令和5(ネ)10015特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年9月21日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
フィルタ内に管状要素を含むフィルタ付シガレット |
法令 |
特許権
民法709条1回
|
キーワード |
実施20回 進歩性13回 新規性11回 無効5回 特許権4回 損害賠償2回 侵害2回
|
主文 |
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
3 控訴人らのために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのため10 |
事件の概要 |
1 本件は、発明の名称を「フィルタ内に管状要素を含むフィルタ付シガレット」
とする特許に係る特許権を有する米国法人である控訴人(原審原告)アール ジエ25
イ レイノルズ タバコ カンパニー(以下「原告レイノルズ」という。)及び原
告レイノルズから同特許権について専用実施権の設定を受けたと主張する英国法人
である控訴人(原審原告)ニコベンチャーズ トレーディング リミテッド(以下
「原告ニコベンチャーズ」という。原告ニコベンチャーズは、本件訴え提起時に専
用実施権の設定登録申請中であることを明らかにしつつ、原審では独占的通常実施
権に基づく主張をしていたが、当審において令和2年9月18日受付の専用実施権5
の設定登録を受けた旨の証拠(甲10)を提出した。不法行為法上、両者は実質的
に同一の法的保護に値する利益であると解される。)が、被控訴人(原審被告)フ
ィリップ・モリス・ジャパン合同会社(以下「被告フィリップ・モリス」という。)
及び被控訴人(原審被告)双日株式会社(以下「被告双日」という。)が輸入販売
等をする製品は同特許に係る特許発明の技術的範囲に属し、被告らによる同製品の10
輸入販売等は同特許権及び同専用実施権(設定登録前は独占的通常実施権)を侵害
すると主張し、被告らに対して、本件における不法行為の準拠法である日本法の民 |
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判決文
令和5年9月21日判決言渡
令和5年(ネ)第10015号 特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第25891号)
口頭弁論終結日 令和5年7月11日
5 判 決
当事者の表示 本判決別紙1当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
10 3 控訴人らのために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのため
の付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
15 2 被控訴人らは、控訴人アール ジエイ レイノルズ タバコ カンパニーに
対し、連帯して1億円及びこれに対する令和2年10月31日から支払済みまで年
3%の割合による金員を支払え。
3 被控訴人らは、控訴人ニコベンチャーズ トレーディング リミテッドに対
し、連帯して1億円及びこれに対する令和2年10月31日から支払済みまで年3
20 %の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「フィルタ内に管状要素を含むフィルタ付シガレット」
25 とする特許に係る特許権を有する米国法人である控訴人(原審原告)アール ジエ
イ レイノルズ タバコ カンパニー(以下「原告レイノルズ」という。)及び原
告レイノルズから同特許権について専用実施権の設定を受けたと主張する英国法人
である控訴人(原審原告)ニコベンチャーズ トレーディング リミテッド(以下
「原告ニコベンチャーズ」という。原告ニコベンチャーズは、本件訴え提起時に専
用実施権の設定登録申請中であることを明らかにしつつ、原審では独占的通常実施
5 権に基づく主張をしていたが、当審において令和2年9月18日受付の専用実施権
の設定登録を受けた旨の証拠(甲10)を提出した。不法行為法上、両者は実質的
に同一の法的保護に値する利益であると解される。)が、被控訴人(原審被告)フ
ィリップ・モリス・ジャパン合同会社(以下「被告フィリップ・モリス」という。)
及び被控訴人(原審被告)双日株式会社(以下「被告双日」という。)が輸入販売
10 等をする製品は同特許に係る特許発明の技術的範囲に属し、被告らによる同製品の
輸入販売等は同特許権及び同専用実施権(設定登録前は独占的通常実施権)を侵害
すると主張し、被告らに対して、本件における不法行為の準拠法である日本法の民
法709条及び同法719条1項に基づき、損害賠償金各1億円及びこれに対する
不法行為の日の後である令和2年10月31日(各訴状送達の日の翌日)から支払
15 済みまで同法所定の年3%の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
原審は、原告らの請求をいずれも棄却したところ、原告らは、これを不服として
本件各控訴をした。
2 前提事実及び争点
(原判決の引用)
20 前提事実及び争点は、後記(原判決の補正)のとおり原判決を補正するほかは、
原判決の「事実及び理由」の第2の2及び3(原判決3頁10行目から7頁12行
目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、引用文中「別紙」と
あるのは、「原判決別紙」と読み替える(以下同じ。)。
(原判決の補正)
25 (1) 4頁2・3行目の「本件特許に係る」の次に「設定登録時の」を加える。
(2) 5頁23行目の「弁論の全趣旨」を「甲6、9、弁論の全趣旨」と改める。
(3) 6頁6行目の「気体」を「エアロゾル及び気体」と改める。
(4) 6頁10行目の「D」の次に「、G、H」を加える。
(5) 6頁11行目の「G」の次に「、H」を加える。
(6) 6頁11・12行目の「当たること」の次に「、D区画がフィルタ要素
5 (構成要件B、D、E、H)に当たること」を加える。
(7) 6頁14・15行目の「独占的通常実施権を付与されたか」を「独占的通
常実施権を付与され、又は専用実施権の設定を受けたか」と改める。
(8) 6頁17行目の「構成要件H」を「構成要件G、H」と改める。
(9) 6頁18行目の「F」を「H」と改める。
10 (10) 6頁25行目の「構成要件C」の次に「、D、G」を加える。
(11) 7頁1行目、4行目及び12行目の各「本件特許」をいずれも「本件発明
に係る本件特許」と改める。
(12) 7頁7行目及び10行目の各「本件特許に新規性欠如」をいずれも「また
は、同公報を主引例として進歩性を欠き、本件発明に係る本件特許に新規性欠如又
15 は進歩性欠如」と改める。
3 争点に対する当事者の主張
(1) 原審及び当審が判断の対象としたのは争点2-1及び争点2-4である。
(2) このうち、争点2―1(メンソールが「煙変性剤」(構成要件G、H、I)
に当たるか)に対する当事者の主張は、原判決7頁22行目の「構成要件H」を
20 「構成要件G、H」と改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(2)
(原判決7頁22行目から8頁23行目まで)に記載のとおりであるから、これを
引用する。
(3) また、争点2-4(被告製品において「主流煙は、煙変性剤に実質的に接
触することなく通過」(構成要件I)するか)に対する当事者の主張は、後記(原
25 判決の補正)のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(5)
(原判決18頁4行目から20頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これ
を引用する。
(原判決の補正)
ア 18頁10行目及び26行目の各「タバコ端フィルタ部(B)」をいずれも
「たばこ端フィルタ部(B)」と改める。
5 イ 19頁6・7行目の「大部分は、」を「大部分が」と改める。
(4) 前記各争点(2-1及び2-4)以外の各争点に対する当事者の主張は、
本判決別紙2のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の4(1)
(原判決7頁14行目から21行目まで)、(3)及び(4)(原判決8頁24行目から
18頁3行目まで)並びに(6)から(11)まで(原判決20頁13行目から39頁2
10 行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は、後記2のとおり補正し、原告らの当審における補充主張に鑑み後記3を付加す
るほかは、原判決の「事実及び理由」の第3(原判決39頁3行目から63頁1行
15 目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 原判決の補正
(1) 57頁14行目の「接触する」を「実質的に接触する」と改める。
(2) 57頁18行目から22行目までを以下のとおり改める。
「 そうすると、本件発明は、フィルタ要素内にチャネルキャビティを設けるこ
20 とによって、主流煙と煙変性剤とを実質的に接触させないこととし、これにより、
気相成分を除去しつつ、実質的に改変されない味質及び望まれ得る官能的特徴を有
する主流煙を生成する発明であると認めるのが相当である。」
(3) 57頁23行目の「構成要件H」を「構成要件G、H」と改める。
(4) 57頁25行目の「吸引」を「吸収」と改める。
25 (5) 58頁3・4行目の「風味材含有カプセル」を「風味剤含有カプセル」と
改める。
(6) 58頁8行目及び16行目の各「被告」をいずれも「被告ら」と改める。
(7) 58頁14行目の「官能的特徴を有するようにするための」を「官能的特
徴を有する主流煙の内容物を喫煙者に提供する」と改める。
(8) 58頁19・20行目の「構成要件H」を「構成要件G、H」と改める。
5 (9) 58頁22行目の「争点2-3」を「争点2-4」と改める。
(10) 59頁1行目の「また」から3行目の「記載もない。」までを削る。
(11) 59頁8行目の「シガレット」から9行目の「間、」までを「シガレット
の全体について、タバコロッドで発生した主流煙が」と改める。
(12) 59頁11行目の「チャンネルキャビティ」を「チャネルキャビティ」と
10 改める。
(13) 59頁17行目の「構成要件Hの構成を合わせると」を「構成要件F及び
Hの構成を併せると」と改める。
(14) 60頁6行目の「原告」を「原告ら」と改める。
(15) 60頁9行目の「本件発明」から13行目の「いえるのであって」までを
15 「本件発明は、前記1(2)において説示したとおり、フィルタ要素内にチャネルキ
ャビティを設けることによって、主流煙と煙変性剤とを実質的に接触させないこと
とし、これにより、気相成分を除去しつつ、実質的に改変されない味質及び望まれ
得る官能的特徴を有する主流煙を生成する発明であるといえるのであって」と改め
る。
20 (16) 60頁18行目の「これと」を「主流煙と実質的に」と改める。
(17) 60頁20行目の「このような接触」を「主流煙と煙変性剤との実質的な
接触」と改める。
(18) 60頁23行目の「組み合わさって」の次に「フィルタ要素が」を加える。
(19) 60頁24行目の「形成されていないところ」の次に「(繊維性フィルタ
25 材の第2部分)」を加える。
(20) 61頁2行目の「これに」の次に「主流煙が」を加える。
(21) 61頁7・8行目の「区画である構成が記載されている」を「区画のみで
ある構成が記載されている(図面についても同様である。)」と改める。
(22) 61頁10行目及び11行目の各「煙変性剤に」をいずれも「主流煙が煙
変性剤と実質的に」と改める。
5 (23) 61頁18行目の「限らないのであるから」から19行目の「通過ないし
接触し」までを「限らないのであるし、主流煙のごく一部がタバコロッドから第1
繊維性フィルタ材のうちチャネルが延在している区画のチャネル以外の部分(以下
「非チャネル部分」という。)に直接流入する場合もあると考えられるから、主流
煙のごく一部は、第1繊維性フィルタ材のうち非チャネル部分を通過し、」と改め
10 る。
(24) 61頁21行目の「チャンネル」を「主流煙のごく一部は、煙変性剤と接
触し得るのであるから、チャネル」と改める。
(25) 62頁6行目の「原告」を「原告ら」と改める。
(26) 62頁11行目の「、前記」から12行目の「また」までを削る。
15 (27) 62頁13行目及び14行目の各「煙変性剤に」をいずれも「主流煙が煙
変性剤と実質的に」と改める。
(28) 62頁17行目の「接触する」を「実質的に接触する」と改める。
(29) 62頁19行目の「原告の主張」を「構成要件Iにつき、主流煙が第1繊
維性フィルタ材のうち非チャネル部分に配置された煙変性剤のみと実質的に接触し
20 ないことを規定している旨をいう原告らの主張」と改める。
(30) 62頁24行目の「少なくともC区画には」を「C区画及びD区画に」と
改める。
(31) 62頁25行目の「C区画の」を「、少なくともC区画及びD区画に存在
する」と改める。
25 (32) 63頁1行目末尾に改行して次のとおり加える。
「4 小括
以上のとおりであるから、争点2-2、2-3及び2-5について判断するまで
もなく、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属しない。」
3 原告らの当審における補充主張について
(1) 本件発明の意義について
5 原告らは、本件明細書の記載(段落【0007】、【0009】、【0039】、
【0048】、【0060】、【0061】等。以下、単に「【0007】」、
「【図10】」などと記載するときは、本件明細書の段落及び図面を指す。)、原
告レイノルズが本件特許に係る出願手続において提出した意見書(乙12)の記載
及び構成要件Fの文言を根拠に、本件発明は、フィルタ要素の一部分であるチャネ
10 ルキャビティにおいて、主流煙の内容物を実質的に煙変性剤に接触させないことに
より、当該チャネル部分において、実質的に改変されない味質及び望まれ得る官能
的特徴を有する主流煙を生成することを規定した発明であると主張する。
しかしながら、以下のとおり、原告らの主張を採用することはできず、前記補正
して引用した原判決第3の1(2)のとおり、本件発明は、フィルタ要素内にチャネ
15 ルキャビティを設けることによって、主流煙と煙変性剤とを実質的に接触させない
こととし、これにより、気相成分を除去しつつ、実質的に改変されない味質及び望
まれ得る官能的特徴を有する主流煙を生成する発明であると認められる。そして、
本件発明が奏するそのような作用効果に照らすと、本件発明は、フィルタ要素の全
体において、主流煙と煙変性剤との実質的な接触を回避する発明であると認めるの
20 が相当である。
ア 原告らは、本件発明の課題に係る【0007】には、「シガレットフィルタ
を構成する全領域(すなわちフィルタ要素全体)において、望ましい官能的特徴を
有する主流煙を生成する一方で主流煙の気相成分を除去すること」が本件発明の課
題であることを示す記載がないと主張するが、他方で、【0007】を含め、本件
25 明細書には、「フィルタ要素のうちチャネルキャビティが設けられた部分(以下
「チャネルキャビティ付き部分」という。)においてのみ、望ましい官能的特徴を
有する主流煙を生成する一方で主流煙の気相成分を除去すること」が本件発明の課
題であるとする記載もない。原告らが援用する【0007】には、「望ましい官能
的特徴を有する主流煙を生成する一方で主流煙の気相成分を除去するシガレットフ
ィルタ」を提供することが望ましい旨記載されているのであり、このような記載に
5 照らすと、シガレットフィルタを構成する全領域(すなわちフィルタ要素全体)に
おいて、本件発明の課題が実現されることが想定されているとみるのがむしろ自然
であって、本件発明の課題が「チャネルキャビティ付き部分においてのみ、実質的
に改変されない味質及び望まれ得る官能的特徴を有する主流煙を生成すること」で
あると認めることはできない。
10 イ 原告らは、本件発明における課題の解決手段に係る【0009】には、「…
チャネルは、主流煙の特定の内容物が煙変性剤に接触することなくフィルタ要素を
通って進行することを可能にする。これにより、実質的に改変されない味質および
望まれ得る官能的特徴を有する主流煙の内容物が喫煙者に提供されることとなる。」
との記載があるところ、この記載は、「チャネル」において「実質的に改変されな
15 い味質」等を有する主流煙の内容物を提供することが本件発明の作用効果である旨
を説明したものであると主張する。
しかしながら、【0009】の文言上、本件発明の作用効果として、フィルタ要
素全体で実質的に改変されない味質等を満たす主流煙の内容物が喫煙者に提供され
なければならないことは明らかであるから、「チャネル」において当該味質等を満
20 たす主流煙の内容物が提供されれば足りるわけではない。【0009】を含め、本
件明細書には、実質的に改変されない味質及び望まれ得る官能的特徴を有する主流
煙を生成させるための手段が「チャネルキャビティ付き部分にチャネルキャビティ
を設けること」に限定される旨の記載はなく、かえって、本件明細書には、当該手
段として「フィルタ要素のうちチャネルキャビティ付き部分でない部分(以下「チ
25 ャネルキャビティなし部分」という。)に煙変性剤を配置しないこと」についての
記載もみられるところである。前記【0007】の記載に照らすと、本件発明は、
喫煙者に「望ましい官能的特徴を有する主流煙を提供するシガレットフィルタ」を
提供することを課題とするものであり、喫煙者はフィルタ要素全体を通じて主流煙
の提供を受けるのであるから、【0009】の前記記載は、本件発明がフィルタ要
素全体を通じ、主流煙と煙変性剤との実質的な接触を想定していないものと解する
5 のが相当である。以上によると、原告らが援用する【0009】の記載をもって、
本件発明の奏する作用効果が「チャネルキャビティ付き部分のみにおいて、実質的
に改変されない味質等を有する主流煙の内容物を提供すること」などと解すること
はできない。
ウ 原告らは、【0039】の記載(①「フィルタ要素の各セグメントは、…1
10 つ以上の煙変性剤をそれぞれのセグメント内に含み得る。…煙変性剤はフィルタ要
素の単一セグメント内に隔離され、フィルタ要素のさらなるセグメントは実質的に
煙変性剤を含まなくてもよい。」)及び【0048】の記載(②「…煙変性剤は、
…1つ以上のフィルタ要素の部分内に埋め込まれ得る。」)を根拠に、本件発明は、
チャネルキャビティなし部分に煙変性剤が配置される場合を想定していると主張す
15 る。
しかしながら、【0039】及び【0048】を含め、本件明細書には、前記①
の記載にいう煙変性剤を含み得る「フィルタ要素の各セグメント」及び「フィルタ
要素のさらなるセグメント」並びに前記②の記載にいう煙変性剤が埋め込まれ得る
「1つ以上のフィルタ要素の部分」がチャネルキャビティを有しないものであると
20 する記載はみられないのであるから、原告らが援用する【0039】及び【004
8】の記載は、本件発明がチャネルキャビティなし部分に配置された煙変性剤によ
り、主流煙が煙変性剤と「実質的に接触」することまで想定していると解すること
はできない。
エ 原告らは、【0039】の記載(「…煙変性剤との接触に起因する煙の官能
25 的特性の変化は阻止または低減されることとなる。」)を根拠に、本件発明は、チ
ャネルキャビティなし部分で主流煙が煙変性剤に実質的に接触するため煙の官能的
特性の変化が阻止されないものの、チャネルキャビティ付き部分で主流煙が煙変性
剤の存在しない領域を通過することにより煙の官能的特性の変化が低減されるとい
うものであると主張する。
しかしながら、前記補正して引用した原判決第3の3(1)ア(エ)のとおり、本件発
5 明においては、主流煙のごく一部は、第1繊維性フィルタ材のうち非チャネル部分
を通過し、煙変性剤に接触し得るのであり、その場合、当該接触に起因する主流煙
の官能的特性に一定の変化が生ずることは想定されているはずである。主流煙の官
能的特性の変化に係る「低減される」との記載は、当該接触が僅かなものであり、
実質的な接触ではないことを前提とした場合にも成り立つ表現である。したがって、
10 当該「低減される」との記載をもって、本件発明がチャネルキャビティなし部分に
おいて主流煙と煙変性剤との実質的な接触を想定しているということはできない。
オ 原告らは、【0039】の記載(「このようにして、本発明は、煙変性剤が、
主流煙の全ストリームと必ずしも接触することなく、主流煙内の特定のガス種と相
互作用することを可能にするフィルタ設計を提供する。」)を根拠に、本件発明は、
15 主流煙と煙変性剤が接触する場合と接触しない場合とを含んでいると主張する。
しかしながら、前記補正して引用した原判決第3の3(1)ア(エ)のとおり、本件発
明において、主流煙のごく一部は、第1繊維性フィルタ材のうち非チャネル部分を
通過し、煙変性剤に接触し得るところ、【0007】、【0009】、【0039】
等の記載にも照らすと、【0039】の前記記載(「煙変性剤が、主流煙の全スト
20 リームと必ずしも接触することなく、主流煙内の特定のガス種と相互作用すること
を可能にする」)は、主流煙のごく一部が煙変性剤と接触し、主流煙のその余の部
分が煙変性剤と接触しないこと(全体としてみれば、主流煙が煙変性剤と実質的に
接触しないこと)を述べたものと解するのが相当である。したがって、【0039】
の前記記載を根拠に、本件発明が主流煙と煙変性剤が実質的に接触する場合を含ん
25 でいるということはできない。
カ 原告らは、破壊可能なカプセル54がチャネルキャビティ付き部分の下流側
(マウス端側)に配置され得る旨の記載がある【0060】及び【0061】には、
主流煙がチャネルキャビティなし部分において煙変性剤と実質的に接触するとの構
成が示されていると主張する。
しかしながら、【0007】、【0009】、【0039】等の記載及び前記補
5 正して引用した原判決第3の3(1)ア(エ)によると、本件発明の煙変性剤は、主流煙
の気相成分を除去すること及び望ましい官能的特徴を有する主流煙を生成すること
という二つの課題を同時に実現するため、主流煙との僅かな接触を許容しつつも、
主流煙との実質的な接触を回避するよう意図されたものであると認められる。これ
に対し、【0061】の記載(「各破壊可能なカプセル54は、フィルタ要素を通
10 して吸い込まれた主流煙の性質または特性に対して何らかの変化をもたらすことを
意図する化合物(例えば香料添加剤)を組み込むペイロードを担持する。」)及び
【0060】の記載(「代替的な実施形態において、破壊可能なカプセルは、フィ
ルタ材36の第2部分内、…またはチャネル(またはチューブ)48内に提供され
得る。」)によると、破壊可能なカプセル54に格納される化合物は、主流煙の性
15 質又は特性に対して変化をもたらすことが全面的に意図されるものであり、当該性
質等の変化の阻止又は低減が意図されるものではない。また、破壊可能なカプセル
54は、主流煙の全部又は大部分が通過する「フィルタ材36の第2部分内」や
「チャネル(チューブ)48内」に配置され得るものであるから、当該カプセルに
格納される化合物は、主流煙の全部又は大部分と接触することが全面的に意図され
20 るものである。加えて、【0061】が「破壊可能なカプセル54」と「煙変性剤
34」とを書き分けていることも併せ考慮すると、破壊可能なカプセル54又はこ
れに格納される化合物は、本件発明の煙変性剤に該当しないと解するのが相当であ
る。そうすると、破壊可能なカプセル54がチャネルキャビティ付き部分の下流側
に配置され得る旨の記載があるからといって、【0060】及び【0061】に、
25 主流煙がチャネルキャビティなし部分において煙変性剤と実質的に接触するとの構
成が示されているということはできない。
キ 原告らは、原告レイノルズが本件特許に係る出願手続において平成28年1
2月12日に提出した意見書(乙12)には、主流煙が煙変性剤と実質的に接触せ
ずにチャネルキャビティを通過することに係る想到困難性について記載があるのみ
であるところ、これは、本件発明がチャネルキャビティ付き部分において主流煙の
5 味質及び望まれ得る官能的特徴が実質的に変更されないことを規定した発明である
ことを裏付けると主張する。
しかしながら、前記意見書は、平成28年12月12日提出の手続補正書(乙1
1)と同時に提出されたものであるところ、同手続補正書によると、本件特許に係
る特許請求の範囲の請求項39(以下、単に「請求項39」という。)については、
10 繊維性フィルタ材の第2部分に煙変性剤を含まない旨の限定及び主流煙が煙変性剤
に実質的に接触することなく通過する旨の限定がされたものと認められるから、原
告らが援用する前記意見書の記載をもって、本件発明がチャネルキャビティ付き部
分のみにおいて主流煙の味質等が実質的に変更されないことを規定した発明である
ことが裏付けられるとはいえない。
15 ク 原告らは、構成要件Fの文言(「1つ以上のチャンネルキャビティが、前記
第1繊維性フィルタ材内に形成され且つ前記第1繊維性フィルタ材を通って少なく
とも部分的に長手方向に延在し、」)を根拠に、チャネルキャビティは、第1繊維
性フィルタ材の端から端まで延在しているとは限らないし、第1繊維性フィルタ材
を含む部分を越えてマウス端まで延在する必要もないと主張する。
20 しかしながら、構成要件Fの「…チャンネルキャビティが…少なくとも部分的に
長手方向に延在し」との文言は、本件構成ⅰのように繊維性フィルタ材の第2部分
(チャネルキャビティなし部分に相当する。)が存在する場合を踏まえたものであ
ると理解するのが自然である。また、同構成要件の「…チャンネルキャビティが、
前記第1繊維性フィルタ材内に形成され」との文言については、同構成要件を含め、
25 請求項39及び本件明細書には、本件発明の「フィルタ要素」のうち「第1繊維性
フィルタ材」でない部分に煙変性剤が含まれるとの記載はない。したがって、原告
らが主張するとおり、チャネルキャビティが第1繊維性フィルタ材の端から端まで
延在しているとは限らず、また、チャネルキャビティが第1繊維性フィルタ材を含
む部分を越えてマウス端まで延在する必要がないとしても、そのことは、本件発明
がチャネルキャビティなし部分における主流煙と煙変性剤との実質的な接触を許容
5 していることを意味するものではない。
(2) 構成要件Iの解釈について
ア 原告らは、本件発明の意義が前記(1)の原告らの主張のとおりであること及
び構成要件Fの文言(「…チャンネルキャビティが、前記第1繊維性フィルタ材内
に形成され」)を根拠に、構成要件Iの「煙変性剤」は構成要件Hにいう第1繊維
10 性フィルタ材内に含まれる煙変性剤を意味すると主張する。
しかしながら、前記(1)において説示したとおり、本件発明の意義は、喫煙者に
望ましい官能的特徴を有する主流煙を提供するため、チャネルキャビティにおいて
だけではなく、フィルタ要素全体において、主流煙と煙変性剤との実質的な接触を
回避したシガレットフィルタを提供するところにあるから、構成要件 I の「煙変性
15 剤」をチャネルキャビティ付き部分に配置されたものに限定して解すべき理由はな
い。
イ 原告らは、特許法には、特許請求の範囲の記載における改行の意味等につい
て定める規定がないことを根拠に、請求項39の記載において、構成要件Iの記載
の直前で改行がされ、構成要件Iの記載が構成要件AからHまでの記載と区切られ
20 ているからといって、構成要件Iにつき、「本件発明のシガレットの全体について、
タバコロッドで発生した主流煙が煙変性剤に実質的に接触しないこと」を意味する
と解するのは相当でないと主張する。
しかしながら、言語によって記載された特許請求の範囲の記載の解釈に当たり、
改行の有無が考慮され得るのは当然のことであり、これは、特許法その他の法令に
25 おいて特許請求の範囲の記載における改行の意味等を定めた規定がないことにより
左右される事柄ではない。そして、前記補正して引用した原判決第3の3(1)ア(ア)
のとおり、請求項39の記載において、構成要件Iの記載の直前で改行がされ、構
成要件Iの記載が構成要件AからHまでの記載(途中で改行がされていないもの)
と区切られていることからすると、請求項39の記載においては、構成要件Aから
Hまでの記載及び構成要件Iの記載がそれぞれ構成要件Jの「シガレット」の構成
5 全体を説明していると理解されるのであるから、構成要件Iについては、「本件発
明のシガレットの全体について、タバコロッドで発生した主流煙が煙変性剤に実質
的に接触しないこと」を意味すると解するのが相当である。
ウ 原告らは、本件構成ⅱにつき、本件発明の意義が前記(1)の原告らの主張の
とおりであることを根拠に、「本件構成ⅱは、チャネルキャビティ付き部分に限っ
10 て煙変性剤を配置することにより、主流煙と煙変性剤との実質的な接触を避けるこ
とを前提として規定された構成である」との認定(前記補正して引用した原判決第
3の3(1)ア(イ))は誤りであると主張するが、本件発明の意義の解釈は、前記(1)
において説示したとおりであるから、原告らの主張は、前提を誤るものとして失当
である。
15 本件構成ⅰにつき、繊維性フィルタ材の第2部分以外の部分に煙変性剤が配置さ
れる別のセグメントが存在することを排除する旨の記載がないことは事実であるが、
構成要件Gを含め、請求項39及び本件明細書には、当該第2部分以外の部分のチ
ャネルキャビティなし部分に煙変性剤が配置され得る旨の記載もない。前記(1)の
とおり、本件発明がフィルタ要素全体において主流煙と煙変性剤との実質的な接触
20 を回避する発明であることに照らすと、当該事実は、本件構成ⅰが、チャネルキャ
ビティなし部分における主流煙と煙変性剤との実質的な接触を避ける趣旨で明示さ
れたものであると認定することを妨げるものではない。
その他、原告らは、本件構成ⅰと本件構成ⅱは別個独立した構成であるから、本
件構成ⅰの趣旨は本件構成ⅱの趣旨を裏付けるものではないとも主張するが、構成
25 要件Gにおける(ⅰ)と(ⅱ)は、同一の請求項における択一的な構成であり、そ
の内容をみても、両者は、いずれも「気相成分を除去しつつ、実質的に改変されな
い味質及び望まれ得る官能的特徴を有する主流煙を生成する」との本件発明の作用
効果を得るための手段に直接関係する構成であって、その技術的意義を同じくする
ものと認められる。したがって、本件構成ⅱの趣旨を検討するに当たり、本件構成
ⅰの趣旨がその裏付けになり得ることは明らかであるから、原告らの主張は採用す
5 ることができない。
4 結論
よって、当裁判所の判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理
由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
10 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清 水 響
裁判官
浅 井 憲
裁判官
勝 又 来 未 子
(別紙1)
当 事 者 目 録
控 訴 人 アール ジエイ レイノルズ
タバコ カンパニー
控 訴 人 ニコベンチャーズ トレーデ
ィング リミテッド
上記両名訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
15 大 野 聖 二
小 林 英 了
高 橋 美 智 留
河 合 哲 志
井 深 大
20 同訴訟代理人弁理士 松 野 知 紘
被 控 訴 人 フィリップ・モリス・ジャパ
ン合同会社
被 控 訴 人 双 日 株 式 会 社
上記両名訴訟代理人弁護士 田 中 昌 利
5 小 原 淳 見
中 島 慧
中 所 昌 司
同訴訟復代理人弁護士 生 田 敦 志
以 上
(別紙2) 争点2-1及び同2-4以外の各争点に対する当事者の主張について
の原判決の補正
1 争点1関係(独占的通常実施権の付与又は専用実施権の設定)
7頁14行目から21行目までを以下のとおり改める。
5 「(1) 原告ニコベンチャーズが原告レイノルズから独占的通常実施権を付与さ
れ、又は専用実施権の設定を受けたか(争点1)について
(原告ニコベンチャーズの主張)
原告ニコベンチャーズは、令和2年8月10日、原告レイノルズから、加熱式た
ばこ製品に関する本件特許に係る一切の実施行為について、独占的通常実施権を付
10 与され、その後、同年9月18日、専用実施権の設定登録を受けた。
(被告らの主張)
原告ニコベンチャーズの主張は不知。」
2 争点2-2関係(被告製品のB区画及びC区画の「フィルタ要素」該当性)
(1) 8頁24行目の「F」を「H」と改める。
15 (2) 9頁1行目の「ア 」の次に「被告製品については、」を加える。
(3) 9頁1行目及び20行目の各「タバコ端フィルタ部(B)」をいずれも
「たばこ端フィルタ部(B)」と改める。
(4) 10頁13・14行目の「PLAポリマー部」の次に「(中央フィルタ部
(C区画))」を加える。
20 (5) 11頁11行目の「タバコ端フィルタ部(B区画)」を「たばこ端フィル
タ部(B区画)」と改める。
3 争点2-3関係(本件空洞部と構成要件Gの選択肢(ii)の関係)
(1) 13頁3行目の「しかしながら、」の次に「国際出願段階での」を加える。
(2) 15頁1行目末尾に改行して次のとおり加える。
25 「 しかしながら、本件空洞部は、タバコロッド(A)からスペーサー(B)の
第2端面(b2)までしか延在しておらず、端部(D1)まで延在しているわけで
はないから、「前記タバコロッドと、・・・(ⅱ)前記シガレットの前記マウス端
・・・との間で主流煙が通過するために適合され」ているとはいえない。」
(3) 15頁2行目の「出願過程」を「国際出願の過程」と改める。
(4) 16頁25・26行目の「第2部分と」を「第2部分との」と改める。
5 4 争点2-5関係(被告製品の構成要件C、D、G、J該当性)
(1) 20頁13行目の「構成要件C」の次に「、D、G」を加える。
(2) 21頁7行目末尾に「被告製品は、加熱式タバコスティックであり、「シ
ガレット代替品」に該当するものであるから、本件発明の「シガレット」に該当し
ない。」を加える。
10 5 争点3関係(損害)
補正なし。
6 争点4-1関係(乙7公報を理由とする特許無効)
(1) 21頁26行目の「本件特許」を「本件発明に係る本件特許」と改める。
(2) 24頁17行目の「周知技術」の次に「(乙10公報、乙14公報)」を
15 加える。
(3) 24頁20行目の「心部の周りに煙変性剤に該当する炭素材を配置して」
を削る。
(4) 24頁21行目の「周知技術」の次に「(乙14公報、特開平9-206
056号公報(乙15(以下「乙15公報」という。)))」を加える。
20 (5) 25頁17行目、19行目、22行目(2か所)及び23行目の各「被告」
をいずれも「被告ら」と改める。
7 争点4-2関係(乙10公報を理由とする特許無効)
25頁25行目から29頁12行目までを以下のとおり改める。
「(9) 本件発明が乙10公報に記載された発明と同一であり、または、同公報
25 を主引例として進歩性を欠き、本件発明に係る本件特許に新規性欠如又は進歩性欠
如の無効理由があるか(争点4-2)について
(被告らの主張)
ア(ア) 乙10公報には、次の発明(乙10公報の図9に係る実施形態から認定
される発明。以下「乙10発明1」という。)が記載されている。
たばこ棒4と
5 たばこ棒4に接続されたフィルター部6と
を備える紙巻きたばこ2であって、
フィルター部6は、たばこ棒4に当接する端部と、紙巻きたばこ2の吸い口端を
画成するたばこ棒4とは逆側の端部とを有し、
フィルター部6は、酢酸セルロース繊維などの材料で構成されるプラグ24を含
10 み、
空洞部が、プラグ24の内部において、プラグ24の中心軸に沿って長手方向に
延びるように形成されており、
上記空洞部は、たばこ棒4から、プラグ24に当接する酢酸セルロース繊維など
の材料で構成される吸い口フィルター8であって、香味付き炭素粒子を含まない吸
15 い口フィルター8まで延在し、たばこ棒4を出た主流煙は、上記空洞部を介して吸
い口端まで流れ、
プラグ24は、たばこ棒4と当接する前記端部を始点として、フィルター部6に
沿って長手方向に分布する香味付き炭素粒子を含み、
主流煙のほとんどは、香味付き炭素粒子を含むプラグ24のフィルタ部分ではな
20 く、上記空洞部を通過する
紙巻きたばこ2。
(イ) 次のとおり、本件発明の構成は、乙10発明1の構成と同じであるから、
本件発明は、新規性を欠く。
a 乙10発明1の「たばこ棒4」は、本件発明の構成要件Aの「タバコロッド」
25 に該当するから、乙10発明1は、構成要件Aの構成を備える。
b 乙10発明1の「フィルター部6」は、本件発明の構成要件Bの「フィルタ
要素」に該当するから、乙10発明1は、構成要件Bの構成を備える。
c 乙10発明1の「紙巻きたばこ2」は、本件発明の構成要件Cの「シガレッ
ト」に該当するから、乙10発明1は、構成要件Cの構成を備える。
d 乙10発明1の「たばこ棒4に当接する端部」は、本件発明の構成要件Dの
5 「前記タバコロッドの基端にある端部」に該当し、乙10発明1の「紙巻きたばこ
2の吸い口端を画成するたばこ棒4とは逆側の端部」は、本件発明の構成要件Dの
「前記シガレットのマウス端を画成する前記タバコロッドから末端にある端部」に
該当する。したがって、乙10発明1は、構成要件Dの構成を備える。
e 乙10発明1の「酢酸セルロース繊維などの材料で構成されるプラグ24」
10 は、本件発明の構成要件Eの「第1繊維性フィルタ材」に該当するから、乙10発
明1は、構成要件Eの構成を備える。
f 乙10発明1の「空洞部」は、本件発明の構成要件Fの「チャンネルキャビ
ティ」に該当するから、乙10発明1は、構成要件Fの構成を備える。
g 乙10発明1において、たばこ棒4を出た主流煙は、プラグ24の内部に形
15 成された空洞部を通過して、香味付き炭素粒子を含まない吸い口フィルター8に流
れることになるから、乙10発明1は、構成要件Gの選択肢(ⅰ)に係る構成を備
える。
また、仮に、構成要件Gについて、その選択肢(ⅱ)はチャネルキャビティがマ
ウス端まで延在することを要件としておらず、被告製品では、たばこ端フィルタ部
20 (B)の空洞部(b3)を介して、タバコロッド(A)から吸口端(D1)まで蒸
気及びエアロゾルが流れるから、構成要件Gを充足するとの原告らの主張を前提と
すると、乙10発明1は、「たばこ棒4を出た主流煙は、上記空洞部を介して吸い
口端まで流れ」るという構成を有するから、構成要件Gの選択肢(ⅱ)に係る構成
を備えることになる。
25 h 乙10発明1は「プラグ24は、たばこ棒4と当接する前記端部を始点とし
て、フィルター部6に沿って長手方向に分布する香味付き炭素粒子を含」むという
構成を備えるところ、乙10発明1の「香味付き炭素粒子」については、乙10公
報において、「この発明は香味付き炭素粒子を作るための方法を提供し、そこでは
一つまたはそれ以上の香味成分を含む香味剤が流動状態で活性炭粒子に付与され
る。」(段落【0025】)、「この発明の香味付き炭素粒子は主流煙から一つま
5 たはそれ以上の選択された成分をろ過しながら香味を放出するのに使用されること
ができる。」(段落【0026】)と記載されている。
そして、本件明細書の段落【0014】では「煙変性剤は吸着剤であり得る」と
されるとともに、吸着剤の例として「活性炭」が挙げられていることから、乙10
発明1の「香味付き炭素粒子」は、本件発明の構成要件Hの「煙変性剤」に該当す
10 る。
したがって、乙10発明1は、構成要件Hの構成を備える。
i 乙10発明1は、「上記空洞部は、たばこ棒4から、プラグ24に当接する
酢酸セルロース繊維などの材料で構成される吸い口フィルター8であって、香味付
き炭素粒子を含まない吸い口フィルター8まで延在し」及び「主流煙のほとんどは、
15 香味付き炭素粒子を含むプラグ24のフィルタ部分ではなく、上記空洞部を通過す
る」という構成を有する。仮に、被告製品において、タバコロッド(A)を通過し
た空気及びエアロゾルの大部分は、メンソールを含むたばこ端フィルタ部(B)の
フィルタ部分ではなく、空洞部(b3)を通ることが構成要件Iに該当するという
原告らの主張を前提とすると、乙10発明1は、構成要件Iの構成を備えることに
20 なる。
j 乙10発明1の「紙巻きたばこ2」は、本件発明の構成要件Jの「シガレッ
ト」に該当するから、乙10発明1は、構成要件Jの構成を備える。
(ウ)a 仮に本件発明と乙10発明1との間に原告らが主張する相違点2-1が
存在するとしても、フィルタ材として繊維性の材料であるセルロースアセテートト
25 ウ繊維を用いることは、本件優先日当時の周知慣用技術であったから(乙7公報、
乙14公報、Colin L. Browne 著「The Design of Cigarettes」(1990年)
(乙16(以下「乙16文献」という。)))、当該周知慣用技術を適用し、乙1
0発明1のプラグ24の材料として繊維性の素材を用いることにより、当業者は、
相違点2-1に係る本件発明の構成に容易に想到し得たものである。
b 仮に本件発明と乙10発明1との間に原告らが主張する相違点2-2が存在
5 するとしても、煙草煙(の微粒子相)が煙変性剤に該当する炭素に接触することな
く通過するなどの周知技術(乙14公報、乙15公報)を乙10発明1に適用し、
相違点2-2に係る本件発明の構成に想到することは、当業者にとって極めて容易
であった。
c よって、本件発明と乙10発明1との間に原告らが主張する相違点2-1又
10 は2-2が存在するとしても、本件発明は、進歩性を欠く。
イ(ア) 乙10公報には、次の発明(乙10公報の図5に係る実施形態から認定
される発明。以下「乙10発明2」という。)が記載されている。
たばこ棒4と
たばこ棒4に接続されたフィルター部6と
15 を備える紙巻きたばこ2であって、
フィルター部6は、たばこ棒4に当接する端部と、紙巻きたばこ2の吸い口端を
画成するたばこ棒4とは逆側の端部とを有し、
フィルター部6は、酢酸セルロース繊維などの材料で構成されるプラグ16を含
み、
20 空洞部が、プラグ16の内部において、プラグ16の中心軸に沿って長手方向に
延びるように形成されており、
上記空洞部は、たばこ棒4から、スペース18まで延在し、たばこ棒4を出た主
流煙は、上記空洞部を介して吸い口端まで流れ、
プラグ16は、たばこ棒4と当接する前記端部を始点として、フィルター部6に
25 沿って長手方向に分布する香味付き炭素粒子を含み、
主流煙のほとんどは、香味付き炭素粒子を含むプラグ16のフィルタ部分ではな
く、上記空洞部を通過する
紙巻きたばこ2。
(イ) 次のとおり、本件発明の構成は、乙10発明2の構成と同じであるから、
本件発明は、新規性を欠く。
5 a 前記ア(イ)aからdまで及びjのとおり、乙10発明2は、本件発明の構成
要件AからDまで及びJの構成を備える。
b 乙10発明2の「酢酸セルロース繊維などの材料で構成されるプラグ16」
は、本件発明の構成要件Eの「第1繊維性フィルタ材」に該当するから、乙10発
明2は、構成要件Eの構成を備える。
10 c 乙10発明2の「空洞部」は、本件発明の構成要件Fの「チャンネルキャビ
ティ」に該当するから、乙10発明2は、構成要件Fの構成を備える。
d 原告らの主張(本件発明の構成要件Gの選択肢(ⅱ)はチャネルキャビティ
がマウス端まで延在することを要件としておらず、タバコロッド(A)から吸口端
(D1)まで蒸気及びエアロゾルが流れる被告製品は本件発明の構成要件Gを充足
15 するというもの)を前提とすると、乙10発明2は、「たばこ棒4を出た主流煙は、
上記空洞部を介して吸い口まで流れ」るとの構成を有するから、構成要件Gの選択
肢(ⅱ)に係る構成を備えることになる。
e 乙10発明2は、「プラグ16は、たばこ棒4と当接する前記端部を始点と
して、フィルター部6に沿って長手方向に分布する香味付き炭素粒子を含」むとい
20 う構成を備えるところ、前記ア(イ)hと同様に、乙10発明2の「香味付き炭素粒
子」は、本件発明の構成要件Hの「煙変性剤」に該当するから、乙10発明2は、
構成要件Hの構成を備える。
f 乙10発明2は、「主流煙のほとんどは、香味付き炭素粒子を含むプラグ1
6のフィルタ部分ではなく、上記空洞部を通過する」という構成を有するから、乙
25 10発明2においては、主流煙の少なくとも一部は、「フィルタ要素」(フィルタ
ー部6)の一部を迂回し、プラグ16に含まれる香味付き炭素粒子とは実質的に接
触しない。したがって、仮に原告らの主張(主流煙が第1繊維性フィルタ材以外に
含まれる煙変性剤と実質的に接触したとしても、本件発明の構成要件Iの充足性は
否定されないとするもの)を前提とすると、乙10発明2は、構成要件Iの構成を
備えることになる。
5 (ウ) 仮に本件発明と乙10発明2との間に原告らが主張する相違点2-3(相
違点2-2と同等のもの)が存在するとしても、前記ア(ウ)bのとおりであるから、
本件発明は、乙10発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものであり、進歩性を欠く。
ウ(ア) 乙10公報には、次の発明(乙10公報の図6に係る実施形態から認定
10 される発明。以下「乙10発明3」という。)が記載されている。
たばこ棒4と
たばこ棒4に接続されたフィルター部6と
を備える紙巻きたばこ2であって、
フィルター部6は、たばこ棒4に当接する端部と、紙巻きたばこ2の吸い口端を
15 画成するたばこ棒4とは逆側の端部とを有し、
フィルター部6は、酢酸セルロース繊維などの材料で構成されるプラグ16を含
み、
空洞部が、プラグ16の内部において、プラグ16の中心軸に沿って長手方向に
延びるように形成されており、
20 上記空洞部は、たばこ棒4から、プラグ15まで延在し、たばこ棒4を出た主流
煙は、上記空洞部を介して吸い口端まで流れ、
プラグ16は、たばこ棒4と当接する前記端部を始点として、フィルター部6に
沿って長手方向に分布する香味付き炭素粒子を含み、
主流煙のほとんどは、香味付き炭素粒子を含むプラグ16のフィルタ部分ではな
25 く、上記空洞部を通過する
紙巻きたばこ2。
(イ) 前記イ(イ)と同様に、原告らの主張を前提とすると、本件発明は、乙10発
明3と同一であり、新規性を欠く。
(ウ) 仮に本件発明と乙10発明3との間に原告らが主張する相違点2-4(相
違点2-2と同等のもの)が存在するとしても、前記ア(ウ)bのとおりであるから、
5 本件発明は、乙10発明3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものであり、進歩性を欠く。
(原告らの主張)
ア(ア) 本件発明と乙10発明1は、次の点で相違するため、本件発明は、新規
性を有する。
10 a 相違点2-1
本件発明は、「1つ以上のチャンネルキャビティが、前記第1繊維性フィルタ材
内に形成されかつ前記第1繊維性フィルタ材を通って少なくとも部分的に長手方向
に延在」するのに対し、乙10発明1では、プラグ24の材質が繊維状の材質か不
明である点
15 b 相違点2-2
本件発明は、「前記第1繊維性フィルタ材は、前記タバコロッドの基端にある前
記端部を始点として前記フィルタ要素に沿って少なくとも長手方向に延在する煙変
性剤を含み、主流煙は、煙変性剤に実質的に接触することなく通過する」のに対し、
乙10発明1は、たばこ棒4を出た主流煙がプラグ24内の香味付き炭素粒子に実
20 質的に接触することなく通過するかどうかが不明である点
(イ) また、次のとおり、当業者は、上記各相違点に係る本件発明の構成に容易
に想到し得たものではないから、本件発明は、進歩性を有する。
a 相違点2-1について
乙7公報は、相違点2-1に係る本件発明の構成を開示するものではなく、乙1
25 4公報に記載された環状部分370も、酢酸セルロースのような第1繊維性フィル
タ材ではなく、乙16文献も、セルロースアセテートトウやアセテートトウフィル
タがチャネルキャビティや煙変性剤を備えるフィルタとして用いられることを開示
するものではないから、これらの書証から相違点2-1に係る本件発明の構成が周
知慣用技術であると認めることはできない。
b 相違点2-2について
5 乙14公報及び乙15公報から被告らが主張する周知技術が存在するということ
はできないし、仮に当該周知技術が存在するとしても、これを乙10発明1に適用
する動機付けはない。
イ(ア) 本件発明と乙10発明2は、本件発明と乙10発明1の相違点2-2と
同様、次の点で相違するため、本件発明は、新規性を有する。
10 相違点2-3
本件発明は、「前記第1繊維性フィルタ材は、前記タバコロッドの基端にある前
記端部を始点として前記フィルタ要素に沿って少なくとも長手方向に延在する煙変
性剤を含み、主流煙は、煙変性剤に実質的に接触することなく通過する」のに対し、
乙10発明2は、たばこ棒4を出た主流煙がプラグ16内の香味付き炭素粒子に実
15 質的に接触することなく通過するかどうかが不明である点
(イ) また、本件発明と乙10発明2の相違点2-3は、本件発明と乙10発明
1の相違点2-2と同等のものであるところ、前記ア(イ)bのとおりであるから、
当業者は、相違点2-3に係る本件発明の構成に容易に想到し得たものではない。
したがって、本件発明は、進歩性を有する。
20 ウ(ア) 本件発明と乙10発明3は、本件発明と乙10発明1の相違点2-2と
同様、次の点で相違するため、本件発明は、新規性を有する。
相違点2-4
本件発明は、「前記第1繊維性フィルタ材は、前記タバコロッドの基端にある前
記端部を始点として前記フィルタ要素に沿って少なくとも長手方向に延在する煙変
25 性剤を含み、主流煙は、煙変性剤に実質的に接触することなく通過する」のに対し、
乙10発明3は、たばこ棒4を出た主流煙がプラグ16内の香味付き炭素粒子に実
質的に接触することなく通過するかどうかが不明である点
(イ) また、本件発明と乙10発明3の相違点2-4は、本件発明と乙10発明
1の相違点2-2と同等のものであるところ、前記ア(イ)bのとおりであるから、
当業者は、相違点2-4に係る本件発明の構成に容易に想到し得たものではない。
5 したがって、本件発明は、進歩性を有する。」
8 争点4-3関係(乙14公報を理由とする特許無効)
(1) 29頁13・14行目の「本件特許に新規性欠如」を「または、同公報を
主引例として進歩性を欠き、本件発明に係る本件特許に新規性欠如又は進歩性欠如」
と改める。
10 (2) 32頁18行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「ウ 仮に本件発明と乙14発明との間に原告らが主張する相違点3-2が存在
するとしても、前記(9)(被告らの主張)ア(ウ)aのとおりであるから、フィルタ材
として繊維性の材料を用いるとの周知慣用技術を適用し、乙14発明の環状部分3
70の材料として繊維性の素材を用いることによって、当業者は、相違点3-2に
15 係る本件発明の構成に容易に想到し得たものである。したがって、本件発明は、進
歩性を欠く。」
(3) 33頁3行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「ウ また、次のとおり、当業者は、上記各相違点に係る本件発明の構成に容易
に想到し得たものではないから、本件発明は、進歩性を有する。
20 (ア) 相違点3-1について
乙14発明は、チッピング紙350に空気を通過させるための開口をあえて形成
し、煙草充填剤ロッド340からの煙に含まれる蒸気相成分の少なくとも一部を積
極的に環状部分370に向かって放散させる構成を採用している。このような乙1
4発明について、煙草煙が環状部分370の炭素粒子に実質的に接触することなく
25 通過する構成とするためには、チッピング紙350の開口を塞ぐ必要があるところ、
これは、蒸気相成分の少なくとも一部を積極的に環状部分370に向かって放散さ
せるとの乙14発明の特徴を損なうものである。そうすると、乙14発明において、
煙草煙が環状部分370の炭素粒子に実質的に接触することなく通過するようにす
る動機付けはなく、むしろ、そのようにすることには、阻害要因がある。
したがって、当業者は、相違点3-1に係る本件発明の構成に容易に想到し得た
5 ものではない。
(イ) 相違点3-2について
前記(9)(原告らの主張)ア(イ)aのとおりであるから、当業者は、相違点3-2
に係る本件発明の構成に容易に想到し得たものではない。」
9 争点4-4関係(サポート要件違反を理由とする特許無効)
10 (1) 33頁4行目の「本件特許」を「本件発明に係る本件特許」と改める。
(2) 34頁25行目の「本件特許」を「本件発明に係る特許請求の範囲の記載」
と改める。
(3) 34頁26行目の「原告」を「原告ら」と改める。
(4) 35頁1行目の「場合」の次に「、本件発明に係る特許請求の範囲の記載
15 は」を加える。
(5) 38頁4行目の「解決できるのであるから」の次に「、本件発明に係る特
許請求の範囲の記載は」を加える。
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