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令和5(行ケ)10023特許取消決定取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和5年10月3日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社ドクター中松創研
被告特許庁長官
対象物 高速ドローン等航空機
法令 特許権
特許法29条2項3回
特許法29条1項3号1回
特許法120条の51回
キーワード 進歩性9回
実施9回
新規性4回
特許権2回
刊行物1回
主文 1 原告の請求を棄却する。15
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実、甲5、7、8)25 (1) 原告は、発明の名称を「高速ドローン等航空機」とする発明について、平 成30年3月31日、特許出願をし、令和2年7月9日、本件特許に係る特 許権の設定登録を受けた(請求項の数1)。 (2) 令和3年1月27日、本件特許について特許異議の申立てがされ、特許庁 は、異議2021-700092号事件として審理を行った。 (3) 原告は、令和3年12月23日付けで取消理由通知を受けたことから、そ5 の意見書提出期限内である令和4年3月7日、本件特許の特許請求の範囲 (請求項1)を下記2(1)のとおりに訂正(本件訂正)する旨の訂正請求を した。

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判決文

令和5年10月3日判決言渡

令和5年(行ケ)第10023号 特許取消決定取消請求事件

口頭弁論終結日 令和5年8月29日

判 決

原 告 株式会社ドクター中松創研

被 告 特 許 庁 長 官

同指定代理人 一 ノ 瀬 覚

同 藤 井 昇

同 小 暮 道 明

同 小 岩 智 明

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

【略語】本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件決定中で使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。

第1 請求

特許庁が異議2021-700092号事件について令和5年1月24日にした特許取消決定(本件決定)を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実、甲5、7、8)

(1) 原告は、発明の名称を「高速ドローン等航空機」とする発明について、平成30年3月31日、特許出願をし、令和2年7月9日、本件特許に係る特許権の設定登録を受けた(請求項の数1)。

(2) 令和3年1月27日、本件特許について特許異議の申立てがされ、特許庁は、異議2021-700092号事件として審理を行った。

5 (3) 原告は、令和3年12月23日付けで取消理由通知を受けたことから、その意見書提出期限内である令和4年3月7日、本件特許の特許請求の範囲(請求項1)を下記2(1)のとおりに訂正(本件訂正)する旨の訂正請求をした。

(4) 特許庁は、令和5年1月24日、本件訂正を認めた上で、「特許第6731604号の請求項1に係る特許を取り消す。」との本件決定をし、その謄本は同年2月3日原告に送達された。

(5) 原告は、令和5年3月3日、本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 本件発明について

(1) 本件特許の特許請求の範囲の記載(本件訂正後のもの)は、以下のとおりである。なお、下線部が本件訂正によって加えられた部分である。【請求項1】胴体の左右に、複数個の上昇下降用プロペラを機体の前方後方に配置すると共に、前方のプロペラの中心位置と後方のプロペラの中心位置が平面上重ならないように配置し、水平飛行時に揚力を得る複数の翼を機体の前方後方に設け、前記胴体と前記水平飛行揚力翼が、前記上昇下降用プロペラの後流を邪魔しないように上昇下降用プロペラを配置し、上昇用下降用プロペラを前記水平飛行揚力翼で支える構造とした事、を特徴とする航空機であって、少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間に配置し回転軌跡が前記前方又は後方の複数の翼に内接させることで、前記前方及び後方の複数の翼を前記上昇下降用プロペラの回転をガードするプロペラガードとして兼用した、航空機。

(2) 本件特許の明細書(甲5)には、以下の記載がある。なお、下記イで引用されている願書添付図面(図7~9)は、別紙2「本件特許図面」のとおりである。

5 ア 技術分野本発明は垂直離着陸ができ且つ高速に水平飛行できる新型ドローン等航空機に関する。(【0001】)イ 発明を実施するための形態図7は本発明第4の実施例でプロペラガード13を設けないで、2つの主翼36、37をプロペラガードを兼用した発明で、前翼36と後翼37を同じ大きさの串型にした串型航空機である。即ち、両翼の間に上昇下降するプロペラ6とモータ7を設け、主翼36、37がプロペラ6の回転をガードする発明である。38は翼外に設けた上昇下降プロペラモータ7の支持桁である。勿論、プロペラの数は増減しても本発明に含まれるものである。(【0012】)図8は本発明第5の実施例で、上下用プロペラ4つの回転軌跡39を全部内接させ、プロペラガードを設けずに4枚の主翼24と先尾翼28と尾翼29をプロペラガードに兼用させたものである。40は4つのプロペラモータ7を結合する桁である。(【0013】)図9は本発明の第6の実施例であって、4角型フレーム41にプロペラモータ7、主翼42を取り付けたもので、図8と同様であるが、主翼4枚をソーラーパネル42にした実施例であり、太陽エネルギで永久に飛ぶ事もでき、地上にマイクロ波でエネルギを送れる。(【0014】)ウ なお、発明が解決しようとする課題(【0004】)及び発明の効果(【0006】)の各欄には、本件で問題となっている「上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用する」との構成に関する説明はない。3 引用文献、引用発明についていずれも本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用文献1~4には、以下の発明、技術事項が記載されている。

5 (1) 引用文献1(甲1)には、胴体の左右それぞれに、本件発明の「上昇下降用プロペラ」に相当する「リフトロータ26」を前翼と後翼の間に配置した航空機に関する引用発明1が記載されており、その具体的な構成は別紙3「引用文献1(図1)」のとおりである。

(2) 引用文献2(甲2)には、胴体の左右それぞれに、本件発明の「上昇下降用プロペラ」に相当する「電動マルチモーター動力系統5」を主翼と尾翼の間に配置した航空機に関する引用発明2が記載されており、その具体的な構成は別紙4「引用文献2(図13)」のとおりである。

(3) 引用文献3(甲3)には、胴体の少なくとも右側に、本件発明の「上昇下降用プロペラ」に相当する「左右のロータ32のブレード5」を前翼と後翼の間に配置した航空機に関する技術事項が記載されており、その具体的な構成は別紙5「引用文献3(図2、3)」のとおりである。

(4) 引用文献4(甲4)には、「前方ウィングが含むフラップ127」と「下方後方ウィングが含むフラップ123」の間に、本件発明の「上昇下降用プロペラ」に相当する「上昇プロペラ102」を配置した航空機に関する技術事項が記載されており、その具体的な構成は別紙6「引用文献4(図1)」のとおりである。4 本件決定の理由の要旨

(1) 本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの(特許法120条の5第2項ただし書1号)に該当するものであり、そのとおり訂正することを認める。

(2) 引用発明1を主引用例発明とする新規性、進歩性の欠如本件発明と引用発明1との相違点は実質的な相違点とはいえず、そうでないとしても、本件発明は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(詳細は別紙7「本件決定の理由①」を参照)。

(3) 引用発明2を主引用発明とする進歩性の欠如

5 本件発明は、引用発明2及び引用文献3、4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(詳細は別紙8「本件決定の理由②」を参照)。5 本件決定の取消事由

(1) 引用発明2を主引用発明とする進歩性の判断の誤りア 相違点の認定誤りイ 引用文献3記載の技術事項の認定誤りウ 引用文献4記載の技術事項の認定誤りエ 動機付けの欠如

(2) 引用発明1を主引用発明とする新規性及び進歩性の判断の誤り

第3 当事者の主張

1 取消事由1(引用発明2を主引用発明とする進歩性の判断の誤り)について

【

(原告の主張)

】

(1) 相違点の認定誤り

本件発明は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用するとの構成を備えるものであるところ、本件決定は、本件発明と引用発明2との相違点の認定(別紙8「本件決定の理由②」2(2))中で、この構成は、「実質的には、少なくとも一部の上昇下降用プロペラと前方又は後方の複数の翼とが、ほぼ同一平面上に位置していることである」とすり替えて認定し、その結果、「プロペラガードとして兼用する」ことが相違点から抜け落ち、引用発明2のロータ(プロペラ)と主翼及び尾翼とが「ほぼ同一平面上に位置しているのか否かが不明な点」を相違点とする誤った認定をしている。

(2) 引用文献3記載の技術事項の認定誤り

ア 本件決定は、引用文献3には、前翼及び後翼がブレード(プロペラ)の回転をガードするブレードガードとして兼用する技術事項が記載されて

5 いる旨認定するが(別紙8「本件決定の理由②」3(1))、引用文献3に

は、「ロータの回転をガードするブレードガード」なる文言はなく、ロータの部分的な保護(protection)について記載されているにすぎない。これは本件発明の「プロペラガードとして兼用」とは全く異なる技術思想である。すなわち、本件発明にいう「内接」とは、願書添付図面(図7~9)から明らかなとおり、プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないことを意味する。ところが、引用文献3の図2及び図3(別紙5)のプロペラ32の回転軌跡は、複数の翼の端を結ぶ線からはみ出している。これは、「単に翼で一部を保護している技術の開示」とすべきものであって、引用文献3に翼をプロペラガードとする技術事項が記載されているとはいえない。イ 引用文献3には、“and wing 3 at a higher elevation than wing 2”(3欄55行目、「翼3は翼2より高い位置にある」)と記載され、図1Bにも主翼2と尾翼3の高さレベルが異なることが示されており、このような段違いの翼では、プロペラをガードすることはできない。

(3) 引用文献4記載の技術事項の認定誤り

ア 引用文献4には、プロペラガードという言葉はなく、翼をプロペラガードとすることについての記載はない。イ 本件決定は、引用文献4記載の技術事項として、フラップ127とフラップ123が「複数の翼」に相当するとしているが、本件発明の「翼」は水平飛行時に揚力を得るためのものであるのに対し、フラップは上下に傾斜させて上昇下降するものであるから、機能が全く異なる。本件決定はこの点を誤解するものである。

(4) 動機付けの欠如

単に「航空機」の技術分野に属するというのみでは、引用発明2と引用文

5 献3及び引用文献4記載の技術事項を組み合わせる動機付けがあるとはいえ

ない。【

(被告の主張)

】本件決定の認定判断に誤りはなく、原告が主張する取消事由1には理由がない。

2 取消事由2(引用発明1を主引用発明とする新規性及び進歩性の判断の誤り)

について【

(原告の主張)

】

(1) 相違点についての判断の誤り

本件決定は、本件発明と引用発明1との相違点に関し、引用発明1のプロペラの回転軌跡は左右の翼の近くにあるから複数の翼に内接するものであると判断しているが(別紙7「本件決定の理由①」3)、全くの誤解である。これを前提に、本件発明と引用発明1との相違点は実質的な相違点とはいえないとした判断、相違点だとしても容易に発明をすることができたとした判断は、いずれも誤りである。なお、本件決定は、この「内接」に関する理解は、審尋に対する原告の令和4年8月18日付け回答書の内容とも合致しているとするが、原告は、常識的にプロペラが回転できる程度にプロペラと翼が近いことの説明をしたにすぎない。

(2) その他の点は、上記1(2)~(4)において述べたところと同様である。

【

(被告の主張)

】本件決定の認定判断に誤りはなく、原告が主張する取消事由2には理由がない。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明の「内接」及び「プロペラガードとして兼用」の意義について

(1) 本件発明は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させるこ

5 とでプロペラガードとして兼用するとの構成を備えるものであるところ、個別の取消事由の検討に入る前に、ここでいう「内接」及び「プロペラガードとして兼用」の意義を明らかにしておく。

(2) 「内接」とは、国語辞典に「多角形の各辺がその内部にある一つの円に接する時、その円は多角形に内接する…」との用例が挙げられているとおり(甲11)、図形の各辺とその内部の円などが接していることを表す用語である。本件明細書の【0013】には、「図8は本発明第5の実施例で、上下用プロペラ4つの回転軌跡39を全部内接させ、プロペラガードを設けずに4枚の主翼24と先尾翼28と尾翼29をプロペラガードに兼用させたものである」との説明が記載され、図8には、上昇下降用の4つのプロペラが示され、うち翼の間に配置された左右2つのプロペラの回転軌跡がそれぞれ前後の主翼24と接するように示されている。同様に、図7、9においても、翼の間に配置された上昇下降用の複数のプロペラの回転軌跡が前後の翼に接するように示されており、これに本件明細書の【0012】~【0014】(前記第2の2(2)イ)の記載を総合すれば、図7~9に係る第4~6実施例は、上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用するとの構成を示すものと解される。もっとも、プロペラの回転軌跡と翼が文字通り接する(接触する)場合、プロペラの回転が妨げられることが明らかであるから、本件発明の「内接」とは、プロペラの回転軌跡が翼と接触するには至らない限度で十分に近接していることを意味するものと解される。

(3) そして、本件発明の「プロペラガードとして兼用」とは、特許請求の範囲の記載に示されているとおり、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロペラの回転をガードする機能をいうものであり、この機能は、複数の翼の間

5 に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡を前方又は後方の複数の翼に内接させることによって生じるものであると認められる。また、本件発明の上記第4~6実施例(図7~9)では、複数の翼の間に配置された上昇下降用プロペラの回転軌跡の一部のみが翼に内接する構成が示されていることから、上昇下降用プロペラの回転軌跡の少なくとも一部が翼に内接していれば、翼がプロペラガードとして機能するものと解される。

(4) 原告は、「内接」とは「プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないことを意味する」とも主張するが(上記第3の1(2)ア)、図7~9の実施例がそのような構成を有するものだとしても、特許請求の範囲に当該構成を加える訂正(減縮)をしたわけでもないのに、「内接」という文言自体をそのような限定的な意味で解釈することは許されないというべきである。

2 取消事由1(引用発明2を主引用発明とする進歩性の判断の誤り)について(1) 相違点の認定誤りについて原告は、本件決定の本件発明と引用発明2との相違点の認定に関し、本件発明の「上昇下降用プロペラの回転軌跡を複数の翼に内接させることでプロペラガードとして兼用する」との構成を「実質的には、少なくとも一部の上昇下降用プロペラと前方又は後方の複数の翼とが、ほぼ同一平面上に位置していることである」とすり替えて認定したため、「プロペラガードとして兼用する」ことが相違点から抜け落ち、引用発明2のロータと主翼及び尾翼とが「ほぼ同一平面上に位置しているのか否かが不明な点」を相違点と誤って認定した旨主張する。しかし、引用文献2(甲2)の図13(別紙4参照)には、主翼2と尾翼3の間にロータ(本件発明の上昇下降用プロペラに相当)が配置され、少なくとも上面視(平面方向)においては、ロータの回転軌跡が主翼2及び尾翼3のそれぞれに十分に近接した構成が示されている。したがって、高さ方向

5 においても、ロータと主翼2及び尾翼3とがほぼ同一平面上に位置していれば、プロペラの回転軌跡が複数の翼に「内接」することになり、ひいて「プロペラガードとして兼用」の要件も満たすことになると認められる。したがって、本件発明の「回転軌跡が前記前方又は後方の複数の翼に内接させることで、前記前方及び後方の複数の翼を前記上昇下降用プロペラの回転をガードするプロペラガードとして兼用した」という構成に関する引用発明2との異同を検討するに当たり、引用発明2のロータと主翼及び尾翼とが上面視において近接していることを前提にすると、上記構成は、「実質的には、少なくとも一部の上昇下降用プロペラと前方又は後方の複数の翼とが、ほぼ同一平面上に位置していること」であるとした上で、これが不明であることを本件発明と引用発明2の相違点とした本件決定の認定に誤りはない。(2) 引用文献3記載の技術事項の認定誤りについてア 原告は、引用文献3には、ロータの部分的な保護について記載があるにすぎず、これは本件発明の「プロペラガード」の技術思想とは異なる旨主張する。イ しかし、この主張は、本件発明にいう「内接」とは「プロペラ軌跡が両翼に挟まれ、かつ両翼端部を結んだ線を出ないこと」を意味するとの解釈を前提とするものと解されるところ、「内接」の意義に関するこのような解釈を採用できないことは、上記1(4)のとおりである。そして、引用文献3の次の記載(本件決定12~14頁参照)、すなわち、①「本発明は、垂直離着陸機(VTOL)に関する。」(1欄19~20行目)、②「具体的に、図2(Fig.2)は、胴体中央 25 と、前方を掃引した前翼 26 と、後方を掃引した後翼 27 とを示している。平面視における形状において、胴体の中央部と、隣接する前翼 26 のトレイル部と、の形状が結合して、ロータ 32 の外周の一部を取り囲む環状部の一部分 28 を形成している。機体 1 の中央部分と、後翼 27 の前縁の根元部分と、が結合し

5 て、ロータの外周の一部を取り囲む環状部の別部分 29 を形成している。組み合わせると、部分 28 と部分 29 は、ロータの外周の 180 度を覆う表面縁形状となり、ロータの先端の破損に対する保護(protection)を提供する。」(5欄16~27行目)、③「図3(Fig.3)は、図2の変形例であり、27 の外側部において前方に湾曲 31 を備えている。これは、略 120~180 度にかけてロータ 32 の先端損失を保護する総面積を増加させる。」(5欄31~34行目)によれば、引用文献3には、前翼 26 及び後翼 27の間にロータ 32 が配置され、ロータ 32 の回転軌跡が前翼 26 及び後翼 27に内接する構成が開示され、このような構成により、ロータ 32 の外周の一部を取り囲む環状部が形成され、ロータ 32 の先端の破損が保護されることが明記されているものと認められ、そうすると、前翼 26 及び後翼 27がロータ 32 の回転をガードする機能を有していることは明らかである。原告の上記主張は、その前提とする「内接」の意義に関する解釈、引用文献3の記載事項の認定のいずれの観点においても、採用できない。ウ 次に、原告は、引用文献3の「翼3は翼2より高い位置にある」との記載から、このような段違いの翼ではプロペラをガードすることはできない旨主張する。しかし、引用文献3(甲3)の航空機の側面視を示す図1Bにおいて、ブレード5(プロペラ)と主翼2及び尾翼3のそれぞれとの高さレベルの差が、ブレード5をガードする機能が生じないほど大きなものとは認められない。加えて、原告の上記主張は、引用文献3において、前翼及び後翼の間に配置されたロータの先端破損が前翼、後翼及び胴体の一部によって保護されることが明記されていること(上記イ参照)を無視するものであって、採用できない。エ 以上のとおりであり、本件決定が、引用文献3には前翼及び後翼がブレード(プロペラ)の回転をガードするブレードガードとして兼用する技術

5 事項が記載されているとした認定に誤りはない。(3) 引用文献4に関する認定誤りについてア 原告は、引用文献4には、翼をプロペラガードとすることについての記載はなく、同文献に記載された技術事項の「フラップ127」及び「フラップ123」は本件発明の「翼」に当たらない旨主張する。イ しかし、引用文献4(甲4)には、①前方ウィング120がフラップ127を含み、フラップ127が外部の対象による上昇プロペラ102へのアクセスをさらに防止するための保護シュラウドとしても使用されること、②下方後方ウィング124がフラップ123を含み、フラップ123が外部の対象による上昇プロペラ102へのアクセスをさらに防止するための保護シュラウドとしても使用されることが記載されている(【0014】、【0016】)。上記記載からは、フラップはウィング(翼)の構成要素であり、これが上昇プロペラへのアクセスを防止する保護シュラウドの役割を兼ねること、すなわちプロペラガードとしての役割を果たしていることの記載があるといえる。ウ したがって、引用文献4には、前方及び後方の複数の翼を上昇下降用プロペラの回転をガードするプロペラガードとして兼用する技術事項が記載されているとした本件決定の認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。(4) 動機付けの欠如についてア 原告は、単に「航空機」の技術分野に属するというのみでは、引用発明2と引用文献3、4記載の技術事項を組み合わせる動機付けがあるとはいえない旨主張する。イ しかし、引用発明2と引用文献3、4に記載された技術事項とは、上昇下降用プロペラを備え、これが複数の翼の間に配置される航空機という点

5 において共通しており、単に航空機に関する技術分野という点のみが共通するのではない。そして、引用文献3、4の上記記載内容からみて、上昇下降用プロペラを備える航空機において、プロペラを保護することは一般的な課題であるといえるから、引用発明2に引用文献3、4に記載された技術事項を適用する動機付けは十分にあるといえる。

(5) 小括以上のとおり、本件発明と引用発明2の相違点の認定、引用文献3、4記載の技術事項の認定及びこれを本件発明2に組み合わせる動機付けに関し、本件決定に原告主張の誤りはなく、取消事由1は理由がない。そうすると、本件発明は、当業者が引用発明2に引用文献3、4記載の技術事項を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものと認められるから、本件特許は、特許法29条2項に違反してされたものとして、取消しを免れない。

3 結論以上によれば、取消事由2について判断するまでもなく、本件決定にこれを取り消すべき違法はないこととなる。よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

宮 坂 昌 利

裁判官

本 吉 弘 行

裁判官

頼 晋 一

別紙1 略語一覧

(略語) (意味)・本件特許:原告を特許権者とする特許第6731604号

5 ・本件訂正:原告の令和4年3月7日付け訂正請求に係る本件特許の特許請求の範囲の訂正・本件発明:本件特許に係る発明(本件訂正後のもの)・本件明細書:本件特許に係る明細書・引用文献1:米国特許第6293491号明細書(甲1)・引用文献2:特表2014-528382号公報(甲2)・引用文献3:米国特許第8690096号明細書(甲3)・引用文献4:特表2018-505818号公報(甲4)・引用発明1:引用文献1記載の発明(別紙7「本件決定の理由①」1参照)・引用発明2:引用文献2に記載の発明(別紙8「本件決定の理由②」1参照)

別紙2 本件特許図面

別紙3 引用文献1(図1)

【図1】

別紙4 引用文献2(図13)

別紙5 引用文献3(図2)(図3)

【図2】 【図3】

別紙6 引用文献4(図1)

【図1】

別紙7 本件決定の理由①

1 引用発明1の認定引用文献1には、以下の発明が記載されている。5 「 胴体 16 の左右それぞれに、垂直に離着陸できるようにするために航空機 10 が備える16個のリフトロータ 26a-26p のうちの8個を航空機 10 の前方後方に配置すると共に、各リフトロータ 26a-26p は上面視で互いに重ならないように配置され、胴体 16 のノーズ近くに配置される前翼 12 と胴体 16 の尾部の近くに配置される後翼 14 は、前後に並べての胴体 16 上に配置され、前翼 12、後翼 14 及び胴体 16 が、16個のリフトロータ 26a-26p の後流を邪魔しないように16個のリフトロータ 26a-26p を配置し、胴体 16 の右の2個のリフトロータ 26f 及びリフトロータ 26g を前翼 12 と後翼14 の間に延びている細長い縦ベアラ 28b で支持する構造とし、胴体 16 の左の2個のリフトロータ 26j 及びリフトロータ 26k を前翼 12 と後翼 14 の間に延びている細長い縦ベアラ 28c で支持する構造とした、航空機 10 であって、胴体 16 の右の2個のリフトロータ 26f 及びリフトロータ 26g を、航空機 10 の高さ方向において前翼 12 及び後翼 14 と同程度の高さ位置に配置し、胴体 16 の左の2個のリフトロータ 26j 及びリフトロータ 26k を、航空機 10 の高さ方向において前翼 12 及び後翼 14 と同程度の高さ位置に配置した、航空機 10。」2 本件発明と引用発明1の一致点と相違点の認定本件発明と引用発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。(1) 一致点胴体の左右に、複数個の上昇下降用プロペラを機体の前方後方に配置すると共に、前方のプロペラの中心位置と後方のプロペラの中心位置が平面上重ならないように配置し、水平飛行時に揚力を得る複数の翼を機体の前方後方に設け、前記胴体と前記水平飛行揚力翼が、前記上昇下降用プロペラの後流を邪魔しないように上昇下降用プロペラを配置し、上昇用下降用プロペラを前記水平飛行揚力翼で支持する構造とした、航空機であって、少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間に配置する、航空機。5 (2) 相違点上記一致点の「少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間に配置」することについて、本件発明では、少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間に配置し「回転軌跡が前記前方又は後方の複数の翼に内接させることで、前記前方及び後方の複数の翼を前記上昇下降用プロペラの回転をガードするプロペラガードとして兼用した」のに対して、引用発明1では、「胴体 16 の右の2個のリフトロータ 26f 及びリフトロータ 26g を、航空機 10 の高さ方向において前翼 12 及び後翼 14 と同程度の高さ位置に配置し、胴体 16 の左の2個のリフトロータ 26j 及びリフトロータ 26k を、航空機10 の高さ方向において前翼 12 及び後翼 14 と同程度の高さ位置に配置した」点。3 新規性の欠如引用文献1の図1及び図2をも参酌すると、相違点1に係る引用発明1のリフトロータ(26f、26g、26j、26k)は、それぞれほぼ同一面上で前翼 12 の左右の翼又は後翼 14 の左右の翼近くにあるといえるから、これらの「複数の翼に内接する」ものであり、この内接に係る構成を踏まえると、上記「複数の翼」は、当然に、リフトロータの「プロペラの回転をガードするプロペラガード」としても機能するものと認められる。したがって、上記相違点は、実質的な相違点とはいえないから、本件発明は引用発明1と同一の発明であり、特許法29条1項3号に該当する。4 進歩性の欠如仮に上記相違点が実質的な相違点であったとしても、リフトロータにガードを備えることは周知の課題であり、翼をこのガードに用いることも普通に行われることであるから(引用文献3、4に記載された技術事項も参照)、「リフトロータ 26f、26g」及び「リフトロータ 26j、26k」のプロペラの回転軌跡をそれぞれ、「前翼 12」の左右の翼(複数の翼)又は「後翼 14」の左右の翼(複数の翼)に5 内接させて、プロペラの回転をガードするプロペラガードを兼用することで、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。したがって、本件発明は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項に該当する。

別紙8 本件決定の理由②

1 本件発明2の認定引用文献2には、以下の発明が記載されている。5 「 機体1の左右それぞれに、垂直離着陸を制御する4つの電動マルチローター動力系統5のうちの2つを機体1の前方後方にそれぞれ配置すると共に、4つの電動マルチローター動力系統5が上面視で互いに重ならないように配置され、電動マルチローター動力系統5は、ローターを有し、主翼2と尾翼3を設け、主翼2、尾翼3及び機体1が、4つの電動マルチローター動力系統5の後流を邪魔しないように4つの電動マルチローター動力系統5を配置し、4つの電動マルチローター動力系統5は、サポートアーム6を通じて主翼2に接続された、航空機であって、機体1の右に配置された1つの電動マルチローター動力系統5は、主翼2と尾翼3の間に配置され、機体1の左に配置された1つの電動マルチローター動力系統5は、主翼2と尾翼3の間に配置された、航空機。」2 本件発明と引用発明2の一致点と相違点の認定本件発明と引用発明2の一致点及び相違点は、以下のとおりである。(1) 一致点胴体の左右に、複数個の上昇下降用プロペラを機体の前方後方に配置すると共に、前方のプロペラの中心位置と後方のプロペラの中心位置が平面上重ならないように配置し、水平飛行時に揚力を得る複数の翼を機体の前方後方に設け、前記胴体と前記水平飛行揚力翼が、前記上昇下降用プロペラの後流を邪魔しないように上昇下降用プロペラを配置し、上昇用下降用プロペラを前記水平飛行揚力翼で支持する構造とした、航空機であって、少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間に配置する、航空機。(2) 相違点上記一致点の「少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間に配置」することについて、本件発明では、少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間に配置し「回転軌跡が前記前方又は後方の複数の翼に内接させることで、前記前方及び後方の複数の翼を前記上昇下降用プロペラの回転をガードするプロペラガードとして兼用した」(実質的5 には、少なくとも一部の上昇下降用プロペラと前方又は後方の複数の翼とが、ほぼ同一平面上に位置していることである。)のに対して、引用発明2では、「主翼2と尾翼3の間に配置され」た「機体1の右に配置された1つの電動マルチローター動力系統5」及び「主翼2と尾翼3の間に配置され」た「機体1の左に配置された1つの電動マルチローター動力系統5」と、「主翼2と尾翼3」とが、ほぼ同一平面上に位置しているのか否か不明な点。3 進歩性の欠如(1) 引用文献3には、「左右のロータ 32 のブレード 5 を、右側の前翼 26 と右側の後翼 27 との間と、左側の前翼 26 と左側の後翼 27 との間に、それぞれ、これらがほぼ同一平面上に位置するように配置し、右側の前翼 26、右側の後翼 27、左側の前翼 26 及び左側の後翼 27 を、ロータ 32 のブレード 5 の回転軌跡が内接する、ロータ 32 のブレード 5 の回転をガードするブレードガードとして兼用した、垂直離着陸機。」との技術事項が記載されている。(2) 引用文献4には、「上昇プロペラ102を、前方ウィングが含む1つまたは複数のフラップ127と、下方後方ウィングが含む1つまたは複数のフラップ123との間に、これらがほぼ同一平面に位置するように配置し、フラップ127及びフラップ123を、上昇プロペラ102へのアクセスを防止するための保護シュラウドとしても使用する、UAV100。」との技術事項が記載されている。(3) 上記(1)、(2)の技術事項は、いずれも「少なくとも一部の前記上昇下降用プロペラを前記複数の翼の間にこれらがほぼ同一平面に位置するように配置することで、前記前方及び後方の複数の翼を前記上昇下降用プロペラの回転をガードするプロペラガードとして兼用した、航空機」に相当する。そして、引用発明2と上記技術事項とは、「上昇下降用プロペラ」を備えた「航空機」という同一の技術分野に属するものであり、「上昇下降用プロペラを複数の翼の間に配置」するというプロペラに係る配置構成も共通して5 いる。そうすると、引用発明2にもプロペラをガードするという課題は当然内在しているといえるから、引用文献3及び引用文献4に記載された技術事項に鑑みて、引用発明2の構成において、「主翼2と尾翼3の間に配置され」た「機体1の右に配置された1つの電動マルチローター動力系統5」及び「機体1の左に配置された1つの電動マルチローター動力系統5」と、「主翼2と尾翼3」とが、ほぼ同一平面上に位置するようにサポートアーム6を調整し、「主翼2と尾翼3」が、それらの「電動マルチローター動力系統5」が備えるロータ(プロペラ)の回転軌跡が内接するように、ロータ(プロペラ)ガードとして機能する位置に配置することで、「主翼2と尾翼3」を「電動マルチローター動力系統5」のロータ(プロペラ)の回転をガードするプロペラガードとして兼用し、相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる。したがって、本件発明は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項に該当する。

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