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令和4(ワ)5553特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和5年12月7日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社日本育児
被告株式会社カトージ
対象物 幼児用サークル
法令 特許権
特許法30条2項1回
特許法29条1項2号1回
特許法123条1項1回
特許法100条1項1回
キーワード 無効44回
新規性32回
実施23回
無効審判11回
特許権10回
差止6回
侵害4回
進歩性3回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。25
事件の概要 1 本件は、発明の名称を「幼児用サークル」とする特許(以下「本件特許」と いう。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本10 件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。ただし、 後記のとおり、原告は訂正請求をしている。)の技術的範囲に属する被告製品を製 造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、特許 法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造、販売等の差止め及び廃棄を求 めるとともに、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金713万310015 円及びこれに対する令和4年7月22日(訴状送達日の翌日であり、不法行為より も後の日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求 める事案である。

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判決文

令和5年12月7日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和4年(ワ)第5553号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 令和5年10月5日
判 決
原 告 株 式 会 社 日 本 育 児
同訴訟代理人弁護士 阪 本 豊 起
同 藤 原 唯 人
10 同 西 片 和 代
同 鎌 田 裕 代
同 横 山 大 輔
同訴訟代理人弁理士 古 川 安 航
同 山 田 久 就
被 告 株 式 会 社 カ ト ー ジ
同訴訟代理人弁護士 後 藤 昌 弘
同 大 橋 厚 志
20 同 鈴 木 智 子
同 川 岸 弘 樹
同訴訟代理人弁理士 松 原 等
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
25 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙「被告物件目録」記載1及び2の製品(以下、「被告製品1」
などといい、これらを併せて「被告製品」という。)を製造し、輸入し、販売し又
は販売の申出をしてはならない。
5 2 被告は、被告製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、713万3100円及びこれに対する令和4年7月2
2日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「幼児用サークル」とする特許(以下「本件特許」と
10 いう。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本
件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。ただし、
後記のとおり、原告は訂正請求をしている。)の技術的範囲に属する被告製品を製
造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、特許
法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造、販売等の差止め及び廃棄を求
15 めるとともに、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金713万3100
円及びこれに対する令和4年7月22日(訴状送達日の翌日であり、不法行為より
も後の日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求
める事案である。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定
20 できる事実)
(1) 当事者
原告は、ベビー用品の輸入、製造、販売等を目的とする株式会社である。
被告は、各種育児用品の販売等を目的とする株式会社である。(以上につき、争
いがない。)
25 (2) 本件特許権
原告は、次の本件特許権を有している。本件特許権の特許請求の範囲、明細書及
び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特許
公報」のとおりである(甲2)。
ア 登録番号 特許第6914521号
イ 出願日 平成29年8月4日
5 ウ 公開日 平成31年2月28日
エ 登録日 令和3年7月16日
オ 発明の名称 幼児用サークル
カ 新規性喪失の例外の表示 特許法30条2項適用
(ア) 平成29年5月29日 公開場所 株式会社赤ちゃん本舗(住所略)
10 (イ) 平成29年7月27日 掲載アドレス http://www.niho
nikuji.co.jp/item/araetetatameru_circ
le.html
(3) 構成要件の分説
本件発明の構成要件は、別紙「本件発明に関する充足論」の「構成要件」欄のA
15 ないしFのとおり分説される。
(4) 無効審判事件及び訂正請求
ア 被告は、本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし4に係る特許について、
令和4年8月25日及び同月26日にそれぞれ特許無効審判の請求をし(無効20
22-800076号事件、同800077号事件)、両事件の審理は後に併合さ
20 れた(以下、両事件を併せて「本件無効審判事件」という。)(甲12、13、1
9、20)。
イ 原告は、本件無効審判事件において、令和4年11月18日付け訂正請求書
により、本件特許の特許請求の範囲請求項1を後記(5)のとおりに訂正するととも
に、同請求項4(「前記側面シート及び前記底面シートが一体に形成されていると
25 ともに、各縦枠に対して取外し可能に構成されている、請求項1乃至3のうちいず
れか一の項に記載の幼児用サークル。」との請求項)を削除する旨の訂正請求をし
た(以下「本件訂正」という。)(甲16)。
(5) 本件訂正後の構成要件の分説等
ア 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲請求項1は、次のとおりである(下
線部が本件訂正部分である。以下「本件訂正発明」という。)(甲16)。
5 環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の縦枠と、隣り合う縦枠を渡す
ように張られメッシュ部を有する側面シートと、底面に位置する非伸縮性の底面シ
ートと、を備え、前記底面シートは平面視において多角形の形状を有しており、各
縦枠の下端部分は前記非伸縮性の底面シートの多角形の頂点にあたる部分に固定さ
れ外側への移動が制限されており、各縦枠の下端部分を前記非伸縮性の底面シート
10 の多角形の頂点にあたる部分に固定して各縦枠の下端部分の外側への移動を制限
し、かつ、各縦枠に対して取外しできるように構成されている接続テープを備え 、
前記側面シート及び前記底面シートが一体に形成されているとともに、各縦枠に対
して取外し可能に構成されている、幼児用サークル。
イ 本件訂正発明の構成要件を分説すると、別紙「本件訂正発明に関する充足論
15 (原告の主張)」の「構成要件」欄のAないしF、X及びYのとおりである(下線
部が本件訂正部分である。)。
(6) 被告製品の構成
ア 原告が主張する被告製品の構造は、別紙「被告製品説明書1」(被告製品1
について)及び「被告製品説明書2」(被告製品2について)各記載のとおりであ
20 るところ、各「3 構造の説明」については、このうちAの「内側に傾斜する」の
部分及びEを除き、被告は特に争っていない。
イ 被告製品の構成には争いがあり、原告の主張は、別紙「本件発明に関する充
足論」の「被告製品の構成」欄の「原告の主張(被告製品1)」欄及び「原告の主
張(被告製品2)」欄各記載のとおりであり、被告の主張は、同「被告の主張」欄
25 記載のとおりであるが、被告製品が、構成要件BないしD及びFを充足することは
当事者間に争いがない。
(7) 被告の行為等
被告は、令和2年12月頃から、業として被告製品を製造又は輸入し、販売し、
販売のための申出をしている(争いがない。)。
2 争点
5 (1) 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
(2) 本件発明の無効理由の有無(争点2)
ア カタログ「KATOJI NEW COLLECTION 2005」(乙
3。平成17年納品。以下「乙3文献」という。)記載の発明(以下「乙3発明」
という。)に基づく新規性欠如の有無(争点2-1)
10 イ インターネット上の動画共有サイト「YouTube」に投稿された商品
「プレイヤード」の広告動画ページ(乙4。平成27年4月15日投稿。以下「乙
4動画」という。)に開示された発明に基づく新規性欠如の有無(争点2-2)
ウ 米国特許出願公開第2004/0261174号明細書(乙5。以下「乙5
明細書」という。)記載の発明(以下「乙5発明」という。)及び周知事項に基づ
15 く進歩性欠如の有無(争点2-3)
エ 原告が、インターネット上のプレスリリース配信サービス「@Press」
(以下「アットプレス」という。)に依頼して平成29年8月1日に発明の公開を
行ったこと(乙9の1~3)による新規性喪失の有無(争点2-4)
オ 公然実施品である米国GRACO社製プレイヤード(以下「本件プレイヤー
20 ド」という。)に基づく新規性欠如の有無(争点2-5)
(3) 訂正の再抗弁の成否(争点3)
(4) 損害の発生及びその額(争点4)
(5) 差止め等の必要性の有無(争点5)
第3 争点についての当事者の主張
25 1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
本件発明に係る構成要件A及びEの充足性についての当事者の主張は、別紙「本
件発明に関する充足論」の「被告製品の構成要件充足性」欄の「原告の主張」欄及
び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
2 本件発明の無効理由の有無(争点2)
本件発明の無効理由の有無に関する当事者の主張は、別紙「本件発明に関する無
5 効論」記載のとおりである。
3 訂正の再抗弁の成否(争点3)
本件訂正が訂正要件を充足し、原告による訂正の再抗弁が成り立つか否かについ
ての当事者の主張は、別紙「本件訂正の訂正要件充足性」記載のとおりである。
4 損害の発生及びその額(争点4)
10 〔原告の主張〕
被告は、令和3年7月16日から本訴提起日(令和4年6月30日)までの間に、
被告製品1を1台当たり1万4080円の価格で、少なくとも483台販売した と
ころ、1台当たりの利益は8320円を下回らないから、少なくとも401万85
60円の利益を得ている。
15 また、被告は、前記の期間に、被告製品2を1台当たり2万1780円の価格で、
少なくとも242台販売したところ、1台当たりの利益は1万2870円を下回ら
ないから、少なくとも311万4540円の利益を得ている。
したがって、被告は、合計713万3100円の利益を得ており、原告は、被告
による本件特許権の侵害により、少なくとも同金額の損害を被った。
20 〔被告の主張〕
争う。
5 差止め等の必要性の有無(争点5)
〔原告の主張〕
被告は、令和2年12月頃から、被告製品を製造又は輸入し、販売し、販売のた
25 めの申出をしていることから、本件特許権侵害の予防のため、前記製造等の行為の
差止め及び被告製品の廃棄を求める必要がある。
〔被告の主張〕
差止め等の必要性は争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について
5 (1) 被告製品が、本件発明の構成要件BないしD及びFに係る構成を有するこ
とは当事者間に争いがない。
そこで、争いのある構成要件Aの充足性(複数の縦枠が「内側に傾斜」している
といえるか)及び同Eの充足性(各縦枠の下端部分が「底面シートの多角形の頂点
にあたる部分に固定され」ているといえるか)につき、それぞれ検討する。
10 (2) 構成要件Aの充足性について
ア 構成要件Aは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の縦枠」
と規定しているところ、本件発明に係る特許請求の範囲請求項1の記載には傾斜の
角度を特定するものと解される文言はない。
また、本件明細書には、以下の内容が示されている(各段落の具体的記載は、別
15 紙「特許公報」参照)。すなわち、軽量型の幼児用サークルは、幼児が内側から側
面を押したときに転倒するおそれがあることから、先行技術文献である特許文献1
(特開2016-19676号公報(乙1)。以下「乙1公報」という。)では、
側面を内側に傾斜させて転倒しにくくしたものが提案されていること(【0002】)、
軽量型の幼児用サークルから下枠を無くすことができれば、側面に出入口を設けた
20 ときに幼児がつまずきにくく、一層の軽量化を図ることができるが、側面を内側に
傾斜させた幼児用サークルは、縦枠が内側に傾斜しているため、下枠を無くしてし
まうと縦枠の下端部分が外側に広がって全体の形状を保つことができなくなるおそ
れがあり、縦枠同士がメッシュシートで連結されているとしても、メッシュシート
は伸びやすいため、縦枠の下端部分が外側に広がるのを抑制することはできない こ
25 と(【0004】)、本件発明は、縦枠が内側に傾斜した幼児用サークルであって、下
枠の省略が可能な幼児用サークルを提供することを目的としており(【0005】)、
課題解決するための手段として、本件発明の一態様に係る幼児用サークルは、環状
に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の縦枠と、隣り合う縦枠を渡すように
張られメッシュ部を有する側面シートと、底面に位置する非伸縮性の底面シートと、
を備え、各縦枠の下端部分は前記非伸縮性の底面シートに固定され外側への移動が
5 制限されている構成を有すること(【0006】)が示され、発明の実施態様として、
各縦枠が内側にわずかに傾斜しているものが開示されている(【0020】)。しかし、
傾斜の角度を具体的に特定する記載はない。
さらに、本件明細書において先行技術文献とされる乙1公報には、「転倒してし
まうおそれを低減した幼児用サークル及び当該幼児用サークルに用いられるジョイ
10 ントを提供することを目的とする」発明において、発明の実施形態につき、「下第
3筒状部32cに保持される縦パイプ21は、幼児用サークル1の接地状態におい
て、鉛直方向から、上枠10によって囲まれる領域A1内に向かって傾くことにな
る。一例として、下第3筒状部32cの軸線Y3が前記平面P2に直交する方向d
1から傾く角度θ1は、5.7°以上5.9°以下に設定される」との記載はある
15 が(【0005】【0032】【図9】)、転倒防止との関係で、傾斜の角度が当該角度に
限定される旨の記載はない(【図9】については別紙「図面等」の【図9】参照)。
以上によれば、構成要件Aは、縦枠につき、わずかであっても幼児用サークルの
内側への傾斜角度があれば幼児用サークルが倒れにくくなる作用効果は奏するとし
て、具体的な傾斜角度を特定せず、「内側に傾斜する」とは、文言どおり、内側へ
20 の傾斜角度があることをいうものと解される。
イ 被告製品についてみると、証拠(甲7、乙2)及び弁論の全趣旨によれば、
被告製品1の6本の縦フレームが鉛直方向からサークルの内側に向かって傾斜して
いる角度は、6本中4本が2°、1本が3°、1本が4°であり、製品ごとに多少
のばらつきがあり得ることを考慮しても、被告製品2を含めて、縦フレーム(縦枠)
25 は、サークルの内側に向かって少なくとも2°程度傾斜しているものと認められる。
そうすると、幼児用サークルの縦枠につき、内側への傾斜角度があるといえるから、
被告製品は、「内側に傾斜する」との構成を有し、構成要件Aを充足する。
ウ これに対し、被告は、構成要件Aの「内側に傾斜」の意義につき、従来技術
に係る乙1公報(【0032】)と同義に解し、縦枠がサークルの内側に向かって鉛直
方向から少なくとも5°は傾いていることを意味する旨主張する。しかしながら、
5 前記アのとおり、構成要件Aにおける「内側に傾斜」の文言が傾斜角度を具体的に
定めるものとは解されない。加えて、乙1公報の発明に係る幼児用サークルには下
枠が存在し、上枠と下枠が縦枠により接続される構成を有する(請求項1)のに対
し、本件発明に係る幼児用サークルは下枠の省略が可能である(前記ア)という構
造上の違いがあることにも照らすと、前記両発明における「内側に傾斜」の意義を
10 同義に解すべき理由はないというべきであるから、被告の主張は採用できない。
(3) 構成要件Eの充足性について
ア 構成要件Eは、各縦枠の下端部分が「底面シートの多角形の頂点にあたる部
分に固定され」と規定しているところ、「あたる」との語は、一般には、「物事と
他の物事とがぴったり相対応する。」との意味のほかに、「ちょうどその方向・時
15 期にある。該当する。」、「(そういう関係・順位・資格・価値などに)相当す
る。」等の意味を有する(乙18)。そうすると、縦枠の下端部分が固定される箇
所が、「底面シートの多角形の頂点」に相当する部分といえるならば、「底面シー
トの多角形の頂点」そのものではないとしても、文言上、「底面シートの多角形の
頂点にあたる部分」には該当すると解することができる。
20 そして、本件明細書の、「底面シートの正六角形の頂点にあたる部分は、接続テ
ープを介して各縦枠の下端部分に固定されている。」(【0033】)、「各縦枠は内
側に傾斜していることから、縦枠の下端部分には外側に向かう力が働くが、幼児用
サークルは、各縦枠の下端部分が非伸縮性の底面シートによって接続されているた
め、各縦枠の下端部分の外側への移動が制限される。その結果、幼児用サークルは、
25 下枠を有しないにもかかわらず、縦枠の下端部分が外側に移動せず全体の形状を維
持することができる。」(【0034】)との記載からすると、縦枠の下端部分が直接
固定される箇所が「底面シート」ではなかったとしても、「底面シート」の非伸縮
性によって縦枠の下端部分の外側への移動が制限され、幼児用サークル全体の形状
を維持することができるという作用効果を奏する態様で各縦枠の下端部分が「底面
シート」に接続されていれば、「底面シートの多角形の頂点にあたる部分に固定さ
5 れ」との文言に該当し、構成要件Eを充足すると解すべきである。
イ 被告製品についてみると、証拠(甲4ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、
縦フレーム(縦枠)の下端部分は、テープバンドを介してシートに固定されている
ことが認められるところ、その固定されているシート自体は、本件発明における
「底面シート」に相当する部分ではなく、伸縮性のメッシュ部を有する側面シート
10 に相当する部分(別紙「被告製品説明書1」及び「被告製品説明書2」の各「3
構造の説明」のBにいう「側面部分14」及び「側面部分24」)である。
しかしながら、前記テープバンドが縦フレームに取り付けられている箇所は、
「底面シートの多角形の頂点」からわずかしか離れておらず、当該テープバンドは
側面シートの端部を介して底面シートに接続していると認められる(甲6、乙2)。
15 そうすると、前記箇所は、「底面シートの多角形の頂点」に相当する部分というこ
とができ、「底面シートの多角形の頂点にあたる部分」に該当すると認められる。
そして、前記テープバンドが伸縮性のメッシュ部を有する側面シートに固定された
部分は、当該シートの端部であって非伸縮性の補強部材からなる(乙2、弁論の全
趣旨)上、「底面シートの多角形の頂点」と同補強部材を介して接続し、わずかな
20 距離しか離れていないことから、「底面シート」の非伸縮性によって縦フレーム
(縦枠)の下端部分の外側への移動が制限され、幼児用サークル全体の形状を維持
することができるという作用効果も認められる。
以上のことからすると、被告製品は、各縦枠の下端部分は前記非伸縮性の「底面
シートの多角形の頂点にあたる部分に固定され」外側への移動が制限されていると
25 認められ、構成要件Eを充足するというべきである。
(4) 小括
したがって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。
2 本件プレイヤードに基づく新規性欠如の有無(争点2-5)について
事案に鑑み、争点2-5から検討する。
(1) 乙第12号証は、本件プレイヤードにつき、被告において現物を入手の上
5 で行った分析及び実験の報告書である。
被告は、本件プレイヤードは、本件特許出願前に本件発明が公然実施されたもの
である旨主張するので、以下検討する。
(2) 証拠(乙3、12ないし14)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認
められる。
10 ア 本件プレイヤードの構造等は、以下のとおりである。
(ア) 環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する6本の部材Aと、隣り合う部
材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材Bと、底面に位置する非伸縮
性の部材Cと、を備え、部材Cは平面視において多角形(六角形)の形状を有して
いる。
15 (イ) 各部材Aの下端部分は接地部材Gが受けており、部材Aは、部材Gのうち
内外方向中央点から外側へずれた部分に固定されている。
(ウ) 部材Bと部材Cは一体に形成されている。また、部材Cの多角形の頂点部
分に取り付けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれており、部材G
は2か所でねじ止めされている(タッピングねじによるが、ねじの取外しは可能で
20 ある。)。
(エ) 部材Aの下端近くを机に固定し、対角にある他方の部材Aの下端近くを人
力で引っ張ったところ、他方の部材Aの下端部分は、0N時(無負荷)に対して引
張力120N時で外側へ約3mm移動したにすぎず、また、部材Dの伸びも確認さ
れなかった。
25 (オ) 本件プレイヤードの全景は別紙「図面等」の【写真①】のとおりであり、
各部材Aの下端部分の固定状況は同別紙【写真②】及び【写真③】のとおりである。
イ 本件プレイヤードは、被告が平成17年に配布したカタログ「KATOJI
NEW COLLECTION 2005」(乙3文献)に掲載されており、その
頃、被告により需要者に対して販売されていた。
(3) 前記認定事実アによれば、本件プレイヤードの部材Aは本件発明の縦枠に、
5 部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートにそれぞれ相当し、部材Gに固定され
た部材Aの下端部分は、部材Cの六角形の頂点にあたる部分に部材Dを介して固定
され、外側への移動が制限されているものと認められる。そうすると、本件プレイ
ヤードは、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A(縦枠)と、
隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材B(側面シート)
10 と、底面に位置する非伸縮性の部材C(底面シート)と、を備え、部材Cは平面視
において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多
角形の頂点にあたる部分に(部材Dを介して)固定され外側への移動が制限されて
いる、プレイヤード」との構成を有するものということができるから、本件発明の
各構成要件を充足する。
15 そして、特許法29条1項2号所定の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多
数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうところ、前記認定事実イ
のとおり、被告は、本件特許出願前の平成17年頃、カタログに本件プレイヤード
を掲載して需要者に対して販売していたから、その内容を不特定多数の者が知り得
る状況で本件発明を実施したものと認められる。
20 (4) 原告は、本件無効審判事件の進行状況等に照らすと、被告による乙第12
号証を証拠とする無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される
べきである旨の申立て(民訴法157条1項に基づくものと理解される。)をする。
しかし、攻撃防御方法の提出について時機に後れたかどうかは、本件訴訟の具体的
な進行状況等に即して判断されるべきである。そして、原告の訂正の再抗弁等に対
25 するものとして、乙第12号証及びこれに基づく無効理由を主張する被告の準備書
面(1)が令和5年2月15日に提出されたところ、その時点では、書面による準備
手続における協議が重ねられ、争点及び証拠の整理手続中(いわゆる心証開示前)
であり、被告が故意又は重大な過失により当該攻撃防御方法を提出したとか、それ
により訴訟の完結が遅延するなどの客観的な事情があったとは認められないから、
原告の前記申立ては理由がないものとして却下する。
5 (5) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施
された発明であって、新規性を欠き、無効審判により無効とされるべきものである
から、後記3で検討する訂正の再抗弁が成り立たない限り、原告は、被告に対し、
本件特許権を行使することができない(特許法123条1項、104条の3第1項、
29条1項2号)。
10 3 訂正の再抗弁の成否(争点3)について
本件訂正により、本件プレイヤードに基づく新規性欠如(前記2)の無効理由が
解消されるか否かにつき検討する。
(1) 原告は、本件訂正発明と本件プレイヤードを対比すると、①本件訂正発明
の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件
15 プレイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点、
②本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構成さ
れているのに対し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し
可能に構成されていない点の2つの相違点があるから、本件訂正により本件プレイ
ヤードに基づく新規性欠如の無効理由は解消される旨主張する。
20 (2) しかしながら、前記2(2)ア認定のとおり、本件プレイヤードにおいては、
各部材Aの下端部分は、接地部材Gが受けて固定しているところ、部材Cに取り付
けられた部材D(テープバンド)が部材Gに挟み込まれて2か所でねじ止めされて
(以下「本件ねじ止め」という。)、各部材Aの下端部分が(部材Dを介して)部
材Cに固定されている。そして、本件ねじ止めは、タッピングねじによるものであ
25 るが、ねじの取外しをすることは可能であり、このねじを取り外せば、部材Dを部
材Aの下端部分が固定されている部材Gから取り外すことができるから、部材Dは、
部材Aに対して取外し可能であると認められる。
また、前記のように部材Dを部材Aから取り外せば、部材Dが取り付けられてい
る部材C及びこれと一体に形成されている部材B(前記2(2)ア)も部材Aから取
り外すことができるものと認められる。
5 そうすると、本件訂正発明と本件プレイヤードの対比において、原告が主張する
前記(1)の①及び②の相違点はいずれも認めることができない。
(3) これに対し、原告は、本件ねじ止めはタッピングねじによるものであると
ころ、同ねじは、日常的に繰り返し取り外す必要がある部位には使用されないもの
であるから、本件プレイヤードは、使用者が再組立できなくなる等のリスクを冒し
10 てまで、部材Dや部材B及び部材Cの「取外し」を行うことは想定されていない旨
主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件Xは「…各縦枠に対して取外しできる
ように構成されている接続テープを備え」、構成要件Yは「前記側面シート及び前
記底面シートが…各縦枠に対して取外し可能に構成されている」というものである
ところ、取外しの具体的な態様や頻度等について何ら限定をしていない。そうする
15 と、タッピングねじによる本件ねじ止めは、その構造上も実際上も取外し可能であ
る以上、本件プレイヤードの構成につき、本件訂正発明の前記各構成要件との相違
点を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
また、原告は、本件プレイヤードは「WATERPROOF」、つまり防水性の
製品であって、洗濯機での洗濯や脱水は危険であることから、市販製品の一般的な
20 意味での「取外し」はできず、このような製品を「取外し可能」と評価することは
できない旨主張する。しかし、本件訂正発明の構成要件X及びYにおいて、「取外
し」の目的が特定されているものではないし、 本件明細書の段落【0013】の記載
(「この構成によれば、側面シートと底面シートを縦枠から取り外して洗うことが
できるため、幼児用サークルを清潔に保つことができる。」)を参酌するとしても、
25 その洗い方が洗濯機によるものに限定されているものではないから、原告の主張は
採用できない。
(4) したがって、本件訂正によっても、本件プレイヤードに基づく新規性欠如
の無効理由は解消されないから、原告の訂正の再抗弁は成り立たない。
4 結論
よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由
5 がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
10 裁判長裁判官
武 宮 英 子
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官
峯 健 一 郎
25 ※別紙「特許公報」については掲載省略
(別紙)
被告物件目録
1 商品名 :ベビーサークル ポータブル折りたたみベビーサークル
5 コロコロランド 6
商品番号:63023
2 商品名 :ベビーサークル ポータブル折りたたみベビーサークル
コロコロランド 8
商品番号:63024
10 以 上
( 別 紙)
図 面 等
【図9】
【 写 真 ①】
20 【 写 真 ②】 【写真③】
(別紙)
被告製品説明書1
被告製品1は、以下の構造を有する。なお、被告製品1の構成における名称は、
取扱説明書(甲6)に記載の名称を参照した。
1 図面の説明
図1 被告製品1の斜視図
図2 被告製品1のサークルシートを取り外した状態の斜視図
図3 被告製品1の縦フレームが内側に傾斜していることを示す図
2 符号の説明
10 ベビーサークル
11 縦フレーム
12 メッシュ部
13 サークルシート
14 側面部分
15 底面部分
16 脚部材
17 内側連結フレーム
18 外側連結フレーム
3 構造の説明
A ベビーサークル10は、環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する6つ
の縦フレーム11を備えている。
B ベビーサークル10は、隣り合う縦フレーム11を渡すように張られメッ
シュ部12を有するサークルシート13の側面部分14を備えている。
C ベビーサークル10は、底面に位置する非伸縮性のサークルシート13の
底面部分15を備えている。
D サークルシート13の底面部分15は、平面視において六角形の形状を有
している。
E 6つの縦フレーム11の下端部分は、非伸縮性のサークルシート13の底
面部分15の六角形の頂点にあたる部分に固定され外側への移動が制限さ
れている。
F ベビーサークル10は、各縦フレーム11を受ける6つの脚部材16を備
えている。
G 各縦フレーム11は脚部材16のうち中心から内側にずれた部分に固定
されている。
H ベビーサークル10は、隣り合う縦フレーム11を連結する内側連結フレ
ーム17及び内側連結フレーム17よりも外側に位置する外側連結フレー
ム18を備えている。
I 内側連結フレーム17は、隣り合う縦フレーム11のうち外側から見て右
方の縦フレーム11の上端部分に右端が回動可能に接続され、隣り合う縦フ
レーム11のうち外側から見て左方の縦フレーム11に左端が上下移動可
能に接続されている。
J 外側連結フレーム18は、外側から見て左方の縦フレーム11の上端部分
に左端が回動可能に接続され、外側から見て右方の縦フレーム11に右端が
上下移動可能に接続されている。
K サークルシート12の側面部分14及び側面部分15が一体に形成され
ているとともに、各縦フレーム11に対して取外し可能に構成されている。
図1
図2
図3
(別紙)
被告製品説明書2
被告製品2は、以下の構造を有する。なお、被告製品2の構成における名称は、
取扱説明書(甲6)に記載の名称を参照した。
1 図面の説明
図1 被告製品2の斜視図
図2 被告製品2のサークルシートを取り外した状態の斜視図
図3 被告製品2の縦フレームが内側に傾斜していることを示す図
2 符号の説明
20 ベビーサークル
21 縦フレーム
22 メッシュ部
23 サークルシート
24 側面部分
25 底面部分
26 脚部材
27 内側連結フレーム
28 外側連結フレーム
3 構造の説明
A ベビーサークル20は、環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する8つ
の縦フレーム21を備えている。
B ベビーサークル20は、隣り合う縦フレーム21を渡すように張られメッ
シュ部22を有するサークルシート23の側面部分24を備えている。
C ベビーサークル20は、底面に位置する非伸縮性のサークルシート23の
底面部分25を備えている。
D サークルシート23の底面部分25は、平面視において八角形の形状を有
している。
E 8つの縦フレーム21の下端部分は、非伸縮性のサークルシート23の底
面部分25の八角形の頂点にあたる部分に固定され外側への移動が制限さ
れている。
F ベビーサークル20は、各縦フレーム21を受ける8つの脚部材26を備
えている。
G 各縦フレーム21は脚部材26のうち中心から内側にずれた部分に固定
されている。
H ベビーサークル20は、隣り合う縦フレーム21を連結する内側連結フレ
ーム27及び内側連結フレーム27よりも外側に位置する外側連結フレー
ム28を備えている。
I 内側連結フレーム27は、隣り合う縦フレーム21のうち外側から見て右
方の縦フレーム21の上端部分に右端が回動可能に接続され、隣り合う縦フ
レーム21のうち外側から見て左方の縦フレーム21に左端が上下移動可
能に接続されている。
J 外側連結フレーム28は、外側から見て左方の縦フレーム21の上端部分
に左端が回動可能に接続され、外側から見て右方の縦フレーム21に右端が
上下移動可能に接続されている。
K サークルシート22の側面部分24及び側面部分25が一体に形成され
ているとともに、各縦フレーム21に対して取外し可能に構成されている。
図1
図2
図3
(別紙)本件発明に関する充足論
被告製品の構成 被告製品の構成要件充足性
構成要件 争いの
原告の主張(被告製品1) 原告の主張(被告製品2) 被告の主張 原告の主張 被告の主張
有無
構成要件Aの「内側に傾斜」は、従来技術である特開2016-19676号公報(乙1)に開
本件発明において、構成要件のみならず発明の詳細な説明においても、縦枠が内側に傾斜する際の角度に限
示された「内側に傾斜」と同義に解すべきであり、上記公報では、縦パイプがサーク
否認する。 定はない。ベビーサークルにおいては、中にいる子供が上の枠をつかみ、ベビーサークルが形を崩すことが
ルの内側に向かって鉛直方向から傾く角度が5.7°以上5.9°以下に設定される
被告製品1の6つの縦フ 想定される。本件発明は、敢えて縦枠を内側に傾けることで、上の枠がつかまれた際、縦枠が内側に倒れ、
環状に配置され、それ 環状に配置され、それぞれが内 環状に配置され、それぞれ 例が開示されている。そうすると、本件発明の構成要件Aの、軽量型幼児用サークル
レーム11及び被告製品2 縦枠の下部が外側に逃げる状況を作出し、他の構成要件によって、この縦枠の下部が外に逃げるという状況
A ぞれが内側に傾斜する a1 側に傾斜する6つの縦フレーム a2 が内側に傾斜する8つの縦 あり において幼児が内側から側面を押したときに転倒するおそれを解消する目的にも照ら
の8つの縦フレーム21 を回避し、ベビーサークルの形が崩れることを防ぐことにしたものである。そのため、わずかであっても
複数の縦枠と、 11と、 フレーム21と、 せば、構成要件Aの「内側に傾斜」は、全ての縦枠が、サークルの内側に向かって鉛
は、いずれも「内側に傾 「内側に傾斜」していることが肝要であり、何度以上傾斜している必要があるとの限定を加える必要はな
直方向から少なくとも5°は傾いている構成をいうと解すべきである。
斜」していない。 い。
被告製品における「縦フレーム」は、サークルの内側に向かって鉛直方向から2°程
被告製品は、縦フレームが内側に傾斜していることは被告も認めており、構成要件Aを充足する。
度傾いているものが殆どであるから、構成要件Aを充足しない。
隣り合う縦フレーム21を
隣り合う縦枠を渡すよ 隣り合う縦フレーム11を渡す
渡すように張られメッシュ
うに張られメッシュ部 ように張られメッシュ部12を
B b1 b2 部22を有するサークル 認める。 なし
を有する側面シート 有するサークルシート13の側
シート23の側面部分24
と、 面部分14と、
と、
底面に位置する非伸縮 底面に位置する非伸縮性のサー 底面に位置する非伸縮性の
C 性のシートと、を備 c1 クルシート13の底面部分15 b3 サークルシート23の底面 認める。 なし
え、 と、を備え、 部分25と、を備え、
サークルシート23の底面
前記底面シートは平面 サークルシート13の底面部分
部分25は平面視において
D 視において多角形の形 d1 15は平面視において六角形の d2 認める。 なし
八角形の形状を有してお
状を有しており、 形状を有しており、
り、
構成要件Eの文言上、各縦枠の下端部分が固定される先が底面シートの多角形の頂点という一点に限定する 本件発明は、「側面を内側に傾斜させた幼児用サークルは、縦枠同士がメッシュシー
ことまで内容とされるものではない。「頂点にあたる部分」とは、全体からみて頂点に相当する一帯を指す トで連結されているとしても、メッシュシートは伸びやすいため、縦枠の下端部分が
ものである。すなわち、本件明細書の記載(【0004】【図面2】)からすると、底面シートの各頂点その 外側に広がるのを抑制することができない」との技術的課題(本件明細書
ものが縦枠と物理的に接することまでは前提とされておらず、各縦枠の下端部分と底面シートの間にわずか 【0004】)を克服するため、「各縦枠の下端部分は前記非伸縮性の底面シートの多
否認する。
8つの縦フレーム21の下 な寸法の介在物を含む場合も含まれると解される。また、本件発明は、非伸縮性の底面シートと各縦枠の下 角形の頂点にあたる部分に固定され」(構成要件E)の構成を備えたものである。そ
各縦枠の下端部分は前 6つの縦フレーム11の下端部 被告製品1の6つの縦フ
端部分は前記非伸縮性の 端部分を連結することで、各縦枠が外側に広がることを防ぐとともに、各縦枠を底面シートの中でも特に頂 うすると、「メッシュ部分を有する側面シート」(構成要件B)と「非伸縮性の底面
記非伸縮性の底面シー 分は前記非伸縮性のサークル レーム11の下端部分及び
サークルシート23の底面 点にあたる部分に固定することで正多角形に近い状態を生み、全体の形状を保つことも実現するものである シート」(構成要件C)とは明確に区別され、縦枠の下端部分に固定されているのが
トの多角形の頂点にあ シート13の底面部分15の六 被告製品2の8つの縦フ
E e1 e2 部分25の八角形の頂点に あり から、全体の形状を保持する効果が各縦枠を底面シートの各頂点にあたる部分に固定させる作用により導か 「底面シート」ではなく「側面シート」であるような構成は、構成要件Eからは排除
たる部分に固定され外 角形の頂点にあたる部分に固定 レーム21の下端部分は、
あたる部分に固定され外側 れているような場合は「頂点にあたる部分に固定」されていると評価すべきである。 されているものと解すべきである。
側への移動が制限され され外側への移動が制限されて いずれも「多角形の頂点に
への移動が制限されてい 被告製品は、側面シートのメッシュとメッシュを連結する非伸縮性の補強部材から短いテープバンドが出 被告製品において、縦フレームの下端部分に固定されているのは「サークルシートの
ている、 いる、 あたる部分に固定」されて
る、 て、縦フレームの下端部分に固定され、このテープバンドは底面シートの頂点から1cmほどしか離れてい 底面部分」ではなく、「サークルシートの側面部分」であるから、構成要件Eは充足
いない。
ないから、縦フレームの下端部分が固定されている先は,全体からみて頂点に相当する一帯に属する。ま されない。「側面シート」の補強部分が非伸縮性であったとしても、それが縫い付け
た、底面シートの非伸縮性は、非伸縮性の補強部材及び同素材上の底面シートから1cmほどの距離に固定 られた「側面シート」のメッシュが伸縮性である以上、縦フレームが「底面シート」
された短いテープバンドを介し、縦フレームに作用しており、縦フレームはこの作用により外側への移動を に固定された場合に比べ、メッシュが伸びた分だけ、より外側へ移動してしまうか
制限される効果がある。したがって、被告製品は、構成要件Eを充足する。 ら、作用効果は異なる。
F 幼児用サークル。 f1 ベビーサークル10。 f2 ベビーサークル20。 認める。 なし
(別紙)本件発明に関する無効論
無効理由 被告の主張 原告の主張
乙3文献には、環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材Aと、隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有
する部材Bと、底面に位置する非伸縮性の部材Cと(ここで、幼児が足を取られないように部材Cを非伸縮性とすることは、当業者が
幼児用サークルにおける技術常識から認識できる。)、を備え、部材Cは平面視において多角形の形状を有しており、各部材Aの下端
部は非伸縮性の部材Cの多角形の頂点にあたる部分に部材Dを介在して固定され外側への移動が制限されている、プレイヤードの発明
が、当業者において、特別の思考を要することなく当該発明を認識しこれを実施し得る程度に記載されている。プレイヤードは本件
本件発明は、乙3発明とは、以下の点において相違するから、本件発明は新規性が否定され
カタログ「KATOJI NEW 発明の幼児用サークルに、部材Aは縦枠に、部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートに相当し、部材Dの介在については接続テー
ない。
COLLECTION 2005」(乙3 プ61が介在する態様を包含している。したがって、本件発明は、乙3発明である。
1 本件発明の縦枠は内側に傾斜するのに対し、乙3発明の部材Aは内側に傾斜しているか
1 文献)記載の発明(乙3発
否か明らかでない点(相違点1)
明)に基づく新規性欠如 原告主張の相違点1について、乙3文献(65頁の左側の写真)の、部材Aの上端部分及び下端部分の写り方からすると、部材Aが
2 本件発明の底面シートは非伸縮性であるのに対し、乙3発明の部材Cは非伸縮性である
(争点2-1) (上端側で)内側へ傾斜していることは明らかである。よって、相違点1は相違点ではない。
か否か明らかでない点(相違点2)
原告主張の相違点2について、仮に底面シートが伸縮性であると、幼児の足が取られることや、前のめりに転倒する恐れがあり危険
であることから、当業者であれば、底面シートを伸縮性にすることなど考えもしないから、非伸縮性は技術常識である。底布材41
が格子模様に描かれていることからいえるのは、底布材41が織布であろうということにとどまり、「底布材41はメッシュ状であ
り伸縮性を有する」などとはいえないし、請求項1には、「非伸縮性の程度」がなんら特定されていない。よって、部材Cを非伸縮
性とすることは、当業者が幼児用サークルにおける技術常識から認識できることであり、相違点2は実際には相違点ではない。
乙4動画には、環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材aと、隣り合う部材aを渡すように張られメッシュ部b1を有す
る部材bと、底面に位置する非伸縮性の部材cと(ここで、幼児が足を取られないように部材cを非伸縮性とすることは、当業者が幼
インターネット上の動画共有 児用サークルにおける技術常識から認識できる。)、を備え、部材cは平面視において多角形の形状を有しており、各部材aの下端部
サイト「YouTube」に投稿さ は非伸縮性の部材cの多角形の頂点にあたる部分に部材dを介在して固定され外側への移動が制限されている、プレイヤードの発明
乙4動画に開示される発明は、乙3発明の同一又は実質的に同一であり、本件発明と乙4動
れた商品「プレイヤード」の が、当業者において、特別の思考を要することなく当該発明を認識しこれを実施し得る程度に開示されている。プレイヤードは本件
画に開示される発明は、少なくとも、無効理由1において主張した相違点1及び相違点2に
2 広告動画ページ(乙4動画) 発明の幼児用サークルに、部材aは縦枠に、部材bは側面シートに、部材cは底面シートに相当し、部材dの介在については接続テープ
おいて相違する。したがって、乙4動画に開示された発明に基づいて本件発明の新規性は否
に開示された発明に基づく新 61が介在する態様を包含している。したがって、本件発明は、乙4動画により電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
定されない。
規性欠如 である。
(争点2-2)
乙4動画のキャプチャ画像
原告は、無効理由1と同様、乙4動画に開示された発明と本件発明とは、相違点1及び相違点2において相違すると主張するものと
解されるが、無効理由1において主張したとおり、これらは相違点とはいえない。
本件発明は、乙5発明及び周知事項に基づき当業者が容易に想到できるとはいえず、進歩性
本件発明は、乙5発明と、周知事項(乙3、4、7)に基づいて当業者が容易に想到できる。
は否定されない。
環状に配置され、それぞれが内側に傾斜するフレーム402の複数の脚部と、隣り合うフレーム脚部を渡すように張られメッシュ部
を有す側壁420と、底面に位置する非伸縮性の床410(その上で動き回る幼児が足を取られないようにする必要があるから、非
伸縮性とすることは、当業者が技術常識から認識できることであり、記載されているに等しい。)、を備え、床410は平面視にお
乙5発明の
いて多角形の形状を有しており、各フレーム脚部の下端部分は側壁420の多角形の頂点にあたる部分にフラップ428を介して固 被告の乙5発明の認定は争う。
米国特許出願公 構成
定され外側への移動が制限されている、プレイヤードの発明が、当業者において、特別の思考を要することなく当該発明を認識しこ
開第2004/
れを実施し得る程度に開示されている。プレイヤードは本件発明の幼児用サークルに、フレーム脚部は縦枠に、側壁420は側面
0261174
シートに、床410は底面シートに相当し、フラップ428の介在については接続テープ61が介在する態様を包含している。
号明細書(乙5
明細書)に記載
の発明(乙5発 縦枠(フレーム脚部)の下端部分の固定先が、本件発明では底面シートであるのに対し、乙5発明では側壁420である点
明)及び周知事 1 本件発明の縦枠は内側に傾斜するのに対し、乙5発明のフレーム402は内側に傾斜し
乙5発明と
項に基づく進歩 原告主張の相違点①について、乙第6号証のフレームを組み込んだ乙5発明の脚部が内側に傾斜していることは明らかであり、相違 ているか明らかでない点(相違点①)
本件発明の
性欠如 点①は実際には相違点ではない。 2 本件発明の底面シートは非伸縮性であるのに対し、乙5発明の床410は非伸縮性であ
相違点
(争点2-3) 原告主張の相違点②については、無効理由1の相違点2について主張したのと同様の理由により、相違点②は実際には相違点ではな るか否か明らかでない点(相違点②)
い。
乙5発明を本件発明とすることには阻害要因がある。
幼児用サークルにおいて、フレーム脚部の下端部分を底面シートの多角形の頂点に当たる部分に固定することは、特許出願前におけ 相違点①につき、被告が周知とする技術(乙7)は乳児用ベッドに関するものであり、本件
容易想到性 る周知事項である(乙3、4、7)。そして、乙5発明において、当該周知事項を適用し、フレーム脚部の下端部分を床410の多 発明とは技術分野が異なる。
角形の頂点にあたる部分に固定することは、格別の阻害要因もなく、当業者が容易になし得ることである。 相違点②につき、乙3文献及び乙4動画において、部材Cや部材cが非伸縮性であるかは明
らかでなく、乙7記載の技術は本件発明とは技術分野が異なる。
(別紙)本件発明に関する無効論
無効理由 被告の主張 原告の主張
原告は、アットプレスに依頼して平成29年8月1日に発明の公開を行った。
1 原告が平成29年7月27日に自社ウェブサイトに幼児用サークルに
プレスリリースページ(乙9の1~3)には、環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材Aと、隣り合う部材Aを渡すよう
ついて掲載したことにより発明が公開され、これは新規性喪失の例外の適
に張られメッシュ部B1を有する部材B(カバー)と、底面に位置する非伸縮性の部材C(マット)と(ここで、幼児が足を取られないよ
用を受けるための証明書が提出されているところ、乙9で発明を公開する
うに部材Cを非伸縮性とすることは、当業者が幼児用サークルにおける技術常識から認識できる。)、を備え、部材Cは平面視において
行為は、前記公開行為と密接に関連しているから、改めて新規性喪失の例
多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部は非伸縮性の部材Cの多角形の頂点にあたる部分に部材Dを介在して固定され外側への移
外の適用を受けるための証明書を提出する必要はない。
動が制限されている、ベビーサークルの発明が、当業者において、特別の思考を要することなく当該発明を認識しこれを実施し得る程
2 本件発明は、乙9で公開された発明(以下「乙9発明」という。)と
度に開示されている。
原告が、インターネット 以下の点で相違するから、新規性は否定されない。
ベビーサークルは本件発明の幼児用サークルに、部材Aは縦枠に、部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートに相当し、部材Dの介在に
上のプレスリリース配信 (1) 本件発明の縦枠は内側に傾斜するのに対し、乙9発明の部材Aは内側
ついては接続テープ61が介在する態様を包含している。
サービス「@Press」 に傾斜しているか否か明らかでない点(相違点ⅰ)
したがって、本件発明は、前記プレスリリース配信により電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるところ、原告は、 ダウンロード画像の一部(乙9の3)
(アットプレス)に依頼 (2) 本件発明の底面シートは非伸縮性であるのに対し、乙9発明の部材C
同日にアットプレスにより発明が公開された事実については、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書を提出しなかった。
4 して平成29年8月1日 は非伸縮性であるか否か明らかでない点(相違点ⅱ)
よって、本件発明は前記プレスリリース配信により新規性を喪失したものである。
に発明の公開を行ったこ
自社ウェブサイトへの公開(発明の新規性の例外の適用を受けるための証明書が提出されている。)と別会社のプレスリリースサイト
と(乙9の1~3)によ
への公開を、密接に関連するものとはいえない。
る新規性喪失
(争点2-4)
原告主張の相違点ⅰについて、乙9の3の写真「img_134510_8.jpg」の部材Aの上端に近い部分及び下端部分の写り方からすると、部
材Aが(上端側で)内側へ傾斜していることは明らかである。よって、相違点ⅰは実際には相違点ではない。
原告主張の相違点ⅱについて、仮に底面シートが伸縮性であると、幼児の足が取られることや、前のめりに転倒する恐れがあり危険で
あることから、当業者であれば、底面シートを伸縮性にすることなど考えもしないから、非伸縮性は技術常識である。そもそも請求項
1には、「非伸縮性の程度」がなんら特定されていない。よって、部材Cを非伸縮性とすることは、当業者が幼児用サークルにおける技
術常識から認識できることであり、相違点ⅱは実際には相違点ではない。
被告は、乙3文献に掲載され、販売されたプレイヤード(本件プレイヤード)の現物を購入者から入手したところ、その分析実験報告 被告は,令和4年10月31日より前に本件プレイヤードを入手していた
書が乙第12号証である。 と考えられるから、被告は、原告が無効審判事件において本件訂正に係る
公然実施品である米国 本件プレイヤードは、本件特許出願前に公然実施されたものであるところ、乙3文献記載のプレイヤードと同一の部材、形状、色彩を 訂正請求書を提出する前に本件プレイヤードについて言及すべきであった
GRACO社製プレイヤード 備え、部材Aは内側に傾斜し、部材Cは非伸縮性であることが確認されている。したがって、本件発明は、公然実施品である本件プレ にもかかわらず、原告の訂正請求の期限(本件無効審判事件の答弁書提出
5 (本件プレイヤード)に イヤードの発明と同一であるから、公然実施された発明である。 期限)である令和5年1月9日が経過するまで、本件プレイヤード入手の
基づく新規性欠如 なお、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多角形の頂点にあたる部分に部材Dを介在して固定され外側への移動が制限されてお 事実を伏せており、同年2月に乙第12号証を提出した。これは、原告に
(争点2-5) り、部材Dの介在については接続テープ61が介在する態様を包含している。また、部材Dが部材Aに対して取外しができることが確認 よる訂正請求の機会を奪った上で新たな証拠を後出しするものであるか
されている。 ら、乙第12号証を証拠とする新たな無効理由の主張は、時機に後れた攻
乙第12号証に基づく無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法に当たらない。 撃防御方法として却下されるべきである。
(別紙)本件訂正の訂正要件充足性
原告の主張 被告の主張
① 訂正の目的 特許請求の範囲の減縮
「各縦枠に対して取外しできるように構成されている接続テープ」(構成要件X)の追加は、実質上特許請求の範囲を
実質上特許請求の範囲を 変更するものである。なぜなら、本件発明は新規性を欠くものであってなんら新しい効果を奏するものではないとこ
「各縦枠に対して取外しできるように構成されている接続テープ」(構成要件X)の追加は、下記③の原告の
② 拡張し、又は変更するも ろ、当該部分を追加することで初めて「底面シート及び側面シートを縦枠から取り外して洗うことができ、幼児用サー
主張のとおり、本件明細書の記載から自明であって、実質上特許請求の範囲を変更するものではない。
のでないこと クルを清潔に保つことができる」という新しい効果を奏するように変わる、つまり新しい効果が無から有に変わるので
あるから、当該部分の追加は発明を実質上別個の発明に変更するものにほかならないからである。
「各縦枠の下端部分を前記非伸縮性の底面シートの多角形の頂点にあたる部分に固定して各縦枠の下端部分の外側への
移動を制限し、かつ、各縦枠に対して取外しできるように構成されている接続テープ」(構成要件X)を追加すること
「各縦枠の下端部分を前記非伸縮性の底面シートの多角形の頂点にあたる部分に固定して各縦枠の下端部分の
1 は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正とはいえない。なぜな
外側への移動を制限し、かつ、各縦枠に対して取外しできるように構成されている接続テープを備え」を追加
ら、「接続テープ」が「各縦枠の下端部分の外側への移動を制限」すること、及び、接続テープの材料や特性(特に非
願書に添付した明細書、 することは、本件明細書の段落【0033】の記載(幼児用サークルが各縦枠に対して取外しできるように構成さ
伸縮性か否か)について、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のいずれにも一切記載がないから、その材
特許請求の範囲又は図面 れている接続テープを備えていること、及び、この接続テープが、底面シートの多角形の頂点にあたる部分を
料や特性をもって「接続テープ」が「各縦枠の下端部分の外側への移動を制限」すると推認することもできないからで
③ に記載した事項の範囲内 各縦枠の下端部分に固定していること)、並びに、同段落【0034】の記載(各縦枠の下端部分の外側への移動
ある。
においてしたものである が制限されるのは、各縦枠の下端部分が非伸縮性の底面シートに接続されているからであること)から自明で
本件明細書の段落【0033】には、「幼児用サークルが各縦枠に対して取外しできるように構成されている接続テープを
こと ある。
備えていること、及び、この接続テープが、底面シートの多角形の頂点にあたる部分を各縦枠の下端部分に固定してい
また、「前記側面シート及び前記底面シートが一体に形成されているとともに、各縦枠に対して取外し可能に
ること」が記載されるだけであり、段落【0034】には「接続テープ」に対する言及が全くないのであるから、これら2
構成されている」(構成要件Y)を追加したが、これは本件訂正前の請求項4に記載されていたものである。
つの段落を合わせてみても、「接続テープ」が「各縦枠の下端部分の外側への移動を制限」することが記載されている
と解することはできない。
本件訂正によって無効理由が解 別紙「本件訂正発明に関する無効論」の「原告の主張」欄記載のとおり、本件訂正により無効理由は解消され 別紙「本件訂正発明に関する無効論」の「被告の主張」欄記載のとおり、本件訂正によっても無効理由は解消されな
消されること る。 い。
別紙「本件訂正発明に関する充足論(原告の主張)」の「充足性」欄記載のとおり、被告製品1の構成a1ない
被告製品が本件訂正後の特許請 しf1、x1及びy1は、本件訂正発明の構成要件AないしF、X及びYをそれぞれ充足し、被告製品2の構成a2ないし 被告製品は、本件訂正発明の構成要件A及び構成要件E(本件発明の構成要件A及び構成要件Eと同じ)を充足しないか
求の範囲に属すること f2、x2及びy2は、本件訂正発明AないしF、X及びYをそれぞれ充足するから、被告製品は、本件訂正後の特許請 ら、本件訂正後の特許請求の範囲に属しない。
求の範囲に属する。
被告が請求している本件無効審判事件(無効2022-800076、77)において、令和4年11月18
4 訂正の請求 認める。
日付け訂正請求書により訂正請求をした。
(別紙)本件訂正発明に関する充足論(原告の主張)
構成要件 充足性
(下線部が訂正部分) 被告製品1 被告製品2
A 環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の縦枠と、 a1 環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する6つの縦フレーム11と、 a2 環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する8つの縦フレーム21と、
隣り合う縦枠を渡すように張られメッシュ部を有する側面シート 隣り合う縦フレーム11を渡すように張られメッシュ部12を有するサークル 隣り合う縦フレーム21を渡すように張られメッシュ部22を有するサークル
B b1 b2
と、 シート13の側面部分14と、 シート23の側面部分24と、
C 底面に位置する非伸縮性のシートと、を備え、 c1 底面に位置する非伸縮性のサークルシート13の底面部分15と、を備え、 b3 底面に位置する非伸縮性のサークルシート23の底面部分25と、を備え、
サークルシート13の底面部分15は平面視において六角形の形状を有してお サークルシート23の底面部分25は平面視において八角形の形状を有してお
D 前記底面シートは平面視において多角形の形状を有しており、 d1 d2
り、 り、
各縦枠の下端部分は前記非伸縮性の底面シートの多角形の頂点に 6つの縦フレーム11の下端部分は非伸縮性のサークルシート13の底面部分 8つの縦フレーム21の下端部分は非伸縮性のサークルシート23の底面部分
E e1 e2
あたる部分に固定され外側への移動が制限されており、 15の六角形の頂点にあたる部分に固定され外側への移動が制限されており、 25の八角形の頂点にあたる部分に固定され外側への移動が制限されており、
各縦枠の下端部分を前記非伸縮性の底面シートの多角形の頂点に 6つの縦フレーム11の下端部分を非伸縮性のサークルシート13の底面部分 8つの縦フレーム21の下端部分を非伸縮性のサークルシート23の底面部分
あたる部分に固定して各縦枠の下端部分の外側への移動を制限 15の六角形の頂点にあたる部分に固定して6つの縦フレーム11の下端部分 25の八角形の頂点にあたる部分に固定して8つの縦フレーム21の下端部分
X x1 x2
し、かつ、各縦枠に対して取外しできるように構成されている接 の外側への移動を制限し、かつ、6つの縦フレーム11に対して取外しできる の外側への移動を制限し、かつ、8つの縦フレーム21に対して取外しできる
続テープを備え、 ように構成されているテープバンド19を備え、 ように構成されているテープバンド29を備え、
サークルシート13の側面部分14及びサークルシート23の底面部分15が サークルシート23の側面部分24及びサークルシート23の底面部分25が
前記側面シート及び前記底面シートが一体に形成されているとと
Y y1 一体に形成されているとともに、6つの縦フレーム11に対して取外し可能に y2 一体に形成されているとともに、8つの縦フレーム21に対して取外し可能に
もに、各縦枠に対して取外し可能に構成されている、
構成されている、 構成されている、
F 幼児用サークル。 f1 ベビーサークル10。 f2 ベビーサークル20。
(別紙)本件訂正発明に関する無効論
無効理由 被告の主張 原告の主張
原告は、アットプレスに依頼して平成29年8月1日に発明の公開を行った。 1 原告が平成29年7月27日に自社ウェブサイトに幼児用サークルについて掲載したことにより発
プレスリリースページ(乙9の1~3)には、環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材Aと、隣り合う部材Aを渡すように張 明が公開され、これは新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書が提出されているところ、乙9で
られメッシュ部B1を有する部材B(カバー)と、底面に位置する非伸縮性の部材C(マット)と(ここで、幼児が足を取られないように部材 発明を公開する行為は、前記公開行為と密接に関連しているから、改めて新規性喪失の例外の適用を受
Cを非伸縮性とすることは、当業者が幼児用サークルにおける技術常識から認識できる。)、を備え、部材Cは平面視において多角形の形状 けるための証明書を提出する必要はない。
を有しており、各部材Aの下端部は非伸縮性の部材Cの多角形の頂点にあたる部分に部材Dを介在して固定され外側への移動が制限されてい 2 本件訂正発明は、乙9発明と以下の点で相違するから、新規性は否定されない。
る、ベビーサークルの発明が、当業者において、特別の思考を要することなく当該発明を認識しこれを実施し得る程度に開示されている (1) 本件訂正発明の縦枠は内側に傾斜するのに対し、乙9発明の部材Aは内側に傾斜しているか否か明ら
(各部材の位置関係については、別紙「本件発明に関する無効論」の無効理由4の欄の写真参照)。 かでない点(相違点ⅰ)
ベビーサークルは本件訂正発明の幼児用サークルに、部材Aは縦枠に、部材Bは側面シートに、部材Cは底面シートに相当し、部材Dの介在 (2) 本件訂正発明の底面シートは非伸縮性であるのに対し、乙9発明の部材Cは非伸縮性であるか否か
については接続テープが介在する態様を包含している。 明らかでない点(相違点ⅱ)
したがって、本件訂正発明は、前記プレスリリース配信により電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるところ、原告は、  底面シートが伸縮性だとしても危険ではないし、非伸縮性であることが技術常識ともいえない。
同日にアットプレスにより発明が公開された事実については、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書を提出しなかった。よっ (3) 本件訂正発明の接続テープは各縦枠の下端部分の外側への移動を制限しているのに対し、乙9発明
原告が、インターネット上のプ て、本件訂正発明は前記プレスリリース配信により新規性を喪失したものである。 の部材Dは部材Aの下端部分の外側への移動を制限しているか否か明らかでない点(相違点ⅲ)
レスリリース配信サービス「@ 自社ウェブサイトへの公開(発明の新規性の例外の適用を受けるための証明書が提出されている。)と別会社のプレスリリースサイトへの  実際の製品で確認しなければ、部材Dが部材Aの下端部分の外側への移動を制限するかは不明であり、
Press」(アットプレス)に依 公開を、密接に関連するものとはいえない。 乙9の写真だけではわからない。
4’
頼して平成29年8月1日に発
明の公開を行ったこと(乙9)
による新規性喪失 原告主張の相違点ⅰについて、乙9の3の写真「img_134510_8.jpg」の部材Aの上端に近い部分及び下端部分の写り方からすると、部材A
が(上端側で)内側へ傾斜していることは明らかである。よって、相違点ⅰは実際には相違点ではない。
原告主張の相違点ⅱについて、仮に底面シートが伸縮性であると、幼児の足が取られることや、前のめりに転倒する恐れがあり危険である
ことから、当業者であれば、底面シートを伸縮性にすることなど考えもしないから、非伸縮性は技術常識である。そもそも請求項1には、
「非伸縮性の程度」が何ら特定されていない。よって、部材Cを非伸縮性とすることは、当業者が幼児用サークルにおける技術常識から認
識できることであり、相違点ⅱは実際には相違点ではない。
原告主張の相違点ⅲについて、部材A、C、Dの位置関係は、乙9の各写真から特別の思考を要することなく認識しこれを実施し得る程度に
分かる。また、乙9の3の写真「img_134510_5.jpg」には、部材Dが(材料名の記載はないとしても)面ファスナーを備えた分厚いもので
あることが図示されている。面ファスナーは、一般的に、伸縮しにくい基布に起毛されて成る。この図示情報により、部材Dは伸縮しにく
いものであり、よって部材Aの下端部分の外側への移動を制限するものであることが、特別の思考を要することなく認識しこれを実施し得
る程度に記載されているといえる。よって、相違点ⅲは実際には相違点ではない。
1 被告は、令和4年10月31日より前に本件プレイヤードを入手していたと考えられるから、被告
被告は、乙3文献に掲載され、販売されたプレイヤード(本件プレイヤード)の現物を購入者から入手したところ、その分析実験報告書が
は、原告が無効審判事件において本件訂正に係る訂正請求書を提出する前に本件プレイヤードについて
乙第12号証である。
言及すべきであったにもかかわらず、原告の訂正請求の期限(無効審判事件答弁書提出期限)である令
本件プレイヤードは、本件特許出願前に公然実施されたものであるところ、「環状に配置され、それぞれが内側に傾斜する複数の部材A
和5年1月9日が経過するまで、本件プレイヤード入手の事実を伏せており、同年2月に乙第12号証
と、隣り合う部材Aを渡すように張られメッシュ部B1を有する部材Bと、底面に位置する非伸縮性の部材Cと、を備え、部材Cは平面視にお
を提出した。これは、原告による訂正請求の機会を奪った上で新たな証拠を後出しするものであるか
いて多角形の形状を有しており、各部材Aの下端部分は非伸縮性の部材Cの多角形の頂点にあたる部分に部材Dを介在して固定され外側への
ら、乙第12号証を証拠とする新たな無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下される
移動が制限されている、プレイヤード」である。そして、プレイヤードは本件訂正発明の幼児用サークルに、部材Aは縦枠に、部材Bは側面
べきである。
シートに、部材Cは底面シートに相当し、部材Dの介在については接続テープが介在する態様を包含している(各部材の位置関係について
2 本件訂正発明と本件プレイヤードは、少なくとも以下の点で相違するから、本件訂正発明の新規性
は、別紙「本件発明に関する無効論」の無効理由5の欄の写真参照)。
は否定されない。
したがって、本件訂正発明は、公然実施品である本件プレイヤードの発明と同一であるから、公然実施された発明である。
公然実施品である米国GRACO (1) 本件訂正発明の接続テープは各縦枠に対して取外しできるように構成されているのに対し、本件プ
5’ 社製プレイヤード(本件プレイ レイヤードの部材Dは部材Aに対して取外しできるように構成されていない点(相違点(1))
ヤード)に基づく新規性欠如  部材Dに用いられるタッピングねじは、取外しを繰り返すような箇所には使用されないものであるし、
使用者が再組立できなくなる、又は、幼児が誤飲するというリスクを冒してまで、幼児用サークルを分
解して部材Dを部材Gから取り出すことは、使用者が使用時に行う作業の範囲を超えている。
乙第12号証に基づく無効理由の主張は、時機に後れた攻撃防御方法に当たらない。 (2) 本件訂正発明の側面シート及び底面シートは各縦枠に対して取外し可能に構成されているのに対
原告主張の相違点(1)について、本件訂正発明は接続テープの取外しの具体的手段や回数を限定しておらず、部材Gのねじを外すことによ し、本件プレイヤードの部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し可能に構成されていない点(相違点
り、部材Dは部材Aに対して取外し可能である。 (2))
原告主張の相違点(2)について、上記と同様に、部材Gのねじを外すことにより、部材B及び部材Cは部材Aに対して取外し可能である。  使用者が前記(1)のリスクを冒してまで、幼児用サークルを分解して部材B及び部材Cを部材Aから切り
離すことは、使用者が使用時に行う作業の範囲を超えている。
 また、本件プレイヤードは「WATERPROOF」の製品(乙4)であり、洗濯機での洗濯等は危険である
から、市販製品の一般的な意味での取外しは可能ではないというべきである。

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