高さに相当す
る領域RHの「上端位置」に中皿嵌合部が設けられていることになり、
カップ容器本体の「高さ方向中間位置」に2段の段差部を設ける本件補
正発明とは異なる。
(2) 構成要件D及びE中の「2段の段差部」について
本件補正発明の構成要件D及びEでは「2段の段差部」を設けるとされ
ているのに対し、引用発明は、中皿嵌合部と、その上部段差部114に延
設された第一逆テーパ嵌合部116、フランジ部12とにより、「3段」
の段差部を形成しており、この点において本件補正発明は引用発明と相違
する。
(3) 構成要件E中の「前記嵌合部が前記蓋体と離間した状態で」について
引用文献の【0063】には、引用発明の図11の構成に膨出部33及
び天面部330に形成される連通口331のない構成(以下「構成ア」と
いう。)と、これのある構成(以下「構成イ」という。)が記載されてい
る。
引用発明が構成アのものである場合、下部収容空間7の蒸気を上部収容
空間6へ排出する必要があり、引用発明の中皿3のフランジ部32が蓋5
の近接位置となるように蓋5を第1逆テーパ嵌合部116に嵌合させる構
成が必須となる。また、引用発明が構成イのものである場合、膨出部33
及び天面図330に形成される連通口331を加える構成が必須になる。
そうすると、いずれにしても、蓋5を上方に浮かせて、中皿3のフランジ
部32が蓋5の延在部52の近接位置となるように蓋5を容器本体1の第
1逆テーパ嵌合部116に嵌合して取り付けるようにした構成となり、引
用発明は「前記嵌合部が前記蓋体と離間した状態で」内壁に着脱自在に取
り付けられる中皿に当たらない。
2 被告の主張
後記第4の3の判断と同旨であるから、詳細は割愛する。
20 第4 当裁判所の判断
1 本願明細書の記載事項について
別紙1「本願明細書の記載事項(抜粋)」によれば、本願明細書には、次の
ような開示があることが認められる。
(1) 本件補正発明は、コンビニエンスストア等において提供されるスープ状
25 の食材を含むカップ食品に関し、特に簡単な構成で満足する味が得られる
ように改良したカップ食品に関する(【0001】)。
(2) 従来、コンビニエンスストア等においてカップ状の容器に収容された
種々のカップ食品が提供されているところ、その中にはスープ状の食材を
含むカップ食品があり、カップ状の主容器2内に、冷凍麺、冷凍スープ及
び具を収納するもの、スープとしてゼラチン状のゼラチンスープを用いる
5 ものが知られていた(【0002】~【0005】)。
しかし、これらは、冷凍あるいはゼラチン状のスープ等を用い、解凍し
て食されるため、満足な味が得られないという問題があった。また、スト
レートスープを用いた場合には、ストレートスープ状の食材と他の食材を
分離状態に保持するのが難しく、またスープ状の食材が容器からこぼれて
10 しまう虞があるという問題もあった(【0006】、【0007】)。
(3) 本件補正発明は、簡単な構成で満足する味が得られるように改良したカ
ップ食品を提供することを目的とする(【0009】)。
(4) そこで、本件補正発明は、請求項1記載の構成を採用し、それによって、
簡単な構成で満足する味が得られるようにしたカップ麺を提供することが
15 できるという効果を奏する(【0022】)。
2 引用発明について
別紙2「引用文献の記載事項(抜粋)」によれば、引用文献には以下の開示
があることが認められ、これによれば、引用文献には、本件審決が第2の3
(2)に認定したとおりの引用発明が記載されていることが認められる。
20 (1) 引用発明は、食品を中皿によって上下に分離して収容できる食品包装用
容器に関する(【0001】)。
(2) 従来技術である中皿を備えた食品包装容器では、中皿は、蓋よりも小さ
く、蓋の下面に内嵌合によって装着されて蓋に吊り下げられるものであっ
たが、中皿が蓋よりも小径のものであるため、中皿の上に蓋を嵌合させる
25 包装作業の作業性が悪く、中皿が蓋の下面に吊り下げられた宙づり状態に
なる構成であるため、内嵌合状態が不十分であると、蓋から中皿が外れて
落下するおそれがあり、特に電子レンジを用いた場合は加熱による圧力や
温度上昇により内嵌合が外れやすくなり、落下しやすいという問題があっ
た(【0002】、【0003】)。
(3) 引用発明は、中皿によって上下に区画形成される二つの収容空間の良好
5 なシール性を確保することができ、しかも、組み立て作業性が良く、中皿
が外れにくい食品包装用容器を提供することを課題とする(【000
5】)。
(4) 引用発明に係る食品包装用容器は、容器本体と中皿と蓋を備え、容器本
体は、第一逆テーパ嵌合部と、該第一逆テーパ嵌合部よりも下側に位置し、
10 下側に第二逆テーパ嵌合部とを備え、中皿は、逆テーパ嵌合部を備え、容
器本体の第二逆テーパ嵌合部の内側に中皿の逆テーパ嵌合部が嵌合し、容
器本体の第一逆テーパ嵌合部の内側に蓋の逆テーパ嵌合部が嵌合するもの
である(【0006】)。
(5) 引用発明に係る食品包装容器は、容器本体に中皿と蓋の何れもが内嵌合
15 する構成であるので、下部収容空間に収容した第一の食品と上部収容空間
に収容した第二の食品とを容易にかつシール性よく分離状態とすることが
でき、中皿を容易にかつ確実に容器本体に内嵌合させることができ、包装
作業の作業性に優れているという効果を奏する(【0011】)。
(6) 引用文献の実施形態に係る食品包装容器は、別紙2の各図面及び関係説
20 明記載のとおりである。
3 取消事由(独立特許要件の判断の誤り〔本件補正発明と引用発明の同一性
の判断の誤り、相違点の看過〕)について
(1) 構成要件D及びE中の「カップ容器本体の高さ方向中間位置」について
ア 本件補正発明における「カップ容器本体の高さ方向中間位置」の意義
25 原告らは、構成要件D及びE中の「カップ容器本体の高さ方向中間位
置」とは、カップ容器本体の上端又は下端に偏らない中間位置を示すも
のと解釈すべき旨主張する。
しかし、「中間」の語は、「①二つの物事、地点の間、特に、そのま
んなか」(広辞苑第4版1663頁、平成3年発行、甲5)、「①二つ
の物の間に(で)あること。」(新明解国語辞典第7版968頁、平成
5 28年発行、乙1)や「①物と物との間の空間や位置。」(大辞泉第2
版2342頁、平成24年発行、乙2)とされ、二つのものの間を広く
含むものと解するのが相当である。そして、本願明細書には、「中間」
の語をこれと異なる意義と解すべき記載はない。
さらに、前記1に認定したところに鑑みれば、本件補正発明は、従来
10 のスープ状の食材を含むカップ食品のうち、冷凍あるいはゼラチン状の
スープ等を用いるものは満足な味が得られず、一方、ストレートスープ
を用いた場合には、スープ状の食材と他の食材を分離状態に保持するの
が難しく、またスープ状の食材が容器からこぼれてしまう虞があるとい
う課題を解決するため、カップ容器本体の高さ方向中間位置でカップ容
15 器本体の内壁に着脱自在に嵌合する中皿を配置し、蓋体でカップ本体上
部を覆うことによって、中皿の下部の第1の空間と中皿の上の第2の空
間を形成し、第1の空間にスープ状の第1の食材を収納し、第2の空間
に他の食材を収納することで、スープ状の食材と他の食材を分離状態に
保持し、スープがこぼれることもなく、簡単な構成で満足のいく味を実
20 現するというものであって、この課題の解決のためには、中皿がカップ
容器本体の高さ方向の上端と下端の間の任意の位置でカップ容器本体の
内壁に嵌合することで第1の空間と第2の空間が形成されればよく、カ
ップ容器本体の高さ方向の上端と下端の間の特定の位置と解すべき理由
はない。
25 別紙1の図1(C)、図4、図7、図8、図11によれば、本件補正
発明の実施例において、カップ容器本体30に設けられた2段の段差部
31が、容器本体の高さ方向の上端側にやや偏った位置に形成されてい
るのも、上記の理解に沿うものといえる。
イ 引用発明における中皿嵌合部の形成位置
本件補正発明の「2段の段差部」に相当するのは引用発明の「中皿嵌合
5 部」であるから、その形成位置が「カップの容器本体の高さ方向中間位
置」にあるといえるかを検討する。
原告らは、引用発明において、本件補正発明の構成要件D及びEにお
ける「カップ容器本体の高さ方向中間位置」の基準となる容器本体1の
高さとは、別紙3参考図2の領域RAを除いた領域RHと解するのが相
10 当であるから、引用発明における中皿嵌合部は容器本体の「高さ方向中
間位置」ではなく、「上端位置」に形成されている旨主張する。
しかし、引用発明において、「第一逆テーパ嵌合部116」(原告の
いう領域RA)は、容器本体1の第二逆テーパ嵌合部112の上側に上
部段差部114を介して延設されているものであって、容器本体1の構
15 成部分であるから(【0006】、【0017】、【0018】)、容
器本体1の高さ方向の特定にあたり、当該「第一逆テーパ嵌合部116」
(領域RA)を除く理由はない。このことは、本件補正発明の実施例に
おいても、カップ容器本体30の上部に設けられた蓋体10のみが嵌合
する凸部32が設けられていることからも明らかである(別紙1の【0
20 029】、【0031】、【0050】、【0051】、図2(A)、
図3(A)、図6(A))。そして、「第一逆テーパ嵌合部116」を
含めて容器の高さを考えれば、中皿嵌合部が「カップ容器本体高さ方向
中間位置」に形成されていることは明らかである。
ウ したがって、本件補正発明と引用発明は、「カップ容器本体の高さ方
25 向中間位置」の構成において相違点はない。
(2) 構成要件D及びE中の「2段の段差部」について
原告らは、引用発明は、中皿嵌合部と、その上部段差部114に延設さ
れた第一逆テーパ嵌合部116、フランジ部12とにより、「3段」の段
差部を形成しているから、構成要件Dの「2段の段差部」を具備しない旨
主張する。しかし、本件補正発明においては、中皿を嵌合させるために容
5 器本体に「2段の段差部」の存在を要する反面、それ以上に段差部を有す
るか否かについては特定しておらず、したがって、本件補正発明では、容
器本体に「2段の段差部」の存在を要する一方、その上に、さらに、蓋を
嵌合させるため等の目的により段差が形成されることを排除するものでは
ないと解するのが相当である。本件補正発明の実施例をみても、カップ容
10 器本体30の2段の段差部31から高さ方向の上方に位置する上部には凸
部32が形成されて、蓋体10の段部11が嵌合されている(別紙1の
【0029】、【0031】、【0050】、【0051】、図2(A)、
図3(A)、図6(A))。
したがって、引用発明と本件補正発明は、容器本体に「2段の段差部」
15 が形成されているという点において相違点はない。
(3) 構成要件E中の「前記嵌合部が前記蓋体と離間した状態」について
原告らは、引用発明では、構成アの場合でも構成イの場合でも、蓋5を
上方に浮かせて、中皿3のフランジ部32が蓋5の延在部52の近接位置
となるように蓋5を容器本体1の第1逆テーパ嵌合部116に嵌合して取
20 り付けるようにした構成となり、引用発明は、「前記嵌合部が前記蓋体と
離間した状態で」内壁に着脱自在に取り付けられる中皿に当たらない旨主
張する。
その趣旨は必ずしも明らかでないが、中皿3のフランジ部32が蓋5の
延在部52の「近接位置」となるように取り付けているので、「離間した
25 状態」に当たらないとの趣旨とも解される。
しかし、「離間」とは、その字義にも照らすと、物理的に二つの物が当
接しておらず一定の間隔をもって隔てられていることを意味すると解する
のが相当である。
そして、引用文献の【0063】の「図11のように中皿3のフランジ
部32に蓋5の延在部52が当接しない構成、即ち、中皿3のフランジ部
5 32から蓋5の延在部52が上方に浮いて離れた状態となる構成であって
もよい。」との記載及び図11の図示からすると、引用発明の実施例の一
つとして、中皿3のフランジ部32と蓋5の延在部52が「離間した状態」
にあるものが開示されていることは明らかである。
また、原告らの主張が、構成アでは、加熱時に「中皿3のフランジ部3
10 2が蓋5の延在部52の下面に当接するまで上昇して停止する。」(【0
063】)ことを問題にするものであるとしても、本件補正発明に係るカ
ップ食品において、使用時に、中皿の下部の第1空間に収納されたスープ
状の第1の食材が、加熱により蒸気化した場合に、中皿が蓋のある上方に
浮き上がるような構造も排除されていないと解されるから、これをもって
15 「離間した状態」と異なるというのは無理があるといわざるを得ない。
(4) まとめ
そうすると、本件補正発明と引用発明の相違点の看過をいう原告らの主
張はいずれも採用できず、引用発明と本件補正発明に相違点はないとした
本件審決の判断に誤りはない。
4 結論
以上によれば、原告ら主張の取消事由は理由がなく、本件審決について取り
消されるべき違法は認められない。
したがって、原告らの請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
5 裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岩 井 直 幸
(別紙1) 本願明細書の記載事項(抜粋)
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンビニエンスストア等において提供されるスープ状の食材を含む
5 カップ食品に関し、特に簡単な構成で満足する味が得られるように改良したカップ
食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンビニエンスストア等においてはカップ状の容器に収容された種々の
10 カップ食品が提供されている。
【0004】
さて、従来のスープ状の食材を含むカップ食品の一例として、特許文献1に開
示されたものが知られている、この特許文献1に開示された「インスタント食品」
は、カップ状の主容器2内に、冷凍麺3、冷凍スープ4及び具5が収納されており、
15 小容器7は、上部が蓋6の裏面に結合し、下部に開口部を有し、その開口部は蓋材
8で閉止されていおり、蓋材8は、冷凍スープが加熱溶解された場合に溶融剥離す
る食材で構成されている。
【0005】
また、この種のカップ食品には、上記冷凍スープ又は冷凍たれの代わりにゼラ
20 チン状のゼラチンスープを用いたカップ食品も知られており、このゼラチンスープ
を用いたカップ食品は、ゼラチンスープをカップ容器内に収納し、食する場合はカ
ップ容器全体を加熱することによりゼラチンスープを溶融させて麺に絡めるように
構成されている。
【0006】
25 しかしながら、このようなカップ食品においては、冷凍スープ、冷凍たれ、ゼ
ラチンスープを用い、食に際してはこれら冷凍スープ、冷凍たれ、ゼラチンスープ
を解凍して使用するように構成されているので、満足する味が得られないという問
題があった。
【0007】
また、冷凍スープ、冷凍たれ、ゼラチンスープの代わりにストレートスープを
5 用いることも提案されているが、ストレートスープ等のスープ状の食材を用いた場
合、このスープ状の食材と他の食材とを分離状態に保持するのが難しく、またスー
プ状の食材が容器からこぼれてしまう虞があるという問題もあった。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
10 そこで、本発明は、簡単な構成で満足する味が得られるように改良したカップ
食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明は、コンビニエンスストア等で販
15 売され、加熱して食するカップ状容器に収納されたカップ食品であって、カップ容
器本体と、前記カップ容器本体の上部を覆う蓋体と、前記カップ容器本体の高さ方
向中間位置に形成された2段の段差部と、周面に前記2段の段差部に嵌合する嵌合
部が形成され、該嵌合部を前記2段の段差部に嵌合させることにより前記カップ容
器本体の高さ方向中間位置において前記嵌合部が前記蓋体と離間した状態で内壁に
20 着脱自在に取り付けられる中皿と、を具備し、前記中皿の下部の第1の空間にスー
プ状の第1の食材を収納し、前記中皿の上部の第2の空間に第2の食材を収納し、
食に際しては、容器全体を加熱した後、前記中皿を前記カップ容器本体から外して、
前記第2の食材を前記第1の食材の上に落下させることを特徴とする。
【発明の効果】
25 【0022】
本発明によれば、コンビニエンスストア等で販売され、加熱して食するカップ
状容器に収納されたカップ食品であって、カップ容器本体と、前記カップ容器本体
の上部を覆う蓋体と、前記カップ容器本体の高さ方向中間位置に形成された2段の
段差部と、周面に前記2段の段差部に嵌合する嵌合部が形成され、該嵌合部を前記
2段の段差部に嵌合させることにより前記カップ容器本体の高さ方向中間位置にお
5 いて前記嵌合部が前記蓋体と離間した状態で内壁に着脱自在に取り付けられる中皿
と、を具備し、前記中皿の下部の第1の空間にスープ状の第1の食材を収納し、前
記中皿の上部の第2の空間に第2の食材を収納し、食に際しては、容器全体を加熱
した後、前記中皿を前記カップ容器本体から外して、前記第2の食材を前記第1の
食材の上に落下させるように構成したので、簡単な構成で満足する味が得られるよ
10 うにしたカップ食品を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明に係るカップ食品の実施例1で採用するカップ食品容器を
説明する組立断面略図である。
15 【図2】図2は、図1で説明したカップ食品容器の断面略図及び中皿及び蓋体の上
面図である。
【図3】図3は、図2に示したカップ食品容器の断面略図の要部拡大図である。
【図4】図4は、本発明に係るカップ食品の喫食動作を説明する図である。
【図5】図5は、本発明に係るカップ食品の喫食動作を説明する図である。
20 【図6】図6は、本発明に係るカップ食品で用いるカップ食品容器の他の構成例を
図3に対応して示した要部拡大図である。
【図7】図7は、本発明に係るカップ食品の実施例2の断面略図である。
【図8】図8は、本発明に係るカップ食品の実施例3の断面略図である。
【図11】図11は、本発明に係るカップ食品実施例8の断面略図である。
25 【0024】
以下、本発明を実施するための実施例について、添付した図面を参照しながら
詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
実施例1のカップ食品100には、図1に組立断面略図で示すカップ食品容器
5 100aが使用される。
【0026】
図1において、この実施例のカップ食品100で使用するカップ食品容器10
0aは、図1(A)に示す蓋体10と、図1(B)に示す中皿20と、図1(C)
に示すカップ容器本体30とを具備し、図1(D)に示すような断面構造から構成
10 される。
【0027】
ここで、カップ容器本体30の高さ方向中間位置の内周面には、2段の段差部
31が形成され、一方、中皿20の周縁部には、カップ容器本体30の2段の段差
部31に嵌合する嵌合部21が形成され、この中皿20はカップ容器本体30の高
15 さ方向中間位置の内周面に上記嵌合部21及び上記段差部31を用いて、着脱自在
に嵌合される。
【0028】
なお、中皿20には、この中皿20をカップ容器本体30から取り外すときに
把持される把持部22が設けられている。
20 【0029】
蓋体10は、その外周面縁部に、カップ容器本体30の上端部周面上部に形成
された凸部32に嵌合する段部11が形成されており、この蓋体10は、蓋体10
の段部11をカップ容器本体30の凸部32に嵌合させることにより、カップ容器
本体40に着脱自在に取り付けられる。
25 【0030】
図2は、図1で説明したカップ食品容器100aの断面略図(図2(A))及
び中皿20の上面図(図2(B))及び蓋体10の上面図(図2(C))であり、
図3は、図2に示したカップ食品容器100の断面略図の要部拡大図であり、図3
において、図3(A)は、図2(A)で丸30Aで囲む部分の拡大図を示し、図3
(B)は、図2(A)で丸30Bで囲む部分の拡大図を示す。
5 【0031】
図2(A)及び図3において、カップ食品容器100aの高さ方向中間位置の
内周面には、図3(B)に示すように、カップ容器本体30の2段の段差部31に
中皿20の上記嵌合部21が嵌合されて、カップ容器本体30に対して中皿20が
着脱自在に嵌合されるように構成されている。また、カップ容器本体30の上端部
10 の凸部32の内周面には、図3(A)に示すように、蓋体10の段部11が嵌合さ
れて、蓋体10が着脱自在に取り付けられる。
【0032】
図2(B)は、図1で説明したカップ食品容器100aの中皿20の上面図で
ある。図2(B)において、このカップ食品容器100aの中皿20は、その中央
15 部に円形の凹部23が形成され、この凹部23の中心に蒸気抜き孔24が穿設され
ている。
【0033】
また、この中皿20には、中皿20をカップ容器本体30から外す際に把持さ
れる把持部が設けられており、この把持部は、中皿20の周縁部に接続された舌片
20 部22から構成することができる。
【0034】
ここで、中皿20の中央部の凹部23の中心に穿設された蒸気抜き孔24は、
カップ容器本体40の加熱時に中皿20とカップ容器本体30の底部との間の空間
に発生する蒸気を中皿20の上方に逃がすために設けられたもので、この蒸気抜き
25 孔24により、中皿20の上部に逃げた蒸気が中皿20の上面に載置された麺Nを
有効に温めるという機能を有する。
【0035】
また、この蒸気抜き孔24は、中皿20とカップ容器本体30の底部との間の
空間の空気が膨張しても中皿20がカップ容器本体30から離脱し難くするという
機能も有する。
5 【0036】
また、蒸気抜き孔24の周辺の凹部23は、蒸気抜き孔24から漏れた蒸気が
液化した場合に、これを一時的に溜める機能を有する。
【0037】
なお、上記構成において、蒸気抜き孔24は、1つだけ設けられているがこれを
10 2つ以上設けてもよく、また、蒸気抜き孔24の形状は円形ではなく直線又は曲線
状の切込みから構成してもよく、またその形成位置も中央部以外でもよい。
【0038】
図2(C)に示すこの実施例のカップ食品容器100aの蓋体10は、外周部
に段部11が形成され、この段部11は、カップ容器本体30の上部周辺部の凸部
15 32の内周面に嵌合し、これにより蓋体10をカップ容器本体30に高密閉度で着
脱自在に取り付けることができるように構成されている。
【0039】
さて、実施例1のカップ食品100において、図1乃至図3に示したカップ食
品容器100aの中皿20とカップ容器本体30の底部との間の第1の空間には、
20 スープ状の第1の食材が収納され、中皿20と蓋体10との間の第2の空間には、
第2の食材が収容される。
【0043】
次に、図4及び図5を参照して、本発明に係るカップ食品100の喫食動作を
説明する。なお、図4及び図5においては、本発明に係るカップ食品100が中皿
25 20とカップ容器本体30の底部との間の第1の空間に惣菜鍋用のスープSを収容
し、中皿20と蓋体10との間の第2の空間に惣菜鍋用の具材Mを収容した惣菜鍋
を提供する場合について説明している。
【0044】
図4(A)は、本発明に係るカップ食品100の喫食前の状態を示す。図4
(A)において、中皿20とカップ容器本体30の底部との間の第1の空間には、
5 第1の食材である惣菜鍋用のスープSが収容され、中皿30の上の第2の空間には、
第2の食材である惣菜鍋用の具材Mが収容される。
【0045】
この図4(A)に示すカップ食品100を食するには、まず、図4(B)に示
すように、電子レンジ50で図4(A)に示したカップ食品100全体を加熱する。
10 【0046】
次に、図5(C)に示すように、中皿20の舌片部22を把持して中皿20を
カップ容器本体30から取り外し、中皿30上の加熱された惣菜鍋用の具材Mをカ
ップ容器本体30内の加熱した惣菜鍋用のスープS内に落下させる。
【0047】
15 これにより、加熱された惣菜鍋用の具材Mが加熱された惣菜鍋用のスープS内
に投入され、この状態でこのカップ食品100を喫食することができる。
【0048】
なお、上記構成によると、このカップ食品100の喫食ができるようになるま
でに要する時間は電子レンジによる加熱時間を除くと10秒程度で、従来のこの種
20 のカップ食品の喫食までの時間を大幅に短縮することができ、しかも味も飛躍的に
改善することができる。
【0049】
図6は、本発明に係るカップ食品で用いるカップ食品容器の他の構成例を図3
に対応して示した要部拡大図である。
25 【0050】
この構成例では、図6(A)に示すように、図3(A)に示したカップ容器本
体30の上部周縁部に設けた凸部32に、下方に向かって角度aで外側に傾斜した
側面32aを形成するとともに、蓋体10の外周部11に、凸部32の側面32a
に当接し下方に向かって角度aで外側に傾斜した当接面11aを設ける。
【0051】
5 上記構成によると、蓋体10は、蓋体10の当接面11aが、カップ容器本体
30の凸部32の側面32aに当接してカップ容器本体30に取り付けられるので、
カップ容器本体30に対する蓋体10の気密性を保持した嵌合を確実にすることが
できるとともに、カップ容器本体30に対する蓋体10の着脱自在な嵌合が可能に
なる。
10 【0052】
また、本発明に係るカップ食品容器の他の構成例では、図6(B)に示すよう
に、図3(B)に示した2段の段差部31に、下方に向かって角度bで外側に傾斜
した傾斜面31aを形成するとともに、中皿20の周縁部の嵌合部21に、傾斜面
31aに当接して下方に向かって角度bで外側に傾斜した嵌合面21aを設ける。
15 【0053】
上記構成において、カップ容器本体30内に中皿20を収容し、中皿20を下
方に押し下げると、カップ容器本体30の段差部31の傾斜面31aと中皿20の
周縁部の嵌合面21aとが当接してカップ容器本体30の高さ方向中間位置におい
て、中皿20が固定される。
20 【0054】
ここで、カップ容器本体30の段差部31の傾斜面31aは、下方に向かって
外側に傾斜しており、中皿20の外周部の嵌合部21の嵌合面21aも、上記傾斜
面31aに当接するように下方に向かって外側に傾斜しているので、カップ容器本
体30と中皿20との気密性を保持した嵌合を確実にするとともに、カップ容器本
25 体20と中皿との着脱自在な嵌合を可能にすることができる。
【実施例2】
【0055】
図7は、本発明に係るカップ食品の実施例2の断面略図である。
【0056】
図7に示す実施例2のカップ食品200は、図1乃至図6と同様に、惣菜鍋を
5 提供するもので、中皿20とカップ容器本体30の底部との間の第1の空間には惣
菜鍋用のスープSが収容され、中皿20と蓋体10との間の第2の空間には惣菜鍋
用の具材Mが収容される。
【実施例3】
【0060】
10 図8は、本発明に係るカップ食品の実施例3の断面略図である。
【0061】
図8に示す実施例3のカップ食品300は、スープパスタを提供するもので、
中皿20とカップ容器本体30の底部との間の第1の空間にはスープパスタ用のパ
スタソースPSが収容され、中皿20と蓋体10との間の第2の空間には茹で上げ
15 たパスタNが収容される。
【実施例8】
【0074】
図11は、本発明に係るカップ食品の実施例8の断面略図である。
【0075】
20 この実施例8に示すカップ食品800において、中皿20とカップ容器本体3
0の底部との間の第1の空間に第1の食材として、スープカレー用のカレーソース
CSを含むようにし、中皿20と蓋体10との間の第2の空間に第2の食材として
は、ライスR及び具材Mを含むようにしてスープカレーを提供する場合について説
明する。この実施例8に示すカップ食品800においては、カップ容器本体30の
25 上部で、カップ容器本体30の内壁に係合し、トッピング用具材OMが載置される
トッピング用具材収容皿40が設けられている。
【図1】 【図2】
【図3】 【図4】
【図5】 【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
(別紙2) 引用文献の記載事項(抜粋)
【0001】
本発明は、食品を中皿によって上下に分離して収容できる食品包装用容器に関
する。
5 【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1には、中皿を備えた食品包装容器が記載されている。
該食品包装容器の中皿は、蓋よりも小さく、蓋の下面に内嵌合によって装着されて
蓋に吊り下げられた状態となる。また、蓋は容器本体に内嵌合される構成であり、
10 蓋を容器本体に被せることで蓋と容器本体とによって形成される収容空間が中皿に
よって上下二つの収容空間に区画される。このように中皿が蓋の下面に内嵌合され、
蓋が容器本体に内嵌合される構成であるため、中皿と蓋との間のシール性が良好で
あり、蓋と容器本体との間のシール性も良好となる。
【0003】
15 しかしながら、中皿が蓋よりも小径のものであるため、中皿の上に蓋を嵌合さ
せる包装作業の作業性が悪い。更に、閉蓋状態において中皿が蓋の下面に吊り下げ
られた宙づり状態になる構成であるため、中皿と蓋とを合体させる際に中皿と蓋と
の内嵌合状態が不十分であると、閉蓋状態において、蓋から中皿が外れて落下する
おそれがある。特に、電子レンジ用とする場合には、電子レンジによる加熱時の圧
20 力上昇や温度上昇によって中皿と蓋との間の内嵌合が外れやすくなり、加熱時に中
皿が落下しやすい。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえに本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされ、中皿によって上下に区
25 画形成される二つの収容空間の良好なシール性を確保することができ、しかも、組
み立て作業性が良く、中皿が外れにくい食品包装用容器を提供することを課題とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、本発明に係る食品包
5 装用容器は、容器本体と中皿と蓋を備えた食品包装用容器であって、容器本体は、
下側に向けて拡開する逆テーパ状の第一逆テーパ嵌合部と、該第一逆テーパ嵌合部
よりも下側に位置し、下側に向けて拡開する逆テーパ状の第二逆テーパ嵌合部とを
備え、中皿は、下側に向けて拡開する逆テーパ状の逆テーパ嵌合部を備え、蓋は、
下側に向けて拡開する逆テーパ状の逆テーパ嵌合部を備え、容器本体と中皿と蓋の
10 合体状態において、容器本体の第二逆テーパ嵌合部の内側に中皿の逆テーパ嵌合部
が嵌合し、容器本体の第一逆テーパ嵌合部の内側に蓋の逆テーパ嵌合部が嵌合する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
15 以上のように、容器本体に中皿と蓋の何れもが内嵌合する構成であるので、下
部収容空間に収容した第一の食品と上部収容空間に収容した第二の食品とを容易に
且つシール性良く分離状態とすることができる。また中皿を容器本体に上側から押
し入れるようにして内嵌合させることができるので、中皿を容易に且つ確実に容器
本体に内嵌合させることができ、また、蓋も容器本体に内嵌合させる構成であるの
20 で、包装作業の作業性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における食品包装用容器の分離状態(開封状態)を示
す斜視図。
25 【図6】同食品包装用容器の分離状態を示す要部端面図。
【図7】同食品包装用容器の合体状態(閉蓋状態)を示す要部端面図。
【図8】同食品包装用容器の合体状態を示す要部端面図であって、内部連通部と外
部連通部を示す。
【図9】図7の要部拡大図。
【図10】同食品包装用容器を電子レンジで加熱した際の状態を示す図8に対応し
5 た要部端面図。
【図11】本発明の他の実施形態における食品包装用容器の合体状態を示す要部端
面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
10 以下、本発明の一実施形態に係る食品包装用容器について図面を参酌しつつ説明
する。図1~図10に示す食品包装用容器は、種々の食品(食材)を収容すること
ができるものであって、食品を上下に分離した状態で収容して販売する用途に適し
ており、同種の食品を上下に分離して収容してもよいが、異なる種類の食品を上下
に分離して収容することが好ましい。
15 【0014】
食品包装用容器は、合成樹脂シートからなる上面開口の容器本体1と中皿3と蓋
5とを備えている。これらの容器本体1と中皿3と蓋5は、何れも真空成形や圧空
成形等の各種の熱成形(シート成形)によって形成されている。容器本体1には第
一の食品を収容することができ、中皿3には第一の食品とは異なる種類の第二の食
20 品を収容することができる。即ち、容器本体1に蓋5を装着することによって容器
本体1と蓋5とで収容空間が区画形成されるが、その収容空間は中皿3によって上
下二つの領域に区分され、中皿3よりも上側の上部収容空間6と中皿3よりも下側
の下部収容空間7に分けられる。従って、下部収容空間7(下段)と上部収容空間
6(上段)にそれぞれ第一の食品と第二の食品を分離した状態で収容できる。
25 【0015】
例えば、麺類の場合には、下部収容空間7にはダシやスープを入れ、上部収容空
間6には麺や具を入れておくことができる。ダシやスープはゼラチンで固めておい
てもよく、電子レンジによる加熱によって溶けて液状となるようにしてもよい。ま
た、鍋物にも適しており、下部収容空間7にダシを入れ、上部収容空間6には具材
を入れておくことができる。・・・
5 【0016】
・・・以下、容器本体1、中皿3、蓋5の順に、具体的な構成の一例について説
明する。尚、本実施形態では、開封することなく閉蓋状態のまま電子レンジで加熱
調理する用途に適した構成について説明するが、電子レンジ対応品でなくてもよい。
【0017】
10 <容器本体1>
容器本体1は、底面部10と周壁部11とフランジ部12とを備えている。図1
のように容器本体1は平面視円形の丼型のものである。底面部10は平面視円形で
あって、その下面には種々の形状の脚部が突設されていてよい。
【0018】
15 周壁部11は全体として筒状であって、底面部10の周縁から上方に向けて全体
として拡開しつつ立ち上がっている。詳細には、周壁部11は、底面部10の周縁
から上方に向けて拡開しつつ延びていて周壁部11の大部分を占める周壁主部11
0と、該周壁主部110の上側に下部段差部111を介して延設された第二逆テー
パ嵌合部112と、該第二逆テーパ嵌合部112の上側に上部段差部114を介し
20 て延設された第一逆テーパ嵌合部116とを備えている。・・・
【0024】
<中皿3>
中皿3は、底面部30と周壁部31とフランジ部32とを備えている。・・・
【0025】
25 中皿3の周壁部31は、容器本体1の周壁部11と同様に、底面部30の周縁か
ら上方に向けて全体として拡開しつつ立ち上がっている。そして、周壁部31の上
部に逆テーパ嵌合部313が形成されている。即ち、周壁部11は、底面部30の
周縁から上方に向けて拡開しつつ延びる周壁主部310と、該周壁主部310の上
側に段差部311を介して延設された逆テーパ嵌合部313とを備えている。
【0027】
5 中皿3の逆テーパ嵌合部313は、下側に向かう程、徐々に拡開していく逆テー
パ状であって、いわゆる内嵌合部として構成されている。即ち、逆テーパ嵌合部3
13は、上方に向けて徐々に内側(容器中心側)に向かう傾斜面となっており、逆
テーパ嵌合部313の外面(外周面)が嵌合面となる。この中皿3の逆テーパ嵌合
部313が容器本体1の第二逆テーパ嵌合部112に内嵌合する。
10 【0029】
中皿3のフランジ部32は、周壁部31の上端から外側に向けて延設されている。
該フランジ部32は、全周に亘って形成されている。フランジ部32の形状は任意
であるが、周壁部31の上端から水平に延びていることが好ましい。容器本体1に
中皿3を装着した状態において中皿3のフランジ部32は容器本体1の上部段差部
15 114の上に載置した状態となる。従って、中皿3のフランジ部32の幅、即ち、
内外方向の寸法であって周壁部31から外側への張り出し量は、容器本体1の上部
段差部114の上面の幅以下である。好ましくは、中皿3のフランジ部32の幅は
容器本体1の上部段差部114の上面の幅と等しいか若干小さく、中皿3のフラン
ジ部32の外縁の直径は容器本体1の上部段差部114の上面の外縁の直径と等し
20 いか若干小さい。
【0032】
閉蓋状態のままで電子レンジで加熱調理すると食品から蒸気が出て内圧が上昇
する。そのため蒸気を外部に排出するための構成を備えている。蒸気を外部に排出
するための構成は種々であってよいが、下部収容空間7で発生した蒸気を上部収容
25 空間6に排出するための内部連通部と、上部収容空間6から容器外部に蒸気を排出
するための外部連通部を備える。
<内部連通部>
本実施形態では、内部連通部が中皿3に設けられている。具体的には、中皿3
の底面部30よりも高い位置に内部連通部が設けられており、より詳細には、図1
や図8、図10のように、底面部30から上方に膨出した膨出部33が形成され、
5 該膨出部33の天面部330に連通口331が設けられている。該連通口331は
種々の形状であってよいが、本実施形態においては円形の孔とされている。膨出部
33の位置も種々であってよく、例えば、膨出部33を底面部30の中央部に膨出
形成してもよいが、底面部30に載置する食品の収容効率を高める観点から、底面
部30の周縁部(端部)に形成することが好ましい。また、膨出部33は、周壁部
10 31から内側に離間した構成であってもよいが、周壁部31から離間することなく
それと一体化した構成であることが好ましい。膨出部33の天面部330の高さは、
底面部30より高ければよいが、周壁部31の高さの半分以上とすることが好まし
く、特に、膨出部33の天面部330が段差部311よりも高い位置にあることが
好ましい。膨出部33の天面部330がフランジ部32よりも高い位置となってい
15 てもよい。但し、膨出部33の高さは蓋5と干渉しない程度であって、従って、膨
出部33の天面部330が蓋5の天面部50に近接あるいは当接する構成であって
もよい。膨出部33の側面には各種のリブを形成してよく、底面部30から膨出部
33の側面にかけて連続するリブを設けることも好ましい。
【0033】
20 このように中皿3に膨出部33を設けてその天面部330に連通口331を形
成することで、電子レンジによる加熱時に、下部収容空間7で発生した蒸気は連通
口331を通って上部収容空間6へとスムーズに移動できる。また、内部連通部を
中皿3の逆テーパ嵌合部313や容器本体1の第二逆テーパ嵌合部112には設け
ず、また、中皿3の底面部30にも設けていない場合には、下部収容空間7に液体
25 を収容した場合であってもその液体が上部収容空間6に漏れにくい効果に特段優れ
る。・・・
【0034】
<蓋5>
蓋5は、天面部50と内側周壁部51と延在部52と外側周壁部53とフランジ
部54とを備えている。尚、図3は蓋5の底面図であるが、天面部50のリブ等の
5 詳細は省略して図示している。蓋5は容器本体1の開口部を閉塞するものであるた
め、蓋5の平面視における形状は容器本体1のそれに対応したものであり、従って、
蓋5も平面視円形であり、蓋5の天面部50や内側周壁部51、延在部52、外側
周壁部53、フランジ部54は何れも円形の環状である。天面部50は全領域に亘
って平坦であってもよいが、周縁部に突条500や下方に傾斜した傾斜面部501
10 を形成してもよい。天面部50は、延在部52よりも高い位置にあってフランジ部
54よりも高い位置にあり、これにより収容可能な容積を拡大することができる。
【0035】
内側周壁部51は、天面部50の周縁から下方に向けて拡開しつつ延びており、
該内側周壁部51の下端から外側に向けて延在部52が水平に延びており、該延在
15 部52の外縁から上側に向けて外側周壁部53が延びている。即ち、延在部52は
内側周壁部51と外側周壁部53の下端同士を連結している。・・・
【0036】
外側周壁部53に逆テーパ嵌合部531が設けられている。逆テーパ嵌合部53
1は、外側周壁部53の大部分を占めており、下側に向かう程、徐々に拡開してい
20 く逆テーパ状であって、いわゆる内嵌合部として構成されている。即ち、逆テーパ
嵌合部531は、上方に向けて徐々に内側(容器中心側)に向かう傾斜面となって
おり、逆テーパ嵌合部531の外面(外周面)が嵌合面となる。閉蓋状態において、
蓋5の逆テーパ嵌合部531が容器本体1の第一逆テーパ嵌合部116に内嵌合し、
蓋5の延在部52の下面が中皿3のフランジ部32の上面に当接する。但し、後述
25 のように、閉蓋状態において、蓋5の延在部52が中皿3のフランジ部32に当接
しなくてもよく、蓋5の延在部52が中皿3のフランジ部32から上方に浮いた状
態であってもよい。
【0037】
蓋5のフランジ部54は、外側周壁部53の上端から外側に向けて延設されてい
る。該フランジ部54は、全周に亘って形成されている。フランジ部54の形状は
5 任意であるが、閉蓋状態において容器本体1のフランジ部12を上方から覆う構成
となっており、好ましくは、容器本体1のフランジ部12の上面に当接する構成と
される。具体的には、フランジ部54は、外側周壁部53の上端から外側に向けて
水平に延びる水平面部540と、該水平面部540の外縁から斜め下方に延びる下
方傾斜部541とを備える。
10 【0041】
図8~図10のように閉蓋状態において蒸気排出用凹溝55と容器本体1の周
壁部11や中皿3のフランジ部32との間に蒸気が通る蒸気通路が形成される。即
ち、蒸気排出用凹溝55の横溝部57と中皿3のフランジ部32の上面との間に容
器内外方向の蒸気通路が形成されると共に、蒸気排出用凹溝55の縦溝部56と容
15 器本体1の第一逆テーパ嵌合部116の内面との間に上下方向の蒸気通路が形成さ
れる。
【0054】
そして、中皿3が容器本体1に内嵌合する構成であるので、中皿3と容器本体
1との間のシール性が良好であり、従って、第一の食品と第二の食品とが分離した
20 状態を維持することができる。また、蓋5も容器本体1に内嵌合する構成であるの
で、第二の食品が容器外部に漏れ出すことも防止できる。このように容器本体1に
中皿3と蓋5が何れも内嵌合する構成であるので、下部収容空間7に収容した第一
の食品と上部収容空間6に収容した第二の食品とを容易に且つシール性良く分離状
態とすることができ、容器外部への液漏れも防止できる。
25 【0055】
また中皿3を容器本体1に上側から押し入れるようにして内嵌合させることがで
きるので、中皿3を蓋5の下面に嵌合させて宙釣り状態とする構成に比して作業が
容易であって且つ確実な内嵌合状態が得られる。特に、第二逆テーパ嵌合部112
の下側に下部段差部111が設けられているので、中皿3を上側から容器本体1に
押しでいく際に中皿3を押し込み過ぎるということがなく、確実且つ容易に中皿3
5 を容器本体1の第二逆テーパ嵌合部112に内嵌合させることができる。・・・
【0056】
一方、電子レンジ加熱時の蒸気を、中皿3より下側の下部収容空間7から中皿
3より上側の上部収容空間6に排出するための内部連通部と、電子レンジ加熱時の
蒸気を上部収容空間6から容器外部に排出するための外部連通部とを備えているの
10 で、開封することなく閉蓋状態のまま電子レンジに入れて加熱調理することができ
る。図10に電子レンジで加熱した際の概要を示しており、矢印で蒸気の移動を示
している。下部収容空間7で発生した蒸気は内部連通部である連通口331から上
部収容空間6へと移動する。また、上部収容空間6内の蒸気は、蒸気排出用凹溝5
5を通って容器外部へと排出される。尚、閉蓋状態において蓋5のフランジ部54
15 が容器本体1のフランジ部12に当接する構成であった場合、蒸気排出用凹溝55
を通って上昇してきた蒸気の圧力即ち上部収容空間6の圧力上昇によって、蓋5の
フランジ部54が容器本体1のフランジ部12から離れるように僅かに上昇して、
蓋5のフランジ部54と容器本体1のフランジ部12との間に隙間が形成され、そ
の隙間から蒸気が容器外部へと排出されることになる。
20 【0063】
尚、上記実施形態では、合体状態において中皿3のフランジ部32に蓋5の延在
部52が当接する構成であったが、図11のように中皿3のフランジ部32に蓋5
の延在部52が当接しない構成、即ち、中皿3のフランジ部32から蓋5の延在部
52が上方に浮いて離れた状態となる構成であってもよい。このような構成におい
25 ても上述したように膨出部33の天面部330に連通口331を形成してもよいが、
膨出部33及び連通口331を設けない構成であってもよい。その場合、電子レン
ジによる加熱時に下部収容空間7内の圧力が上昇すると、その圧力によって中皿3
が上方に押されて浮上する。そして、中皿3は、中皿3のフランジ部32が蓋5の
延在部52の下面に当接するまで上昇して停止する。このように中皿3が上昇する
ことで中皿3の逆テーパ嵌合部313と容器本体1の第二逆テーパ嵌合部112と
5 の間に僅かな隙間ができ、その隙間が内部連通部となってそこから蒸気が上部収容
空間6へと排出される。
【図1】 【図6】
【図7】 【図8】
【図9】 【図10】
5 【図11】
(別紙3)
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