令和5(行ケ)10009審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和5年11月9日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告デュプロ精工株式会社 被告特許庁長官
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対象物 |
古紙処理装置 |
法令 |
特許権
特許法29条2項2回 特許法17条の21回
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キーワード |
審決24回 実施7回 進歩性2回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴
訟である。争点は、手続補正後の請求項1に係る特許発明の進歩性の有無である。25 |
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判決文
令和5年11月9日判決言渡
令和5年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年9月5日
判 決
原 告 デュプロ精工株式会社
同訴訟代理人弁理士 東 山 香 織
10 被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 藤 井 眞 吾
藤 原 直 欣
中 野 裕 之
井 上 千 弥 子
15 森 山 啓
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
特許庁が不服2021-10750号事件について令和4年12月6日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴
25 訟である。争点は、手続補正後の請求項1に係る特許発明の進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯等
原告は、平成28年12月6日、名称を「古紙処理装置」とする発明について特
許出願(特願2016-237137号。以下「本件出願」という。)をし(争い
がない。)、令和2年12月15日、手続補正書を提出したが(甲6)、令和3年
4月28日付けで拒絶査定を受けた(争いがない。)。そこで、原告は、同年8月
5 11日、同拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2021-10750号)をす
るとともに(争いがない。)、手続補正書を提出した(甲4。以下、この手続補正
書による手続補正を「本件補正」といい、本件出願に係る本件補正後の明細書及び
図面(甲3、4、6)を「本願明細書」という。)。
特許庁は、令和4年12月6日、本件補正を却下した上、「本件審判の請求は、
10 成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし(弁論の全趣旨)、
その謄本は、令和5年1月5日、原告に送達された(争いがない。)。
原告は、令和5年2月6日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した(当
裁判所に顕著な事実)。
2 本件出願に係る本件補正前の発明の要旨(甲6)
15 本件出願に係る本件補正前の特許請求の範囲(請求項の数は7)のうち請求項1
の記載(令和2年12月15日にされた手続補正後のもの)は、次のとおりである
(以下、同請求項1に係る当該手続補正後であり本件補正前の発明を「本願発明」
という。)。
【請求項1】
20 古紙を収容する古紙収容部と、古紙収容部に収容された古紙の分量を計測する計測
部と、古紙収容部に収容された古紙を再生処理する再生処理部と、各部の動作を制
御する制御部とを備え、
制御部は、稼働開始から稼働停止までの工程を逐次実行する自動制御機能部と、
自動制御機能部による稼働停止時刻を、前記計測部の計測値に基づいて算定する停
25 止時刻算定機能部と、
前記停止時刻算定機能部において計測部の計測値に基づいて算定された稼働停止時
刻を通知する停止時刻通知機能部とを備えた古紙処理装置。
3 本件出願に係る本件補正後の発明の要旨(甲4)
本件出願に係る本件補正後の特許請求の範囲(請求項の数は6)のうち請求項1
の記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である。以下、同請求項1に係
5 る本件補正後の発明を「本件補正発明」という。)。
【請求項1】
古紙を収容する古紙収容部と、古紙収容部に収容された古紙の分量を計測する計測
部と、古紙収容部に収容された古紙を再生処理する再生処理部と、各部の動作を制
御する制御部とを備え、
10 制御部は、稼働開始から稼働停止までの工程を逐次実行する自動制御機能部と、
自動制御機能部による稼働停止時刻を、前記計測部の計測値に基づいて算定する停
止時刻算定機能部と、
前記停止時刻算定機能部において計測部の計測値に基づいて算定された稼働停止時
刻を通知する停止時刻通知機能部と、
15 稼働開始時刻を設定する開始時刻設定機能部と、
開始時刻設定機能部で設定された時刻に稼働開始し、古紙収容部に収容された古紙
を再生処理し、その後稼働停止する場合における稼働停止時刻を算定する停止時刻
算定予約機能部とを備えた古紙処理装置。
4 本件審決の理由の要旨
20 (1) 本件補正について
ア 甲1(特開2011-122253号公報)に記載された発明の認定
甲1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
(引用発明)
古紙を再生原料として貯留する原料貯留部と、再生原料を離解して再生パルプを調
25 製する再生パルプ部と、再生パルプを抄紙して再生紙を調製する抄紙部と、各部の
運転を制御する制御部と、原料貯留部に貯留する原料の分量を測定する分量測定セ
ンサを備え、制御部は、運転開始から運転停止までの運転プロセスを逐次実行する
自動運転制御機能部と、分量測定センサで測定した原料の分量を再生するのに必要
な再生予想時間を算定する再生予想時間算定機能部と、運転開始予定時刻と運転終
了予定時刻の少なくとも何れか一方の予定時刻を任意に設定する機能および運転時
5 間を任意に設定する機能の少なくとも一つを有する時間設定機能部と、時間設定機
能部で設定した運転時間が再生予想時間を超えるときには、再生予想時間を表示す
る表示部と、制御部の内部に配設する内部時計が予定時刻に達したときに運転開始
と運転停止の少なくとも何れか一方のタイミングを自動運転制御機能部へ指示信号
として入力するタイミング入力部を有する古紙処理装置。
10 イ 甲2(特開2016-175283号公報(平成28年10月6日公開))
に記載された事項の認定
甲2には、次の各事項(以下、順に「甲2記載事項1」及び「甲2記載事項2」
という。)が記載されている。
(甲2記載事項1)
15 現在時刻にシートの製造に要する時間を加算した製造完了時刻を表示する技術。
(甲2記載事項2)
入力された製造開始時刻に供給部に積載された原料からシートを製造するのに要
する時間を加算した製造完了時刻を表示する技術。
ウ 本件補正発明と引用発明との対比
20 本件補正発明と引用発明は、次の一致点において一致し、相違点1から3までに
おいて相違する。
(一致点)
古紙を収容する古紙収容部と、古紙収容部に収容された古紙の分量を計測する計測
部と、古紙収容部に収容された古紙を再生処理する再生処理部と、各部の動作を制
25 御する制御部とを備え、制御部は、稼働開始から稼働停止までの工程を逐次実行す
る自動制御機能部と、
計測部の計測値に基づいて算定された時間に関する情報を通知する通知機能部と、
稼働開始時刻を設定する開始時刻設定機能部とを備えた古紙処理装置。
(相違点1)
本件補正発明は、「自動制御機能部による稼働停止時刻を、前記計測部の計測値
5 に基づいて算定する停止時刻算定機能部」を備えるのに対して、引用発明は、「分
量測定センサで測定した原料の分量を再生するのに必要な再生予想時間を算定する
再生予想時間算定機能部」を備える点。
(相違点2)
「計測部の計測値に基づいて算定された時間に関する情報を通知する通知機能部」
10 に関して、本件補正発明は、「前記停止時刻算定機能部において計測部の計測値に
基づいて算定された稼働停止時刻を通知する停止時刻通知機能部」を備えるのに対
して、引用発明は、「時間設定機能部で設定した運転時間が再生予想時間を超える
ときには、再生予想時間を表示する表示部」を備える点。
(相違点3)
15 本件補正発明は、「開始時刻設定機能部で設定された時刻に稼働開始し、古紙収
容部に収容された古紙を再生処理し、その後稼働停止する場合における稼働停止時
刻を算定する停止時刻算定予約機能部」を備えるのに対して、引用発明は、停止時
刻算定予約機能部を備えない点。
エ 判断
20 (ア) 相違点1及び2について
a 引用発明において設定される「運転開始予定時刻」に算定された「再生予想
時間」を合わせた時間に関する情報が「再生運転終了時刻」をも含む情報であるこ
とは明らかであるから、引用発明において「再生運転終了時刻」を算定するように
構成することは、時間に関する情報の単なる選択であって、当業者が適宜なし得た
25 設計事項であるといえる。
さらに、引用発明は、再生予想時間を表示する表示部を備えるものであるところ、
上記設計事項とする時刻の表示へと変更することも、当業者が適宜なし得た設計事
項であるといえる。
したがって、引用発明に基づき、相違点1及び2に係る本件補正発明の構成とす
ることは、当業者にとって容易になし得たことである。
5 b また、上記イのとおり、甲2記載事項1は、現在時刻にシートの製造に要す
る時間を加算した製造完了時刻を表示する技術であるところ、甲2記載事項1は、
本件補正発明の用語で表現すれば、稼働停止時刻を所定のシート量に基づいて算定
し、所定のシート量に基づいて算定された稼働停止時刻を通知する技術であるとい
える。
10 引用発明と甲2記載事項1は、いずれもシートを製造する装置に関するものであ
り、シートを製造する時間に関する情報を使用者に通知する機能において共通する
から、引用発明に甲2記載事項1を適用することで相違点1及び2に係る本件補正
発明の構成とすることは、当業者にとって容易になし得たことである。
(イ) 相違点3について
15 a 引用発明において設定される「運転開始予定時刻」に算定された「再生予想
時間」を合わせた時間に関する情報が「再生運転終了時刻」を含む情報(本件補正
発明における「稼働停止時刻」)であることは明らかであるから、引用発明におい
て「再生運転終了時刻」を算定することは、時間に関する情報の単なる選択であっ
て、当業者が適宜なし得た設計事項であるといえる。
20 b 甲2記載事項2は、本件補正発明の用語で表現すれば、開始時刻設定機能部
で設定された時刻に稼働開始し、古紙収容部に収容された古紙を再生処理し、その
後稼働停止する場合における稼働停止時刻を算定する技術であるといえる。
引用発明において運転開始予定時刻を設定した際に運転終了予定時刻を通知する
ことは、利便性向上のために通常行われることであるから、引用発明に甲2記載事
25 項2を適用することで相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者に
とって容易になし得たことである。
(ウ) そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作
用効果は、引用発明並びに甲2記載事項1及び2(以下「甲2各記載事項」とい
う。)が奏する作用効果から予測される範囲内のものであり、格別顕著なものとい
うことはできない。
5 (エ) したがって、本件補正発明は、引用発明及び甲2各記載事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項により、特
許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
オ 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7
10 項に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項
により却下すべきものである。
(2) 本願発明について
ア 判断
本願発明は、前記(1)において検討した本件補正発明から「制御部」が「稼働開
15 始時刻を設定する開始時刻設定機能部と、開始時刻設定機能部で設定された時刻に
稼働開始し、古紙収容部に収容された古紙を再生処理し、その後稼働停止する場合
における稼働停止時刻を算定する停止時刻算定予約機能部」を備えたことに係る限
定事項を省いたものである。
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する
20 本件補正発明は、前記(1)エのとおり、引用発明及び甲2各記載事項に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及
び甲2各記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項により特許を受けることができな
25 い。
第3 原告主張の審決取消事由(本件補正発明の進歩性についての判断の誤り)
1 引用発明の認定について
(1) 甲1に記載された発明の「時間設定機能部」において設定される「運転開
始予定時刻」について
甲1に記載された発明は、夜間にユーザが介在することなく、確実に自動運転及
5 び自動停止を実行することを課題とし、これを解決するものである(段落【001
2】)。
「夜間」とは、「日没から日の出までの間」を意味し、午後6時頃から午前8時
頃までの間は、オフィスが不在になることが多い時間帯であるから、甲1に記載さ
れた発明の「時間設定機能部」において設定される「運転開始予定時刻」について
10 は、季節にもよるが、これを午後6時頃から午前6時頃までと認定するのが相当で
あり、そのように限定して認定しなかった本件審決は誤りである。
(2) 甲1に記載された発明の「再生予想時間」について
甲1に記載された発明の分量測定センサ125は、1回のバッチ式離解処理に必
要な裁断紙片の量を検出するために設置されており、1回のバッチ式離解処理に必
15 要な裁断紙片の量は、重量に換算すると約1kgに相当する。
甲1に記載された発明のような古紙処理装置を構成するシュレッダータンクが原
告の発売に係る従来製品(平成21年に発売された小型製紙装置)と同程度の大き
さであり、同程度の処理能力を有することは、当業者に広く知られていた。当該従
来製品において、1kgの裁断紙片の再生処理を開始し、全ての裁断紙片を再生紙
20 として排出するまでに、約1時間を要することも(本願明細書の段落【0004】、
甲5)当業者に知られていた。
以上によれば、甲1に記載された発明の「再生予想時間」については、これを
「約1時間」と認定するのが相当であり、そのように限定して認定しなかった本件
審決は誤りである。
25 被告は、甲1に記載された発明の「分量測定センサ」が1回のバッチ式離解処理
に必要な裁断紙片の量を検出するものであるとの記載が甲1にないと主張するが、
オフィス等に設置して紙を再生することができる小型の古紙処理装置における古紙
の離解処理がバッチ式により行われることは、本件出願時の技術常識であり、当業
者にとって明らかな事項である(甲1の段落【0001】、【図2】)。
2 各相違点に係る容易想到性の判断について
5 (1) 引用発明の「運転開始予定時刻」に「再生予想時間」を合わせても本件補
正発明の「稼働停止時刻」の構成が得られないことについて
引用発明における自動運転の開始からその停止までの制御は、甲1の【図7】に
示されたフローシートに沿って行われる(甲1の段落【0058】)。そのうち稼
動準備作業920は、少なくとも20分を要する工程である。また、上記フローシ
10 ートによると、再生紙作製930及び停止準備作業950の各工程も実施されなけ
ればならない。
したがって、稼動準備作業920等に要する時間を考慮せず、引用発明の「運転
開始予定時刻」に単に「再生予想時間」を合わせるだけでは「再生運転終了時刻」
は得られないし、また、引用発明において「再生運転終了時刻」を算定するように
15 構成することが時間に関する情報の単なる選択にすぎず、当業者が適宜なし得た設
計事項であるということもできない。稼動準備作業920に要する時間を一切考慮
していない本件審決の判断は誤りである。
被告は、稼動準備作業920、再生紙作製930及び停止準備作業950の各工
程がいずれも引用発明における自動運転の開始から停止までに含まれると主張する
20 が、甲1の記載(【請求項11】、段落【0026】、【0031】)によると、
そのようにいうことはできない。
(2) 引用発明に甲2各記載事項を適用することができないことについて
ア 甲2各記載事項の各「時間」は、ユーザによって入力された種別及び枚数の
シートを製造するのに要する時間であるところ(段落【0084】、【図3】)、
25 この「時間」は、原料の量とは関係のないものであるから、甲2各記載事項の各
「時間」を算定する基準は、引用発明の「再生予想時間」を算定する基準(原料の
量)と異なる。また、甲2各記載事項における表示内容(現在時刻等にシートの製
造に要する時間を加算した時刻を製造完了時刻のデフォルト値(最も早い製造完了
時刻)として表示するもの)は、引用発明における表示内容(原料の量を基準に算
定した再生予想時間がユーザの設定した運転時間を超えるときに当該再生予想時間
5 を表示するもの(原料の処理に要する時間を表示するもの))と異なる。
以上によると、引用発明に甲2各記載事項を適用することはできないし、また、
引用発明の「運転開始予定時刻」に甲2各記載事項の各「時間」を加えたとしても、
そのようにして得られた時刻は、本件補正発明の「稼働停止時刻」とは概念を異に
するものであり、本件補正発明の「稼働停止時刻」に相当しない。
10 したがって、引用発明に甲2各記載事項を適用して当業者が各相違点に係る本件
補正発明の構成に容易に想到し得たものとした本件審決の判断は誤りである。
イ 被告は、引用発明に甲2各記載事項を適用する動機付けが存在すると主張す
る。
しかしながら、引用発明が古紙を離解させた再生パルプを抄紙して紙を製造する
15 技術であるのに対し(甲1の段落【0001】)、甲2各記載事項は、古紙を解繊
し、添加剤を添加し、加熱し、シートを製造する技術であるから(甲2の段落【0
042】、【0053】、【0067】)、両者は、古紙の処理方法において、そ
の属する技術分野を異にする。
また、引用発明が「夜間等の任意の時間にユーザの操作を必要とせずに、自動運
20 転により稼動させ、自動停止させることができ、さらには状況に応じたメンテナン
ス動作を自動的に選択し実行させることができる古紙処理装置を提供すること」を
課題とするのに対し(甲1の段落【0015】)、甲2各記載事項は、「「ユーザ
ーは必要な枚数の再生紙ができるまでの製造終了時間を事前に知ることができず、
利便性に欠けていた」との従来の紙再生装置の問題点を解決すること」を課題とす
25 るものであるから(甲2の段落【0004】)、両者は、解決すべき課題を異にす
る。
さらに、引用発明の作用が「分量測定センサ125で測定した原料の分量を再生
するのに必要な再生予想時間を算定し、時間設定機能部で設定した運転時間が再生
予想時間を超えるときには(再生予想時間算定機能部730により)警告手段に警
告を発する」というものであるのに対し(甲1の段落【0048】)、甲2各記載
5 事項の作用は、画面から入力された製造開始時刻に、入力された種別及び枚数のシ
ートを製造するために要する時間を加算し、得られる製造完了時刻を表示するとい
うものであり(甲2の段落【0088】)、両者は、その作用及び機能を異にする。
加えて、甲1に甲2各記載事項に関する示唆がないことも併せ考慮すると、引用
発明に甲2各記載事項を適用する動機付けはない。その他、引用発明において運転
10 終了予定時刻を通知することが利便性の向上のために通常行われるものということ
はできない。
3 本件補正発明が奏する効果に係る判断について
本件補正発明は、古紙処理装置の稼働が開始された後、投入された全ての古紙の
再生処理が終了し、古紙処理装置の稼働を停止することができる時刻を予想するの
15 が困難な状況において、勤務時間やその日の予定に応じた所定の時刻に古紙処理装
置の稼働を終了しておきたいと考えるユーザにとって、当該所定の時刻に古紙処理
装置の稼働が終了するのか否かが分かりづらいという従来の課題を解決するもので
あり(本願明細書の段落【0005】、【0006】)、停止時刻通知機能部を備
えることにより、再生される古紙の分量の多寡及び製造される再生紙の種別(厚さ、
20 坪量、サイズ等)にかかわらず、ユーザにおいて、装置がいつ停止するのかを非常
に容易に把握することができ、利便性が高いものである。また、本件補正発明は、
停止時刻算定予約機能部を備えることにより、開始時刻設定機能部において設定さ
れた時刻に稼働を開始し、古紙収容部に収容された古紙を再生処理し、その後、稼
働を停止する場合の時刻(稼働停止時刻)を算定するものであり、古紙処理装置を
25 適切に稼働させた上、古紙を再生処理し、稼働を停止するために必要な作業を実施
することができる。
このように、本件補正発明が奏する効果は、甲1及び2に記載も示唆もされず、
引用発明及び甲2各記載事項が奏する効果とは異質のものであり、引用発明及び甲
2各記載事項から予測される範囲を超える顕著なものである。したがって、これに
反する本件審決の判断は誤りである。
5 第4 被告の主張
1 引用発明の認定について
(1) 甲1に記載された発明の「時間設定機能部」において設定される「運転開
始予定時刻」について
甲1の記載(段落【0015】)によると、甲1に記載された発明は、任意の時
10 間帯に自動運転により装置を稼動させ、これを停止させることができるものである
から、同発明の認定に当たり、本件審決に原告が主張するような誤りはない。
なお、本件補正後の請求項1に「稼働開始時刻」を限定する文言はないから、甲
1に記載された発明の「時間設定機能部」において設定される「運転開始予定時刻」
につき原告が主張するような認定をしたとしても、この点において、本件補正発明
15 と甲1に記載された発明とが相違することにはならない。
(2) 甲1に記載された発明の「再生予想時間」について
甲1には、甲1に記載された発明の「分量測定センサ」が1回のバッチ式離解処
理に必要な裁断紙片の量を検出するものであるとの記載はないから、引用発明の認
定に当たり、本件審決に原告が主張するような誤りはない。
20 2 各相違点に係る容易想到性の判断について
(1) 引用発明の「運転開始予定時刻」に「再生予想時間」を合わせても本件補
正発明の「稼働停止時刻」の構成が得られないとの主張について
原告が主張する稼動準備作業920、再生紙作製930及び停止準備作業950
の各工程は、いずれも自動運転の開始から停止までに含まれるものであるから、引
25 用発明の「再生予想時間」は、原告が主張するこれらの各工程に要する時間を含む
ものである。
したがって、引用発明の「運転開始予定時刻」に「再生予想時間」を合わせるこ
とにより「再生運転終了時刻」(本件補正発明の「稼働停止時刻」に相当するもの)
が得られることは明らかである。
(2) 引用発明に甲2各記載事項を適用することができないとの主張について
5 引用発明及び甲2各記載事項は、①いずれもシートの製造に係る同一の技術分野
に属するものであること、②シートの製造に要する時間の算定及び表示という技術
的事項を備える点で共通することを踏まえると、引用発明に甲2各記載事項を適用
する動機付けが存在する。原告が主張する時間の算定の基準に係る両者の相違(再
生する原料を基準にするか製造するシートを基準にするか)は、両者が上記②の点
10 で共通するとの点を覆すに足りるものではない。
3 本件補正発明が奏する効果に係る判断について
原告の主張は争う。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は、本件審決が認定した引用発明の内容に誤りはなく、本件補正発明の
15 引用発明との相違点は、引用発明に基づき、又はこれに甲2各記載事項を適用する
ことにより、いずれも容易想到性が認められる上、本件補正発明の効果は、引用発
明及び甲2各記載事項から予測される範囲のものであるから、原告の請求は理由が
ないと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 本件補正発明の概要
20 (1) 本願明細書の記載(甲3、4、6)
本願明細書には、次の記載がある(明らかな誤記を訂正した箇所がある。)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、古紙処理装置に関する。
25 【背景技術】
【0002】
古紙処理装置に関し、下記特許文献1には、古紙原料の分量を計測し、得られた分
量から調製可能な再生紙の枚数を算出し、前記枚数の範囲内で、予め設定した稼働
時間内に調製できる再生紙の枚数を算定する。そして、算定結果を操作パネル等に
表示する技術が開示されている。
5 【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5511341号公報
【発明の概要】
10 【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の装置では、例えば、A4サイズの古紙200枚を原料として離解
処理を行う撹拌槽へ供給する。離解処理はバッチ式で行い、順次再生紙へ調製する
処理を行っている。このような装置では、所定量の古紙原料を供給開始してから、
15 再生紙を製造するまでに要する時間が約1時間といった短い時間である。このため
古紙の供給を行わないことによって容易に稼働を短縮することができる。
【0005】
しかし、少量ずつバッチ式で離解処理を行う場合、異なるバッチで調製されたパル
プ液の間で得られる再生紙の色ムラや厚みの違いなどで、品質にばらつきが生じて
20 しまうことがある。そこで、離解処理を例えばA4サイズの古紙3kg~10kg
といった従来より多くの古紙を一度に離解処理することによって、得られる再生紙
の品質が安定する。
【0006】
このように、1回の離解処理量を従来より多くし、1日に製造可能な古紙をなるべ
25 く1回で離解処理する場合、装置の稼働開始した後投入した全ての古紙の再生処理
を終了し、稼働停止できる時刻を予想するのは困難となる。ユーザは、勤務時間内
や、その日の予定に応じた所定時刻に古紙処理装置の稼働を終了しておきたいと考
える場合でも、そのような決まった時刻に古紙処理装置の稼働を終了できるのかど
うかがわかり辛い。
【0007】
5 本発明は上記した課題を解決するものであり、稼働停止時刻を容易に把握すること
ができる古紙処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明にかかる古紙処理装置は、古紙を収容する古
10 紙収容部と、古紙収容部に収容された古紙の分量を計測する計測部と、古紙収容部
に収容された古紙を再生処理する再生処理部と、各部の動作を制御する制御部とを
備え、制御部は、稼働開始から稼働停止までの工程を逐次実行する自動制御機能部
と、自動制御機能部による稼働停止時刻を、前記計測部の計測値に基づいて算定す
る停止時刻算定機能部と、前記停止時刻算定機能部において計測部の計測値に基づ
15 いて算定された稼働停止時刻を通知する停止時刻通知機能部と、稼働開始時刻を設
定する開始時刻設定機能部と、開始時刻設定機能部で設定された時刻に稼働開始し、
古紙収容部に収容された古紙を再生処理し、その後稼働停止する場合における稼働
停止時刻を算定する停止時刻算定予約機能部とを備えた。
【発明の効果】
20 【0015】
本発明にかかる古紙処理装置によれば、制御部は、稼働開始から稼働停止までの工
程を逐次実行する自動制御機能部と、自動制御機能部による稼働停止時刻を、計測
部の計測値に基づいて算定する停止時刻算定機能部と、前記停止時刻算定機能部に
おいて計測部の計測値に基づいて算定された稼働停止時刻を通知する停止時刻通知
25 機能部と、稼働開始時刻を設定する開始時刻設定機能部と、開始時刻設定機能部で
設定された時刻に稼働開始し、古紙収容部に収容された古紙を再生処理し、その後
稼働停止する場合における稼働停止時刻を算定する停止時刻算定予約機能部とを備
えたので、古紙収容部に収容された古紙の分量から、古紙処理装置の稼働停止時刻
を容易に把握することができる。また、ユーザの利便性が向上する。
【発明を実施するための形態】
5 【0059】
稼働時間算定機能部831は、自動制御機能部816により実行される古紙処理装
置1の稼働時間を算定する。稼働時間は、古紙供給部2による古紙10の再生処理
部20への供給時間、再生処理部20における古紙10の再生処理時間、再生処理
前または再生処理後の洗浄処理時間、処理準備時間、停止準備時間等をそれぞれ算
10 定し、これらを合計することで得ることができる。
【0063】
停止時刻算定機能部832は、自動制御機能部816による稼働停止時刻を、計測
部25の計測値に基づいて算定する。稼働停止時刻は、現在時刻に稼働時間算定機
能部831により算定される稼働時間を加算して得られる時刻である。即ち、基本
15 的な動作として、現時点で古紙処理装置1の稼働を開始することとし、再生処理制
御機能部821により古紙収容部24に収容された古紙10を全て再生処理し、続
いて洗浄処理制御機能部822により各部の洗浄処理を行い、稼働を停止する場合
の当該稼働を停止するであろうと予測される時刻である。
【0093】
20 ユーザが操作部60を操作し、古紙処理装置1の稼働開始時刻を設定する場合、制
御部8は、開始時刻設定機能部833によって稼働開始時刻を受け付ける。そして、
停止時刻算定予約機能部834が、設定された時刻に古紙処理装置1の稼働を開始
し、古紙収容部24に収容された古紙10を再生処理し、必要により洗浄処理を行
い、その後稼働停止する場合における稼働停止時刻を算定する。算定された稼働停
25 止時刻は停止時刻通知機能部837により通知され、ユーザが視認可能な状態とさ
れる。これより、ユーザは古紙処理装置1の稼働開始時刻に古紙処理装置1の設置
場所にいなくても自動で古紙処理装置1の稼働開始をすることができ、利便性が向
上する。また、自動で稼働開始する場合の稼働停止時刻を容易に把握することがで
きる。
(2) 本件補正発明の概要
5 前記第2の3の本件出願に係る本件補正後の特許請求の範囲の記載及び前記(1)
の本願明細書の記載によると、本件補正発明の概要は、次のとおりであると認めら
れる。すなわち、本件補正発明は、古紙処理装置に関するものである。従来の古紙
処理装置においては、1回の離解処理に用いる古紙の量を従来より多くすると、全
ての古紙の再生処理が終了し、装置の稼働を停止し得る時刻を予想するのが困難と
10 なり、勤務時間等に応じた所定の時刻に装置の稼働を終了させておきたいと考える
ユーザにとって、当該所定の時刻に装置の稼働を停止し得るのか否かが分かりづら
いという課題があった。このような課題を解決するため、本件補正発明は、古紙を
収容する古紙収容部と、古紙収容部に収容された古紙の分量を計測する計測部と、
古紙収容部に収容された古紙を再生処理する再生処理部と、各部の動作を制御する
15 制御部とを備えるとともに、制御部に、稼働開始から稼働停止までの工程を逐次実
行する自動制御機能部と、自動制御機能部による稼働停止時刻を計測部の計測値に
基づいて算定する停止時刻算定機能部と、停止時刻算定機能部において計測部の計
測値に基づいて算定された稼働停止時刻を通知する停止時刻通知機能部と、稼働開
始時刻を設定する開始時刻設定機能部と、開始時刻設定機能部で設定された時刻に
20 稼働開始し、古紙収容部に収容された古紙を再生処理し、その後稼働停止する場合
における稼働停止時刻を算定する停止時刻算定予約機能部とを備えるとの構成を採
用することとしたものである。これにより、本件補正発明は、古紙収容部に収容さ
れた古紙の分量から古紙処理装置の稼働停止時刻を容易に把握することができ、ユ
ーザの利便性を向上させるとの効果を奏する。
25 2 引用発明に係る本件審決の認定について
(1) 甲1の記載
甲1には、次の記載がある(明らかな誤記を訂正した箇所がある。)。
【請求項1】
古紙もしくは古紙の裁断紙片を再生原料として貯留する原料貯溜部と、再生原料
を離解して再生パルプを調製する再生パルプ部と、再生パルプを抄紙して再生紙を
5 調製する抄紙部と、各部の運転を制御する制御部と、原料貯留部に貯留する原料の
分量を測定する分量測定センサを備え、
制御部は、運転開始から運転停止までの運転プロセスを逐次実行する自動運転制
御機能部と、運転開始予定時刻と運転終了予定時刻の少なくとも何れか一方の予定
時刻を任意に設定可能な時間設定機能部と、制御部の内部に配設する内部時計が前
10 記予定時刻に達したときに運転開始と運転停止の少なくとも何れか一方のタイミン
グを自動運転制御機能部へ指示信号として入力するタイミング入力部と、分量測定
センサで測定した原料の分量から再生可能な最大可能枚数内で、再生運転終了まで
に再生可能な再生予想枚数を算定する再生予想枚数算定機能部と、再生予想枚数算
定機能部で算定した再生予想枚数を表示する表示手段を有することを特徴とする古
15 紙処理装置。
【請求項2】
古紙もしくは古紙の裁断紙片を再生原料として貯留する原料貯溜部と、再生原料
を離解して再生パルプを調製する再生パルプ部と、再生パルプを抄紙して再生紙を
調製する抄紙部と、各部の運転を制御する制御部と、原料貯留部に貯留する原料の
20 分量を測定する分量測定センサを備え、
制御部は、運転開始から運転停止までの運転プロセスを逐次実行する自動運転制
御機能部と、運転時間を任意に設定可能な時間設定機能部と、分量測定センサで測
定した原料の分量から再生可能な最大可能枚数内で、再生運転終了までに再生可能
な再生予想枚数を算定する再生予想枚数算定機能部と、再生予想枚数算定機能部で
25 算定した再生予想枚数を表示する表示手段を有することを特徴とする古紙処理装置。
【請求項9】
制御部は、分量測定センサで測定した原料の分量を再生するのに必要な再生予想
時間を算定する再生予想時間算定機能部を備え、再生予想時間算定機能部は、時間
設定機能部で設定した運転時間が再生予想時間を超えるときに警告手段で警告を発
することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の古紙処理装置。
5 【請求項11】
制御部は、再生運転終了後に排水動作および予め設定したメンテナンス動作を実
行することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の古紙処理装置。
【技術分野】
【0001】
10 本発明は、古紙を離解させた再生パルプから紙を製造する技術に関し、古紙の発
生場所であるオフィス等に設置して紙を再生することができる小型の古紙処理装置
に係るものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
15 【0012】
また、学校やオフィスに設置可能な小型の古紙処理装置においては、運転時の騒
音などを考慮すると夜間に運転することが好ましく、夜間にユーザが介在すること
なく、確実に自動運転、自動停止を実行し、状況に応じたメンテナンス動作を自動
的に選択して実行することが望ましい。
20 【0015】
本発明は上記した課題を解決するものであり、装置の小型化を図るとともに、夜
間等の任意の時間にユーザの操作を必要とせずに、自動運転により稼動させ、自動
停止させることができ、さらには状況に応じたメンテナンス動作を自動的に選択し
実行させることができる古紙処理装置を提供することを目的とする。
25 【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の古紙処理装置は、古紙もしくは古紙の裁断
紙片を再生原料として貯留する原料貯溜部と、再生原料を離解して再生パルプを調
製(再生)する再生パルプ部と、再生パルプを抄紙して再生紙を調製(再生)する
抄紙部と、各部の運転を制御する制御部と、原料貯留部に貯留する原料の分量を測
5 定する分量測定センサを備え、
制御部は、運転開始から運転停止までの運転プロセスを逐次実行する自動運転制
御機能部と、運転開始予定時刻と運転終了予定時刻の少なくとも何れか一方の予定
時刻を任意に設定可能な時間設定機能部と、制御部の内部に配設する内部時計が前
記予定時刻に達したときに運転開始と運転停止の少なくとも何れか一方のタイミン
10 グを自動運転制御機能部へ指示信号として入力するタイミング入力部と、分量測定
センサで測定した原料の分量から再生可能な最大可能枚数内で、再生運転終了まで
に再生可能な再生予想枚数を算定する再生予想枚数算定機能部と、再生予想枚数算
定機能部で算定した再生予想枚数を表示する表示手段を有することを特徴とする。
【0017】
15 本発明の古紙処理装置は、古紙もしくは古紙の裁断紙片を再生原料として貯留す
る原料貯溜部と、再生原料を離解して再生パルプを調製(再生)する再生パルプ部
と、再生パルプを抄紙して再生紙を調製(再生)する抄紙部と、各部の運転を制御
する制御部と、原料貯留部に貯留する原料の分量を測定する分量測定センサを備え、
制御部は、運転開始から運転停止までの運転プロセスを逐次実行する自動運転制
20 御機能部と、運転時間を任意に設定可能な時間設定機能部と、分量測定センサで測
定した原料の分量から再生可能な最大可能枚数内で、再生運転終了までに再生可能
な再生予想枚数を算定する再生予想枚数算定機能部と、再生予想枚数算定機能部で
算定した再生予想枚数を表示する表示手段を有することを特徴とする。
【0024】
25 本発明の古紙処理装置において、制御部は、分量測定センサで測定した原料の分
量を再生するのに必要な再生予想時間を算定する再生予想時間算定機能部を備え、
再生予想時間算定機能部は、時間設定機能部で設定した運転時間が再生予想時間を
超えるときに警告手段で警告を発することを特徴とする。
【0026】
本発明の古紙処理装置において、制御部は、再生運転終了後に排水動作および予
5 め設定したメンテナンス動作を実行することを特徴とする。
本発明の古紙処理装置において、制御部は、排水動作終了後にメンテナンス動作
として防腐剤を含む洗浄水による洗浄動作を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
10 以上のように本発明によれば、ユーザが夜間等に自動運転の設定を行なう際には、
運転開始予定時刻、運転終了予定時刻を設定することにより運転時間を設定し、あ
るいは運転時間の長さそのものを設定することで、装置を稼動させる運転時間をユ
ーザが主体的に設定できるとともに、再生予想枚数を表示手段に表示することで、
ユーザに安心感を与えることができる。
15 【0031】
また、夜間等に自動運転および自動停止を実行させるとともに、ユーザが介在す
ることなく状況に応じたメンテナンス動作を自動的に選択して実行させることによ
り、次回の運転時にはメンテナンス動作を行なうことなく、すぐに再生運転を開始
することが可能となる。
20 【発明を実施するための形態】
【0034】
図2に示すように、シュレッダータンク12は、上方に向けて開放した上部開口
121を有し、底面122が排出口123に向けて傾斜する傾斜面をなす。…シュ
レッダータンク12の上方には分量測定センサ125が配置してあり、分量測定セ
25 ンサ125はシュレッダータンク12の内部に貯留する再生原料としての裁断紙片
の分量を測定するもので、光センサ等により嵩量を測定することで裁断紙片の分量
を推量する。
【0048】
…
(制御部)
5 図6に示すように、制御部7は、CPU71に設定する機能回路として、以下の
機能部を有している。…調製(再生)する再生紙の目標枚数を設定する目標枚数設
定機能部718と、調製(再生)した再生紙の枚数を数えるカウンター機能部71
9と、…分量測定センサ125で測定した原料の分量から再生可能な最大可能枚数
内で、再生運転終了までに再生可能な再生予想枚数を算定する再生予想枚数算定機
10 能部722と、運転開始予定時刻と運転終了予定時刻の少なくとも何れか一方の予
定時刻を任意に設定する機能および運転時間を任意に設定する機能の少なくとも一
つを有する時間設定機能部723と、再生運転の運転時間を積算する運転時間積算
機能部724と、カウンター機能部719で積算する再生完了枚数が目標枚数設定
機能部718で設定する再生目標枚数に達した時に再生運転を停止するか、運転時
15 間積算機能部724で積算した運転時間が時間設定機能部723で設定する運転時
間に達した時に再生運転を停止するかを選択設定する運転停止選択機能部725と、
再生目標枚数の再生運転終了までに要する再生予想時間を算定する再生予想時間算
定機能部726…と、分量測定センサ125で測定した原料の分量を再生するのに
必要な再生予想時間を算定し、時間設定機能部で設定した運転時間が再生予想時間
20 を超えるときには後述する警告手段に警告を発する再生予想時間算定機能部730
とを有している。
【0049】
また、制御部7は、自動運転制御機能部716へ稼動開始と稼動停止の少なくと
も何れか一方のタイミングを指示信号として入力するタイミング入力部73と、警
25 告手段を兼ねる液晶パネル等の表示部74と、ユーザが再生運転を中断指示する運
転中断指示手段75を備えている。警告手段は表示部74の画像表示領域を区分す
るものであっても良く、表示部74と別途に設けることも可能であり、警報音、音
声等によるものであっても良い。
【0051】
制御部7は、再生パルプ部1と脱墨パルプ部2と抄紙部3と仕上げ部4と排水処
5 理部5における上述した運転を、それぞれ再生パルプ部制御機能部711、脱墨パ
ルプ部制御機能部712、抄紙部制御機能部713、仕上げ部制御機能部714、
排水処理部制御機能部715で制御する。
(運転制御)
ユーザは表示部74に設けるタッチパネル等の各種のスイッチを操作することに
10 より、運転開始予定時刻と運転終了予定時刻の少なくとも何れか一方の予定時刻、
あるいは運転を連続的に継続する運転時間を、制御部7の時間設定機能部723に
設定する。運転開始予定時刻のみを設定する場合に、装置の運転を停止する再生運
転終了までの運転可能時間は運転開始予定時刻から再生運転を完了するまでの不定
的時間となり、運転終了予定時刻のみを設定する場合に、装置の運転を停止する再
15 生運転終了までの運転可能時間は現在時刻から運転終了予定時刻までの限定的時間
となり、運転開始予定時刻および運転終了予定時刻を設定する場合に、装置の運転
を停止する再生運転終了までの運転可能時間は運転開始予定時刻から運転終了予定
時刻までの限定的時間となる。
【0052】
20 運転を連続的に継続する運転時間を設定する場合に、装置の運転を停止する再生
運転終了までの運転可能時間は現在時刻から設定した運転時間が満了するまでの限
定的時間となり、運転開始予定時刻を合わせて設定する場合に運転可能時間は運転
開始予定時刻から設定した運転時間が満了するまでの限定的時間となる。
【0054】
25 再生予想時間算定機能部730は、分量測定センサ125で測定した原料の分量
を再生するのに必要な再生予想時間、すなわち再生予想枚数算定機能部722で算
定した最大可能枚数を再生するのに必要な再生予想時間を算定するとともに、時間
設定機能部で設定した運転時間が再生予想時間を超えるときには警告手段を兼ねる
表示部74に警告を発する。例えば「○○時間で貯留原料を使いきります。」と警
告表示する。また、原料の分量を測定する際に重さを測定することで、警告として
5 「定型用紙タンク11に○○サイズの定型用紙を○○枚入れれば、設定された運転
時間で稼動することが可能です。」と警告表示する。
【0058】
制御部7による自動運転の開始から停止までの制御は、図7に示すフローシート
に沿って行う。つまり、停止状態900から稼動開始条件チェック910、稼動準
10 備動作920、再生紙作製930、稼動停止条件チェック940、停止準備動作9
50の各工程を経て装置停止960となる。
【0059】
稼動開始条件チェック910では、図8に示すように、稼動開始信号の有無の判
断911を行う。稼動開始信号は、タイミング入力部73から自動運転制御機能部
15 716へ入力する指示信号であり、本実施の形態では時間設定機能部723で設定
する予定時刻に内部時計が達したときに入力する指示信号である。
【0060】
稼動準備動作920では、図10に示すように、タンクへの注水921を行なう。
そして、イニシャル動作時にポンプや配管などの残水を清水で洗浄排出することで、
20 品質の低下を抑える。残りの部位へは必要に応じて所定のタイミングで注水を行な
う。つまり、パルパー14および脱墨前希釈タンク22へ必要量の注水を行う。
【0061】
次に、各ヒータ143、234、235に通電して加熱操作922を行なう。
次に、各温度センサ144、238により測定するパルパー14および脱墨部2
25 3の水温および、温度センサ354で測定する乾燥ローラ353の表面温度が設定
温度に達したか否かの判断923を行なう。
【図2】 【図7】
(2) 引用発明の認定
前記(1)のとおりの甲1の記載及び弁論の全趣旨によると、甲1には、本件審決
5 が認定したとおりの引用発明(前記第2の4(1)ア)が記載されているものと認め
るのが相当である。
(3) 原告の主張について
ア 甲1に記載された発明の「時間設定機能部」において設定される「運転開始
予定時刻」について
10 原告は、甲1に記載された発明の「時間設定機能部」において設定される「運転
開始予定時刻」につき、これを「午後6時頃から午前6時頃まで」と認定すべきで
あると主張する。
確かに、甲1の段落【0012】には、学校やオフィスに設置することができる
小型の古紙処理装置について、運転時の騒音等を考慮し、これを夜間に運転するの
15 が好ましい旨の記載があるが、甲1の段落【0030】及び【0031】には、古
紙処理装置の自動運転を行う時間帯として「夜間等」との文言が使用されているほ
か、甲1の【請求項1】、段落【0015】等にも、当該古紙処理装置の時間設定
機能部の運転開始予定時刻が任意に設定可能である旨の記載があり、その他、甲1
には、当該運転開始予定時刻が原告主張の時間帯(午後6時頃から午前6時頃まで)
に含まれる時刻に限定される旨の記載はない。したがって、甲1に記載された発明
の「時間設定機能部」において設定される「運転開始予定時刻」が原告主張の上記
時間帯に含まれる時刻に限られると認めることはできない。
イ 甲1に記載された発明の「再生予想時間」について
5 原告は、甲1に記載された発明の「再生予想時間」につき、これを「約1時間」
と認定すべきであると主張する。
しかしながら、甲1の記載(【請求項9】、段落【0024】、【0048】、
【0054】)によると、甲1に記載された発明の「再生予想時間」とは、分量測
定センサで測定した分量の原料を再生するのに必要な時間を指すものにすぎず、甲
10 1には、それ以上の具体的な時間は記載されていない。原告が援用する各証拠(甲
1の段落【0001】、【0034】、【0048】、【0054】、【図2】、
本願明細書の段落【0004】、甲5の段落【0001】(「本発明は古紙再生装
置の抄紙装置および古紙再生装置に関し、さらに詳細には、古紙が発生する場所に
配置されて、発生する古紙を廃棄処分することなく、その場で再利用可能な紙に再
15 生処理する什器サイズの小型古紙再生装置における抄紙技術に関する。」)、甲5
の段落【0013】(「(2)上記網状ベルトの走行速度は0.1m/分~1.8
m/分に設定される。」))を総合しても、上記の意義を有する「再生予想時間」
が「約1時間」に限られるものと認めることはできず、その他、当該「再生予想時
間」が「約1時間」に限られるものと認めるに足りる証拠はない。
20 (4) 小括
以上のとおりであるから、引用発明に係る本件審決の認定に誤りはない。
3 各相違点の容易想到性に係る本件審決の判断について
(1) 甲2の記載
甲2には、次の記載がある(明らかな誤記を訂正した箇所がある。)。
25 【技術分野】
【0001】
本発明は、シート製造装置およびシート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、古紙などの原料を再生紙にリサイクルする紙再生装置が知られている…。
5 【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の紙再生装置では、ユーザーは必要な枚数の再生紙ができるまでの製造終了
時間を事前に知ることができず、利便性に欠けていた。
10 【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以
下の態様または適用例として実現することができる。
【0006】
15 (1)本発明に係るシート製造装置の一態様は、繊維を含む原料を用いてシート
を製造するシート製造装置であって、製造するシートの量の入力と、製造を完了さ
せる完了時間の入力とを受け付ける受付部を有し、前記量のシートを前記完了時間
までに製造する。
【0007】
20 ここで、「シートの量」とは、単票シートの枚数や、連続シートの長さを含む。
また、「時間」とは、日時や時刻、現在時刻からの相対時間を含む。また、実際に
製造するシート量は、少なくとも入力されたシート量であればよい(入力されたシ
ート量よりも多い量のシートを製造してもよい)。
【0009】
25 (2)本発明に係るシート製造装置において、前記量のシートを製造するのに要
する時間を取得し、当該時間と前記完了時間とに基づいて製造開始時間を決定し、
当該製造開始時間にシートの製造を開始させる制御部を更に有してもよい。
【0017】
(5)本発明に係るシート製造装置の一態様は、繊維を含む原料を用いてシート
を製造するシート製造装置であって、製造するシートの量の入力と、製造を開始さ
5 せる開始時間の入力とを受け付ける受付部と、前記開始時間に前記量のシートの製
造を開始させる制御部とを有する。
【0019】
(6)本発明に係るシート製造装置において、前記制御部は、前記量のシートを
製造するのに要する時間を取得し、当該時間と前記開始時間とに基づいて製造完了
10 時間を決定し、当該製造完了時間を出力部から出力させてもよい。
【0020】
このようなシート製造装置では、製造完了時間をユーザー等に知らせることがで
き、また、ユーザー等は、製造開始時間を見直して再設定することができる。
【発明を実施するための形態】
15 【0070】
図2に、シート製造装置100の機能ブロック図を示す。シート製造装置100
は、原料検出部110、残量検出部120、収容量検出部130、制御部140、
記憶部150、表示部160、通信部170、受付部180を含む。シート製造装
置100では、原料検出部110、残量検出部120及び収容量検出部130の少
20 なくとも1つを省略してもよく、また、表示部160及び通信部170の少なくと
も一方を備えていればよい。
【0071】
原料検出部110は、供給部10に積載された原料の量(残量)を検出し、検出
結果を制御部140に出力する。原料検出部110は、「原料の量」として、例え
25 ば、供給部10に積載された単票シートの枚数(或いは、積載高さ)や、供給部1
0に積載された原料の重量を検出する。原料検出部110としては、接触式又は光
学式のセンサーや重量センサー等を用いることができる。
【0077】
受付部180(操作部)は、ユーザーの入力を受け付けるための機器であり、入
力情報を制御部140に出力する。受付部180の機能は、キーボード、マウス、
5 ボタン、タッチパネル等の入力機器により実現できる。受付部180は、製造する
シートの量(枚数)の入力、製造するシートの種別(サイズ、厚さ)の入力、製造
を完了させる完了時間(日時、時刻、現在時刻からの相対時間)の入力、及び製造
を開始させる開始時間(日時、時刻、現在時刻からの相対時間)の入力の少なくと
も1つを受け付ける。
10 【0080】
また、制御部140は、入力された開始時間に、入力された量及び種別のシート
の製造を開始させる制御を行ってもよい。また、制御部140は、入力された量及
び種別のシートを製造するのに要する時間を算出し、算出した時間と入力された開
始時間とに基づいて製造完了時間を決定し、決定した製造完了時間を出力する制御
15 を行ってもよい。
【0083】
2.表示例
図3は、表示部160に表示される表示画面(設定画面)の第1の例を示す図で
ある。表示画面DIでは、ユーザーは、製造するシートのサイズと厚み(製造する
20 シートの種別)、及び製造するシートの枚数(製造するシートの量)を入力(設定)
することができる。図3に示す例では、製造するシートのサイズとして「A4」が
選択され、製造するシートの厚みとして「通常」が選択され、製造するシートの枚
数として「50枚」が入力されている。また、表示画面DIには、入力されたシー
トの種別及び枚数から算出された、当該シートを製造するのに要する時間(図3に
25 示す例では、「15分」)が表示されている。
【0084】
また、図3に示す表示画面DIでは、ユーザーは、即時にシートの製造を開始す
るか、時間を指定して製造(予約製造)するかを選択することができ、予約製造す
ることを選択した場合には、製造を完了させる製造完了時刻(完了時間の一例)を
入力することができる。図3に示す例では、予約製造することが選択され、製造完
5 了時刻として「午後3:30」が入力されている。また、表示画面DIには、現在
時刻(図3に示す例では、「午前11:25」)が表示されている。なお、製造完
了時刻として、現在時刻に、入力された種別及び枚数のシートの製造に要する時間
を加算した時刻(図3に示す例では、「午前11:40」)より前の時刻を入力で
きないように構成することが望ましい。また、現在時刻に、入力された種別及び枚
10 数のシートの製造に要する時間を加算した時刻を、製造完了時刻のデフォルト値
(最短の製造完了時刻)として表示画面DIに表示してもよい。
【0087】
図4は、表示部160に表示される表示画面の第2の例を示す図である。図4に
示す表示画面DIでは、ユーザーは、予約製造することを選択した場合に、製造を
15 開始させる製造開始時刻(開始時間の一例)を入力することができる。図4に示す
例では、予約製造することが選択され、製造開始時刻として「午後3:15」が入
力されている。
【0088】
また、図4に示す表示画面DIには、製造完了時刻(製造完了時間の一例)が表
20 示される。製造完了時刻は、入力された製造開始時刻に、入力された種別及び枚数
のシートの製造に要する時間を加算した時刻であり、図4に示す例では、製造完了
時刻として、「午後3:30」が表示されている。
【0089】
図4に示す表示画面DIにおいて、予約製造が選択された場合に、ユーザーが製
25 造・予約実行ボタンSBを選択する操作を行うと、入力された種別及び枚数のシー
トの製造が、入力された製造開始時刻に自動的に開始される。図4に示す例では、
「A4」サイズの「通常」の厚みの「50枚」のシートの製造が「午後3:15」
に開始される。
【0090】
このように、シートの種別及び量と製造開始時刻をユーザーが設定可能に構成し、
5 設定された種別及び量のシートの製造を設定された製造開始時刻に開始するように
構成することで、ユーザーが所望する時間(例えば、消費電力量のピークを避ける
ことができる電気料金の安い深夜の時間帯)から製造を開始してユーザーが必要と
する種別及び量のシートを提供することができ、ユーザーの利便性を向上すること
ができる。また、入力された製造開始時刻から算出される製造完了時刻を表示する
10 ことで、入力した製造開始時間を見直す機会をユーザーに与えることができる。
【図3】 【図4】
(2) 甲2に記載された技術的事項の認定
前記(1)のとおりの甲2の記載及び弁論の全趣旨によると、甲2には、本件審決
15 が認定したとおりの甲2各記載事項(前記第2の4(1)イ)が記載されているもの
と認めるのが相当である。
(3) 各相違点に係る本件補正発明の構成の容易想到性について
ア 引用発明に基づく容易想到性について
(ア) 引用発明の「再生予想時間」の構成に代えて本件補正発明の「稼働停止時
20 刻」の構成を採用することが設計的事項であるかについて
a 引用発明の「運転開始予定時刻」の意義
引用発明の「運転開始予定時刻」とは、時間設定機能部において任意に設定され
る時刻である。
b 引用発明の「運転時間」の意義
5 甲1の段落【0030】の記載によると、引用発明においては、ユーザが「運転
時間」の長さそのものを時間として設定することができるほか、ユーザが運転開始
予定時刻及び運転終了予定時刻の双方を時刻として設定することにより、結果とし
て「運転時間」が設定される場合もあると認められる。さらに、甲1の記載(【請
求項2】、【請求項9】、段落【0017】、【0048】、【0051】、【0
10 052】、【0054】)に加え、引用発明の制御部が運転開始から運転停止まで
の運転プロセスを逐次実行する自動運転制御機能部を有していることも併せ考慮す
ると、引用発明の「運転時間」とは、装置の運転開始から運転停止までの連続した
時間をいうものと解するのが相当であり、引用発明では、このような運転時間を時
間設定機能部において任意に設定(前記のとおり結果として設定される場合も含む。
15 以下同じ。)することが可能とされているものと認めることができる。
そして、甲1の段落【0058】のとおり、引用発明においては、制御部7によ
る自動運転の開始から停止までの制御が甲1の【図7】に示されたフローシートに
沿って行われるところ、甲1の【図7】のフローシートには、停止状態から、稼動
開始条件チェック、稼動準備作業、再生紙作製、稼動停止条件チェック及び停止準
20 備作業を順次経て、装置停止に至るまでの工程が示されているのであるから、上記
の「装置の運転開始から運転停止までの連続した時間」とは、具体的には、甲1の
【図7】のフローシートに示された稼動開始条件チェックから装置停止に至るまで
の工程に要する時間をいうものと解される。
c 引用発明の「再生予想時間」の意義
25 引用発明の「再生予想時間」とは、分量測定センサで測定された分量の原料を再
生するのに要する時間であり、原料を再生するためには、装置の運転が必要となる
ことは明らかである。また、引用発明の「再生予想時間」は、ユーザが設定した
「運転時間」とその長短を比較し得るものであることが前提とされているから、両
者は、いずれも装置の運転時間という意味において同じ性質を有するものと解する
のが自然である。そうすると、引用発明の「再生予想時間」とは、分量測定センサ
5 で測定された原料の分量に基づいて再生予想時間算定機能部により算定される装置
の運転開始から運転停止までの連続した時間であると認めるのが相当である(具体
的には、甲1の【図7】のフローシートに示された稼動開始条件チェックから装置
停止に至るまでの工程に要する時間であって、当該再生のために必要なものとして
再生予想時間算定機能部により算定されたものが「再生予想時間」となる。)。
10 d 以上によると、引用発明においては、「運転開始予定時刻」に「再生予想時
間」を単に算術的に加えることにより、「運転終了予定時刻」(本件補正発明の
「稼働停止時刻」に相当するもの)が自動的に導かれることになる。そして、引用
発明において、「再生予想時間」は、これがユーザにより設定された「運転時間」
を下回る場合等に、ユーザに対する警告として表示部に表示されるものであるとこ
15 ろ(なお、甲1の段落【0054】の記載によると、そのような警告は、原料貯留
部に貯留された原料を使い切った後も運転が継続されることについて、ユーザに対
し注意喚起を行うことを目的とするものであると認められる。)、そのような警告
の手段として「再生予想時間」を表示するとの技術を採用することと「運転終了予
定時刻」を表示するとの技術を採用することは、時間表示と時刻表示の差にすぎず、
20 同一の目的を達成する手段として、当業者がその通常の創作能力を発揮して適宜選
択し得る設計的事項であると認めるのが相当である。
e 原告は、引用発明の「再生予想時間」は甲1の【図7】のフローシートに示
された稼動準備作業等に要する時間を含まないと主張するが、前記b及びcにおい
て説示したとおり、引用発明の「再生予想時間」には、甲1の【図7】のフローシ
25 ートに示された稼動準備作業等も含まれると解されるから、同主張は採用すること
ができない。なお、原告は、引用発明の「再生予想時間」が装置の運転の開始から
停止までの全ての工程を含まないとの主張の根拠として、甲1の【請求項11】並
びに段落【0026】及び【0031】の記載を挙げるが、これらの記載は、いず
れも装置の運転が停止される前に行われる工程について述べるものではないと解さ
れるから、原告の当該主張の根拠となるものではない。
5 (イ) 引用発明に基づいて各相違点に係る本件補正発明の構成を採用することの
容易想到性について
a 引用発明の「分量測定センサ」は、その内容に照らし、本件補正発明の「計
測部」に相当するものと認められる。これに加え、前記(ア)において説示したとこ
ろを併せ考慮すると、引用発明の「分量測定センサで測定した原料の分量を再生す
10 るのに必要な再生予想時間を算定する再生予想時間算定機能部」との構成に代えて
本件補正発明の「自動制御機能部による稼働停止時刻を、前記計測部の計測値に基
づいて算定する停止時刻算定機能部」との構成(相違点1に係る本件補正発明の構
成)を採用することは、当業者において容易に想到し得たものと認めるのが相当で
ある。
15 b 引用発明の「時間設定機能部で設定した運転時間が再生予想時間を超えると
きには、再生予想時間を表示する表示部」との構成は、その内容に照らし、「計測
部の計測値に基づいて算定された時間に関する情報を通知する通知機能部」との限
度で本件補正発明の「前記停止時刻算定機能部において計測部の計測値に基づいて
算定された稼働停止時刻を通知する停止時刻通知機能部」との構成と一致するもの
20 と認められる。これに加え、前記(ア)において説示したところを併せ考慮すると、
引用発明の同構成に代えて本件補正発明の「前記停止時刻算定機能部において計測
部の計測値に基づいて算定された稼働停止時刻を通知する停止時刻通知機能部」と
の構成(相違点2に係る本件補正発明の構成)を採用することは、当業者において
容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
25 c 本件補正発明の「開始時刻設定機能部」、「稼働」及び「古紙収容部」は、
その内容に照らし、それぞれ引用発明の「時間設定機能部」、「運転」及び「原料
貯留部」に相当するものと認められる。これに加え、前記(ア)において説示したと
ころを併せ考慮すると、引用発明において、本件補正発明の「開始時刻設定機能部
で設定された時刻に稼働開始し、古紙収容部に収容された古紙を再生処理し、その
後稼働停止する場合における稼働停止時刻を算定する停止時刻算定予約機能部」と
5 の構成(相違点3に係る本件補正発明の構成)を採用することは、当業者において
容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
イ 引用発明及び甲2各記載事項に基づく容易想到性について
当業者が引用発明に基づいて各相違点に係る本件補正発明の構成に容易に想到し
得たことは、前記アにおいて説示したとおりであるが、念のため、進んで、引用発
10 明及び甲2各記載事項に基づく容易想到性についても検討する。
(ア) 甲2各記載事項の引用発明への適用の可否について
a 引用発明は、古紙等から再生紙を調製する古紙処理装置に係る技術分野に属
するものであり(甲1の【請求項1】、段落【0001】等)、甲2各記載事項も、
古紙等から再生紙を製造するシート製造装置に係る技術分野に属するものであるか
15 ら(甲2の段落【0001】、【0002】等)、両者は、その属する技術分野を
共通にする。
また、引用発明の「再生予想時間」は、分量測定センサで測定した分量の原料を
再生するのに必要な時間であり、ユーザに対する注意喚起を目的として表示部に表
示されるものであるところ(前記ア(ア)d)、甲2各記載事項は、ユーザ等に対し
20 シート(再生紙)の製造完了時刻を知らせ、シートの製造開始時刻の再設定の機会
を与えることを目的として、シートの製造完了時刻を表示部に表示させるとの技術
であると認められるから(甲2の段落【0004】、【0019】、【0020】、
【0083】、【0084】、【0087】、【0088】、【0090】等)、
「再生予想時間」を表示部に表示するとの引用発明の構成と甲2各記載事項の目的
25 及び機能は、実質的にみて同一であるか、少なくとも極めて密接に関連するもので
あるといえる。
以上によると、引用発明に甲2各記載事項を適用する動機付けがあると認められ、
当該適用を阻害する要因があるものと認めるに足りる証拠はない。
したがって、当業者は、引用発明に甲2各記載事項を適用し、引用発明の「再生
予想時間」を甲2各記載事項の「製造完了時刻」(本件補正発明の「稼働停止時刻」
5 に相当するもの)とすることができたものと認めるのが相当である。
b 原告の主張について
(a) 原告は、①引用発明が古紙を離解させた再生パルプを抄紙して紙を製造す
る技術であるのに対し、甲2各記載事項は、古紙を解繊し、添加剤を添加し、加熱
し、シートを製造する技術であるから、両者は、古紙の処理方法において、その属
10 する技術分野を異にする、②引用発明が「夜間等の任意の時間にユーザの操作を必
要とせずに、自動運転により稼動させ、自動停止させることができ、さらには状況
に応じたメンテナンス動作を自動的に選択し実行させることができる古紙処理装置
を提供すること」を課題とするのに対し、甲2各記載事項は、「「ユーザーは必要
な枚数の再生紙ができるまでの製造終了時間を事前に知ることができず、利便性に
15 欠けていた」との従来の紙再生装置の問題点を解決すること」を課題とするもので
あるから、両者は、解決すべき課題を異にする、③引用発明の作用が「分量測定セ
ンサ125で測定した原料の分量を再生するのに必要な再生予想時間を算定し、時
間設定機能部で設定した運転時間が再生予想時間を超えるときには(再生予想時間
算定機能部730により)警告手段に警告を発する」というものであるのに対し、
20 甲2各記載事項の作用は、画面から入力された製造開始時刻に、入力された種別及
び枚数のシートを製造するために要する時間を加算し、得られる製造完了時刻を表
示するというものであり、両者は、その作用及び機能を異にする、④引用発明にお
いて運転終了予定時刻を通知することは、利便性の向上のために通常行われるもの
ということはできない、⑤甲1には、甲2各記載事項に関する示唆がないとして、
25 引用発明に甲2各記載事項を適用する動機付けはないと主張する。
しかしながら、①前記aのとおり、甲2各記載事項は、シート製造装置に係る
「ユーザ等に対しシートの製造完了時刻を知らせ、シートの製造開始時刻の再設定
の機会を与えることを目的として、シートの製造完了時刻を表示部に表示させる」
との技術として、古紙処理装置である引用発明への適否が問題とされるものである
から、仮に、引用発明と甲2に記載されたシート製造装置との間に原告が主張する
5 ような相違(古紙の処理方法における相違)があるとしても、そのことは、甲2各
記載事項の引用発明への適否の判断に当たり、両者が属する技術分野の共通性を否
定するような事情であるとはいえない。
また、前記aにおいて説示したところによると、引用発明の「再生予想時間」は、
ユーザに対する注意喚起を目的として表示部に表示されるものであり、甲2各記載
10 事項も、ユーザ等に対する注意喚起を目的として時間に関する情報(シートの製造
完了時刻)を表示部に表示させるとの技術である。すなわち、②引用発明や甲2各
記載事項の各解決課題が原告の主張するとおりのものだとしても、ユーザに対する
注意喚起を目的として装置の運転終了時期に関する情報を表示させるという点につ
いては両者には共通点があるから、原告の主張する各解決課題の相違は、引用発明
15 に対する甲2各記載事項の適用を阻害するものとは認められないし、③むしろ「再
生予想時間」を表示部に表示するとの引用発明の構成と甲2各記載事項の目的及び
機能との間には実質的な同一性又は極めて密接な関連性が認められるというべきで
ある。
さらに、④引用発明においては、ユーザが設定した「運転時間」が「再生予想時
20 間」を超えるときは、「再生予想時間」が表示部に表示されるところ、引用発明の
「再生予想時間」は、運転開始予定時刻等の特定の時刻において、分量測定センサ
で測定された分量の原料の再生のために必要な時間として算定されたものであり
(前記ア(ア)c)、ユーザにとっては、分量測定センサで測定された分量の原料を
使い切るのが具体的にいつであるのかをより直感的に理解することができるという
25 点において、表示部に「運転終了予定時刻」が表示されることにより、利便性が向
上する面があるといえる。
⑤仮に、甲1に甲2各記載事項に関する示唆がないとしても、そのことは、引用
発明に甲2各記載事項を適用する動機付けがあるとの前記認定を左右するものでは
ない。
以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
5 (b) 原告は、引用発明の「再生予想時間」を算定する基準(原料の量)及び引
用発明の「再生予想時間」の表示内容は、甲2各記載事項の各「時間」を算定する
基準及び「製造完了時刻」の表示内容と異なるとして、引用発明に甲2各記載事項
を適用することはできないと主張する。
しかしながら、前記aのとおり、甲2各記載事項は、シート製造装置に係る「ユ
10 ーザ等に対しシートの製造完了時刻を知らせ、シートの製造開始時刻の再設定の機
会を与えることを目的として、シートの製造完了時刻を表示部に表示させる」との
技術として、古紙処理装置である引用発明への適否が問題とされるものであるから、
引用発明の「再生予想時間」と甲2記載事項1の「シートの製造に要する時間」及
び甲2記載事項2の「シートを製造するのに要する時間」がその算定の基となった
15 分量(原料の分量であるか製造されるシートの分量であるか)を異にするとしても、
また、引用発明においては「運転時間」が「再生予想時間」を超えるときに「再生
予想時間」が表示部に表示されるのに対し、甲2各記載事項においては「製造完了
時刻」が表示部に表示される場合についての限定がないとしても、さらに、甲2各
記載事項の「製造完了時刻」の表示態様が原告の主張するようなものであるとして
20 も、これらの相違又は事情は、いずれも、甲2各記載事項の引用発明への適否の判
断に当たり、技術的に意味のあるものということはできない。
以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
(c) 原告は、引用発明の「運転開始予定時刻」に甲2各記載事項の各「時間」
を加えたとしても、そのようにして得られた時刻は本件補正発明の「稼働停止時刻」
25 と概念を異にすると主張する。
しかしながら、甲2の記載(段落【0084】、【0088】等)によると、甲
2記載事項1の「現在時刻」に「シートの製造に要する時間」を加算した時刻が
「製造完了時刻」であり、甲2記載事項2の「入力された製造開始時刻」に「シー
トを製造するのに要する時間」を加算した時刻が「製造完了時刻」であるところ、
本願明細書の段落【0063】の記載によると、本件補正発明の「稼働停止時刻」
5 は、一定の「時刻」に一定の「時間」を加算して得られる「時刻」であるという点
で、甲2各記載事項の「製造完了時刻」とその概念を同じくするものと認められる
から、原告の主張を採用することはできない。
(イ) 引用発明及び甲2各記載事項に基づいて各相違点に係る本件補正発明の構
成を採用することの容易想到性について
10 前記(ア)のとおり、当業者は、引用発明に甲2各記載事項を適用し、引用発明の
「再生予想時間」を甲2各記載事項の「製造完了時刻」(本件補正発明の「稼働停
止時刻」に相当するもの)とすることができたものである。そして、前記ア(イ)に
おいて説示したところに照らすと、引用発明に甲2各記載事項を適用し、各相違点
に係る本件補正発明の構成を採用することは、当業者において容易に想到し得たも
15 のと認めるのが相当である。
(4) 小括
以上のとおりであるから、各相違点の容易想到性に係る本件審決の判断に誤りは
ない。
4 本件補正発明が奏する効果に係る本件審決の判断について
20 (1) ある発明が奏する効果が予測することができない顕著なものであるか否か
の判断に当たっては、当該発明に係る出願当時において、当該発明の構成が奏する
ものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者
が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであったか否かという観点
から検討するのが相当である(最高裁判所令和元年8月27日第三小法廷判決(平
25 成30年(行ヒ)第69号)裁判集民事262号51頁参照)。
(2) この点、原告は、①本件補正発明は、停止時刻通知機能部を備えることに
より、再生される古紙の分量の多寡及び製造される再生紙の種別にかかわらず、ユ
ーザにおいて、装置がいつ停止するのかを非常に容易に把握することができ、高い
利便性をもたらすとの効果を奏し、また、②本件補正発明は、停止時刻算定予約機
能部を備えることにより、古紙処理装置を適切に稼働させた上、古紙を再生処理し、
5 稼働を停止するために必要な作業を実施することができるとの効果を奏するとして、
これらの効果は、引用発明及び甲2各記載事項から予測される範囲を超える顕著な
ものであると主張する。
しかしながら、原告が主張する上記①の効果は、引用発明における再生予想時間
の表示につき、甲2各記載事項を適用するなどして、これを時刻表示に変更した場
10 合に通常予測される利便性の向上の域を出るものではないから、本件出願当時にお
いて、これが本件補正発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができ
なかったもの又は本件補正発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効
果を超える顕著なものであったと認めることはできない。また、原告の上記②の主
張についても、この点は同様である。本願明細書の段落【0093】には、「ユー
15 ザは古紙処理装置1の稼働開始時刻に古紙処理装置1の設置場所にいなくても自動
で古紙処理装置1の稼働開始をすることができ…る。」との記載もみられるが、こ
れは、稼働開始時刻を設定することが可能であることにより通常生ずる利便性の向
上を述べたものにすぎず、ユーザが稼働停止時刻を容易に把握することができるよ
うになったことにより、当業者が本件出願当時予測することができなかったような
20 効果が生じたことを認めるに足りるものではない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件補正発明が奏する効果に係る本件審決の判断に誤
りはない。
5 結論
25 以上の次第であるから、原告の請求は理由がない。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
5 清 水 響
裁判官
10 浅 井 憲
裁判官
15 勝 又 来 未 子
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