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令和4(行ケ)10109特許取消決定取消請求事件

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裁判所 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和5年11月30日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社ダイセル
被告特許庁長官
対象物 防眩フィルム
法令 特許権
特許法36条6項2号2回
特許法36条6項1号1回
特許法36条4項1号1回
キーワード 実施113回
特許権3回
優先権1回
主文 1 特許庁が異議2021-700209号事件について令和4年
9月6日にした決定のうち、特許第6745410号の請求項1、
4、5に係る特許を取り消すとした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。25
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) (1) 原告は、発明の名称を「防眩フィルム」とする発明について、平成30年 6月25日に国際出願をし(先の出願に基づく優先権主張日は平成29年8 月4日)、令和2年8月5日に本件特許に係る特許権の設定登録を受け(請10 求項の数5)、同月26日に特許掲載公報が発行された。 (2) 本件特許について、令和3年2月26日に特許異議の申立てがされ、特許 庁は、同申立てを異議2021-700209号事件として審理を行った。 (3) 原告は、令和4年1月12日付けで取消理由通知(決定の予告)を受けた ことから、その意見書提出期間内である同年3月22日、本件特許の特許請15 求の範囲(請求項1~5)を下記2(1)のとおりに訂正(本件訂正)する旨の 訂正請求をした(請求項2及び3を削除するため、訂正後の請求項の数3)。 (4) 特許庁は、令和4年9月6日、本件訂正を認めた上で、「特許第6745 410号の請求項1、4、5に係る特許を取り消す。特許第6745410 号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する」との20 本件決定をし、その謄本は同月16日原告に送達された。

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判決文

令和5年11月30日判決言渡

令和4年(行ケ)第10109号 特許取消決定取消請求事件

口頭弁論終結日 令和5年10月5日

判 決

原 告 株 式 会 社 ダ イ セ ル

同訴訟代理人弁護士 飯 島 歩

同 藤 田 知 美

同 金 村 玲 奈

同訴訟代理人弁理士 梶 谷 美 道

同 補 佐 人 原 田 宗 紀

同 菅 原 慶 峰

同 林 正 樹

被 告 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 河 原 正

同 里 村 利 光

同 川 口 聖 司

同 後 藤 亮 治

主 文

1 特許庁が異議2021-700209号事件について令和4年

9月6日にした決定のうち、特許第6745410号の請求項1、

4、5に係る特許を取り消すとした部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

【略語】本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件決定中で使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。

第1 請求

5 主文と同旨

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)

(1) 原告は、発明の名称を「防眩フィルム」とする発明について、平成30年6月25日に国際出願をし(先の出願に基づく優先権主張日は平成29年8月4日)、令和2年8月5日に本件特許に係る特許権の設定登録を受け(請求項の数5)、同月26日に特許掲載公報が発行された。

(2) 本件特許について、令和3年2月26日に特許異議の申立てがされ、特許庁は、同申立てを異議2021-700209号事件として審理を行った。

(3) 原告は、令和4年1月12日付けで取消理由通知(決定の予告)を受けたことから、その意見書提出期間内である同年3月22日、本件特許の特許請求の範囲(請求項1~5)を下記2(1)のとおりに訂正(本件訂正)する旨の訂正請求をした(請求項2及び3を削除するため、訂正後の請求項の数3)。

(4) 特許庁は、令和4年9月6日、本件訂正を認めた上で、「特許第6745410号の請求項1、4、5に係る特許を取り消す。特許第6745410号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する」との本件決定をし、その謄本は同月16日原告に送達された。

(5) 原告は、令和4年10月14日、本件決定のうち、本件特許の請求項1、4、5に係る特許を取り消すとした部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 本件特許発明の内容

(1) 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲の記載(本件訂正後のもの)は、以下のとおりである。【請求項1】ヘイズ値が50%以上99%以下の範囲の値であり、平均粒径が0.5μ

5 m以上5.0μm以下の範囲の値に設定された複数の微粒子を含む防眩層を備え、前記防眩層には、前記複数の微粒子の凝集が分散しており、分散した前記複数の微粒子の凝集により、前記防眩層の表面に凹凸の分布構造が形成され、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記有機ELディスプレイの輝度分布の標準偏差が0以上6以下の範囲の値であり、且つ、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が0%以上60%以下の範囲の値である、防眩フィルム。【請求項4】前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された前記複数の微粒子を含み、前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が、0以上0.07以下 の範囲の値である、請求項1に記載の防眩フィルム。【請求項5】前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.07以上0.20以下の範囲の値である、請求項4に記載の防眩フィルム。

(2) 本件明細書及び図面の抜粋を別紙2に掲げる(なお、図3は便宜上90度回転させたものである。)。これによれば、本件明細書には、次のような開示があることが認められる。ア 本件特許発明は、ディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する防眩フィルムに関する(【0001】)。イ 防眩フィルムをディスプレイの表面に装着すると、ディスプレイからの光が防眩フィルムによる影響を受け、防眩フィルムを介したディスプ

5 レイの表示性能が低下する場合があるため、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由度が高いことが望ましい(【0005】)。ディスプレイのギラツキを抑制するために、防眩層の表面の凹凸を縮小すると、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。また、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを客観的指標に従って開発することが困難な場合がある(【0007】)。ウ 本件特許発明は、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的とする(【0008】)。エ そこで、本件特許発明では、本件三条件を採用し、本件標準偏差をディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標とし、ヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、ディスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を確保し、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60%以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由度を広く確保することとした(【0009】~【0011】)。オ 本件特許発明によれば、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供できる(【0017】)。3 本件決定の理由の要旨

(1) 本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、その他法定の要件を満たすものとして、これを認める。

(2) 本件特許発明は明確であるということはできず、特許法36条6項2号所定の明確性要件の違反がある(詳細は別紙3「本件決定の理由①」を参照)。

5 (3) 本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができず、同条4項1号所定の実施可能要件の違反がある(詳細は別紙4「本件決定の理由②」を参照)。

(4) 本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできず、同条6項1号所定のサポート要件の違反がある(詳細は別紙5「本件決定の理由③」を参照)。4 取消事由

(1) 明確性要件に関する判断の誤り(取消事由1)

(2) 実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由2)

(3) サポート要件に関する判断の誤り(取消事由3)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(明確性要件に関する判断の誤り)

(1)

(原告の主張)

ア Fナンバーを設定することが可能であることについてレンズの一般的特性として、コントラスト性能は、中間的なFナンバー(多少絞りを絞った状態)で最大化し、絞りを開いたり、絞り込んだりすることで低下する傾向がある。本件決定(理由①)は、Fナンバーによってぎらつき度合いの測定値が変動する以上、撮影条件としてFナンバーを一義的に確定すべきとするものである。しかし、Fナンバーの変化によってコントラストが変動し、コントラストのピークが現れるのであれば、コントラストのピークがあるFナンバーに絞りを設定すればよく、本件明細書【0118】において測定装置として想定されている、コマツ検査機で測定する場合には、明暗差の大小は、測定値であるぎらつき値として知ることができるから、そのようなFナン

5 バーを特定する上で必要な作業は、Fナンバーを変えながら数回の撮影を

行ってコントラストの変化を確認し、最もコントラストが高くなるFナンバーを求めることだけである。最適なFナンバーの設定は、被写体等の影響を受けないレンズ固有の設定であって、測定機器の最初の使用に際して一度調整すれば、同じ設定を使用し続けることができるのであり、その調整は、ごく普通に用いられる測定機器の初期設定作業ということができる。イ 撮影距離を設定することが可能であることについて当業者は、本件明細書の【0128】の記載及び技術常識から、輝度の分布を把握するのに十分な解像度が得られる程度に撮影距離を短くすることを前提としつつ、輝線が映り込まない程度の距離を保持すべきことを理解し、適宜撮影距離を設定することができる。画素の輝線が映り込まない状態でぎらつきの輝度差を補足できる撮影距離には幅があるが、明確性要件との関係では、その幅が明確であれば足りるのであって、設定すべき撮影距離に幅があること自体が明確性を失わせる理由となるものではない。本件では、その「幅」が、画素の輝線が映り込まず、かつ十分な解像度が得られる範囲として特定されるから、特に明確性要件の問題を生じるものではない。ウ まとめ本件標準偏差の測定における撮影距離やFナンバーが特許請求の範囲に具体的に記載されていないとしても、当業者は明細書の記載と技術常識から適切な設定をすることができるから、本件特許の特許請求の範囲の記載が第三者の利益を不当に害するほどに不明確なものということはできない。

(2)

(被告の主張)

5 ア ディスプレイのぎらつき度合いの評価指標について

本件標準偏差と「JIS C1006:2019本文及び解説」(甲7)のぎらつきコントラストは、定義こそ異なるものの、一方の測定値が増加すれば、他方の測定値もそれに応じて増加する相関関係にある。ここで、本件標準偏差は、「8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したとき」のものであるところ、ぎらつきコントラストは、「本件標準偏差」を平均輝度である170階調に対する百分率で表した値であるから、「0以上6以下の範囲」の本件標準偏差は、「0以上3.5(=6/170×100)以下の範囲」のぎらつきコントラストに換算される。したがって、ぎらつきコントラストと本件標準偏差とは、前者の変動の程度が第三者の利益を不当に害する程度に大きければ、後者の変動の程度も第三者の利益を不当に害する程度に大きいという関係にある。甲7の記載に鑑みると、ぎらつき度合の測定条件等を統一的、かつ、一義的に決定してぎらつき度合を絶対値で定量化するという「ぎらつき度合の絶対評価」は、本件出願時において(現時点においても)、当業者の間で確立していたという事実はない。そうである以上、本件特許発明が明確であるか否かは、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識を考慮した場合に、当業者が合理的に選択する測定条件の幅(撮影距離及びFナンバー)が、測定値に影響を及ぼさない程度に十分に狭い範囲に定まるのか(一義的に決まるのか)否かという問題に帰着する。イ Fナンバーについて原告は、Fナンバーは、レンズごとにその最適値が決まるものであって、被写体に応じて設定を変更する必要がないから、1つのレンズにおいて一度だけ設定すれば足りる旨主張する。

5 しかしながら、甲7には、Fナンバーとぎらつきコントラストの相関に

おいて、極大値を示す例を提示し、それに併せてFナンバーの設定に当たりピーク値に着目することについて何らの記載もなく、Fナンバーの設定には、ある程度の自由度が許容されていたというのが本件出願時の業界の技術常識であったというべきである。ウ 撮影距離について撮影距離は、表示装置の使用態様(例えば、ユーザの目とディスプレイの表面との間の相対距離)も考慮して設定されるところ(本件明細書の【0129】)、本件特許発明における「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイ」のサイズは、スマートフォンやタブレットなど、機種に応じ様々なものがある。そして、ディスプレイの画面サイズ及び使用態様に応じて視聴距離が異なること、その視聴距離にも幅が存在することは技術常識である。本件明細書の【0128】の記載も、輝線が映り込まないという条件を満たす撮影距離には、自ずと輝線の影響の程度に応じた一定の範囲が想定されていることを示している。そうすると、本件標準偏差の測定条件のうち、少なくとも撮影距離については、本件明細書の記載及び本件出願時における技術常識を考慮しても必然的に一定の幅(広い範囲)が想定されるのであって、一義的に定まる(測定値に影響が及ばない程度に十分に狭い範囲に定まる)ことはない。本件出願前の文献である特開2017-173163号公報(乙6)によれば、撮影距離の設定条件としての「画素の輝線が見えない、あるいは画素の輝線が見えていたとしてもギラツキ評価に影響を与えない程度となるように調整する」という条件であって、当該条件を満たす範囲が、撮像装置の撮像素子の1画素あたり撮像される表示部に表示された画像の画素数が「0.5より大きく、2.0以下」の範囲となり、また同じく本件出願前の文献である、Simplified Method to Quantify Sparkling of

5 Antiglare Display without Image Processing and Its Application(乙

7)によれば、撮影距離の設定条件としての「ピクセルパターンが不可視であること」(本件特許発明の「輝線除去条件」に相当)及び「ぎらつきのみを撮影することが可能であるようなCCDの分解能に制御すること」という条件であって、当該条件を満たす範囲が、Xをディスプレイピクセルのサイズに対応するサイズとし、YをCCDの単一ピクセルによって撮影される領域のサイズに対応するサイズとしたときの「Y>0.7X」の範囲となる。乙6と乙7に記載された各範囲は、乙7のXに対するYの比(Y/X)で表せば、前者が「0.5~2.0」、後者が「0.7より大」となる。そうすると、当業者が合理的に選択する撮影距離は、結局、Y/Xが「0.7より大きく2.0以下」に相当することになり、これをレンズの公式に基づいて換算すれば、「約160mmより大きく約410mm以下」という幅のある撮影距離となる。さらに、ぎらつき度合の測定に関する技術分野において、コマツ検査機の納入業者が自社の検討結果に基づいて撮影距離(160mm前後)を推奨している(乙9)一方で、当業者である原告は何らかの事情に基づいて、当該推奨された撮影距離と大幅に異なる撮影距離(328mm)を現在に至るまで実際に採用している実情がある(原告が出願人である特開2023-2293号公報〔乙10〕の【0110】、【0136】及び【0137】はこれを示すものである。)。結局、当業者が合理的な範囲で選択する撮影距離の範囲は、「約160mmより大きく328mm前後」の範囲となり、測定結果に影響を及ぼす程度の広い範囲である。

2 取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)

(1)

(原告の主張)

5 ア 本件明細書が実施可能要件を満たすために必要な記載について

本件決定(理由②)は、ヘイズ値と透過像鮮明度には相関関係があるとの技術常識を前提に、両者の相関関係から逸脱する最も極端な高ヘイズと高鮮明度の組合せ、低ヘイズと低鮮明度の組合せのフィルムの製造方法について、製造方法の記載がないことを指摘し、本件3条件を「くまなく満たす」記載がないとする。しかし、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】に関する【0005】~【0008】の記載から明らかなとおり、本件特許発明は、良好な防眩性が維持された防眩フィルムを前提として、そのギラツキを抑制し、透過像鮮明度の設計自由度を確保することを目的とするものであって、防眩性そのものの制御を目的とするものではない。そして、本件明細書の【0011】の記載によれば、防眩性に関係するのは、本件3条件のうちヘイズ値であり、これを50%以上に設定すれば良好な防眩性が確保できる。そうすると、本件特許発明がヘイズ値を50%以上99%以下の範囲に規定するのは、ギラツキの抑制や透過像鮮明度の設計自由度の確保を考える前提として、良好な防眩性が確保された防眩フィルムがどのようなものであるかを定量的に表現したものであって、発明の目的を達成する上で、具体的なヘイズ値が50%以上99%以下のうち、どのような数値となるかは問題ではない。本件特許発明において、ギラツキの抑制や透過像鮮明度の調整に際し、50%以上99%以下の数値範囲内でヘイズ値が適宜変動することは当然に想定されているものということができる。そして、ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるのであるから、高い透過像鮮明度を得ようとするのであれば50%以上99%以下の数値範囲内でヘイズ値を低く設定し、逆に、透過像鮮明度を低く抑

5 えるのであればヘイズ値を高く設定することも、他の諸条件の調整と合わ

せて考慮すればよい。イ 実施品の製造について本件決定(理由②)は、防眩層の凹凸構造及び内部構造をどのようなものとすれば、本件3条件を実現することができるか明らかではないし、実施例と比較例で製造した防眩フィルムを事後的に分析して凹凸構造と内部構造を把握しても、その構造と本件3条件との因果関係が明らかではないから、本件特許発明の防眩フィルムを当業者がどのようにして製造することができるか明らかとはいえないとする。しかし、本件特許発明に係る防眩フィルムの非常に詳細な構造は、実施可能要件との関係で記載が要求される事項ではない。また、念のため、本件決定が問題とする、本件特許発明における凹凸構造及び内部構造と本件3条件との「因果関係」なるものについても以下で確認しておく。本件明細書の【0006】及び【0007】によれば、ディスプレイのギラツキは、防眩層の凹凸のレンズ効果が原因となるものであり、凹凸を小さくすることによってギラツキを抑制できること、他方で、凹凸を小さくすると防眩性が損なわれる恐れがあることが記載され、ここから、凹凸の大きさを調整することでヘイズ値を調整し、また、一定の相関性をもって透過像鮮明度を変化させることができることが容易に理解できる。また、当業者は、本件明細書の【0078】の記載により、防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができることを理解することができる。そして、本件明細書の【0068】に本件3条件の調整可能性についての一般論が、同【0079】に本件特許発明に係る実施形態に係る急峻

5 化の原理が、同【0188】に具体的な実施例が記載され、原材料につい

ては【0138】に記載されている。そうすると、本件明細書には、原材料から製造の工程、本件特許発明に係る特性を導く上で主要な構造となる凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法に係る記載があるから、この技術分野における通常の知識を有する者であれば、本件特許発明に係る防眩フィルムに求められる構造を理解し、通常の試行錯誤の範囲内で、シリカ粒子やブタノールの量などを具体的に決定し、その実施品を作ることができる。

(2)

(被告の主張)

ア 本件明細書が実施可能要件を満たすために必要な記載について本件特許発明の目的は、「ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供すること」であるが(本件明細書【0008】)、本件明細書の【0005】も考慮すれば、上記目的のうち、「高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供すること」とは、外光の映り込みを防止すること(高いヘイズ値とすること)と、ディスプレイの表示性能を維持すること(高い透過像鮮明度とすること)とのトレードオフの相関関係に起因して、従来、透過像鮮明度の設計自由度が制約を受けていたところ、ギラツキを所定の範囲にまで抑制されるとともに、前記制約を克服した領域ともいうべき領域である本件高ヘイズ・高鮮明度領域における透過像鮮明度を備えた防眩フィルムを提供することであると、当業者は理解する。なお、上記相関関係は、本件特許発明の実施例5、比較例4~9のヘイズ値、透過鮮明度の関係から明らかである。比較例1に関しては、「平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定された」本件特許発明の前提条件であるμmオーダーの表面凹凸構造を備えた防眩層ではな

5 く、nmオーダーの表面凹凸構造を備えた防眩層を有するもので、これを

参酌するのは相当でない。特許権が発明内容の公開を代償として付与される排他的独占権であるという特許法の立法趣旨に照らせば、本件高ヘイズ・高鮮明度領域に対して、実施可能要件の充足を求めることは妥当である。イ 実施品の製造について当業者が、シリカ粒子がブタノールに対して斥力相互作用を生じたことにより、凹凸構造が強調されたことや、両者の適用量の選択によって防眩層の特性を調整できることを理解したとしても、第2実施形態である本件特許発明に対応する唯一の実施例5における本件標準偏差は上限値近傍の5.5なのであるから、この実施例を出発点とした場合、シリカ粒子及びブタノールの適用量を調整して、ヘイズ値(55%)を本件高ヘイズ・高鮮明度領域(99%近傍)にまで高めた上で、なおかつ、本件標準偏差を6以下にとどめるためには、依然として過度な試行錯誤が必要とされる。また、凹凸を形成する方法(原理)が異なれば(第1実施形態がスピノーダル分解であるのに対して、第2実施形態が微粒子の凝集)、凹凸の形成に適した材料は異なり、それに伴い斥力相互作用が生じる材料の組み合わせも異なるのであって、上記対応関係を当業者が理解したとしても、微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定についての手がかりは本件明細書に開示されていない。

3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)

(1)

(原告の主張)

ア サポート要件の充足について本件明細書の【0008】にあるとおり、本件特許発明の技術目的は、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制するとともに、高い透

5 過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供することにある。

この点、ヘイズ値が50%以上あれば良好な防眩性は確保でき(【0011】)、また、ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるから、適宜ヘイズ値を変動させることにより、透過像鮮明度も調整することが可能である。防眩性を良好に保ちつつギラツキを抑制するとの課題については、防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができることが開示されている(【0078】)。本件明細書には、そのような防眩層を持つ防眩フィルムにつき、製造工程、原材料、具体的な特性の調整の可能性とその原理及び方法、実施例等が開示されているから、当業者がその記載及び技術常識に基づき、特許請求の範囲に記載された範囲において、本件特許発明の課題を解決できると認識できることは明らかである。よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件を充足する。イ 本件決定の誤りについて本件決定(理由③)は、実施可能要件の場合と同様、一般的相関関係を逸脱したヘイズ値と透過像鮮明度の組合せを充足する条件を「くまなく満たす」実施例の記載がないことや、本件特許発明に係る防眩フィルムの極めて具体的な構造の記載がないことを問題として、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を発明の範囲まで拡張ないし一般化することができないとの認定判断をした。しかし、このような判断が誤りであることは、前記2(1)に実施可能要件について主張したとおりである。

(2)

(被告の主張)

5

(原告の主張)

は、実施可能要件違反に関する取消事由として主張するところと基本的に同じであり、その主張が失当であることは、前記2(2)のとおりである。

第3実施形態に係る防眩フィルムの防眩層33は、基材フィルム側とは反対側の

5 表面に凹凸形状が賦形された構造を有する。防眩層33は、樹脂層で構成されてい

る。この樹脂層は、一例として、第2実施形態のマトリクス樹脂と同様の材質により構成されている。【0104】具体的に、第3実施形態に係る防眩フィルムは、基材フィルム上に硬化性樹脂を含むコート層を形成し、このコート層の表面を凹凸形状に賦形した後、コート層を硬化することにより製造される。図2は、第3実施形態に係る防眩フィルムの製造方法を示す図である。図2の例では、硬化性樹脂として紫外線硬化樹脂を用いている。【0105】図2に示すように、この製造方法では、基材フィルム20aが、図示しない巻出ロールから巻き出され、所定方向に搬送される。基材フィルム20aの搬送方向下流端部は、一対のロール21、22のニップ点N1に挿通される。【0106】ロール22の周面には、ロール22に隣接して軸支されたロール23の周面から紫外線硬化樹脂前駆体が付着させられる。基材フィルム20aがニップ点N1を通過する際、この紫外線硬化樹脂前駆体が、基材フィルム20aの一方の面に塗布される。【0107】基材フィルム20aに塗布された紫外線硬化樹脂前駆体の層(以下、コート層と称する。)は、ロール21、24のニップ点において、基材フィルム20aと共に押圧される。ロール24は、周面に微細な凹凸が形成されたロール状金型(エンボスロール)であり、ロール21、24のニップ点N2を通過する際にコート層の表面に凹凸形状を転写する。【0108】ロール24により表面に凹凸形状が転写されたコート層は、ロール21、24の

5 下方に設けられた紫外線ランプ26から照射される紫外線により硬化される。これ

により、防眩層33が形成される。このようにして製造された防眩フィルム33は、ロール24に隣接して軸支されたロール25によりロール24からリリースされ、所定方向へ搬送される。【0109】ここで、ロール24の表面の凹凸部は、ブラスト法により、所定の粒径のブラスト粒子を衝打させて形成されており、ブラスト粒径を調整することで、防眩フィルム33のコート層に形成される凹凸形状を調整できる。【0110】基材フィルム20aは、PET(ポリエチレン・テレフタレート)フィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルムが好適に用いることができる。【0111】このように、第3実施形態に係る防眩フィルムの作製方法は、基材フィルムに硬化性樹脂前駆体を塗布するステップ(a)と、ブラスト粒子を衝打させて表面に凹凸形状を有するロール状金型を作製するステップ(b)と、このロール状金型を用いて、基材フィルムに塗布した硬化性樹脂前駆体の表面に凹凸形状を転写するステップ(c)と、凹凸形状を転写した硬化性樹脂前駆体を硬化させて、表面に凹凸形状を有する防眩層を形成するステップ(d)とを有する。【0112】ステップ(b)において使用するブラスト粒子の平均粒径は、適宜設定可能であるが、一例として、10μm以上50μm以下の範囲の値に設定できる。ブラスト粒子の平均粒径は、20μm以上45μm以下の範囲の値が一層望ましく、30μm以上40μm以下の範囲の値がより望ましい。これにより、表面に凹凸形状が賦形された防眩層33が得られる。

5 【0113】

なお、第3実施形態において使用する金型は、ロール状金型以外でもよく、例えば、板状金型(エンボス板)でもよい。また、基材フィルムの一方の面にコート層(樹脂層)を形成した後、このコート層の表面を金型により賦形し、コート層を硬化することで、防眩層33を形成してもよい。また、上記例では、コート層の表面を賦形した後にコート層を硬化させたが、コート層の賦形と硬化とを並行して行ってもよい。【0114】金型の材質は、一例として、金属、プラスチック、及び木を例示できる。金型のコート層との接触面には、金型の耐久性(耐摩耗性)を向上させるために被膜を設けてもよい。ブラスト粒子の材質は、一例として、金属、シリカ、アルミナ、及びガラスを例示できる。ブラスト粒子は、例えば、気体又は液体の圧力により金型の表面に衝打させることができる。また、硬化樹脂前駆体が電子線硬化型であれば、紫外線ランプ26の代りに電子線加速器等の電子線源を利用でき、熱硬化性であれば、紫外線ランプ26の代りにヒーター等の加熱源を利用できる。【0115】

第3実施形態の防眩フィルムでは、防眩層33中に微粒子を分散させなくてもよ

いので、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中のマトリクス樹脂と微粒子との屈折率差によって広角に散乱することで防眩フィルムが着色するのを良好に防止できる。【0118】(ギラツキ検査機)・・・ギラツキ検査機10は、表面に防眩フィルム等のフィルムを装着した表示装置16におけるディスプレイ16aのギラツキを評価する装置であって、・・・ギラツキ検査機10としては、コマツNTC(株)製「フィルムギラツキ検査機」が挙げられる。【0124】

5 画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データのデータ処理

を行う。具体的に画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データから、ディスプレイ16aの輝度の標準偏差を求める。【0128】次に、撮像装置12の撮像素子の単位画素当たりに撮像されるフィルムを装着したディスプレイ16aの画素サイズを調整する調節ステップを行う。調整ステップでは、撮像装置12の撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12が撮像する画像において、画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に、撮像装置12と、フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整する。【0129】なお、撮像装置12と表示装置16との間の相対距離は、表示装置16の使用態様(例えば、ユーザの目とディスプレイ16aの表面との間の相対距離)を考慮して設定されることが望ましい。【0130】調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキを評価する測定エリアを設定する設定ステップを行う。設定ステップでは、測定エリアは、例えばディスプレイ16aのサイズ等に応じて適切に設定する。【0131】調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアを撮像装置12により撮像する撮像ステップを行う。このとき一例として、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整する。撮像ステップで撮像された画像データは、画像処理装置17へと入力される。【0132】

5 撮像ステップ後、画像処理装置17は、画像データを用いて、フィルムを装着した

ディスプレイ16aの測定エリアにおける輝度のばらつきを求める演算ステップを行う。この演算ステップにおいて、輝度のばらつきは、輝度分布の標準偏差として数値化される。【0133】ここで、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキは、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝度のばらつきが大きいほど大きくなる。これにより、輝度分布の標準偏差の値が小さいほど、ディスプレイ16aのギラツキは小さいと定量的に評価できる。また調整ステップにおいて、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝線がディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に調整されているので、輝線による輝度ムラを抑え、ディスプレイ16aの正確なギラツキの評価を行うことができる。【0134】以上の各ステップを経ることにより、表面にフィルムを装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差を求め、その値によりディスプレイ16aのギラツキを評価できる。【0138】[原料]実施例及び比較例で用いる各原料には、次のものを用いた。重合性基を有するアクリル系重合体A:ダイセル・オルネクス(株)製「サイクロマーP」、屈折率1.51セルロースアセテートプロピオネート:イーストマン社製「CAP-482-20」、アセチル化度=2.5%、プロピオニル度=46%、ポリスチレン換算の数平均分子量75000、屈折率1.49シリコーンアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「EB1360」、屈折率1.52

5 ウレタンアクリレート:新中村化学工業(株)製「UA-53H」

ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「DPHA」、屈折率1.52ペンタエリスリトールテトラアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「PETRA」、屈折率1.52ナノシリカ含有アクリル系紫外線硬化性化合物A:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(合同会社)製「UVHC-7800」シリカ(屈折率1.46)含有アクリル系紫外線硬化性化合物:アイカ工業(株)製「Z-753-11R」、屈折率1.52アクリル系ハードコート配合物A:日本化工塗料(株)製「FA-3155クリア」、アクリル微粒子(屈折率1.50)とマトリクス樹脂(屈折率1.46)を含有するアクリル系ハードコート配合物B:日本化工塗料(株)製「FA-3155M」、屈折率1.46重合性基を有するフッ素系化合物A:信越化学工業(株)製「KY-1203」重合性基を有するフッ素系化合物B:(株)ネオス製「フタージェント602A」ジルコニア微粒子(屈折率約20分散液:東洋インキ(株)製「リオデュラスTYZ」光開始剤A:BASFジャパン(株)製「イルガキュア184」光開始剤B:BASFジャパン(株)製「イルガキュア907」ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム:三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」セルローストリアセテート(TAC)フィルム:富士フイルム(株)製「フジタックTG60UL」【0152】[実施例5]

5 アクリル系ハードコート配合物A25質量部とシリカ含有アクリル系紫外線硬化

性化合物25質量部と1-ブタノール50質量部とを混合した溶液を調製した。この溶液を、ワイヤーバー(#16)を用いて、PETフィルム(基材フィルム2)上に流延した後、80℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約7μmのコート層を形成した。そして、紫外線ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射して紫外線硬化処理し、これにより防眩層3を形成し、実施例5の防眩フィルムを得た。【0178】次に、実施例1~5及び比較例1~11の各防眩フィルムについて、以下の項目を測定して評価した。ヘイズ及び全光線透過率、透過像鮮明度、60度グロスの測定に際しては、粘着層は省略した。【0179】[ヘイズ及び全光線透過率]ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。ヘイズは、防眩層の凹凸構造を有する表面が受光器側となるように配置して測定した。【0180】[透過像鮮明度]写像測定器(スガ試験機(株)製、ICM-1T)を用いて、JIS K7105に準拠し、防眩フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるように防眩フィルムを設置して測定した。光学櫛幅は、0.5mmとした。【0181】[60度グロス]グロスメーター((株)掘場製作所製、IG-320)を用いて、JlS K7105に準拠し、角度60°で測定した。【0182】

5 [ディスプレイの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)]

表示装置16としてスマートフォン(三星電子(株)製「Galaxy S4」)を用い、そのディスプレイ16aの表面に、各サンプルの防眩フィルムを粘着層(光学糊)により貼り付けた。コマツNTC(株)製フィルムギラツキ検査機10を用い、各サンプルの防眩フィルムを介して、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(ギラツキσ:ギラツキ値)を測定した。この測定に際しては、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整した。各測定結果を表1及び2に示す。【0183】【表1】【0184】【表2】【0185】表1に示されるように、実施例1~5の防眩フィルム1は、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が3%以上40%以下の範囲の値に設定され、防眩層3のヘイズ値が

5 55.5%以上93.0%以下の範囲に設定されている。また、実施例1~5の防眩

フィルムは、ディスプレイ16aのギラツキ値(ギラツキσ)が4.2以上6.0以下の範囲の値に抑制されている。すなわち実施例1~5の防眩フィルム1では、ディスプレイのギラツキ値を抑制しながら良好な防眩性が得られることが分かった。【0186】この理由として、実施例1~4の防眩層3では、アクリル共重合体Aとセルロースアセテートプロピオネート間で相分離が生じると共に、ナノシリカ含有アクリル系紫外線硬化性化合物Aや、ウレタンアクリレートにより、相分離構造が強調され、防眩層3の表面を非常に急峻又は高低差のある構造に形成できたことが考えられる。【0187】すなわち、ナノシリカ含有アクリル系紫外線硬化性化合物Aや、ウレタンアクリレートは、アクリル共重合体Aに対する親和性が高く、セルロースアセテートプロピオネートに対して斥力相互作用を生じたことにより、実施例1~4の防眩層3の相分離構造が強調されたものと考えられる。【0188】また、実施例5の防眩層3では、シリカ含有アクリル系紫外線硬化性化合物中のシリカ粒子に対して親和性の低い溶媒であるブタノールを多量に加えることで、シリカ粒子の凝集が激しく生じ、防眩層3の表面を非常に急峻又は高低差のある構造に形成できたことが考えられる。すなわち、シリカ粒子がブタノールに対して斥力相互作用を生じたことにより、親和性の高い溶媒では起こりえない程度にまで、防眩層3の表面に形成される凹凸構造が強調されたものと考えられる。更に実施例5の防眩層3では、アクリル系紫外線硬化樹脂とアクリル系ハードコート配合物Aとを共存させたことにより、光学性能を表1に示す範囲に調節することができた。【図1】【図2】【図3】別紙3 本件決定の理由①本件特許発明1は、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の複数の微粒子を含み、分散した複数の微粒子の凝集により、防眩層の表面に凹凸の分布構造が

5 形成された防眩層を、「ヘイズ」、「本件標準偏差」及び「光学櫛幅0.5mmの透

過像鮮明度」という、本件パラメータの数値範囲によって特定するものである。本件標準偏差の値については、その測定条件のうち、特に撮影距離とFナンバーにつき具体的にどの値を設定するのかが、本件明細書の記載及び本件特許出願時における技術常識を参酌しても、一義的に定まるとはいえず、本件標準偏差を含む本件パラメータの値も一義的に定まることはない。そして、一義的に定まらない以上、ある具体的な防眩フィルムが、本件特許発明の技術的範囲に入るか否かを当業者が理解することができないのであるから、本件特許発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。本件特許発明4及び5も同様である。別紙4 本件決定の理由②たとえ技術常識を参酌したとしても、第2実施形態の一般記載並びに実施例5の記載及び比較例1、4~9の記載に基づいては、平均粒径が0.5μm以上5.0μ

5 m以下の範囲の複数の微粒子を含み、分散した複数の微粒子の凝集により、防眩層

の表面に凹凸の分布構造が形成された防眩層を備えるという条件を満たし、かつ、実施例5の特定の3条件以外の値の本件3条件の数値範囲をくまなく満たす、種々の防眩フィルムを、どのように製造すればよいのかを当業者が理解することは困難である。例えば、①99%の極端に高いヘイズ、60%の0.5mm透過像鮮明度及び0~6の標準偏差を示す、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の複数の微粒子を含み、分散した複数の微粒子の凝集により、防眩層の表面に凹凸の分布構造が形成された防眩層を備えた防眩フィルムや、②50%のヘイズ、0%の極端に低い0.5mm透過像鮮明度及び0~6の標準偏差を示す、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の複数の微粒子を含み、分散した複数の微粒子の凝集により、防眩層の表面に凹凸の分布構造が形成された防眩層を備えた防眩フィルムは、製造が困難であると考えられるところ、上記①、②のような光学特性の防眩フィルムをどのように製造するのかを、十分な具体例の開示なくして当業者が理解することは困難であり、単に添加する微粒子の種類及び含有量を調整することで上記の防眩フィルムが得られると当業者が認識することはない、あるいは、得るためには相当の試行錯誤が必要とされることは明らかである。標準偏差条件から検討しても、本件特許発明1の防眩フィルムを当業者がどのようにして製造することができるか明らかとはいえない。第2実施形態や実施例5に関する記載によっても、本件特許発明1に係る防眩フィルムにおける微粒子の凝集の程度、適度な凝集により形成される凹凸の急峻さの程度、数密度、微粒子とマトリクス樹脂の屈折率差や、マトリクス樹脂の重量G1と複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1、防眩層の構造と本件3条件との「因果関係」などが把握できず、当業者は、防眩層の凹凸構造及び内部構造をどのようなものとすれば本件標準偏差の範囲内の防眩フィルムとすることができるのか理解できない。実施例と比較例で製造した防眩フィルムを事後的に分析して凹凸構造と内部構造を把握しても、その構造と本件3条件との因果関係が明らかではないから、本件特許発明1の防眩フィル

5 ムを当業者がどのようにして製造することができるか明らかとはいえない。本件特

許発明4、5についても同様である。本件特許発明が、第2実施形態に対応する構造に限定されていないとした場合でも、第3実施形態に対応する実施例が開示されていないこと等に鑑みれば、本件明細書は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということはできない。別紙5 本件決定の理由③本件特許発明が解決しようとする課題は、「ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキ

5 を抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供

する」(【0008】)ことである。しかしながら、課題を解決するための手段に関連する本件明細書【0009】~【0011】、【0014】~【0016】の記載、第2実施形態の一般記載、実施例5の記載及び比較例1、4~9の記載及び本件出願時の技術常識に基づいては、本件3条件を満たす、第2実施形態による防眩フィルムをどのように製造することができるのかを当業者が理解することは困難である。そうすると、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲(本件3条件に係る数値範囲の全ての範囲)まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。請求項4、5についても同様である。また、仮に本件発明1が、第2実施形態以外の実施形態を技術的範囲に含むと考えても、例えば本件発明のうち第3実施形態に対応する部分については、請求項1に係る発明の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。請求項4、5についても同様である。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1(明確性要件に関する判断の誤り)について

(1) 特許法36条6項2号は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うなど第三者の利益が不当に害されることがあり得ることから、特許を受けようとする発明が明確であることを求めるものである。その充足性の判断は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から行うのが相当である。本件決定は、本件標準偏差の測定条件のうち、撮影距離とFナンバーにつき具体的にどの値を設定するのかが、本件明細書の記載及び本件特許出願時における技術常識を参酌しても、一義的に定まらないので、本件標準偏差、ひいてはこれを含む本件パラメータが不明確となり、本件特許発明1は不明確であるとするものである。

(2) Fナンバーについて本件特許発明における撮影は、撮像された画像データから、ディスプレイの輝度の標準偏差を求め、コントラストを測定することが目的であるから(本件明細書の【0124】)、当業者は、なるべく被写体のコントラストを忠実に再現できる条件で撮影するものと解される。レンズの一般的特性として、コントラスト性能は、中間的なFナンバー(多少絞りを絞った状態)で最大化し、絞りを開いたり、絞り込んだりすることで低下する傾向があることは技術常識である(甲19~21、26~39)。

5 そうすると、当業者は、コントラストのピークがあるFナンバーに絞りを設定することになり、そのようなFナンバーを特定する上で必要な作業は、Fナンバーを変えながら数回の撮影を行ってコントラストの変化を確認し、最もコントラストが高くなるFナンバーを求めることだけであり、そのことに特段の困難性があるとは認められない。なお、本件明細書にギラツキ検査機として挙げられているコマツ検査機の説明書(乙9)の7頁に絞りの調整が記載されている。被告は、甲7(ディスプレイのぎらつき度合の求め方に関するJIS規格及びその解説)に上記のような作業が記載されていないことをもって、本件出願時の業界の技術常識として、Fナンバーの設定には、ある程度の自由度が許容されていた旨主張するが、甲7は本件特許の出願の後である令和元年12月20日に制定されたものであり、ディスプレイのぎらつき度合いの求め方に関して当業者に共通認識がなかったことを示すものではあっても、コントラスト性能の設定方法に関する上記技術常識を否定するものではない。本件特許発明は、「8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整」するものであり、そのような条件を充足させる前提の下で無制限に測定条件を調整できるわけではない。

(3) 撮影距離について本件明細書の【0128】には、「次に、撮像装置12の撮像素子の単位画素当たりに撮像されるフィルムを装着したディスプレイ16aの画素サイズを調整する調節ステップを行う。調整ステップでは、撮像装置12の撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12が撮像する画像において、画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に、撮像装置12と、フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整する。」と具体的に記載

5 されており、輝度の分布を把握するのに十分な解像度が得られる程度に撮影距離を短くすることを前提としつつ、ギラツキの評価に影響を与えるほど輝線が映り込まない程度の距離を保持すべきことを当業者は理解できると解される。そのように調整された距離は、輝線が見える距離の範囲と輝線が見えない相対距離の範囲との境界付近に設定されることとなるから、それほど大きくない一定の範囲に定まるといえる。なお、本件特許発明は、「8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整」するものであって、無制限に測定条件を調整できるわけではないことは、前記(2)のとおりである。被告は、ディスプレイのサイズは様々であり、ディスプレイの画面サイズ及び使用態様に応じて視聴距離が異なること、その視聴距離にも幅が存在することから、撮影距離について一義的に定まらない旨主張するが、被写体の大きさに個別性があるとしても、コマツ検査機を使用の上、本件明細書の【0128】に従った方法により調整すれば、被写体毎に自ずと撮影距離は定まるのであり、第三者に不利益を与えるほどに不明確であるとはいえない。また、被告は、乙6や乙7を挙げて、当業者が合理的に選択する撮影距離は、「約160mmより大きく約410mm以下」という幅のある撮影距離となる旨主張するが、乙6では、測定の対象となったディスプレイも、防眩フィルムやその特性も特定されておらず、乙7では、ディスプレイは特定されているが、防眩フィルムの特性は特定されておらず、本件標準偏差を測定する前提となる事項は示されていないのであるから、これらの文献は比較の対象として適当でなく、また、これらの組合せによって導き出された数値が技術常識であったとも認められない。さらに、被告は、原告が、現在に至るまで328mmという撮影距離を採用している旨主張するが、原告が本件標準偏差を測定する前提としての撮影について上記撮影距離を採用したことを認めるに足りる証拠はなく、また、

5 本件明細書の記載等から撮影距離が一義的に定まるといえるか否かという点に関する被告の主張を基礎づけるものともいえない。

(4) 結論以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできず、特許を受けようとする発明は明確であり、請求項4及び5についても同様である。したがって、この点の明確性要件を充足しないとした本件決定の判断は誤りであり、取消事由1は理由がある。

2 取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)について(1) 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をもって当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏まえ、発明の詳細な説明の記載につき実施可能要件を定める。このような同号の趣旨に鑑みると、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するためには、当該発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。(2) そこで検討するに、まず前提として、本件明細書記載の第1実施形態により本件3条件を満たす防眩フィルムを製造することができることは争いがないところ、被告は、本件特許発明は第2実施形態に係る防眩フィルムであって、第1実施形態は本件特許発明に含まれない旨主張する。しかし、本件明細書で第1実施形態を説明する【0056】の「防眩層3は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいてもよい。 との記載、」 【0058】の「微粒子の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。」との記載及び【0059】の「微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られにくくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあ

5 るため留意する。」との記載を参酌すれば、第1実施形態には、スピノーダル分解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層を備える防眩フィルムが含まれているといえる。したがって、本件特許発明においては、スピノーダル分解による凝集のみにより表面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層は含まないが、スピノーダル分解による凝集と微粒子の凝集の両方により表面に凹凸の分布構造が形成されている防眩層は排除されていないのであり、第1実施形態に係る防眩フィルムが本件特許発明に含まれないとする被告の主張は採用できない。(3) 以上を前提に実施可能要件の充足性について検討するに、第1実施形態は、防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化するとともに、凹凸の数を増やすことにより、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させるものである(【0078】)。第1実施形態と、第2実施形態とは、上記原理を共通にし、第1実施形態では、スピノーダル分解によって凹凸を防眩層に形成するのに対し、第2実施形態では、複数の微粒子を使用し、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことで、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成するという点において異なる(【0079】、【0080】)。そして、本件明細書には、第1実施形態に関して本件3条件に係る防眩層の特性は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、調製工程、形成工程、硬化工程の施工条件等を変化させることで形成できるものであることが記載されており(【0068】)、第2実施形態について、微粒子や、防眩層を構成するマトリクス樹脂の材料(【0086】~【0094】)、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差(【0081】)、粒径(【0082】)、防眩層におけるマトリクス樹脂と微粒子の割合(【0085】)、製造方法(【0095】~【0102】)、調製に使用する溶剤(【0096】)が

5 具体的に記載されるとともに、実施例5においては、シリカ粒子がブタノールに対して斥力相互作用を生じたことにより、凹凸構造が強調されること(【0188】)が、記載されているから、当業者は、第1実施形態に係る【0186】及び【0187】の記載に加え、【0068】及び【0079】の記載を併せ考えれば、各生産工程における条件の適切な設定や、アクリル系紫外線硬化樹脂とアクリル系ハードコート配合物Aを共存させること等の調整を行うことによって、第2実施形態に関して、実施例として記載された防眩フィルムをはじめとする様々な特性の防眩フィルムを得られることを理解するものということができる。したがって、仮に本件特許発明が、微粒子の凝集のみにより表面に凹凸の分布構造が形成された防眩層を備える防眩フィルムであるとしても、当業者は本件特許発明に係る防眩フィルムを製造することができるといえる。被告は、凹凸を形成する方法(原理)が異なれば凹凸の形成に適した材料は異なり、それに伴い斥力相互作用が生じる材料の組み合わせも異なるから、微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定についての手がかりは本件明細書に開示されていないと主張する。しかし、微粒子の凝縮によって形成される凹凸構造の形状は、スピノーダル分解の凝集が進行したことによる上記液滴相構造の形状と同様のものであると解されるから、第1実施形態の凹凸構造を参考にできるものと解される。そして、上記のとおり、本件明細書には、本件特許発明に係る特性を導く上で主要な構造となる凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造の工程に係る記載があり(特に【0079】)、当業者は、微粒子の凝集を用いてより急峻な凹凸を形成する場合には、微粒子の重量部を大きくし、さらに必要に応じてブタノールの重量部を大きくし、斥力を大きくするなどして、通常の試行錯誤の範囲内で、シリカ粒子やブタノールの量などを具体的に決定し、その実施品を作ることができるものというべきである。

5 (4) 被告は、本件明細書の【0005】、【0008】の記載から、本件特許発明の目的のうち、「高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供すること」とは、外光の映り込みを防止すること(高いヘイズ値とすること)と、ディスプレイの表示性能を維持すること(高い透過像鮮明度とすること)とのトレードオフの相関関係に起因して、従来、透過像鮮明度の設計自由度が制約を受けていたところ、ギラツキを所定の範囲にまで抑制されるとともに、前記制約を克服した領域ともいうべき領域である本件高ヘイズ・高鮮明度領域における透過像鮮明度を備えた防眩フィルムを提供することであると当業者は理解するから、本件高ヘイズ・高鮮明度領域について製造方法の記載が求められると主張する。しかし、まず、本件明細書の【0005】の記載からは、外光の映り込みの防止とディスプレイの表示性能の維持の間に厳格なトレードオフの関係があるとまで認めることはできない。本件特許発明の第1実施形態に係る実施例1~4、比較例2~3、10及び11、第2実施形態に係る実施例5、比較例1、4~9における防眩フィルムのヘイズ値及び透過像鮮明度の数値(本件明細書【0183】の【表1】、【0184】の【表2】)からは、ヘイズ値が同程度であっても透過像鮮明度が異なる防眩フィルムや、透過像鮮明度が同程度であってもヘイズ値が異なる防眩フィルムが製造できることが示されている。なお、被告は、本件明細書には本件特許発明に対応する実施例としては実施例5しか記載されていない旨主張するが、これは、第1実施形態が本件特許発明に対応するものでないという誤った前提に基づくものであるし、仮に被告の前提によるとしても、ここで問題となるのはヘイズ値と透過像鮮明度の相関関係であるから、実施例5以外の実施例を排除する理由はない。また、被告は、比較例1に関しては、「平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定された」本件特許発明の前提条件であるμmオーダーの表面凹凸構造を備えた防眩層ではなく、nmオーダーの

5 表面凹凸構造を備えた防眩層を有するから、参酌すべきではない旨主張するが、仮に比較例1を参酌しなかったとしても、上記認定が左右されるものではない。加えて、JIS規格(K7374)(甲43)の「附属書(参考)像鮮明度測定例」では、像鮮明度の透過測定例として「ヘーズ値によって像の鮮明さを評価できないアンチグレアフィルムなどのフィルムの測定例」があり、附属書表1の試料1-2「ヘーズ値14.11、像鮮明度80.0%」と試料1-4「ヘーズ値14.67、像鮮明度5.9%」を示すとともに、ヘーズ値は像の鮮明度とは異なり視感を反映していないのに対して、像鮮明度は視感と一致していることが記載されていることからみて、防眩フィルムのヘイズと透過像鮮明度の間には一定の相関関係があるものの、強い相関性まで認められているものではなく、製造条件などで調整が可能であり、設計自由度があるといえる。さらに、本件明細書の【0008】には「そこで本発明は、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。」と記載され、本件特許発明は、防眩性、ギラツキの抑制、高い透過像鮮明度の設計自由度という三条件の均衡を目的とするものと理解される。そして、本件明細書の【0011】の「また、前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩層のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、ディスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。また、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60%以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由度を広く確保できる。」との記載は、良好な防眩性を示すヘイズ値が50%以上であることを示すものであり、したがって、ヘイズ値は、ギラツキの抑

5 制や高い透過像鮮明度という他の条件との関係で上記数値範囲内で変動してよいものである。上記のとおり、高いヘイズ値とすることとディスプレイの表示性能を維持することとの厳格なトレードオフの関係は認められず、甲13添付の実験成績証明書3頁ではサンプル1(ヘイズ値96%、透過像鮮明度65%)とサンプル2(ヘイズ値45%、透過像鮮明度2.0%)の防眩フィルムが製造できたことが示されており、本件高ヘイズ・高鮮明度領域の製造方法が具体的に記載されていなければ、本件特許発明が実施可能要件を欠くなどということはできない。

(5) 以上によれば、本件明細書には、当業者がその記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められ、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。したがって、本件明細書につき実施可能要件を充足しないとした本件決定の判断には誤りがあり、取消事由2には理由がある。

3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)について(1) 特許法36条6項1号は、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細な説明に実質的に裏付けられていなければならないというサポート要件を定めるところ、その適合性の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。(2) 本件特許発明は、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑

5 制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的とする(【0008】)。ヘイズ値が50%以上あれば良好な防眩性は確保でき(【0011】)、ヘイズ値と透過像鮮明度との間には一定の相関関係があるから、適宜ヘイズ値を変動させることにより、透過像鮮明度も調整することができる。ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させるには、 防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に、凹凸の数を増やせばよい(【0078】)。そして、上記のような防眩フィルムについて、本件明細書には、凹凸の急峻性を生み出す原理とその具体的方法、原材料から製造の工程、実施例等が記載されていることは前記2(3)のとおりであるから、当業者は、その記載及び技術常識に基づき、特許請求の範囲に記載された範囲において、本件特許発明の課題を解決できると認識できるということができる。(3) したがって、本件特許発明につきサポート要件を充足しないとした本件決定の判断には誤りがあり、取消事由3には理由がある。

4 結論以上のとおり、取消事由1~3はいずれも理由があるから、本件決定を取り消すこととし、主文のとおり判断する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

宮 坂 昌 利

裁判官

本 吉 弘 行

裁判官

岩 井 直 幸

別紙1 略語一覧

(略語) (意味)・本件特許:原告を特許権者とする特許第6745410号

5 ・本件訂正:原告の令和4年3月22日付け訂正請求に係る本件特許の特許請求の範囲の訂正・本件特許発明:本件特許の請求項1、4、5に係る発明の総称(本件訂正後のもの)。個別には、請求項の番号に応じ、「本件特許発明1」「本件特許発明4」「本件特許発明5」という。・本件明細書:本件特許に係る明細書・本件標準偏差:画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記有機ELディスプレイの輝度分布の標準偏差・本件パラメータ:「ヘイズ」、「本件標準偏差」及び「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」という、防眩層についての3つの特性の値・撮影距離:撮像装置と防眩フィルムを装着したディスプレイとの距離・Fナンバー:撮像装置のレンズのFナンバー・本件3条件:「ヘイズ値が50%以上99%以下の範囲の値であ」るとの要件(ヘイズ条件) 「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの、表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記有機ELディスプレイの輝度分布の標準偏差が0以上6以下の範囲の値であ」るとの要件(標準偏差条件)及び「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が0%以上60%以下の範囲の値である」との要件(透過像鮮明度条件)を包括した条件・コマツ検査機:コマツNTC株式会社製「フィルムギラツキ検査機」・本件高ヘイズ・高鮮明度領域:「99%の極端に高いヘイズ、60%の0.5mm透過像鮮明度」といった組合せ

別紙2 本件明細書の記載事項(抜粋)

【技術分野】【0001】本発明は、ディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する防眩フィルムに関5 する。【背景技術】【0002】防眩フィルムは、例えば、粗面化により表面に凹凸が形成された防眩層を有するフィルムであり、ディスプレイの表面に装着され、外光を散乱させてディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する。【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0005】防眩フィルムをディスプレイの表面に装着すると、ディスプレイの表面への外光の映り込みが防止される反面、ディスプレイからの光が防眩フィルムによる影響を受け、防眩フィルムを介したディスプレイの表示性能が低下する場合がある。このため、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由度が高いことが望ましい。【0006】また、高精細画素を有するディスプレイ等の表面に防眩フィルムを装着すると、防眩フィルムを透過するディスプレイからの光が防眩層の表面の凹凸により屈折したり、防眩層の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりすることで、ディスプレイのギラツキが発生し、画像が見づらくなることがある。【0007】ディスプレイのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。また、ディスプレイのギラツキは定量的に評価しにくい面があり、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを客観的指標に従って開発することが困難な場合がある。【0008】5 そこで本発明は、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。【課題を解決するための手段】【0009】上記課題を解決するために、本発明の一態様は、ヘイズ値が50%以上99%以下の範囲の値である防眩層を備え、ディスプレイの表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が0以上6以下の範囲の値であり、且つ、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が0%以上60%以下の範囲の値である。【0010】ここで、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値は、ディスプレイ上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる。このため上記構成では、当該標準偏差を0以上6以下の範囲の値に設定して防眩層を構成することで、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して防眩フィルムを設計できる。従って、例えばギラツキを試験者が目視で主観的に評価した場合等に比べて、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを安定して得ることができる。【0011】また、前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩層のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、ディスプレイのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。また、防眩フィルムの光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60%以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの透過像鮮明度の設計自由度を広く確保できる。【発明の効果】【0017】本発明によれば、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することによ5 り、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、高い透過像鮮明度の設計自由度を有する防眩フィルムを提供できる。【発明を実施するための形態】【0019】以下、本発明の各実施形態について、図を参照して説明する。【0020】(第1実施形態)図1は、第1実施形態に係る防眩フィルム1の構成を示す断面図である。防眩フィルム1は、表示装置16(図3参照)のディスプレイ16aの表面に装着される。防眩フィルム1は、基材フィルム2、防眩層3、及び粘着層4を備える。【0021】基材フィルム2は、ディスプレイ16aと防眩層3との間に配置され、防眩層3を支持する。粘着層4は、ディスプレイ16aと基材フィルム2との間に配置され、防眩フィルム1をディスプレイ16aの表面に固定する。粘着層4は、例えば光学糊であり、防眩フィルム1の光学特性に影響を及ぼしにくい材質で構成されている。【0022】防眩層3は、基材フィルム2の少なくとも一方の面に形成されている。防眩層3は、防眩フィルム1に防眩性を付与し、外光を散乱反射させてディスプレイ16aの表面への外光の映り込みを防止する。防眩層3は、ディスプレイ16aの表面を保護するハードコート(HC)層としても機能する。防眩層3は、一例として、相分離可能な複数の樹脂成分を含む。【0023】防眩フィルム1は、ディスプレイ16aの表面に装着した状態におけるディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差が0以上6以下の範囲の値に設定され、且つ、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が0%以上60%以下の範囲の値に設定されている。防眩層3は、ヘイズ値が50%以上99%以下の範囲の値に設定されている。5 【0024】本実施形態で示すヘイズ値は、JIS K7136に準拠する方法により測定した値である。【0025】前記標準偏差の値は、上記範囲内において適宜設定可能であるが、0以上5.5以下の範囲の値であることが一層望ましく、0以上5.0以下の範囲の値であることがより望ましい。また、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度(写像性)の値も、上記範囲内において適宜設定可能であるが、0%以上55%以下の範囲の値であることが一層望ましく、0%以上50%以下の範囲の値であることがより望ましい。【0026】また、防眩層3のヘイズ値は、上記範囲において適宜設定可能であるが、50%以上90%以下の範囲の値であることが一層望ましく、50%以上85%以下の範囲の値であることがより望ましい。【0027】このように本実施形態では、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値が、ディスプレイ16a上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイ16aのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となることに基づき、当該標準偏差が0以上

6以下の範囲の値に設定されるように防眩フィルム1を構成することで、ディスプレイ16aのギラツキを定量的に評価して防眩フィルム1を設計できる。【0028】従って、例えばディスプレイ16aのギラツキを試験者が目視で主観的に評価した場合等に比べて、ディスプレイ16aのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルム1を安定して得ることができる。【0029】また、防眩フィルム1の前記標準偏差を所定値に設定すると共に、防眩層3のヘイズ値を50%以上99%以下の範囲の値に設定することにより、ディスプレイ15 6aのギラツキを抑制しながら、良好な防眩性を得ることができる。また、防眩フィルム1の光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度を0%以上60%以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルム1の透過像鮮明度の設計自由度を広く確保できる。【0056】防眩層3は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいてもよい。微粒子は、有機系微粒子及び無機系微粒子のいずれでも良く、複数の微粒子は、複数種類の微粒子を含んでいてもよい。【0057】有機系微粒子としては、架橋アクリル粒子や架橋スチレン粒子を例示できる。また無機系微粒子としては、シリカ粒子及びアルミナ粒子を例示できる。また、防眩層3中に含まれる微粒子とマトリクス樹脂との屈折率差は、一例として、0以上0.20以下の範囲の値に設定できる。この屈折率差は、0以上0.15以下の範囲の値であることが一層望ましく、0以上0.07以下の範囲の値であることがより望ましい。【0058】微粒子の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。この平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、0.5μm以上2.0μm以下の範囲の値であることがより望ましい。【0059】なお、ここで言う平均粒径は、コールターカウンター法における50%体積平均粒径である(以下に言及する平均粒径も同様とする。 。) 微粒子は、中実でもよいし、中空でもよい。微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られにくくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあるため留意する。【0068】ここで、防眩層3のヘイズ値、防眩フィルム1の透過像鮮明度、及び、表面に防眩5 フィルム1を装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値(ギラツキ値)は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、或いは、調製工程、形成工程、及び硬化工程の施工条件等によって変化しうる。従って、各条件を変化させて防眩層を形成し、得られた防眩層の物性を予め測定・把握しておくことで、目的の物性を有する防眩フィルムを得ることができる。【0078】ここで、ディスプレイ16aのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。しかしながら、防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができる。【0079】第1実施形態において前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できるが、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例えば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成できる。そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との差異を中心に説明する。【0080】(第2実施形態)第2実施形態に係る防眩フィルムの防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む。微粒子は、真球状に形成されているが、これに限定されず、実質的な球状や楕円体状に形成されていてもよい。また微粒子は、中実に形成されているが、中空に形成されていてもよい。微粒子が中空に形成されて5 いる場合、微粒子の中空部には、空気或いはその他の気体が充填されていてもよい。防眩層には、各微粒子が一次粒子として分散していてもよいし、複数の微粒子が凝集して形成された複数の二次粒子が分散していてもよい。【0081】マトリクス樹脂と、微粒子との屈折率差は、0以上0.20以下の範囲の値に設定されている。この屈折率差は、0以上0.15以下の範囲の値であることが更に望ましく、0以上0.07以下の範囲の値であることがより望ましい。【0082】微粒子は、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定されている。微粒子の平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、0.5μm以上2.0μm以下の範囲の値であることがより好ましい。【0085】防眩層におけるマトリクス樹脂の重量と複数の微粒子の総重量との比は、適宜設定することが可能である。本実施形態では、防眩層のマトリクス樹脂の重量G1と、防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1は、0.07以上0.20以下の範囲の値に設定されている。比G2/G1は、0.10以上0.20以下の範囲の値であることが望ましく、0.12以上0.20以下の範囲の値であることがより望ましい。【0086】マトリクス樹脂中に分散される微粒子は、無機系及び有機系のいずれのものでもよいが、良好な透明性を有するものが好ましい。有機系微粒子としては、プラスチックビーズを例示できる。プラスチックビーズとしては、スチレンビーズ(屈折率1.59)、メラミンビーズ(屈折率1.57)、アクリルビーズ(屈折率1.49)、アクリル-スチレンビーズ(屈折率1.54)、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ等を例示できる。スチレンビーズは、架橋スチレンビーズでもよく、アクリルビーズは、架橋アクリルビーズでもよい。プラスチックビーズは、表面に疎水基5 を有するものが望ましい。このようなプラスチックビーズとしては、スチレンビーズを例示できる。【0087】マトリクス樹脂としては、活性エネルギー線により硬化する光硬化性樹脂、塗工時に添加した溶剤の乾燥により硬化する溶剤乾燥型樹脂、及び、熱硬化性樹脂の少なくともいずれかを例示できる。【0088】光硬化性樹脂としては、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマー、プレポリマー、反応性希釈剤を例示できる。【0089】これらの具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を例示できる。【0090】光硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂である場合、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α-アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノスルフィド、チオキサントン類を例示できる。また光硬化性樹脂には、光増感剤を混合し5 て用いることも好ましい。光増感剤としては、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ-n-ブチルホスフィン等を例示できる。【0091】溶剤乾燥型樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を例示できる。この熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂、及びゴム又はエラストマー等を例示できる。溶剤乾燥型樹脂としては、有機溶媒に可溶であって、特に、成形性、製膜性、透明性、及び耐候性に優れる樹脂が望ましい。このような溶剤乾燥型樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類等)を例示できる。【0092】ここで、基材フィルム2の材質がトリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂である場合、溶剤乾燥型樹脂に用いられる熱可塑性樹脂として、セルロース系樹脂を例示できる。このセルロース系樹脂は、ニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、エチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体を例示できる。溶剤乾燥型樹脂としてセルロース系樹脂を用いることで、基材フィルム2と防眩層3とを良好に密着させることができると共に、優れた透明性を有する防眩フィルム1が得られる。【0093】また、溶剤乾燥型樹脂としては、その他、ビニル系樹脂、アセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリカーボネート樹脂等を例示できる。【0094】5 熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を例示できる。マトリクス樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、及び粘度調整剤等の少なくともいずれかを併用してもよい。【0095】第2実施形態における防眩フィルムの製造方法は、一例として、防眩層3の原料となる溶液を調製する調製工程と、調製工程で調製した溶液を所定の支持体(本実施形態では基材フィルム2)の表面に塗布する塗布工程と、塗布した溶液中の樹脂を硬化する硬化工程とを有する。【0096】[調製工程]調製工程では、溶媒と、防眩層を構成するための樹脂組成物と、微粒子とを含む溶液を調製する。溶媒としては、アルコール類(イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等)、ケトン類(メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン等)の少なくともいずれかを例示できる。溶液には、更に公知のレベリング剤を添加してもよい。例えば、フッ素系やシリコーン系のレベリング剤を用いることにより、防眩層に良好な耐擦傷性を付与できる。【0097】[塗布・硬化工程]塗布工程では、調製工程で調製した溶液を、第1実施形態と同様の方法により、支持体(ここでは一例として基材フィルム2)の表面に流延又は塗布する。支持体の表面に流延又は塗布した溶液から、溶媒を乾燥により蒸発させて除去する。5 【0098】マトリクス樹脂が光硬化性樹脂である場合、塗布工程後に、一例として紫外線又は電子線による硬化工程を行う。紫外線源としては、各種水銀灯、紫外線カーボンアーク灯、ブラックライト、メタルハライドランプの光源を例示できる。また紫外線の波長域としては、例えば、190nm以上380nm以下の範囲の波長域を例示できる。【0099】また電子線源としては、公知の電子線加速器を例示できる。具体的には、ヴァンデグラフ型、コッククロフト・ウォルトン型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を例示できる。【0100】溶液に含まれていたマトリクス樹脂が硬化することにより、マトリクス樹脂中の微粒子の位置が固定される。これにより、マトリクス樹脂中に複数の微粒子が分散され、表面に微粒子による凹凸が形成された構造の防眩層が形成される。【0101】第2実施形態の防眩フィルムによれば、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、良好な防眩性を確保しながらディスプレイ16aのギラツキを抑制できると共に、防眩フィルムの着色を防止できる。【0102】また、防眩層の比G2/G1が、0.07以上0.20以下の範囲の値に設定されているので、マトリクス樹脂に複数の微粒子が分散された構造の防眩層を有する防眩フィルムを良好に製造できる。【0103】(第3実施形態)

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