ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和4(ワ)19086 発信者情報開示請求事件
| 裁判所 | 認容 東京地方裁判所東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和5年9月8日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社MBM 被告ソフトバンク株式会社 |
| 法令 |
著作権 著作権法2条1項3回 |
| キーワード | 侵害27回 損害賠償4回 実施1回 |
| 主文 | 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件 発信者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitT orrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク20 (以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告が著作権を 有する別紙動画目録記載の作品(以下「本件動画」という。)を複製して作成 した電子データ(以下「本件複製ファイル」という。)を、本件発信者が管理 する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態 にするとともに、本件複製ファイルを公衆送信したことによって、本件動画に25 係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件発信者に対する損 害賠償請求等のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害 賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制 限法」という。)5条1項に基づき、被告が保有する別紙発信者情報目録記載 の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 |
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令和5年9月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第19086号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和5年7月5日
判 決
原 告 株 式 会 社 M B M
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
被 告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金 子 和 弘
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)を利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告が著作権を有する別紙動画目録記載の作品(以下「本件動画」という。)を複製して作成した電子データ(以下「本件複製ファイル」という。)を、本件発信者が管理する端末にダウンロードし、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にするとともに、本件複製ファイルを公衆送信したことによって、本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件発信者に対する損害賠償請求等のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
5 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者(弁論の全趣旨)ア 原告は、アダルトビデオの企画、制作、販売等を業務とする株式会社である。イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
⑵ 本件動画の著作物性及び著作権者原告は、著作物である本件動画の著作権者である(弁論の全趣旨)。
⑶ ビットトレントの仕組み(甲4ないし7)ア ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア(ビットトレントネットワークに参加している端末)同士の間でピースを転送又は交換することによって実現される。上記ピアのIPアドレス及びポート番号などは、「トラッカー」と呼ばれるサーバーによって保有されている。共有される特定のファイルに対応して作成される「トレントファイル」には、トラッカーのIPアドレスや当該特定のファイルを構成する全てのピースに係る情報などが記載されている。そして、一つのトレントファイルを共有するピアによって、一つのビットトレントネットワークが形成される。イ ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする利用者は、インターネット上のウェブサーバー等において提供されている当該特定のファイルに対応するトレントファイルを取得する。端末にインストールしたクライアントソフトウェアに当該トレントファイルを読み込ませると、当該端末はビットトレントネットワークにピアとして参加し、定期的にトラッカーにアクセスして、自身のIPアドレス及びポート番号等の情報を提供するとともに、他のピアのIPアドレス及びポート番号等
5 の情報のリストを取得する。ピアは、トラッカーから提供された他のピアに関する情報に基づき、他のピアとの間で通信を行い、当該他のピアに対して当該他のピアが保有するピースの送信を要求し、当該ピースの転送を受ける(ダウンロード)。また、ピアは、他のピアから、自身が保有するピースの転送を求められた場合には、当該ピースを当該他のピアに転送する(アップロード)。このように、ビットトレントネットワークを形成しているピアは、必要なピースを転送又は交換し合うことで、最終的に共有される特定のファイルを構成する全てのピースを取得する。
⑷ 株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)による調査(甲1の5、4、5)本件調査会社は、ビットトレントネットワーク上で共有されているファイルの中から、本件動画の品番等に基づいて、本件動画と同一であることが疑われる動画ファイルに対応するトレントファイルを入手した。本件調査会社は、ビットトレントクライアントソフトウェアである「μTorrent」(以下「本件ソフト」という。)に、入手したトレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、本件ソフトの実行画面に表示されたピアのIPアドレス等の情報を、端末のタスクバーに表示された時刻とともに、スクリーンショットにより保存した(以下、同スクリーンショットにより保存された画像(甲1の5)を「本件スクリーンショット」という。。)本件調査会社は、ダウンロードした上記動画ファイルを再生し、本件動画と比較して、その同一性を確認した。
⑸ 本件発信者情報の保有被告は、本件発信者情報を保有している(弁論の全趣旨)。3 争点
5 ⑴ 本件発信者情報が権利の侵害に係る発信者情報といえるか(争点1)
⑵ 原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件発信者情報が権利の侵害に係る発信者情報といえるか)につい
て
(原告の主張)
⑴ 本件調査会社の調査手法の信用性について
本件調査会社の調査手法には、次のとおり信用性が認められるから、本件発信者情報は、原告の著作権(公衆送信権)侵害に係る発信者情報であるといえる。すなわち、本件ソフトは、ビットトレントをより効率的に利用するためのソフトウェアであって、違法アップロードをした者(以下「侵害者」という。)を特定することを目的として開発されたものではない。しかし、本件ソフトには、侵害者がファイルをダウンロードしつつ、同ファイルをアップロードしている状態を監視することができる機能が備わっており、侵害者のIPアドレスを解明することができる仕組みとなっている。本件調査会社は、トレントファイルをダウンロードした上、本件ソフト上にて対象ファイルのダウンロードを開始して、侵害者が対象ファイルをアップロードしていることが判明した場合に、侵害者のIPアドレスを把握し、実際にダウンロードしたファイルを開いて被侵害動画と比較して、その同一性を確認するという方法により、侵害者のIPアドレスを特定している。本件においても同様の方法で調査が実施されており、本件発信者が本件複製ファイルを不特定多数の者からの求めに応じてダウンロードできる状態にしていた日時及びその際に割り当てられたIPアドレスに係る調査結果の正確性に疑義はない。よって、原告の調査方法には信用性が認められる。
⑵ 本件発信者による原告の権利侵害について
5 ア 自動公衆送信行為について
本件スクリーンショットは、本件発信者が、本件複製ファイルを本件調査会社に対してアップロードし、本件調査会社がこれをダウンロードしている場面を撮影したものである。本件スクリーンショットの下段は、本件調査会社の使用する端末(以下「本件調査端末」という。)が接続しているピアの状況を表示するものであり、「上り速度」 「下り速度」の表示はされていないが、これらの表示、がされない場合でも本件調査端末が接続しているピアから本件調査端末へ本件複製ファイルのダウンロードはされているので、同表示がされていないからといって、本件スクリーンショットは本件調査会社が本件発信者から本件複製ファイルをダウンロードしている場面を撮影したものではないということはできない。また、特定のピアが本件スクリーンショットの下段に表示されているということは、当該ピアが本件調査端末に本件複製ファイルをアップロードしているということなので、「フラグ」欄の表示に、「D」又は「d」といった、ピアが本件複製ファイルをアップロード中であることを示す表示がないからといって、本件発信者が本件調査会社に本件複製ファイルをアップロードしている場面を撮影したものではないということはできない。このことは、本件スクリーンショットの下段に複数のピアが表示されていても変わることはない。したがって、本件発信者は、別紙発信者情報目録記載の日時に、本件複製ファイルを自動公衆送信したといえる。イ 送信可能化行為について本件発信者は、ビットトレントのクライアントソフトがインストールされたパソコンに本件複製ファイルの全部又は一部を記録した上、①同パソコンを上記クライアントソフトを操作することによりビットトレントネッ
5 トワークに接続した上で、本件複製ファイルを他のピアの求めに応じて自
動的に送信し得るよう設定する行為、又は、②上記クライアントソフトを操作して、本件複製ファイルを他のピアの求めに応じて自動的に送信し得るよう設定する行為により、ビットトレントネットワークに接続した。そして、本件発信者が使用する端末(以下「本件ピア」という。)は、「公衆送信用記録媒体」に当たり、上記設定行為又は接続行為は、「公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと」に当たる。したがって、本件発信者は、別紙発信者情報目録記載の日時に、本件複製ファイルを送信可能化(著作権法2条1項9の5号ロ)したといえる。ウ 違法性阻却事由がないことについて本件発信者が本件動画を自動公衆送信又は送信可能化したことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。
⑶ 小括
以上によれば、本件発信者は、前記⑵ア又はイの行為により、原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであり、本件発信者情報は、同権利侵害に係る発信者情報であるといえる。
(被告の主張)
⑴ 本件調査会社の調査手法の信用性について
本件調査会社による調査手法は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が定めた「P2Pファイル交換ソフトによる権利侵害情報検出システムの技術的認定要件」(以下「本件技術的認定要件」という。)を満たすものではない。また、本件調査会社は、本件ソフトを利用することにより表示されたパソコンの画面において、他に接続しているピアの情報としての侵害者のIPア
5 ドレスが正確に表示されることについて、その表示されたIPアドレスが実
際に接続された端末のIPアドレスと一致するか否かを確認する試験を行っていない。よって、本件複製ファイルをアップロードした端末に割り当てられていたIPアドレスは正確に特定されたものとはいえず、本件発信者情報は、原告の権利の侵害に係る発信者情報であるとはいえない。
⑵ 本件スクリーンショットは、本件発信者による自動公衆送信又は送信可能
化の時点を撮影したものではないことア 自動公衆送信について原告は、本件スクリーンショットは、本件発信者が、本件複製ファイルを自動公衆送信又は送信可能化した時点のパソコンの画面を撮影したものであると主張する。しかし、本件スクリーンショット下段に表示されている本件ピアの「フラグ」欄には「IHP」と表示されているところ、このうち「I」は本件ピアが着信接続しているとの状態を示しており、本件調査端末が接続しているピアから本件調査端末へ本件複製ファイルのダウンロードが行われていることを示すものではない。また、本件スクリーンショット上段及び下段の速度表示欄においても、本件調査端末がダウンロード中であることを示す表示はないから、本件スクリーンショットは、本件調査端末が本件ピアから本件複製ファイルをダウンロードしている際の状況を撮影したものとはいえない。加えて、本件スクリーンショット下段には、本件ピアのみならず、他のピア(「IP」欄に「(IPアドレスは省略) [uTP]」と表示されているピア。以下「他の表示ピア」という。)も表示されており、他の表示ピアの「ピア下り」欄には何らの表示もないことから、本件においては、他の表示ピアが本件調査端末に本件複製ファイルをアップロードし、本件調査端末が他の表示ピアからダウンロードした本件複製ファイルを、本件ピ
5 アが本件調査端末からダウンロードした可能性も考えられる。
したがって、本件スクリーンショットに表示された時刻において、本件調査端末が本件ピアから本件複製ファイルをダウンロード中であるとはいえない。イ 送信可能化についてプロバイダ責任制限法5条1項の発信者情報開示請求権は、「特定電気通信」すなわち「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」(同法2条1号)による侵害情報の「流通」によって「自己の権利」を侵害された者に限定して、その請求権の取得が認められているものであり、その要件を単なる送信の可能化や、流通の可能性で足りるとはしていない。したがって、同条項に基づく発信者情報の開示が認められるためには、発信者が抽象的に自動公衆送信し得るようにするにすぎない送信可能化(著作権法2条1項9の5号)だけでは足りず、具体的に侵害情報を送信して、実際に情報を流通させることにより、自動公衆送信が実行される必要があるというべきである。仮に、自動公衆送信装置に電気通信回線を接続したことによって「侵害情報の流通」があったといえるとしても、本件ピアの「フラグ」欄の状態等によっては直ちに通信が可能な状態であったとは認められず、また、本件スクリーンショット下段「IP」欄に複数のピアが表示されている場合は、いずれのピアと本件調査端末が通信を実行しているか不明であるから、別紙発信者情報目録記載の日時において、本件ピアが送受信用プログラムの起動その他の一連の行為のうち最後の行為(著作権法2条1項9の5号ロ)を完了していたとまでは認められない。
⑶ 小括
以上によれば、本件調査会社の調査手法に信用性は認められず、また、本件発信者情報は、本件発信者による公衆送信権の侵害に係る発信者情報とは
5 いえない。
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)
について
(原告の主張)
原告は、本件発信者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があり、正当な理由があるといえる。
(被告の主張)
事実については不知であり、法的主張については争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件発信者情報が権利の侵害に係る発信者情報といえるか)について
⑴ 本件調査会社の調査の信用性についてア 前提事実⑷のとおり、本件調査会社は、本件複製ファイルに係るトレントファイルをダウンロードした上、本件ソフトに同トレントファイルを読み込ませ、当該トレントファイルに対応する動画ファイルをダウンロードし、実際にダウンロードした動画ファイルを再生し、本件動画と比較することにより、これらが同一の内容を有していることを確認したことが認められる。本件全証拠によっても、このような本件調査会社による調査の手法に特段の問題点は認められない。イ この点について、被告は、本件調査会社の調査は、本件技術的認定要件を満たしておらず、IPアドレスの特定の正確性についての検証もされていないと主張する。しかし、本件技術的認定要件を満たしていないことや、IPアドレスの特定の正確性についての検証をしていないからといって、本件調査会社
5 による調査の正確性が直ちに否定されるわけではないから、被告の主張は採用することができない。
⑵ 本件発信者による権利侵害についてア 証拠(甲6)によれば、本件スクリーンショットは、本件調査会社が、別紙発信者情報目録記載の日時における、本件ソフト使用中のパソコンの表示画面を撮影したものであると認められるところ、本件スクリーンショット上段には、本件調査端末の状況が表示され、同上段の「名前」欄には、本件調査端末がダウンロードしようとしているファイル名が、同上段の「状態」欄には、ダウンロード状況が、同上段の「下り速度」欄には、本件調査端末のファイルのダウンロード速度が、同上段の「上り速度」欄には、本件調査端末のファイルのアップロード速度がそれぞれ表示されるものと認められる。また、上記証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件スクリーンショット上段の「名前」欄に表示された、本件調査端末がダウンロードしようとしているファイル名のうち、一つを選択すると、同下段には、同選択されたファイルに関し、本件調査端末が接続しているピアの状況が表示され、下段の「IP」欄には、当該ピアに割り当てられているIPアドレスが、下段の「フラグ」欄には、当該ピアの通信状況等が、下段の「%」欄には、当該ピアのファイル保持率が、下段の「下り速度」欄には、当該ピアから本件調査端末へのダウンロード速度が、下段の「上り速度」欄には、本件調査端末から当該ピアへのアップロード速度が表示されるものと認められる。そして、証拠(甲1の5)によれば、本件スクリーンショット上段の「名前」欄には、本件複製ファイルのファイル名が表示され、同ファイル名が表示された行は、他のファイル名が表示された行と異なり、薄いピンク色に着色されているから、本件スクリーンショットは、本件複製
5 ファイルが選択されている場面を撮影したものであること、同上段「状態」欄には、「ダウンロード中48.9%」と表示されているから、同下段の「IP」欄に表示されたピアから本件複製ファイルをダウンロード中であること、同下段「IP」欄には、別紙発信者情報目録記載のIPアドレスが表示されていること、当該IPアドレスに対応する同下段の「%」欄には、「49.0」と表示されていることが認められる。これらの事実に照らせば、本件スクリーンショットは、本件調査端末が、本件複製ファイルの49%を保持する本件ピアから、本件複製ファイルをダウンロードしている際の状況を撮影したものであると認めるのが相当である。そうすると、本件発信者は、本件複製ファイルを本件調査端末にアップロードすることにより、本件複製ファイルを自動公衆送信したと認めることができ、本件発信者情報は、原告の公衆送信権侵害に係る発信者情報であると認めることができる。イ これに対し、被告は、本件スクリーンショット下段の「フラグ」欄には、本件ピアから本件調査端末へ本件複製ファイルのダウンロードが行われていることを示す表示がないこと、同上段及び下段の速度表示欄においても、本件調査端末がダウンロード中であることを示す表示はないことから、本件スクリーンショットを撮影した時点において、本件ピアが本件調査端末に本件複製ファイルをアップロード中であるとも、本件調査端末が本件ピアから本件複製ファイルをダウンロード中であるともいえないと主張する。しかし、証拠(甲12、19)によれば、本件スクリーンショット下段に表示されたピアから本件調査端末へファイルのダウンロードが現に進行しているにもかかわらず、本件スクリーンショット上段及び下段の速度表示欄に何ら表示がされない場合もあると認められるから、同上段及
5 び下段の速度表示欄に表示されていないからといって、必ずしもダウンロードが進行中でないとはいえない。また、前提事実⑶のとおり、ビットトレントを利用したファイル共有は、その特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア同士の間でピースを転送又は交換することによって実現されること、証拠(甲1の5)及び弁論の全趣旨によれば、本件複製ファイルはサイズが8.06GBに及ぶと認められることに照らすと、本件ピアから本件調査端末へのピースのアップロード(本件調査端末によるダウンロード)と本件調査端末から本件ピアへのピースのアップロード(本件ピアによるダウンロード)とが相互に行われていたと考えるのが自然であり、本件ピアが本件調査端末に本件複製ファイルをアップロードし、本件調査端末がこれを本件ピアからダウンロードした部分もあったと考えるのが、合理的であるといえる。また、証拠(甲1の5)によれば、本件スクリーンショットにおける本件ピアの「フラグ」欄には、本件調査端末が本件ピアからファイルをダウンロード中であることを示す「D」の表示がされていないことが認められ、本件スクリーンショット撮影時においては、通信状況等の理由によりダウンロードが一時停止していたといえるが、ビットトレントを利用したファイル共有が、特定のファイルに係るデータをピースに細分化した上で、ピア同士の間でピースを転送又は交換することによって実現されるという特殊性(前提事実(3)ア)や、本件複製ファイルのサイズが8.06GBに及ぶことから、その49%をダウンロードするには一定の時間を要すると認められること(弁論の全趣旨)を考慮すると、本件スクリーンショットは、本件調査端末が本件ピアから本件複製ファイルをダウンロードする過程において撮影されたと認めるのが相当である。以上によれば、被告の上記主張は採用することができない。
5 ⑶ 違法性阻却事由の不存在本件発信者の行為について、違法性阻却事由が存在することは全くうかがわれない。⑷ 小括以上によれば、本件発信者が本件動画を自動公衆送信したことにより、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり(プロバイダ責任制限法5条1項1号)、本件発信者情報は、プロバイダ責任制限法5条1項柱書の規定する「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当し、被告は、同項柱書の規定する「特定電気通信役務提供者」に該当する。
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であることが認められる。したがって、原告には被告が保有する本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
3 結論以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
國 分 隆 文
裁判官
間 明 宏 充
裁判官
バ ヒ ス バ ラ ン 薫
(別紙)
発信者情報目録以下の日時に以下のIPアドレスを割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス令和4年(2022年)5月12日日時
1 15時50分00秒IPアドレス (IPアドレスは省略)以 上
(別紙動画目録-省略)
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