令和5(ネ)10041損害賠償請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和5年11月16日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
民法709条1回
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キーワード |
特許権3回 進歩性1回 無効1回 新規性1回 損害賠償1回 侵害1回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 控訴人(原審原告。以下「原告」という。)は、商品名を「REFRESH5
RING」とする商品(以下「本件商品」という。)を本邦に輸入しようとしたが、
被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)により後記本件申立て(関税法69
条の13第1項前段に基づくもの)がされたことなどから、これを輸入することが
できなかった者、被告は、後記本件特許の特許権者であり、原告による本件商品の
輸入が本件特許に係る特許権を侵害すると主張して、本件申立てをした者である。10
本件は、原告が、本件特許には無効原因があるところ、被告がそのような本件特
許に係る特許権に基づいて本件申立てをしたことは原告に対する不法行為を構成す
ると主張し、民法709条に基づいて、被告に対し、本件商品を輸入することがで
きなかったことによって原告に生じた損害に係る賠償金3776万1332円及び
これに対する不法行為の日の後である令和3年10月21日から支払済みまで同法15
所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和5年11月16日判決言渡
令和5年(ネ)第10041号 損害賠償請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所令和4年(ワ)第3847号)
口頭弁論終結日 令和5年9月19日
5 判 決
控 訴 人 コ モ ラ イ フ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 石 井 義 人
10 牟 田 口 卓 也
岡 田 健 一
井 上 雄 太
同補佐人弁理士 杉 本 勝 徳
辻 忠 行
被 控 訴 人 有限会社 MAKIスポー ツ
同訴訟代理人弁護士 石 田 琢 磨
同補佐人弁理士 原 田 寛
20 主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
25 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、3776万1332円及びこれに対する令和3
年10月21日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
5 1 控訴人(原審原告。以下「原告」という。)は、商品名を「REFRESH
RING」とする商品(以下「本件商品」という。)を本邦に輸入しようとしたが、
被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)により後記本件申立て(関税法69
条の13第1項前段に基づくもの)がされたことなどから、これを輸入することが
できなかった者、被告は、後記本件特許の特許権者であり、原告による本件商品の
10 輸入が本件特許に係る特許権を侵害すると主張して、本件申立てをした者である。
本件は、原告が、本件特許には無効原因があるところ、被告がそのような本件特
許に係る特許権に基づいて本件申立てをしたことは原告に対する不法行為を構成す
ると主張し、民法709条に基づいて、被告に対し、本件商品を輸入することがで
きなかったことによって原告に生じた損害に係る賠償金3776万1332円及び
15 これに対する不法行為の日の後である令和3年10月21日から支払済みまで同法
所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、原告の請求を棄却したところ、原告は、これを不服として本件控訴をし
た。
2 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張
20 (原判決の引用)
前提事実、争点及び争点についての当事者の主張は、後記(原判決の補正)のと
おり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の1及び2並びに
第3(2頁12行目から6頁3行目まで及び20頁から27頁まで)に記載のとお
りであるから、これを引用する。
25 (原判決の補正)
(1) 2頁21行目の「本件特許の」の次に「設定登録時の」を加える。
(2) 3頁19行目の「請求項1に」を「請求項1」と改める。
(3) 4頁3・4行目の「同条の12第1項」を「同法69条の12第1項」と
改める。
(4) 4頁5行目の「同条の11第1項9号」を「同法69条の11第1項9号」
5 と改める。
(5) 4頁11行目及び15行目の各「本件申立てについて」をいずれも「本件
申立てについての」と改める。
(6) 21頁の表の「本件各発明の新規性欠如の有無」欄のうち左欄本文3行目
の「第1グリップ部分」を「第1グリップ部」と改める。
10 (7) 23頁の表の左欄の「公知技術(甲8、9)」を「公知技術(後記甲8、
本件出願日前に頒布された実開昭56-23156号公報(甲9。以下「甲9公報」
という。))」と改める。
(8) 26頁の表の「本件各発明と甲8発明との相違点」欄のうち左欄本文1行
目の「本件各発明」から2行目の「湾曲され」までを「本件各発明の第2グリップ
15 部は」と改める。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は、後記2
のとおり補正し、原告の当審における補充主張に鑑み後記3を付加するほかは、原
判決の「事実及び理由」の第4の1及び2(原判決6頁5行目から18頁19行目
20 まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 原判決の補正
(1) 6頁5行目の「本件申立てについて」を「本件申立てについての」と改め
る。
(2) 9頁15行目末尾に「「本発明の目的は、中央に位置する重り支持セクシ
25 ョンを有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティング
装置を提供することである。本発明の別の目的は、複数の握持位置を備える両側に
あるハンドルを有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフ
ティング装置を提供することである。本発明の別の目的は、end to end
の手の配置を可能にする、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリ
フティング装置を提供することである。最後に、本発明の全体的な目的は、安価で
5 あり、高い信頼性を有し、その意図される目的を達成するのに高い有効性を有する、
説明した目的のための装置内にある改善された要素及び機材を提供することであ
る。」」を加える。
(3) 11頁末尾に改行して以下のとおり加える。
「【4図・5図】
4図
【6図・7図】
【8図】
」
(4) 12頁1行目末尾に改行して以下のとおり加える。
5 「(3) 本件各発明の概要
原判決別紙「特許公報」のとおりの本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1・
2)の記載及び前記(2)アのとおりの本件明細書の記載によると、本件各発明の概
要は、次のとおりであると認められる。すなわち、本件各発明は、筋肉ストレッチ
トレーニングを行う場合等に使用され、各種の多様なトレーニング等に使用するこ
10 とが可能なトレーニング器具に関するものである。従来のトレーニング器具は、両
手で把持する際の幅間隔を変えることができない、各種の多様なトレーニング等へ
の応用が困難であるなどの課題を有していた。これらの課題を解決するため、本件
各発明は、前記第2の2のとおりの構成を採用することとしたものである。これに
より、本件各発明は、両手で把持する際の幅間隔を変えることができ、多用途のト
15 レーニング等に使用することができるなどの効果を奏する。
(5) 12頁2行目の「(3)」を「(4)」と改める。
(6) 12頁6・7行目の「トレーニングする」を「本件各発明によるトレーニ
ングと同様のトレーニングをする」と改める。
(7) 13頁4行目の「プラットフォーム26」を「重り支持プラットフォーム
20 26」と改める。
(8) 13頁17行目の「本件各発明」から18行目末尾までを「本件各発明と
甲7公報に記載された発明は、少なくとも後記相違点①(本件各発明は、重り支持
部分を備えないのに対し、甲7公報に記載された発明は、重り支持部分を備える点)
において相違する。」と改める。
(9) 13頁19行目の「運動器具の発明ではない」を「それのみでは独立の運
5 動器具の発明とはいえない」と改める。
(10) 14頁25行目の「(4)」を「(5)」と改める。
(11) 15頁3行目、7行目及び14行目の各「(3)」をいずれも「(4)」と改め
る。
(12) 15頁4・5行目の「トレーニング器具」から5行目の「甲7発明」まで
10 を「そのようなバー10(甲7発明)」と改める。
(13) 16頁3行目の「前示のとおり」の次に「、甲7発明(被告)は、バー1
0と支持クランプ組立体とが一体となって作用効果を奏するものであり」を加える。
(14) 16頁9行目の「重り」を「重りのみ」と改める。
(15) 16頁15行目の「(5)」を「(6)」と改める。
15 (16) 17頁15行目の「このような」から21行目末尾までを「このような甲
8発明の内容に照らすと、甲8発明は、部材1及び2の中央部分を相互に近接する
ように窄まり状に形成することによって解決される課題を有していないといわざる
を得ず、甲7発明又は甲7発明(被告)の副グリップ部18及び20の窄まり形状
を甲8発明の部材1及び2に適用する動機付けはない。その他、甲8発明の部材1
20 及び2に甲7発明又は甲7発明(被告)の副グリップ部18及び20の窄まり形状
を適用する動機付けがあるものと認めるに足りる証拠はない。」と改める。
(17) 18頁7行目の「そもそも」から12行目末尾までを削る。
3 原告の当審における補充主張について
(1) 原告は、甲7公報に記載されたバー10が独立した運動器具の発明である
25 といえるかに関し、①甲7公報記載の発明は、従来技術であるバーベル装置(バー
部分と重り部分からなるもの)における問題(バーが長いことによってバランスを
とることが困難であるとの問題)を解消するため、バー部分を短く改良した三頭筋
運動器具であるところ、バーベル装置においては、重りを着けずにバー部分のみで
運動を行うことが想定されているのであるから、バーベル装置を改良した甲7公報
記載の発明においても、バー10単独での使用が可能である、②甲7公報には、発
5 明の目的及び別の目的に係る記載があるところ、前者の記載にある「中央に位置す
る重り支持セクションを有する」との文言が後者の記載からあえて削除されている
から、甲7公報記載の発明は、重り支持プラットフォーム及び重りを備えない状態
で使用することを当然の前提にしている、③甲7公報記載の発明は、バー10を単
独で使用することによっても一定の作用効果を奏する、④バー10は、三頭筋運動
10 において非常に重要な役割を果たしているとして、甲7公報記載の発明においては、
バー10を独立して捉えることが可能であり、それ自体が独立した運動器具の発明
であると主張する。
そこで検討するに、①甲7公報には、「比較的長いバーを有しバランスをとるこ
とが困難であるなどの従来のバーベル装置が有していた問題を解消するため、本件
15 各発明は、両側にあるハンドルを備える中央の重り支持セクションを有し、各ハン
ドルが複数の握持位置を有する」旨の記載があるが、補正して引用した原判決第4
の1(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、従来のバーベル装置が重り
を着けない状態で使用されることがあるとしても、そのことは、甲7公報記載の発
明においても、バー10のみの状態(重りのみならず支持クランプ組立体をも取り
20 外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるものではない。
また、②甲7公報には、「本発明の目的は、中央に位置する重り支持セクション
を有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティング装置
を提供することである。本発明の別の目的は、複数の握持位置を備える両側にある
ハンドルを有する、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフティ
25 ング装置を提供することである。本発明の別の目的は、end to endの手
の配置を可能にする、三頭筋をエクササイズするための改善されたウエイトリフテ
ィング装置を提供することである。最後に、本発明の全体的な目的は、安価であり、
高い信頼性を有し、その意図される目的を達成するのに高い有効性を有する、説明
した目的のための装置内にある改善された要素及び機材を提供することである。」
との記載があるが、これらの記載は、甲7公報記載の発明の目的について述べるも
5 のであり、その具体的な構成について詳述するものではなく、補正して引用した原
判決第4の1(2)イ(オ)のとおりの甲7公報記載の発明の具体的な構成に係る記載に
も照らすと、「本発明の別の目的」及び「本発明の全体的な目的」に係る各記載中
に「本発明の目的」に係る記載中の「中央に位置する重り支持セクションを有する
…ウエイトリフティング装置」などの記載がないことをもって、甲7公報記載の発
10 明において、バー10のみの状態での使用が想定されているということはできない。
さらに、③前記①において説示したのと同様、補正して引用した原判決第4の1
(4)アにおいて説示したところに照らすと、仮に、重りを取り外した状態で使用す
ることによっても甲7公報記載の発明の効果を奏する場合があるとしても、そのこ
とは、甲7公報記載の発明において、バー10のみの状態(重りのみならず支持ク
15 ランプ組立体をも取り外した状態)での使用が想定されていることの根拠となるも
のではない。
なお、④甲7公報記載の発明においてバー10が重要な役割を果たしているとし
ても、そのことは、原告の主張を直ちに根拠付けるものではない。
以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
20 (2) 原告は、相違点①に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、リング状
の器具をトレーニング器具として用いることは慣用技術であるから、リング状のバ
ー10をトレーニング器具とすることは、単にスポーツ器具用部品であるバー10
に慣用技術を適用するだけのことであり、当業者にとって極めて容易な事柄である
と主張する。
25 しかしながら、これまで説示したとおり、本件においては、バー10のみ(甲7
発明)が独立した引用発明であると認定することはできず、バー10のみならず重
り支持部分をも備えた甲7発明(被告)が引用発明であると認定するのが相当であ
るから、甲7公報記載の発明を引用発明とする本件各発明の進歩性の判断(相違点
①に係るもの)に当たっては、そのような甲7発明(被告)から重り支持部分を取
り除くことについての容易想到性が問題となるところ、甲7発明(被告)における
5 バー10は、甲7発明(被告)を構成する部材の一部であり、重り支持部分と不可
分の部材であるから、バー10のみをもって、原告が主張するリング状の器具であ
るとみることはできない(なお、原告の主張も、リング状の器具として、甲8公報
記載のトレーニング用器具、甲9公報記載の体育器具のほか、ラタンリング、ピラ
ティスリング、ヨガリング、フープ等を念頭に置いている。)。
10 以上によると、原告が慣用技術であると主張する技術の適用により当業者が相違
点①に係る本件各発明の構成に容易に想到することができたとは認められない。
(3) 原告は、相違点①に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、エクササ
イズの幅をより広げる目的で、甲7発明(被告)から重りのみならず重り支持部分
を取り外す動機付けがあると主張するが、仮に、甲7公報記載の発明が「エクササ
15 イズの幅をより広げる」との課題を有するとしても、補正して引用した原判決第4
の1(5)ウ(ア)において説示したとおり、そのことは、重りに加えて重り支持部分ま
で取り外すとの構成を採用する動機付けとなるものではない。
(4) 原告は、相違点①´に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、①甲8
発明の部材4及び5が抜けてしまうことを防止するため、部材1及び2の中央部分
20 を内側に窄めるようにすることは当業者にとっての設計的事項である、②当業者は、
持ち手の幅を自由に変えて幅広いトレーニングに利用することができるようにする
ため、甲8発明の部材1及び2の中央部分を内側に窄めるようにするとの着想を容
易に得るとして、当業者は相違点①´に係る本件各発明の構成に容易に想到し得る
と主張する。
25 しかしながら、①4図から8図までを含む甲8公報の記載によっても、甲8発明
において、部材4及び5が抜けてしまうのを防止するとの課題を有しているものと
認めることはできず、その他、甲8発明がそのような課題を有しているものと認め
るに足りる証拠はない。また、②甲8公報の記載によると、甲8発明は、使用者が
握持する部位を部材3及び6、部材4及び5などとすること、部材3及び4の間隔、
部材3及び5の間隔、部材1及び2の間隔等を適当なものとすること、部材3から
5 6までのほかに部材1及び2を連結する部材を追加することなどにより、関節の角
度に変化をもたせることができ、トレーニングの効果を一層高めることができる発
明であると認められるところ、甲8発明は、このような様々な方法により、持ち手
の幅を自由に変えて幅広いトレーニングに利用することができるものであり、かつ、
そのような技術的内容を有するものとして完成されたものであると認められるから、
10 これらの様々な方法に加えて更に、部材1及び2の中央部分につき、これを内側に
窄めるような構成を採用するまでの動機付けがあるということはできない。
以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
(5) 原告は、相違点②´に係る本件各発明の構成の容易想到性に関し、甲8発
明をよりコンパクトでシンプルな器具とするため、部材4及び5を取り除くとの構
15 成を採用することは当業者において容易に想到することができると主張する。
しかしながら、甲8公報の記載によっても、甲8発明がこれをよりコンパクトで
シンプルな器具とするとの課題を有していると認めることはできず、その他、その
ような事実を認めるに足りる証拠はない。そもそも、原告は、甲8発明から部材4
及び5を取り除くことにより、甲8発明の効果(手で持ったときの関節の角度に変
20 化をつけることでトレーニングの効果に変化を与えるとの効果)が得られなくなる
ことを自認しているところであり、甲8発明において部材4及び5を取り除くとの
構成を採用することに阻害要因があることは明らかである。
以上のとおりであるから、原告の主張を採用することはできない。
4 結論
25 よって、当裁判所の判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないか
らこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
5 裁判長裁判官
清 水 響
裁判官
浅 井 憲
裁判官
勝 又 来 未 子
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