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令和4(行ケ)10112審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和5年10月30日
事件種別 民事
当事者 原告三共工業株式会社
被告Y1 Y2
対象物 有料自動機の制御システム
法令 特許権
特許法29条1項1号5回
特許法29条1項3号3回
特許法29条2項2回
特許法17条の22回
キーワード 審決63回
無効23回
進歩性6回
実施5回
新規性4回
特許権1回
無効審判1回
刊行物1回
分割1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 特許庁における手続の経緯等25
536号。以下「原出願」という。)の一部を分割して、平成30年4月23日、発
2)。
1-800072号)を請求した。
2 特許請求の範囲の記載
1又は2に記載のランドリー装置の制御システム。
3」といい、それらを合わせて「本件各発明」という。下線は、本件訂正による訂
3 本件審決の理由
580号公報(甲22)、特開2007-249510号公報(甲23)及び特開2
005-339046号公報(甲24)に記載された事項を理由とする進歩性の欠10
3に記載された事項を理由とする進歩性の欠如)、③無効理由3につき、無効理由320
1―2は、引用発明1とこの副引用発明に基づいて容易想到であるとはいえない。
5は、引用発明1とこの周知技術に基づいて容易想到であるとはいえない。
1 取消事由1(無効理由1の判断の誤り)15
1-2を認定した本件審決は誤りである。
0を組み合わせて相違点1-1及び相違点1-2の構成に変更する動機付けがある
1において、運転中か否かを示す情報を出力し、複数のランドリー装置が運転中で
232C対応インターフェース」のいずれかをカードリードライト部から分離して
1-2の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。15
1-5の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(無効理由2の判断の誤り)
27年9月9日よりも前に発売されて公知となっている本件実機の構成を明らかに
7~10により認定できる発明)の構成を明らかにするものであり、リバースエン25
3 取消事由3(甲7を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由2関係)
0の技術的思想を組み合わせることで、相違点2-1及び相違点2-2は容易想到
4 取消事由4(補正要件違反について)(無効理由4関係)
1 本件発明について
0を通じて有料自動機制御部10へ送出する。禁止処理部26は、後述する管理サー
61と、店舗指定欄61により指定された店舗に設置されている各有料自動機Lの
27から送信された動作状態が表示されたものである。第1の状態表示欄65には、
27から送信された有料自動機Lの動作状態を表示する動作状態表示手段43を有
02】、【0003】)
2 引用発明について
32C対応インターフェース、CPU21、RAM、ROM、I/Oインターフェー5
012年1月20日」と記載され、甲9の表紙には「発売2012.01」と記載10
2が本件特許に係る出願前(平成27年9月9日の原出願の出願前)に公知であっ
4ピン白及び4ピン青のコネクタが自身のコネクタに接続されるものであり、
3 取消事由1について
1と相違するといえる。20
4 取消事由2について10
2の3(3)のとおりの相違点2-1及び相違点2-2が認められる。
5 取消事由3について
6 取消事由4について15
0を通じて有料自動機制御部10へ送出する。禁止処理部26は、後述する管理サー
36」と「通信部29」を有すること(【0015】)が記載されていたものと認め
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等25 (1) 被告らは、平成27年9月9日に出願した特許出願(特願2015-177 536号。以下「原出願」という。)の一部を分割して、平成30年4月23日、発 明の名称を「有料自動機の制御システム」とする発明について、新たな特許出願(特 願2018-82414号。以下、「本件出願」という。)をし、平成31年3月7 日付けで特許請求の範囲についての補正(補正により請求項の数が2から3に増加 した。また、補正部分は特許請求の範囲についてであり、明細書及び図面に補正は5 ない。甲31。以下「本件補正」という。)を行い、同年4月19日、特許権の設定 登録(特許第6513856号。請求項の数3。以下、この特許を「本件特許」と いい、本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)を受けた(甲 2)。 (2) アクア株式会社は、令和元年11月8日、本件特許について特許異議の申立10 て(異議2019-700891号)をし、被告らは、令和2年3月31日、訂正 請求を行い、特許庁は、同年7月8日、訂正請求を認容して特許を維持する旨の異 議の決定をした(甲1、25、36。認容された訂正請求による訂正を「本件訂正」

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判決文

令和5年10月30日判決言渡
令和4年(行ケ)第10112号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年8月28日
判 決
原 告 三 共 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 河 部 康 弘
藤 沼 光 太
10 同訴訟代理人弁理士 本 谷 孝 夫
被 告 Y1
被 告 Y2
15 上記両名訴訟代理人弁護士 高 橋 雄 一 郎
同訴訟代理人弁理士 望 月 尚 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2021-800072号事件について令和4年9月28日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
25 1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告らは、平成27年9月9日に出願した特許出願(特願2015-177
536号。以下「原出願」という。)の一部を分割して、平成30年4月23日、発
明の名称を「有料自動機の制御システム」とする発明について、新たな特許出願(特
願2018-82414号。以下、「本件出願」という。)をし、平成31年3月7
日付けで特許請求の範囲についての補正(補正により請求項の数が2から3に増加
5 した。また、補正部分は特許請求の範囲についてであり、明細書及び図面に補正は
ない。甲31。以下「本件補正」という。)を行い、同年4月19日、特許権の設定
登録(特許第6513856号。請求項の数3。以下、この特許を「本件特許」と
いい、本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。 を受けた
) (甲
2)。
10 (2) アクア株式会社は、令和元年11月8日、本件特許について特許異議の申立
て(異議2019-700891号)をし、被告らは、令和2年3月31日、訂正
請求を行い、特許庁は、同年7月8日、訂正請求を認容して特許を維持する旨の異
議の決定をした(甲1、25、36。認容された訂正請求による訂正を「本件訂正」
という。 。

15 (3) 原告は、令和3年8月24日、本件特許について特許無効審判(無効202
1-800072号)を請求した。
特許庁は、令和4年9月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決
(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年10月7日、原告に送達され
た。
20 (4) 原告は、同月28日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
現金を投入する現金投入部、前記現金投入部への現金の投入を検知して検知信号
25 を出力する現金投入検知部、および、前記検知信号に基づいて有料自動機の動作を
制御する有料自動機制御部を有する有料自動機の制御システムであって、
前記現金投入検知部と前記有料自動機制御部との間に接続されるポイントカー
ド装置と、
前記ポイントカード装置と電気通信回線により接続される管理サーバと、
前記有料自動機の動作を検知するセンサーとを含み、
5 前記ポイントカード装置は、前記センサーの検知信号に基づいて前記有料自動機
の動作状態を監視し、結果を前記管理サーバへ送信する動作状態監視部を有するも
のであり、
前記管理サーバは、前記動作状態監視部から送信された前記有料自動機の動作状
態を表示する動作状態表示手段を有するものである
10 有料自動機の制御システム。
【請求項2】
前記センサーは、前記有料自動機の電源コードに接続された電流センサーである
請求項1記載の有料自動機の制御システム。
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1から3までの記載は、次のとおりで
15 ある。
【請求項1】
複数のランドリー装置の各々に対応して配置されるICカードリーダー/ライ
タ部と通信部とを有する装置と前記複数のランドリー装置の稼働状況に関する情報
を集める管理サーバとからなるランドリー装置の制御システムであって、
20 複数のランドリー装置の各々は、現金を投入する現金投入部、前記現金投入部へ
の現金の投入を検知して現金投入の検知信号を出力する現金投入検知部、および、
前記現金投入の検知信号の入力に応じてランドリー装置の動作を制御するランド
リー装置制御部を有し、
前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置は、前記ICカード
25 リーダー/ライタ部が読み取った情報に基づき前記検知信号と同じ信号を前記ラン
ドリー装置制御部に送出し、接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか
否かを示す情報を出力し、
前記ランドリー装置制御部は、対応して配置されているICカードリーダー/ラ
イタ部と通信部とを有する装置より出力された前記現金投入の検知信号と同じ信号
の入力に応じて前記ランドリー装置を制御し、
5 前記管理サーバは、前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置
が出力した前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を用いて、前記複
数のランドリー装置の各々が運転中か否かを示す運転情報を作成し、前記運転情報
を前記管理サーバに電気通信回線を介して接続された表示装置を有する端末に提供
することを特徴とするランドリー装置の制御システム。
10 【請求項2】
複数のランドリー装置の各々は、前記複数のランドリー装置を特定するための機
器番号を有し、
前記管理サーバは、前記運転情報を前記複数のランドリー装置を特定するための
機器番号に関連づけて作成することを特徴とする請求項1に記載のランドリー装置
15 の制御システム。
【請求項3】
前記ICカードリーダー/ライタ部は非接触型であることを特徴とする請求項
1又は2に記載のランドリー装置の制御システム。
(3) 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1から3までの記載は、次のとおりで
20 ある(以下、請求項1~3に係る発明を「本件発明1」「本件発明2」 「本件発明
、 、
3」といい、それらを合わせて「本件各発明」という。下線は、本件訂正による訂
正箇所を示す。また、分説記号A~Hは本件審決によるものであり、以下、当該分
説による各構成につき、「構成A」 「構成B」などと示す。甲1、36)
、 。
【請求項1】
25 A 複数のランドリー装置の各々に対応して配置されるICカードリーダー/
ライタ部と通信部とを有する装置と前記複数のランドリー装置の稼働状況に関する
情報を集める管理サーバとからなるランドリー装置の制御システムであって、
B 複数のランドリー装置の各々は、現金を投入する現金投入部、前記現金投入
部への現金の投入を検知して現金投入の検知信号を出力する現金投入検知部、およ
び、前記現金投入の検知信号の入力に応じてランドリー装置の動作を制御するラン
5 ドリー装置制御部を有し、
C 前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置は、前記IC
カードリーダー/ライタ部が読み取った情報に基づき前記検知信号と同じ信号を前
記ランドリー装置制御部に送出し、接続されている前記ランドリー装置が運転中で
あるか否かを示す情報を生成し、かつ出力し、
10 D 前記ランドリー装置制御部は、対応して配置されているICカードリーダー
/ライタ部と通信部とを有する装置より出力された前記現金投入の検知信号と同じ
信号の入力に応じて前記ランドリー装置を制御し、
E 前記管理サーバは、前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する
装置が出力した前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を用いて、前
15 記複数のランドリー装置の各々が運転中か否かを示す運転情報を作成し、前記運転
情報を前記管理サーバに電気通信回線を介して接続された表示装置を有する端末に
提供することを特徴とするランドリー装置の制御システム。
【請求項2】
F 複数のランドリー装置の各々は、前記複数のランドリー装置を特定するため
20 の機器番号を有し、
G 前記管理サーバは、前記運転情報を前記複数のランドリー装置を特定するた
めの機器番号に関連づけて作成することを特徴とする請求項1に記載のランドリー
装置の制御システム。
【請求項3】
25 H 前記ICカードリーダー/ライタ部は非接触型であることを特徴とする請
求項1又は2に記載のランドリー装置の制御システム。
3 本件審決の理由
(1) 理由の要旨
本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりである。その理由の要旨は、
①無効理由1につき、無効理由1-1(本件各発明につき、特許出願前に頒布され
5 た刊行物(特開2001―147974号公報(甲3) に記載された発明
) (以下「引
用発明1」という。 であることを理由とする新規性の欠如)
) 及び無効理由1-2(本
件各発明につき、引用発明1を主引用例とし、特開2006-202128号公報
(甲20)、特開2005-334151号公報(甲21)、特開2005-202
580号公報(甲22)、特開2007-249510号公報(甲23)及び特開2
10 005-339046号公報(甲24)に記載された事項を理由とする進歩性の欠
如)、②無効理由2につき、無効理由2-1(本件発明1及び2につき、特許出願前
に公然知られた発明(いずれもハイアールアクアセールス株式会社作成のサービス
技術資料・ITランドリーシステム通信キット「HIT―330IF2」(甲7)、
サービス技術資料・コイン式スニーカーウォッシャー「MCW―W6C」(甲8)、
15 サービス技術資料・カードコントローラー「HIC―163T」
(甲9)及びカタロ
グ・IC+ITランドリーシステム(甲10)に記載された機器及びシステムが一
体として使用されることが予定されており、これらを組み合わせた実機そのものに
よる一つの技術思想(以下「引用発明2」という。)であることを理由とする新規性
の欠如)及び無効理由2-2(本件発明3につき、引用発明2を主引用例とし、甲
20 3に記載された事項を理由とする進歩性の欠如) ③無効理由3につき、
、 無効理由3
-1(本件発明1及び2につき、甲7に記載された発明(以下「引用発明3」とい
う。)を主引用例とし、甲8~10に記載された事項を理由とする進歩性の欠如)及
び無効理由3-2(本件発明3につき、引用発明3を主引用例とし、甲8~10及
び甲3に記載された事項を理由とする進歩性の欠如) ④無効理由4
、 (補正要件違反)
25 は、いずれも理由がないというものである。
本件審決の無効理由1~3の一致点及び相違点の認定並びに相違点に関する判
断、無効理由4における本件補正に対する判断の概要は、以下のとおりである。
(2) 無効理由1について
ア 本件発明1
(ア) 本件審決が認定した本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、次のと
5 おりである。
(一致点)
複数のランドリー装置の各々に対応して配置されるカードRW通信装置と前記複
数のランドリー装置の稼働状況に関する情報を集める管理コンピュータからなるラ
ンドリー装置の制御システムであって、
10 複数のランドリー装置の各々は、ランドリー装置の動作を制御するランドリー装
置制御部を有し、
カードRW通信装置は、ICカードリーダー/ライタ部が読み取った情報に基づ
く信号を前記ランドリー装置制御部に送出し、ランドリー装置の情報を出力し、
ランドリー装置制御部は、対応して配置されているカードRW通信装置より出力
15 された信号の入力に応じてランドリー装置を制御し、
管理コンピュータは、カードRW通信装置が出力したランドリー装置の情報を用
いて作成する情報を管理コンピュータに電気通信回線を介して接続された表示装置
を有する端末に提供する、
ランドリー装置の制御システム。
20 (相違点1-1:構成Bに係る相違点)
本件発明1の「ランドリー装置の各々」は、
「現金を投入する現金投入部、前記現
金投入部への現金の投入を検知して現金投入の検知信号を出力する現金投入検知部」
を有し、
「ランドリー装置制御部」 「前記現金投入の検知信号」
は (「現金投入検知部」
が出力する「現金投入の検知信号」)の「入力に応じて」ランドリー装置の動作を制
25 御するのに対し、引用発明1の「ランドリー装置の各々」は、
「現金を投入する現金
投入部、前記現金投入部への現金の投入を検知して現金投入の検知信号を出力する
現金投入検知部」 「現金投入検知部」が出力する「現金投入の検知信号」を有して

いない点。
(相違点1-2:構成C、Dに係る相違点)
カードRW通信装置がランドリー装置制御部に送出し、ランドリー装置に入力す
5 る信号は、本件発明1では、
「前記検知信号と同じ信号」
(つまり「ランドリー装置」
が有する「現金投入検知部」が出力する「現金投入の検知信号」と「同じ信号」)で
あるのに対し、引用発明1では、
「ランドリー装置」が有する「現金投入検知部」が
ないことから、「前記検知信号と同じ信号」ではない点。
(相違点1-3:構成Cに係る相違点)
10 本件発明1のカードRW通信装置は、ランドリー装置の情報として「接続されて
いる前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」 「生成」
を かつ「出力」
するものであるのに対し、引用発明1のカードRW通信装置は、ランドリー装置の
情報として「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」
を「生成」して「出力」するものでない点。
15 (相違点1-4:構成A、Eに係る相違点)
本件発明1の管理コンピュータは、
「管理サーバ」であるのに対し、引用発明1の
管理コンピュータは、パソコン20であって「サーバ」でない点。
(相違点1-5:構成Eに係る相違点)
本件発明1の管理コンピュータは、カードRW通信装置が出力したランドリー装
20 置の情報を用いて「運転情報を作成」し、この「運転情報」を提供するのに対し、
引用発明1の管理コンピュータは、「前記複数のランドリー装置の各々が運転中か
否かを示す運転情報を作成」しておらず、この「運転情報」を提供するのではない
点。
(イ) 上記各相違点の判断
25 a 相違点1―1及び1―2について
相違点1-1に係る本件発明1の構成Bにおける「複数のランドリー装置の各々」
が有する「現金投入検知部」が出力する「現金投入の検知信号」及び相違点1-2
に係る構成Cにおける「前記検知信号と同じ信号」という構成は、現金利用の場合、
従来のコインランドリーである「ランドリー装置」に装備された「現金投入検知部」
からの「現金投入の検知信号」を用いてランドリー装置が制御されることを前提と
5 して、カード利用の場合には「前記検知信号と同じ信号」をランドリー装置に出力
する旨を特定している。本件発明1におけるこの前提は、引用発明1のような「金
銭登録機能付きカードリードライター」の金銭登録機能を用いることによって従来
のコインランドリー等に装備された金銭登録装置を用いない発明と相いれない。
したがって、引用発明1に基づいて相違点1-1及び1-2について容易想到と
10 する論理付けのための動機付けはなく、むしろ甲3の記載により、この論理付けは
阻害される。
仮にこれらの相違点に関する副引用発明が存在するとしても、相違点1―1及び
1―2は、引用発明1とこの副引用発明に基づいて容易想到であるとはいえない。
b 相違点1―3及び1―5について
15 引用発明1を、カードRW通信装置からパソコン20にランドリー装置が運転中
か否かを示す情報を出力し、パソコン20でこの情報を用いて複数のランドリー装
置が運転中であるか否かを示す運転情報を作成するように変更することは、甲3の
記載内容と相いれないものであるから、相違点1-3及び1-5について容易想到
とする論理付けのための動機付けはなく、むしろ甲3の記載により、この論理付け
20 は阻害される。
仮にこれらの相違点に係る周知技術が存在するとしても、相違点1-3及び1-
5は、引用発明1とこの周知技術に基づいて容易想到であるとはいえない。
(ウ) 小括
以上によると、本件発明1と引用発明1とは、相違点1-1~1-5において相
25 違していることから、本件発明1は、引用発明1ではなく、特許法29条1項3号
に該当しない。
また、相違点1-1~1-3及び1-5について容易想到であるといえないから、
本件発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの
ではない。
イ 本件発明2
5 (ア) 本件審決が認定した本件発明2と引用発明1の一致点及び相違点は、次のと
おりである。
(一致点)
本件発明2の構成Fと引用発明1の「洗濯機の各々は、
「機械番号(装置タイプ+
装置No)」を有するものであり、乾燥機についても同様であり、」との構成(本件
10 審決における引用発明1の構成f)において一致する。
(相違点)
前記ア(ア)の相違点1-1~1-5に加え、本件発明2の構成Gと引用発明1の
「パソコン20は、データ集積結果を機械番号に関連付けて作成するものであり、」
との構成(本件審決における引用発明1の構成g)が相違点(相違点1-6)とな
15 る。
(イ) 上記各相違点の判断及び小括
以上によると、本件発明2は、引用発明1ではないから、特許法29条1項3号
に該当しない。
また、前記ア(イ)のとおり、本件発明2は、相違点1-1~1-3及び1-5につ
20 いて容易想到であるといえないから、本件発明2は、引用発明1に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件発明3
(ア) 本件審決が認定した本件発明3と引用発明1の一致点及び相違点は、次のと
おりである。
25 (一致点)
本件特許発明3の「ICカードリーダー/ライタ部は非接触である」点と引用
発明1のカードリードライターのカードリードライト部は「接触式又は非接触式I
Cカード」のものである点。
(相違点)
前記ア(ア)の相違点1-1~1-3及び1-5。
5 (イ) 上記各相違点の判断及び小括
以上によると、本件発明3と引用発明1とは、相違点1-1~1-5において相
違していることから、本件発明3は、引用発明1ではなく、特許法29条1項3号
に該当しない。
また、前記ア(イ)のとおり、相違点1-1~1-3及び1-5について容易想到で
10 あるといえないから、本件特許発明3は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものでない。
(3) 無効理由2について
ア 本件発明1
(ア) 本件審決が認定した本件発明1と引用発明2の一致点及び相違点は、次のと
15 おりである。
(一致点)
複数のランドリー装置の各々に対応して配置されるICカードリーダー/ライ
タ部と通信部とを有する装置と前記複数のランドリー装置の稼働状況に関する情報
を集める管理サーバとからなるランドリー装置の制御システムであって、
20 複数のランドリー装置の各々は、現金を投入する現金投入部、前記現金投入部へ
の現金の投入を検知して現金投入の検知信号を出力する現金投入検知部、および、
前記現金投入の検知信号の入力に応じてランドリー装置の動作を制御するランド
リー装置制御部を有し、
前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置は、前記検知信号と
25 同じ信号を前記ランドリー装置制御部に送出し、接続されている前記ランドリー装
置が運転中であるか否かを示す情報を出力し、
前記ランドリー装置制御部は、対応して配置されているICカードリーダー/ラ
イタ部と通信部とを有する装置より出力された前記現金投入の検知信号と同じ信号
の入力に応じて前記ランドリー装置を制御し、
前記管理サーバは、前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置
5 が出力した前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を用いて、前記複
数のランドリー装置の各々が運転中か否かを示す運転情報を作成し、前記運転情報
を前記管理サーバに電気通信回線を介して接続された表示装置を有する端末に提供
することを特徴とするランドリー装置の制御システム。
(相違点2-1:構成Cに係る相違点)
10 本件発明1の「前記検知信号と同じ信号」
(ICカードリーダー/ライタ部と通信
部とを有する装置がランドリー装置制御部に送出する信号)は、「前記ICカード
リーダー/ライタ部が読み取った情報に基づ」いて送出されるものであるのに対し、
引用発明2の「前記検知信号と同じ信号」は、
「前記ICカードリーダー/ライタ部
が読み取った情報に基づ」いて送出されるものであるか否かが明らかでない点。
15 (相違点2-2:構成Cに係る相違点)
本件発明1の「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」が出力
する「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」は、
「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」が「生成」したもので
あるのに対し、引用発明2の「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する
20 装置」が出力する「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示
す情報」は、「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」が「生成」
したものであるか否かが不明である点。
(イ) 小括
以上によると、本件発明1と引用発明2とは、相違点2-1及び2-2において
25 相違していることから、本件発明1は、特許法29条1項1号に該当しない。
イ 本件発明2
(ア) 本件審決が認定した本件発明2と引用発明2の一致点及び相違点は、次のと
おりである。
(一致点)
本件特許発明2の構成F及び構成Gと引用発明2の「サーバは、サーバにおい
5 て複数の運転中の機器のアニメーション表示を行うにあたって、情報を送信出力す
るアクアカードコントローラに対応する機器の番号とアニメーション表示とを対応
付ける、システム。 (本件審決における引用発明2の構成fg’ 。
」 )
(相違点)
前記ア(ア)の相違点2-1及び2-2。
10 (イ) 小括
以上によると、本件発明2は、特許法29条1項1号に該当しない。
ウ 本件発明3
(ア) 本件審決が認定した本件発明3と引用発明2との相違点は、次のとおりであ
る。
15 (相違点)
前記ア(ア)の相違点2-1及び2-2に加え、本件発明3の「ICカードリーダー
/ライタ部は非接触である」点が相違点(相違点2-3)となる。
(イ) 小括
原告は、相違点2―1及び2―2について容易想到である旨の主張を行っておら
20 ず、また、この点が容易想到であるとするに足る証拠は見当たらない。
したがって、本件発明3は、引用発明2と甲3に記載された事項に基づき当業者
が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 無効理由3について
ア 本件発明1及び2
25 (ア) 本件審決が認定した本件発明1及び2と引用発明3との一致点及び相違点は、
次のとおりである。
(一致点)
複数のランドリー装置の各々に対応して配置されるICカードリーダー/ラ
イタ部と通信部とを有する装置と前記複数のランドリー装置の稼働状況に関する情
報を集める管理サーバとからなるランドリー装置の制御システム。
5 (相違点)
本件発明1と引用発明3とは、本件発明1が構成B~構成Eを有するのに対して
引用発明3がこれらを有しない点で相違し、本件発明2と引用発明3とは、本件発
明2が構成F及び構成Gを有するのに対して引用発明3はこれらを有しない点でも、
更に相違する。
10 これらの相違点には、構成Cが含まれており、本件発明1及び2と引用発明3と
は、本件発明1及び2が前記(3)ア(ア)の相違点2-1及び2-2に係る構成を含む
構成を有するのに対し、引用発明3はそのような構成を含まない点で相違する。
(イ) 上記相違点の判断及び小括
甲7~10には、相違点2-1及び2-2に対応する内容が記載されておらず、
15 本件発明1及び2は、引用発明3と甲8~10に記載された事項に基づいて当業者
が容易に発明することができたものではない。
イ 本件発明3
前記(3)ウ及び前記アによると、本件発明3は、引用発明3と甲8~10及び甲3
に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
20 (5) 無効理由4について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載から「前記有料自動機の動作を検
知するセンサー」を有する旨の特定を除く旨の補正事項を含むものであり、この補
正事項は、具体的には、本件補正前の記載における「前記有料自動機の動作を検知
するセンサーとを含み、」から「前記有料自動機の動作を検知するセンサーと」を削
25 除し、更に「前記ポイントカード装置は、前記センサーの検知信号に基づいて前記
有料自動機の動作状態を監視し、結果を前記管理サーバへ送信する動作状態監視部
を有するものであり、」から「前記センサーの検知信号に基づいて」を削除するもの
である。この補正事項は、発明特定事項を削除するものであって、発明特定事項の
追加を含んでいない。
また、本件補正は、補正前の特許請求の範囲の記載における「前記有料自動機の
5 動作を検知するセンサー」を有する旨の特定及び有料自動機の動作状態の監視を「前
記センサーの検知信号に基づいて」行う旨の特定を除く旨の補正事項を含むもので
あるといえるものの、この補正事項は、発明特定事項を追加する内容を含むもので
なく、本件特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以
下「当初明細書等」という。)の記載を総合することで導かれる事項との関係で新た
10 な技術的事項を導入するものでもない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしてい
るから、本件特許は、同項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に
対してされたものではなく、無効理由4は理由がない。
第3 当事者の主張
15 1 取消事由1(無効理由1の判断の誤り)
(1) 原告の主張
ア 相違点1-1及び1-2について
本件審決は、相違点1-1及び1-2について、甲3は、従来の金銭登録装置が
装備されていた提供装置(【0007】【0011】
、 )に代えて、
「金銭登録機能付き
20 カードリードライター」を提供装置に設けることで【0007】~【0013】の
課題を解決したものであり、甲3において、従来の提供装置に装備された金銭登録
装置を用いるように変形することは想定されていないこと、本件発明1の「現金投
入の検知信号」、
「前記検知信号と同じ信号」 「ランドリー装置」
は、 に装備された「現
金投入検知部」からの「現金投入の検知信号」を用いてランドリー装置が制御され
25 ることを前提として、カード利用の場合に「前記検知信号と同じ信号」を用いるも
のであり、
「金銭登録機能付きカードリードライター」の金銭登録機能、すなわち従
来の提供装置が装備した金銭登録装置を用いない甲3とは相いれないことによると、
甲3記載の引用発明1に基づいて相違点1-1及び相違点1-2について容易想到
とする論理付けのための動機付けはなく、むしろ甲3の記載により、この論理付け
は阻害されるから、容易想到とはいえないと判断した。
5 (ア) 相違点1-1及び1-2の認定の誤り
しかしながら、甲3の【0204】には「金銭登録機能」が「提供装置Siに内
蔵されてもよい」と記載され、提供装置への稼働指示を行うことも記載されている
から、CPU21、機器コントローラ24及びスタートボタンも提供装置Siに内
蔵することが記載されているといえる。また、カードの場合も「コインパルス信号」
10 が入力されることが甲3に記載されている。したがって、相違点1-1及び相違点
1-2を認定した本件審決は誤りである。
(イ) 相違点1-1及び1-2の容易想到性の判断の誤り
相違点1-1及び1-2は、現金投入口と現金投入検知部がランドリー装置に設
置されているか、ICカードリードライターに設置されているかの違いであり、制
15 御処理としては同じであること、元々現金投入のみによって動くランドリー装置に
後からICカードリーダーを取り付けることになると、ICカードリードライター
も現金投入の検知信号と同じ信号によってランドリー装置を動かすことは必然的に
採用される構成であること、既にランドリー装置を有している顧客に対しICカー
ドリーダーライターを含めたシステムを販売したいという動機付けによって、既存
20 のランドリー装置に引用発明1を適用することが行われるから、引用発明1に甲2
0を組み合わせて相違点1-1及び相違点1-2の構成に変更する動機付けがある
こと、課題との関係で金銭登録装置の位置を変更することに阻害要因はないこと、
金銭登録装置をランドリー装置に設けることは、単に従来技術に戻すことであり、
極めて容易である。したがって、相違点1-1及び相違点1-2を容易想到とはい
25 えないと判断した本件審決は誤りである。
イ 相違点1-3及び1-5について
本件審決は、相違点1-3及び1-5について、引用発明1においてカードRW
通信装置からパソコン20に送信される「カードに記録された「装置No」、カード
に係る「管理番号」 「利用金額」 「登録残高」 「利用日」 「利用時間」 「環境コー
、 、 、 、 、
ド」「店舗コード」の情報」は、パソコン20における集計処理や提供対価の増減

5 のためのものであり、むしろ運転後であることを示すものであること、このことは、
甲3の【0007】~【0013】において、販売促進や提供対価の調整について
の課題や目的を示しており、
「運転中か否か」の情報を集計することに係る課題や目
的を示していないこと等からも明らかであることからすると、甲3記載の引用発明
1において、運転中か否かを示す情報を出力し、複数のランドリー装置が運転中で
10 あるか否かを示す運転情報を作成するように変更することが、甲3の記載内容と相
いれず、相違点1-3及び1-5について容易想到とする動機付けはないから、容
易想到とはいえないと判断した。
(ア) 相違点1-3及び1-5の認定の誤りについて
甲3の【0203】には「情報読取記録装置Riは提供装置Siが稼働中である
15 場合は、その稼働中の表示を行ない」と記載されており、
「運転中であるか否かを示
す情報」を作成していること、甲3の【0108】及び図11には「利用時間幅」
を記録することが記載されており、運転中であるか否かの判断に用いることのでき
る情報が生成されているといえること、甲3の【0271】には、中央指揮パソコ
ン40に定期的に稼働実績情報を送信することが記載され、送信の間隔を短くする
20 こと、例えばリアルタイムで送信することも否定されておらず、1分単位で稼働率
を監視すれば、稼働率100%なら当該ランドリー装置は運転中であること、0%
なら運転中ではないことが分かり、ユーザーの利用に耐え得る「運転中であるかを
示す」情報になるから、甲3は「運転中であるか否かを示す」情報を作成している
といえる。したがって、相違点1-3及び相違点1-5を認定した本件審決は誤り
25 である。
(イ) 相違点1-3及び1-5の容易想到性の判断の誤りについて
甲3の【0203】には、情報読取記録装置Riが提供装置Si稼働中の表示を
行うことが記載されており、運転中であるか否かを示す情報を提供する示唆があり、
パソコン20が有する料金に関する情報から運転中であるか否かを推測することは
容易であること、本件特許の原出願日である平成27年9月9日当時においては、
5 甲3の優先日である平成11年6月29日当時と異なり、リアルタイム通信が極め
て容易な環境にあり、引用発明1に甲20~24を組み合わせて現在の稼働状況も
チェックできるようにしようと考えることは容易であることなどからすると、相違
点1-3及び相違点1-5について容易想到とはいえないと判断した本件審決は誤
りである。
10 ウ 相違点1-4について
本件各発明における「サーバ」の定義からみて、甲3の「パソコン20」も「管
理サーバ」に該当する。したがって、相違点1-4を認定した本件審決の判断は誤
りである。
エ 相違点1-6について
15 前記イ(ア)によると、相違点1-6の認定も誤っていることとなる。
オ 小括
以上のとおり、本件審決における相違点1-1~1-6の認定及び容易想到性の
判断に誤りがあり、この誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものであるから、
本件審決は、取り消されるべきである。
20 (2) 被告らの主張
ア 相違点1-1及び1-2について
(ア) 相違点1-1及び1-2の認定に誤りがないことについて
「金銭登録機能」 「金銭登録部」
は を意味すると解すべきであり、
「金銭登録機能」
が提供装置Siに内蔵されている構成を選択したとしても、甲3は「CPU21」、
25 「機器コントローラ21」 「RAM22」及び「パソコン20への接続を行うRS

232C対応インターフェース」のいずれかをカードリードライト部から分離して
設けることは想定されていないこと、引用発明1に「ランドリー装置」が有する「現
金投入検知部」がない以上、コインパルス信号は本件各発明の「前記検知信号と同
じ信号」に対応しないことは明らかであることによると、相違点1-1及び1-2
の認定に誤りはない。
5 (イ) 相違点1-1及び1-2の容易想到性の判断に誤りがないことについて
本件各発明は、現金利用の場合はランドリー装置に装備された「現金投入検知部」
からの「現金投入の検知信号」を用いてランドリー装置を制御することを前提に、
カード利用の場合は「前記検知信号と同じ信号」をランドリー装置に出力する構成
としたものであって、相違点1-1及び1-2は本件各発明の課題の前提となるも
10 のであるところ、引用発明1は、従来のコインランドリー等に装備された金銭登録
装置を用いずに「金銭登録機能付きカードリーダライター」の金銭登録機能を用い
ることにより、稼働データと現金の集計の問題を解決するものであるから、引用発
明1の課題に係る構成と本件発明1の課題に係る構成とは相いれないものであり、
容易想到とする動機付けがない。したがって、本件審決における相違点1-1及び
15 1-2の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
イ 相違点1-3及び1-5について
(ア) 相違点1-3及び1-5の認定に誤りがないことについて
引用発明1の情報読取記録装置Riが生成する情報はサーバなどに送信されて
いないこと、引用発明1の「稼働実績情報」は販売促進を図るための利用状況の集
20 計データであること、引用発明1の解決すべき課題を考慮すれば、1分単位で稼働
状況を監視するものとする動機付けはなく、相違点1-3及び1-5の認定に誤り
はない。
(イ) 相違点1-3及び1-5の容易想到性の判断に誤りがないことについて
引用発明1の「稼働実績情報」は販売促進を図るための利用状況の集計データで
25 あり、現在運転しているか否かとは無関係の情報であること、甲3は、現在運転し
ているか否かの情報を集計することに係る課題や目的を示していないことによると、
容易想到とする動機付けがない。したがって、本件審決における相違点1-3及び
1-5の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
ウ 相違点1-4について
甲3において、サーバを必要とするのであれば、サーバと記載していたはずであ
5 るのに、コンピュータと記載されていることからすると、引用発明1においては、
コンピュータサーバの機能は不要であるから、相違点1-4を認定した本件審決の
判断に誤りはない。
エ 相違点1-6について
前記イ(ア)のとおり、引用発明1の「稼働実績情報」は販売促進を図るための利用
10 状況の集計データであって「運転情報」に対応せず、相違点1-6があるとした本
件審決に誤りはない。
2 取消事由2(無効理由2の判断の誤り)
(1) 原告の主張
ア 本件審決は、本件発明1が、前記第2の3(3)の相違点2-1及び2-2にお
15 いて引用発明2と相違するから、特許法29条1項1号に該当しないと判断した。
イ しかしながら、引用発明2に係る確認試験報告書(以下「本件報告書」とい
う。甲12)は、アクアウォッシャー「MCW-W6C」
(製造年平成27年)にア
クアカードコントローラ「HIC-I63T」
(製造年月平成26年10月)が取り
付けられた実機とコインランドリー総合サイト「LAUNDRICH」において同
20 アクアウォッシャーの稼働状況が確認できるシステム(以下「本件実機」という。)
の構成を確認し、特に名称変更や型番変更などがされていない本件実機は平成24
年1月の発売当初と構成は同じであろうという経験則に従い、原出願日である平成
27年9月9日よりも前に発売されて公知となっている本件実機の構成を明らかに
することで、原出願日前にハイアールアクアセールス株式会社が発売した実機(甲
25 7~10により認定できる発明)の構成を明らかにするものであり、リバースエン
ジニアリング可能な状態で販売されていれば、それにより知り得た内容は公知とい
えること、複雑な暗号がかけられているわけでもなく、本件報告書の実験のように、
オシロスコープのような基礎的な計測機器を利用して明らかにできる事項は、公知
になっているというべきある。
そして、本件報告書に記載された確認試験①~⑩によると、アクアウォッシャー
5 を運転した場合の基本動作(確認試験①、②)、アクアウォッシャーのコインボック
スからアクアカードコントローラ、アクアカードコントローラからアクアウォッ
シャーの制御基板との接続(確認試験③)、アクアカードコントローラは、現金投入
を検知したことを示すパルス信号と同じパルス信号をアクアウォッシャーに出力し
ていること(確認試験④、⑤)、アクアカードコントローラのモジュラージャックか
10 らLANケーブルのプラグを取り外すと稼働状況が表示されなくなり、再接続する
と稼働状況が表示されることから、アクアカードコントローラが、少なくとも運転
状況を推認させる何らかの情報をLAUNDRICHのサーバに出力していること
(確認試験⑥、⑦)、仮に、アクアカードコントローラとサーバとの間に何らかの機
器が存在し、その機器が「運転中であるか否かの情報を生成し、かつ、出力し」て
15 いるとすれば、動作開始後接続するまでの間の時間の情報を入手できず、当該時間
を減算した表示はできないはずであるから、アクアカードコントローラが、
「運転中
であるか否かの情報を生成し、かつ、出力し」ていること(確認試験⑧)、アクア
ウォッシャーの電源をオフにしても稼働状況が確認できている以上、アクアウォッ

シャーが運転中であるか否かを示す情報」を生成も出力もしていないこと(確認試
20 験⑨)、仮に、アクアカードコントローラとサーバの間に何らかの機器が存在し、そ
の機器が「運転中であるか否かの情報を生成し、かつ、出力し」ているとすれば、
動作開始後接続するまでの間の時間の情報を入手できず、当該時間を減算した表示
ができないことやアクアウォッシャーが「運転中であるか否かの情報を生成し、か
つ、出力し」ているとすれば、リセット操作がなされれば、LAUNDRICHに
25 おける稼働状況欄及び残りの運転時間欄もまたリセットされるはずであることから、
アクアカードコントローラが、「運転中であるか否かの情報を生成、かつ、出力し」
ていること(確認試験⑩)が理解できる。そうすると、アクアカードコントローラ
は、現金投入を検知したことを示すパルス信号と同じパルス信号をアクアウォッ
シャーに出力していること、アクアカードコントローラが「運転中であるか否かの
情報を生成し、かつ、出力し」
(構成要件C)「前記現金投入の検知信号と同じ信号

5 の入力に応じて前記ランドリー装置を制御し」
(構成要件D)ているといえる。よっ
て、相違点2-1及び相違点2-2は相違点とはいえない。
したがって、特許法29条1項1号に該当しないと判断した本件審決は誤りであ
る。
(2) 被告らの主張
10 令和3年3月17日に作成された本件報告書は、守秘義務のない者が本件報告書
に記載されている事項を特許出願前に現実に知った事実を示すものではない。
また、
「現金投入の検知信号」や「検知信号と同じ信号」が出力されているか否か
などの動作確認は、オシロスコープを接続するという作業をして初めて認識できる
ものであったことも踏まえると、およそ本件報告書をもって、原出願日(平成27
15 年9月9日)の前に、甲7発明が本件報告書に記載の構成を有していたことが公知
であったということにはならない。したがって、特許法29条1項1号に該当しな
いと判断した本件審決に誤りはない。
3 取消事由3(甲7を主引用例とする進歩性の判断の誤り)(無効理由2関係)
(1) 原告の主張
20 甲7を主引用例とした場合に、仮に相違点2-1及び相違点2-2が存在すると
しても、前記2(1)の原告の主張のとおり、本件報告書により明らかとなる甲8~1
0の技術的思想を組み合わせることで、相違点2-1及び相違点2-2は容易想到
であるといえる。したがって、特許法29条2項に該当しないと判断した本件審決
は誤りである。
25 (2) 被告らの主張
前記2(2)の被告らの主張のとおりであって、特許法29条2項に該当しないと
判断した本件審決に誤りはない。
4 取消事由4(補正要件違反について)(無効理由4関係)
(1) 原告の主張
ア 本件審決は、本件補正後の特許請求の範囲は、
「有料自動機Lの電源コード」
5 に接続された「電流センサー13」(本件明細書の【0012】)として例示された
「有料自動機の動作を検知するセンサー」の検知信号以外により動作状態を監視す
るものを含むように上位概念化されたものであるが、「有料自動機の動作を検知す
るセンサー」の「検知信号」以外のものを監視する例となる、有料自動機の有料自
動機制御部において、有料自動機の動作状態を示す回路素子を監視する例は、当初
10 明細書等の記載に照らして当業者において自明な事項の範囲であるし、センサーの
検知信号を監視するものとセンサーの検知信号に基づかない監視するものの両者を
含むように上位概念化することも、当初明細書等の記載から自明な事項の範囲であ
るといえるから、新たな技術的事項を導入するものとはいえないと判断した。
しかしながら、当初明細書等は、
「動作状態監視部27」の具体的内容として、有
15 料自動機の動作を検知するセンサーに基づく構成であることを明らかにしているこ
と、当初明細書等の【課題を解決する手段】には、本件各発明のシステムが、有料
自動機の動作を検知するセンサーを有しており、センサーの検知信号に基づいて有
料自動機の動作状態を監視することが明記されていること、本件審決の「当初明細
書等には、特定の信号に基づいて監視する構成に限定されない「動作状態監視部」
20 が記載されているといえる。」とする当初明細書等の解釈は誤りであることからす
ると、本件審決の上記判断は誤りである。
イ 本件審決は、当初明細書等において、有料自動機の有料自動機制御部10内
に有料自動機の動作状態を示す回路ないし回路素子(ラッチ回路、スイッチ、運転
ランプ等の素子等)が存在することは、当業者において自明な事項である。」と認定
25 した。しかし、これは証拠に基づかない認定である。また、有料自動機のラッチ回
路及びスイッチはいずれも有料自動機を制御するものであって、有料自動機の動作
状態を確認するものではなく、運転ランプ等は、飽くまで有料自動機に対する制御
によって有料自動機が動いているだろうという推測に基づいて動作表示をしている
のであって、実際に有料自動機が動いているかを確認するものではない。さらに、
本件補正について補正要件違反を認めなければ、本件発明 1 には、センサーを含ま
5 ず、料金収受情報から有料自動機が動いているかを推測するという新たな技術的事
項を導入することになり不当である。
(2) 被告らの主張
ア 補正が新規事項を追加するものであるか否かは、当初明細書等の全ての記載
を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項
10 を導入するものであるか否かによって判断される。当初明細書等には、特定の信号
に基づいて監視する構成に限定されない「動作状態監視部」が記載されているとこ
ろ(甲2の【0014】、
)「動作状態監視部」の構成として、その具体例に限定しな
ければ当初明細書等の記載の範囲を超えると判断されるとの根拠は存在しない。本
件各発明の課題解決の観点で必要な情報は「運転中であるか否かを示す情報」であ
15 り、これは「運転中」か「空き」かを示す情報であれば足りる。「動作状態監視部」
が有料自動機の電流を電流検知センサーで取得した情報でなければ、課題を解決で
きないとの事情はないこと、有料自動機の動作を検知する電流センサー以外の方法
が明確に記載されていなければ、上位概念である「動作状態監視部」と特定するこ
とは許されないということはなく、本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
20 イ 本件審決は、当初明細書等において、有料自動機の有料自動機制御部10内
に有料自動機の動作状態を示す回路ないし回路素子が存在することは、当業者にお
いて自明な事項であるとしたが、これは、コイン信号に基づいて動作するという有
料自動機の特徴を踏まえれば、動作状態を示すラッチ回路などの監視結果でも動作
しているかどうかを検知できると当業者であれば認識できるとするものであって、
25 本件審決の判断に誤りはない。また、原告は、制御と運転中であるかの確認とは異
なると主張するが、本件審決は、コイン信号に基づいて動作するという有料自動機
の特徴を踏まえれば、動作状態を示すラッチ回路などの監視結果でも動作している
かどうかを検知できると当業者であれば認識できると判断したものであって、本件
審決の判断に誤りはない。さらに、料金収受情報に基づき有料自動機が動作するの
であれば、料金収受情報は実際に有料自動機を動作させる情報であるから、料金収
5 受情報から有料自動機が動いているかを推測するという新たな技術的事項を導入す
ることにはならない。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明について
(1) 本件明細書(甲2)の記載
10 本件明細書には次の記載がある(下記記載中に引用する図については別紙のとお
りである。 。

【技術分野】
【0001】
本発明は、コインランドリーや自動販売機等の有料で動作する自動機を現金およ
15 びポイントにより制御する有料自動機の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コインランドリーでは、洗濯機や乾燥機等のランドリー装置に備え付けのコイン
投入機にコイン(硬貨)を投入することにより、これらのランドリー装置を動作さ
20 せ、洗濯や乾燥等を行うことができる。また、近年では、例えば、特許文献1に記
載のように、電子マネーカードを使用して洗濯や乾燥を行うことができるコインラ
ンドリーシステムが知られている。
【0003】
また、特許文献2には、現金を投入して有料自動機を動作させることが可能であ
25 るとともに、その利用に応じたポイントをポイントカードに付与し、この付与され
たポイントを使用して有料自動機を動作させることが可能な現金およびポイント併
用型の有料自動機システムが開示されている。この有料自動機システムは、現金の
投入を検知することにより出力された検知信号に基づいて有料自動機の動作を制御
するものであり、検知部から送出される検知信号とポイントカードに記録されるポ
イントを利用する際に送出される検知信号とを同じにすることで、現金とポイント
5 カードのポイントとを併用してランドリー装置を動作可能としている。また、この
有料自動機システムでは、ポイントと還元金額との変換率は任意に設定することが
可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
10 【0004】
【特許文献1】特開2002-312847号公報
【特許文献2】特許第4420829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
15 【0005】
本発明は、多数の有料自動機が複数箇所に分散して設置されている場合であって
も各設置場所を巡回することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが可
能な有料自動機の制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
20 【0006】
本発明の有料自動機の制御システムは、現金を投入する現金投入部、現金投入部
への現金の投入を検知して検知信号を出力する現金投入検知部、および、検知信号
に基づいて有料自動機の動作を制御する有料自動機制御部を有する有料自動機の制
御システムであって、現金投入検知部と有料自動機制御部との間に接続されるポイ
25 ントカード装置と、ポイントカード装置と電気通信回線により接続される管理サー
バと、有料自動機の動作を検知するセンサーとを含み、ポイントカード装置は、セ
ンサーの検知信号に基づいて有料自動機の動作状態を監視し、結果を管理サーバへ
送信する動作状態監視部を有するものであり、管理サーバは、動作状態監視部から
送信された有料自動機の動作状態を表示する動作状態表示手段を有するものである。
【0007】
5 これにより、有料自動機の動作を検知するセンサーの検知信号に基づいて有料自
動機の動作状態が監視され、その結果が管理サーバへ送信され、管理サーバにより
この送信された有料自動機の動作状態が表示される。
【発明の効果】
【0008】
10 現金投入検知部と有料自動機制御部との間に接続されるポイントカード装置と、
ポイントカード装置と電気通信回線により接続される管理サーバと、有料自動機の
動作を検知するセンサーとを含み、ポイントカード装置が、センサーの検知信号に
基づいて有料自動機の動作状態を監視し、結果を管理サーバへ送信する動作状態監
視部を有するものであり、管理サーバが、動作状態監視部から送信された有料自動
15 機の動作状態を表示する動作状態表示手段を有することにより、多数の有料自動機
が複数箇所に分散して設置されている場合であっても各設置場所を巡回することな
く有料自動機の動作状態を容易に確認することが可能となる。
【0011】
図1において、本発明の実施の形態における有料自動機Lの制御システム1は、
20 有料自動機Lの動作を制御する有料自動機制御部10と、現金を投入する現金投入
部11と、現金投入部11への現金の投入を検知して検知信号(以下、便宜上「コ
イン信号」と称すが、現金投入部11へ投入される現金はコイン(硬貨)のみなら
ず、紙幣でも良い。)を出力する現金投入検知部12と、有料自動機制御部10と現
金投入検知部12との間に接続されるポイントカード装置2と、ポイントカード装
25 置2と電気通信回線3により接続される管理サーバ4と、管理サーバ4と電気通信
回線3により接続される管理用のコンピュータ(以下、「管理用PC」と称す。)5
とを有する。有料自動機Lが複数存在する場合、ポイントカード装置2は有料自動
機Lごとに設置される。
【0012】
有料自動機制御部10は、現金投入検知部12から出力されたコイン信号に基づ
5 いて有料自動機Lの動作を制御するものである。本実施形態において、有料自動機
Lは、洗濯機や乾燥機等のランドリー装置である。既存の有料自動機Lが、有料自
動機制御部10、現金投入部11および現金投入検知部12を備えている場合には、
有料自動機制御部10と現金投入検知部12との間にポイントカード装置2を接続
する。また、有料自動機Lの電源コードには、有料自動機Lの動作を検知するセン
10 サーとしての電流センサー13を接続する。
【0014】
また、ポイントカード装置2は、現金投入検知部12から出力された現金投入の
検知信号(コイン信号)の入力および有料自動機制御部10に対して現金投入と同
じ検知信号、すなわちコイン信号の出力を行う現金投入信号入出力部30と、現金
15 投入部11に対して現金投入の禁止信号を出力する禁止信号出力部31と、現金投
入信号入出力部30によりコイン信号を有料自動機制御部10へ送出する課金処理
部25と、禁止信号出力部31により現金投入部11への現金の投入禁止を設定す
る禁止処理部26と、有料自動機Lの動作状態を監視する動作状態監視部27と、
各種情報表示を行う表示部28と、電気通信回線3により管理サーバ4と通信を行
20 う通信部29とを有する。
【0015】
図3に示すように、ポイントカード装置2は、メイン基板32上に、ポイント加
算処理部22、ポイント利用処理部24、課金処理部25、禁止処理部26および
動作状態監視部27を構成する中央演算処理装置(CPU)33と、表示部28と
25 しての表示器34と、ポイント利用指示部23としての利用ボタン35と、カード
リーダーライター部21としての非接触型ICカードリーダー/ライター36と、
通信部29としての無線LANモジュール37と、現金投入信号入出力部30およ
び禁止信号出力部31を構成する入出力インターフェース(I/F)38とを有す
る。
【0018】
5 ポイント利用処理部24は、ポイントカードCに記録されたポイントを利用する
に際し、この利用するポイントに応じて還元する現金の投入と同じ検知信号(コイ
ン信号) 現金投入信号入出力部30を通じて有料自動機制御部10へ送出する。
を、
また、ポイント利用処理部24は、この利用するポイントを、カードリーダーライ
ター部21を通じてポイントカードCから減算する。なお、ポイントの利用は、利
10 用ボタン35の押下によって指示される。
【0020】
課金処理部25は、後述する管理サーバ4の課金指示手段41の指示に基づき、
指定金額の現金の投入と同じ検知信号(コイン信号)を、現金投入信号入出力部3
0を通じて有料自動機制御部10へ送出する。禁止処理部26は、後述する管理サー
15 バ4の禁止指示手段42の指示に基づき、現金投入部11への現金の投入禁止を、
禁止信号出力部31を通じて設定する。動作状態監視部27は、電流センサー13
の検知信号に基づいて有料自動機Lの動作状態(運転中または空き)を監視し、結
果を管理サーバ4へ送信する。
【0021】
20 管理サーバ4は、図2に示すように、ポイントカード装置2を指定して、ポイン
トの付与率を指定するポイント付与率設定手段40と、ポイントカード装置2を指
定して、指定金額の現金の投入と同じ検知信号(コイン信号)を送出することを指
示する課金指示手段41と、ポイントカード装置2を指定して、現金の投入の禁止
を指示する禁止指示手段42と、動作状態監視部27から送信された有料自動機L
25 の動作状態を表示する動作状態表示手段43とを有する。
【0024】
また、管理サーバ4は、図6に示すリモート操作画面60を管理用PC5に提供
する。リモート操作画面60には、店舗を指定する店舗指定欄(プルダウンメニュー)
61と、店舗指定欄61により指定された店舗に設置されている各有料自動機Lの
機器番号を表示する機器番号表示欄62、各有料自動機Lの機器名を表示する機器
5 名表示欄63、各有料自動機Lの位置を表示する位置表示欄64、各有料自動機L
の状態を表示する第1の状態表示欄65、各有料自動機Lの課金操作を行う課金ボ
タン66、各有料自動機Lの故障設定を行う故障設定ボタン67や、各有料自動機
Lの状態をアイコン表示する第2の状態表示欄68等とが設けられている。
【0028】
10 なお、図6に示す第1の状態表示欄65および第2の状態表示欄68は、動作状
態表示手段43により、各有料自動機Lのポイントカード装置2の動作状態監視部
27から送信された動作状態が表示されたものである。第1の状態表示欄65には、
動作状態が文字により表示される。第2の状態表示欄68には、動作状態が色分け
されたアイコンにより表示される。
15 【0033】
利用者は、利用ボタン35の押下回数によって利用するポイントを指示すること
が可能である。そして、利用者がポイントカードCをポイントカード装置2のカー
ドリーダーライター部21にかざすと、ポイントカード装置2のポイント利用処理
部24はカードリーダーライター部21を通じてこの利用するポイントをポイント
20 カードCから減算するとともに、利用するポイントに応じて還元する現金の投入と
同じ検知信号を、現金投入信号入出力部30を通じて有料自動機制御部10へ送出
する。
【0038】
また、本実施形態における有料自動機Lの制御システム1では、ポイントカード
25 装置2が、有料自動機Lの動作を検知する電流センサー13と、電流センサー13
の検知信号に基づいて有料自動機Lの動作状態を監視し、結果を管理サーバ4へ送
信する動作状態監視部27を有するものであり、管理サーバ4が、動作状態監視部
27から送信された有料自動機Lの動作状態を表示する動作状態表示手段43を有
することにより、多数の有料自動機Lが複数箇所に分散して設置されている場合で
あっても各設置場所を巡回することなく有料自動機Lの動作状態を容易に確認する
5 ことが可能である。
(2) 本件各発明の特徴
本件各発明は、コインランドリーや自動販売機等の有料で動作する自動機を現金
及びポイントにより制御する有料自動機の制御システムに関する。 【0001】
( )
従来、現金及びポイント併用型の有料自動機システムが知られている。当該シス
10 テムは、現金の投入を検知することにより出力された検知信号に基づいて有料自動
機の動作を制御するとともに、現金を投入した際に検知部から送出される検知信号
とポイントカードのポイントを利用する際に送出される検知信号とを同じにするこ
とで、現金とポイントとを併用してランドリー装置を動作可能としている。 【00

02】 【0003】
、 )
15 本件各発明は、上述した現金及びポイント併用型のランドリー装置の制御システ
ムに関し、多数のランドリー装置が複数箇所に分散して設置されている場合であっ
ても各設置場所を巡回することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが
可能なランドリー装置の制御システムを提供することを目的とする。 【0005】
( )
本件各発明は、現金を投入する現金投入部、前記現金投入部への現金の投入を検
20 知して現金投入の検知信号を出力する現金投入検知部、および、前記現金投入の検
知信号の入力に応じてランドリー装置の動作を制御するランドリー装置制御部を有
する複数のランドリー装置と、複数のランドリー装置の各々に対応して配置される
ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置と、前記複数のランドリー
装置の稼働状況に関する情報を集める管理サーバとからなるランドリー装置の制御
25 システムであって、
前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置は、前記ICカード
リーダー/ライタ部が読み取った情報に基づき前記検知信号と同じ信号を前記ラン
ドリー装置制御部に送出し、接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか
否かを示す情報を生成し、かつ出力し、
前記管理サーバは、前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置
5 が出力した前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を用いて、前記複
数のランドリー装置の各々が運転中か否かを示す運転情報を作成し、前記運転情報
を前記管理サーバに電気通信回線を介して接続された表示装置を有する端末に提供
することを特徴とするものである。
本件各発明により、多数のランドリー装置が複数箇所に分散して設置されている
10 場合であっても、各設置場所を巡回することなくランドリー装置の動作状態を容易
に確認することが可能となる。 【0008】
( )
2 引用発明について
(1) 引用発明1(甲3)について
ア 甲3は、コインランドリーなどに適用して好適な商品販売役務提供システ
15 ム、商品販売役務提供ネットワーク運用システム、情報記録媒体及びこれらシステ
ムにおける情報記録媒体の管理方法に関するものである。 【0001】
( )
イ プリペードカードのような情報記録媒体を用いた新たな運用システムをコ
インランドリー等に適用しようとした場合、金銭登録装置に加えて情報記録媒体用
の投入口を有したリーダー・ライター装置を洗濯機、乾燥機などの機械設備ごとに
20 設置しなくてはならない。この場合、商品又は役務の価格は個々のリーダー・ライ
ター装置に設定することになるが、複数台の機械設備の全部について、その使用状
況や売上金について把握するのは大変困難なことであるため、その使用時間帯に対
応した価格設定や利用者ごとに役務を差別化する処理をタイムリーに行うことがで
きない。 【0006】~【0009】
( )
25 特に、コインランドリーの現場では使用時に投入された硬貨の現在残高を確認す
る客観的な方法が無く、これらのシステムを一元管理しようとした場合に、計数資
料を把握できないために経営努力も定性的なものとなってしまう。また、情報記録
媒体と現金販売とを併用したときに、当該機械設備全体で売上げが延びているのか、
縮小しているかが感覚的でしか分からない。さらに、顧客の利用状況に応じてこれ
らの提供対価を調整しようとした場合に、当該機械設備ごとに稼働データと現金と
5 を集計し、これらの稼働データや収入データを手入力しなくてはならず、オーナー
にとって非常に手間がかかる仕事となってしまう。 【0010】【0012】
( 、 )
甲3に記載された発明は、このような従来の課題を解決したものであって、商品
又は役務の提供を受ける顧客の利用状況に応じて、これらの提供対価を調整できる
ようにすると共に、商品販売及び役務提供に関する販売促進を支援できるようにし
10 た商品販売役務提供システム、商品販売役務提供ネットワーク運用システム、情報
記録媒体及びこれらのシステムにおける情報記録媒体の管理方法を提供することを
目的とする。 【0013】
( )
ウ 甲3に記載された発明は、後記エに係る構成により、衣類や寝具の洗濯又は
乾燥サービスの提供を受ける顧客の利用状況を分析してその洗濯又は乾燥サービス
15 の提供対価を増減するように調整する制御装置を備え、顧客がコインランドリーに
集中するときは割引率を低くし、顧客がコインランドリーから離散するときは割引
率を高くするように洗濯又は乾燥サービスの提供対価を調整できるようにすると共
に、その洗濯又は乾燥サービスを提供するコインランドリーの営業を促進できるよ
うにしたものである。 【0055】
( )
20 エ 甲3には、本件審決の認定した次の発明(引用発明1)が記載されていると
認められる。(分説記号は本件審決の分説記号に対応している。)
「a 洗濯機及び乾燥機である複数の提供装置と、各々の提供装置に設けられた金
銭登録機能付きカードリードライター(以下「カードリードライター」という。 と、

が設けられ、さらに、各々のカードリードライターに接続された通信アダプタにパ
25 ソコン20が接続されている、コインランドリー支援システムであって、
このパソコン20は、データ集計手段であり、カード毎に記録された使用日時及
び利用金額又は利用時間幅が集計され、カード利用者の集計処理を行い、また、金
銭登録機能により取り扱われた現金利用者の使用日時及び利用金額の集計処理も行
い、洗濯又は乾燥サービスの提供対価を増減するように調整するものであり、
c’ カードリードライターの内部バスには、パソコン20への接続を行うRS2
5 32C対応インターフェース、CPU21、RAM、ROM、I/Oインターフェー
スが設けられ、I/Oインターフェースには、カードリードライト部、金銭登録部、
返却ボタン用スイッチ、スタートボタン用スイッチ、返却レバー用スイッチ、LC
D、機器用コントローラが接続されているものであり、
b’ カードリードライターの「金銭登録機能」は、
「提供装置Siに内蔵されても
10 よいし、別途設置されてもよい」ものであり、
d カードリードライターにおいて、読み出されたカードに適正な残高が存在し、
スタートボタンが押し下げされ、カードの金額情報から利用料金を適正に引き落と
せた場合、CPU21は、機器コントローラ24に起動命令を送信し、これにより、
起動命令を受信した洗濯機が起動され、洗濯動作が開始され、この起動信号によっ
15 て、洗濯機の例では1サイクルのすすぎ、洗い、脱水等が行われ、乾燥機では、所
定時間の熱風乾燥が行われることになり、
また、カードリードライターは、カードに記録された「装置No」、カードに係る
「管理番号」「利用金額」「登録残高」「利用日」「利用時間」「環境コード」「店
、 、 、 、 、 、
舗コード」の情報を生成してパソコン20に出力し、
20 e’ パソコン20は、中央指揮パソコン40に対し、カードリードライターが生
成してパソコン20に出力する情報のデータ集計結果である稼働実績情報を中央指
揮パソコン40に送信し、そのディスプレイ上に、稼働実績情報を表示することが
でき、
f 洗濯機の各々は、「機械番号(装置タイプ+装置No)」を有するものであり、
25 乾燥機についても同様であり、
g パソコン20は、データ集積結果を機械番号に関連付けて作成するものであり、
h カードリードライターのカードリードライト部は、接触式又は非接触式IC
カードのカードリードライト部である、
コインランドリー支援システム。」
(2) 引用発明2(甲7~10)について
5 ア 甲7及び9は、ハイアールアクアセールス株式会社のITランドリーシステ
ムに関するサービス技術資料であり、甲8は当該ランドリーシステムを構成するコ
イン式スニーカーウォッシャーのサービス技術資料であり、甲10は、当該ランド
リーシステムのカタログである。
甲7の表紙には「発売2012.1」と記載され、甲8の表紙には「発売日 2
10 012年1月20日」と記載され、甲9の表紙には「発売2012.01」と記載
され、甲10の最終頁には「このカタログの記述内容は2012年1月現在のもの
です。」との記載がある。
以上によると、甲7~10から把握されるシステムが平成24年中に製品として
販売され、その購入者や利用者等の不特定の者が、当該製品や上記技術資料等を介
15 して甲7~10の内容を知り得たものといえる。
そして、甲7~10の内容によると、本件審決が認定した次のとおりの引用発明
2が本件特許に係る出願前(平成27年9月9日の原出願の出願前)に公知であっ
たと認められる。(分説記号は本件審決の分説記号に対応している。)
「a’ オーナー事務所の端末に運転中の機器のアニメーション表示を含むリアル
20 タイムの機器稼働状況表示等を提供するサーバと、
カードリーダを内蔵し通信キットが組み込まれており、通信キットによってサー
バとインターネット接続網等を介して接続され、アクアウォッシャーの制御基板に
その制御基板が接続されるアクアカードコントローラとが、アクアウォッシャーを
含む対象機種の洗濯機等に接続されているシステムであって、
25 b’ アクアウォッシャーは、硬貨投入口等を有するコイン装置とコインスイッチ
に4ピン白及び4ピン青のコネクタによって接続される制御基板を有するものであ
り、
c’ アクアカードコントローラは、アクアウォッシャーのコインスイッチに接続
されている4ピン白及び4ピン青のコネクタが制御基板に接続されるとともに、自
身の制御基板からの4ピン白及び4ピン青のコネクタがアクアウォッシャーの制御
5 基板のコインスイッチに接続されるコネクタに接続されるものであり、通信キット
によりサーバがリアルタイムの機器稼働状況表示を行うための情報を送信出力する
ものであり、
d’ アクアウォッシャーの制御基板は、アクアカードコントローラの制御基板の
4ピン白及び4ピン青のコネクタが自身のコネクタに接続されるものであり、
10 e’ サーバは、アクアカードコントローラが通信キットにより送信出力する情報
を用いて、オーナー事務所の端末に、アクアウォッシャーを含む対象機種の洗濯機
等について複数の運転中の機器のアニメーション表示を含むリアルタイムの機器稼
働状況表示を提供し、
fg’ サーバは、サーバにおいて複数の運転中の機器のアニメーション表示を行
15 うにあたって、情報を送信出力するアクアカードコントローラに対応する機器の番
号とアニメーション表示とを対応付ける、
システム。」
(3) 引用発明3(甲7)について
甲7によると、本件審決で認定された次の発明(引用発明3)が本件特許に係る
20 出願前に公知であったと認められる。
「a’ オーナー事務所の端末に利用状況等を提供するサーバと、
通信キットが組み込まれており、通信キットによってサーバとインターネット接
続網等を介して接続され、アクアウォッシャーに接続されるICカードコントロー
ラーとが、アクアウォッシャーを含む対象機種の洗濯機等に接続されているシステ
25 ム。」
3 取消事由1について
(1) 相違点1-3の認定について
本件明細書の【0020】
「動作状態監視部27は、電流センサー13の検知信号
に基づいて有料自動機Lの動作状態(運転中または空き)を監視し、結果を管理サー
バ4へ送信する」との記載からみて、本件発明1の「ランドリー装置が運転中であ
5 るか否かを示す情報」とは、
「ランドリー装置」の状態を「運転中である」又は「運
転中でない(空き)」の2つの状態に区分し、そのいずれかの状態に対応付けた結果
を示す情報であると理解するのが相当である。
本件各発明のシステムは、ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装
置が「運転中であるか否かを示す情報」 「生成し出力」
を するシステムであるから、
10 ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置において「ランドリー装置」
の状態を「運転中であるか否か」に対応付ける判断が行われ(すなわち「生成」さ
れ)、その対応付けの結果が「運転中であるか否かを示す情報」として「出力」され
ているものである。
一方、引用発明1の「カードリードライター」は、カードに記録された「装置N
15 o」、カードに係る「管理番号」「利用金額」「登録残高」「利用日」「利用時間」
、 、 、 、 、
「環境コード」 「店舗コード」の情報を生成してパソコン20に出力しているもの

の、
「カードリードライター」において「提供装置」の状態を「運転中であるか否か」
のいずれかに対応付ける判断を行い、その対応付けの結果である「運転中であるか
否かを示す情報」を出力していないから、相違点1-3に係る構成につき本件発明
20 1と相違するといえる。
よって、相違点1-3を認定した本件審決に誤りはない。
(2) 相違点1-3の容易想到性について
前記2(1)イのとおり、引用発明1の課題は、顧客の利用状況に応じて提供対価を
調整できるようにすると共に、商品販売及び役務提供に関する販売促進を支援でき
25 るようにしたシステムを提供することであり、販売促進を図るための利用状況の集
計データを得ることが目的であるといえ、
「運転中であるか否かを示す情報」をカー
ドリードライターからパソコンに出力することは、甲3に記載も示唆もされていな
い。
また、
「運転中であるか否かを示す情報」は「顧客の利用状況に応じて提供対価を
調整する」ことや「販売促進」と直接関係しない情報であるから、引用発明1にお
5 いて「運転中であるか否かを示す情報」を「カードリードライター」で生成しかつ
出力する構成に変更する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲3において相違点1-3に係る構成とすることを示唆する記載も
なく、このような構成に変更する動機付けがあるとはいえない以上、甲20~24
の技術を考慮したとしても、当業者において、相違点1-3に係る構成とすること
10 が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、引用発明1において相違点1-3に係る構成とすることは容易に想
到し得たことではないとした本件審決の判断に誤りはない。
(3) 相違点1-3の認定に対する原告の主張について
ア 原告は、甲3の【0203】に「情報読取記録装置Riは提供装置Siが稼
15 働中であれば、その稼働中の表示を行い」と記載されているから「運転中であるか
否かを示す情報」を作成している旨主張する。
しかしながら、甲3の【0203】には、
「稼働中の表示」の情報をサーバに出力
することは説明されておらず、「運転中でない(空き)」の場合にどのような情報を
生成し、かつ出力するのかについても説明されていないから、Ri装置が「運転中
20 であるか否かを示す情報」を生成し、かつ出力するものと解することはできない。
したがって、原告の上記主張は採用できない。
イ また、原告は、甲3の【0271】には、コインランドリー支援システムT
jから中央指揮パソコン40へ、当日、週間別、月間別に稼働情報を送信すること
が記載され、ここで、送信間隔を短くすることは否定されておらず、かつ、甲3の
25 【0217】には、稼働率を監視することが記載されているから、例えば1分単位
で稼働率を監視すれば、稼働率100%なら当該ランドリー装置は運転中であるこ
と、0% なら運転中ではないことが分かり、ユーザーの利用に耐え得る「運転中で
あるかを示す」情報になるから、甲3は「運転中であるか否かを示す」情報を作成
しているといえると主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり、甲3のシステムは、販売促進を図るための利用
5 状況の集計データを得るシステムであり、役務提供を受けるユーザーに何らかの情
報を提示することは、甲3に記載も示唆もされていない。また、仮に販売促進のた
めの分析データとして分単位で計測されたデータが必要であったとしても、当該
データを毎分送信する必要はなく、毎分送信されたデータを随時分析する旨の甲3
の記載も見当たらない。したがって、原告の上記主張は採用できない。
10 (4) 相違点1-3の容易想到性判断に対する原告の主張について
原告は、(ア) 甲3の【0203】には運転中であることを表示する旨の記載であ
るとする「当該情報読取記録装置Riは提供装置Siが稼働中である場合は、その
稼働中の表示を行ない」との記載があること、(イ) 過去の情報を取得することとそ
れに加えて現在の情報を取得することは全く矛盾しないから、引用発明1に甲20
15 ~24の技術を組み合わせることについて、甲3の記載に阻害されることはないこ
と、(ウ) パソコン20が有する料金に関する情報から、
「運転中であるか否か」を推
測することは極めて容易に考えられ、これを発展させて、他の方法で運転中である
か否かを示す情報を取得して利用者等に提供することは何ら難しいことではないこ
と、(エ) 本件特許の原出願日である平成27年9月9日におけるリアルタイムでの
20 通信が極めて容易になった環境を前提に、当業者が甲3の記載に当たれば、甲20
~24を組み合わせて、過去のデータとして利用するだけでなく現在の稼働状況も
チェックできるようにしようと考えることは容易であることを主張する。
しかしながら、前記(2)のとおり、「運転中であるか否かを示す情報」を「カード
リードライター」で生成し出力することと、販売促進を図るための利用状況の集計
25 データを得ることとは直接関係するものではないから、上記(ア)~(エ)の点は、引用
発明1において相違点1-3に係る構成に変更する動機付けがないとの判断を左右
するものではない。原告の上記主張は採用できない。
(5) 小括
したがって、本件各発明と引用発明1は少なくとも相違点1-3において相違し、
引用発明1において相違点1-3に係る構成とすることは当業者が容易に想到し
5 得たことではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件各発明は特
許法29条1項3号に該当せず、また、同条2項の規定により特許を受けることの
できない発明とはいえない。
よって、本件審決における引用発明1に基づく新規性及び進歩性の認定判断に誤
りはなく、取消事由1は理由がない。
10 4 取消事由2について
(1) 相違点の認定と判断について
前記1及び2(2)のとおり、本件発明1は、「前記ICカードリーダー/ライタ部
と通信部とを有する装置は、前記ICカードリーダー/ライタ部が読み取った情報
に基づき前記検知信号と同じ信号を前記ランドリー装置制御部に送出し、接続され
15 ている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を生成し、かつ出力し、」
(本件審決による分説記号Cに対応)とするものであるのに対し、甲7~10には、
本件発明1の「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」に相当す
る「アクアカードコントローラ」の内部でどのような情報処理が行われるのかにつ
いて具体的な説明は記載されておらず、情報処理に係る具体的な開示はされていな
20 い。
そうすると、本件発明1と甲7~10から認定される引用発明2とには、前記第
2の3(3)のとおりの相違点2-1及び相違点2-2が認められる。
(2) 本件報告書について
原告は、本件審決が、本件報告書は令和3年3月に行われた確認試験の報告書で
25 あって、本件特許に係る原出願の出願前に公知の文献であったということはできず、
また、平成27年製アクアウォッシャーを使用した試験であるから、本件報告書に
記載された内容が、平成24年1月に発売された実機(以下「平成24年実機」と
いう。)に関連するものとして平成24年内に公知となっていたとはいえない旨を
判断したことにつき、本件報告書は「洗っちゃお多摩センター店」に設置されたア
クアウォッシャー、アクアITシステム及びアクアカードコントローラの実機(以
5 下「多摩センター実機」という。)であり、平成24年実機の構成を明らかにするも
のであること、本件報告書の実験のように基礎的な計測機器を利用して明らかにで
きる事項は、公知になっているというべきであると主張する。
しかしながら、本件報告書の確認試験対象となった「多摩センター実機」が、
「平
成24年実機」と同一のものであると認めるに足りる証拠は示されておらず、本件
10 報告書に記載された事項が「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた
発明」であるとまではいえない。また、仮に本件報告書の確認試験対象となった「多
摩センター実機」が「平成24年実機」と同一のものであるとしても、本件報告書
によると、MCW-W6C(アクアウォッシャー。本件各発明の「ランドリー装置」
に相当)を起動後、HIC-163T(アクアカードコントローラ。本件各発明の
15 「ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置」に相当)とLAUND
RICHのサーバ(本件各発明の「管理サーバ」に相当)との間の接続を切断する
など条件を変えながら、MCW-W6Cの運転時間等を表示するデジタル表示の記
録や上記実機のLAUNDRICH上における稼働状況欄や運転時間の表示を記録
したものであるが、本件報告書に関する前記第3の2(1)イ等の原告の主張を前提
20 としても、運転中であるか否かの情報を生成しているのがアクアコントローラであ
るのかLAUNDRICHのサーバであるのかは明らかではなく、そもそも本件報
告書によっても、多摩センター実機がその内部で運転中であるか否かの情報をどの
ような入力、処理プロセスを基に生成、出力等を行っているのかは明らかとはなっ
ていないから、本件報告書をもって、
「平成24年実機」が相違点2-2に係る構成
25 を備えているものともいえない。
したがって、上記原告の主張は採用できない。
(3) また、前記第2の2(3)のとおりの本件発明2についても、上記4(1)及び
(2)によると、引用発明2とは、上記相違点2-1及び2-2において相違している
と認められる。
(4) 小括
5 以上のとおり、本件審決における本件発明1及び2についての引用発明2に基
づく新規性の認定判断に誤りはなく、取消事由2には理由がない。
5 取消事由3について
上記4のとおり、本件発明1及び2と、甲7~10から認定される引用発明2と
の間には相違点2-1及び2-2が存在し、本件報告書の確認試験対象となった「多
10 摩センター実機」が、
「平成24年実機」と同一のものであると認めるに足りる証拠
は示されておらず、本件報告書により相違点2-1及び相違点2-2を埋めるもの
とはいえない以上、本件発明1及び2は、甲7に記載された発明及び甲8~10に
記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
本件審決の認定判断に誤りはなく、取消事由3には理由がない。
15 6 取消事由4について
(1) 補正要件について
特許法17条の2第3項は、特許請求の範囲等の補正については、願書に最初に
添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなけ
ればならない旨規定するところ、ここでいう「最初に添付した明細書、特許請求の
20 範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又
は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味するものとい
うべきである。そして、第三者に対する不測の損害の発生を防止し、出願当初にお
ける発明の開示が十分に行われることを担保して先願主義の原則を実質的に確保し
ようとするとの見地からすれば、当該補正が、上記のようにして導かれる技術的事
25 項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正
は「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するもの
に当たるというべきである(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563
号同20年5月30日特別部判決参照)。
(2) 補正事項について
前記第2の2(1)及び(2)によると、本件補正は、下記の補正事項を含むものであ
5 る。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記有料自動機の動作を
検知するセンサーとを含み、 「前記センサーの検知信号に基づいて」を削除する。

(以下、この補正事項を「補正事項1」という。)
イ 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記ポイントカード装置
10 は、
・・・前記有料自動機の動作状態を監視し、結果を前記管理サーバへ送信する動
作状態監視部を有するものであり、」を、本件補正後の「前記ICカードリーダー/
ライタ部と通信部とを有する装置は、
・・・接続されている前記ランドリー装置が運
転中であるか否かを示す情報を出力し、」とする。(以下、この補正事項を「補正事
項2」という。)
15 上記補正事項1及び2が、当初明細書等に記載した範囲内の事項か否かにつき、
以下検討する。
(3) 補正事項2の検討
ア まず、補正事項2について検討するに、当初明細書等には、次の記載がある。
「有料自動機制御部10は、現金投入検知部12から出力されたコイン信号に基
20 づいて有料自動機Lの動作を制御するものである。本実施形態において、有料自動
機Lは、洗濯機や乾燥機等のランドリー装置である。既存の有料自動機Lが、有料
自動機制御部10、現金投入部11および現金投入検知部12を備えている場合に
は、有料自動機制御部10と現金投入検知部12との間にポイントカード装置2を
接続する。また、有料自動機Lの電源コードには、有料自動機Lの動作を検知する
25 センサーとしての電流センサー13を接続する。【0012】」
「また、ポイントカード装置2は、現金投入検知部12から出力された現金投入
の検知信号(コイン信号)の入力および有料自動機制御部10に対して現金投入と
同じ検知信号、すなわちコイン信号の出力を行う現金投入信号入出力部30と、現
金投入部11に対して現金投入の禁止信号を出力する禁止信号出力部31と、現金
投入信号入出力部30によりコイン信号を有料自動機制御部10へ送出する課金処
5 理部25と、禁止信号出力部31により現金投入部11への現金の投入禁止を設定
する禁止処理部26と、有料自動機Lの動作状態を監視する動作状態監視部27と、
各種情報表示を行う表示部28と、電気通信回線3により管理サーバ4と通信を行
う通信部29とを有する。【0014】」
「図3に示すように、ポイントカード装置2は、メイン基板32上に、ポイント
10 加算処理部22、ポイント利用処理部24、課金処理部25、禁止処理部26およ
び動作状態監視部27を構成する中央演算処理装置(CPU)33と、表示部28
としての表示器34と、ポイント利用指示部23としての利用ボタン35と、カー
ドリーダーライター部21としての非接触型ICカードリーダー/ライター36と、
通信部29としての無線LANモジュール37と、現金投入信号入出力部30およ
15 び禁止信号出力部31を構成する入出力インターフェース(I/F)38とを有す
る。【0015】」
「課金処理部25は、後述する管理サーバ4の課金指示手段41の指示に基づき、
指定金額の現金の投入と同じ検知信号(コイン信号)を、現金投入信号入出力部3
0を通じて有料自動機制御部10へ送出する。禁止処理部26は、後述する管理サー
20 バ4の禁止指示手段42の指示に基づき、現金投入部11への現金の投入禁止を、
禁止信号出力部31を通じて設定する。動作状態監視部27は、電流センサー13
の検知信号に基づいて有料自動機Lの動作状態(運転中または空き)を監視し、結
果を管理サーバ4へ送信する。【0020】」
イ 上記各記載によると、当初明細書等には、(ア) 「ポイントカード装置2」が、
25 「動作状態監視部27」を有すること(【0014】 、(イ) 「動作状態監視部27」

は、有料自動機Lが運転中か空きかを監視した結果を管理サーバ4へ送信すること
(【0020】 、(ウ) 「有料自動機L」の実施形態は「ランドリー装置」であること

(【0012】 、(エ) 「ポイントカード装置2」は「ICカードリーダー/ライター

36」と「通信部29」を有すること(【0015】)が記載されていたものと認め
られる。
5 ウ 上記イ(ア)及び(イ)によると、当初明細書等には「ポイントカード装置2は、
有料自動機Lが運転中か空きかを監視した結果を管理サーバ4へ送信すること」が
記載され、また、上記イ(イ)~(エ)によると、当初明細書等には「ICカードリーダー
/ライター部と通信部とを有する装置は、ランドリー装置が運転中か空きかを監視
した結果を管理サーバ4へ送信すること」が記載されていたと理解できる。
10 ここで、「ランドリー装置が運転中か空きかを監視した結果」とは、「ランドリー
装置」の状態を「運転中である」又は「運転中でない(空き)」の2つの状態に区分
し、そのいずれかの状態に対応付けた結果を示す情報、すなわち「ランドリー装置
が運転中であるか否かを示す情報」であるといえる。また、
「結果を管理サーバ4へ
送信すること」が「情報を出力すること」であることは、当業者に自明である。
15 したがって、当初明細書等には「前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部と
を有する装置は、
・・・接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを
示す情報を出力し、」との事項である上記補正事項2が記載されていたといえる。
(4) 補正事項1の検討
上記(3)のとおり、本件補正前の「前記有料自動機の動作状態を監視し、結果を前
20 記管理サーバへ送信する」こと(以下「監視して送信」という。)は、本件補正後の
「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を出力」す
ること(以下「情報を出力」という。)に対応し、両者はともに当初明細書等に記載
された事項である。
ここで、監視のためには監視対象の情報を取得する必要があり、情報を出力する
25 ためには出力したい情報に関するデータの入力が必要なことは自明のことであるか
ら、上記「監視して送信」及び「情報を出力」のいずれの処理においても、その前
提として、ランドリー装置の動作に関係する何らかの信号を検知すること自体は当
然に行われることであり、当初明細書等において自明の前提であるといえる。そし
て、この自明の前提は、検知する信号の種類(電流値、コイン信号等)や監視の具
体的な方法(計測値に基づく判断か、推測か等)を問わないものであり、本件補正
5 の前後で何ら変わることのないものであるといえる。
そうすると、本件補正前の請求項1の記載は、上記自明の前提を「前記有料自動
機の動作を検知するセンサーとを含み、 及び
」 「前記センサーの検知信号に基づいて」
との事項によって更に特定したものであり、補正事項1において当該事項を削除す
ることで、センサーの検知信号以外の情報に基づくものが含まれることになったと
10 しても、上記自明の前提に照らせば、当初明細書等に記載された事項であって、新
たな技術的事項を導入するものとはいえない。またこの点は、上記自明の前提の具
体的な態様が「電流センサー」から他の手段に変わったとしても、「監視して送信」
や「情報を出力」する処理が行われる限り、本件発明1の課題(各設置場所を巡回
することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが可能な有料自動機の制
15 御システムを提供する(甲2の【0005】 )は解決され、効果に顕著な差が生じ

ることがないことからも裏付けられる。
したがって、補正事項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導
かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと
いえる。
20 そして、本件補正の内容に照らすと、上記検討した補正事項1及び2のほかにお
いても、当初明細書等に記載した範囲を超えるものはないと認められる。
(5) 原告主張について
原告は、①当初明細書等には、センサーの検知信号に基づく構成が具体的に記載
されており、他の構成は記載されていないから、センサーの検知信号に基づく構成
25 は単なる例示ではない、②本件審決の判断と異なり、有料自動機内の有料自動機制
御部10内の動作状態を示す回路の監視結果を示す信号を送信する方法は自明とは
いえない、③補正要件違反を認めないとすれば、センサーを含まず、料金収受情報
から有料自動機が動いているかを推測する方法が含まれることになる旨を主張する。
上記①の主張について検討すると、センサーの検知信号に基づく構成は、上記自
明の前提を具体化した態様の一つではあるものの、本件発明1は「監視して送信」
5 又は「情報を出力」により巡回せずにランドリー装置の動作状態を確認するという
課題を解決するものであるから、センサーの検知信号でなければ課題を解決し得な
いということはなく、
「監視して送信」又は「情報を出力」するために必要な情報が
入力されていれば足りる。当初明細書等にセンサーの検知信号に基づく構成しか例
示がないとしても、上記自明な前提に対応する構成がそれのみに限定されることに
10 はならない。
上記②の主張について検討すると、本件審決は、有料自動機制御部10内にある
回路や素子からの信号が、センサー以外の検知信号に基づくものを説明のために例
示したものであって、当該例示が自明であることを補正の根拠として評価したもの
ではないから、当該例示が自明であるか否かは、本件補正の適否の判断を左右する
15 ものではない。
上記③の主張について検討すると、本件補正後の本件発明1は、本件補正前と同
様に、入力される信号の種類や「運転中」か「否か」を判断する具体的方法によら
ず、ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置から管理サーバに「運
転中か否かを示す情報を出力」することができていれば課題を解決し得るものであ
20 るから、課題解決手段を構成する「監視して送信」や「情報を出力」との構成につ
いての細部である、入力される信号の種類や判断方法といった個別要素は、当初明
細書等において当該構成に包括されていたものであったといえる。仮に入力される
信号の種類や判断方法として当初明細書等に例示されていないものが補正後の本件
発明1に含まれることになったとしても、当初明細書等を総合して得られる技術的
25 事項に対し新たな技術的事項を付加することにはならない。
以上のとおりであって、その余の主張を含め、原告の主張はいずれも採用できな
い。
(6) 小括
したがって、本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものである
から、取消事由4には理由がない。
5 第5 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取
り消すべき違法は認められない。
したがって、原告の請求は棄却されるべきものであるから、主文のとおり判決す
る。
10 知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
20 遠 山 敦 士
25 裁判官
天 野 研 司
別紙
図1
図2

図3
図6

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